(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】両眼視機能測定方法、両眼視機能測定プログラム、眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法および両眼視機能測定システム
(51)【国際特許分類】
A61B 3/08 20060101AFI20221215BHJP
G02C 7/02 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
A61B3/08 ZDM
G02C7/02
(21)【出願番号】P 2021550420
(86)(22)【出願日】2020-08-24
(86)【国際出願番号】 JP2020031783
(87)【国際公開番号】W WO2021065247
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】P 2019180309
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 歩
(72)【発明者】
【氏名】曽根原 寿明
(72)【発明者】
【氏名】石原 渚
(72)【発明者】
【氏名】山口 英一郎
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-095693(JP,A)
【文献】特開2008-086657(JP,A)
【文献】特表2015-524943(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の右眼で視認させる右眼用画像と、前記被測定者の左眼で視認させる左眼用画像とを、単一の可搬型表示画面上で前記被測定者に対して呈示する視標呈示ステップと、
前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させる呈示制御ステップと、
前記呈示位置を変化させた際に前記被測定者が前記右眼用画像と前記左眼用画像とを融像できなくなるタイミングを前記被測定者による入力装置での操作内容に基づいて検知するタイミング検知ステップと、
前記タイミングを検知したときの前記右眼用画像と前記左眼用画像との相対位置関係に基づいて前記被測定者の両眼視機能についての所定パラメータ値を算出するパラメータ値算出ステップと、
を備える両眼視機能測定方法。
【請求項2】
前記可搬型表示画面として携帯情報端末が有する表示画面を用いて、前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示を行う
請求項1に記載の両眼視機能測定方法。
【請求項3】
前記所定パラメータ値は、前記被測定者の輻湊範囲を特定する値である
請求項1または2に記載の両眼視機能測定方法。
【請求項4】
前記右眼用画像および前記左眼用画像の相対位置変化の速度を変えて、前記所定パラメータ値を複数取得することによって、呈示画像の位置変化に対する前記被測定者の眼の追従能力の程度を判定する追従能力判定ステップ
を備える請求項1~3のいずれか1項に記載の両眼視機能測定方法。
【請求項5】
前記右眼用画像および前記左眼用画像は、同一の形状および大きさを有する図形によって構成されている
請求項1~4のいずれか1項に記載の両眼視機能測定方法。
【請求項6】
前記右眼用画像および前記左眼用画像に対する前記被測定者の視距離を設定する視距離設定ステップ
を備える請求項1~5のいずれか1項に記載の両眼視機能測定方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の両眼視機能測定方法をコンピュータに実行させるための両眼視機能測定プログラム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか1項に記載の両眼視機能測定方法を使用して
、前記両眼視機能測定方法を実行させる両眼視機能測定プログラムをインストールされたコンピュータが、被測定者の両眼視機能を測定するステップと、
眼鏡レンズを加工する加工機を制御する加工制御プログラムが、前記両眼視機能の測定結果に基づいて眼鏡レンズの光学設計値を決定するステップと、
を備える眼鏡レンズの設計方法。
【請求項9】
請求項8に記載の眼鏡レンズの設計方法を使用して眼鏡レンズを設計するステップと、
前記眼鏡レンズの設計結果に
基づく前記加工制御プログラムの実行に従って眼鏡レンズを製造するステップと、
を備える眼鏡レンズの製造方法。
【請求項10】
被測定者が操作する入力装置と、
前記被測定者の右眼で視認させる右眼用画像と、前記被測定者の左眼で視認させる左眼用画像とを、単一の可搬型表示画面上で前記被測定者に対して呈示する視標呈示部と、
前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させる呈示制御部と、
前記呈示位置を変化させた際に前記被測定者が前記右眼用画像と前記左眼用画像とを融像できなくなるタイミングを前記被測定者による前記入力装置での操作内容に基づいて検知するタイミング検知部と、
前記タイミングを検知したときの前記右眼用画像と前記左眼用画像との相対位置関係に基づいて前記被測定者の両眼視機能についての所定パラメータ値を算出するパラメータ値算出部と、
を備える両眼視機能測定システム。
【請求項11】
前記視標呈示部は、前記可搬型表示画面として携帯情報端末が有する表示画面を用いて、前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示を行うように構成されている
請求項10に記載の両眼視機能測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両眼視機能測定方法、両眼視機能測定プログラム、眼鏡レンズの設計方法、眼鏡レンズの製造方法および両眼視機能測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡装用者については、両眼視機能検査を行って、例えば、輻湊、開散範囲等を測定することがある。輻湊、開散範囲には個人差があり、これらを測定することは、眼鏡レンズの設計において、近方視における眼の働きを把握する上で非常に重要である。
【0003】
輻湊、開散範囲等に代表される両眼視機能については、例えば、据置型3次元対応ビデオモニタを利用して左右の視差画像を呈示し、それぞれの呈示位置を相対的に移動させ、それぞれを融像できなくなるタイミングを検知することで、両眼視機能の測定を行うことが、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された両眼視機能測定方法では、据置型3次元対応ビデオモニタを利用して両眼視機能の測定を行う。そのため、左右の視差画像に対して被測定者の頭の位置が固定されないことになり、測定中の頭の向きによっては、正中面に対して誤差が生じるおそれがある。また、据置型3次元対応ビデオモニタを実環境上に置くことによって、表示される視差情報以外に外界から奥行きと遠近感を感じる情報(実空間情報)を被測定者が同時に取得してしまうため、通常の調節と連動した形での輻湊・開散になる可能性がある。さらには、据置型3次元対応ビデオモニタを利用することから、必要となるシステム構成が大掛かりなものとなってしまい、両眼視機能の測定を簡便に行えるとは言えない。
【0006】
本発明は、被測定者の両眼視機能を高精度に、かつ、非常に簡便に行える技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたものである。
本発明の第1の態様は、
被測定者の右眼で視認させる右眼用画像と、前記被測定者の左眼で視認させる左眼用画像とを、単一の可搬型表示画面上で前記被測定者に対して呈示する視標呈示ステップと、
前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させる呈示制御ステップと、
前記呈示位置を変化させた際に前記被測定者が前記右眼用画像と前記左眼用画像とを融像できなくなるタイミングを検知するタイミング検知ステップと、
前記タイミングを検知したときの前記右眼用画像と前記左眼用画像との相対位置関係に基づいて前記被測定者の両眼視機能についての所定パラメータ値を算出するパラメータ値算出ステップと、
を備える両眼視機能測定方法である。
【0008】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の両眼視機能測定方法において、
前記可搬型表示画面として携帯情報端末が有する表示画面を用いて、前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示を行う。
【0009】
本発明の第3の態様は、第1または第2の態様に記載の両眼視機能測定方法において、
前記所定パラメータ値は、前記被測定者の輻湊範囲を特定する値である。
【0010】
本発明の第4の態様は、第1~第3のいずれか1態様に記載の両眼視機能測定方法において、
前記右眼用画像および前記左眼用画像の相対位置変化の速度を変えて、前記所定パラメータ値を複数取得することによって、呈示画像の位置変化に対する前記被測定者の眼の追従能力の程度を判定する追従能力判定ステップを備える。
【0011】
本発明の第5の態様は、第1~第4のいずれか1態様に記載の両眼視機能測定方法において、
前記右眼用画像および前記左眼用画像は、同一の形状および大きさを有する図形によって構成されている。
【0012】
本発明の第6の態様は、第1~第5のいずれか1態様に記載の両眼視機能測定方法において、
前記右眼用画像および前記左眼用画像に対する前記被測定者の視距離を設定する視距離設定ステップ
を備える。
【0013】
本発明の第7の態様は、
第1~第6のいずれか1態様に記載の両眼視機能測定方法をコンピュータに実行させるための両眼視機能測定プログラムである。
【0014】
本発明の第8の態様は、
第1~第6のいずれか1態様に記載の両眼視機能測定方法を使用して被測定者の両眼視機能を測定するステップと、
前記両眼視機能の測定結果に基づいて眼鏡レンズの光学設計値を決定するステップと、
を備える眼鏡レンズの設計方法である。
【0015】
本発明の第9の態様は、
第8の態様に記載の眼鏡レンズの設計方法を使用して眼鏡レンズを設計するステップと、
前記眼鏡レンズの設計結果に従って眼鏡レンズを製造するステップと、
を備える眼鏡レンズの製造方法である。
【0016】
本発明の第10の態様は、
被測定者の右眼で視認させる右眼用画像と、前記被測定者の左眼で視認させる左眼用画像とを、単一の可搬型表示画面上で前記被測定者に対して呈示する視標呈示部と、
前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させる呈示制御部と、
前記呈示位置を変化させた際に前記被測定者が前記右眼用画像と前記左眼用画像とを融像できなくなるタイミングを検知するタイミング検知部と、
前記タイミングを検知したときの前記右眼用画像と前記左眼用画像との相対位置関係に基づいて前記被測定者の両眼視機能についての所定パラメータ値を算出するパラメータ値算出部と、
を備える両眼視機能測定システムである。
【0017】
本発明の第11の態様は、第10の態様に記載の両眼視機能測定システムにおいて、
前記視標呈示部は、前記可搬型表示画面として携帯情報端末が有する表示画面を用いて、前記右眼用画像および前記左眼用画像の呈示を行うように構成されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被測定者の両眼視機能を高精度に、かつ、非常に簡便に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態の眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態の両眼視機能測定システムの概略を示す図である。
【
図3】本発明の実施形態の両眼視機能測定システムの構成を示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる輻湊範囲測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
【
図5】本発明の実施形態の輻湊範囲測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【
図6】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる輻湊範囲測定モードで実行される処理の変形例のフローチャートを示す図である。
【
図7】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる左右眼上下開散許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
【
図8】本発明の実施形態の左右眼上下開散許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【
図9】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる第一の不等倍率許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
【
図10】本発明の実施形態の第一の不等倍率許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【
図11】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる第二の不等倍率許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
【
図12】本発明の実施形態の第二の不等倍率許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図の遷移図である。
【
図13】リスティング法則に関する説明を行うための図である。
【
図14】両眼視の場合の左右の眼の視線方向を説明するための図である。
【
図15】本発明の実施形態の両眼視機能測定プログラムによる左右眼回旋視差許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
【
図16】本発明の実施形態の左右眼回旋視差許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【
図17】第一の複合的な測定モードにおける画像の遷移図である。
【
図18】第二の複合的な測定モードにおける画像の遷移図である。
【
図19】第三の複合的な測定モードにおける画像の遷移図である。
【
図20】側方視を考慮した測定モードにおける画像の遷移図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
<本実施形態の概要>
まず、本実施形態の概要を説明する。
【0022】
本実施形態では、可搬型の携帯情報端末を用いて、その携帯情報端末が有する単一の表示画面(以下、「可搬型表示画面」ともいう。)上に視差がある一対の画像を被測定者の左右眼のそれぞれに呈示し、与えた視差を変化させたときに融像(同一視)しているかを判断することで、被測定者の両眼視機能の測定を行う。両眼視機能の測定は、両眼視機能についての所定パラメータ値を算出することによって行う。
【0023】
所定パラメータ値としては、被測定者の輻湊範囲を特定する値が例示される。ここでいう「輻湊範囲」とは、輻湊限界と開散限界との角度の差を意味する。なお、角度の差は、プリズム屈折力で表してもよい。以下の説明では、主として輻湊範囲を測定する場合を例に挙げるが、所定パラメータ値が輻湊範囲の値に限定されることはなく、後述する左右眼上下開散許容値、第一の不等倍率許容値、第二の不等倍率許容値、左右眼回旋視差許容値等のように、他のパラメータ値であってもよい。
【0024】
本実施形態においては、両眼視機能の測定にあたり、携帯情報端末における可搬型表示画面を被測定者の眼前に位置させることで、被測定者に対する視差画像の呈示を行う。したがって、非常に簡便に視差画像の呈示を行うことができる。
しかも、可搬型表示画面を被測定者の眼前に位置させる際に、その可搬型表示画面の周囲に遮蔽すれば、実空間情報を遮断した空間内で被測定者に対する視差画像の呈示を行うことができる。つまり、外界から遮蔽された状態で被測定者の眼前に視差画像が呈示されるので、呈示される視差画像以外に外界から奥行きと遠近感を感じる情報(実空間情報)を被測定者が取得してしまうことがない。
また、可搬型表示画面を被測定者の眼前に位置させた状態を保つことで、被測定者の顔の方向に依存せず正確な位置に視差画像を位置させることができる。
さらには、視差画像に対する視距離(画像とそれを見る者との物理的な距離)についても一定に保たれるようにすれば、被測定者の眼の調節機能(ピント合わせ機能)を一定に保ったまま両眼視機能の測定を行うことができる。
【0025】
したがって、本実施形態によれば、可搬型表示画面を被測定者の眼前に位置させることで、被測定者の体勢や位置を気にすることなく、測定環境を同一にして複数回の測定を行うことが可能である。しかも、携帯情報端末における可搬型表示画面を用いて一対の視差画像のみを呈示することで、奥行き感覚を手掛かりとすることなく、輻湊範囲に関する能力を測定でき、調節性輻湊の影響を少なくすることが可能になる。ここで「調節性輻湊」とは、視距離に応じて発生する調節と同時に起こる輻湊(輻湊開散運動)のことをいう。
【0026】
つまり、本実施形態によれば、被測定者の立体的な知覚を抑制した状態での輻湊範囲を非常に簡便に測定できる。このように、被測定者の輻湊範囲の測定を高精度に、かつ、非常に簡便に行うことができれば、その測定結果を眼鏡レンズの設計パラメータの一つとして用いることで、被測定者に適した眼鏡レンズを提供することが実現可能となる。
例えば、測定結果から運動性融像が弱いことが認められた被測定者については、両眼分離が強い状態で融像しにくく複視を訴えやすいので、運動性融像ができる範囲までプリズムを入れることで補う、といったレンズ設計を行った眼鏡レンズを提供することが実現可能となる。また、例えば、測定結果から運動性融像が強いことが認められた被測定者については、パナムの融像域が広い可能性があるので、融像に影響することなくインセットを減らすことが可能であり、鼻側の最大収差量を減らすことができる、といったレンズ設計を行った眼鏡レンズを提供することが実現可能となる。なお、「運動性融像」とは、単一視を維持するために行われる眼球運動を伴う融像のことをいう。
【0027】
<システム構成例>
続いて、本実施形態の具体的な内容を説明する。
【0028】
(眼鏡レンズ製造システムの構成)
図1は、本実施形態の眼鏡レンズの製造方法を実現するための眼鏡レンズ製造システム1の構成を示すブロック図である。眼鏡レンズ製造システム1は、例えば眼鏡レンズ製造工場に設置されており、
図1に示すように、両眼視機能測定システム10、入力装置20(キーボード、マウス、ゲームパッド等)、PC(Personal Computer)30、ディスプレイ40、加工機50を有している。PC30には、両眼視機能測定システム10を用いて測定された被測定者の両眼視機能の測定データと、入力装置20に入力された眼鏡レンズの仕様データが入力する。仕様データには、例えば眼鏡レンズの光学特性や製品種別が含まれる。眼鏡レンズの光学特性には、例えば頂点屈折力(球面屈折力、乱視屈折力、乱視軸方向、プリズム屈折力、プリズム基底方向)等が想定される。両眼視機能測定システム10および入力装置20は、眼鏡レンズ製造工場から離れた眼鏡店に設置されてもよい。この場合、両眼視機能測定システム10による測定データや入力装置20に入力された仕様データは、コンピュータネットワークを介してPC30に伝送される。
【0029】
PC30は、CPU(Central Processing Unit)32、HDD(Hard Disk Drive)34、RAM(Random Access Memory)36を有している。HDD34には、加工機50を制御するための加工制御プログラムがインストールされている。CPU32は、加工制御プログラムをRAM36にロードして起動する。加工制御プログラムが起動すると、眼鏡レンズの設計および製造を指示するためのGUI(Graphical User Interface)がディスプレイ40の表示画面に表示される。加工制御プログラムは、仕様データおよび測定データに基づいてセミフィニッシュレンズを選定した上で面形状の最適化計算を行い、光学設計値を決定する。
【0030】
オペレータは、選定されたセミフィニッシュレンズを加工機50にセットしてGUIを操作し、加工開始の指示入力を行う。加工制御プログラムは、決定した光学設計値を読み込んで加工機50を駆動制御する。加工機50は、加工制御プログラムの実行に従ってセミフィニッシュレンズの表面を研削して眼鏡レンズを製造する。なお、両眼視機能に関する測定データを用いた眼鏡レンズの具体的設計方法は、例えば本出願人がした国際公開第2010/090144号パンフレット等に例示がある。
【0031】
(両眼視機能測定システムの構成)
図2は、両眼視機能測定システム10の概略を示す図である。
図3は、両眼視機能測定システム10の構成を示すブロック図である。両眼視機能測定システム10を用いた両眼視機能測定方法では、片眼だけに着目した処方では得られない眼鏡レンズの設計データ(又は評価データ)を得るべく、被測定者2の両眼視機能を複数種類測定することができる。
【0032】
両眼視機能測定システム10は、
図2および
図3に示すように、携帯情報端末としてのスマートフォン110を有している。携帯情報端末は、利用者が携帯して持ち運ぶことができる小型の情報電子機器であり、少なくとも情報表示を行う表示画面を有して構成されている。スマートフォン110は、携帯情報端末の一種で、携帯電話機としての機能に加えて、小型のコンピュータ装置としての機能を併せ持つように構成されたものである。なお、ここでは、携帯情報端末がスマートフォン110である場合を例に挙げるが、これに限定されることはなく、例えばタブレット端末やPDA(Personal Digital Assistant)のような他の携帯情報端末を用いるようにしても構わない。
【0033】
スマートフォン110は、一方の面側に、単一のLCD(liquid crystal display)パネルや有機EL(electro luminescence)パネル等によって構成される表示画面(可搬型表示画面)111を有している。表示画面111は、その画面上の領域が、右眼用画像領域111Rと左眼用画像領域111Lとの分割されている。そして、詳細を後述するように、右眼用画像領域111Rにおいて被測定者2の右眼2Rで視認させる右眼用画像を、左眼用画像領域111Lにおいて被測定者2の左眼2Lで視認させる左眼用画像を、それぞれ個別に表示するように構成されている。
【0034】
そして、スマートフォン110は、表示画面111が被測定者2の眼前に位置するように、支持筐体部112aによって支持される。つまり、支持筐体部112aを被測定者2の頭部に装着すると、その支持筐体部112aによって支持されるスマートフォン110の表示画面111が、被測定者2の眼前に位置するようになっている。このように支持されるスマートフォン110は、支持筐体部112aによって形成される閉空間内に表示画面111が配されるので、外界から奥行きと遠近感を感じる情報(実空間情報)を遮断した空間内で被測定者2に対する画像表示を行うことになる。
【0035】
支持筐体部112aによって形成される閉空間内には、表示画面111の右眼用画像領域111Rと左眼用画像領域111Lとの間に位置するように、隔壁112bが設けられていることが好ましい。これにより、表示画面111の右眼用画像領域111Rからの光が被測定者2の左眼2Lに到達してしまったり、左眼用画像領域111Lからの光が被測定者2の右眼2Rに到達してしまったりすることを抑制できるようになる。
【0036】
つまり、スマートフォン110は、被測定者2の頭部に装着された支持筐体部112aによって支持されることで、実空間情報を遮断した空間内で、単一の表示画面111を用いつつ、右眼用画像と左眼用画像とを被測定者2に対して呈示する「視標呈示部」として機能することになる。換言すると、視標呈示部は、被測定者2の眼前に位置するスマートフォン110を用いて構成されている。
【0037】
このようなスマートフォン110を被測定者2の眼前に位置させると、被測定者2の右眼2Rには右眼用画像だけが見え、被測定者2の左眼2Lには左眼用画像だけが見える。これにより、被測定者2は、パナムの融像域圏内であれば網膜上の非対応点に結像していても右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lの視差画像を融像させることができる。
【0038】
スマートフォン110を支持する支持筐体部112aは、例えば、樹脂材料の成型加工によって形成することが考えられるが、これに限定されることはなく、他の材料(例えば、紙材料や金属材料等)によって形成したものであってもよい。隔壁112bについても、同様である。
【0039】
なお、スマートフォン110を支持する支持筐体部112aは、右眼用画像および左眼用画像に対する被測定者2の視距離の設定を可変にする機能を有したものであってもよい。具体的には、視距離を可変にするために、支持筐体部112aは、例えば、複数のスペーサ(枠材)を用意しておき、これらのいずれかを選択的に装着することで、視距離を可変にするように構成されていてもよい。また、左眼2Lと左眼用画像領域111Lの間、右眼2Rと右眼用画像領域111Rの間のいずれかまたは両方に、ある屈折力をもったレンズを設置してもよい。レンズは、1枚でもよいし、複数のレンズを組み合わせて所望の屈折力にしてもよい。
【0040】
また、スマートフォン110は、表示画面111に加えて、CPU113、メモリ114、入力装置115を有しており、小型のコンピュータ装置として機能するように構成されている。入力装置115としては、例えば、表示画面111に重ねて配置されたタッチパネル等が例示できるが、これに加えて近距離無線通信を利用した通信型キーボードを備えていると、オペレータや被測定者2等の操作性を向上させる上で好ましい。
【0041】
メモリ114には、両眼視機能測定を行うための専用アプリケーションである両眼視機能測定プログラムがダウンロード(インストール)されている。CPU113は、両眼視機能測定プログラムをメモリ114から読み出して起動する。両眼視機能測定プログラムが起動すると、CPU113は、呈示制御部113a、タイミング検知部113bおよびパラメータ値算出部113cとして機能することになる。
【0042】
呈示制御部113aは、表示画面111の右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lにおける画像表示動作を制御する。具体的には、呈示制御部113aは、右眼用画像領域111Rに右眼用画像を呈示させ、左眼用画像領域111Lに左眼用画像を呈示させるように、それぞれに対して指示を与えるとともに、右眼用画像および左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させるようにする。呈示位置の相対的変化の具体的な態様については、詳細を後述する。
呈示制御部113aが呈示させる右眼用画像および左眼用画像は、視差画像として機能するものであることから、同一の形状および大きさを有する図形に基づいて構成されているものとする。なお、各画像を構成する図形の具体例については、詳細を後述する。
【0043】
タイミング検知部113bは、右眼用画像および左眼用画像の呈示位置を相対的に変化させた際に、被測定者2が右眼用画像と左眼用画像とを融像できなくなるタイミングを検知する。かかるタイミングの検知は、被測定者2による入力装置115での操作内容に基づいて行えばよい。
【0044】
パラメータ値算出部113cは、タイミング検知部113bが融像できなくなるタイミングを検知すると、そのときの右眼用画像と左眼用画像との相対位置関係に基づいて、被測定者2の両眼視機能についての所定パラメータ値を算出する。所定パラメータ値の具体例については、詳細を後述する。
【0045】
これらの機能に加えて、CPU113は、両眼視機能測定プログラムの起動に応じて、追従能力判定部113dとして機能するものであってもよい。
【0046】
追従能力判定部113dは、呈示画像の位置変化に対する被測定者2の眼の追従能力の程度を判定する。具体的には、被測定者2の両眼視機能の測定を行う際の右眼用画像および左眼用画像の相対的位置の変化速度が異なる複数回の測定を行い、被測定者2の眼の追従能力が予め設定されている複数段階のどの程度に該当するかを判定する。
【0047】
右眼用画像および左眼用画像の相対位置変化が高速であっても、算出された所定のパラメータ値が低速時のそれとほとんど変わらない場合には、被測定者2の眼の追従能力の程度が高いと考えられる。一般には、急激な変化より、低速で変化する視差に対応しやすいと考えられるため、ある低速な変化において取得されたパラメータ値を基準とし、その速度依存性を用いて被測定者2の眼の追従能力の程度を判定することも可能である。
【0048】
以上のように構成されたスマートフォン110には、有線又は無線の通信線を介して、PC130が接続されている。PC130には、ディスプレイ140が接続されている。
【0049】
なお、以上に説明したシステム構成において、スマートフォン110とPC130とが常時通信可能であれば、スマートフォン110において実現される呈示制御部113a、タイミング検知部113b、パラメータ値算出部113c、および、追従能力判定部113dとしての機能、並びに、入力装置115としての機能は、PC130において実現されるものであってもよい。
【0050】
また、以上に説明したシステム構成において、眼鏡レンズ製造システム1の構成要素が全て同じ場所に設置されている場合、
図1に示すPC30と
図2又は
図3に示すPC130とが単一のPCであってもよい。また、
図1に示す入力装置20と
図2又は
図3に示す入力装置115とが単一の入力装置であってもよい。また、
図1に示すディスプレイ40と
図2又は
図3に示すディスプレイ140とが単一のディスプレイであってもよい。
【0051】
<両眼視機能測定の手順>
次に、以上のように構成された両眼視機能測定システム10を用いて行う両眼視機能測定の手順、すなわち本実施形態の両眼視機能測定方法について、具体的な内容を説明する。
【0052】
両眼視機能の測定を行う場合には、スマートフォン110において両眼視機能測定プログラムが起動され、両眼視機能測定の各種指示を行うためのGUIが表示画面111に表示される。そして、オペレータによるGUI操作があると、両眼視機能測定プログラムは、そのGUI操作に従って測定用データを生成する。そして、スマートフォン110が支持筐体部112aによって支持されて被測定者2の眼前に位置すると、そのスマートフォン110は、測定用データを処理して、両眼視機能を測定するための右眼用画像および左眼用画像を生成し、表示画面111の右眼用画像領域111R又は左眼用画像領域111Lで表示する。これにより、両眼視機能の測定が開始される。
【0053】
両眼視機能測定プログラムは、両眼視機能に関する各種測定項目をサポートしており、各種測定項目についてのパラメータ値を測定結果として出力する。サポートするパラメータ値としては、例えば、輻湊範囲、左右眼上下開散許容値、第一の不等倍率許容値、第二の不等倍率許容値、左右眼回旋視差許容値等が挙げられる。オペレータは、両眼視機能測定を行うにあたり、GUI上の何れかの測定項目を選択する。
【0054】
また、オペレータは、測定条件として、年齢や視距離等を入力する。入力された測定条件は、メモリ114に記憶される。なお、視距離については、スマートフォン110又は支持筐体部112aが視距離の設定を可変にする機能を有していれば、必要に応じて視距離を変えてもよい。
【0055】
以下、上記に列挙した各測定項目が選択されたときの両眼視機能測定プログラムの処理の実行について説明する。
【0056】
(「輻湊範囲」が選択された場合)
両眼視機能測定プログラムは、被測定者2の輻湊範囲を測定する輻湊範囲測定モードに移行する。ここでいう輻湊範囲は、調節を伴わない輻湊である。ここで、眼球の輻湊(又は開散)と調節は、公知のドンダース図に示されるように本来的には連携して働く。そのため、輻湊を調節から分離して測定することは簡単ではない。なお、ドンダース図については、「石原忍著、鹿野信一改訂「小眼科学」改訂第17版、金原出版、(1925)p50」、「畑田豊彦著「奥行き情報と視覚の特性」視覚情報研究会、昭和49年4月23日、p12」、本出願人がした国際公開第2010/090144号パンフレット等に記載がある。ドンダース図中、原点を通る傾き1(角度45度)の直線は、ドンダース線である。ドンダース線は、斜視や斜位のない裸眼の被測定者が対象を見ているときの輻湊と調節との連携を表している。ドンダース線の左右には、輻湊(又は開散)限界値を示すドンダース曲線がプロットされている。ドンダース線の一点から左右のドンダース曲線までの値であって右側(輻湊角が大となる側)が虚性相対輻湊に分類され、左側(輻湊角が小となる側)が実性相対輻湊に分類される。
【0057】
図4は、両眼視機能測定プログラムによる輻湊範囲測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
図5は、輻湊範囲測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。以降の本明細書中の説明並びに図面において、処理ステップは「S」と省略して記す。
【0058】
輻湊範囲測定モードに移行すると、
図5(a)に示すように、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが、表示画面111の左眼用画像領域111Lと右眼用画像領域111Rに表示される(
図4のS1)。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rは、サイズや色、形状等を含め、同一の画像である。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rは、被測定者2が測定に集中できるように単純な幾何学形状であることが望ましい。図例では、左眼用画像200Lおよび右眼用画像200Rが三角形状の図形である場合を示しているが、これに限定されることはなく、例えば、同一方向に同一長さで延びる直線(線分)の図形や、その他の幾何学形状の図形等であってもよい。
【0059】
また、被測定者2には、画像が二重に見えた時点で入力装置115の操作キーを押すなどの所定の操作を行うように指示が出される。指示は、例えば右眼用画像領域111R又は左眼用画像領域111Lの少なくとも一方に表示される。また、オペレータが被測定者2に直接指示を出してもよい。輻湊範囲以外の他の測定項目を測定する場合にも同じ指示が出される。
【0060】
図4のS2の処理では、
図5(a)に示すように、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rとを右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lのそれぞれに表示し、被測定者2にとって各画像が二重に見えるか確認する。二重に見えた場合は、
図4のS3の処理において、オペレータが二重に見えない位置まで右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lを離間もしくは接近を行い、これを二重に見えなくなるまで繰り返す。
【0061】
具体的には、例えば離間の場合であれば、
図5(c)に示すように、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lの水平方向(
図5(c)の矢印方向)に移動して離間する。離間する画像の動きは、連続的変化又は段階的変化で描画される。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの離間は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図4のS2:NO)。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量(以下、説明の便宜上、「第一の相対輻湊測定位置」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図4のS4)。なお、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置は相対的に離れればよい。そのため、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの一方は、測定中、位置が固定されていてもよい。後述の左右眼上下開散許容値測定モードにおいても同様である。
【0062】
離間する画像の提示時間は、被測定者の追従能力に応じて適切に設定される。
【0063】
図4のS5の処理では、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが第一の相対輻湊測定位置から右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lの水平方向(
図5(b)の矢印方向)に移動して接近する。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの接近は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図4のS6:YES)。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量(以下、説明の便宜上、「第二の相対輻湊測定位置」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図4のS7)。
【0064】
次に、
図4のS8の処理では、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを、第二の相対輻湊測定位置から第一の相対輻湊測定位置に戻す。そして、第一の相対輻湊測定位置に戻した後、
図4のS9の処理において、その第一の相対輻湊測定位置から左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lの水平方向(
図5(c)の矢印方向)に移動して離間する。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの離間は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図4のS10:YES)。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量(以下、説明の便宜上、「第三の相対輻湊測定位置」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図4のS11)。
図4のS5あるいはS9とS8の処理の順番は、次のように変更することも可能である。例えば、
図6に示すように、左右の視差画像を接近あるいは離間させる前に(S5,S9)、視差画像を第一の相対輻湊測定位置に戻す操作を都度行うことによって(S8)、輻湊の履歴効果を含まない条件下で相対輻湊を測定することができる(S12)。その際、接近量および離間量については、直前の判定において2つに見えていない場合にはその直前の量に対して増加させることが好ましいから、それぞれの視差画像を移動させる前に視差画像の接近量または離間量を決定するステップ(S13,S14)を設けてもよい。
【0065】
図4のS12の処理では、第一の相対輻湊測定位置、第二の相対輻湊測定位置、第三の相対輻湊測定位置および視距離を用いて、第一の輻湊角(開散限界)と第二の輻湊角(輻湊限界)とが計算される。第一の輻湊角は、測定時の視距離における調節力に対応する実性相対輻湊を表す。第二の輻湊角は、測定時の視距離における調節力に対応する虚性相対輻湊を表す。視距離は測定中不変である。従って、被測定者2の調節力は測定中実質的に変化しない。そのため、実性相対輻湊および虚性相対輻湊が調節から分離して簡易かつ高精度に測定される。
【0066】
図4のS12の処理で求められた実性相対輻湊および虚性相対輻湊をドンダース図に適用すると、左右のドンダース曲線が推定される。すなわち、被測定者2の輻湊と調節との連携関係が求まる。ドンダース曲線は、年齢に依存して変化する。そのため、ドンダース曲線を推定する際、測定条件として入力した年齢を考慮すると尚よい。
【0067】
視距離を変更して輻湊範囲測定モードによる測定を行うと、異なる調節力が働いたときの実性相対輻湊および虚性相対輻湊が測定される。異なる視距離における輻湊範囲の測定を繰り返すほどドンダース曲線を推定するためのサンプルデータがより一層多く採取される。そのため、被測定者2の輻湊と調節との連携関係がより一層精度良く求められる。
【0068】
オペレータは、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの相対的変化(移動、回転、変倍等)の速さを適宜設定変更することができる。但し、設定変更可能な相対的変化の速さは、所定の範囲内の速さに収めることが望ましい。相対的変化の速さの上限は、例えば被測定者が融像できなくなるタイミングと入力装置115の所定の操作キーを押すタイミングとのタイムラグによる誤差が所定の許容値に収まる程度の値に設定される。一方、下限は、例えば融像が強く働いて融像範囲が自然な眼球運動内で想定される範囲を超えて拡がる前に画像の表示が変化する程度の値に設定される。上下限の具体的設定値は、例えば実験等を重ねた上で決められる。
【0069】
なお、両眼視機能測定プログラムが追従能力判定部113dとしての機能を実現する場合であれば、左眼用画像200Lおよび右眼用画像200Rの相対位置変化の速度を変えて、所定パラメータ値である輻湊範囲の値を複数取得することによって、呈示画像の位置変化に対する被測定者2の眼の追従能力の程度を判定するようにしてもよい。このようにすれば、被測定者2の眼の追従能力の程度を左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの移動速度に反映されることが可能となるので、被測定者2が無理なく眼球運動を行うことができ、その結果として、被測定者2の両眼視機能を高精度に測定することが実現可能となる。
【0070】
左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの離間又は接近は、輻湊範囲の測定を迅速かつ高精度に行うため複数回行ってもよい。例えば一回目の測定(以下、説明の便宜上、「事前測定」と記す。)では、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを高速に離間又は接近させて融像限界の大凡の位置を特定する。二回目の測定(以下、説明の便宜上、「本測定」と記す。)では、事前測定で特定された大凡の位置周辺で左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを遅い速度(但し、融像が強く働かない程度の速度)で離間又は接近させる。本測定では、呈示画像の移動速度が遅いため、被測定者2が融像できなくなるタイミングと入力装置115の所定の操作キーを押すタイミングとのタイムラグによる誤差が抑えられて測定精度が向上する。また、本測定の測定区間は、事前測定で特定された融像限界の大凡の位置周辺に限定される。そのため、輻湊範囲の測定は、事前測定と本測定を両方行う場合であっても速やかに行われる。輻湊範囲以外の他の測定項目についても迅速かつ高精度な測定を行うため、事前測定と本測定の両方を行ってもよい。
【0071】
輻湊範囲測定モードで測定された実性相対輻湊と虚性相対輻湊から被測定者2の輻湊範囲のパラメータ値が求まる。かかるパラメータ値に基づいて例えば被測定者2が持つ潜在的なズレ(内斜視や外斜視)が推定される。輻湊範囲以外の他の測定項目についても同様にパラメータ値の推定が可能である。
【0072】
(「左右眼上下開散許容値」が選択された場合)
両眼視機能測定プログラムは、被測定者2の左右眼上下開散許容値を測定する左右眼上下開散許容値測定モードに移行する。左右眼上下開散許容値は、立体視可能な左右眼の上下開散の許容値である。
図7は、両眼視機能測定プログラムによる左右眼上下開散許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
図8は、左右眼上下開散許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。以降の本明細書中の説明並びに図面において、同一の又は同様の処理には同一の又は同様の符号を付して説明を簡略又は省略する。
【0073】
左右眼上下開散許容値測定モードに移行して画像表示が行われると、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが離れた状態で見えるように、表示画面111の右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lで表示される(
図7のS1、
図8(a))。次に、
図8(b)に示すように、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが表示画面の垂直方向(
図8(b)の矢印方向)に移動して離間する(
図7のS12)。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図7のS3:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量(以下、説明の便宜上、「第一の左右眼上下開散許容値測定位置」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図7のS14)。
【0074】
図7のS15の処理では、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが第一の左右眼上下開散許容値測定位置から表示画面の垂直方向(
図8(b)の矢印方向と逆方向であって
図8(c)の矢印方向)に移動して接近し、更に、
図8(c)に示すように離間する。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図7のS6:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量(以下、説明の便宜上、「第二の左右眼上下開散許容値測定位置」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図7のS17)。
【0075】
図7のS18の処理では、第一および第二の左右眼上下開散許容値測定位置と視距離に基づいて左右眼上下開散許容値、および当該視距離において対象物を融像できる上下方向の範囲が計算される。視距離を変更して左右眼上下開散許容値測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の左右眼上下開散許容値が測定される。
【0076】
(「第一の不等倍率許容値」が選択された場合)
第一の不等倍率許容値は、立体視可能な左右眼の不等倍率の許容値である。不等倍率に対して眼鏡レンズの処方を行うか否かは、一般に左右の視力差が2ディオプター以上あるかどうかを判断基準として杓子定規に決められている。ところが、患者には個人差があるため、左右の視力差が2ディオプター未満であっても融像することが困難な場合がある。またこれとは逆に、左右の視力差が2ディオプター以上あっても融像が困難でない場合もある。以下に説明する第一の不等倍率許容値測定モードでは、左右の視力差を加味した融像の可否が実測される。そのため、第一の不等倍率許容値測定モードによる測定の結果を利用すると、個人差を考慮した不等倍率に対する最適な処方が可能になる。
【0077】
両眼視機能測定プログラムは、被測定者2の第一の不等倍率許容値を測定する第一の不等倍率許容値測定モードに移行する。
図9は、両眼視機能測定プログラムによる第一の不等倍率許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
図10は、第一の不等倍率許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【0078】
第一の不等倍率許容値測定モードに移行すると、
図10(a)に示すように、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが被測定者2の融像範囲であって僅かにずれた位置に表示される(
図9のS21)。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの表示位置は、輻湊範囲や左右眼上下開散許容値の測定結果を参照して決められる。輻湊範囲や左右眼上下開散許容値の測定が行われていない場合は、オペレータが左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置を被測定者2の融像範囲に収まるように微調節する。
【0079】
図9のS22の処理では、
図10(b)に示すように、左眼用画像200Lが右眼用画像200Rに対して拡大表示される。左眼用画像200Lの拡大率は、縦横比固定であり、連続的変化で又は段階的変化で描画される。左眼用画像200Lの表示の拡大は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図9のS22、S3:NO)。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図9のS3:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rとの表示倍率比(以下、説明の便宜上、「第一の表示倍率比」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図9のS24)。なお、第一の不等倍率許容値測定モードにおいて、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの表示倍率比は相対的に変化すればよい。そのため、画像に与えられる変化は、拡大に代えて縮小であってもよい。また、測定中、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを異なる変倍率で同時に拡大又は縮小させてもよい。後述の第二の不等倍率許容値測定モードにおいても同様である。
【0080】
図9のS25の処理では、
図10(c)に示すように、右眼用画像200Rが左眼用画像200Lに対して拡大表示される。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図9のS6:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rとの表示倍率比(以下、説明の便宜上、「第二の表示倍率比」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図9のS27)。
【0081】
図9のS28の処理では、第一および第二の表示倍率比と視距離に基づいて当該視距離における第一の不等倍率許容値が計算される。視距離を変更して第一の不等倍率許容値測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の第一の不等倍率許容値が測定される。
【0082】
(「第二の不等倍率許容値」が選択された場合)
両眼視機能測定プログラムは、被測定者2の第二の不等倍率許容値を測定する第二の不等倍率許容値測定モードに移行する。第二の不等倍率許容値は、立体視可能な左右眼の特定方向に限定した不等倍率の許容値である。
図11は、両眼視機能測定プログラムによる第二の不等倍率許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
図12は、第二の不等倍率許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【0083】
第二の不等倍率許容値測定モードに移行して画像表示が行われると(
図11のS21、
図12(a))、左眼用画像200Lの特定方向の表示が右眼用画像200Rに対して拡大される(
図11のS32)。
図12(b)の画像例では、左眼用画像200Lの画面垂直方向の表示倍率のみ拡大する。左眼用画像200Lの拡大は、連続的変化で又は段階的変化で描画される。左眼用画像200Lの表示の拡大は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図11のS32、S3:NO)。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図11のS3:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの画面垂直方向の表示倍率比(以下、説明の便宜上、「第一の特定方向の表示倍率比」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図11のS34)。
【0084】
図11のS35の処理では、変倍対象の全ての特定方向について左眼用画像200Lの拡大が行われたか否かが判定される。本実施形態では、変倍対象の方向は画面垂直方向と画面水平方向の2方向である。そのため、変倍対象の方向が画面水平方向に変更される(
図11のS35:NO、S36)。次いで、
図12(c)に示されるように、左眼用画像200Lの画面水平方向の表示が右眼用画像200Rに対して拡大される。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図11のS3:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの画面水平方向の表示倍率比(以下、説明の便宜上、「第二の特定方向の表示倍率比」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図11のS34)。
【0085】
図11のS38の処理では、第一および第二の特定方向の表示倍率比と視距離に基づいて当該視距離における第二の不等倍率許容値が計算される。視距離を変更して第二の不等倍率許容値測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の第二の不等倍率許容値が測定される。変倍対象の方向は、画面水平方向又は画面垂直方向の2方向に限らず、他の方向を含んでもよい。
【0086】
(「左右眼回旋視差許容値」が選択された場合)
融像回旋は、輻湊等の視線方向が平行でないときに発生することがある。遠方視の場合の眼球の回旋は、リスティング法則(Listing’s Law)に基づく。リスティング法則は、眼球が空間上のある方向に向いたときの姿勢を定める法則である。眼球の姿勢とは、眼球の横方向と縦方向の向きを指す。眼球の姿勢が定まらなければ、網膜像の上下左右が定まらない。眼球の姿勢は、視線方向、すなわち眼球の光軸方向だけでは一義的に決まらない。眼球の姿勢は、視線方向が確定しただけでは依然として視線を軸に回転する全ての方向を取りうる。
【0087】
リスティング法則は、無限遠方の任意の視線方向に向けた眼球の姿勢を定める。リスティング法則については、例えば「視覚情報処理ハンドブック」p.405に、「片眼のどんな回転も1つの平面(リスティング平面)内の軸を中心にして起こるとみなしうる」と記載されている。
【0088】
リスティング法則の上記記載について、
図13に示す座標系を用いて説明する。
図13に示される座標系は、眼球の回旋中心である点Rを原点とした座標系であり、正面(水平前方)から眼に入る方向がX軸方向と定義され、X軸方向と直交する垂直方向がY軸方向と定義され、X軸方向と直交する水平方向がZ軸方向と定義される。Y-Z平面は、リスティング平面である。
【0089】
任意方向への眼球回旋後の姿勢は、点Rを含むリスティング平面内の直線を軸にした回転と同じである。
図13においては、この回転軸となる直線の一例をY軸とZ軸との間(Y-Z平面上)に示している。回転軸は、第1眼位(X軸方向)、回転後の視線方向の何れに対しても直交する。ここで、図示しない方向ベクトル(L,M,N)へ眼球回旋する場合を考える。この場合、回旋後の眼球座標系のX軸方向、Y軸方向、Z軸方向のそれぞれのベクトルは、次式(1)で計算される。
【0090】
【0091】
リスティング法則は、片眼が無限遠方の物体に対して眼球の姿勢を定めるものとしては正しい。また、例えば無限遠方の物体を視ていて体を傾けた場合には、左眼と右眼とで眼球の姿勢が同じで、眼球の回旋も同様である。これに対して、無限遠方でない物体を両眼で視る場合には、左眼と右眼とで眼球の姿勢が異なることがある。
【0092】
図14A、14Bは、両眼視の場合の左右の眼の視線方向を説明するための図である。
図14A、14Bの各図中、破線は、左眼の眼球51Lと右眼の眼球51Rとの中間位置に配された仮想的な眼球55を示している。無限遠方物体を両眼視する場合、
図14Aに示されるように、眼球51Lと眼球51Rとが同じ視方向に向く。左右の眼球が共にリスティング法則に従うため、回旋した後の姿勢も同じである。このとき、左右眼それぞれの網膜像に差異は生じない。
【0093】
一方、有限距離の物体(点A)を視る場合は、
図14Bに示されるように、輻湊が必要である。この場合、眼球51Lと眼球51Rの視方向が異なるため、眼球の回旋量が左右で異なる。
図14Bでは、点Aが左前方にある。そのため。眼球51Rの回旋量が眼球51Lの回旋量よりも多い。
【0094】
リスティング法則に基づく眼球回旋では、回旋後の眼球姿勢、つまり、回旋後のY軸とZ軸の各方向ベクトルは、式(1)に示される視方向ベクトルに依存する。左眼と右眼の視方向ベクトルが異なる場合、回旋後のY軸とZ軸の各方向ベクトルは、左右の眼で一致しない。そのため、網膜像の回転ずれが起こる。網膜像の回転ずれを解消するためには、左右の眼において視線周りの回旋がそれぞれ必要である。この視線周りの回旋が融像回旋である。
【0095】
融像回旋が発生すると、左右眼に回旋視差が生じる。両眼視機能測定プログラムでは、立体視可能な左右眼の回旋視差の許容値である左右眼回旋視差許容値を測定することができる。両眼視機能測定プログラムは、測定項目「左右眼回旋視差許容値」が選択されると、被測定者2の左右眼回旋視差許容値を測定する左右眼回旋視差許容値測定モードに移行する。
図15は、両眼視機能測定プログラムによる左右眼回旋視差許容値測定モードで実行される処理のフローチャートを示す図である。
図16は、左右眼回旋視差許容値測定モードの実行中に表示画面に表示される画像の遷移図である。
【0096】
左右眼回旋視差許容値測定モードに移行して画像表示が行われると(
図15のS21、
図16(a))、
図16(b)に示すように、左眼用画像200Lが反時計回りに回転する(
図15のS42)。左眼用画像200Lの回転は、連続的変化で又は段階的変化で描画される。左眼用画像200Lの回転は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する(
図15のS42、S3:NO)。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図15のS3:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rとの回転角度差(以下、説明の便宜上、「第一の回転角度差」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図15のS44)。なお、画像の回転中心は、当該画像の重心とする。左右眼回旋視差許容値測定モードにおいて、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの回転角度差は相対的に変化すればよい。そのため、測定中、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを異なる速度で又は異なる方向に同時に回転させてもよい。
【0097】
図15のS45の処理では、
図16(c)に示すように、左眼用画像200Lが時計回りに回転する。被測定者2により所定の操作キーが押されると(
図15のS6:YES)、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rとの回転角度差(以下、説明の便宜上、「第二の回転角度差」と記す。)がメモリ114に記憶される(
図15のS47)。
【0098】
図15のS48の処理では、第一および第二の回転角度差と視距離に基づいて当該視距離における左右眼回旋視差許容値が計算される。視距離を変更して左右眼回旋視差許容値測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の左右眼回旋視差許容値が測定される。異なる視距離ごとの左右眼回旋視差許容値を測定することにより、例えば累進屈折眼鏡レンズを処方する場合に遠用部と近用部で異なる乱視軸を処方して乱視を最適に矯正することができる。
【0099】
(他の測定について)
両眼視機能測定システム10を用いて立体視の機能を測定することもできる。立体視の測定では、例えば形状の異なる二種類の視差画像が表示画面111の右眼用画像領域111Rおよび左眼用画像領域111Lに表示される。視差画像は、被測定者2が測定に集中できるように○や△等の単純な幾何学形状であることが望ましい。本実施形態では、二種類の視差画像は、○画像と△画像とする。○画像は、△画像よりも視差が大きい。そのため、被測定者2には、○画像が手前に視え、△画像が奥に視える。次いで、○画像と△画像の少なくとも一方の視差が連続的に又は段階的に変えられる。被測定者2は、○画像と△画像の奥行きが感じられなくなった時点や二重像が見えた時点等で入力装置115の所定の操作キーを押す。メモリ114には、所定の操作キーが押された時点の画像の視差が記憶される。CPU113は、記憶された画像の視差および視距離に基づいて被測定者2が立体視できる限界を計算する。
【0100】
(測定項目の複合的な測定について)
上述した各種測定モードでは、一つの測定項目が測定される。別の測定モードでは、複数(例えば輻湊範囲、左右眼上下開散許容値、第一の不等倍率許容値、第二の不等倍率許容値、左右眼回旋視差許容値のうち少なくとも二つ)の測定項目を同時に測定する複合的な測定を行ってもよい。特に、密接不可分な複数の測定項目を同時に測定した場合、各測定項目単独の測定結果だけでは把握できない測定結果が得られる可能性がある。オペレータは、同時に測定する測定項目を任意に選択することができる。測定項目の幾つかの組み合わせは、予め用意されていてもよい。以下に、複合的な測定例を3例説明する。
【0101】
(輻湊範囲-左右眼上下開散許容値の複合的測定について)
例えば輻湊範囲と上下開散は相互作用が強い。そこで、第一の複合的な測定モードでは、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの少なくとも一方を画面斜め方向に連続的に又は段階的に移動させて輻湊範囲と左右眼上下開散許容値の同時測定を行う。ここで、画面斜め方向は、画面水平方向又は画面垂直方向以外のあらゆる方向であり、画面水平方向成分と画面垂直方向成分の両成分を含む。すなわち、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rには、輻湊範囲測定モード時と左右眼上下開散許容値測定モード時の各変化パターン(画面水平方向、画面垂直方向の移動)を合成した表示の変化(以下、説明の便宜上、「複合的変化」と記す。)が与えられる。画面斜め方向の角度は、オペレータが設定してもよく又は両眼視機能測定プログラムで予め定められていてもよい。
【0102】
図17は、第一の複合的な測定モードにおける画像の表示例である。第一の複合的な測定モードのフローチャートは、輻湊範囲測定モード等のフローチャートと同様であるため省略する。
図17の例によれば、左眼用画像200Lが図中破線位置から画面斜め方向に移動する。画面斜め方向の移動は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量がメモリ114に記憶される。一連の測定において、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rを異なる画面斜め方向に移動させて位置ずれ量データを複数採取してもよい。メモリ114に記憶された各位置ずれ量と視距離に基づいて当該視距離における輻湊範囲と左右眼上下開散許容値の複合的な測定結果が計算される。視距離を変更して第一の複合的な測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の複合的な測定結果が得られる。
【0103】
(輻湊範囲-左右眼上下開散許容値-第二の不等倍率許容値(又は第一の不等倍率許容値)の複合的測定について)
例えば輻湊範囲、上下開散、左右眼の不等倍率は相互作用が強い。そこで、第二の複合的な測定モードでは、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの少なくとも一方を連続的に又は段階的に画面斜め方向に移動させると共に拡大又は縮小表示する。画像の拡大又は縮小が特定方向に限定されている場合は第二の不等倍率許容値の測定となり、縦横比固定である場合は第一の不等倍率許容値の測定となる。左眼用画像200L又は右眼用画像200Rには、輻湊範囲測定モード時、左右眼上下開散許容値測定モード時、第二の不等倍率許容値(又は第一の不等倍率許容値)測定モード時の各変化パターン(画面水平方向、画面垂直方向の移動、表示倍率の変更)を合成した複合的変化が与えられる。各変化パターンをどのような割合で与えるかは、オペレータが設定してもよく又は両眼視機能測定プログラムで予め定められていてもよい。
【0104】
図18は、第二の複合的な測定モードにおける画像の表示例である。第二の複合的な測定モードのフローチャートは、輻湊範囲測定モード等のフローチャートと同様であるため省略する。
図18の例によれば、左眼用画像200Lが図中破線位置から画面斜め方向に移動すると共に画面垂直方向にのみ拡大する。左眼用画像200Lの移動および拡大は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量および画面垂直方向の表示倍率比(以下、説明の便宜上、「画像変更状態」と記す。)がメモリ114に記憶される。一連の測定において、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの移動および拡大を異なるパターンで繰り返し行って画像変更状態データを複数採取してもよい。メモリ114に記憶された各画像変更状態と視距離に基づいて当該視距離における輻湊範囲、左右眼上下開散許容値、第二の不等倍率許容値(又は第一の不等倍率許容値)の複合的な測定結果が計算される。視距離を変更して第二の複合的な測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の複合的な測定結果が得られる。
【0105】
(輻湊範囲-左右眼回旋視差許容値の複合的測定について)
融像回旋は、上述したように、輻湊に伴って発生する。そこで、第三の複合的な測定モードでは、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの少なくとも一方を連続的に又は段階的に画面水平方向に移動させると共に時計回り又は反時計回りに回転させる。すなわち、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rには、輻湊範囲測定モード時と左右眼回旋視差許容値測定モード時の各変化パターン(画面水平方向の移動、画像重心を中心とした回転)を合成した複合的変化が与えられる。各変化パターンをどのような割合で与えるかは、オペレータが設定してもよく又は両眼視機能測定プログラムで予め定められていてもよい。
【0106】
図19は、第三の複合的な測定モードにおける画像の表示例である。第三の複合的な測定モードのフローチャートは、輻湊範囲測定モード等のフローチャートと同様であるため省略する。
図19の例によれば、左眼用画像200L、右眼用画像200Rはそれぞれ、画面水平方向に移動して離間しながら反時計回り、時計回りに回転する。左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの移動および回転は、入力装置115の所定の操作キーが押されるまで継続する。被測定者2により所定の操作キーが押されると、その時点の左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの位置ずれ量および回転角度差がメモリ114に記憶される。一連の測定において、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの移動および回転を異なるパターンで繰り返し行って位置ずれ量および回転角度差データを複数採取してもよい。メモリ114に記憶された各位置ずれ量および回転角度差と視距離に基づいて当該視距離における輻湊範囲と左右眼回旋視差許容値の複合的な測定結果が計算される。視距離を変更して第三の複合的な測定モードによる測定を行うと、異なる調節力を働かせたとき(例えば近方視や遠方視したとき)の複合的な測定結果が得られる。
【0107】
(側方視を考慮した測定について)
上述した各測定モードでは、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rが表示画面の中央に表示される。そのため、被測定者2が正面視した状態での測定結果しか得られない。そこで、各測定モードにおいて正面視状態での測定を行った後、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rの表示位置を例えば
図20に示すように表示画面の周辺(画面左上隅)に移す。スマートフォン110を支持するが支持筐体部112aが被測定者2の頭に装着されており、それぞれの位置関係が固定的であるため、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを自ずと側方視する。この状態で測定を行うと、被測定者2が側方視した状態での測定結果が得られる。更に、左眼用画像200Lと右眼用画像200Rを画面周辺の別の位置(画面上端中央、画面右上隅、画面右端中央、画面右下隅・・・)に順に移して測定を行うと、様々な方向の側方視状態での測定結果が得られる。側方視は、例えば融像回旋を必ず伴うなど正面視と条件が異なる。そのため、正面視の場合と異なる測定結果が得られる。かかる測定結果も考慮して眼鏡レンズの設計を行うと、より一層好適な処方が可能になる。
【0108】
<本実施形態の効果>
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0109】
(a)本実施形態においては、被測定者2の両眼視機能の測定にあたり、単一の可搬型表示画面111上で被測定者2に対して右眼用画像および左眼用画像(すなわち、視差画像)を呈示する。具体的には、例えばスマートフォン110の表示画面111を右眼用画像領域111Rと左眼用画像領域111Lとに分割して、右眼用画像領域111Rに右眼用画像を表示し、左眼用画像領域111Lに左眼用画像を表示することで、被測定者2に対する視差画像の呈示を行う。したがって、据置型3次元対応ビデオモニタ等のような大掛かりなシステム構成を必要とすることがなく、単一の表示画面111という非常に簡素な構成によって視差画像の呈示を行うことができ、被測定者2の両眼視機能の測定の簡便化を図る上で非常に好ましいものとなる。
また、可搬型表示画面111を用いることで、その表示画面111を被測定者2の眼前に位置させることが非常に容易である。この点でも、被測定者2の両眼視機能の測定の簡便化を図る上で非常に好ましいものとなる。しかも、表示画面111を被測定者2の眼前に位置させた状態を保持することで、被測定者2の顔の方向に依存せず、正中面に対する左右の視差画像位置の誤差を一定に保つことができる。そのため、左右の視差画像位置の誤差がなくなるように表示画面111を被測定者2に装着させるのが好適である。
さらには、可搬型表示画面111を用いた場合には、その周囲を遮蔽することで、実空間情報を遮断した空間内での視差画像の呈示を容易に実現することが可能となる。実空間情報を遮断した空間内で視差画像の呈示を行えば、呈示される視差画像以外に外界から奥行きと遠近感を感じる情報(実空間情報)を被測定者2が取得してしまうことがない。したがって、被測定者2に奥行き感覚を手掛かりとせずに、両眼視機能に関する能力を高精度に測定できる。
つまり、本実施形態によれば、単一の可搬型表示画面111上で視差画像の呈示を行うことで、被測定者2の両眼視機能の測定を高精度に、かつ、非常に簡便に行うことができる。
【0110】
(b)本実施形態においては、携帯情報端末の一種であるスマートフォン110の表示画面111を可搬型表示画面として用いて、被測定者の両眼視機能の測定を行う。そのため、単一の可搬型表示画面上での視差画像の呈示を容易かつ確実に実現することができ、そのための導入コストも抑えられる。したがって、両眼視機能の測定を高精度に、かつ、非常に簡便に行う上で好ましいものとなる。
【0111】
(c)本実施形態で説明したように、被測定者2の両眼視機能についての所定パラメータ値として、被測定者2の輻湊範囲を特定する値を算出すれば、被測定者2の輻湊範囲の測定を高精度に、かつ、非常に簡便に行うことができる。そして、その測定結果を眼鏡レンズの設計パラメータの一つとして用いることで、被測定者2に適した眼鏡レンズを提供することが実現可能となる。
【0112】
(d)本実施形態で説明したように、呈示画像の位置変化に対する被測定者2の眼の追従能力の程度を判定した上で、その判定結果に基づいて呈示画像の位置変化の速度を決定すれば、被測定者2の眼の追従能力の程度が左呈示画像の位置変化の速度に反映されるので、被測定者2が無理なく眼球運動を行うことができ、その結果として、被測定者2の両眼視機能を高精度に測定することが実現可能となる。
【0113】
<変形例等>
以上に本発明の実施形態を説明したが、上述した開示内容は、本発明の例示的な実施形態を示すものである。すなわち、本発明の技術的範囲は、上述の例示的な実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0114】
例えば、上述の実施形態では、単一の可搬型表示画面上での視差画像の呈示を、スマートフォン110の表示画面111を利用して実現する場合を例に挙げたが、本発明がこれに限定されることはなく、タブレット端末やPDAのような他の携帯情報端末における表示画面を利用して視差画像の呈示を行うようにしてもよい。
【0115】
また、例えば、上述の実施形態では、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rの移動速度、回転速度、変倍速度は何れも等速を前提に説明している。ただし、本発明がこれに限定されることはなく、左眼用画像200L又は右眼用画像200Rを加速度をつけて移動、回転、変倍させてもよい。
【符号の説明】
【0116】
1…眼鏡レンズ製造システム、10…両眼視機能測定システム、20…入力装置、30,130…PC、40,140…ディスプレイ、50…加工機、110…スマートフォン、111…表示画面、111R…右眼用画像領域、111L…左眼用画像領域、113…CPU、113a…呈示制御部、113b…タイミング検知部、113c…パラメータ値算出部、113d…追従能力判定部、200R…右眼用画像、200L…左眼用画像