(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】電解用電極及び電解用電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25B 11/053 20210101AFI20221216BHJP
C25B 1/26 20060101ALI20221216BHJP
C25B 11/031 20210101ALI20221216BHJP
C25B 11/061 20210101ALI20221216BHJP
C25B 11/063 20210101ALI20221216BHJP
C25B 11/067 20210101ALI20221216BHJP
C25B 11/069 20210101ALI20221216BHJP
C25B 11/097 20210101ALI20221216BHJP
【FI】
C25B11/053
C25B1/26 A
C25B11/031
C25B11/061
C25B11/063
C25B11/067
C25B11/069
C25B11/097
(21)【出願番号】P 2021515887
(86)(22)【出願日】2020-03-24
(86)【国際出願番号】 JP2020013021
(87)【国際公開番号】W WO2020217817
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2019086733
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】エルマン モハマド
(72)【発明者】
【氏名】神農 奎敏
(72)【発明者】
【氏名】足立 博史
(72)【発明者】
【氏名】佐名川 佳治
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-322026(JP,A)
【文献】特開2009-195884(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107051431(CN,A)
【文献】特開2018-104790(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101435084(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電解用電極であって、
少なくともチタンを含む導電性基板と、
前記導電性基板の一の主面上に設けられた中間層と、
前記中間層上に設けられた複合層と、を備え、
前記複合層は、
各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている複数のタンタル層と、
各々が白金とイリジウムとを含む複数の触媒層と、を有し、
前記導電性基板の厚さ方向において前記複数のタンタル層と前記複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでおり、
前記複合層では、
前記複数のタンタル層のうち1つのタンタル層が前記導電性基板の前記一の主面に最も近い最下層であり、
前記複数の触媒層のうち1つの触媒層が前記導電性基板から最も遠い最上層であ
り、
前記電解用電極は、前記複合層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数の凹部を有し、
前記複数の凹部の各々の深さは、前記複合層の前記主面と前記複数の触媒層のうち前記導電性基板から2番目に遠い触媒層との距離よりも大きく、かつ、前記複合層の前記主面と前記中間層との距離以下である、
電解用電極。
【請求項2】
前記複数の凹部の各々の深さは、前記複合層の前記主面と前記最下層との距離以下である、
請求項1に記載の電解用電極。
【請求項3】
前記複数の凹部の各々は、前記厚さ方向からの平面視で線状のクラックである、
請求項1又は2に記載の電解用電極。
【請求項4】
前記複数の凹部の各々の幅は、0.3μm以上3μm以下である、
請求項3に記載の電解用電極。
【請求項5】
前記導電性基板の前記厚さ方向からの平面視で、前記複合層の主面の面積をS1とし、前記複合層の前記主面における前記複数の凹部の各々の開口面積の合計面積をS2とした場合、S1+S2に対するS2の割合は、5%~50%である、
請求項3又は4に記載の電解用電極。
【請求項6】
前記導電性基板の前記厚さ方向からの平面視で、前記複数の凹部のうち0.01mm
2
の正方形領域に存在する部分の開口縁の長さの合計が1mm以上である、
請求項5に記載の電解用電極。
【請求項7】
前記複数の触媒層の各々は、多孔質層である、
請求項1~6のいずれか一項に記載の電解用電極。
【請求項8】
前記導電性基板の前記一の主面は、粗面である、
請求項1~7のいずれか一項に記載の電解用電極。
【請求項9】
少なくともチタンを含む導電性基板の一の主面上に中間層を形成する中間層形成工程と、
前記中間層上に複数のタンタル層と複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでいる積層構造を有する複合層を形成する複合層形成工程と、を備え、
前記複数のタンタル層の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されており、
前記複数の触媒層の各々が、白金とイリジウムとを含んでおり、
前記複合層形成工程は、
第1工程と、第2工程と、第3工程と、を有し、
前記第1工程では、タンタルを含む溶液を前記中間層上に塗布してから第1規定温度で焼成することにより、前記複数のタンタル層のうち前記積層構造における最下層のタンタル層を形成し、
前記第2工程では、第1ステップと第2ステップとを繰り返すことにより、前記積層構造における前記最下層のタンタル層以外の部分の元になる積層体を形成し、
前記第1ステップでは、白金とイリジウムとを含む溶液を塗布してから第2規定温度で加熱乾燥することにより前記複数の触媒層のうち1つの触媒層の元になる層を形成し、
前記第2ステップでは、タンタルを含む溶液を塗布してから第3規定温度で加熱乾燥することにより前記複数のタンタル層のうち前記最下層のタンタル層以外の1つのタンタル層の元になる層を形成し、
前記第3工程では、前記積層体を前記第2規定温度と前記第3規定温度との両方よりも高温の第4規定温度で焼成することにより、前記複数の触媒層と前記複数のタンタル層のうち前記最下層のタンタル層以外のタンタル層とを形成するとともに、前記触媒層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数のクラックを形成する、
電解用電極の製造方法。
【請求項10】
塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電解用電極であって、
少なくともチタンを含む導電性基板と、
前記導電性基板の一の主面上に設けられた中間層と、
前記中間層上に設けられた複合層と、を備え、
前記複合層は、
各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている複数のタンタル層と、
各々が白金とイリジウムとを含む複数の触媒層と、を有し、
前記導電性基板の厚さ方向において前記複数のタンタル層と前記複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでおり、
前記複合層では、
前記複数のタンタル層のうち1つのタンタル層が前記導電性基板の前記一の主面に最も近い最下層であり、
前記複数のタンタル層のうち他の1つのタンタル層が前記導電性基板から最も遠い最上層であり、
前記電解用電極は、前記複合層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数の凹部を有し、
前記複数の凹部の各々の深さは、前記複数の触媒層のうち少なくとも1つの触媒層を貫通する深さである、
電解用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電解用電極及び電解用電極の製造方法に関し、より詳細には、塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電解用電極及び電解用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水道水に食塩を加えた希薄食塩水を電解して塩素を発生させ、この塩素と水との反応により次亜塩素酸を生成する技術が知られている(特許文献1)。
【0003】
特許文献1には、電解用電極として、チタン又はチタン合金よりなる電極基体と、該電極基体上に設けられた酸化チタン層と、該酸化チタン層上に設けられた、金属換算で、酸化イリジウム3~30モル%と酸化タンタル70~97モル%の複合体からなる中間酸化物層と、該中間酸化物層上に設けられた、金属換算で、酸化ロジウム2~35モル%、酸化イリジウム30~80モル%、酸化タンタル6~35モル%及び白金12~62モル%の複合体、とからなる電解用電極が開示されている。
【0004】
電解用電極では、触媒として機能するイリジウムを含む複合層の剥離防止による長寿命化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、複合層の剥離を抑制することが可能な電解用電極及び電解用電極の製造方法を提供することにある。
【0007】
本開示の一態様に係る電解用電極は、塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電解用電極であって、導電性基板と、中間層と、複合層と、を備える。前記導電性基板は、少なくともチタンを含む。前記中間層は、前記導電性基板の一の主面上に設けられている。前記複合層は、前記中間層上に設けられている。前記複合層は、複数のタンタル層と、複数の触媒層と、を有する。前記複数のタンタル層の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。前記複数の触媒層の各々は、白金とイリジウムとを含む。前記複合層では、前記導電性基板の厚さ方向において前記複数のタンタル層と前記複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでいる。前記複合層では、前記複数のタンタル層のうち1つのタンタル層が前記導電性基板の前記一の主面に最も近い最下層であり、前記複数の触媒層のうち1つの触媒層が前記導電性基板から最も遠い最上層である。前記電解用電極は、前記複合層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数の凹部を有する。前記複数の凹部の各々の深さは、前記複合層の前記主面と前記複数の触媒層のうち前記導電性基板から2番目に遠い触媒層との距離よりも大きく、かつ、前記複合層の前記主面と前記中間層との距離以下である。
【0008】
本開示の一態様に係る電解用電極の製造方法は、中間層形成工程と、複合層形成工程と、を備える。前記中間層形成工程は、少なくともチタンを含む導電性基板の一の主面上に中間層を形成する工程である。前記複合層形成工程は、前記中間層上に複合層を形成する工程である。前記複合層は、複数のタンタル層と複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでいる積層構造を有する。前記複数のタンタル層の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。前記複数の触媒層の各々が、白金とイリジウムとを含む。前記複合層形成工程は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を有する。前記第1工程では、タンタルを含む溶液を前記中間層上に塗布してから第1規定温度で焼成することにより、前記複数のタンタル層のうち前記積層構造における最下層のタンタル層を形成する。前記第2工程では、第1ステップと第2ステップとを繰り返すことにより、前記積層構造における前記最下層のタンタル層以外の部分の元になる積層体を形成する。前記第1ステップでは、白金とイリジウムとを含む溶液を塗布してから第2規定温度で加熱乾燥することにより前記複数の触媒層のうち1つの触媒層の元になる層を形成する。前記第2ステップでは、タンタルを含む溶液を塗布してから第3規定温度で加熱乾燥することにより前記複数のタンタル層のうち前記最下層のタンタル層以外の1つのタンタル層の元になる層を形成する。前記第3工程では、前記積層体を前記第2規定温度と前記第3規定温度との両方よりも高温の第4規定温度で焼成することにより、前記複数の触媒層と前記複数のタンタル層のうち前記最下層のタンタル層以外のタンタル層とを形成するとともに、前記触媒層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数のクラックを形成する。
【0009】
本開示の他の一態様に係る電解用電極は、塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電解用電極であって、導電性基板と、中間層と、複合層と、を備える。前記導電性基板は、少なくともチタンを含む。前記中間層は、前記導電性基板の一の主面上に設けられている。前記複合層は、前記中間層上に設けられている。前記複合層は、複数のタンタル層と、複数の触媒層と、を有する。前記複数のタンタル層の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。前記複数の触媒層の各々は、白金とイリジウムとを含む。前記複合層では、前記導電性基板の厚さ方向において前記複数のタンタル層と前記複数の触媒層とが一層ずつ交互に並んでいる。前記複合層では、前記複数のタンタル層のうち1つのタンタル層が前記導電性基板の前記一の主面に最も近い最下層であり、前記複数のタンタル層のうち他の1つのタンタル層が前記導電性基板から最も遠い最上層である。この電解用電極は、前記複合層における前記中間層側とは反対側の主面から凹んだ複数の凹部を有する。前記複数の凹部の各々の深さは、前記複数の触媒層のうち少なくとも1つの触媒層を貫通する深さである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る電解用電極の断面図である。
【
図3】
図3A~3Dは、同上の電解用電極の製造方法を説明するための工程断面図である。
【
図4】
図4は、同上の電解用電極の耐久性試験の結果を示すグラフである。
【
図5】
図5A~5Dは、同上の電解用電極における耐久性向上の推定メカニズムの説明図である。
【
図6】
図6は、実施形態2に係る電解用電極の断面図である。
【
図7】
図7A~7Eは、同上の電解用電極の製造方法を説明するための工程断面図である。
【
図8】
図8は、一変形例に係る電解用電極の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
下記の実施形態1、2等において説明する
図1、2、3A~3D、5A~5D、6、7A~7E及び8は、模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさや厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。
【0012】
(実施形態1)
(1)概要
以下、実施形態1に係る電解用電極1について、
図1~3Dに基づいて説明する。
【0013】
電解用電極1は、塩水を電解することで塩素を発生させるために使用される電極である。ここにおいて、塩水は、例えば、食塩水である。電解用電極1を、塩水を電解する用途で用いる場合、例えば、電源から直流電圧を印加する陽極と陰極とのうち陽極として電解用電極1を用いるシステムは、食塩水を電解して塩素を発生させ、この塩素と水との反応により次亜塩素酸水を生成することができる。
【0014】
(2)電解用電極の各構成要素
電解用電極1は、導電性基板2と、中間層3と、複合層4と、を備える。
【0015】
以下、電解用電極1の各構成要素についてより詳細に説明する。
【0016】
(2.1)導電性基板
導電性基板2は、一の主面21(以下、第1主面21ともいう)と、第1主面21とは反対側の第2主面22と、を有する。導電性基板2の平面視形状(導電性基板2を導電性基板2の厚さ方向D1から見たときの外周形状)は、長方形状である。導電性基板2の厚さは、例えば、100μm以上2mm以下であり、一例として、500μmである。導電性基板2の平面視でのサイズは、例えば、25mm×60mmである。
【0017】
導電性基板2は、少なくともチタンを含む。導電性基板2は、一例として、チタン基板である。導電性基板2の材料は、チタン又はチタンを主成分とする合金(以下、チタン合金という)である。チタン合金は、例えば、チタン-パラジウム合金、チタン-ニッケル-ルテニウム合金、チタン-タンタル合金、チタン-アルミニウム合金、チタン-アルミニウム-バナジウム合金等である。
【0018】
導電性基板2の第1主面21は、中間層3の密着性を高める観点から、粗面であるのが好ましい。実施形態1に係る電解用電極1では、導電性基板2の第1主面21は、中間層3を設ける前に粗面化されている。ここにおいて、導電性基板2の第1主面21の表面粗さに関し、算術平均粗さRaは、例えば、0.3μmであり、最大高さRzは、3μmである。算術平均粗さRa及び最大高さRzについては、例えば、JIS B 0601-2001(ISO 4287-1997)で規定されている。算術平均粗さRa及び最大高さRzは、例えば、断面SEM像(Cross-sectional Scanning Electron Microscope Image)から測定した値である。
【0019】
(2.2)中間層
中間層3は、導電性基板2の第1主面21上に設けられている。電解用電極1は、導電性基板2と中間層3との界面を有する。中間層3は、塩水及び塩素に対する耐食性を有する。中間層3は、導電性基板2よりも塩水及び塩素に対する耐食性の高い材料で形成されているのが好ましい。また、電解用電極1全体の電気伝導性を高める観点からは、中間層3の材料は導電性を有し電気伝導性の高い材料であるのが好ましい。中間層3の材料は、例えば、遷移金属又は遷移金属を含む混合物であり、例えば、白金、タンタルと白金とイリジウムとの混合物、イリジウム、酸化イリジウム、ニッケル等である。中間層3の材料は、一例として、白金である。中間層3の厚さは、例えば、0.3μm以上5μm以下であり、一例として、0.6μmである。
【0020】
(2.3)複合層
複合層4は、中間層3上に設けられている。電解用電極1は、複合層4と中間層3との界面を有する。つまり、複合層4は、中間層3を介して導電性基板2上に設けられている。
【0021】
複合層4は、複数(図示例では、4つ)のタンタル層41と、複数(図示例では、4つ)の触媒層42と、を有する。複数の触媒層42の各々は、白金とイリジウムとを含む。複数の触媒層42の各々は、白金とイリジウムとの混合物である。複数のタンタル層41の各々は、酸化タンタルにより形成されている層であるが、これに限らず、タンタルにより形成されている層でもよいし、酸化タンタルとタンタルとの混合物により形成されている層(酸化タンタルとタンタルとが混在する層)であってもよい。複数の触媒層42の各々では、白金によりイリジウムが分散されている。イリジウムは、塩素を発生させるための触媒として機能する。複合層4では、白金とイリジウムとタンタルとのモル比が、例えば、6~10:1~10:1~8である。ここにおいて、電解用電極1の使用による経時変化に伴うイリジウムの凝集を抑制する観点から、イリジウムのモル量は、白金のモル量以下であるのが好ましい。タンタル層41は、触媒層42よりも耐食性が高く、構造変化に強い。これにより、触媒層42上に位置するタンタル層41は、その直下の触媒層42のイリジウムの溶出を抑制することができる。
【0022】
複合層4では、導電性基板2の厚さ方向D1において複数のタンタル層41と複数の触媒層42とが一層ずつ交互に並んだ積層構造を有する。複数のタンタル層41の各々の厚さは、例えば、15nm~300nmであり、一例として100nmである。複数の触媒層42の各々の厚さは、例えば、15nm~100nmであり、一例として50nmである。
【0023】
以下では、説明の便宜上、4つのタンタル層41を、導電性基板2の第1主面21に近い順に、第1タンタル層411、第2タンタル層412、第3タンタル層413、第4タンタル層414と称することもある。また、4つの触媒層42を、導電性基板2の第1主面21に近い順に、第1触媒層421、第2触媒層422、第3触媒層423、第4触媒層424と称することもある。
【0024】
複合層4では、導電性基板2側から、第1タンタル層411、第1触媒層421、第2タンタル層412、第2触媒層422、第3タンタル層413、第3触媒層423、第4タンタル層414及び第4触媒層424が、この順に並んでいる。
【0025】
複合層4では、複数のタンタル層41のうち1つのタンタル層41が導電性基板2の一の主面21に最も近い最下層であり、複数の触媒層42のうち1つの触媒層42が導電性基板2から最も遠い最上層である。
【0026】
複合層4では、複数のタンタル層41のうち1つのタンタル層41(第1タンタル層411)が、導電性基板2の第1主面21に最も近い最下層である。また、複合層4では、複数の触媒層42のうち1つの触媒層42(図示例では、第4触媒層424)が、導電性基板2から最も遠い最上層である。
【0027】
電解用電極1は、複合層4における中間層3側とは反対側の主面40から凹んだ複数の凹部5を有する。複数の凹部5の各々の深さは、複合層4の主面40と複数の触媒層42のうち導電性基板2から2番目に遠い触媒層42(第3触媒層423)との距離L1よりも大きく、かつ、複合層4の主面40と中間層3との距離L2以下である。
【0028】
導電性基板2の厚さ方向D1からの平面視で、複数の凹部5の各々の幅H1(
図2参照)は、0.1μm以上10μm以下であり、0.3μm以上3μm以下であるのが、より好ましい。導電性基板2の厚さ方向D1からの平面視での凹部5の幅H1は、複合層4の主面40での短手方向(長さ方向に直交する方向)における開口幅である。
【0029】
また、導電性基板2の厚さ方向D1からの平面視で、複合層4の主面40の面積をS1とし、複合層4の主面40における複数の凹部5の各々の開口面積の合計面積をS2とした場合、S1+S2に対するS2の割合は、例えば、5%~50%である。S1+S2に対するS2の割合は、塩素発生効率の向上を図る観点から5%以上であるのが好ましい。また、S1+S2に対するS2の割合は、複合層4の剥離等を抑制する観点から50%以下であるのが好ましく、20%以下であるのが、より好ましい。つまり、S1+S2に対するS2の割合は、5%以上20%以下であるのが、より好ましい。電解用電極1では、導電性基板2の厚さ方向D1からの平面視で、複数の凹部5のうち0.01mm2の正方形領域に存在する部分の開口縁の長さの合計が1mm以上である。
【0030】
(3)電解用電極の製造方法
電解用電極1の製造方法の一例について、
図3A~3Dに基づいて説明する。
【0031】
電解用電極の製造方法では、まず、
図3Aに示すように導電性基板2を準備し、その後、粗面化工程、中間層形成工程、複合層形成工程を順次行う。
【0032】
粗面化工程では、例えば、導電性基板2をシュウ酸水溶液に浸漬することにより導電性基板2の第1主面21を粗面化する。粗面化工程は、必須の工程ではない。粗面化工程の後の導電性基板2の第1主面21の表面粗さに関し、算術平均粗さRaは、例えば、0.3μmであり、最大高さRzは、3μmである。算術平均粗さRa及び最大高さRzは、例えば、表面粗さ計のZygoで測定した値である。
【0033】
中間層形成工程では、導電性基板2の第1主面21上に中間層3を形成する(
図3B参照)。中間層3は、例えば、白金層である。中間層形成工程では、中間層3の元になる溶液を導電性基板2の第1主面21上に塗布してから、自然乾燥を行い、その後、熱処理を行い、その後、焼成を行うことにより、中間層3を形成する。溶液は、溶媒に白金化合物を溶解させた溶液である。溶媒は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルと塩酸とエタノールとを混合した液体である。白金化合物は、例えば、塩化白金酸であるが、これに限らず、例えば、塩化白金等であってもよい。中間層3の形成方法は、上述の例に限らず、例えば、蒸着法、スパッタ法、CVD法、めっき法等であってもよい。
【0034】
複合層形成工程では、中間層3上に複合層4(
図3D参照)を形成する。
【0035】
複合層形成工程は、積層体形成工程と、焼成工程と、を有する。
【0036】
積層体形成工程では、第1規定回数(例えば、4回)の第1ステップと、第2規定回数(例えば、4回)の第2ステップとを1回ずつ交互に繰り返すことにより、導電性基板2上の中間層3上に複合層4の元になる積層体400(
図3C参照)を形成する。
【0037】
第1ステップでは、タンタル層41の元になるタンタル化合物を含む溶液(以下、第1溶液という)を塗布してから、自然乾燥を行わずに、第1条件で加熱乾燥させる熱処理(乾燥処理)を行うことにより、複数のタンタル層41のうちの1つのタンタル層41の元になる第1材料層410を形成する。第1溶液は、溶媒(以下、第1溶媒という)にタンタル化合物を溶解させた溶液である。第1溶媒は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルと塩酸とエタノールとを混合した液体である。タンタル化合物は、例えば、塩化タンタルであるが、これに限らず、例えば、タンタルエトキシド等であってもよい。第1溶液の金属濃度(タンタル濃度)は、例えば、26mg/Lである。また、第1溶液の塗布量は、例えば、1μL/cm2である。第1条件は、熱処理温度と、熱処理時間と、を含む。第1条件における熱処理温度は、例えば、100℃~400℃であり、一例として220℃である。また、第1条件における熱処理時間は、例えば、5分~15分であり、一例として10分である。
【0038】
第2ステップでは、触媒層42の元になる白金化合物とイリジウム化合物とを含む溶液(以下、第2溶液という)を塗布してから、自然乾燥を行わずに、第2条件で加熱乾燥させる熱処理(乾燥処理)を行うことにより、複数の触媒層42のうち1つの触媒層42の元になる第2材料層420を形成する。第2溶液は、溶媒(以下、第2溶媒という)に白金化合物とイリジウム化合物とを溶解させた溶液である。第2溶媒は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルと塩酸とエタノールとを混合した液体である。白金化合物は、例えば、塩化白金酸であるが、これに限らず、例えば、塩化白金等であってもよい。イリジウム化合物は、例えば、塩化イリジウム酸であるが、これに限らず、例えば、塩化イリジウム、硝酸イリジウム等であってもよい。第2溶液の金属濃度(白金とイリジウムとの合計濃度)は、例えば、26mg/Lである。また、第2溶液の塗布量は、例えば、2μL/cm2である。第2条件は、熱処理温度と、熱処理時間と、を含む。第2条件における熱処理温度は、例えば、100℃~400℃であり、一例として220℃である。また、第2条件における熱処理時間は、例えば、5分~15分であり、一例として10分である。
【0039】
焼成工程では、積層体400を所定の焼成条件で焼成する熱処理を行うことにより、複合層4及び複数のクラック(凹部5)を形成する(
図3D参照)。焼成条件は、焼成温度と、焼成時間と、を含む。焼成温度は、例えば、500℃~700℃であり、一例として、560℃である。焼成時間は、例えば、10分~20分であり、一例として15分である。複数のクラック(凹部5)の形状は、互いに異なる。また、クラックは、複合層4の厚さ方向に沿って形成されていてもよいし、複合層4の途中で曲がっていてもよい。
【0040】
(4)実施例
図4は、電解用電極1に関して複合層4における白金(Pt)とイリジウム(Ir)とタンタル(Ta)とのモル比、複合層4の有する積層構造の層数(タンタル層41の層数と触媒層42の層数との合計の層数)等を変えた下記の9種類の実施例1~9について耐久性試験を行った結果を示すグラフである。
実施例1は、Pt:Ir:Ta=8:1:6、層数=10のサンプルである。
実施例2は、Pt:Ir:Ta=8:1:6、層数=20のサンプルである。
実施例3は、Pt:Ir:Ta=8:1:6、層数=30のサンプルである。
実施例4は、Pt:Ir:Ta=8:3:6、層数=10のサンプルである。
実施例5は、Pt:Ir:Ta=8:3:6、層数=20のサンプルである。
実施例6は、Pt:Ir:Ta=8:3:6、層数=30のサンプルである。
実施例7は、Pt:Ir:Ta=8:5:6、層数=10のサンプルである。
実施例8は、Pt:Ir:Ta=8:5:6、層数=20のサンプルである。
実施例9は、Pt:Ir:Ta=8:5:6、層数=30のサンプルである。
【0041】
耐久性試験は、加速試験である。耐久性試験では、同じ条件で作成した2つの電解用電極1を一対の電極として、耐久性試験設備の電解槽中の塩水に一対の電極を浸漬させ、一対の電極への通電による初期エージングを行ってから、一対の電極間に予め決めた時間だけ連続的に通電する度に一対の電極を塩素濃度測定用の電解槽に入れた塩水に浸漬させて所定時間(3分)だけ通電したときの塩素濃度(の平均値)を測定した。ここにおいて、耐久性試験設備の電解槽は、塩水の給水口と排水口とを有する。耐久性試験では、耐久性試験設備の電解槽内の塩水の導電率が1650±200μS/mになるように塩水を足している。また、耐久性試験では、耐久性試験設備の電解槽に水道水を流量2L/minで常に供給しながら排水している。耐久性試験設備の電解槽に供給する塩水は、水道水に食塩(塩化ナトリウム)を溶解させて生成した食塩水である。耐久性試験での通電電流の電流値は、400mAである。塩素濃度測定用の電解槽中の塩水としては、800mLの純水に4.5gの食塩(塩化ナトリウム)を溶解させて生成した塩水を用いた。塩素濃度測定での通電電流の電流値は、400mAである。また、初期エージングでは、一対の電極間に所定時間(3分)の通電を行うごとに極性反転を行って、一対の電極に、合計12分の通電を行った。ここにおいて、極性反転とは、一対の電極における陽極と陰極との組み合わせを逆にすることを意味する。言い換えれば、極性反転とは、陽極として使用していた電極、陰極として使用していた電極のそれぞれを、陰極、陽極とするように一対の電極のうち高電位側とする電極を変更することを意味する。
【0042】
図4の横軸は、初期エージング後の耐久性試験時間(経過時間)である。
図4の縦軸は、塩素濃度である。陽極付近で発生した塩素は次亜塩素酸の生成に寄与するので、塩素濃度は、単位時間当たりに発生した塩素の量によって略決まる。
【0043】
図4から、白金(Pt)とイリジウム(Ir)とタンタル(Ta)とのモル比が同じ場合、層数が多いほど耐久性が向上していることが分かる。また、
図4から、層数が同じで、かつ、白金(Pt)とタンタル(Ta)とのモル比が同じ場合、イリジウム(Ir)の割合が大きいほど耐久性が向上していることが分かる。
【0044】
実施形態1に係る電解用電極1において耐久性が向上する推定メカニズムについて、
図5A、5B、5C及び5Dに基づいて説明する。
図5A、5B、5C及び5Dの順番は、時系列の順である。
【0045】
電解用電極1では、
図5Aのような状態において、複合層4の主面40及び複数(4つ)の触媒層42それぞれで凹部5の内周面の一部を構成している面が塩水に接することにより、複数(4つ)の触媒層42それぞれが、塩素の発生に寄与することができる。
【0046】
図5Bは、
図5Aの電解用電極1において、最上層の触媒層42(第4触媒層424)が消失した状態である。
図5Bの状態では、複数(3つ)の触媒層42それぞれで凹部5の内周面の一部を構成している面が塩水に接することにより、複数(3つ)の触媒層42それぞれが、塩素の発生に寄与することができる。
【0047】
図5Cは、
図5Bの状態から、複数(3つ)の触媒層42それぞれの一部が面内方向において消失した状態である。面内方向は、導電性基板2の厚さ方向D1に直交する方向である。つまり、面内方向は、導電性基板2の第1主面21に沿った方向である。
図5Cの状態では、複数(3つ)の触媒層42それぞれで凹部5側の面が塩水に接することにより、複数(3つ)の触媒層42それぞれが、塩素の発生に寄与することができる。
【0048】
図5Dは、
図5Cの状態から、複数(3つ)の触媒層42のうち導電性基板2から最も遠い触媒層42(第3触媒層423)上のタンタル層41(第4タンタル層414)の一部が面内方向において消失した状態である。
図5Dの状態では、第3触媒層423における第4タンタル層414側の主面及び複数(3つ)の触媒層42それぞれで凹部5側の面が塩水に接することにより、複数(3つ)の触媒層42それぞれが、塩素の発生に寄与することができる。
【0049】
実施形態1に係る電解用電極1では、上述のように状態が変化しても、少なくとも1つの触媒層42が塩素の発生に寄与することができる。これにより、実施形態1に係る電解用電極1では、耐久性が向上する。
【0050】
(5)効果
実施形態1に係る電解用電極1では、複数のタンタル層41と複数の触媒層42とが一層ずつ交互に並んでいる複合層4を備えることにより、複合層4の剥離を抑制することが可能となる。また、実施形態1に係る電解用電極1では、上記の複合層4を備えることにより、使用時の複合層4の消耗を抑制することが可能となる。また、実施形態1に係る電解用電極1では、上記の複合層4を備えることにより、イリジウムの凝集を抑制することが可能となる。
【0051】
また、実施形態1に係る電解用電極1は、複数の凹部5を備えることにより、複合層4において塩素の発生に寄与する表面の面積が増加し、塩素発生効率の向上を図ることが可能となる。
【0052】
(実施形態2)
以下、実施形態2に係る電解用電極1aについて、
図6に基づいて説明する。
【0053】
実施形態2に係る電解用電極1aは、実施形態1に係る電解用電極1と略同じである。実施形態2に係る電解用電極1aでは、複数の凹部5の深さが、実施形態1に係る電解用電極1における複数の凹部5の深さと相違する。実施形態2に係る電解用電極1aに関し、実施形態1に係る電解用電極1と同様の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0054】
実施形態2に係る電解用電極1aにおける複数の凹部5の各々の深さは、複合層4の主面40と複合層4における最下層(第1タンタル層411)との距離L3以下である。これにより、実施形態2に係る電解用電極1aでは、複合層4の剥離を、より抑制することが可能となる。
【0055】
以下、実施形態2に係る電解用電極1aの製造方法について
図7A~7Eに基づいて説明する。なお、実施形態1に係る電解用電極1の製造方法と同様の工程については説明を適宜省略する。
【0056】
まず、
図7Aに示すように導電性基板2を準備し、その後、粗面化工程、中間層形成工程、複合層形成工程を順次行う。
【0057】
粗面化工程では、例えば、導電性基板2をシュウ酸水溶液に浸漬することにより導電性基板2の第1主面21を粗面化する。粗面化工程は、必須の工程ではない。
【0058】
中間層形成工程では、導電性基板2の第1主面21上に中間層3を形成する(
図7B参照)。
【0059】
複合層形成工程では、中間層3上に複合層4(
図7E参照)を形成する。
【0060】
複合層形成工程は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を有する。
【0061】
第1工程では、タンタル層41の元になるタンタルを含む溶液を中間層3上に塗布してから、焼成することにより、複数のタンタル層41のうち複合層4の積層構造における最下層のタンタル層41を形成する(
図7C参照)。溶液は、例えば、溶媒にタンタル化合物を溶解させた溶液である。つまり、溶液は、タンタルを含む。溶媒は、例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルと塩酸とエタノールとを混合した液体である。タンタル化合物は、例えば、塩化タンタルであるが、これに限らず、例えば、タンタルエトキシド等であってもよい。タンタル層41を酸化タンタルにより形成された層ではなくてタンタルにより形成された層とする場合には、例えば、溶液として溶媒にタンタルの素体を溶解させた溶液を用いればよい。溶液の金属濃度(タンタル濃度)は、例えば、26mg/Lである。また、溶液の塗布量は、例えば、1μL/cm
2である。焼成条件は、焼成温度(第1規定温度)と、焼成時間と、を含む。焼成温度は、例えば、500℃~700℃であり、一例として、560℃である。焼成時間は、例えば、10分~20分であり、一例として15分である。
【0062】
第2工程では、第1規定回数(例えば、4回)の第1ステップと第2規定回数(例えば、3回)の第2ステップとを繰り返すことにより、複合層4の積層構造における最下層のタンタル層41以外の部分の元になる積層体401を形成する(
図7D参照)。
【0063】
第2工程の第1ステップでは、触媒層42の元になる白金化合物とイリジウム化合物とを含む第2溶液を塗布してから、自然乾燥を行わずに、第2条件で加熱乾燥させる熱処理(乾燥処理)を行うことにより、複数の触媒層42のうち1つの触媒層42の元になる第2材料層420を形成する。第2溶液は、白金とイリジウムとを含む溶液である。第2溶液は、導電性基板2の第1主面21側の露出している層(例えば、最下層のタンタル層41、後述の第1材料層410)の上に塗布される。第2条件は、熱処理温度と、熱処理時間と、を含む。第2条件における熱処理温度(第2規定温度)は、例えば、100℃~400℃であり、一例として220℃である。また、第2条件における熱処理時間は、例えば、5分~15分であり、一例として10分である。
【0064】
第2工程の第2ステップでは、タンタル層41の元になるタンタル化合物を含む第1溶液を塗布してから、自然乾燥を行わずに、第1条件で加熱乾燥させる熱処理(乾燥処理)を行うことにより、複数のタンタル層41のうちの1つのタンタル層41の元になる第1材料層410を形成する。第1溶液は、タンタルを含む溶液である。第1溶液は、導電性基板2の第1主面21側の露出している層(第2材料層420)の上に塗布される。第1条件は、熱処理温度と、熱処理時間と、を含む。第1条件における熱処理温度(第3規定温度)は、例えば、100℃~400℃であり、一例として220℃である。また、第1条件における熱処理時間は、例えば、5分~15分であり、一例として10分である。
【0065】
第3工程では、積層体401を規定温度(第4規定温度)で焼成することにより、複数の触媒層42と複数のタンタル層41のうち最下層のタンタル層41以外のタンタル層41を形成するとともに、触媒層42における中間層3側とは反対側の主面40から凹んだ複数のクラック(凹部5)を形成する(
図7E参照)。
【0066】
実施形態2に係る電解用電極1aの製造方法では、複合層4の剥離を抑制することが可能な電解用電極1aを提供することができる。
【0067】
実施形態1、2は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。
【0068】
例えば、導電性基板2の平面視形状は、長方形状に限らず、例えば、正方形状であってもよい。
【0069】
また、複合層4におけるタンタル層41及び触媒層42の各々の数は、4つに限らず、例えば、2つ又は3つであってもよいし、5つ以上であってもよい。また、複合層4では、タンタル層41の数と触媒層42との数が、同じである場合に限らず、異なる場合であってもよい。
【0070】
また、複数のタンタル層41の厚さは、互いに同じである場合に限らず、例えば、互いに異なってもよいし、複数のタンタル層41のうち一部のタンタル層41の厚さが同じで残りのタンタル層41の厚さが異なっていてもよい。
【0071】
また、複数の触媒層42の厚さは、互いに同じである場合に限らず、例えば、互いに異なってもよいし、複数の触媒層42のうち一部の触媒層42の厚さが同じで残りの触媒層42の厚さが異なっていてもよい。
【0072】
また、複数のタンタル層41は、互いに同じ組成である場合に限らず、例えば、互いに異なる組成であってもよい。また、複数の触媒層42は、互いに同じ組成である場合に限らず、例えば、互いに異なる組成であってもよい。
【0073】
また、複合層4は、複数の触媒層42の各々が多孔質層である場合に限らず、例えば、複数の触媒層42のうち最上層の触媒層42以外の残りの触媒層42のうち少なくとも1つの触媒層42が多孔質層である場合でもよい。
【0074】
また、複合層4では、複数の触媒層42の各々が非多孔質層であってもよい。
【0075】
また、複数の凹部5の形状は、互いに同じでもよい。この場合、例えば、電解用電極1の製造方法では、複数の凹部5を、エッチング技術、レーザ加工技術等を利用して形成してもよい。これらの技術を利用すれば、複数の凹部5のレイアウト、大きさの設計の自由度が高くなるとともに、複数の凹部5の形成位置の再現性が高くなるという利点がある。
【0076】
また、複合層4における中間層3側とは反対側の主面40から凹んだ複数の凹部5を有する場合、
図8に示す一変形例に係る電解用電極1bのように、複合層4における最上層が、タンタル層41であってもよい。電解用電極1bに関し、電解用電極1と同様の構成要素には同一の符合を付して説明を省略する。電解用電極1bのように複合層4における最上層がタンタル層41の場合、複数の凹部5の各々の深さは、複数の触媒層42のうち少なくとも1つの触媒層42を貫通する深さである。塩素発生効率を高める観点から、複数の凹部5の各々の深さは、複数の触媒層42を貫通する深さであるのがより好ましい。
【0077】
また、複合層4では、複数のタンタル層41のうち1つのタンタル層41が中間層3を介さずに導電性基板2の一の主面21に接する最下層であり、複数の触媒層42のうち1つの触媒層42が導電性基板2から最も遠い最上層であってもよい。
【0078】
(まとめ)
以上説明した実施形態1,2等から本明細書には以下の態様が開示されている。
【0079】
第1の態様に係る電解用電極(1;1a)は、導電性基板(2)と、中間層(3)と、複合層(4)と、を備える。導電性基板(2)は、少なくともチタンを含む。中間層(3)は、導電性基板(2)の一の主面(21)上に設けられている。複合層(4)は、中間層(3)上に設けられている。複合層(4)は、複数のタンタル層(41)と、複数の触媒層(42)と、を有する。複数のタンタル層(41)の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。複数の触媒層(42)の各々は、白金とイリジウムとを含む。複合層(4)では、導電性基板(2)の厚さ方向(D1)において複数のタンタル層(41)と複数の触媒層(42)とが一層ずつ交互に並んでいる。複合層(4)では、複数のタンタル層(41)のうち1つのタンタル層(41)が導電性基板(2)の一の主面(21)に最も近い最下層であり、複数の触媒層(42)のうち1つの触媒層(42)が導電性基板(2)から最も遠い最上層である。
【0080】
第1の態様に係る電解用電極(1;1a)では、複合層(4)の剥離を抑制することが可能となる。
【0081】
第2の態様に係る電解用電極(1;1a)は、第1の態様において、複合層(4)における中間層(3)側とは反対側の主面(40)から凹んだ複数の凹部(5)を有する。複数の凹部(5)の各々の深さは、複合層(4)の主面(40)と複数の触媒層(42)のうち導電性基板(2)から2番目に遠い触媒層42(第3触媒層423)との距離(L1)よりも大きく、かつ、複合層(4)の主面(40)と中間層(3)との距離(L2)以下である。
【0082】
第2の態様に係る電解用電極(1;1a)では、複数の触媒層(42)のうち導電性基板(2)から2番目に遠い触媒層(第3触媒層423)も塩素の発生に寄与することができるので、複数の凹部(5)の各々の側面から複数の触媒層(42)を徐々に消費させていくことができるため、複数の触媒層(42)の各々におけるイリジウムの比率と、触媒層(42)の数との少なくとも一方を変えることで、耐久性の向上を図りながら、触媒層(42)を効率良く消費させ塩素発生効率を向上させることが可能となる。
【0083】
第3の態様に係る電解用電極(1a)では、第2の態様において、複数の凹部(5)の各々の深さは、複合層(4)の主面(40)と最下層(第1タンタル層411)との距離(L3)以下である。
【0084】
第3の態様に係る電解用電極(1a)では、複合層(4)の剥離を、より抑制することが可能となる。
【0085】
第4の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第2又は3の態様において、複数の凹部(5)の各々は、厚さ方向(D1)からの平面視で線状のクラックである。
【0086】
第4の態様に係る電解用電極(1;1a)では、複数の触媒層(42)のうち導電性基板(2)から遠い触媒層(42)ほど塩素発生に寄与しやすくなり、複数の触媒層(42)のうち導電性基板(2)に近い触媒層(42)ほど消耗しにくくなるので、耐久性を向上させることが可能となる。
【0087】
第5の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第4の態様において、複数の凹部(5)の各々の幅(H1)は、0.3μm以上3μm以下である。
【0088】
第6の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第4又は5の態様において、導電性基板の厚さ方向(D1)からの平面視で、複合層(4)の主面(40)の面積をS1とし、複合層(4)の主面(40)における複数の凹部(5)の各々の開口面積の合計面積をS2とした場合、S1+S2に対するS2の割合は、5%~50%である。
【0089】
第7の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第6の態様において、導電性基板(2)の厚さ方向(D1)からの平面視で、複数の凹部(5)のうち0.01mm2の正方形領域に存在する部分の開口縁の長さの合計が1mm以上である。
【0090】
第8の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第1~7の態様のいずれか一つにおいて、複数の触媒層(42)の各々は、多孔質層である。
【0091】
第8の態様に係る電解用電極(1;1a)では、耐久性を向上させることが可能となる。ここにおいて、第8の態様に係る電解用電極(1;1a)では、複数の触媒層(42)のうち最上層の触媒層(42)以外の触媒層(42)の各々において、凹部(5)により露出している側面から塩水が触媒層(42)の面内方向に浸入しやすくなって、塩素発生に寄与しやすくなり、耐久性を向上させることが可能となると推考される。
【0092】
第9の態様に係る電解用電極(1;1a)では、第1~8の態様のいずれか一つにおいて、導電性基板(2)の一の主面(21)は、粗面である。
【0093】
第9の態様に係る電解用電極(1;1a)では、導電性基板(2)と中間層(3)との密着性を向上させることが可能となり、複合層(4)が導電性基板(2)側から剥離するのを抑制することが可能となる。
【0094】
第10の態様に係る電解用電極(1a)の製造方法は、中間層形成工程と、複合層形成工程と、を備える。中間層形成工程は、少なくともチタンを含む導電性基板(2)の一の主面(21)上に中間層(3)を形成する工程である。複合層形成工程は、中間層(3)上に複合層(4)を形成する工程である。複合層(4)は、複数のタンタル層(41)と、複数の触媒層(42)とが一層ずつ交互に並んでいる積層構造を有する。複数のタンタル層(41)の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。複数の触媒層(42)の各々が、白金とイリジウムとを含んでいる。複合層形成工程は、第1工程と、第2工程と、第3工程と、を有する。第1工程では、タンタルを含む溶液を中間層(3)上に塗布してから第1規定温度で焼成することにより、複数のタンタル層(41)のうち積層構造における最下層のタンタル層(41)を形成する。第2工程では、第1ステップと第2ステップとを繰り返すことにより、積層構造における最下層のタンタル層(41)以外の部分の元になる積層体(401)を形成する。第1ステップでは、白金とイリジウムとを含む溶液を塗布してから第2規定温度で加熱乾燥することにより複数の触媒層(42)のうち1つの触媒層(42)の元になる層(第2材料層420)を形成する。第2ステップでは、タンタルを含む溶液を塗布してから第3規定温度で加熱乾燥することにより複数のタンタル層(41)のうち最下層のタンタル層(41)以外の1つのタンタル層(41)の元になる層(第1材料層410)を形成する。第3工程では、積層体(401)を第2規定温度と第3規定温度との両方よりも高温の第4規定温度で焼成することにより、複数の触媒層(42)と複数のタンタル層(41)のうち最下層のタンタル層(41)以外のタンタル層(41)とを形成するとともに、触媒層(42)における中間層(3)側とは反対側の主面(40)から凹んだ複数のクラック(凹部5)を形成する。
【0095】
第10の態様に係る電解用電極(1a)の製造方法では、複合層(4)の剥離を抑制することが可能となる。
【0096】
第11の態様に係る電解用電極(1b)は、導電性基板(2)と、中間層(3)と、複合層(4)と、を備える。導電性基板(2)は、少なくともチタンを含む。中間層(3)は、導電性基板(2)の一の主面(21)上に設けられている。複合層(4)は、中間層(3)上に設けられている。複合層(4)は、複数のタンタル層(41)と、複数の触媒層(42)と、を有する。複数の触媒層(42)の各々は、白金とイリジウムとを含む。複数のタンタル層(41)の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。複合層(4)では、導電性基板(2)の厚さ方向(D1)において複数のタンタル層(41)と複数の触媒層(42)とが一層ずつ交互に並んでいる。複合層(4)では、複数のタンタル層(41)のうち1つのタンタル層(41)が導電性基板(2)の一の主面(21)に最も近い最下層であり、複数のタンタル層(41)のうち他の1つのタンタル層(41)が導電性基板(2)から最も遠い最上層である。電解用電極(1;1a)は、複合層(4)における中間層(3)側とは反対側の主面(40)から凹んだ複数の凹部(5)を有する。複数の凹部(5)の各々の深さは、複数の触媒層(42)のうち少なくとも1つの触媒層(42)を貫通する深さである。
【0097】
第11の態様に係る電解用電極(1b)は、複合層(4)の剥離を抑制することが可能となる。
【0098】
第12の態様に係る電解用電極(1;1a)は、導電性基板(2)と、中間層(3)と、複合層(4)と、を備える。導電性基板(2)は、少なくともチタンを含む。中間層(3)は、導電性基板(2)の一の主面(21)上に設けられている。複合層(4)は、中間層(3)上に設けられている。複合層(4)は、複数のタンタル層(41)と、複数の触媒層(42)と、を有する。複数のタンタル層(41)の各々が、酸化タンタル、タンタル、又は酸化タンタルとタンタルの混合物により形成されている。複数の触媒層(42)の各々は、白金とイリジウムとを含む。複合層(4)では、導電性基板(2)の厚さ方向(D1)において複数のタンタル層(41)と複数の触媒層(42)とが一層ずつ交互に並んでいる。複合層(4)では、タンタル層(41)が導電性基板(2)の一の主面(21)に最も近い最下層であり、触媒層(42)が導電性基板(2)から最も遠い最上層である。
【0099】
第12の態様に係る電解用電極(1;1a)では、複合層(4)の剥離を抑制することが可能となる。
【符号の説明】
【0100】
1、1a、1b 電解用電極
2 導電性基板
21 一の主面
3 中間層
4 複合層
40 主面
41 タンタル層
42 触媒層
5 凹部
401 積層体
L1 距離
L2 距離
L3 距離