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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
B32B27/30 D
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2021544940
(86)(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 IB2019060744
(87)【国際公開番号】W WO2020170025
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2021-08-02
(31)【優先権主張番号】62/809,376
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】510222590
【氏名又は名称】ダイキン アメリカ インコーポレイティッド
【氏名又は名称原語表記】DAIKIN AMERICA,INC.
【住所又は居所原語表記】20 Olympic Drive,Orangeburg,New York 10962,U.S.A
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒澤 梢
(72)【発明者】
【氏名】ブランディン カイル
(72)【発明者】
【氏名】桑嶋 祐己
(72)【発明者】
【氏名】西村 洋介
(72)【発明者】
【氏名】マリコンティ スティーブ
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 剛志
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-231717(JP,A)
【文献】特開2018-058289(JP,A)
【文献】特開昭53-111719(JP,A)
【文献】特開昭62-222147(JP,A)
【文献】特開2011-153075(JP,A)
【文献】特開2015-052740(JP,A)
【文献】特開2013-043400(JP,A)
【文献】特開2015-123676(JP,A)
【文献】特開2003-019772(JP,A)
【文献】特開2000-051365(JP,A)
【文献】司雅博,箕浦有二,アルデヒド架橋反応に及ぼすゴム補強剤の影響,工業化学雑誌,日本,公益社団法人日本化学会,1963年09月05日,Vol.66, No.9,Page.1397-1402,https://doi.org/10.1246/nikkashi1898.66.9_1397,Table1
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 25/00 - 25/20
B32B 27/30
F16L 11/04 - 11/10
J-STAGE
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素ゴム層(A)、および
フッ素ゴム層(A)上のフルオロポリマー層(B)を含む積層体であって、
フッ素ゴム層(A)が、架橋用フッ素ゴム組成物から作製される層であり、
架橋用フッ素ゴム組成物が、未架橋フッ素ゴム、シリカ粒子、および塩基性多官能化合物を含み、
シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値が、17.5nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子の平均粒子径が、25.0nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子の平均真円度が、0.80以上であり、
シリカ粒子が、未架橋フッ素ゴム100質量部当たり、1質量部以上70質量部以下の量で架橋用フッ素ゴム組成物に含有され、
フルオロポリマー層(B)が、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、
フルオロポリマー組成物が、フルオロポリマーを含み、前記フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーまたはテトラフルオロエチレンコポリマーであり、テトラフルオロエチレンコポリマーが、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む、積層体。
【請求項2】
フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマー、またはテトラフルオロエチレン単位、フッ化ビニリデン単位、および一般式CX=CX10Yで表されるモノマーに由来する単位を含むテトラフルオロエチレンコポリマーである、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーである、請求項1または2に記載の積層体。
【請求項4】
クロロトリフルオロエチレンコポリマーが、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む、請求項1から3のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項5】
クロロトリフルオロエチレンコポリマー中の、クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との比が、mol%でクロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位=15~90/85~10である、請求項4に記載の積層体。
【請求項6】
クロロトリフルオロエチレンコポリマー中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の量が、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下である、請求項4または5に記載の積層体。
【請求項7】
架橋用フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン粉末をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の積層体。
【請求項8】
架橋用フッ素ゴム組成物が、一般式PR(式中、3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、各Rは、ハロゲン原子または有機基を表す)で表されるリン化合物をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の積層体。
【請求項9】
架橋用フッ素ゴム組成物が、過酸化物架橋剤をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の積層体。
【請求項10】
請求項1からのいずれか一項に記載の積層体を架橋させることにより得られる積層体であって、フッ素ゴム層(A)から製造される架橋フッ素ゴム層とフルオロポリマー層(B)とが架橋によって互いに接着している、積層体。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の積層体を含む、燃料を移送するためのチューブまたはホース。
【請求項12】
請求項1から10のいずれか一項に記載の積層体を含む、流体を移送するためのパイプ。
【請求項13】
架橋フッ素ゴム層(A1)、および
架橋フッ素ゴム層(A1)上のフルオロポリマー層(B)を含む積層体であって、
架橋フッ素ゴム層(A1)が、架橋フッ素ゴム組成物から作製される層であり、
架橋フッ素ゴム組成物が、架橋フッ素ゴム、シリカ粒子、および塩基性多官能化合物を含み、
シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値が、32.0nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子の見かけの平均粒子径が40.0nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子の見かけの平均真円度が0.61以上であり、
シリカ粒子が、フッ素ゴム100質量部当たり、1質量部以上70質量部以下の量で架橋フッ素ゴム組成物に含有され、
フルオロポリマー層(B)が、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、
フルオロポリマー組成物が、フルオロポリマーを含み、前記フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーまたはテトラフルオロエチレンコポリマーであり、テトラフルオロエチレンコポリマーが、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む、積層体。
【請求項14】
フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマー、またはテトラフルオロエチレン単位、フッ化ビニリデン単位、および一般式CX=CX10Yで表されるモノマーに由来する単位を含むテトラフルオロエチレンコポリマーである、請求項13に記載の積層体。
【請求項15】
フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーである、請求項13または14に記載の積層体。
【請求項16】
クロロトリフルオロエチレンコポリマーが、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む、請求項13から15のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項17】
クロロトリフルオロエチレンコポリマー中の、クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との比が、mol%でクロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位=15~90/85~10である、請求項16に記載の積層体。
【請求項18】
クロロトリフルオロエチレンコポリマー中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の量が、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下である、請求項16または17に記載の積層体。
【請求項19】
架橋フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン粉末をさらに含む、請求項13から18のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項20】
架橋フッ素ゴム組成物が、一般式PR(式中、3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、各Rは、ハロゲン原子または有機基を表す)で表されるリン化合物をさらに含む、請求項13から19のいずれか一項に記載の積層体。
【請求項21】
請求項13から20のいずれか一項に記載の積層体を含む、燃料を移送するためのチューブまたはホース。
【請求項22】
請求項13から20のいずれか一項に記載の積層体を含む、流体を移送するためのパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、積層体、流体を移送するためのチューブ、ホース、およびパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
環境への意識の高まりから、特に自動車産業において、燃料の揮発性をより良好に制御することが求められている。この要望により、燃料バリア性に優れる材料に対する需要が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
一般的な燃料移送用ゴムホースとして、バリア層以外にゴムが使用される積層体ホースが挙げられる。耐燃料透過性を高めるため、これらのホース中のバリア層は、フルオロポリマー製である。バリア層の燃料透過性の低減を達成するため、低減された透過性を確保する手法として、バリア層の厚みを増大させること、およびフルオロポリマーの中で最も透過性が低いパーハロゲンフルオロポリマーを使用することが考えられている。
【0004】
しかし、フルオロポリマーバリア層の厚みを増大させることは、ホース重量の増加をもたらし、省エネルギーの観点から不利にもなる。また、ホースの曲げ性(柔軟性)が低下し、ホースの取扱性(組立性)の面で不利である。
【0005】
さらに、バリア層としてパーハロゲンフルオロポリマーが用いられる場合、内層および外層のゴムにバリア層を容易に接着させることができない。この不十分な接着性により、フルオロポリマーを表面処理してゴムとの接着性を改善する、またはフィルムもしくはテープを層に巻き付けるなどのさらなるプロセスが必要となる。このような煩雑なプロセスは、生産性を著しく低下させ、かつコストも大幅に増大させ、実用上不利となる。そのため、ゴムとフルオロポリマーを直接接着させる技術が望まれる。
【0006】
非フッ素ゴム(例えば、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、およびエピクロリヒドリンゴム(ECO)など)と、クロロトリフルオロエチレン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(CTFE/TFE/PAVE)コポリマーなどの超低燃料透過性を有するフルオロポリマーとを接着するための直接接着技術は、既に開発されている。すなわち、参照によりその内容の全てが全体として本明細書に組み込まれるWO2011/001756A1を例として参照のこと。しかし、ホースの最内層にNBRが使用される場合、可塑剤に由来する抽出物、およびバリア性の低下が問題となる。また、ECOは燃料油に対する耐性に劣るため、ホースの最内層に使用されない。これらの問題を解決するため、NBRの代わりにフッ化ビニリデン系ゴム(FKM)などのフッ素ゴムを最内層に使用することが必要となる。しかし、FKMなどのフッ素ゴムと、CTFE/TFE/PAVEコポリマーなどのフルオロポリマーとを、従来の技術を使用して接着することは困難である。本開示は、FKMなどのフッ素ゴムとCTFE/TFE/PAVEコポリマーなどのフルオロポリマーとを直接接着することを可能にする配合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によると、以下が提供される。
(1)フッ素ゴム層(A)、および
フッ素ゴム層(A)上のフルオロポリマー層(B)を含む積層体であって、
フッ素ゴム層(A)が、架橋用フッ素ゴム組成物から作製される層であり、
架橋用フッ素ゴム組成物が、未架橋フッ素ゴム、シリカ粒子、および塩基性多官能化合物を含み、
シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値が、17.5nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子が、未架橋フッ素ゴム100質量部当たり、1質量部以上70質量部以下の量で架橋用フッ素ゴム組成物に含有され、
フルオロポリマー層(B)が、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、
フルオロポリマー組成物が、フルオロポリマーを含み、前記フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーまたはテトラフルオロエチレンコポリマーであり、テトラフルオロエチレンコポリマーが、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む、積層体。
(2)フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマー、またはテトラフルオロエチレン単位、フッ化ビニリデン単位、および一般式CX=CX10Yで表されるモノマーに由来する単位を含むテトラフルオロエチレンコポリマーである、(1)に記載の積層体。
(3)フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーである、(1)または(2)に記載の積層体。
(4)クロロトリフルオロエチレンコポリマーが、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む、(1)から(3)のいずれか一項に記載の積層体。
(5)クロロトリフルオロエチレンコポリマー中の、クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との比が、mol%でクロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位=15~90/85~10である、(4)に記載の積層体。
(6)クロロトリフルオロエチレンコポリマー中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の量が、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下である、(4)または(5)に記載の積層体。
(7)シリカ粒子の平均粒子径が、25.0nm以上である、(1)から(6)のいずれか一項に記載の積層体。
(8)シリカ粒子の平均粒子径が、500μm以下である、(1)から(7)のいずれか一項に記載の積層体。
(9)シリカ粒子の平均真円度が、0.80以上である、(1)から(8)のいずれか一項に記載の積層体。
(10)架橋用フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン粉末をさらに含む、(1)から(9)のいずれか一項に記載の積層体。
(11)架橋用フッ素ゴム組成物が、一般式PR(式中、3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、各Rは、ハロゲン原子または有機基を表す)で表されるリン化合物をさらに含む、(1)から(10)のいずれか一項に記載の積層体。
(12)架橋用フッ素ゴム組成物が、過酸化物架橋剤をさらに含む、(1)から(11)のいずれか一項に記載の積層体。
(13)(1)から(12)のいずれか一項に記載の積層体を架橋させて得られる積層体であって、フッ素ゴム層(A)から製造される架橋フッ素ゴム層とフルオロポリマー層(B)とが架橋によって互いに接着される、積層体。
(14)(1)から(13)のいずれか一項に記載の積層体を含む、燃料を移送するためのチューブまたはホース。
(15)(1)から(13)のいずれか一項に記載の積層体を含む、流体を移送するためのパイプ。
(16)架橋フッ素ゴム層(A1)、および
架橋フッ素ゴム層(A1)上のフルオロポリマー層(B)を含む積層体であって、
架橋フッ素ゴム層(A1)が、架橋フッ素ゴム組成物から作製される層であり、
架橋フッ素ゴム組成物が、架橋フッ素ゴム、シリカ粒子、および塩基性多官能化合物を含み、
シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値が、32.0nm以上500μm以下であり、
シリカ粒子が、フッ素ゴム100質量部当たり、1質量部以上70質量部以下の量で架橋フッ素ゴム組成物に含有され、
フルオロポリマー層(B)が、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、
フルオロポリマー組成物が、フルオロポリマーを含み、前記フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーまたはテトラフルオロエチレンコポリマーであり、テトラフルオロエチレンコポリマーが、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む、積層体。
(17)フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマー、またはテトラフルオロエチレン単位、フッ化ビニリデン単位、および一般式CX=CX10Yで表されるモノマーに由来する単位を含むテトラフルオロエチレンコポリマーである、(16)に記載の積層体。
(18)フルオロポリマーが、クロロトリフルオロエチレンコポリマーである、(16)または(17)に記載の積層体。
(19)クロロトリフルオロエチレンコポリマーが、クロロトリフルオロエチレン単位、テトラフルオロエチレン単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位を含む、(16)から(18)のいずれか一項に記載の積層体。
(20)クロロトリフルオロエチレンコポリマー中の、クロロトリフルオロエチレン単位とテトラフルオロエチレン単位との比が、mol%でクロロトリフルオロエチレン単位/テトラフルオロエチレン単位=15~90/85~10である、(19)に記載の積層体。
(21)クロロトリフルオロエチレンコポリマー中のパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)単位の量が、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下である、(19)または(20)に記載の積層体。
(22)シリカ粒子の見かけの平均粒子径が、40.0nm以上である、(16)から(21)のいずれか一項に記載の積層体。
(23)シリカ粒子の見かけの平均粒子径が、500μm以下である、(16)から(22)のいずれか一項に記載の積層体。
(24)架橋フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン粉末をさらに含む、(16)から(23)のいずれか一項に記載の積層体。
(25)架橋フッ素ゴム組成物が、一般式PR(式中、3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、各Rは、ハロゲン原子または有機基を表す)で表されるリン化合物をさらに含む、(16)から(24)のいずれか一項に記載の積層体。
(26)(16)から(25)のいずれか一項に記載の積層体を含む、燃料を移送するためのチューブまたはホース。
(27)(16)から(25)のいずれか一項に記載の積層体を含む、流体を移送するためのパイプ。
【発明の効果】
【0008】
本開示によると、FKMなどのフッ素ゴムと、クロロトリフルオロエチレンコポリマーまたはテトラフルオロエチレンコポリマーとを直接接着することを可能にする配合物を提供することができる。
【0009】
本開示の特徴および利点は、以下の図面と併せて次節の詳細な説明を参照することで、より完全に理解されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】「DM-20S」(株式会社トクヤマの製品)と称されるシリカについて得られた、倍率100,000の走査電子顕微鏡(「SEM」)画像である。右下隅に見られる10本の刻みの長さは、500nmに相当する。
図2】「HG-09」(株式会社トクヤマの製品)と称されるシリカについて得られた、倍率100,000のSEM画像である。右下隅に見られる10本の刻みの長さは、500nmに相当する。
図3】「PM-20」(株式会社トクヤマの製品)と称されるシリカについて得られた、倍率100,000のSEM画像である。右下隅に見られる10本の刻みの長さは、500nmに相当する。
図4】「SIDISTAR(登録商標)R300」(エルケムジャパン株式会社の製品)と称されるシリカについて得られた、倍率50,000のSEM画像である。右下隅に見られる10本の刻みの長さは、1.00μmに相当する。
図5】「SIDISTAR(登録商標)T120U」(エルケムジャパン株式会社の製品)と称されるシリカについて得られた、倍率50,000のSEM画像である。右下隅に見られる10本の刻みの長さは、1.00μmに相当する。
図6】後述の表3の実施例1から得られた、「SIDISTAR(登録商標)R300」シリカ(エルケムジャパン株式会社の製品)を含有する架橋フッ素ゴム組成物の、倍率20,000のSEM画像である。
図7図6に対応する箇所の元素マッピング分析から得られた倍率20,000の画像を提示する図であり、ケイ素原子の分布を示す。
図8】検出されたケイ素原子の画像(すなわち図7)を図6のSEM画像上に重ね合わせて示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来技術の一部として、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)-ウンデカ-7-エン塩(DBU塩)、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)-ノナ-5-エン塩(DBN塩)、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)-ウンデカ-7-エン(DBU)、または1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)-ノナ-5-エン(DBN)をNBRに添加することにより、NBRとCTFE/TFE/PAVEコポリマーとを直接接着させることが可能である。この技術は、ECOとCTFE/TFE/PAVEコポリマーとの直接接着にも応用される。しかし、この技術を使用してFKMなどのフッ素ゴムとCTFE/TFE/PAVEコポリマーなどのフルオロポリマーとを互いに直接接着させることはできない。本発明者らは、特定の特性を有するシリカをフッ素ゴム配合物に添加することによって、FKMなどのフッ素ゴムとCTFE/TFE/PAVEコポリマーなどのフルオロポリマーとを直接接着させることができることを見出した。これらの特性は、シリカ粒子の粒子径および真円度によって表される。
【0012】
具体的には、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値は、好ましくは17.5nm以上、より好ましくは20.0nm以上、さらに好ましくは30.0nm以上、特に好ましくは50.0nm以上、最も好ましくは70.0nm以上である。また、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。20μm以下および10μm以下も当該平均値として好ましい。
【0013】
フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均粒子径は、好ましくは25.0nm以上、より好ましくは30.0nm以上、さらに好ましくは40.0nm以上、特に好ましくは60.0nm以上、最も好ましくは80.0nm以上であってもよい。また、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。20μm以下および10μm以下も平均粒子径として好ましい。
【0014】
フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均真円度は、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であってもよい。理論的な真円度の上限は1であり、このとき問題となる形状は真円を示す。
【0015】
フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカの粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値は、好ましくは32.0nm以上、より好ましくは40.0nm以上、さらに好ましくは50.0nm以上、特に好ましくは60.0nm以上、最も好ましくは70.0nm以上である。100nm以上および150nm以上も見かけの平均値として好ましい。また、フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値は、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。100μm以下、50μm以下、および20μm以下も見かけの平均値として好ましい。
【0016】
フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカの見かけの平均粒子径は、好ましくは40.0nm以上、より好ましくは50.0nm以上、さらに好ましくは60.0nm以上、特に好ましくは80.0nm以上であってもよい。100nm以上、150nm以上、および200nm以上も見かけの平均粒子径として好ましい。また、フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカの見かけの平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
【0017】
さらに、本開示で特定されるシリカは、フッ素ゴム配合物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、リン化合物、および塩基性多官能化合物のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つ全てを含有する場合でも、フッ素ゴム(例えばFKMなど)とフルオロポリマー(例えばCTFE/TFE/PAVEコポリマーなど)との間の直接接着を達成するのに効果的である。
【0018】
従って、本開示は、特に、従来の接着剤を使用することなく、かつフッ素ゴム層またはフルオロポリマー層に対する表面処理を行うことなく、フッ素ゴム層(例えばFKMなど)とフルオロポリマー層(例えばCTFE/TFE/PAVEコポリマー層など)とが互いに強固に接着した架橋積層体を提供する。
【0019】
本開示は、特に、フッ素ゴム層(A)、およびフッ素ゴム層(A)上のフルオロポリマー層(B)を含む未架橋積層体であって、フッ素ゴム層(A)が架橋用フッ素ゴム組成物から作製される層である、未架橋積層体にも関する。架橋用フッ素ゴム組成物は、未架橋フッ素ゴム、および粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値が特定の範囲内のシリカを含有し、フルオロポリマー層(B)は、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、コポリマー組成物は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来するコポリマー単位を有するフルオロポリマー、またはテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するコポリマー単位およびTFE以外のモノマーに由来する単位を有するフルオロポリマーを含有する。シリカは、特定の範囲内の平均粒子径をさらに有してよく、かつ特定の範囲内の平均真円度も有してよい。
【0020】
フルオロポリマー層およびフッ素ゴム層を積層して本開示の積層体を形成すると、煩雑な手順を経ずに、フッ素ゴムの架橋中に強固な接着がもたらされる。従って、接着させるための特別な手順は必要ない。これにより、積層体を低費用で容易に形成することができる。また、押出などの一般的な成形方法を用いることができるため、より薄い積層体製品を製造することができ、曲げ性(柔軟性)が向上する。
【0021】
従って、本開示の一態様は、フッ素ゴム層(A)およびフッ素ゴム層(A)上のフルオロポリマー層(B)を含有する積層体に関する。ここで、フッ素ゴム層(A)は、架橋用フッ素ゴム組成物から作製される層であり、架橋用フッ素ゴム組成物は、未架橋フッ素ゴムおよび粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値が好ましくは17.5nm以上、より好ましくは20.0nm以上、さらに好ましくは30.0nm以上、特に好ましくは50.0nm以上、最も好ましくは70.0nm以上であるシリカを含有する。また、シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
【0022】
シリカの平均粒子径は、好ましくは25.0nm以上、より好ましくは30.0nm以上、さらに好ましくは40.0nm以上、特に好ましくは60.0nm以上、最も好ましくは80.0nm以上であってもよい。シリカの平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下であってもよい。シリカの平均真円度は、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であってもよい。
【0023】
架橋用フッ素ゴム組成物中に含有されるシリカの量に関し、下限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、特に好ましくは16質量部以上、最も好ましくは20質量部以上である。架橋用フッ素ゴム組成物中に含有されるシリカの量の上限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。
【0024】
フルオロポリマー層(B)は、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、コポリマー組成物は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)コポリマーまたはテトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーであるフルオロポリマーを含有する。一例として、CTFEコポリマーは、CTFE単位、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)単位のみを含有しうる。CTFEコポリマー中の、CTFE単位とTFE単位との比は、CTFE単位/TFE単位=15~90/85~10(mol%)であってよく、PAVE単位の量は、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下であってよい。好ましくは、TFEコポリマーは、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む。
【0025】
本開示の別の態様は、架橋用フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、リン化合物、および塩基性多官能化合物のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つ全てをさらに含有する、前述の積層体に関する。
【0026】
本開示のさらなる態様は、架橋用フッ素ゴム組成物が過酸化物架橋剤をさらに含有する、前述の積層体に関する。
【0027】
本開示のさらなる態様は、フッ素ゴム層(A)がフルオロポリマー層(B)の両面に積層される、前述の積層体に関する。
【0028】
本開示のさらなる態様は、フルオロポリマー層(B)がフッ素ゴム層(A)の両面に積層される、前述の積層体に関する。
【0029】
本開示のさらなる態様は、フッ素ゴム層(A)またはフルオロポリマー層(B)上に、フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)以外のポリマー層(C)をさらに含有する、前述の積層体に関する。
【0030】
本開示のさらなる態様は、前述の積層体を架橋させて得られる積層体であって、フッ素ゴム層(A)から製造された架橋フッ素ゴム層とフルオロポリマー層(B)とが架橋によって互いに接着される、積層体に関する。
【0031】
本開示のさらに別の態様は、架橋フッ素ゴム層(A1)、および架橋フッ素ゴム層(A1)上のフルオロポリマー層(B)を含有する積層体に関する。ここで、架橋フッ素ゴム層(A1)は、架橋フッ素ゴム組成物から作製される層であり、架橋フッ素ゴム組成物は、架橋フッ素ゴム、および粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値が好ましくは32.0nm以上、より好ましくは40.0nm以上、さらに好ましくは50.0nm以上、特に好ましくは60.0nm以上、最も好ましくは70.0nm以上であるシリカを含有する。100nm以上および150nm以上も見かけの平均値として好ましい。また、シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値は、好ましくは500μm以下、より好ましくは400μm以下、さらに好ましくは300μm以下、特に好ましくは200μm以下である。100μm以下、50μm以下、および20μm以下も見かけの平均値として好ましい。
【0032】
架橋フッ素ゴム組成物中に含有されるシリカの見かけの平均粒子径は、好ましくは40.0nm以上、より好ましくは50.0nm以上、さらに好ましくは60.0nm以上、特に好ましくは80.0nm以上であってもよい。100nm以上、150nm以上、および200nm以上も見かけの平均粒子径として好ましい。また、シリカの見かけの平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。
【0033】
架橋フッ素ゴム組成物中に含有されるシリカの量に関し、下限は、架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、特に好ましくは16質量部以上、最も好ましくは20質量部以上である。架橋フッ素ゴム組成物中に含有されるシリカの量の上限は、架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。
【0034】
フルオロポリマー層(B)は、フルオロポリマー組成物から作製される層であり、コポリマー組成物は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)コポリマーまたはテトラフルオロエチレン(TFE)コポリマーであるフルオロポリマーを含有する。一例として、CTFEコポリマーは、CTFE単位、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、およびパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)単位のみを含有しうる。CTFEコポリマー中の、CTFE単位とTFE単位との比は、CTFE単位/TFE単位=15~90/85~10(mol%)であってよく、PAVE単位の量は、全モノマー単位に対し0.5mol%以上5mol%以下でありうる。好ましくは、TFEコポリマーは、テトラフルオロエチレン単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、フッ化ビニリデン、および一般式CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む。
【0035】
本開示のさらなる態様は、架橋フッ素ゴム組成物が、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、リン化合物、および塩基性多官能化合物のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つ全てをさらに含有する、前述の(A1)-(B)積層体に関する。
【0036】
本開示のさらなる態様は、架橋フッ素ゴム層(A1)がフルオロポリマー層(B)の両面に積層される、前述の(A1)-(B)積層体に関する。
【0037】
本開示のさらなる態様は、フルオロポリマー層(B)が架橋フッ素ゴム層(A1)の両面に積層される、前述の(A1)-(B)積層体に関する。
【0038】
本開示のさらなる態様は、架橋フッ素ゴム層(A1)またはフルオロポリマー層(B)上に、架橋フッ素ゴム層(A1)およびフルオロポリマー層(B)以外のポリマー層(C)をさらに含有する、前述の(A1)-(B)積層体に関する。
【0039】
以下の詳細な説明は、全体として、本開示の様々な例示的実施形態を説明するものであり、当業者であれば理解するように、他の同様に効果的な実施形態を排除するものであると考えられるべきではない。さらに、実施形態およびその他の例の完全な理解を提供するために、多くの具体的詳細が与えられる。しかし、以下の説明を不明瞭にしないよう、一部の例において、周知の方法、手順、および成分は、詳細に説明されていない。開示される実施形態および例は、例示のみを目的とするものである。他の実施形態および例も、開示される実施形態および例の代わりに、または開示される実施形態および例と組み合わせて用いることができる。以下では、別段の指定がない限り、組成物中の成分の量は、全て組成物の総量に対する重量%で表される。また、数値範囲が示される場合、終点、その範囲における全ての部分的数値、およびそこに含まれる全ての個々の整数は、本開示の一部として与えられると理解される。
【0040】
本開示の一態様は、フッ素ゴム層(A)、およびフッ素ゴム層(A)上のフルオロポリマー層(B)を有する積層体に関する。各層に関する説明は、以下に与えられるとおりである。本開示で用いられる「層」という用語は、巨視的に境界が明確な2次元の(しかし必ずしも平坦でない)表面を有するシート状(しかし必ずしも平坦でない)構造を意味する。本開示で用いられる「積層体」という用語は、複数の層から作製される構造を意味し、各層は、それぞれの2次元表面が互いに接触する状態で、別の層の上または下に積層される。
【0041】
1.フッ素ゴム層(A)
フッ素ゴム層(A)は、架橋用フッ素ゴム組成物から作製される。架橋用フッ素ゴム組成物は、未架橋フッ素ゴムおよびシリカを含有し、架橋剤、塩基性多官能化合物、またはその両方をさらに含有しうる。架橋用フッ素ゴム組成物が架橋剤および塩基性多官能化合物を含有すると、架橋時にフッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)とをより強固に互いに接着させることができる。架橋用フッ素ゴム組成物は、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末およびリン化合物のいずれか一方または両方も含有しうる。
【0042】
a.未架橋フッ素ゴム
通常、フッ素ゴムは非晶質ポリマーから形成され、非晶質ポリマーは、主鎖を構成する炭素原子に結合するフッ素原子を有し、かつゴム弾性も有する。フッ素ゴムは、1種のポリマーから形成されてよく、または2種以上のポリマーから形成されてよい。通常、フッ素ゴムは、明確な融点を有さない。
【0043】
好ましくは、フッ素ゴムは、フッ化ビニリデン(VdF)/ヘキサフルオロプロピレン(HFP)コポリマー、VdF/HFP/テトラフルオロエチレン(TFE)コポリマー、TFE/プロピレンコポリマー、TFE/プロピレン/VdFコポリマー、エチレン/HFPコポリマー、エチレン/HFP/VdFコポリマー、エチレン/HFP/TFEコポリマー、VdF/TFE/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)コポリマー、VdF/クロロトリフルオロエチレン(CTFE)コポリマー、およびVdF/CH=CFRfコポリマー(式中、Rfは、直鎖または分岐状C~C12フルオロアルキル基を表す)からなる群から選択される少なくとも1種である。フッ素ゴムは、好ましくは非パーフルオロフッ素ゴムであり、より好ましくはフッ化ビニリデンに由来する重合単位(VdF単位)を含有するコポリマーである。
【0044】
VdF単位含有コポリマーは、好ましくはVdF単位およびフッ素含有エチレン系モノマーに由来する共重合単位(ただし、VdF単位は除外され、以下、「フッ素含有エチレン系モノマー単位(a)」とも称される)を含有するコポリマーである。VdF単位含有コポリマーは、VdF単位およびフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)のみから構成されるコポリマーであってよく、またはVdFおよびフッ素含有エチレン系モノマー(ただし、VdFは除外され、以下、「フッ素含有エチレン系モノマー(a)」とも称される)と共重合可能なモノマーに由来する共重合単位をさらに含有するコポリマーであってよい。
【0045】
VdF単位含有コポリマーは、VdF単位とフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)の総量100mol%に対し、好ましくは30~90mol%のVdF単位および70~10mol%のフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)、より好ましくは30~85mol%のVdF単位および70~15mol%のフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)、さらに好ましくは30~80mol%のVdF単位および70~20mol%のフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)を含有する。
【0046】
VdFおよびフッ素含有エチレン系モノマー(a)(ただし、VdF単位は除外される)と共重合可能なモノマーに由来する共重合単位の量は、VdF単位とフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)の総量に対し、好ましくは0~10mol%である。
【0047】
フッ素含有エチレン系モノマー(a)の例として、TFE、CTFE、トリフルオロエチレン、HFP、トリフルオロプロピレン、テトラフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロブテン、テトラフルオロイソブテン、PAVE、フッ化ビニル、および下記一般式(1):
CFX=CXOCFOR (1)
(式中、Xは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、それぞれH、F、またはCFを表し、Rは、H、Cl、Br、およびIからなる群から選択される少なくとも1種である原子を1個または2個含有しうる直鎖または分岐状C~Cフルオロアルキル基、またはH、Cl、Br、およびIからなる群から選択される少なくとも1種である原子を1個または2個含有しうるC~C環状フルオロアルキル基を表す)で表されるフルオロビニルエーテルなどのフッ素含有モノマーが挙げられる。これらの中でも、式(1)で表されるフルオロビニルエーテル、TFE、HFP、およびPAVEからなる群から選択される少なくとも1種が好ましく、TFE、HFP、およびPAVEからなる群から選択される少なくとも1種がより好ましい。
【0048】
PAVEは、好ましくは一般式(2):
CF=CFO(CFCFYO)-(CFCFCFO)-Rf (2)
(式中、Yは、FまたはCFを表し、Rfは、C~Cパーフルオロアルキル基を表し、pは、0~5の整数を表し、qは、0~5の整数を表す)で表される。PAVEは、より好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)またはパーフルオロ(プロピルビニルエーテル)であり、さらに好ましくはパーフルオロ(メチルビニルエーテル)である。これらはそれぞれ単独で、または互いに任意に組み合わせて使用されうる。
【0049】
VdFおよびフッ素含有エチレン系モノマー(a)と共重合可能なモノマーの例として、エチレン、プロピレン、およびアルキルビニルエーテルが挙げられる。
【0050】
そのようなVdF単位含有コポリマーの好ましい具体的な例として、VdF/HFPコポリマー、VdF/HFP/TFEコポリマー、VdF/CTFEコポリマー、VdF/CTFE/TFEコポリマー、VdF/PAVEコポリマー、VdF/TFE/PAVEコポリマー、VdF/HFP/PAVEコポリマー、およびVdF/HFP/TFE/PAVEコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のコポリマーが挙げられる。これらの中でも特に好ましいVdF単位含有コポリマーは、耐熱性の観点から、VdF/HFPコポリマーおよびVdF/HFP/TFEコポリマーからなる群から選択される少なくとも1種のコポリマーである。好ましくは、これらのVdF単位含有コポリマーは、前述のVdF単位およびフッ素含有エチレン系モノマー単位(a)の割合を満たす。
【0051】
VdF/HFPコポリマーのVdF/HFPモル比は、好ましくは(45~85)/(55~15)、より好ましくは(50~80)/(50~20)、さらに好ましくは(60~80)/(40~20)である。
【0052】
VdF/HFP/TFEコポリマーは、好ましくは(30~85)/(5~50)/(5~40)のVdF/HFP/TFEモル比、より好ましくは(35~80)/(8~45)/(8~35)のVdF/HFP/TFEモル比、さらに好ましくは(40~80)/(10~40)/(10~30)のVdF/HFP/TFEモル比、最も好ましくは(40~80)/(10~35)/(10~30)のVdF/HFP/TFEモル比を有する。
【0053】
VdF/PAVEコポリマーのVdF/PAVEモル比は、好ましくは(65~90)/(10~35)である。
【0054】
VdF/TFE/PAVEコポリマーのVdF/TFE/PAVEモル比は、好ましくは(40~80)/(3~40)/(15~35)である。
【0055】
VdF/HFP/PAVEコポリマーのVdF/HFP/PAVEモル比は、好ましくは(65~90)/(3~25)/(3~25)である。
【0056】
VdF/HFP/TFE/PAVEコポリマーのVdF/HFP/TFE/PAVEモル比は、好ましくは(40~90)/(0~25)/(0~40)/(3~35)、より好ましくは(40~80)/(3~25)/(3~40)/(3~25)である。
【0057】
フッ素ゴムは、架橋部位を付与するモノマーに由来する共重合単位を含有するコポリマーから形成されることも好ましい。架橋部位を付与するモノマーの例として、パーフルオロ(6,6-ジヒドロ-6-ヨード-3-オキサ-1-ヘキセン)およびパーフルオロ(5-ヨード-3-オキサ-1-ペンテン)などのヨウ素含有モノマー、臭素含有モノマー、シアノ基含有モノマー、カルボキシル基含有モノマー、ならびにアルコキシカルボニル基含有モノマーが挙げられる。
【0058】
フッ素ゴムは、主鎖末端にヨウ素原子または臭素原子を有するフッ素ゴムであることも好ましい。主鎖末端にヨウ素原子または臭素原子を有するフッ素ゴムは、水性媒体にラジカル開始剤を添加し、ハロゲン化合物が存在し、かつ酸素が実質的に存在しない状態で、モノマーを乳化重合することによって製造することができる。使用されるハロゲン化合物の典型的な例は、例えば、一般式:
Br
(式中、xおよびyは、それぞれ0~2の整数を表し、かつ1≦x+y≦2を満たし、Rは、ヨウ素原子または臭素原子で置換されてよく、それぞれさらに酸素原子を含有してよい、飽和もしくは不飽和のC~C16フッ化炭化水素基、飽和もしくは不飽和のC~C16クロロフルオロ炭化水素基、C~C炭化水素基、またはC~C10環状炭化水素基を表す)で表される化合物でありうる。
【0059】
ハロゲン化合物の例として、1,3-ジヨードパーフルオロプロパン、1,3-ジヨード-2-クロロパーフルオロプロパン、1,4-ジヨードパーフルオロブタン、1,5-ジヨード-2,4-ジクロロパーフルオロペンタン、1,6-ジヨードパーフルオロヘキサン、1,8-ジヨードパーフルオロオクタン、1,12-ジヨードパーフルオロドデカン、1,16-ジヨードパーフルオロヘキサデカン、ジヨードメタン、1,2-ジヨードエタン、1,3-ジヨード-n-プロパン、CFBr、BrCFCFBr、CFCFBrCFBr、CFClBr、BrCFCFClBr、CFBrClCFClBr、BrCFCFCFBr、BrCFCFBrOCF、1-ブロモ-2-ヨードパーフルオロエタン、1-ブロモ-3-ヨードパーフルオロプロパン、1-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブタン、2-ブロモ-3-ヨードパーフルオロブタン、3-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1,2-ブロモ-4-ヨードパーフルオロブテン-1、モノヨード-モノブロモ-置換ベンゼン、ジヨード-モノブロモ-置換ベンゼン、ならびに(2-ヨードエチル)-および(2-ブロモエチル)-置換ベンゼンが挙げられる。これらの化合物は、それぞれ単独で、または互いに任意に組み合わせて使用されうる。
【0060】
これらの中でも、重合反応性、架橋反応性、および入手のしやすさの観点から、1,4-ジヨードパーフルオロブタンまたはジヨードメタンを使用することが好ましい。
【0061】
フッ素ゴム組成物を製造する際の良好な加工性の観点から、フッ素ゴムのムーニー粘度(ML1+10(100℃))は、好ましくは5~200であり、より好ましくは10~150であり、さらに好ましくは20~100である。
【0062】
ムーニー粘度は、ASTM-D1646に従って測定することができる。
測定機器:MV2000E(Alpha Technologies製)
ロータ回転速度:2rpm
測定温度:100℃
最終的に、架橋用フッ素ゴム組成物のゴム成分は、フッ素ゴムのみから構成されることが好ましい。
【0063】
b.シリカ
本開示の架橋用フッ素ゴム組成物は、シリカも含有する。フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値は、好ましくは17.5nm以上、より好ましくは20.0nm以上、さらに好ましくは30.0nm以上、特に好ましくは50.0nm以上、最も好ましくは70.0nm以上である。また、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。20μm以下および10μm以下も当該平均値として好ましい。
【0064】
フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均粒子径は、好ましくは25.0nm以上、より好ましくは30.0nm以上、さらに好ましくは40.0nm以上、特に好ましくは60.0nm以上、最も好ましくは80.0nm以上であってもよい。また、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均粒子径は、好ましくは500μm以下、より好ましくは300μm以下、さらに好ましくは100μm以下、特に好ましくは50μm以下、最も好ましくは30μm以下である。20μm以下および10μm以下も平均粒子径として好ましい。
【0065】
フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの平均真円度は、好ましくは0.80以上、より好ましくは0.85以上であってもよい。理論的な真円度の上限は1であり、このとき問題となる形状は真円を示す。
【0066】
本開示において、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの「平均粒子径」は、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上にシリカ粒子を吸着させ、白金スパッタリングを用いてフィルムをコーティングし、コーティングされたフィルム中のシリカ粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真を画像分析することによって、定義および測定される。画像分析において、ノイズ除去および二値化のためにSEM写真を加工した後、加工画像から100個の粒子を無作為に選択し、被写界深度1~2μmの2次元画像中に見られるシリカ粒子の平均径を測定する。ここで、円形の2次元形状に関し、「径」は、直径(半径ではない)に対応する。面積Sを有する非円形の2次元形状に関し、「径」は、円の直径に相当すると考えられる、(4×S/π)の平方根をとることで得られる。
【0067】
本開示において、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカの「平均真円度」は、PETフィルム上にシリカ粒子を吸着させ、白金スパッタリングを用いてフィルムをコーティングし、コーティングされたフィルム中のシリカ粒子のSEM写真を画像分析することによって、定義および測定される。画像分析において、ノイズ除去および二値化のためにSEM写真を加工した後、加工画像から100個の粒子を無作為に選択し、被写界深度1~2μmの2次元画像中に見られるシリカ粒子の平均真円度を測定する。2次元形状の「真円度」の値は、以下のように定義される。
(真円度)=4π×(シリカ粒子の二値化2次元断面画像の面積)/(シリカ粒子の二値化2次元断面画像の外周)
真円度の価が1に近づくほど、対応する2次元形状は真円に近づく。
【0068】
本開示において、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定される、シリカ粒子の「「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値」は、PETフィルム上にシリカ粒子を吸着させ、白金スパッタリングを用いてフィルムをコーティングし、コーティングされたフィルム中のシリカ粒子のSEM写真を画像分析することによって、定義および測定される。画像分析において、ノイズ除去および二値化のためにSEM写真を加工した後、加工画像から100個の粒子を無作為に選択し、被写界深度1~2μmの2次元画像中に見られるシリカ粒子の「(粒子径)×(真円度)」の積の平均を測定する。
【0069】
上記の平均粒子径、平均真円度、および「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値の測定において、凝集粒子を1つの大きな粒子として誤って数えてしまう、また粒子画像内の灰色の影が粒子の一部であると認識されないことがあるため、輪郭が明確なシリカ粒子のみが代表的な試料として選択され、重なっているシリカ粒子は度外視する。
【0070】
フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカ粒子の「見かけの平均粒子径」、「見かけの平均真円度」、および「「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値」の定義および測定に関し、まず架橋したフッ素ゴム配合物を液体窒素で凝固させる。次いで、凝固し、架橋したフッ素ゴム配合物を分割し、現れた断面のSEM写真を撮影する。図6は、そのようなSEM写真の例である。SEM写真内で、SEM-EDX(エネルギー分散X線)測定による元素マッピング分析を通してケイ素原子を識別し、その位置を特定する。図7は、そのような元素マッピング分析によって得られた画像の例であり、ケイ素原子の分布を示す。最終的に、最初のSEM写真上にケイ素原子をマッピングした画像を重ね合わせ、識別され、かつ位置が特定された100個のシリカ粒子を無作為に選択して上記と同じ分析を行うことで、フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定される、シリカ粒子の「見かけの平均粒子径」、「見かけの平均真円度」、および「「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値」を得る。図8は、そのような重ね合わされたSEM画像の例である。100個のシリカ粒子が無作為にサンプリングされうる限り、1枚のSEM写真または一連のSEM写真に依拠してこれらの測定を行うことができる。
【0071】
シリカは、塩基性シリカであってよく、または酸性シリカであってよい。接着性およびゴム特性の観点から、フッ素ゴム配合物に添加されるシリカの量の下限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは5質量部以上、さらに好ましくは10質量部以上、特に好ましくは16質量部以上、最も好ましくは20質量部以上であり、フッ素ゴム配合物に添加されるシリカの量の上限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは100質量部以下、より好ましくは70質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下、特に好ましくは40質量部以下である。本開示の特定の組成物を有する積層体は、シリカを含有することによって、架橋時に優れた接着性を有することができる。シリカ表面は、疎水化されてよく、または疎水化されなくてもよい。
【0072】
c.架橋剤
架橋剤は、架橋用フッ素ゴム組成物の架橋系に応じて選択される、従来公知の種のものでありうる。未架橋フッ素ゴムの架橋は、フッ素ゴムの引張強度などの機械的強度を向上させ、良好な弾性を有する架橋フッ素ゴム層をもたらす。
【0073】
本開示で使用可能な架橋系として、ポリアミン架橋系、ポリオール架橋系、過酸化物架橋系、イミダゾール架橋系、トリアジン架橋系、オキサゾール架橋系、およびチアゾール架橋系のいずれか1つが挙げられる。架橋系は、未架橋フッ素ゴムが架橋部位を含有する場合、架橋性基(架橋部位)の種類に応じて、さらに架橋積層体に付与される特性およびその用途にも応じて適宜選択される。
【0074】
好ましくは、架橋用フッ素ゴム組成物は、過酸化物架橋系用の架橋剤を含有する。過酸化物架橋系用の架橋剤は、特に限定されず、例えば有機過酸化物でありうる。好ましくは、有機過酸化物は、熱または酸化還元系の存在下で過酸化ラジカルを容易に生成するものであり、その例として、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシペルオキシド、ジ-t-ブチルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、α,α’-ビス(t-ブチルペルオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキシン-3、過酸化ベンゾイル、t-ブチルペルオキシベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルペルオキシ)ヘキサン、t-ブチルペルオキシマレイン酸、およびt-ブチルペルオキシイソプロピルカーボナートが挙げられる。特に、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサンがより好ましい。
【0075】
架橋剤が有機過酸化物である場合、本発明の架橋用フッ素ゴム組成物は、共架橋剤を含有することが好ましい。共架橋剤の例として、トリアリルシアヌラート、トリメタリルイソシアヌラート、トリアリルイソシアヌラート(TAIC)、トリアクリルホルマール、トリアリルトリメリタート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジプロパルギルテレフタラート、ジアリルフタラート、テトラアリルテレフタラートアミド、リン酸トリアリル、ビスマレイミド、フッ化トリアリルイソシアヌラート(1,3,5-トリス(2,3,3-トリフルオロ-2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6-トリオン)、トリス(ジアリルアミン)-S-トリアジン、亜リン酸トリアリル、N,N-ジアリルアクリルアミド、1,6-ジビニルドデカフルオロヘキサン、ヘキサアリルホスホルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルフタルアミド、N,N,N’,N’-テトラアリルマロンアミド、トリビニルイソシアヌラート、2,4,6-トリビニルメチルトリシロキサン、トリ(5-ノルボルネン-2-メチレン)シアヌラート、および亜リン酸トリアリルが挙げられる。これらの中でも、架橋性および架橋フッ素ゴムの特性の観点からトリアリルイソシアヌラート(TAIC)が好ましい。
【0076】
架橋剤として使用される場合、有機過酸化物は、架橋助剤または共架橋剤と共に使用されうる。架橋助剤または共架橋剤は、特に限定されず、例えば前述の架橋助剤および共架橋剤でありうる。
【0077】
従って、架橋剤は、ポリアミン架橋剤、ポリオール架橋剤、過酸化物架橋剤、イミダゾール架橋剤、トリアジン架橋剤、オキサゾール架橋剤、およびチアゾール架橋剤のいずれか1つでありうる。これらはそれぞれ単独で使用されても、またはこれらの2つ以上が組み合わせて使用されてもよい。
【0078】
使用される架橋剤または複数の架橋剤の量に関し、下限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、さらに好ましくは1.0質量部以上である。使用される架橋剤または複数の架橋剤の量の上限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、さらに好ましくは3.0質量部以下である。量が少なすぎると、架橋フッ素ゴムの特性は損なわれる傾向にある。量が多すぎると、未架橋フッ素ゴムの特性は損なわれる傾向にある。
【0079】
後述する架橋または前処理が比較的低い温度で行われる場合、架橋剤の量は、3.0質量部を超え、10.0質量部以下であることが好ましく、3.0質量部を超え、6.0質量部以下であることがより好ましい。架橋または前処理が比較的低い温度で行われる場合であっても、比較的多量の架橋剤により、適切な架橋度、および十分な接着強度をもたらされうる。
【0080】
使用される共架橋剤の量は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、さらに好ましくは0.5質量部以上である。また、その上限は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは10.0質量部以下、より好ましくは7.0質量部以下、さらに好ましくは5.0質量部以下である。
【0081】
後述する架橋または前処理が比較的低い温度で行われる場合、共架橋剤の量は、5.0質量部を超え、10.0質量部以下であることが好ましく、5.0質量部を超え、7.0質量部未満であることがより好ましい。架橋または前処理が比較的低い温度で行われる場合であっても、比較的多量の共架橋剤により、適切な架橋度、および十分な接着強度がもたらされうる。
【0082】
さらに、本開示で特定されるシリカは、低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末、リン化合物、および塩基性多官能化合物のいずれか1つ、いずれか2つ、または3つ全てがフッ素ゴム配合物中に含有される場合でも、FKMなどのフッ素ゴムとCTFE/TFE/PAVEコポリマーなどのフルオロポリマーとを直接接着させるのに効果的である。
【0083】
d.塩基性多官能化合物
塩基性多官能化合物は、同一の構造または異なる構造を有する官能基を2つ以上分子内に有し、かつ塩基性を示す化合物である。
【0084】
塩基性多官能化合物中の官能基は、塩基性を示すものが好ましく、例えば、それぞれが-NH、-NH 、-NHCOOH、-NHCOO、-N=CR(式中、RおよびRは、それぞれ独立して-Hまたは0~12個の炭素原子を有する有機基である)、-NR(式中、RおよびRは、それぞれ独立して-Hまたは0~12個の炭素原子を有する有機基である)、-NR(式中、R、R、およびRは、それぞれ独立して-Hまたは0~12個の炭素原子を有する有機基である)、および加熱によって前述の官能基のいずれか1つに変換される官能基からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、-NH、-NH 、-N=CR(式中、RおよびRは、上記で定義されたとおりである)、および-NR(式中、R、R、およびRは、上記で定義されたとおりである)からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、-NH、-NH 、および-N=CR(式中、RおよびRは、上記で定義されたとおりである)からなる群から選択される少なくとも1つであることがさらに好ましい。上記R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して-Hまたは1~12個の炭素原子を有する有機基であることが好ましく、-Hまたは1~12個の炭素原子を有する炭化水素基であることがより好ましい。炭化水素基は、1個または2個以上の炭素-炭素二重結合を有しうる。炭化水素基の炭素原子の数は、好ましくは1~8個である。好ましくは、Rは-Hまたは-CHであり、Rは-CH=CHR(Rは、フェニル基(-C)、ベンジル基(-CH-C)、または-Hである)である。より好ましくは、Rは-Hであり、Rは-CH=CH-Cである。
【0085】
塩基性多官能化合物の例として、エチレンジアミン、プロパンジアミン、プトレシン、カダベリン、ヘキサメチレンジアミン、ヘプタンジアミン、オクタンジアミン、ノナンジアミン、デカンジアミン、ウンデカンジアミン、ドデカンジアミン、フェニレンジアミン、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,6-ヘキサメチレンジアミン、および6-アミノヘキシルカルバミド酸が挙げられる。
【0086】
塩基性多官能化合物は、分子中に少なくとも2個の窒素原子を有し、窒素原子間の距離は、5.70Å以上である。窒素原子間の距離は、より好ましくは6.30Å以上、さらに好ましくは7.60Å以上、特に好ましくは8.60Å以上である。窒素原子間の距離が長い塩基性多官能化合物は、より高い柔軟性を有し、容易に架橋する。ここで、窒素原子間の距離は、以下の方法で計算される。すなわち、密度汎関数法を使用して各塩基の最適化構造を算出する(ここで、プログラムはGaussian03、密度汎関数はB3LYP、基底関数は6-31G*である)。
【0087】
接着の観点から、塩基性多官能化合物は、好ましくはN,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミンおよびNH-(CH-NH(式中、nは5~12である)からなる群から選択される少なくとも1つであり、より好ましくはヘキサメチレンジアミンおよびN,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサメチレンジアミンからなる群から選択される少なくとも1つの化合物である。
【0088】
塩基性多官能化合物の含有量は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは0.6質量部以上、さらに好ましくは0.8質量部以上、特に好ましくは1.0質量部以上、最も好ましくは1.5質量部以上である。一方、架橋阻害および費用の観点から、塩基性多官能化合物の含有量は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは10質量部以下、より好ましくは6質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下、最も好ましくは3質量部以下である。
【0089】
e.低分子量PTFE粉末
好ましくは、低分子量PTFE粉末は、溶融加工可能であり、かつ非フィブリル化性である。低分子量PTFE粉末は、「PTFE微粉末」と称される場合がある。
【0090】
低分子量PTFEは、数平均分子量が600,000以下のTFE(テトラフルオロエチレン)ポリマーである。数平均分子量が600,000を超える「高分子量PTFE」は、PTFEに特徴的なフィブリル化性を示す。高分子量PTFEは、高い溶融粘度を有し、非溶融加工性である。高分子量PTFEは、添加剤として使用されるとフィブリル化する性質を示すため、PTFE粒子同士が容易に凝集し、基質材料中での分散性が悪い。
【0091】
低分子量PTFE粉末は、380℃における溶融粘度が1×10~7×10(Pa・s)のTFEポリマーである。PTFEの溶融粘度がこの範囲内であると、PTFEの数平均分子量は、上記で特定された範囲内となる。溶融粘度は、2グラム(2g)の試料を380℃で5分間予熱し、0.7MPaの荷重下において上記温度で保持した際に、フローテスター(株式会社島津製作所製)および2φ-8Lのダイを使用し、ASTM D1238に準じて測定される値である。示される各数平均分子量は、上記の様式で測定された溶融粘度から計算される値である。
【0092】
低分子量PTFE粉末は、好ましくは融点が324℃~333℃のTFEポリマーである。
【0093】
低分子量PTFE粉末の平均粒子径は、好ましくは0.01~1,000μmであり、より好ましくは0.1~100μmであり、さらに好ましくは0.3~50μmであり、最も好ましくは0.5~20μmである。平均粒子径は、レーザー回折式粒子径分布測定装置(例えば、株式会社日本レーザー製)を使用し、圧力0.1MPa、測定時間3秒で、カスケードを用いずに粒子径分布を測定することによって得られる粒子径分布における積算値の50%に対応する値に相当すると考えられる。
【0094】
低分子量PTFE粉末の372℃(1.2kgの荷重下)におけるメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.01~10g/10分である。MFRは、直径2mm、長さ8mmのノズルから、372℃、1.2kgの荷重下で単位時間(10分間)当たりに流れ出るポリマーの重量(g)を、メルトインデクサ(例えば、株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定することによって決定することができる。
【0095】
低分子量PTFE粉末は、TFEホモポリマーであってよく、またはTFE単位およびTFEと共重合可能な変性モノマー単位を含有する変性PTFEであってよい。変性PTFEにおいて、TFEと共重合可能な変性モノマー単位の含有量は、全モノマー単位に対し、好ましくは0.01重量%~1重量%、より好ましくは0.01重量%~0.5重量%、最も好ましくは0.03重量%~0.3重量%である。
【0096】
本開示において、変性モノマー単位は、変性PTFEの分子構造の一部であり、かつ変性モノマーに由来する部分を意味し、全モノマー単位は、変性PTFEの分子構造中の全てのモノマーに由来する部分に意味する。変性モノマー単位の含有量は、赤外線分光分析またはNMR(核磁気共鳴)分析によって測定される値である。
【0097】
市販の低分子量PTFE粉末の例として、L150J、L169J、L170JE、L172JE、およびL173JE(旭硝子株式会社の製品)、L-2、L-5、L-5F、およびL-7(ダイキン工業株式会社の製品)、TF9205、TF9207Z、およびTF9201Z(3Mの製品)、KT-300M、KT-400M、KT-600M、KTL-450A、KTL-450、KTL-620、KTL-610、KTL-20N、KTL-10S、KTL-9S、KTL-8N、KTL-4N、KTL-2N、KTL-1N、KTL-8F、KTL-8FH、およびKTL-500F(株式会社喜多村の製品)、TLP-10F-1およびMP-1300-J(三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社の製品)、ならびにセフラルルーブIおよびV(セントラル硝子株式会社の製品)が挙げられる。
【0098】
f.リン化合物
リン化合物は、少なくとも1個のリン原子を分子中に含有する化合物であり、その例として、ホスフィン、リン酸エステル、ホスファゼン、ホスフィンオキシド、ホスホン酸エステル、ホスフィン酸エステルなどが例示されうる。
【0099】
リン化合物は、一般式PR(式中、3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、各Rは、ハロゲン原子または有機基を表す)で表されるホスフィン化合物、ホスホニウム塩、およびホスフィンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ホスフィン化合物であることがより好ましい。
【0100】
ホスフィン化合物は、一般式PRで表され、式中の3つのRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、それぞれハロゲン原子または有機基を表す。ホスフィン化合物として、トリフェニルホスフィン塩酸塩、トリフェニルホスフィンボラン、およびトリフェニルホスフィン-トリフェニルホスフィンボラン錯体などの、PRで表される構造を含有する化合物も挙げられる。ホスフィン型化合物は、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、ジフェニル亜ホスフィン酸クロリド、トリス(2,6-ジメトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン、およびトリブチル(シアノメチル)ホスホニウムクロリドからなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、これらの中でもジフェニル亜ホスフィン酸クロリドが特に好ましい。
【0101】
有機基として、置換基を有してよい1~30個の炭素原子を有する炭化水素基が例示されうる。炭化水素基は、直鎖、分岐状、単環、または多環であってよく、不飽和結合を有してよく、芳香族であってよく、かつヘテロ原子を含有してよい。置換基として、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基、アルデヒド基、カルボン酸基、ハロゲン原子、ホスフィン基、ホスホン酸塩基、ジフェニルホスフィノ基などが例示されうる。
【0102】
g.他の添加剤
一般的にフッ素ゴムは強塩基性物質に対する良好な耐性を有さないため、本開示の架橋用フッ素ゴム組成物は、強塩基性を示す1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)-ウンデカ-7-エン(DBU)、1,8-ジアザビシクロ(5.4.0)-ウンデカ-7-エン塩(DBU塩)、1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)-ノナ-5-エン(DBN)、および1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)-ノナ-5-エン塩(DBN塩)の1つ、2つ、3つ、または全てを含有しないことが好ましい。
【0103】
本開示において、架橋用フッ素ゴム組成物を調製する際に一般的に使用される添加剤を、個々の用途の目的および需要に応じて添加してよい。一般的な添加剤の例として、充填剤、金属塩、加工助剤、可塑剤、軟化剤、老化防止剤、着色剤、安定化剤、接着助剤、離型剤、導電性付与剤、熱伝導性付与剤、表面用粘着防止剤、粘着性付与剤、柔軟性付与剤、耐熱性向上剤、難燃剤、UV吸収剤、耐油性向上剤、発泡剤、焼付防止剤、潤滑剤、およびエポキシ樹脂が挙げられる。さらに、前述の薬剤以外に、1つまたは2つ以上の一般的な架橋剤または架橋促進剤が添加されうる。ここで、これらの添加剤の量は、本開示において向上するよう意図されるフッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)との接着性を悪化させない範囲内であるべきである。
【0104】
充填剤の例として、酸化カルシウム、酸化チタン、および酸化アルミニウムなどの金属酸化物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、および水酸化カルシウムなどの金属水酸化物、炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸カルシウム、および炭酸バリウムなどの炭酸塩、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸ナトリウム、およびケイ酸アルミニウムなどのケイ酸塩、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、および硫酸バリウムなどの硫酸塩、合成ハイドロタルサイト、二硫化モリブデン、硫化鉄、および硫化銅などの金属硫化物、ならびに珪藻土、アスベスト、リトポン(硫化亜鉛/硫化バリウム)、グラファイト、カーボンブラック、フッ化炭素、フッ化カルシウム、コークス、石英微粉末、亜鉛華、タルク、マイカ粉末、珪灰石、カーボン繊維、アラミド繊維、様々なヒゲ結晶、ガラス繊維、有機補強剤、および有機充填剤が挙げられる。
【0105】
加工助剤の例として、ステアリン酸、オレイン酸、パルミチン酸、およびラウリン酸などの高級脂肪酸、ステアリン酸ナトリウムおよびステアリン酸亜鉛などの高級脂肪酸塩、ステアリン酸アミドおよびオレイン酸アミドなどの高級脂肪酸アミド、オレイン酸エチルなどの高級脂肪酸エステル、ステアリルアミンおよびオレイルアミンなどの高級脂肪族アミン、カルナバワックスおよびセレシンワックスなどの石油ワックス、エチレングリコール、グリセロール、およびジエチレングリコールなどのポリグリコール、ワセリンおよびパラフィンなどの脂肪族炭化水素、ならびにシリコーン油、シリコーンポリマー、低分子量ポリエチレン、フタル酸エステル、リン酸エステル、ロジン、(ハロゲン化)ジアルキルアミン、(ハロゲン化)ジアルキルスルホン、および表面活性剤が挙げられる。
【0106】
可塑剤の例として、フタル酸誘導体およびセバシン酸誘導体が挙げられる。
【0107】
軟化剤の例として、潤滑油、プロセス油、コールタール、ヒマシ油、およびステアリン酸カルシウムが挙げられる。
【0108】
老化防止剤の例として、フェニレンジアミン、リン酸塩、キノリン、クレゾール、フェノール、およびジチオカルバミン酸金属塩が挙げられる。
【0109】
エポキシ樹脂の例として、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、および多官能エポキシ樹脂が挙げられる。これらの中でも、耐薬品性および接着性に優れるため、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。さらに、以下の式(1)
【化1】
で表されるビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。式(1)中、nは平均値であり、好ましくは0.1~3、より好ましくは0.1~0.5、さらに好ましくは0.1~0.3である。nが0.1未満であると、架橋時のフルオロポリマーとの接着性は低下する傾向にある。nが3を超えると、エポキシ樹脂自体の粘度が増大し、そのようなエポキシ樹脂を架橋用フッ素ゴム組成物中に均一に分散させることは困難でありうる。
【0110】
エポキシ樹脂が添加される場合、架橋時の接着性をさらに向上させるため、添加される量は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上である。フッ素ゴム層が硬くなり過ぎることを避ける観点から、添加量は、未架橋フッ素ゴム100質量部に対し、好ましくは25質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下である。
【0111】
h.フッ素ゴム層(A)の調製
本開示の架橋用フッ素ゴム組成物は、未架橋フッ素ゴムおよびシリカ、ならびに必要に応じて架橋剤および他の添加剤を配合することによって調製される。
【0112】
フッ素ゴム層(A)に導電性を付与するため、導電性充填剤が添加されうる。導電性充填剤は、特に限定されず、例として、粉末状または繊維状の金属または炭素などの導電性の単体、酸化亜鉛などの導電性化合物の粉末、および表面処理によって電気伝導性が与えられた粉末が挙げられる。導電性充填剤の中でも、経済性および帯電防止の面で有利であるため、カーボンブラックが好適に使用される。導電性カーボンブラックの例として、デンカブラック(デンカ株式会社の製品)およびケッチェンブラック(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社の製品)が挙げられる。
【0113】
フッ素ゴム層の絶縁抵抗値は、好ましくは10MΩ以下、より好ましくは5MΩ以下、さらに好ましくは1MΩ以下である。フッ素ゴム層の絶縁抵抗値は、以下のように測定される。架橋および成形を通して15cm×15cm×2mmの大きさを有するフッ素ゴム層を準備する。アナログ絶縁抵抗計24060(横河電機株式会社製)を使用し、プローブ末端をフッ素ゴム層の両端に接触させ、500Vの電圧を印加した際の絶縁抵抗値を測定する。
【0114】
配合は、オープン・ロール・ミキサ、バンバリ・ミキサ、加圧ニーダなどを使用し、200℃以下の温度で行われる。
【0115】
II.フルオロポリマー層(B)
本開示のフルオロポリマー層(B)は、フルオロポリマー組成物から作製される。
【0116】
フルオロポリマー組成物は、フルオロポリマーを含有する。フルオロポリマーは、好ましくは溶融加工可能な樹脂である。フルオロポリマーは、好ましくは明確な融点を有する。
【0117】
フルオロポリマー組成物は、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)に由来するコポリマー単位を有するフルオロポリマーおよびテトラフルオロエチレン(TFE)に由来するコポリマー単位を有するフルオロポリマーからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。
【0118】
フルオロポリマーは、好ましくはCTFEフルオロポリマーである。より具体的には、フルオロポリマーは、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)およびCTFEコポリマーからなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。
【0119】
好ましくは、CTFEコポリマーは、CTFEに由来するコポリマー単位(CTFE単位)、ならびにテトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニリデン(VdF)、フッ化ビニル、ヘキサフルオロイソブテン、式CH=CX(CF(ここで、Xは、HまたはFを表し、Xは、H、F、またはClを表し、nは、1~10の整数を表す)で表されるモノマー、エチレン、プロピレン、1-ブテン、2-ブテン、塩化ビニル、および塩化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来するコポリマー単位を含有する。
【0120】
より好ましくは、CTFEコポリマーは、CTFE単位、ならびにTFE、HFP、およびPAVEからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来するコポリマー単位を含有する。さらに、CTFEコポリマーは、これらのコポリマー単位のみを実質的に含有することがさらに好ましい。より低い燃料透過性の観点から、CTFEコポリマーは、エチレン、フッ化ビニリデン、またはフッ化ビニルなどのC-H結合を有するモノマーを含有しないことが好ましい。一般的に、パーハロポリマーは、フッ素ゴムに接着しにくい。しかし、本開示の組成物によると、フルオロポリマー層とフッ素ゴム層との接着は、フルオロポリマー層がパーハロポリマーから作製される場合であっても、架橋時に強化される。
【0121】
好ましくは、CTFEコポリマーは、全モノマー単位に対し、10~90mol%の量のCTFE単位を有する。
【0122】
特に好ましくは、CTFEコポリマーは、CTFE単位、TFE単位、ならびにCTFEおよびTFEと共重合可能なモノマー(α)に由来するモノマー(α)単位を含有する。
【0123】
「CTFE単位」および「TFE単位」は、それぞれ、CTFEコポリマーの分子構造におけるCTFE(-CFCl-CF-)に由来する部分、およびTFE(-CF-CF-)に由来する部分である。同様に、「モノマー(α)単位」は、CTFE系コポリマーの分子構造におけるモノマー(α)が付加される部分である。
【0124】
モノマー(α)は、CTFEおよびTFEと共重合可能なモノマーである限り、特に限定されない。モノマー(α)の例として、エチレン(Et)、フッ化ビニリデン(VdF)、CF=CF-ORf(ここで、Rfは、C~Cパーフルオロアルキル基を表す)で表されるパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、CX=CX(CF(ここで、X、X、およびXは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、水素原子またはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子、または塩素原子であり、nは、1~10の整数を表す)で表されるビニルモノマー、およびCF=CF-OCH-Rf(ここで、Rfは、C~Cパーフルオロアルキル基を表す)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体が挙げられる。これらの中でも、モノマー(α)は、PAVE、ビニルモノマー、およびアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましい。より好ましくは、モノマー(α)は、PAVEおよびHFPからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0125】
好ましくは、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体は、C~Cパーフルオロアルキル基を表すRfを有する。より好ましくは、アルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体は、CF=CF-OCH-CFCFである。
【0126】
好ましくは、CTFEコポリマー中のCTFE単位とTFE単位との比は、CTFE単位/TFE単位=15~90/85~10(mol%)である。より好ましくは、当該比は、CTFE単位/TFE単位=15~60/85~40(mol%)である。さらに好ましくは、当該比は、CTFE単位/TFE単位=15~40/85~60(mol%)である。特に好ましくは、当該比は、CTFE単位/TFE単位=15~25/85~75(mol%)である。
【0127】
好ましくは、CTFEコポリマーにおいて、CTFE単位とTFE単位の総量は90~99.9mol%であり、モノマー(α)単位の量は0.1~10mol%である。モノマー(α)単位の量が0.1mol%未満であると、フルオロポリマー組成物は、低い形成性、低い耐環境応力亀裂性、および低い耐燃料亀裂性を有する傾向にある。一方、モノマー(α)単位の量が10mol%を超えると、フルオロポリマー層(B)は、不十分な低燃料透過性を有し、かつ低い耐熱性および低い機械特性を有する傾向にある。
【0128】
最も好ましくは、フルオロポリマーは、PCTFE、またはCTFE/TFE/PAVEコポリマーである。CTFE/TFE/PAVEコポリマーは、CTFE単位、TFE単位、およびPAVE単位を含むコポリマーであり、好ましくは、実質的にCTFE、TFE、およびPAVEのみからなるコポリマーである。PCTFE、およびCTFE/TFE/PAVEコポリマーは、それぞれ、脱フッ化水素反応が起きることがないよう、主鎖を構成する炭素原子に直接結合する水素原子を有さない。従って、脱フッ化水素反応によってフルオロポリマー中に形成される不飽和結合を利用する、従来の接着性を向上させる方法を用いることはできない。本開示において、フッ素ゴム層(A)は、所定の組成を有する架橋用フッ素ゴム組成物から作製される層である。従って、フッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)との間の接着は、フルオロポリマー層(B)がCTFE/TFE/PAVEコポリマーから作製される場合であっても、架橋時に強力なものとなる。
【0129】
PAVEの例として、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)が挙げられる。これらの中でも、PAVEは、好ましくはPMVE、PEVE、およびPPVEからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0130】
好ましくは、PAVE単位の量は、全モノマー単位の0.5mol%以上5mol%以下である。
【0131】
CTFE単位などの構成単位は、19F-NMR分析によって定量されうる。
【0132】
好ましくは、TFEコポリマーは、テトラフルオロエチレン(TFE)単位、ならびにパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、フッ化ビニリデン(VdF)、および一般式:CX=CX10Y(式中、X、X、およびX10は、独立してFまたはHであり、Yは、-Clまたは-Rf-Brであり、Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である)で表されるモノマーからなる群から選択される少なくとも1種のモノマーに由来する単位を含む。
【0133】
好ましくは、PAVEは、CF=CF-ORf(ここで、Rfは、C~Cパーフルオロアルキル基を表す)で表されるモノマーである。PAVEの例として、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)、およびパーフルオロ(ブチルビニルエーテル)が挙げられる。これらの中でも、PAVEは、好ましくはPMVE、PEVE、およびPPVEからなる群から選択される少なくとも1つである。
【0134】
Rfは、単結合またはC~Cパーフルオロアルキレン基である。パーフルオロアルキレン基は、直鎖または分岐状鎖でありうる。
【0135】
一般式:CX=CX10Yで表されるモノマーの例として、CH=CHCFCFBrおよびCF=CHBrが挙げられる。
【0136】
より好ましくは、TFEコポリマーは、TFE単位、一般式:CX=CX10Yのモノマーに由来する単位、ならびにTFEおよび式:CX=CX10Yのモノマーと共重合可能な他のモノマーに由来する他のモノマー単位を含む。
【0137】
他のモノマーは、TFEおよび式:CX=CX10Yのモノマーと共重合可能なモノマーである限り、特に限定されない。他のモノマーの例として、エチレン(Et)、CX=CX(CF(ここで、X、X、およびXは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、水素原子またはフッ素原子を表し、Xは、水素原子、フッ素原子、または塩素原子であり、nは、1~10の整数を表す)で表されるビニルモノマー、およびCF=CF-OCH-Rf(ここで、Rfは、C~Cパーフルオロアルキル基を表す)で表されるアルキルパーフルオロビニルエーテル誘導体が挙げられる。これらの中でも、他のモノマーは、好ましくはヘキサフルオロプロピレン(HFP)である。
【0138】
TFEコポリマーの例として、TFE/VdF/HFP/PPVE/CH=CHCFCFBrコポリマーおよびTFE/VdF/HFP/CF=CHBrコポリマーが挙げられる。
【0139】
TFE単位の量は、好ましくは、全モノマー単位の20mol%以上95mol%以下であり、より好ましくは、全モノマー単位の20mol%以上90mol%以下である。
【0140】
一般式:CX=CX10Yで表されるモノマーの量は、好ましくは、全モノマー単位の5mol%以上80mol%以下であり、より好ましくは、全モノマー単位の5mol%以上60mol%以下である。
【0141】
他のモノマー単位の量は、好ましくは、全モノマー単位の0mol%以上75mol%以下であり、より好ましくは、全モノマー単位の5mol%以上75mol%以下である。
【0142】
構成単位は、19F-NMR分析によって定量されうる。
【0143】
CTFEコポリマーなどのフルオロポリマーは、カルボニル基、水酸基、ヘテロ環基、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの反応性官能基を、ポリマーの主鎖末端および/または側鎖に有しうる。
【0144】
本開示において、「カルボニル基」は、炭素-酸素二重結合で構成される2価の炭素基であり、-C(=O)-で表される基で例示される。カルボニル基などの反応性官能基は、特に限定されず、その例として、炭酸塩基、カルボン酸ハロゲン化物基(ハロゲノホルミル基)、ホルミル基、カルボキシル基、エステル結合(-C(=O)-O-)、酸無水物結合(-C(=O)-O-C(=O)-)、イソシアナート基、アミド基、イミド基(-C(=O)-NH-C(=O)-)、ウレタン結合(-NH-C(=O)-O-)、カルバモイル基(NH-C(=O)-)、カルバモイルオキシ基(NH-C(=O)-O-)、ウレイド基(NH-C(=O)-NH-)、およびオキサモイル基(NH-C(=O)-C(=O)-)などの化学構造の一部としてカルボニル基を含有する基が挙げられる。
【0145】
アミド基、イミド基、ウレタン結合、カルバモイル基、カルバモイルオキシ基、ウレイド基、およびオキサモイル基などの基において、窒素原子に結合する水素原子は、アルキル基などの炭化水素基で置換されうる。
【0146】
容易に導入することができ、かつフルオロポリマーに適切な耐熱性および比較的低い温度で良好な接着性を与えることができるため、反応性官能基の好ましい例として、アミド基、カルバモイル基、水酸基、カルボキシル基、炭酸塩基、カルボン酸ハロゲン化物基、および酸無水物結合が挙げられる。さらに、反応性官能基は、より好ましくは、アミド基、カルバモイル基、水酸基、炭酸塩基、カルボン酸ハロゲン化物基、または酸無水物結合である。
【0147】
特に、WO99/45044A1に開示される、炭酸塩基および/またはカルボン酸ハロゲン化物基を含有するものが特に好ましい。WO99/45044A1の内容は、参照によりその全てが本明細書に組み込まれる。
フルオロポリマーは、主鎖末端もしくは側鎖のいずれかに反応性官能基を有するポリマー、または主鎖末端および側鎖の両方に反応性官能基を有するポリマーでありうる。反応性官能基が主鎖末端にある場合、主鎖の両末端が反応性官能基を有してよく、または一方の末端のみが反応性官能基を有してよい。反応性官能基がエーテル結合を有する場合、反応性官能基は、さらに主鎖に含有されうる。
【0148】
フルオロポリマーは、好ましくは主鎖末端に反応性官能基を有するポリマーである。なぜならそのようなポリマーは、機械特性および耐薬品性を著しく低下させないか、または生産性および費用の面で有利であるからである。
【0149】
反応性官能基の数は、種類、形状、接着の目的、用途、積層されるフッ素ゴム層との間の必要とされる接着性、およびフッ素ゴム層をフルオロポリマー層に接着させる方法に応じて適宜決定されうる。
【0150】
主鎖末端および/または側鎖末端の反応性官能基の数は、好ましくは、主鎖中の炭素原子1×10個当たり3~800である。当該数が3未満であると、フルオロポリマー層とフッ素ゴム層との接着性が低下する可能性がある。下限は、より好ましくは15、さらに好ましくは30、特に好ましくは120である。その上限は、例えば生産性の観点から、好ましくは200である。
【0151】
末端の反応性官能基の数は、以下の手順によって得られる。フルオロポリマーの融点より50℃高い成形温度、および5MPaの成形圧力で粉末形態のフルオロポリマーを圧縮成形して厚さ0.25~0.30mmのフィルムシートとする。赤外線分光光度計を使用し、フィルムシートの赤外線吸収スペクトルを得る。得られた赤外線吸収スペクトルを、既知のフィルムの赤外線吸収スペクトルと比較し、反応性官能基の特徴的な吸収を特定する。末端の反応性官能基の数は、下記式を使用し、それぞれの差分スペクトルに基づいて算出されうる。
末端基の数(炭素原子1×10個当たり)=(I×K)/t
I:吸光度
K:補正係数
t:フィルム厚さ(mm)
【0152】
下記表1は、対象となる末端反応性官能基の補正係数を示す。
【0153】
【表1】
【0154】
上記表1に示される補正係数は、主鎖中の炭素原子1×10個当たりの末端基の数を決定するためのモデル化合物の赤外線吸収スペクトルに基づいて決定される。
【0155】
主鎖末端および/または側鎖に反応性官能基を導入する方法は、反応性官能基を含有するモノマー(β)を共重合して導入する方法、反応性官能基を有するかまたは生じさせる化合物を重合開始剤として利用する方法、反応性官能基を有するかまたは生じさせる化合物を連鎖移動剤として利用する方法、高分子反応によってフルオロポリマーに反応性官能基を導入する方法、およびこれらの方法を組み合わせて使用する方法でありうる。
【0156】
反応性官能基を共重合によって導入する場合における反応性官能基を含有するモノマー(β)は、フルオロポリマーの一部となるモノマーと共重合可能なモノマーであり、かつ反応性官能基を有する限り特に制限されない。特に、下記のモノマーが例示されうる。
【0157】
モノマー(β)の第1の例は、参照によりその内容が全体として本明細書に組み込まれるWO2005/100420A1に開示される脂肪族不飽和カルボン酸である。好ましくは、不飽和カルボン酸は、少なくとも1つの重合性炭素-炭素不飽和結合を分子中に含有し、少なくとも1つのカルボニルオキシ基(-C(=O)-O-)を分子中に含有する。
【0158】
脂肪族不飽和カルボン酸は、脂肪族不飽和モノカルボン酸、または2つ以上のカルボキシル基を有する脂肪族不飽和ポリカルボン酸でありうる。その例として、(メタ)アクリル酸およびクロトン酸などのC~C脂肪族不飽和モノカルボン酸が挙げられる。
【0159】
脂肪族不飽和ポリカルボン酸の例として、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、メサコン酸、アコニット酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、および無水シトラコン酸などのC~C脂肪族不飽和ポリカルボン酸が挙げられる。
【0160】
モノマー(β)の第2の例は、式:
CX =CY-(Rf-Z
で表される不飽和化合物である(式中、Zは反応性官能基を表し、XおよびYは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、それぞれ水素原子またはフッ素原子を表し、RfはC~C40アルキレン基、C~C40フルオロオキシアルキレン基、エーテル結合を有するC~C40フルオロアルキレン基、またはエーテル結合を有するC~C40フルオロオキシアルキレン基を表し、nは0または1を表す)。
【0161】
共重合によって導入される反応性官能基含有モノマー(β)の量は、フルオロポリマー全体を構成するモノマーに対し、好ましくは0.05mol%以上、より好ましくは0.1mol%以上である。当該量が多すぎると、加熱による溶融中にゲル化が起きやすい。従って、当該量の上限は、フルオロポリマー全体を構成するモノマーに対し、好ましくは5mol%、より好ましくは3mol%である。
【0162】
フルオロポリマーは、ポリマーの主鎖末端または側鎖末端にヘテロ環基またはアミノ基を有しうる。
【0163】
ヘテロ環基は、ヘテロ環部分の環中にヘテロ原子(例えば、窒素原子、硫黄原子、酸素原子)を有する基である。環は、飽和環または不飽和環であってよく、かつ単環または縮合環であってよい。特に、ヘテロ環基は、好ましくはオキサゾリル基である。
【0164】
アミノ基は、アンモニウムまたは第一級もしくは第二級アミンから水素を除去することによって得られる一価の官能基である。特に、アミノ基は、式:
-NR
で表される(式中、RおよびRは、互いに同一であってもまたは異なっていてもよく、それぞれ水素原子または一価のC~C20有機基を表す)。アミノ基の具体例として、-NH、-NH(CH)、-N(CH、-NH(CHCH)、-N(C、および-NH(C)が挙げられる。
【0165】
フルオロポリマーは、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、および塊状重合などの、従来公知の重合法によって得ることができる。重合において、温度および圧力などの様々な条件、ならびに重合開始剤および他の添加剤は、フルオロポリマーの組成または量に応じて適宜決定されうる。
【0166】
重合開始剤の例として、ジイソプロピルペルオキシジカーボナート(IPP)およびジ-n-プロピルペルオキシジカーボナート(NPP)などのペルオキシカーボナートに代表される油溶性ラジカル重合開始剤、ならびに過硫酸、過ホウ酸、過塩素酸、過リン酸、および過炭酸の、アンモニウム、カリウム、またはナトリウム塩などの水溶性ラジカル重合開始剤が挙げられる。特に、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボナート(NPP)が好ましい。
【0167】
a.フルオロポリマー層(B)の調製
本開示のフルオロポリマーは、懸濁重合、溶液重合、乳化重合、および塊状重合などの、従来公知の重合法によって得ることができる。重合において、温度および圧力などの様々な条件、ならびに重合開始剤および他の添加剤の量および種類は、フルオロポリマーの組成および量に応じて適宜決定されうる。
【0168】
b.フルオロポリマー層(B)の特性
CTFEコポリマーなどのフルオロポリマーの融点は、特に限定されず、好ましくは160℃~270℃である。フルオロポリマーの融点は、示差走査熱量計(DSC)装置(例えば、セイコーインスツル株式会社製)を使用し、10℃/分の温度上昇で測定される融解熱曲線における最大値に対応する温度として得られる。メルトフローレート(MFR)は、様々な温度において、直径2mm、長さ8mmのノズルから、5kgの荷重下で単位時間(10分間)当たりに出るポリマーの重量(g)を、メルトインデクサ(例えば、株式会社東洋精機製作所製)を用いて測定することによって得られる。
【0169】
CTFEコポリマーなどのフルオロポリマーの分子量は、好ましくは、得られる成形品が良好な機械特性および低燃料透過性を有することができるような範囲内である。例えば、分子量の指標としてMFRが設定される場合、MFRは、フルオロポリマーを形成する一般的な温度範囲である約230℃~350℃の範囲内の任意選択の温度で、0.5~100g/10分であることが好ましい。
【0170】
本開示のフルオロポリマー層(B)は、上記のフルオロポリマーの1つ、またはこれらのフルオロポリマーの2つ以上を含有しうる。
【0171】
本開示の積層体が燃料分野の材料として使用される場合、積層体中のフルオロポリマー層(B)の燃料透過係数は、好ましくは10gmm/m/日以下、より好ましくは1.0gmm/m/日以下、さらに好ましくは0.5gmm/m/日以下である。燃料透過係数は、以下の手順で得られる。測定される樹脂から作製された厚さ1mm、面積1mのシートを、イソオクタン:トルエン:エタノール=45:45:10(体積比)混合溶媒を含有する燃料透過係数測定用カップに置く。その後、60℃で1日間、質量変化を測定する。測定値に基づき、燃料透過係数を計算する。
【0172】
フルオロポリマーがパーハロポリマーである場合、フルオロポリマーは、特に優れた耐薬品性および低燃料透過性を有する。パーハロポリマーは、ポリマーの主鎖を構成する全ての炭素原子にハロゲン原子が結合するポリマーである。
【0173】
個々の用途の目的および需要に応じ、フルオロポリマー層(B)は、性能を損なわない限り、無機粉末、ガラス繊維、炭素粉末、炭素繊維、および金属酸化物などの様々な充填剤をさらに含有しうる。
【0174】
例えば、燃料透過性をさらに低下させるため、フルオロポリマー層(B)は、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ノントロナイト、ヘクトライト、ソーコナイト、およびステベンサイトなどのスメクタイト層状粘土鉱物、ならびに/またはマイカなどの高いアスペクト比を有する微細層状鉱物を含有しうる。
【0175】
フルオロポリマー層(B)に導電性を付与するため、導電性充填剤が添加されうる。導電性充填剤は、特に限定されず、例として、粉末状または繊維状の金属または炭素などの導電性の単体、酸化亜鉛などの導電性化合物の粉末、および表面処理によって電気伝導性が与えられた粉末が挙げられる。導電性充填剤が添加される場合、予めフルオロポリマー組成物を融解、配合してペレットに形成することが好ましい。
【0176】
粉末状または繊維状の導電性の単体は、特に限定されず、例として、銅およびニッケルの金属粉末、鉄およびステンレス鋼の金属繊維、ならびにカーボンブラック、カーボン繊維、およびカーボンフィブリルが挙げられる。
【0177】
表面処理によって電気伝導性が与えられた粉末は、ガラスビーズおよび酸化チタンなどの非導電性粉末の表面に導電性を付与する処理を行うことによって得られる粉末である。表面に導電性を付与する方法は、特に限定されず、金属スパッタリング、無電解堆積などでありうる。
【0178】
導電性充填剤の中でも、経済性および帯電防止の面で有利であるため、カーボンブラックが好適に使用される。
【0179】
導電性充填剤を含有するフルオロポリマー組成物の体積抵抗率は、好ましくは1×10~1×10Ωcmである。より好ましくは、下限は、1×10Ωcmであり、上限は、1×10Ωcmである。
【0180】
充填剤に加え、熱安定化剤、補強剤、UV吸収剤、および顔料などの任意選択の添加剤が添加されうる。
【0181】
III.積層
本開示の積層体は、フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)を積層することによって製造される。本開示の積層体において、フッ素ゴム層(A)は、フルオロポリマー層(B)の両面に積層されうる。代替的に、フルオロポリマー層(B)は、フッ素ゴム層(A)の両面に積層されうる。
【0182】
フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)の積層は、個別に形成されたフッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)を圧着などによって積層する方法、フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)を同時に形成することによって両層を積層する方法、およびフルオロポリマー層(B)組成物をフッ素ゴム層(A)に塗布する方法などの任意の方法によって行われうる。
【0183】
個別に形成されたフッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)を圧着などによって積層する方法において、フルオロポリマーおよび架橋用フッ素ゴム組成物の各層の形成に、異なる方法が採用されうる。
【0184】
フッ素ゴム層(A)の形成は、熱圧縮成形、転写成形、押出、射出、カレンダリング、コーティングなどによって、架橋用フッ素ゴム組成物を、シートおよびチューブなどの様々な形状に成型することによって行われうる。
【0185】
フルオロポリマー層(B)は、熱圧縮成形、溶融押出、射出、コーティング(粉末塗装を含む)などによって形成されうる。形成は、射出装置、ブロー成形装置、押出装置、および様々なコーティング装置などの、フルオロポリマー用の一般的な成形装置を使用して行われうる。そのような装置によって、シートおよびチューブなどの様々な形状を有する積層体を製造することができる。これらの方法の中でも、生産性に優れる溶融押出が好ましい。
【0186】
以下にさらに説明されるように、フッ素ゴム層(A)またはフルオロポリマー層(B)の上に別のポリマー層(C)が積層される場合、多層チューブ、多層ホース、および多層タンクなどの多層成形品を製造するために、多層押出、多層ブロー成形、および多層射出などの成形方法が採用されうる。
【0187】
フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)を同時に形成することによって両層を積層する方法の例として、フッ素ゴム層(A)を形成するための架橋用フッ素ゴム組成物およびフルオロポリマー層(B)を形成するためのフルオロポリマーを用い、多層圧縮成形、多層転写成形、多層押出、多層射出、またはダブリングなどの方法によって、形成および積層を同時に行う方法が挙げられる。そのような方法で、未架橋成形体としてのフッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)が積層される。その際、フッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)とを強固に接着させるための処理は必要なく、続く架橋工程において強力な接着が有利に得られる。
【0188】
本開示の積層体は、未架橋フッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)の積層体でありうる。そのような未架橋積層体の架橋により、強力な層間の接着性がもたらされる。
【0189】
すなわち、本開示は、フッ素ゴム層(A1)とフルオロポリマー層(B)とが架橋により互いに接着する架橋積層体にも関し、架橋積層体は、本開示の未架橋積層体を架橋することによって得られる。
【0190】
IV.架橋
架橋用フッ素ゴム組成物を架橋するために、従来公知の方法および条件が採用されうる。架橋は、フッ素ゴム組成物を加熱することによって行うことができる。例示的な方法として、未架橋積層体を長時間にわたって架橋させる方法、および未架橋積層体にまず前処理として比較的短時間の熱処理を施し(架橋は前処理中に開始される)、次いで長時間の架橋処理を施す方法が挙げられる。特に、未架橋積層体にまず前処理として比較的短時間の熱処理を施し、次いで長時間の架橋処理を施す方法が、以下の理由から好ましい。すなわち、前処理でフッ素ゴム層(A)とフルオロポリマー層(B)との間の接着が容易に達成される。さらに、フッ素ゴム層(A)の架橋が前処理中に開始し、その形状が安定化されるため、続く架橋処理の間、様々な手法で積層体を保持しうる。
【0191】
架橋処理条件は、特に限定されず、通常の条件が採用されうる。
【0192】
好ましくは、架橋は、水蒸気、加圧、炉、空気浴槽、赤外線、電磁波、鉛シース架橋などを使用し、130℃~260℃で、5分間~80時間行われる。より好ましくは、架橋は、150℃~230℃で、8分間~10時間行われる。さらに好ましくは、架橋は、160℃~230℃で、8分間~10時間行われる。架橋を目的として前処理および前処理後の架橋処理が行われる場合、架橋温度は、前処理および前処理後の架橋処理に関するものである。架橋を目的として前処理および前処理後の架橋処理が行われる場合、架橋時間は、前処理および前処理後の架橋処理の合計時間である。
【0193】
架橋用フッ素ゴム組成物の最適な架橋時間(90%の架橋を達成するのにかかる時間であるT90)は、好ましくは18分以下である。最適な架橋時間(T90)は、より好ましくは15分以下、さらに好ましくは13分以下、特に好ましくは11分以下である。T90の下限は、特に限定されず、例えば1分以上でありうる。前述の組成を有する架橋用フッ素ゴム組成物は、架橋時間を短縮し、かつ生産性を向上させることができる。T90は、式{(M)-(M)}×0.9+Mを用い、160℃における最大トルク値(M)および最小トルク値(M)を測定することによって得られる値である。ここで、MおよびMは、JIS K6300-2に準じて測定される。
【0194】
また、前処理における加熱条件は、特に限定されない。好ましくは、前処理は、水蒸気、加圧、炉、空気浴槽、赤外線、電磁波、鉛シース架橋などを使用し、100℃~170℃で、30秒~1時間行われる。比較的低い温度で前処理を行うことにより、適切な架橋度を得ることができ、層剥離を防ぎつつ、前処理後の曲げなどの加工が容易になる。
【0195】
前処理後の架橋処理における加熱条件も特に限定されない。好ましくは、前処理後の架橋処理は、水蒸気、加圧、炉、空気浴槽、赤外線、電磁波、鉛シース架橋などを使用し、170℃超260℃以下で、30秒~80時間行われる。比較的高い温度で架橋処理を行うことにより、十分な架橋度を得ることができ、積層体の十分な機械的強度を得ることができる。
【0196】
得られる架橋積層体において、架橋フッ素ゴム層(A1)およびフルオロポリマー層(B)は、架橋によって互いに接着され、それらの層間の接着は強い。
【0197】
本開示の積層体(未架橋積層体および架橋積層体の両方)は、フッ素ゴム層(AまたはA1、以降フッ素ゴム層(A)と表される)およびフルオロポリマー層(B)を有する2層構造、または(A)-(B)-(A)または(B)-(A)-(B)の層を有する3層構造をそれぞれ有しうる。さらに、本開示の積層体は、フッ素ゴム層(A)およびフルオロポリマー層(B)以外のポリマー層(C)が他の層に接着する3層以上の層を有する多層構造を有しうる。
【0198】
ポリマー層(C)は、フッ素ゴム層(A)以外のゴム層(C1)、フルオロポリマー層(B)以外の樹脂層(C2)、または繊維補強層でありうる。また、フッ素ゴム層(A)および/またはフルオロポリマー層(B)は、ポリマー層(C)を間に置いてさらに積層されうる。
【0199】
ゴム層(C1)は、フルオロポリマー層(B)に直接接着されるフッ素ゴム層(A)に使用されるフッ素ゴム以外のゴムから作製され、ゴムは、フッ素ゴムまたは非フッ素ゴムでありうる。具体的には、先に記載された未架橋ゴムの例が使用されうる。非フッ素ゴムの例として、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)およびその水素化物(HNBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NB)、イソプレンゴム(IR)、およびエチレン-プロピレン-ジエン-モノマー(EPDM)ゴムなどのジエンゴム、エチレン-プロピレン-ターモノマーコポリマーゴム、シリコーンゴム、ブチルゴム、エピクロロヒドリンゴム、ならびにアクリルゴムが挙げられる。
【0200】
ここで、架橋剤または他の配合剤も、ゴム層(C1)を形成するための未架橋ゴム組成物に添加されうる。
【0201】
樹脂層(C2)は、優れた機械的強度を有する樹脂、または燃料および気体に対し低い透過性を有する樹脂から作製される。優れた機械的強度を有する樹脂の例として、フルオロポリマー(フルオロポリマー層(B)のフルオロポリマー以外)、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアラミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボナート樹脂、アクリル樹脂、スチレン樹脂、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS)、セルロース樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK)、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂(PES)、およびポリエーテルイミド樹脂が挙げられる。燃料および気体に対し低い透過性を有する樹脂の例として、エチレン/ビニル/アルコールコポリマーを含有する樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリブチレンナフタラート樹脂、ポリブチレンテレフタラート樹脂、およびポリフタルアミド(PPA)が挙げられる。これらの中でも、形成性および接着性が良好なポリアミド樹脂が好ましい。積層体に架橋処理を施す場合、樹脂の融点は、熱処理の温度よりも高いことが好ましい。
【0202】
次に、本開示の積層体の層構造を説明する。
【0203】
(1)フッ素ゴム層(A)-フルオロポリマー層(B)の2層構造
この構造は基本的な構造であり、(A)-(B)または(B)-(A)の層パターンを有しうる。前述のとおり、従来、そのような構造における層間の接着(フルオロポリマー層-フッ素ゴム層)は不十分であった。そのため、従来は、フルオロポリマー側への表面処理、層間への接着剤のさらなる塗布、およびテープ形態のフィルムを巻き付けることによる固定などの追加の工程が用いられており、手順が煩雑となっていた。しかし、本開示によると、架橋による接着によって強い接着性がもたらされる。
【0204】
例えば、積層体ホースとして、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下である。
【0205】
(2)最内層がフッ素ゴム層(A)である3層構造
この構造は、(A)-(A)-(B)、(A)-(B)-(A)、(A)-(B)-(B)、(A)-(B)-(C1)、または(A)-(B)-(C2)の層パターンを有しうる。密着性が必要とされる場合、密着性を維持するため、例えば燃料パイプなどの接合部において、ゴム層がフルオロポリマー層(B)の両側に配置されることが好ましい。外層および内層のゴム層は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0206】
フッ素ゴム層(A)がフッ素ゴム層であり、ゴム層(C1)が非フッ素ゴム層であり、かつフッ素ゴム層(A)がパイプの内層である(A)-(B)-(C1)構造を採用することで、燃料パイプに改善された耐薬品性および低燃料透過性を与えることができる。この場合の積層体ホースとして、例えば、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下であり、ゴム層(C1)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上3mm以下であり、樹脂層(C2)の厚さは、好ましくは0.01mm以上3mm以下、より好ましくは0.05mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上1mm以下である。
【0207】
(3)最内層がフルオロポリマー層(B)である3層構造
この構造は、(B)-(A)-(A)、(B)-(A)-(B)、(B)-(A)-(C1)、(B)-(A)-(C2)、または(B)-(B)-(A)の層パターンを有しうる。外層および内層の樹脂層は、互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0208】
フッ素ゴム層(A)の両側に配置される樹脂層は、形状を安定化させる。また、このような構造は、耐薬品性が重要である場合に好ましい。さらに、各側面で異なる機械特性が必要とされる場合、(B)-(A)-(C2)の層構造をとりうる。この場合の積層体ホースとして、例えば、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下であり、ゴム層(C1)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上3mm以下であり、樹脂層(C2)の厚さは、好ましくは0.01mm以上3mm以下、より好ましくは0.05mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上1mm以下である。
【0209】
(4)最内層がゴム層(C1)である3層構造
この構造は、(C1)-(A)-(B)、または(C1)-(B)-(A)の層パターンを有しうる。
この場合の積層体ホースとして、例えば、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下であり、ゴム層(C1)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上3mm以下である。
【0210】
(5)最内層が樹脂層(C2)である3層構造
この構造は、(C2)-(A)-(B)、または(C2)-(B)-(A)の層パターンを有しうる。
【0211】
この場合の積層体ホースとして、例えば、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下であり、樹脂層(C2)の厚さは、好ましくは0.01mm以上3mm以下、より好ましくは0.05mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上1mm以下である。
【0212】
(6)4層以上の構造
個々の用途の目的および需要に応じ、上記(2)~(5)の3層構造の上に、任意選択のゴム層(A)もしくは(C1)、または任意選択の樹脂層(B)もしくは(C2)が積層されうる。さらに、金属箔の層などが積層されてよく、フッ素ゴム層(A)-フルオロポリマー層(B)部以外の層間に接着層が置かれてよい。積層体ホースとして、例えば、フッ素ゴム層(A)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.3mm以上3mm以下であり、フルオロポリマー層(B)の厚さは、好ましくは0.01mm以上1mm以下、より好ましくは0.05mm以上0.5mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上0.35mm以下であり、ゴム層(C1)の厚さは、好ましくは0.2mm以上6mm以下、より好ましくは0.3mm以上4mm以下、さらに好ましくは0.4mm以上3mm以下であり、樹脂層(C2)の厚さは、好ましくは0.01mm以上3mm以下、より好ましくは0.05mm以上2mm以下、さらに好ましくは0.07mm以上1mm以下である。
【0213】
さらに、ポリマー層(C)をさらに積層し、積層体にライニングを施しうる。
【0214】
個々の用途において、各層の厚さ、形状などは、目的および使用パターンに応じて適宜決定されうる。
【0215】
本開示の積層体、特に架橋積層体は、十分に低い燃料透過性を有し、優れた耐熱性、耐油性、耐燃料性、ロング・ライフ・クーラント(LLC)耐性、および水蒸気耐性を有する。また、そのような積層体は、過酷な条件下での用途に耐えることができ、様々な用途に適用可能である。
【0216】
例えば、本開示の積層体は、耐熱性、耐油性、耐燃料性、LLC耐性、および水蒸気耐性を有することが求められる、シール、ベロー、ダイヤフラム、ホース、チューブ、およびガスケットの電気ケーブル、ならびに非接触および接触型パッキン(セルフ・シール・パッキン、ピストン・リング、スプリット・リング・パッキン、メカニカル・シール、オイル・シールなど)に好適に使用される。これらは、自動車のエンジン本体、主エンジン駆動システム、動弁システム、潤滑/冷却システム、燃料システム、および吸気/排気システム、駆動装置システムの変速システム、シャーシのステアリングシステム、ブレーキシステム、ならびに標準電気部品、制御用電気部品、および付属電気部品に使用される。
【0217】
具体的には、本開示の積層体は、以下の用途に使用できる。
【0218】
基本的なエンジンにおける、シリンダ・ヘッド・ガスケット、シリンダ・ヘッド・カバー・ガスケット、オイル・パン・パッキン、およびガスケット全般などのガスケット、Oリング、パッキン、およびタイミングベルト・カバー・ガスケットなどのシール、制御ホースなどのホース、エンジン・マウント・ゴムクッション、ならびに水素貯蔵システムにおける高圧弁用シール材。
【0219】
メイン駆動システムにおける、クランク・シャフト・シールおよびカム・シャフト・シールなどのシャフト・シール。
【0220】
弁機構システムにおける、エンジン・バルブのバルブ・ステム・シール。
【0221】
潤滑/冷却システムにおける、エンジン・オイル冷却器のエンジン・オイル冷却ホース、オイル・リターン・ホース、およびシール・ガスケット、ラジエータ周りの水系ホース、ならびに真空ポンプの真空ポンプ油系ホース。
【0222】
燃料システムにおける、燃料ポンプのオイル・シール、ダイヤフラムおよび弁、フィラー(ネック)ホース、燃料供給ホース、燃料リターン・ホース、および蒸気(エバポレータ)ホースなどの燃料ホース、燃料タンクに取り付けられるインタンク・ホース、フィラー・シール、タンク・パッキン、およびインタンク燃料ポンプ、燃料ラインチューブのチューブおよびコネクタ・Oリング、燃料インジェクタのインジェクタ・クッション・リング、インジェクタ・シール・リング、インジェクタ・Oリング、調圧器ダイヤフラム、およびチェック弁、気化器のニードル弁、加速ポンプ・ピストン、フランジ・ガスケット、および制御ホース、ならびに複合空気制御(combined air control)(CAC)のバルブ・シートおよびダイヤフラム。
【0223】
吸気/排気システムにおける、マニホルドの吸気マニホルド・パッキンおよび排気マニホルド・パッキン、EGR(排気ガス再循環)のダイヤフラム、制御ホース、および排気制御ホース、BPT(背圧変換器)のダイヤフラム、AB(アフターバーン防止)バルブのABバルブ・シート、スロットルのスロットル・ボディ・パッキン、ならびにターボチャージャのターボ・オイル・ホース(供給)、ターボ・オイル・ホース(リターン)、ターボ・エア・ホース、インタクーラ・ホース、およびタービン・シャフト・シール。
【0224】
変速システムにおける、変速システムに関するベアリング・シール、オイル・シール、Oリング、パッキン、およびトルコン・ホース、ならびにAT(自動変速装置)のミッション・オイル・ホース、自動変速流体(ATF)ホース、Oリング、およびパッキン。
【0225】
ステアリングシステムにおける、パワーステアリング・オイル・ホース。
【0226】
ブレーキシステムにおける、マスタ・バックのブリーザ弁、真空弁、およびダイヤフラム、マスタ・シリンダのピストン・カップ(ラバー・カップ)、オイル・シール、Oリング、パッキン、ブレーキ液ホース、キャリパシール、ならびにブーツ。
【0227】
基本的な電気部品の、電気ケーブル(ハーネス)の絶縁体およびシース、ならびにハーネス外装部のチューブ。
【0228】
制御電気部品における、様々なセンサケーブルの被覆材料。
【0229】
装備電気部品としての、Oリング、パッキン、カーエアコンのクーラ・ホース、および外装装備のワイパ・ブレード。
【0230】
自動車用途以外の好適な用途として、船舶および航空機などの輸送システムにおいて耐油性、耐薬品性、耐熱性、水蒸気耐性、または耐候性を達成するためのパッキン、Oリング、ホース、その他のシール材、ダイヤフラム、バルブ、化学プラントにおける同様のパッキン、Oリング、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ホース、ロール、チューブ、耐薬品性コーティング、およびライニング、食品工場設備および食品機械(家庭用品を含む)における同様のパッキン、Oリング、ホース、シール材、ベルト、ダイヤフラム、バルブ、ロール、およびチューブ、原子力プラント設備における同様のパッキン、Oリング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、およびチューブ、ならびにPPC複写機、一般的な工業製品における同様のパッキン、Oリング、ホース、シール材、ダイヤフラム、バルブ、ロール、チューブ、ライニング、マンドレル、電気ケーブル、フレキシブル・ジョイント、ベルト、ゴム板、ウェザー・ストリップ、およびロール・ブレードが挙げられる。例えば、PTFEダイヤフラムのバック・アップ・ゴム材は、滑りが悪いため、使用中の摩耗または破れが問題であった。しかし、本開示の積層体は、そのような問題を解決することができ、好適に使用される。
【0231】
従来のゴムシール材は、食品用のゴムシール材として使用される場合、芳香性を有することが問題であり、また、ゴムチップが食品に混入する可能性がある。しかし、本開示の積層体は、そのような問題を解決することができ、好適に使用される。医療および化学用途のゴムシール材に関し、溶媒を用いる配管のシール材として使用される場合、ゴム材の膨潤が問題となりうる。しかし、ゴムが樹脂でコーティングされた本開示の積層体を用いることで、そのような問題を解決することができる。一般的な産業分野において、本開示の積層体は、ゴム材の強度、滑り、耐薬品性、および透過性を向上させる目的で、ゴムロール、Oリング、パッキン、シール材などに好適に使用される。
特に、本開示の積層体は、耐薬品性およびシール性を同時に保持できるため、リチウムイオン電池のパッキンに好適に使用される。また、本開示の積層体は、低摩擦による滑り性を必要とする用途に好適に使用される。
【0232】
本開示の積層体から作製される燃料パイプは、一般的な方法によって製造されてよく、方法は特に限定されない。本開示の燃料パイプは、コルゲートチューブを含む。これらの中でも、耐熱性および低燃料透過性の面で、上記の積層体から作製される燃料パイプが好ましい。
【実施例
【0233】
以下、実施例および比較例を参照して本開示を説明するが、本開示は与えられる実施例のみに限定されない。
【0234】
実施例および比較例の両方において使用されたCTFE/TFE/PAVEコポリマーは、PAVEモノマー単位としてPPVE(パーフルオロ(プロピルビニルエーテル))を有し、その組成はCTFE/TFE/PPVE=21.3/76.3/2.4(mol%)、融点は248℃、メルトフローレート(MFR)は29.2g/10分、かつ燃料透過係数は0.4gmm/m/日であった。
【0235】
1.架橋用フッ素ゴム組成物
8インチのオープン・ロール・ミキサを使用し、表2~表5に示される割合で材料を配合し、比較例1~3および実施例1~13のための、約2mmの厚さを有するシート形状の架橋用フッ素ゴム組成物を得た。表2~表5中の数値は、それぞれ「質量部」単位で表され、表中の「phr」は、「ゴム100当たりの部」を意味する。
【0236】
最適な架橋時間(90%の架橋を達成するのにかかる時間であるT90)は、移動ダイレオメーター(「MDR」)(MDR2000、Alpha Technologies製)を使用し、各架橋用フッ素ゴム組成物について、170℃または150℃における最大トルク値(M)および最小トルク値(M)を測定することによって決定された。T10は、10%の架橋を達成するのにかかる時間を指す。表2~表5は、測定値を示す。MおよびMは、JIS K6300-2に準じて測定される。
【0237】
表2~表4に示される架橋用フッ素ゴム組成物のシート(厚さ約2mm)、および厚さ120μmのCTFE/TFE/PPVEコポリマーシートを、幅約10~15mmのフルオロポリマーフィルム(厚さ10μm、ダイキン工業株式会社の製品、商品名:ポリフロン(商標)PTFE M731スカイブフィルム)をそれらの一端に挟み、積み重ねた。表5に示される実施例13において、CTFE/TFE/PPVEコポリマーシートの代わりに、厚さ200μmのTFE/HFP/VDF/PPVEコポリマー(3MCompanyの製品、商品名:THV815)シートを使用した。金属スペーサを含有するダイに積層物を挿入し、厚さ2mmのシートを作製し、170℃で30分間加圧してシート形状の積層体を得た。一方、表4に示される実施例12においては、加圧条件を150℃45分間に変更した。得られた積層体を、コポリマーシートが剥がされる部分である掴みしろをそれぞれ有する3組の短冊状試験片(幅10mm×長さ40mm)に切断した。引張試験機(株式会社島津製作所製、AGS-J 5kN)を使用し、JIS-K-6256(架橋ゴムの接着性試験)に開示される方法に準じて引張速度50mm/分、25℃で剥離試験を行うことで試験片の接着強度を測定した。得られたデータ(N=3)の平均値を算出し、接着強度として特定した。さらに、脱離を観察し、以下の基準に基づいて評価した。結果も表2~表5に示される。
【0238】
II.接着性評価
「良好」は、フッ素ゴムシートとコポリマーシートとの間に5N/cm以上の接着強度が得られたことを意味する。
【0239】
「不良」は、フッ素ゴムシートとコポリマーシートとの間に5N/cm未満の接着強度が得られたことを意味する。
【0240】
III.導電性の測定
実施例9について、架橋および成形を通して15cm×15cm×2mmの大きさを有するフッ素ゴムシートを準備した。アナログ絶縁抵抗計24060(横河電機株式会社製)を使用し、プローブ末端をフッ素ゴムシートの両端に接触させ、500Vの電圧を印加した際の絶縁抵抗値を測定した。その結果、実施例9のフッ素ゴムシートの導電性は0.7MΩと測定された。
【0241】
【表2】
【0242】
【表3-1】
【0243】
【表3-2】
【0244】
【表4】
【0245】
【表5】
【0246】
上記表2~表5中、「材料」の列に見られる略語は、以下のとおりである。
【0247】
フッ素ゴム(A)は、ムーニー粘度(ML1+10、100℃)が50のペルオキシド架橋可能な三元フッ素ゴム(VdF/HFP/TFE=50/30/20(mol%))である。
【0248】
MTカーボンは、非晶質カーボンブラック(CASNo.1333-86-4)である。
【0249】
デンカブラックは、高い導電性を示すカーボンブラック(CASNo.1333-86-4)である。
【0250】
TAIC(商標)は、以下の化学式(CASNo.1025-15-6)を有する。
【0251】
【化2】
【0252】
パーヘキサ(登録商標)25Bは、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン(CASNo.78-63-7)を指し、以下に示される。
【0253】
【化3】
【0254】
V3は、N,N’-ジシンナミリデン-1,6-ヘキサンジアミン(CASNo.140-73-8)を指し、以下に示される。この分子中、2つの窒素原子間の距離は、8.80Åである。
【0255】
【化4】
【0256】
ジフェニル亜ホスフィン酸クロリド(CASNo.1079-66-9)は、クロロジフェニルホスフィンとしても知られ、以下の化学式を有する。
【0257】
【化5】
【0258】
TF9205およびL5Fは、いずれも低分子量ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)(CASNo.9002-84-0)の粉末を指し、このうちTF9205は、高温で焼成された低分子量PTFE粉末である。
【0259】
最後に、比較例1~3および実施例1~13で使用されたシリカの、フッ素ゴム配合物に混合される前に測定された平均粒子径、平均真円度、および「(粒子径)×(真円度)」の積の平均値を下記表6にまとめる。さらに、比較例2(PM-20)、比較例3(HG-09)、実施例1(SIDISTAR(登録商標)R300)、実施例10(SO-C6)、および実施例11(FEF75H)について得られたシリカの、フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後に測定された見かけの平均粒子径、見かけの平均真円度、および「(粒子径)×(真円度)」の積の見かけの平均値を下記表7にまとめる。表のデータを得る際、走査電子顕微鏡SU8020(株式会社日立ハイテク社製)を使用し、SEM写真を撮影した。フッ素ゴム配合物に混合される前に撮影されたシリカのSEM写真が図1図5に示され、SEM写真および(SIDISTAR(登録商標)R300を含有し、フッ素ゴム配合物に組み込まれ、次いで架橋した後の)実施例1に対して行われた元素マッピング分析の画像が図6図8に示される。画像の加工および分析は、汎用画像分析ソフトウェアWinROOF(三谷商事株式会社の製品)を使用して行われた。図6および図7のSEM-EDX(エネルギー分散X線)測定に関し、電子ビーム加速電圧は5kVであり、作動距離(すなわち、対物レンズと試料表面の間の距離)は12.6mmであった。
【0260】
【表6】
【0261】
【表7】
【0262】
上記表6に示されるもの以外の、SIDISTAR(登録商標)R300とSIDISTAR(登録商標)T120Uとの間の別の特性の違いは、SIDISTAR(登録商標)T120Uは、SIDISTAR(登録商標)R300よりも凝集時間が短く、かつSIDISTAR(登録商標)R300よりもかさ密度が低いため、SIDISTAR(登録商標)T120Uは、SIDISTAR(登録商標)R300よりも容易に分散することである。従って、例えば、SIDISTAR(登録商標)R300は、ゴムとの使用が推奨され、SIDISTAR(登録商標)T120Uは、プラスティックとの使用が推奨される。
【0263】
以上、本開示の例示的実施形態を示し、かつ詳細に説明したが、それらの様々な変更および改良が当業者に容易に明らかとなるであろう。
【0264】
本開示の範囲を逸脱することなく、記載される構成要素または例示的実施形態の1つまたは複数を再構成、分離、または組み合わせることができることが理解されるであろう。説明を容易にするために、様々な構成要素を分離して示すことがある。これは、便宜上にすぎず、限定となることを意図するものではない。
【0265】
さらに、本開示の範囲を逸脱することなく、記載される1つまたは複数の工程を再構成、分離、または組み合わせることができることが理解されるであろう。説明を容易にするために、工程を連続的に示すことがある。これは、便宜上にすぎず、限定となることを意図するものではない。
【0266】
本開示の様々な構成要素、工程、および例示的実施形態を上記に概説したが、多くの代替、変更、および変形が当業者に明らかであろうことは明白である。上記の本開示の様々な構成要素、工程、および例示的実施形態は、限定ではなく、例示することを意図するものである。本開示の趣旨および範囲を逸脱することなく、様々な変更を行うことができる。従って、本開示の趣旨および範囲は、広く解釈されるべきであり、前述の記載によって限定されない。
【0267】
本開示の説明に用いられるいかなる構成要素、行為、または指示も、明示的にそのように記載しない限り、重要または必須であると解釈されるべきではない。また、本明細書で用いられる冠詞「a」は、1つまたは複数の要素を含むよう意図される。1つのみの要素が意図される場合、「1つ」、「単独」という用語、または同様の語が使用される。
【産業上の利用可能性】
【0268】
本開示は、数ある中でも、積層体、特に、耐熱性、耐油性、耐燃料性、ロング・ライフ・クーラント(LLC)耐性、および水蒸気耐性を有することが求められる、シール、ベロー、ダイヤフラム、ホース、チューブ、およびガスケットの電気ケーブル、ならびに非接触および接触型パッキン(セルフ・シール・パッキン、ピストン・リング、スプリット・リング・パッキン、メカニカル・シール、オイル・シールなど)に好適に使用される架橋積層体を提供するという点において産業上の利用可能性を有する。これらは、自動車のエンジン本体、主エンジン駆動システム、動弁システム、潤滑/冷却システム、燃料システム、および吸気/排気システム、駆動装置システムの変速システム、シャーシのステアリングシステム、ブレーキシステム、ならびに標準電気部品、制御用電気部品、および付属電気部品に使用される。
図1
図2
図3
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図5
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図8