(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/052 20100101AFI20221215BHJP
H01M 10/0566 20100101ALI20221215BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20221215BHJP
H01M 4/133 20100101ALI20221215BHJP
H01M 50/105 20210101ALI20221215BHJP
【FI】
H01M10/052
H01M10/0566
H01M4/131
H01M4/133
H01M50/105
(21)【出願番号】P 2021501726
(86)(22)【出願日】2020-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2020001919
(87)【国際公開番号】W WO2020174939
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-06-10
(31)【優先権主張番号】P 2019034435
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110847
【氏名又は名称】松阪 正弘
(74)【代理人】
【識別番号】100136526
【氏名又は名称】田中 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100136755
【氏名又は名称】井田 正道
(72)【発明者】
【氏名】大塚 春男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲茂
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-009194(JP,A)
【文献】特開2012-009193(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155155(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/140932(WO,A1)
【文献】特開2013-134865(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/05-10/0587
H01M 4/13-4/62
H01M 50/105
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池であって、
正極と、
所定の重ね合わせ方向において前記正極上に配置されるセパレータと、
前記重ね合わせ方向において前記セパレータの前記正極とは反対側に配置される負極と、
前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸する電解液と、
前記重ね合わせ方向の両側から前記正極および前記負極を被覆し、前記正極、前記セパレータ、前記負極および前記電解液を内部に収容するシート状の外装体と、
を備え、
前記正極および前記負極のうち一方の電極は、
導電性を有するシート状の集電体と、
リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体であり、導電性接合層を介して前記集電体に接合された活物質板と、
を備え、
前記導電性接合層は、前記活物質板の前記集電体に対向する面から前記活物質板の内部に含浸しており、
前記活物質板に対する前記導電性接合層の前記重ね合わせ方向における含浸深さは、前記活物質板の厚さの
5.6%以上かつ
77.8%以下である。
【請求項2】
請求項1に記載のリチウム二次電池であって、
前記一方の電極が前記正極であり、
前記負極は、
導電性を有するシート状の負極集電体と、
炭素質材料またはリチウム吸蔵物質を含むとともに前記負極集電体に塗工された負極活物質層と、
を備える。
【請求項3】
請求項1または2に記載のリチウム二次電池であって、
前記導電性接合層は、
導電性粉末と、
樹脂および水性溶媒を含むバインダと、
を含む。
【請求項4】
請求項3に記載のリチウム二次電池であって、
前記導電性接合層に含まれる前記樹脂は、アクリル系樹脂である。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1つに記載のリチウム二次電池であって、
前記活物質板の気孔率は、25%以上かつ45%以下である。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか1つに記載のリチウム二次電池であって、
シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスにおける電力供給源として利用される。
【請求項7】
請求項6に記載のリチウム二次電池であって、
前記可撓性を有するデバイスであるスマートカードにおける電力供給源として利用される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池に関する。
[関連出願の参照]
本願は、2019年2月27日に出願された日本国特許出願JP2019-034435からの優先権の利益を主張し、当該出願の全ての開示は、本願に組み込まれる。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池(リチウムイオン二次電池とも呼ぶ。)における正極活物質層として、リチウム複合酸化物(すなわち、リチウム遷移金属酸化物)の粉末、バインダおよび導電剤等の混練物を成形して形成した粉末分散型の正極活物質層が知られている。
【0003】
一方、特許第5587052号公報(文献1)のリチウム二次電池では、正極集電体に接合される正極活物質層としてリチウム複合酸化物焼結板を用いることにより、正極の高容量化を図る技術が提案されている。当該焼結板は、導電性接合層を介して正極集電体に接合されている。また、特開2013-134865号公報(文献2)の非水電解質電池では、活物質層である複数のセラミックス膜が、導電性炭素材料およびバインダを含むカーボン層を介して、導電性芯材に接合されている。
【0004】
ところで、文献1のようなリチウム二次電池では、活物質板である上記焼結板を正極集電体に強固に接合するためには、正極集電体に塗工された導電性接合層が活物質板に十分に含浸してアンカー効果を発揮する必要がある。文献2のカーボン層についても同様である。
【0005】
一方、本願発明者は、上述の活物質板に対する導電性接合層の含浸量が多いと、リチウム二次電池の電池特性が低下する可能性がある、という知見を得た。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、リチウム二次電池に向けられており、活物質板の接合強度の確保と、導電性接合層に起因する電池特性の低下抑制とを両立することを目的としている。
【0007】
本発明の好ましい一の形態に係るリチウム二次電池は、正極と、所定の重ね合わせ方向において前記正極上に配置されるセパレータと、前記重ね合わせ方向において前記セパレータの前記正極とは反対側に配置される負極と、前記正極、前記負極および前記セパレータに含浸する電解液と、前記重ね合わせ方向の両側から前記正極および前記負極を被覆し、前記正極、前記セパレータ、前記負極および前記電解液を内部に収容するシート状の外装体と、を備える。前記正極および前記負極のうち一方の電極は、導電性を有するシート状の集電体と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体であり、導電性接合層を介して前記集電体に接合された活物質板と、を備える。前記導電性接合層は、前記活物質板の前記集電体に対向する面から前記活物質板の内部に含浸している。前記活物質板に対する前記導電性接合層の前記重ね合わせ方向における含浸深さは、前記活物質板の厚さの5.6%以上かつ77.8%以下である。本発明では、活物質板の接合強度の確保と、導電性接合層に起因する電池特性の低下抑制とを両立することができる。
【0008】
好ましくは、前記一方の電極が前記正極であり、前記負極は、導電性を有するシート状の負極集電体と、炭素質材料またはリチウム吸蔵物質を含むとともに前記負極集電体に塗工された負極活物質層と、を備える。
【0009】
好ましくは、前記導電性接合層は、導電性粉末と、樹脂および水性溶媒を含むバインダと、を含む。
【0010】
好ましくは、前記導電性接合層に含まれる前記樹脂は、アクリル系樹脂である。
【0011】
好ましくは、前記活物質板の気孔率は、25%以上かつ45%以下である。
【0012】
好ましくは、前記リチウム二次電池は、シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスにおける電力供給源として利用される。
【0013】
好ましくは、前記リチウム二次電池は、前記可撓性を有するデバイスであるスマートカードにおける電力供給源として利用される。
【0014】
上述の目的および他の目的、特徴、態様および利点は、添付した図面を参照して以下に行うこの発明の詳細な説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】一の実施の形態に係るリチウム二次電池の断面図である。
【
図5】正極活物質板の断面における炭素の二次元マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明の一の実施の形態に係るリチウム二次電池1の構成を示す断面図である。
図2は、リチウム二次電池1の平面図である。
図1では、図の理解を容易にするために、リチウム二次電池1およびその構成を、実際よりも厚く描いている。また、
図1では、後述する正極2、セパレータ4および負極3の左右方向の幅を実際よりも小さく、外装体6の接合部(すなわち、
図1中の左右方向の両端部)の左右方向の幅を実際よりも大きく描いている。なお、
図1では、断面よりも手前側および奥側の一部の構造を併せて図示する。
【0017】
リチウム二次電池1は、小型かつ薄型の電池である。リチウム二次電池1の平面視における形状は、例えば略矩形状である。例えば、リチウム二次電池1の平面視における縦方向の長さは10mm~46mmであり、横方向の長さは10mm~46mmである。リチウム二次電池1の厚さ(すなわち、
図1中の上下方向の厚さ)は、例えば0.30mm~0.45mmであり、好ましくは0.40mm~0.45mmである。リチウム二次電池1は、シート状または可撓性を有する薄板状の部材である。シート状の部材とは、比較的小さい力によって容易に変形する薄い部材であり、フィルム状の部材とも呼ばれる。以下の説明においても同様である。
【0018】
リチウム二次電池1は、例えば、シート状デバイス、または、可撓性を有するデバイスに搭載されて電力供給源として利用される。シート状デバイスとは、比較的小さい力によって容易に変形する薄いデバイスであり、フィルム状デバイスとも呼ばれる。本実施の形態では、リチウム二次電池1は、例えば、演算処理機能を有するスマートカードに内蔵され、当該スマートカードにおける電力供給源として利用される。スマートカードは、カード型の可撓性を有するデバイスである。スマートカードは、例えば、無線通信IC、指紋解析用ASICおよび指紋センサを備えた指紋認証・無線通信機能付きカード等として用いられる。以下の説明では、スマートカード等のように、リチウム二次電池1が電力供給源として利用される対象となるデバイスを「対象デバイス」とも呼ぶ。
【0019】
スマートカードへのリチウム二次電池1の搭載は、例えば、常温にて加圧を行うコールドラミネート、または、加熱しつつ加圧を行うホットラミネートにより行われる。ホットラミネートにおける加工温度は、例えば110℃~260℃である。また、ホットラミネートにおける加工圧力は、例えば0.1MPa(メガパスカル)~6MPaであり、加工時間(すなわち、加熱・加圧時間)は、例えば10分~20分である。
【0020】
リチウム二次電池1は、正極2と、負極3と、セパレータ4と、電解液5と、外装体6と、2つの端子7とを備える。正極2、セパレータ4および負極3は、所定の重ね合わせ方向に重ね合わせられている。
図1に示す例では、正極2、セパレータ4および負極3は、図中の上下方向に積層されている。以下の説明では、
図1中の上側および下側を、単に「上側」および「下側」と呼ぶ。また、
図1中の上下方向を、単に「上下方向」と呼び、「重ね合わせ方向」とも呼ぶ。
図1中の上下方向は、リチウム二次電池1がスマートカード等の対象デバイスに搭載される際の実際の上下方向と一致する必要はない。
【0021】
図1に示す例では、セパレータ4は、上下方向(すなわち、重ね合わせ方向)において正極2の上面上に配置される。負極3は、上下方向においてセパレータ4の上面上に配置される。換言すれば、負極3は、上下方向においてセパレータ4の正極2とは反対側に配置される。セパレータ4および負極3はそれぞれ、平面視において例えば略矩形状である。正極2の形状については、後述する。
【0022】
外装体6は、シート状かつ袋状の部材である。外装体6は、平面視において略矩形である。外装体6は、上下方向に重なる2層のシート部65,66を備える。以下の説明では、正極2の下側に位置するシート部65を「第1シート部65」と呼び、負極3の上側に位置するシート部66を「第2シート部66」と呼ぶ。第1シート部65の外周縁と第2シート部66の外周縁とは、例えば熱融着(いわゆる、ヒートシール)により接合されている。外装体6の第1シート部65および第2シート部66はそれぞれ、例えば、アルミニウム(Al)等の金属により形成された金属箔61と、絶縁性の樹脂層62とが積層されたラミネートフィルムにより形成される。第1シート部65および第2シート部66では、樹脂層62は、金属箔61の内側に位置する。
【0023】
外装体6は、上下方向の両側から正極2および負極3を被覆する。外装体6は、正極2、セパレータ4、負極3および電解液5を内部に収容する。電解液5は、正極2、セパレータ4および負極3の周囲に連続して存在する。換言すれば、電解液5は、正極2および負極3の間に介在する。電解液5は、正極2、セパレータ4および負極3に含浸している。2つの端子7は、外装体6の内部から外部へと延びる。外装体6の内部において、一方の端子7は正極2に電気的に接続されており、他方の端子7は負極3に電気的に接続されている。
【0024】
正極2は、正極集電体21と、正極活物質板22と、導電性接合層23とを備える。正極集電体21は、導電性を有するシート状の部材である。正極集電体21の下面は、正極接合層63を介して外装体6の樹脂層62に接合されている。正極接合層63は、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂とエポキシ系樹脂との混合樹脂により形成される。正極接合層63は、他の様々な材料により形成されてもよい。正極接合層63の厚さは、例えば0.5μm~10μmである。
【0025】
正極集電体21は、例えば、アルミニウム等の金属により形成される金属箔と、当該金属箔の上面上に積層された導電性カーボン層とを備える。換言すれば、正極集電体21の正極活物質板22に対向する主面は、導電性カーボン層により被覆されている。上述の金属箔は、アルミニウム以外の様々な金属(例えば、銅、ニッケル、銀、金、クロム、鉄、スズ、鉛、タングステン、モリブデン、チタン、亜鉛、または、これらを含む合金等)により形成されてもよい。また、正極集電体21から上記導電性カーボン層は省略されてもよい。
【0026】
正極活物質板22(すなわち、正極2の活物質板)は、リチウム複合酸化物を含む比較的薄い板状セラミック焼結体である。正極活物質板22は、導電性接合層23を介して正極集電体21の上面上に接合される。また、正極活物質板22は、上下方向においてセパレータ4と対向する。正極活物質板22の上面は、セパレータ4の下面と接触する。
【0027】
正極集電体21の厚さは、例えば9μm~50μmであり、好ましくは9μm~20μmであり、より好ましくは9μm~15μmである。正極活物質板22の厚さは、例えば15μm~200μmであり、好ましくは30μm~150μmであり、より好ましくは50μm~100μmである。正極活物質板22を厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。正極活物質板22を薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。導電性接合層23の厚さ(すなわち、正極活物質板22の下面と正極集電体21の上面との間に位置する導電性接合層23の厚さ)は、例えば、1μm~28μmであり、好ましくは5μm~25μmである。
【0028】
正極活物質板22は、複数の(すなわち、多数の)一次粒子が結合した構造を有している。当該一次粒子は、層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物で構成される。リチウム複合酸化物は、典型的には、一般式:Li
p
MO
2
(式中、0.05<p<1.10)で表される酸化物である。Mは少なくとも1種類の遷移金属であり、例えば、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)およびマンガン(Mn)から選択される1種以上を含む。層状岩塩構造とは、リチウム層とリチウム以外の遷移金属層とが酸素の層を挟んで交互に積層された結晶構造である。すなわち、層状岩塩構造は、酸化物イオンを介して遷移金属イオン層とリチウム単独層とが交互に積層した結晶構造(典型的には、α-NaFeO
2
型構造:立方晶岩塩型構造の[111]軸方向に遷移金属とリチウムとが規則配列した構造)である。
【0029】
層状岩塩構造を有するリチウム複合酸化物の好ましい例としては、コバルト酸リチウム(Li
p
CoO
2
(式中、1≦p≦1.1)、ニッケル酸リチウム(LiNiO
2
)、マンガン酸リチウム(Li
2
MnO
3
)、ニッケルマンガン酸リチウム(Li
p
(Ni
0.5
,Mn
0.5
)O
2
)、一般式:Li
p
(Co
x
,Ni
y
,Mn
z
)O
2
(式中、0.97≦p≦1.07,x+y+z=1)で表される固溶体、Li
p
(Co
x
,Ni
y
,Al
z
)O
2
(式中、0.97≦p≦1.07、x+y+z=1、0<x≦0.25、0.6≦y≦0.9および0<z≦0.1)で表される固溶体、または、Li
2
MnO
3
とLiMO
2
(式中、MはCo、Ni等の遷移金属)との固溶体が挙げられる。特に好ましくは、リチウム複合酸化物はコバルト酸リチウムLi
p
CoO
2
(式中、1≦p≦1.1)であり、例えば、LiCoO
2
(LCO)である。
【0030】
なお、正極活物質板22は、マグネシウム(Mg)、アルミニウム、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、銀(Ag)、スズ(Sn)、アンチモン(Sb)、テルル(Te)、バリウム(Ba)、ビスマス(Bi)等の元素を1種類以上さらに含んでいてもよい。また、正極活物質板22には、集電助剤として金(Au)等がスパッタされていてもよい。
【0031】
正極活物質板22において、上記複数の一次粒子の平均粒径である一次粒径は、例えば20μm以下であり、好ましくは15μm以下である。また、当該一次粒径は、例えば0.2μm以上であり、好ましくは0.4μm以上である。当該一次粒径は、正極活物質板22の断面のSEM(走査型電子顕微鏡)画像を解析することにより測定することができる。具体的には、例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャ(CP)で加工して研磨断面を露出させ、当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でSEMにより観察する。このとき、視野内に20個以上の一次粒子が存在するように視野を設定する。得られたSEM画像中の全ての一次粒子について外接円を描いたときの当該外接円の直径を求め、これらの平均値を一次粒径とする。
【0032】
正極活物質板22において、複数の一次粒子の平均傾斜角(すなわち、平均配向角度)は、0°よりも大きく、かつ、30°以下であることが好ましい。また、当該平均傾斜角は、より好ましくは5°以上かつ28°以下であり、さらに好ましくは10°以上かつ25°以下である。当該平均傾斜角は、複数の一次粒子の(003)面と、正極活物質板22の主面(例えば、正極活物質板22の下面)とが成す角度の平均値である。
【0033】
一次粒子の傾斜角(すなわち、一次粒子の(003)面と正極活物質板22の主面とが成す角度)は、正極活物質板22の断面を電子線後方散乱回折法(EBSD)により解析することによって測定することができる。具体的には、例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャで加工して研磨断面を露出させ、当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でEBSDにより解析する。得られたEBSD像において、各一次粒子の傾斜角は色の濃淡で表され、色が濃いほど傾斜角が小さいことを示す。そして、EBSD像から求められた複数の一次粒子の傾斜角の平均値が、上述の平均傾斜角とされる。
【0034】
正極活物質板22を構成する一次粒子において、傾斜角が0°よりも大きくかつ30°以下である一次粒子の占める割合は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは90%以上である。当該割合の上限値は特に限定されず、100%であってもよい。当該割合は、上述のEBSD像において、傾斜角が0°よりも大きくかつ30°以下である一次粒子の合計面積を求め、当該一次粒子の合計面積を全粒子面積で除算することにより求めることができる。
【0035】
正極活物質板22の気孔率は、例えば、25%以上かつ45%以下である。正極活物質板22の気孔率とは、正極活物質板22における気孔(開気孔および閉気孔を含む。)の体積比率である。当該気孔率は、正極活物質板22の断面のSEM画像を解析することにより測定することができる。例えば、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャで加工して研磨断面を露出させる。当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)および所定の視野(例えば、125μm×125μm)でSEMにより観察する。得られたSEM画像を解析し、視野内の全ての気孔の面積を視野内の正極活物質板22の面積(断面積)で除算し、得られた値に100を乗算することにより気孔率(%)を得る。なお、当該気孔率は、25%未満であってもよく、45%よりも大きくてもよい。
【0036】
正極活物質板22に含まれる気孔の直径の平均値である平均気孔径は、例えば15μm以下であり、好ましくは12μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。また、当該平均気孔径は、例えば0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上である。上述の気孔の直径は、典型的には、当該気孔を同体積あるいは同断面積を有する球形と仮定した場合の、当該球形における直径である。平均気孔径は、複数の気孔の直径の平均値を個数基準で算出したものである。当該平均気孔径は、例えば、断面SEM画像の解析、または、水銀圧入法等、周知の方法により求めることができる。好ましくは、当該平均気孔径は、水銀ポロシメーターを用いて水銀圧入法により測定される。
【0037】
導電性接合層23は、導電性粉末と、バインダとを含む。導電性粉末は、例えば、アセチレンブラック、鱗片状の天然黒鉛、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ誘導体、または、カーボンナノファイバー誘導体等の粉末である。バインダは、例えば、樹脂および溶媒を含む。当該樹脂は、例えばアクリル系樹脂であり、当該溶媒は、例えば、水等の水性溶媒である。バインダに含まれるアクリル系樹脂は、1種類であっても、2種類以上であってもよい。バインダは、アクリル系樹脂に加えて、あるいは、アクリル系樹脂に代えて、他の樹脂(例えば、ポリイミドアミド系樹脂)を含んでいてもよい。また、バインダに含まれる溶媒は、水性溶媒以外の溶媒(例えば、有機溶媒)であってもよい。
【0038】
導電性接合層23は、例えば、上述の導電性粉末およびバインダを含む液状またはペースト状の接着剤が、正極集電体21または正極活物質板22に塗工されて、正極集電体21と正極活物質板22との間にて溶媒が蒸発して固化することにより形成される。
【0039】
図3は、正極2を示す平面図である。
図1および
図3に示す例では、正極活物質板22は、略同じ構造を有する複数の活物質板要素24を備える。複数の活物質板要素24は、正極集電体21上においてマトリクス状(すなわち、格子状)に配列される。平面視における各活物質板要素24の形状は、例えば略矩形である。複数の活物質板要素24は、平面視において略同形状(すなわち、略同じ形かつ略同じ大きさ)であり、互いに離間している。なお、複数の活物質板要素24の形状は、異なっていてもよい。
【0040】
図3に示す例では、平面視において略正方形の6個の活物質板要素24が、縦2個×横3個のマトリクス状に配列される。各活物質板要素24の平面視における一辺の長さは、例えば、5mm~40mmである。なお、複数の活物質板要素24の数および配置は、様々に変更されてよい。また、各活物質板要素24の形状も様々に変更されてよい。
【0041】
図1および
図3に示す例では、正極活物質板22の複数の活物質板要素24は、導電性接合層23の複数の接合層要素25により、正極集電体21上にそれぞれ接合される。複数の接合層要素25の組成は略同じである。
図3では、導電性接合層23の各接合層要素25の輪郭(すなわち、外縁)を破線にて示す。複数の接合層要素25の数は、例えば、複数の活物質板要素24の数と同じである。複数の接合層要素25はそれぞれ、上下方向において正極集電体21と複数の活物質板要素24との間に配置される。なお、正極2では、1個の活物質板要素24が、2個以上の接合層要素25により正極集電体21に接合されてもよい。
【0042】
平面視における各接合層要素25の形状は、例えば略円形である。平面視において、各接合層要素25は活物質板要素24よりも小さく、各接合層要素25の全体が活物質板要素24により覆われる。換言すれば、平面視において、接合層要素25の外縁全体が、活物質板要素24の外縁の内側に位置する。さらに換言すれば、各接合層要素25は、活物質板要素24の周囲にはみ出していない。平面視における接合層要素25の形状は、略円形には限定されず、略長円形や略楕円形等、様々に変更されてよい。
【0043】
導電性接合層23は、正極活物質板22の下面(すなわち、正極集電体21に対向する面)から、正極活物質板22の内部に含浸している。正極活物質板22に対する導電性接合層23の上下方向における含浸深さは、正極活物質板22の上下方向の厚さの3%以上かつ80%以下である。以下の説明では、導電性接合層23の当該含浸深さを正極活物質板22の厚さで除算した値を「含浸割合」とも呼ぶ。すなわち、リチウム二次電池1では、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合は、3%~80%である。当該含浸割合は、6%~75%であることが好ましい。
【0044】
当該含浸割合は、以下のようにして求めることができる。まず、正極活物質板22をクロスセクションポリッシャで加工して研磨断面を露出させ、当該研磨断面を所定の倍率(例えば、1000倍)でSEMにより観察することにより、正極活物質板22の厚さを求める。また、
図4のSEM画像に示す正極活物質板22と導電性接合層23との境界近傍の部位について、
図5に示すように、EDS(エネルギー分散型X線分析)により炭素(C)の二次元マッピング画像を作成する。
図4および
図5の上下は、
図1の上下とは逆になっている。
図5では、図中の上側に位置する濃さが淡い領域(実際の画像では、赤色の領域)が、導電性接合層23に含まれる炭素の存在領域である。また、
図5中の下側に位置する濃さが濃い領域(実際の画像では、黒色の領域)は、導電性接合層23が存在しない領域、すなわち、正極活物質板22を構成する粒子および気孔の存在領域である。
【0045】
続いて、当該二次元マッピング画像において、正極活物質板22の正極集電体21と対向する面(すなわち、
図5中の正極活物質板22の上側の面)から、正極活物質板22の内部における炭素の存在領域の最奥部(すなわち、
図5中の炭素の存在領域の下端)までの距離L1を測定する。次に、当該距離L1を正極活物質板22の厚さで除算し、得られた値に100を乗算することにより、含浸割合(%)の仮値を求める。そして、正極活物質板22上の所定数の任意点において、正極活物質板22の厚さおよび上述の距離L1を取得して含浸割合の仮値を求め、所定数の当該仮値の算術平均値を、導電性接合層23の含浸割合とする。本実施の形態では、上述の所定数は、各正極活物質板要素24につき5点(すなわち、合計30点)である。
【0046】
正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合が大きいと、導電性接合層23によるアンカー効果が大きく働き、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度も大きい。リチウム二次電池1の製造時等において、正極集電体21からの正極活物質板22の剥離を防止するという観点からは、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度は、2N/10mm以上であることが好ましい。
【0047】
当該接合強度は、以下のようにして測定することができる。まず、平面視における大きさが10mm×10mmの正極活物質板22を準備する。続いて、正極集電体21上に導電性接合層23となる接着剤を塗工する。当該接着剤は、乾燥時の厚さが3μmとなるように塗工される。次に、当該接着剤上に10mm×10mmの正極活物質板22を静かに載置し、当該接着剤を乾燥させる。接着剤が乾燥すると、正極活物質板22に両面テープを貼付し、ピール試験機の台座に固定する。そして、120mm/minのピール速度で、180°ピール試験を行って接合強度(N/10mm)を測定する。
【0048】
一方、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合が大きいと、電池特性が低下する傾向がある。具体的には、当該含浸割合が大きくなると、リチウム二次電池1のレート特性を示す容量比が低下する。これは、一つの理由として、導電性接合層23を形成する接着剤中の溶媒成分が、正極活物質板22およびセパレータ4を透過して負極3(すなわち、導電性接合層23が設けられる正極2とは反対側の電極)に接触し、負極3に吸収されることによるものと考えられる。もう一つの理由として、当該含浸割合が大きくなることで、導電性接合層23による正極活物質板22表面の被覆面積が増大し、リチウムイオンの伝導が阻害されることによるものと考えられる。また、負極3が後述するように塗工電極である場合、当該溶媒成分の負極3への接触および吸収により、負極3が膨潤して変形する(例えば、反る)可能性もある。リチウム二次電池1の実用性を考慮すると、上記容量比は80%以上であることが好ましい。
【0049】
図1に示すように、負極3は、負極集電体31と、負極活物質層32とを備える。負極集電体31は、導電性を有するシート状の部材である。負極集電体31の上面は、負極接合層64を介して外装体6に接合されている。負極接合層64は、例えば、酸変性ポリオレフィン系樹脂とエポキシ系樹脂との混合樹脂により形成される。負極接合層64は、他の様々な材料により形成されてもよい。負極接合層64の厚さは、例えば0.5μm~10μmである。
【0050】
負極集電体31は、例えば、銅等の金属により形成される金属箔である。当該金属箔は、銅以外の様々な金属(例えば、ステンレス鋼、ニッケル、アルミニウム、銀、金、クロム、鉄、スズ、鉛、タングステン、モリブデン、チタン、亜鉛、または、これらを含む合金等)により形成されてもよい。
【0051】
負極活物質層32は、樹脂を主成分とするバインダと、負極活物質である炭素質材料とを含む。負極活物質層32は、負極集電体31の下面上に塗工される。すなわち、負極3は、いわゆる塗工電極である。負極活物質層32は、上下方向においてセパレータ4と対向する。負極活物質層32の下面は、セパレータ4の上面と接触する。負極活物質層32では、上述の炭素質材料は、例えば、黒鉛(天然黒鉛もしくは人造黒鉛)、熱分解炭素、コークス、樹脂焼成体、メソフェーズ小球体、または、メソフェーズ系ピッチ等である。負極3では、炭素質材料に代えてリチウム吸蔵物質が負極活物質として利用されてもよい。当該リチウム吸蔵物質は、例えば、シリコン、アルミ、スズ、鉄、イリジウム、または、これらを含む合金、酸化物もしくはフッ化物等である。
【0052】
負極集電体31の厚さは、例えば5μm~25μmであり、好ましくは8μm~20μmであり、より好ましくは8μm~15μmである。負極活物質層32の厚さは、例えば20μm~300μmであり、好ましくは30μm~250μmであり、より好ましくは30μm~150μmである。負極活物質層32を厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。負極活物質層32を薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。
【0053】
次に、表1を参照しつつ、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合と、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度、および、リチウム二次電池1のレート特性との関係について説明する。
【0054】
【0055】
表1中の導電接着剤は、導電性接合層23を形成するために正極集電体21または正極活物質板22に塗工される上述の接着剤である。当該接着剤のバインダ種および溶媒の欄に「アクリル」および「水」と記載されている実施例および比較例では、当該接着剤として、アクリル系樹脂および水性溶媒である水を含む昭和電工株式会社製のアクリル系バインダ(型番:LB1000)を使用した。また、当該接着剤のバインダ種および溶媒の欄に「ポリアミドイミド」および「NMP(N-メチル-2-ピロリドン)」と記載されている実施例および比較例では、当該接着剤として、ポリアミドイミド系樹脂および有機溶媒であるNMP溶媒を含む東洋紡株式会社製のポリアミドイミド系バインダ(型番:HR16NN)を使用した。
【0056】
表1中の含浸割合は、上述の導電接着剤の粘度、正極活物質板22の気孔率、導電接着剤上への正極活物質板22の載置方法(例えば、正極活物質板22を吸引しつつ載置)、および、導電接着剤上への正極活物質板22の載置時の荷重等を変更することにより、容易に制御可能である。表1中の含浸割合および接合強度は、上述の方法により測定した。また、リチウム二次電池1のレート特性は、1.0C/0.2C容量比(すなわち、0.2C容量に対する1.0C容量の割合)を示す。負極3の反りの程度は、目視により判定した。
【0057】
実施例1~5および比較例1~3では、正極活物質板22の活物質組成はLiCoO2であり、厚さは90μmであり、気孔率は30%であった。なお、表中には記載していないが、実施例1~5および比較例1~3では、負極3の負極活物質層32は、炭素質材料として天然黒鉛を含み、バインダとしてポリフッ化ビニリデン(PVDF)を95.5重量%の割合で含む。
【0058】
実施例1~5では、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合は、5.6%~77.8%であった。リチウム二次電池1のレート特性を示す容量比は80%以上(80.3%~97.0%)であり、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度は2.0N/10mm以上(2.2N/10mm~3.2N/10mm)であった。含浸割合が大きくなるに従って、容量比は低下し、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度は増大した。
【0059】
一方、比較例1では、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合が3%未満(2.2%)であり、正極活物質板22と正極集電体21との接合強度は2.0N/10mm未満(1.8N/10mm)と小さかった。比較例2および比較例3では、含浸割合が80%よりも大きく(88.9%)、容量比は80%未満(77.7%)と低かった。
【0060】
実施例1~4では、含浸割合が大きくなると、負極3の反りも僅かに大きくなる。リチウム二次電池1の外観の変化を抑制するという観点からは、含浸割合が75%以下である実施例1~3が、実施例4よりも好ましい。
【0061】
また、実施例4と実施例5とを比較すると、水性溶媒である水を含むアクリル系バインダを使用して導電性接合層23を形成した方が、有機溶媒であるNMPを含むポリアミドイミド系バインダを使用して導電性接合層23を形成する場合よりも、負極3の反りが抑制されている。比較例2および比較例3についても同様である。比較例1と比較例2とを比較すると、含浸割合が大きくなると、負極3の反りも大きくなっている。
【0062】
リチウム二次電池1では、塗工電極である負極3に代えて、
図6に示すように、負極3とは異なる構造を有する負極3aが設けられてもよい。負極3aは、上述の正極2と略同様の構造を有する。具体的には、負極3aは、負極集電体31aと、負極活物質板32aと、導電性接合層33aとを備える。負極集電体31aは、導電性を有するシート状の部材である。負極集電体31aは、例えば、上述の負極集電体31と同様の材料にて形成された同構造の部材である。
【0063】
負極活物質板32a(すなわち、負極3aの活物質板)は、リチウム複合酸化物(例えば、リチウムチタン酸化物(LTO))を含む比較的薄い板状セラミック焼結体である。当該リチウムチタン酸化物として、例えば、Li
4
Ti
5
O
12
が利用される。負極活物質板32aは、導電性接合層33aを介して負極集電体31aの下面に接合される。導電性接合層33aは、例えば、上述の正極2の導電性接合層23と同様の材料により形成される。負極活物質板32aは、上下方向においてセパレータ4と対向する。負極活物質板32aの下面は、セパレータ4の上面と接触する。
【0064】
負極集電体31aの厚さは、例えば5μm~25μmであり、好ましくは8μm~20μmであり、より好ましくは8μm~15μmである。負極活物質板32aの厚さは、例えば10μm~300μmであり、好ましくは30μm~200μmであり、より好ましくは30μm~150μmである。負極活物質板32aを厚くすることにより、単位面積当たりの活物質容量を大きくし、リチウム二次電池1のエネルギー密度を増大させることができる。負極活物質板32aを薄くすることにより、充放電の繰り返しに伴う電池特性の劣化(特に、抵抗値の増大)を抑制することができる。導電性接合層33aの厚さは、例えば、3μm~30μmであり、好ましくは5μm~25μmである。
【0065】
図6に示す例では、負極活物質板32aは、1枚の板状部材であるが、複数の板状部材(以下、「活物質板要素」と呼ぶ。)に分割されていてもよい。この場合、複数の活物質板要素はそれぞれ、導電性接合層33aを介して負極集電体31aに接合される。複数の活物質板要素は、例えば、負極集電体31a上においてマトリクス状(すなわち、格子状)に配列される。平面視における各活物質板要素の形状は、例えば略矩形である。複数の活物質板要素は、平面視において略同形状(すなわち、略同じ形かつ略同じ大きさ)であってもよく、異なる形状を有していてもよい。複数の活物質板要素は、平面視において互いに離間して配置される。
【0066】
次に、表2を参照しつつ、負極活物質板32aに対する導電性接合層33aの含浸割合と、負極活物質板32aと負極集電体31aとの接合強度、および、リチウム二次電池1のレート特性との関係について説明する。なお、表2中の実施例6および比較例4では、正極2の構造は、上述の実施例1と同じである。
【0067】
【0068】
表2中の導電接着剤は、導電性接合層33aを形成するために負極集電体31aまたは負極活物質板32aに塗工される接着剤である。当該接着剤は、粘度を除き、実施例5および比較例3の接着剤と同じものである。
【0069】
表2中の含浸割合は、上述の導電接着剤の粘度、負極活物質板32aの気孔率、導電接着剤上への負極活物質板32aの載置方法(例えば、負極活物質板32aを吸引しつつ載置)、および、導電接着剤上への負極活物質板32aの載置時の荷重等を変更することにより、容易に制御可能である。
【0070】
表2中の含浸割合および接合強度は、上述の正極2における含浸割合および接合強度の測定方法と同様の方法により測定した。また、リチウム二次電池1のレート特性は、2.0C/0.2C容量比(すなわち、0.2C容量に対する2.0C容量の割合)を示す。なお、負極3aでは、焼結板である負極活物質板32aを使用しているため、負極3aの反りは実質的に生じない。
【0071】
実施例6および比較例4では、負極活物質板32aの活物質組成はLi4Ti5O12であり、厚さは100μmであり、気孔率は40%であった。負極活物質板32aの厚さおよび気孔率は、正極活物質板22と同様の方法により測定した。
【0072】
実施例6では、負極活物質板32aに対する導電性接合層33aの含浸割合は75.0%であり、容量比は80%以上(83.3%)であり、負極活物質板32aと負極集電体31aとの接合強度は2.0N/10mm以上(3.2N/10mm)であった。一方、比較例4では、負極活物質板32aに対する導電性接合層33aの含浸割合が80%よりも大きく(90.0%)、容量比は80%未満(66.7%)と低かった。
【0073】
以上に説明したように、リチウム二次電池1は、正極2と、セパレータ4と、負極(すなわち、負極3または負極3a)と、電解液5と、シート状の外装体6と、を備える。セパレータ4は、所定の重ね合わせ方向において正極2上に配置される。負極は、当該重ね合わせ方向においてセパレータ4の正極2とは反対側に配置される。電解液5は、正極2、負極およびセパレータ4に含浸する。外装体6は、重ね合わせ方向の両側から正極2および負極を被覆する。外装体6は、正極2、セパレータ4、負極および電解液5を内部に収容する。
【0074】
リチウム二次電池1では、正極および負極のうち一方の電極(すなわち、正極2または負極3a)は、導電性を有するシート状の集電体(すなわち、正極集電体21または負極集電体31a)と、リチウム複合酸化物を含む板状セラミック焼結体である活物質板(すなわち、正極活物質板22または負極活物質板32a)と、を備える。当該活物質板は、導電性接合層(すなわち、導電性接合層23または導電性接合層33a)を介して上記集電体に接合される。当該導電性接合層は、上記活物質板の集電体に対向する面から活物質板の内部に含浸している。活物質板に対する導電性接合層の重ね合わせ方向における含浸深さは、活物質板の厚さの3%以上かつ80%以下である。
【0075】
これにより、リチウム二次電池1において、活物質板の集電体に対する接合強度の確保と、導電性接合層に起因する電池特性の低下抑制とを、両立することができる。具体的には、活物質板と集電体との接合強度を、2.0N/10mm以上とすることができる。また、リチウム二次電池1のレート特性を示す容量比(すなわち、1.0C/0.2C容量比または2.0C/0.2C容量比)を、80%以上とすることができる。
【0076】
図1に例示するように、好ましくは、上述の一方の電極は正極2であり、負極3は、導電性を有するシート状の負極集電体31と、炭素質材料またはリチウム吸蔵物質を含むとともに負極集電体31に塗工された負極活物質層32と、を備える。この場合、
上述のように、正極活物質板22に対する導電性接合層23の含浸割合を3%以上かつ80%以下とすることにより、塗工電極である負極3の変形を好適に抑制することができる。その結果、負極3の変形に起因するリチウム二次電池1の外観の劣化を抑制することができる。また、負極3の変形に起因する電池特性の低下や短絡の発生等を抑制することもできる。
【0077】
上述のように、導電性接合層(すなわち、導電性接合層23または導電性接合層33a)は、導電性粉末と、樹脂および水性溶媒を含むバインダと、を含むことが好ましい。水性溶媒は、有機溶媒に比べて、リチウム二次電池1の製造時等に気化しやすいため、製造後のリチウム二次電池1内への残留が抑制される。したがって、リチウム二次電池1において、一方の電極の導電性接合層中の溶媒が他方の電極に接触および吸収されることを抑制することができる。その結果、導電性接合層に起因する電池特性の低下をさらに抑制することができる。また、上記他方の電極の変形を抑制することもできる。
【0078】
上述のように、導電性接合層(すなわち、導電性接合層23または導電性接合層33a)に含まれる樹脂は、アクリル系樹脂であることが好ましい。これにより、水性溶媒を使用して導電性接合層を好適に形成することができる。したがって、上述のように、導電性接合層に起因する電池特性の低下、および、上記他方の電極の変形を抑制することができる。
【0079】
上述のように、活物質板(すなわち、正極活物質板22または負極活物質板32a)の気孔率は、25%以上かつ45%以下であることが好ましい。これにより、活物質板に対する導電性接合層の含浸割合を、容易に3%以上かつ80%以下とすることができる。
【0080】
上述のリチウム二次電池1では、薄型であるにもかかわらず、活物質板の集電体に対する接合強度の確保と、導電性接合層に起因する電池特性の低下抑制とを、両立することができる。したがって、リチウム二次電池1は、薄型のデバイス、すなわち、シート状デバイスまたは可撓性を有するデバイス(例えば、スマートカード)における電力供給源に特に適している。
【0081】
上述のリチウム二次電池1では、様々な変更が可能である。
【0082】
例えば、正極2の正極活物質板22の構造は、様々に変更されてよい。例えば、正極活物質板22において、層状岩塩構造を有する複数の一次粒子の平均傾斜角は、30°よりも大きくてもよく、0°であってもよい。あるいは、当該複数の一次粒子の構造は、層状岩塩構造以外の構造であってもよい。
【0083】
リチウム二次電池1では、負極活物質板32aを備える負極3aが設けられる場合、正極2は、樹脂を主成分とするバインダおよび正極活物質を含む正極活物質層が正極集電体21上に塗工された塗工電極であってもよい。
【0084】
リチウム二次電池1は、スマートカード以外の可撓性を有するデバイス(例えば、カード型デバイス)、または、シート状デバイス(例えば、衣服等に設けられたウェアラブルデバイス、もしくは、身体貼付型デバイス)における電力供給源として利用されてもよい。また、リチウム二次電池1は、上述のデバイス以外の様々な対象物(例えば、IoTモジュール)の電力供給源として利用されてもよい。
【0085】
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わされてよい。
【0086】
発明を詳細に描写して説明したが、既述の説明は例示的であって限定的なものではない。したがって、本発明の範囲を逸脱しない限り、多数の変形や態様が可能であるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0087】
本発明のリチウム二次電池は、例えば、演算処理機能を有するスマートカードにおける電力供給源等として、リチウム二次電池が利用される様々な分野で利用可能である。
【符号の説明】
【0088】
1 リチウム二次電池
2 正極
3,3a 負極
4 セパレータ
5 電解液
6 外装体
21 正極集電体
22 正極活物質板
23 導電性接合層
31,31a 負極集電体
32 負極活物質層
32a 負極活物質板
33a 導電性接合層