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特許7194741グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花を得る遺伝子組み換え方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花を得る遺伝子組み換え方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/82 20060101AFI20221215BHJP
   A01H 5/00 20180101ALI20221215BHJP
   A01H 1/00 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/54 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/52 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/74 20060101ALI20221215BHJP
   A01H 5/02 20180101ALI20221215BHJP
   C12N 9/10 20060101ALN20221215BHJP
   C12N 9/00 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C12N15/82 Z
A01H5/00 A ZNA
A01H1/00 A
C12N15/54
C12N15/52 Z
C12N15/70 Z
C12N15/74 100Z
A01H5/02
C12N9/10
C12N9/00
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020541990
(86)(22)【出願日】2018-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-05-13
(86)【国際出願番号】 CN2018117160
(87)【国際公開番号】W WO2019148944
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-07-16
(31)【優先権主張番号】201810095829.2
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】505245449
【氏名又は名称】天津大学
【氏名又は名称原語表記】Tian Jin University
【住所又は居所原語表記】92, Weijin Road, Nankai District Tianjin 300072 CHINA
(73)【特許権者】
【識別番号】517121939
【氏名又は名称】中国科学院微生物研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF MICROBIOLOGY, CHINESE ACADEMY OF SCIENCES
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ヤン
(72)【発明者】
【氏名】チェン,イファ
(72)【発明者】
【氏名】アンカナハリ,ナンジャラジ ウルス
(72)【発明者】
【氏名】フ,イリン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ペングウェイ
【審査官】西村 亜希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-189969(JP,A)
【文献】国際公開第2005/017147(WO,A1)
【文献】特開2013-055955(JP,A)
【文献】Appl.Microbiol.Biotechnol.,2017年,Vol.101,pp.3811-3820
【文献】Accession No. FW556946,Definition: Flavonoid 3',5' Hydroxylase gene sequences and uses therefor,,Database Genbank [online],2010年12月27日, retrieved on 12-Apr-2022, retrieved from the Internet: <URL, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/FW556946.1/>
【文献】Accession No. KT429820, Definition: Rosa hybrid cultivar Vendela AGAMOUS-like protein (RhAG) gene, promoter region and 5' UTR,Database Genbank [online],2015年10月20日,retrieved on 14-Nov-2022, retrieved from the Internet: <URL, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/KT429820.1/>
【文献】Accession No. CP013654, Definition: Bacillus subtilis subsp. subtilis strain BSD-2 chromosome, complete genome,Database Genbank [online], ,2015年12月14日,retrieved on 23-May-2022, retrieved from the Intern et: <URL, http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/CP013654.1?from=3214119&re port=gbwithparts>
【文献】Phytochem Rev.,2011年,Vol. 10、No. 3,PP.397-412
【文献】BMC Plant Biology,2015年,Vol. 15、article No. 237,pp.1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/82
A01H 5/00
A01H 1/00
C12N 15/54
C12N 15/52
C12N 15/70
C12N 15/74
A01H 5/02
C12N 9/10
C12N 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花を持たせる植物を得る遺伝子組み換え方法であって、
ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするSfp遺伝子およびインジゴイジン合成酵素をコードするbpsA遺伝子を含むプラスミドを植物に導入し、植物の花弁細胞内でSfp及びBpsAタンパク質を機能的に発現させ、それによりグルタミンからインジゴイジンへの合成を介して花弁を青色に変える、導入ステップを含み、
前記Sfp遺伝子は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、またはホスホパンテテイニルトランスフェラーゼアイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記bpsA遺伝子は、インジゴイジン合成酵素をコードする遺伝子、またはインジゴイジン合成酵素アイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記Sfp遺伝子、および、前記bpsA遺伝子は、それぞれ前記プラスミドにクローニングされており、
前記プラスミドが、
SEQ ID NO.5に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターCHSpを、Sfp遺伝子の上流に含むとともに、
SEQ ID NO.6に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターRhAGpを、前記bpsA遺伝子の上流に含むことを特徴とする、遺伝子組み換え方法。
【請求項2】
前記Sfp遺伝子のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.1に示され、および/または
前記Sfp遺伝子によってコードされるホスホパンテテイニルトランスフェラーゼのアミノ酸配列が、SEQ ID NO.2に示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記bpsA遺伝子のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.3に示され、および/または
前記bpsA遺伝子によってコードされるインジゴイジン合成酵素のアミノ酸配列が、SEQ ID NO.4に示されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記導入ステップにおいて、前記ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするSfp遺伝子と、前記インジゴイジン合成酵素をコードするbpsA遺伝子とを、前記植物のゲノムに組み込んでいることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記プラスミドを大腸菌で増幅し、増幅されたプラスミドをアグロバクテリウム・ツメファシエンスに導入することを特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記Sfp遺伝子および前記bpsA遺伝子を、アグロバクテリウム媒介で植物に導入することを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記植物が、バラ、ロサ・キネンシス、ユリ、菊、カーネーションまたはランであることを特徴とする、請求項1~のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の方法により得られる植物。
【請求項9】
青い花を持たせる植物を得るための遺伝子組み換え方法であって、
植物の花弁に化合物インジゴイジンを含ませ、前記植物は、バラ、ロサ・キネンシス、ユリ、菊、カーネーションまたはランであり、
前記遺伝子組み換え方法は、
Sfp遺伝子およびbpsA遺伝子を含むプラスミドを植物に導入し、植物の花弁細胞内でSfp及びBpsAタンパク質を機能的に発現させ、それによりグルタミンからインジゴイジンへの合成を介して花弁を青色に変える、導入ステップを含み、
前記Sfp遺伝子は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、またはホスホパンテテイニルトランスフェラーゼアイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記bpsA遺伝子は、インジゴイジン合成酵素をコードする遺伝子、またはインジゴイジン合成酵素アイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記Sfp遺伝子、および、前記bpsA遺伝子は、それぞれ前記プラスミドにクローニングされており、
前記プラスミドが、
SEQ ID NO.5に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターCHSpを、Sfp遺伝子の上流に含むとともに、
SEQ ID NO.6に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターRhAGpを、前記bpsA遺伝子の上流に含むことを特徴とする、遺伝子組み換え方法。
【請求項10】
請求項に記載の方法により得られる植物。
【請求項11】
ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするSfp遺伝子およびインジゴイジン合成酵素をコードするbpsA遺伝子を含むプラスミドが一過性または安定的に導入された植物であって、
前記Sfp遺伝子によってコードされるホスホパンテテイニルトランスフェラーゼと、前記bpsA遺伝子によってコードされるインジゴイジン合成酵素とを、植物の花弁細胞内で機能的に発現させ、それによりグルタミンからインジゴイジンへの合成を介して花弁を青色に変え、かつ
前記Sfp遺伝子は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、またはホスホパンテテイニルトランスフェラーゼアイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記bpsA遺伝子は、インジゴイジン合成酵素をコードする遺伝子、またはインジゴイジン合成酵素アイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記Sfp遺伝子、および、前記bpsA遺伝子は、それぞれ前記プラスミドにクローニングされており、
前記プラスミドは、
SEQ ID NO.5に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターCHSpを、Sfp遺伝子の上流に含むとともに、
SEQ ID NO.6に示されるヌクレオチド配列を有する植物プロモーターRhAGpを、前記bpsA遺伝子の上流に含む、植物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物技術分野に属し、グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花(場合により、青い花を持たせる植物(花卉)と呼ばれる)を得る遺伝子組み換え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
花の色は観賞植物の重要な観賞特徴であり、花の色の改良は常に庭師の重要な課題の1つである。植物の花の色は、植物の受粉や繁殖に重要な役割を果たすだけでなく、人間にカラフルな視覚的体験を提供し、重要な美的価値を持っている(Grotewold, E.The genetics and biochemistry of floral pigments[J]. Annual Review of Plant Biology, 2006, 57(1):761.)。花卉(植物)のうち、重要な観賞植物として、ハイブリッド・ティー(Rosa hybrida)は5000年の栽培の歴史がある。今まで、2500以上の品種を育ててきたが、本格的な青色のバラはない。
【0003】
「ブルーエンチャントレス」(Blue enchantress)など、市販されている青いバラは、実際には染料で青く染められているものである(Holton T. A, Tanaka Y. Blue roses: a pigment of our imagination? [J]. Trends in Biotechnology: United Kingdom, 1994, 12(2): 40-42.)。青いバラ(Blue rose)は不可能な奇跡を示す英語の慣用句として、映画、テレビ、詩、小説、ドラマなど、さまざまな文芸作品に頻繁に使用されている。
【0004】
植物の花の色は、フラボノイド類のアントシアニン、テルペノイド類のカロチン、液胞のpH、金属イオンなど、多くの要因により決定される(Tanaka Y, Brugliera F. Flower colour and cytochromes P450 [J]. Philosophical Transactions of the Royal Society of London, 2013, 368(1612): 283-291.)。アントシアニンのヒドロキシル化の部位や程度の相違により、花の色が異なり、その中でも、フラボノイド3'5'ヒドロキシラーゼ(F3'5'H)は、青いデルフィニジンの形成を触媒し、それは、多くの植物が青い花を有する原因である。バラなどの植物を含む多くの植物はF3'5'Hをコードする遺伝子を欠いているため、そのような植物には青い花がない(Mikanagi Y, Saito N, Yokoi M, et al.Anthocyanins in flowers of genus Rosa,sectionsCinnamomeae (=Rosa), Chinenses, Gallicanae and some modern garden roses [J]. Biochemical Systematics &Ecology, 2000, 28(9): 887.)。
【0005】
日本のサントリー社は、遺伝子組み換え技術を使用してF3'5'Hを含む外来遺伝子を導入しながら、他のいくつかの遺伝子の発現を阻害することで、自然界で青い花を咲かない植物で青い花を実現する。この方法は、複数の遺伝子を改造する必要があり、必要な前駆体物質が複雑で、製造コストが非常に高く、この技術はカーネーションや菊で成功しており、バラの液胞pHは非常に低い(pHは約2.7)ので、バラに用いた結果、浅紫色の花しか得られず、本格的な青色を実現できない(図1)(Katsumoto Y, Fukuchimizutani M, Fukui Y, et al. Engineering of the rose flavonoid biosynthetic pathway successfully generated blue-hued flowers accumulating delphinidin. [J]. Plant & Cell Physiology, 2007, 48(11): 1589.)。それにもかかわらず、浅紫色のバラは、価格が1本22~35ドルであり(Staff (20 October 2009)."Blue roses to debut in Japan". The Independent, House and Home.Retrieved 30 August 2012.)、サントリー社に巨大な経済的利益をもたらしており、現在のところ、このようなバラは日本とアメリカ大陸でのみ販売されている。本格的な真色バラは、依然として解決できていない技術的課題である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、従来技術の欠陥を解決して、グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花を得る遺伝子組み換え方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の技術案の概要は、以下の通りである。
グルタミンからインジゴイジンへの合成を触媒して青い花を得る遺伝子組み換え方法であって、
ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードするSfp遺伝子と、インジゴイジン合成酵素をコードするbpsA遺伝子を選択し、植物プロモーターを含むプラスミドの植物プロモーターの下流にそれぞれクローニングするステップ1)と、
ステップ1)で得られたプラスミドを大腸菌で増幅し、アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens)に導入するステップ2)と、
アグロバクテリウム媒介で、Sfp及びbpsAを含むDNAを植物に導入するステップ3)と、
花弁細胞内でSfp及びBpsAタンパク質を機能的に発現させ、それによりグルタミンからインジゴイジンへの合成を介して花弁を青色に変えるステップ4)と、を含み、
前記Sfp遺伝子は、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする、任意の種に由来する遺伝子、またはホスホパンテテイニルトランスフェラーゼアイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記bpsA遺伝子は、インジゴイジン合成酵素をコードする、任意の種に由来する遺伝子、またはインジゴイジン合成酵素アイソエンザイムをコードする遺伝子であり、
前記植物プロモーターは、植物細胞において下流遺伝子の発現を駆動できるDNA配列である、遺伝子組み換え方法。
【0008】
好ましくは、Sfp遺伝子のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.1に示される。
【0009】
好ましくは、Sfp遺伝子によってコードされるホスホパンテテイニルトランスフェラーゼのアミノ酸配列が、SEQ ID NO.2に示される。
【0010】
好ましくは、bpsA遺伝子のヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.3に示される。
【0011】
好ましくは、bpsA遺伝子によってコードされるインジゴイジン合成酵素のアミノ酸配列が、SEQ ID NO.4に示される。
【0012】
好ましくは、Sfp遺伝子の上流の植物プロモーターCHSpのヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.5に示される。
【0013】
好ましくは、bpsA遺伝子の上流の植物プロモーターRhAGpのヌクレオチド配列が、SEQ ID NO.6に示される。
【0014】
植物プロモーターを含むプラスミドが、好ましくはpBI121である。
【0015】
前記植物(花卉)が、バラ、ロサ・キネンシス、ユリ、菊、カーネーションまたはランである。
【0016】
青い花を持たせる植物(花卉)を得るための遺伝子組み換え方法であって、
植物(花卉)の花弁に化合物インジゴイジンを含ませ、前記植物(花卉)は、バラ、ロサ・キネンシス、ユリ、菊、カーネーションまたはランである、遺伝子組み換え方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明の利点は、以下の通りである。
本発明は、染料による染色、及び遺伝子組み換え方法などの従来技術の欠陥を解決し、染料で花を染色する場合、明らかな人為的な操作が見られ、脱色しやすく、使用される有機染料が通常有毒であり、花は通常、花の香りのない乾燥花であり、生花を染色した場合は、保存には適しておらず、すぐに枯れてしまう。本発明の方法で生産される青い花は、新鮮で花の香りをしており、脱色せず、無毒であるなど、天然の花の様々な特徴を有する。
【0018】
本発明で使用される方法では、導入遺伝子によってコードされる酵素は液胞内になく、生成されたインジゴイジンも液胞内にないので、植物液胞の低pHによる影響を受けないため、純粋な青色(ロイヤルブルー)を形成できる。青色物質発生用の前駆体、つまり酵素の基質は、植物に豊富に含まれる単純なアミノ酸、グルタミンであり、酵素反応が1つのステップだけであり、複雑な前駆体物質を必要とせずに、自然界の白い花を出発材料として遺伝子変換を行うことができる。
【0019】
遺伝子組み換え方法を使用して、ユリ、ロサ・キネンシス、菊、カーネーションやランなどの青い花、特に青いバラを栽培する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】日本サントリー社の青いバラの改造手段である。図1-1はサントリー社がデルフィニジン生合成を利用して浅紫色バラを得る遺伝子変換経路図であり、図1-2はサントリー社が最終的に栽培した浅紫色バラの写真である。
図2】ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼSfpとインジゴイジン合成酵素bpsAの情報図である。ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの反応プロセスの模式図(図2-1)、コードされたインジゴイジン合成酵素bpsAの構造及び反応メカニズムの模式図(図2-2)、インジゴイジン合成酵素bpsAのSDS-PAGE電気泳動パターン(図2-3)、及び青色化合物であるインジゴイジンの光吸収スペクトル(図2-4)を含む。
図3】発現プラスミドpBI121-GENES2の構築の模式図である。そのうち、oriT:転移開始領域、遺伝子転移因子;oriV:プラスミド複製開始領域;IS1:遺伝子転位因子;KanR:カナマイシン耐性遺伝子;LB/RB:nopaline C58T-DNA由来の反復配列、遺伝子転位因子;MASt/NOSt:ターミネーター;CHSp:Chalcone Synthase遺伝子プロモーター;RhAGp:AGAMOUS-like protein遺伝子プロモーター。
図4】アグロバクテリウム媒介でbpsA遺伝子を一過性導入(一過性形質転換)したバラの青い花弁の図である。図4-1は、形質転換後の青い花弁を示しており、図4-2の左側の花はアセトシリンゴンなしの陰性対照であり、右側の花はアセトシリンゴンを添加しており一過性導入された青いバラの花弁であり、矢印は一過性導入の位置を示し、点線の円は青いスポットの領域を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明では、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼを利用してインジゴイジン合成酵素を活性化し、活性化されたこの酵素は、グルタミンからの青色化合物インジゴイジンの合成を触媒することで、白色バラを青色に見えるようにする。本発明は、例としてハイブリッド・ティー(Rosa hybrida)を使用するが、この方法を使用して得られる青い花は、ハイブリッド・ティーに限定されず、実験により、本発明の方法によれば、青色のバラ、バラ、ユリ、菊、カーネーションやランが得られることが示されている。本発明の特定の実施例では、植物細胞形質転換方法は、物理的、化学的または生物学的手段によって人工的に改造された遺伝子配列を植物細胞に導入するプロセスであり得る。本発明に採用される生物学的手段は、アグロバクテリウム媒介での植物細胞の遺伝子組み換え方法である。
【0022】
以下、特定の実施例にて本発明をさらに説明する。
実施例1 遺伝子の選択
ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼ(Phosphopantetheinyl Transferases)は、非リボソーム型ポリペプチド合成酵素のスルフヒドリル化ドメインTを活性化するものであり、その反応メカニズムを図2-1に示し、活性化後のTドメインは、基質を固定するものとして機能し、この機能は、非リボソーム型ポリペプチド合成酵素がその触媒機能を果たすために必要である。
【0023】
本発明で使用されるホスホパンテテイニルトランスフェラーゼの遺伝子Sfpは、Bacillus subtilis ATCC 21332(NCBI番号:ALS83446)に由来し、バラ科植物の遺伝子コドン使用バイアスに従って遺伝子コドンを調整して最適化し、ヌクレオチドSEQ ID NO.1を得る。Sfp遺伝子によってコードされるアミノ酸配列は、SEQ ID NO.2に示されている。Sfp遺伝子の選択は、本発明におけるホスホパンテテイニルトランスフェラーゼへの保護範囲を制限するものではなく、任意の他の種に由来する、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼをコードする遺伝子、またはホスホパンテテイニルトランスフェラーゼアイソエンザイムをコードする遺伝子を使用して、インジゴイジン合成酵素と共作用して青い花を得る方法は、すべて本発明によって保護される。
【0024】
インジゴイジン合成酵素(Indigoidine Synthetase)は非リボソーム型ポリペプチド合成酵素であり、2つのアミノ酸特異的認識ドメインA、1つのフラビン(FMN)を含む酸化ドメインOx、1つのThiolationドメインT、及び生成物を単離するための1つのドメインTEを含む。インジゴイジン合成酵素は2分子のグルタミンからの青色化合物インジゴイジンの合成を触媒する機能を有し、そのメカニズムを図2-2に示す。形成されたインジゴイジン(Indigoidine)は、分子式を図2-2に示し、光吸収スペクトルを図2-4に示し、他の染料に比べて非常に良好な水溶性、青い光沢を有し、今のところ、植物細胞には明らかな損傷作用が認められなかった。
【0025】
本発明で選択されたインジゴイジン合成酵素をコードする遺伝子bpsAは、ストレプトマイセス・ラベンジュレStreptomyces lavendulae ATCC11924に由来し、bpsAによってコードされるアミノ酸配列は、SEQ ID NO.4(NCBI番号:WP_030237949)に示され、バラ科植物の遺伝子コドン使用バイアスに従って遺伝子コドンを調整して最適化し、ヌクレオチド配列SEQ ID NO.3を得る。bpsA遺伝子によってコードされるインジゴイジン合成酵素遺伝子は、全長3846塩基であり、コードするタンパク質は1282アミノ酸であり、約140KDであり、精製されたタンパク質の発現は、SDSポリアクリルアミド(SDS-PAGE)タンパク質ゲルでは、図2-3に示される通りである。bpsA遺伝子の選択は、本発明におけるインジゴイジン合成酵素への保護範囲を制限するものではなく、任意の他の種に由来する、インジゴイジン合成酵素をコードする遺伝子、またはインジゴイジン合成酵素アイソエンザイムをコードする遺伝子を使用して、ホスホパンテテイニルトランスフェラーゼと共発現させて青い花を得る方法は、本発明によって保護される。
【0026】
ハイブリッド・ティー(Rosa hybrida)に由来する植物プロモーターのCHSpプロモーター及びRhAGpプロモーター配列は、それぞれSEQ ID NO.5(NCBI番号:FW556946)及びSEQ ID NO.6(NCBI番号:U43372)に示されている。
【0027】
実施例2 プラスミドのクローニング
本発明では、出発プラスミドベクターとして、植物バイナリー発現ベクターpBI121が使用される。
【0028】
図3に示すように、プラスミドpBI121の制限部位PmeIとSacIの間に人工合成断片(SEQ ID NO.7)を挿入して、プラスミドpBI121-CHS-RhAGを構築した。SEQ ID NO.7は、Mannopine Synthaseのターミネーター配列MASt、プロモーター配列CHSp及びプロモーター配列RhAGpを含む。
【0029】
SEQ ID NO.3の配列を含むプラスミドをテンプレートとして、BpsA-FG(SEQ ID NO.8)及びBpsA-RG(SEQ ID NO.9)をプライマーとして、PCRにより断片bpsAを得た。
【0030】
SEQ ID NO.1の配列を含むプラスミドをテンプレートとして、Sfp-FG(SEQ ID NO.10)及びSfp-RG(SEQ ID NO.11)をプライマーとして、PCRにより断片Sfpを得た。
【0031】
プラスミドpBI121-CHS-RhAGを制限エンドヌクレアーゼBamHI及びSpeIで消化し、精製・回収して、断片CHS-RhAG及びプラスミドpBI121骨格を得、[image] HiFi DNA Assembly Master Mix(New England Biolabs,USA)システムを使用し、50℃の条件で1時間反応させた後、大腸菌コンピテント細胞に形質転換し、クローンを取得し、含むプラスミドを増幅し、シーケンシングしたところ、正しい配列を確認すると、バイナリー発現プラスミドpBI121-GENES2を得た。図3を参照することができる。
【0032】
実施例3:標的遺伝子を含むアグロバクテリウム・ツメファシエンスのコンピテント細胞の調製
大腸菌からプラスミドを抽出することにより得られたプラスミドpBI121-GENES2をアグロバクテリウム・ツメファシエンスに形質転換した。アグロバクテリウム・ツメファシエンスのコンピテント細胞の調製は一般的な方法により行われ、具体的には、以下の通りである。
【0033】
1.アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens GV3101)を、10μg/mLリファンピシンと50μg/mLゲンタマイシンを含むLB寒天培地において、28℃で2日間培養した。
【0034】
2.モノクローナルコロニーを同じ抗生物質を含むLB培養液5mL(10μg/mLリファンピシン及び50μg/mLゲンタマイシン)に接種し、28℃のシェーカーにて150回転/分で一晩培養した。
【0035】
3.一晩培養したアグロバクテリウム・ツメファシエンス培養液2mLを200mLのLB培養液に希釈し、28℃(回転数250回転/分)のシェーカーにて、細胞密度OD600が0.3~0.5となるまで培養した。
【0036】
4.アグロバクテリウム・ツメファシエンス培養液を50mLの遠心分離管に入れ、氷冷し、3000×gの回転数で遠心分離した。
【0037】
5.上清を除去した後、アグロバクテリウム・ツメファシエンス細胞を、氷上で予冷したCCMB80バッファー80mLに再懸濁させ、氷上に20分間放置した。CCMB80バッファーの処方は、10mM酢酸カリウム、80mM CaCl・2HO、20mM MnCl・4HO、10mM MgCl・6HO、10%グリセロール、pH6.4である。
【0038】
6.細胞を再度遠心分離し、上清を除去し、予冷したCCMB80バッファー5mLに再懸濁させた。
【0039】
7. 1.5mLのEPチューブに、チューブあたり100μLで分注し、次に、液体窒素で速やかに凍結して、-80℃の冷蔵庫に保管した。
【0040】
アグロバクテリウム・ツメファシエンスの形質転換の実験操作も同様な操作であり、具体的には、以下の通りである。
【0041】
1)プラスミドDNA 1μg(pBI121-GENES2)を氷上で、上記で調製したアグロバクテリウム・ツメファシエンスのコンピテント細胞懸濁液100μLに加え、次に、液体窒素で速やかに凍結した。
【0042】
2)プラスミドDNAを含む上記アグロバクテリウム・ツメファシエンスコンピテント細胞を37℃の水浴鍋で5分間解凍した。
【0043】
3)抗生物質を含まないLB培養液1mLを加え、28℃のシェーカーにて、150回転/分で3時間振とう培養した。
【0044】
4)低速遠心分離により細胞を得た。
【0045】
5)細胞をLB寒天プレートに塗布し、プレートを28℃のインキュベーターに入れ、耐性遺伝子を含むコロニーを抗生物質でスクリーニングした。LBプレートには、10μg/mLリファンピシン、50μg/mLゲンタマイシン、及び50μg/mLカナマイシンが含まれている。
【0046】
6)2~3日後、コロニーの成長は認められた。
【0047】
実施例4 アグロバクテリウム媒介でbpsAを一過性導入した遺伝子組み換え青いバラの取得
1.上記形質転換されたアグロバクテリウム・ツメファシエンスGV3101コロニーを、抗生物質を含むLB培養液5mL(10μg/mLリファンピシン、50μg/mLゲンタマイシン、50μg/mLカナマイシン)に接種し、28℃、200回転/分で一晩振とう培養した。
【0048】
2.上記アグロバクテリウム・ツメファシエンス菌液1mLを同じ抗生物質を含むLB培養液100mLに移し、OD600が1.5となるまで28℃、200RPMで培養した。
【0049】
3.アグロバクテリウム・ツメファシエンス細胞を3000×gで10分間遠心分離して、上清を除去した後、10mM MgCl、10mM MES、pH5.6バッファー(陰性対照)、または上記と同じバッファーに150μg/mLアセトシリンゴンを添加したもの(陽性対照)を用いて、細胞密度OD600が0.5~1.0の範囲となるまで細胞を懸濁させ、遮光下、室温で3~5時間保管した。
【0050】
4.新鮮な白色バラのRosa hybridaの花の完全な枝付き切り花を取り、花の茎を滅菌水に浸した。
【0051】
5.組織の損傷を避けるように、花弁の脈を、花弁の裏面にマークした。
【0052】
6.1mLの使い捨て針シリンジを使用して、ステップ3でアセトシリンゴンを含む(陽性対照)と含まない(陰性対照)アグロバクテリウム・ツメファシエンス細胞懸濁液100~150μlを主脈から徐々に注入し、遮光下、22℃で12時間以上保管した。
【0053】
実験結果を図4に示し、矢印は一過性導入の位置を示し、点線の円は青いスポットの領域を示す。図4-1は、形質転換後の青い花弁を示している。図4-2の左側の花は、アセトシリンゴンを含まない同じ細胞密度のアグロバクテリウム・ツメファシエンスのコンピテント細胞であり、アグロバクテリウム・ツメファシエンス細胞は、注入した位置、及び花の脈を介して転送される場所の近くにあり、図4-2の右側の花は、アグロバクテリウム・ツメファシエンスから植物細胞への遺伝子の形質転換を刺激できるアセトシリンゴンの存在下で遺伝子組み換えを行うことで、花弁を青色に見えるようにするものである。
【0054】
実験結果から明らかなように、ストレプトミセスに由来するbpsA及び枯草菌に由来するSfp遺伝子は、アグロバクテリウム媒介で、バラの細胞に入り、対応する活性非リボソーム型ポリペプチド合成酵素を植物細胞内で発現させ、植物体内のグルタミンを利用してインジゴイジンを合成し、それにより、バラの花弁を青色に見えるようにする。
図1
図2
図3
図4
【配列表】
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