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特許7194796目的に合わせた親和性を有する抗トランスフェリンレセプター抗体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】目的に合わせた親和性を有する抗トランスフェリンレセプター抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20221215BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20221215BHJP
   A61P 3/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 25/08 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 25/14 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20221215BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20221215BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K47/68
A61P3/00
A61P9/10
A61P25/00
A61P25/02
A61P25/08
A61P25/14
A61P25/28
A61P27/02
A61P29/00
A61P31/00
A61P31/12
A61P35/00
A61P43/00 111
C12N15/13
【請求項の数】 18
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021179466
(22)【出願日】2021-11-02
(62)【分割の表示】P 2020027159の分割
【原出願日】2016-06-22
(65)【公開番号】P2022025120
(43)【公開日】2022-02-09
【審査請求日】2021-12-02
(31)【優先権主張番号】15173508.1
(32)【優先日】2015-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(31)【優先権主張番号】15176084.0
(32)【優先日】2015-07-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン-ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN-LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】デングル,シュテファン
(72)【発明者】
【氏名】ジョルジュ,ギー
(72)【発明者】
【氏名】ゲプフェルト,ウルリヒ
(72)【発明者】
【氏名】ニーヴェーナー,イェンス
(72)【発明者】
【氏名】シュロットハウアー,ティルマン
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-500886(JP,A)
【文献】国際公開第2013/177062(WO,A2)
【文献】国際公開第93/010819(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/189973(WO,A2)
【文献】欧州特許出願公開第02708560(EP,A1)
【文献】仏国特許出願公開第02953841(FR,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/28
A61K 39/395
A61K 47/68
A61P 3/00
A61P 9/10
A61P 25/00
A61P 25/02
A61P 25/08
A61P 25/14
A61P 25/28
A61P 27/02
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 31/12
A61P 35/00
A61P 43/00
C12N 15/13
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトトランスフェリンレセプター及びカニクイザルトランスフェリンレセプターに特異的に結合するヒト化抗体であって、
(i)重鎖可変ドメインにおいて、配列番号:66、68、及び71のHVRと
鎖可変ドメインにおいて、配列番号:75、76、及び78のHVRとを含み、
列番号:23の重鎖可変ドメインと、配列番号:37の軽鎖可変ドメインとを含む又は
(ii)重鎖可変ドメインにおいて、配列番号:66,68、及び73のHVRと、
軽鎖可変ドメインにおいて、配列番号:75、76、及び78のHVRとを含み、
配列番号:25の重鎖可変ドメインと、配列番号:37の軽鎖可変ドメインとを含む、
ヒト化抗体。
【請求項2】
ヒト化抗体が、エフェクター機能サイレントである、請求項1記載のヒト化抗体。
【請求項3】
ヒト化抗体が、ヒトトランスフェリンレセプターに対する少なくとも1つの結合特異性と、治療ターゲットに対する少なくとも1つの結合特異性とを有する多重特異性抗体である、請求項1又は2記載のヒト化抗体。
【請求項4】
ヒト化抗体が、ヒトトランスフェリンレセプターに結合する第1抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2抗原結合部位とを含む、請求項記載のヒト化抗体。
【請求項5】
脳抗原が、Aベータ、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)、アルファ-シヌクレイン、CD20、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、及びグルコセレブロシダーゼからなる群より選択される、請求項記載のヒト化抗体。
【請求項6】
多重特異性抗体が、
i)ヒトトランスフェリンレセプター及びAベータの両方、又は
ii)ヒトトランスフェリンレセプター及びCD20の両方、又は
iii)ヒトトランスフェリンレセプター及びアルファ-シヌクレインの両方、又は
iv)ヒトトランスフェリンレセプター及びリン酸化タウの両方、又は
v)ヒトトランスフェリンレセプター及びグルコセレブロシダーゼの両方
に結合する、請求項のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項7】
ヒト化抗体が、
i)配列番号:23又は配列番号:25の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインを含む第1結合部位と、
ii)第2結合部位であって、
a)配列番号:81の重鎖可変ドメイン及び配列番号:82の軽鎖可変ドメイン、又は
b)配列番号:83の重鎖可変ドメイン及び配列番号:84の軽鎖可変ドメイン、又は
c)配列番号:85の重鎖可変ドメイン及び配列番号:86の軽鎖可変ドメイン、又は
d)配列番号:87の重鎖可変ドメイン及び配列番号:88の軽鎖可変ドメイン、又は
e)配列番号:91の重鎖可変ドメイン及び配列番号:92の軽鎖可変ドメイン、又は
f)配列番号:89の重鎖可変ドメイン及び配列番号:90の軽鎖可変ドメイン、又は
g)配列番号:93の重鎖可変ドメイン及び配列番号:94の軽鎖可変ドメイン、又は
h)配列番号:79の重鎖可変ドメイン及び配列番号:80の軽鎖可変ドメイン
から選択される第2結合部位と、を含む二重特異性抗体である、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項8】
ヒト化抗体が、
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、又は
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235Eを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両重鎖における変異L234A、L235A、及びP329G、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
f)両重鎖における変異S228P、L235E、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体
である、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項9】
ヒト化抗体が、
)ヒトIgG1サブクラスのホモ二量体Fc領域、又は
ii)ヒトIgG4サブクラスのホモ二量体Fc領域、又は
iii)ヘテロ二量体Fc領域であって、
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域、又は
iv)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc領域であって、両Fc領域ポリペプチドが、変異P329G、L234A、及びL235Aを含み、かつ
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域、又は
v)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc領域であって、両Fc領域ポリペプチドが、変異P329G、S228P、及びL235Eを含み、かつ
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域
を含む、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項10】
請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬製剤。
【請求項11】
医薬として使用するための、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項12】
神経障害を処置するための医薬の製造における、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体の使用。
【請求項13】
神経障害が、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される、請求項12記載の使用。
【請求項14】
1つ以上の化合物を、BBBを通過させて輸送するための医薬の製造における、請求項1~のいずれか一項記載の抗体の使用。
【請求項15】
神経障害の処置に使用するための、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体。
【請求項16】
神経障害が、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される、請求項15記載のヒト化抗体。
【請求項17】
医薬の製造における、請求項1~のいずれか一項記載のヒト化抗体の使用。
【請求項18】
医薬が、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される神経障害の処置のためのものである、請求項17記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、ヒトトランスフェリンレセプターに対して設計されたオフレートを有する抗トランスフェリンレセプター抗体及び血液脳関門シャトルモジュールとしてのその使用に関する。
【0002】
[背景]
脳への低浸透性を有する神経障害剤、例えば、大型のバイオ医薬又は小分子剤等の脳への浸透は、神経血管系単位(NVU)における他の細胞コンポーネントと共に、広範で、不浸透性の血液脳関門(BBB)により、厳密に制限されている。この障害を克服するための多くの戦略が試されてきた。その1つが、脳毛細管内皮に発現している内在性レセプター(血液脳関門レセプター)により媒介される経細胞輸送経路を利用するものである。脳へのバイオ医薬のレセプター媒介性送達を可能にするリコンビナントタンパク質、例えば、モノクローナル抗体又はペプチドが、これらのレセプターに対して設計されてきた。しかしながら、脳への取込みを最大化する戦略は、脳内皮細胞(BEC)への誤った局在化を最小化するが、BECにおける特定の細胞小器官(特に、バイオ医薬の分解をもたらす小器官)への蓄積の程度は、不明なままである。
【0003】
モノクローナル抗体及び他のバイオ医薬は、中枢神経系(CNS)における病理の処置に大きな治療的可能性を有する。しかしながら、脳へのその経路は、BBBにより妨げられる。以前の研究では、血流に注入された内の非常に小さな割合(約0.1%)のIgGしか、CNS区画内に浸透することができないことが例証されている(Felgenhauer, Klin. Wschr. 52 (1974) 1158-1164)。このことは、CNS内の抗体が低濃度であるため、どのような薬理学的作用も間違いなく制限するであろう。
【0004】
CNS内に分布する抗体の割合をBBBレセプター(すなわち、トランスフェリンレセプター、インスリンレセプター等)を利用することにより改善することができることが、以前に見出された(例えば、国際公開公報第95/02421号を参照のこと)。
【0005】
したがって、BBBを通過させて、脳内に効率的に薬剤を輸送する神経障害剤の送達システムについての必要性が存在する。
【0006】
国際公開公報第2014/033074号には、血液脳関門シャトルが報告されている。
【0007】
国際公開公報第2014/189973号には、抗トランスフェリンレセプター抗体及び使用方法が報告されている。BBBレセプターを伝統的な特異的高親和性抗体によりターゲッティングすることにより、BBB輸送における限定された増大がもたらされることが更に報告されている。CNS内への抗体の取込みの大きさ及びCNSにおける分布は、研究された抗BBB抗体の中で、BBBレセプターに対するその結合親和性に逆相関することが、後に見出された。例えば、治療用量レベルで投与されたトランスフェリンレセプター(TfR)に対する低親和性抗体により、高親和性抗TfR抗体に対して、抗TfR抗体のBBB輸送及びCNS保持がかなり改善され、CNSにおける治療濃度をより容易に保持することが可能である(Atwal et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra43)。このようなBBB輸送の証明が、TfRとアミロイド前駆体タンパク質(APP)開裂酵素であるβ-セクレターゼ(BACE1)との両方に結合する二重特異性抗体を使用して達成された。低親和性抗体を使用して操作された二重特異性抗TfR/BACE1抗体の1回の全身投与によって、脳への顕著な抗体取込みがもたらされるだけでなく、単特異的抗BACE1単独と比較して、脳Aβ1-40のレベルを劇的に低下した。このことから、BBB浸透が、抗BACE1の能力により影響を受けることが示唆している(Atwal et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra43;Yu et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra44)。
【0008】
さらに、治療用途を意図したモノクローナル抗体(mAb)の徹底的な非臨床安全性評価は、非常に重要である。抗体の操作態様の複雑性及び抗体生成のためのリコンビナント生成細胞系の多様性により誘引される可変性が増大するためである。さらに、伝統的な小分子薬剤と比較して、mAbのその複雑な構造、固有の生物学的機能、及びより長い半減期が、慢性疾患の処置についてのmAbの長い臨床使用による懸念に加えて、安全性の考慮に加わる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Kim, S.J., et al., Mol. Cells 20 (2005) 17-29)。
【0009】
mAbについての非臨床研究の全体としての目的は、対象となるmAbの毒性学的特性を定義し、製品開発のための情報を提供することである。非臨床評価の主な目的は、毒性についてのターゲット臓器の特定およびその毒性が処置により可逆的であるかどうかを判定すること、(2)ヒト第I相臨床試験に安全な開始用量及びその後の用量増大スキームの特定、(3)臨床試験において安全性パラメータをモニターする情報の提供、及び(4)製品ラベルに要求を支持する安全性データを提供することである。これらの目的を達成するために、抗体の薬理学的特性を定義し、理解するのに役立つ、in vitro及びin vivoの両方における非臨床研究が行われている(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Cavagnaro, J.A., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.)「Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals」; Hoboken, NJ: Wiley 2008; 45-65)。
【0010】
mAbの非臨床安全性評価の成功のために、最も関連する動物種が、毒性試験に選択される必要がある(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Chapman, K., et al., Nat. Rev. Drug Discov. 6 (2007) 120-126)。関連する種は、抗体が薬理学的に活性であり、ターゲット抗原が存在し、又は、発現されている必要があり、組織交叉反応性プロファイルがヒトに類似している必要がある種である(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Chapman, K., et al., Nat. Rev. Drug Discov. 6 (2007) 120-126;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。免疫化学及び機能アッセイ法を使用して、所望のエピトープを発現し、ヒト組織に類似する組織交叉反応性プロファイルを説明している関連する動物種を特定することができる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。種交叉反応性研究は、このプロセスにおいて有用であり、市販の多種組織マイクロアレイを使用する、各種の種からの組織の免疫組織化学的調査を含む(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。あるいは、蛍光活性化セルソーター(FACS)によるこれらの動物からの細胞に対する抗体結合性の評価は、典型的には、細胞切片の免疫組織学的分析より高感度である(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205)。ターゲット抗原のDNA及びアミノ酸配列が、種間で比較される必要があり、種間のホモロジーが判定される必要がある(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205)。
【0011】
加えて、抗原の生体分布、機能、及び構造は、ターゲット抗原の抗体結合により生じる毒性の評価を可能するために、関連する動物種とヒトとの間で比較可能である必要がある。同毒性は、onターゲット毒性と呼ばれる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11; 19,20)。さらに、動物種及びヒトにおいて、ターゲット抗原組織分布における強力な類似性から、動物において特定されたターゲット臓器の毒性が、ヒトにおいて可能性ある毒性を予測するであろうことが考えられる。動物種とヒトとの間の抗原組織分布における類似性の欠如は、毒性研究のための動物種の使用を全体としては妨げるものではないが、これらの差異は、ヒトのリスク評価に考慮されるべきである。抗原密度又は親和性についても同様に、動物モデルとヒトとの間の絶対的な同等性は求められない。毒性試験に選択された種の関連性についての正当化は、規制の順守に含まれる必要がある。1種のみが安全性評価に使用される場合、更なる関連種の不存在を説明する実験概要が保証される(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11)。
【0012】
治療的使用が意図されたモノクローナル抗体が、種交叉反応性をいずれも有さない場合、代理抗体又はそのモデルについて異なる種が使用される必要がある。このため、代理抗体は、制限された種交叉反応性を有するヒト化モノクローナル抗体により可能となる、限定された安全性試験に対する可能性のある解決策である。しかしながら、現在、可能性のある代理抗体が臨床薬についての安全性問題を判定するのにおけるその使用前に判定される必要がある、評価基準が定義されていない(Regulatory Toxicology and Pharmacology Volume 40, Issue 3, December 2004, Pages 219-226)。
【0013】
このため、特定のmAbについての動物モデルを特定するために、上記考慮がなされる必要があるが、それにも関わらず、対象となるmAbが、試験種のターゲット抗原に対する交叉反応性を有することが必要である。他にも、最も適切な試験種であっても使用することができない場合がある。したがって、ヒト及び非臨床試験を意図した種におけるそのターゲットについて、種内交叉反応性を有しないが、種間交叉反応性を有する、mAbについての必要性が存在する。
【0014】
欧州特許第2708560号には、トランスフェリンレセプターを特異的に認識する抗体が報告されている。フランス国特許第2953841号には、トランスフェリンレセプターを対象とする抗体及び鉄依存性腫瘍の免疫療法のためのその使用が報告されている。米国特許出願公開公報第2009/162359号には、二価の二重特異性抗体が報告されている。
【0015】
[概要]
本明細書に報告されている抗トランスフェリンレセプター抗体は、血液脳関門を通過させて、脳内に脳エフェクター実体を輸送する、血液脳関門シャトルモジュールとして使用することができることが見出されている。特定の実施態様では、血液脳関門シャトルモジュールは、トランスフェリンレセプターに特異的に結合する、一価の結合実体である。本明細書に報告されている抗トランスフェリンレセプター抗体は、血液脳関門シャトルモジュールとして使用された場合、例えば、神経障害、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びアルツハイマー病とパーキンソン病との併存疾患の診断又は処置に有用である。
【0016】
本明細書において、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に特異的に結合する、抗トランスフェリンレセプター抗体が報告される。特定の実施態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体は、
・ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に結合し、
・カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート以下の(すなわち、多くても)、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートを有し、ここで、該オフレートは、表面プラズモン共鳴により決定され、ここで、抗トランスフェリンレセプター抗体128.1は、配列番号:64の重鎖可変ドメインと配列番号:65の軽鎖可変ドメインとを有し、
・0.11/s~0.0051/sであり、これらを含むヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートで結合する。
【0017】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター及びカニクイザルトランスフェリンレセプターに特異的に結合し、
i)配列番号:01の重鎖可変ドメインから得られたヒト化重鎖可変ドメインと、
ii)配列番号:26の軽鎖可変ドメインから得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含み、
ここで、カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート以下の(すなわち、多くても)、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートを有し、
ここで、該オフレートは、表面プラズモン共鳴により決定され、
ここで、抗トランスフェリンレセプター抗体128.1は、配列番号:64の重鎖可変ドメインと配列番号:65の軽鎖可変ドメインとを有する、
抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0018】
一実施態様において、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートは、0.11/s~0.0051/sであり、これらを含む。
【0019】
一実施態様において、本抗体は、軽鎖可変ドメインにおいて、80位にプロリンアミノ酸残基(P)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0020】
一実施態様において、本抗体は、軽鎖可変ドメインにおいて、91位にアスパラギンアミノ酸残基(N)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0021】
一実施態様において、本抗体は、軽鎖可変ドメインにおいて、93位にアラニンアミノ酸残基(A)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0022】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、100g位にセリンアミノ酸残基(S)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0023】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、100g位にグルタミンアミノ酸残基(Q)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0024】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、65位にセリンアミノ酸残基(S)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0025】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、105位にグルタミンアミノ酸残基(Q)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0026】
一実施態様において、本抗体は、軽鎖可変ドメインにおいて、80位にプロリンアミノ酸残基(P)、軽鎖可変ドメインにおいて、91位にアスパラギンアミノ酸残基(N)、軽鎖可変ドメインにおいて、93位にアラニンアミノ酸残基(A)、重鎖可変ドメインにおいて、100g位にセリンアミノ酸残基(S)、重鎖可変ドメインにおいて、65位にセリンアミノ酸残基(S)、及び、重鎖可変ドメインにおいて、105位にグルタミンアミノ酸残基(Q)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0027】
一実施態様において、本抗体は、軽鎖可変ドメインにおいて、80位にプロリンアミノ酸残基(P)、軽鎖可変ドメインにおいて、91位にアスパラギンアミノ酸残基(N)、軽鎖可変ドメインにおいて、93位にアラニンアミノ酸残基(A)、重鎖可変ドメインにおいて、100g位にグルタミンアミノ酸残基(Q)、重鎖可変ドメインにおいて、65位にセリンアミノ酸残基(S)、及び、重鎖可変ドメインにおいて、105位にグルタミンアミノ酸残基(Q)(Kabatに従ったナンバリング)を有する。
【0028】
本明細書に報告されている一態様は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号:71、72、又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む、抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0029】
好ましい一実施態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む。
【0030】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)に特異的に結合する、抗トランスフェリンレセプター抗体であり、
i)配列番号:24のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列と、
ii)配列番号:37のアミノ酸配列に対して少なくとも90%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列とを含み、
ここで、該抗体は、配列番号:24の重鎖可変ドメイン(VH)配列と配列番号:37の軽鎖可変ドメイン(VL)配列とを含む抗体と約同じオフレートを有する、抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0031】
一実施態様において、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートは、0.11/s~0.0051/sであり、これらを含む。
【0032】
本明細書に報告されている好ましい一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)に特異的に結合し、
i)配列番号:24のアミノ酸配列を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列と、
ii)配列番号:37のアミノ酸配列を有する軽鎖可変ドメイン(VL)とを含む、抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0033】
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対して少なくとも1つの結合特異性と、治療ターゲットに対する少なくとも1つの特異性とを有する、多重特異性抗体である。一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに結合する第1抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2抗原結合部位とを含む。更なる実施態様では、脳抗原は、ヒトAベータ、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)、ヒトアルファ-シヌクレイン、チロシン又はセリン残基においてリン酸化されているヒトtau、ヒトCD20、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、及びヒトグルコセレブロシダーゼからなる群より選択される。好ましい一実施態様では、多重特異性抗体は、
i)トランスフェリンレセプター及びAベータの両方、又は
ii)トランスフェリンレセプター及びCD20の両方、又は
iii)トランスフェリンレセプター及びアルファ-シヌクレインの両方、又は
iv)トランスフェリンレセプター及びリン酸化タウの両方、又は
v)トランスフェリンレセプター及びHER2の両方、又は
vi)トランスフェリンレセプター及びグルコセレブロシダーゼの両方
に結合する。
【0034】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトAベータに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:81の重鎖可変ドメイン及び配列番号:82の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0035】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトCD20に対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:79の重鎖可変ドメイン及び配列番号:80の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。一実施態様において、該重鎖可変領域は、Kabatの11位におけるアミノ酸残基の任意のアミノ酸、ただし、ロイシンによる置換えを含む。一実施態様において、この置換は、Kabatの11位におけるアミノ酸残基の非極性アミノ酸による置換えを含む。好ましい一実施態様では、この置換は、配列番号:79の重鎖可変ドメインにおけるKabatの11位でのアミノ酸残基の、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、及びフェニルアラニンからなる群より選択されるアミノ酸残基による置換えを含む。
【0036】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:83の重鎖可変ドメイン及び配列番号:84の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0037】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:85から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:86から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0038】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:87から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:88から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0039】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:89から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:90から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0040】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:91から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:92から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0041】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:93から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:94から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0042】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、i)配列番号:97のアミノ酸配列を有するグルコセレボシダーゼ、又は、ii)少なくとも70%の配列同一性を有する配列番号:97の機能性変異体、又は、iii)1つ以上のアミノ酸変異、欠失、もしくは挿入を有する配列番号:97の機能性変異体、又は、iv)N末端もしくはC末端において又は欠失されたアミノ酸配列内に少なくとも1つのアミノ酸残基を有する配列番号:97のトランケート機能性変異体、又は、V) iii)とiv)との組み合わせに対する結合部位とを含む、二重特異性抗体である。
【0043】
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、
i)場合により、変異P329G、L234A、及びL235Aを有するヒトIgG1サブクラスのホモ二量体Fc領域、又は
ii)場合により、変異P329G、S228P、及びL235Eを有するヒトIgG4サブクラスのホモ二量体Fc領域、又は
iii)ヘテロ二量体Fc領域であって、
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域、又は
iv)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc領域であって、両Fc領域ポリペプチドが、変異P329G、L234A、及びL235Aを含み、かつ
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域、又は
v)ヒトIgG4サブクラスのヘテロ二量体Fc領域であって、両Fc領域ポリペプチドが、変異P329G、S228P、及びL235Eを含み、かつ
a)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366Wを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、及びY407Vを含み、もしくは
b)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びY349Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びS354Cを含み、もしくは
c)一方のFc領域ポリペプチドが、変異T366W及びS354Cを含み、他方のFc領域ポリペプチドが、変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを含む、ヘテロ二量体Fc領域
を含む。
【0044】
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、CrossMabである。
【0045】
本明細書に報告されている一態様は、
i)配列番号:52、53、54、55、56、57、及び58からなる群より選択される重鎖可変ドメイン、ならびに、配列番号:60、61、62、及び63からなる群より選択される軽鎖可変ドメイン、又は
ii)配列番号:2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、及び25からなる群より選択される重鎖可変ドメイン、ならびに、配列番号:27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、及び47からなる群より選択される軽鎖可変ドメイン
を含む、抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0046】
本明細書に報告されている一態様は、本明細書に報告されている抗体と、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬製剤である。
【0047】
本明細書に報告されている一態様は、医薬として使用するための、本明細書に報告されている抗体である。
【0048】
本明細書に報告されている一態様は、神経障害を処置するための医薬の製造における、本明細書に報告されている抗体の使用である。
【0049】
一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、CNS炎症、アルツハイマー病、パーキンソン病、多発性硬化症、脳転移を伴うCD20陽性ガン、及び脳転移を伴うHer2陽性ガンからなる群より選択される。
【0050】
本明細書に報告されている一態様は、1つ以上の化合物を、血液脳関門(BBB)を通過させて輸送するための医薬の製造における、本明細書に報告されている抗体の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1-1】経細胞輸送アッセイ法のスキーム。
図1-2】経細胞輸送アッセイ法のスキーム。
図2】BIAcoreを使用して25℃で測定された種々の抗トランスフェリンレセプター抗体のオフレート。1:128.1;2:抗pTau抗体mAb86に融合した128.1;3:567;4:932;5:抗pTau抗体mAb86に融合した567;6:1026;7:1027;四角:カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する結合;丸:ヒトトランスフェリンレセプターに対する結合;y軸:オフレート[1/s]。
図3】BIAcoreを使用して37℃で測定された種々の抗トランスフェリンレセプター抗体のオフレート。1:128.1;2:932;3:1026;4:1027;四角:カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する結合;丸:ヒトトランスフェリンレセプターに対する結合;y軸:オフレート[1/s]。
【0052】
[本発明の実施態様の詳細な説明]
本明細書において、実施例8の経細胞輸送アッセイ法において、高い経細胞輸送を示す、ウサギ抗体299のヒト化変異体が報告される。同抗体は、ヒト及びカニクイザルトランスフェリンレセプターに対する交叉反応性を有する、すなわち、トランスフェリンレセプターの両オルソログに対して特異的に結合し、良好な細胞染色を示し、ヒトトランスフェリンレセプターに対して、カニクイザルトランスフェリンレセプターに対するマウス抗体128.1と同様の半減期(オフレートにより反映)を有する。
【0053】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプターに特異的に結合するヒト化抗体であって、
重鎖可変ドメインにおいて、配列番号:66、68、及び72のHVRと、
軽鎖可変ドメインにおいて、配列番号:75、76、及び78のHVRとを含む、
ヒト化抗体である。
【0054】
一実施態様において、本ヒト化抗体は、配列番号:24の重鎖可変ドメインと、配列番号:37の軽鎖可変ドメインとを含む。
【0055】
一実施態様において、本ヒト化抗体は、エフェクター機能サイレントである。
【0056】
一実施態様において、本ヒト化抗体は、ヒトトランスフェリンレセプター及びカニクイザルトランスフェリンレセプターに特異的に結合する。
【0057】
一実施態様において、本ヒト化抗体は、
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、又は
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235E、及び場合により、P329Gを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両重鎖における変異L234A、L235A、及びP329G、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
f)両重鎖における変異S228P、L235E、及び場合により、P329G、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体
である。
【0058】
本明細書に報告されている一態様は、
i)配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインを含む第1結合部位と、
ii)第2結合部位であって、
a)配列番号:81の重鎖可変ドメイン及び配列番号:82の軽鎖可変ドメイン、又は
b)配列番号:83の重鎖可変ドメイン及び配列番号:84の軽鎖可変ドメイン、又は
c)配列番号:85の重鎖可変ドメイン及び配列番号:86の軽鎖可変ドメイン、又は
d)配列番号:87の重鎖可変ドメイン及び配列番号:88の軽鎖可変ドメイン、又は
e)配列番号:91の重鎖可変ドメイン及び配列番号:92の軽鎖可変ドメイン、又は
f)配列番号:89の重鎖可変ドメイン及び配列番号:90の軽鎖可変ドメイン、又は
g)配列番号:93の重鎖可変ドメイン及び配列番号:94の軽鎖可変ドメイン、又は
h)配列番号:79の重鎖可変ドメイン及び配列番号:80の軽鎖可変ドメイン
から選択される第2結合部位と、
を含む二重特異性抗体である。
【0059】
本明細書に報告されている一態様は、本明細書に報告されている抗体と、場合により、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬製剤である。
【0060】
本明細書に報告されている一態様は、医薬として使用するための、本明細書に報告されている抗体である。
【0061】
本明細書に報告されている一態様は、神経障害の処置に使用するための、本明細書に報告されている抗体である。
【0062】
本明細書に報告されている一態様は、医薬の製造における、本明細書に報告されている抗体の使用である。
【0063】
本明細書に報告されている一態様は、神経障害を処置するために、本明細書に報告されている抗体を投与することを含む、処置方法である。
【0064】
本明細書における目的で、「アクセプターヒトフレームワーク」は、以下に定義されているヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク由来の軽鎖可変ドメイン(VL)フレームワーク又は重鎖可変ドメイン(VH)フレームワークのアミノ酸配列を含むフレームワークである。ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワーク「由来の」アクセプターヒトフレームワークは、それと同じアミノ酸配列を含んでもよいし、又は、同フレームワークは、アミノ酸配列の変化を含有してもよい。一部の実施態様では、アミノ酸変化の数は、10以下、9以下、8以下、7以下、6以下、5以下、4以下、3以下、又は2以下である。一部の実施態様では、VLアクセプターヒトフレームワークは、VLヒト免疫グロブリンフレームワーク配列又はヒトコンセンサスフレームワーク配列に対して同一の配列である。
【0065】
「親和性」は、分子(例えば、抗体)の1つの結合部位とその結合パートナー(例えば、抗原)との間における非共有的相互作用の総計強度を意味する。特に断りない限り、本明細書で使用する場合、「結合親和性」は、結合対メンバー(例えば、抗体と抗原)間における1:1の相互作用を反映する、固有の結合親和性を意味する。分子XのそのパートナーYに対する親和性は、一般的には、解離定数(Kd)により表現することができる。親和性は、本明細書に記載されているものを含めて、当技術分野において公知の一般的な方法により測定することができる。結合親和性を測定するための具体的な実例となり、かつ、例示的な実施態様は、以下に記載されている。
【0066】
「親和性成熟」抗体は、このような変異を有さない親抗体と比較して、1つ以上の超可変領域(HVR)において、1つ以上の変異を有する抗体を意味する。このような変異は、抗原に対する抗体の親和性における改善をもたらす。
【0067】
本明細書において、「抗体」という用語は、最も広い意味に使用され、種々の抗体構造を包含する。同抗体構造は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び、所望の抗原結合活性を示す限りにおいて抗体フラグメントを含むが、これらに限定されない。
【0068】
「抗体フラグメント」は、インタクトな抗体が結合する抗原に結合するインタクトな抗体の一部を含む、インタクトな抗体以外の分子を意味する。抗体フラグメントの例は、Fv、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’);ディアボディ;直線抗体;一本鎖抗体分子(例えば、scFv);及び抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体を含むが、これらに限定されない。
【0069】
「キメラ」抗体という用語は、重鎖及び/又は軽鎖の一部が特定のソース又は種に由来し、一方、重鎖及び/又は軽鎖の残り部分が、異なるソース又は種に由来する、抗体を意味する。
【0070】
抗体の「クラス」は、その重鎖により保有されている定常ドメイン又は定常領域の種類を意味する。5つの主なクラスの抗体:IgA、IgD、IgE、IgG、及びIgMが存在し、これらのいくつかは、サブクラス(アイソタイプ)、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA、及びIgAに更に分割することができる。種々のクラスの免疫グロブリンに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ、及びμと呼ばれる。
【0071】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、それらの生物学的活性を意味する。同Fc領域は、抗体クラスにより変化する。抗体のエフェクター機能の例は、C1q結合性及び補体依存性細胞毒性(CDC);Fcレセプター結合性;抗体依存性細胞媒介性細胞毒性(ADCC);食作用;細胞表面レセプター(例えば、B細胞レセプター)のダウンレギュレーション;及びB細胞活性化を含む。
【0072】
薬剤、例えば、医薬製剤の「有効量」は、所望の治療的又は予防的結果を達成するのに必要な用量及び期間において、有用な量を意味する。
【0073】
本明細書において、「Fc領域」という用語は、定常領域の少なくとも一部を含有する免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに使用される。この用語は、ネイティブな配列のFc領域及び変異型のFc領域を含む。一実施態様において、ヒトIgG重鎖Fc領域は、Cys226から又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端に広がっている。ただし、Fc領域のC末端リシン(Lys447)は、存在してもよいし、又は、存在しなくてもよい。本明細書において特に断りない限り、Fc領域又は定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242に記載されており、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
【0074】
「フレームワーク」又は「FR」は、超可変領域(HVR)残基以外の可変ドメイン残基を意味する。可変ドメインのFRは、一般的には、4つのFRドメイン:FR1、FR2、FR3、及びFR4からなる。したがって、HVR及びFR配列は、一般的には、VH(又はVL)における下記配列:FR1-H1(L1)-FR2-H2(L2)-FR3-H3(L3)-FR4で表される。
【0075】
「全長抗体」、「インタクトな抗体」、及び「全抗体」という用語は、ネイティブな抗体構造と実質的に同じ構造を有するか、又は、本明細書に定義されているFc領域を含有する重鎖を有する抗体を意味するのに、本明細書において互換的に使用される。
【0076】
「ホスト細胞」、「ホスト細胞系統」、及び「ホスト細胞培養物」という用語は、互換的に使用され、外因性の核酸が導入されている細胞を意味し、このような細胞の子孫を含む。ホスト細胞は、「トランスフォーマント」及び「トランスフォーメーションされた細胞」を含む。トランスフォーメーションされた細胞は、初代のトランスフォーメーションされた細胞と、継代回数に関わらずそれ由来の子孫とを含む。子孫は、核酸含量において、親細胞と完全に同一でなくてもよく、突然変異を含有してもよい。元のトランスフォーメーションされた細胞についてスクリーニング又は選択されたのと同じ機能又は生物学的活性を有する突然変異子孫は、本明細書に含まれる。
【0077】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において、最も一般的に出現するアミノ酸残基を表現するフレームワークである。一般的には、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、サブグループの可変ドメイン配列からである。一般的には、配列のサブグループは、Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD (1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3におけるサブグループである。一実施態様において、VLについて、サブグループは、前記Kabat et al.,におけるサブグループカッパIである。一実施態様において、VHについて、サブグループは、前記Kabat et al.,におけるサブグループIIIである。
【0078】
「ヒト化」抗体は、非ヒトHVR由来のアミノ酸残基と、ヒトFR由来のアミノ酸残基とを含むキメラ抗体を意味する。特定の実施態様では、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、及び典型的には2つの可変ドメインの実質的に全部を含むであろう。その中で、HVR(例えば、CDR)の全部又は実質的に全部が、非ヒト抗体のそれらに対応し、FRの全部又は実質的に全部が、ヒト抗体のそれらに対応する。ヒト化抗体は、場合により、ヒト抗体由来の抗体定常領域の少なくとも一部を含むことができる。抗体、例えば、非ヒト抗体の「ヒト化型」は、ヒト化を受けた抗体を意味する。
【0079】
本明細書で使用する場合、「超可変領域」又は「HVR」という用語は、配列において超可変性であり(「相補性決定領域」又は「CDR」)、構造的に規定されたループ(「超可変ループ」)を形成し、及び/又は、抗原接触残基(「抗原コンタクト」)を含有する、抗体の可変ドメインの各領域を意味する。一般的には、抗体は、6つのHVR;VHに3つ(H1、H2、H3)及びVLに3つ(L1、L2、L3)を含む。
【0080】
本明細書において、HVRは、
(a)アミノ酸残基26~32(L1)、50~52(L2)、91~96(L3)、26~32(H1)、53~55(H2)、及び96~101(H3)において生じる超可変ループ(Chothia, C. and Lesk, A.M., J. Mol. Biol. 196 (1987) 901-917)と、
(b)アミノ酸残基24~34(L1)、50~56(L2)、89~97(L3)、31~35b(H1)、50~65(H2)、及び95~102(H3)において生じるCDR(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD (1991), NIH Publication 91-3242)と、
(c)アミノ酸残基27c~36(L1)、46~55(L2)、89~96(L3)、30~35b(H1)、47~58(H2)、及び93~101(H3)において生じる抗原コンタクト(MacCallum et al. J. Mol. Biol. 262: 732-745 (1996))と、
(d)HVRアミノ酸残基46~56(L2)、47~56(L2)、48~56(L2)、49~56(L2)、26~35(H1)、26~35b(H1)、49~65(H2)、93~102(H3)、及び94~102(H3)を含む、(a)、(b)、及び/又は(c)の組み合わせとを含む。
【0081】
特に断りない限り、可変ドメイン中のHVR残基及び他の残基(例えば、FR残基)は、本明細書において、前記Kobat et al.,に従ってナンバリングされる。
【0082】
「個体」又は「対象」は、哺乳類である。哺乳類は、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ、及びウマ)、霊長類(例えば、ヒト及び非ヒト霊長類、例えば、サル)、ウサギ、ならびにげっ歯類(例えば、マウス及びラット)を含むが、これらに限定されない。特定の実施態様では、個体又は対象は、ヒトである。
【0083】
「単離された抗体」は、その本来の環境の成分から分離されているものである。一部の実施態様では、抗体は、例えば、電気泳動(例えば、SDS-PAGE、等電点電気泳動(IEF)、キャピラリー電気泳動)又はクロマトグラフィー(例えば、イオン交換もしくは逆相HPLC)により決定された場合、95%又は99%より高い純度に精製される。抗体純度を評価するための方法のレビューについては、例えば、Flatman, S. et al., J. Chromatogr. B 848 (2007) 79-87を参照のこと。
【0084】
「単離された核酸」は、その本来の環境の成分から分離されている核酸分子を意味する。単離された核酸は、核酸分子を通常含有する細胞中に含有されるが、この核酸分子が、染色体外又はその本来の染色体位置とは異なる染色体位置に存在する核酸分子を含む。
【0085】
本明細書で使用する場合、「モノクローナル抗体」という用語は、実質的に均質な抗体の集団から得られた抗体を意味する。すなわち、この集団に含まれる個々の抗体は、例えば、自然発生的に生じる変異を含有し、又は、モノクローナル抗体調製物の産生中に生じる可能性ある変異型抗体を除いて、同一であり、及び/又は、同じエピトープに結合する。このような変異体は、一般的には、少量しか存在しない。種々の決定因子(エピトープ)に対する種々の抗体を典型的に含むポリクローナル抗体調製物とは対照的に、モノクローナル抗体調製物の各モノクローナル抗体は、抗原上の1つの決定因子を対象にする。このため、「モノクローナル」という修飾語は、抗体の実質的に均質な集団から得られた抗体の特徴を示し、任意の特定の方法による抗体の産生を必要とすると解釈されるものではない。例えば、本発明に基づいて使用されるモノクローナル抗体は、各種の技術により調製することができる。同技術は、ハイブリドーマ法、リコンビナントDNA法、ファージディスプレイ法、及びヒト免疫グロブリンローカスの全部又は一部を含有するトランスジェニック動物を利用する方法を含むが、これらに限定されない。モノクローナル抗体を調製するためのこのような方法及び他の例示的な方法は、本明細書に記載されている。
【0086】
「ネイティブな抗体」は、変化する構造を有する、天然の免疫グロブリン分子を意味する。例えば、ネイティブなIgG抗体は、約150,000ダルトンのヘテロ四量体糖タンパク質であり、ジスルフィド結合している、2つの同一の軽鎖と2つの同一の重鎖とから構成される。N末端からC末端にかけて、各重鎖は、可変重鎖ドメイン又は重鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VH)、続けて、3つの定常ドメイン(CH1、CH2、及びCH3)を有する。同様に、N末端からC末端にかけて、各軽鎖は、可変軽鎖ドメイン又は軽鎖可変ドメインとも呼ばれる可変領域(VL)、続けて、定常軽鎖(CL)ドメインを有する。抗体の軽鎖は、その定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる2種類の内の1つに割り当てることができる。
【0087】
「添付文書」という用語は、治療剤製品の商業的な梱包に習慣的に含まれる説明書を意味するのに使用され、適用症、用途、用量、投与、組み合わせ治療、禁忌、及び/又はこのような治療剤製品の使用に関する警告についての情報を含有する。
【0088】
参照ポリペプチド配列に対する「パーセント(%)アミノ酸配列同一性」は、配列同一性の一部として保存的置換を何ら考慮せずに、配列をアライメントし、必要に応じてギャップを導入して、最大のパーセント同一性を達成した後の、参照ポリペプチド配列中のアミノ酸残基と同一である、候補配列中のアミノ酸残基の割合として定義される。パーセントアミノ酸配列同一性を決定する目的でのアライメントは、当技術分野における技術の範囲内にある種々の方法で、例えば、一般的に利用可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを使用して達成することができる。当業者であれば、配列をアライメントするための適切なパラメータを決定することができる。同パラメータは、比較される配列の全長にわたる最大アライメントを達成するのに必要とされる任意のアルゴリズムを含む。ただし、本明細書の目的で、% アミノ酸配列同一性値は、配列比較コンピュータプログラムであるALING-2を使用して生成される。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、Genentech, Inc.,により作製され、ソースコードは、U.S. Copyright Office, Washington D.C., 20559にユーザ文書としてファイルされており、同ソースコードは、著作権登録番号TXU510087として登録されている。ALIGN-2プログラムは、Genentech, Inc., South San Francisco, Californiaから一般的に利用可能であり、又は、ソースコードからコンパイルすることができる。ALIGN-2プログラムは、デジタルUNIX V4.0Dを含むUNIXオペレイティングシステムでの使用のためにコンパイルされるべきである。全ての配列比較パラメータは、ALIGN-2プログラムにより設定されており、変更しない。
【0089】
ALIGN-2がアミノ酸配列比較に利用される状況において、所定のアミノ酸配列Bへの、同配列Bと共に、又は、同配列Bに対する、所定のアミノ酸配列Aの% アミノ酸配列同一性(% アミノ酸配列同一性は、所定のアミノ酸配列Bへの、同配列Bと共に、又は、同配列Bに対する、特定の% アミノ酸配列同一性を有する又は含む所定のアミノ酸配列Aとして代替的に表現することができる)は、下記のように算出される。
100×分数X/Y
【0090】
式中、Xは、配列アライメントプログラムALIGN-2により、A及びBのそのプラグラムアライメントにおいて、同一マッチとしてスコアされたアミノ酸残基数であり、Yは、B中のアミノ酸残基の総数である。アミノ酸配列Aの長さは、アミノ酸配列Bの長さと等しくなく、Bに対するAの% アミノ酸配列同一性は、Aに対するBの% アミノ酸配列同一性と等しくないであろうことを理解されたい。特に断りない限り、本明細書において使用される全ての% アミノ酸配列同一性値は、ALIGN-2コンピュータプログラムを使用して、直前の段落に記載されているように得られる。
【0091】
「医薬製剤」という用語は、有効であるようにそれに含有される活性成分の生物学的活性を可能にするような形態にあり、この製剤が投与されるであろう対象に許容できない毒性を有する更なる成分を含有しない調製物を意味する。
【0092】
「薬学的に許容し得る担体」は、活性成分以外の医薬製剤中の成分を意味し、対象に対して毒性を有さない。薬学的に許容し得る担体は、バッファー、賦形剤、安定剤、又は保存剤を含むが、これらに限定されない。
【0093】
本明細書で使用する場合、「処置」(及びその文法上のバリエーション、例えば、「処置する」又は「処置すること」)は、処置される個体の本来の経過を変化させる試みにおける臨床的介在を意味し、予防のため又は臨床病理の経過中のいずれかにおいて行うことができる。処置の望ましい効果は、疾患の発生又は再発を予防すること、兆候の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的結果の減弱、転移の予防、疾患の進展速度の低下、疾患状態の改善又は寛解、及び緩和又は改善された予後を含むが、これらに限定されない。一部の実施態様では、本発明の抗体は、疾患の進行を遅延させ、又は、疾患の進展を遅らせるのに使用される。
【0094】
「可変領域」又は「可変ドメイン」という用語は、抗原に抗体を結合させるのに関与する抗体の重鎖又は軽鎖のドメインを意味する。ネイティブな抗体の重鎖及び軽鎖の可変ドメイン(それぞれ、VH及びVL)は、一般的には、4つの保存フレームワーク領域(FR)と3つの超可変領域(HVR)とを含む各ドメインを有する類似構造を有する(例えば、Kindt, T.J. et al. Kuby Immunology, 6th ed., W.H. Freeman and Co., N.Y. (2007), page 91を参照のこと)。1つのVH又はVLドメインは、抗原結合特異性を付与するのに十分であることができる。さらに、特定の抗原に結合する抗体は、相補なVL又はVHドメインそれぞれのライブラリをスクリーニングするための抗原に結合する抗体からのVH又はVLドメインを使用して単離することができる。例えば、Portolano, S. et al., J. Immunol. 150 (1993) 880-887; Clackson, T. et al., Nature 352 (1991) 624-628を参照のこと。可変領域(軽鎖及び重鎖の可変領域)におけるアミノ酸残基のナンバリングは、Kabatに従って行われるであろう(Kabat, E.A. et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th ed., Bethesda MD (1991), NIH Publication 91-3242, Vols. 1-3)。
【0095】
本明細書で使用する場合、「ベクター」という用語は、それに連結している別の核酸を伝播することができる核酸分子を意味する。この用語は、自己複製核酸構築物としてのベクターと、それが導入されるホスト細胞のゲノム内に組み込まれるベクターとを含む。特定のベクターは、それらが操作可能に連結している核酸の発現に向けさせることができる。このようなベクターは、本明細書において、「発現ベクター」と呼ばれる。
【0096】
「血液脳関門(BBB)」という用語は、周辺環境と脳及び脊髄との間の生理学的な関門を意味し、脳の毛細血管内皮形質膜内のタイトジャンクションにより形成され、尿素(60ダルトン)等の非常に小さな分子であっても、脳への分子の輸送を制限するタイトな関門を生じさせる。脳内のBBB、脊髄内の血液脊髄関門、及び網膜内の血液網膜関門は、CNS内の連続する毛細血管関門であり、本明細書においてまとめて、血液脳関門又はBBBと呼ばれる。BBBは、血液CSF関門(脈絡叢)も包含する。この場合、同関門は、毛細血管内皮細胞よりむしろ上衣細胞に含まれる。
【0097】
「中枢神経系(CNS)」という用語は、身体機能をコントロールする神経組織の複雑系を意味し、脳及び脊髄を含む。
【0098】
「血液脳関門レセプター(BBBR)」という用語は、BBBを通過させて分子を輸送可能であるか、又は、外来的に投与された分子を輸送するのに使用される、脳の内皮細胞上に発現している細胞外膜結合レセプタータンパク質を意味する。BBBRの例は、トランスフェリンレセプター(TfR)、インスリンレセプター、インスリン様成長因子レセプター(IGF-R)、低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質1(LRP1)及び低密度リポタンパク質レセプター関連タンパク質8(LRP8)を含むがこれらに限定されない低密度リポタンパク質レセプター、ならびにヘパリン結合上皮成長因子様成長因子(HB-EGF)を含むが、これらに限定されない。例示的なBBBRは、トランスフェリンレセプター(TfR)である。
【0099】
「脳エフェクター実体」という用語は、BBBを通過させて脳に輸送される分子を意味する。同エフェクター実体は、典型的には、脳に輸送されるのが望ましい特徴的な治療活性を有する。エフェクター実体は、神経障害剤及び細胞毒、例えば、脳ターゲットに対するポリペプチド及び抗体、特に、モノクローナル抗体又はそのフラグメント等を含む。
【0100】
「一価の結合実体」という用語は、BBBRに対して一価の結合方式で、特異的に結合可能な分子を意味する。本明細書に報告されている血液脳シャトルモジュール及び/又はコンジュゲートは、一単位の一価の結合実体の存在により特徴付けられる。すなわち、本発明の血液脳シャトルモジュール及び/又はコンジュゲートは、一単位の一価の結合実体を正確に含む。一価の結合実体は、ポリペプチド、全長抗体、Fab、Fab’、Fvフラグメントを含む抗体フラグメント、一本鎖抗体分子、例えば、一本鎖Fab、scFvを含むが、これらに限定されない。一価の結合実体は、例えば、ファージディスプレイ又は免疫化等の当技術分野における技術水準を使用して操作された足場タンパク質であることができる。一価の結合実体は、ポリペプチドであることもできる。特定の実施態様では、一価の結合実体は、血液脳関門レセプターに対する、CH2-CH3 Igドメイン及び一本鎖Fab(scFab)を含む。scFabは、CH2-CH3 IgドメインのC末端にリンカーにより連結している。特定の実施態様では、scFabは、トランスフェリンレセプターを対象にする。
【0101】
「一価の結合方式」という用語は、一価の結合実体とBBBRとの間の相互作用が、1つの単独のエピトープにより行われる、BBBRに対する特異的な結合を意味する。一価の結合方式は、単独のエピトープ相互作用点のために、BBBRの任意の二量体化/多量体化を防止する。一価の結合方式は、BBBRの細胞内局在が変化するのを防止する。
【0102】
「エピトープ」という用語は、抗体への特異的な結合を可能にする、任意のポリペプチド決定因子を意味する。特定の実施態様では、エピトープ決定因子は、分子の化学的に活性な表面分類、例えば、アミノ酸、糖側鎖、ホスホリル、又はスルホニルを含み、特定の実施態様では、特定の三次元構造特性及び/又は特定の電荷特性を有することができる。エピトープは、抗体により結合される抗原の領域である。
【0103】
「トランスフェリンレセプター」(TfR)は、2つのジスルフィド結合しているサブユニット(それぞれ、約90,000Daの見かけの分子量)から構成されており、脊椎動物における鉄の取込みに関与する、(約180,000Daの分子量を有する)膜貫通糖タンパク質である。一実施態様において、本明細書におけるTfRは、Schneider et al.(Nature 311 (1984) 675 - 678)に報告されているアミノ酸配列を含むヒトTfRである。
【0104】
「イメージング剤」の用語は、直接又は間接的に、その存在及び/又は位置の検出を可能にする、1つ以上の特性を有する化合物を意味する。このようなイメージング剤の例は、検出を可能にするラベルされた実体を包含するタンパク質及び小分子化合物を含む。
【0105】
「CNS抗原」及び「脳ターゲット」という用語は、脳を含むCNSにおいて発現している抗原及び/又は分子を意味し、抗体又は小分子でターゲッティングすることができる。このような抗原及び/又は分子の例は、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、アミロイドベータ(Aベータ)、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)、Tau、アポリポタンパク質E4(ApoE4)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、デスレセプター6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィンレセプター(p75NTR)、グルコセレブロシダーゼ、及びカスパーゼ6を含むが、これらに限定されない。
【0106】
「特異的に結合する」という用語は、抗原に選択的又は優先的に結合する抗体を意味する。結合親和性は、一般的には、標準的なアッセイ法、例えば、Scatchard分析又は表面プラズモン共鳴技術(例えば、BIACORE(登録商標)を使用)を使用して決定される。
【0107】
本明細書で使用する場合、「CH2-CH3 Ig実体」という用語は、免疫グロブリンCH2又はCH3ドメイン由来のタンパク質実体を意味する。「CH2-CH3 Ig実体」は、二量体を形成する2つの「CH2-CH3」ポリペプチドを含む。免疫グロブリンは、IgG、IgA、IgD、IgE、又はIgMであることができる。一実施態様において、IgGの免疫グロブリン由来のCH2-CH3 Ig実体は、本明細書において、「CH2-CH3 IgG実体」と呼ばれる。この用語は、CH2-CH3ドメインのネイティブな配列と、変異型CH2-CH3ドメインとを含む。一実施態様において、「CH2-CH3 Ig実体」は、Cys226又はPro230から、重鎖のカルボキシル末端にかけて広がる、ヒト重鎖CH2-CH3 IgGドメインから得られる。ただし、Fc領域のC末端リシン(Lys447)は、存在してもよいし、又は、存在しなくてもよい。本明細書において特に断りない限り、CH2-CH3ドメイン領域又は定常領域中のアミノ酸残基のナンバリングは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD, 1991に記載されており、EUインデックスとも呼ばれる、EUナンバリングシステムに従う。
【0108】
「コンジュゲート」は、ラベル、神経障害剤、又は細胞毒物を含むが、これらに限定されない、1つ以上の異種分子にコンジュゲートしている、本発明の融合タンパク質である。
【0109】
「リンカー」という用語は、本明細書に報告されている血液脳関門シャトルモジュール及び/又は融合ポリペプチド及び/又はコンジュゲートの種々の実体を共有結合する化学的リンカー又は一本鎖ペプチドリンカーを意味する。リンカーは、例えば、脳エフェクター実体を一価の結合実体に結合する。例えば、一価の結合実体が、血液脳関門レセプターに対する、CH2-CH3 Ig実体及びscFabを含む場合、リンカーは、scFabをCH3-CH2 Ig実体のC末端にコンジュゲートする。脳エフェクター実体を一価の結合実体にコンジュゲートさせるリンカー(第1リンカー)及びscFabをCH2-CH3 IgドメインのC末端に結合させるリンカー(第2リンカー)は、同じであることができ、又は、異なることができる。
【0110】
ペプチド結合により結合する1~20個のアミノ酸残基から構成される一本鎖ペプチドリンカーを使用することができる。特定の実施態様では、このアミノ酸は、20個の天然のアミノ酸から選択される。特定の他の実施態様では、このアミノ酸の1つ以上は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、及びリシンから選択される。他の実施態様では、リンカーは、化学的リンカーである。特定の実施態様では、リンカーは、少なくとも25個のアミノ酸残基の長さを有する、好ましい一実施態様では、32~50個のアミノ酸残基の長さを有する、アミノ酸配列の一本鎖ペプチドリンカーである。一実施態様において、ペプチドリンカーは、(GxS)nリンカーである。ここで、G=グリシンであり、S=セリンであり、(x=3、n=8、9、又は10)又は(x=4及びn=6、7、又は8)であり、一実施態様において、x=4、n=6又は7であり、好ましい一実施態様では、x=4、n=7である。一実施態様において、リンカーは、(G4S)4(配列番号:95)である。一実施態様において、リンカーは、(G4S)6G2(配列番号:96)である。
【0111】
コンジュゲーションは、各種の化学的リンカーを使用して行うことができる。例えば、一価の結合実体又は融合ポリペプチド及び脳エフェクター実体は、各種の二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロパノアート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン 2,6-ジイソシアナート)、及びビス活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロンベンゼン)を使用してコンジュゲートすることができる。リンカーは、脳への送達に基づいて、エフェクター実体の放出を容易にする「開裂性リンカー」であることができる。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al, Cancer Res. 52 (1992) 127-131;米国特許第5,208,020号)を使用することができる。
【0112】
共有コンジュゲーションは、直接又はリンカーを介してのいずれかであることができる。特定の実施態様では、直接コンジュゲーションは、ポリペプチド融合物の構築による(すなわち、BBBRに対する一価の結合実体及びエフェクター実体をコードし、1つのポリペプチド(鎖)として発現される、2つの遺伝子の遺伝的融合による)。特定の実施態様では、直接コンジュゲーションは、BBBRに対する一価の結合実体の2つの部分の内の一方における反応性基と脳エフェクター実体における対応する基又はアクセプターとの間における共有結合の形成による。特定の実施態様では、直接コンジュゲーションは、適切な条件下において、コンジュゲートする他の分子に対する共有結合を形成する反応性基(非限定的な例として、スルフヒドリル基又はカルボキシル基)を含むようにコンジュゲートする2つの分子の内の一方の改変(すなわち、遺伝的改変)による。1つの非限定的な例として、所望の反応性基(すなわち、システイン残基)を有する分子(すなわち、アミノ酸)は、例えば、BBBR抗体に対する一価の結合実体内に導入することができ、ジスルフィド結合は、神経剤と形成することができる。核酸をタンパク質に共有コンジュゲーションする方法も、当技術分野において公知である(すなわち、光架橋、例えば、Zatsepin et al. Russ. Chem. Rev. 74 (2005) 77-95を参照のこと)。コンジュゲーションは、各種のリンカーを使用しても行うことができる。例えば、一価の結合実体及びエフェクター実体は、各種の二官能性タンパク質カップリング剤、例えば、N-スクシンイミジル-3-(2-ピリジルジチオ)プロピオナート(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシラート(SMCC)、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二官能性誘導体(例えば、ジメチルアジピミダートHCl)、活性エステル(例えば、ジスクシンイミジルスベラート)、アルデヒド(例えば、グルタルアルデヒド)、ビスアジド化合物(例えば、ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサジアミン)、ビス-ジアゾニウム誘導体(例えば、ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン)、ジイソシアナート(例えば、トルエン 2,6-ジイソシアナート)、及びビス活性フッ素化合物(例えば、1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロンベンゼン)を使用してコンジュゲートすることができる。ペプチド結合により結合する1~20個のアミノ酸残基から構成されるペプチドリンカーも使用することができる。特定のこのような実施態様では、アミノ酸残基は、20個の天然のアミノ酸から選択される。特定の他のこのような実施態様では、アミノ酸残基の1つ以上は、グリシン、アラニン、プロリン、アスパラギン、グルタミン、及びリシンから選択される。リンカーは、脳への送達に基づいて、エフェクター実体の放出を容易にする「開裂性リンカー」であることができる。例えば、酸不安定性リンカー、ペプチダーゼ感受性リンカー、光不安定性リンカー、ジメチルリンカー、又はジスルフィド含有リンカー(Chari et al, Cancer Res. 52 (1992) 127-131;米国特許第5,208,020号)を使用することができる。
【0113】
II.組成物及び方法
平衡解離定数(K)は、分子間相互作用を説明するのに、一般的に使用される。平衡解離定数は、2つの分子の互いに対する相互作用強度(例えば、親和性)の測定値として使用される。このため、K値は、生体分子間の相互作用の強度についての測定値である。
【0114】
なお、K値は、分子間相互作用の動力学を説明しない、すなわち、K値から、2つの分子が互いにどの程度素早く結合するのか(会合速度定数又は「オンレート」)を推測することができない一方で、これらの分子がどの程度素早く解離するのか(解離速度定数又は「オフレート」)を推測することができない。そのようなK値によってのみ生体分子間の相互作用を特徴付けることは、K値がその比であるため、同一のK値が極端に異なる(桁違いの)オン及びオフレートにより構成される場合があるという事実を無視することになる。
【0115】
ただし、on及びオフレートは、分子の結合挙動を特徴付けるのに重要である。オフレートは、オフ例えば、抗体のその抗原に対する結合期間を特徴付けるので、特に重要である。長いオフレートは、形成された複合体の遅い解離に相関する。一方、短いオフレートは、素早い解離に相関する。
【0116】
長い持続性(すなわち、頻繁な投与をほとんど必要としない)又はテーラーメイド(例えば、周囲の条件に応じて)の相互作用を有するために、オフレートは、実験的に決定されなければならない。これは、オフレートをほとんど予測することができないため、更に重要である。加えて、オフレートと結合親和性との間の相関は、上記概説されたように乏しい。例えば、K値がオンレートとオフレートとの比であるという事実のために、弱いバインダーであっても、そのターゲットに長く結合したままである場合がある一方で、密接なバインダーは、急速に解離する場合がある。
【0117】
抗体生成プロジェクトの典型的なボトルネックは、抗体結合強度に基づいたパンニング後に得られた多くの候補の順位付けである。理想的には、このような方法は、抗原の前もってのラベルリングなしに、粗製の細菌ライゼートにより行うであろう。Ylera, F., et al.(Anal. Biochem. 441 (2013) 208-213)において、一価Fabフラグメントを含有する粗製のEscherichia coliライゼートにおける高親和性の抗薬剤抗体を選択するために、オフレートをスクリーニングするための方法が報告された。それらは、順位付けパラメータとして選択されたオフレートを有する。中でも、オフレートが、濃度依存性であるためである。それらは、全長IgGとして観察されるであろうため、オフレートの順位付け及び親和性測定中の結合活性作用を避けるために、一価フォーマットを選択している。Ylera et al.によって、最良のkオフレートを有するクローンがkオフ順位付け工程により特定されたが、選択評価基準としてELISAシグナル強度のみを使用して特定されなかったであろうことが見出された。
【0118】
Murray, J.B., et al.(J. Med. Chem. 57 (2014) 2845-2850)において、非精製反応生成物から化学空間をもたらすのに、動力学的にサンプルをヒットさせる効率的な方法として、表面プラズモン共鳴によるオフレートスクリーニング(ORS)が報告された。解離速度定数kd(オフレート)が、化合物の活性を向上させる最も顕著な可能性を有するリガンド-タンパク質結合の成分であることが概説されている。著者らは、薬剤創出プログラム全体を通して動力学的に親和性を測定することは、定常状態の親和性平衡測定より有益である、と概説している。例えば、10倍遅いオンレート及びオフレートを有する化合物は、親和性の平衡測定により評価された場合、異なるとは認識されないであろう。さらに、著者らは、BIAcore T200機器により測定されたデータが粗製サンプルと純粋なサンプルとの間のkdにおける、19%の平均差を示し、同様に、より旧式のBIAcore T100機器により測定されたデータが15%の差を有したことを見出した。著者らは、機器間及び時間間で比較した場合、kdが平均30%のみまで変動することを観察している。これにより、キャリーオーバー汚染、長期保存、及び機器差が観察されたkdに少しの影響を有することが証明されている。実際に、kdにおけるこれらの小さな偏差は、多施設研究において観察された差を密接に反映している。この場合、観察された変動は、システムに応じて、14%~40%であると報告されている(Murray, J.B., et al., J. Med. Chem. 57 (2014) 2845-2850;Katsamba, P.S., et al., Anal. Biochem. 352 (2006) 208-221)。
【0119】
国際公開公報第2014/189973号には、抗トランスフェリンレセプター抗体及び使用方法が報告されている。BBBレセプターを伝統的な特異的高親和性抗体によりターゲッティングすることにより、一般的に、BBB輸送における限定された増大がもたらされることが更に報告されている。CNS内への抗体の取込みの大きさ及びCNSにおける分布は、研究された抗BBB抗体の中で、BBBレセプターに対するその結合親和性に逆相関することが、後に見出された。例えば、治療用量レベルで投与されたトランスフェリンレセプター(TfR)に対する低親和性抗体により、高親和性抗TfR抗体に対して、抗TfR抗体のBBB輸送及びCNS保持がかなり改善され、CNSにおける治療濃度をより容易に保持することが可能である(Atwal et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra43)。このようなBBB輸送の証明が、TfRとアミロイド前駆体タンパク質(APP)開裂酵素であるβ-セクレターゼ(BACE1)との両方に結合する二重特異性抗体を使用して達成された。低親和性抗体を使用して操作された二重特異性抗TfR/BACE1抗体の1回の全身投与によって、脳への顕著な抗体取込みがもたらされるだけでなく、単特異的抗BACE1単独と比較して、脳Aβ1-40のレベルを劇的に低下する。このことから、BBB浸透が、抗BACE1の能力により影響を受けることが示唆している(Atwal et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra43;Yu et al., Sci. Transl. Med. 3 (2011) 84ra44)。
【0120】
利用可能なデータ及び実験から、より低い親和性の抗体アプローチを使用してCNS内への抗体の取込みを増大させる背景にある、幾つかの原因となるメカニズムが強調される。
【0121】
第一に、高親和性抗BBBレセプター(BBB-R)抗体(例えば、前記Atwal et al.及びYu et al.,からの抗TfR抗体)は、脳の脈管構造におけるBBB-Rを素早く飽和させることにより脳への取込みを制限するため、脳内に取り込まれる抗体の総量が減少し、脈管構造へのその分布も制限される。際立って、BBB-Rに対する親和性を低下させることにより、脈管構造からCNS内に分布されたニューロン及び関連するニューロピルへの位置において観察された堅牢なシフトを伴って、脳への取込み及び分布が改善される。親和性は、特定の上限レベルを下回り、特定の下限レベルを上回る必要があることが見出されている。
【0122】
第二に、BBB-Rに対する抗体のより低い親和性は、膜のCNS側から、BBB-Rを介してBBBの血管側に戻る抗体の能力を損なわせるのに提案されている。BBB-Rに対する抗体の親和性全体は低く、BBBのCNS側での抗体の局所的な濃度は、CNS区画内の抗体の急速な分散により飽和しないためである。
【0123】
第三に、in vivoにおいて、TfR系について観察されたように、BBB-Rに対してほとんど親和性を有さない抗体は、BBB-Rに対するより高い親和性を有する抗体と同程度に効率的に、この系から排出されないため、そのより高い親和性の対照物より高い循環濃度のままである。これは、より低い親和性の抗体の循環抗体レベルが治療レベルでより高い親和性の抗体より長い期間持続されるため、有利である。その結果として、脳への抗体の取込みが、より長い期間改善される。さらに、血漿及び脳の両方の曝露におけるこの改善は、臨床における投与頻度を少なくすることができ、患者のコンプライアンス及び都合に有力な利益を有するだけでなく、抗体及び/又はそれに結合した治療化合物の任意の可能性のある副作用又はオフターゲット作用を減少させるであろう。
【0124】
これらの以前の研究は、マウス抗体を利用していた。同マウス抗体は、マウスTfRに特異的に結合したが、霊長類又はヒトTfRを特異的に認識しなかった。したがって、本明細書において、ヒトにおける治療的又は診断的使用の前に、抗体による霊長類における安全性及び有効性研究を容易にするために、霊長類、特に、カニクイザル及びヒトTfRの両方を特異的に認識する、抗体及びその機能性部分が提供される。
【0125】
治療用途を意図したモノクローナル抗体(mAb)の徹底的な非臨床安全性評価は、非常に重要である。抗体の操作態様の複雑性及び抗体生成のためのリコンビナント生成細胞系の多様性により誘引される可変性が増大するためである。さらに、伝統的な小分子薬剤と比較して、mAbのその複雑な構造、固有の生物学的機能、及びより長い半減期が、慢性疾患の処置についてのmAbの長い臨床使用による懸念に加えて、安全性の考慮に加わる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Kim, S.J., et al., Mol. Cells 20 (2005) 17-29)。
【0126】
mAbについての非臨床研究の全体としての目的は、対象となるmAbの毒性学的特性を定義し、製品開発のための情報を提供することである。非臨床評価の主な目的は、毒性についてのターゲット臓器の特定およびその毒性が処置により可逆的であるかどうかを判定すること、(2)ヒト第I相臨床試験に安全な開始用量及びその後の用量増大スキームの特定、(3)臨床試験において安全性パラメータをモニターする情報の提供、及び(4)製品ラベルに要求を支持する安全性データを提供することである。これらの目的を達成するために、抗体の薬理学的特性を定義し、理解するのに役立つ、in vitro及びin vivoの両方における非臨床研究が行われている(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Cavagnaro, J.A., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.)「Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals」; Hoboken, NJ: Wiley 2008; 45-65)。
【0127】
mAbの非臨床安全性評価の成功のために、最も関連する動物種が、毒性試験に選択される必要がある(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Chapman, K., et al., Nat. Rev. Drug Discov. 6 (2007) 120-126)。関連する種は、抗体が薬理学的に活性であり、ターゲット抗原が存在し、又は、発現されている必要があり、組織交叉反応性プロファイルがヒトに類似している必要がある種である(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Chapman, K., et al., Nat. Rev. Drug Discov. 6 (2007) 120-126;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。免疫化学及び機能アッセイ法を使用して、所望のエピトープを発現し、ヒト組織に類似する組織交叉反応性プロファイルを説明している関連する動物種を特定することができる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。種交叉反応性研究は、このプロセスにおいて有用であり、市販の多種組織マイクロアレイを使用する、各種の種からの組織の免疫組織化学的調査を含む(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Hall, W.C., et al., In: Cavagnaro, J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 207-240)。あるいは、蛍光活性化セルソーター(FACS)によるこれらの動物からの細胞に対する抗体結合性の評価は、典型的には、細胞切片の免疫組織学的分析より高感度である(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205)。ターゲット抗原のDNA及びアミノ酸配列が、種間で比較される必要があり、種間のホモロジーが判定される必要がある(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11;Subramanyam, M. and Mertsching, E., In: Cavagnaro J.A. (Ed.); Preclinical safety evaluation of biopharmaceuticals. Hoboken, NJ: Wiley 2008; 181-205)。
【0128】
加えて、抗原の生体分布、機能、及び構造は、ターゲット抗原の抗体結合により生じる毒性の評価を可能するために、関連する動物種とヒトとの間で比較可能である必要がある。同毒性は、onターゲット毒性と呼ばれる(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11; 19,20)。さらに、動物種及びヒトにおいて、ターゲット抗原組織分布における強力な類似性から、動物において特定されたターゲット臓器の毒性が、ヒトにおいて可能性ある毒性を予測するであろうことが考えられる。動物種とヒトとの間の抗原組織分布における類似性の欠如は、毒性研究のための動物種の使用を全体としては妨げるものではないが、これらの差異は、ヒトのリスク評価に考慮されるべきである。抗原密度又は親和性についても同様に、動物モデルとヒトとの間の絶対的な同等性は求められない。毒性試験に選択された種の関連性についての正当化は、規制の順守に含まれる必要がある。1種のみが安全性評価に使用される場合、更なる関連種の不存在を説明する実験概要が保証される(Lynch, C.M., et al., mAbs 1 (2009) 2-11)。
【0129】
治療的使用が意図されたモノクローナル抗体が、種交叉反応性をいずれも有さない場合、代理抗体又はそのモデルについて異なる種が使用される必要がある。このため、代理抗体は、制限された種交叉反応性を有するヒト化モノクローナル抗体により可能となる、限定された安全性試験に対する可能性のある解決策である。しかしながら、現在、可能性のある代理抗体が臨床薬についての安全性問題を判定するために使用するのに先立って判定されるべきであるという評価基準は定義されていない(Regulatory Toxicology and Pharmacology Volume 40, Issue 3, December 2004, Pages 219-226)。
【0130】
このため、特定のmAbについての動物モデルを特定するために、上記考慮がなされる必要があるが、それにも関わらず、対象となるmAbが、試験種のターゲット抗原に対する交叉反応性を有することが必要である。他にも、最も適切な試験種であっても使用することができない場合がある。したがって、ヒト及び非臨床試験を意図した種におけるそのターゲットについて、種内交叉反応性を有しないが、種間交叉反応性を有する、mAbについての必要性が存在する。
【0131】
A.例示的な抗トランスフェリン抗体
本明細書において、適切なBBB輸送を確保するために、特定の範囲内にあるヒトトランスフェリンレセプターに対する結合性に対するオフレートを有する、抗トランスフェリンレセプター抗体が報告される。この範囲は、カニクイザルトランスフェリンレセプターについての表面プラズモン共鳴により測定されるマウス抗トランスフェリンレセプター抗体128.1(配列番号:64及び65で与えられる可変ドメインアミノ酸配列)のオフレートによる一端、及び、そのオフレートの5%(すなわち、20倍遅い解離)による他端において定義される。一実施態様において、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートは、0.11/s~0.0051/sであり、これらを含む。
【0132】
本明細書に報告されているクローン299のヒト化抗体は、標準的なヒト化技術を適用することにより利用できなかった。意図した範囲内で、0.11/s及び0.0051/sを含むトランスフェリンレセプター結合オフレートを有するヒト化抗体を得るために、アミノ酸配列に非標準的な変異を導入する必要があった。このことは、本明細書に報告されている抗体がヒト血液脳関門を通過させ、治療ペイロードを脳内に輸送するために開発されるため、特に重要である。
【0133】
適切で、開発可能なヒト化抗体を得るために、親ウサギ抗体の軽鎖における2つのシステインアミノ酸残基が、プロリン及びアスパラギンアミノ酸残基それぞれにより置き換えられなければならないことが見出された。所定のオフレート範囲内にあるのに加えて、ウサギCDRL3の中央に存在するセリン残基は、アラニン残基に置き換えられなければならなかった。
【0134】
重鎖の65、100g、及び105位(Kabatに従ったナンバリング)における3つのアミノ酸残基を変化させるのが有利であることが、更に見出された。
【0135】
本明細書で使用される全てのナンバリングは、Kabatの可変ドメインナンバリングスキームに基づいている。
【0136】
ウサギ抗トランスフェリン抗体クローン299は、抗トランスフェリンレセプター抗体128.1の特性に匹敵する特性を示した。これは、下記表から分かる。
【0137】
【表1】
【0138】
下記表において、クローン299のウサギ重鎖可ドメインのヒト化変異体との組み合わせにおける、クローン299のウサギ軽鎖可変ドメインのヒト化変異体のオフレートが示される。結合パートナーは、ヒトトランスフェリンレセプターとした(25℃で測定)。
【0139】
【表2】

【0140】
より密接なヒトトランスフェリンレセプターに対する結合に関して、カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗体128.1の結合特性を反映する結合部位を開発するために、VH23とVL9との組み合わせが、更なる操作のための開始点として選択された。
【0141】
下記表において、ヒトトランスフェリンレセプターに対する、VH23及びVL9の種々の例示的な変異体、ならびに、種々の他の可変ドメインのヒト化変異体のオフレートが、比較して示される(実施例14で測定、25℃)。
【0142】
【表3】
【0143】
下記表において、VH23及びVL9の種々の例示的な変異体の動力学データが、比較して示される(実施例13で測定)。
【0144】
【表4】
【0145】
下記表において、クローン494のマウス重鎖可変ドメインのヒト化変異体との組み合わせにおける、クローン494のマウス軽鎖可変ドメインのヒト化変異体のオフレートが示される。結合パートナーは、ヒトトランスフェリンレセプターとした。
【0146】
【表5】
【0147】
より詳細には、一態様において、本発明は、部分的に、本明細書に報告されている抗トランスフェリンレセプター抗体が、血液脳関門を通過させて、脳内に脳エフェクター実体を輸送する、血液脳関門シャトルモジュールとして使用することができるという知見に基づいている。特定の実施態様では、血液脳関門シャトルモジュールは、トランスフェリンレセプターに特異的に結合する、一価の結合実体である。本明細書に報告されている抗トランスフェリンレセプター抗体は、血液脳関門シャトルモジュールとして使用された場合、例えば、神経障害、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、及びアルツハイマー病とパーキンソン病との併存疾患の診断又は処置に有用である。
【0148】
配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインを含む抗体は、結合オフレートに関して、カニクイザルトランスフェリンレセプターに対するマウス抗体128.1の結合特性を、ヒトトランスフェリンレセプターに対して反映させる。
【0149】
したがって、本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に結合する、単離された抗体である。ここで、本抗体は、0.11/s~0.0051/sの、ヒトトランスフェリンレセプターに対する表面プラズモン共鳴により測定されたオフレートを有する。
【0150】
本明細書に報告されている別の態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に結合する、抗体又は抗体フラグメントの使用である。ここで、本抗体は、血液脳関門を通過させて、治療実体を輸送するために、0.11/s~0.0051/sの、ヒトトランスフェリンレセプター対する表面プラズモン共鳴により測定されたオフレートを有する。
【0151】
一実施態様において、オフレートは、500、250、125、62.5、31.25、15.625、及び0nMで測定される。
【0152】
一実施態様において、オフレートは、ビオチン表面を備える表面プラズモン共鳴チップと、250mM 塩化ナトリウムを添加した1×PBSのランニングバッファーとを使用し、流速10μL/分で測定される。
【0153】
一実施態様において、会合は、180秒間モニターされ、解離は、600秒間モニターされる。
【0154】
一実施態様において、オフレートは、BIAcore T200において測定される。
【0155】
一実施態様において、オフレートは、0.081/s~0.0081/sである。
【0156】
全ての態様の一実施態様では、オフレートは、25℃で測定される。
【0157】
全ての態様の一実施態様では、オフレートは、25℃で測定されたオフレートである。
【0158】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に特異的に結合し、i)配列番号:01の重鎖可変ドメインから得られたヒト化重鎖可変ドメインと、ii)配列番号:26の軽鎖可変ドメインから得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含み、ここで、軽鎖可変ドメインが、80位にプロリンアミノ酸残基(P)、91位にアスパラギンアミノ酸残基(N)、及び93位にアラニンアミノ酸残基(A)(Kabatに従ったナンバリング)を有する、抗トランスフェリンレセプター抗体である。
【0159】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、100g位にセリンアミノ酸残基(S)(Kabatに従ったナンバリング)を更に有する。
【0160】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、65位にセリンアミノ酸残基(S)(Kabatに従ったナンバリング)を更に有する。
【0161】
一実施態様において、本抗体は、重鎖可変ドメインにおいて、105位にグルタミンアミノ酸残基(Q)(Kabatに従ったナンバリング)を更に有する。
【0162】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に特異的に結合し、i)配列番号:01の重鎖可変ドメインから得られたヒト化重鎖可変ドメインと、ii)配列番号:26の軽鎖可変ドメインから得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、抗トランスフェリンレセプター抗体である。ここで、該抗体は、カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート(単位1/s)以下の(すなわち、多くても)、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレート(単位1/s)を有する。ここで、該オフレートは、表面プラズモン共鳴により測定され、ここで、抗トランスフェリンレセプター抗体128.1は、配列番号:64の重鎖可変ドメインと配列番号:65の軽鎖可変ドメインとを有する。
【0163】
一実施態様において、本抗体は、i)カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート(単位1/s)以下(すなわち、多くても)で、ii)カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート(単位1/s)の5%以下の(すなわち、多くても)、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレート(単位1/s)を有する。
【0164】
本明細書に報告されている一態様は、ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に特異的に結合する、抗トランスフェリンレセプター抗体である。特定の実施態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体は、
・ヒトトランスフェリンレセプター(huTfR)及びカニクイザルトランスフェリンレセプター(cyTfR)に結合し、
・カニクイザルトランスフェリンレセプターに対する抗トランスフェリンレセプター抗体128.1のオフレート以下の(すなわち、多くても)、ヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレート(単位1/s)を有し、ここで、該オフレートは、表面プラズモン共鳴により測定され、抗トランスフェリンレセプター抗体128.1は、配列番号:64の重鎖可変ドメインと配列番号:65の軽鎖可変ドメインとを有し、
・0.11/s~0.0051/sであり、これらを含むヒトトランスフェリンレセプターに対するオフレートで結合する。
【0165】
一態様において、本明細書では、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号:71、72、又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3から選択される、少なくとも1、2、3、4、5、又は6つのHVRを含む、抗トランスフェリンレセプター抗体が提供される。
【0166】
一態様において、本発明は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び(c)配列番号:71又は72又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、本発明は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一態様において、本発明は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び(c)配列番号:73のアミノ酸配列を含むHVR-H3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVH HVR配列を含む、抗体を提供する。一実施態様において、本抗体は、配列番号:71又は72又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3を含む。別の実施態様では、本抗体は、配列番号:71又は72又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3と、配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3とを含む。更なる実施態様では、本抗体は、配列番号:71又は72又は73のアミノ酸配列を含むHVR-H3、配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3、及び配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2を含む。更なる実施態様では、本抗体は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;及び(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3を含む。
【0167】
別の態様では、本発明は、(a)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(c)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVL HVR配列を含む、抗体を提供する。一実施態様において、本抗体は、(a)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(c)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む。
【0168】
別の態様では、本発明の抗体は、(a)(i)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(ii)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(iii)配列番号:71又は72又は73から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-H3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVH HVR配列を含む、VHドメインと、(b)(i)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1、(ii)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2、及び(c)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3から選択される、少なくとも1つ、少なくとも2つ、又は3つ全てのVL HVR配列を含む、VLドメインとを含む。
【0169】
別の態様では、本発明は、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1;(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2;(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3;(d)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(e)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(f)配列番号:78から選択されるアミノ酸配列を含むHVR-L3を含む、抗体を提供する。
【0170】
上記実施態様のいずれかにおいて、抗トランスフェリンレセプター抗体はヒト化されている。一実施態様において、抗トランスフェリンレセプター抗体は、上記実施態様のいずれかにおけるHVRを含み、アクセプターヒトフレームワーク、例えば、ヒト免疫グロブリンフレームワーク又はヒトコンセンサスフレームワークを更に含む。
【0171】
別の態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体は、配列番号:24のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する重鎖可変ドメイン(VH)配列を含み、抗体が配列番号:24の重鎖可変ドメイン(VH)配列を含むのと約同じオフレートを有する。特定の実施態様では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVH配列は、参照配列に対して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含有するが、その配列を含む抗トランスフェリンレセプター抗体は、同じオフレートでトランスフェリンレセプターに結合する能力を保持している。特定の実施態様では、合計1~10個のアミノ酸が、配列番号:24中において、置換され、挿入され、及び/又は、欠失されている。特定の実施態様では、置換、挿入、又は欠失は、HVRの外側の領域に(すなわち、FRに)生じる。場合により、抗トランスフェリンレセプター抗体は、配列番号:24のVH配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様では、VHは、(a)配列番号:66のアミノ酸配列を含むHVR-H1、(b)配列番号:68のアミノ酸配列を含むHVR-H2、及び(c)配列番号:72のアミノ酸配列を含むHVR-H3から選択される、1、2、又は3つのHVRを含む。
【0172】
別の態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体であって、該抗体が、配列番号:37のアミノ酸配列に対して、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、又は100%の配列同一性を有する軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含み、抗体が配列番号:37の軽鎖可変ドメイン(VL)配列を含むのと約同じオフレートを有する、抗トランスフェリンレセプター抗体が提供される。特定の実施態様では、少なくとも90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、又は99%の同一性を有するVL配列は、参照配列に対して置換(例えば、保存的置換)、挿入、又は欠失を含有するが、その配列を含む抗トランスフェリンレセプター抗体は、同じオフレートでトランスフェリンレセプターに結合する能力を保持している。特定の実施態様では、合計1~10個のアミノ酸が、配列番号:37中において、置換され、挿入され、及び/又は、欠失されている。特定の実施態様では、置換、挿入、又は欠失は、HVRの外側の領域に(すなわち、FRに)生じる。場合により、抗トランスフェリンレセプター抗体は、配列番号:37におけるVL配列を含み、その配列の翻訳後修飾を含む。特定の実施態様では、VLは、(a)配列番号:75のアミノ酸配列を含むHVR-L1;(b)配列番号:76のアミノ酸配列を含むHVR-L2;及び(c)配列番号:78のアミノ酸配列を含むHVR-L3から選択される、1、2又は3つのHVRを含む。
【0173】
別の態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体であって、該抗体が、上記提供された実施態様のいずれかにおけるVHと、上記提供された実施態様のいずれかにおけるVLとを含む、抗トランスフェリンレセプター抗体が提供される。一実施態様において、本抗体は、配列番号:24及び配列番号:37におけるVH及びVL配列それぞれを含み、それらの配列の翻訳後修飾を含む。
【0174】
本発明の更なる態様では、上記実施態様のいずれかの抗トランスフェリンレセプター抗体は、キメラ、ヒト化、又はヒト抗体を含む、モノクローナル抗体である。一実施態様において、抗トランスフェリンレセプター抗体は、抗体フラグメント、例えば、Fv、Fab、Fab’、scFv、ディアボディ、又はF(ab’)2フラグメントである。別の実施態様では、本抗体は、全長抗体、例えば、インタクトなIgG1抗体又は、本明細書で定義されている他の抗体クラスもしくはアイソタイプである。
【0175】
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、治療化合物に結合している。
【0176】
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、イメージング剤又はラベルに結合している。
【0177】
別の実施態様では、本抗体は、多重特異性抗体であり、治療化合物が、場合により、該多重特異性抗体の一部を形成している。このような一実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRに結合する第1抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2抗原結合部位とを含む。このような一態様では、脳抗原は、ベータ-セクレターゼ1(BACE1)、Aベータ、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)、tau、アポリポタンパク質E(ApoE)、アルファ-シヌクレイン、CD20、ハンチンチン、プリオンタンパク質(PrP)、ロイシンリッチリピートキナーゼ2(LRRK2)、パーキン、プレセニリン1、プレセニリン2、ガンマセクレターゼ、デスレセプター6(DR6)、アミロイド前駆体タンパク質(APP)、p75ニューロトロフィンレセプター(p75NTR)、グルコセレブロシダーゼ、及びカスパーゼ6からなる群より選択される。別の実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRとBACE1との両方に結合する。別の実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRとAベータとの両方に結合する。別の実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRとアルファシヌクレインとの両方に結合する。別の実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRとCD20との両方に結合する。別の実施態様では、本多重特異性抗体は、TfRとグルコセレブロシダーゼとの両方に結合する。別の実施態様では、治療化合物は、神経障害剤である。
【0178】
上記実施態様の一態様では、本発明は、前述の抗体のいずれかと、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬製剤を提供する。
【0179】
上記実施態様の一態様では、本発明は、医薬として使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。
【0180】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、神経障害を処置するための医薬の製造における、前述の抗体のいずれかの使用を提供する。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。
【0181】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、神経障害の処置に使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。
【0182】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、1つ以上の化合物を、BBBを通過させて輸送するのに使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。
【0183】
上記実施態様の別の態様では、1つ以上の化合物を、BBBを通過させて輸送するための医薬の製造における、前述の抗体のいずれかの使用が提供される。
【0184】
上記実施態様の一態様では、対象におけるBBBを通過させて、化合物を輸送する方法であって、抗体がそれに結合した化合物を、BBBを通過させて輸送するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、BBBは、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0185】
上記実施態様の別の態様では、対象のCNSの化合物への暴露を増大させる方法であって、抗体がそれに結合した化合物を、BBBを通過させて輸送するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、BBBは、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0186】
上記実施態様の一態様では、対象に投与された化合物のCNSでの保持を増大させる方法であって、化合物のCNSでの保持が増大するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0187】
上記実施態様の一態様では、哺乳類における神経障害を処置する方法であって、該哺乳類を、前述の抗体のいずれかで処置することを含む、方法が提供される。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。一実施態様において、神経障害は、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0188】
一実施態様において、本抗体は、抗体Fc領域のエフェクター機能、抗体の補体活性化機能、及びTfRに対する抗体の親和性から選択される、1つ以上の特性において改変されている。
【0189】
一実施態様において、該特性は、抗体Fc領域のエフェクター機能である。
【0190】
一実施態様において、該特性は、抗体の補体活性化機能である。
【0191】
一実施態様において、該特性は、TfRに対する抗体の親和性である。
【0192】
一実施態様において、エフェクター機能又は補体活性化機能は、同じアイソタイプの野生型抗体に対して、低下し、又は、除去されている。一実施態様において、エフェクター機能は、抗体のグリコシル化の減少、抗体アイソタイプのエフェクター機能が天然に低下し、又は、除去されているアイソタイプへの改変、及びFc領域の改変から選択される方法により、低下し、又は、除去されている。
【0193】
一実施態様において、エフェクター機能は、抗体のグリコシル化の減少により、低下し、又は、除去されている。一実施態様において、抗体のグリコシル化は、野生型グリコシル化が可能でない環境における抗体の生成、抗体に既に存在している炭水化物基の除去、及び、野生型グリコシル化が生じないような抗体の改変から選択される方法により減少される。
【0194】
一実施態様において、抗体のグリコシル化は、野生型グリコシル化が可能でない環境における抗体の生成、(例えば、非哺乳類細胞生成系における生成、又は、抗体が合成的に生成される場合)によって減少される。一実施態様において、本抗体は、非哺乳類細胞生成系において生成される。別の実施態様では、本抗体は、合成的に生成される。
【0195】
一実施態様において、抗体のグリコシル化は、野生型グリコシル化が生じないような抗体の改変により減少される。この場合、例えば、抗体のFc領域が297位に変異を含むことにより、その位置における野生型のアスパラギン残基がその位置でのグリコシル化を妨げる別のアミノ酸に置き換えられている。
【0196】
一実施態様において、エフェクター機能は、Fc領域の少なくとも1つの改変により低下し、又は、除去される。一実施態様において、エフェクター機能又は補体活性化機能は、Fc領域の全部もしくは一部の欠失により、又は、エフェクター機能もしくは補体活性化機能のためのFc領域もしくは非Fc領域コンピテントを含まないように抗体を操作することにより低下し、又は、除去される。一実施態様において、Fc領域の少なくとも1つの改変は、下記位置:238、239、248、249、252、254、265、268、269、270、272、278、289、292、293、294、295、296、297、298、301、303、322、324、327、329、333、30 335、338、340、373、376、382、388、389、414、416、419、434、435、437、438、及び439から選択される1つ以上の、Fcレセプターへの結合を損なわせるFc領域の点突然変異;下記位置:270、322、329、及び321から選択されるC1qへの結合を損なわせるFc領域の点突然変異;Fc領域の一部又は全部の除去、ならびに、CH1ドメインの132位における点突然変異から選択される。一実施態様において、該改変は、下記位置:270、322、329、及び321から選択されるC1qへの結合を損なわせるFc領域の点突然変異である。別の実施態様では、該改変は、Fc領域の一部又は全部の除去である。別の実施態様では、補体トリガー機能は、Fc領域の全部もしくは一部の欠失により、又は、補体経路に関わるFc領域を含まないように抗体を操作することにより低下し、又は、除去される。一実施態様において、本抗体は、Fab又は一本鎖抗体から選択される。別の実施態様では、抗体の非Fc領域は、抗体による補体経路の活性化を減少させ、又は、除去するように改変される。一実施態様において、該改変は、C3への結合を損なわせる、CH1領域の点突然変異である。一実施態様において、該点突然変異は、132位においてである(例えば、Vidarte et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 38217-38223を参照のこと)。
【0197】
上記実施態様の別の態様では、TfRに対する抗体の親和性は、TfRに対するより低い親和性を有しない同じアイソタイプの野生型抗体に関して測定された場合、低下している。このような一態様では、本抗体は、約1pM~約100μMのTfRに対するK又はIC50を有する。
【0198】
一実施態様において、本明細書に報告されている抗体は、エフェクター機能サイレントである。一実施態様において、本抗体は、エフェクター機能を有しない。一実施態様において、本抗体は、ヒトIgG1サブクラスのものであり、両重鎖において、変異L234A、L235A、及びP329G(KabatのEUインデックスに従ったナンバリング)を有する。
【0199】
一実施態様において、本抗体は、
a)ヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
b)ヒトサブクラスIgG4の全長抗体、又は
c)変異L234A、L235A、及びP329Gを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、
d)変異S228P、L235E、及び場合により、P329Gを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体、
e)両重鎖における変異L234A、L235A、及びP329G、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG1の全長抗体、又は
f)両重鎖における変異S228P、L235E、及び場合により、P329G、ならびに、一方の重鎖における変異T366W及びS354C、ならびに、それぞれの他方の重鎖における変異T366S、L368A、Y407V、及びY349Cを有するヒトサブクラスIgG4の全長抗体
である。
【0200】
上記実施態様の一態様では、本発明は、前述の抗体のいずれかと、薬学的に許容し得る担体とを含む、医薬製剤を提供する。
【0201】
上記実施態様の一態様では、本発明は、医薬として使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。
【0202】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、神経障害を処置するための医薬の製造における、前述の抗体のいずれかの使用を提供する。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。
【0203】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、神経障害の処置に使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。
【0204】
上記実施態様の別の態様では、本発明は、1つ以上の化合物を、BBBを通過させて輸送するのに使用するための、前述の抗体のいずれかを提供する。
【0205】
上記実施態様の別の態様では、1つ以上の化合物を、BBBを通過させて輸送するための医薬の製造における、前述の抗体のいずれかの使用が提供される。
【0206】
上記実施態様の一態様では、対象におけるBBBを通過させて、化合物を輸送する方法であって、抗体がそれに結合した化合物を、BBBを通過させて輸送するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、BBBは、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0207】
上記実施態様の別の態様では、対象のCNSの化合物への暴露を増大させる方法であって、抗体がそれに結合した化合物を、BBBを通過させて輸送するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、BBBは、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0208】
上記実施態様の一態様では、対象に投与された化合物のCNSでの保持を増大させる方法であって、化合物のCNSでの保持が増大するように、前述の抗体のいずれかをBBBに対して暴露させることを含む、方法が提供される。一実施態様において、BBBは、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0209】
上記実施態様の一態様では、哺乳類における神経障害を処置する方法であって、該哺乳類を、前述の抗体のいずれかで処置することを含む、方法が提供される。一実施態様において、神経障害は、末梢神経障害、神経変性疾患、ガン、眼疾患、発作性障害、リソソーム蓄積症、アミロイドーシス、ウイルス又は微生物疾患、虚血、行動障害、及びCNS炎症からなる群より選択される。別のこのような態様では、神経障害は、ヒト対象におけるものである。一実施態様において、化合物に結合した抗体は、治療用量で投与される。一実施態様において、治療用量は、TfRを飽和させる。別の実施態様では、抗体投与は、抗体投与の急性臨床兆候を最小化するように較正された用量及び/又は投与頻度においてである。
【0210】
別の実施態様では、対象に投与された化合物のクリアランスを低下させる方法であって、該化合物が、TfRに対して低い親和性で結合する抗体に結合しており、これにより、該化合物のクリアランスが低下している、方法が提供される。
【0211】
別の実施態様では、対象におけるCNSにおいて有効な化合物の薬物動態及び/又は薬力学を最適化する方法であって、該化合物が、TfRに対して低い親和性で結合する抗体に結合しており、該抗体が、該化合物への結合後のTfRに対するその親和性がCNSにおける該化合物の薬物動態及び/又は薬力学を最適化する、該化合物にコンジュゲートした抗体のBBBを通過する一定量の輸送をもたらすように選択される、方法が提供される。
【0212】
更なる態様では、上記態様及び実施態様のいずれかに基づく抗トランスフェリンレセプター抗体は、単独又は組み合わせにおいて、以下のセクション1~5に記載されている特徴のいずれかを包含することができる。
【0213】
1.抗体親和性
一実施態様では、Kdを、放射線ラベルされた抗原結合アッセイ法(RIA)により測定する。一実施態様では、RIAを、対象となる抗体のFab版とその抗原とにより行う。例えば、抗原に対するFabの溶液結合親和性を、用量設定系列のラベルしていない抗原の存在下において、Fabを最少濃度の(125I)ラベル抗原により平衡化し、ついで、結合した抗原を抗Fab抗体コートプレートで捕捉することにより測定する(例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 865-881を参照のこと)。アッセイ法のための条件を確立するために、MICROTITER(登録商標)マルチウェルプレート(Thermo Scientific)を、50mM 炭酸ナトリウム(pH9.6)中の5μg/mL 捕捉性抗Fab抗体(Cappel Labs)により一晩コートし、その後、PBS中の2%(w/v) ウシ血清アルブミンにより、室温(約23℃)で2~5時間ブロッキングする。非吸着性プレート(Nunc #269620)において、100pM又は26pM [125I]抗原を、対象となるFabの連続希釈と混合する(例えば、Presta, L.G. et al., Cancer Res. 57 (1997) 4593-4599における、抗VEGF抗体であるFab-12の評価と一致)。ついで、対象となるFabを、一晩インキュベーションする。ただし、このインキュベーションは、平衡が達成されるのを確保するために、より長い期間(例えば、約65時間)継続してもよい。その後、混合物を、室温でのインキュベーション(例えば、1時間)のために捕捉プレートに移す。ついで、溶液を除去し、プレートを、PBS中の0.1% ポリソルベート20(TWEEN-20(登録商標))で、8回洗浄する。このプレートを乾燥させた時点で、150μL/ウェル シンチラント(MICROSCINT-20(商標);Packard)を加え、プレートを、TOPCOUNT(商標)ガンマカウンタ(Packard)において、10分間カウントする。最大結合の20%以下を提供する各Fab濃度を、競合的結合アッセイ法に使用するために選択する。
【0214】
別の実施態様によれば、Kdを、BIACORE(登録商標)表面プラズモン共鳴アッセイ法を使用して測定する。例えば、BIACORE(登録商標)-2000又はBIACORE(登録商標)-3000(BIAcore, Inc., Piscataway、NJ)を使用するアッセイ法を、固定化抗原CM5チップにより、約10応答単位(RU)において25℃で行う。一実施態様において、カルボキシメチル化デキストランバイオセンサチップ(CM5, BIACORE, Inc.)を、N-エチル-N’-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC)及びN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)により、供給元の説明書に従って活性化させる。抗原を、10mM 酢酸ナトリウム pH4.8で5μg/mL(約0.2μM)に希釈し、その後、5μL/分の流速で注入し、約10応答単位(RU)の連結したタンパク質を達成する。抗原の注入後、1M エタノールアミンを注入して、反応しなかった基をブロックする。反応速度測定について、2倍の連続希釈のFab(0.78nM~500nM)を、0.05% ポリソルベート20(TWEEN-20(商標))界面活性剤を含むPBS(PBST)中に、約25μL/分の流速で25℃において注入する。シンプルな一対一のラングミュア結合モデル(BIACORE(登録商標) Evaluation Software version 3.2)を使用し、会合及び解離のセンサーグラムを同時に当て嵌めることにより、会合速度(kon)及び解離速度(kオフ)を算出する。平行解離定数(Kd)を、kオフ/kon比として算出する(例えば、Chen, Y. et al., J. Mol. Biol. 293 (1999) 865-881を参照のこと)。on速度が、上記表面プラズモン共鳴アッセイ法により10M-1s-1を超える場合、同on速度を、攪拌キュベットを備える分光計、例えば、ストップフローを備えた分光計(Aviv Instruments)又は8000-series SLM-AMINCO(商標)分光計(ThermoSpectronic)において測定する場合は、増大する濃度の抗原の存在下において、PBS pH7.2中の20nM 抗-抗原抗体(Fab型)の25℃での蛍光放出強度(励起=295nm;放出=340nm、バンドパス16nm)における増大又は減少を測定する蛍光クエンチ技術を使用することにより決定することができる。
【0215】
2.抗体フラグメント
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体は、抗体フラグメントである。抗体フラグメントは、Fab、Fab’、Fab’-SH、F(ab’)、Fv、及びscFvフラグメント、ならびに以下に記載されている他のフラグメントを含むが、これらに限定されない。特定の抗体フラグメントのレビューについて、Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (2003) 129-134を参照のこと。scFvフラグメントのレビューについて、例えば、Plueckthun, A., In; The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, Vol. 113, Rosenburg and Moore (eds.), Springer-Verlag, New York (1994), pp. 269-315を参照のこと。国際公開公報第93/16185号;米国特許第5,571,894号、及び同第5,587,458号も参照のこと。サルベージレセプター結合エピトープ残基を含み、延長したin vivo半減期を有するFab及びF(ab’)フラグメントの検討については、米国特許第5,869,046号を参照のこと。
【0216】
ディアボディは、二価又は二重特異性であることができる、2つの抗原結合部位を有する抗体フラグメントである。例えば、欧州特許第0404097号;国際公開公報第1993/01161号;Hudson, P.J. et al., Nat. Med. 9 (2003) 129-134;及びHolliger, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照のこと。トリボディ及びテトラボディも、Hudson, P.J. et al., Nat. Med.9 (20039 129-134)に記載されている。
【0217】
単一ドメイン抗体は、抗体の重鎖可変ドメインの全部もしくは一部又は軽鎖可変ドメインの全部もしくは一部を含む抗体フラグメントである。特定の実施態様では、単一ドメイン抗体は、ヒト単一ドメイン抗体である(Domantis, Inc., Waltham, MA;例えば、米国特許第6,248,516号を参照のこと)。
【0218】
抗体フラグメントは、種々の技術により調製することができる。同技術は、本明細書に記載されている、インタクトな抗体のタンパク質分解的消化及びリコンビナントホスト細胞(例えば、E. coli又はファージ)による生成を含むが、これらに限定されない。
【0219】
3.キメラ及びヒト化抗体
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体は、キメラ抗体である。特定のキメラ抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号;及びMorrison, S.L. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81 (1984) 6851-6855に記載されている。一例において、キメラ抗体は、非ヒト可変領域(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、又は非ヒト霊長類、例えば、サル由来の可変領域)と、ヒト定常領域とを含む。更なる例において、キメラ抗体は、「クラススイッチ」抗体である。同抗体において、クラス又はサブクラスは、親抗体のクラス又はサブクラスから変化している。キメラ抗体は、その抗原結合フラグメントを含む。
【0220】
特定の実施態様では、キメラ抗体は、ヒト化抗体である。典型的には、非ヒト抗体は、ヒトに対する抗原性を減少させるが、親非ヒト抗体の特異性及び親和性を保持するようにヒト化される。一般的には、ヒト化抗体は、1つ以上の可変ドメインを含み、同ドメインにおいて、HVR、例えば、CDR(又はその一部)は、非ヒト抗体由来であり、FR(又はその一部)は、ヒト抗体配列由来である。ヒト化抗体は、場合により、ヒト定常領域の少なくとも一部も含むであろう。一部の実施態様では、ヒト化抗体中の一部のFR残基は、例えば、抗体特異性又は親和性を回復又は改善するために、非ヒト抗体(例えば、HVR残基が得られる抗体)由来の対応する残基により置換されている。
【0221】
ヒト化抗体及びそれを調製する方法は、例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633においてレビューされており、例えば、(特異性決定領域(SDR)グラフト化について記載されている)Riechmann, I. et al., Nature 332 (1988) 323-329;Queen, C. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 86 (1989) 10029-10033;米国特許第5,821,337号、同第7,527,791号、同第6,982,321号、及び同第7,087,409号;Kashmiri, S.V. et al., Methods 36 (2005) 25-34;(「表面再生」について記載されている)Padlan, E.A., Mol. Immunol.28 (1991) 489-498;(「FRシャッフリング」について記載されている)Dall’Acqua, W.F. et al., Methods 36 (2005) 43-60;ならびに(FRシャッフリングに対する「ガイドセレクション」アプローチについて記載されている)Osbourn, J. et al., Methods 36 (2005) 61-68及びKlimka, A. et al., Br. J. Cancer 83 (2000) 252-260に更に記載されている。
【0222】
ヒト化に使用することができるヒトフレームワーク領域は、「ベストフィット」法を使用して選択されるフレームワーク領域(例えば、Sims, M.J. et al., J. Immunol. 151 (1993) 2296-2308);軽鎖又は重鎖可変領域の特定のサブグループのヒト抗体のコンセンサス配列由来のフレームワーク領域(例えば、Carter, P. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 89 (1992) 4285-4289;及びPresta, L.G. et al., J. Immunol. 151 (1993) 2623-2632を参照のこと);ヒト成熟(体細胞的に成熟)フレームワーク領域又はヒト生殖系フレームワーク領域(例えば、Almagro, J.C. and Fransson, J., Front. Biosci. 13 (2008) 1619-1633を参照のこと);及びFRライブラリのスクリーニングから得られるフレームワーク領域(例えば、Baca, M. et al., J. Biol. Chem. 272 (1997) 10678-10684及びRosok, M.J. et al., J. Biol. Chem. 271 (19969 22611-22618)を参照のこと)を含むが、これらに限定されない。
【0223】
4.多重特異性抗体
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体は、多重特異性抗体、例えば、二重特異性抗体である。多重特異性抗体は、少なくとも2種類の部位に対する結合特異性を有するモノクローナル抗体である。特定の実施態様では、結合特異性の1つは、トランスフェリンレセプターに対するものであり、他のものは、任意の他の抗原に対するものである。二重特異性抗体は、トランスフェリンレセプターを発現している細胞に対して、細胞毒を局在化させるのにも使用することができる。二重特異性抗体は、全長抗体又は抗体フラグメントとして調製することができる。
【0224】
多重特異性抗体を調製するための技術は、異なる特異性を有する2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対のリコンビナント共発現(Milstein, C. and Cuello, A.C., Nature 305 (1983)537-540、国際公開公報第93/08829号、及びTraunecker, A. et al., EMBO J. 10 (1991) 3655-3659を参照のこと)及び「ノブ-in-ホール」操作(例えば、米国特許第5,731,168号)を含むが、これらに限定されない。多重特異性抗体は、抗体Fcヘテロ二量体分子を調製するための静電ステアリング効果を操作すること(国際公開公報第2009/089004号);2つ以上の抗体又はフラグメントを架橋させること(例えば、米国特許第4,676,980号及びBrennan, M. et al., Science229 (1985) 81-83);二重特異性抗体を生成するためのロイシンジッパーを使用すること(例えば、Kostelny, S.A. et al., J. Immunol. 148 (1992) 1547-1553を参照のこと);二重特異性抗体フラグメントを調製するための「ディアボディ」技術を使用すること(例えば、Holliger, P. et al.,Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90 (1993) 6444-6448を参照のこと);及び一本鎖Fv(scFv)二量体を使用すること(例えば、Gruber, M et al., J. Immunol. 152 (1994) 5368-5374を参照のこと);及び例えば、Tutt, A. et al., J. Immunol. 147 (1991)60-69に記載されているように、三重特異性抗体を調製することによっても調製することができる。
【0225】
「オクトパス抗体」を含む、3つ以上の機能性の抗原結合部位を有する操作された抗体も、本明細書に含まれる(例えば、米国特許出願公開公報第2006/0025576号を参照のこと)。
【0226】
本明細書における抗体又はフラグメントは、トランスフェリンレセプターと、別の種々の抗原に結合する抗原結合部位を含む、「二重作用Fab」又は「DAF」も含む(例えば、米国特許出願公開公報第2008/0069820号を参照のこと)。
【0227】
本明細書における抗体又はフラグメントは、国際公開公報第2009/080251号、同第2009/080252号、同第2009/080253号、同第2009/080254号、同第2010/112193号、同第2010/115589号、同第2010/136172号、同第2010/145792号、及び同第2010/145793号に記載されている多重特異性抗体も含む。
【0228】
本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様では、抗トランスフェリンレセプター抗体は、二重特異性抗体である。
【0229】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖及び第1重鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖及び第2重鎖であって、第2軽鎖及び第2重鎖の可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられている第2軽鎖及び第2重鎖とを含み、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二価の二重特異性抗体である。
【0230】
a)に基づく抗体は、b)に基づいて報告されている改変を含有せず、a)に基づく重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0231】
b)に基づく抗体において、軽鎖内では、可変軽鎖ドメインVLは、前記抗体の可変重鎖ドメインVHにより置き換えられており、重鎖内では、可変重鎖ドメインVHは、前記抗体の可変軽鎖ドメインVLにより置き換えられている。
【0232】
一実施態様において、
i) a)に基づく第1軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸(Kabatに従ったナンバリング)は、正に電荷したアミノ酸により置換されており、ここで、a)に基づく第1重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)は、負に電荷したアミノ酸により置換されているか、
あるいは、
ii) b)に基づく第2軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸(Kabatに従ったナンバリング)は、正に電荷したアミノ酸により置換されており、ここで、b)に基づく第2重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)は、負に電荷したアミノ酸により置換されている。
【0233】
好ましい一実施態様では、
i) a)に基づく第1軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リシン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)(Kabatに従ったナンバリング)により独立して(好ましい一実施態様では、リシン(K)又はアルギニン(R)により独立して)置換されており、ここで、a)に基づく第1重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)により独立して置換されているか、
あるいは、
ii) b)に基づく第2軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124位のアミノ酸は、リシン(K)、アルギニン(R)、又はヒスチジン(H)(Kabatに従ったナンバリング)により独立して(好ましい一実施態様では、リシン(K)又はアルギニン(R)により独立して)置換されており、ここで、b)に基づく第2重鎖の定常ドメインCH1において、147位のアミノ酸又は213位のアミノ酸は、グルタミン酸(E)又はアスパラギン酸(D)(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)により独立して置換されている。
【0234】
一実施態様では、第2重鎖の定常ドメインCLにおいて、124及び123位のアミノ酸は、Kにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0235】
一実施態様では、第2軽鎖の定常ドメインCH1において、147及び213位のアミノ酸は、Eにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0236】
好ましい一実施態様では、第1軽鎖の定常ドメインCLにおいて、124及び123位のアミノ酸は、Kにより置換されており、第1重鎖の定常ドメインCH1において、147及び213位のアミノ酸は、Eにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0237】
一実施態様では、第2重鎖の定常ドメインCLにおいて、124及び123位のアミノ酸は、Kにより置換されており、ここで、第2軽鎖の定常ドメインCH1において、147及び213位のアミノ酸は、Eにより置換されており、第1軽鎖の可変ドメインVLにおいて、38位のアミノ酸は、Kにより置換されており、第1重鎖の可変ドメインVHにおいて、39位のアミノ酸は、Eにより置換されており、第2重鎖の可変ドメインVLにおいて、38位のアミノ酸は、Kにより置換されており、第2軽鎖の可変ドメインVHにおいて、39位のアミノ酸は、Eにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0238】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖及び第1重鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖及び第2重鎖であって、第2軽鎖及び第2重鎖の可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、ここで、第2軽鎖及び第2重鎖の定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている第2軽鎖及び第2重鎖とを含み、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二価の二重特異性抗体である。
【0239】
a)に基づく抗体は、b)に基づいて報告されている改変を含有せず、a)に基づく重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0240】
b)に基づく抗体において、軽鎖内では、可変軽鎖ドメインVLは、前記抗体の可変重鎖ドメインVHにより置き換えられており、定常軽鎖ドメインCLは、前記抗体の定常重鎖ドメインCH1により置き換えられており、重鎖内では、可変重鎖ドメインVHは、前記抗体の可変軽鎖ドメインVLにより置き換えられており、定常重鎖ドメインCH1は、前記抗体の定常軽鎖ドメインCLにより置き換えられている。
【0241】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する抗体の第1軽鎖及び第1重鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の第2軽鎖及び第2重鎖であって、第2軽鎖及び第2重鎖の定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている第2軽鎖及び第2重鎖とを含み、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二価の二重特異性抗体である。
【0242】
a)に基づく抗体は、b)に基づいて報告されている改変を含有せず、a)に基づく重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0243】
b)に基づく抗体において、軽鎖内では、定常軽鎖ドメインCLは、前記抗体の定常重鎖ドメインCH1により置き換えられており、重鎖内では、定常重鎖ドメインCH1は、前記抗体の定常軽鎖ドメインCLにより置き換えられている。
【0244】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖及び2つの抗体軽鎖からなる全長抗体と、
b)1~4個の更なる抗原に特異的に結合する(すなわち、第2及び/又は第3及び/又は第4及び/又は第5抗原、好ましくは、1つの更なる抗原、すなわち、第2抗原に特異的に結合する)1、2、3、又は4本の一本鎖Fabフラグメントとを含み、
ここで、前記b)に基づく一本鎖Fabフラグメントが、前記a)に基づく全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における重鎖又は軽鎖のC末端又はN末端において融合しており、
ここで、第1抗原又は更なる抗原の1つが、ヒトトランスフェリンレセプターである、多重特異性抗体である。
【0245】
一実施態様において、第2抗原に結合する1つ又は2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における重鎖又は軽鎖のC末端において融合している。
【0246】
一実施態様において、第2抗原に結合する1つ又は2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における重鎖のC末端において融合している。
【0247】
一実施態様において、第2抗原に結合する1つ又は2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における軽鎖のC末端において融合している。
【0248】
一実施態様において、第2抗原に結合する2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における重鎖又は軽鎖それぞれのC末端において融合している。
【0249】
一実施態様において、第2抗原に結合する2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における各重鎖のC末端において融合している。
【0250】
一実施態様において、第2抗原に結合する2つの同一の一本鎖Fabフラグメントは、前記全長抗体に、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における各軽鎖のC末端において融合している。
【0251】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖及び2つの抗体軽鎖からなる全長抗体と、
b) ba)抗体重鎖可変ドメイン(VH)又は
bb)抗体重鎖可変ドメイン(VH)及び抗体定常ドメイン1(CH1)から成る第1ポリペプチドであって、前記第1ポリペプチドが、そのVHドメインのN末端により、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における2つの重鎖の一方のC末端に融合している第1ポリペプチドと、
c) ca)抗体軽鎖可変ドメイン(VL)又は
cb)抗体軽鎖可変ドメイン(VL)及び抗体軽鎖定常ドメイン(CL)からなる第2ポリペプチドであって、前記第2ポリペプチドが、VLドメインのN末端により、ペプチドリンカーを介して、前記全長抗体における2つの重鎖の他方のC末端に融合している第2ポリペプチドとを含み、
ここで、第1ポリペプチドの抗体重鎖可変ドメイン(VH)と第2ポリペプチドの抗体軽鎖可変ドメイン(VL)とが共に、第2抗原に特異的に結合する抗原結合部位を形成しており、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、三価の二重特異性抗体である。
【0252】
一実施態様において、b)に基づくポリペプチドの抗体重鎖可変ドメイン(VH)と、c)に基づくポリペプチドの抗体軽鎖可変ドメイン(VL)とは、下記位置間のジスルフィド結合の導入による鎖内ジスルフィド架橋を介して連結され、安定化している。
i)重鎖可変ドメインの44位に対する軽鎖可変ドメインの100位、又は
ii)重鎖可変ドメインの105位に対する軽鎖可変ドメインの43位、又は
iii)重鎖可変ドメインの101位に対する軽鎖可変ドメインの100位(通常、Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)
【0253】
安定化のための非天然のジスルフィド架橋を導入する技術は、例えば、国際公開公報第94/029350号、Rajagopal, V., et al., Prot. Eng. (1997) 1453-59;Kobayashi, H., et al., Nuclear Medicine & Biology, Vol. 25, (1998) 387-393;又はSchmidt, M., et al., Oncogene (1999) 18 1711-1721に記載されている。一実施態様において、b)及びc)に基づくポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメインの44位と軽鎖可変ドメインの100位との間である。一実施態様において、b)及びc)に基づくポリペプチドの可変ドメイン間の任意のジスルフィド結合は、重鎖可変ドメインの105位と軽鎖可変ドメインの43位との間である(通常、Kabatに従ったナンバリング)。一実施態様において、一本鎖Fabフラグメントにおける可変ドメインVHとVLとの間の前記任意のジスルフィド安定化を含まない、三価の二重特異性抗体が好ましい。
【0254】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する全長抗体の第1軽鎖及び第1重鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する全長抗体の第2(改変)軽鎖及び第2(改変)重鎖であって、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、及び/又は、ここで、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている第2(改変)軽鎖及び第2(改変)重鎖と、
c)1つ又は2つの更なる抗原(すなわち、第3及び/又は第4抗原)に特異的に結合し、ペプチドリンカーを介して、a)及び/又はb)における軽鎖又は重鎖のC末端又はN末端に融合している1~4つの抗原結合ペプチドとを含み、
ここで、第1抗原もしくは第2抗原又は更なる抗原の1つが、ヒトトランスフェリンレセプターである、三重特異性又は四重特異性抗体である。
【0255】
a)に基づく抗体は、b)に基づいて報告されている改変を含有せず、a)に基づく重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0256】
一実施態様において、三重特異性又は四重特異性抗体は、c)に基づいて、1つ又は2つの更なる抗原に特異的に結合する、1つ又は2つの抗原結合ペプチドを含む。
【0257】
一実施態様において、抗原結合ペプチドは、scFvフラグメント及びscFabフラグメントからなる群より選択される。
【0258】
一実施態様において、抗原結合ペプチドは、scFvフラグメントである。
【0259】
一実施態様において、抗原結合ペプチドは、scFabフラグメントである。
【0260】
一実施態様において、抗原結合ペプチドは、a)及び/又はb)における重鎖のC末端に融合している。
【0261】
一実施態様において、三重特異性又は四重特異性抗体は、c)に基づいて、1つの更なる抗原に特異的に結合する、1つ又は2つの抗原結合ペプチドを含む。
【0262】
一実施態様において、三重特異性又は四重特異性抗体は、c)に基づいて、第3抗原に特異的に結合する、2つの同一の抗原結合ペプチドを含む。好ましい一実施態様では、このような2つの同一の抗原結合ペプチドは両方とも、同じペプチドリンカーを介して、a)及びb)における重鎖のC末端に融合している。好ましい一実施態様では、2つの同一抗原結合ペプチドは、scFvフラグメント又はscFabフラグメントのいずれかである。
【0263】
一実施態様において、三重特異性又は四重特異性抗体は、c)に基づいて、第3及び第4抗原に特異的に結合する、2つの抗原結合ペプチドを含む。一実施態様において、前記2つの抗原結合ペプチドは両方とも、同じペプチドコネクタを介して、a)及びb)における重鎖のC末端に融合している。好ましい一実施態様では、前記2つの抗原結合ペプチドは、scFvフラグメント又はscFabフラグメントのいずれかである。
【0264】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する(2つのFabフラグメントを含む)抗体の2つの軽鎖及び2つの重鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する抗体の2つの更なるFabフラグメントであって、前記更なるFabフラグメントが両方とも、ペプチドリンカーを介して、a)における重鎖のC末端又はN末端のいずれかに融合しているFabフラグメントとを含み、
ここで、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われており、
i) a)の両Fabフラグメント又はb)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、及び/又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
あるいは、
ii) a)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
ならびに、
b)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
あるいは、
iii) a)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
ならびに、
b)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
あるいは、
iv) a)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、b)の両Fabフラグメントにおいて、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、
あるいは、
v) a)の両Fabフラグメントにおいて、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられており、b)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性の四価抗体である。
【0265】
一実施態様において、前記更なるFabフラグメントは両方とも、ペプチドリンカーを介して、a)における重鎖のC末端又はa)における重鎖のN末端のいずれかに融合している。
【0266】
一実施態様において、前記更なるFabフラグメントは両方とも、ペプチドリンカーを介して、a)における重鎖のC末端のいずれかに融合している。
【0267】
一実施態様において、前記更なるFabフラグメントは両方とも、ペプチドコネクタを介して、a)における重鎖のN末端に融合している。
【0268】
一実施態様では、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われている。
i) a)の両Fabフラグメントにおいて、又は、b)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、及び/又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている。
【0269】
一実施態様では、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われている。
i) a)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、及び/又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている。
【0270】
一実施態様では、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われている。
i) a)の両Fabフラグメントにおいて、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている。
【0271】
一実施態様では、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われている。
i) b)の両Fabフラグメントにおいて、可変ドメインVL及びVHが、互いに置き換えられており、及び/又は、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている。
【0272】
一実施態様では、Fabフラグメントにおいて、下記改変が行われている。
i) b)の両Fabフラグメントにおいて、定常ドメインCL及びCH1が、互いに置き換えられている。
【0273】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、第1VH-CH1ドメイン対を含む第1抗体の(改変)重鎖であって、前記重鎖のC末端に、前記第1抗体の第2VH-CH1ドメイン対のN末端が、ペプチドリンカーを介して融合している第1抗体の(改変)重鎖と、
b) a)における前記第1抗体の2つの軽鎖と、
c)第2抗原に特異的に結合し、第1VH-CLドメイン対を含む第2抗体の(改変)重鎖であって、前記重鎖のC末端に、前記第2抗体の第2VH-CLドメイン対のN末端が、ペプチドリンカーを介して融合している第2抗体の(改変)重鎖と、
d) c)における前記第2抗体の2つの(改変)軽鎖であって、それぞれが、CL-CH1ドメイン対を含む(改変)軽鎖とを含み、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性の四価抗体である。
【0274】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する第1全長抗体の重鎖及び軽鎖と、
b)第2抗原に特異的に結合する第2全長抗体の重鎖及び軽鎖であって、重鎖のN末端が、軽鎖のC末端にペプチドリンカーを介して結合している第2全長抗体の重鎖及び軽鎖とを含み、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性抗体である。
【0275】
a)に基づく抗体は、b)に基づいて報告されている改変を含有せず、重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0276】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖及び2つの抗体軽鎖からなる全長抗体と、
b)第2抗原に特異的に結合し、VHドメイン及びVLドメインを含むFvフラグメントであって、両ドメインが、ジスルフィド架橋を介して、互いに結合しているFvフラグメントとを含み、
ここで、VHドメイン又はVLドメインのいずれかのみが、ペプチドリンカーを介して、第1抗原に特異的に結合する全長抗体の重鎖又は軽鎖に融合しており、
ここで、第1抗原又は第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性抗体である。
【0277】
二重特異性抗体において、a)に基づく重鎖及び軽鎖は、独立した鎖である。
【0278】
一実施態様において、VHドメイン又はVLドメインの他方は、ペプチドリンカーを介して、第1抗原に特異的に結合する全長抗体の重鎖又は軽鎖に融合していない。
【0279】
本明細書に報告されている全ての態様では、第1軽鎖は、VLドメイン及びCLドメインを含み、第1重鎖は、VHドメイン、CH1ドメイン、ヒンジ領域、CH2ドメイン、及びCH3ドメインを含む。
【0280】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する2つのFabフラグメントと、
b)CH1及びCLドメインが互いに交換されている、第2抗原に特異的に結合する1つのCrossFabフラグメントと、
c)第1Fc領域重鎖及び第2Fc領域重鎖を含む1つのFc領域とを含み、
ここで、2つのFabフラグメントにおけるCH1ドメインのC末端が、重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端に結合しており、
ここで、CrossFabフラグメントにおけるCLドメインのC末端が、Fabフラグメントの一方におけるVHドメインのN末端に結合しており、
ここで、第1抗原及び第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、
二重特異性で三価の抗体である。
【0281】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合する2つのFabフラグメントと、
b)CH1及びCLドメインが互いに交換されている、第2抗原に特異的に結合する1つのCrossFabフラグメントと、
c)第1Fc領域重鎖及び第2Fc領域重鎖を含む1つのFc領域とを含み、
ここで、第1FabフラグメントにおけるCH1ドメインのC末端が、一方の重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端に結合しており、CrossFabフラグメントにおけるCLドメインのC末端が、他方の重鎖Fc領域ポリペプチドのN末端に結合しており、
ここで、第2FabフラグメントにおけるCH1ドメインのC末端が、第1FabフラグメントにおけるVHドメインのN末端、又は、CrossFabフラグメントにおけるVHドメインのN末端に結合しており、
ここで、第1抗原及び第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性で三価の抗体である。
【0282】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖及び2つの抗体軽鎖からなる全長抗体と、
b)第2抗原に特異的に結合し、重鎖フラグメント及び軽鎖フラグメントを含むVHドメイン及びVLドメインを含むFabフラグメントであって、軽鎖フラグメントにおいて、可変軽鎖ドメインVLが、前記抗体の可変重鎖ドメインVHにより置き換えられており、重鎖フラグメントにおいて、可変重鎖ドメインVHが、前記抗体の可変軽鎖ドメインVLにより置き換えられている、Fabフラグメントとを含み、
ここで、重鎖Fabフラグメントが、全長抗体の一方の重鎖におけるCH1ドメインと全長抗体の各Fc領域との間に挿入されており、軽鎖Fab領域のN末端が、全長抗体の軽鎖におけるC末端にコンジュゲートしており、同軽鎖が、重鎖Fabフラグメントが挿入されている全長抗体の重鎖と対合しており、
ここで、第1抗原及び第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性抗体である。
【0283】
本明細書に報告されている一態様は、
a)第1抗原に特異的に結合し、2つの抗体重鎖及び2つの抗体軽鎖からなる全長抗体と、
b)第2抗原に特異的に結合し、重鎖フラグメント及び軽鎖フラグメントを含むVHドメイン及びVLドメインを含むFabフラグメントであって、軽鎖フラグメントにおいて、可変軽鎖ドメインVLが、前記抗体の可変重鎖ドメインVHにより置き換えられており、重鎖フラグメントにおいて、可変重鎖ドメインVHが、前記抗体の可変軽鎖ドメインVLにより置き換えられている、Fabフラグメントとを含み、
ここで、Fabフラグメントにおける重鎖フラグメントのC末端が、全長抗体の一方の重鎖におけるN末端にコンジュゲートしており、Fabフラグメントにおける軽鎖フラグメントのC末端が、全長抗体の軽鎖におけるN末端にコンジュゲートしており、同軽鎖が、Fabフラグメントの重鎖フラグメントがコンジュゲートしている全長抗体の重鎖と対合しており、
ここで、第1抗原及び第2抗原が、ヒトトランスフェリンレセプターである、二重特異性抗体である。
【0284】
全ての態様の一実施態様では、本明細書に報告されている抗体は、多重特異性抗体であり、同多重特異性抗体は、少なくとも2つの重鎖ポリペプチドのヘテロ多量体化を必要とし、ここで、同抗体は、ヒトトランスフェリンレセプター及び第2非ヒトトランスフェリンレセプター抗原に特異的に結合する。
【0285】
ヘテロ二量体化を支援するために、CH3改変のための複数のアプローチは、例えば、国際公開公報第96/27011号、同第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開公報第2007/110205号、同第2007/147901号、同第2009/089004号、同第2010/129304号、同第2011/90754号、同第2011/143545等、同第2012/058768号、同第2013/157954号、同第2013/096291号に記載されている。これらの文献は、参照により本明細書に組み入れられる。典型的には、当技術分野に公知のアプローチにおいて、第1重鎖のCH3ドメイン及び第2重鎖のCH3ドメインは両方とも、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖が、同じ構造の別の重鎖と、もはやホモ二量体化できない(例えば、CH3操作第1重鎖は、別のCH3操作第1重鎖と、もはやホモ二量体化できず、CH3操作第2重鎖は、別のCH3操作第2重鎖と、もはやホモ二量体化できない)ように、補完的な方法において操作されている。これにより、1つの操作されたCH3ドメインを含む重鎖は、CH3ドメインを含む別の重鎖とヘテロ二量体化される。同別の重鎖は、補完的な方法で操作される。本発明のこの実施態様について、第1重鎖のCH3ドメイン及び第2重鎖のCH3ドメインは、アミノ酸置換による補完的な方法で操作される。これにより、第1重鎖及び第2重鎖は、ヘテロ二量体化される。一方、第1重鎖及び第2重鎖は、(例えば、立体的な理由のために)もはやホモ二量体化できない。
【0286】
当技術分野において公知の重鎖ヘテロ二量体化を支援するための種々のアプローチが、上記で引用され、上記に含まれており、本発明に基づく多重特異性抗体に使用される種々の代替手段として企図される。同多重特異性抗体は、本発明について上記されている特定のアミノ酸置換との組み合わせで、第1抗原に特異的に結合する第1抗体由来の「非架橋Fab領域」と、第2抗原に特異的に結合する第2抗体由来の「架橋Fab領域」とを含む。
【0287】
本明細書に報告されている多重特異性抗体のCH3ドメインは、「ノブ-into-ホール」技術により変異させることができる。同技術は、例えば、国際公開公報第96/027011号、Ridgway, J.B., et al., Protein Eng. 9 (1996) 617-621;及びMerchant, A.M., et al., Nat. Biotechnol. 16 (1998) 677-681に、複数の例を伴って、詳細に記載されている。この方法において、2つのCH3ドメインの相互作用表面は、これらの2つのCH3ドメインを含有する両重鎖のヘテロ二量体化を向上させるように変異される。(2つの重鎖の)2つのCH3ドメインはそれぞれ、「ノブ」であることができ、一方、他のものは、「ホール」である。ジスルフィド架橋の導入は、ヘテロ二量体を更に安定化させ(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681;Atwell, S., et al., J. Mol. Biol. 270 (1997) 26-35)、収率を向上させる。
【0288】
好ましい一実施態様では、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のT366Wの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン中のT366S、L368A、Y407Vの突然変異とを含む(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。例えば、「ノブ鎖」のCH3ドメイン内へのY349Cの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン内へのE356Cの突然変異又はS354Cの突然変異を導入することにより、CH3ドメイン間の更なる鎖間ジスルフィド架橋も使用することができる(Merchant, A.M., et al., Nature Biotech. 16 (1998) 677-681)。このため、別の好ましい実施態様では、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの一方におけるY349C及びT366Wの突然変異と、2つのCH3ドメインの他方におけるE356C、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異とを含む。または、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの一方におけるY349C及びT366Wの突然変異と、2つのCH3ドメインの他方におけるS354C、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異とを含む(一方のCH3ドメイン中の更なるY349Cの突然変異と他方のCH3ドメイン中の更なるE356C又はS354Cの突然変異とが、鎖間ジスルフィド架橋を形成する)(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0289】
欧州特許出願公開公報第1870459A1号に記載されている他のノブ-in-ホール技術も、代替的に又は追加的に使用することができる。一実施態様において、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のR409D及びK370Eの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン中のD399K及びE357Kの突然変異とを含む(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0290】
一実施態様において、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のT366Wの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン中のT366S、L368A、及びY407Vの突然変異とを含み、更に、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のR409D及びK370Eの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン中のD399K及びE357Kの突然変異とを含む(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0291】
一実施態様において、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの一方におけるY349C及びT366Wの突然変異と、2つのCH3ドメインの他方におけるS354C、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異とを含む。または、本明細書に報告されている多重特異性抗体は、2つのCH3ドメインの一方におけるY349C及びT366Wの突然変異と、2つのCH3ドメインの他方におけるS354C、T366S、L368A、及びY407Vの突然変異とを含み、更に、「ノブ鎖」のCH3ドメイン中のR409D及びK370Eの突然変異と、「ホール鎖」のCH3ドメイン中のD399K及びE357Kの突然変異とを含む(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0292】
「ノブ-into-ホール技術」とは別に、多重特異性抗体における重鎖のCH3ドメインをヘテロ二量体化させるために改変するための他の技術は、当技術分野において公知である。これらの技術は、特に、国際公開公報第96/27011号、同第98/050431号、欧州特許第1870459号、国際公開公報第2007/110205号、同第2007/147901号、同第2009/089004号、同第2010/129304号、同第2011/90754号、同第2011/143545号、同第2012/058768号、同第2013/157954号、及び同第2013/096291号に記載されているものが、本明細書において、本明細書に報告されている多重特異性抗体との組み合わせでの「ノブ-into-ホール技術」に対する代替手段として企図される。
【0293】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、欧州特許第1870459号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体の第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。このアプローチは、第1及び第2重鎖両方間のCH3/CH3ドメイン界面における特定のアミノ酸位置に、反対の電荷を有する電荷したアミノ酸の導入に基づいている。
【0294】
したがって、この実施態様は、抗体の三次構造において、第1重鎖のCH3ドメイン及び第2重鎖のCH3ドメインが、各抗体CH3ドメイン間に位置している界面を形成しており、ここで、第1重鎖のCH3ドメイン及び第2重鎖のCH3ドメインそれぞれの各アミノ酸配列が、抗体の三次構造における前記界面内に位置している1組のアミノ酸を含み、ここで、一方の重鎖のCH3ドメイン中の界面に位置している1組のアミノ酸から、第1アミノ酸が、正に電荷したアミノ酸により置換されており、他方の重鎖のCH3ドメイン中の界面に位置している1組のアミノ酸から、第2アミノ酸が、負に電荷したアミノ酸により置換されている、本明細書に報告されている多重特異性抗体に関する。この実施態様の多重特異性抗体は、本明細書において、「CH3(+/-)操作多重特異性抗体」とも呼ばれる(ここで、「+/-」の略称は、各CH3ドメインに導入された、反対に電荷したアミノ酸を意味する)。
【0295】
本明細書に報告されている前記CH3(+/-)操作多重特異性抗体の一実施態様では、正に電荷したアミノ酸は、K、R、及びHから選択され、負に電荷したアミノ酸は、E又はDから選択される。
【0296】
本明細書に報告されている前記CH3(+/-)操作多重特異性抗体の一実施態様では、正に電荷したアミノ酸は、K及びRから選択され、負に電荷したアミノ酸は、E又はDから選択される。
【0297】
本明細書に報告されている前記CH3(+/-)操作多重特異性抗体の一実施態様では、正に電荷したアミノ酸はKであり、負に電荷したアミノ酸はEである。
【0298】
本明細書に報告されている前記CH3(+/-)操作多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、409位のアミノ酸Rは、Dにより置換されており、位のアミノ酸Kは、Eにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、399位のアミノ酸Dは、Kにより置換されており、357位のアミノ酸Eは、Kにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0299】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2013/157953号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Kにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、351位のアミノ酸Lは、Dにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の別の実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Kにより置換されており、351位のアミノ酸Lは、Kにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、351位のアミノ酸Lは、Dにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0300】
本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の別の実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Kにより置換されており、351位のアミノ酸Lは、Kにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、351位のアミノ酸Lは、Dにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。更に、少なくとも1つの下記置換が、他方の重鎖のCH3ドメイン中に含まれる。349位のアミノ酸Yは、Eにより置換されており、349位のアミノ酸Yは、Dにより置換されており、368位のアミノ酸Lは、Eにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。一実施態様において、368位のアミノ酸Lは、Eにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0301】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2012/058768号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、351位のアミノ酸Lは、Yにより置換されており、407位のアミノ酸Yは、Aにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Aにより置換されており、409位のアミノ酸Kは、Fにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。別の実施態様では、前述の置換に加えて、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、411位(元はT)、399位(元はD)、400位(元はS)、405位(元はF)、390位(元はN)、及び392位(元はK)のアミノ酸の少なくとも1つが置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。好ましい置換は、
- N、R、Q、K、D、E、及びWから選択されるアミノ酸による、411位のアミノ酸Tの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)、
- R、W、Y、及びKから選択されるアミノ酸による、399位のアミノ酸Dの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)、
- E、D、R、及びKから選択されるアミノ酸による、400位のアミノ酸Sの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)、
- I、M、T、S、V、及びWから選択されるアミノ酸による、405位のアミノ酸Fの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)、
- R、K、及びDから選択されるアミノ酸による、390位のアミノ酸Nの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)、ならびに
- V、M、R、L、F、及びEから選択されるアミノ酸による、392位のアミノ酸Kの置換(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)
である。
【0302】
(国際公開公報第2012/058768号に基づいて操作された)本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の別の実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、351位のアミノ酸Lは、Yにより置換されており、407位のアミノ酸Yは、Aにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Vにより置換されており、409位のアミノ酸Kは、Fにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の別の実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、407位のアミノ酸Yは、Aにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Aにより置換されており、409位のアミノ酸Kは、Fにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。前記最後に前述した実施態様では、前記他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、392位のアミノ酸Kは、Eにより置換されており、411位のアミノ酸Tは、Eにより置換されており、399位のアミノ酸Dは、Rにより置換されており、400位のアミノ酸Sは、Rにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0303】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2011/143545号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の一実施態様では、両重鎖のCH3ドメイン中のアミノ酸改変は、368位及び/又は409位に導入される(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0304】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2011/090762号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。国際公開公報第2011/090762号は、「ノブ-into-ホール」技術に基づくアミノ酸改変に関する。本明細書に報告されている前記CH3(KiH)操作多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Wにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、407位のアミノ酸Yは、Aにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている前記CH3(KiH)操作多重特異性抗体の別の実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、366位のアミノ酸Tは、Yにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、407位のアミノ酸Yは、Tにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0305】
IgG2アイソタイプである、本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2011/090762号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。
【0306】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2009/089004号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、392位のアミノ酸K又はNは、負に電荷したアミノ酸により(好ましい一実施態様では、E又はDにより、好ましい一実施態様では、Dにより)置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、399位のアミノ酸D、356位のアミノ酸EもしくはD、又は357位のアミノ酸Eは、正に電荷したアミノ酸(好ましい一実施態様では、K又はR、好ましい一実施態様では、Kにより、好ましい一実施態様では、399位又は356位のアミノ酸は、Kにより置換されている)により置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。更なる一実施態様では、前述の置換に加えて、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、409位のアミノ酸K又はRは、負に電荷したアミノ酸により(好ましい一実施態様では、E又はDにより、好ましい一実施態様では、Dにより)置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。更なる一実施態様では、前述の置換に加えて、又は、同置換に代えて、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、439位のアミノ酸K及び/又は370位のアミノ酸Kは、負に電荷したアミノ酸により(好ましい一実施態様では、E又はDにより、好ましい一実施態様では、Dにより)互いに独立して置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0307】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2007/147901号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。本明細書に報告されている前記多重特異性抗体の一実施態様では、一方の重鎖のCH3ドメインにおいて、253位のアミノ酸Kは、Eにより置換されており、282位のアミノ酸Dは、Kにより置換されており、322位のアミノ酸Kは、Dにより置換されており、他方の重鎖のCH3ドメインにおいて、239位のアミノ酸Dは、Kにより置換されており、240位のアミノ酸Eは、Kにより置換されており、292位のアミノ酸Kは、Dにより置換されている(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0308】
本明細書に報告されている多重特異性抗体の一実施態様では、国際公開公報第2007/110205号に記載されているアプローチが、多重特異性抗体における第1重鎖及び第2重鎖のヘテロ二量体化を支援するのに使用される。
【0309】
全ての態様の一実施態様及び本明細書に報告されている実施態様では、多重特異性抗体は、二重特異性抗体又は三重特異性抗体である。本発明の好ましい一実施態様では、多重特性抗体は、二重特異性抗体である。
【0310】
本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様では、抗体は、二価又は三価の抗体である。一実施態様において、抗体は、二価の抗体である。
【0311】
本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様では、多重特異性抗体は、IgG型抗体の定常ドメイン構造を有する。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、ヒトのサブクラスIgG1又は突然変異L234A及びL235Aを有するヒトのサブクラスIgG1のものであることを特徴とする。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、ヒトのサブクラスIgG2のものであることを特徴とする。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、ヒトのサブクラスIgG3のものであることを特徴とする。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、ヒトのサブクラスIgG4又は更なる突然変異S228Pを有するヒトのサブクラスIgG4のものであることを特徴とする。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、ヒトのサブクラスIgG1又はヒトのサブクラスIgG4のものであることを特徴とする。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、突然変異L234A及びL235Aを有するヒトのサブクラスIgG1のものであることを特徴とする(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、突然変異L234A、L235A、及びP329Gを有するヒトのサブクラスIgG1のものであることを特徴とする(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、突然変異S228P及びL235Eを有するヒトのサブクラスIgG4のものであることを特徴とする(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。本明細書に報告されている全ての態様の更なる一実施態様では、多重特異性抗体は、前記多重特異性抗体が、突然変異S228P、L235E、及びP329Gを有するヒトのサブクラスIgG4のものであることを特徴とする(Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)。
【0312】
本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様では、本明細書において特定されているCH3ドメインを含む重鎖を含む抗体は、更なるC末端グリシン-リシンジペプチド(G446及びK447、Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)を含む。本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様では、本明細書において特定されているCH3ドメインを含む重鎖を含む抗体は、更なるC末端グリシン残基(G446、Kabat EUインデックスに従ったナンバリング)を含む。
【0313】
5.抗体変異体
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体のアミノ酸配列変異体が企図される。例えば、抗体の結合親和性及び/又は他の生物学的特性を改善するのが望ましい場合ある。抗体のアミノ酸配列変異体は、抗体をコードするヌクレオチド配列内に適切な改変を導入することにより、又は、ペプチド合成により調製することができる。このような改変は、例えば、抗体のアミノ酸配列内の残基からの欠失、及び/又は、同配列内への挿入、及び/又は、同配列内の残基の置換を含む。欠失、挿入、及び置換の任意の組み合わせが、最終的な構築物に達するのに行うことができる。ただし、最終的な構築物は、所望の特徴、例えば、抗原結合性を有するという条件である。
【0314】
a)置換、挿入、及び欠失の変異体
特定の実施態様では、1つ以上のアミノ酸置換を有する抗体変異体が提供される。置換変異誘発の対象となる部位は、HVR及びFRを含む。保存的置換は、「保存的置換」の見出しで表1に示されている。より実質的な変化は、「例示的な置換」の見出しで表1に提供され、アミノ酸側鎖の分類を参照して、更に以下に記載されているように提供される。アミノ酸置換は、対象となる抗体内に導入することができ、生成物は、所望の活性、例えば、保持/活性化された抗原結合性、低下した免疫原性、又は改善したADCCもしくはCDCについてスクリーニングすることができる。
【表6】
【0315】
アミノ酸は、共通する側鎖の特性に従ってグループ化することができる。
(1)疎水性:ノルロイシン、Met、Ala、Val、Leu、Ile;
(2)中性親水性:Cys、Ser、Thr、Asn、Gln;
(3)酸性:Asp、Glu;
(4)塩基性:His、Lys、Arg;
(5)鎖配向に影響を及ぼす残基:Gly、Pro;
(6)芳香族性:Trp、Tyr、Phe
【0316】
非保存的置換は、これらのクラスの1つのメンバーを、別のクラスに交換することを必要とするであろう。
【0317】
ある種の置換変異体は、親抗体(例えば、ヒト化又はヒト抗体)の1つ以上の超可変領域残基の置換を含む。一般的には、更なる研究に選択される得られた変異体は、親抗体に対する特定の生物学的特性(例えば、向上した親和性、低下した免疫原性)における改変(例えば、改善)を有し、及び/又は、親抗体の実質的に保持された特定の生物学的特性を有するであろう。例示的な置換変異体は、親和性成熟抗体であり、同抗体は、例えば、ファージディスプレイ系親和性成熟技術、例えば、本明細書に記載されているものを使用して、都合良く生成することができる。簡潔に、1つ以上のHVR残基が成熟され、変異型抗体は、ファージ上に提示され、特定の生物学的活性(例えば、結合親和性)についてスクリーニングされる。
【0318】
変異(例えば、置換)は、例えば、抗体親和性を改善するために、HVR中にすることができる。このような変異は、HVR「ホットスポット」、すなわち、体細胞変異法中に高頻度で突然変異を受けるコドンによりコードされる残基(例えば、Chowdhury, P.S., Methods Mol. Biol. 207 (2008) 179-196を参照のこと)、及び/又は、抗原と接触する残基にすることができる。得られた変異VH又はVLは、結合親和性について試験される。二次ライブラリを構築及び二次ライブラリから再選択することによる親和性成熟は、例えば、Hoogenboom, H.R. et al. in Methods in Molecular Biology 178 (2002) 1-37に記載されている。親和性成熟の一部の実施態様では、多様性が、各種の方法(例えば、エラープローンPCR、鎖シャッフリング、又はオリゴヌクレオチド指定突然変異)のいずれかにより、成熟について選択される可変遺伝子内に導入される。ついで、二次ライブラリが調製される。ついで、このライブラリが、所望の親和性を有する任意の抗体変異体を特定するのにスクリーニングされる。多様性を導入する別の方法は、HVR指定アプローチを含む。そのアプローチにおいて、複数のHVR残基(例えば、一度に4~6個の残基)がランダム化される。抗原結合性に関与するHVR残基は、例えば、アラニンスキャニング変異誘発を使用して、又は、モデリングして、特異的に特定することができる。特に、CDR-H3及びCDR-L3が、多くの場合、ターゲッティングされる。
【0319】
特定の実施態様では、置換、挿入、又は欠失は、このような変異が抗原に結合する抗体の能力を実質的に低下させない限り、1つ以上のHVR内に起こすことができる。例えば、結合親和性を実質的に低下させない保存的変異(例えば、本明細書に提供されている保存的置換)が、HVR中にすることができる。このような変異は、例えば、HVR中の抗原接触残基の外側でもよい。上記提供されている変異型VH及びVL配列の特定の実施態様では、各HVRは、変異していないか、又は、2つ以上、2つもしくは3つのアミノ酸置換を含有するかのいずれかである。
【0320】
変異誘発のためにターゲティングすることができる抗体の残基又は領域を特定するのに有用な方法は、Cunningham, B.C. and Wells, J.A., Science 244 (1989) 1081-1085に記載されている、「アラニンスキャニング変異誘発」と呼ばれる。この方法では、ターゲット残基の残基又は基(例えば、電荷した残基、例えば、Arg、Asp、His、Lys、及びGlu)が特定され、中性又は負に電荷したアミノ酸(例えば、アラニン又はポリアラニン)により置き換えられて、抗体と抗原との相互作用が影響を受けたかどうかを決定する。更なる置換は、最初の置換に対する機能的感受性を証明するアミノ酸位置に導入することができる。代替的に又は追加的に、抗原-抗体複合体の結晶構造は、抗体と抗原との間の接触点を特定する。このような接触残基及び隣接する残基は、置換のための候補としてターゲッティングすることができ、又は、除去することができる。変異体は、それらが所望の特性を含有するかどうかを決定するのにスクリーニングすることができる。
【0321】
アミノ酸配列挿入は、長さが1つの残基から100個以上の残基を含有するポリペプチドの範囲で、アミノ末端融合及び/又はカルボキシル末端融合、ならびに、1つ又は複数のアミノ酸残基の配列内挿入を含む。末端挿入の例は、N末端メチオニル残基を有する抗体を含む。抗体分子の他の挿入変異体は、抗体の血清半減期を長くする、(例えば、ADEPTのための)酵素又はポリペプチドへの抗体のN末端又はC末端に対する融合物を含む。
【0322】
b)グリコシル化変異体
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体は、抗体がグリコシル化されている度合いを向上又は低下させるように変異させる。抗体に対するグリコシル化部位の付加又は欠失は、アミノ酸配列を変異させることにより、都合良く達成することができる。これにより、1つ以上のグリコシル化部位が形成又は除去される。
【0323】
抗体がFc領域を含む場合、それに付着した炭水化物は変更することができる。哺乳類細胞により産生されるネイティブな抗体は、典型的には、二分岐したオリゴ糖を含む。同オリゴ糖は、一般的には、Fc領域におけるCH2ドメインのAsn297にN-結合により付着する(例えば、Wright, A. and Morrison, S.L., TIBTECH 15 (1997) 26-32を参照のこと)。オリゴ糖は、二分岐したオリゴ糖構造の「幹」において、GlcNAcに付着した、種々の炭水化物、例えば、マンノース、N-アセチルグルコサミン(GlcNAc)、ガラクトース、及びシアル酸ならびにフコースを含むことができる。一部の実施態様では、本発明の抗体中のオリゴ糖の改変は、特定の改善した特性を有する抗体変異体を形成するためにすることができる。
【0324】
一実施態様において、Fc領域に(直接又は間接的に)付着したフコースを欠く炭水化物構造を有する抗体変異体が提供される。例えば、このような抗体中のフコース量は、1%~80%、1%~65%、5%~65%、又は20%~40%であることができる。フコース量は、例えば、国際公開公報第2008/077546号に記載されているMALDI-TOF質量分析法により測定された、Asn297に付着した全ての糖構造(例えば、複雑なハイブリッドの高マンノース構造)の合計に対して、Asn297における糖鎖内のフコースの平均量を算出することにより決定される。Asn297は、Fc領域中の297位付近に位置するアスパラギン残基を意味する(Fc領域残基のEUナンバリング)。ただし、抗体中の小さな配列変異のために、Asn297は、297位の上流又は下流約±3個のアミノ酸、すなわち、294~300位に位置する場合もある。このようなフコシル化変異体は、改善したADCC機能を有することができる。例えば、米国特許出願公開公報第2003/0157108号;同第2004/0093621号を参照のこと。「脱フコシル化」又は「フコース欠損」抗体変異体に関する公報の例は、米国特許出願公開公報第2003/0157108号;国際公開公報第2000/61739号;同第2001/29246号;米国特許出願公開公報第2003/0115614号;同第2002/0164328号;同第2004/0093621号;同第2004/0132140号;同第2004/0110704号;同第2004/0110282号;同第2004/0109865号;国際公開公報第2003/085119号;同第2003/084570号;同第2005/035586号;同第2005/035778号;同第2005/053742号;同第2002/031140号;Okazaki, A. et al., J. Mol. Biol. 336 (2004) 1239-1249;Yamane-Ohnuki, N. et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622を含む。脱フコシル化抗体を産生可能な細胞系統の例は、タンパク質フコシル化を欠いたLec13 CHO細胞(Ripka, J. et al., Arch. Biochem. Biophys. 249 (1986) 533-545;米国特許出願公開公報第2003/0157108号;及び国際公開公報第2004/056312号、特に実施例11)及びノックアウト細胞系統、例えば、アルファ-1,6-フコシルトランスフェラーゼ遺伝子、FUT8、ノックアウトCHO細胞(例えば、Yamane-Ohnuki, N. et al., Biotech. Bioeng. 87 (2004) 614-622;Kanda, Y. et al., Biotechnol. Bioeng. 94 (2006) 680-688;及び国際公開公報第2003/085107号を参照のこと)を含む。
【0325】
二分割オリゴ糖を有する抗体変異体が更に提供される。例えば、同変異体において、抗体のFc領域に付着した二分岐オリゴ糖は、GlcNAcにより二分割されている。このような抗体変異体は、減少したフコシル化及び/又は改善したADCC機能を有することができる。このような抗体変異体の例は、例えば、国際公開公報第2003/011878号;米国特許第6,602,684号;及び米国特許出願公開公報第2005/0123546号に記載されている。Fc領域に付着したオリゴ糖中に少なくとも1つのガラクトース残基を有する抗体変異体も提供される。このような抗体変異体は、改善したCDC機能を有することができる。このような抗体変異体は、例えば、国際公開公報第1997/30087号;同第1998/58964号;及び同第1999/22764号に記載されている。
【0326】
c)Fc領域変異体
特定の実施態様では、1つ以上のアミノ酸改変は、本明細書に提供されている抗体のFc領域内に導入することができ、これにより、Fc領域変異体を生成することができる。Fc領域変異体は、1つ以上のアミノ酸位置にアミノ酸改変(例えば、置換)を含む、ヒトFc領域配列(例えば、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、又はIgG4のFc領域)を含むことができる。
【0327】
特定の実施態様では、本発明は、エフェクター機能の一部を有するが全ては有さない抗体変異体を企図する。同変異体は、in vivoにおける抗体の半減期が重要である用途の望ましい候補となる。更なる特定のエフェクター機能(例えば、相補性及びADCC)は必須でないか、又は、有害である。in vitro及び/又はin vivoにおける細胞毒アッセイ法は、CDC及び/又はADCC活性の減少/欠損を確認するのに行うことができる。例えば、Fcレセプター(FcR)結合アッセイ法は、抗体がFcγR結合性を欠いている(このため、おそらくADCC活性を欠いている)が、FcRn結合能を保持していることを確保するのに行うことができる。ADCCを媒介する主な細胞であるNK細胞は、Fc(RIIIのみ)を発現しているが、単球は、FcγRI、FcγRII、及びFcγRIIIを発現している。造血細胞におけるFcR発現は、Ravetch, J.V. and Kinet, J.P., Annu. Rev. Immunol. 9 (1991) 457-492における第464頁の表3中に概説されている。対象となる分子のADCC活性を評価するin vitroアッセイ法の非限定的な例は、米国特許第5,500,362号(例えば、Hellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 83 (1986) 7059-7063;及びHellstrom, I. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 82 (1985) 1499-1502を参照のこと);米国特許第5,821,337号(Bruggemann, M. et al., J. Exp. Med. 166 (1987) 1351-1361を参照のこと)に記載されている。あるいは、非放射性アッセイ法を利用することができる(例えば、フローサイトメトリー用のACTI(商標)非放射性細胞毒アッセイ法(CellTechnology, Inc. Mountain View, CA)及びCytoTox 96(登録商標)非放射性細胞毒アッセイ法(Promega, Madison, WI)を参照のこと)。このようなアッセイ法に有用なエフェクター細胞は、末梢血単核球(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞を含む。代替的に又は追加的に、対象となる分子のADCC活性は、例えば、Clynes, R. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 95 (1998) 652-656に開示されているもの等の動物モデルにおいて、in vivoで評価することができる。Cq1結合アッセイ法も、抗体がC1qに結合できないため、CDC活性を欠いているのを確認するのに行うことができる。例えば、国際公開公報第2006/029879号及び同第2005/100402号におけるC1q及びC3c結合ELISAを参照のこと。補体活性化を評価するために、CDCアッセイ法を行うことができる(例えば、Gazzano-Santoro, H. et al., J. Immunol. Methods 202 (1996) 163-171;Cragg, M.S. et al., Blood 101 (2003) 1045-1052;及びCragg, M.S. and M.J. Glennie, Blood 103 (2004) 2738-2743を参照のこと)。FcRn結合性及びin vivoクリアランス/半減期決定も、当技術分野において公知の方法を使用して行うことができる(例えば、Petkova, S.B. et al., Int. Immunol. 18 (2006) 1759-1769を参照のこと)。
【0328】
低下したエフェクター機能を有する抗体は、Fc領域の残基238、265、269、270、297、327、及び329の1つ以上の置換を有するものを含む(米国特許第6,737,056号)。このようなFc変異体は、残基265及び297のアラニンへの置換を有する、いわゆる「DANA」Fc変異体を含む、アミノ酸位置265、269、270、297、及び327の2つ以上の置換を有するFc変異体を含む(米国特許第7,332,581号)。
【0329】
改善又は減少したFcRに対する結合性を有する特定の抗体変異体が記載されている(例えば、米国特許第6,737,056号;国際公開公報第2004/056312号、及びShields, R.L. et al., J. Biol. Chem. 276 (2001) 6591-6604を参照のこと)。
【0330】
特定の実施態様では、抗体変異体は、ADCCを改善する1つ以上のアミノ酸置換、例えば、Fc領域の298、333、及び/又は334位における置換を有するFc領域を含む(EUナンバリングでの残基)。
【0331】
一部の実施態様では、例えば、米国特許第6,194,551号、国際公開公報第99/51642号、及びIdusogie, E.E. et al., J. Immunol. 164 (2000) 4178-4184に記載されているように、変異は、変化した(すなわち、改善又は減少のいずれかの)C1q結合性及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)をもたらすFc領域中になされる。
【0332】
延長した半減期及び、胎児への母方のIgG輸送を担う(Guyer, R.L. et al., J. Immunol. 117 (1976) 587-593及びKim, J.K. et al., J. Immunol. 24 (1994) 2429-2434)新生児型Fcレセプター(FcRn)に対する改善した結合性を有する抗体は、米国特許出願公開公報第2005/0014934号に記載されている。それらの抗体は、Fc領域のFcRnへの結合性を改善する、1つ以上の置換をその中に有するFc領域を含む。このようなFc変異体は、Fc領域残基:238、256、265、272、286、303、305、307、311、312、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、又は434の1つ以上における置換、例えば、Fc領域残基434の置換を有するものを含む(米国特許第7,371,826号)。
【0333】
Fc領域変異体の他の例に関して、Duncan, A.R. and Winter, G., Nature 322 (1988) 738-740;米国特許第5,648,260号;同第5,624,821号;及び国際公開公報第94/29351号も参照のこと。
【0334】
d)システイン操作抗体変異体
特定の実施態様では、システイン操作抗体、例えば、「チオMAb」を形成するのが望ましい場合がある。同抗体において、抗体の1つ以上の残基は、システイン残基により置換されている。特定の実施態様では、置換された残基は、抗体のアクセッシブル部位において起こる。システインによりそれらの残基を置換することにより、反応性チオール基は、抗体のアクセッシブル部位に位置することで、抗体を他の部分、例えば、薬剤部分又はリンカー-薬剤部分にコンジュゲートして、本明細書に更に記載されているように、免疫コンジュゲートを形成するのに使用することができる。特定の実施態様では、任意の1つ以上の下記残基:軽鎖のV205(Kabatナンバリング);重鎖のA118(EUナンバリング);及び重鎖Fc領域のS400(EUナンバリング)は、システインにより置換することができる。システイン操作抗体は、例えば、米国特許第7,521,541号に記載されているように生成することができる。
【0335】
e)抗体誘導体
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗体は、当技術分野において公知であり、容易に利用できる、更なる非タンパク質性部分を含有するように更に改変することができる。抗体の誘導体化に適した部分は、水溶性ポリマーを含むが、これに限定されない。水溶性ポリマーの非限定的な例は、ポリエチレングリコール(PEG)、エチレングリコール/プロピレングリコールのコポリマー、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ-1,3-ジオキソラン、ポリ-1,3,6-トリオキサン、エチレン/マレイン酸無水物コポリマー、ポリアミノ酸(ホモポリマー又はランダムコポリマーのいずれか)、及びデキストラン又はポリ(n-ビニルピロリドン)ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/エチレンオキシドコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えば、グリセロール)、ポリビニルアルコール、及びこれらの混合物を含むが、これらに限定されない。ポリエチレングリコールプロピオンアルデヒドは、水中でのその安定性のために、製造中での利点を有することができる。このポリマーは、任意の分子量のものであることができ、分岐鎖又は非分岐鎖であることができる。抗体に付着するポリマー数は変化させることができ、2つ以上のポリマーが付着する場合、それらは、同じか又は異なる分子であることができる。一般的には、誘導体化に使用されるポリマーの数及び/又は種類は、改善されるべき抗体の特定の特性又は機能を含むがこれらに限定されない考慮に基づいて、抗体誘導体が規定条件下での治療に使用されるであろうかどうか等を決定することができる。
【0336】
別の実施態様では、抗体と、放射への曝露により選択的に加熱することができる非タンパク質性部分とのコンジュゲートが提供される。一実施態様において、非タンパク質性部分は、カーボンナノチューブである(Kam, N.W. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 102 (2005) 11600-11605)。放射は、任意の波長のものでよく、通常の細胞に有害でない波長を含むが、これに限定されず、非タンパク質性部分を、抗体-非タンパク質性部分近くの細胞が殺傷される温度に加熱する。
【0337】
B.血液脳関門シャトルモジュール
全ての態様の一実施態様では、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する少なくとも1つの結合特異性と、治療ターゲットに対する少なくとも1つの結合特異性とを有する、多重特異性抗体である。一実施態様において、本抗体は、ヒトトランスフェリンレセプターに結合する第1抗原結合部位と、脳抗原に結合する第2抗原結合部位とを含む。更なる実施態様では、脳抗原は、Aベータ、上皮成長因子レセプター(EGFR)、ヒト上皮成長因子レセプター2(HER2)、アルファ-シヌクレイン、CD20、グルコセレブロシダーゼ、又はアミロイド前駆体タンパク質(APP)からなる群より選択される。好ましい一実施態様では、本多重特異性抗体は、
i)トランスフェリンレセプター及びAベータの両方、又は
ii)トランスフェリンレセプター及びCD20の両方、又は
iii)トランスフェリンレセプター及びアルファ-シヌクレインの両方、又は
iv)トランスフェリンレセプター及びリン酸化タウの両方、又は
v)トランスフェリンレセプター及びHER2の両方、又は
vi)トランスフェリンレセプター及びグルコセレブロシダーゼの両方
に結合する。
【0338】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、Aベータに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:81の重鎖可変ドメイン及び配列番号:82の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0339】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトCD20に対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:79の重鎖可変ドメイン及び配列番号:80の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。一実施態様において、該重鎖可変領域は、Kabatの11位におけるアミノ酸残基の任意のアミノ酸、ただし、ロイシンによる置換えを含む。一実施態様において、この置換は、Kabatの11位におけるアミノ酸残基の非極性アミノ酸による置換えを含む。好ましい一実施態様では、この置換は、配列番号:79の重鎖可変ドメインにおけるKabatの11位のアミノ酸残基の、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、及びフェニルアラニンからなる群より選択されるアミノ酸残基による置換えを含む。
【0340】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:83の重鎖可変ドメイン及び配列番号:84の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0341】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:85から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:86から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0342】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:87から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:88から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0343】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:89から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:90から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0344】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:91から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:92から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0345】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:93から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:94から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0346】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:24の重鎖可変ドメイン及び配列番号:37の軽鎖可変ドメインと、ヒトグルコセレブロシダーゼに対する結合部位とを含む、二重特異性抗体である。
【0347】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:83の重鎖可変ドメイン及び配列番号:84の軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0348】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:85から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:86から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0349】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:87から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:88から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0350】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:89から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:90から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0351】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:91から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:92から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0352】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトアルファ-シヌクレインに対する結合部位のための、少なくとも一対の配列番号:93から得られたヒト化重鎖可変ドメイン及び配列番号:94から得られたヒト化軽鎖可変ドメインとを含む、二重特異性抗体である。
【0353】
一実施態様において、本抗体は、トランスフェリンレセプターに対する結合部位を形成する、少なくとも一対の配列番号:7の重鎖可変ドメイン及び配列番号:34の軽鎖可変ドメインと、ヒトグルコセレブロシダーゼに対する結合部位とを含む、二重特異性抗体である。
【0354】
血液脳関門レセプターに特異的に結合する一価の結合実体は、その結合性及び経細胞輸送特性:
- 一価の結合実体としてのBBBR発現細胞の効率的な細胞結合
- 一価の結合実体としての効率的なin vitro経細胞輸送
- ヒト-カニクイザル交叉反応性(例えば、BIAcore及びFACS実験において)
に関して特徴付けることができる。
【0355】
経細胞輸送スクリーニングを、hCMEC/D3系アッセイ法において行うことができる。このアッセイ法を、パルスチェイス方式で行うことができる。hCMEC/D3脳内皮細胞を、一価の結合実体と共に1時間インキュベーションし、その後洗浄し、下記パラメータを、洗浄後0時間及び4時間で測定する。
i)ローディング期中に細胞内に取り込まれた一価の結合実体の量
ii)ローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の基底側量
iii)ローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の頂端側量
iv)ローディング及び洗浄後0時間及び4時間での(細胞溶解による)細胞中の一価の結合実体の量
v)ローディング及び洗浄後0時間及び4時間での一価の結合実体の総量
【0356】
本明細書に報告されている血液脳関門シャトルモジュール中の一価の結合実体として適切であるために、抗トランスフェリンレセプター抗体は(例えば、一価の結合実体として)、i)hCMEC/D3細胞により取り込まれ(エンドサイトーシス)、ii)hCMEC/D3細胞の外側に輸送され(エキソサイトーシス)、iii)hCMEC/D3細胞内で安定(分解のためにエンドソームに輸送されないか、又は、低い輸送)していなければならない。
【0357】
このため、一実施態様では、一価の結合実体は、i)1時間のローディング期中のhCMEC/D3細胞への(実質的な)取込み、ii)洗浄後4時間内でのローディング期間及び洗浄工程後の頂端側及び/又は基底側区画内への放出、及びiii)低い(細胞内)分解速度により、hCMEC/D3系アッセイ法において特徴付けられる。
【0358】
一実施態様では、ローディングは、約2.67μg/mL 一価の結合実体の濃度において1時間である。
【0359】
本明細書に報告されている血液脳関門シャトルモジュールの一価の結合実体として適切であるために、一価の結合実体は、上記されているhCMEC/D3系アッセイ法において、下記閾値:
i)400pg以上のローディング期中に細胞内に取り込まれた一価の結合実体の量、
ii)100pg以上のローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の基底側量、及び
iii)150pg以上のローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の頂端側量
を示さなければならないことが、見出されている。
【0360】
マウス抗ヒトトランスフェリンレセプター抗体128.1(可変領域配列については、国際公開公報第93/10819号ならびに配列番号:64及び65を参照のこと)を、参照として採用することができる。この場合には、本明細書に報告されている血液脳関門シャトルモジュールの一価の結合実体として適切であるために、一価の結合実体は、上記されているhCMEC/D3系アッセイ法において、下記閾値:
i)抗体128.1のローディングの60%以上の、ローディング期中に細胞内に取り込まれた一価の結合実体の量、
ii)抗体128.1の基底側量の60%以上の、ローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の基底側量、及び
iii)抗体128.1の頂端側量の60%以上の、ローディング及び洗浄後4時間での一価の結合実体の頂端側量
を示さなければならない。
【0361】
hCMEC/D3系アッセイ法を、下記のように行うことができる(これは、本明細書に報告されている全ての態様の一実施態様である)。
【0362】
hCMEC/D3のための培地及びサプリメント(国際公開公報第2006/056879号及びWeksler, B.B., et al., FASEB J. 19 (2005) 1872-1874を参照のこと)を、Lonzaから得ることができる。hCMEC/D3細胞(26~29回継代)を、2.5% FBS、添加した成長因子の1/4を含有し、添加したヒドロコルチゾン、ゲンタマイシン、及びアスコルビン酸で完全に補われたEBM2培地中で、コラーゲンコートしたカバーガラス(顕微鏡)又はフラスコにおいてコンフルエントに培養する/培養することができる。
【0363】
全ての経細胞輸送アッセイ法について、高密度孔(1×10個/cm2)のPET膜フィルタインサート(孔径0.4μm、直径12mm)を、12ウェル細胞培養プレートにおいて使用し/使用することができる。培地容量を、頂端側及び基底側チャンバについて、それぞれ400μL及び1600μLとなるように計算する。フィルタインサートの頂端側チャンバを、ラットの尾のコラーゲンI(7.5μg/cm2)、続けて、フィブロネクチン(5μg/mL)でコートし/コートすることができる。各インキュベーションを、RTで1時間継続する。hCMEC/D3細胞を、EBM2培地中で10~12日間、コンフルエントな単層(約2×10個/cm2)に増殖させ/増殖させることができる。空のフィルタを、1% BSAを含有するPBS中で、1時間又は一晩(o/n)ブロキングし/ブロッキングすることができ、ついでその後、アッセイ法前に、EBM2中で少なくとも1時間較正する。
【0364】
アッセイ(アッセイ法のスキームについては、図1を参照のこと)を、本明細書に記載されているのとは別の方法で再構成された血清フリーEBM2培地中で行った。アッセイの当日に、細胞を、60分間血清不足にして、該当する血液脳関門レセプターの天然のリガンドを枯渇させる。細胞を含む又は含まない(ただし、完全な培地中で一晩ブロッキング)フィルタインサートを、該当するモノクローナル抗体(一価の結合実体)と頂端側で、37℃において1時間インキュベーションした。単層を、頂端側(400μL)及び基底側(1600μL)においてそれぞれ、血清フリー培地中での室温(RT)で、3回3~5分間洗浄した。予め温めた培地を、頂端側チャンバに加え、フィルタを、予め温めた培地 1600μLを含有する、新たな12ウェルプレート(1% BSAを含有するPBSで一晩ブロッキング)に移した。この時点で、細胞を含むか又は含まないフィルタを、特異的な抗体(一価の結合実体)の取込みを決定するために、RIPAバッファー 500μL中で溶解させた。残ったフィルタを、37℃又は4℃でインキュベーションした。サンプルを、種々の時点で収集して、抗体(一価の結合実体)の頂端側及び/又は基底側での放出を決定した。サンプル中の抗体含量を、高感度のIgG ELISAを使用して定量することができる(実施例9を参照のこと)。各時点について、データを2つの空のフィルタ及び3つのフィルタ細胞培養物から生成するものとする。
【0365】
C.リコンビナント法及び組成物
抗体は、例えば、米国特許第4,816,567号に記載されているリコンビナント法及び組成物を使用して産生することができる。一実施態様において、本明細書に記載されている抗トランスフェリンレセプター抗体をコードする単離された核酸が提供される。このような核酸は、抗体のVLを含むアミノ酸配列及び/又はVHを含むアミノ酸配列(例えば、抗体の軽鎖及び/又は重鎖)をコードすることができる。更なる実施態様では、このような核酸を含む1つ以上のベクター(例えば、発現ベクター)が提供される。更なる実施態様では、このような核酸を含むホスト細胞が提供される。1つのこのような実施態様では、ホスト細胞は、(1)抗体のVLを含むアミノ酸配列及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含むベクター、又は、(2)抗体のVLを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第1ベクター及び抗体のVHを含むアミノ酸配列をコードする核酸を含む第2ベクターを含む(例えば、(1)又は(2)によりトランスフォーメーションされている)。一実施態様において、ホスト細胞は、真核生物、例えば、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞又はリンパ球細胞(例えば、Y0、NS0、Sp20細胞)である。一実施態様において、抗トランスフェリンレセプター抗体を調製する方法が提供される。ここで、同方法は、抗体の発現に適した条件下において、上記で提供されている抗体をコードする核酸を含むホスト細胞を培養することと、場合により、ホスト細胞(又はホスト細胞培養培地)から、抗体を回収することとを含む。
【0366】
抗トランスフェリンレセプター抗体のリコンビナント産生のために、例えば、上記されている抗体をコードする核酸が単離され、ホスト細胞中での更なるクローニング及び/又は発現のために、1つ以上のベクター内に挿入される。このような核酸は、容易に単離することができ、(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合可能なオリゴヌクレオチドプローブを使用することによる)従来の手法を使用してシークエンシングすることができる。
【0367】
抗体コードベクターのクローニング又は発現に適したホスト細胞は、本明細書に記載されている原核生物又は真核生物の細胞を含む。例えば、特に、グリコシル化及びFcエフェクター機能を必要としない場合、抗体は、細菌中で産生することができる。細菌中での抗体フラグメント及びポリペプチドの発現については、例えば、米国特許第5,648,237号、同第5,789,199号、及び同第5,840,523号を参照のこと(E. coli中での抗体フラグメントの発現が記載されている、Charlton, K.A., In: Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2003), pp. 245-254も参照のこと)。発現後、抗体は、細菌細胞のペーストから、可溶性画分中に単離することができ、更に精製することができる。
【0368】
原核生物に加えて、真核生物の微生物、例えば、グリコシル化経路が「ヒト化」されており、部分的又は完全にヒトグリコシル化パターンを有する抗体の産生をもたらす糸状菌及び酵母株を含む、真菌又は酵母が、抗体コードベクター用のクローニング又は発現ホストに適している。Gerngross, T.U., Nat. Biotech. 22 (2004) 1409-1414; and Li, H. et al., Nat. Biotech. 24 (2006) 210-215を参照のこと。
【0369】
グリコシル化抗体の発現に適したホスト細胞は、多細胞生物(無脊椎動物及び脊椎動物)からも得られる。無脊椎動物の例は、植物及び昆虫細胞を含む。数多くのバキュロウイルス株が特定されており、特にSpodoptera frugiperda細胞のトランスフェクション用の昆虫細胞に関して使用することができる。
【0370】
植物細胞培養物も、ホストとして利用することができる。例えば、(トランスジェニック植物中で抗体を産生するためのPLANTIBODIES(商標)技術が記載されている)米国特許第5,959,177号、同第6,040,498号、同第6,420,548号、同第7,125,978号、及び同第6,417,429号を参照のこと。
【0371】
脊椎動物細胞も、ホストとして使用することができる。例えば、懸濁液中で増殖させるのに適合した哺乳類の細胞系統が有用であることができる。有用な哺乳類ホスト細胞系統の他の例は、SV40によりトランスフォーメーションされるサル腎臓CV1系統(COS-7);ヒト胚性腎臓系統(例えば、Graham, F.L. et al., J. Gen Virol. 36 (1977) 59-74に記載されている293又は293細胞);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK);マウスセルトリ細胞(例えば、Mather, J.P., Biol. Reprod. 23 (1980) 243-252に記載されているTM4細胞);サル腎臓細胞(CV1);アフリカグリーンモンキー腎臓細胞(VERO-76);ヒト子宮頸ガン細胞(HELA);イヌ腎臓細胞(MDCK);バッファローラット肝臓細胞(BRL 3A);ヒト肺細胞(W138);ヒト肝臓細胞(Hep G2);マウス乳房腫瘍(MMT 060562);例えば、Mather, J.P. et al., Annals N.Y. Acad. Sci. 383 (1982) 44-68に記載されているTRI細胞;MRC5細胞;及びFS4細胞である。他の有用な哺乳類ホスト細胞系統は、DHFR CHO細胞を含む、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞(Urlaub, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77 (1980) 4216-4220)ならびにメラノーマ細胞系統、例えば、Y0、NS0、及びSp2/0を含む。抗体産生に適した特定の哺乳類ホスト細胞系統のレビューについては、例えば、Yazaki, P. and Wu, A.M., Methods in Molecular Biology, Vol. 248, Lo, B.K.C. (ed.), Humana Press, Totowa, NJ (2004), pp. 255-268を参照のこと。
【0372】
D.アッセイ法
本明細書に提供されている抗トランスフェリンレセプター抗体は、当技術分野において公知の種々のアッセイ法により、その物理的/化学的特性及び/又は生物学的活性を特定し、スクリーニングし、又は、特徴付けることができる。
【0373】
1.結合アッセイ法
一態様において、本発明の抗体を、その抗原結合活性について、例えば、公知の方法、例えば、ELISA、アルファLISA、ウェスタンブロット、抗体、又は逆相アレイ等により試験する。
【0374】
例示的なELISA又はアルファLISAアッセイ法において、溶液(細胞上清、細胞又は組織ライゼート、体液等)中でのトランスフェリンレセプターは、捕捉抗体により結合される。同捕捉抗体は、トランスフェリンレセプター又は特定のコンフォーメーションにおけるトランスフェリンレセプター上の第1エピトープに特異的に結合する。検出実体に連結した検出抗体は、トランスフェリンレセプターの第2エピトープ又はコンフォーメーションに特異的に結合する。この読出しは、検出実体(化学発光、蛍光、エネルギー移動誘導発光等)に基づいている。
【0375】
抗体アレイの場合には、抗体を、ガラス又はニトロセルロースチップ上にスポットする。このスライドをブロッキングし、トランスフェリンレセプター含有溶液と共にインキュベーションし、結合していない抗体を除去するために洗浄する。結合した抗体を、蛍光ラベルした対応する二次抗体により検出する。蛍光シグナルを、蛍光スライドスキャナにより測定する。同様に、逆相アレイのために、リコンビナントトランスフェリンレセプター、細胞上清、細胞又は組織ライゼート、体液等を、ガラス又はニトロセルロースチップ上にスポットする。このスライドをブロッキングし、個々のアレイを、トランスフェリンレセプター上の特定のエピトープに対する抗体とインキュベーションする。結合していない抗体を洗浄し、結合した抗体を、蛍光ラベルした対応する二次抗体により検出する。蛍光シグナルを、蛍光スライドスキャナにより測定する(Dernick, G., et al., J. Lipid Res. 52 (2011) 2323-2331)。
【0376】
E.診断及び検出のための方法及び組成物
特定の実施態様では、本明細書に提供されている抗トランスフェリンレセプター抗体はいずれも、生体サンプル中のヒトトランスフェリンレセプターの存在を検出するのに有用である。本明細書で使用する場合、「検出すること」という用語は、定量的又は定性的検出を包含する。特定の実施態様では、生体サンプルは、細胞又は組織、例えば、脳組織を含む。
【0377】
一実施態様において、診断又は検出方法に使用するための抗トランスフェリンレセプター抗体が提供される。更なる態様では、生体サンプル中のトランスフェリンレセプターの存在を検出する方法が提供される。特定の実施態様では、同方法は、生体サンプルを本明細書に記載されている抗トランスフェリンレセプター抗体と、トランスフェリンレセプター抗体のトランスフェリンレセプターへの結合が可能な条件下において接触させることと、抗トランスフェリンレセプター抗体とトランスフェリンレセプターとの間で複合体が形成されたかどうかを検出することとを含む。このような方法は、in vitro又はin vivo法であることができる。一実施態様において、例えば、トランスフェリンレセプターが患者を選択するためのバイオマーカーである場合、抗トランスフェリンレセプター抗体は、抗トランスフェリンレセプター抗体による治療に適格な対象を選択するのに使用される。
【0378】
本発明の抗体を使用して診断することができる例示的な障害は、I型脳鉄蓄積(NBIA1)、純粋自立神経失調症、ダウン症候群、ゲーリック病、及び幾つかのレビー小体病、例えば、びまん性レビー小体病(DLBD)、アルツハイマー病レビー小体亜型(LBVAD)、特定の形態のゴーシェ病、及びパーキンソン病痴呆(PDD)を伴う神経変性を含む。
【0379】
特定の実施態様では、ラベルされた抗トランスフェリンレセプター抗体が提供される。ラベルは、直接検出されるラベル又は部分(例えば、蛍光、発色団、高電子密度、化学発光、及び放射性ラベル)ならびに、酵素又はリガンド等の部分を含むが、これらに限定されない。酵素又はリガンド等の部分は、例えば、酵素反応又は分子相互作用により、間接的に検出される。例示的なラベルは、放射線同位体32P、14C、125I、H、及び131I、蛍光体、例えば、希土類キレート又はフルオレセイン及びその誘導体、ローダミン及びその誘導体、ダンシル、ウンベリフェロン、過酸化水素を利用して、染料前駆体を酸化する酵素、例えば、HRP、ラクトペルオキシダーゼ、又はマイクロペルオキシダーゼと組み合わせた、ルシフェラーゼ、例えば、ホタルルシフェラーゼ及び細菌ルシフェラーゼ(米国特許第4,737,456号)、ルシフェリン、2,3-ジヒドロフタラジンジオン、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)、アルカリホスファターゼ、β-ガラクトシダーゼ、グルコアミラーゼ、リソザイム、糖質オキシダーゼ、例えば、グルコースオキシダーゼ、ガラクトースオキシダーゼ、及びグルコース-6-ホスファートデヒドロゲナーゼ、複素環オキシダーゼ、例えば、ウリカーゼ及びキサンチンオキシダーゼ、ビオチン/アビジン、スピンラベル、バクテリオファージラベル、安定フリーラジカル等を含むが、これらに限定されない。
【0380】
F.医薬製剤
本明細書に記載されている抗トランスフェリンレセプター抗体の医薬製剤は、所望の度合いの純度を有するこのような抗体を、1つ以上の任意の薬学的に許容し得る担体と混合することにより、凍結乾燥製剤又は水溶液の状態で調製される(Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980))。薬学的に許容し得る担体は、一般的には、利用される用量及び濃度において、レシピエントに対して非毒性であり、バッファー、例えば、リン酸、クエン酸、及び他の有機酸;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;保存剤(例えば、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロリド;ヘキサメトニウムクロリド;ベンザルコニウムクロリド;ベンゼトニウムクロリド;フェノール、ブチルもしくはベンジルアルコール;アルキルパラベン、例えば、メチルもしくはプロピルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール);低分子量(約10残基未満)ポリペプチド;タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、もしくは免疫グロブリン;親水性ポリマー、例えば、ポリ(ビニルピロリドン);アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン、もしくはリシン;グルコース、マンノース、もしくはデキストリンを含む単糖類、二糖類、及び他の炭水化物;キレート剤、例えば、EDTA;糖、例えば、ショ糖、マンニトール、トレハロース、もしくはソルビトール;塩形成カウンターイオン、例えば、ナトリウム;金属錯体(例えば、Zn-タンパク質錯体);ならびに/又は非イオン性界面活性剤、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)を含むが、これらに限定されない。本明細書において、例示的な薬学的に許容し得る担体は、間質薬分散剤、例えば、可溶性の中性活性ヒアルロニダーゼ糖タンパク質(sHASEGP)、例えば、ヒト可溶性PH-20ヒアルロニダーゼ糖タンパク質、例えば、rhuPH20(HYLENEX(登録商標)、Baxter International, Inc.)を更に含む。rhuPH20を含む特定の例示的なsHASEGP及び使用方法は、米国特許出願公開公報第2005/0260186号及び同第2006/0104968号に記載されている。一態様において、sHASEGPは、1つ以上の更なるグリコサミノグリカナーゼ、例えば、コンドロイチナーゼと組み合わせられる。
【0381】
例示的な凍結乾燥抗体製剤は、米国特許第6,267,958号に記載されている。水性抗体製剤は、米国特許第6,171,586号及び国際公開公報第2006/044908号に記載されているものを含む。後者の製剤は、ヒスチジン-アセテートバッファーを含む。
【0382】
本明細書における製剤は、処置される特定の適応症に必要な場合、2つ以上の活性成分、好ましくは、互いに有害に影響しない補完的な活性を有するものも含有することができる。このような活性成分は、意図した目的に効果的な量での組み合わせにおいて適切に存在する。
【0383】
活性成分は、例えば、コアセルベーション技術により、又は、界面重合により調製されたマイクロカプセル、例えば、ヒドロキシメチルセルロースもしくはゼラチンマイクロカプセル及びポリ-(メチルメタクリラート)マイクロカプセルそれぞれに、コロイド状薬剤送達システム(例えば、リポソーム、アルブミンマイクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子、及びナノカプセル)に、又はマクロエマルジョンに封入することができる。このような技術は、Remington's Pharmaceutical Sciences, 16th edition, Osol, A. (ed.) (1980)に開示されている。
【0384】
持続放出型製剤が調製される場合がある。持続放出型製剤の適切な例は、抗体を含有する固体の疎水性ポリマーの半透過性マトリックスを含む。同マトリックスは、造形品、例えば、フィルム又はマイクロカプセルの状態である。
【0385】
in vivo投与に使用される製剤は、一般的には、無菌である。無菌は、例えば、ろ過滅菌膜によるろ過により容易に達成することができる。
【0386】
G.治療方法及び組成物
本明細書に提供されている抗TfR抗体のいずれかは、治療方法に使用することができる。一態様において、医薬として使用するための抗TfR抗体が提供される。例えば、本発明は、血液脳関門を通過させて、治療化合物を輸送する方法であって、抗体がそれに結合した治療化合物を、BBBを通過させて輸送するように、治療化合物に結合した抗TfR抗体(例えば、TfR及び脳抗原の両方に結合する多重特異性抗体)をBBBに暴露させることを含む、方法を提供する。別の例では、本発明は、血液脳関門を通過させて、神経障害剤を輸送する方法であって、抗体がそれに結合した神経障害剤を、BBBを通過させて輸送するように、脳障害剤に結合した本発明の抗TfR抗体(例えば、TfR及び脳抗原の両方に結合する多重特異性抗体)をBBBに暴露させることを含む、方法を提供する。一実施態様において、BBBは、哺乳類(例えば、ヒト)、例えば、神経障害を有するものにおけるものである。同神経障害は、アルツハイマー病(AD)、脳卒中、痴呆、筋ジストロフィー(MD)、多発性硬化症(MS)、筋委縮性側索硬化症(ALS)、嚢胞性線維症、アンゲルマン症候群、リドル症候群、パーキンソン病、ピック病、パジェット病、ガン、外傷性脳傷害等を含むが、これらに限定されない。一実施態様において、神経障害は、末梢神経、アミロイドーシス、ガン(例えば、CNS又は脳に関与する)、眼疾患もしくは障害、ウイルスもしくは細菌感染、(例えば、CNS又は脳の)炎症、虚血、神経変性疾患、発作、行動障害、リソソーム蓄積症等から選択される。本発明の抗体は、1つ以上の会合した活性成分/結合した治療化合物を、BBBを通過させて、このような障害がその分子、細胞、又はウイルス/細菌的基礎となるCNS/脳内に輸送するその能力のために、このような神経障害の処置に特に適している。末梢神経障害は、不適切又は制御されていない神経シグナル伝達又は同シグナル伝達の欠損により特徴付けられる、神経系の疾患又は異常であり、慢性疼痛(侵害受容性疼痛を含む)、ガン関連疼痛を含む身体組織に対する傷害により生じる疼痛、神経障害疼痛(神経、脊髄、又は脳における異常により生じる疼痛)、及び(精神障害に完全に又はほとんど関連する)精神性疼痛、頭痛、偏頭痛、末梢神経、ならびに、このような末梢神経障害に付随する兆候及び症候群、例えば、めまい又は吐き気を含むが、これらに限定されない。
【0387】
末梢神経障害について、鎮痛剤である神経剤を選択することができる。同鎮痛剤は、麻薬/オピオイド鎮痛剤(すなわち、モルヒネ、フェンタニル、ヒドロコドン、メぺリジン、メタドン、オキシモルホン、ペンタゾシン、プロポキシフェン、トラマドール、コデイン、及びオキシコドン)、非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)(すなわち、イブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナク、ジフルニサール、エトドラック、フェノプロフェン、フルビプロフェン、インドメタシン、ケトロラック、メフェナム酸、メロキシカム、ナブメトン、オキサプロジン、ピロキシカム、スリンダク、及びトルメチン)、コルチコステロイド(すなわち、コルチゾン、プレドニゾン、プレドニゾロン、デキサメタゾン、メチルプレドニゾロン、及びトリアムシノロン)、抗偏頭痛剤(すなわち、スマトリプチン、アルモトリプタン、フロバトリプタン、スマトリプタン、リザトリプタン、エレトリプタン、ゾルミトリプタン、ジヒドロエルゴタミン、エレトリプタン、及びエルゴタミン)、アセトアミノフェン、サリチル酸塩(すなわち、アスピリン、サリチル酸コリン、サリチル酸マグネシウム、ジフルニサール、及びサルサラート)、抗痙攣剤(すなわち、カルバマゼピン、クロナゼパム、ガバペンチン、ラモトリジン、プレガバリン、チアガビン、及びトピラマート)、麻酔剤(すなわち、イソフルラン、トリクロロエチレン、ハロタン、セボフルラン、ベンゾカイン、クロロプロカイン、コカイン、シクロメチカイン、ジメトカイン、プロポキシカイン、プロカイン、ノボカイン、プロパラカイン、テトラカイン、アルチカイン、ブピバカイン、カルチカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、ピぺロカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリメカイン、サキシトキシン、及びテトロドトキシン)、及びcox-2阻害剤(すなわち、セレコキシブ、ロフェコキシブ、及びバルデコキシブ)を含むが、これらに限定されない。めまいを伴う末梢神経障害について、抗めまい剤である神経剤を選択することができる。同抗めまい剤は、メクリジン、ジフェンヒドラミン、プロメタジン、及びジアゼパムを含むが、これらに限定されない。吐き気を伴う末梢神経障害について、制吐剤である神経剤を選択することができる。同制吐剤は、プロメタジン、クロルプロマジン、プロクロルペラジン、トリメトベンザミド、及びメトクロプラミドを含むが、これらに限定されない。
【0388】
アミロイドーシスは、CNSにおける細胞外タンパク質性堆積に関連する、一群の疾患及び障害であり、続発性アミロイドーシス、加齢アミロイドーシス、アルツハイマー病(AD)、軽度認知機能障害(MCI)、レビー小体病、ダウン症候群、アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(ダッチ型);グアムパーキンソン痴呆症候群、脳アミロイド血管障害、ハンチントン病、進行性核上性麻痺、多発性硬化症;クロイツフェルトヤコブ病、パーキンソン病、伝達性海面状脳症、HIV関連痴呆、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、封入体筋炎(IBM)、及び、ベータアミロイド堆積に関連する眼疾患(すなわち、黄斑変性、ドルーセン関連視神経症、及び白内障)を含むが、これらに限定されない。
【0389】
アミロイドーシスについて、ベータセクレターゼ、tau、プレセニリン、アミロイド前駆体タンパク質又はその一部、アミロイドベータペプチドもしくはオリゴマー又はそれらの原繊維、デスレセプター6(DR6)、終末糖化産物レセプター(RAGE)、パーキン、及びハンチンチン;コリンエステラーゼ阻害剤(すなわち、ガランタミン、ドネペジル、リバスチグミン、及びタクリン);NMDAレセプターアンタゴニスト(すなわち、メマンチン)、モノアミン枯渇剤(すなわち、テトラベナジン);エルゴロイドメシラート;抗コリン性抗パーキンソン剤(すなわち、プロシクリジン、ジフェンヒドラミン、トリヘキシルフェニジル、ベンズトロピン、ビペリデン、及びトリヘキシフェニジル);ドーパミン作動性抗パーキンソン剤(すなわち、エンタカポン、セレギリン、プラミペキソール、ブロモクリプチン、ロチゴチン、セリギリン、ロピニロール、ラサギリン、アポモルフィン、カルビドパ、レボドパ、ペルゴリド、トルカポン、及びアマンタジン);テトラベナジン;抗炎症剤(非ステロイド系抗炎症剤(すなわち、インドメタシン及び上記列記された他の化合物)を含むが、これらに限定されない);ホルモン(すなわち、エストロゲン、プロゲステロン、及びリュープロリド);ビタミン(すなわち、葉酸及びニコチンアミド);ジメボリン;ホモタウリン(すなわち、3-アミノプロパンスルホン酸;3APS);セロトニンレセプター活性モデュレーター(すなわち、キサリプロデン);インターフェロン、及び糖質コルチコイドから選択される、ターゲットに特異的に結合する抗体又は他の結合分子(小分子、ペプチド、アプタマー、又は他のタンパク質バインダーを含むが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない、神経剤を選択することができる。
【0390】
CNSのガンは、1つ以上のCNS細胞(すなわち、神経細胞)の異常な増殖により特徴付けられ、神経膠種、多形性神経膠芽腫、髄膜腫、星状細胞腫、聴神経腫、軟骨腫、乏突起神経膠腫、髄芽細胞腫、神経節膠腫、シュワン腫、神経線維腫、神経芽細胞腫、及び、硬膜外、髄内、硬膜内腫瘍、又は、末梢腫瘍、例えば、CD20もしくはHER2陽性ガンのCNS転移を含むが、これらに限定されない。
【0391】
ガンについて、化学療法剤である神経剤を選択することができる。
【0392】
化学療法剤の例は、アルキル化剤、例えば、チオテパ及びCYTOXAN(登録商標)シクロホスファミド;アルキルスルホナート、例えば、ブスルファン、インプロスルファン、及びピポスルファン;アジリジン、例えば、ベンゾドパ、カルボコン、メツレドパ、及びウレドパ;エチレンイミン及びメチロールメラミン(methylamelamines)(アルトレタミン、トリエチレンメラミン、トリエチレンホスホラアミド、トリエチレンチオホスホラアミド、及びトリメチロールメラミン(trimethylolomelamime)を含む);アセトゲニン(特に、ブラタシン及びブラタシノン);デルタ-9-テトラヒドロカンナビノール(ドロナビノール、MARINOL(登録商標))ベータ-ラパコン;ラパコール;コルチシン;ベツリン酸;カンプトテシン(合成類似物であるトポテカン(HYCAMTIN(登録商標))、CPT-11(イリノテカン、CAMPTOSAR(登録商標))、アセチルカンプトテシン、スコポレクチン、及び9-アミノカンプトテシン);ブリオスタチン;カリスタチン;CC-1065(そのアドゼレシン、カルゼレシン、及びビゼレシン合成類似物を含む);ポドフィロトキシン;ポドフィリン酸;テニポシド;クリプトフィシン(特に、クリプトフィシン1及びクリプトフィシン8);ドラスタチン;デュオカルマイシン(合成類似物であるKW-2189及びCB1-TM1を含む);エレウテロビン;パンクラチスタチン;サルコジクチン;スポンジスタチン;ナイトロジェンマスタード、例えば、クロラムブシル、クロルナファジン、チョロホスファミド(cholophosphamide)、エストラムスチン、イホスファミド、メクロレタミン、塩酸メクロレタミンオキシド、メルファラン、ノブエンビキン、フェネステリン、プレドニムスチン、トロフォスファミド、ウラシルマスタード;ニトロソ尿素(nitrosureas)、例えば、カルムスチン、クロロゾトシン、フォテムスチン、ロムスチン、ニムスチン、及びラニムスチン;抗生物質、例えば、エンジイン抗生物質(例えば、カリケアマイシン、特に、カリケアマイシンガンマII及びカリケアマイシンオメガII(例えば、Angew. Chem. Intl. Ed. Engl., 33 (1994) 183-186を参照のこと);ジネマイシンAを含むジネマイシン;エスペラマイシン;ならびにネオカルジノスタチン発色団及び関連する発色タンパク質、エンジイン抗生物質発色団)、アクラシノマイシン、アクチノマイシン、オースラマイシン(authramycin)、アザセリン、ブレオマイシン、カクチノマイシン、カラビシン(carabicin)、カルミノマイシン、カルジノフィリン、クロモマイシン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デトルビシン、6-ジアゾ-5-オキソ-L-ノルロイシン、ADRIAMYCIN(登録商標)ドキソルビシン(モルホリノ-ドキソルビシン、シアノモルホリノ-ドキソルビシン、2-ピロロリノ-ドキソルビシン、及びデオキシドキソルビシンを含む)、エピルビシン、エソルビシン、イダルビシン、マルセロマイシン、マイトマイシン、例えば、マイトマイシンC、ミコフェノール酸、ノガラマイシン、オリボマイシン、ペプロマイシン、ポトフィロマイシン(potfiromycin)、ピューロマイシン、クエラマイシン(quelamycin)、ロドルビシン(rodorubicin)、ストレプトニグリン、ストレプトゾシン、ツベルシジン、ウベニメクス、ジノスタチン、ゾルビシン;代謝拮抗剤、例えば、メトトレキサート及び5-フルオロウラシル(5-FU);葉酸類似物、例えば、デノプテリン、メトトレキサート、プテロプテリン、トリメトレキサート;プリン類似物、例えば、フルダラビン、6-メルカプトプリン、チアミプリン、チオグアニン;ピリミジン類似物、例えば、アンシタビン、アザシチジン、6-25アザウリジン、カルモフール、シタラビン、ジデオキシウリジン、ドキシフルリジン、エノシタビン、フロクスウリジン;アンドロゲン、例えば、カルステロン、プロピオン酸ドロモスタノロン、エピチオスタノール、メピチオスタン、テストラクトン;抗副腎剤、例えば、アミノグルテチミド、ミトタン、トリロスタン;葉酸補給剤、例えば、フォリン酸;アセグラトン;アルドホスファミドグリコシド;アミノレブリン酸;エニルウラシル;アムサクリン;ベストラブシル;ビサントレン;エダトラキサート(edatraxate);デホファミン(defofamine);デメコルチン;ジアジコン;エフロルニチン(elfornithine);酢酸エリプチニウム;エポチロン;エトグルシド;硝酸ガリウム;ヒドロキシ尿素;レンチナン;ロニダニン(lonidanine);メイタンシノイド、例えば、メイタンシン及びアンサマイトシン;ミトグアゾン;ミトキサントロン;モピダモール;ニトラエリン(nitraerine);ペントスタチン;フェナメット;ピラルビシン;ロソキサントロン;2-エチルヒドラジド;プロカルバジン;PSK(登録商標)多糖類複合体(JHS Natural Products, Eugene, OR);ラゾキサン;リゾキシン;シゾフィラン;スピロゲルマニウム;テヌアゾン酸;トリアジコン;2,2’,2’’-トリクロロトリエチルアミン;トリコテセン(特に、T-2トキシン、ベラクリンA、ロリジンA、及びアングイジン);ウレタン;ビンデシン(ELDISINE(登録商標)、FILDESIN(登録商標));ダカルバジン;マンノムスチン;ミトブロニトール;ミトラクトール;5ピポブロマン;ガシトシン(gacytosine);アラビノシド(「Ara-C」);チオテパ;タキソイド、例えば、TAXOL(登録商標)パクリタキセル(Bristol-Myers-Squibb Oncology, Princeton, N.J.)、ABRAXANETM発色団フリー、パクリタキセルのアルブミン操作ナノ粒子製剤(American Pharmaceutical Partners, Schaumberg, Illinois)及びTAXOTERE(登録商標)ドセタキセル(Rhone-Poulenc Rorer, Antony, France);クロラムブシル;ゲムシタビン(GEMZAR(登録商標));6-チオグアニン;メルカプトプリン;メトトレキサート;白金類似物、例えば、シスプラチン及びカルボプラチン;ビンブラスチン(VELBAN(登録商標));白金;エトポシド(VP-16);イホスファミド;ミトキサントロン;ビンクリスチン(ONCOVIN(登録商標));オキサリプラチン;ロイコボビン;ビノレルビン(NAVELBINE(登録商標));ノバントロン;エダトレキサート;ダウノマイシン;アミノプテリン;イバンドロナート;トポイソメラーゼ阻害剤RFS2000;ジフルオロメチルオルニチン(DMFO);レチノイド、例えば、レチノイン酸;カペシタビン(XELODA(登録商標));上記いずれかの薬学的に許容し得る塩、酸、又は誘導体、ならびに、上記の2つ以上の組み合わせ、例えば、CHOP(シクロホスファミド、ドキソルビシン、ビンクリスチン、及びプレドニゾロンの組み合わせ治療についての略語)及びFOLFOX(5-FU及びロイコボビンと組み合わせられたオキザリプラチン(ELOXATINTM)による処置計画についての略語)を含む。
【0393】
化学療法剤のこの定義には、ガンの増殖を促進することができるホルモンの作用を制御し、減少させ、遮断し、又は阻害するように作用し、多くの場合、全身性又は全身の処置の形式である抗ホルモン剤も含まれる。抗ホルモン剤は、ホルモン自体であることができる。例は、抗エストロゲン及び選択的エストロゲンレセプターモデュレーター(SERM)(例えば、タモキシフェン(NOLVADEX(登録商標)タモキシフェンを含む)、EVISTA(登録商標)ラロキシフェン、ドロロキシフェン、4-ヒドロキシタモキシフェン、トリオキシフェン、ケオキシフェン、LY117018、オナプリストン、及びFARESTON(登録商標)トレミフェンを含む);抗プロゲステロン;エストロゲンレセプターダウンレギュレーター(ERD);卵巣をサプレッションし、又は、停止させるように作用する薬剤、例えば、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)アゴニスト、例えば、LUPRON(登録商標)及びELIGARD(登録商標)酢酸リュープロリド、酢酸ゴセレリン、酢酸ブセレリン、及びトリプテレリン;他の抗アンドロゲン、例えば、フルタミド、ニルタミド、及びビカルタミド;ならびに、酵素であるアロマターゼ(アロマターゼは副腎においてエストロゲン生成を制御する)を阻害するアロマターゼ阻害剤、例えば、4(5)-イミダゾール、アミノグルテチミド、MEGASE(登録商標)酢酸メゲストロール、AROMASIN(登録商標)エキセメスタン、ホルメスタン(formestanie)、ファドロゾール、RIVISOR(登録商標)ボロゾール、FEMARA(登録商標)レトロゾール、及びARIMIDEX(登録商標)アナストロゾール等を含む。加えて、化学療法剤のこのような定義は、ビスホスホナート、例えば、クロドロナート(例えば、BONEFOS(登録商標)又はOSTAC(登録商標))、DIDROCAL(登録商標)エチドロナート、NE-58095、ZOMETA(登録商標)ゾレドロン酸/ゾレドロナート、FOSAMAX(登録商標)アレンドロナート、AREDIA(登録商標)パミドロナート、5 SKELID(登録商標)チルドロナート、又はACTONEL(登録商標)リセドロナート、ならびに、トロキサシタビン(1,3-ジオキソランヌクレオシドシトシン類似物);アンチセンスオリゴヌクレオチド、特に、異常な細胞増殖に関わるシグナル伝達経路における遺伝子の発現を阻害するもの、例えば、PKC-アルファ、Raf、H-Ras、及び上皮成長因子レセプター(EGF-R)等;ワクチン、例えば、THERATOPE(登録商標)ワクチン及び遺伝子治療ワクチン、例えば、ALLOVECTIN(登録商標)ワクチン、LEUVECTIN(登録商標)ワクチン、及びVAXID(登録商標)ワクチン;LURTOTECAN(登録商標)トポイソメラーゼ1阻害剤;ABARELIX(登録商標)rmRH;ラパチニブジトシラート(GW572016としても公知のErbB-2及びEGFR二重チロシンキナーゼ小分子阻害剤)、ならびに、上記いずれかの薬学的に許容し得る塩、酸、又は誘導体を含む。
【0394】
ガンの治療又は予防のための神経剤として選択することができる別の群の化合物は、抗ガン免疫グロブリン(トラスツズマブ、ペルツズマブ、ベバシズマブ、アレムツズマブ、セツキシマブ、ゲムツズマ、オゾガマイシン、イブリツモマブ、チウキセタン、パニツムマブ、及びリツキシマブを含むが、これらに限定されない)である。一部の例では、毒性ラベルと一体となっている抗体又はコンジュゲートは、所望の細胞(すなわち、ガン細胞)をターゲットし、殺傷するのに使用することができる。同抗体は、131I放射線ラベルを含むトシツモマブ又はトラスツズマブエンタンシンを含むが、これらに限定されない。
【0395】
眼疾患又は障害は、本明細書における目的において、BBBにより隔離されるCNS臓器を考慮に入れる、眼の疾患又は障害である。眼疾患又は障害は、強膜、角膜、虹彩、及び毛様体の障害(すなわち、強膜炎、角膜炎、角膜潰瘍、角膜上皮剥離、雪盲、arc eye、タイゲソン点状表層角膜炎、角膜血管新生、フックスジストロフィー、円錐角膜、乾性角膜炎、虹彩炎、及びブドウ膜炎)、水晶体の障害(すなわち、白内障)、脈絡膜及び網膜の障害(すなわち、網膜剥離、網膜分離症、高血圧性網膜症、糖尿病性網膜症、網膜症、未熟児の網膜症、加齢黄斑変性、黄斑変性(乾燥型又は滲出型)、網膜前膜、色素性網膜炎、及び黄斑浮腫)、緑内障、飛蚊症、視神経及び視覚路の障害(すなわち、レーバー遺伝性視神経症及び視神経乳頭ドルーセン)、眼筋/両眼運動視力調節/屈折の障害(すなわち、斜視、眼麻痺、進行性外眼筋麻痺、内斜視、外斜視、遠視、近視、非点収差、不同視、老視、及び眼筋麻痺)、視覚障害及び盲目(すなわち、弱視、レーバー先天黒内障、暗点、色盲、全色盲、夜盲症、盲目、河川盲目症、及び小眼球症/眼欠損症)、充血眼、アーガイル・ロバートソン瞳孔、角膜真菌症、眼球乾燥症、及びandaniridiaを含むが、これらに限定されない。
【0396】
眼疾患又は障害について、抗血管新生眼科用剤(すなわち、ベバシズマブ、ラニビズマブ、及びペガプタニブ)、眼科用緑内障剤(すなわち、カルバコール、エピネフリン、臭化デメカリウム、アプラクロニジン、ブリモニジン、ブリンゾラミド、レボブノロール、チモロール、ベタキソロール、ドルゾラミド、ビマトプロスト、カルテオロール、メチプラノロール、ジピベフリン、トラボプロスト、及びラタノプロスト)、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤(すなわち、メタゾラミド及びアセタゾラミド)、眼科用抗ヒスタミン剤(すなわち、ナファゾリン、フェニルエフェリン、及びテトラヒドロゾリン)、目薬、眼科用ステロイド(すなわち、フルオロメトロン、プレドニゾロン、ロテプレドノール、デキサメタゾン、ジフルプレドナート、リメキソロン、フルオシノロン、メドリゾン、及びトリアムシノロン)、眼科用麻酔(すなわち、リドカイン、プロパラカイン、及びテトラカイン)、眼科用抗感染症剤(すなわち、レボフロキサシン、ガチフロキサシン、シプロフルキサシン、モキシフロキサシン、クロラムフェニコール、バシトラシン/ポリミキシンB、スルフアセトアミド、トブラマイシン、アジスロマイシン、ベシフロキサシン、ノルフロキサシン、スルフィソキサゾール、ゲンタマイシン、イドキシウリジン、エリスロマイシン、ナタマイシン、グラミシジン、ネオマイシン、オフロキサシン、トリフルウリジン、ガンシクロビル、ビダラビン)、眼科用抗炎症剤(すなわち、ネパフェナク、ケトロラック、フルビプロフェン、スプロフェン、シクロスポリン、トリアムシノロン、ジクロフェナク、及びブロムフェナク)、及び、眼科用抗ヒスタミン剤又は充血緩和剤(すなわち、ケトチフェン、オロパタジン、エピナスチン、ナファゾリン、クロモリン、テトラヒドロゾリン、ペミロラスト、ベポタスチン、ナファゾリン、フェニルエフリン、ネドクロミル、ロドキサミド、フェニルエフリン、エメダスチン、及びアゼラスチン)である、神経剤を選択することができる。
【0397】
CNSのウイルス又は微生物感染は、ウイルス(すなわち、インフルエンザ、HIV、ポリオウイルス、風疹)、細菌(すなわち、Neisseria種、Streptococcus種、Pseudomonas種、Proteus種、E. coli、S. aureus、Pneumococcus種、Meningococcus種、Haemophilus種、及びMycobacterium tuberculosis)、及び他の微生物、例えば、真菌(すなわち、酵母、Cryptococcus neoformans)、寄生虫(すなわち、toxoplasma gondii)又はアメーバによる感染を含むが、これらに限定されず、急性又は慢性である場合がある髄膜炎、脳炎、脊髄炎、血管炎、及び膿瘍を含むが、これらに限定されないCNS病態生理をもたらす。
【0398】
ウイルス又は微生物疾患について、抗ウイルス化合物(アマンタジン抗ウイルス剤(すなわち、リマンタジン及びアマンタジン)、抗ウイルスインターフェロン(すなわち、peg-インターフェロンアルファ-2b)、ケモカインレセプターアンタゴニスト(すなわち、マラビロク)、インテグラーゼ鎖転移阻害剤(すなわち、ラルテグラビル)、ノイラミニダーゼ阻害剤(すなわち、オセルタミビル及びザナミビル)、非ヌクレオシドリバーストランスクリプターゼ阻害剤(すなわち、エファビレンズ、エトラビリン、デラビルジン、及びネビラピン)、ヌクレオシドリバーストランスクリプターゼ阻害剤(テノフォビル、アバカビル、ラミブジン、ジドブジン、スタブジン、エンテカビル、エントリシタビン、アデフォビル、ザルシタビン、テルビブジン、及びジダノシン)、プロテアーゼ阻害剤(すなわち、ダルナビル、アタザナビル、フォサンプレナビル、チプラナビル、リトナビル、ネルフィナビル、アンプレナビル、インジナビル、及びサクイナビル)、プリンヌクレオシド(すなわち、バラシクロビル、ファムシクロビル、アシクロビル、リバビリン、ガンシクロビル、バルガンシクロビル、及びシドフォビル)、及び種々の抗ウイルス剤(すなわち、エンフビルチド、フォスカルネット、パリビズマブ、及びフォミビルセン)、抗生物質(アミノペニシリン(すなわち、アモキシシリン、アンピシリン、オキサシリン、ナフシリン、クロキサシリン、ジクロキサシリン、フルコキサシリン、テモシリン、アズロシリン、カルベニシリン、チカルシリン、メゾロシリン、ピペラシリン、及びバカンピシリン)、セファロスポリン(すなわち、セファゾリン、セファレキシン、セファロチン、セファマドール、セフトリアキソン、セフォタキシム、セフポドキシム、セフタジジム、セファドロキシル、セフラジン、ロラカルベフ、セフォテタン、セフロキシム、セフプロジル、セファクロル、及びセフォキシチン)、カルバペネム/ペネム(すなわち、イミペネム、メロペネム、エルタペネム、ファロペネム、及びドリペネム)、モノバクタム(すなわち、アズトレオナム、チゲモナム、ノルカルジシンA、及びタブトキシニン-ベータ-ラクタム)、別のベータラクタム抗生物質との組み合わせにおけるベータラクタマーゼ阻害剤(すなわち、クラブラン酸、タゾバクタム及びスルバクタム)、アミノグリコシド(すなわち、アミカシン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、ネチルマイシン、ストレプトマイシン、トブラマイシン、及びパロモマイシン)、アンサマイシン(すなわち、ゲルダナマシン及びヘルビマイシン)、カルバセフェム(すなわち、ロラカルベフ)、グリコペプチド(すなわち、テイコプラニン及びバンコマイシン)、マクロライド(すなわち、アジスロマイシン、クラリスロマイシン、ジリスロマイシン、エリスロマイシン、ロキシスロマイシン、トロレアンドマイシン、テリスロマイシンン、及びスペクチノマイシン)、モノバクタム(すなわち、アズトレオナム)、キノロン(すなわち、シプロフロキサシン、エノキサシン、ガチフロキサシン、レボフロキサシン、ロメフロキサシン、モキシフロキサシン、ノルフルキサシン、オフロキサシン、トロバフロキサシン、グレパフロキサシン、スパルフロキサシン、及びテマフロキサシン)、スルホンアミド(すなわち、マフェニド、スルホンアミドクリソイジン、スルフアセタミド、スルファジアジン、スルファメチゾール、スルファニルアミド、スルファサラジン、スルフィソキサゾール、トリメトプリム、トリメトプリム、及びスルファメトキサゾール)、テトラサイクリン(すなわち、テトラサイクリン、デメクロサイクリン、ドキシサイクリン、ミノサイクリン、及びオキシテトラサイクリン)、抗新生物剤又は細胞毒抗生物質(すなわち、ドキソルビシン、ミトキサントロン、ブレオマイシン、ダウノルビシン、ダクチノマイシン、エピルビシン、イダルビシン、プリカマイシン、マイトマイシン、ペントスタチン、及びバルルビシン)、ならびに、種々の抗菌化合物(すなわち、バシトラシン、コリスチン、及びポリミキシンB)、抗真菌剤(すなわち、メトロニダゾール、ニタゾキサニド、チニダゾール、クロロキン、インドキノール、及びパロモマイシン)、ならびに抗寄生虫剤(キニン、クロロキン、アモジアキン、ピリメタミン、スルファドキシン、プログアニル、メフロキン、アトバコン、プリマキン、アルテミシニン(artemesinin)、ハロファントリン、ドキシサイクリン、クリンダマイシン、メベンダゾール、ピランテルパモアート、チアベンダゾール、ジエチルカルバマジン、イベルメクチン、リファンピン、アムホテリシンB、メラルソプロール、エフォルニチン、及びアルベンダゾール)を含むが、これらに限定されない)を含むが、これらに限定されない神経剤を選択することができる。
【0399】
CNSの炎症は、物理的傷害(すなわち、事故、手術、脳外傷、脊髄傷害、脳振盪による)又はCNSの1つ以上の他の疾患もしくは障害によるか又は関連する傷害(すなわち、膿瘍、ガン、ウイルス又は微生物感染)である場合がある、CNSへの傷害により引き起こされる炎症を含むが、これらに限定されない。
【0400】
CNSの炎症について、炎症自体に対処する神経剤(すなわち、非ステロイド系抗炎症剤、例えば、イブプロフェン又はナプロキセン)、又は、炎症の基礎となる原因を処置するもの(すなわち、抗ウイルス剤又は抗ガン剤)を選択することができる。
【0401】
本明細書で使用する場合、CNSの虚血は、脳における異常な血流もしくは血管挙動、又はその原因に関する一群の障害を意味し、局所脳虚血、全脳虚血、脳卒中(すなわち、くも膜下出血及び脳出血)、及び動脈瘤を含むが、これらに限定されない。
【0402】
虚血について、血栓溶解剤(すなわち、ウロキナーゼ、アルテプラーゼ、レテプラーゼ、及びテネクテプラーゼ)、血小板凝集阻害剤(すなわち、アスピリン、シロスタゾール、クロピドグレル、プラスグレル、及びジピリダモール)、スタチン(すなわち、ロバスタチン、プラバスタチン、フルバスタチン、ロスバスタチン、アトルバスタチン、シンバスタチン、セリバスタチン、及びピタバスタチン)、及び、例えば、血圧薬を含む、血流又は血管柔軟性を改善する化合物を含むが、これらに限定されない、神経剤を選択することができる。
【0403】
神経変性疾患は、CNSにおける神経細胞の機能欠如又は死に関連する一群の疾患又は障害であり、副腎白質ジストロフィー、アレキサンダー病、アルパース病、筋萎縮性側索硬化症、毛細血管拡張性運動失調症、バッテン病、コケーン症候群、大脳皮質基底核変性症、アミロイドーシスにより引き起こされるか又はそれに関連する変性、フリードライヒ運動失調症、前頭側頭葉変性症、ケネディー病、多系統萎縮症、多発性硬化症、原発性側索硬化症、進行性核上性麻痺、脊髄性筋萎縮症、横断性脊髄炎、レフサム病、及び脊髄小脳失調症を含むが、これらに限定されない。
【0404】
神経変性疾患について、成長ホルモン又は神経栄養因子である神経剤を選択することができる。例は、脳由来神経栄養因子(BDNF)、神経成長因子(NGF)、ニューロトロフィン-4/5、線維芽細胞成長因子(FGF)-2及び他のFGF、ニューロトロフィン(NT)-3、エリスロポエチン(EPO)、肝細胞成長因子(HGF)、上皮成長因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)-アルファ、TGF-ベータ、血管内皮成長因子(VEGF)、インターロイキン-1レセプターアンタゴニスト(IL-1ra)、毛様体神経栄養因子(CNTF)、グリア細胞由来神経栄養因子(GDNF)、ニュールツリン、血小板由来成長因子(PDGF)、ヘレグリン、ニューレグリン、アルテミン、パーセフィン、インターロイキン、グリア細胞系統由来神経栄養因子(GFR)、顆粒球コロニー刺激因子(CSF)、顆粒球マクロファージ-CSF、ネトリン、カルディオトロフィン-1、ヘッジホッグ、白血病抑制因子(LIF)、ミドカイン、プレイオトロフィン、骨形成タンパク質(BMP)、ネトリン、サポシン、セマフォリン、及び幹細胞因子(SCF)を含むが、これらに限定されない。
【0405】
CNSの発作性疾患及び障害は、CNSにおける不適切及び/又は異常な電気伝導に関連し、てんかん(すなわち、欠伸発作、脱力発作、良性ローランドてんかん、小児期欠伸てんかん、間代性発作、複雑部分発作、前頭葉てんかん、熱性痙攣、点頭てんかん、若年性ミオクローヌスてんかん、若年性欠伸てんかん、レンノックスガストー症候群、ランドウ-クレフナー症候群、ドラベ症候群、大田原症候群、ウエスト症候群、ミオクローヌス発作、ミトコンドリア障害、進行性ミオクローヌスてんかん、心因性発作、反射てんかん、ラスムッセン症候群、単純部分発作、二次性全般発作、側頭葉てんかん、強直間代発作、強直性発作、精神運動発作、辺縁系てんかん、部分発症発作、全般発症発作、てんかん重積状態、腹部てんかん、無動発作、自律神経発作、広範両側性ミオクローヌス、月経随伴性てんかん、失立発作、情動発作、焦点発作、笑い発作、ジャクソンマーチ、ラフォラ病、運動発作、多巣性発作、夜間発作、感光性発作、偽発作、感覚発作、微細発作、シルバン発作、離脱発作、及び視覚反射発作)を含むが、これらに限定されない。発作性障害について、抗痙攣剤又は抗てんかん剤である神経剤を選択することができる。同抗痙攣剤又は抗てんかん剤は、バルビツラート系抗痙攣剤(すなわち、プリミドン、メタルビタール、メホバルビタール、アロバルビタール、アモバルビタール、アプロバルビタール、アルフェナール、バルビタール、ブラロバルビタール、及びフェノバルビタール)、ベンゾジアゼピン系抗痙攣剤(すなわち、ジアゼパム、クロナゼパム、及びロラゼパム)、カルバマート系抗痙攣剤(すなわち、フェルバマート)、カルボニックアンヒドラーゼ阻害剤系抗痙攣剤(すなわち、アセタゾラミド、トピラマート、及びゾニサミド)、ジベンザゼピン系抗痙攣剤(すなわち、ルフィナマイド、カルバマゼピン、及びオクスカルバゼピン)、脂肪酸誘導体系抗痙攣剤(すなわち、ジバルプロエクス及びバルプロ酸)、ガンマアミノ酪酸類似物(すなわち、プレガバリン、ガバペンチン、及びビガバトリン)、ガンマアミノ酪酸再取込み阻害剤(すなわち、チアガビン)、ガンマアミノ酪酸トランスアミナーゼ阻害剤(すなわち、ビガバトリン)、ヒダントイン系抗痙攣剤(すなわち、フェニトイン、エトトイン、ホスフェニトイン、及びメフェニトイン)、種々の抗痙攣剤(すなわち、ラコサミド及び硫酸マグネシウム)、プロゲスチン(すなわち、プロゲステロン)、オキサゾリジンジオン系抗痙攣剤(すなわち、パラメタジオン及びトリメタジオン)、ピロリジン系抗痙攣剤(すなわち、レベチラセタム)、スクシンイミド系抗痙攣剤(すなわち、エトスクシミド及びメトスクシミド)、トリアジン系抗痙攣剤(すなわち、ラモトリジン)、及び尿素系抗痙攣剤(すなわち、フェナセミド及びフェネトライド)を含むが、これらに限定されない。
【0406】
行動障害は、患っている対象側の異常な挙動により特徴付けられるCNSの障害であり、睡眠障害(すなわち、不眠症、睡眠時随伴症、夜驚症、概日リズム睡眠障害、及びナルコレプシー)、気分障害(すなわち、うつ病、自殺性うつ病、不安、慢性情動障害、恐怖症、パニック発作、強迫性障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)、注意欠陥障害(ADD)、慢性疲労症候群、広場恐怖症、心的外傷後ストレス障害、双極性障害)、摂食障害(すなわち、食欲不振又は過食症)、慢性幻覚精神病、発達行動障害(すなわち、自閉症、レット症候群、アスベルガー症候群)、人格障害及び精神病性障害(すなわち、統合失調症、妄想性障害等)を含むが、これらに限定されない。
【0407】
行動障害について、神経剤は、挙動改変化合物から選択することができる。同挙動改変化合物は、非定型抗精神病剤(すなわち、リスペリドン、オランザピン、アプリピプラゾール、クエチアピン、パリペリドン、アセナピン、クロザピン、イロペリドン、及びジプラシドン)、フェノチアジン系抗精神病剤(すなわち、プロクロルペラジン、クロルプロマジン、フルフェナジン、ペルフェナジン、トリフルオペラジン、チオリダジン、及びメソリダジン)、チオキサンテン(すなわち、チオチキセン)、種々の抗精神病剤(すなわち、ピモジド、リチウム、モリンドン、ハロペリドール、及びロキサピン)、選択的セロトニン再取込み阻害剤(すなわち、シタロプラム、エスシタロプラム、パロキセチン、フルオキセチン、及びセルトラリン)、セロトニン-ノルエピネフリン再取込み阻害剤(すなわち、デュロキセチン、ベンラファキシン、デスベンラファキシン、三環系抗うつ剤(すなわち、ドキセピン、クロミプラミン、アモキサピン、ノルトリプチリン、アミトリプチリン、トリミプラミン、イミプラミン、プロトリプチリン、及びデシプラミン)、四環系抗うつ剤(すなわち、ミルタザピン及びマプロチリン)、フェニルピペラジン系抗うつ剤(すなわち、トラゾドン及びネファゾドン)、モノアミンオキシダーゼ阻害剤(すなわち、イソカルボキサジド、フェネルジン、セレギリン、及びトラニルシプロミン)、ベンゾジアゼピン(すなわち、アルプラゾラム、エスタゾラム、フルラゼパム、クロナゼパム、ロラゼパム、及びジアゼパム)、ノルエピネフリン-ドーパミン再取込み阻害剤(すなわち、ブプロピオン)、CNS刺激剤(すなわち、フェンテルミン、ジエチルプロピオン、メタンフェタミン、デキストロアンフェタミン、アンフェタミン、メチルフェニダート、デクスメチルフェニダート、リスデキサンフェタミン、モダフィニル、ペモリン、フェンジメトラジン、ベンズフェタミン、フェンジメトラジン、アルモダフィニル、ジエチルプロピオン、カフェイン、アトモキセチン、ドキサプラム、及びマジンドール)、抗不安剤/鎮静剤/睡眠剤(バルビツラート(すなわち、セコバルビタール、フェノバルビタール、及びメホバルビタール)、ベンゾジアゼピン(上記のとおり)、及び種々の抗不安剤/鎮静剤/睡眠剤(すなわち、ジフェンヒドラミン、ナトリウムオキシバート、ザレプロン、ヒドロキシジン、抱水クロラール、アオルピデム、ブスピロン、ドキセピン、エスゾピクロン、ラメルテオン、メプロバメート、及びエトクロルビノール)を含むが、これらに限定されない)、セクレチン(例えば、Ratliff-Schaub et al. Autism 9 (2005) 256-265を参照のこと)、オピオイドペプチド(例えば、Cowen et al. J. Neurochem. 89 (2004)273-285を参照のこと)、ならびに神経ペプチド(例えば、Hethwa et al. Am. J. Physiol. 289 (2005) E301-305を参照されたい)を含むが、これらに限定されない。
【0408】
リソソーム蓄積症は、一部の場合において、CNSと関連し、CNS特有の兆候を有する、代謝障害である。このような障害は、テイ-サックス病、ゴーシェ病、ファブリー病、ムコ多糖症(I型、II型、III型、IV型、V型、VI型、及びVII型)、糖原病、GM1-ガングリオシドーシス、異染性白質ジストロフィー、ファーバー病、カナバン白質ジストロフィー、及び神経セロイドリポフスチン沈着症1型及び2型、ニーマン-ピック病、ポンペ病、及びクラッベ病を含むが、これらに限定されない。
【0409】
リソソーム蓄積症について、該疾患において損なわれる酵素自体又は酵素の活性を何らかの方法で模倣する神経剤を選択することができる。リソソーム蓄積症の処置のための例示的なリコンビナント酵素は、例えば、米国特許出願公開公報第2005/0142141号において説明されたもの(すなわち、アルファ-L20イズロニダーゼ、イズロナート-2-スルファターゼ、N-スルファターゼ、アルファ-N-アセチルグルコサミニダーゼ、N-アセチルガラクトサミン-6-スルファターゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼB、ベータ-グルクロニダーゼ、酸アルファグルコシダーゼ、グルコセレブロシダーゼ、アルファ-ガラクトシダーゼA、ヘキソサミニダーゼA、酸スフィンゴミエリナーゼ、ベータ-ガラクトセレブロシダーゼ、ベータ-ガラクトシダーゼ、アリールスルファターゼA、酸セラミダーゼ、アスパルトアシラーゼ、パルミトイル-プロテインチオエステラーゼ1、及びトリペプチジルアミノペプチダーゼ1)を含むが、これらに限定されない。
【0410】
一態様において、本発明の抗体は、兆候の開始前に神経障害を検出し、及び/又は、疾患もしくは障害の重症度もしくは経過を評価するのに使用される。一態様において、本抗体は、神経障害の検出及び/又は画像化を可能にする。同検出及び/又は画像化は、X線撮影法、断層撮影法、又は磁気共鳴撮影法(MRI)による画像化を含む。
【0411】
一態様において、医薬として使用するための、本発明の低親和性抗TfR抗体が提供される。更なる態様では、赤血球(すなわち、網状赤血球)を枯渇させることなく、神経疾患又は障害(例えば、アルツハイマー病)を処置するのに使用するための、低親和性抗TfR抗体が提供される。特定の実施態様では、本明細書で記載された処置方法に使用するための、改変された低親和性抗TfR抗体が提供される。特定の実施態様では、本発明は、有効量の(場合により、神経障害剤に結合した)抗TfR抗体を個体に投与することを含む、神経疾患又は障害を有する個体を処置する方法に使用するための、その安全性を改善するように改変された低親和性抗TfR抗体を提供する。このような一実施態様では、本方法は、有効量の少なくとも1つの更なる治療剤を、個体に投与することを、更に含む。更なる実施態様では、本発明は、神経疾患又は障害(例えば、アルツハイマー病)のリスクにあるか、又は、これらを患っている患者におけるアミロイドプラーク形成を減少させ、又は、阻害するのに使用するための、その安全性を改善するように改変された抗TfR抗体を提供する。上記実施態様のいずれかの「個体」は、ヒトである場合がある。特定の態様では、本発明の方法に使用するための本発明の抗TfR抗体は、それに結合した神経障害剤の取込みを改善する。
【0412】
更なる態様では、本発明は、医薬の製造又は調製における、本発明の低親和性抗TfR抗体の使用を提供する。一実施態様において、該医薬は、神経疾患又は障害の処置のためのものである。更なる実施態様では、該医薬は、神経疾患又は障害を有する個体に、有効量の医薬を投与することを含む、神経疾患又は障害を処置する方法に使用するためのものである。このような一実施態様では、本方法は、有効量の少なくとも1つの更なる治療剤を、個体に投与することを、更に含む。
【0413】
更なる態様では、本発明は、アルツハイマー病を処置するための方法を提供する。一実施態様において、本方法は、アルツハイマー病を有する個体に、有効量の、BACE1とTfRとの両方又はAベータとTfRとの両方に結合する本発明の多重特異性抗体を投与することを含む。このような一実施態様では、本方法は、有効量の少なくとも1つの更なる治療剤を、個体に投与することを、更に含む。上記実施態様のいずれかの「個体」は、ヒトであることができる。
【0414】
本発明の抗TfR抗体は、治療において、単独で、又は、他の薬剤との組み合わせで使用することができる。例えば、本発明の抗TfR抗体は、少なくとも1つの更なる治療剤と同時投与することができる。特定の実施態様では、更なる治療剤は、抗TfR抗体が処置するのに利用されるのと同じか又は異なる神経障害に有効な治療剤である。例示的な更なる治療剤は、上記された種々の神経剤、コリンエステラーゼ阻害剤(例えば、ドネペジル、ガランタミン、ロバスチグミン、及びタクリン)、NMDAレセプターアンタゴニスト(例えば、メマンチン)、アミロイドベータペプチド凝集阻害剤、抗酸化剤、γ-セクレターゼモデュレーター、神経成長因子(NGF)模倣物又はNGF遺伝子療法、PPARγアゴニスト、HMS-CoAレダクターゼ阻害剤(スタチン)、アンパキン、カルシウムチャネル遮断薬、GABAレセプターアンタゴニスト、グリコーゲンシンターゼキナーゼ阻害剤、神経内免疫グロブリン、ムスカリン作動性レセプターアゴニスト、ニコチン作動性レセプターモデュレーター、能動的又は受動的アミロイドベータペプチド免疫化、ホスホジエステラーゼ阻害剤、セロトニンレセプターアンタゴニスト、及び抗アミロイドベータペプチド抗体を含むが、これらに限定されない。特定の実施態様では、少なくとも1つの更なる治療剤は、神経剤の1つ以上の副作用を軽減するその能力について選択される。
【0415】
特定の他のこのような実施態様では、少なくとも1つの更なる治療剤が、抗TfR抗体の投与時に、補体経路の活性化を阻害し、又は、予防するその能力について選択される。このような治療剤の例は、補体経路に結合するか、又は、同経路を活性化させる抗TfR抗体の能力と干渉しない薬剤、及び、補体経路内での1つ以上の分子相互作用を阻害する薬剤を含むが、これらに限定されない。同薬剤は、一般的には、Mollnes and Kirschfink(Molec. Immunol. 43 (2006) 107-121)に記載されている。同文献の内容は、参照により本明細書に明確に組み入れられる。
【0416】
上記及び本明細書に記載されたこのような組み合わせの治療は、組み合わせられた投与(この場合、2つ以上の治療剤が同じ又は別箇の製剤に含まれる)及び別箇の投与を包含する。この場合、本発明の抗体の投与を、更なる治療剤及び/又は補助剤の投与前、同投与と同時に、及び/又は、同投与後に行うことができる。一実施態様において、抗TfR抗体の投与及び更なる治療剤の投与は互いに、約1か月以内又は約1、2、もしくは3週間以内、又は、約1、2、3、4、5、もしくは6日以内に行う。本発明の抗体は、他の介在治療との組み合わせにおいても使用することができる。同介在治療は、例えば、放射線療法、行動療法、又は当技術分野において公知であり、治療されもしくは予防される神経障害に適切な他の治療法であるが、これらに限定されない。
【0417】
本発明の抗TfR抗体(及び任意の更なる治療剤)は、任意の適切な手段により投与することができる。同手段は、非経口、肺内、及び鼻内、及び局所処置の必要に応じて、病巣内投与を含む。非経口注入は、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内、又は皮下投与を含む。投与は、一部、投与が短期間であるか、又は、慢性的であるかに応じて、任意の適切な経路により、例えば、静脈内又は皮下注入等の注入によることができる。種々の投与計画は、種々の時点にわたる単回又は複数回の投与、ボーラス投与を含むが、これらに限定されない。パルス注入が、本明細書において企図される。
【0418】
本発明の抗体は、良質の医療のための原則(good medical practice)に合致する方法で、配合され、製剤化され、投与されるであろう。この文脈において考慮すべき要因は、処置される特定の障害、処置される特定のほ乳類、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与方法、投与スケジュール、及び医療実務家に公知の他の要因を含む。
【0419】
抗体は、対象となる障害を予防しもしくは治療し、又は、抗体投与の1つ以上の副作用を予防し、軽減し、改善するのに現在使用されている1つ以上の薬剤と共に、任意選択的に配合されるが、同配合は必ずしも必要ではない。このような他の薬剤の有効量は、製剤中に存在する抗体の量、障害又は処置の種類、及び上記で検討された他の要因により決まる。これらは、一般的には、同じ用量で、本明細書で記載された投与経路により使用される。また、本明細書で記載された用量の約1~99%で、又は、経験的に/臨床的に適切であると決定される任意の用量及び任意の経路で使用される。
【0420】
疾患の予防又は治療のために、適切な用量の本発明の抗体(単独又は1つ以上の他の更なる治療剤との組み合わせ時に)は、処置される疾患の種類、抗体の種類、疾患の重症度及び経過、抗体が予防又は治療目的で投与されるかどうか、以前の治療、患者の既往歴、及び抗体に対する応答、ならびに担当医の裁量により決まるであろう。抗体は、1回又は一連の処置にわたって、患者に適切に投与される。疾患の種類及び重症度に応じて、約1μg/kg~15mg/kg(例えば、0.1mg/kg~10mg/kg) 抗体が、例えば、1つ以上の別箇の投与によるか又は連続的な注入によるかに関わらず、患者に投与するための最初の候補用量であることができる。1つの典型的な日量は、上記された要因に応じて、約1μg/kg~100mg/kg以上の範囲であることができる。数日以上にわたる繰返しでの投与のために、症状に応じて、処置は、一般的には、疾患兆候の所望のサプレッションが生じるまで、持続されるであろう。抗体の1つの例示的な用量は、約0.05mg/kg~約40mg/kgの範囲であろう。このため、約0.5mg/kg、2.0mg/kg、4.0mg/kg、5.0mg/kg、7.5mg/kg、10mg/kg、15mg/kg、20mg/kg、25mg/kg、30mg/kg、35mg/kg、又は40mg/kgの内の1つ以上の用量(又は、それらの任意の組み合わせ)を、患者に投与することができる。このような用量は、例えば、毎週又は三週間毎に断続的に投与することができる(例えば、これにより、患者は、約2~約20回、又は、例えば、約6回の抗体の投与を受ける)。最初のより大きいローディング用量、続けて、1つ以上のより小さい用量が投与されてもよい。ただし、他の投与計画も有用であることができる。抗TfR抗体の投与による網状赤血球集団への影響を低下させる1つの方法は、全体としてより少ない量の循環性抗体が網状赤血球と相互作用する血流に存在するように、投与の量又はタイミングを変更することである。1つの非限定的な例において、より低い用量の抗TfR抗体を、より高い用量が投与されるであろうより、高い頻度で投与することができる。使用される用量は、CNSに送達されるのに必要な抗体量(それ自体が抗体のCNS抗原特異的部分の親和性に関連する)、TfRに対するその抗体の親和性、及び赤血球(すなわち、網状赤血球)を保護するかどうかの間で釣り合わせることができる。増殖及び発達を刺激し、又は、補体経路を阻害する化合物が、抗体と同時に、又は、連続的に投与される。この治療の進行は、従来の技術及びアッセイ法により、本明細書に記載され、当技術分野において公知なように、容易にモニターされる。
【0421】
上記製剤又は治療法のいずれかが、抗TfR抗体に代えて、又は、同抗体に加えて、本発明の免疫コンジュゲートを使用して行うことができることが理解される。
【0422】
III.製品
本発明の別の態様では、上記された障害の治療、予防、及び/又は診断に有用な材料を含有する製品が提供される。本製品は、容器と、容器上又は該容器に関連するラベル又は添付文書を含む。適切な容器は、例えば、ボトル、バイアル、シリンジ、IV溶液バッグ等を含む。容器は、各種の材料、例えば、ガラス又はプラスチックから形成することができる。容器は、組成物自体、又は、症状を治療し、予防し、及び/又は診断するのに有効な別の組成物との組み合わせで、組成物を保持し、無菌アクセスポートを有してもよい(例えば、容器は、静脈内溶液バッグ又は皮下注射針により突き刺し可能なストッパーを有するバイアルでもよい)。組成物中の少なくとも1つの活性剤は、本発明の抗体である。ラベル又は添付文書は、組成物が選択された症状を処置するのに使用されることを示す。さらに、本製品は、(a)本製品に含有される組成物を含む第1容器であって、同組成物が本発明の抗体を含む第1容器と、(b)本製品に含有される組成物を含む第2容器であって、同組成物が更なる細胞毒又はその他の方法での治療剤を含む第2容器とを含む。本発明のこの実施態様における製品は、組成物が特定の症状を処置するのに使用することができることを示す添付文書を更に含んでもよい。代替的に又は追加的に、本製品は、薬学的に許容し得るバッファー、例えば、注射用静菌水(BWFI)、リン酸緩衝生理食塩水、リンゲル液、及びデキストロース溶液を含む第2(又は第3)容器を更に含む。他のバッファー、希釈剤、フィルタ、針、及びシリンジを含む、商業的及びユーザ視点から望ましい他の材料を更に含んでもよい。
【0423】
上記製品のいずれかが、抗トランスフェリンレセプター抗体に代えて、又は、同抗体に加えて、本発明の免疫コンジュゲートを含むことができることが理解される。
【実施例
【0424】
IV.実施例
下記は、本発明の方法及び組成物の例示である。種々の他の実施態様を実施でき、上記提供される一般記載を提供すると理解される。
【0425】
材料及び方法
リコンビナントDNA技術
標準的な方法を使用して、Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されているように、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造メーカーの説明書に従って使用した。
【0426】
遺伝子及びオリゴヌクレオチド合成
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(Regensburg, Germany)での化学合成により調製した。合成した遺伝子フラグメントを、増殖/増幅用のE. coliプラスミド内にクローニングした。サブクローニングされた遺伝子フラグメントのDNA配列を、DNAシークエンシングにより確かめた。あるいは、短い合成DNAフラグメントを、化学的に合成したオリゴヌクレオチドをアニーリングさせることにより、又は、PCRによりアッセンブリした。各オリゴヌクレオチドを、metabion GmbH(Planegg-Martinsried, Germany)により調製した。
【0427】
試薬
特に断りない限り、全ての市販の化学薬品、抗体、及びキットを、製造メーカーのプロトコールに従って提供されたまま使用した。
【0428】
実施例1
ウサギ及びマウスの免疫化
マウスの免疫化
NMRIマウスを、ヒト又はカニクイザルの全長TfRをコードするプラスミド発現ベクターを使用して、100μg ベクターDNAの皮内適用により遺伝学的に免疫化し、続けて、エレクトロポレーションした(0.1ms中に1000V/cmの2方形波、間隔0.125s、続けて、10ms中に287.5V/cmの4方形波、間隔0.125s)。0、14、28、42、56、70、及び84日目に、6又は7回のいずれかの連続的な免疫化を、マウスに受けさせた。4回目及び6回目の免疫化を、カニクイザルTfRをコードするベクターにより行った。ヒトTfRをコードするベクターを、他の全ての免疫化に使用した。血液を、36、78、及び92日目に採取し、血清を調製した。同血清を、ELISAによる力価測定に使用した(以下を参照のこと)。最も高い力価を有する動物を、96日目に、10個のヒトTF-1細胞又は50μg リコンビナントのヘリカルドメイン(Leu122で始まり、Asn608で終わり、ヒトFc領域に対するN末端融合物としてHEK293F細胞中で発現しており、プロテインA親和性クロマトグラフィー及びサイズ排除クロマトグラフィーにより精製される、ヒトTfRの細胞外ドメイン)を欠いたヒト可溶性TfRのいずれかの静脈内注入によりブースティングするのに選択した。モノクローナル抗体を、安定してトランスフェクションされたCHO-K1細胞の表面上に発現している、ヒト及びカニクイザルのトランスフェリンレセプターに結合するその能力に基づいて、ハイブリドーマ技術により単離した(実施例3を参照のこと)。
【0429】
ウサギの免疫化
ニュージーランドホワイトウサギ又はヒト化抗体レパートリを発現しているトランスジェニックウサギを、ヒト又はカニクイザルの全長TfRをコードするプラスミド発現ベクターを使用して、400μg ベクターDNAの皮内適用により遺伝学的に免疫化し、続けて、エレクトロポレーションした(10ms中に750V/cmの5方形波、間隔1s)。0、14、28、56、84、及び112日目に、6回の連続的な免疫化を、ウサギに受けさせた。4回目及び6回目の免疫化を、カニクイザルTfRをコードするベクターにより行った。ヒトTfRをコードするベクターを、他の全ての免疫化に使用した。血液(推定合計血液量の10%)を、35、63、91、及び119日目に採取し、血清を調製した。同血清を、ELISAによる力価測定に使用した(以下を参照のこと)。末梢単核球を単離し、B細胞クローニング法における抗原特異的B細胞のソースとして使用した(実施例2を参照のこと)。
【0430】
血清力価の測定(ELISA)
ヒトリコンビナント可溶性TfR(R&D Systems Cat. No. 2474-TR)を、96ウェルのNUNC Maxisorbプレートに、PBS中の3μg/mL、100μL/ウェルで固定し、続けて、同プレートを、PBS中の2% CroteinC、200μL/ウェルでブロッキングし、PBS中0.5% CroteinC、100μL/ウェルで、二重での抗血清の連続希釈を加え、(1)全てのマウス血清について、HRPコンジュゲートヤギ抗マウス抗体(Jackson Immunoresearch/Dianova 115-036-071;1/16000)、(2)全てのウサギ血清について、HRPコンジュゲートロバ抗ウサギIgG抗体(Jackson Immunoresearch/Dianova 711-036-152;1/16000)、(3)トランスジェニックウサギの血清のみについて、ウサギ抗ヒトIgG抗体(Pierce/Thermo Scientific 31423;1/5000)、(4)トランスジェニックウサギからの血清のみについて、ビオチン化ヤギ抗ヒトカッパ抗体(Southern Biotech/Biozol 2063-08、1/5000)及びストレプトアビジン-HRPにより検出し、PBS中の0.5% CroteinC、100μL/ウェルで希釈した。全ての工程について、プレートを、37℃で1時間インキュベーションした。全ての工程間において、プレートを、PBS中の0.05% Tween20で3回洗浄した。シグナルを、BM Blue POD Substrate soluble(Roche)を100μL/ウェルで加えることにより発生させ、1M HClを100μL/ウェルで加えることにより停止させた。吸光度を、参照としての690nmに対して、450nmで読み出した。力価を、最大半量シグナルをもたらす抗血清の希釈として定義した。
【0431】
実施例2
ウサギからのB細胞クローニング
ウサギ末梢血単核球(PBMC)の単離
要約すると、血液サンプルを、6匹の動物(2匹の野生型(wt)ウサギ及び4匹のトランスジェニック(tg)ウサギ)から採取した。これらのウサギを、2通りの免疫化キャンペーン:2匹のwtウサギ及び2匹のtgウサギを含む第1キャンペーン及び2匹のtgウサギを含む第2キャンペーンから得た(実施例「ウサギの免疫化」も参照のこと)。EDTA含有全血を、lympholyte mammal(Cedarlane Laboratories, Burlington, Ontario, Canada)を使用し、製造メーカーの仕様書に従って、密度遠心分離前に1×PBS(PAA, Pasching, Austria)で2倍希釈した。PBMCを、1×PBSで2回洗浄した。
【0432】
EL-4 B5培地
RPMI1640(Pan Biotech, Aidenbach, Germany)に、10% FCS(Hyclone, Logan, UT, USA)、2mM グルタミン、1% ペニシリン/ストレプトマイシン溶液(PAA, Pasching, Austria)、2mM ピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES(PAN Biotech, Aidenbach, Germany)、及び0.05mM β-メルカプトエタノール(Gibco, Paisley, Scotland)を添加した。
【0433】
細胞の枯渇
第1免疫化キャンペーン:CHO細胞のコンフルエントな単層で覆った、無菌の6ウェルプレート(細胞培養グレード)を、非特異的付着によるマクロファージ/単球及び非特異的に結合するリンパ球を枯渇させるのに使用した。
【0434】
第2免疫化キャンペーン:CHO細胞で覆ったウェルを使用する枯渇工程を省略した。ハムスタートランスフェリンレセプター抗体に交差反応性である抗体産生B細胞が枯渇するであろうことを排除できなかったためである。したがって、ブランクである無菌の6ウェルプレート(細胞培養グレード)を、ハムスター交差反応性(及び、おそらくマウス交差反応性)の表面抗体を産生する可能性のあるBリンパ球が、ワークフローにおける次の工程に達するのが可能なように、非特異的付着によるマクロファージ及び単球を枯渇させるのに使用した。
【0435】
各免疫化キャンペーンについて、各ウェルを、最大4mL 培地と、免疫化したウサギからの6×10個以下のPBMCとで満たし、インキュベーター中において37℃で1時間結合させた。上清中の細胞(末梢血リンパ球(PBL))を、抗原パニング工程に使用した。
【0436】
ヒトトランスフェリンレセプターでのB細胞濃縮
ヒトトランスフェリンレセプター陽性CHO細胞の単層で覆った6ウェルの組織培養プレートに、4mL 培地当たりに6×10個以下のPBLを播種し、インキュベーター中において37℃で1時間結合させた。付着しなかった細胞を、1×PBSで1~2回、ウェルを注意深く洗浄することにより除去した。残りの付着した細胞を、トリプシンにより、インキュベーター中において37℃で10分間引き剥がした。トリプシン処理を、EL-4 B5培地により停止させた。細胞を、免疫蛍光染色まで、氷上で維持した。
【0437】
免疫蛍光染色及びフローサイトメトリー
抗IgG FITC(AbD Serotec, Dusseldorf, Germany)を、単一細胞ソーティングに使用した。表面染色のために、枯渇及び濃縮工程からの細胞を、PBS中の抗IgG FITC抗体と共にインキュベーションし、暗所において4℃で45分間インキュベーションした。染色後、PBMCを、氷冷PBSで2回洗浄した。最終的に、PBMCを、氷冷PBS中に再懸濁させ、FACS分析に直ちに供した。ヨウ化プロピジウム(BD Pharmingen, San Diego, CA, USA)を、FACS分析前に5μg/mLの濃度で加えて、死んだ細胞と生きている細胞との間を識別した。
【0438】
コンピュータを備えたBecton Dickinson FACSAria及びFACSDivaソフトウェア(BD Biosciences, USA)を、単一細胞ソーティングに使用した。
【0439】
B細胞培養
ウサギB細胞の培養を、Zubler et al. (1985)に記載されている方法と同様の方法により準備した。簡潔に、単一ソーティングされたウサギB細胞を、200μL/ウェル Pansorbin Cells(1:100000)(Calbiochem (Merck), Darmstadt, Deutschland)、5% ウサギ胸腺細胞上清(charge TSN-M13 (10242), MicroCoat, Bernried, Germany)、及びガンマ線照射マウスEL-4-B5胸腺細胞(2.5×10個/ウェル)を含有するEL-4 B5培地を含む96ウェルプレート中で、インキュベーター中において、5% COの雰囲気下での37℃において7日間培養した。B細胞培養上清を、スクリーニングのために除去し、残った細胞を、直ちに収集し、RLTバッファー(Qiagen, Hilden, Germany) 100μL中において、-80℃で凍結させた。
【0440】
実施例3
細胞ELISAによるヒト及びカニクイザルTfR結合抗体の特定
ウサギB細胞又はマウスハイブリドーマの上清を、ヒト及びカニクイザルTfRを認識する抗体についてスクリーニングするために、安定してトランスフェクションされているCHO-K1細胞を使用する細胞ELISAを利用した。安定したトランスフォーマントを、ヒト又はカニクイザルTfRと、ネオマイシン-ホスホトランスフェラーゼのための発現カセットを含有する発現プラスミドによりCHO-K1細胞をトランスフェクションすることにより得た。トランスフェクション後、細胞を、500μg/mL G418(Life Technologies)を含有する増殖培地中で希釈した。クローンを増殖させた後、細胞を剥がし、MEM-75(Abcam)又は13E4(Life Technologies)及び、ヒトもしくはカニクイザルTfRのためのPEラベル二次抗体で染色した。高度に蛍光した細胞を、96ウェルプレートのウェル内で、単一細胞としてソーティングした(FACS Aria)。7日の増殖後、再度、クローンを、TfR発現について確認した。最も発現しているクローンを、細胞ELISA実験に選択した。
【0441】
簡潔に、384ウェルプレートのウェル当たりに、15,000個の細胞を播種し、37℃、5% COにおいて18時間インキュベーションした。上清を、自動洗浄器(BIOTEK)を使用して除去した。抗体含有上清 30μL、続けて、増殖培地 24μLを、各ウェルに加えた。2時間のインキュベーション後に、ウェルを空にし、PBS中の0.05% グルタルアルデヒド 30μLを、RTにおいて45分間加えた。PBS/0.025% Tween20(PBST)による3回の洗浄後、ブロッキングバッファー中に1:5000で希釈した、抗ウサギHRP又は抗マウスHRP(Southern Biotech) 30μLを加えた。プレートを、RTで1時間インキュベーションした。ウェルを、PBSTで6回洗浄し、シグナルを、ウェル当たりに、TMB 30μLを使用して生成し、吸光度を、450nmにおいて測定した。
【0442】
実施例4
抗TfR抗体のクローニング及び発現
リコンビナントDNA技術
Sambrook, J. et al., Molecular cloning: A laboratory manual; Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York, 1989に記載されているように、標準的な方法を使用して、DNAを操作した。分子生物学的試薬を、製造メーカーの説明書に従って使用した。
【0443】
遺伝子及びオリゴヌクレオチド合成
所望の遺伝子セグメントを、Geneart GmbH(Regensburg、Germany)における化学合成により調製した。合成した遺伝子フラグメントを、増殖/増幅用のE. coliプラスミド中にクローニングした。サブクローニングした遺伝子フラグメントのDNA配列を、DNAシークエンシングにより確かめた。あるいは、短い合成DNAフラグメントを、化学的に合成したオリゴヌクレオチドをアニーリングさせることにより、又は、PCRによりアッセンブリした。各オリゴヌクレオチドを、metabion GmbH(Planegg-Martinsried, Germany)により調製した。
【0444】
VドメインのPCR増幅
トータルRNAを、NucleoSpin 8/96 RNAキット(Macherey&Nagel; 740709.4, 740698)を使用し、製造メーカーのプロトコールに従って、(RLTバッファー-Qiagen - Cat. No 79216に再懸濁させた)B細胞ライゼートから調製した。RNAを、RNAseフリー水 60μLにより溶出した。RNA 6μLを使用し、製造メーカーの説明書に従って、Superscript III First-Strand Synthesis SuperMix(Invitrogen 18080-400)及びオリゴ-dT-プライマーを使用するリバーストランスクリプターゼ反応によりcDNAを生成した。全ての工程を、Hamilton ML Starシステムにおいて行った。cDNA 4μLを使用して、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域(VH及びVL)を、最終容量 50μLにおいて、野生型ウサギB細胞の重鎖についてのプライマーであるrbHC.up及びrbHC.do、軽鎖についてのプライマーであるrbLC.up及びrbLC.doと、トランスジェニックウサギB細胞の軽鎖についてのBcPCR_FHLC_leader.fw及びBcPCR_huCkappa.revを使用する、AccuPrime SuperMix(Invitrogen 12344-040)により増幅させた(以下の表を参照のこと)。全てのフォワードプライマーは、(VH及びVLそれぞれの)シグナルペプチドに特異的であった。一方、リバースプライマーは、(VH及びVLそれぞれの)定常領域に特異的であった。RbVH+RbVLについてのPCR条件は、下記の通りとした。94℃で5分の高温開始;94℃で20秒 35サイクル、70℃で20秒、68℃で45秒、及び68℃で7分での最後の伸長。HuVLについてのPCR条件は、下記の通りとした。94℃5分の高温開始;94℃で20秒 40サイクル、52℃で20秒、68℃で45秒、及び68℃で7分での最後の伸長。
【表7】
【0445】
PCR溶液 50μLの内の8μLを、48 E-ゲル 2%(Invitrogen G8008-02)にロードした。陽性のPCR反応を、NucleoSpin Extract IIキット(Macherey&Nagel; 740609250)を使用し、製造メーカーのプロトコールに従って洗浄し、溶出バッファー 50μL中に溶出した。全ての洗浄工程を、Hamilton ML Starletシステムで行った。
【0446】
ウサギモノクローナル二価抗体のリコンビナント発現
ウサギモノクローナル二価抗体のリコンビナント発現のために、VH又はVLをコードするPCR産物を、オーバーハングクローニング法(RS Haun et al., BioTechniques (1992) 13, 515-518;MZ Li et al., Nature Methods (2007) 4, 251-256)により、発現ベクター内にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5’CMVプロモータと、3’BGHポリアデニル化配列とからなる発現カセットを含有した。同発現カセットに加えて、プラスミドは、E. coli中でのプラスミド増幅のための、pUC18由来の複製起点と、アンピシリン抵抗性を付与するベータ-ラクタマーゼ遺伝子とを含有した。基礎プラスミドの3つの変異体を使用した。1つのプラスミドは、VH領域を受け入れるように設計されたウサギIgG定常領域を含有する。一方、2つの更なるプラスミドは、VL領域を受け入れるウサギ又はヒトカッパLC定常領域を含有する。
【0447】
カッパ又はガンマ定常領域とVL/VHインサートとをコードする直線化発現プラスミドを、オーバーラッププライマーを使用するPCRにより増幅させた。
【0448】
精製したPCR産物を、T4 DNAポリメラーゼと共にインキュベーションして、一本鎖オーバーハングを生成した。この反応を、dCTPの添加により停止させた。
【0449】
次の工程において、プラスミド及びインサートを組み合わせ、recAと共にインキュベーションして、部位特異的組換えを誘引した。組換えたプラスミドを、E. coli内にトランスフォーメーションした。翌日、増殖したコロニーを選択し、プラスミド調製、切断解析、及びDNAシークエンシングにより、正しく組み換えられたプラスミドについて試験した。
【0450】
抗体発現について、単離したHC及びLCプラスミドを、HEK293細胞内に一過性トランスフェクションした。上清を、1週間後収集した。
【0451】
ウサギモノクローナル一価抗体の発現用のベクター生成
モノクローナル一価抗体として選択した候補のリコンビナント発現のために、全てのVH鎖のウサギ定常領域を、CH3セグメント中にノブ突然変異を封入するヒト定常領域に変換した。ウサギ野生型B細胞由来のVL鎖のために、ウサギCカッパ定常領域を、ヒトに変換した。選択した候補のcDNA 4μLを使用して、免疫グロブリン重鎖及び軽鎖の可変領域を、最終容量 50μLにおいて、シグナルペプチドに特異的なフォワードプライマーと、(3’端における)(VH及びVLそれぞれの)ヒト定常領域に相同なオーバーラップ配列(20bp)を有するCDR3-J領域に特異的なリバースプライマーとを使用する、AccuPrime SuperMix(Invitrogen 12344-040)により増幅させた。VH及びVL鎖の増幅のためのPCR条件は、下記の通りとした。94℃で5分の高温開始;94℃で20秒 35サイクル、68℃で20秒、68℃で45秒、及び68℃で7分での最後の伸長。
【0452】
VH又はVLをコードするPCR産物を、オーバーハングクローニング法(RS Haun et al., BioTechniques (1992) 13, 515-518;MZ Li et al., Nature Methods (2007) 4, 251-256)により、発現ベクター内にcDNAとしてクローニングした。発現ベクターは、イントロンAを含む5’CMVプロモータと、3’BGHポリアデニル化配列とからなる発現カセットを含有した。同発現カセットに加えて、プラスミドは、E. coli中でのプラスミド増幅のための、pUC18由来の複製起点と、アンピシリン抵抗性を付与するベータ-ラクタマーゼ遺伝子とを含有した。基礎プラスミドの2つの変異体を使用した。1つのプラスミドは、新たに増幅したVH鎖を受け入れるように設計されたヒトIgG定常領域を含有する。第2プラスミドは、VL鎖を受け入れるヒトカッパLC定常領域を含有する。
【0453】
カッパ又はガンマ定常領域とVL/VHインサートとをコードする直線化発現プラスミドを、オーバーラッププライマーを使用するPCRにより増幅させた。
【0454】
精製したPCR産物を、T4 DNAポリメラーゼと共にインキュベーションして、一本鎖オーバーハングを生成した。この反応を、dCTPの添加により停止させた。
【0455】
次の工程において、プラスミド及びインサートを組み合わせ、recAと共にインキュベーションして、部位特異的組換えを誘引した。組換えたプラスミドを、E. coli内にトランスフォーメーションした。翌日、増殖したコロニーを選択し、プラスミド調製、切断解析、及びDNAシークエンシングにより、正しく組み換えられたプラスミドについて試験した。
【0456】
実施例5
一価の抗TfR抗体の一過性発現
抗体を、F17培地(Invitrogen Corp.)中で培養した、一過性にトランスフェクションしたHEK293細胞(ヒト胚性腎臓細胞系統293由来)中で、in vivoにおいて生成した。トランスフェクションのために、「293-Free」トランスフェクション試薬(Novagen)を使用した。上記されている抗体及び抗体ベースの改変分子を、個々の発現プラスミドから発現させた。トランスフェクションを、製造メーカーの説明書において特定されたように行った。リコンビナントタンパク質含有細胞の培養上清を、トランスフェクション後3~7日で収集した。上清を、精製まで低温(例えば、-80℃)において保存した。
【0457】
例えば、HEK293細胞中でのヒト免疫グロブリンのリコンビナント発現に関する一般的な情報は、Meissner, P. et al., Biotechnol. Bioeng. 75 (2001) 197-203に提供されている。
【0458】
実施例6
高スループットでの片腕トランスフェリンレセプター抗体の精製
96ディープウェルプレート中の片腕抗体を含有する洗浄上清 50mLを、MabSelectSuReカラム 200μLにロードした。pH7.4でのPBSによる洗浄工程後に、タンパク質を、Tecan/Atollシステムを使用して、2.5mM HClで溶出して、溶出液 0.5mLを得た。溶出液を、2M トリス pH8により中和した。精製したタンパク質を、Nanodrop分光計を使用して定量し、変性及び還元条件下におけるCE-SDS及び分析的SECにより分析した。高純度(95%超)のタンパク質を得るために、大部分の抗体は、サイズ排除クロマトグラフィーにおいて更に精製して、半抗体(half antibody)、ノブ-ノブ抗体、及びより高度の凝集体から分離しなければならない。次に、サンプル 500μLを、140mM NaCl pH6.0を含有する20mM ヒスチジン中で、Dionex UltiMate 3000を使用するSuperdex200 10/300GLに注入した。この方法は、1日当たりに25~30個のサンプルを画分することができるため、片腕フォーマットでの大量のスクリーニングヒットを洗練することができる。画分をプールし、上記されたように再度分析した。
【0459】
実施例7
経細胞輸送アッセイ法のためのhCMEC/D3細胞培養
hCMEC/D3のための培地及びサプリメント(Weksler, B. B. et al., FASEB J. 19 (2005), 1872-1874)を、Lonzaから得た。hCMEC/D3細胞(26~29回の継代)を、2.5% FBS、添加した成長因子の1/4を含有し、添加したヒドロコルチゾン、ゲンタマイシン、及びアスコルビン酸で完全に補完されたEBM2培地中で、コラーゲンコートしたカバーガラス(顕微鏡)又はフラスコにおいて、コンフルエントに培養した。
【0460】
全ての経細胞輸送アッセイ法について、高密度の孔(1×10個の孔/cm2)のPET膜フィルタインサート(0.4μm、直径12mm)を、12ウェルの細胞培養プレートにおいて使用した。最適な培地容量を、頂端側及び基底側チャンバそれぞれについて、400μL及び1600μLと算出した。フィルタインサートの頂端側チャンバを、ラットの尾のコラーゲンI(7.5μg/cm2)、続けて、フィブロネクチン(5μg/cm2)でコートした。各インキュベーションを、RTで1時間継続した。hCMEC/D3細胞を、EMB2培地中で、コンフルエントな単層(約2×10個/cm2)に、10~12日間増殖させた。
【0461】
実施例8
一価抗体の経細胞輸送アッセイ法
アッセイ法全体を、実施例1に記載されているのと別の方法で再構成した血清フリーEBM2培地中で行った。細胞を含むフィルタインサートを、一価抗体(濃度:2.67μg/mL)と共に、頂端側において、37℃で1時間インキュベーションした。続けて、頂端側及び基底側全体の培地を収集した。これらの値から、傍細胞フラックスを算出した。単層を、血清フリー培地中で、頂端側(400μL)及び基底側(1600μL)において、RTで3回×3~5分間それぞれ洗浄した。全ての洗浄液を収集して、結合していない抗体の除去効率をモニターした。予め温めた培地を、頂端側チャンバに加え、フィルタを、(1% BSAを含有するPBSで一晩ブロッキングした)予め温めた培地 1600μLを含有する、新たな12ウェルプレートに移した。この時点で、特異的抗体取込みを決定するために、フィルタ上の細胞を、RIPAバッファー 500μL中で溶解させた。残ったフィルタを、37℃でインキュベーションし、サンプルを、種々の時点で収集して、抗体の頂端側及び/又は基底側での放出を決定した。サンプル中の抗体含量を、非常に高感度のIgG ELISAを使用して定量した(実施例3を参照のこと)。各時点において、データを、3つのフィルタ細胞培養物から生成した。
【0462】
実施例9
経細胞輸送アッセイ法後の高感度IgG ELISA
手順全体を、洗浄工程用の自動洗浄機を使用してRTで行った。384ウェルプレートを、PBS中の1μg/mL Fcγ-特異的な抗ヒト/マウスIgGにより、30μL/ウェルで2時間コートし、続けて、ヒト及びマウスIgGアッセイ法それぞれのために、1% BSA又は1% CroteinCを含有するブロッキングバッファーであるPBS中で、1時間インキュベーションした。経細胞輸送アッセイ法からの段階希釈したサンプルと、経細胞輸送アッセイ法に使用される標準的な濃度の抗体とを、プレートに加え、2時間インキュベーションした。4回の洗浄後、ブロッキングバッファー中の50ng/mL 抗ヒト/マウス-F(ab)2-ビオチンを、30μL/ウェルで加え、更に2時間インキュベーションした。6回洗浄した後、50ng/mL(huIgGアッセイ法)又は100ng/mL(mIgGアッセイ法) ポリ-HRP40-ストレプトアビジン(Fitzgerald;1% BSA及び0.05% Tween-20を含有するPBS中)を、30μL/ウェルで加え、30分間インキュベーションした。4回の洗浄後、免疫複合体を、BM化学発光基質(Roche)を30μL/ウェルで加えることにより検出した。発光シグナルを、発光プレートリーダを使用して測定し、濃度を、適合する検量線を使用して算出した。アッセイ法の感度を、10pg/mL~10ng/mLの範囲とした。
【0463】
実施例10
hTfR変異体をトランスフェクションされた、CHO細胞の細胞ELISAによるエピトープマッピング
ヒトトランスフェリンレセプター(hTfR)上のエピトープ領域を決定可能にするために、ヒトとマウスとのTfR間のかなりの相同性(77%同一性)にも関わらず、両オルソログ間の良好な交差反応性を示す、細胞外部分に対する抗体が公知でないという論理的根拠に従って、突然変異を、表面露出アミノ酸のクラスターが整列させたマウスTfR配列(以下の表を参照のこと)中とは異なるアミノ酸を有する位置において、hTfR配列内に導入した。対応する突然変異を有するプラスミドのクローニングは上記されている。ヒトTfRバインダーのそれらのエピトープへの結合性をマッピングするために、CHO-K1細胞を、記載されているプラスミドにより、一過性にトランスフェクションした。抗体結合性を、細胞ELISAで測定した。簡潔に、通常の増殖培地(RPMI/10% FCS)中での実験の前日に、96ウェルプレートのウェル当たりに、10個の細胞を播種した。別の日に、培地を、OPTI-MEM血清低減培地(Gibco)に変更し、OPTI-MEM 1200μL、12μg プラスミドDNA、及びXtremeGENEトランスフェクション試薬(Roche) 12μLの混合物 10μLを、プレインキュベーションの30分後に、ウェルに加えた。細胞を、37℃/7.5% COで2日間インキュベーションした。ついで、培地を除去し、TfR抗体を、1nM~100nMの濃度で増殖培地中に加え、続けて、4℃で2時間インキュベーションした。その後、抗体溶液を、PBS中の0.05% グルタルアルデヒドにより置き換えた。細胞を、RTで15分間固定し、ついで、PBSで2回洗浄し、HRPコンジュゲート抗ヒトFc二次抗体(BioRad;ELISAブロッキング試薬(Roche)中に1:2000)と共に、RTで1.5時間インキュベーションした。シグナルを、PBSで3回洗浄した後、ウェル当たりにTMB 50μLを使用して生成し、吸光度を、450nmで測定した。
【表8】
【0464】
実施例11
ヒトTfR-抗体相互作用についての表面プラズモン共鳴系結合アッセイ法
結合性実験を、抗ヒトFab抗体(GE Healthcare, cat.no 28-9583-25)で予め処理したC1センサーチップ(GE Healthcare, cat.no. BR1005-35)を備える、BIAcore B 4000(GE Healthcare)において、標準的なアミノカップリング化学法を使用して、供給元のマニュアに従って行った。
【0465】
反応速度測定のために、サンプル抗体を、リン酸緩衝生理食塩水pH7.4、0.05% Tween20中で、25℃において、接触時間60秒及び流速10μL/分を適用して固定した。リコンビナントHis6タグ付きヒトトランスフェリンレセプター(R&D systems, cat.no 2474-TR-050)を、濃度を増大させて加え、シグナルを経時的にモニターした。流速30μL/分での150秒の会合時間及び600秒の解離時間の平均期間を記録した。データを、1:1結合モデル(ラングミュア等温線)を使用して当て嵌めた。
【0466】
実施例12
マウス及びウサギ抗トランスフェリンレセプター抗体のVH及びVLドメインのヒト化
非ヒト抗トランスフェリンレセプター抗体を、下記のようにヒト化した。カッパ軽鎖を有するIgG1クラスの非ヒト抗トランスフェリンレセプター抗体のVH及びVLドメインを含むコード配列及びアミノ酸配列の特徴決定に基づいて、対応するヒト化抗トランスフェリンレセプター抗体を、クローン299についてのヒト生殖系フレームワークVH4_3及びVK1_10の組み合わせに基づくバックワード/フォワード変異をCDRグラフト化することにより生成した。
【0467】
実施例13
ヒト/カニクイザルTfRレセプター親和性を決定するための方法
この実施例において、解離挙動の比較についての、ヒトトランスフェリンレセプター親和性を決定するための方法を概説する。
【0468】
全ての分析について、GE HealthcareからのBiotin CAPtureキット(Instruction 28-9242-34 AB)を使用した。まず、チップを、BIAcore T200機器に接続することにより再水和した。その後、このチップを、ランニングバッファーで一晩待機させた。表面調製について、Biotin CAPture試薬を、ランニングバッファー(1×PBS、0.25M NaClを添加)中において、1:100で希釈した。この溶液を、フローセル1~4に、流速2μL/分で360秒間注入した。次に、センサ表面を、Biotin CAPtureキットに備え付けの再生溶液の1分間注入3回で準備した。これを、接続手順の間もしくは初回の間又は保存後に行う必要がある。100nM ヒト又はカニクイザルそれぞれのモノビオチン化トランスフェリンレセプター溶液を、フローセル2に、流速10μL/分で30秒間注入する必要がある。親和性決定について、6つの濃度(500、250、125、62.5、31.25、15.625、及び0nM)での注入を適用した。これらを、「hu-TfRフローセル(例えば、上記概説において調製されたフローセル2)」に、流速10μL/分での注入時間180秒(会合)で注入した。600秒の解離期後、表面を、製造メーカーの説明書に従って、BiotinCAPtureキットに備え付けの再生溶液により再生した。次のサイクルを行った。
【0469】
反応速度データを、BIAcore T200評価ソフトウェアを使用して評価した。特に、種々のヒトトランスフェリンレセプターバインダーの解離速度定数を、1:1ラングミュア結合モデルの適用後に考慮した。
【0470】
実施例14
ヒト/カニクイザルトランスフェリンレセプター解離のB4000相対順位付け
CAPセンサーチップ(Biotin CAPtureキットに備え付け、シリーズS #28-9202-34 GE)を、製造メーカーの説明書に従って、BIAcore B4000システムに搭載し、正規化し、流体力学法においてアドレスした。初回のサイクルにおいて、CAP試薬(該キットに備え付け)を、スポット1、2、4、及び5に対して、流速10μL/分で300秒間アドレスした。ヒトトランスフェリンレセプターの捕捉を、スポット1(ヒトトランスフェリンレセプター-ビオチン化)及びスポット5(カニクイザルトランスフェリンレセプター-ビオチン化)において、流速10μL/分及び接触時間30秒で行った。レセプターを、ランニングバッファー(1×PBS #28995084, GE Healthcare、0.25M NaClを添加)で、濃度50nMに希釈した。抗体を、全てのフローセルに、濃度系列100nM、50nM、25nM、及び0nMにおいて、流速30μL/分で180秒間注入した。解離時間を、300秒に設定した。CAPチップからの複合体全体の再生を、Biotin CAPtureキットに備え付けの再生溶液を利用して行った(流速10μL/分で120秒)。活性なタンパク質濃度を調整するために、2回目のサイクルを、スポット5において、ビオチン化プロテインA(#P2165-2MG, Sigma)を利用して、流速10μL/分及び接触時間30秒で行った。スポット1を、この対照サイクルでは、空のままとした。抗体及び再生を、サイクル1と同様に取り扱った。関連する反応速度データを、BIAcore B4000評価ソフトウェアを使用して算出した。ヒトトランスフェリンレセプターからの解離を、1:1解離フィットを適用して決定した。
図1-1】
図1-2】
図2
図3
【配列表】
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