(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】高周波回路用表面処理銅箔及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/06 20060101AFI20221215BHJP
C25D 5/48 20060101ALI20221215BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20221215BHJP
B32B 9/04 20060101ALI20221215BHJP
B32B 15/04 20060101ALI20221215BHJP
C25D 7/00 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C25D7/06 A
C25D5/48
B32B9/00 A
B32B9/04
B32B15/04 A
C25D7/00 J
(21)【出願番号】P 2020156978
(22)【出願日】2020-09-18
【審査請求日】2021-10-21
(32)【優先日】2020-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】LU
(73)【特許権者】
【識別番号】520068685
【氏名又は名称】サーキット フォイル ルクセンブルグ
(74)【代理人】
【識別番号】100110858
【氏名又は名称】柳瀬 睦肇
(72)【発明者】
【氏名】ローマン ミシェツ
(72)【発明者】
【氏名】トーマス デバヒフ
(72)【発明者】
【氏名】ザヒア カイディ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル ストリール
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2009-0081897(KR,A)
【文献】国際公開第2013/115382(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/06
C25D 5/48
B32B 9/00
B32B 9/04
B32B 15/04
C25D 7/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ35μm以下の銅箔の表面に耐熱処理層が形成された高周波回路用表面処理銅箔において、
耐熱処理層は、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜で
、金属換算でクロム0.1~18mg/m
2
、モリブデン10~45mg/m
2
、亜鉛30~70mg/m
2
、ニッケル10~30mg/m
2
の目付量であることを特徴とする高周波回路用表面処理銅箔。
【請求項2】
金属換算で0.2~6.0g/Lのクロム、1.0~9.0g/Lのモリブデン、1.0~8.0g/Lの亜鉛、1.0~7.0g/Lのニッケルを含む4元系金属被膜用めっき浴を用い、pH3~4、電流密度0.5~5.0A/dm
2の条件で、厚さ35μm以下の銅箔の表面に表面処理をした後、10~50秒間の大気中放置を行うことを特徴とする高周波回路用表面処理銅箔の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波回路用表面処理銅箔に関し、特に、高周波回路用の絶縁基材との密着性に優れ、高周波域における伝送特性に優れた表面処理銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スマートフォン、モバイルPCなどの情報端末やSNS、動画サイトなどの普及により大容量のデータをより高速に処理するニーズが高まっている。そのため、携帯電話を代表とする携帯通信機器、ネット―ワークによりデータを処理するコンピュータなどの電子機器においては、大容量の情報を高速で伝達処理するために、信号の高周波化はめざましいものである。最近はGHzオーダーの信号を用いる開発が急速に進められており、このような高速信号に対応可能な高周波回路用のプリント配線板が要求されている。
【0003】
この高周波回路用のプリント配線板を構成する際には、高周波信号における誘電損失などを考慮した絶縁基材に、銅箔を接着した銅張積層板が用いられる。この高周波回路用の絶縁基材としては、熱硬化性のポリフェニルエーテル、変性ポリフェニルエーテルなどを含有した樹脂が用いられている。このような絶縁材料に銅箔を接着した銅張積層板は、非常に高温のプレス加工を必要とするため、高温プレスの際にブリスター(膨れ)が発生することが知られている。そして、このようなブリスターの発生を抑制するために、絶縁基材と銅箔との密着性を向上させるべく各種表面処理銅箔が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-122274号公報
【文献】特許第5764700号公報
【文献】特許第6294862号公報
【0005】
高周波回路用の絶縁基材の開発は盛んに行われており、新たな絶縁基材が開発される度に、その絶縁基材との密着性を十分に満足できる性能を有した表面処理銅箔がさらに求められているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高周波回路用の絶縁基材との密着性に優れ、特に高温のプレス加工などによる熱負荷を与えても、ブリスターの発生が抑制された銅張積層板を製造できる表面処理銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、厚さ35μm以下の銅箔の表面に耐熱処理層が形成された高周波回路用表面処理銅箔において、耐熱処理層は、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜であることを特徴とする。
【0008】
本発明における耐熱処理層は、金属換算でクロム0.1~18mg/m2、モリブデン10~45mg/m2、亜鉛30~70mg/m2、ニッケル10~30mg/m2の目付量であることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る表面処理銅箔の製造方法は、金属換算で0.2~6.0g/Lクロム、1.0~9.0g/Lモリブデン、1.0~8.0g/L亜鉛、1.0~7.0g/Lニッケルを含む4元系金属被膜用めっき浴を用い、pH3~4、電流密度1.0~5.0A/dm2の条件で、厚さ35μm以下の銅箔の表面に耐熱処理層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の表面処理銅箔によれば、高周波回路用の絶縁基材との密着性に優れるため、特に高温のプレス加工、具体的には290℃以上の熱負荷を与えても、ブリスターの発生が抑制された銅張積層板を製造できる。そして、本発明の表面処理銅箔は、特定濃度のクロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルを含む4元系金属被膜用めっき浴を用い、4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜の耐熱処理層を形成することで実現できるので、効率的な製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】実施例の表面処理銅箔のXPS分析結果のプロットグラフ
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明は、厚さ35μm以下の銅箔の表面に、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜により耐熱処理層が形成されている。そのため、高温のプレス加工を必要とする、高周波回路用の絶縁基材に接着して銅張積層板を形成し、290℃、1時間の熱処理を行っても、ブリスター(膨れ)が生じない。
【0013】
本発明の表面処理銅箔において、耐熱処理層を構成する4元系金属の被膜の目付量としては、金属換算でクロム0.1~18mg/m2、モリブデン10~45mg/m2、亜鉛30~70mg/m2、ニッケル10~30mg/m2であることが好ましい。目付量が各元素の下限値より少ないとブリスター(膨れ)が発生する傾向となり、各元素の上限値を超えると高周波特性を悪くする傾向となる。
【0014】
本発明における耐熱処理層は、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜で形成されている。この耐熱処理層は、この4種の金属の酸化物が混在しているため、耐熱処理層の融点を上昇させる。また、4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜であるため、クロメート処理層やシランカップリング処理層が強固に結合しやすくなる。
【0015】
本発明に係る表面処理銅箔は、使用する銅箔として未処理の電解銅箔を採用することができる。この銅箔の厚さとしては、35μm以下のものを用いる。表面粗度としては、Rz1.0μm以下が好ましく、抗張力は300~400N/mm2(常態)であることが好ましい。
【0016】
本発明に係る表面処理銅箔は、未処理の電解銅箔の表面(絶縁基材との接着面側となる面)に、銅微粒子を析出させ、その銅微粒子を銅箔表面に固着させるために銅かぶせめっきを行い、粗化処理層を形成しておくことが好ましい。そして、この粗化処理層の表面に、本発明に係るクロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜である耐熱処理層を形成することが好ましい。
【0017】
本発明の表面処理銅箔における耐熱処理層を形成する場合、金属換算で0.2~6.0g/Lクロム、1.0~9.0g/Lモリブデン、1.0~8.0g/L亜鉛、1.0~7.0g/Lニッケルを含む4元系金属被膜用めっき浴を用いることが好ましい。
【0018】
この4元系金属被膜用めっき浴において、例えば、クロムはCrO3、モリブデンはNa2MoO4・2H2O、亜鉛はZnSO4・7H2O、ニッケルはNiSO4・6H2Oの形態でめっき浴に投入することができる。また、めっき浴の伝導率を上げるために、硫酸ナトリウムを追加することが好ましい。めっき浴の塩化物の含有量としては30~50ppmとすることが好ましい。pH調整剤としては、水酸化ナトリウム、硫酸の希薄溶液を用いることが好ましい。
【0019】
この4元系金属被膜用めっき浴におけるめっき条件としては、pH3~4、電流密度0.5~5.0A/dm2であることが好ましい。
【0020】
本発明の表面処理銅箔では、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属の被膜からなる耐熱処理層を形成した後、当該被膜を酸化するために大気中放置を10~50秒間実施し、その後、防錆としてのクロメート処理層を形成することが好ましい。このクロメート処理層のクロムの目付量としては、金属換算で3~5mg/m2であることが好ましい。
【0021】
本発明の表面処理銅箔では、プリント配線板を形成した際の耐吸湿劣化特性を改善するために、シランカップリング剤処理層を形成することが好ましい。シランカップリング剤としてはエポキシ系、アミノ系、メタクリル系、ビニル系、メルカプト系、アクリル系のものを使用することができ、特にエポキシ系、アミノ系、ビニル系がより好ましい。
【実施例】
【0022】
以下に実施例について説明する。この実施例に使用した銅箔は、チタン製の電解ドラムを陰極と不溶性陽極とを用い、所定濃度の硫酸銅電解液と所定電解条件により、厚さ18μの電解銅箔を製造した。この電解銅箔の表面粗度は、M面側Rz1.0μm、S面側Rz1.0μmであった。M面とは電解ドラムの非ドラム面側となる表面であり、S面とは電解ドラムのドラム面側にある表面をいう。尚、この電解銅箔は、後述する比較例にも用いている。
【0023】
この電解銅箔のM面に、次のような条件で粗化処理層を形成した。
銅微粒子処理:
硫酸銅 Cu 7.0g/L(金属換算)
硫酸 60g/L
浴温度 20℃
電流密度 23A/dm2
めっき時間 2~3sec
銅かぶせめっき処理:
硫酸銅 Cu 7.0g/L(金属換算)
硫酸 60g/L
浴温度 20℃
電流密度 5A/dm2
めっき時間 2~3sec
【0024】
粗化処理層を形成した後、次の条件でクロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物からなる被膜の耐熱処理層を形成した。この耐熱処理層は、下記の4元系金属被膜めっき処理後、大気中、30秒間放置を実施して形成した。
4元系金属被膜用めっき条件:
めっき浴組成
CrO3 Cr 0.7g/L(金属換算、以下同じ)
Na2MoO4・2H2O Mo 4.1g/L
ZnSO4・7H2O Zn 2.6g/L
NiSO4・2H2O Ni 2.0g/L
硫酸ナトリウム 15g/L
塩化物含有量 40ppm
PH 3.7
(pH調整は希硫酸または水酸化ナトリウム希薄溶液による)
電流密度 2.5A/dm2
めっき時間 2sec
【0025】
上記耐熱処理層を形成した後、耐熱処理層の各金属の目付量を調べたところ、以下の目付量であった。
目付量:
Cr 2.5mg/m2(金属換算、以下同じ)
Mo 38mg/m2
Zn 57mg/m2
Ni 25mg/m2
【0026】
耐熱処理層を形成した後、次の条件によりクロメート処理層を形成した。
クロメート処理条件:
CrO3 Cr 1.5g/L(金属換算)
pH 2.0
電流密度 2A/dm2
めっき時間 2sec
【0027】
クロメート処理層を形成した後、次の条件によりシランカップリング剤処理層を形成し、本実施例の表面処理銅箔を製造した。
市販のアミノ系シランカップリング剤
乾燥条件 85℃ × 10sec
【比較例】
【0028】
比較例として、電解銅箔のM面に、粗化処理層、亜鉛めっき処理層、クロメート処理層、シランカップリング剤処理層を順次形成した表面処理銅箔を作製した。亜鉛めっき処理層以外の処理条件については、上記実施例と同様とした。亜鉛めっき処理層は次の条件による。
亜鉛めっき条件:
めっき浴組成
ZnSO4・7H2O Zn 0.8g/L(金属換算)
電流密度 2A/dm2
めっき時間 2sec
【0029】
この比較例の表面処理銅箔について各元素の目付量を調べたところ、以下の目付量であった。
目付量:
Zn 20mg/m2
Cr 4mg/m2
【0030】
<ブリスター発生評価>
実施例及び比較例の表面処理銅箔について、2種類の高周波回路用のプリプレグを使用して、高温熱処理におけるブリスターの発生評価を行った。プリプレグAとしてパナソニック製MEGTORON6、プリプレグBとして韓国斗山電子社製DS-7409-DVを用いた。
【0031】
【0032】
表1で示したプリプレグのプレス条件で得られた銅張積層板を5cm×5cmの大きさに加工して、290℃、1時間、オーブンによる熱処理を行った。参考のために、
図1にはブリスター発生評価(プリプレグA)の比較写真を示す。
図1の左側がブリスター無しの実施例で、右側がブリスターが発生した比較例である。
【0033】
実施例の表面処理銅箔では、2種類のプリプレグに対してブリスターの発生は認められなかった。一方、比較例の表面処理銅箔では、2種類のプリプレグの両方においてブリスターの発生が認められた。このことから、銅箔表面に、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物の被膜からなる耐熱処理層を形成した表面処理銅箔を用いて、高周波回路用のプリプレグとの銅張積層板を形成しても、290℃、1時間の高温熱負荷を与えても、ブリスターの発生が抑制できることが判明した。
【0034】
次に、上記実施例の表面処理銅箔について、X線光電子分光(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)分析を行った結果について説明する。分析対象としては、上記実施例と同様の条件で、クロメート処理層を形成し、シランカップリング処理を行っていない表面処理銅箔を用いた。XPS分析装置は、PHI Quantum 2000(アルバック・ファイ(株)社製)を用いた。このXPS分析装置は、X線源 Al-Kα、ビーム径10~200μmであり、2KeVに加速したArイオンで表面処理銅箔の表面をスパッタエッチング(スパッタレート10nm/min SiO
2相当)をして深さ方向の分析を行った。その結果を
図2に示す。
【0035】
図2は、XPS分析装置より得られた、深さ方向における各元素の原子濃度をプロットしたものである。横軸が深さであり、この横軸値は酸化シリコン(SiO
2)を2KeVに加速したArイオンでスパッタした際の深さに相当するものである。
図2の結果より、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4種の金属が混在していることが確認された。尚、Crについては、被膜の深さ方向に対して微量の存在が確認されていた。また、この4種の各金属は大気中放置することで酸化物として混在していることも、XPS分析における酸素との結合エネルギーピークにより判明した。
【0036】
このXPS分析結果より、本実施例の表面処理銅箔では、クロム、モリブデン、亜鉛、ニッケルの4元系金属酸化物とその化合物とからなる被膜の耐熱処理層を形成すると、この耐熱処理層は複数の酸化物が混在した被膜となっているため、メルティングポイント(融点)の上昇の起因となり、耐熱処理層後に形成するクロメート処理層及びシランカップリング処理層の結合が強固になることによって、高温熱処理に適応できる特性を実現したものと推測される。