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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-14
(45)【発行日】2022-12-22
(54)【発明の名称】センサ素子及びガスセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/416 20060101AFI20221215BHJP
   G01N 27/409 20060101ALI20221215BHJP
   G01N 27/419 20060101ALI20221215BHJP
【FI】
G01N27/416 331
G01N27/409 100
G01N27/419 327Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022559552
(86)(22)【出願日】2022-03-17
(86)【国際出願番号】 JP2022012184
【審査請求日】2022-09-29
(31)【優先権主張番号】63/211,665
(32)【優先日】2021-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村上 勇太
(72)【発明者】
【氏名】茅野 敬太
(72)【発明者】
【氏名】山田 明里
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/155865(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/155866(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/155867(WO,A1)
【文献】特開2020-106395(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N27/416
G01N27/409
G01N27/419
G01N27/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
固体電解質層を有し、長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する形状の長尺な素子本体と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、気孔率が10%未満の緻密層と、
少なくとも前記緻密層と前記素子本体との間に配設された中間層と、
を備え、
20℃から1360℃の温度域における、前記固体電解質層,前記緻密層,及び前記中間層の熱膨張率をそれぞれ熱膨張率Ea,Eb,Ecとしたとき、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebを満たす、
センサ素子。
【請求項2】
前記熱膨張率Eaと前記熱膨張率Ebとの中央値をEd(=(Ea+Eb)/2)としたときに、
Ed-0.8×(Ed-Eb)<Ec<Ed+0.8×(Ea-Ed)を満たす、
請求項1に記載のセンサ素子。
【請求項3】
前記比Ea/Ebが3.0以下である、
請求項1又は2に記載のセンサ素子。
【請求項4】
前記中間層は、厚みTが1μm以上である、
請求項1~3のいずれか1項に記載のセンサ素子。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のセンサ素子を備えたガスセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ素子及びガスセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子が知られている(例えば特許文献1)。特許文献1のセンサ素子は、長尺な素子本体と、素子本体の上面に配設された外側電極,外側リード部,及びコネクタ電極と、外側電極及び外側リード部を被覆する多孔質層と、を備えている。外側電極,外側リード部,及びコネクタ電極はこの順に接続されて導通しており、コネクタ電極が外部と電気的に接続される。また、特許文献1のセンサ素子は、素子本体の長手方向に沿って多孔質層を分割するように配設された緻密層を備えている。緻密層は、外側リード部を被覆している。緻密層は内部を水分が通過しにくいから、被測定ガス中の水分が毛細管現象により多孔質層内を移動した場合に、緻密層が存在することによって、水分がコネクタ電極まで到達してしまうことを抑制している。このようなセンサ素子の製造方法としては、素子本体に対応する複数の未焼成のセラミックスグリーンシートに、電極,未焼成多孔質層及び未焼成緻密層をスクリーン印刷し、その後に複数のセラミックスグリーンシートを積層して焼成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2019/155865号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1のように緻密層を備えたセンサ素子に関して、センサ素子にクラックが生じる場合があった。そのため、センサ素子のクラックを抑制することが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、センサ素子のクラックをより抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述した主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明のセンサ素子は、
被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのセンサ素子であって、
固体電解質層を有し、長手方向に沿った両端である前端及び後端と、該長手方向に沿った表面である1以上の側面と、を有する形状の長尺な素子本体と、
前記1以上の側面のいずれかの前記後端側に1以上配設され、外部と電気的に導通するためのコネクタ電極と、
前記コネクタ電極が配設された前記側面のうち少なくとも前記前端側を被覆し且つ気孔率が10%以上の多孔質層と、
前記多孔質層を前記長手方向に沿って分割するか又は前記多孔質層よりも前記後端側に位置するように前記側面に配設され、前記コネクタ電極よりも前記前端側に位置し、気孔率が10%未満の緻密層と、
少なくとも前記緻密層と前記素子本体との間に配設された中間層と、
を備え、
20℃から1360℃の温度域における、前記固体電解質層,前記緻密層,及び前記中間層の熱膨張率をそれぞれ熱膨張率Ea,Eb,Ecとしたとき、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebを満たす、
ものである。
【0008】
このセンサ素子は、固体電解質層,緻密層,及び中間層を備えている。そして、固体電解質層の熱膨張率Eaと緻密層の熱膨張率Ebとの比Ea/Ebが1.0超過5.0以下になっており、固体電解質層と緻密層との熱膨張率が比較的近い値になっている。さらに、少なくとも緻密層と固体電解質層との間に中間層が存在し、中間層の熱膨張率Ecは、Ea>Ec>Ebを満たしている。すなわち、固体電解質層と緻密層との間に、両者の中間的な熱膨張率Ecを有する中間層が存在する。固体電解質層,緻密層,及び中間層がこのような位置関係及び熱膨張率Ea~Ecの関係を満たすことで、センサ素子が使用時に昇温された際に、固体電解質層の熱膨張率Eaと緻密層の熱膨張率Ebとの差によって生じる応力が中間層によって低減される。センサ素子に応力が生じるとクラックが生じやすいが、このセンサ素子では応力が低減されているから、クラックの発生が抑制される。
【0009】
本発明のセンサ素子は、前記熱膨張率Eaと前記熱膨張率Ebとの中央値をEd(=(Ea+Eb)/2)としたときに、下記式(1)を満たしていてもよい。こうすれば、熱膨張率Ecが熱膨張率Ea,Ebの中央値Edに比較的近くなる。すなわち、熱膨張率Ecが熱膨張率Eaに近すぎたり熱膨張率Ebに近すぎたりしない。そのため、センサ素子が昇温された際に生じる応力がより低減され、クラックの発生がより抑制される。
【0010】
Ed-0.8×(Ed-Eb)<Ec<Ed+0.8×(Ea-Ed) (1)
【0011】
本発明のセンサ素子において、前記比Ea/Ebが3.0以下であってもよい。こうすれば、固体電解質層の熱膨張率Eaと緻密層の熱膨張率Ebとがより近い値になるから、センサ素子のクラックの発生がより抑制される。
【0012】
本発明のセンサ素子において、前記中間層は、厚みTが1μm以上であってもよい。こうすれば、上述した中間層の存在によるセンサ素子のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。中間層の厚みTは10μm以下であってもよい。
【0013】
本発明のセンサ素子において、前記固体電解質層はジルコニアを主成分とし、前記緻密層はアルミナを主成分とし、前記中間層はジルコニア及びアルミナを含んでいてもよい。ここで、主成分とは、最も多く含まれる成分のことをいい、具体的には体積割合が最も高い成分のことをいう。
【0014】
本発明のセンサ素子において、前記センサ素子は、前記素子本体の前記前端側に配設された複数の電極を有し、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するための検出部と、前記コネクタ電極が配設された前記側面に配設され、前記複数の電極のいずれかと前記コネクタ電極とを導通する外側リード部と、を備えていてもよい。また、前記多孔質層は、前記外側リード部の少なくとも一部を被覆していてもよい。この場合において、前記多孔質層は、前記外側リード部のうち前記緻密層に被覆されていない部分を全て被覆していてもよい。また、本発明のセンサ素子は、前記検出部が有する複数の電極の1つであり、前記外側リード部を介して前記コネクタ電極と導通し、該コネクタ電極が配設された前記側面に配設された外側電極、を備えていてもよい。この場合において、前記多孔質層は、前記外側電極を被覆していてもよい。
【0015】
本発明のガスセンサは、上述したいずれかの態様のセンサ素子を備えたものである。そのため、このガスセンサは、上述した本発明のガスセンサと同様の効果、例えばセンサ素子のクラックの発生を抑制する効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図。
図2】センサ素子20の斜視図。
図3図2のA-A断面図。
図4】センサ素子20の上面図。
図5】センサ素子20の下面図。
図6図3の中間層98周辺の拡大図。
図7図4のB-B断面のうち中間層98周辺を示す部分断面図。
図8】変形例の中間層98を示す部分断面図。
図9】変形例の中間層98を示す部分断面図。
図10】変形例の中間層98を示す部分断面図。
図11】中間層99を備えたセンサ素子20の斜視図。
図12】変形例の第2緻密層95及び隙間領域96を示す下面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態であるセンサ素子20を備えたガスセンサ10が配管58に取り付けられた様子を示す縦断面図である。図2は、センサ素子20を右上前方から見た斜視図である。図3は、図2のA-A断面図である。図4は、センサ素子20の上面図である。図5は、センサ素子20の下面図である。図6は、図3の中間層98周辺の拡大図である。図7は、図4のB-B断面のうち中間層98周辺を示す部分断面図である。本実施形態において、図2,3に示すように、センサ素子20の素子本体60の長手方向を前後方向(長さ方向)とし、素子本体60の積層方向(厚さ方向)を上下方向とし、前後方向及び上下方向に垂直な方向を左右方向(幅方向)とする。
【0018】
図1に示すように、ガスセンサ10は、組立体15と、ボルト47と、外筒48と、コネクタ50と、リード線55と、ゴム栓57とを備えている。組立体15は、センサ素子20と、保護カバー30と、素子封止体40とを備えている。ガスセンサ10は、例えば車両の排ガス管などの配管58に取り付けられて、被測定ガスとしての排気ガスに含まれるNOxやO2等の特定ガスの濃度(特定ガス濃度)を測定するために用いられる。本実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を測定するものとした。センサ素子20の長手方向に沿った両端(前端,後端)のうち、前端側が被測定ガスに晒される側である。
【0019】
保護カバー30は、図1に示すように、センサ素子20の前端側を覆う有底筒状の内側保護カバー31と、この内側保護カバー31を覆う有底筒状の外側保護カバー32とを備えている。内側,外側保護カバー31,32の各々には、被測定ガスを流通させるための複数の孔が形成されている。内側保護カバー31で囲まれた空間として素子室33が形成されており、センサ素子20の第5面60e(前端面)はこの素子室33内に配置されている。
【0020】
素子封止体40は、センサ素子20を封止固定する部材である。素子封止体40は、主体金具42及び内筒43を備えた筒状体41と、碍子44a~44cと、圧粉体45a,45bと、メタルリング46と、を備えている。センサ素子20は素子封止体40の中心軸上に位置しており、素子封止体40を前後方向に貫通している。
【0021】
主体金具42は、筒状の金属製部材である。主体金具42は、前側が後側よりも内径の小さい肉厚部42aとなっている。主体金具42のうちセンサ素子20の前端と同じ側(前側)には、保護カバー30が取り付けられている。主体金具42の後端は内筒43のフランジ部43aと溶接されている。肉厚部42aの内周面の一部は段差面である底面42bとなっている。この底面42bは碍子44aが前方に飛び出さないようにこれを押さえている。
【0022】
内筒43は、筒状の金属製部材であり、前端にフランジ部43aを有している。内筒43と主体金具42とは同軸に溶接固定されている。また、内筒43には、圧粉体45bを内筒43の中心軸方向に押圧するための縮径部43cと、メタルリング46を介して碍子44a~44c,圧粉体45a,45bを図1の下方向に押圧するための縮径部43dとが形成されている。
【0023】
碍子44a~44c及び圧粉体45a,45bは、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に配置されている。碍子44a~44cは、圧粉体45a,45bのサポーターとしての役割を果たす。碍子44a~44cの材質としては、例えばアルミナ、ステアタイト、ジルコニア、スピネル、コージェライト、ムライトなどのセラミックス、又はガラスを挙げることができる。圧粉体45a,45bは、例えば粉末を成型したものであり、封止材としての役割を果たす。圧粉体45a,45bの材質としては、タルクのほか、アルミナ粉末、ボロンナイトライドなどのセラミックス粉末が挙げられ、圧粉体45a,45bはそれぞれこれらの少なくともいずれかを含んでいてもよい。圧粉体45aは碍子44a,44b間に充填され、碍子44a,44bにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。圧粉体45bは碍子44b,44c間に充填され、碍子44b,44cにより軸方向の両側(前後)から挟まれて押圧されている。碍子44a~44c,圧粉体45a,45bは縮径部43d及びメタルリング46と、主体金具42の肉厚部42aの底面42bと、に挟まれて前後から押圧されている。縮径部43c,43dからの押圧力により、圧粉体45a,45bが筒状体41とセンサ素子20との間で圧縮されることで、圧粉体45a,45bは保護カバー30内の素子室33と外筒48内の空間49との間を封止すると共に、センサ素子20を固定している。
【0024】
ボルト47は、主体金具42と同軸に主体金具42の外側に固定されている。ボルト47の外周面には雄ネジ部が形成されている。この雄ネジ部は、配管58に溶接され内周面に雌ネジ部が設けられた固定用部材59内に挿入されている。これにより、ガスセンサ10のうちセンサ素子20の前端側や保護カバー30の部分が配管58内に突出した状態で、ガスセンサ10が配管58に固定できるようになっている。
【0025】
外筒48は、筒状の金属製部材であり、内筒43と、センサ素子20の後端側と、コネクタ50とを覆っている。外筒48の内側には主体金具42の上部が挿入されている。外筒48の下端は主体金具42と溶接されている。外筒48の上端からは、コネクタ50に接続された複数のリード線55が外部に引き出されている。コネクタ50は、センサ素子20の後端側の表面に配設された上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72に接触して電気的に接続されている。このコネクタ50を介して、リード線55はセンサ素子20の各電極64~68及びヒータ69と電気的に導通している。外筒48とリード線55との隙間はゴム栓57によって封止されている。外筒48内の空間49は基準ガスで満たされている。空間49にはセンサ素子20の第6面60f(後端面)が配置されている。
【0026】
センサ素子20は、図2図7に示すように、素子本体60と、検出部63と、ヒータ69と、上側コネクタ電極71と、下側コネクタ電極72と、保護層80と、第1緻密層92と、第2緻密層95と、中間層98と、を備えている。素子本体60は、酸素イオン伝導性の固体電解質層を複数積層した積層体を有している。本実施形態では、図3に示すように、素子本体60は6個の固体電解質層78a~78fを有している。固体電解質層78a~78fは、ジルコニア(ZrO2)を主成分とするセラミックスである。素子本体60は、長手方向が前後方向に沿っている長尺な直方体形状をしており、上下左右前後の各々の外表面として第1~第6面60a~60fを有している。第1面~第4面60a~60dは、素子本体60の長手方向に沿った表面であり、素子本体60の側面に相当する。第5面60eは、素子本体60の前端面であり、第6面60fは、素子本体60の後端面である。素子本体60の寸法は、例えば長さが25mm以上100mm以下、幅が2mm以上10mm以下、厚さが0.5mm以上5mm以下としてもよい。素子本体60には、第5面60eに開口して被測定ガスを自身の内部に導入する被測定ガス導入口61と、第6面60fに開口して特定ガス濃度の検出の基準となる基準ガス(ここでは大気)を自身の内部に導入する基準ガス導入口62と、が形成されている。
【0027】
検出部63は、被測定ガス中の特定ガス濃度を検出するためのものである。検出部63は、素子本体60の前端側に配設された複数の電極を有している。本実施形態では、検出部63は、第1面60aに配設された外側電極64と、素子本体60の内部に配設された内側主ポンプ電極65,内側補助ポンプ電極66,測定電極67,及び基準電極68とを備えている。内側主ポンプ電極65及び内側補助ポンプ電極66は、素子本体60の内部の空間の内周面に配設されておりトンネル状の構造を有している。
【0028】
検出部63が被測定ガス中の特定ガス濃度を検出する原理は周知であるため詳細な説明は省略するが、検出部63は例えば以下のように特定ガス濃度を検出する。検出部63は、外側電極64と内側主ポンプ電極65との間に印加された電圧に基づいて、内側主ポンプ電極65周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。また、検出部63は、外側電極64と内側補助ポンプ電極66との間に印加された電圧に基づいて、内側補助ポンプ電極66周辺の被測定ガス中の酸素の外部(素子室33)への汲み出し又は汲み入れを行う。これらにより、酸素濃度が所定値に調整された後の被測定ガスが、測定電極67周辺に到達する。測定電極67は、NOx還元触媒として機能し、到達した被測定ガス中の特定ガス(NOx)を還元する。そして、検出部63は、還元後の酸素濃度に応じて測定電極67と基準電極68との間に発生する起電力又はその起電力に基づいて測定電極67と外側電極64との間に流れる電流を、電気信号として発生させる。このように検出部63が発生させた電気信号は、被測定ガス中の特定ガス濃度に応じた値(特定ガス濃度を導出可能な値)を示す信号であり、検出部63が検出した検出値に相当する。
【0029】
ヒータ69は、素子本体60内部に配設された電気抵抗体である。ヒータ69は、外部から給電されることにより発熱して素子本体60を加熱する。ヒータ69は、素子本体60を形成する固体電解質層78a~78fの加熱及び保温を行って、固体電解質層78a~78fが活性化する温度(例えば800℃)に調整することが可能となっている。
【0030】
上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72は、それぞれ素子本体60の側面のいずれかの後端側に配設されており、外部と電気的に導通するための電極である。上側,下側コネクタ電極71,72は、いずれも保護層80に被覆されず露出している。本実施形態では、上側コネクタ電極71として上側コネクタ電極71a~71dの4個が左右方向に沿って並べられて、第1面60aの後端側に配設されている。下側コネクタ電極72として下側コネクタ電極72a~72dの4個が、左右方向に沿って並べられて、第1面60a(上面)に対向する第2面60b(下面)の後端側に配設されている。コネクタ電極71a~71d,72a~72dは、各々が検出部63の複数の電極64~68及びヒータ69のいずれかと電気的に導通している。本実施形態では、上側コネクタ電極71aが測定電極67と導通し、上側コネクタ電極71bが外側電極64と導通し、上側コネクタ電極71cが内側補助ポンプ電極66と導通し、上側コネクタ電極71dが内側主ポンプ電極65と導通し、下側コネクタ電極72a~72cがそれぞれヒータ69と導通し、下側コネクタ電極72dが基準電極68と導通している。上側コネクタ電極71bと外側電極64とは、第1面60aに配設された外側リード線75を介して導通している(図3,4参照)。それ以外のコネクタ電極は、素子本体60内部に配設されたリード線やスルーホールなどを介して、対応する電極又はヒータ69と導通している。
【0031】
外側リード線75は、例えば白金(Pt)等の貴金属又はタングステン(W),モリブデン(Mo)等の高融点金属を含む導電体である。外側リード線75は、貴金属又は高融点金属と、素子本体60に含まれる酸素イオン伝導性固体電解質(本実施形態ではジルコニア)と、を含むサーメットの導電体であることが好ましい。本実施形態では、外側リード線75は白金とジルコニアとを含むサーメットの導電体とした。外側リード線75の気孔率は、例えば5%以上40%以下としてもよい。外側リード線75の線幅(太さすなわち左右方向の幅)は、例えば0.1mm以上1.0mm以下である。外側リード線75と素子本体60の第1面60aとの間には、外側リード線75と素子本体60の固体電解質層78aとを絶縁するための図示しない絶縁層が配設されていてもよい。
【0032】
保護層80は、内側多孔質層81と、外側多孔質層85と、を備えている。内側多孔質層81は、上側,下側コネクタ電極71,72が配設された素子本体60の側面すなわち第1,第2面60a,60bのうち、少なくとも前端側を被覆する多孔質体である。本実施形態では、内側多孔質層81は、第1,第2面60a,60bをそれぞれ被覆している。外側多孔質層85は、素子本体60の前端側を被覆する多孔質体である。外側多孔質層85は、内側多孔質層81の外側に配設されている。
【0033】
内側多孔質層81は、第1面60aを被覆する第1内側多孔質層83と、第2面60bを被覆する第2内側多孔質層84とを備えている。第1内側多孔質層83は、第1緻密層92及び上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて、上側コネクタ電極71a~71dが配設された第1面60aの前端から後端までの領域を全て覆っている(図2~4参照)。第1内側多孔質層83の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1内側多孔質層83は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1内側多孔質層83は、第1緻密層92が存在することで、長手方向に沿って第1緻密層92よりも前端側に位置する前端側部分83aと、第1緻密層92よりも後端側に位置する後端側部分83bと、に分割されている。第1内側多孔質層83は、外側電極64及び外側リード線75のそれぞれ少なくとも一部を被覆している。本実施形態では、図3,4に示すように、第1内側多孔質層83は外側電極64全体を被覆し、外側リード線75のうち第1緻密層92が存在しない部分を全て被覆している。第1内側多孔質層83は、例えば被測定ガス中の硫酸などの成分から外側電極64及び外側リード線75を保護して、これらの腐食などを抑制する役割を果たす。
【0034】
第2内側多孔質層84は、第2緻密層95及び下側コネクタ電極72が存在する領域を除いて、下側コネクタ電極72a~72dが配設された第2面60bの前端から後端までの領域を全て覆っている(図2,3,5参照)。第2内側多孔質層84の左右の幅は第2面60bの左右の幅と同じであり、第2内側多孔質層84は第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。第2内側多孔質層84は、第2緻密層95が存在することで、長手方向に沿って第2緻密層95よりも前端側に位置する前端側部分84aと、第2緻密層95よりも後端側に位置する後端側部分84bと、に分割されている。
【0035】
外側多孔質層85は、第1~第5面60a~60eを被覆している。外側多孔質層85は、第1面60a及び第2面60bについては、内側多孔質層81を被覆することでこれらの面を被覆している。外側多孔質層85は、内側多孔質層81と比べて前後方向の長さが短くなっており、内側多孔質層81とは異なり素子本体60の前端及び前端付近の領域だけを被覆している。これにより、外側多孔質層85は、素子本体60のうち検出部63の各電極64~68の周辺部分、言い換えると素子本体60のうち素子室33内に配置されて被測定ガスに晒される部分、を被覆している。これにより、外側多孔質層85は、例えば被測定ガス中の水分等が付着して素子本体60にクラックが生じるのを抑制する役割を果たす。
【0036】
保護層80は、例えばアルミナ多孔質体、ジルコニア多孔質体、スピネル多孔質体、コージェライト多孔質体,チタニア多孔質体、マグネシア多孔質体などのセラミックス多孔質体からなるものである。本実施形態では、保護層80はアルミナ多孔質体からなるものとした。第1内側多孔質層83及び第2内側多孔質層84の各々の厚さは、例えば5μm以上としてもよいし、14μm以上としてもよい。第1内側多孔質層83及び第2内側多孔質層84の各々の厚さは、40μm以下としてもよいし、23μm以下としてもよい。外側多孔質層85の厚さは、例えば40μm以上800μm以下としてもよい。保護層80は、気孔率が10%以上である。保護層80は外側電極64や被測定ガス導入口61を覆っているが、気孔率が10%以上であれば、被測定ガスは保護層80を通過できる。内側多孔質層81の気孔率は、10%以上50%以下としてもよい。外側多孔質層85の気孔率は、10%以上85%以下としてもよい。外側多孔質層85は、内側多孔質層81よりも気孔率が高くてもよい。
【0037】
内側多孔質層81の気孔率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察して得られた画像(SEM画像)を用いて以下のように導出した値とする。まず、内側多孔質層81の断面を観察面とするように内側多孔質層81の厚さ方向に沿ってセンサ素子20を切断し、切断面の樹脂埋め及び研磨を行って観察用試料とする。続いて、SEMの倍率を1000倍から10000倍に設定して観察用試料の観察面を撮影することで内側多孔質層81のSEM画像を得る。次に、得た画像を画像解析することにより、画像中の画素の輝度データの輝度分布から判別分析法(大津の2値化)で閾値を決定する。その後、決定した閾値に基づいて画像中の各画素を物体部分と気孔部分とに2値化して、物体部分の面積と気孔部分の面積とを算出する。そして、全面積(物体部分と気孔部分の合計面積)に対する気孔部分の面積の割合を、気孔率(単位:%)として導出する。外側多孔質層85の気孔率や、後述する第1緻密層92,第2緻密層95,及び中間層98の気孔率も、同様にして導出した値とする。
【0038】
第1緻密層92及び第2緻密層95は、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象を抑制する水侵入抑制部としての役割を果たすものである。第1緻密層92は、上側コネクタ電極71及び第1内側多孔質層83が配設された第1面60aに配設されている。第1緻密層92は、上述したように第1内側多孔質層83を長手方向に沿って前後に分割するように第1面60aに配設されている。第1緻密層92は、上側コネクタ電極71よりも素子本体60の前端側すなわち上側コネクタ電極71の前方に配設されている。第1緻密層92は、外側電極64よりも後方に配設されている。第1緻密層92は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(図3参照)。第1緻密層92は、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されている(図1参照)。言い換えると、第1緻密層92の前端から後端までの領域が、碍子44bの前端から後端までの領域内に位置している。第1緻密層92は、水分が前端側部分83a内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第1緻密層92を通過するのを抑制して、水分が上側コネクタ電極71に到達するのを抑制する役割を果たす。第1緻密層92は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第1緻密層92の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じであり、第1緻密層92は第1面60aのうち左端から右端までに亘って第1面60aを被覆している。第1緻密層92は、前端側部分83aの後端に隣接している。第1緻密層92は、後端側部分83bの前端に隣接している。第1緻密層92は、図4に示すように、外側リード線75の一部を被覆している。
【0039】
第2緻密層95は、下側コネクタ電極72及び第2内側多孔質層84が配設された第2面60bに配設されている。第2緻密層95は、上述したように第2内側多孔質層84を長手方向に沿って前後に分割するように第2面60bに配設されている。第2緻密層95は、下側コネクタ電極72よりも素子本体60の前端側すなわち下側コネクタ電極72の前方に配設されている。第2緻密層95は、外側電極64よりも後方に配設されている。第2緻密層95は、外側電極64も含めた検出部63が有する複数の電極64~68のいずれよりも、後方に配設されている(図3参照)。第2緻密層95は、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されている(図1参照)。言い換えると、第2緻密層95の前端から後端までの領域が、碍子44bの前端から後端までの領域内に位置している。第2緻密層95は、水分が前端側部分84a内を毛細管現象によって後方に移動してきた場合に、水分が第2緻密層95を通過するのを抑制して、水分が下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する役割を果たす。第2緻密層95は、気孔率が10%未満の緻密な層である。第2緻密層95の左右の幅は第2面60bの左右の幅と同じであり、第2緻密層95は第2面60bのうち左端から右端までに亘って第2面60bを被覆している。第2緻密層95は、前端側部分84aの後端に隣接している。第2緻密層95は、後端側部分84bの前端に隣接している。
【0040】
第1緻密層92及び第2緻密層95は、それぞれ、長手方向の長さLe(図4,5参照)が0.5mm以上であることが好ましい。長さLeが0.5mm以上であることで、水分が第1緻密層92及び第2緻密層95を通過することを十分抑制できる。長さLeは5mm以上としてもよい。長さLeは25mm以下としてもよく、20mm以下としてもよい。なお、第1緻密層92の長さLeと第2緻密層95の長さLeとは本実施形態では同じ値としたが、両者が異なる値でもよい。
【0041】
第1緻密層92及び第2緻密層95は、気孔率が10%未満である点で保護層80と異なるが、上述した保護層80について例示した材料からなるセラミックスを用いることができる。すなわち、第1緻密層92は、アルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、チタニア、マグネシアのうち1以上のセラミック粒子を主成分として含むセラミックス多孔質体としてもよい。本実施形態では、第1緻密層92及び第2緻密層95は、いずれもアルミナを主成分とするセラミックスとした。第1緻密層92及び第2緻密層95の各々の厚さは、例えば1μm以上40μm以下としてもよい。第1緻密層92及び第2緻密層95の各々の厚さは、20μm以下としてもよいし、9μm以下としてもよいし、3μm以下としてもよい。第1緻密層92及び第2緻密層95の各々の気孔率は、8%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。気孔率が小さいほど、第1緻密層92及び第2緻密層95は素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象をより抑制することができる。
【0042】
中間層98は、図1~3,6,7に示すように、第1緻密層92と素子本体60との間に配設されている。中間層98は、詳細は後述するが、センサ素子20におけるクラックの発生を抑制する役割を果たす。図7に示すように、中間層98は第1緻密層92と外側リード線75との間に位置しており、外側リード線75を被覆している。そのため、第1緻密層92は中間層98を介して外側リード線75を被覆している。本実施形態では、図6に示すように、中間層98の前後方向の長さは第1緻密層92の長さLeと同じである。すなわち、中間層98は第1緻密層92の下方にのみ配設されており、第1内側多孔質層83と素子本体60との間には配設されていない。また、図7に示すように、中間層98の左右の幅は第1面60aの左右の幅と同じである。また、中間層98の左右の幅は第1緻密層92の左右の幅と同じである。中間層98の厚みTは、例えば1μm以上40μm以下である。中間層98は、内側多孔質層81と同様に気孔率が10%以上すなわち多孔質であってもよい。中間層98の気孔率は50%以下としてもよい。中間層98は、第1緻密層92と同様に気孔率が10%未満すなわち緻密であってもよい。中間層98の気孔率は8%以下としてもよいし、5%以下としてもよい。本実施形態では、中間層98は緻密であるものとした。中間層98の厚みTが1μm以上であれば、中間層98の存在によるセンサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。中間層98の厚みTは、10μm以下としてもよい。
【0043】
中間層98の厚みTとしては、中間層98のうち最も薄い部分(例えば、図7に示すように外側リード線75の真上に位置する部分)の厚みT1を用いたり、中間層98全体の平均的な厚みT2を用いたりすることができる。厚みT1,T2のいずれを厚みTとして用いた場合でも、厚みTが1μm以上であれば、クラックの発生を抑制する効果がより確実に得られる。
【0044】
中間層98は、例えばアルミナ、ジルコニア、スピネル、コージェライト、チタニア、マグネシアのうち1以上のセラミック粒子を主成分として含むセラミックスとしてもよい。中間層98は、白金などの貴金属としてもよい。中間層98は、上記のセラミック粒子と貴金属粒子とを含むサーメットとしてもよい。中間層98は、主成分として、固体電解質層78a~78fの主成分と第1緻密層92の主成分とを含むことが好ましい。本実施形態では、中間層98は、主成分として、固体電解質層78a~78fの主成分であるジルコニアと第1緻密層92の主成分であるアルミナとを共に含むセラミックスとした。
【0045】
こうして構成されたガスセンサ10の製造方法を以下に説明する。まず、センサ素子20の製造方法について説明する。センサ素子20の製造方法は、焼成前のセンサ素子20である未焼成センサ素子を作製する作製工程と、未焼成センサ素子を焼成する焼成工程と、を含む。なお、本実施形態では、外側多孔質層85は焼成工程の後にプラズマ溶射により形成する。そのため、作製工程で作製される未焼成センサ素子には未焼成の外側多孔質層85は含まれず、焼成工程後のセンサ素子20には外側多孔質層85は含まれない。
【0046】
[作製工程]
作製工程では、焼成前のセンサ素子20である未焼成センサ素子を作製する。作製工程では、まず、素子本体60が備える固体電解質層78a~78fに対応する6枚の未焼成のセラミックスグリーンシート(未焼成固体電解質層)を用意する。セラミックスグリーンシートは、例えば、固体電解質層78a~78fの材質からなる原料粉末(ここではジルコニアの粉末)、溶媒、及びバインダーなどを混合して、原料粉末の材質を主成分とするペーストとし、このペーストをシート状に成形して作製する。各セラミックスグリーンシートには、必要に応じて貫通孔や溝などを打ち抜き処理などによって設けることで、焼成後に素子本体60の内部の空間となる部分を設ける。次に、固体電解質層78a~78fのそれぞれに対応して、各セラミックスグリーンシートに未焼成電極,未焼成リード線,未焼成コネクタ電極,及び未焼成ヒータなどのパターンをスクリーン印刷により形成する。未焼成電極は、焼成後に検出部63の上述した各電極64~68となるものである。未焼成リード線は、焼成後に各電極と上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72とを接続するリード線となるものである。未焼成リード線には、焼成後に外側リード線75となるものも含まれる。未焼成コネクタ電極は、焼成後に上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72となるものである。未焼成ヒータは、焼成後にヒータ69となるものである。また、焼成後に固体電解質層78aとなるセラミックスグリーンシートの表面(素子本体60の第1面60aとなる面)には、焼成後に中間層98となる未焼成中間層、焼成後に第1緻密層92となる未焼成第1緻密層,及び焼成後に第1内側多孔質層83となる未焼成第1内側多孔質層のパターンをそれぞれスクリーン印刷により形成する。同様に、焼成後に固体電解質層78fとなるセラミックスグリーンシートの表面(素子本体60の第2面60bとなる面)には、焼成後に第2緻密層95となる未焼成第2緻密層,及び焼成後に第2内側多孔質層84となる未焼成第2内側多孔質層のパターンをそれぞれスクリーン印刷により形成する。次に、このように各種のパターンを形成した6枚のセラミックスグリーンシートを積層して積層体とする。その積層体を切断してセンサ素子20の大きさの小積層体に切り分ける。この小積層体が、未焼成センサ素子である。なお、未焼成第1内側多孔質層,未未焼成第2内側多孔質層,焼成中間層,未焼成第1緻密層,及び未焼成第2緻密層のパターンの印刷は、上述した積層体を作製した後に行ってもよい。
【0047】
未焼成第1内側多孔質層を形成するためのペーストとしては、例えば、上述した第1内側多孔質層83の材質からなる原料粉末(本実施形態ではアルミナの粉末)、バインダー、溶媒、及び造孔材などを混合した、原料粉末の材質を主成分とするペーストを用いる。未焼成第2内側多孔質層を形成するためのペーストについても同様である。未焼成第1緻密層を形成するためのペーストとしては、例えば、上述した第1緻密層92の材質からなる原料粉末(本実施形態ではアルミナの粉末)、バインダー、及び溶媒などを混合した、原料粉末の材質を主成分とするペーストを用いる。第1緻密層92の気孔率を調整するために、ペーストには造孔材を添加してもよい。未焼成第2緻密層を形成するためのペーストについても同様である。未焼成中間層を形成するためのペーストとしては、例えば、上述した中間層98の材質からなる原料粉末(本実施形態ではアルミナの粉末及びジルコニアの粉末)、バインダー、及び溶媒などを混合した、原料粉末の材質を主成分とするペーストを用いる。中間層98の気孔率を調整するために、ペーストには造孔材を添加してもよい。
【0048】
未焼成第1内側多孔質層と未焼成第2内側多孔質層とは、同じペーストを用いて形成してもよいし、原料粉末の材質が互いに異なるペーストを用いて形成してもよい。未焼成第1緻密層と未焼成第2緻密層についても、互いに同じペーストを用いて形成してもよいし、原料粉末の材質が互いに異なるペーストを用いて形成してもよい。
【0049】
[焼成工程]
続いて、作製工程で得た未焼成センサ素子を焼成する焼成工程を行う。焼成工程では、未焼成センサ素子を所定の焼成温度(例えば1360℃±50℃)で焼成し、焼成後に室温(例えば20℃)まで降温する。これにより、6枚のセラミックスグリーンシートが固体電解質層78a~78fとなり、未焼成電極が各電極64~68となり、未焼成リード線が外側リード線75を含む複数のリード線となり、未焼成コネクタ電極が上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72となり、未焼成ヒータがヒータ69となる。また、未焼成中間層が中間層98となり、未焼成第1緻密層が第1緻密層92となり、未焼成第1内側多孔質層が第1内側多孔質層83となり、未焼成第2緻密層が第2緻密層95となり、未焼成第2内側多孔質層が第2内側多孔質層84となる。この焼成工程により、センサ素子20が得られる。
【0050】
焼成工程を行ってセンサ素子20を作製した後、本実施形態では、プラズマ溶射により外側多孔質層85を形成する。こうしたプラズマ溶射は、例えば特開2016-109685号公報に記載のプラズマ溶射と同様にして行うことができる。その後に、センサ素子20を組み込んだガスセンサ10を製造する。まず、筒状体41の内部にセンサ素子20を軸方向に貫通させ、且つ筒状体41の内周面とセンサ素子20との間に碍子44a,圧粉体45a,碍子44b,圧粉体45b,碍子44c,メタルリング46をこの順に配置する。次に、メタルリング46を押圧して圧粉体45a,45bを圧縮し、その状態で縮径部43c,43dを形成することで素子封止体40を製造して、筒状体41の内周面とセンサ素子20との間を封止する。その後、素子封止体40に保護カバー30を溶接し、ボルト47を取り付けて組立体15を得る。そして、ゴム栓57内を通したリード線55と、これに接続されたコネクタ50とを用意して、コネクタ50をセンサ素子20の後端側に接続する。その後、外筒48を主体金具42に溶接固定して、ガスセンサ10を得る。
【0051】
なお、本実施形態のセンサ素子20の固体電解質層78a~78f,第1緻密層92,及び中間層98は、20℃から1360℃の温度域における各々の熱膨張率をそれぞれ熱膨張率Ea,Eb,Ecとしたとき、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebの関係を満たしている。熱膨張率Ea~Ecは、体積膨張率ではなく線膨張率である。また、熱膨張率Eaと熱膨張率Ebとの中央値をEd(=(Ea+Eb)/2)としたときに、熱膨張率Ecが下記式(1)を満たすことが好ましい。熱膨張率Ea,Eb,Ecは、熱膨張率A’,B’,C’とも称する。中央値Edは、中央値D’とも称する。
【0052】
Ed-0.8×(Ed-Eb)<Ec<Ed+0.8×(Ea-Ed) (1)
【0053】
固体電解質層78a~78fの熱膨張率Eaは、熱機械分析(TMA)によって以下のように測定する。まず、センサ素子20を切断して素子本体60の固体電解質層78a~78fの部分を切り出して測定片とする。次に、この測定片を容器の中に入れ、1gの荷重をかけながら20℃から1360℃まで温度を変化させたときの、測定片の膨張率を測定する。具体的には、20℃の状態での測定片の寸法a1'を測定する。次に、測定片に1gの荷重をかけながら1360℃まで昇温した状態の測定片の寸法a2'を測定する。そして、熱膨張率Ea[%]=(a2'-a1')/a1'×100の式を用いて熱膨張率Eaを算出する。寸法a1'及び寸法a2'は、測定片のうちセンサ素子20の前後方向すなわち長手方向に対応する寸法を測定する。同様に、熱膨張率Ebはセンサ素子20から第1緻密層92の部分を切り出した測定片を用いて算出し、熱膨張率Ecはセンサ素子20から中間層98の部分を切り出した測定片を用いて算出する。なお、固体電解質層78a~78fの各々の材質が同一ではない場合など、固体電解質層78a~78fの熱膨張率が互いに同一でない場合は、第1緻密層92及び中間層98に最も近い位置にある層(本実施形態では固体電解質層78a)の熱膨張率を、熱膨張率Eaとする。
【0054】
ここで、センサ素子20の熱膨張率Ea~Ecの調整は、例えば、固体電解質層78a~78fの熱膨張率Eaは、セラミックスグリーンシートを形成するためのペーストに含まれる原料粉末の材質によって調整することができる。第1緻密層92の熱膨張率Ebは、未焼成第1緻密層を形成するためのペーストに含まれる原料粉末の材質によって調整することができる。中間層98の熱膨張率Ecは、未焼成中間層を形成するためのペーストに含まれる原料粉末の材質によって調整することができる。そのため、固体電解質層78a~78fの原料粉末の材質と第1緻密層92の原料粉末の材質との組み合わせを適宜選択することで、比Ea/Ebを1.0超過5.0以下にすることができる。例えば、40℃~400℃におけるジルコニアの熱膨張率は10.5×10-6/℃であり、アルミナの熱膨張率は7.2×10-6/℃であるため、ジルコニアの熱膨張率はアルミナの熱膨張率よりも大きい。そのため、固体電解質層78a~78fの原料粉末をジルコニアとし、第1緻密層92の原料粉末をアルミナとすることで、熱膨張率Eaが熱膨張率Ebよりも大きくなり、比Ea/Ebを1.0超過5.0以下にすることができる。第1緻密層92の原料粉末として、アルミナよりも熱膨張率が小さい材料であるコージェライト(熱膨張率が0.1×10-6/℃未満)や窒化ケイ素(熱膨張率が2.8×10-6/℃)を用いることで、比Ea/Ebを1.0超過5.0以下にしつつアルミナを用いた場合よりも比Ea/Ebの値を大きい値(例えば5.0付近の値)にすることができる。また、中間層98の原料粉末の材質として、固体電解質層78a~78fの原料粉末の材質と第1緻密層92の原料粉末の材質との中間的な熱膨張率を有する材質を適宜選択することで、Ea>Ec>Ebを満たしたり、式(1)を満たしたりすることができる。あるいは、中間層98の原料粉末が、固体電解質層78a~78fの原料粉末の材質と第1緻密層92の原料粉末の材質とを共に含むようにしてもよい。こうしても、Ea>Ec>Ebを満たしたり、式(1)を満たしたりすることができる。また、中間層98の原料粉末中の、固体電解質層78a~78fの原料粉末の材質の体積割合と第1緻密層92の原料粉末の材質の体積割合とを適宜調整することで、Ea>Ec>Ebを満たしつつ熱膨張率Ecを調整することができ、これによって式(1)を満たすように調整できる。
【0055】
次に、こうして構成されたガスセンサ10の使用例を以下に説明する。ガスセンサ10が図1のように配管58に取り付けられた状態で、配管58内を被測定ガスが流れると、被測定ガスは保護カバー30内を流通して素子室33内に流入し、センサ素子20の前端側が被測定ガスに晒される。そして、センサ素子20がヒータ69によって加熱された状態で、被測定ガスが保護層80を通過して外側電極64に到達及び被測定ガス導入口61からセンサ素子20内に到達すると、上述したようにこの被測定ガス中のNOx濃度に応じた電気信号を検出部63が発生させる。この電気信号を上側,下側コネクタ電極71,72を介して取り出すことで、電気信号に基づきNOx濃度が検出される。
【0056】
このとき、被測定ガス中には水分が含まれている場合があり、この水分が毛細管現象によって保護層80内を移動していく場合がある。この水分が露出した上側,下側コネクタ電極71,72まで到達すると、水や水に溶けた硫酸などの成分によって上側,下側コネクタ電極71,72の錆や腐食が発生したり上側,下側コネクタ電極71,72のうち隣接する電極間の短絡が生じたりする場合がある。しかし、本実施形態では、被測定ガス中の水分が毛細管現象によって保護層80内(特に第1内側多孔質層83内及び第2内側多孔質層84内)を素子本体60の後端側に向かって移動したとしても、水分は上側,下側コネクタ電極71,72に到達する前に第1緻密層92又は第2緻密層95に到達する。そして、第1緻密層92は、気孔率が10%未満であり、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。これにより、第1緻密層92は、水分が前端側部分83a側から第1緻密層92を通過して上側コネクタ電極71(上側コネクタ電極71a~71d)まで到達することを抑制できる。そのため、センサ素子20では、上側コネクタ電極71に水が付着することによる上述した不具合の発生が抑制される。同様に、第2緻密層95は、水分が前端側部分84a側から第2緻密層95を通過して下側コネクタ電極72(下側コネクタ電極72a~72d)まで到達することを抑制できる。そのため、センサ素子20では、下側コネクタ電極72に水が付着することによる上述した不具合の発生が抑制される。また、第1緻密層92は、長手方向の長さLeが0.5mm以上であると、水分が第1緻密層92を通過することを十分抑制できるため、好ましい。第2緻密層95についても同様に長さLeが0.5mm以上であることが好ましい。
【0057】
また、センサ素子20は、上述したように比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つEa>Ec>Ebを満たしていることで、センサ素子20が使用時にヒータ69によって昇温された際に、固体電解質層78a~78fの熱膨張率Eaと第1緻密層92の熱膨張率Ebとの差によって生じる応力が、中間層98によって低減される。センサ素子20に応力が生じるとクラックが生じやすいが、本実施形態のセンサ素子20では昇温時に生じる応力が低減されているから、センサ素子20へのクラックの発生が抑制される。さらに、上述した式(1)が満たされることで、センサ素子20の昇温時の応力がより抑制されるから、センサ素子20の昇温時のクラックの発生がより抑制される。比Ea/Ebは3.0以下であることが好ましい。比Ea/Ebが3.0以下であれば、固体電解質層78a~78fの熱膨張率Eaと第1緻密層92の熱膨張率Ebとがより近い値になるから、センサ素子20のクラックの発生がより抑制される。
【0058】
なお、センサ素子20のうち特に第1緻密層92又は第2緻密層95にクラックが生じると、第1緻密層92又は第2緻密層95の上述した水侵入抑制部としての機能が低下する場合がある。これに対して、本実施形態のセンサ素子20は、クラックの発生が抑制されているから、第1緻密層92及び第2緻密層95の水侵入抑制部としての機能が低下しにくくなり、ひいては上側コネクタ電極71及び下側コネクタ電極72に水が付着することによる上述した不具合の発生が抑制される。
【0059】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の固体電解質層78a~78fが本発明の固体電解質層に相当し、素子本体60が素子本体に相当し、上側コネクタ電極71a~71dの各々がコネクタ電極に相当し、第1面60aがコネクタ電極が配設された側面に相当し、第1内側多孔質層83が多孔質層に相当し、第1緻密層92が緻密層に相当し、中間層98が中間層に相当する。また、検出部63が検出部に相当し、外側リード線75が外側リード部に相当し、外側電極64が外側電極に相当する。
【0060】
以上詳述した本実施形態のガスセンサ10によれば、センサ素子20は、固体電解質層78a~78f,第1緻密層92,及び中間層98の20℃から1360℃の温度域における熱膨張率Ea,Eb,Ecに関して、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebを満たしている。これにより、センサ素子20が使用時に昇温された際に、固体電解質層78a~78fの熱膨張率Eaと第1緻密層92の熱膨張率Ebとの差によって生じる応力が中間層98によって低減される。したがって、センサ素子20は昇温時のクラックの発生が抑制される。また、センサ素子20は、熱膨張率Ea~Ecが上述した式(1)を満たすことで、センサ素子20が昇温された際に生じる応力がより低減され、クラックの発生がより抑制される。さらに、センサ素子20は、比Ea/Ebが3.0以下であることで、クラックの発生がより抑制される。そして、センサ素子20では、中間層98の厚みTが1μm以上であることで、上述した中間層98の存在によるセンサ素子20のクラックの発生を抑制する効果が、より確実に得られる。
【0061】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0062】
例えば、上述した実施形態では、図6に示したように中間層98の前後の長さは第1緻密層92の長さLeと同じとしたが、これに限られない。中間層98は、少なくとも第1緻密層92と素子本体60との間に配設されていればよい。例えば、図8に示すように、中間層98の長さが長さLeより長く、第1内側多孔質層83と素子本体60との間にも中間層98が存在してもよい。図8では、中間層98は第1緻密層92よりも前方及び後方に延びており、前端側部分83aと素子本体60の間と、後端側部分83bと素子本体60との間と、の両方に中間層98が存在している。中間層98は、第1面60aの前端から後端までに亘って存在していてもよい。ただし、中間層98が緻密である場合には、中間層98は外側電極64を覆わないように外側電極64を避けて配設されていることが好ましい。また、中間層98の長さが長さLeよりも短く、第1緻密層92と素子本体60との間に中間層98が存在しない領域があってもよい。言い換えると、前後方向に沿った断面視で中間層98は第1緻密層92の少なくとも一部と素子本体60(固体電解質層78a)との間に存在していればよい。ただし、図6及び図8のように、少なくとも第1緻密層92の前端から後端までに亘って第1緻密層92と固体電解質層78aとの間に中間層98が存在していることが好ましい。こうすれば、センサ素子20におけるクラックの発生をより抑制できる。中間層98の前後の長さは、例えば0.5mm以上55mm以下としてもよい。
【0063】
上述した実施形態では、図7に示したように中間層98の左右の幅は第1面60aの左右の幅及び第1緻密層92の左右の幅と同じとしたが、これに限られない。中間層98は、左右方向に沿った断面視で第1緻密層92の少なくとも一部と素子本体60(固体電解質層78a)との間に存在していればよく、中間層98の左右の幅が図7よりも狭くてもよい。ただし、中間層98は、左右方向で第1緻密層92の中央且つ50%の幅の領域(以下、中央領域と称する)と素子本体60との間には少なくとも存在していることが好ましい。図9に示すように、第1緻密層92の左右の幅Weを4等分した4個の領域のうち左右の中央に位置する2個の領域が中央領域である。図9に示すように、中間層98がこの第1緻密層92の中央領域と素子本体60との間に少なくとも存在していることが好ましい。図9の例では、左右方向に沿った断面視で中間層98は第1緻密層92の中央領域と素子本体60との間にのみ存在し、中間層98の左右の幅Wcは第1緻密層92の中央領域の幅(We/2)と同じになっている。中間層98の幅Wcは中央領域の幅(We/2)以上であることが好ましい。なお、図10に示すように、中間層98が左右に分割されており、左側に位置する中間層98aと右側に位置する中間層98bとを有していてもよい。この場合も、中間層98の幅Wc(中間層98aの幅と中間層98bの幅との合計値)がWe/2以上であることが好ましい。図10では、中間層98aの幅と中間層98bの幅との合計値がWe/2と等しくなっている。上述したセンサ素子20におけるクラックの発生を抑制する観点からは、図10よりも図9のように中間層98が第1緻密層92の中央領域と素子本体60との間に存在していることが好ましい。
【0064】
上述した実施形態では、素子本体60の第1面60a側(上側)に配設された第1緻密層92と素子本体60との間に中間層98が存在したが、これに限られない。図11に示すように、素子本体60の第2面60b側(下側)に配設された第2緻密層95と素子本体60との間にも中間層99が存在してもよい。この場合、20℃から1360℃の温度域における固体電解質層78a~78f,第2緻密層95,中間層99の熱膨張率をそれぞれ熱膨張率Ea,Eb,Ecとしたとき、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebを満たすことが好ましく、上記式(1)を満たすことがより好ましい。中間層98について上述した種々の態様は、中間層99にも適用可能である。また、第1緻密層92の熱膨張率と第2緻密層95の熱膨張率とは同じであることが好ましく、中間層98の熱膨張率と中間層99の熱膨張率とは同じであることが好ましい。
【0065】
上述した実施形態において、第2内側多孔質層84及び第2緻密層95が存在せず素子本体60の第2面60bが露出する部分があってもよい。図12は、第2緻密層95の前後に隣接して隙間領域96が存在する場合の例である。図12の隙間領域96は、前端側部分84aと第2緻密層95との間に配置された前側隙間領域96aと、後端側部分84bと第2緻密層95との間に配置された後側隙間領域96bと、を備えている。隙間領域96が存在する部分では、第2面60bが露出している。隙間領域96は、第2内側多孔質層84が存在しない空間であるから、素子本体60の長手方向に沿った水の毛細管現象が生じにくい。そのため、隙間領域96も、第2緻密層95と同様に、水分が素子本体60の長手方向に沿って移動して下側コネクタ電極72に到達するのを抑制する水侵入抑制部としての役割を果たす。隙間領域96は、前側隙間領域96aと後側隙間領域96bとの一方のみを有していてもよい。隙間領域96の長手方向の長さLgは、1mm以下であることが好ましい。図12のように隙間領域96が前側隙間領域96aと後側隙間領域96bとを有する場合は、前側隙間領域96aの長手方向の長さLg1と後側隙間領域96bの長手方向の長さLg2との合計値を長さLgとする。なお、素子本体60の第1面60a側にも隙間領域が存在してもよい。ただし、上述した実施形態では第1面60aには外側リード線75が配設されているため、外側リード線75を保護する観点からは第1面60a側には隙間領域が存在しないことが好ましい。
【0066】
上述した実施形態では、外側多孔質層85は焼成工程後にプラズマ溶射により形成したが、これに限られない。例えば、作製工程においてディッピングなどを用いて、焼成工程後に外側多孔質層85となる未焼成外側多孔質層を形成してもよい。この場合、焼成工程により未焼成外側多孔質層が外側多孔質層85となる。また、上述した実施形態において、保護層80は外側多孔質層85を備えなくてもよい。
【0067】
上述した実施形態では、第1緻密層92は、第1内側多孔質層83を長手方向に沿って前端側部分83aと後端側部分83bとに分割していたが、これに限られない。第1緻密層92は、保護層80よりも後端側に位置していてもよい。例えば、上述した実施形態において、第1内側多孔質層83が後端側部分83bを備えなくてもよい。第2緻密層95についても同様に、第2内側多孔質層84を分割せず保護層80よりも後端側に位置していてもよい。ただし第1内側多孔質層83については、後端側部分83bが存在しない場合には外側リード線75の一部が露出することになるため、第1内側多孔質層83は後端側部分83bを備えることが好ましい。
【0068】
上述した実施形態では、第1緻密層92及び第2緻密層95は、それぞれ、前後方向で碍子44bと重複する位置に配置されていたが、これに限られない。例えば、第1緻密層92及び第2緻密層95は、前後方向で碍子44a又は碍子44cと重複する位置に配置されていてもよいし、メタルリング46よりも後方に配置されていてもよい。第1緻密層92及び第2緻密層95は、上述した実施形態では素子室33に露出しない位置に配置されていたが、第1緻密層92及び第2緻密層95の少なくとも一方が、素子室33に露出する位置、すなわち被測定ガスに晒される位置に配設されていてもよい。例えば、第1緻密層92及び第2緻密層95の少なくとも一方が、外側多孔質層85よりも後方且つ素子室33に露出する位置に配設されていてもよい。
【0069】
上述した実施形態において、センサ素子20が第2内側多孔質層84を備えず、第2面60bが第2内側多孔質層84で被覆されていなくてもよい。この場合、センサ素子20は第2緻密層95を備えなくてもよい。緻密層は、素子本体が有する側面(上述した実施形態では第1~第4面60a~60d)のうち、コネクタ電極及び多孔質層が配設された側面(上述した実施形態では第1,第2面60a,60b)の少なくとも1つに配設されていればよい。こうすれば、少なくとも緻密層が配設された側面においては、水分がコネクタ電極に到達するのを抑制できる。そして、その緻密層と素子本体との間に中間層が配設されていればよい。
【0070】
上述した実施形態では、第1内側多孔質層83は第1緻密層92及び上側コネクタ電極71が存在する領域を除いて第1面60aの前端から後端までの領域を被覆していたが、これに限られない。例えば、第1内側多孔質層83は、第1緻密層92が存在する領域を除いて第1面60aの前端から上側コネクタ電極71a~71dの前端までの領域を覆っていてもよい。あるいは、第1内側多孔質層83は、第1緻密層92が存在する領域を除いて第1面60aの前端から第1緻密層92よりも後方までの領域を少なくとも覆っていてもよい。第2内側多孔質層84についても同様である。
【0071】
上述した実施形態では、素子本体60は直方体形状としたが、これに限られない。例えば、素子本体60は円筒又は円柱状であってもよい。この場合、素子本体60は側面を1つ有することになる。
【0072】
上述した実施形態では、ガスセンサ10は特定ガス濃度としてNOx濃度を検出したが、これに限らず他の酸化物濃度を特定ガス濃度としてもよい。特定ガスが酸化物の場合には、上述した実施形態と同様に特定ガスそのものが測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。また、特定ガスがアンモニアなどの非酸化物であってもよい。特定ガスが非酸化物の場合には、特定ガスが例えば内側主ポンプ電極65の周辺で酸化物に変換(例えばアンモニアであれば酸化されてNOに変換)されることで、変換後の酸化物が測定電極67の周辺で還元されたときに酸素が発生するから、この酸素に応じた検出部63の検出値に基づいて特定ガス濃度を検出できる。このように、特定ガスが酸化物と非酸化物とのいずれであっても、ガスセンサ10は、特定ガスに由来して測定電極67の周辺で発生する酸素に基づいて特定ガス濃度を検出できる。
【実施例
【0073】
以下には、センサ素子を具体的に作製した例を実施例として説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
[実施例1]
図12に示したように素子本体60の第2面60b側に隙間領域96(前側隙間領域96a及び後側隙間領域96b)が存在し、且つ保護層80が外側多孔質層85を備えない態様とした点以外は、図2~4,6,7に示したセンサ素子20と同様のセンサ素子を作製して、実施例1とした。実施例1のセンサ素子20は以下のように作製した。まず、以下のように作製工程を行った。安定化剤のイットリアを4mol%添加したジルコニア粒子と有機バインダーと有機溶剤とを混合してテープ成形により成形したセラミックスグリーンシートを6枚用意した。各々のグリーンシートには必要に応じて打ち抜き処理を行い、未焼成電極,未焼成リード線,未焼成コネクタ電極,未焼成ヒータ,未焼成中間層,未焼成第1緻密層,未焼成第1内側多孔質層,未焼成第2緻密層,及び未焼成第2内側多孔質層のパターンをスクリーン印刷により形成した。未焼成第1内側多孔質層及び未焼成第2内側多孔質層は、原料粉末(アルミナ粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),溶媒(アセトン),及び造孔材を混合して調合したペーストを用いて形成した。未焼成第1緻密層及び未焼成第2緻密層用のペーストは、第1,第2緻密層92,95の気孔率が0%となるように調整した。具体的には、造孔材を添加せず溶媒の添加量を変更して粘度を調整した点以外は、未焼成第1内側多孔質層と同じペーストを未焼成第1緻密層及び未焼成第2緻密層用のペーストとして用いた。未焼成中間層は、原料粉末(アルミナの粉末及びジルコニアの粉末),バインダー溶液(ポリビニルアセタールとブチルカルビトール),溶媒(アセトン)を混合して調合したペーストを用いて形成した。未焼成中間層用のペーストには造孔材を添加せず、中間層98の気孔率が0%となるようにした。スクリーン印刷を行う際には、未焼成中間層を形成したあとに未焼成第1緻密層を印刷して、未焼成第1緻密層と固体電解質層78aとなるセラミックスグリーンシートとの間に未焼成中間層が存在するようにした。その後、6枚のグリーンシートを積層して積層体とし、積層体を切断して小積層体すなわち未焼成センサ素子を得た。次に、未焼成センサ素子を1360℃±50℃で焼成し、焼成後に室温(20℃)まで降温する焼成工程を行った。これにより、素子本体60,第1緻密層92,及び中間層98等を備えたセンサ素子20を作製して、実施例1のセンサ素子20とした。中間層98の厚みTは、5μmとした。厚みTの値には、中間層98のうち最も薄い部分(外側リード線75の真上に位置する部分)で測定した厚みT1を用いた。
【0075】
[実施例2~10,比較例1~3]
熱膨張率Ea,Eb,Ecの互いの関係を実施例1と異ならせたセンサ素子20を作製して、実施例2~10,比較例1~3とした。実施例2~10,比較例1~3は、固体電解質層78a~78fについては実施例1と同じとした。すなわち熱膨張率Eaの値は実施例1~10,比較例1~3で共通とした。その上で、実施例2~10,比較例1~3では、第1緻密層92に関して、未焼成緻密層の原料粉末としてアルミナ,コージェライト,窒化ケイ素のいずれを選択するかを変更することにより、熱膨張率Ebを種々変更した。また、実施例2~10,比較例1~3では、中間層98に関して、未焼成中間層に含まれる固体電解質層78a~78fの原料粉末の材質の体積割合と第1緻密層92の原料粉末の材質の体積割合とを調整することにより、熱膨張率Ecを種々変更した。また、実施例2~8,比較例1~3では中間層98の厚みTを実施例1と同じ5μmとした。実施例9では中間層98の厚みTを10μmとした。実施例10では中間層98の厚みTを1μmとした。中間層98の厚みTは、未焼成中間層用のペーストに含まれる溶媒の量を変更して粘度を調整したり、未焼成中間層のスクリーン印刷の印刷回数を調整したりすることにより、調整した。
【0076】
[熱膨張率Ea~Ecの測定]
実施例1~10,比較例1~3の各々について、上述した方法により熱膨張率Ea~Ecを測定した。測定には、NETZSCH製の熱機械分析装置(型式:TMA4000SA)を用いた。
【0077】
[耐クラック性の評価]
実施例1~10,比較例1~3について、それぞれ10本のセンサ素子20を作製し、センサ素子20を一定時間高温高圧の蒸気にさらす試験を行って耐クラック性を評価した。この試験はJIS A 1509-8:2014に準じた方法で行った。まず、センサ素子20をオートクレーブ内に配置し、約1時間で1MPa以上に達するようにオートクレーブ内の圧力を徐々に上げ、この圧力を1時間以上保持した。その後、常圧になるまでできるだけ早く圧力を下げた後、センサ素子20を放冷した。放冷後のセンサ素子20について、第1緻密層92にクラックが発生しているか否かを目視にて確認した。10本のセンサ素子20のうち、クラックが発生した本数が0本であった場合に耐クラック性を「優(A)」と判定し、クラックが発生した本数が1本であった場合に「良(B)」と判定し、クラックが発生した本数が2本以上の場合に「不可(F)」と判定した。なお、この試験中のオートクレーブ内の高温高圧状態は、センサ素子20が車両に取り付けられたときの通常の使用環境よりも厳しい条件である。
【0078】
実施例1~10,比較例1~3の各々の熱膨張率Ea~Ec及びセンサ素子20の耐クラック性の評価結果を、表1にまとめて示す。表1では、熱膨張率Ea~Ecの値は、熱膨張率Eaを基準(値1)として、熱膨張率Eaに対する比で示している。また、表1には、比Ea/Eb,Ea~Ecの大小関係,熱膨張率Eaと熱膨張率Ebとの中央値Ed,式(1)の左辺(Ed-0.8×(Ed-Eb))の値、式(1)の右辺(Ed+0.8×(Ea-Ed))の値,熱膨張率Ea~Ecが式(1)を満たすか否か,及び中間層98の厚みTについても併せて示した。
【0079】
【表1】
【0080】
表1から分かるように、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり且つEa>Ec>Ebを満たしている実施例1~10は、センサ素子20の耐クラック性の評価が「優(A)」又は「良(B)」のいずれかであり、クラックの発生が抑制されていた。これに対して、Ea>Ec>Ebを満たさない比較例1,2及び比Ea/Ebが5.0を超えている比較例3は、いずれもセンサ素子20の耐クラック性の評価が「不可(F)」であった。このことから、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり且つEa>Ec>Ebを満たすことで、センサ素子20のクラックの発生を抑制できることが確認された。また、式(1)を満たさない実施例2,3では耐クラック性の評価が「良(B)」であったのに対し、式(1)を満たす実施例1,4~6,8~10は耐クラック性の評価が「優(A)」であった。このことから、式(1)を満たすことでセンサ素子20のクラックの発生をより抑制できることが確認された。比Ea/Ebが3.0超過である実施例7では耐クラック性の評価が「良(B)」であったのに対し、比Ea/Ebが3.0以下である実施例1,4~6,8~10は耐クラック性の評価が「優(A)」であった。このことから、比Ea/Ebが3.0以下であることでセンサ素子20のクラックの発生をより抑制できることが確認された。実施例10の結果から、中間層98の厚みTが1μm以上の範囲内においてクラックの発生を抑制する効果が得られることが確認された。実施例9の結果から、中間層98の厚みTが10μm以下の範囲内においてクラックの発生を抑制する効果が得られることが確認された。
【0081】
本出願は、2021年6月17日に出願された米国特許出願第63/211665号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、自動車の排気ガスなどの被測定ガスにおけるNOxなどの特定ガスの濃度を検出するセンサ素子及びガスセンサに利用可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 ガスセンサ、15 組立体、20 センサ素子、30 保護カバー、31 内側保護カバー、32 外側保護カバー、33 素子室、40 素子封止体、41 筒状体、42 主体金具、42a 肉厚部、42b 底面、43 内筒、43a フランジ部、43c,43d 縮径部、44a~44c 碍子、45a,45b 圧粉体、46 メタルリング、47 ボルト、48 外筒、49 空間、50 コネクタ、55 リード線、57 ゴム栓、58 配管、59 固定用部材、60 素子本体、60a~60f 第1面~第6面、61 被測定ガス導入口、62 基準ガス導入口、63 検出部、64 外側電極、65 内側主ポンプ電極、66 内側補助ポンプ電極、67 測定電極、68 基準電極、69 ヒータ、71,71a~71d 上側コネクタ電極、72,72a~72d 下側コネクタ電極、75 外側リード線、78a~78f 固体電解質層、80 保護層、81 内側多孔質層、83 第1内側多孔質層、83a 前端側部分、83b 後端側部分、84 第2内側多孔質層、84a 前端側部分、84b 後端側部分、85 外側多孔質層、92 第1緻密層、95 第2緻密層、96 隙間領域、96a 前側隙間領域、96b 後側隙間領域、98,98a,98b,99 中間層。
【要約】
センサ素子20は、固体電解質層78a~78fを有する素子本体60と、素子本体60の第1面60aに配設され気孔率が10%未満の第1緻密層92と、少なくとも第1緻密層92と素子本体60との間に配設された中間層98と、を備える。20℃から1360℃の温度域における、固体電解質層78a~78f,緻密層92,及び中間層98の熱膨張率をそれぞれ熱膨張率Ea,Eb,Ecとしたとき、比Ea/Ebが1.0超過5.0以下であり、且つ、Ea>Ec>Ebを満たす。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12