(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】皮膚接着性医療製品用の緩衝化接着剤組成物
(51)【国際特許分類】
A61L 15/58 20060101AFI20221215BHJP
A61L 15/24 20060101ALI20221215BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20221215BHJP
A61L 15/42 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61L15/58 310
A61L15/24 100
A61L15/28 100
A61L15/42 100
(21)【出願番号】P 2020526206
(86)(22)【出願日】2018-11-15
(86)【国際出願番号】 US2018061272
(87)【国際公開番号】W WO2019099662
(87)【国際公開日】2019-05-23
【審査請求日】2020-07-13
(32)【優先日】2017-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591000414
【氏名又は名称】ホリスター・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】HOLLISTER INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100209495
【氏名又は名称】佐藤 さおり
(72)【発明者】
【氏名】ヴォールゲムート、ヤン
(72)【発明者】
【氏名】マーク、メッテ
(72)【発明者】
【氏名】リコフ、カルステン
(72)【発明者】
【氏名】スコブ、ペーテル
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】ラデフォゲド、ペル
(72)【発明者】
【氏名】ニールセン、ケネス
(72)【発明者】
【氏名】テイラー、マイケル
(72)【発明者】
【氏名】ムラハタ、リチャード
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-523510(JP,A)
【文献】特開2005-131400(JP,A)
【文献】国際公開第2016/124203(WO,A1)
【文献】特表2009-521964(JP,A)
【文献】国際公開第2016/028297(WO,A1)
【文献】特表2015-508421(JP,A)
【文献】特表2003-517343(JP,A)
【文献】特開2004-225044(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 15/00-15/64
C09J 7/00- 7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の接着剤を含む内層と、第2の接着剤を含む裏当て層とを含むオストミー皮膚バリアであって、
前記第1の接着剤は、非中和形態で存在する高分子量ポリマー酸及び部分的中和形態で存在する高分子量ポリマー酸を有する高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含み、
前記第2の接着剤は、前記第1の接着剤の組成とは異なる組成を有し、半固体状のポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、ポリエチレン繊維と、ペクチンと、CMCとを含む、オストミー皮膚バリア。
【請求項2】
前記第2の接着剤は、高分子量ポリマー緩衝剤を含有しない、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項3】
前記第2の接着剤は、前記第1の接着剤より低い吸収能を有する、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項4】
前記第2の接着剤は、親水コロイドを含む、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項5】
前記非中和高分子量ポリマー酸は、高分子量ポリアクリル酸であり、前記部分的中和高分子量ポリマー酸は、部分的中和高分子量ポリアクリル酸である、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項6】
前記第1の接着剤は、40重量%の半固体状のポリイソブチレンと、16重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%の液体PIBと、4重量%のポリエチレン繊維と、20重量%の架橋ポリアクリル酸と、15重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸とを含む、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項7】
前記第2の接着剤は、55.5重量%の半固体状のポリイソブチレンと、14.5重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%のポリエチレン繊維と、8.3重量%のペクチンと、16.7重量%のCMCとを含む、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項8】
前記第1の接着剤は、40重量%の半固体状のポリイソブチレンと、16重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%の液体PIBと、4重量%のポリエチレン繊維と、20重量%の架橋ポリアクリル酸と、15重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸とを含み、前記第2の接着剤は、55.5重量%の半固体状のポリイソブチレンと、14.5重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%のポリエチレン繊維と、8.3重量%のペクチンと、16.7重量%のCMCとを含む、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項9】
前記裏当て層は、前記内層を覆い、前記内層上を越えて延在して、前記バリアの縁部を形成する、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項10】
前記内層は、装着者のストーマに直接隣接するストーマ周囲領域に接触するように構成されている、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項11】
前記第2の接着剤は、前記第1の接着剤より低い吸収能を有することで、流体と接触したときに縁部が不所望に膨潤する可能性を低下させる、請求項9に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項12】
前記裏当て層の前記内層が配置される面に、前記内層と前記裏当て層とを覆う状態で、取り外し可能な剥離層が配置されている、請求項1に記載のオストミー皮膚バリア。
【請求項13】
可撓性外層と、
非中和形態で存在する高分子量ポリマー酸及び部分的中和形態で存在する高分子量ポリマー酸を含む高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含む第1の接着剤と、
前記第1の接着剤の組成とは異なる組成を有し、半固体状のポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、ポリエチレン繊維と、ペクチンと、CMCとを含む第2の接着剤と、
を含み、前記第1の接着剤及び前記第2の接着剤は、前記可撓性外層の一方の面に塗布されている、創傷被覆材。
【請求項14】
前記第2の接着剤は、高分子量ポリマー緩衝剤を含有しない、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項15】
前記第2の接着剤は、前記第1の接着剤より低い吸収能を有する、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項16】
前記第2の接着剤は、親水コロイドを含む、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項17】
前記非中和高分子量ポリマー酸は、高分子量ポリアクリル酸であり、前記部分的中和高分子量ポリマー酸は、部分的中和高分子量ポリアクリル酸である、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項18】
前記第1の接着剤は、40重量%の半固体状のポリイソブチレンと、16重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%の液体PIBと、4重量%のポリエチレン繊維と、20重量%の架橋ポリアクリル酸と、15重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸とを含む、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項19】
前記第2の接着剤は、55.5重量%の半固体状のポリイソブチレンと、14.5重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%のポリエチレン繊維と、8.3重量%のペクチンと、16.7重量%のCMCとを含む、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項20】
前記第1の接着剤は、40重量%の半固体状のポリイソブチレンと、16重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%の液体PIBと、4重量%のポリエチレン繊維と、20重量%の架橋ポリアクリル酸と、15重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸とを含み、前記第2の接着剤は、55.5重量%の半固体状のポリイソブチレンと、14.5重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、5重量%のポリエチレン繊維と、8.3重量%のペクチンと、16.7重量%のCMCとを含む、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項21】
前記可撓性外層が楕円形であり、前記第1の接着剤は、前記可撓性外層の中央部に塗布されており、前記第2の接着剤は、前記可撓性外層の終端縁部に塗布されている、請求項13に記載の創傷被覆材。
【請求項22】
前記第2の接着剤は、前記第1の接着剤より低い吸収能を有することで、流体と接触したときに前記終端縁部が不所望に膨潤する可能性を低下させる、請求項21に記載の創傷被覆材。
【請求項23】
オストミー皮膚バリアを製造する方法であって、
非中和形態で存在する高分子量ポリマー酸及び部分的中和形態で存在する高分子量ポリマー酸を有する高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含む第1の接着剤を含む内層を形成する工程と、
前記第1の接着剤の組成とは異なる組成を有し、半固体状のポリイソブチレン、スチレン-イソプレン-スチレンコポリマーと、ポリエチレン繊維と、ペクチンと、CMCとを含む第2の接着剤を含む裏当て層を形成する工程と、
を含み、
前記内層は、前記裏当て層上に配置される、方法。
【請求項24】
前記第1の接着剤は、前記第2の接着剤より高い吸収能を有する、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記第2の接着剤は、親水コロイドを含む、請求項23に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2012年2月29日付けで出願された米国仮特許出願第61/604,663号及び2012年7月5日付けで出願された米国仮特許出願第61/668,178号からの優先権を主張する2013年2月27日付けで出願された米国特許出願第13/778,538号(目下の米国特許第9,763,833号)の継続出願でもある2017年8月18日付けで出願された米国特許出願第15/680,524号の部分継続出願でもある2017年11月15日付けで出願された米国特許出願第15/813,615号に対する優先権を主張するものであり、これらは全て、引用することによりその全体が本明細書の一部をなす。
【0002】
本開示は、使用者の皮膚表面に接着固定することを目的としたオストミー製品、創傷被覆材及びその他の医療製品等の医療用被覆材及び皮膚接着性デバイス用の接着剤組成物の技術分野に関する。本開示は特に、高分子量緩衝剤を含有すると共に、流体を吸収し、通常の皮膚のpHレベルを維持することができるような接着剤組成物、及び該組成物を作製する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
多くの医療用途において、製品は創傷被覆材又はオストミー皮膚バリアの場合のように直接皮膚に接着される。そのような製品はそれが所定の位置に保持されるように皮膚に確実に貼着されなければならず、たとえその下又はその周辺に汗、創傷滲出液、流動性糞便物質等の流体が生じたとしても吸収しなければならない。
【0004】
創傷被覆材は一般に、治癒を促す幾つかの機能を発揮する。これらの機能には、創傷滲出液の吸収、最適な治癒環境を作り、微生物活性を低下させるためのpHの調節、及び感染からの傷の保護が含まれる。多くのそのような創傷被覆材は自己接着性であり、装着者の創傷周囲皮膚に通常接着する接着剤層を含む。しばしば皮膚は、創傷被覆材下で炎症を起こすことが知られている。
【0005】
既知の創傷被覆材は、幾つかの個々の成分を使用することにより上述の機能性を実現する。例えば、既知の被覆材はしばしば、創傷滲出液を吸収するために、親水コロイド、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ペクチン又はゼラチンを使用する。親水コロイドには、独立してpHを調節することができるものもあるが、それらが提供し得るpH緩衝の程度は、被覆材において利用可能な親水コロイドの量によって限定され、その量はまた被覆材の所望の流体処理特性に依存する。さらに、親水コロイド単独の緩衝効果は最適ではない。
【0006】
さらに、吸収及びpH制御の両方を適切な水準で同時に達成することは、困難である場合が多い。pH制御のためには、或る程度の創傷被覆材による吸収が必要とされ、それは一般的に創傷被覆材において望ましい。しかしながら、過剰な量の流体の吸収は、創傷被覆材の不所望な量の膨潤を引き起こし得ることから、膨張につながり、接着性を失うことにつながる可能性がある。場合によって、過剰な量の流体の吸収は、接着剤組成物の溶解を引き起こす場合があり、それも非常に望ましくない。
【0007】
親水コロイドを含有する接着剤組成物は、例えば特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8、特許文献9、特許文献10、特許文献11、特許文献12、特許文献13、及び特許文献14に開示されるようによく知られており、その開示内容は、引用することにより本明細書の一部をなす。親水コロイドは一般に、親水コロイド皮膚バリア又は親水コロイド創傷被覆材と一般に呼ばれるものに使用される。そのような皮膚バリア及び創傷被覆材は通常、連続相として水不溶性の感圧接着剤を含むと共に、液体を吸収する膨潤性の非連続相として該接着剤全体に分散された1種類以上の親水コロイドの粒子を有する。
【0008】
市販の皮膚バリア及び創傷被覆材の水不溶性接着剤相は一般に、ポリイソブチレン(PIB)若しくはスチレン-イソプレン-スチレン(SIS)等のブロックコポリマー、又はこれらの材料のブレンドからなる。表面の粘着性は、粘着付与剤成分の添加により改変され得る。
【0009】
永続的又は一時的なオストミー(コロストミー、イレオストミー等)を備える患者は、排出された糞便物質又は尿を収容するパウチを必要とする。パウチは通常、パウチを皮膚に接着させ、ストーマから流れる液体又はストーマ周囲の皮膚により産生される液体を吸収する接着性皮膚バリアによってストーマ周囲の皮膚に取り付けられる。皮膚バリアは通常、3日~5日毎に交換されるが、最大1週間にわたり設置したままにすることもできる。バリアを使用する間に、ストーマ周囲の皮膚は、糞便物質との長期にわたる接触により炎症を起こす場合がある。時間の経過と共に炎症はひどくなり得る。
【0010】
幾つかの用途では、オストミー皮膚バリアは、更なる固定のためにその周囲に接着テープの辺縁部を有する。上記辺縁部の接着剤は一般にアクリル系接着剤である。本明細書で使用される場合に、「皮膚バリア」という用語は、接着テープの辺縁部を有するか又は有しないあらゆる皮膚バリアを含むことを意図している。
【0011】
創傷滲出液及び糞便物質は両者ともタンパク質分解酵素及び脂肪分解酵素を含む。これらの酵素は、密閉された湿潤環境に閉じ込められると、角質層を分解し、炎症が観察される一因となると考えられる。さらに、創傷被覆材及びオストミー皮膚バリアはいずれも、通常、定期的に除去及び再適用されるので、その下の皮膚の完全性が損なわれ、正常な皮膚よりも炎症を起こしやすい。
【0012】
正常な皮膚は、皮膚の表面を通常約4.0から5.5の間のpH(弱酸性)に保持する、いわゆる「酸外套」を有する。このpH範囲は、有益な微生物の増殖を促進し、有害な微生物の増殖を抑える一方で、皮膚の完全性の維持を助ける。このpHレベルでは、創傷滲出液又は糞便物質からのタンパク質分解酵素及び脂肪分解酵素の活性(ひいては、それにより引き起こされる損傷)が増大することはない。しかしながら、創傷滲出液及びストーマの流体は通常、6.0~8.0の範囲のpHを有する。この正常な皮膚のpHを超えるpHの上昇は、酵素の活性を大きく増大させ、従って酵素が炎症を引き起こす能力を増大させる。
【0013】
創傷被覆材と同様に、吸収及びpH制御の両方を適切な水準で同時に達成することは、オストミー皮膚バリアでも困難である場合が多い。pH制御のためには、或る程度の皮膚バリアによる吸収が必要とされ、それが一般的に望まれる。しかしながら、過剰な量の流体の吸収は、皮膚バリアの不所望な量の膨潤を引き起こし得ることから、膨張につながり、接着性を失うことにつながる可能性がある。場合によって、過剰な量の流体の吸収は、接着剤組成物の溶解を引き起こす場合があり、それも非常に望ましくない。
【0014】
ペクチン及びCMC等の親水コロイドを含む現在の皮膚バリアは、限られたpH緩衝能しか有しない。水又は食塩溶液に曝されると、それらの皮膚バリアはpHを約4.0~5.5の所望の範囲内のレベルに調節することができる。しかしながら、ストーマからの排出物又は創傷滲出液等の生理液も一般的に中性に近いpHレベルで緩衝されることに留意することが重要である。現行の皮膚バリアがそのような流体に曝されると、生理液に固有の強力な緩衝能が皮膚バリアの弱い緩衝能を圧倒する。その結果、皮膚バリア表面のpHが高まり、皮膚バリアの負荷に使用された流体のpHに近付く。従って、pH緩衝能が増強された皮膚バリアを提供することが望ましい。また、最適な吸収特性を有する皮膚バリアを提供することも望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】米国特許第5,571,080号明細書
【文献】米国特許第3,339,546号明細書
【文献】米国特許第4,192,785号明細書
【文献】米国特許第4,296,745号明細書
【文献】米国特許第4,367,732号明細書
【文献】米国特許第4,813,942号明細書
【文献】米国特許第4,231,369号明細書
【文献】米国特許第4,551,490号明細書
【文献】米国特許第4,296,745号明細書
【文献】米国特許第4,793,337号明細書
【文献】米国特許第4,738,257号明細書
【文献】米国特許第4,867,748号明細書
【文献】米国特許第5,059,169号明細書
【文献】米国特許第7,767,291号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記を考慮すると、使用者の皮膚に本質的に炎症を起こすことなく、創傷被覆材又はストーマ皮膚バリア等の製品下の皮膚のpHを約4.0~約5.5に維持するのに適した緩衝剤を含み、最適な程度の流体吸収性を有する接着剤組成物を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本開示の一態様によれば、最適な流体吸収性及びpH緩衝性が可能である高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物が提供される。
【0018】
本開示の別の態様によれば、最適な流体吸収性及びpH緩衝性が可能である高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含む創傷被覆材が提供される。
【0019】
本開示の別の態様によれば、最適な流体吸収性及びpH緩衝性が可能である高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含むオストミー皮膚バリアが提供される。
【0020】
本開示の別の態様によれば、高分子量ポリマー緩衝剤組成物を使用して、創傷被覆材又はオストミー皮膚バリア等の皮膚接着性医療デバイスを製造する方法が提供される。
【0021】
本発明の一実施形態は、可撓性外層と、その一方の面に塗布された高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物とを含む創傷被覆材であって、上記接着剤が装着者の皮膚に生じる炎症を最小限にするpH緩衝性及び最適な流体吸収性を提供する、創傷被覆材である。
【0022】
本発明の別の実施形態は、一方の面に塗布された高分子量ポリマー緩衝接着剤組成物を含むオストミー皮膚バリアであって、上記接着剤組成物が装着者の皮膚生じる炎症を最小限にするpH緩衝性及び最適な流体吸収能を提供する、オストミー皮膚バリアである。
【0023】
本発明は、添付図面を参照して、非限定的な実施形態の以下の説明を読むことによってよりよく理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の実施形態によるバリア一式についてのAqua Keep濃度に対する吸収の依存性を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態によるCarbopol濃度に対する流体吸収を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態によるバリア表面のpHとCarbopol濃度との間の相関を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態によるバリア表面のpHとAqua Keep濃度との間の相関を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態による多数の接着剤成分を含むオストミーバリアを示す図である。
【
図6】
図5のオストミーバリアの部分断面図を示す図である。
【
図7】本発明の別の実施形態によるオストミーバリアを示す図である。
【
図8】
図7のオストミーバリアの部分断面図を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本開示の一実施形態は、汗、創傷滲出液、尿及び糞便物質等の流体を吸収し、pHを調節し、かつ酵素活性を低下させる高分子量緩衝剤を含む接着剤組成物に関する。理解されるように、接着剤組成物の実施形態は、創傷治癒等の医療用途、例えば創傷被覆材、オストミーバリア等で使用するために適切であり、ヒト及び獣医学用途の両方で使用するために適切であり得る。
【0026】
特に、本開示の一実施形態は、酸性サイトに富んだ高分子量ポリマーの使用を意図している。ポリ酸官能基を有するポリマーは、それらのプロトン化形態及び中和形態の混合物を使用することにより緩衝剤として機能し得る。部分的中和され得るペンダントカルボキシル基を有する任意の高分子量ポリマーが、本開示の使用に適している。適切なポリマーには、例えば、アルキル鎖が1個~5個の炭素の長さであり、直鎖状又は分岐鎖状であり得るポリアクリル酸及びポリ(2-アルキルアクリル酸)が挙げられる。ポリメタクリル酸は、好ましいポリ(2-アルキルアクリル酸)である。他の好適なポリマーは、アクリル酸モノマーと2-アルキルアクリル酸モノマーとの任意のコポリマー、上記モノマーとマレイン酸とのコポリマー、二酸、三酸又はポリ酸でエステル化されたポリビニルアルコール(例えば、ポリビニルアルコールサクシネート)等の遊離カルボン酸基を含む側鎖で置換されたオレフィン系ポリマー等である。
【0027】
当業者であれば理解できるように、本開示の緩衝性接着剤組成物は、実施例1に記載されるリン酸緩衝液負荷試験で試験製品のpHを約6.0未満に保持することができる、部分的に中和可能なペンダントカルボキシル基を有する任意の高分子量ポリマーを使用することができる。
【0028】
本発明の好ましい実施形態は、酸性サイトに富んだ少なくとも2種の高分子量ポリマーを含み、その一方はその非中和形態で存在し、もう一方は部分的中和されている緩衝性接着剤組成物である。本発明者らは、驚くべきことに、酸性サイトに富んだ高分子量ポリマーの非中和形態及び部分的中和形態の組合せが、患者の皮膚に取り付けられるべき医療デバイス、例えば創傷被覆材又はオストミー皮膚バリアのための接着剤組成物において、吸収性及びpH制御性の程度の独立した改変を可能にし、非常に望ましい品質を可能にすることを見出した。
【0029】
非中和ポリ酸及び部分的中和ポリ酸との割合と、部分的中和ポリ酸の中和の程度には相関がある。部分的中和ポリ酸の中和の程度は、適切には、約50%~約100%であってもよく、約75%が好ましい。いかなる中和の程度が選択されようと、非中和ポリ酸及び部分的中和ポリ酸の割合は、創傷被覆材下又はオストミー皮膚バリア下で4.0から約5.5の間の所望のpH範囲に至るように調節されるべきである。接着剤配合物の技術分野において通常の技術を有する者は、部分的中和ポリ酸の所与の中和の程度のために、非中和ポリ酸及び部分的中和ポリ酸の適切な割合を容易に選択することができる。
【0030】
この好ましい実施形態では、約75%が中和された部分的中和架橋ポリ酸の場合に、高分子量ポリマー酸の非中和形態及び部分的中和形態は、約3:1~約1:4、好ましくは約2:1~約1:1の比率で存在し得る。2つの形態の高分子量ポリマー酸は合計で、接着剤組成物全体の約10重量%~約25重量%、好ましくは、接着剤組成物全体の約15%~約20%を含まれ得る。
【0031】
本開示の一実施形態の使用に十分に適したポリマーとしては、ポリアクリル酸(PAA)及びポリメタクリル酸(PMA)が挙げられる。PAA及びPMAはいずれも、例えば、Sigma-Aldrich Co.社から様々な形態で、例えば、粉末及び溶液で、ある範囲の分子量のものが入手可能である。アクリル酸誘導体の中でもPAAは、化合物1グラム当たりのカルボン酸サイトの密度が最も高く、したがって、化合物1グラム当たりの緩衝の程度が最も高いことから、好ましい。本明細書で使用される場合に、「高分子量」PAAは、約60,000ダルトンより大きく、数百万ダルトンに及ぶことを意味する。この用語は、PMA及び上記の他のポリマーについても同様の意味を有する。
【0032】
当業者であれば、特定のポリマー及び使用に適切な中和度を容易に決定することができる。PAAの部分的中和は、PAA(適宜、水を加える)と化学量論的に適切な量の強塩基(例えば、NaOH)とを、所望の中和度に至るまで混合することにより達成され得る。他のポリマーも同様に処理することができる。PAA等の部分的中和ポリ酸も商業的に入手可能である。
【0033】
PAA及び関連するポリマーは、架橋及び非架橋の両方の形態で存在し、架橋度は様々であってもよい。本開示で使用されるポリマーは、架橋されていることが好ましい。
【0034】
上述のように、高分子量ポリマー、例えば、PAA及びPMAは、効果的なpH緩衝を提供するだけでなく、汗、創傷滲出液又は糞便物質等の流体の効果的な吸収性の両方を提供する。より具体的には、該ポリマーは、接着剤マトリックス内に分散されると、ペクチン及びCMC等の親水コロイドと同様に機能する。すなわち、該ポリマーは吸収及び膨潤して粘性溶液を形成することにより、装着者の皮膚に対する粘膜付着をもたらす。理解されるように、高分子量ポリマーは、創傷被覆材又は皮膚バリアの適用性及び所望の流体処理能に応じて、唯一の親水コロイド成分であってもよく、又は他の実施形態では、高分子量ポリマーは、他の親水コロイドと組み合わされてもよい。
【0035】
本開示の一実施形態では、架橋高分子量PAA及び部分的中和架橋高分子量PAAは、ポリイソブチレン及びスチレン-イソプレン-スチレンコポリマー若しくはポリマー繊維のいずれか(又はその両方)と組み合わされる。1つのそのような実施形態では、接着剤組成物は、架橋高分子量PAAと、部分的中和架橋高分子量PAAと、ポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーとを含む。別のそのような実施形態では、接着剤組成物は、架橋高分子量PAAと、架橋高分子量部分的中和PAAと、ポリイソブチレンと、スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマーと、綿又は好ましくはポリエチレン若しくはポリプロピレン等のポリオレフィンのような繊維とを含む。
【0036】
本開示の組成物の接着剤成分は、繊維の材料に強い親和性を有する感圧接着性を有する任意の材料であり得る(繊維が使用される場合)。接着剤成分は、単一の感圧接着剤であっても、又は2種以上の感圧接着剤の組合せであってもよい。本開示に有用な接着剤としては、例えば、天然ゴム、合成ゴム、スチレンブロックコポリマー、ポリビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリレート(アクリレート及びメタクリレートの両方を含む)、ポリオレフィン及びシリコーンを基礎とするものが挙げられる。本開示のために選択される好ましい材料であると考えられる特定の接着剤は、ポリオレフィン、すなわち、ポリイソブチレン(PIB)であるが、類似の特性を有する他の感圧接着剤材料も適切であると考えられる。
【0037】
接着剤組成物における繊維は、当該技術分野で知られる任意の繊維材料であってもよいが、粘着性接着剤成分と相容性のあるものが好ましく、更には粘着性接着剤成分に強い親和性を有するものが好ましい。ポリエチレン及びポリプロピレン等のポリオレフィンはPIBとの相容性が高く、その接着剤媒体によって容易に濡れることが判明した。両者とも非極性飽和炭化水素である。
【0038】
このようなPIBは、比較的高分子量のPIB(約40,000~60,000の範囲の分子量)として存在することが好ましい。例えば、オストミー用の皮膚バリアは、通常、60,000の分子量のPIBを50重量%~65重量%の範囲で、又は40,000の分子量のPIBを40重量%~約55重量%の範囲で含むこととなる。さらに、40,000の分子量のPIB及び60,000の分子量のPIBの組合せ、例えば、32.5重量%の40,000の分子量のPIB及び32.5重量%の60,000の分子量のPIBの組合せを使用することもできる。
【0039】
本開示の緩衝性接着剤組成物のためにいかなる材料が選択されようと、該組成物は、少なくとも最小限の吸収性を有することが非常に望ましい。本組成物の緩衝能は、それらの吸収能と部分的に関連している。吸収が起こらなければ、高分子量ポリマー緩衝剤は創傷滲出液又は糞便物質に触れないため、効果を奏しないこととなる。より低い吸収能を有する組成物が本開示に含まれるが、本開示の組成物は、実施例1の試験で測定される少なくとも約0.15g/cm2の吸収能を有することが好ましい。さらに、緩衝接着剤組成物の吸収能は、好ましくは0.60g/cm2を超過しないことが好ましい。以下から明らかなように、緩衝性接着剤組成物の吸収能は、部分的中和高分子量ポリマー対非中和高分子量ポリマーの割合を変化させることによって調節することができるので、当業者であれば、緩衝性接着剤組成物の吸収能を所望のレベルに容易に調節することができる。
【0040】
本発明の好ましい代表的な緩衝化接着剤組成物は、以下の、1)約55.5重量%のPIB、約14.5重量%のSIS、約5%のポリエチレン繊維、約15重量%の架橋ポリアクリル酸及び約10重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸と、2)約66重量%のPIB、約6.5重量%のSIS、約4%のポリエチレン繊維、約14.5重量%の架橋ポリアクリル酸及び約9重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸とを含む。上記組成物においては、PIBは、40,000の粘度平均分子量を有することが好ましく、部分的中和架橋ポリアクリル酸は、約75%が中和されていることが好ましい。
【0041】
以下の実施例は、本開示の代表的な実施形態の製造及び試験を記載する。
【実施例】
【0042】
実施例1:
試験試料:バリア材料を0.020インチ(0.51mm)の厚さに熱圧縮することによって試験試料を製造し、取り外し可能な剥離ライナーと可撓性を有する裏当てフィルムとの間に貼り合わせた。
【0043】
材料
ポリイソブチレン(PIB)
JX Nippon Oil and Energy社製の粘度平均分子量40,000を有するNippon Himol 4H
【0044】
スチレン-イソプレン-スチレンブロックコポリマー(SIS)
Kraton Polymers社製のKraton(商標) D-1161P
【0045】
ポリオレフィン繊維
MiniFIBERS, Inc.社から供給されるPolyethylene Short Stuff Synthetic Pulp E380F
【0046】
架橋ポリアクリル酸
The Lubrizol Corporation社から提供されるCarbopol(商標) 980 NF
【0047】
部分的中和架橋ポリアクリル酸
Sanyo Corporation of America社により提供されるAqua Keep(商標) 10 SH-PF
【0048】
流体吸収及びpH:流体吸収は、EN規格13726-1:2002(Test methods for primary wound dressings-Part 1:Aspects of absorbency, Section 3.3)の手順に従って測定した。水和流体は、生理食塩水(0.9%のNaCl水溶液)であった。20mLの生理食塩水に曝された10cm2の表面積の試料での重量増加により、吸収された流体の質量を測定した。試料を炉(37℃、15%の相対湿度)内に一定期間にわたり保持した。表面pHの測定を、流体吸収後の試料に対して、較正されたpH計及び平坦なpHプローブ(Ross(商標)モデル8135BN)を使用して行った。
【0049】
pH緩衝剤負荷:ストック緩衝液(100mMのリン酸塩、0.9%のNaCl、pH7.4)を調製した。ストック緩衝剤を適切な容量の0.9%のNaClで希釈することによって、低リン酸塩濃度の緩衝剤を調製した。10cm2のバリア表面を10mLの緩衝剤負荷溶液に曝した。
【0050】
例示的配合物
PIB、ポリエチレン繊維及び部分的中和ポリアクリル酸(2種の異なる分子量及び2種の異なる中和度を有する)を基礎とする一連の配合物を調製した。
【0051】
Brabender社のタイプREE6のミキサーを用いて85℃で組成物を調製した。85%のSIS及び15%のPIBを含む「マスターバッチ」を別途調製した。所要重量のマスターバッチをミキサーに加え、36rpmで4分間混合した。所要量の半分のPIBを加え、混合を4分間継続した。所要量の乾燥粉末(PE繊維、Carbopol 980 NF及びAqua Keep 10SH-PF)を予備配合した後に、4分間かけてミキサーに加えた。残りの半分のPIB成分を加え、混合を10分間継続した。混合チャンバーを密封して真空にし、混合を15分間継続した。真空を解放し、ミキサーから混合物を取り出し、あらゆる試験に取りかかる前に室内条件で平衡化させた。試験は実施例1と同様に実施した。以下の表1は、こうして調製された組成物を、示された成分の重量百分率で示すと共に、これらの組成物の試験結果を示す。
【0052】
【0053】
使用者の要求を満たすために、皮膚バリアの流体吸収特性及びpH制御特性を調節することが必要である。現行の配合物においては、2種のポリアクリレート成分、つまり非中和架橋高分子量ポリアクリル酸のCarbopol 980 NF及び部分的中和架橋高分子量ポリアクリル酸のAqua Keep 10SH-PFの成分濃度が、主として、流体吸収特性及びpH特性に関与している。吸収特性及びpH特性を独立して調節することができれば、それにより種々の特性の組合せを有する一連のバリアの配合が可能となるため、好ましい。バリアの全ての特性が全成分の相対量に影響されることは認められているが、驚くべきことに、部分的中和架橋高分子量ポリアクリル酸成分は、吸収特性に対して大きな影響を及ぼすが、pH特性に対しては最小限の影響しか及ぼさず、一方で、非中和架橋高分子量ポリアクリル酸成分は、pH特性に対して大きな影響を及ぼすが、吸収特性に対しては最小限の影響しか及ぼさないことが見出された。これらの効果は、製品の性能特性とこれらの2つの成分の成分濃度との間の相関を調べることによって示される。これは、2種の成分の成分濃度に対する24時間の流体吸収の結果をプロットすることによってグラフで図示される。
【0054】
図1は、バリア一式についてのAqua Keep濃度に対する吸収の依存性を示す。直線はデータに対する線形回帰フィットである。0.8757のR
2値は、測定された流体吸収において観察された変動の87%超がAqua Keep濃度の変化と相関していることを意味する。対照的に、
図2に示されるように、流体吸収とCarbopol濃度との間には、実質的に相関は存在しない(R
2=0.0141)。
【0055】
同様に、
図3及び
図4は、バリア表面のpHがCarbopol 980 NF濃度と強く相関し(
図3、R
2=0.7773)、一方で、Aqua Keep 10SH-PF濃度とは実質的に相関が存在しない(
図4、R
2=0.0596)ことを示している。
【0056】
上記のような高分子量ポリマーは、pH緩衝能及び吸収の両方の増強を提供すると共に、皮膚の炎症を減らす。本発明者らは、驚くべきことに、クエン酸等の低分子量酸は、本開示における緩衝剤系には不適切であることを見出した。このような低分子量酸は緩衝剤として許容可能に機能するものの、低分子量酸緩衝剤系は、本明細書で意図される用途では、使用者の皮膚に許容し難い炎症を引き起こす。本開示の緩衝性接着剤組成物と同様であるが、高分子量ポリマー緩衝剤ではなくクエン酸/クエン酸塩緩衝剤を用いた緩衝性接着剤組成物をヒト被験者で接着被覆材において使用した場合に、被験者の被覆材の下に点状潰瘍を生じた。試験結果は以下に示されている。そのような接着剤組成物は、医療用途には不適切であると考えられる。この結果は、驚くべきことであると共に予想外でもあった。クエン酸緩衝系の評価を以下の実施例2に記載する。
【0057】
実施例2:
1968年に、Lanmanらにより、数日間の繰返しの曝露により低刺激性化粧品を見分ける方法が生みだされたことが報告された。より短い期間(例えば、21日間)を含む変更を加えて、この方法は、製品が軽度の皮膚の炎症を引き起こす可能性を決定するための標準試験として存続していた。この方法論は、閉塞下での21日間の連続塗布を要する。不織布パッド上に塗布された1%のラウリル硫酸ナトリウム(SLS)溶液を陽性対照として用いた一方で、防腐剤を含有していない0.9%の塩化ナトリウムを同様に塗布したものを陰性対照として用いた。この標準試験を使用して、21日間の連続塗布についての皮膚に直接塗布された様々なバリア配合物の炎症の可能性を評価した。バリア材料は自己接着性であるため、滅菌生理食塩水で湿らせた不織布パッドの使用、緩衝材料を用いて構成されたバリア及び緩衝材料を用いずに構成されたバリアの使用により、皮膚からバリアが分離されたときに観察される炎症と直接塗布から生じた炎症とを比較することにより、機械的特性による炎症(皮膚剥離)からの寄与と化学的炎症からの寄与とを部分的に区別することが可能であった。
【0058】
30人分の実験成果を確保するために十分な数の健常ボランティア被験者を募集した。各被験者を全ての試験物質に曝し、その部位を標準的なラテン方格法により無作為化した。評価者には、物質の正体を知らせなかった。連続21日間にわたり又は終了スコアに到達するまで、物質を同じ部位に再塗布した。順位和解析を用いて炎症データを処理した。順位の合計は1~10の範囲であり、数が大きいほど炎症がより大きいことを示す。
【0059】
炎症試験で使用された配合物を以下に記載する。
【0060】
クエン酸塩バリア
Oppanol(商標) B12 PIB(BASF社) 44.0%
TPC Group社のTPC1285液体PIB 7.0%
ポリエチレン繊維 3.5%
ペクチン 8.5%
カルボキシメチルセルロースナトリウム 17.0%
無水クエン酸一ナトリウム 16.0%
クエン酸三ナトリウム二水和物 4.0%
【0061】
PAAバリア
Oppanol(商標) B12 PIB(BASF社) 55.0%
TPC Group社のTPC1285液体PIB 8.7%
ポリエチレン繊維 4.4%
部分的中和PAA 31.9%
【0062】
この標準的な方法論を使用すると、20%のクエン酸塩バリアを含む配合物の炎症可能性(平均順位9.59)は、陽性対照の炎症可能性(平均順位9.27)と同様であった。クエン酸塩を含むバリア配合物だけが限局性びらん(点状病変)を伴う炎症を引き起こし、それはSLSへの曝露により一般的に観察されるより均一な炎症とは異なっていた。PAAを用いて配合されたバリア(平均順位6.70)は、陽性対照又はクエン酸緩衝剤配合物のどちらよりも炎症性が大幅に低かった。PAAバリア配合物への繰り返しの曝露により観察されたわずかな炎症は、機械的外傷、すなわちテープ剥離の繰り返しに特徴的なより均一な「グレージング(glazing)」であった。これらの群の両方とも、陰性対照(平均順位2.68)とは異なっていた。ワセリン中で適用されたPAA緩衝剤(ワセリン中31.8%のPAA)は非炎症性であったことから、PAAへの繰り返しの曝露による固有の化学的炎症がないことが指摘される。この観察は、PAAを用いて配合されたバリアで観察されたわずかな炎症が、繰り返しの機械的な損傷によるものであるという解釈と一致する。
【0063】
本開示の一実施形態は、創傷被覆材の接着剤層中に導入された高分子量ポリマー緩衝剤組成物の使用を意図している。創傷被覆材は、好ましくは、フィルム等の可撓性外層を含む。親水コロイド層は、外層の内側にあり、本発明の高分子量ポリマー緩衝剤組成物を、任意にCMC又はペクチン等の追加の親水コロイドと一緒に含む。理解されるように、親水コロイド層は創床と直接接触する。
【0064】
一実施形態では、創傷被覆材は、創床における被覆材成分の崩壊の可能性を避けるために、水和される場合に非常に高い凝集力を有する接着剤成分を含む。理解されるように、本発明の緩衝剤組成物を含む非接着性創傷被覆材も可能であり得る。
【0065】
自己接着性創傷被覆材に適した配合物は、例えば、創傷滲出液を処理するのに有用である、高い流体吸収特性及び緩衝特性と共に、比較的高いSIS含有量による高い凝集強さを有する表1における配合物8である。この配合物を自己接着性創傷被覆材の製造に使用する方法は、当業者であれば明らかに理解するであろう。
【0066】
本開示の別の実施形態は、オストミー皮膚バリア中に導入された高分子量緩衝剤組成物の使用を意図している。皮膚バリアは、オストミーパウチに永久的に取り付けられていてもよく(「1ステップ」又はワンピース構成)、又はフランジクリップシステムを用いて別々に取り付けられてもよい(ツーピース構成)。本開示のこの実施形態により、ストーマ周囲の皮膚のpHは、約4.0~約5.5の正常な皮膚のpH範囲近くに維持されるため、ストーマ周囲領域の炎症の発生は減少するか又は発生しなくなる。
【0067】
オストミー皮膚バリアに有用な例示的配合物としては、ポリエチレン繊維又はSISのいずれかを含む配合物が挙げられる。例えば、表1の配合物13は、望ましい流体処理能と優れたpH制御とを兼ね備えている。この配合物をオストミー皮膚バリアの製造に使用する方法は、当業者であれば明らかに理解するであろう。
【0068】
また、本開示には、上記の高分子量ポリマー緩衝剤組成物の使用方法も含まれる。該組成物を使用することで、目的とする使用者の皮膚へとデバイスを確実に取り付けるのに有効な量の組成物をデバイスの側面又は表面に塗布することにより、任意の皮膚接着性デバイスを製造することができる。
【0069】
本発明の別の実施形態は、2種以上の接着剤組成物を含む、創傷被覆材、オストミーバリア等を意図している。より具体的には、高分子量ポリマー緩衝剤組成物、例えば非中和形態の高分子量ポリマー酸及び部分的中和形態の高分子量ポリマー酸を含む組成物、例えば上記表1に示される組成物及び本明細書に開示される組成物を含む第1の接着剤は、そのような高分子量ポリマー緩衝剤を含まない第2の接着剤と組み合わされる。とはいえ、或る特定の実施形態では、第2の接着剤は、高分子量ポリマー緩衝剤を含んでもよく、又は特定の医療用途、例えばコロストミー、イレオストミー、ウロストミー、創傷治療等に適した別のタイプの接着剤であってもよい。
【0070】
或る特定の実施形態では、第1の接着剤の非中和高分子量ポリマー酸及び部分的中和高分子量ポリマー酸は、それぞれ独立して、ポリアクリル酸、ポリ(2-アルキルアクリル酸)、アクリル酸モノマーと2-アルキルアクリル酸モノマーとのコポリマー、アクリル酸モノマー及び2-アルキルアクリル酸モノマーとマレイン酸とのコポリマー、並びに遊離カルボン酸基を有する側鎖で置換されたオレフィン系ポリマーからなる群から選択することができ、その際、アルキルは1個~5個の炭素の長さであり、直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。
【0071】
第2の接着剤には、天然ゴム、合成ゴム、スチレンブロックコポリマー、ポリビニルエーテル、ポリ(メタ)アクリレート(アクリレート及びメタクリレートの両方を含む)、ポリオレフィン(PIB)及びシリコーン、又は他の感圧接着材料が含まれ得る。上述のように、実施形態では、第2の接着剤は、浸出液の吸収及びpH調節のために高分子量ポリマー酸を利用しないが、創傷滲出液の吸収及び/又はpHの調節のために親水コロイドを含む。親水コロイドには、セルロース、ペクチン、ゼラチン、アルギネート、デンプン、グリコーゲン、キトサン、キチン及びその誘導体、アラビアゴム、ローカストビーンガム、カラヤガム、ガティガム、寒天、カラギーナン、カロブガム、グアーガム、並びにキサンタンガムが含まれ得る。或る特定の実施形態では、第2の接着剤は、pH緩衝のために低分子量酸を利用することができ、ポリマー繊維を含んでいてもよい。
【0072】
第1の接着剤及び第2の接着剤は、所望の吸収能及び/又はpH緩衝能に基づいて選択され得る。すなわち、それらの接着剤は、使用中に生じる可能性がある滲出液、汗、尿又は糞便物質の量に基づいて選択され得る。例えば、高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含有する第1の接着剤は、ストーマ又は創傷に近接した皮膚表面のために利用され得る。第2の接着剤、例えば親水コロイドを基礎とする接着剤は、比較的高い吸収能を必要としない領域、又は顕著な吸収が望ましくない領域、例えば入浴/シャワーにより水に曝される可能性のあるバリア又は被覆材の周囲での展開のために選択され得る。
【0073】
特定の実施形態では、第1の接着剤は、40重量%のポリイソブチレン(PIB Nippon 4H)、16重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマー(Kraton SIS)、5重量%の液体PIB、4重量%のポリエチレン繊維、20重量%の架橋ポリアクリル酸(Carbopol 980 NF)、及び15重量%の部分的中和架橋ポリアクリル酸(Aqua Keep 10SH-PF)を含む。第2の接着剤は、55.5重量%のポリイソブチレン(PIB Nippon 4H)、14.5重量%のスチレン-イソプレン-スチレンコポリマー(Kraton SIS)、5重量%のポリエチレン繊維、8.3重量%のペクチン、及び16.7重量%のカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。
【0074】
第1の接着剤及び第2の接着剤は、創傷被覆材又はオストミーバリアの種々の表面又は部分、すなわち、第1のバリア表面及び第2のバリア表面に組み入れるか、その上に配置されるか、又はそれを形成することができる。例えば、高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含有する接着剤は、顕著な吸収及び/又はpH緩衝が必要とされるバリア表面上に配置され得る。さらに、第2の接着剤は、ほとんど吸収及びpH緩衝を必要としない皮膚領域と接触するバリア表面上に配置され得る。
【0075】
ここで、
図5及び
図6を参照すると、本開示の特定の実施形態は、両者とも楕円形のオストミーバリア10中に導入される第1の接着剤(高分子量緩衝剤組成物を含む)及び第1の接着剤とは異なる組成を有する第2の接着剤の使用を意図している。理解されるように、バリア10は、オストミーパウチ(示していない)に永久的に取り付けられていてもよく、又はフランジクリップシステムを使用して取り付けられてもよい。
【0076】
より具体的には、バリア10は、第1の接着剤を含む内層20と、該内層20を覆いそれを越えて延在して縁部40を形成する裏当て層30とを含む。裏当て層30及び縁部40は、第2の接着剤を含む。
図6を参照すると、裏当て層30及び内層20は一緒になって、バリア10の増厚区間を形成し、それはテーパ状区間tで縁部40に向かって薄くなる。このように、バリア10は、ストーマの周囲でより厚く、周縁部でより薄い。
【0077】
バリア10は、使用者のストーマ上に配置されるように構成されたバリアの孔又は開口部22を更に含むことから、ストーマは開口部22を貫通することができ、こうして、バリア10を展開させることができる。実施形態では、開口部22は、15mm~50mmの範囲であってもよく、バリア10上のほぼ中心にある。理解されるように、実用的であれば、他の開口部のサイズ及び配置を使用することができ、
図7及び
図8の実施形態等の或る特定の実施形態では、開口部が設けられていなくてもよい。そのようなバリアでは、使用前に切断具により開口部を作ることができる。
【0078】
再び
図5及び
図6を参照すると、バリアはまた、プルタブ44を更に含む剥離層42を含む。理解されるように、プルタブ44を利用して剥離層42を取り外すことで、バリア10を接着させることができる。
【0079】
本発明の態様では、高分子量ポリマー緩衝剤組成物を含有する第1の接着剤は、装着者のストーマ、すなわち第1のバリア表面の近傍に配置される。したがって、第1の接着剤は、ストーマ流出液の吸収だけでなく、装着者のストーマに直接隣接してそれを取り囲むストーマ周囲領域におけるpH調節及び耐浸食性を与える。親水コロイドを含み得る第2の接着剤は、バリア10の外周にある縁部40、すなわち第2のバリア表面で利用される。このように、第2の接着剤、例えば親水コロイドを基礎とする接着剤は、より低い吸収能を有するので、水と接触したときに縁部40が不所望に膨潤する可能性が低下する。
【0080】
上述のように、高分子量ポリマー緩衝剤を含有する第1の接着剤は、実施例1の試験で測定されるように、少なくとも約0.15g/cm2であるが0.60g/cm2を超過しない吸収能を有することが一般に望ましい。実施形態では、第2の接着剤、例えば親水コロイド接着剤は、第1の接着剤の吸収能より低い吸収能を有する。
【0081】
引き続き
図5及び
図6を参照して、特定の実施形態では、バリア10は、約105mmの幅及び約89mmの高さを有する楕円形状を有する。縁部40は幅が約5mmであり、裏当て層と内層複合物との間の縁部へのテーパ状移行部tは、約2mmの範囲にわたり存在する。第1の接着剤を含有する内層20は、約0.4mmの厚さを有し、第2の接着剤を含有する裏当て層30は、約0.3mmの厚さを有する。
【0082】
実施形態は、特定の寸法を有する楕円形のオストミーバリアに関連して説明されるが、本発明の2種以上の接着剤は、様々な形状、サイズ及び層厚のオストミーバリア及び創傷被覆材に関して利用することができ、例えば、環状、四辺形及び他の形状を使用することができる。さらに、内層20及び裏当て層30は同じ形状である必要はない。例えば、
図7及び
図8を参照すると、或る特定の実施形態では、バリア110の全体形状を規定する裏当て層130は楕円形であってもよく、内層120は円形であってもよい。
【0083】
引き続き
図7及び
図8では、図示された実施形態では、バリア110は、第1の接着剤を含有する円形の内層120と、第2の接着剤を含有する楕円形の裏当て層130とを含む。
図5及び
図6の実施形態のように、バリア110は、縁部140と、剥離層142と、剥離層を取り外すためのタブ144とを含む。図示された実施形態では、移行部t’は、約5mmの比較的大きな範囲を有し、バリアの全体寸法は、幅が約130mmであり、高さが110mmである。内層120及び裏当て層130は、
図5及び
図6の実施形態と同じ厚さである。
【0084】
さらに、本発明は2種の接着剤を有するものとして説明されてきたが、他の実施形態は、それぞれが異なる組成及び/又は吸収能/緩衝能を有する3種以上の接着剤を含み得る。
【0085】
理解されるように、接着剤は、互いに重ね合わせる必要はなく、そして直接接触することなく、オストミーバリア又は創傷被覆材の別個の区間上に配置されてもよく、又はそれらを形成することもできる。
【0086】
本発明の実施形態は、射出成形法により製造され得る。
【0087】
本発明は好ましい実施形態を参照して説明してきたが、当業者であれば、本発明の本質的な範囲から逸脱することなく、様々な明らかな変更を加えることができ、それらの要素を等価物で置き換えることができることを理解するであろう。したがって、本発明は、開示された特定の実施形態に限定されないことが意図される。