(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】巻線型コイル部品およびそれを用いた直流電流重畳回路
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20221216BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20221216BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20221216BHJP
H03H 7/09 20060101ALI20221216BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01F27/00 R
H01F27/29 F
H01F27/29 H
H01F27/28 128
H03H7/09 A
H01F17/04 A
(21)【出願番号】P 2020016645
(22)【出願日】2020-02-03
【審査請求日】2021-07-12
(31)【優先権主張番号】P 2019116249
(32)【優先日】2019-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 啓雄
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳惠
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 康誌
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-103596(JP,A)
【文献】実開昭62-109518(JP,U)
【文献】特開2016-174058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/00
H01F 27/29
H01F 27/28
H03H 7/09
H01F 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路基板の実装面に接触する端面を
一方に持つ
一対の鍔部および
一対の前記鍔部間において前記端面に垂直な方向に立設される巻芯を備えるコアと、
一方の前記鍔部の前記端面に
おいて前記巻芯の巻芯軸を中心に向かい合って配置されて
一方の前記鍔部の前記端面に設けられる一対の第1端子電極および第2端子電極と、
一方の前記鍔部の前記端面に
おいて前記巻芯の巻芯軸を中心に向かい合って配置されて
一方の前記鍔部の前記端面に設けられる一対の第3端子電極および第4端子電極と、前記第1端子電極および前記第2端子電極に巻き始めまたは巻き終わりとなる一方の端部と巻き終わりまたは巻き始めとなる他方の端部がそれぞれ接続される第1巻線並びに前記第3端子電極および前記第4端子電極に巻き始めまたは巻き終わりとなる一方の端部と巻き終わりまたは巻き始めとなる他方の端部がそれぞれ接続される第2巻線が前記巻芯に巻かれる2本の巻線とから構成され、前記第1巻線の他方の端部が接続される前記第2端子電極が一対の差動信号線の一方の信号線に接続され、前記第2巻線の一方の端部が接続される前記第3端子電極が一対の前記差動信号線の他方の信号線に接続される巻線型コイル部品。
【請求項2】
2本の前記巻線は、前記第1巻線および前記第2巻線が少なくとも巻回部の一部において平行に並んで相互に接して前記巻芯に巻かれることを特徴とする請求項1に記載の巻線型コイル部品。
【請求項3】
2本の前記巻線は、前記第1巻線および前記第2巻線が少なくとも巻回部の一部において撚られて前記巻芯に巻かれることを特徴とする請求項1に記載の巻線型コイル部品。
【請求項4】
一対の前記第1端子電極および前記第2端子電極間に接続される前記第1巻線のインダクタンスと一対の前記第3端子電極および前記第4端子電極間に接続される前記第2巻線のインダクタンスとは等しいことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
【請求項5】
一対の前記第1端子電極および前記第2端子電極並びに一対の前記第3端子電極および前記第4端子電極は、それぞれ、前記端面において前記巻芯の巻芯軸を中心に点対称に配置されることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
【請求項6】
一対の前記第1端子電極および前記第2端子電極は矩形状をした前記端面の一方の対角に配置され、一対の前記第3端子電極および前記第4端子電極は矩形状をした前記端面の他方の対角に配置されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品。
【請求項7】
一対の差動信号線を介して外部回路と通信する通信回路と、一対の前記差動信号線を前記外部回路に接続する外部接続端子と前記通信回路との間における一対の前記差動信号線に接続される請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の巻線型コイル部品と、前記巻線型コイル部品における前記第1端子電極と前記第4端子電極との間に接続されて一対の前記差動信号線に直流電流を重畳させる直流電源とが回路基板に実装されて構成される直流電流重畳回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、巻線型コイル部品とそれを用いた直流電流重畳回路に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、差動伝送信号線に直流電流を重畳し、データの伝送だけでなく、電力の伝送も行いたいという市場の要請がある。このため、特に、車載向けの通信規格としてPoDL(Power over Data Lines)や、A2B(Automotive Audio Bus:登録商標)などが存在している。この種の通信規格に適合する一般的な直流電流重畳回路では、差動通信IC(集積回路)によって送受信される差動信号を伝搬する差動伝送信号線に、インダクタを介して直流電源が接続される。インダクタは交流カット用として用いられ、信号線を交流として伝搬する信号が直流電源に漏れるのを阻止する。
【0003】
このようなインダクタとしては、磁気結合が無い独立したコイルを直流電源の正極側および負極側の双方に1つずつ使う場合や、磁気結合のあるコイルをペアとして1つ使う場合とがある。後者の磁気結合のあるコイルを使うコイル部品は、ディファレンシャルモードの信号が直流電源側へ通過するのをその高いインピーダンスによって阻止し、コモンモードのノイズはその低いインピーダンスによって直流電源側へ通過させて逃がす。
【0004】
従来、この種のコイル部品として、例えば、特許文献1に開示された巻線型コイル部品がある。
【0005】
この巻線型コイル部品は、コアと、2本の第1、第2のワイヤと、二対の第1、第2の端子電極とを備える。コアは、巻芯部およびその両端に形成された一対の鍔部を有し、2本の第1、第2のワイヤは、コアの巻芯部に対を成して巻回される。二対の第1、第2の端子電極は、コアの一方の鍔部の互いに反対側に位置する側面に、それぞれ互いに離間して形成される。第1、第2のワイヤの両端部は、上記一方の鍔部の互いに対向する側面に形成された二対の第1、第2の端子電極にそれぞれ電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されたような巻線型コイル部品を直流電流重畳回路に使用する場合に、信号線を伝搬する差動信号がコモンモードノイズに変換されて、不要な雑音を放射(エミッション)してしまうことが知られている。
【0008】
この原因は、
図1に示すように、特許文献1に開示されたような、コア2と、2本の第1、第2の巻線3,4と、二対の第1、第2の端子電極5a,5b、6a,6bとを備える巻線型コイル部品1では、同図に実線で示す一方の第1の巻線3の、コア2の巻芯2aに対する巻数が、同図に点線で示す他方の第2の巻線4よりも0.5ターン多くなるからである。つまり、2本の各巻線3,4が形成するインダクタンスが非対称になり、巻線型コイル部品1のモード変換作用が大きくなるためである。
図1は、回路基板の実装面に接触させられる、コア2の鍔部2bの端面側から、巻線型コイル部品1を見た底面図である。
【0009】
また、
図1に示すような巻線型コイル部品1を使用した直流電流重畳回路では、回路基板における配線パターンの引き回しが複雑になる。例えば、
図2に示す巻線型コイル部品1の差動信号線12a,12bとの接続状態図のように、巻線型コイル部品1は、一対の差動信号線12a,12bと直流電源13との間に配置されるが、一方の差動信号線12bを形成する配線パターンと、直流電源13の負極および巻線型コイル部品1の第2の端子電極6b間を接続する電源線の配線パターンとは、巻線型コイル部品1の第1の端子電極5bの両側部の位置A,Bで交差する。なお、
図2において
図1と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0010】
本発明は、上述した問題の発生を防ぎ、信号品質の劣化を抑制できる巻線型コイル部品とそれを用いた直流電流重畳回路を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明はこのような課題を解消するためになされたもので、
回路基板の実装面に接触する端面を一方に持つ一対の鍔部および一対の鍔部間において前記端面に垂直な方向に立設される巻芯を備えるコアと、一方の鍔部の前記端面において巻芯の巻芯軸を中心に向かい合って配置されて一方の鍔部の前記端面に設けられる一対の第1端子電極および第2端子電極と、一方の鍔部の前記端面において巻芯の巻芯軸を中心に向かい合って配置されて一方の鍔部の前記端面に設けられる一対の第3端子電極および第4端子電極と、第1端子電極および第2端子電極に巻き始めまたは巻き終わりとなる一方の端部と巻き終わりまたは巻き始めとなる他方の端部がそれぞれ接続される第1巻線並びに第3端子電極および第4端子電極に巻き始めまたは巻き終わりとなる一方の端部と巻き終わりまたは巻き始めとなる他方の端部がそれぞれ接続される第2巻線が巻芯に巻かれる2本の巻線とから構成され、第1巻線の他方の端部が接続される第2端子電極が一対の差動信号線の一方の信号線に接続され、第2巻線の一方の端部が接続される第3端子電極が一対の差動信号線の他方の信号線に接続される巻線型コイル部品を構成した。
【0012】
また、一対の差動信号線を介して外部回路と通信する通信回路と、一対の差動信号線を外部回路に接続する外部接続端子と通信回路との間における一対の差動信号線に接続される上記に記載の巻線型コイル部品と、巻線型コイル部品における第1端子電極と第4端子電極との間に接続されて一対の差動信号線に直流電流を重畳させる直流電源とが回路基板に実装される直流電流重畳回路を構成した。
【0013】
本構成によれば、第1巻線および第2巻線は、コアの巻芯に巻かれ、しかも、それぞれの一方の端部と他方の端部が、一方の鍔部の端面において巻芯の巻芯軸を中心に向かい合って配置される二対の端子電極にそれぞれ接続される。したがって、第1巻線および第2巻線のそれぞれは、巻芯に対して同じ巻数だけ巻かれるようになって、第1巻線および第2巻線がそれぞれ形成するインダクタンスに生じる差が小さくなる。このため巻線型コイル部品によるモード変換作用が抑制されて、差動信号線を伝搬する信号がディファレンシャルモードからコモンモードノイズに変換され難くなり、巻線型コイル部品に起因して不要な雑音が放射され難くなる。
【発明の効果】
【0014】
よって、本発明によれば、信号品質の劣化を抑制できる巻線型コイル部品とそれを用いた直流電流重畳回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】比較例の直流電流重畳回路に用いられる巻線型コイル部品の底面図である。
【
図2】
図1に示す巻線型コイル部品の差動信号線との接続状態図である。
【
図3】(a)は、本発明の第1の実施形態による直流電流重畳回路の概略構成を示すブロック図、(b)は、その直流電流重畳回路に用いられる本発明の第1の実施形態による巻線型コイル部品の差動信号線との接続状態図である。
【
図4】(a)は、
図3に示す直流電流重畳回路に用いられる第1の実施形態による巻線型コイル部品の外観斜視図、(b)はその底面図である。
【
図5】(a)は、本発明の第2の実施形態による巻線型コイル部品の外観斜視図、(b)はその底面図である。
【
図6】比較例および本発明の各直流電流重畳回路に用いられる巻線型コイル部品の構造の違いによるそのモード変換特性を実際の試作に基づき実測した結果を示すグラフである。
【
図7】(a)および(b)は、各実施形態による巻線型コイル部品の変形例の底面図である。
【
図8】(a)および(b)は、各実施形態による巻線型コイル部品の別の変形例の底面図である。
【
図9】本発明による縦巻型の巻線型コイル部品と比較される横巻き型の巻線型コイル部品の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明による巻線型コイル部品とそれを用いた直流電流重畳回路を実施するための形態について、説明する。
【0017】
図3(a)は、本発明の第1の実施形態による巻線型コイル部品27Aを用いた本発明の第1の実施形態による直流電流重畳回路21の概略構成を示すブロック図である。
【0018】
直流電流重畳回路21は、送信および受信の双方向通信を行う通信回路である差動通信IC22とコネクタ23との間に設けられ、一対の差動信号線24a,24b、2つのコンデンサ25,25、コモンモードチョークコイル26、巻線型コイル部品27Aおよび直流電源28を備えて構成され、図示しない回路基板に実装される。コネクタ23は、ケーブル29を介して差動通信IC22と同様な通信用ICから構成される図示しない外部回路に接続されており、一対の差動信号線24a,24bを外部回路に接続する外部接続端子を構成する。差動通信IC22と外部回路との間で差動信号線24a,24bおよびケーブル29を介して双方向通信が行われる。
【0019】
一対の差動信号線24a,24bには、差動通信IC22から送信される差動信号および差動通信IC22に受信される差動信号が伝搬する。また、この差動信号線24a,24bおよびケーブル29には直流電源28によって直流電流が重畳させられ、直流電流が伝搬する。2つのコンデンサ25,25は差動通信IC22の各入出力端における各差動信号線24a,24bに設けられており、差動信号線24a,24bに重畳する直流電流が差動通信IC22に入力するのを阻止する。また、差動信号線24a,24bにはコモンモードチョークコイル26が介挿されており、差動信号線24a,24bを伝搬するコモンモードノイズはこのコモンモードチョークコイル26によって減衰させられる。また、コンデンサ25,25より外部回路側の差動信号線24a,24bと直流電源28との間で、コンデンサ25,25とコネクタ23との間における一対の差動信号線24a,24bには、巻線型コイル部品27Aが接続されている。この巻線型コイル部品27Aは、差動信号線24a,24bを伝搬する差動信号が直流電源28に漏れるのを阻止する。
【0020】
図4(a)は巻線型コイル部品27Aの外観斜視図、
図4(b)はその底面図である。
【0021】
巻線型コイル部品27Aは、コア31と、一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32bと、一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33bと、第1巻線34および第2巻線35からなる2本の巻線34,35とから構成される。巻線型コイル部品27Aは、コモンモードチョークコイル26と同様に、2本の巻線34,35を同方向に流れる信号電流iがコア31に作る磁束を強め合うように巻かれているが、回路への接続の仕方がコモンモードチョークコイル26の接続の仕方と異なることで、ディファレンシャルモードインダクタとして使用されている。すなわち、巻線型コイル部品27Aは、2本の巻線34,35を流れるディファレンシャルモードの信号電流iが互いに逆方向に流れるように回路へ接続され、ディファレンシャルモードの信号電流iに対してインピーダンスが高まるように回路へ接続される。
【0022】
コア31は、例えばフェライトやアルミナ等の絶縁材料によって形成される一対の鍔部31a,31bおよび巻芯31cからなる。下方に配置される一方の鍔部31aは、回路基板の実装面に接触させられる端面31a1を持つ。巻芯31cはこの端面31a1に垂直な方向に立設され、巻線型コイル部品27Aはいわゆる縦巻に2本の巻線34,35が巻芯31cに巻かれる。ここで縦巻きとは、コイル部品の実装面に巻芯軸が垂直に巻かれている巻線の巻き方を意味する。また、端面31a1には、一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32bと、一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33bとが、端面31a1における巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に向かい合って配置されて、設けられている。ここで、巻中心Cは巻芯31cの巻芯軸に一致する。また、点対称な位置に向かい合って配置されるとは、向かい合って配置されている一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32b間、並びに一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33b間をそれぞれ最短距離で結ぶ線が、巻中心Cを通ることを意味する。
【0023】
各端子電極32a,32b、33a,33bは、例えばA g 、C r - C u 合金、C r - N i 合金等からなる下地電極と、S n 、S n - P b 合金等からなる外部電極との二層構造として形成されている。これら下地電極と外部電極の間にはN i 、C u 等からなる中間層が介在していてもよい。
【0024】
各巻線34,35は同一線径の銅線等からなり、その表面にはポリウレタン等の絶縁皮膜が施されている。図に白抜きの線で示される第1巻線34は、一方の一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32bに一方の端部である巻き始め34aと他方の端部である巻き終わり34bがそれぞれ接続されている。つまり、第1巻線34の巻き始め34aは第1端子電極32a、巻き終わり34bは第2端子電極32bに接続されており、第1巻線34は、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に向かい合って配置されている一方の一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32b間に接続されている。また、その巻き始め34aの一方の端部および巻き終わり34bの他方の端部は、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な箇所に位置させられている。
【0025】
また、図に黒塗りの線で示される第2巻線35は、他方の一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33bに一方の端部である巻き始め35aと他方の端部である巻き終わり35bがそれぞれ接続されている。つまり、第2巻線35の巻き始め35aは第3端子電極33a、巻き終わり35bは第4端子電極33bに接続されており、第2巻線35は、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に向かい合って配置されている他方の一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33b間に接続されている。また、その巻き始め35aの一方の端部および巻き終わり35bの他方の端部は、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な箇所に位置させられている。各巻線34,35と各端子電極32a,32b、33a,33bとの間の接続は、例えば熱圧着等で行われる。
【0026】
なお、ここでは、第1巻線34の一方の端部である巻き始め34aが第1端子電極32a、他方の端部である巻き終わり34bが第2端子電極32bに接続され、第2巻線35の一方の端部である巻き始め35aが第3端子電極33a、他方の端部である巻き終わり35bが第4端子電極33bに接続されている場合について説明しているが、第1巻線34および第2巻線35のそれぞれの巻き始めおよび巻き終わりは上記説明の逆になってもよい。つまり、第1巻線34の巻き終わり34bであった他方の端部が巻き始めになって第2端子電極32b、巻き始め34aであった一方の端部が巻き終わりになって第1端子電極32aに接続され、第2巻線35の巻き終わり35bであった他方の端部が巻き始めになって第4端子電極33b、巻き始め35aであった一方の端部が巻き終わりになって第3端子電極33aに接続されてもよい。
【0027】
この第1の実施形態では、2本の巻線34,35は、
図4(a)に示すように、第1巻線34および第2巻線35が平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれている。なお、ここで接しているのは、第1巻線34および第2巻線35のそれぞれの絶縁皮膜である。また、
図3(b)に示すように、第1巻線34の他方の端部が接続される第2端子電極32bは、一対の差動信号線24a,24bの一方の信号線24bに接続され、第2巻線35の一方の端部が接続される第3端子電極33aは、一対の差動信号線24a,24bの他方の信号線24aに接続される。また、直流電源28は、第1端子電極32aと第4端子電極33bとの間に接続されて、一対の差動信号線24a,24bに直流電流を重畳させる。
【0028】
このような第1の実施形態による巻線型コイル部品27Aによれば、第1巻線34および第2巻線35は、コア31の巻芯31cに対となって巻かれ、しかも、それぞれの巻き始め34a,35aと巻き終わり34b,35bが、鍔部31aの端面31a1における巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に配置されて、その中心を通る直線上に位置する二対の端子電極32a,32b、33a,33bにそれぞれ接続される。すなわち、第1巻線34は、巻き始め34aと巻き終わり34bが、鍔部31aの端面31a1における巻芯31cの巻中心Cを中心に向かい合って配置されて、その中心を通る直線上にそれぞれ位置する一方の一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32bにそれぞれ接続される。第2巻線35は、巻き始め35aと巻き終わり35bが、鍔部31aの端面31a1における巻芯31cの巻中心Cを中心に向かい合って配置されて、その中心を通る直線上にそれぞれ位置する他方の一対の第3端子電極33aおよび第4端子電極33bにそれぞれ接続される。
【0029】
したがって、第1巻線34および第2巻線35のそれぞれは、巻芯31cに対して同じ巻数だけ巻かれるようになって、第1巻線34および第2巻線35がそれぞれ形成するインダクタンスに生じる差が小さくなる。このため、巻線型コイル部品27Aによるモード変換作用が抑制されて、差動信号線24a,24bを伝搬する差動信号がディファレンシャルモードからコモンモードノイズに変換され難くなり、巻線型コイル部品27Aに起因して不要な雑音が放射され難くなる。
【0030】
また、第1の実施形態による直流電流重畳回路21によれば、
図4(b)に示すように、鍔部31aの端面31a1における電極配置が、2本の巻線34,35のうちの一方の第1巻線34の巻き始め34aが接続される第1端子電極32aと他方の第2巻線35の巻き終わり35bが接続される第4端子電極33bとが鍔部31aの周方向で隣り合うと共に、他方の第2巻線35の巻き始め35aが接続される第3端子電極33aと一方の第1巻線34の巻き終わり34bが接続される第2端子電極32bとが鍔部31aの周方向で隣り合う配置になる。
【0031】
したがって、この巻線型コイル部品27Aを直流電流重畳回路21に用いて、回路基板の一つの平面上に信号線および電源線の各配線パターンと各部品とを配置しても、
図3(b)に示すように、直流電源28の正極(+)側および負極(-)側の各電源線30a,30bの配線パターンは、一対の各差動信号線24a,24bの配線パターンと交差することなく、一方の第1巻線34の巻き始め34aと他方の第2巻線35の巻き終わり35bとに接続することができる。また、一対の各差動信号線24a,24bの配線パターンは、各電源線30a,30bの配線パターンと交差することなく、他方の第2巻線35の巻き始め35aと一方の第1巻線34の巻き終わり34bとに接続することができる。このため、従来のようにスルーホール等を回路基板に形成することなく、各配線パターンを引き回して直流電流重畳回路21を構成できるようになり、直流電流重畳回路21の回路基板における配線パターンの引き回しが簡素化されると共に、差動信号線24a,24bと電源線30a,30bの配線長やインピーダンスの対称性が保たれて信号品質が維持される。この結果、第1の実施形態によれば、信号質の劣化を抑制できる巻線型コイル部品27Aとそれを用いた直流電流重畳回路21を提供することができる。
【0032】
上記の各作用効果は、第1巻線34および第2巻線35が
図4(a)に示すように平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれておらず、ばらの状態で単に対となって巻芯31cに巻かれる巻線型コイル部品を使った直流電流重畳回路においても、奏される。ここで、ばらの状態とは、巻線どうしの間隔が2本分の巻線径程度の距離があけられている状態を意味する。
【0033】
また、第1の実施形態による巻線型コイル部品27Aによれば、第1巻線34および第2巻線35が平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれて巻線型コイル部品27Aが構成されているので、第1巻線34および第2巻線35がコア31の巻芯31cの周りに巻かれる各半径が揃って各巻線34,35のコイル断面積が等しくなると共に、2つの巻線34,35間の距離が近くなって一方の巻線34または35が発生する磁束が他方の巻線35または34を横切る総量が多くなり、漏れインダクタンスが低減する。2つの巻線34,35間における磁束の共有量が磁気結合度になるため、巻線型コイル部品27Aによれば、各巻線34,35間の磁気結合度が高まって各巻線34,35は巻方向に等しい結合度で磁気結合する。したがって、各巻線34,35が形成するインダクタンスの対称性が向上して、各巻線34,35が形成するインダクタンスに生じる差がほとんど無くなり、巻線型コイル部品27Aによるモード変換作用がさらに抑制されて、巻線型コイル部品27Aに起因する不要な雑音がさらに放射され難くなる。
【0034】
図5(a)は、本発明の第2の実施形態による直流電流重畳回路に用いられる本発明の第2の実施形態による巻線型コイル部品27Bの外観斜視図、
図5(b)はその底面図である。なお、
図5において
図4と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0035】
第2の実施形態による直流電流重畳回路は、第1の実施形態による直流電流重畳回路21における巻線型コイル部品27Aに代えて
図5に示される巻線型コイル部品27Bが用いられる点だけが、第1の実施形態による直流電流重畳回路21と相違する。
【0036】
巻線型コイル部品27Aでは、
図4(a)に示すように、第1巻線34および第2巻線35が平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれていたが、巻線型コイル部品27Bでは、
図5(a)に示すように、2本の巻線34,35は、第1巻線34および第2巻線35が撚られて巻芯31cに巻かれている。
【0037】
このような第2の実施形態による巻線型コイル部品27Bを用いて構成される第2の実施形態による直流電流重畳回路においては、第1の実施形態による直流電流重畳回路21における場合と同様に、第1巻線34および第2巻線35がコア31の巻芯31cの周りに巻かれる各半径が揃って各巻線34,35のコイル断面積が等しくなると共に、各巻線34,35間の磁気結合度が高まって各巻線34,35は巻方向に等しい結合度で磁気結合する。さらに、第2の実施形態では、各巻線34,35が撚られることで、各巻線34,35の巻径方向における位置関係が交互に入れ替わり、巻径の距離が小さい箇所と大きい箇所とが混在するようになる。その結果、各巻線34,35に生じる浮遊容量は局所的に高まることが無くなって均一化され、巻線型コイル部品27Bの各巻線34,35に生じる浮遊容量の分布が均一になる。このため、巻線型コイル部品27Bによるモード変換作用は、各巻線34,35が平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれる第1の実施形態の場合よりもさらに抑制されて、巻線型コイル部品27Bに起因する不要な雑音がさらに放射され難くなる。また、第2の実施形態による直流電流重畳回路においても、第1の実施形態による直流電流重畳回路21と同様に、回路基板における配線パターンの引き回しが簡素化される。
【0038】
図6に示すグラフは、直流電流重畳回路に用いられる巻線型コイル部品の構造の違いによる巻線型コイル部品のモード変換特性を実際の試作に基づき実測した結果を示す。同グラフの横軸は周波数[Hz]、縦軸はモード変換される信号の大きさ[dB]を表わす。この信号は、差動信号線24a,24bから巻線型コイル部品によってモード変換して漏れたコモンモード信号が反射して、差動信号線24a,24bで測定されるものである。したがって、モード変換される信号の大きさはマイナスの値が大きいほど好ましい。
【0039】
同グラフに点線で示す特性線41は、
図1に示すような、一対の巻線3,4のうちの一方の巻線3が0.5ターン多く、巻線3,4どうしの間隔が2本分の巻線径の距離があけられたばらの状態で単に対となって巻芯に巻かれた巻線型コイル部品を直流電流重畳回路に用いた、比較例の回路における巻線型コイル部品のモード変換特性である。実線で示す特性線42は、
図3に示す巻線型コイル部品27Aにおける2本の巻線34,35が、第1の実施形態のように平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれるのではなく、巻線34,35どうしの間隔が2本分の巻線径の距離があけられたばらの状態で単に対となって巻芯31cに巻かれた巻線型コイル部品を直流電流重畳回路に用いた、比較例の回路における巻線型コイル部品のモード変換特性を表わす。これら特性線41,42のモード変換特性を示す各直流電流重畳回路は、巻線型コイル部品以外は
図3(a)に示す直流電流重畳回路21と同じ構成を有する。
【0040】
また、同グラフに破線で示す特性線43は、
図4に示す第1の実施形態による巻線型コイル部品27Aが用いられた第1の実施形態による直流電流重畳回路21における巻線型コイル部品27Aのモード変換特性を示し、一点鎖線で示す特性線44は、
図5に示す第2の実施形態による巻線型コイル部品27Bが用いられた第2の実施形態による直流電流重畳回路における巻線型コイル部品27Bのモード変換特性を示す。
【0041】
同グラフから、ばらの状態で単に対となって巻芯31cに巻かれた巻線型コイル部品を直流電流重畳回路に用いた比較例の回路における特性線42は、一方の巻線が0.5ターン多い巻線型コイル部品を直流電流重畳回路に用いた比較例の回路における特性線41に比較して、モード変換される信号レベルが最大10[dB]程度小さく、不要な雑音が放射され難くなっていることが理解される。また、2本の巻線34,35が平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれる巻線型コイル部品27Aを直流電流重畳回路21に用いた第1の実施形態の回路における特性線43は、比較例の回路における特性線42に比較して、モード変換される信号レベルがさらに最大20[dB]程度小さく、不要な雑音がさらに放射され難くなっていることが理解される。また、2本の巻線34,35が撚られて巻芯31cに巻かれる巻線型コイル部品27Bを直流電流重畳回路に用いた第2の実施形態の回路における特性線44は、第1の実施形態の回路における特性線43に比較して、モード変換される信号レベルがさらに最大20[dB]程度小さく、不要な雑音が第1の実施形態の回路よりさらに放射され難くなっていることが理解される。
【0042】
なお、上記の各実施形態では、二対の端子電極32a,32bおよび33a,33bが
図4(b)および
図5(b)に示すように、鍔部31aの端面31a1の対角で、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に向かい合って配置されている場合について説明した。しかし、二対の端子電極32a,32b、33a,33bは、
図7(a)の底面図に示すように、一方の端子電極32a,32bが鍔部31aの端面31a1の対角から外れた位置で、巻芯31cの巻中心Cを中心に点対称な位置に向かい合って配置されるように構成してもよい。また、鍔部31a,31bおよび巻芯31cの形状は矩形状に限らず、二対の端子電極32a,32bおよび33a,33bが巻芯31cの巻中心Cを中心に向かい合って配置されていれば、
図7(b)の底面図に示すように、円形状をしていてもよい。なお、
図7において
図4(b)および
図5(b)と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。
【0043】
また、二対の端子電極32a,32bおよび33a,33bは、
図4(b)、
図5(b)、
図7(a)および(b)に示すように、必ずしも、巻芯31cの巻中心Cを中心に完全な点対称な位置に向かい合って配置されている必要は無い。例えば、
図8(a)および(b)に示すように、向かい合って配置されている一対の第1端子電極32aおよび第2端子電極32b間をそれぞれ最短距離で結ぶ線Lが巻中心Cを通らず、巻中心Cを基準にした回転角θが45°までの範囲内でずれる電極配置構成であってもよい。なお、
図8において
図7と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明は省略する。同様に、各巻線34、35の巻き始め34a,35aおよび巻き終わり34b,35bも、必ずしも、巻芯31cの巻中心Cを中心に完全な点対称な位置に向かい合って配置されている必要は無い。このような電極配置構成および巻構成であっても、
図4(b)および
図5(b)に示す上記の各実施形態および
図7(a)および(b)に示す各変形例と同様な作用効果が奏される。
【0044】
また、上記の第1の実施形態では、巻線型コイル部品27Aは、第1巻線34および第2巻線35が、その巻回部の全長にわたって平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれている場合について説明したが、少なくとも巻回部の一部において平行に寄り添って並んで巻芯31cに巻かれるように構成してもよい。例えば、第1巻線34および第2巻線35が巻回部の半分以上において平行に並んで相互に接して巻芯31cに巻かれていても、上記の第1の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0045】
また、上記の第2の実施形態では、巻線型コイル部品27Bは、第1巻線34および第2巻線35が、その巻回部の全長にわたって撚られて巻芯31cに巻かれている場合について説明したが、少なくとも巻回部の一部において撚られて巻芯31cに巻かれるように構成してもよい。例えば、第1巻線34および第2巻線35が巻回部の半分以上において撚られて巻芯31cに巻かれていても、上記の第2の実施形態と同様な作用効果が奏される。
【0046】
また、上記の各実施形態では、巻線型コイル部品27A、27Bをそれぞれ構成する2本の巻線34,35の各インダクタンスに生じる差が小さくなる、または、ほとんど無くなる場合について、説明したが、第1巻線34のインダクタンスと第2巻線35のインダクタンスとは等しくなるのが最も好ましい。ここで言う等しいとは、各インダクタンスに生じる差が1%以下であることを言う。例えば、一方の第1巻線34のインダクタンス値が10.1μH、他方の第2巻線35のインダクタンス値が9.9μHで、各インダクタンス値間の差が0.2μH、各インダクタンス値の平均値が10.0μHの場合、各インダクタンス値の平均値10.0μHに対する各インダクタンス値間の差0.2μHの割合は2%であるが、各インダクタンス値間の差0.2μHは、各インダクタンス値の平均値10.0μHを中心とする±1%の範囲内にある。この場合、各インダクタンスに生じる差はここで定義する1%以下であって、一方の第1巻線34と他方の第2巻線35の各インダクタンスは等しいと言える。
【0047】
また、上記の各実施形態および各変形例では、2本の巻線34,35が巻芯31cに縦巻に巻かれる巻線型コイル部品27A、27Bについて説明している。これは本発明が縦巻きの巻線型コイル部品に適用するのが適しており、例えば
図9に示すような横巻きの巻線型コイル部品37には適していないからである。
【0048】
横巻きの巻線型コイル部品37は、2本の巻線34,35が巻かれるコア31の巻芯31cの巻芯軸が部品実装面38に平行に配置されている。左方の一方の鍔部31aの上端には点線で示される第1巻線34の巻き始め34aが接続される第1端子電極32a、下端には実線で示される第2巻線35の巻き始め35aが接続される第3端子電極33aが設けられている。また、右方の他方の鍔部31bの上端には第2巻線35の巻き終わり35bが接続される第4端子電極32a、下端には第1巻線34の巻き終わり34bが接続される第2端子電極33aが設けられている。第1巻線34は、第1端子電極32aおよび第2端子電極33a間を接続しており、第2巻線35は、第3端子電極33aおよび第4端子電極32a間を接続している。
【0049】
このような横巻きの巻線型コイル部品37では、
図1に示す巻線型コイル部品1と同様に、点線で示す一方の第1巻き線34の、コア31の巻芯31cに対する巻数が、実線で示す他方の第2巻線35よりも0.5ターン多くなる。したがって、2本の各巻線34,35が形成するインダクタンスが非対称になり、巻線型コイル部品37のモード変換作用が大きくなる。このため、本発明は横巻きの巻線型コイル部品に適用するのは適していない。
【符号の説明】
【0050】
21…直流電流重畳回路
22…差動通信IC(通信回路)
23…コネクタ
24a,24b…差動信号線
25…コンデンサ
26…コモンモードチョークコイル
27A,27B…巻線型コイル部品
28…直流電源
29…ケーブル
31…コア
31a,31b…鍔部
31c…巻芯
32a…第1端子電極
32b…第2端子電極
33a…第3端子電極
33b…第4端子電極
34…第1巻線
34a…第1巻線34の巻き始め(一方の端部)
34b…第1巻線34の巻き終わり(他方の端部)
35…第2巻線
35a…第2巻線35の巻き始め(一方の端部)
35b…第2巻線35の巻き終わり(他方の端部)