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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】トレプロスチニルのエルブミン塩
(51)【国際特許分類】
   C07C 59/72 20060101AFI20221215BHJP
   A61K 31/192 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20221215BHJP
   A61K 38/28 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20221215BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20221215BHJP
   C07C 51/41 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C07C59/72 CSP
A61K31/192
A61K45/00
A61K38/28
A61P3/10
A61P9/12
C07C51/41
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021515022
(86)(22)【出願日】2019-09-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-04
(86)【国際出願番号】 US2019050632
(87)【国際公開番号】W WO2020060823
(87)【国際公開日】2020-03-26
【審査請求日】2021-04-06
(31)【優先権主張番号】62/732,799
(32)【優先日】2018-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】594197872
【氏名又は名称】イーライ リリー アンド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100209037
【弁理士】
【氏名又は名称】猪狩 俊博
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】レミック,デイビッド マイケル
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-516693(JP,A)
【文献】特表2016-537363(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0243064(US,A1)
【文献】特表2007-501281(JP,A)
【文献】特開2009-067793(JP,A)
【文献】特表2018-507869(JP,A)
【文献】特表2016-523807(JP,A)
【文献】国際公開第2012/088607(WO,A1)
【文献】平山令明,有機化合物結晶作製ハンドブック,2008年,p.17-23,37-40,45-51,57-65
【文献】川口洋子ら,医薬品と結晶多形,生活工学研究,2002年,Vol.4, No.2,p.310-317
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 59/72
A61K
A61P
C07C 51/41
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構造:
【化1】
を有する、結晶形態のトレプロスチニルエルブミン塩。
【請求項2】
0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、並びに10.2°、20.5°、および6.8°のうちの少なくとも1つにピークを含む、CuKα源(λ=1.54060Å)から得られるXRDパターンによって特徴付けられる結晶形態の、請求項1に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
【請求項3】
前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する10.2°、20.5°、および6.8°の各々にピークを含む、請求項2に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
【請求項4】
前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°、および21.5°のうちの少なくとも1つにピークをさらに含む、請求項3に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
【請求項5】
前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°、および21.5°の各々にピークをさらに含む、請求項4に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のトレプロシトニルエルブミン塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤のうちの少なくとも1つと、を含む、薬学的組成物。
【請求項7】
薬理学的活性を有する追加の物質をさらに含む、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
薬理学的活性を有する前記追加の物質が、インスリンである、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
前記インスリンが、インスリンリスプロである、請求項に記載の薬学的組成物。
【請求項10】
高血糖を治療または予防に用いられる請求項6~9のいずれか1項に記載の薬学的組成物であって、薬学的に有効な量の前記薬学的組成物を投与することを含む、薬学的組成物。
【請求項11】
高血圧を治療または予防に用いられる請求項6~9のいずれか1項に記載の薬学的組成物であって、薬学的に有効な量の前記薬学的組成物を投与することを含む、薬学的組成物。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載のトレプロスチニルエルブミン塩を製造する方法であって、
a)トレプロスチニル遊離酸を逆溶剤に接触させて懸濁液を作製することと、
b)前記懸濁液をt-ブチルアミン(エルブミン)を含む溶液に接触させることと、
c)得られた固形トレプロスチニルエルブミン塩を単離することと、を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレプロスチニルの新規の塩およびその結晶形態を提供する。
【背景技術】
【0002】
化学名が(1R,2R,3aS,9aS)-[[2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-2-ヒドロキシ-1-[(3S)-3-ヒドロキシオクチル]-1H-ベンズ[f]インデン-5-イル]オキシ]酢酸であるトレプロスチニル(CAS No.81846-19-7)は、以下の式を有する。
【0003】
【化1】
【0004】
これは分子量390.5および分子式C2334を有する。
【0005】
トレプロスチニルは、Remodulin(登録商標)、Tyvaso(登録商標)、およびOrenitran(商標)の有効成分であり、肺動脈性肺高血圧症の治療に適応され、運動に関連付けられる症状を軽減し(Remodulin(登録商標))、運動能力を向上させる(Tyvaso(登録商標)およびOrenitran(商標))。Tyvaso(登録商標)およびOrenitran(商標)は、それぞれ吸入および経口剤形であり、Remodulin(登録商標)は、連続注入として皮下または静脈内使用に適応される。
【0006】
現在承認されているトレプロスチニルの製剤には、ナトリウム塩および遊離酸が含まれるが、これらの形態のトレプロスチニルの物理的および化学的安定性は、特に熱安定性と吸湿性の観点から、これらが試験、保管、使用される条件に敏感である。したがって、厳格な温度と湿度の制御を含む特定のプロセスと機器が必要である。
【0007】
したがって、そのような厳格な環境制御を必要としない優れた特性を備えたトレプロスチニルの改善された形態が必要である。
【0008】
トレプロスチニルの改善された形態を同定するための以前から努力が行われている。例えば、米国特許第8,252,839号は、トレプロスチニルのジエタノールアミン塩を記載しており、そこに記載されている化合物は、遊離酸または塩の形態に対する経口バイオアベイラビリティを高めていると述べている。同様に、米国特許第8,350,079号は、室温での安定性を改善すると述べられているジエタノールアミン塩から作られたトレプロスチニルの一水和物形態を記載している。最後に、米国特許第9,701,611号は、トレプロスチニルのIAまたはIIA属金属塩を記載しており、そのような塩は改善された溶解性を有すると述べている。
【発明の概要】
【0009】
それにもかかわらず、優れた物理的特性を備え、過度に負担の大きい環境制御を必要とせずに、分析および/または製造環境で取り扱い、保管、および使用できる新しい形態のトレプロスチニルの必要性が依然としてある。
【0010】
トレプロスチニル遊離酸およびトレプロスチニルナトリウム塩(トレプロスチニルの2つの最も一般的な物理的形態)の環境条件への感受性のため、優れた物理的特性を備えるトレプロスチニルの形態を同定するための努力が行われた。トレプロスチニルのエルブミン塩は、水分に対する感受性の低下および改善された熱安定性を含む、驚くほど優れた物理的特性を有することが発見された。エルブミン塩の改善された熱安定性により、乾燥条件下での性能が改善され、輸送、保管、および分析が簡素化される。
【0011】
一態様において、本発明は、以下の構造を有するトレプロスチニルエルブミン塩を提供する。
【0012】
【化2】
【0013】
別の実施形態において、本発明は、0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、並びに10.2°、20.5°、および6.8°のうちの少なくとも1つにピークを含む、CuKα源(λ=1.54060Å)から得られるX線粉末回折(XRD)パターンによって特徴付けられる結晶形態の、トレプロスチニルエルブミン塩を提供する。
【0014】
別の実施形態において、本発明は、0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、並びに10.2°、20.5°、および6.8°の各々にピークを含む、CuKα源(λ=1.54060Å)から得られるXRDパターンによって特徴付けられる結晶形態の、トレプロスチニルエルブミン塩を提供する。
【0015】
別の実施形態において、本発明は、0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、10.2°、20.5°、6.8°、並びに13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°および21.5°のうちの少なくとも1つにピークを含むCuKα源(λ=1.54060Å)から得られるXRDパターンによって特徴付けられる結晶形態の、トレプロスチニルエルブミン塩を提供する。
【0016】
別の実施形態において、本発明は、0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、10.2°、20.5°、6.8°、13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°および21.5°にピークを含むCuKα源(λ=1.54060Å)から得られるXRDパターンによって特徴付けられる結晶形態態の、トレプロスチニルエルブミン塩を提供する。
【0017】
別の態様において、本発明は、上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかと、薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤のうちの少なくとも1つと、を含む薬学的組成物を提供する。
【0018】
ある特定の実施形態において、薬学的組成物は、さらに、薬理学的活性を有する追加の物質を含む。ある特定の実施形態において、薬理学的活性を有する追加の物質は、インスリンである。ある特定の実施形態において、インスリンは、インスリンリスプロである。
【0019】
別の態様において、本発明は、それを必要とする対象における高血糖を治療または予防する方法であって、上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかと、薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤のうちの少なくとも1つと、インスリンと、を含む治療有効量の薬学的組成物を投与することを含む、方法を提供する。
【0020】
別の態様において、本発明は、それを必要とする対象における高血圧を治療または予防する方法であって、薬学的に有効な量の上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかを投与することを含む、方法を提供する。
【0021】
別の態様において、本発明は、高血圧の治療または予防における上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかの使用を提供する。
【0022】
別の態様において、本発明は、高血圧を治療または予防するための薬剤の製造における上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかの使用を提供する。
【0023】
別の態様において、本発明は、トレプロスチニルを含む組成物中のトレプロスチニルの効力を決定するための参照標準として、上記のトレプロスチニルエルブミン塩のいずれかの使用を提供する。
【0024】
別の態様において、本発明は、上記の実施形態のいずれかのトレプロスチニルエルブミン塩を製造する方法であって、
a)トレプロスチニル遊離酸を逆溶剤に接触させて懸濁液を作製することと、
b)懸濁液をt-ブチルアミン(エルブミン)を含む溶液に接触させることと、
c)得られた固形トレプロスチニルエルブミン塩を単離することと、を含む、方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】トレプロスチニルエルブミンの熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)のサーモグラムのオーバーレイである。
図2】トレプロスチニル遊離酸の熱重量分析(TGA)および示差走査熱量測定(DSC)のサーモグラムのオーバーレイである。
図3】トレプロスチニルエルブミン塩の動的蒸気収着/吸着等温線である。
図4】トレプロスチニルナトリウム塩の動的蒸気収着/吸着等温線である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
上記のように、トレプロスチニルは、肺動脈性肺高血圧症の治療のために承認されたいくつかの製品で承認された活性薬剤である。トレプロスチニルは、腎機能の改善(米国特許第7,199,157号を参照)、虚血性病変の治療(米国特許第8,765,813号を参照)、神経障害性糖尿病性足潰瘍の治療(米国特許第8,563,614号を参照)、間質性肺疾患および喘息の治療(米国特許出願第2014/018431号)、および血管障害の治療(米国特許出願第2014/193379号を参照)を含む、他の治療分野での使用についても記載されている。
【0027】
トレプロスチニルは、インスリンの時間作用プロファイルを加速することができるとも記載されている(米国特許第9,439,952号を参照)。本明細書で使用される場合、「インスリン」という用語は、ヒトインスリン、ウシインスリン、ブタインスリン、またはそれらの任意の類似体もしくは誘導体を指し、速効型インスリン類似体インスリンリスプロ、インスリンアスパルト、およびインスリングルリジンを含む。
【0028】
エルブミン(CAS番号107133-36-8)は、t-ブチルアミンとも呼ばれ得、式(CHCNH、モル質量73.14、および以下の構造を有する。
【0029】
【化3】
【0030】
本発明のトレプロスチニルエルブミン塩は、以下の構造を有する。
【0031】
【化4】
【0032】
本発明のトレプロスチニルエルブミン塩は、上記の状況のいずれかでの使用に好適である可能性があることが認識されるであろう。
【0033】
加えて、水分に対する感受性が低下していることを考慮すると、本発明のトレプロスチニルエルブミン塩は、任意の形態のトレプロスチニルを含む試料を分析する際に使用するための参照標準としても有用である。
【実施例
【0034】
2-[[(1R,2R,3aS,9aS)-2-ヒドロキシ-1-[(3S)-3-ヒドロキシオクチル]-2,3,3a,4,9,9a-ヘキサヒドロ-1H-シクロペンタ[g]ナフタレン-5-イル]オキシ]酢酸t-ブチルアミン(トレプロスチニルエルブミン)の調製
室温で撹拌しながら、トレプロスチニル遊離酸(100mg)をアセトン(2mL)に加える。懸濁液を50℃に加熱する。別の容器で、t-ブチルアミン(26mg、1.4当量)をアセトン(1mL)と混合する。塩基性溶液を滴下すると、懸濁液が数分間溶液になり、その後懸濁液が形成される。アセトン(1mL)を加え、2時間混合を続ける。混合物を一晩撹拌および冷却する。白色固形物をワットマン紙上で真空濾過により単離する。得られた白色固形物のケーキをその場で風乾して、99mg(83%の収率)の表題化合物を得る。
【0035】
結晶性トレプロスチニルエルブミンのX線粉末回折(XRD)
結晶性固形物のXRDパターンは、CuKα源(λ=1.54060Å)およびVantec検出器を備え、35kVおよび50mAで作動する、Bruker D4 Endeavor X線粉末回折計にて得られる。試料は、0.008°(2θ)のステップサイズおよび0.5秒/ステップの走査速度で、ならびに0.6mmの発散スリット、5.28の固定散乱防止スリット、および9.5mmの検出器スリットを用いて、4~40°(2θ)で走査される。乾燥粉末を石英試料ホルダに充填し、ガラススライドを使用して滑らかな表面を得る。結晶形態の回折パターンは、周囲温度および相対湿度で収集される。結晶学の分野において、任意の所与の結晶形態に関して、結晶形態および晶癖などの要因から生じる好ましい配向に起因して、回折ピークの相対強度が変化し得ることは周知である。好ましい配向の効果が存在する場合、ピーク強度は変化するが、多形体の特徴的なピーク位置は変化しない。例えば、The United States Pharmacopeia #23,National Formulary #18,pages 1843-1844,1995を参照されたい。さらに、所与の任意の結晶形態について、角度ピーク位置がわずかに変化し得ることも、結晶学の分野において周知である。例えば、ピーク位置は、試料が分析される温度もしくは湿度の変動、試料の変位、または内部標準の有無に起因して変動し得る。本発明の場合、±0.2(2θ)のピーク位置の変動は、示された結晶形態の明確な同定を妨げることなくこれらの潜在的な変動を考慮に入れる。結晶形態の確認は、特徴的なピーク(°2θの単位で)、典型的にはより顕著なピークの任意の固有の組み合わせに基づいて行われ得る。周囲温度および相対湿度にて収集された結晶形態の回折パターンは、8.853および26.774°(2θ)において、NIST675標準ピークに基づき調整される。
【0036】
結晶性エルブミン塩の調製された試料は、上記のXRDによって分析され、下の表1に記載されるような回折ピークを有し、特に(回折角に対する0.2°の許容度を有する)10.2°、20.5°、および6.8°からなる群から選択される1以上のピークと組み合わせた5.1°のピークを有するXRDパターンによって特徴付けられる。
【0037】
【表1】
【0038】
トレプロスチニルエルブミン塩および遊離酸の熱的特徴付け
上記のように調製されたトレプロスチニルエルブミン塩および化学品給会社から購入したトレプロスチニル遊離酸の試料の熱安定性は、TA Instruments TGA-Q5000熱重量分析装置で実行される熱重量分析(TGA)およびTA Instruments Q2000示差走査熱量計で実行される示差走査熱量測定(DSC)によって分析される。
【0039】
図1(エルブミン塩)および図2(遊離酸)は、25~225℃のTGAサーモグラムと25~300℃のDSCサーモグラムのオーバーレイとを示している。TGAデータは、25~100℃での重量損失はエルブミン塩で0.2318%、26~70℃での重量損失は遊離酸で1.090%であることを示している。エルブミン塩のDSCデータは、143.73℃で始まる単一の吸熱イベント(溶融または分解の可能性が高い)と、遊離酸の少なくとも2つの無水結晶形態の水和に対応するであろう3つの吸熱イベント(71.17℃、95.57℃、および125.15℃)を示している。熱特性データは、エルブミン塩が遊離酸と比較して熱安定性が改善されており、少なくとも100℃まで熱的に安定していることを示している。
【0040】
トレプロスチニルエルブミン塩およびナトリウム塩の吸湿性
上記のように調製されたトレプロスチニルエルブミン塩、および化学品供給会社から購入されたトレプロスチニルナトリウムの吸湿性分析は、TA Instruments Q5000SA収着分析装置で実行される。吸湿性プロファイルは、25℃において乾燥した試料で生成され、相対湿度を5%から最大95%まで増加させ、その後5%間隔で減少して5%の相対湿度に戻る。試料は、重量パーセントの変化が5分間で0.0100未満になるまで、各増分で平衡化される。
【0041】
動的蒸気収着/吸収等温線を図3(エルブミン塩)および図4(ナトリウム塩)に提供する。ナトリウム塩の場合、80%の相対湿度の点で、試料の重量が25%増加し、これは非常に吸湿性であると分類され、一度吸着すると、相対湿度が45%RHに低下するまで水の脱着は開始されないようである。XRD分析は、吸着/脱着プロセスの異なる点で収集された試料に対して上記のように実行された。データは、ナトリウム塩が高い相対湿度に曝されたときの結晶形態の変化と、それに続いて低い相対湿度に戻るときのアモルファスまたは結晶状態が悪い状態への不可逆的変化とを示す。一方、驚くべきことに、エルブミン塩の場合、80%の相対湿度の点で、試料の重量増加は0.2%未満であり、非吸湿性からわずかに吸湿性であると特徴付けられる(European Pharmacopoeia Online,9th,monograph 5.11で定義、ただし実験条件はそこに記載されているものとは異なる)。XRD分析が実行され、ナトリウム塩で見られるようなアモルファス化の観点からの物理的形態の変化は示さなかった。これらのデータは、エルブミン塩の吸湿性の驚くべき欠如を裏付けており、これにより、保存条件の改善と周囲条件下での効力制御が可能になる。したがって、熱および水分収着データの両方が、驚くべきことに、エルブミン塩が遊離酸およびナトリウム塩と比較して大幅に物理的安定性を改善したことを示している。
なお、本発明は以下の態様を含みうる。
[1]以下の構造:
【化5】

を有するトレプロスチニルエルブミン塩。
[2]0.2°の回折角に対する許容度を有する5.1°、並びに10.2°、20.5°、および6.8°のうちの少なくとも1つにピークを含む、CuKα源(λ=1.54060Å)から得られるXRDパターンによって特徴付けられる結晶形態の、上記[1]に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
[3]前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する10.2°、20.5°、および6.8°の各々にピークを含む、上記[2]に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
[4]前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°、および21.5°のうちの少なくとも1つにピークをさらに含む、上記[3]に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
[5]前記XRDパターンが、0.2°の回折角に対する許容度を有する13.7°、14.5°、16.3°、18.7°、19.6°、および21.5°の各々にピークをさらに含む、上記[4]に記載のトレプロスチニルエルブミン塩。
[6]上記[1]~[4]のいずれかに記載のトレプロシトニルエルブミン塩と、薬学的に許容される担体、賦形剤、または希釈剤のうちの少なくとも1つと、を含む、薬学的組成物。
[7]薬理学的活性を有する追加の物質をさらに含む、上記[5]に記載の薬学的組成物。
[8]薬理学的活性を有する前記追加の物質が、インスリンである、上記[6]に記載の薬学的組成物。
[9]前記インスリンが、インスリンリスプロである、上記[7]に記載の薬学的組成物。
[10]それを必要とする対象において高血糖を治療または予防する方法であって、薬学的に有効な量の上記[8]に記載の薬学的組成物を投与することを含む、方法。
[11]それを必要とする対象において高血圧を治療または予防する方法であって、薬学的に有効な量の上記[1]~[5]のいずれかに記載のトレプロスチニルエルブミン塩を投与することを含む、方法。
[12]トレプロスチニルを含む組成物中のトレプロスチニルの効力を決定するための参照標準としての、上記[1]~[5]のいずれかに記載のトレプロスチニルエルブミン塩の使用。
[13]上記[1]~[5]のいずれかに記載のトレプロスチニルエルブミン塩を製造する方法であって、
a)トレプロスチニル遊離酸を逆溶剤に接触させて懸濁液を作製することと、
b)前記懸濁液をt-ブチルアミン(エルブミン)を含む溶液に接触させることと、
c)得られた固形トレプロスチニルエルブミン塩を単離することと、を含む、方法。
図1
図2
図3
図4