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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】擁壁パネルの補助支持装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20221215BHJP
【FI】
E02D17/20 103H
E02D17/20 106
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022020973
(22)【出願日】2022-02-15
【審査請求日】2022-10-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029012
【氏名又は名称】株式会社エスイー
(74)【代理人】
【識別番号】100124316
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】加来 哲也
(72)【発明者】
【氏名】早川 道洋
【審査官】湯本 照基
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-055519(JP,A)
【文献】特開2002-054159(JP,A)
【文献】特開2003-232047(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2019193(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
法面の上部に、軸方向を前記法面の上部に沿った方向に向けて配置され、背面側から地山側へ突出する定着具が地山中に埋設されて前記法面に固定される墨出しブロックと、この墨出しブロックの下方に配置されて前記墨出しブロックに支持されながら、地山中に定着される補強材が貫通し、この補強材の前記法面から突出する頭部が定着される擁壁パネルとを備える法面安定化擁壁において、
前記擁壁パネルの下方寄りに対応した位置、またはその付近の地山に形成された支持面上に設置され、前記補強材の地中への定着が完了するまでの間、前記墨出しブロックに支持された状態にある前記擁壁パネルを補助的に支持する補助支持装置であり、
前記支持面上に支持されて前記擁壁パネルを直接、もしくは間接的に支持可能に、前記擁壁パネルに組み合わせられ、前記擁壁パネルの荷重を負担可能な支柱を持ち、
前記支柱は平常時に前記擁壁パネルの荷重を負担せず、前記擁壁パネルが前記墨出しブロックに支持されなくなったときに、前記擁壁パネルへの支持部分で前記擁壁パネルを支持し、前記墨出しブロックに代わって前記擁壁パネルの荷重を負担することを特徴とする擁壁パネルの補助支持装置。
【請求項2】
前記擁壁パネルの下方寄りの位置に、前記擁壁パネルの荷重を負担可能な連結部を有する被吊り材が接続され、前記支柱の前記被吊り材に対応した位置に、前記擁壁パネルの荷重を負担可能な連結部を有し、前記被吊り材の前記連結部に直接、もしくは間接的に連結される吊り材が接続され、
前記吊り材と前記被吊り材とは、平常時に前記被吊り材からの前記擁壁パネルの荷重が前記吊り材に伝達されず、前記擁壁パネルが前記墨出しブロックに支持されなくなったときに、前記被吊り材からの前記擁壁パネルの荷重が前記吊り材に伝達される状態に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の擁壁パネルの補助支持装置。
【請求項3】
前記支柱が前記擁壁パネルを支持したときに、前記擁壁パネルとの連結部分を、前記擁壁パネルを支持する前の位置に復帰させる昇降装置が前記支柱に内蔵、もしくは付属していることを特徴とする請求項1、もしくは請求項2に記載の擁壁パネルの補助支持装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は法面の安定化の目的で、法面に沿って配列し、擁壁を構成する擁壁パネルを設置完了まで支持する墨出しブロックからの擁壁パネルの離脱に備え、擁壁パネルを補助的に支持する壁パネルの補助支持装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地山への掘削(切土)により形成された法面を崩落に対して安定化させる目的で、法面に沿って擁壁パネルを高さ方向に配列させて擁壁を構築する場合に、最上段に設置されるべき擁壁パネルの位置が決まっているような場合、擁壁パネルは上段側から下段側へ向かって設置されていくことになる。従って法面に最初に設置される最上段の擁壁パネルは地山に支持されながら、法面に設置される。
【0003】
この場合、ある段の擁壁パネルを法面に設置するときに、その擁壁パネルを上段側の擁壁パネルに支持させることができなければ、擁壁パネルはその下端において地山に支持されるしかない。この関係で、設置すべき擁壁パネルの下端が位置する箇所の地山を残し、地山に水平面等の支持面を形成しながら、地山を掘削することが必要になる(特許文献1~特許文献5参照)。
【0004】
但し、擁壁パネルを上段側から下段側へ向かって設置する方法では、擁壁パネルは主に地山の支持面に支持された状態で位置決めされながら、法面に設置されるため、支持面の形成には正確さが要求される。支持面の形成に誤差があれば、擁壁パネルの設置に施工誤差を残し、擁壁パネルの幅方向に配列する擁壁パネルを整然と配列させることが難しくなるからである。
【0005】
それに対し、下段側の擁壁パネルを上段側の擁壁パネルに支持させながら、擁壁パネルを下向きに設置していくことを可能にする法面安定化擁壁とその構築方法を出願人は先に提案している(特許文献6参照)。
【0006】
この方法では法面の上部に、下方に配置される擁壁パネルを支持する能力を持つ墨出しブロックを擁壁パネルに先行して固定し、墨出しブロックに擁壁パネルを係合させることで、擁壁パネルを墨出しブロックに支持させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平7-34464号公報(請求項1、段落0005~0018、図6図8
【文献】特開2010-106433号公報(段落0020、図4図8
【文献】特開2012-246706号公報(請求項1、段落0012~0016、図2図5
【文献】特開2014-109189号公報(請求項1、段落0005、0006、図1図2
【文献】特開2015-1084号公報(図1図5
【文献】特許第6746264号公報(請求項1、段落0009~0036、図1図6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
但し、各擁壁パネルはそれ自体を厚さ方向に貫通する補強材が地中に埋設され、充填材の充填により地中に定着されることで、法面に固定された状態になり、その作業が終了するまでは、墨出しブロックが擁壁パネルを支持することになる。
【0009】
このため、補強材が完全に定着される前には、例えば地震動の発生等、何らかの原因で墨出しブロックが擁壁パネルの荷重を負担する能力を失ったとき等に、擁壁パネルが墨出しブロックから離脱し、墨出しブロックから落下する可能性がないとは言えない。
【0010】
本発明は上記背景より、墨出しブロックが擁壁パネルの荷重を負担する能力を失ったときに、備えとして墨出しブロックに代わって擁壁パネルを支持する補助支持装置を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明の擁壁パネルの補助支持装置は、法面の上部に、軸方向を前記法面の上部に沿った方向に向けて配置され、背面側から地山側へ突出する定着具が地山中に埋設されて前記法面に固定される墨出しブロックと、この墨出しブロックの下方に配置されて前記墨出しブロックに支持されながら、地山中に定着される補強材が貫通し、この補強材の前記法面から突出する頭部が定着される擁壁パネルとを備える法面安定化擁壁において、
前記擁壁パネルの下方寄りの地山に形成された支持面上に設置され、前記補強材の地中への定着が完了するまでの間、前記墨出しブロックに支持された状態にある前記擁壁パネルを補助的に支持する補助支持装置であり、
前記支持面上に支持されて前記擁壁パネルを直接、もしくは間接的に支持可能に、擁壁パネルに組み合わせられ、前記擁壁パネルの荷重を負担可能な支柱を持ち、
前記支柱が平常時に前記擁壁パネルの荷重を負担せず、前記擁壁パネルが前記墨出しブロックに支持されなくなったときに、前記擁壁パネルとへの支持部分で前記擁壁パネルを支持し、前記墨出しブロックに代わって前記擁壁パネルの荷重を負担することを構成要件とする。
【0012】
「法面の上部に沿った方向」とは、擁壁パネル3が長さ方向に配列する場合の長さ方向であり、主に水平方向であるが、水平に対して傾斜した方向であることもある。「法面の上部」は基本的に図10-(a)に示す法面10の最上部の縦断面上、隅角部となった部分を指す。擁壁パネル5の長さ方向(法面10の上部に沿った方向)は墨出しブロック4の軸方向である。この水平方向等に軸方向を向けて墨出しブロック4が法面10に配置される。擁壁パネル5の幅方向は法面10に沿った高さ方向になる。
【0013】
墨出しブロック4は主に図1-(a)に示すようにその背面側から突出する定着具(アンカー)43が地山中に埋設(定着)されることで、法面10に固定される。定着具43は一部が墨出しブロック4中に埋設された状態で墨出しブロック4の背面から突出する場合と、墨出しブロック4を厚さ方向に貫通する場合がある。
【0014】
いずれの場合も、定着具43は予め、または最終的に(墨出しブロック4の法面10への固定後)墨出しブロック4に一体化する。定着具43の地山中での定着状態は単純に地山中に挿入(貫入)されて維持する場合と、地山中に注入される充填材中に埋設されて維持する場合がある。
【0015】
擁壁パネル5は墨出しブロック4には基本的にそれぞれの対向する面に形成される凸部52と凹部42が対向する方向に互いに嵌合し、擁壁パネル5が墨出しブロック4に下向きに係合することで、支持される。係合のみでは擁壁パネル5の墨出しブロック4への支持が困難な場合には、図7に示すように擁壁パネル5を厚さ方向に貫通するボルト81を墨出しブロック4に螺入させるか、貫通させることで、墨出しブロック4による擁壁パネル5の支持が補われる。
【0016】
擁壁パネル5は図8-(d)に示すように厚さ方向に貫通する補強材7が地山中に形成される削孔12中に挿入され、グラウト材中に埋設されることで、擁壁パネル5が法面10に固定された状態を永続的に維持する。削孔12中への補強材7の挿入とグラウト材の充填後には墨出しブロック4は擁壁パネル5の支持から解放される。
【0017】
言い換えれば、墨出しブロック4は補強材7の挿入とグラウト材の充填が終了するまでの間、擁壁パネル5を暫定的(仮)に支持する。補強材7は図6-(b)に示すように擁壁パネル5の立面上の中央部等に厚さ方向に貫通して形成された挿通孔55を挿通する。補助支持装置1は削孔12中への補強材7の挿入とグラウト材の注入までの間、擁壁パネル5が墨出しブロック4から離脱したときの備え(フェイルセーフ)として、擁壁パネル5の落下を防止する機能を発揮する。
【0018】
地山は図8-(a)に示すように法面10に先行して設置される墨出しブロック4と、これに直接、支持される1段目の擁壁パネル5を設置するために掘削され、このときに形成された法面10に(c)に示すように墨出しブロック4と擁壁パネル5が設置される。このときの法面10の下には未掘削の地山が残されている。この法面10下の地山の上面が請求項1における「支持面11」になる。
【0019】
この支持面11上に支柱2を有する補助支持装置1が設置される。補助支持装置1は擁壁パネル5の長さ方向には1枚の擁壁パネル5の質量に応じ、長さ方向の中央部の1箇所、または長さ方向の両側寄りの位置を含む2箇所以上に配置される。長さ方向の両側寄りの位置は図3に示すように中央部と両側の中間部の位置を含む。
【0020】
支持面11は補助支持装置1を安定させて設置する上では水平面に形成されることが好ましいが、補助支持装置1の底面(ベースプレート34の底面等)が補助支持装置1の本体である支柱2に対して任意の方向に回転自在に連結(自在継手)されているような場合には、必ずしもその必要はない。
【0021】
請求項1における「擁壁パネルの下方寄り」とは、擁壁パネル5の幅方向の下方寄りを指し、主には擁壁パネル5の下端部に対応した位置かその付近等を指す。「下方」寄りである理由は、下端部が法面10の表面側(切土側)に位置するように擁壁パネル5が鉛直に対して傾斜して法面10に固定されることが多い関係で、擁壁パネル5が支持面11上に設置される支柱2に近いためであり、下端部に対応した位置が最適である。
【0022】
請求項1における「支柱を持ち」とは、少なくとも「擁壁パネル5の荷重を負担可能な支柱2」から補助支持装置1が構成されることを言い、支柱2に、擁壁パネル5に連結(接続)され、擁壁パネル5を支持し得る支持部分が付属する場合と、支持部分が別体として組み合わせられる場合があることを言う。この他、何らかの理由で墨出しブロック4から降下、または落下した擁壁パネル5を支柱2が支持した後、擁壁パネル5を墨出しブロック4に支持されていた元の位置に復元させるための昇降装置(ジャッキ)3が補助支持装置1として備えられること(請求項3)も含む。
【0023】
「擁壁パネルを直接、もしくは間接的に支持可能に、擁壁パネルに組み合わせられ」とは、支柱2の支持部分が図2に示すように擁壁パネル5を下方側から支持し得る場合と、図1に示すように上方側から吊り支持し得る場合があることを言う。下方側から支持し得る場合、支柱2の支持部分(受け材24)(支持面)には、擁壁パネル5を支持したとき、擁壁パネル5の荷重は圧縮力として伝達される。「支持部分」は擁壁パネル5の荷重を直接、負担し、支柱2(補助支持装置1)に伝達する部分を指す。
【0024】
「擁壁パネルの荷重」は主に擁壁パネル5の自重を言うが、擁壁パネル5の背面側に充填される充填材71やその他の付属する、または関連する部品等の質量を含むこともある。以下では支柱2が擁壁パネル5を「支持し得る」ことを単に「支持する」とも言う。
【0025】
擁壁パネル5を下方側から支持する場合、支持部分(受け材24)が擁壁パネル5を支持したときに擁壁パネル5が支柱2に対して滑りを生じて支柱2から落下しないよう、例えば図2に示すように水平方向に係合するか、支持部分の支持面に摩擦力が大きくなる材料が接着される等の落下防止対策が採られることが適切である。
【0026】
支柱2が擁壁パネル5を上方側から吊り支持する場合、支柱2の支持部分(連結部分)には、擁壁パネル5を支持したとき、擁壁パネル5の荷重は引張力として伝達される。支柱2の支持部分は支柱2の本体である場合と、支柱2に接続された、支柱2の一部である場合がある。上方側から吊り支持する場合には、支柱2の支持部分と擁壁パネル5との間に、擁壁パネル5を支持部分に連結するための連結材23が介在し(請求項2)、連結材23が引張力を負担する。
【0027】
この場合、支柱2の擁壁パネル5への支持部分は具体的には、例えば擁壁パネル5の下方寄りの位置に、連結部21aを有する被吊り材21が接続される一方、支柱2の被吊り材21に対応した位置に、連結部22aを有し、被吊り材21の連結部21aに直接、もしくは間接的に連結される吊り材22が接続されることで(請求項2)、構成される。被吊り材21の連結部21aと吊り材22の連結部22aは共に、擁壁パネル5の荷重を負担可能な能力(強度)を有する(請求項2)。
【0028】
「直接、連結される」とは、被吊り材21の連結部21aと吊り材22の連結部22aが直接、連結されることを言い、「間接的に連結される」とは、被吊り材21の連結部21aと吊り材22の連結部22aのそれぞれに、図1に示すように擁壁パネル5の荷重を負担可能な連結部23a、23bを有する連結材23の連結部23a、23bが連結されることを言う。
【0029】
「擁壁パネル5の荷重を負担可能な」とは、連結部21a、22a、23a、23bに擁壁パネル5の荷重が作用したときに、その荷重に耐える引張強度を有し、被吊り材21と吊り材22との連結状態が解除されない能力を有することを言う。被吊り材21と吊り材22の各連結部21a、22a、23a、23bは主に環状やフック状に形成されるが、特に問われない。
【0030】
請求項1における「支柱は平常時に擁壁パネル3の荷重を負担せず」とは、擁壁パネル5への支柱2の支持部分が互いに非接触状態にある場合と、接触しながらも圧縮力か引張力を及ぼしていない状態にある場合があることを言う。「擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されなくなったとき」とは、地震動の発生時等、何らかの原因で偶発的に擁壁パネル5が墨出しブロック4から離脱したときと、墨出しブロック4が擁壁パネル5を支持する能力を失ったときを含む。擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されなくなったとき、擁壁パネル5は支柱2の支持部分で支柱2に支持される。「擁壁パネル5への支柱2の支持部分」は擁壁パネル5を支持する支柱2の支持部分を指す。
【0031】
以上のように補助支持装置1は平常時には擁壁パネル5の荷重を負担しない状態にありながらも、擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されなくなったときに、擁壁パネル5への支持部分で擁壁パネル5を支持し、墨出しブロック4に代わって擁壁パネル5の荷重を負担する。従って補助支持装置1は擁壁パネル5が墨出しブロック4から降下、または落下したときの備えとしてのフェイルセーフとして機能することが可能である。この結果、擁壁パネル5が墨出しブロック4から離脱したときにも、墨出しブロック4から落下することが防止される。
【0032】
支柱2の支持部分が平常時、擁壁パネル5のいずれかの部分に接触している場合には、擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されている状態から支柱2に支持された状態に至るまでに原則的に降下せず、位置が変わらないことが想定される。接触していない場合には、擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されている状態から支柱2に支持された状態に至るまでに降下することが想定される。
【0033】
擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されている状態より降下した場合には、上記のように支柱2の擁壁パネル5との支持部分を元の位置に復帰させるために、昇降装置(ジャッキ)3が支柱2に内蔵、もしくは付属させられる(請求項3)。昇降装置3は支柱2の一部として組み込まれる場合と、支柱2に軸方向に(直列に)接続される場合がある。昇降装置3による支柱2の上昇時には昇降装置3は支持面11から反力を得て支柱2を上昇させる。
【発明の効果】
【0034】
補助支持装置は擁壁パネルが墨出しブロックに支持されなくなったときに、擁壁パネルへの支持部分で擁壁パネルを支持し、墨出しブロックに代わって擁壁パネルの荷重を負担するため、擁壁パネルが墨出しブロックから離脱したときに、墨出しブロックから落下することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】(a)は擁壁パネルを墨出しブロックに支持させながら法面に設置し、地山の支持面上に設置された補助支持装置に補助的に吊り支持可能な状態に組み合わせたときの様子を示した縦断面図、(b)は(a)の詳細例を示した破線円部分の拡大図である。
図2】支柱の支持部分が擁壁パネルを下方側から支持可能な状態にした場合の支持部分の詳細例を示した縦断面図である。
図3図1-(a)に示す擁壁パネルが長さ方向に3枚、配列したときの擁壁パネルの表面側を示した立面図である。
図4】(a)は法面最上部の上部に沿った方向に配置される墨出しブロックの製作例を示した表面側(擁壁パネル側)の立面図、(b)は(a)のx-x線断面図である。
図5】(a)は図4-(a)に示す墨出しブロックの表面側を示した斜視図、(b)は(a)の墨出しブロックの背面側(法面側)を示した斜視図である。
図6】(a)は擁壁パネルの製作例を示した立面図であり、中心線の左側が表面側を、右側が背面側(法面側)を示している。(b)は(a)のx-x線断面図、(c)は(a)の平面図である。
図7】墨出しブロックに擁壁パネルを支持させた状態で、調整部材と引寄せ装置を用いて擁壁パネル下端部の高さを調整した様子を示した縦断面図である。
図8】(a)は地山を掘削し、法面を形成する様子を示した縦断面図、(b)は法面の最上部に墨出しブロックを固定する様子を示した縦断面図、(c)は墨出しブロックに支持させながら、最上段の擁壁パネルを設置する様子を示した縦断面図、(d)は擁壁パネルを地山に固定する補強材を地中に挿入するための削孔を形成し、補強材を挿入した様子を示した縦断面図である。
図9】(a)は擁壁パネルの背面と法面との間の空隙に充填材(裏込め材)を注入する様子を示した縦断面図、(b)は擁壁パネルの表面に突出した補強材の頭部を擁壁パネルに定着する様子を示した縦断面図、(c)は最上段の擁壁パネルの下段側に隣接して擁壁パネルを設置する場合の法面形成時の様子を示した縦断面図、(d)は新たに形成した法面に下段側の擁壁パネルを設置する様子を示した縦断面図である。
図10】(a)は図8-(c)に示す状況を示した斜視図、(b)は図9-(a)に示す状況を示した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1-(a)は法面10の上部に、軸方向を法面10の上部に沿った方向に向けて配置され、法面10に固定される墨出しブロック4と、墨出しブロック4の下方に配置されて墨出しブロック4に支持される擁壁パネル5とを備える法面安定化擁壁(以下、擁壁)6において、擁壁パネル5の下方寄りの地山に形成された支持面11上に設置される補助支持装置1の構成例を示す。
【0037】
墨出しブロック4は背面側から地山側へ突出する定着具43が地山中に埋設されることで、法面10に固定される。「背面側」は地山側を指す。擁壁6の設置(構築)状態で擁壁6の表面になる側を「表面側」と言う。図面では鉛直面に対して傾斜した法面10に擁壁6を構築する様子を示しているが、法面10は鉛直面の場合もある。法面10の頂部に沿った方向には通常、墨出しブロック4は複数本、擁壁パネル5は複数枚、配列するが、1本の墨出しブロック4と1枚の擁壁パネル5のみから擁壁6が構成される場合もある。
【0038】
擁壁パネル5は擁壁パネル5自身を厚さ方向に貫通し、地山中に埋設されて定着される補強材7の法面10から突出する頭部が擁壁パネル5に表面側から定着されることで、法面10に固定される。補強材7は後述するように地中に形成される削孔12内に充填される充填材71内に埋設され、削孔12内に定着される。墨出しブロック4は擁壁パネル5が補強材7で法面10に固定されるまでの間、一時的に擁壁パネル5を支持する。墨出しブロック4による擁壁パネル5の具体的な支持方法は後述する。
【0039】
補助支持装置1は支持面11上に支持されて擁壁パネル3を直接、もしくは間接的に支持可能に、擁壁パネル5に組み合わせられ、擁壁パネル5の荷重(自重)を負担可能な支柱2を持つ。支柱2は平常時に擁壁パネル5の荷重を負担せず、擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されなくなったときに、擁壁パネル5への支持部分で擁壁パネル5を支持し、墨出しブロック4に代わって擁壁パネル5の荷重を負担する。支持部分は擁壁パネル5の荷重を負担する部分を指す。補助支持装置1は補強材7による擁壁パネル5の固定が完了するまでの間、墨出しブロック4の備えとして機能する。
【0040】
支柱2が擁壁パネル5を支持可能に、擁壁パネル5に組み合わせられる方法には、支柱2の支持部分が擁壁パネル5を図1に示すように上方側から吊り支持可能に組み合わせられる場合と、図2に示すように下方側から支持可能に組み合わせられる場合がある。擁壁パネル5は主に下端部かその付近において支柱2に支持されるが、必ずしも下端部である必要はない。
【0041】
支柱2には主に1本の、または互いに重なり、全体として伸縮し得るように配置される複数本の鋼管、または角形鋼管等の、主に筒状の鋼材等が使用される。図1に示すように昇降装置3が支柱2に直列に接続される場合には、支柱2は1本の鋼材等からも構成可能である。支柱2に昇降装置3が付属する場合にも、支柱2は複数本の鋼材等から全体として伸縮自在に構成されることもあるが、1本の鋼材等のみから構成されることもある。
【0042】
図1は昇降装置3がジャッキベース等、筒状の支柱2の内部に挿入可能な、外周面に雄ねじが形成された鋼棒等、鋼材の軸材31とこの雄ねじに螺入するハンドル33付きのナット32から構成される場合の例を示す。軸材31の上部は支柱2内に単純に挿入される。この場合、ハンドル33(ナット32)の軸回りの回転に伴い、ハンドル33が軸材31に対して昇降し、それに応じ、ハンドル33かナット32に支持された支柱2が昇降する。昇降装置3は軸材31の下端に接続されたベースプレート34において支持面11上に載置される。
【0043】
支柱2が擁壁パネル5を上方側から吊り支持する場合、擁壁パネル5の下方側に、表面側からアイボルト等の環状、またはフック状の連結部21aを有する被吊り材21が接続される。被吊り材21に対応した位置の擁壁パネル5の内部には図6-(a)、図7に示すように被吊り材21が接続されるためのインサート54が埋設されている。
【0044】
この場合、支柱2の上部か中間部等、いずれかの部分に被吊り材21に連結される環状、またはフック状の連結部22aと、支柱2への把持部等、固定部22bを有するパイプハンガー、クランプ等の吊り材22が支持部分として固定されるか、固定状態に接続される。被吊り材21と吊り材22とは双方に互いに係止、または係合する環状、またはフック状の連結部23a、23bを両側に有し、双方に連結されるシャックル等の連結材23が接続される。
【0045】
連結材23の連結部23a、23bはそれぞれ被吊り材21の連結部21aと吊り材22の連結部22aに連結されるか、係合する。連結材23の連結部23aと被吊り材21の連結部21aと、連結部23bと吊り材22の連結部22aの少なくともいずれか一方は非接触状態に保たれるか、接触しても互いに引張力を伝達しない状態に保たれる。連結部23aと連結部21aと、連結部23bと連結部22aのいずれか一方が非接触状態等であれば、他方が接触状態にあっても、平常時には擁壁パネル5の荷重は補助支持装置1には伝達されない。
【0046】
図1に示す例の場合、吊り材22は支柱2の外周に単純に外接した状態で支柱2を把持することで、支柱2に固定された状態にもなるが、この固定状態は両者間の摩擦力のみに依存するため、荷重が摩擦力を上回ることによる支柱2からの滑りによる降下の可能性があり得る。この降下を防止する上では、支柱2の外周面に周方向に連続する帯状の溝を形成し、この溝に吊り材22を外接させながら、溝の境界の凸部に下向きに係合させた状態で、固定部22bが支柱2を把持することが望ましい。
【0047】
図2に示すように支柱2が擁壁パネルを下方側から支持する場合、基本的に擁壁パネルの下端部に対応した位置に、支持部分としての受け材24が接合される等により装着される。受け材24は支柱2に一体的に形成される場合と、支柱2の外周面に形成された雄ねじに螺合等により接続されるか、または支柱2の外周面に形成された突起(フランジ)に下向きに係合する場合等がある。
【0048】
図2に示す例の場合、擁壁パネル5が墨出しブロック4による支持を失い、受け材24が擁壁パネル5を支持したときに、擁壁パネル5が厚さ方向、または幅方向にずれないよう、受け材24は擁壁パネル5下端部の表面側の隅角部が嵌合、または係合し得る、擁壁パネル5の下端部側に凹形状となった受け部24aが形成される。
【0049】
この場合、受け部24aに擁壁パネル5の下端部の表面側、例えば後述の凸部58が支柱2側に係合することで、支柱2側への滑りが防止される。受け部24aが受け材24(支柱2)の周方向に連続して形成されていれば、支柱2(補助支持装置1)の設置の向きに拘わらず、擁壁パネル5を支持することができる。
【0050】
この他、擁壁パネル5の下端部(凸部58)が載る受け材24の上面上に、擁壁パネル5との間の摩擦力が大きいゴム等の材料からなる面材を接着するか、凹凸面を形成する等の方法によっても、擁壁パネル5の受け材24上での滑りを防止することが可能である。
【0051】
なお、擁壁パネル5は墨出しブロック4に支持されている状態では、地震動等、格別な事態が発生しない限り、安定性を維持しているため、擁壁パネル5が降下することも、厚さ方向に移動することは原則として起こらない。従って平常時には擁壁パネル5下端部の凸部58は受け材24の上面、または受け部24aの上面と側面とは非接触状態に保たれるか、接触しても互いに圧縮力を伝達しない状態に保たれる。
【0052】
図3は長さ方向に3枚、配列した図1-(a)に示す擁壁パネル5が複数本の補助支持装置1に支持可能な状態にあるときの様子を示す。長さ方向に隣接する2枚の擁壁パネル5、5は両者間に跨る連結部材8が双方に接合されることで、隣接する擁壁パネル5、5の幅方向(高さ方向)の位置が統一され、長さ方向に整然と配列する。ここでは1枚の擁壁パネル5を長さ方向両側寄りと中央部を除いた2箇所に配置された補助支持装置1、1に支持可能な状態にしているが、補助支持装置1の配置位置と配置数は問われない。
【0053】
連結部材8は支持面11上での作業性より、擁壁パネル5の下方寄りの部分に配置される。連結部材8は例えば図3に示すように擁壁パネル5の下端部(下方側)の凸部58の表面に重なり、後述する調整部材9と同様、図7に示すように凸部58に埋設されているインサート54に螺入等するボルト81等により擁壁パネル5に接合される。
【0054】
連結部材8による隣接する擁壁パネル5、5の連結時には、各擁壁パネル5の、連結部材8と重複しない位置に接続され、法面10に固定される調整部材9を用いて擁壁パネル5の下端部の位置が調整される。この調整により、各擁壁パネル5の法面10に対する高さが調整され、隣接する擁壁パネル5、5の幅方向の位置が統一される。
【0055】
調整部材9は上記のように擁壁パネル5の下端部の凸部58の表面に重なり、インサート54に螺入等するボルト81等により接合される。調整部材9には擁壁パネル5の設置角度を調整し、擁壁パネル5の下端部の高さを調整する引寄せ装置91を接続するための被吊り具(アイボルト)9aが接続される。
【0056】
引寄せ装置91は地山との間の引張力を直接、利用して擁壁パネル5の下端部を法面10側へ引き寄せるか、または引張力を反力として利用して擁壁パネル5の下端部を法面10側へ押し込む働きをする。引張力の反力を取る地山にはアンカーピン等の定着具43が定着される。引張力を利用する場合の引寄せ装置91としては図7に示すようなレバーブロック(登録商標)の使用が適する。
【0057】
レバーブロック(登録商標)の場合、チェーン91aの一端に接続されたフック91bが被吊り具9aに接続され、他端に接続されたフック91cが定着具43に接続された状態で、レバー91dを往復動させることで、チェーン91aに張力が付与される。チェーン91aへの張力導入に伴い、フック91b、91c間距離が短縮されて擁壁パネル5の下端部が法面10に接近し、擁壁パネル5の設置角度が調整され、同時に下端部の高さが調整される。
【0058】
以下、墨出しブロック4と擁壁パネル5の具体的な構造を説明する。墨出しブロック4の表面側の下方側には図4図5に示すように表面側が凸となった、擁壁パネル5を擁壁パネル5の設置時に仮受け(仮支持)するための凸部41が形成される。墨出しブロック4は擁壁6を構成する擁壁パネル5に先行して法面10に設置され、固定されるため、墨出しブロック4の背面側からは地山中に挿入される定着具(アンカー)43が突設される。図5-(a)は図4-(a)に示す墨出しブロック4の表面をやや斜め上方から見た様子を、図5-(b)は背面をやや斜め上方から見た様子を示す。
【0059】
墨出しブロック4の表面側に凸部41が形成されることで、凸部41の上方には相対的に表面側が凹となった凹部42が形成される。墨出しブロック4を軸方向に見たときの縦断面上、凸部41と凹部42は図4-(b)に示すように後述の擁壁パネル5の凸部52が墨出しブロック4の凸部41に下向きに係合したときに、凸部52が凹部42に、後述の擁壁パネル5の凹部51が凸部41に擁壁パネル5の厚さ方向に嵌合するような形状に形成される。
【0060】
定着具43は例えば墨出しブロック4を後述のように揚重機13から吊り下げたまま法面10に対して位置決めした後に、墨出しブロック4の表面側から地中に打ち込まれる。定着具43の接続位置には、例えば図4-(a)、図5-(a)に示すように墨出しブロック4を厚さ方向に貫通する貫通孔44が形成され、定着具43は墨出しブロック4の表面側から貫通孔44に打ち込まれ、地中に挿入される。
【0061】
図7では墨出しブロック4の貫通孔44の凹部42側に、定着具43がアンカーピンのように、貫通孔44を貫通して地中に打ち込まれる定着部分と、定着部分に連続して屈曲し、墨出しブロック4に法面10側へ係止する係止部分を有するL字形状をする場合に、係止部分が入り込み、墨出しブロック4に係止する縦溝46を形成している。この場合、定着具43の係止部分は定着部分が地中に打ち込まれるに従い、縦溝46に法面10(地山)側へ係止することで、墨出しブロック4を法面10に押し付け、背面を法面に密着させる働きをする。
【0062】
図6-(b)に示すように擁壁パネル5の背面側の上方側(上方寄り)の、墨出しブロック4の凸部41に対応した位置には、背面側が凹となった凹部51が形成され、この凹部51の上に背面側が凸となり、墨出しブロック4の凹部42に重なる凸部52が形成される。
【0063】
擁壁パネル5の上方側の背面側は墨出しブロック4の表面側に対向して組み合わせられる、あるいは厚さ方向に重ね合わせられる。このとき、擁壁パネル5の凸部52が墨出しブロック4の凸部41に下方側へ係合することにより擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持される。擁壁パネル5の凸部52は墨出しブロック4の凹部42に厚さ方向に嵌合し、墨出しブロック4の凸部41は擁壁パネル5の凹部51に厚さ方向に嵌合する。
【0064】
図8-(c)に示すように擁壁パネル5が墨出しブロック4に重なったときの、図4-(a)に示す墨出しブロック4の擁壁パネル5との接続用のインサート45に対応した位置には、図6-(a)、図7に示すようにボルト81等が挿入、または螺入するための連結用孔53が擁壁パネル5の表面側から形成される。擁壁パネル5の表面側からは、図6-(a)、図9-(d)に示すように擁壁パネル5自身が吊り支持されるためのアイボルト等の被吊り具5Bが接続されるためのインサート54が埋設される。
【0065】
擁壁パネル3を表面側から、または背面側から見たときの立面上の中心部の1箇所、または幅方向の中心線付近の複数箇所には、図6図8に示すように地山中に埋設され、定着される補強材7が擁壁パネル5を厚さ方向に貫通するための挿通孔55が形成される。補強材7の、擁壁パネル5の表面から突出する頭部は擁壁パネル5表面の、挿通孔55の周囲に固定された図3に示す定着板5Cに定着される。
【0066】
擁壁パネル5にはまた、図6図7に示すように地山中に存在する雨水等の滞水を排出するための水抜き孔56が背面から表面まで貫通して形成される。水抜き孔56には、擁壁パネル5の設置状態で水抜き孔56の底になる部分が、擁壁パネル5の背面側から表面側へかけて水平に対して下向きに傾斜するような傾斜が付けられる。この他、擁壁パネル5には擁壁パネル5の表面側から背面と法面10との間の空隙中へ充填材71を充填(注入)するための注入孔59が擁壁パネル5を厚さ方向に貫通して形成される。
【0067】
以下、図8図9に基づき、法面10に沿った高さ方向に擁壁パネル5が2段、配列する場合の擁壁6を構築する施工手順例を説明する。以下の施工手順は並行する場合も前後する場合もある。
【0068】
図8-(a)に示すように地山を掘削し、構築すべき擁壁6、あるいは設置すべき擁壁パネル5の傾斜角度に応じた角度の法面10を形成する。法面10は少なくとも1段(1枚)の擁壁パネル5の高さ分に、補助支持装置1の設置分を加えた深さ、形成される。その後、(b)に示すように法面10の最上部(上部)に、軸方向を水平方向等、法面10の上部に沿った方向に向けて墨出しブロック4を設置する。このとき、予め背面側に一体化して背面から突出している、または設置後に突出する定着具43を地山中に挿入し、固定する。
【0069】
墨出しブロック4の揚重機13による吊り込みは図8-(b)に示すように墨出しブロック4の上面側のインサート45に接続された被吊り具4Aを揚重機13のワイヤから吊り下げることにより行われる。墨出しブロック4の軸方向に複数本の墨出しブロック4を配列させる場合には、図10に示すようにこの時点で全墨出しブロック4が法面10に設置され、固定される。被吊り具4Aは墨出しブロック4の設置後に外される。
【0070】
墨出しブロック4の設置後、図8-(c)、図10-(a)に示すように被吊り具5Bが接続された擁壁パネル5を墨出しブロック4の表面側へ吊り込み、墨出しブロック4の凸部41に擁壁パネル5の上方側の凸部52を下方側へ係合させて擁壁パネル5を墨出しブロック4に支持させる。このとき、図7に示すように擁壁パネル5の連結用孔53はそれに対応する、墨出しブロック4表面側のインサート45に合致させられる。
【0071】
連結用孔53からはボルト81等が墨出しブロック4のインサート45に螺入等させられ、擁壁パネル5が墨出しブロック4に接合される。図8-(b)、または(c)の時点で図1図2に示す補助支持装置1が支持面11上に設置される。図8-(c)の状況を図10-(a)に示す。
【0072】
その後、図8-(d)に示すように擁壁パネル5の挿通孔55を通じ、例えば二重管のケーシングパイプ等の削孔器具を用いて挿通孔55を挿通する補強材7を挿入するための削孔12が形成される。削孔12内への補強材7の挿入後、もしくは挿入前、または同時に削孔12内にモルタル等のグラウト材が充填され、グラウト材の硬化によって補強材7が削孔12内(グラウト材中)に定着される。
【0073】
補強材7の軸方向先端部は削孔12中へのグラウト材の注入等により削孔12内で定着され、補強材7に軸方向に引張力を与えられた状態で、後述のように擁壁パネル5の表面に突出する頭部が擁壁パネル5の表面に定着されることで、地山に圧縮力を加え、擁壁パネル5を法面10に密着させた状態に保つ。
【0074】
擁壁パネル5を墨出しブロック4に支持させた時点で、または墨出しブロック4に接合した時点で1段分の擁壁パネル5の設置が完了するが、擁壁パネル5の設置状態での安定性を確保する目的で、図9-(a)に示すように前記の擁壁パネル5の注入孔59を通じて擁壁パネル5の背面と法面10との間の空隙に充填材71が充填(注入)され、擁壁パネル5が法面10に固定される。
【0075】
このとき、挿通孔55からの充填材71の漏れ出しを防止するために、挿通孔55には弾性変形可能な閉塞材5Dが擁壁パネル5の表面側から暫定的に挿入される。閉塞材5Dは充填材71の充填後に回収される。擁壁パネル5が法面10に固定された時点で補助支持装置1は1段目の支持面11から回収され、新たに下段側に形成される支持面11上に、下段側の擁壁パネル5の設置前、または設置後に設置される。図9-(a)の状況を図10-(b)に示す。
【0076】
充填材71は補強材7が挿入された削孔12内に充填されるグラウト材と実質的に同一材料である。擁壁パネル5の背面には図6図7に示すように充填材71の充填領域を区画し、充填領域からの充填材71の漏れ(充填材71の無秩序な流出)を阻止するための止液材(シール材)5Aが固定されているため、削孔12内へのグラウト材の充填時に充填材としてのグラウト材を削孔12内から溢れ(流出)させて擁壁パネル5の背面側へ回り込ませることもある。その場合、図9-(a)に示す工程は省略される。
【0077】
擁壁パネル5の法面10への固定後、図9-(b)に示すように挿通孔55を貫通し、擁壁パネル5の表面側へ突出する補強材7の頭部が挿通孔55の周囲に設置された、図3に示す定着板5C等にナット等を用いて定着させられる。擁壁6が墨出しブロック4と1段の擁壁パネル5のみから構成される場合には、図9-(b)の作業が終了した時点で施工(擁壁6の構築作業)は終了する。
【0078】
図9-(d)に示す擁壁パネル5の下段側に擁壁パネル5を配列させる場合には、図9-(c)に示すように最上段の擁壁パネル5の下方の地山が掘削され、その下段側の擁壁パネル5を設置するための法面10と支持面11が形成される。この場合、前記のように図9-(d)に示すように擁壁パネル5表面側の下方側の、擁壁パネル5の上方側の凸部52に対応した位置に凹部57が形成され、凹部57の下に凹部51に対応した凸部58が形成される。
【0079】
下段側の擁壁パネル5設置用の法面10の形成後、図9-(d)に示すように下段側の擁壁パネル5の上方側の背面が上段側の擁壁パネル5の下方側の表面に対向して組み合わせられる。下段側の擁壁パネル5の上方側の凸部52は上段側の擁壁パネル5の下方側の凹部57に嵌合等しながら凸部58に下方側へ係合し、下段側の擁壁パネル5が上段側の擁壁パネル5に支持される。
【0080】
その後、下段側の擁壁パネル5の補強材7による法面10への固定、下段側の擁壁パネル5の背面側への充填材7の充填、下段側の擁壁パネル5を挿通した補強材4の頭部の擁壁パネル5への定着の作業が終了した時点で、2段の擁壁パネル5、5からなる擁壁6の構築が終了する。擁壁パネル5が3段以上、配列する場合には更に図9-(d)以下の作業が繰り返される。
【符号の説明】
【0081】
1……補助支持装置、
2……支柱、
21……被吊り材、21a……連結部、
22……吊り材、22a……連結部、22b……固定部、
23……連結材、23a……連結部、23b……連結部、
24……受け材、24a……受け部、
3……昇降装置、31……軸材、32……ナット、33……ハンドル、34……ベースプレート、
4……墨出しブロック、41……凸部、42……凹部、43……定着具、44……貫通孔、45……インサート、46……縦溝、4A……被吊り具、
5……擁壁パネル、51……(上方側の)凹部、52……(上方側の)凸部、53……連結用孔、54……インサート、55……挿通孔、56……水抜き孔、57……(下方側の)凹部、58……(下方側の)凸部、59……注入孔、
5A……止液材、5B……被吊り具、5C……定着板、5D……閉塞材、
6……法面安定化擁壁、
7……補強材、71……充填材、
8……連結部材、81……ボルト、
9……調整部材、9a……被吊り具、
91……引寄せ装置、91a……チェーン、91b……フック、91c……フック、91d……レバー、
10……法面、
11……支持面、
12……削孔、
13……揚重機。
【要約】
【課題】法面の上部に、下方に配置される擁壁パネルを支持する能力を持つ墨出しブロックを先行して固定し、墨出しブロックに擁壁パネルを支持させて擁壁6を構築する方法において、墨出しブロックが擁壁パネルを支持する能力を失ったときに、墨出しブロックに代わって擁壁パネルを補助的に支持する。
【解決手段】擁壁パネル5の下方寄りに対応した位置かその付近の地山に形成された支持面11上に設置され、擁壁パネル5を直接、もしくは間接的に支持可能に擁壁パネル5に組み合わせられ、擁壁パネル5の荷重を負担可能な支柱2に擁壁パネル5を補助的に支持させる。支柱2は平常時に擁壁パネル5の荷重を負担せず、擁壁パネル5が墨出しブロック4に支持されなくなったときに墨出しブロック4に代わって擁壁パネル5を支持する。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図10