(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】電解液材料
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20221215BHJP
H01M 10/0568 20100101ALI20221215BHJP
H01M 10/0569 20100101ALI20221215BHJP
H01M 8/02 20160101ALI20221215BHJP
H01G 11/62 20130101ALI20221215BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20221215BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M10/0568
H01M10/0569
H01M8/02
H01G11/62
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2021119435
(22)【出願日】2021-07-20
(62)【分割の表示】P 2019021302の分割
【原出願日】2015-10-05
【審査請求日】2021-08-19
(31)【優先権主張番号】P 2014204815
(32)【優先日】2014-10-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2015118065
(32)【優先日】2015-06-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 康則
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 信平
(72)【発明者】
【氏名】岡島 正幸
(72)【発明者】
【氏名】小畠 貴之
(72)【発明者】
【氏名】勝山 裕大
【審査官】川口 陽己
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-084562(JP,A)
【文献】特表平08-511274(JP,A)
【文献】特開2014-201453(JP,A)
【文献】特開2013-211224(JP,A)
【文献】特開2009-054407(JP,A)
【文献】国際公開第2011/149095(WO,A1)
【文献】特開2013-197055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 6/16
H01G 9/20
H01G 11/60
H01G 11/62
G02F 1/15
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の溶媒
が粉体内部に取り込まれた下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と、第2の溶媒として電解液溶媒とを含む電解液材料であって、
前記第1の溶媒は、水、アルコール系溶媒、カルボン酸系溶媒、ケトン類、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、ニトロ基含有溶媒、含窒素有機溶媒、ジメチルスルホキシド、グライム系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、鎖状脂肪族炭化水素系溶媒、環状脂肪族炭化水素系溶媒、および芳香族エーテル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記第2の溶媒は、カーボネート系溶媒、鎖状エーテル系溶媒、および環状エステル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記電解液材料中に含まれる、前記フルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上、且つ前記第1の溶媒の合計残存量が200ppm以下であることを特徴とする電解液材料。
【化1】
(一般式(1)中、R
1は、フッ素又は炭素数1~6のフッ化アルキル基、R
2は、アルカリ金属イオンを表す)
【請求項2】
下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒とを含む電解液材料であって、
前記電解液溶媒は、カーボネート系溶媒、鎖状エーテル系溶媒、および環状エステル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種であり、
前記フルオロスルホニルイミド塩と前記電解液溶媒とを含む溶液が減圧及び/又は加熱されて、該フルオロスルホニルイミド塩の粉体内部に取り込まれている残留溶媒が揮発された前記電解液材料中に含まれる、前記フルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上、且つ前記残留溶媒の合計残存量が200ppm以下であることを特徴とする電解液材料。
【化2】
(一般式(1)中、R
1は、フッ素又は炭素数1~6のフッ化アルキル基、R
2は、アルカリ金属イオンを表す)
【請求項3】
前記残留溶媒は、水、アルコール系溶媒、カルボン酸系溶媒、ケトン類、ニトリル系溶媒、エステル系溶媒、脂肪族エーテル系溶媒、ハロゲン系溶媒、ニトロ基含有溶媒、含窒素有機溶媒、ジメチルスルホキシド、グライム系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、鎖状脂肪族炭化水素系溶媒、環状脂肪族炭化水素系溶媒、および芳香族エーテル系溶媒よりなる群から選択される少なくとも一種であることを特徴とする請求項2に記載の電解液材料。
【請求項4】
前記電解液溶媒において、環状カーボネート系溶媒又は環状エステル系溶媒を90質量%以上含む請求項1~3の何れか一項に記載の電解液材料。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の電解液材料を保存することを特徴とする電解液材料の保存方法。
【請求項6】
請求項1~4の何れか一項に記載の電解液材料を輸送することを特徴とする電解液材料の輸送方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニルイミド類、詳しくは、N-(フルオロスルホニル)-N-(フルオロアルキルスルホニル)イミド、ジ(フルオロスルホニル)イミドを含有する電解液材料、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N-(フルオロスルホニル)-N-(フルオロアルキルスルホニル)イミドや、ジ(フルオロスルホニル)イミド等のフルオロスルホニルイミド類やその誘導体は、N(SO2F)基又はN(SO2F)2基を有する化合物の中間体として有用であり、また、電解質や、燃料電池の電解液への添加物や、選択的求電子フッ素化剤、光酸発生剤、熱酸発生剤、近赤外線吸収色素等として使用されるなど、様々な用途において有用な化合物である。
しかし同時にフルオロスルホニルイミドはその突出した極性に由来し、不純物の除去が非常に困難な化合物でもある。
【0003】
特許文献1には、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩から反応溶媒を除去して粉体を得る製法が開示されているが、反応溶媒と親和性が高く溶媒の除去が困難であるという課題と、その課題を解決した溶媒留去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の製造方法では、フルオロスルホニルイミドのアルカリ金属塩中に、1000ppm程度の残留溶媒(特に、フルオロスルホニルイミドの製造に用いた溶媒)が残ってしまう。また、フルオロスルホニルイミド塩を一旦粉体化すると、残留溶媒(上記製造溶媒)が粉体内部に取り込まれ、その除去は単純に乾燥するだけでは困難である。たとえば、フルオロスルホニルイミド塩を、リチウム電池の電解質として用いる場合には、残存溶媒は、電池の膨れの原因となる虞がある。特にハロゲン系溶媒は、分解によりリチウム電池のアルミ集電体を腐食する虞があるため、長期の使用を想定する自動車用の電池に使用する電解液においては特に低減が望まれている。
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、電解液材料の特性に影響を与える残留溶媒を削減した電解液材料とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決した本発明の製造方法とは、下記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む電解液材料の製造方法であって、フルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む溶液を減圧及び/又は加熱して、フルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒を揮発させるところに特徴を有する。
【0007】
【0008】
なお、上記一般式(1)中、R1は、フッ素又は炭素数1~6のフッ化アルキル基、R2は、アルカリ金属イオンである。上記電解液溶媒は、環状カーボネート系溶媒又は環状エステル系溶媒であることが好ましい。
【0009】
本発明には、上記製造方法により得られた電解液材料に、さらに非水電解液調製用溶媒を混合することを特徴とする非水電解液の製造方法が含まれる。
【0010】
又、本発明には、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む電解液材料であって、電解液材料中に含まれるフルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上であり、電解液材料中のフルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒の残存量が3000ppm以下であることを特徴とする電解液材料も含まれる。
この場合、上記電解液溶媒において、環状カーボネート系溶媒又は環状エステル系溶媒を90質量%以上含むことが好ましい。
【0011】
本発明には、上記電解液材料から得られる非水電解液、この非水電解液を備えた蓄電デバイスも含まれる。
【0012】
又、本発明には、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含み、フルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上である電解液材料を保存することを特徴とする電解液材料の保存方法、および、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含み、フルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上である電解液材料を輸送することを特徴とする電解液材料の輸送方法も包含される。
【0013】
本発明では、一旦粉体化し、残留溶媒が粉体内部に取り込まれてしまったフルオロスルホニルイミド塩に対して、電解液溶媒を加え溶解し溶液とすることで、残留溶媒が揮発しやすい状態となり、また電解液溶媒はフルオロスルホニルイミド塩に対して、残留溶媒よりも親和性が高いため、減圧及び/又は加熱により残留溶媒を効率よく除去することができる。しかも得られた溶液はそのまま電解液材料として使用することができる。また本発明は粉体からの残留溶媒の除去に限らず、フルオロスルホニルイミド塩が残留溶媒に溶解している溶液に対しても、電解液溶媒を加えて減圧及び/又は加熱することで同様に残留溶媒を除去することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、電解液材料の特性に影響を与える残留溶媒を削減した、N-(フルオロスルホニル)-N-(フルオロアルキルスルホニル)イミド、ジ(フルオロスルホニル)イミドを含有する電解液材料が得られる。また電解液材料は液体であり、吸湿性の高いフルオロスルホニルイミド塩粉体を取扱うための設備が不要となるため生産コストが低減できる。さらに、本発明の電解液材料をそのまま、又は希釈するだけで、非水電解液を得ることができるため、作業性が向上し、安価且つ簡便に非水電解液を製造することができる。また予め液体の電解液材料を調製しておくことで、フルオロスルホニルイミド塩粉体を電解液用の溶媒と混合する際の発熱(溶解熱)を抑制できるという効果が発現する。さらに、本発明の電解液材料は、溶液状態で保存している際にHFの発生量が少ないというメリットも有する。
また、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩(以下、「フルオロスルホニルイミド塩(1)」ということがある)と環状カーボネート系溶媒または環状エステル系溶媒を主成分として含む電解液材料を用いることで、非水電解液の分解を生じるような温度上昇を抑制できると共に、非水電解液を調製する際に、フルオロスルホニルイミド塩(1)の添加速度の調整が不要となるため、生産性を向上できる。したがって、本発明法によれば、従来の製造方法と比べて短時間で良好な品質を有するフルオロスルホニルイミド塩含有非水電解液を製造できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、従来よりも良好な品質を有し、フルオロスルホニルイミド塩(1)を含有する非水電解液を効率よく製造する方法を提供すべく検討を重ねた結果、予め、フルオロスルホニルイミド塩(1)と環状カーボネート系溶媒または環状エステル系溶媒を主成分として含む電解液材料を、非水電解液の出発原料とすることで、その後の非水電解液の製造過程で、電解液材料に、電解液調製用溶媒や他の電解質塩を添加しても発熱による非水電解液の劣化を抑制して、良好な品質を維持しつつ、従来よりも短時間で非水電解液を製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】
まず、本発明に至った経緯について説明する。従来、非水電解液の製造には、エチレンカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど使用する電解液調製用溶媒を全て混合した溶媒溶液を予め調合し、これにフルオロスルホニルイミド塩(1)などの電解質塩を添加していた。溶媒溶液を調合する際、エチレンカーボネートは常温では固体であるため、エチレンカーボネートの融点を超える温度(通常は50℃超)に加熱処理してから他の電解液調製用溶媒と混合していた。そのためフルオロスルホニルイミド塩(1)を添加する際の溶媒溶液の温度が高くなっており、フルオロスルホニルイミド塩(1)を添加すると発熱反応によって液温が60℃以上に上昇してしまい、非水電解液が劣化していた。このような問題を解決する手段として従来は、フルオロスルホニルイミド塩(1)の添加速度を制御して温度上昇をコントロールする必要があったが、上記したように非水電解液の調製に時間がかかり、生産性が悪く、コスト増加要因となっていた。
【0017】
そこで本発明者らが非水電解液の製造工程について検討した結果、予め調合したフルオロスルホニルイミド塩(1)と環状カーボネート系溶媒又は環状エステル系溶媒を主成分として含む電解液材料を用いれば、非水電解液の製造過程で従来必要であった固体の環状カーボネート系溶媒又は環状エステル系溶媒の加熱処理が不要になること、また室温程度の電解液材料を出発原料として、これに所望の非水電解液調製用溶媒や電解質塩を添加すれば、これらの添加に伴って発熱反応が生じても、電解液の分解などが生じるような温度まで液温は上昇しないため、従来必要であった温度コントロールのための電解質塩の添加速度の制御が不要となり、短時間で非水電解液を調製できることを見出し、本発明に至っ
た。
【0018】
本発明における「フルオロスルホニルイミド」との文言には、フルオロスルホニル基を2つ有するジ(フルオロスルホニル)イミドの他、フルオロスルホニル基と、フッ化アルキル基を有するN-(フルオロスルホニル)-N-(フルオロアルキルスルホニル)イミドが含まれる。
【0019】
本発明の製造方法とは、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と溶媒を含む電解液材料の製造方法であって、フルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む溶液を減圧及び/又は加熱して、フルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒を揮発させる(以下、揮発工程ということがある)ところに特徴を有する。なお、フルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒とは、フルオロスルホニルイミド塩の製造に用いた溶媒であり、従来の製法で得られたフルオロスルホニルイミド塩に含まれている溶媒であり、残留溶媒と同義である。
【0020】
上記一般式(1)で表される化合物としては、R1は、フッ素又は炭素数1~6のフッ化アルキル基を有する化合物が挙げられる。上記フッ化アルキル基の炭素数は1~6であるのが好ましく、より好ましくは1~4である。具体的な炭素数1~6のフッ化アルキル基としては、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、2,2,2-トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基、ペルフルオロ-n-プロピル基、フルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、フルオロブチル基、3,3,4,4,4-ペンタフルオロブチル基、ペルフルオロ-n-ブチル基、ペルフルオロイソブチル基、ペルフルオロ-t-ブチル基、ペルフルオロ-sec-ブチル基、フルオロペンチル基、ペルフルオロペンチル基、ペルフルオロイソペンチル基、ペルフルオロ-t-ペンチル基、フルオロヘキシル基、ペルフルオロ-n-ヘキシル基、ペルフルオロイソヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、R1は、フッ素、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロ-n-プロピル基が好ましく、より好ましいのはフッ素、トリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基である。
【0021】
また、R2は上記化合物(1)を構成するカチオンであり、アルカリ金属イオンを表す。アルカリ金属元素としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムがあげられ、リチウム、ナトリウム、カリウムが好ましく、より好ましくはリチウムである。
【0022】
一般式(1)で表される具体的な化合物としては、リチウムジ(フルオロスルホニル)イミド、ナトリウムジ(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、ナトリウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド等が挙げられる。より好ましくはリチウムジ(フルオロスルホニル)イミド、リチウム(フルオロスルホニル)(トリフルオロメチルスルホニル)イミドである。
【0023】
本発明においては、上記化合物(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩を合成する方法は特に限定されず、従来公知の方法は全て採用することが出来る。例えば、国際公開第2011/149095号、特開2010-189372号公報、特表平8-511274号公報、国際公開第2012/108284号、国際公開第2012/117961号、国際公開第2012/118063号、特開2010-280586号公報、特開2010-254543号公報、特開2007-182410号公報、国際公開第2010/010613号等に記載の方法が挙げられる。
【0024】
本発明の上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む電解液材料の製造方法とは、フルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を混合した溶液を減圧及び/又は加熱して、フルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒を揮発させる工程、を含む点に特徴を有するものである。フルオロスルホニルイミド塩は、上述した通り、粉体(固体)として単離しても粉体内部に単離前に使用された溶媒(以後、残留溶媒又は製造溶媒という)を含んでいるが、このようなフルオロスルホニルイミド塩を電解液溶媒に溶解した溶液を減圧及び/又は加熱して、フルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒を揮発させることにより、当該製造溶媒の濃度を低減することが出来る。また、本発明の電解液材料の製造方法は、フルオロスルホニルイミド塩の製造や精製により得られた溶液(フルオロスルホニルイミド塩と溶媒を含む溶液)に電解液溶媒を添加してから減圧及び/又は加熱して、製造溶媒を揮発させてもよく、この方法によってフルオロスルホニルイミド塩を製造した後に、フルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含む電解液材料を製造することもできる。
電解液溶媒は上記化合物(1)に対して、残留溶媒よりも親和性が高く、沸点も高いため、減圧及び/又は加熱により残留溶媒を効率よく揮発・除去することができる。
【0025】
本発明における残留溶媒とは、上記化合物(1)の製造反応に使用した溶媒や、精製工程に用いた溶媒などである。残留溶媒と後述の電解液溶媒の親和性で分類すると、例えば、上記化合物(1)と親和性が中程度の溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;蟻酸、酢酸等のカルボン酸系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン類;イソブチロニトリル、アセトニトリル、バレロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、t-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等の脂肪族エーテル系溶媒;HF等のハロゲン系溶媒;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ基含有溶媒;エチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の含窒素有機溶媒;ジメチルスルホキシド;グライム系溶媒等が挙げられる。その中でも、アセトニトリル、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、シクロペンチルメチルエーテルが好ましい。上記化合物(1)と親和性が低い溶媒としては、トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、ベンゼン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、テトラリン、シメン、メチルエチルベンゼン、2-エチルトルエン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ドデカン、ウンデカン、トリデカン、デカリン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、イソパラフィン(例えば、「マルカゾールR」(丸善石油化学株式会社製の2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、2,2,4,4,6-ペンタメチルヘプタンの混合物)、「アイソパー(登録商標)G」(エクソンモービル製のC9-C11混合イソパラフィン)、「アイソパー(登録商標)E」(エクソンモービル製のC8-C10混合イソパラフィン)ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等の鎖状脂肪族炭化水素系溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、「スワクリーン150」(丸善石油化学株式会社製のC9アルキルシクロヘキサンの混合物)等の環状脂肪族炭化水素系溶媒;アニソール、2-メチルアニソール、3-メチルアニソール、4-メチルアニソール等の芳香族エーテル系溶媒、等が挙げられる。これらの溶媒は単独であってもよく、また2種以上を混合していてもよい。トルエン、o-キシレン、m-キシレン、p-キシレン、エチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、ヘキサン、ヘプタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタンが好ましい。
【0026】
本発明における電解液溶媒は、残留溶媒と比べて上記化合物(1)との親和性が高く、揮発工程に好適に使用することができ、電解液材料としてそのまま使用できる溶媒を使用することが出来る。このような電解液溶媒を用いることにより、効率よく残留溶媒を除去することができる。またさらに、本発明の電解液材料は、必要な溶媒や添加剤、電解質等を混合することにより、そのままリチウム二次電池の電解液として使用できる。使用する電解液溶媒は、電解液溶媒と上記化合物(1)の親和性、残留溶媒と上記一般式(1)の親和性、それぞれの溶媒の沸点などから適宜選択すればよい。例えば、上記化合物(1)と親和性が高い溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒;ジメトキシメタン、1,2-ジメトキシエタン等の鎖状エーテル系溶媒;テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,3-ジオキサン、4-メチル-1,3-ジオキソラン等の環状エーテル系溶媒;γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル系溶媒;スルホラン、3-メチルスルホラン等のスルホラン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルオキサゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。上記例示の溶媒の中でも、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のカーボネート系溶媒(特にエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート)や、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル系溶媒が好ましい。
【0027】
本発明の電解液材料の製造方法においては、揮発工程に用いる溶液は、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の粉体に、電解液溶媒を混合することで調製することが出来る。また、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩を溶媒中で製造、精製して得られた溶液に電解液溶媒を混合して、揮発工程を行ってもよい。
【0028】
本発明の電解液材料の製造方法において、揮発工程前に含まれる残留溶媒量は、下限については特に制限はないが、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩100gに対して、例えば、1000g以下が好ましく、より好ましくは100g以下、さらに好ましくは10g以下、最も好ましくは1g以下である。残留溶媒が多い場合には、電解液溶媒の使用量が増えたり、揮発に要する時間が増えたりするので望ましくない。溶液中でフルオロスルホニルイミド塩を製造、精製して得られた溶液を揮発工程に用いる場合は、揮発工程の前に(電解液溶媒を添加する前に)溶媒留去を行って、含有する残留溶媒量を低減させ、残留溶媒量を上記範囲とすることが好ましい。
【0029】
本発明の電解液材料の製造方法において、電解液溶媒の使用量は、下限については特に制限はなく、残留溶媒の量などにより適宜調整すればよい。例えば、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩100gに対して、10000g以下が好ましく、より好ましくは1000g以下、さらに好ましくは500g以下、さらに好ましくは200g以下、さらに好ましくは100g以下、最も好ましくは50g以下である。
本発明の電解液材料の製造方法において、電解液溶媒の使用量は、例えば、上記一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩100質量部に対して、1~1000質量部が好ましく、より好ましくは5~500質量部、さらに好ましくは10~300質量部、特に好ましくは30~200質量部、さらに特に好ましくは50~100質量部である。
【0030】
揮発工程は、一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を減圧及び/又は加熱する工程を含んでいればよく、常圧下、減圧下いずれでも行うことができる。熱によるフルオロスルホニルイミド塩の分解を防ぐ点からは、減圧下で行うのが望ましい。減圧度は残留溶媒の種類、電解液溶媒の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、例えば、200kPa以下とするのが好ましく、より好ましくは40kPa以下であり、さらに好ましくは15kPa以下であり、特に好ましくは5kPa以下である。
【0031】
揮発温度は、減圧度、残留溶媒の種類、電解液溶媒の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、熱によるフルオロスルホニルイミド塩の分解を防ぐ点からは比較的低い温度で行うのが望ましい。例えば、10~110℃が好ましく、より好ましくは15~80℃であり、さらに好ましくは20~60℃であり、特に好ましくは30~50℃である。
【0032】
揮発時間は、減圧度、加熱温度、残存溶媒の量などに応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、例えば、0.1~24時間が好ましく、より好ましくは0.5~12時間、さらに好ましくは1~8時間であり、特に好ましくは2~5時間である。
【0033】
揮発工程に用いる減圧及び/又は加熱が行える装置としては、溶液量、減圧度、加熱温度などに応じて適宜選択すればよい。例えば、槽型反応器、減圧可能な槽型反応器等が挙げられる。
【0034】
電解液材料中に含まれる一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度は、電解液溶媒の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、例えば、15~95質量%が好ましく、より好ましくは20~90質量%、さらに好ましくは30~90質量%である。電解液材料に有機溶媒を添加して非水電解液を製造する際に、非水電解液中の電解質塩濃度を適宜設定できるという面から、電解液材料中に含まれる一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度は、30質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。本発明の電解液材料は一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上であることにより、安定性が良く、保存や輸送に用いる容器の腐食の原因となるHF(フッ化水素酸)の発生が抑制されるため、一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の保存や輸送にも適している。
【0035】
本発明の電解液材料に含まれる電解液溶媒としては、上述した電解液溶媒を用いることができるが、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等の環状カーボネート又はγ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等の環状エステル系溶媒を含むことが好ましい。中でも、エチレンカーボネート又はγ-ブチロラクトンを含むことが好ましく、特に好ましくはエチレンカーボネートである。上記の環状カーボネート又は環状エステル系溶媒を電解液溶媒の合計量に対して90質量%以上含むことが好ましく、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上含むことである。
【0036】
電解液材料中の残留溶媒量は、電解液材料の濃度残留溶媒の種類に応じて適宜調整すればよく特に限定はされないが、例えば、3000ppm以下が好ましく、より好ましくは2000ppm以下、さらに好ましくは1000ppm以下、特に好ましくは500ppm以下、最も好ましくは200ppm以下である。電解液中に含まれるフルオロスルホニルイミド塩の製造溶媒の残留量が上記範囲であることにより、得られる非水電解液中の溶媒量を抑制することができるため、当該非水電解液を用いた電池においては、駆動時の副反応が抑制され、電池の膨れが抑制できる。
【0037】
揮発工程終了後は、必要に応じて、ろ過、カラム精製、活性炭処理、モレキュラーシーブ処理などを実施しても良い。
【0038】
本発明の製造方法により得られる電解液材料は、一次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の蓄電デバイス(電気化学デバイス)を構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。
【0039】
本発明には、上記電解液材料を用いて得られる非水電解液、上記電解液材料を用いた非水電解液の製造方法も含まれる。上記電解液材料に必要に応じて非水電解液調製用溶媒を混合することにより、非水電解液を得ることができる。非水電解液には電池特性向上を目的として各種電解質、添加剤等を添加することがあり、電解質等の溶解に適した溶媒を電解液材料に添加してもよく、本発明では電解液材料に所望の溶媒を添加することにより、非水電解液を調製することができる。
したがって電解液調製用溶媒としては、電解液溶媒と相溶し、所望の電解質塩を溶解、分散させられるものであれば特に限定されない。また本発明では非水系溶媒、溶媒に代えて用いられるポリマー、ポリマーゲル等の媒体等、電池に用いられる従来公知の溶媒はいずれも使用できる。なお、電解液材料には電解液溶媒が含まれているが、必要に応じて電解液材料に更に電解液溶媒と同種の溶媒を添加してもよく、上述した電解液溶媒はいずれも用いることができる。電解液調製用溶媒は液体、固体のいずれでもよいが、効率的に混合するためには液体が好ましい。また電解液調製用溶媒の温度も特に限定されず、室温でよいが必要に応じて適宜温度を調整してもよい。
【0040】
電解液調製用溶媒の中でも、鎖状炭酸エステル類、環状炭酸エステル類等の炭酸エステル類(カーボネート系溶媒)、ラクトン類、エーテル類が好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン等がより好ましく、炭酸ジメチル、炭酸エチルメチル、炭酸ジエチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒がさらに好ましい。上記溶媒は1種を単独で用いてもよく、また、2種以上を組み合わ
せて用いてもよい。
【0041】
本発明ではさらに必要に応じて電解液材料にフルオロスルホニルイミド塩(1)とは異なる電解質塩(以下、「他の電解質塩」ということがある)を混合してもよい。他の電解質塩は上記電解質調製用溶媒を添加する前の電解液材料に添加してもよいが、他の電解質塩の溶解効率を考慮すると上記電解質調製用溶媒を電解液材料に添加した後に、他の電解質塩を添加することが望ましい。例えば添加する他の電解質塩がLiPF6などのようにエチレンカーボネートに難溶性の場合、該電解質塩の溶解に適した溶媒を上記電解質調製用溶媒として電解液材料に添加した後、該電解質塩を添加することが望ましい。
【0042】
他の電解質塩としては、特に限定されず、リチウムイオン二次電池の電解液において用いられている従来公知の電解質はいずれも使用できる。例えば他の電解質塩としては、トリフルオロメタンスルホン酸イオン(CF3SO3
-)、フルオロリン酸イオン(PF6
-)、過塩素酸イオン(ClO4
-)、テトラフルオロ硼酸イオン(BF4
-)、ヘキサフルオロ砒酸イオン(AsF6
-)、テトラシアノホウ酸イオン([B(CN)4]-)、テトラクロロアルミニウムイオン(AlCl4
-)、トリシアノメチドイオン(C[(CN)3]-)、ジシアナミドイオン(N[(CN)2]-)、トリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチドイオン(C[(CF3SO2)3]-)、ヘキサフルオロアンチモン酸イオン(SbF6
-)およびジシアノトリアゾレートイオン(DCTA)等をアニオンとする無機又は有機カチオン塩等の従来公知の電解質塩が使用できる。より具体的には、LiPF6、LiPF3(C2F5)3、LiBF4、LiBF(CF3)3が挙げられ、好ましくはLiPF6、LiBF4であり、さらに好ましくはLiPF6である。本発明の電解液材料に、電解液調製用溶媒、他の電解質塩を混合して非水電解液を製造することにより、電解質塩を混合する際の発熱を抑制できるため、非水電解液の分解を抑制し、良好な品質の電解液を得ることができる。
【0043】
本発明に係る非水電解液は、リチウムイオン二次電池の各種特性の向上を目的とする添加剤を含んでいてもよい。添加剤は非水電解液の製造過程の任意の段階で加えればよく、特に限定されず、例えば上記電解質塩の添加後に加えればよい。
【0044】
本発明には、本発明の電解液材料の保存方法、輸送方法も包含される。本発明の電解液材料は、一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩と電解液溶媒を含み、一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%以上であることにより、安定性が良く、保存や輸送に用いる容器の腐食の原因となるHF(フッ化水素酸)の発生が抑制されるため、一般式(1)で示されるフルオロスルホニルイミド塩の保存や輸送にも適している。電解液材料中の一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度は、35質量%が好ましく、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。当該濃度の上限としては、95質量%以下が好ましく、より好ましくは90質量%以下である。電解液材料中の一般式(1)で表されるフルオロスルホニルイミド塩の濃度が30質量%未満である場合は、フルオロスルホニルイミド塩の分解によりHF等の酸が発生し、容器を腐食したり、電解液材料が劣化するおそれがある。
【0045】
本発明の電解液材料の保存、輸送に用いる容器としては、容器のサイズや材質などの形態は特に制限されず、従来公知の知見が適宜参照されうる。実験室レベルで合成された少量の電解液材料を保存するためには、小さい保存用容器を用いればよい。また、工業レベルで合成された大量の電解液材料を保存するためには、大きい保存用容器を用いればよい。
【0046】
保存用容器の材質については、例えば、ステンレス鋼、ハステロイなどの金属材料、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素系樹脂等が採用されうる。なかでも、耐圧圧力が高いという観点からは、容器はステンレス鋼から構成されることが好ましい。また、保存用容器の耐蝕性をより一層向上させる目的で、上記の金属等の材料から構成される容器の内面を樹脂でコーティングするとよい。この際、コーティングに用いられる樹脂は特に制限されないが、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)などのフッ素系樹脂やポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂が例示される。なかでも、耐蝕性の向上効果が優れるという観点からは、PTFEを用いてコーティングすることが好ましい。ここで、樹脂コーティングのコーティング厚さについては特に制限はないが、好ましくは10~3000μmであり、より好ましくは500~1000μmである。さらに、保存用容器は密封可能であることが好ましく、容器を密封可能とする手段としては、例えば、容器の一部にバルブを設ける形態が例示される。
【0047】
本願は、2014年10月3日に出願された日本国特許出願第2014-204815号および2015年6月11日に出願された日本国特許出願第2015-118065号に基づく優先権の利益を主張するものである。2014年10月3日に出願された日本国特許出願第2014-204815号および2015年6月11日に出願された日本国特許出願第2015-118065号の明細書の全内容が、本願に参考のため援用される。
【実施例】
【0048】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0049】
[残留溶媒量]
電解液材料0.05gにジメチルスルホキシド水溶液(ジメチルスルホキシド/超純水=20/80、体積比)200μl、20質量%塩化ナトリウム水溶液2mlを加えて測定溶液とし、これをバイアル瓶に入れ密閉し、ヘッドスペース-ガスクロマトグラフィーシステム(「Agilent6890」、Agilent社製)により、電解液材料に含まれる残留溶媒量を測定した。
装置:Agilent6890
カラム:HP-5(長さ:30m、カラム内径:0.32mm、膜厚:0.25μm)(Agilent社製)
カラム温度条件:60℃(2分保持)、30℃/分で300℃まで昇温、300℃(2分保持)
ヘッドスペース条件:80℃(30分保持)
インジェクター温度:250℃
検出器:FID(300℃)
【0050】
製造例1 リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の製造
撹拌装置、冷却器を備えた容量500mLのPFA製反応容器に、酢酸ブチル120gを加え、ここにジ(クロロスルホニル)イミド16.1g(75mmol)を加え攪拌して溶解させた。得られたジ(クロロスルホニル)イミド溶液に、塩化アンモニウム4.45g(82.5mmol)を加え、80℃で1時間攪拌した。ジ(クロロスルホニル)イミド溶液に酸性フッ化アンモニウムNH4F・HFを20.53g(360mmol)加え、80℃で4時間攪拌を続けた。
反応終了後、反応溶液を室温まで冷却した後、固形分を濾過により除去した。ろ液を、分液ロートに移し、そこへ水酸化リチウム・一水和物3.15g(75mmol)を超純水21gに溶解した水溶液を加え、混合した。静置したのち、水層を除去した。再び水酸化リチウム・一水和物1.57g(37mmol)を超純水11gに溶解した水溶液を加え、混合した。静置したのち、水層を除去した。
有機層に、リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド10gを含んだ溶液128gが得られた。得られた溶液を50℃、1.5kPaで1時間加熱して酢酸ブチルを揮発させ、リチウム ジ(フルオロスルホニル)10g、酢酸ブチル20gからなる溶液30gを得た。19F-NMR(溶媒:重アセトニトリル)測定において、内部標準物質として加えたトリフルオロメチルベンゼンの量、及び、これに由来するピークの積分値と、目的生成物に由来するピークの積分値との比較から、有機層に含まれるリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドの量を求めた。
【0051】
実施例1
50mlナスフラスコに、別途調製した、酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有するリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体4.99gにジエチルカーボネート7.56gを加えて溶解した。溶液を25℃、1kPaで3時間減圧して溶媒を揮発させた。電解液材料として、リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドのジエチルカーボネート溶液11.64gを得た。得られた溶液は、酢酸ブチルを83ppm含有していたが、ジクロロメタンは確認されなかった。リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドと親和性が低いジクロロメタンは揮発工程により削減できた。
【0052】
実施例2
25mlナスフラスコに、酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有するリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体3.23gにエチレンカーボネート(EC)4.76gを加えて溶解した。溶液を25℃、1kPaで3時間減圧して溶媒を揮発させた。電解液材料として、リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドのエチレンカーボネート溶液7.83gを得た。得られた溶液は、酢酸ブチルを85ppm、ジクロロメタンを40ppm含有することを確認した。
【0053】
実施例3
100mlナスフラスコに、リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド10gが酢酸ブチル20gに溶解した溶液とエチレンカーボネート20gを加えた。溶液を60℃、1.5kPaで8時間、加熱および減圧して溶媒を揮発させた。電解液材料としてリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドのエチレンカーボネート溶液28gを得た。得られた溶液は、酢酸ブチルを60ppm含有することを確認した。リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドと親和性が中程度の酢酸ブチルは揮発工程により削減できた。
【0054】
実施例4-1~7-5
ジ(フルオロスルホニル)イミド溶液に含まれる溶媒、電解液溶媒、溶液温度、減圧度、加熱時間を表1~4の通りとした以外は実施例3と同じようにしてジ(フルオロスルホニル)イミドを含む電解液材料を得た。得られた溶液の残留溶媒量を表に示す。
【0055】
実施例8-1~8-3
製造例1で得られたリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド10g、酢酸ブチル20gからなる溶液を用い、溶液温度、減圧度、加熱時間を表5のとおりとした以外は実施例3と同じようにしてジ(フルオロスルホニル)イミドを含む電解液材料を得た。得られた溶液の残留溶媒量を表に示す。
【0056】
実施例9-1~13-5
ジ(フルオロスルホニル)イミド溶液に含まれる溶媒、電解液溶媒、溶液温度、減圧度、加熱時間を表6~10のとおりとした以外は実施例3と同じようにしてジ(フルオロスルホニル)イミドを含む電解液材料を得た。得られた溶液の残留溶媒量を表に示す。
【0057】
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
比較例1
真空乾燥器で、酢酸ブチル208ppm、ジクロロメタン4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5gをシャーレに広げ、60℃、1kPaで12時間乾燥したが残留溶媒量は減少しなかった。
【0068】
比較例2
酢酸ブチル208ppm、ジクロロメタン4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5gを乳鉢で粉砕した。それをシャーレに広げ、真空乾燥器で、60℃、1kPa、12時間乾燥したが残留溶媒量は減少しなかった。
【0069】
実施例15-1
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5.00gを入れ、EC5.10gを加えて溶解した。溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI5.00gとEC5.00gからなる電解液材料が得られた。
調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが55ppm、ジクロロメタンが5ppm、水分は20ppm、HFは4ppmであった。この電解液材料をステンレス鋼製の容器で、60℃で30日保存した。保存後の電解液材料中のHFは8ppmであった。
保存中にHFは4ppm発生したことになり、これをリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)の質量当たりに換算すると、8ppm/LiFSI-kgとなった。
なお、HFの定量は、Metrohm社製の自動滴定装置を用いて行った。具体的には、非水用ソルボトロード電極を用い、0.01N水酸化ナトリウム/メタノール溶液で、中和滴定を行い、発生した酸をHFとして換算した。
【0070】
実施例15-2
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5.00gを入れ、EC1.98gを加えて溶解した。この溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI5.00gとEC1.78gからなる溶液が得られた。この溶液にエチルメチルカーボネート(EMC)3.22g加え電解液材料を得た。調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが45ppm、ジクロロメタンが6ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0071】
実施例15-3
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5.00gを入れ、EC4.50gを加えて溶解した。この溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI5.00gとEC4.40gからなる溶液が得られた。この溶液にEMCを0.6g加え電解液材料を得た。調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが43ppm、ジクロロメタンが5ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0072】
実施例15-4
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体5.00gを入れ、γ-ブチロラクトン(GBL)を5.20g加えて溶解した。この溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI5.00gとGBL5.00gからなる電解液材料を得た。調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが85ppm、ジクロロメタンが9ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0073】
実施例15-5
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体6.20gを入れ、ECを4.00g加えて溶解した。この溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI6.20gとEC3.80gからなる電解液材料を得た。調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが78ppm、ジクロロメタンが7ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0074】
実施例15-6
50mlのナスフラスコに、残留溶媒の酢酸ブチルを208ppm、ジクロロメタンを4621ppm含有したリチウム ジ(フルオロスルホニル)イミド粉体6.20gを入れ、ECを1.50g加えて溶解した。この溶液を60℃、1kPaで3時間加熱して、溶媒を揮発させた。LiFSI6.20gとEC1.35gからなる溶液を得た。この溶液にEMC2.45g加え、電解液材料を得た。調製直後の電解液材料の残存溶媒量は、酢酸ブチルが95ppm、ジクロロメタンが10ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0075】
参考例1
実施例15-1と同様にして、LiFSI5.00gとEC5.00gからなる溶液を得た。この溶液にさらにECを加え、LiFSIが10.2質量%のEC溶液を得た。この溶液の残存溶媒量は、酢酸ブチルが13ppm、ジクロロメタンが2ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0076】
参考例2
実施例15-2と同様にして、LiFSI5.00gとEC1.78g、EMC3.22gからなる溶液を得た。この溶液にさらにEC13.88g、EMC25.12gを加え、LiFSIが10.2質量%の溶液を得た。この溶液の残存溶媒量は、酢酸ブチルが14ppm、ジクロロメタンが1ppmであった。後は、実施例15-1と同様にして、保存前後のHF量等を測定した。
【0077】
【0078】
表11に示したとおり、電解液材料中のLiFSI濃度が50質量%以上である実施例15-1~15-6と比較すると、参考例では、電解液材料中のLiFSI濃度が10.2質量%であるが、保存中のHFの発生量が顕著であることがわかる。このことから、LiFSIを所定量以上有する本発明の電解液材料は保存中のHFの発生を抑制する作用があることが確認できた。
【0079】
実施例A-1
実施例2において、エチレンカーボネートの使用量を4.60gとしたこと以外は、実施例2と同様にして、電解液材料を得た。得られた電解液材料に、LiPF62.62gと、EC5.69gと、エチルメチルカーボネート(EMC)18.40gを追加し、リチウム ジ(フルオロスルホニル)イミドが9.3質量%(0.6M)、LiPF6が67.5質量%(0.6M)のEC/EMC=3/7(体積比)混合溶媒の非水電解液を得た。この非水電解液の残留溶媒量は、酢酸ブチル8ppm、ジクロロメタン4ppmであった。
【0080】
実施例A-2
実施例A-1において、残留溶媒を揮発させる条件を25℃、40kPaで3時間とした以外は実施例A-1と同様にして、電解液材料を得た。このときの残留溶媒量は、酢酸ブチル96ppm、ジクロロメタン308ppmであった。得られた電解液材料に、実施例A-1と同量のLiPF6と、ECおよびEMCを追加し、LiFSI9.3質量%(0.6M)、LiPF6が67.5質量%(0.6M)のEC/EMC=3/7(体積比)混合溶媒の非水電解液を得た。この非水電解液の残留溶媒量は、酢酸ブチル9ppm、ジクロロメタン29ppmであった。
【0081】
実施例A-3
実施例A-1において、残留溶媒を揮発させる条件を25℃、100kPaで3時間とした以外は実施例A-1と同様にして、電解液材料を得た。このときの残留溶媒量は、酢酸ブチル150ppm、ジクロロメタン1280ppmであった。得られた電解液材料に、実施例A-1と同量のLiPF6と、ECおよびEMCを追加し、LiFSI9.3質量%(0.6M)、LiPF6が67.5質量%(0.6M)のEC/EMC=3/7(体積比)混合溶媒の非水電解液を得た。この非水電解液の残留溶媒量は、酢酸ブチル19ppm、ジクロロメタン119ppmであった。
【0082】
比較例A-1
実施例A-1において、残留溶媒を揮発させる操作を行わなかった以外は実施例A-1と同様にして、電解液材料を得た。このときの残留溶媒量は、酢酸ブチル208ppm、ジクロロメタン4621ppmであった。得られた電解液材料に、実施例A-1と同量のLiPF6と、ECおよびEMCを追加し、LiFSI9.3質量%(0.6M)、LiPF6が67.5質量%(0.6M)のEC/EMC=3/7(体積比)混合溶媒の非水電解液を得た。この非水電解液の残留溶媒量は、酢酸ブチル17ppm、ジクロロメタン430ppmであった。
表12に示したとおり、実施例A-1~A-3では、60℃で1ヶ月保存した際の電池の体積膨張は0.03~0.06ml程度であったが、比較例A-1では0.21mlという結果であった。残存溶媒量の低減された電解液材料を用いた非水電解液を備えた電池においては、電池を充放電する際の電池の膨れが抑制できることが確認できた。
【0083】
ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製
1.正極シートの作製
正極活物質(LiCoO2)、導電助剤1(アセチレンブラック、AB)、導電助剤2(グラファイト)、及び結着剤(ポリフッ化ビニリデン、PVdF)を92:2:2:4の質量比で混合し、これをN-メチルピロリドンに分散させた正極合剤スラリーをアルミニウム箔に塗布し、乾燥、圧縮することにより正極シートを作製した。
【0084】
2.負極シートの作製
負極活物質(グラファイト)、導電助剤(VGCF)、及び結着剤(SBR+CMC)を97:0.5:2.5の質量比で混合し、これをN-メチルピロリドンと混合して得られた負極合剤スラリーを作製した。4.2V充電での正極の充電容量を計算し、負極のリチウムイオン吸蔵可能容量/正極充電容量=1.1となるように負極合剤スラリーを銅箔(負極集電体)に塗布し、乾燥、圧縮することにより負極シートを作製した。
【0085】
3.ラミネート型リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製した正極シート1枚と負極シート1枚それぞれの未塗工部分にアルミタブ、ニッケルタブを溶接し、ポリエチレン製セパレーターを挟んで対向させ、巻回機にて巻き取り、巻回体を作製した。作製した巻回体を適正な深さに絞り加工済みのアルミニウムラミネートフィルムと未処理のアルミニウムラミネートフィルムで挟み込み、アルミニウムラミネートフィルム内をそれぞれ上記実施例A-1~A-3と比較例A-1で作製した混合溶媒電解液で満たし、真空状態で密閉し、容量1Ahのラミネート型リチウムイオン二次電池を作製した。
【0086】
4.電池評価
比容量(mAh/g)
ラミネート型リチウムイオン二次電池について、温度25℃の環境下、充放電試験装置(株式会社アスカ電子製ACD-01、以下同じ。)を使用し、所定の充電条件(0.5C、4.2V、定電流定電圧モード)で5時間充電を行った。その後、所定の放電条件(0.2C、放電終止電圧3.0V、定電流放電)で放電を行い、初回の放電容量を記録し、下記式に基づいて電池の質量比容量を算出し、初期放電特性を評価した。
質量比容量(mAh/g)=電池の初回の充電容量(mAh)/正極活物質質量(g)
【0087】
5.高温保存特性
上記比容量を測定した後、ラミネート型リチウムイオン二次電池について、温度25℃の環境下、充放電試験装置を使用し、所定の充電条件(1C、4.2V又、定電流定電圧モード0.02Cカット)で充電した後、所定の放電条件(0.2C、放電終止電圧3.0V、定電流放電)で放電を行いその後、再び、所定の充電条件(1C、4.2V、定電流定電圧モード0.02Cカット)で充電を行った。得られたセルを60℃の恒温槽に1か月間保存した。保存前後のセルをそれぞれ水に浸漬させて体積を求め、その差分により保存後のセルの膨れ量を得た。結果を表12に示した。
【0088】
【0089】
実施例B-1
表13に示す投入順序で各材料を混合釜に投入して非水電解液を製造した。表中、投入順序が1であるLiFSIとECは、予めLiFSI11.22kgと、EC36.36kgとを混合して準備した電解液材料として使用した。電解液材料を混合釜(容量150L)に投入した後、電解液調製用溶媒としてEMC27.82kg、ジエチルカーボネート(以下、「DEC」ということがある)35.81kg、他の電解質塩としてLiPF6(キシダ化学株式会社製)9.12kgを混合釜に順次投入した後、10分間撹拌を行って非水電解液を得た。なお、電解液材料、各電解液調製用溶媒、他の電解質塩の投入には夫々10分要した。また表中、「所要時間」は投入開始から投入終了までの時間であり、投入は撹拌しながら行った。各材料を混合釜に投入した後の液温を測定して表1に記載した。他の実施例も同様に温度を測定した。
【0090】
【0091】
表13に示すように非水電解液の製造過程で混合釜内の液温を測定したが、60℃以上の温度になることはなかった。具体的には電解液材料に電解液調製用溶媒(EMC、DEC)を投入した際に発熱はなかった。またLiPF6を投入した後の液温は45℃まで上昇したが、電解液の分解は生じなかった。
【0092】
実施例B-2
表14に示す投入順序で各材料を混合釜に投入して非水電解液を製造した。具体的にはLiFSI11.22kgと、EC20.0kgとを混合して準備した電解液材料を混合釜(容量150L)に投入した後、電解液調製用溶媒としてEMC27.82kg、DEC35.81kgを投入した。その後、混合釜に電解液調製用溶媒として60℃に加熱したEC16.36kgを投入し、続いて他の電解質塩としてLiPF69.12kgを投入した後、10分間撹拌を行って非水電解液を得た。なお、電解液材料、各電解液調製用溶媒、他の電解質塩の投入には夫々10分要した。
【0093】
【0094】
非水電解液の製造過程で混合釜内の液温を測定したが、60℃以上の温度になることはなかった。具体的には電解液材料に電解液調製用溶媒(EMC、DEC)を投入した際に発熱はなかった。また60℃に加熱したECを投入した後の液温は30℃、LiPF6を投入した後の液温は50℃まで上昇したが、電解液の分解は生じなかった。
【0095】
比較例B-1
表15に示す投入順序で各材料を混合釜に投入して非水電解液を製造した。具体的には60℃に加熱したEC溶液36.36kgを混合釜に投入した後、EMC27.82kg、DEC35.81kgを投入して非水溶媒溶液を調製した。続いてLiFSIを投入したが、液温が55℃を超えないようにLiFSI11.22kgを3回(3.74kg/回)に分けて投入した。続いてLiPF69.12kgを3回(3.04kg/回)に分けて投入した。投入後10分間撹拌を行って非水電解液を得た。各電解液調製用溶媒、LiFSI、及びLiPF6の投入所要時間は、夫々10分であった。なお、LiFSI、及びLiPF6の投入所要時間は、合計時間(1回10分×3回)である。
【0096】
【0097】
非水電解液の製造過程で混合釜内の液温を測定したが、60℃以上の温度になることはなかった。具体的にはEC溶液に電解液調製用溶媒(EMC、DEC)を投入した際に発熱はなく、非水溶媒溶液を調整した後の液温は40℃であった(投入順序3)。その後LiFSI、LiPF6を分割投入したため、温度上昇が抑制されて非水電解液の分解は生じなかった。しかしながらLiFSI、LiPF6の添加に時間がかかり、生産性が悪かった。
【0098】
比較例B-2
表16に示す投入順序で各材料を混合釜に投入して非水電解液を製造した。具体的には比較例1と同様にして非水溶媒溶液(40℃)を調製した後、LiFSI11.22kgを投入した。続いてLiPF69.12kgを投入した。投入後10分間撹拌を行って非水電解液を得た。各電解液調製用溶媒、LiFSI、及びLiPF6の投入所要時間は、夫々10分であった。
【0099】
【0100】
LiFSI投入後の液温は55℃、LiPF6投入後の液温は75℃まで上昇した。得られた非水電解液は薄橙色に着色されており、電解液の分解が生じていた。
【0101】
上記実施例B-1、B-2、比較例B-1、B-2の結果から次のことがわかる。実施例B-1、B-2に示すようにフルオロスルホニルイミド塩(1)とエチレンカーボネートとを予め調合して容易した電解液材料を出発原料とし、これに電解液調製用溶媒や他の電解質塩を添加して発熱が生じても液温は低く抑えられていた。そのため非水電解液の分解を防止でき、良好な品質の非水電解液が得られた。また非水電解液の調製に要する時間も50~60分であり、比較例B-1と比べると製造効率に優れていた。
【0102】
一方、比較例B-1では非水電解液が分解しないように温度をコントロールするため、LiFSIやLiPF6を分割投入した。その結果、温度上昇は抑制できたが、非水電解液の調製に要する時間が長くなり(120分)、上記実施例B-1や実施例B-2と比べると製造効率が悪かった。
【0103】
また比較例B-2では非水溶媒溶液を調製した後、LiFSIやLiPF6を分割せずに一度に投入した。その結果、非水電解液の調製に要する時間は短縮できるが、温度上昇を抑制できなかったため、非水電解液が分解されて着色が生じた。
【0104】
以上の結果から、フルオロスルホニルイミド塩(1)と、環状カーボネート系溶媒または環状エステル系溶媒とを主成分として含む本発明の電解液材料を用いることで、製造過程での温度上昇が適切にコントロールされて非水電解液の分解抑制効果が得られると共に、従来よりも短時間で効率的に非水電解液を調製できることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0105】
本発明の製造方法により得られる電解液材料は、一次電池、リチウムイオン二次電池、燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池、エレクトロクロミック表示素子等の蓄電デバイス(電気化学デバイス)を構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。