(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】直動案内ユニット
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
F16C29/06
(21)【出願番号】P 2021157828
(22)【出願日】2021-09-28
(62)【分割の表示】P 2016209244の分割
【原出願日】2016-10-26
【審査請求日】2021-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000229335
【氏名又は名称】日本トムソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136098
【氏名又は名称】北野 修平
(74)【代理人】
【識別番号】100137246
【氏名又は名称】田中 勝也
(74)【代理人】
【識別番号】100158861
【氏名又は名称】南部 史
(74)【代理人】
【識別番号】100194674
【氏名又は名称】青木 覚史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝晴
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第103851078(CN,A)
【文献】特開平11-264414(JP,A)
【文献】登録実用新案第3042795(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 29/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長手方向に沿って第1軌道溝が形成された軌道レール,及び前記軌道レールの前記第1軌道溝に対向する第2軌道溝を備え且つ前記軌道レールに対して複数の転動体を介して相対摺動するスライダを有し,
前記スライダは,
前記第2軌道溝に沿って延びるリターン路と前記第2軌道溝が形成されたケーシング,及び前記ケーシングの両端面にそれぞれ配設され且つ前記第1軌道溝と前記第2軌道溝とで構成される負荷軌道路と前記リターン路とを連通して前記転動体の循環路を形成する円弧状の方向転換路が形成されたエンドキャップを有することから成る直動案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップには,前記方向転換路の内周面から前記第2軌道溝の前記ケーシング側に突出しかつ前記内周面と連続する壁面を備え、且つ
前記方向転換路から前記第2軌道溝に転走する前記転動体の衝突受け面となる延在部が形成され,
前記ケーシングの前記第2軌道溝の端部には,前記延在部が嵌合配設される段部でなる収容凹部が形成され,
前記ケーシングの前記第2軌道溝の前記端部軌道面には,前記転動体が前記負荷軌道路に滑らかに出入り可能になる前記方向転換路に向かって緩やかに変化する曲面形状のクラウニング部が形成され,
前記クラウニング部の長さLと前記延在部の長さL
1は、L>L
1の関係にあり
、
前記延在部の長さL
1
は、前記転動体の直径の半分の長さを超え、
前記延在部の前記壁面と前記第2軌道溝の端部軌道面とは連続する同一面をなすように接続されていることを特徴とする直動案内ユニット。
【請求項2】
前記転動体はボールであり、
前記クラウニング部の長さLと前記ボール径Daは、1.5Da<L<2.5Daの関係であることを特徴とする請求項1に記載の直動案内ユニット。
【請求項3】
前記エンドキャップは,前記軌道レールの前記第1軌道溝上に位置するすくい爪と前記方向転換路の外周面を形成するエンドキャップ本体,及び前記エンドキャップ本体に形成されたケーシング側端面に形成された凹部に嵌合配設され且つ前記方向転換路の前記内周面を形成すると共に前記延在部を備えているスペーサから構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の直動案内ユニット。
【請求項4】
前記ケーシングの前記端面には前記ケーシングに対して前記スペーサを位置決めするための位置決め穴が形成されており,前記スペーサには前記位置決め穴に嵌入する位置決め突起が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の直動案内ユニット。
【請求項5】
前記第2軌道溝に配設された前記スペーサの前記延在部と前記ケーシングの前記第2軌道溝とは,同時研削加工されて前記第2軌道溝と前記延在部の前記壁面とが前記連続する面に形成されていることを特徴とする請求項3または請求項4に記載の直動案内ユニット。
【請求項6】
前記延在部の前記壁面は,前記第2軌道溝の前記端部軌道面から前記方向転換路の前記内周面へと前記延在部が延びる方向に垂直な断面が半円形の湾曲状に形成されていることを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【請求項7】
前記延在部の長さは,前記ケーシングの前記リターン路の端部に嵌入する前記エンドキャップの背面から突出して形成された接続管の長さと同一長さに形成されていることを特徴とする請求項1~6のいずれか1項に記載の直動案内ユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は,軌道溝を備えた軌道レール及び該軌道レール上を転動体を介して相対移動するスライダから成る直動案内ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来,直動案内ユニットは,スライダを構成するケーシングの軌道溝によって形成される負荷軌道路へ転動体を滑らかに出入りさせるため,負荷軌道路の入口部になるケーシングの軌道溝の両端部になだらかに傾斜させたクラウニング部が形成されている。従来の直動案内ユニットにおいて,例えば,負荷軌道路での転動体の接触位置である垂直断面で見て,負荷軌道路の両端部の入口部と,該入口部に続き実質負荷部分である負荷軌道路とし,ケーシングが負荷軌道路になる軌道溝が形成されたケーシング,ケーシングの両端に配設され方向転換路が形成されたエンドキャップを有している。クラウニング部は,ケーシングの軌道溝の両端部になだらかな傾斜面に形成されている。また,負荷軌道路から方向転換路又は方向転換路から負荷軌道路へのケーシングの接続部において,クラウニング部から方向転換路の内周部へのケーシングの端面に直線状の面取り部,言い換えれば,クラウニング部の先端部に面取り部が施されていた。
【0003】
また,案内装置として,スライダの高速運動を達成するため転動体が無負荷領域から負荷領域の引っ掛かりを除去し,スライダと軌道レールとが高速で相対運動する場合に摺動抵抗及び騒音の低減を可能にしたものが知られている。該案内装置は,負荷領域の両端に負荷転走溝に対してクラウニング領域が設けられ,負荷転走溝と転走溝との距離が方向転換路に近づくにつれて除々に広がるように設定され,負荷転走面の縁部が方向転換路の内径側の側壁面に対して低くなるような段部に形成され,案内部の成形誤差や負荷転走溝の形成誤差が存在する場合であっても,負荷転走溝が方向転換路の側壁面よりも軌道レール側に突出するのを防止しており,段部の大きさは,ボール直径に対して5%程度になっている(例えば,特許文献1参照)。
【0004】
また,直動装置として,ボール循環路を構成する各ボール通路同士の連接部において,ある程度の製作誤差の影響を解消してボールの円滑な循環を可能にしたものが知られている。該直動装置は,案内レールが有する案内溝とスライダ本体が有する案内溝とで構成されるボール転動通路と,スライダ本体に取り付けられたエンドキャップとリターンガイドとで構成されるボール戻し通路湾曲部との連接部において,ボール転動通路から戻し通路湾曲部に向けて拡径する傾斜部を形成したものである。上記直動装置は,スライダ本体の端部が傾斜内周面に形成され,リターンガイドに設けた係合突出部の先端部が傾斜外周面に形成されており,リターンガイドの傾斜外周面がスライダ本体の端部の傾斜内周面に嵌入されて配設されており,リターンガイドの係合突出部の先端が傾斜外周面に形成されて薄肉形状に形成されている(例えば,特許文献2参照)。
【0005】
また,直動案内装置として,高速走行の耐久性を向上させ,転動体通過振動を悪化させず,負荷容量や剛性の低下を抑制するというものが知られている。該直動案内装置は,スライダ側転動体軌道溝の両端部に設けた傾斜部を,スライダ側転動体軌道溝から連続して傾斜が緩やかとなるように大きな曲率半径で形成した曲面形状の第1クラウニングと,該第1クラウニングと隣接し,方向転換路の内周面に向って延びる第1クラウニングよりも短い平面状の第2クラウニングと,該第2クラウニングとスライダ本体の端面との間に設けられ,第1と第2クラウニングよりも傾斜を急に形成した傾斜面とで形成されている(例えば,特許文献3参照)。
【0006】
また,この直動案内ユニットは,広範囲で使用可能な標準仕様であり,クラウニング部を簡単に形成でき,クラウニング深さが比較して小さく,高精度で耐久性に富むものである。前記直動案内ユニットは,負荷路を構成するケーシングの軌道溝の出入口部には,転動体が負荷路に滑らかに出入り可能になる緩やかな曲面形状のクラウニング部と,軌道溝の両端部の曲面形状のR面取り部が形成され,クラウニング部とR面取り部との境界は連続的に角部無しに繋がっている(例えば,特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2002-155936号公報
【文献】特開2003-269450号公報
【文献】特開2008-133837号公報
【文献】特開2005-273765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで,近年,高速対応の直動案内ユニットが要望されている。高速対応の直動案内ユニットは,転動体も高速で転走するため,例えば,ケーシングとエンドキャップとの接続部において,ケーシングの端部の負荷軌道路の内側に転動体が衝突し,ケーシングの端部に剥離即ちフレーキングが発生する問題がある。具体的には,総ボールタイプの直動案内ユニットは,転動体であるボールが方向転換路から負荷軌道路に移行する時に,ボールが軌道レールの軌道溝即ち軌道面,エンドキャップ本体に形成されているすくい爪の先端を通過するときに軌道レールに衝突して跳ね返り,跳ね返ったボールが反対側のケーシングの端部の角部に衝突し,ケーシングの角部が剥離即ちフレーキングする恐れがある。
【0009】
そこで,本出願人の発明者は,直動案内ユニットについて,ケーシングの角部の損傷を避けるため,方向転換路を形成するエンドキャップのスペーサの内周面をケーシング側へ突出させて延在部を形成し,該延在部に跳ね返った転動体であるボールを衝突させることにより,ボールの衝撃力を緩衝し,ケーシング角部の剥離即ち損傷を避けることができないかと,検討を重ねた。
【0010】
この発明の目的は,上記の課題を解決することであり,ケーシングの端部の角部に転動体のボールが直接衝突をしないように,スペーサに設けた延在部をケーシングの端部に配設し,該延在部でボールの衝突による衝撃を吸収させ,即ち,方向転換路を形成するスペーサの内周面をケーシング側へ突出させた延在部に跳ね返ったボールの転動体を衝突させ,延在部でボールの衝撃力を緩衝し,ケーシング角部の剥離即ち損傷を避けることを特徴とする直動案内ユニットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明は,長手方向に沿って第1軌道溝が形成された軌道レール,及び前記軌道レールの前記第1軌道溝に対向する第2軌道溝を備え且つ前記軌道レールに対して複数の転動体を介して相対摺動するスライダを有し,前記スライダは,前記第2軌道溝に沿って延びるリターン路と前記第2軌道溝が形成されたケーシング,及び前記ケーシングの両端面にそれぞれ配設され且つ前記第1軌道溝と前記第2軌道溝とで構成される負荷軌道路と前記リターン路とを連通して前記転動体の循環路を形成する円弧状の方向転換路が形成されたエンドキャップを有することから成る直動案内ユニットにおいて,
前記エンドキャップには,前記方向転換路の内周面から突出して前記内周面と連続する壁面を備え且つ前記転動体の衝突受け面となる延在部が形成され,前記ケーシングの前記第2軌道溝の端部には,前記延在部が嵌合配設される段部でなる収容凹部が形成され,前記延在部の前記壁面と前記第2軌道溝の端部軌道面とは連続する面をなすように接続されていることを特徴とする直動案内ユニットに関する。
【0012】
前記エンドキャップは,前記軌道レールの前記第1軌道溝上に位置するすくい爪と前記方向転換路の外周面を形成するエンドキャップ本体,及び前記エンドキャップ本体に形成
されたケーシング側端面に形成された凹部に嵌合配設され且つ前記方向転換路の前記内周面を形成すると共に前記延在部を備えているスペーサから構成されている。
【0013】
また,この直動案内ユニットは,前記ケーシングの前記第2軌道溝の前記端部軌道面には,前記転動体が前記負荷軌道路に滑らかに出入り可能になる前記方向転換路に向かって緩やかに変化する曲面形状のクラウニング部が形成され,前記第2軌道溝の前記端部に形成された前記段部は前記クラウニング部に位置している。
【0014】
また,この直動案内ユニットは,前記ケーシングの前記端面には前記ケーシングに対して前記スペーサを位置決めするための位置決め穴が形成されており,前記スペーサには前記位置決め穴に嵌入する位置決め突起が設けられている。
【0015】
また,前記第2軌道溝に配設された前記スペーサの前記延在部と前記ケーシングの前記第2軌道溝とは,同時研削加工されて前記第2軌道溝と前記延在部の前記壁面とが前記連続する面に形成されている。
【0016】
また,前記延在部の前記壁面は,前記第2軌道溝の前記端部軌道面から前記方向転換路の前記内周面へと半円形の湾曲状に形成されている。また,前記延在部の先端面が当接する前記ケーシングに形成された前記段部の底面の角部は,R形状に形成されている。
【0017】
また,この直動案内ユニットにおいて,前記転動体はボールであり,前記延在部の長さは,前記ケーシングの前記リターン路の端部に嵌入する前記エンドキャップの背面から突出して形成された接続管の長さと同一長さに形成されている。
【発明の効果】
【0018】
この直動案内ユニットは,上記のように構成されており,ボールが衝突する領域に配設された延在部はスペーサに一体に形成されているので,製作が容易であって,組み込みも容易に行うことができる。また,エンドキャップの方向転換路から軌道路へ進入する際に,ボールがケーシングに配設された延在部に衝突することで,衝突時の衝撃を吸収し,ケーシングに損傷を与えることがない。通常,ボールの衝突エネルギーは速度の二乗に比例するので,ケーシングの負荷転動面の縁部が損傷し易くなる。しかしながら,本発明の直動案内ユニットでは,ボールが衝突する領域にスペーサに設けた延在部が位置しているので,ボールの衝突が延在部に発生し,ボールの衝突時の衝撃が延在部で吸収され,ケーシング角部の損傷を免れることができる。また,延在部が形成されたスペーサは,PEEK材(ポリエーテルエーテルケトン),POM材(ポリアセタール樹脂)等の耐摩耗性の樹脂材で作製されており,ケーシングの材料に比較して安価であって容易に製作できるので,延在部の損傷した時には,スペーサのみを交換することもでき,スペーサだけの交換になって低コストに抑えることができる。また,延在部は,第2軌道溝の長手方向の垂直断面を半円形の湾曲状に形成することができ,その場合には,延在部のボール衝突受け面はボールを包囲するように形成されるから,ボールの衝突時にボールが延在部との接触面積が大きくなるので,ボール衝突時の面圧を下げる効果がある。また,延在部を備えたスペーサを,樹脂材に換えて金属材で作製した場合には,ボールの衝突による延在部の摩耗は,一層抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明による直動案内ユニットの実施例を示す一部断面を含む斜視図である。
【
図2】
図1の直動案内ユニットにおけるケーシングを示す端面図である。
【
図3】
図2のケーシングの端面にエンドキャップを構成するスペーサを配設した状態を示す端面図である。
【
図4】
図2のケーシングのA-A位置におけるケーシングの一部を示す断面図である。
【
図5】
図3のケーシングのB-B位置におけるケーシングの一部とスペーサを示す断面図である。
【
図6】
図1の直動案内ユニットにおけるエンドキャップを構成するスペーサを示す平面図である。
【
図7】
図6のスペーサをケーシング側から見た状態を示す背面図である。
【
図9】
図1の直動案内ユニットにおけるエンドキャップを構成するエンドキャップ本体のケーシング側を示す背面図である。
【
図10】
図9のエンドキャップ本体に形成した凹部にスペーサを配設した状態を示す背面図である。
【
図11】この直動案内ユニットにおける方向転換路と,軌道レールの軌道溝とケーシングの軌道溝とで構成される軌道路との連通状態を示す概念図である。
【
図12】この直動案内ユニットにおけるケーシングの端部にスペーサを配設した状態を示す接触角方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下,図面を参照して,この発明による直動案内ユニットの実施例を説明する。この発明による直動案内ユニットは,長手方向に沿って軌道溝11(第1軌道溝)が形成された軌道レール1,及び軌道レール1の軌道溝11に対向する軌道溝12(第2軌道溝)を備え且つ軌道レール1に対して複数の転動体であるボール9を介して相対摺動するスライダ2を有している。スライダ2は,軌道レール1に跨架するように上部と該上部の側部から垂下した袖部から構成されている。スライダ2は,概して,軌道溝12に沿って延びるリターン路15と軌道溝12が形成されたケーシング3,ケーシング3の両端面16にそれぞれ配設され且つ軌道溝11と軌道溝12とで構成される軌道路13とリターン路15とを連通する円弧状の方向転換路14が形成されたエンドキャップ4,及びエンドキャップ4の端面44に配設されたエンドシール43から構成されている。この直動案内ユニットでは,軌道路13は,負荷軌道路であって,軌道レール1の軌道溝11とケーシング3の軌道溝12に対してボール9が四点接触するゴシックアーチ溝形式に形成されている。この直動案内ユニットでは,軌道路13,リターン路15及び一対の方向転換路14によって,ボール9が無限循環する循環路が形成される。ケーシング3には,ワーク,機器等の相手部材を取り付けるための取付け用ねじ孔27が形成されている。軌道レール1は,長手方向両側面51に沿って延びる逃げ溝22に軌道溝11が形成されており,逃げ溝22には,スライダ2に転動体のボール9を保持する保持バンド26が挿通している。軌道レール1には,ベッド,機器等のベースに取り付けるための取付け用孔28が形成されている。この直動案内ユニットでは,潤滑剤を供給するために,エンドシール43の端面には,潤滑剤を供給するためのグリースニップル29が取り付けられている。また,エンドキャップ4の取付け用孔36及びエンドシール43の取付け用孔に挿通した固定ねじ45が,ケーシング3の取付け用ねじ孔23に螺入することにによって,ケーシング3にエンドキャップ4とエンドシール43が固定されている。
【0021】
また,エンドキャップ4は,軌道レール1の軌道溝11上に位置するすくい爪35と方向転換路14の外周面18を形成するエンドキャップ本体5,及びエンドキャップ本体5に形成されたケーシング側端面44に形成された凹部34に嵌合配設され且つ方向転換路14の内周面17を形成するスペーサ6から構成されている。スペーサ6は,エンドキャップ本体5に形成した凹部34に位置決めして配設されている。また,スペーサ6は,ケーシング3に位置決めして配設するため,ケーシング3に形成された位置決め穴24に嵌入する位置決め突起30が設けられている。エンドキャップ4を構成するエンドキャップ本体5には,潤滑剤を供給するグリースニップル29が嵌入される油孔31,油孔31から方向転換路14へ延びる油溝33が形成されている。スペーサ6には,潤滑剤の供給のため方向転換路14の内周面17に油溝33と連通する油孔32が形成されている。スペーサ6は,ケーシング3側の端面38には延在部7,接続管部21,及び位置決め突起30が突出して形成されており,また,エンドキャップ本体5側のスペーサ6の端面39には,方向転換路14の内周面17を形成する壁部がエンドキャップ本体5の外周面18に形成された凹部34に嵌合するように突出している。また,エンドキャップ本体5に形成されているすくい爪35は,軌道レール1の軌道溝11に位置している。直動案内ユニットでは,転動体のボール9は,すくい爪35の先端部37の地点が軌道路13と方向転換路14との境界になって往復移動する。
【0022】
この直動案内ユニットは,特に,エンドキャップ4には,スペーサ6に形成された方向転換路14の内周面17から突出して内周面17と連続する壁面を備え且つボール9の衝突受け面40となる延在部7が形成されており,ケーシング3の軌道溝12の端部49には,延在部7が嵌合配設される段部8でなる溝状の収容凹部25が形成されており,延在部7の半円弧状の壁面48とケーシング3の軌道溝12の端部軌道面とは連続する面になるように接続されていることを特徴としている。延在部7は,ケーシング3の軌道溝12に対応する半円弧状の軌道溝の形状の壁面48に形成されている。延在部7の先端部は,収容凹部25の形状に合せて面取りがされている。また,延在部7の先端面が当接するケーシング3に形成された段部8の底部は,R形状46に形成されている。ケーシング3の段部8をR形状46に形成することによって,ケーシング3の軌道溝12の焼入れ時の焼き割れを抑制することができる。また,スペーサ6に設けられた延在部7の衝突受け面40は,ケーシング3の軌道溝12に対応する形状の半円弧状の壁面48に形成されている。また,スペーサ6に設けた延在部7は,例えば,PEEK材(ポリエーテルエーテルケトン),POM材(ポリアセタール樹脂)等の耐摩耗性を有する樹脂材で作製されているので,ケーシング3の材料に比較して安価であって容易に製作でき,延在部7の損傷した時に,スペーサ6のみを交換することもできる。また,延在部7を備えたスペーサ6を,樹脂材に換えて金属材で作製した場合には,延在部7は,ボール9の衝突による耐摩耗性を向上させることができ,また,樹脂の場合と同様に,延在部7が損傷した場合には,スペーサ6のみを新品に交換することで対応できる。
【0023】
図11を参照して,この直動案内ユニットについて,転動体のボール9が循環路を構成する軌道路13と方向転換路14を転走する時の転走状態について説明する。この直動案内ユニットは,セパレータやガイド部材を備えていない総ボールタイプの場合であって,転動体のボール9が軌道路13及び方向転換路14を転走する時に,エンドキャップ本体5のすくい爪35の先端部37の地点で往復移動することになるが,その際にボール9は,方向転換路14を遠心力を受けて転走すると,ボール9同士が遠心力を受けて押し合いとなって,或いはすくい爪35の先端部37を通過し,軌道レール1の軌道溝11の点Aの位置に衝突して,点線で示すボール9のように,撥ね上げられてケーシング3側の軌道溝12に衝突するようになる。この直動案内ユニットでは,ケーシング3の軌道溝12の端部49には延在部7が配設されているので,ボール9が延在部7の衝突受け面40に衝突し,その衝撃力は延在部7で衝撃吸収されることになる。従来の直動案内ユニットでは,セパレータやガイド部材を備えていない総ボールタイプの場合には,跳ね返ったボール9がケーシングの端部に衝突し,損傷するおそれがあった。この直動案内ユニットでは,跳ね返ったボール9がスペーサ6の延在部7に衝突することになり,ボール9の衝撃が延在部7で吸収され,ケーシング3の端部の損傷を抑制することができる。また,スペーサ6に設けた延在部7の衝突受け面40は,延在部7の延びる方向に垂直な断面がボール9を包囲するような半円弧状の壁面48に形成されているので,ボール9が延在部7に衝突した際に,延在部7に対するボール9の接触面積は大きく,延在部7に対してボール衝突の際の衝撃面圧を下げることができ,衝撃力を一層緩和吸収することができる。
【0024】
また,この直動案内ユニットは,ケーシング3の軌道溝12の端部の軌道面には,ボール9が軌道路13に滑らかに出入り可能になる方向転換路14に向かって緩やかに変化する曲面形状のクラウニング部10が形成されており,ボール9が軌道路13に滑らかに出入り可能になっている。軌道溝12の端部に形成された段部8でなる収容凹部25は,クラウニング部10に位置しているものである。クラウニング部10は,スライダ2の走行精度を高めるために,例えば,クリープフィード研削方法により,軌道溝12からクラウニング部10を同時研削加工し,角部なし即ち段差なしで連続的に繋がる単一曲面に形成されている。
図11及び
図12に示すように,クラウニング部10のクラウニング長さをLとすると,延在部7の長さL1は,L>L1の関係にある。ケーシング3に形成したクラウニング部10は,例えば,クラウニング長さLをボール径Daの2個分の長さに設定できる。ボール径Daの2個分の長さとは,ボール径Daの1.5個<L<2.5個分の範囲を許容範囲として含む長さである。この時,クラウニング部10の深さはHで示されている。クラウニング部10の深さHは,例えば,直動案内ユニットの基本静定格荷重の半分の荷重を負荷した時に,軌道溝11,12におけるボール9と軌道溝11,12との間に生じる弾性変形量を,軌道溝11,12に生じる接触角方向の弾性変形量に相当する値に設定することができる。また,クラウニング部10の曲面は,
図12に示すように,ボール9との接触角方向の断面で見て単一の曲率半径Rに設定することができる。例えば,クラウニング部10の長さL,深さH,及び曲率半径Rを,ボール径Daが3.175mmの場合で例示すると,クラウニング部10の長さLは6.35mm,深さHは0.0164mm,曲率半径Rは1229mmに設定することができる。また,軌道溝12の両端部におけるクラウニング部10のクラウニング長さLの合計は,例えば,ケーシング3の全長に対して20%~40%に設定することができる。また,
図12に示すように,延在部7は,クラウニング部10の無負荷域42に位置し,クラウニング部10の負荷域41にまで延びていない。言い換えれば,ケーシング3の端部の段部8は,クラウニング部10の無負荷域42に位置し,ケーシング3の収容凹部25は,無負荷域42に形成されている。この直動案内ユニットは,ケーシング3の位置決め穴24にスペーサ6の位置決め突起30を嵌入して,スペーサ6をケーシング3の端面16に位置決めして配設できるので,ケーシング3の端面16にスペーサ6を配設した状態で,スペーサ6に設けた延在部7の半円弧状の壁面48とケーシング3の軌道溝12とを同時研削することができ,両者の軌道溝12,半円弧状の壁面48を連続する面に容易に加工することが可能になっている。
【0025】
また,ケーシング3の軌道溝12に配設されたスペーサ6の延在部7とケーシング3の軌道溝12とは,同時研削加工されて軌道溝12と延在部7に形成される半円弧状の壁面48とが同一面に形成されている。また,延在部7は,軌道溝12の軌道面から方向転換路14の内周面17へと湾曲状に形成されている。この直動案内ユニットにおいて,エンドキャップ4については,エンドキャップ本体5に形成された半円形の接続管部20とスペーサ6に形成された半円形の接続管部21とが整合することによって,ボール9を滑らかに循環させる円形の接続管が形成され,該接続管はケーシング3に形成された嵌挿孔50に嵌入してボール9を滑らかに転走させるスムーズな面の方向転換路14が形成されている。ケーシング3に形成された嵌挿孔50には,潤滑剤が含浸された焼結樹脂で作製されたスリーブ47が嵌挿されており,スリーブ47によってリターン路15が形成されている。この直動案内ユニットでは,スペーサ6に設けられた延在部7の長さL1は,ケーシング3のリターン路15の端部に嵌入する接続管の半体になるスペーサ6の背面から突出して形成された接続管部21の長さと同一長さに形成されている。例えば,延在部7の長さL1は,ボール径Daの0.63Daになっている。従って,スペーサ6に形成される延在部7は,接続管部21と同じ飛び出し高さであって,接続管部21と同時に加工できるので,スペーサ6の延在部7を容易に加工することができる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明による直動案内ユニットは,工作機械,半導体製造装置,精密測定装置等の相対摺動部材を備えた各種の装置の摺動部領域に適用して,最近要望される高速対応の直動案内ユニットの耐久性を向上させることができるものとして好ましい。
【符号の説明】
【0027】
1 軌道レール、2 スライダ、3 ケーシング、4 エンドキャップ、5 エンドキャップ本体、6 スペーサ、7 延在部、8 段部、9 ボール(転動体)、10 クラウニング部、11 軌道溝(第1軌道溝)、12 軌道溝(第2軌道溝)、13 軌道路、14 方向転換路、15 リターン路、16 端面、17 内周面、18 外周面、20,21 接続管部、24 位置決め穴、25 収容凹部、30 位置決め突起、34 凹部、35 すくい爪、37 先端部、40 衝突受け面、46 R形状、47 スリーブ、48 半円弧状の壁面