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特許7194851ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/12 20060101AFI20221215BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20221215BHJP
   B29C 64/153 20170101ALI20221215BHJP
   C08L 59/00 20060101ALI20221215BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20221215BHJP
   C08G 2/10 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
C08J3/12 Z CEZ
B29C64/314
B29C64/153
C08L59/00
C08K3/36
C08G2/10
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2022054140
(22)【出願日】2022-03-29
(62)【分割の表示】P 2018122463の分割
【原出願日】2018-06-27
(65)【公開番号】P2022095756
(43)【公開日】2022-06-28
【審査請求日】2022-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165951
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 憲悟
(72)【発明者】
【氏名】武藤 俊介
(72)【発明者】
【氏名】小山 敦
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-015972(JP,A)
【文献】国際公開第2017/040897(WO,A1)
【文献】特表2013-508199(JP,A)
【文献】特開2017-206738(JP,A)
【文献】特開2018-44093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B7/00-11/14
13/00-15/06
B29C31/00-31/10
37/00-37/04
64/00-64/40
67/00-67/08
67/24-69/02
71/00-71/02
73/00-73/34
B29D1/00-29/10
33/00
99/00
B33Y10/00-99/00
C08G2/00-2/38
61/00-61/12
C08J3/00-3/28
99/00
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径(D50)が30μm以上70μm以下であり、
疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含み、
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下であることを特徴とする、ポリアセタール粉末。
【請求項2】
前記疎水性シリカが乾式法シリカである、請求項1に記載のポリアセタール粉末。
【請求項3】
前記疎水性シリカの平均一次粒子径が1nm以上20nm以下である、請求項1又は2に記載のポリアセタール粉末。
【請求項4】
前記疎水性シリカのBET比表面積が50m/g以上300m/g以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項5】
前記疎水性シリカが、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1種以上で疎水化されている、請求項1~4のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項6】
前記ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下である、請求項1~5のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項7】
径が前記D50の2倍以上である粒子の割合が10vol%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項8】
径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が10vol%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項9】
前記D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下である、請求項1~のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項10】
オキシメチレンユニット100molに対してコモノマーユニットを0.1mol以上1.3mol以下有するポリアセタールコポリマーを含み、
融点が167℃以上178℃以下であり、
結晶化開始温度が140℃以上152℃以下である、
請求項1~のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項11】
示差走査熱量(DSC)測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下である、請求項1~10のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項12】
結晶化速度が30秒以上50秒以下である、請求項1~11のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項13】
前記ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均短径長径比が0.50以上である、請求項1~12のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項14】
前記ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均表面平滑形状係数が0.80以上である、請求項1~13のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項15】
付加製造に用いられる、請求項1~14のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【請求項16】
付加製造に用いることを特徴とする、請求項1~15のいずれかに記載のポリアセタール粉末の使用方法。
【請求項17】
請求項1~15のいずれかに記載のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを特徴とする、付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアセタール粉末及びその使用方法、並びに付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、複雑な構造を有する造形品を作製する技術の一つとして、付加製造技術が広く普及しつつある。
【0003】
この付加製造技術は、金型を使用しない方法であるため、短期間で試作できるというメリッ卜があり、例えば機能確認用の試作に用いられることが多くなってきている。また、試作への適用のみならず、少量多品種製品の直接製造への適用のニーズも増加している。そして、このような背景の中、付加製造技術の中でも、特に、選択的レーザー焼結法のように粉末状の樹脂を造形材料として用いる3Dプリンターが注目されている。
【0004】
選択的レーザー焼結法は、造形台の上に、粉末材料をローラーやブレードで敷き、その粉末材料に選択的にレーザーを照射し、加熱-焼結し、それらを順次繰り返すことで積層品を作る方法である(特許文献1)。選択的レーザー焼結法は、現在、樹脂製の工業部品に使用されている熱可塑性樹脂が使用可能な方法であるため、他の付加製造技術(液槽光重合法、材料噴射法など)に比べ、造形品の強度、信頼性、寸法安定性が高い点で優れている。また、選択的レーザー焼結法は、機械加工等の従来の方法では達成し得なかった、相当複雑な形状及び輪郭を有する造形品の製造を可能にすることも、特徴の一つである。
【0005】
選択的レーザー焼結法に使用可能な粉末材料を構成する樹脂としては、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリプロピレン等が広く知られている(特許文献2)。また、特許文献3には、選択的レーザー焼結法に使用可能なポリアセタールから構成される粉末が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許4,863,538号
【文献】国際公開第1996/006881号
【文献】国際公開第2011/051250号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
選択的レーザー焼結法にポリアセタール粉末を用いる付加造形においては、特に、粉末の高温時積層性、造形箇所への粉載り、造形品の機械的物性が非常に重要である。
しかしながら、特許文献1~3では、これらについて十分な検討がなされておらず、ポリアセタール粉末の高温時積層性、造形箇所への粉載り、造形品の機械的物性を高める点で、未だ改良の余地があった。
【0008】
そこで、本発明が解決しようとする課題は、付加製造技術に用いることができ、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りに優れた、ポリアセタール粉末を提供することである。また、本発明が解決しようとする課題は、上述したポリアセタール粉末の使用方法、並びに、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な付加製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の粉体特性を有し疎水性シリカを含むポリアセタール粉末が、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りに優れ、付加製造技術に用いることができ、高い機械的物性を有する造形品の製造を可能にすることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]
平均粒子径(D50)が30μm以上70μm以下であり、
疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含む、
ことを特徴とする、ポリアセタール粉末。
[2]
前記疎水性シリカが乾式法シリカである、[1]に記載のポリアセタール粉末。
[3]
前記疎水性シリカの平均一次粒子径が1nm以上20nm以下である、[1]又は[2]に記載のポリアセタール粉末。
[4]
前記疎水性シリカのBET比表面積が50m/g以上300m/g以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[5]
前記疎水性シリカが、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される1種以上で疎水化されている、[1]~[4]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[6]
前記ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下である、[1]~[5]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[7]
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下である、[1]~[6]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[8]
径が前記D50の2倍以上である粒子の割合が10vol%以下である、[1]~[7]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[9]
径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が10vol%以下である、[1]~[8]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[10]
前記D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[11]
オキシメチレンユニット100molに対してコモノマーユニットを0.1mol以上1.3mol以下有するポリアセタールコポリマーを含み、
融点が167℃以上178℃以下であり、
結晶化開始温度が140℃以上152℃以下である、
[1]~[10]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[12]
示差走査熱量(DSC)測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下である、[1]~[11]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[13]
結晶化速度が30秒以上50秒以下である、[1]~[12]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[14]
前記ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均短径長径比が0.50以上である、[1]~[13]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[15]
前記ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均表面平滑形状係数が0.80以上である、[1]~[14]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
[16]
付加製造に用いられる、[1]~[15]のいずれかに記載のポリアセタール粉末。
【0011】
[17]
付加製造に用いることを特徴とする、[1]~[16]のいずれかに記載のポリアセタール粉末の使用方法。
【0012】
[18]
[1]~[16]のいずれかに記載のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを特徴とする、付加製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、付加製造技術に用いることができ、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な、高温時積層性及び造形箇所への粉載りに優れた、ポリアセタール粉末を提供することができる。また、本発明によれば、上述したポリアセタール粉末の使用方法、並びに、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な付加製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例1で得られたポリアセタール粉末の表面を走査電子顕微鏡で観察した二次電子像である。
図2】比較例1で得られたポリアセタール粉末の表面を走査電子顕微鏡で観察した二次電子像である。
図3】比較例2で得られたポリアセタール粉末の表面を走査電子顕微鏡で観察した二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施形態と言う。)について詳細に説明する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
また、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0016】
[ポリアセタール粉末]
本実施形態のポリアセタール粉末は、平均粒子径(D50)が30μm以上70μm以下であり、疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含む、ことを特徴とする。
本実施形態のポリアセタール粉末は、高温時積層性及び造形箇所への粉載りに優れ、付加製造の造形材料として好適に用いることができ、高い機械的物性を有する造形品を得ることができる。
以下、本実施形態のポリアセタール粉末の粉体特性、樹脂特性、粒子特性等について説明する。
【0017】
<平均粒子径(D50)>
本実施形態のポリアセタール粉末は、平均粒子径(D50)が、30μm以上70μm以下であることを特徴とする。ポリアセタール粉末の平均粒子径(D50)が前記範囲内であれば、作業性を十分に確保することができ、例えば100μm程度の厚みに十分均一に敷き詰めることができ、得られる造形品における微小な空隙(ボイド)の発生を十分に抑制することができる。
ポリアセタール粉末のD50が30μm未満であると、作業性が悪化し、一方、70μmを超えると、例えば100μm程度の薄さに均一に敷き詰めることが困難となり、得られる造形品に微小な空隙(ボイド)が多く発生する虞がある。
同様の観点から、ポリアセタール粉末のD50は、33μm以上67μm以下であることが好ましく、35μm以上65μm以下であることがより好ましい。
【0018】
本実施形態のポリアセタール粉末のD50は、レーザー回折・散乱法によって湿式(溶媒:水)で測定した体積基準の粒度分布から求められる、微粒径側から累積した50%粒子径(メジアン径)を意味し、より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
また、上記範囲の平均粒子径(D50)は、疎水性シリカを含むポリアセタール粉末について、すなわち、後述するように、疎水性シリカが粒子表面に付着して存在するポリアセタール粉末について測定した値とする。
【0019】
<疎水性シリカ>
本実施形態のポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末100質量%に対して、疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下含むことが好ましい。
付加製造では、ポリアセタール粉末の流動性が非常に重要である。造形箇所ではレーザーによる加熱でポリアセタール粉末が溶融して凹むが、流動性に劣る粉末を用いると凹みの表面の粗さが大きくなり、更に造形箇所への粉載りが悪くなり、空隙(ボイド)が生じて造形品の機械的物性が損なわれたり、造形が中止する恐れがある。この点に関し、本発明者らは、ポリアセタール粉末が疎水性シリカを0.05質量%以上1.0質量%以下の含有量で含み、更に、疎水性シリカがポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に付着していることにより、粉末の流動性を向上させることができ、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りを向上させ、造形品の機械的物性を高めることができることを見出した。
更に、ポリアセタール粉末としては、通常、個数基準の頻度分布として表示される粒度分布曲線(以下、単に「粒度分布曲線」と称する)の幅が狭い粉末が好まれるが、粒度分布曲線の幅が広い粉末を用いても上記と同様の効果が得られることを見出した。これにより、ポリアセタール粉末の生産性(例えば、分級工程後の収率など)も高めることができる。
【0020】
一方、ポリアセタール粉末における疎水性シリカの含有量が0.05質量%未満の場合は、粉末の流動性を向上させる効果が不十分である。また、疎水性シリカの含有量が1.0質量%超の場合は、ポリアセタール粉末のレーザー吸収が疎水性シリカによって阻害されるため加熱-焼結に必要な熱量を得ることができず、空隙(ボイド)が生じて造形品の機械的物性や造形精度が損なわれる恐れがある。また、疎水性シリカに替えて親水性シリカを用いても、ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に付着せず、粉末の流動性を向上させる効果を発揮できない。
同様の観点から、本実施形態のポリアセタール粉末における疎水性シリカの含有量は、ポリアセタール粉末100質量%に対し、0.1質量%以上0.7質量%以下であることがより好ましく、0.2質量%以上0.5質量%以下であることが更に好ましい。
【0021】
本実施形態のポリアセタール粉末において、疎水性シリカがポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に付着しているとは、疎水性シリカ粒子1個の少なくとも一部分が該ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に露出して残りの部分が該粒子内に埋まっている場合も含む。一方、ポリアセタール組成物に疎水性シリカが混練されてポリアセタール粉末が製造される等により、ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に疎水性シリカ粒子が露出していない場合は、本実施形態に含まれない。
疎水性シリカがポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に付着しているか否かは、ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面を走査電子顕微鏡(SEM)により観察することで確認することができる。例えば、本実施形態に係るポリアセタール粉末の表面をSEMで観察した二次電子像では、ポリアセタール粉末の表面に多数の細かい疎水性シリカの粒子が付着している(例えば、図1)。一方、シリカを用いずに製造した場合、及び疎水性シリカに代えて親水性シリカを用いた場合は、ポリアセタール粉末の表面に細かいシリカの粒子の付着が認められない(例えば、図2図3)。
上述のポリアセタール粉末は、後述するように、分級工程後に得られたポリアセタール粉末に所定量の疎水性シリカを添加し混合すること(疎水性シリカ混合工程)によって得ることができる。
【0022】
本実施形態において、疎水性シリカとしては、特に限定されず、工業用途で通常使用されているものを用いることができ、例えば、乾式法シリカ及び湿式法シリカのいずれも用いることができるが、中でも乾式法シリカを用いることが好ましい。湿式法シリカは、その製造過程でポリアセタールを分解する不純物が含まれる場合があり、ポリアセタール粉末の樹脂特性等を損なう恐れがある。一方、乾式法シリカは、その製造過程でそのような不純物が含まれる可能性がなく、ポリアセタール粉末の樹脂特性等を損なう恐れがない。
【0023】
本実施形態において、疎水性シリカの平均一次粒径は、特に限定されないが、1nm以上20nm以下であることが好ましい。疎水性シリカの平均一次粒径が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の流動性をより高めることができ、高温時の積層性、造形箇所への粉載り、及び造形品の機械的特性をより向上させることができる。
同様の観点から、疎水性シリカの平均一次粒径は、5nm以上15nm以下であることがより好ましく、7nm以上13nm以下であることが更に好ましい。
なお、疎水性シリカの平均一次粒径は、レーザー回折・散乱法によって湿式(溶媒:水)で測定することができる。
【0024】
本実施形態において、疎水性シリカのBET比表面積は、特に限定されないが、50m/g以上300m/g以下であることが好ましい。疎水性シリカのBET比表面積が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の流動性を更に高め、高温時の積層性、造形箇所への粉載り、及び造形品の機械的特性を更に向上させることができる。
同様の観点から、疎水性シリカのBET比表面積は、100m/g以上250m/g以下であることがより好ましく、130m/g以上200m/g以下であることが更に好ましい。
なお、疎水性シリカのBET比表面積は、BET法に従って求めることができる。
【0025】
本実施形態において、乾式法シリカとしては、特に限定されず、工業用途で通常使用されているものを用いることができるが、表面改質剤で疎水性シリカの表面水酸基(シラノール基)を疎水化したものであることが好ましい。表面改質剤で疎水化した疎水性シリカは、表面水酸基が低減して、ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面への付着性が高まり、ポリアセタール粉末の流動性を一層高めることができる。
前記表面改質剤としては、シリカの表面改質処理に通常使用されるものであれば特に限定されず、例えば、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、シリコーンオイル、オクチルシラン、ヘキサメチルシラザン等が挙げられる。中でも、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、及びシリコーンオイルからなる群より選択される少なくとも1種以上の表面改質剤で疎水化されていることが好ましい。
上記表面改質剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記表面改質剤で疎水化された疎水性シリカとしては、市販品を用いてもよく、表面改質剤を用いて疎水化を行って得られた疎水性シリカを用いてもよい。
【0026】
[ポリアセタールコポリマー]
本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂成分として、オキシメチレンユニット100molに対して0.1mol以上1.3mol以下のコモノマーユニットを有するポリアセタールコポリマーを含むことが好ましい。樹脂成分として含まれるポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの含有率が前記範囲内であれば、熱安定性が良好で、レーザー照射時にガスの発生が抑えられ、ミクロボイドの少ない造形品が得られるポリアセタール粉末を得ることができる。また、造形機内に長時間滞留しても劣化が少なく、リサイクルが可能なポリアセタール粉末を得ることができる。
同様の観点から、ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニット含有率は、オキシメチレンユニット100molに対して、0.3mol以上1.1mol以下であることがより好ましく、0.5mol以上0.9mol以下であることが更に好ましい。
コモノマーユニットは、ポリアセタールコポリマーの主鎖に含まれていてもよく、側鎖に含まれていてもよく、主鎖と側鎖の両方に含まれていてもよい。
【0027】
本実施形態においてポリアセタールコポリマーが有するコモノマーユニットは、オキシメチレンユニットと共重合できるユニットであれば特に限定されないが、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットであることが好ましい。ポリアセタールコポリマーの両末端又は片末端は、エステル基及び/又はエーテル基により封鎖されていてもよい。
そして、上述のような特定のコモノマーユニット含有率を有するポリアセタールコポリマーは、例えば、後述する製造方法によって製造することができる。
【0028】
ポリアセタールコポリマーにおけるコモノマーユニットの含有率については、H-NMR法を用いて、以下の手順で求めることができる。
なお、以下の手順は、コモノマーユニットが炭素数2以上のオキシアルキレンユニットであるポリアセタールコポリマーについて述べる。
即ち、ポリアセタールコポリマーを、ヘキサフルオロイソプロパノールにより濃度1.5質量%となるように24時間かけて溶解させ、この溶解液を用いてH-NMR解析を行い、オキシメチレンユニットと、炭素数2以上のオキシアルキレンユニットと、の帰属ピ-クの積分値の比率から、オキシメチレンユニット(a=100mol)に対する炭素数2以上のオキシアルキレンユニット(bmol)の含有率(b/a:mol/100mol)を求めることができる。
【0029】
<融点>
本実施形態のポリアセタール粉末は、融点が167℃以上178℃以下であることが好ましい。融点が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の結晶化開始温度との温度差(プロセスウィンドウ)を十分広くすることができ、造形時の造形エリア内の温度差に対するポリアセタール粉末の許容性を広げ(例えば、造形エリアの温度が、周囲への放熱等により、設定温度よりも低くなってしまっている部分があっても、造形時の反りの発生を抑制でき)、得られる造形品の造形精度を高めることができる。また、一度に多量の造形品を量産する場合は、造形装置内の温度差に対するポリアセタール粉末の許容性を広げ、造形品間の造形精度のばらつきを抑制することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の融点は、168℃以上176℃以下であることがより好ましく、169℃以上174℃以下であることが更に好ましい。
【0030】
ここで、ポリアセタール粉末の融点とは、当該ポリアセタール粉末が本来有する固有の融点を意味し、示差走査熱量(DSC)測定でセカンドスキャンの融点として測定することができる。DSCで測定したファーストスキャンの融点は、測定対象のポリアセタール粉末の熱履歴の影響を受けるため、製造過程で凍結粉砕された場合など、ポリアセタール粉末の固有の融点より下がる場合があり得る。一方、DSCで測定するセカンドスキャンの融点は、ポリアセタール粉末がファーストスキャン測定時に一度融解し固化した後に再度融解する際の融点として測定されるため、熱履歴の影響を受けず、測定対象物が本来有する固有の融点とすることができる。
【0031】
上記範囲の融点を有するポリアセタール粉末は、コモノマーユニット含有率を上記範囲内で調整してポリアセタールコポリマーの結晶化度を制御することによって、得ることができる。
なお、通常、ポリアセタールコポリマー中のコモノマー含有率を増やすと結晶化度が下がり、ポリアセタール粉末の融点を低くすることができる。逆に、ポリアセタールコポリマー中のコモノマー含有率を減らせば結晶化度が上がり、ポリアセタール粉末の融点を高くすることができる。
【0032】
<結晶化開始温度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、結晶化開始温度が140℃以上152℃以下であることが好ましい。
付加製造中の造形エリア内及び造形装置内の温度は、樹脂粉末の結晶化開始温度より高温に常時保たれている。しかし、造形エリア内又は造形装置内において多少の温度差(温度ムラ)が生じた場合、加熱-焼結された造形層において結晶化開始温度まで冷却された部分のポリアセタールが結晶化し、特に積層方向に反りが生じ、得られる造形品において造形精度を低下させていた。この点に関し、本発明者らは、ポリアセタール粉末の融点と結晶化開始温度との温度差を大きくすることによって造形エリア内及び造形装置内での温度差(温度ムラ)に対する許容性を広げることができ、造形中の反りを抑制し、得られる造形品の造形精度を高めることができることを見出した。そして、一度に多量の造形品を量産する場合は、造形品間の造形精度のばらつきも抑えることができることを見出した。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の結晶化開始温度は、144℃以上152℃以下であることがより好ましく、147℃以上151℃以下であることが更に好ましい。
ポリアセタール粉末の結晶化開始温度は、示差走査熱量(DSC)測定によって測定することができ、より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
上記範囲の結晶化温度を有するポリアセタール粉末は、ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの主鎖中の含有率及び/又は結晶核剤の量、等を調整することによって得ることができる。
【0033】
<ファーストスキャン融点とセカンドスキャン融点との差>
本実施形態のポリアセタール粉末は、示差走査熱量(DSC)測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下であることが好ましい。
樹脂粉末を造形材料として使用する付加製造において重要となるプロセスウィンドウの広さを決めることになるポリアセタール粉末の融点は、DSC測定におけるファーストスキャンの融点に相当する。ファーストスキャンの融点は、ポリアセタール粉末が製造されるまでに受けた熱履歴を反映している。
一方、セカンドスキャンの融点は、樹脂自体の実力としての融点であり、高い方が好ましい。ファーストスキャンの融点が低くてもセカンドスキャンの融点が高ければ、後述するアニール等の後処理を事前にすることで、ファーストスキャンの融点を高めることが可能である。
【0034】
そして、ファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差が0℃以上5℃以下であれば樹脂の持つ実力に近い広いプロセスウィンドウを達成することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、DSC測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差は、0℃以上4℃以下であることがより好ましく、0℃以上3℃以下であることが更に好ましい。
なお、DSC測定におけるファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差は、DSC測定で測定されたファーストスキャンの融点及びセカンドスキャンの融点のうち、高温である方の融点から低温である方の融点を差し引いた値とする。
上記範囲内のファーストスキャンの融点とセカンドスキャンの融点との差を有するポリアセタール粉末は、製造過程における凍結粉砕の条件を制御すること、凍結粉砕後で分級工程の前又は後にアニール(融点より低温かつ結晶成長が可能な程度の高温で一定時間保持すること。例えば、120℃で1時間など)によって結晶成長させること、等によって得ることができる。
【0035】
<結晶化速度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、結晶化速度が30秒以上50秒以下であることが好ましい。結晶化速度が前記範囲内であれば、造形途中の造形エリア内や層間の温度ムラを許容して、造形中の反りを一層抑制し、得られる造形品の造形精度を高めることができる。一方、結晶化速度が30秒未満であると、樹脂の結晶化が早過ぎて、造形途中の造形エリア内や層間の温度ムラを許容することができず、造形中に反りが生じて、造形品の造形精度が低下する恐れがある。また、結晶化速度が50秒超であると、樹脂の結晶化が遅過ぎて、造形部と非造形部との境界線の精密さが損なわれて、造形品の輪郭の造形精度が低下する恐れがある。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の結晶化速度は、30秒以上47秒以下であることがより好ましく、31秒以上45秒以下であることが更に好ましい。
ここで、結晶化速度は、DSC測定において、一旦融解させたポリアセタール粉末を急速降温して結晶化開始温度付近の所定温度で保持し結晶化による発熱ピークを観察して、前記所定温度での保持開始から発熱ピークの最高温度(ピークトップ温度)に達するまでの時間とする。より具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0036】
ポリアセタール粉末の結晶化速度を制御する方法としては、ポリアセタールコポリマーのコモノマー含有率や、結晶核剤の添加量などを調節すること、等があげられる。具体的には、コモノマーユニット含有率を多くすれば結晶化度が下がるので結晶化速度が遅くなる傾向にある。また、結晶核剤となるような添加剤を含まないようにすることでも結晶化速度を遅くすることができる。
上記範囲内の結晶化速度を有するポリアセタール粉末は、上述のように、ポリアセタールコポリマーのコモノマーユニットの含有率や、結晶核剤の有無、種類、及び添加量などを適宜調整することによって得ることができる。
【0037】
<MFR>
本実施形態のポリアセタール粉末は、メルトフローレート(MFR)が70g/10分未満であることが好ましい。MFRが70g/10分未満である程にポリアセタール自体が高分子量体であれば、クリープ特性に優れた造形品が得られる。
また、本実施形態のポリアセタール粉末は、メルトフローレート(MFR)が2.5g/10分以上であることも好ましい。ポリアセタール粉末のMFRが2.5g/10分以上であることにより、レーザーで溶融した際に、ポリアセタールが流れることで粒子同士の隙間をより効率的に埋めることができ、これにより、造形品中のボイドがより少なくなり、引張強さ等の機械的物性に優れた造形品が得られる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末のMFRは、5g/10分以上55g/10分以下であることがより好ましく、20g/10分以上40g/10分以下であることが更に好ましい。
ここで、ポリアセタール粉末のMFRは、ISO1133(条件D・温度190℃)に準拠して測定されるものである。
上記範囲内のMFRを有するポリアセタール粉末は、ポリアセタールコポリマーの重合工程において連鎖移動剤の添加量を調整することによって得ることができる。
【0038】
<重量減少率>
本実施形態のポリアセタール粉末は、当該ポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度で1時間保持したときの重量減少率が、5%以下であることが好ましい。ポリアセタール粉末の上記重量減少率が5%以下であることにより、高い熱安定性を保持することができ、例えばポリアセタールからなるポリアセタール粉末を用いた場合に、加熱によるホルムアルデヒド等の揮発性有機物質(VOC)の放出を十分に抑制することができる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末の上記重量減少率は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが更に好ましい。
ポリアセタール粉末の上記重量減少率は、熱重量測定装置で測定することができ、より具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定することができる。
上記範囲内の重量減少率を有するポリアセタール粉末は、上記ポリアセタールコポリマー以外の成分、例えば、疎水性シリカ、後述する他の樹脂、各種添加剤等の種類及び/又は添加量を調整することによって得ることができる。
【0039】
<固め嵩密度/ゆるめ嵩密度>
本実施形態のポリアセタール粉末は、固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値(固め嵩密度/ゆるめ嵩密度)が、1.45以下であることが好ましい。固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値が前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末が流動性及び積層性に優れ、ボイドの発生を一層抑制することができ、造形品を高密度にして機械的物性を一層高めることができる。
同様の観点から、固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値は、1.40以下であることがより好ましく、1.36以下であることが更に好ましい。
ゆるめ嵩密度は、所定容積の容器内に粉末を疎充填した(タップしない)状態で測定する密度である。固め嵩密度は、粉末を充填した所定容積の容器を一定高さから一定速度で繰り返し落下させ(タップ)、容器内の粉末の嵩密度がほぼ一定となるまで密に充填した状態で測定する密度である。固め嵩密度、ゆるめ嵩密度は、具体的には、後述の実施例記載の方法によって測定することができる。
【0040】
固め嵩密度をゆるめ嵩密度で除した値が上記範囲内のポリアセタール粉末は、粒度分布(例えば、後述する、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合など)、粒子形状(例えば、後述する、平均短径長径比、平均表面平滑形状係数など)などを制御することによって、得ることができる。
【0041】
<粒度分布>
本実施形態のポリアセタール粉末は、径が平均粒子径(D50)の2倍以上である粒子(例えば、D50が50μmである場合には、径が100μm以上である粒子)の割合が、10vol%以下であることが好ましい。上記割合が10vol%以下であることで、ポリアセタール粉末の流動性を向上させ、造形品を高密度にして、機械的物性を高めることが可能となる上、造形品の表面をより滑らかにでき、造形精度が向上するので、精密な部品を製造し易くなる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、径がD50の2倍以上である粒子の割合は、5vol%以下であることがより好ましく、3vol%以下であることが更に好ましく、実質的に0vol%であることがより更に好ましい。
【0042】
本実施形態のポリアセタール粉末は、径が平均粒子径(D50)の0.2倍以下である粒子(例えば、D50が50μmである場合には、径が10μm以下である粒子)の割合が、10vol%以下であることが好ましい。
造形に用いるレーザービームは、照射スポット寸法を非常に小さくできるので、造形品の輪郭の解像度を非常に鮮明にすることができる。しかしながら、レーザーでの加熱により融着した箇所からの熱伝導により、レーザーが走査された箇所の外側にある粉末が焼結対象の部分に直接融着し、レーザー走査領域を越え、従って設計寸法を越えて粉末が融着する恐れがある。また、焼結からの熱が残っていると、単に粉末をその層の上に新たに敷き並べただけでも、当該粉末が先の層の焼結部分に焼結して、いわゆる層間成長が生じる恐れがある。このような層間成長が生じた場合には、造形精度が低下する上、完成品から未焼結粉末を除去することが困難になる。この点に関し、本発明者らは、径がD50の0.2倍以下である粒子が、特に融着し易く、造形精度に影響を与えること、並びに、その割合を10vol%以下とすることで、造形精度が高まり、精密な部品を製造し易くなることを見出した。更に、上記割合が10vol%以下であることで、ポリアセタール粉末の流動性を向上させ、造形品を高密度にして、機械的物性を高めることも可能となる。
同様の観点から、ポリアセタール粉末における、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合は、5vol%以下であることがより好ましく、3vol%以下であることが更に好ましく、実質的に0vol%であることがより更に好ましい。
【0043】
また、本実施形態のポリアセタール粉末は、D50が65μm以下であり、径が前記D50の0.2倍以下である粒子の割合が3vol%以下であることが好ましい。D50及び径が該D50の0.2倍以下である粒子の割合が各々前記範囲内であれば、ポリアセタール粉末の積層性を一層向上させ、得られる造形品の機械的物性を一層高めることができる。
同様の観点から、D50が63μm以下であり、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が2vol%以下であることがより好ましく、D50が62μm以下であり、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が1vol%以下であることが更に好ましい。
【0044】
径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合は、レーザー回折・散乱法によって測定した粒度分布及びD50から求めることができる。
径がD50の2倍以上である粒子の割合又は/及び径がD50の0.2倍以下である粒子の割合が上記範囲内のポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0045】
<粒子形状>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、流動性の観点から、球形であることが好ましい。一般に、粒子材料としてのポリアセタール等の樹脂は、重合により微粒子を直接形成することが難しく、かかる樹脂を用いて粉末を製造するためには、任意の方法で得たペレットを粉砕するなどといった操作が必要となる。そのため、その際に、粉砕方法や粉砕条件を適宜調整して、球形に近い粒子を直接得るか、或いは、粉砕した粉末を後加工により加熱しながら撹拌し、粒子の角を取って丸めるなどして、球形の粒子を得ることができる。
以下、本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子の形状について、より具体的に説明する。
【0046】
<<粒子の平均短径長径比>>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、平均短径長径比が0.50以上であることが好ましい。粒子の平均短径長径比が0.50以上であることで、いびつさを回避して流動性を高め、粉末を隙間なく敷き並べることができる。
同様の観点から、粒子の平均短径長径比は、0.65以上であることがより好ましく、0.70以上であることが更に好ましい。
ここで、平均短径長径比とは、粒子の長径に対する短径の比(短径/長径)をいい、平均短径長径比とは、任意に選択した100個の粒子の短径長径比の平均値をいう。また、短径、長径とは、それぞれ、粒子の境界画素上に外接する面積が最小となる外接長方形の短辺、長辺をいう。
ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均短径長径比は、後述する実施例記載の方法によって測定することができる。
粒子の平均短径長径比が上記範囲内であるポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0047】
<<粒子の平均表面平滑形状係数>>
本実施形態のポリアセタール粉末を構成する粒子は、平均表面平滑形状係数が0.80以上であることが好ましい。粒子の平均表面平滑形状係数が0.80以上であることで、粒子がより規則的で凹凸の少ない形状となる結果、粒子の流動性をより向上させることができる。同様の観点から、粒子の平均表面平滑形状係数は、0.85以上であることがより好ましく、0.90以上であることが更に好ましい。
ここで、表面平滑形状係数とは、粒子の円又は楕円らしさを表す指数であり、粒子の短径、長径及び周囲長の測定値を用い、以下の式により表わされる。
表面平滑形状係数=[π×(粒子の長径+粒子の短径)]/[2×粒子の周囲長]
【0048】
表面平滑形状係数は、粒子が完全な円の場合には1に、完全な楕円の場合にはほぼ1となる。形状が平滑な円や楕円ではなく、不規則な形状となるほど、粒子の周囲長が長くなるため、表面平滑形状係数は、1よりも小さくなる。
そして、平均表面平滑形状係数とは、任意に選択した100個の粒子の表面平滑形状係数の平均値をいう。
ポリアセタール粉末を構成する粒子の平均表面平滑形状係数は、後述する実施例記載の方法によって測定することができる。
粒子の平均表面平滑形状係数が上記範囲内であるポリアセタール粉末は、ポリアセタール粉末の製造方法の粉砕工程及び/又は分級工程における各種条件を調整することによって得ることができる。
【0049】
[ポリアセタール粉末の成分組成]
以下、本実施形態のポリアセタール粉末の成分組成について具体的に説明する。
【0050】
<ポリアセタールコポリマー>
本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂成分として、オキシメチレンユニット100molに対して0.1mol以上1.3mol以下のコモノマーユニットを含有するポリアセタールコポリマーを含む。本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂成分として前記ポリアセタールコポリマーのみを含んでいてもよく、前記ポリアセタールコポリマー以外の他の樹脂を少量含んでいてもよい。
本実施形態のポリアセタール粉末が、他の樹脂を少量含む場合、樹脂成分の含有量100質量%に対して、前記ポリアセタールコポリマーを85質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことが更に好ましく、95質量%以上含むことがより更に好ましく、97質量%以上含むことが一層好ましい。
前記所定のコモノマーユニット含有率を有するポリアセタールコポリマーは、市販の製品であってもよく、下記で説明するポリアセタールコポリマーの製造方法で製造したものであってもよい。
【0051】
<<ポリアセタールコポリマーの製造方法>>
以下、本実施形態のポリアセタール粉末に樹脂として含まれる、上記所定のコモノマーユニット含有率を有するポリアセタールコポリマーの製造方法について詳述する。
【0052】
(1)重合工程
重合工程では、公知の重合法(例えば、米国特許第3027352号明細書、米国特許3803094号明細書、独国特許発明第1161421号明細書、独国特許発明第1495228号明細書、独国特許発明第1720358、独国特許発明第3018898号明細書、特開昭58-98322号公報及び特開平7-70267号公報に記載の方法)により、反応器中で、連鎖移動剤や重合触媒を用いて主モノマーとコモノマーとを共重合して、末端が安定化されていない粗ポリアセタールコポリマーを得ることができる。
なお、樹脂粉末の材料としては、この粗ポリアセタールコポリマー自体を用いることもできるが、後述する末端安定化工程により、粗ポリアセタールコポリマーの末端を安定化させたものを用いることが好ましい。
【0053】
1)主モノマー
ポリアセタールコポリマーの製造に使用する主モノマーとしては、例えば、ホルムアルデヒド又はその3量体であるトリオキサン若しくは4量体であるテトラオキサン等の環状オリゴマーなどが挙げられる。
本実施形態において「主モノマー」とは、全モノマー量に対して50質量%以上含有されているモノマーユニットをいう。
【0054】
2)コモノマー
ポリアセタールコポリマーの製造に使用するコモノマーとしては、特に限定されないが、例えば、分子中に炭素数2以上のオキシアルキレンユニットを有する環状エーテル化合物が挙げられる。
【0055】
環状エーテル化合物としては、特に限定されないが、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,3-ジオキソラン、1,3-プロパンジオールホルマール、1,4-ブタンジオールホルマール、1,5-ペンタンジオールホルマール、1,6-ヘキサンジオールホルマール、ジエチレングリコールホルマール、1,3,5-トリオキセパン、1,3,6-トリオキオカン、及び分子に分岐若しくは架橋構造を構成しうるモノ-若しくはジ-グリシジル化合物などが挙げられる。
環状エーテル化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0056】
主モノマー及びコモノマーは、水、メタノール及び蟻酸等の、重合反応中の重合停止作用及び連鎖移動作用を有する不純物を極力含まないものが好ましい。これらの不純物が少ない主モノマー及びコモノマーを用いることにより、予期せぬ連鎖移動反応を回避でき、目的の分子量のポリアセタールコポリマーを得ることができる。中でも、ポリマー末端基に水酸基を誘導する不純物の含有量は、全モノマー量に対して、30質量ppm以下であることが好ましく、10質量ppm以下であることがより好ましく、3質量ppm以下であることが更に好ましい。
【0057】
不純物量の少ない主モノマー及びコモノマーを得る方法としては、公知の方法(例えば、主モノマーについては、特開平3-123777号公報及び特開平7-33761号公報に記載の方法、コモノマーについては、特開昭49-62469号公報及び特開平5-271217号公報に記載の方法)が挙げられる。
【0058】
3)連鎖移動剤
ポリアセタールコポリマーの製造においては、連鎖移動剤を用いることが好ましい。連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、ホルムアルデヒドのジアルキルアセタール及びそのオリゴマー;メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール及びブタノール等の低級脂肪族アルコールなどが挙げられる。ホルムアルデヒドのジアルキルアセタールのアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル及びブチル等の低級脂肪族アルキル基であることが好ましい。
【0059】
長鎖分岐ポリアセタールコポリマーを得るためには、連鎖移動剤として、ポリエーテルポリオール、及びポリエーテルポリオールのアルキレンオキサイド付加物を用いることが好ましい。
【0060】
連鎖移動剤としては、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、エステル基及びアルコキシ基からなる群より選択される1種以上の基を有する重合体を用いてもよい。
【0061】
連鎖移動剤として、水、メタノール、蟻酸、酢酸等の、重合反応中の重合停止作用及び連鎖移動作用を有する不純物を極力含まないものを用いることが好ましい。不純物の少ない連鎖移動剤を得る方法としては、例えば、汎用され、入手可能な水分含有量が規定量を超える連鎖移動剤を乾燥窒素でバブリングし、活性炭やゼオライト等の吸着剤により不純物を除去し、精製する方法などが挙げられる。
連鎖移動剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。いずれの場合においても、得られるポリアセタールコポリマーは不安定末端数の少ないものが好ましい。
【0062】
4)重合触媒
ポリアセタールコポリマーの製造に使用する重合触媒としては、特に限定されないが、ルイス酸、プロトン酸、及びプロトン酸のエステル又は無水物等のカチオン活性触媒が好ましい。
【0063】
ルイス酸としては、特に限定されないが、例えば、ホウ酸、スズ、チタン、リン、ヒ素及びアンチモンのハロゲン化物などが挙げられる。具体的には、三フッ化ホウ素、四塩化スズ、四塩化チタン、五フッ化リン、五塩化リン及び五フッ化アンチモン、並びにそれらの錯化合物又は塩などが挙げられる。
【0064】
プロトン酸及びプロトン酸のエステル又は無水物としては、特に限定されないが、例えば、パークロル酸、トリフルオロメタンスルホン酸、パークロル酸-3級ブチルエステル、アセチルパークロラート、及びトリメチルオキソニウムヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。
【0065】
重合触媒としては、三フッ化ホウ素、三フッ化ホウ素水和物、酸素原子又は硫黄原子を含む有機化合物と三フッ化ホウ素との配位錯化合物が好ましく、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテルがより好ましい。
【0066】
重合触媒としては、必要に応じて、例えば、特開平05-05017号公報に記載の末端ホルメート基の生成を低減するような触媒を併用してもよい。
【0067】
重合触媒の使用量は、全モノマーの合計量1molに対して、1×10-6~1×10-3molが好ましく、5×10-6~1×10-4molがより好ましい。重合触媒の使用量が上記範囲内であると、重合時の反応安定性、及び得られるポリアセタール粉末の熱安定性をより向上させることができる。
【0068】
重合触媒は、重合工程後、触媒中和失活剤を含む水溶液又は有機溶剤溶液中に重合物を投入し、スラリー状態で一般的には数分~数時間撹拌することにより、失活させることができる。
【0069】
触媒中和失活剤としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、トリエチルアミン及びトリ-n-ブチルアミン等のアミン類;アルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物;無機酸塩;有機酸塩などが挙げられる。
触媒中和失活剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
アンモニア及びトリエチルアミン等の蒸気とポリアセタールコポリマーとを接触させて重合触媒を失活させる方法や、ヒンダードアミン類、トリフェニルホスフィン及び水酸化カルシウムのうち少なくとも1種と混合機で接触させることにより触媒を失活させる方法も用いることができる。
【0071】
5)反応器
ポリアセタールコポリマーの製造に使用する反応器としては、特に限定されないが、例えば、バッチ式の攪拌機付き反応槽、連続式のコニーダー、二軸スクリュー式連続押し出し混練機、二軸パドル型連続混合機などが挙げられる。
反応器は、ジャケット等の反応混合物を加熱又は冷却できる構造を、胴の外周に有することが好ましい。
【0072】
(2)末端安定化工程
末端安定化工程では、重合工程で得られた粗ポリアセタールコポリマーに含まれる不安定末端部分を分解除去することによって、安定したポリアセタールコポリマーを得ることができる。なお、末端安定化を行ったポリアセタールは、樹脂粉末の製造に先立ち、乾燥させておくことが好ましい。
【0073】
粗ポリアセタールコポリマーに含まれる不安定末端部分を分解除去する方法としては、特に限定されないが、例えば、ベント付き単軸スクリュー式押出機やベント付き2軸スクリュー式押出機などを用いて、公知の分解除去剤の存在下、粗ポリアセタールコポリマーを溶融して不安定末端部分を分解除去する方法が挙げられる。
【0074】
末端安定化における溶融混練を行う場合には、品質や作業環境の保持のために、雰囲気を不活性ガスにより置換したり、一段及び多段ベントによる脱気をしたりすることが好ましい。溶融混練の際の温度は、ポリアセタールコポリマーの融点以上250℃以下とすることが好ましい。
【0075】
1)分解除去剤
粗ポリオキシメチレンコポリマーに含まれる不安定末端部分の分解除去に用いる分解除去剤としては、例えば、アンモニア、脂肪族アミン;水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物;無機弱酸塩;及び有機弱酸塩などの塩基性物質が挙げられる。
分解除去剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
<他の樹脂>
本実施形態のポリアセタール粉末は、樹脂として、上述する特定のコモノマーユニット含有率のポリアセタールコポリマー以外の他の樹脂を少量含んでいてもよい。
樹脂成分として含まれ得る他の樹脂の具体例としては、特に制限はされず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフレラート(PBT)等の結晶性樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
<添加剤>
また、本実施形態におけるポリアセタール粉末は、例えば、酸化防止剤、安定剤(熱安定剤等)、耐候(光)剤、潤滑剤(離型剤等)、結晶核剤、無機・有機の充填剤、導電剤・帯電防止剤、外観改良剤(顔料や染料等)などの添加剤を含んでいてもよい。特に、本実施形態におけるポリアセタール粉末は、添加剤として酸化防止剤及び熱安定剤を含むことが好ましい。酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、熱安定剤は、ホルムアルデヒド反応性窒素を含むものが好ましい。
添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0078】
<<酸化防止剤>>
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好適に用いられる。
ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3’-メチル-5’-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、n-テトラデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート、1,6-ヘキサンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、1,4-ブタンジオール-ビス-[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]、ペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。好ましくは、トリエチレングリコール-ビス-[3-(3-t-ブチル-5-メチル-4-ヒドロキシフェニル)-プロピオネート]及びペンタエリスリトールテトラキス[メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンである。
酸化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0079】
<<安定剤>>
安定剤としては、熱安定剤が好適に用いられる。
熱安定剤としては、例えば、アミノ置換トリアジン化合物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物、アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物、尿素、尿素誘導体、ヒドラジン誘導体、イミダゾール化合物、イミド化合物などが挙げられる。
【0080】
アミノ置換トリアジン化合物の具体例としては、2,4-ジアミノ-sym-トリアジン、2,4,6-トリアミノ-sym-トリアジン、N-ブチルメラミン、N-フェニルメラミン、N,N-ジフェニルメラミン、N,N-ジアリルメラミン、ベンゾグアナミン(2,4-ジアミノ-6-フェニル-sym-トリアジン)、アセトグアナミン(2,4-ジアミノ-6-メチル-sym-トリアジン)、2,4-ジアミノ-6-ブチル-sym-トリアジンなどが挙げられる。
【0081】
アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの付加物の具体例としては、N-メチロールメラミン、N,N’-ジメチロールメラミン、N,N’,N”-トリメチロールメラミンなどが挙げられる。
【0082】
アミノ置換トリアジン化合物とホルムアルデヒドの縮合物の具体例としては、メラミン・ホルムアルデヒド縮合物などが挙げられる。
【0083】
尿素誘導体の例としては、N-置換尿素、尿素縮合体、エチレン尿素、ヒダントイン化合物、ウレイド化合物などが挙げられる。N-置換尿素の具体例としては、アルキル基等の置換基が置換したメチル尿素、アルキレンビス尿素、アリール置換尿素などが挙げられる。尿素縮合体の具体例としては、尿素とホルムアルデヒドの縮合体などが挙げられる。ヒダントイン化合物の具体例としては、ヒダントイン、5,5-ジメチルヒダントイン、5,5-ジフェニルヒダントインなどが挙げられる。ウレイド化合物の具体例としては、アラントインなどが挙げられる。
【0084】
ヒドラジン誘導体の例としては、ヒドラジド化合物を挙げることができる。ヒドラジド化合物の具体例としては、ジカルボン酸ジヒドラジドなどが挙げられ、より具体的には、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スペリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバチン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフタレンジカルボジヒドラジドなどが挙げられる。
【0085】
イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0086】
イミド化合物の具体例としては、スクシンイミド、グルタルイミド、フタルイミドなどが挙げられる。
【0087】
また、その他の安定剤としては、例えば、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、無機酸塩、カルボン酸塩又はアルコキシドなどが挙げられ、具体的には、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムもしくはバリウムなどの水酸化物、上記金属の炭酸塩、リン酸塩、珪酸塩、ホウ酸塩、カルボン酸塩、更には層状複水酸化物などが挙げられる。
【0088】
カルボン酸塩のカルボン酸としては、10~36個の炭素原子を有する飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸が好ましく、これらのカルボン酸は水酸基で置換されていてもよい。飽和又は不飽和脂肪族カルボン酸塩の具体例としては、ジミリスチン酸カルシウム、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウム、(ミリスチン酸-パルミチン酸)カルシウム、(ミリスチン酸-ステアリン酸)カルシウム、(パルミチン酸-ステアリン酸)カルシウムなどが挙げられ、好ましくは、ジパルミチン酸カルシウム、ジステアリン酸カルシウムである。
【0089】
層状複水酸化物としては、例えば、下記式で表されるハイドロタルサイト類などが挙げられる。
〔(M2+1-X(M3+(OH)X+〔(An-X/n・mHO〕X-
(上記式中、M2+は2価金属、M3+は3価金属、An-はn価(nは1以上の整数)のアニオンを示し、Xは、0<X≦0.33の範囲にあり、mは正数を示す。)
上記式において、M2+の例としては、Mg2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+などが挙げられ、M3+の例としては、Al3+、Fe3+、Cr3+、Co3+、In3+などが挙げられ、An-の例としては、OH、F、Cl、Br、NO3-、CO 2-、SO 2-、Fe(CN) 3-、CHCOO、シュウ酸イオン、サリチル酸イオンなどが挙げられる。An-の例としては、OH、CO 2-が好ましい。
【0090】
ハイドロタルサイト類の具体例としては、Mg0.75Al0.25(OH)(CO0.125・0.5HOで示される天然ハイドロタルサイト、Mg4.5Al(OH)13CO・3.5HO、Mg4.3Al(OH)12.6CO等で示される合成ハイドロタルサイトなどが挙げられる。
安定剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0091】
<<耐候(光)剤>>
耐候(光)剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、蓚酸アニリド系紫外線吸収剤及びヒンダードアミン系光安定剤などが挙げられる。
【0092】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤の具体例としては、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス-(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-4’-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0093】
蓚酸アリニド系紫外線吸収剤の具体例としては、2-エトキシ-2’-エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2-エトキシ-5-t-ブチル-2’-エチルオキザリックアシッドビスアニリド、2-エトキシ-3’-ドデシルオキザリックアシッドビスアニリドなどが挙げられる。好ましくは、2-[2’-ヒドロキシ-3’,5’-ビス-(α,α-ジメチルベンジル)フェニル]-2H-ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-t-ブチル-フェニル)ベンゾトリアゾールなどが挙げられる。
【0094】
ヒンダードアミン系光安定剤の具体例としては、N,N’,N’’,N’’’-テトラキス-(4,6-ビス-(ブチル-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン-4-イル)アミノ)-トリアジン-2-イル)-4,7-ジアザデカン-1,10-ジアミン、ジブチルアミン・1,3,5-トリアジン・N,N’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル-1,6-ヘキサメチレンジアミンとN-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ブチルアミンの重縮合物、ポリ[{6-(1,1,3,3―テトラメチルブチル)アミノ-1,3,5-トリアジン-2,4-ジイル}{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)イミノ}]、コハク酸ジメチルと4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジンエタノールの縮合物、デカン2酸ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-(オクチルオキシ)-4-ピペリジニル)エステルと1,1-ジメチルエチルヒドロペルオキシドとオクタンの反応生成物、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ブチルマロネート、メチル-1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルセバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。好ましくはビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-セバケート、ビス-(N-メチル-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジニル)セバケート、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5,5)ウンデカン]ジエタノールとの縮合物である。
耐候(光)剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
<<潤滑剤>>
潤滑剤としては、例えば、アルコール、脂肪酸及びそれらの脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレングリコール、平均重合度が10~500であるオレフィン化合物、シリコーンなどが挙げられる。
潤滑剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
<<結晶核剤>>
結晶核剤は、例えば、タルク、シリカ、石英粉末、ガラス粉、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、カオリン、葉ロウ石、クレイ、珪藻土、ウォラストナイト等の珪酸塩;酸化鉄や酸化チタンやアルミナ等の金属酸化物;硫酸カルシウムや硫酸バリウム等の金属硫酸塩;炭酸カルシウムや炭酸マグネシウムやドロマイト等の炭酸塩;その他炭化珪素、窒化硅素、窒化ホウ素、各種金属粉末など、ポリアセタール等の樹脂において通常知られている結晶核生成無機物の細分された固体であればよい。結晶核剤としては、窒化ホウ素及びタルクが好ましい。
【0097】
結晶核生成無機物には、ポリアセタール樹脂等の樹脂成分との親和性・分散性を向上させるために、公知の表面処理剤を用いてもよい。
【0098】
表面処理剤としては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、更には脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)、脂環族カルボン酸及び樹脂酸や金属石鹸が挙げられる。表面処理剤の添加量は、結晶核生成無機物に対して、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下である。
結晶核剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
<<無機・有機の充填剤>>
無機系充填剤としては、例えば、金属粉(アルミニウム、ステンレス、ニッケル、銀など)、酸化物(酸化ケイ素、酸化鉄、アルミナ、酸化チタン、酸化亜鉛など)、水酸化物(水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムなど)、珪酸塩(タルク、マイカ、クレイ、ベントナイトなど)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ハイドロタルサイトなど)、カーボン系物質(カーボンブラック、黒鉛、カーボンファイバーなど)、硫酸塩、窒化ホウ素、窒化珪素などが挙げられる。
【0100】
有機系充填剤としては、例えば、天然物系(リンター、木材、籾殻、絹、皮革など)や合成系(アラミド、テフロン(登録商標)、ビスコースなど)が挙げられる。
【0101】
中でも従来のポリアセタール樹脂等の樹脂に添加可能な無機・有機の充填剤の中から選択することが好ましい。すなわち、酸性・アルカリ性が強い充填剤をポリアセタール樹脂等の樹脂に添加すると安定性を低下させる可能性があるため、従来ポリアセタール樹脂等の樹脂に添加し商品として実績のある無機・有機の充填剤の中から選ばれることが好ましい。
【0102】
無機・有機の充填剤の形状は、粉末状、鱗片状、板状、針状、球状、繊維状、テトラポッド状など、いずれでもよく、特に限定されるものではない。
【0103】
無機・有機の充填剤は、樹脂との親和性を向上させるために、公知の表面処理剤を用いてもよい。表面処理剤としては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン等のシランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、更には脂肪酸(飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸)、脂環族カルボン酸及び樹脂酸や金属石鹸、樹脂類などが挙げられる。表面処理剤の添加量は、無機・有機の充填剤に対して3質量%以下が好ましく、2質量%以下がより好ましい。
【0104】
無機・有機の充填剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0105】
<<導電剤・帯電防止剤>>
導電剤としては、例えば、導電性カーボンブラック、カーボンナノチューブ又はナノ繊維又はナノ粒子、金属粉末又は繊維などが挙げられる。
【0106】
帯電防止剤としては、例えば、脂肪族ポリエーテル(但し、末端が脂肪酸エステルとなった化合物を除く)、末端が脂肪酸エステルとなった脂肪族ポリエーテル、脂肪酸と多価アルコールから得られる遊離水酸基を有する多価アルコールの脂肪酸エステル、グリセリンモノ脂肪酸エステルのホウ酸エステル、アミン化合物のエチレンオキサイド付加体、塩基性炭酸塩又はそのアニオン交換体を基体としてこれにポリアルキレンポリオール類或いはアルカリ金属塩溶解ポリアルキレンポリオール類を包接させた帯電防止剤などが挙げられる。
導電剤・帯電防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0107】
<<外観改良剤>>
外観改良剤としては、例えば、無機系顔料及び有機系顔料、メタリック系顔料、蛍光顔料、各種染料などが挙げられる。
【0108】
無機系顔料とは樹脂の着色用として一般的に使用されているものをいい、例えば、硫化亜鉛、酸化チタン、硫酸バリウム、チタンイエロー、コバルトブルー、燃成顔料、炭酸塩、りん酸塩、酢酸塩やカーボンブラック、アセチレンブラック、ランプブラックなどが挙げられる。
【0109】
有機系顔料としては、例えば、縮合ウゾ系、イノン系、フロタシアニン系、モノアゾ系、ジアゾ系、ポリアゾ系、アンスラキノン系、複素環系、ペンノン系、キナクリドン系、チオインジコ系、ベリレン系、ジオキサジン系、フタロシアニン系などの顔料が挙げられる。
外観改良剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0110】
[ポリアセタール粉末の製造方法]
本実施形態におけるポリアセタール粉末は、例えば、ポリアセタール等の樹脂材料を造粒する工程(造粒工程)と、造粒された樹脂材料を粉砕する工程(粉砕工程)と、粉砕した樹脂材料を篩にかけて所望の粉体特性を有する粉末を得る工程(分級工程)と、疎水性シリカと混合して疎水性シリカが粒子の表面に付着したポリアセタール粉末を得る工程(疎水性シリカ混合工程)とを実施することにより、製造することができる。
以下、各工程について具体的に説明する。
【0111】
[[造粒工程]]
造粒工程では、例えば、上述のようにして得られるポリアセタール等の樹脂材料を、ニーダー、ロールミル、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機などを用いて溶融混練することにより、ペレットを得ることができる。
【0112】
ここで、樹脂材料の溶融混練を行う場合には、品質や作業環境の保持のために、雰囲気を不活性ガスにより置換したり、一段及び多段ベントによる脱気をしたりすることが好ましい。溶融混練の際の温度は、樹脂材料の融点以上250℃以下とすることが好ましく、樹脂材料の融点より20~50℃高い温度であってもよい。
【0113】
また、造粒工程では、樹脂材料に上述した添加剤を添加して混合し、得られる樹脂組成物を溶融混練してもよい。このとき、添加剤は、何回かに分けて、樹脂材料と混合してもよい。
或いは、造粒工程では、樹脂材料に対する添加剤の分散性を高めるために、樹脂材料の一部又は全部を混合前に任意に粉砕し、ヘンシェルミキサー、タンブラー又はV字型ブレンダーなどを用いて、アミド化合物及び上述した添加剤を添加して混合し、得られる樹脂組成物を溶融混錬してもよい。この場合、展着剤を用いて更に分散性を高めてもよい。
【0114】
-アミド化合物-
上述のアミド化合物は、例えば樹脂材料としてポリアセタールを用いた場合において、樹脂組成物から分解等により発生したホルムアルデヒドと反応することができ、ホルムアルデヒドが酸化してギ酸等になって分解を促進させることを抑制することができる。
【0115】
アミド化合物としては、融点が300℃以上のアミド化合物が好ましい。融点が300℃以上のアミド化合物は、造形時に溶融しないため、異物の発生を抑制することができる。
【0116】
融点が300℃以上のアミド化合物としては、例えば、ナイロン4-6、ナイロン6、ナイロン6-6、ナイロン6-10、ナイロン6-12、ナイロン12等のポリアミド樹脂などが挙げられる。
【0117】
その他、アミド化合物としては、例えば、アクリルアミド及びその誘導体、アクリルアミド及びその誘導体と他のビニルモノマーとの共重合体、イソフタル酸ジアミド等の多価カルボン酸アミド、アントラニルアミドなども挙げられる。
【0118】
アミド化合物の添加量は、ポリアセタール等の樹脂材料100質量部に対し、0.1質量部以上であることが好ましく、0.2質量部以上であることがより好ましく、また、0.5質量部以下であることが好ましい。アミド化合物の添加量が上記範囲内にあることにより、外観が良好であり、異物の発生量が少なく、高い耐グリス性を持った造形品を得ることが出来る。
【0119】
-添加剤-
樹脂組成物中の添加剤の含有量は、ポリアセタール等の樹脂材料100質量部に対し、100質量部以下であることが好ましい。添加剤の含有量を100質量部以下とすることにより、造形機内で長時間高温で滞留しても物性の変化が抑えられ、リサイクルが可能であり、得られる造形品の機械強度も良好となる傾向にある。同様の観点から、樹脂組成物中の添加剤の含有量は、樹脂材料100質量部に対し、50質量部以下であることがより好ましく、25質量部以下であることが更に好ましい。
【0120】
-展着剤-
展着剤としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族炭化水素及び芳香族炭化水素、これらの変性物並びにポリオールの脂肪酸エステルなどが挙げられる。
展着剤は、1種単独で用いてもよく、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素及びこれらの変性物の混合物など、2種以上を併用してもよい。
【0121】
[[粉砕工程]]
粉砕工程では、造粒工程で得られたペレットを粉砕して、粉末を得ることができる。粉砕方法としては、特に制限されず、例えば、常温粉砕、凍結粉砕、等が挙げられる。また、造粒工程で得られたペレットを溶媒に溶解させたのち、析出させる方法も挙げられる。
【0122】
[[分級工程]]
分級工程では、粉砕工程で得られた粉末を篩にかけることにより、平均粒子径(D50)、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.5倍以下である粒子の割合などを適宜調整して、最終的に本実施形態のポリアセタール粉末を得ることができる。
【0123】
また、本実施形態のポリアセタール粉末の製造方法においては、任意により、分級工程の前又は後に、熱処理による結晶化度の調整をおこなってもよい。
【0124】
[[疎水性シリカ混合工程]]
本実施形態のポリアセタール粉末の製造方法においては、分級工程に次いで疎水性シリカ混合工程を実施する。
疎水性シリカ混合工程では、分級工程で得られたポリアセタール粉末と、疎水性シリカとを混合することにより、ポリアセタール粉末を構成する粒子の表面に疎水性シリカが付着し、ポリアセタール粉末の流動性を向上させることができる。
混合方法としては、特に制限されず、通常の粉体混合機、例えば、ナウターミキサー、ヘンシェルミキサー、タンブラーミキサー等を使用して混合すればよい。また、手動による撹拌等で混合してもよい。
【0125】
[ポリアセタール粉末の用途]
本実施形態のポリアセタール粉末は、付加製造技術に好適に用いられ、特に選択的レーザー焼結法に好適に用いられる。本実施形態におけるポリアセタール粉末は、粉体特性及び粒子特性の適正化が図られているため、例えば100μm程度の薄さに均一に敷き並べることが可能である。従って、この樹脂粉末を選択的レーザー焼結法に用いて付加製造を行うことにより、微小な空隙(ボイド)が十分に抑制された、高い機械的物性を有する造形品を得ることができる。このような造形品は、自動車部品、電気・電子部品、工業部品、医療用部品等の機構部品などに、広範囲に亘って適用可能である。
【0126】
[ポリアセタール粉末の使用方法]
本実施形態のポリアセタール粉末の使用方法は、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を、付加製造に用いることを含む。
付加製造に使用する付加製造技術としては、特に限定されず、選択的レーザー焼結法や、樹脂粉末を敷き詰めた造形エリアの造形したい箇所に熱吸収剤を塗布しヒーターで上面から熱を与えて造形する、熱溶融法などが挙げられる。
なお、本実施形態のポリアセタール粉末の使用方法において、具体的な使用条件等は、特に制限されず、使用する付加製造技術、造形品の用途及び目的等に応じて適宜選択して、ポリアセタール粉末を使用することができる。
【0127】
[付加製造方法]
本実施形態の付加製造方法は、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を造形材料として用いることを含む。本実施形態の付加製造方法によれば、上述した本実施形態のポリアセタール粉末を用いるため、高い造形精度及び機械的物性を有する造形品を得ることができる。
本実施形態の付加製造方法で使用する付加製造技術は、樹脂粉末を造形材料として用いることができるものであれば特に限定されず、例えば、選択的レーザー焼結法、熱溶融法、などが挙げられる。
本実施形態の付加製造方法における具体的な造形条件等は、特に制限されず、使用する付加製造技術及び造形品の用途などに応じて適宜選択して、造形することができる。
【実施例
【0128】
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本実施形態は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0129】
[測定方法]
実施例及び比較例で得られたポリアセタール粉末について、平均粒子径(D50)、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合、コモノマーユニット含有率、融点、結晶化開始温度、DSC測定におけるファーストスキャンとセカンドスキャンの融点差、結晶化速度、重量減少率、メルトフローレート、固め嵩密度/ゆるめ嵩密度の値、粒子の平均短径長径比、粒子の平均表面平滑形状係数を測定した。各測定方法は、以下のとおりである。
【0130】
[[粒子径等]]
マルバーン社製のマスターサイザーを使用し、平均粒子径(D50)、径がD50の2倍以上である粒子の割合、径がD50の0.2倍以下である粒子の割合を測定した。
【0131】
[[コモノマーユニット含有率]]
コモノマーユニットの含有率については、H-NMR法を用いて、以下の手順で求めた。
即ち、ポリアセタールコポリマーを、ヘキサフルオロイソプロパノールにより濃度1.5質量%となるように24時間かけて溶解させ、この溶解液を用いてH-NMR解析(磁場強度:400MHz、測定溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、基準物質:テトラメチルシラン、温度55℃、積算回数500回)を行った。
H-NMR解析で得られたオキシメチレンユニットの帰属ピーク(δ(ppm):4.8~5.4)の積分値と、コモノマーユニットである炭素数2以上のオキシアルキレンユニットの帰属ピーク(δ(ppm):例えば、コモノマーユニットがオキシエチレンユニットである場合は、3.6~4.0)の積分値との比率から、オキシメチレンユニット(a=100mol)に対するコモノマーユニットユニット(bmol)の含有率(b/a:mol/100mol)を求めた。
【0132】
[[融点、結晶化開始温度、結晶化速度]]
示差走査熱量計(Parkin Elmer社製:DSC-2C)を用いて、下記の手順1~8に従って測定を行って得られたDSC曲線に基づき、ファーストスキャン融点、セカンドスキャン融点、結晶化開始温度、及び結晶化速度を求めた。
1:測定対象のポリアセタール粉末3mgを測定用アルミパンの中に封入し、示差走査熱量計の加熱炉内の所定位置に配置する。
2:10℃/分の昇温速度で220℃に達するまで昇温し、その際の吸熱ピーク(融点ピーク)の最高点を「ファーストスキャン融点」とする。
3:220℃に達してから2分間、その温度を保持する。
4:次いで、80℃/分の降温速度で149℃に達するまで降温し、10分間、その温度を保持して、結晶化による発熱ピークを測定する。
5:149℃での保持開始から発熱ピークの最高点に達するまでの時間を、「結晶化速度」とする。なお、この時間が長いほど、結晶化速度が遅いことを意味する。
6:次いで、20℃/分の昇温速度で210℃に達するまで昇温し、5分間、その温度を保持する。
7:次いで、20℃/分の降温速度で、210℃から100℃に冷却する。この際の発熱ピーク(結晶化ピーク)の開始点の温度(高温側)を「結晶化開始温度」とする。
8:次いで、20℃/分の昇温速度で100℃から210℃に昇温し、その際の吸熱ピーク(融点ピーク)の最高点を「セカンドスキャン融点」とする。
【0133】
[DSC測定におけるファーストスキャンとセカンドスキャンの融点差]
上記のようにしてDSC測定で求めたセカンドスキャンの融点からファーストスキャンの融点を差引くことによって、ファーストスキャンとセカンドスキャンの融点差(表1で「1st2nd融点差」と称する)を求めた。
【0134】
[[重量減少率]]
熱重量測定装置(Perkin Elmer社製、商品名「Pyris1 TGA」)を用いて、試料重量:5mg、空気流量:10mL/分、昇温速度:10℃/分にて室温から、測定対象のポリアセタール粉末の融点より10℃低い温度まで昇温し、その温度にて1時間保持した後の重量減少率を測定した。
【0135】
[[メルトフローレート(MFR)]]
東洋精機製作所製「P-111」を用い、190℃、荷重2.16kgの条件で、ISO1133(条件D)に準拠してMFRを測定した。
【0136】
[[固め嵩密度/ゆるめ嵩密度]]
パウダテスターPT-X型(ホソカワミクロン製)を用いて、固め嵩密度とゆるめ嵩密度の測定を行った。
具体的には、ステンレス製100cm円筒容器に,粉体が容器に山盛りになるまでサンプル供給装置を振動させて粉体を流下し、ブレードを用いて容器上の余分な粉を擦切って測定した密度を、ゆるめ嵩密度(g/cm)とした。
また、ステンレス製100cm円筒容器にキャップをかぶせ、サンプル供給装置を振動させて粉体を流下し、ストローク長(タッピング高さ)18mm、タッピング速度60回/分、タッピング回数180回、でタッピングを行った。その後、ブレードを用いて容器上の余分な粉を擦切って測定した密度を、固め嵩密度(g/cm)とした。
上述のように測定された、固め嵩密度の測定値をゆるめ嵩密度の測定値で除して、固め嵩密度/ゆるめ嵩密度の値を求めた。
【0137】
[[粒子の平均短径長径比]]
デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製、「VH-7000型」、「VH-501レンズ」使用)を用いて撮影した画像を、1360×1024ピクセル、TIFFファイル形式で保存し、画像処理解析ソフト(株式会社デジモ製「Image HyperII」)を使用して、100個の粒子の短径/長径の平均値を求めた。
【0138】
[[粒子の平均表面平滑形状係数]]
上述のデジタルマイクロスコープを用いて撮影した画像を、1360×1024ピクセル、TIFFファイル形式で保存し、上述の画像処理解析ソフトを使用して、100個の粒子の長径、短径、周囲長を測定し、以下の式に従ってそれぞれの表面平滑形状係数を求め、その平均値を求めた。
表面平滑形状係数=[π×(粒子の長径+粒子の短径)]/[2×粒子の周囲長]
【0139】
[粉末の生産性]
実施例及び比較例について、粉砕・分級工程に供したペレットの質量と、粉砕・分級工程で得られた粉末の質量とに基づき、下記式で粉砕・分級工程後の収率(%)を求めた。
収率=(粉砕・分級工程で得られた粉末の質量/粉砕・分級工程に供したペレットの質量)×100
求めた収率(%)を下記評価基準に従って評価した。求めた収率(%)が高い程、生産性に優れる。
(評価基準)
○:収率が50%以上のもの
×:収率が50%未満のもの
【0140】
[粉末の積層性及び造形品の評価]
実施例及び比較例で得られたポリアセタール粉末を用い、市販の選択的レーザー焼結法の造形装置で、各々、縦5cm、横1cm、積層方向の厚み4mmの短冊型に造形した。そして、ポリアセタール粉末の積層性、造形時の反り、造形品の機械的物性を、下記評価方法に従って評価した。
【0141】
[[ポリアセタール粉末の高温時積層性]]
粉体供給部を155℃に、造形エリアを160℃に加熱して造形を実施し、造形中の造形エリアの表面状態を目視で観察し、下記の基準に従ってポリアセタール粉末の積層性(リコート性)を評価した。
◎:粉体積層時に凝集塊がなく、造形中の造形部にも均一に粉が積層されている。
○:粉体積層時に凝集塊がなく、造形中の造形部に一部不均一に粉が積層されている。
△:凝集塊が1~2個程度。
×:全面に凝集塊があり、造形できない。
凝集塊がなく且つ造形部への粉の積層が均一である程、高温時積層性に優れる。
【0142】
[[造形箇所への粉載り]]
短冊型の造形箇所を造形中に目視で観察し、下記の基準に従ってポリアセタール粉末の造形箇所への粉載り性を評価した。
◎:レーザーが照射された溶融部分にも均一に粉が積層されている。
○:造形初期は短冊周辺部への粉載りが不十分だが、徐々に均一に粉が積層されている。
△:短冊周辺部への粉載りが不均一。
×:レーザーが照射された溶融部分全体的に、粉載りが不均一。
レーザーが照射された溶融部分全体に粉が均一に積層される程、造形箇所への粉載り性に優れる。
【0143】
[[造形品の機械的物性]]
造形した試験片について、ISO527-1に準拠して、引張速度5mm/分で引張試験を行い、引張破壊応力を測定した。得られた測定値を、下記の基準に従って評価した。
◎:40MPa以上
○:20MPa以上40MPa未満
△:10MPa以上20MPa未満
×:10MPa未満
引張破壊応力の値が大きい程、機械的物性に優れる。
【0144】
(実施例1)
<ポリアセタールコポリマーの調製>
(1)重合工程
熱媒を通すことのできるジャケット付セルフ・クリーニングタイプの二軸パドル型連続混合反応器(スクリュー径3インチ、径に対する長さの比(L/D)=10)を80℃に調整した。主モノマーとしてのトリオキサンを3750g/hr、コモノマーとしての1,3-ジオキソランを5~150g/hr、且つ、連鎖移動剤としてのメチラールを2.0~8.0g/hrの範囲で流量調整を行ない、連続混合反応器に連続的にフィードした。重合触媒として、三フッ化ホウ素ジ-n-ブチルエーテラートの1質量%シクロヘキサン溶液を、当該触媒がトリオキサン1molに対して2.0×10-5molとなるように、連続混合反応器に添加して重合を行い、重合フレークを得た。なお、連鎖移動剤の添加量の調整は、得られるポリアセタール粉末のメルトフローレートが所望のものとなるように行った。
得られた重合フレークを粉砕した後、触媒中和失活剤としてのトリエチルアミン1質量%水溶液中に、前記粉砕物を投入して撹拌し、重合触媒を失活させた。その後、重合フレークを含むトリエチルアミン1質量%水溶液について、濾過、洗浄及び乾燥を順次行い、粗ポリアセタールコポリマーを得た。
【0145】
(2)末端安定化工程
得られた粗ポリアセタールコポリマー100質量部に対して0.5質量部の水を添加し、押出機の条件を温度200℃、滞留時間7分として、ポリアセタールコポリマーの不安定末端部分(-(OCH-OH)の分解除去を行った。
【0146】
<造粒工程>
濾取したポリアセタールコポリマーについて、窒素雰囲気下のギアオーブン(80℃設定)にて品温80℃を確認して3時間乾燥を行った。
このポリアセタールコポリマー(a-1)100質量部と、アミド化合物(H-3(旭化成ファインケム株式会社製))0.2質量部と、酸化防止剤(イルガノックス245(チバスペシャリティケミカルズ株式会社製))0.2質量部とを、ヘンシェルミキサーにて1分間混合した。その後、得られたポリアセタール組成物を、200℃に設定した真空ベント付きスクリュー型二軸押出機(株式会社ラスチック工学研究所製、BT-30、L/D=44、L:二軸押出機の原料供給口から排出口までの距離(m)、D:二軸押出機の内径(m))にてスクリュー回転数100rpmとし、24アンペアで溶融混練して、ペレットを得た。
得られたペレットを測定前に80℃、2時間ギアオーブン(エスペック株式会社製、GPH-102)にて乾燥した。乾燥したペレットを用い、メルトフローレートを測定した。結果を表1に示す。
【0147】
<粉砕・分級工程>
得られたペレットを液体窒素で凍結しながら、リンレックスミル(登録商標)(ホソカワミクロン株式会社製)で凍結粉砕し、篩にかけて粉体特性を適宜調整することで、粉末を得た。
【0148】
<疎水性シリカ混合工程>
得られた粉末10kgに対し、疎水性シリカとしてジメチルジクロロシランで疎水化された乾式法シリカ(日本アエロジル社製アエロジル(登録商標)R974)を30g添加し、タンブラーミキサーで混合して、粒子の表面に疎水性シリカが付着しているポリアセタール粉末を得た。
得られたポリアセタール粉末について、上述のように測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0149】
(実施例2~11、比較例1~8)
疎水性シリカ添加の有無、疎水性シリカの種類、添加量、平均一次粒径、BET比表面積、及び表面改質剤の種類、ポリアセタールコポリマーの調製におけるコモノマー添加流量、ポリアセタール粉末の調製における分級条件、熱処理の有無等を適宜調整した以外は、実施例1と同様にして、表1に示す実施例2~11、比較例1~8のポリアセタール粉末を得た。
なお、疎水性シリカとして、実施例2、4~6及び9~11並びに比較例3~7では実施例1と同じものを、実施例3ではジメチルジクロロシランで疎水化された乾式法シリカ(トクヤマ社製レオロシール(登録商標)DM20-S)を、実施例7ではトリメチルクロロシランで疎水化された乾式法シリカ(トクヤマ社製HM-20L)を、実施例8では湿式法シリカ(東ソーシリカ社製SS-20、2次凝集体の平均粒径2μm)を用いた。比較例1ではシリカを用いず、比較例2では親水性シリカ(トクヤマ社製QS-102)を用いた。比較例8では、疎水性シリカ混合工程を行わず、造粒工程において実施例1と同様の疎水性シリカを溶融混錬したペレットを粉砕、分級を行ってポリアセタール粉末を得た。
得られた各ポリアセタール粉末について、上述のように測定及び評価を行った。結果を表1に示す。
【0150】
実施例1、比較例1、及び比較例2で得られたポリアセタール粉末の表面をSEMで観察した二次電子像(加速電圧:0.5kV、倍率:4000倍(左図)及び8000倍(右図))を、それぞれ図1~3として示す。実施例1で得られたポリアセタール粉末の表面には、多数の細かい疎水性シリカの粒子が均一に付着していた(図1)。一方、シリカを用いなかった比較例1、疎水性シリカに代えて親水性シリカを用いた比較例2では、ポリアセタール粉末の表面に細かいシリカの粒子の付着が認められなかった(図2及び図3)。
【表1】
【0151】
表1に示す通り、実施例に係るポリアセタール粉末は、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りに優れ、実施例に係るポリアセタール粉末を用いて選択的レーザー焼結法により形成した造形品は、高い機械的物性及び高い造形精度を有していることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0152】
本発明によれば、付加製造技術に用いることができ、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な、高温時の積層性及び造形箇所への粉載りに優れるポリアセタール粉末を提供することができる。また、本発明によれば、上述した積層性粉末の使用方法、及び、高い機械的物性を有する造形品を得ることが可能な付加製造方法を提供することができる。
図1
図2
図3