(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】3大神経変性疾患の診断補助方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20221216BHJP
【FI】
G01N27/62 V
(21)【出願番号】P 2018123452
(22)【出願日】2018-06-28
【審査請求日】2021-05-11
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、国立研究開発法人科学技術振興機構研究成果展開事業(先端計測分析技術・機器開発プログラム)の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(72)【発明者】
【氏名】澤田 誠
(72)【発明者】
【氏名】ベイリー小林 菜穂子
(72)【発明者】
【氏名】吉田 徹彦
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150680(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/150681(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0124010(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0211346(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00-G01N 27/92
G01N 33/48-G01N 33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症(ALS)からなる3大神経変性疾患の診断を補助するための方法であって:
マトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(MALDI/TOF-MS)によって、被検者から採取した
脳脊髄液である検体のマススペクトルを得ること;および
前記得られたマススペクトルの質量電荷比(m/z)がm/z1733±1ならびにm/z2399±1における各ピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値
を、それぞれ、予め用意された対応するm/z1733±1用基準値ならびにm/z2399±1用基準値と比較すること;および
前記m/z1733±1のピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値が前記m/z1733±1用基準値を上回り、且つ、前記m/z2399±1のピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値が前記m/z2399±1用基準値を上回った検体を選出すること;
を包含する、3大神経変性疾患の診断補助方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被検者から採取した検体(試料)を質量分析に供することにより、アルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症からなる3大神経変性疾患の診断を補助する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢化社会の到来によって、以前にもまして神経変性疾患の診断方法や治療方法の確立が重要視されてきている。神経変性疾患は、中枢神経のうちの特定の神経細胞群が障害され、認知機能の低下、運動失調、不随意運動といった症状を示す神経の疾患である。特に本明細書では、かかる神経変性疾患のうち、アルツハイマー病、パーキンソン病および筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:以下「ALS」という。)を、3大神経変性疾患と規定する。
【0003】
これら3大神経変性疾患のうち、アルツハイマー病は、高次脳機能に関係する神経細胞が障害される神経変性疾患であり認知症の原因の一つである。アルツハイマー病の主な臨床症状として、記憶障害、言語障害、失行等の認知機能の低下、暴力、暴言等の人格の変化、徘徊等の異常行動などが挙げられる。
また、パーキンソン病は、中枢神経系の疾患であり、ドパミンを生産する脳内の神経細胞が消失していく疾患であり、症状として手足や顔面にコントロールできないふるえが生じること、固縮、運動がゆっくりになること(運動緩徐)、動きを開始することが困難であること、およびバランスや歩行、姿勢の保持に障害がでること等が挙げられる。
また、ALSは、運動神経が選択的に障害される進行性の神経変性疾患であり、典型的な症状として、全身性の筋萎縮や筋力低下(運動機能の障害)、痙縮、腱反射亢進、線維束性収縮、歩行障害、言語障害(構音障害)、嚥下障害、呼吸障害等が挙げられる。
【0004】
これら3大神経変性疾患は、初期症状の状態が他の認知症や運動機能に障害をきたす他の疾患と区別することが難しく、現在、当該疾患と診断されるまでに相互に異なる内容、態様の診断を組み合わせて行わざるを得ない状況にある。
ALSの診断では、ALSの臨床症状の有無、進行速度、運動機能に障害をきたす他の疾患の除外等を組み合わせて行われる。例えば、神経伝導検査、筋電図検査、筋生検、神経の画像解析(CTやMRI等)、血液検査、髄液検査等を適宜組み合わせて行われる。
また、アルツハイマー病の診断では、問診、認知機能を把握するための検査(例えば、ミニメンタルステート検査:MMSE等の神経心理学的検査)、脳の画像解析(CTやMRI等)といった複数の検査を行い、得られる結果から総合的に判断される。
また、パーキンソン病の診断では、問診、神経内科的な症状の確認、脳の画像解析(CTやMRI等)といった複数の検査を行い、得られる結果から総合的に判断される。
【0005】
このように、これら3大神経変性疾患についての診断では、被診者の症状から、先ずいずれか一の疾患に関する診断を行い、結果的に当該疾患ではないと判断された場合、他の一の疾患に関する診断を次に行うというように、正しい疾患が認定されるまで、疾患ごとに異なる診断をいくつも行う必要があり、最終的に3大神経変性疾患のいずれかと判断されるまでにかなりの時間と労力がかかり、適切な治療を開始する時期を遅らせる要因ともなる。
例えば、最終的な判断は他の診断方法に委ねるとしても、先ずは簡単で迅速な一つの方法によって、少なくとも3大神経変性疾患のいずれかに罹患していることが分かれば、その後の診断プロセスの短縮や治療の開始時期を早める、等の効果が期待される。特許文献1には、被検者の鼻腔から採取した鼻腔内検体中のタウ蛋白およびアミロイドベータペプチドの濃度を検出することを特徴とするアルツハイマー病の診断補助方法が記載されている。しかし、この方法も他の二つの神経変性疾患(パーキンソン病、ALS)の診断はできない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】WO2013/111578
【文献】WO2015/178249
【文献】WO2017/150680
【文献】WO2017/150681
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、かかる3大神経変性疾患の診断に関する課題を解決するべく創出されたものであり、被検者が少なくとも3大神経変性疾患のいずれかに罹患していることを迅速に判断できる診断補助方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、質量分析法の一種であるマトリクス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法、即ち、MALDI(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization)/TOF-MS(Time of Flight Mass Spectrometry)を用いて、サンプル中の微量成分を、濃縮等の前処理をすることなく少ないサンプル量で短時間に精度よく分析する方法を既に開発している(特許文献2~4参照)。
しかし、上記目的の実現に鑑み、特許文献2~4に記載の方法とは異なる態様のMALDI/TOF-MSを用いて多数の被検者から採取した脳脊髄液中の比較的低分子量のペプチドが含まれる範囲(典型的にはm/zが1000~3500程度)におけるマススペクトル(MS)を調べた。その結果、健常者由来の脳脊髄液を調べたときと比較して、アルツハイマー病の患者、パーキンソン病の患者ならびにALSの患者の脳脊髄液に共通してみられる統計学的に有意差のある2つの特異的なピークを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、ここで開示されるアルツハイマー病、パーキンソン病およびALSからなる3大神経変性疾患の診断を補助するための方法は、
MALDI/TOF-MSによって、被検者から採取した検体のマススペクトルを得ること;および
上記得られたマススペクトルの質量電荷比(m/z)がm/z1733±1ならびにm/z2399±1における各ピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値の高低に基づいて、3大神経変性疾患に関して陽性または陰性を判断すること、を包含する。
【0010】
本発明者は、MALDI/TOF-MSによって求めた複数の健常者から採取した検体(具体的には脳脊髄液)群のマススペクトルと、複数のアルツハイマー病患者、複数のパーキンソン病患者ならびに複数のALS患者の各々から採取した各検体群のマススペクトルとを対比しつつ統計学的に検討し、アルツハイマー病の患者、パーキンソン病の患者ならびにALSの患者の検体に共通してみられる2つの特異的なピーク、即ち、m/z1733±1およびm/z2399±1におけるピークの値を3大神経変性疾患の診断の指標とし得ることを見出した。
したがって、ここで開示される診断補助方法によると、厳密にいずれの神経変性疾患であるかを特定するものではないが、被検者が少なくとも3大神経変性疾患のいずれかを罹患している可能性が高い(即ち陽性である)と判断することができる。このため、3大神経変性疾患のいずれかを罹患しているか否かを診断するプロセスを短縮化することができる。また、3大神経変性疾患のいずれかを罹患していることを前提としつつ、適切な治療を開始する時期を早めることができる。
【0011】
ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法の好ましい一態様では、上記得られたマススペクトルのm/z1733±1ならびにm/z2399±1における各ピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値を、それぞれ、予め用意された対応するm/z1733±1用基準値ならびにm/z2399±1用基準値と比較し、
上記m/z1733±1のピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値が上記m/z1733±1用基準値を上回り、且つ、上記m/z2399±1のピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値が上記m/z2399±1用基準値を上回った場合に、上記被検者について3大神経変性疾患に関して陽性と判断する。
かかる態様の方法によると、より高精度に被検者について3大神経変性疾患に関する診断補助を行うことができる。
【0012】
ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法の好ましい一態様では、上記被検者から採取した検体は脳脊髄液であることを特徴とする。
脳脊髄液は、夾雑物が少なく、MALDI/TOF-MSによって良好なマススペクトルが得られ、3大神経変性疾患のいずれかを罹患しているか否かの判断をより高精度に実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施態様を説明する。本明細書において特に言及している事項(例えばここで開示されるMALDI/TOF-MSによって求められるm/z1733±1およびm/z2399±1にある各ピークを形成する物質)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばMALDI/TOF-MSを用いた検体の質量分析方法、被検者からの検体の採取方法、MALDI/TOF-MSに供するための試料の調製方法等に関する一般的事項)は、機械工学、情報工学、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0014】
本明細書において「健常者」は、3大神経変性疾患の臨床症状を全く示さず、3大神経変性疾患であると診断されない個人を示す。一方、3大神経変性疾患に関連して「患者」という場合は、ここで開示される診断補助方法以外の従来の確立された診断プロセスによって3大神経変性疾患のうちの少なくとも1つに罹患していることが確定された個人を示している。
【0015】
また、本明細書において、MALDI/TOF-MSによって求められるマススペクトルにおける質量電荷比(m/z)Mについて「M±1」と示す場合、該「±1」は、分析装置、分析方法、および測定条件およびその違いによって生じ得る誤差範囲を意味する。ここでは、汎用型のMALDI/TOF-MSを用いた質量分析において生じ得る誤差範囲を基準として「±1」と設定しているが、該範囲はこれに限定されず、3大神経変性疾患に特有のピーク値(典型的にはピーク強度:%Int.)を同定し得る限りにおいて、分析装置、分析方法、測定条件に応じて適宜(例えば±0.5、±2、等)に設定してもよい。
【0016】
ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法は、MALDI/TOF-MSによってm/zが1000~3500程度の範囲におけるマススペクトルを求め、上記2つの統計学的に有意差のある2つの特異的なピークが認められるか否かで3大神経変性疾患の診断の補助を行う方法であり、かかる方法が精度よく実施できる限りにおいて、種々の状態の検体を用いることができる。好ましくは、被検者から採取した脳脊髄液である。脳脊髄液は、細胞成分等の夾雑物が少ない透明な液体であるため、MALDI/TOF-MSに用いる試料として好適である。しかし、脳脊髄液に限らず、血清等の他の体液を使用してもよい。
【0017】
ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法において実施されるMALDI/TOF-MSは、使用する装置に応じて用意されている使用マニュアル等に基づいて好適に実施することができる。本発明の実施に好適な質量分析装置の典型例として、(株)島津製作所製のAXIMA(登録商標)シリーズが挙げられる。例えば、生体由来の試料(即ち、脳脊髄液その他の体液)から比較的低分子量のペプチド成分を分析する際に採用される条件でMALDI/TOF-MSを好適に実施することができる。
例えば、好適なマトリクスとして、CHCA(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸)、HABA(2-[4-ヒドロキシ-フェニルアゾ]安息香酸)、DHBA(ゲンチシン酸/2,5-ジヒドロキシ安息香酸)等の低~中分子量試料に適する物質が挙げられる。測定モードは、正イオンの測定可能なモード(例えばLinearモード)として、適切なレーザー強度でマススペクトル測定を行うことができる。
【0018】
ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法では、被検者について得られたマススペクトルにおけるm/z1733±1および2399±1におけるピーク値の高低(強弱)に基づいて、3大神経変性疾患に関して陽性または陰性を判断することができる。
一般に健常者については、これら二つのピーク値(典型的にはピーク強度:%Int.)は患者から得られる同じm/zのピーク値と比較してかなり低い(若しくはデータ解析においてピークとして認められない)レベルにある。従って、予め設定した健常者についてのピーク値(ピーク強度(%Int.)が0や5以下であり得る。)を基準値として設定し、それよりも被検者のピーク値が高い場合に3大神経変性疾患に関して陽性と判断し、低い場合に陰性と判断することができる。
【0019】
或いは、被検者について得られたマススペクトルにおけるm/z1733±1および2399±1におけるピーク値から導き出される種々のピーク情報値を採用して3大神経変性疾患に関する陽性または陰性を判断してもよい。
例えば、m/zが異なるいずれかの標準物質のピーク値(ピーク強度:%Int.)とm/z1733±1および2399±1におけるピーク値(ピーク強度:%Int.)との比を、上記ピーク値に基づいて導き出される情報値として利用してもよい。例えば、被検者の試料に標準物質(例えば分子量が既知であって人体には存在しない類のペプチドその他の有機物を標準物質とし得る。)を所定量加えておき、測定した当該標準物質のピーク値Aに対するm/z1733±1におけるピーク値Xおよびm/z2399±1におけるピーク値Yの比、X/AおよびY/Aについてそれぞれ基準値を設定してもよい。
或いはまた、複数回のレーザー照射を行い、個々のレーザー照射に対応して個々に得られた各マススペクトルについて、所定のピーク値(例えば、ピーク強度(%Int.)が0や5以下であり得る。)以上のピーク値を積算する、若しくは該ピークが検出される回数を積算する等により得られる積算値(%Cont.)をピーク情報値として3大神経変性疾患の診断補助に利用することができる。
【0020】
以下、ここで開示される3大神経変性疾患の診断補助方法に関する好適な一態様を説明するが、本発明をここで説明する態様に限定することを意図したものではない。
【0021】
被験者として健常者群(21名)、アルツハイマー病の患者群(55名)、パーキンソン病の患者群(10名)およびALSの患者群(12名)を選出し、各被検者から脳脊髄液を採取し、合計で98体の検体を用意した。脳脊髄液は、夾雑物の少ない透明な液体であり、煩雑な前処理を行うことなくMALDI/TOF-MSにそのまま供試することができる。
【0022】
まず、脳脊髄液(検体)と、マトリクス液とを、1:1の体積比で混合した。上記マトリクス液としては、0.1体積%のトリフルオロ酢酸(TFA)を含む50体積%のアセトニトリル水溶液(0.1%TFA/50%ACN水溶液)中に5mg/mLの濃度でCHCAを含むものを用いた。かかるマトリクス液と脳脊髄液(検体)とを混合した脳脊髄液試料2μLを、MALDI/TOF-MS用の384ウェルプレート上に滴下し、次いで、乾燥させることによってプレート上に試料を固定した。
質量分析装置(MALDI/TOF-MS)としては、(株)島津製作所製のAXIMA(登録商標)Performanceを用いた。測定条件は、以下のとおりである。
レーザー光源:N2封入型レーザー(λ=337.1nm)
加速電圧:+20kV、
飛行モード:Linerモード
なお、キャリブラント(キャリブレーション用スタンダード)としては、Angiotensin II (m/z 1046.54)、ACTH fragment 18-39 (m/z 2465.20)、Insulin (m/z5730.61)を用い、外部標準法により測定機器の校正を行った。そして、各脳脊髄液試料に対してレーザー照射を行い、マススペクトルを得た。
【0023】
各脳脊髄液試料に対し、得られたマススペクトル(但し、全イオン電流(Total Ion Current)が20,000,000~30,000,000の範囲に入っているものを使用した。)において検出された各m/zにおけるピーク値(%Int.)を積算し、各m/zにおけるピーク情報値とした。かかる処理を、健常者群(21名)、アルツハイマー病の患者群(55名)、パーキンソン病の患者群(10名)およびALSの患者群(12名)から採取した各検体について実施した。
【0024】
上記得られた各群のピーク情報値を用いて、各患者群と健常者群との間でそれぞれ統計学的有意差検定を行った。ここでは、マン・ホイットニーのU検定を採用し、両側検定を行った。上述のMALDI/TOF-MSならびにU検定を各群についてそれぞれ2回行った。
かかる検定の結果、有意水準を示すP値が特に小さいもの、換言すれば、各患者群と健常者群との間で特に高い有意差を示すm/zが同定された。かかる各患者群と健常者群との間で特に高い有意差を示す5つのm/zを患者群毎に以下の表1に示す。表中のAD、PDおよびALSは、それぞれ、アルツハイマー病の患者群、パーキンソン病の患者群およびALSの患者群についての結果を示している。
【0025】
【0026】
表1に示すように、AD、PDおよびALSのいずれの患者群のマススペクトルにおいても、健常者群のマススペクトルとの対比において、m/z1733±1ならびにm/z2399±1における各ピークが高い有意差を示している
従って、これらm/z1733±1ならびにm/z2399±1における各ピーク値または該ピーク値から導き出される所定のピーク情報値の高低に基づいて、3大神経変性疾患に関して陽性または陰性を補助的に判断することができる。
さらに、表1に列挙されるAD(1)、PD(1)、ALS(2)の欄に示すm/zにおいて目立ったピークがあるかどうかのさらなる検討を行うことにより、3大神経変性疾患に関して陽性と判断された被検者に対し、アルツハイマー病、パーキンソン病およびALSのうちのいずれに罹患しているか、あるいは二以上に複合的に罹患しているかどうかのさらなる補助的判断を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
上述したように、ここで開示される診断補助方法によると、被検者が少なくとも3大神経変性疾患のいずれかを罹患している可能性が高い(即ち陽性である)と判断することができる。このため、3大神経変性疾患のいずれかを罹患しているか否かを診断するプロセスを短縮化することができる。また、3大神経変性疾患のいずれかを罹患していることを前提としつつ、適切な治療を開始する時期を早めることができる。