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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】水素および/または酸素の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20221216BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20221216BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20221216BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C01B3/04 A
C01B13/02 B
B01J23/89 M
B01J35/02 J
B01J35/02 H
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019014652
(22)【出願日】2019-01-30
(65)【公開番号】P2020037506
(43)【公開日】2020-03-12
【審査請求日】2021-10-14
(31)【優先権主張番号】P 2018163674
(32)【優先日】2018-08-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】000125347
【氏名又は名称】学校法人近畿大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002837
【氏名又は名称】弁理士法人アスフィ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多田 弘明
(72)【発明者】
【氏名】納谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】山内 純平
【審査官】田口 裕健
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-046236(JP,A)
【文献】特開2005-068007(JP,A)
【文献】特開平05-309267(JP,A)
【文献】Juan Gomez-Perez, et al.,Catalysis Today,2017年,Vol.284,PP.37-43
【文献】石灰洋一,表面技術,2004年,Vol.55 No.5,PP.328-330
【文献】Xiao-Bing Qian, et al.,International Journal of Hydrogen Energy,2018年,Vol.43,PP.2160-2170
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/00- 3/58
C01B 13/00-13/36
B01J 21/00-37/36
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素および/または酸素を製造するための方法であって、
水中、貴金属粒子および酸化ニッケル粒子を含む触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含み、
上記酸化ニッケル粒子は、その価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあるものであり、
上記貴金属粒子が上記酸化ニッケル粒子に担持されており、
上記酸化ニッケル粒子の結晶方位<111>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<200>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<220>の結晶子サイズが21.0nm以上であることを特徴とする方法。
【請求項2】
上記貴金属粒子が、金粒子、銀粒子、白金粒子、およびパラジウム粒子から選択される1以上の貴金属粒子である請求項1に記載の方法
【請求項3】
上記貴金属粒子が金粒子であり、赤色光を含む光を照射する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記貴金属粒子が銀粒子であり、緑色光を含む光を照射する請求項1に記載の方法。
【請求項5】
上記貴金属粒子の粒子径の短軸が2nm以上、200nm以下である請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
上記酸化ニッケル粒子の比表面積が3m2/g以上である請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
上記酸化ニッケル粒子の大きさが100nm以上、500nm以下である請求項1~のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
貴金属粒子および酸化ニッケル粒子を含み、
上記酸化ニッケル粒子の価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあり、
上記貴金属粒子が上記酸化ニッケル粒子に担持されており、
上記酸化ニッケル粒子の比表面積が3m2/g以上であり、上記酸化ニッケル粒子の結晶方位<111>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<200>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<220>の結晶子サイズが21.0nm以上であることを特徴とする水素および/または酸素の製造用触媒。
【請求項9】
上記貴金属粒子が、金粒子、銀粒子、白金粒子、およびパラジウム粒子から選択される1以上の貴金属粒子である請求項8に記載の水素および/または酸素の製造用触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水素と酸素を効率的に製造するための方法、および、当該方法において有効に使用できる触媒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、化石資源の代替エネルギーとして水素が注目されており、太陽エネルギーと水のみから水素を生成できる光触媒が盛んに研究されている。光触媒性能を示す物質としては酸化チタンが最も有名だが、酸化チタン中の電子を励起させるには紫外光が必要である。
【0003】
しかし、紫外線は太陽光の数パーセントを占めるに過ぎないため、太陽光の大部分を占める可視光を有効に利用できる光触媒が求められている。そこで、非特許文献1には、アルミニウム電極上に酸化ニッケル膜を形成し、更に金粒子が担持されている光触媒が開示されている。非特許文献1では、金粒子の局在表面プラズモン共鳴励起により、金から酸化ニッケル膜にホットホールが注入されることが報告されている。金粒子の表面プラズモン共鳴波長は粒径などに依存するが、可視光域に調整することは十分に可能である。
【0004】
また、非特許文献2には、サファイア基板上にp-窒化ガリウム膜を形成し、更に金粒子が担持されている光触媒により、波長が約570nmの光が吸収され、二酸化炭素が一酸化炭素に還元されたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Hossein Robatjaziら,Nano Lett.,2015,15(9),pp.6155-6161
【文献】Joseph S.DuCheneら,Nano Lett.,2018,18(4),pp.2545-2550
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した通り、金粒子による局在表面プラズモン共鳴を利用した光触媒の原理は開発されている。しかし上記従来技術の効率は決して高いものではなかった。
例えば非特許文献1に記載の光触媒の内部量子効率(IQE: Internal Quantum Efficiency)は約0.2%以下である。外部量子効率(EQE: External Quantum Efficiency)は、内部量子効率に加えて光取り出し効率が考慮されたものであるので、この光触媒の外部量子効率は更に低くなるはずである。
そこで、本発明は、可視光により励起される触媒を用い、水を効率的に分解することにより水素および/または酸素を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、特定の半導体粒子に貴金属粒子を担持した触媒を用いることにより、可視光を含む光を利用して水を効率的に分解することが可能になり、水素と酸素を容易に製造できることを見出して、本発明を完成した。
以下、本発明を示す。
【0008】
[1] 水素および/または酸素を製造するための方法であって、
水中、貴金属粒子および半導体粒子を含む触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含み、
上記半導体粒子は、その価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあるものであり、
上記貴金属粒子が上記半導体粒子に担持されていることを特徴とする方法。
[2] 上記貴金属粒子が金粒子であり、赤色光を含む光を照射する上記[1]に記載の方法。
[3] 上記貴金属粒子が銀粒子であり、緑色光を含む光を照射する上記[1]に記載の方法。
[4] 上記貴金属粒子の粒子径の短軸が2nm以上、200nm以下である上記[1]~[3]のいずれかに記載の方法。
[5] 上記半導体粒子が酸化ニッケル粒子である上記[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6] 上記酸化ニッケル粒子の結晶方位<111>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<200>の結晶子サイズが25.0nm以上、結晶方位<220>の結晶子サイズが21.0nm以上である上記[5]に記載の方法。
[7] 上記半導体粒子の比表面積が3m2/g以上である上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[8] 上記半導体粒子の大きさが100nm以上、500nm以下である上記[1]~[6]のいずれかに記載の方法。
[9] 貴金属粒子および半導体粒子を含み、
上記半導体粒子の価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあり、
上記貴金属粒子が上記半導体粒子に担持されており、
上記半導体粒子の比表面積が3m2/g以上であることを特徴とする水素および/または酸素の製造用触媒。
【発明の効果】
【0009】
本発明方法によれば、太陽光に最も豊富に含まれる可視光の照射により、水を効率的に分解して水素と酸素を発生させることができる。また、特定の半導体粒子に貴金属粒子を担持した本発明に係る触媒は、簡便に製造することが可能である。よって本発明は、水から水素と酸素を容易に製造できる技術として、産業上極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明に係る触媒のTEM像である。
図2図2は、本発明に係る触媒の紫外可視分光法による分析結果を示すグラフである。
図3図3は、本発明に係る触媒またはNiO粒子を用い、赤色光照射下または暗下での水の分解による水素または酸素の経時的発生量を測定した結果を示すグラフである。
図4図4は、本発明に係る触媒の、原料酸化ニッケル粒子の熱処理温度と水素生成速度との関係を示すグラフである。
図5図5は、本発明に係る触媒の、原料酸化ニッケル粒子の熱処理温度と結晶子サイズとの関係を示すグラフである。
図6図6は、本発明に係る触媒に対する照射光の波長と水素生成速度およびKubelka-Munkとの関係を示すグラフである。
図7図7は、本発明に係る触媒に対する照射光の波長と外部量子収率およびKubelka-Munkとの関係を示すグラフである。
図8図8は、本発明に係る触媒のTEM像である。
図9図9は、本発明に係る触媒を用い、緑色光照射下での水の分解による水素の経時的発生量を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る水素および/または酸素を製造するための方法は、水中、貴金属粒子および半導体粒子を含む触媒に、可視光を含む光を照射する工程を含むことを特徴とする。
【0012】
本発明で用いる半導体粒子は、その価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあるものである。本開示において「水の酸化」とは、2H2O+4h+→O2+4H+[式中、h+は正孔を示す]の式で表される反応をいい、「水の酸化電位」とは、+1.23V vs.NHE(標準水素電極,Normal Hydrogen Electrode) at pH0である。
【0013】
半導体は、導体や絶縁体に比べて中間的な抵抗率を持つ物質である。半導体中の電子は価電子帯中に存在しているが、禁制帯(バンドギャップ)を超えるエネルギーを電子に加えることで伝導帯に電子を励起させることが可能である。伝導価電子帯に励起した電子は自由に動くことが可能であり、他の物質に移って還元することも可能である。また、電子が励起した後に残った正孔が他の物質から電子を奪えば、自身は変化せずに他の物質を酸化還元することとなり、これが光触媒の基本的な原理である。なお、本開示において「価電子帯の上限」とは、価電子帯に含まれる電子の中で最も高いエネルギーを有する電子のエネルギー準位をいう。価電子帯の上限を求めるためには、インピーダンス測定装置(例えば、「HZ-7000+HZA-FRA1」北斗電工社製)を用い、半導体粒子で作製した電極を電解質溶液に浸漬し、参照電極(Ag/AgCl)との間に電圧を負荷し、25℃で電気容量を測定する。電極および電解液界面の電気容量と電位との間には、Mott-Schottkyの関係式が成り立つ。電気化学的に安定な半導体の測定結果をMott-Schottkyの関係式に代入すると、プロットに直線部分が存在する。その直線を外挿した際のX軸との交点から、価電子帯の上限が求められる。上記価電子帯の上限の測定には参照電極(Ag/AgCl)を用いていることから、0.199Vを足すことにより標準水素電極を基準とする値に換算する。
【0014】
本開示において「価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にある」とは、価電子帯の上限が水の酸化電位よりもエネルギー準位で低い方向にあることをいう。本発明で用いる半導体粒子は、その価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にあることにより、貴金属粒子の正孔が半導体粒子中の電子を奪うことによって、水に対する酸化力を有する正孔が半導体粒子中に生じ、水から酸素を発生させる酸化反応を進行させることができる。
【0015】
価電子帯の上限が水の酸化電位よりも正の位置にある半導体としては、例えば、酸化ニッケル、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化鉄、硫化モリブデン、グラファイト状窒化炭素、およびチタン酸ストロンチウムを挙げることができる。
【0016】
本発明者らによる実験的知見によれば、半導体粒子を構成する結晶の結晶子サイズが大きいほど、水の分解活性が高くなり、水素と酸素の製造効率は高まる。例えば、酸化ニッケル粒子の結晶方位<111>の結晶子サイズとしては25.0nm以上、結晶方位<200>の結晶子サイズとしては25.0nm以上、結晶方位<220>の結晶子サイズとしては21.0nm以上が好ましい。一方、結晶子サイズが大きい半導体粒子を作製するには高温で焼成する必要があり、その結果、粒子の比表面積が小さくなるため、水との接触面積を十分に確保できなくなるおそれがあり得る。よって、例えば、酸化ニッケル粒子の結晶方位<111>の結晶子サイズとしては30.0nm以下、結晶方位<200>の結晶子サイズとしては30.0nm以下、結晶方位<220>の結晶子サイズとしては25.0nm以下が好ましい。なお、結晶子サイズは、半導体粒子をX線回折で分析し、得られたX線回折パターンと以下のシェラーの式から求めることができる。
τ=Kλ/βcosθ
[式中、τは結晶子の平均サイズを示し、Kは形状因子を示し、λはX線波長を示し、βはピーク半値全幅(ラジアン単位)を示し、θはブラッグ角を示す。]
【0017】
本発明で用いる半導体粒子の比表面積としては、1m2/g以上、70m2/g以下が好ましい。比表面積が1m2/g以上であれば、水との接触面積が十分に大きいので、水を効率的に分解することができる。一方、比表面積が70m2/g以下であれば、半導体粒子が過剰に小さくなることはなく、取扱性を担保することができる。上記比表面積としては、3m2/g以上がより好ましく、5m2/g以上がより更に好ましく、また、25m2/g以下がより好ましく、10m2/g以下がより更に好ましい。
【0018】
半導体粒子の大きさとしては、100nm以上、500nm以下が好ましい。半導体粒子の大きさが500nm以下であれば、水との接触面積が大きく、水の分解反応をより効率的に進行せしめることが可能になる。一方、半導体の大きさが100nm以上であれば、粒子を構成する結晶子の大きさも十分に大きく、水の分解活性をより確実に確保できるといえる。なお、半導体粒子の大きさは、例えば、粒子を電子顕微鏡で拡大し、1~100μm×1~100μmの視野内で全体を観察可能な結晶の最長径と最短径を測定し、その平均として求めることができる。
【0019】
本発明に係る触媒は、半導体粒子に貴金属粒子が担持されているものである。本発明において貴金属粒子は、照射された光による局在表面プラズモン共鳴(LSPR)励起により生じた正孔を半導体粒子に注入し、半導体粒子に酸化力を付与すると共に、同じくLSPR励起により生じた電子により水を還元して水素を生じる作用を示す。
【0020】
貴金属としては、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、およびオスミウム(Os)が挙げられ、金、銀、白金およびパラジウムが好ましく、金および/または銀が好ましい。
【0021】
貴金属粒子の粒子径は適宜調整すればよいが、例えば、貴金属粒子の短軸の長さとしては、2nm以上、200nm以下が好ましい。当該短軸長さが200nm以下であれば、貴金属粒子の比表面積が十分に大きく、十分に光を吸収することができ、水を効率的に分解することができる。また、LSPR波長は粒子の大きさにも依存するが、上記短軸長さが上記範囲にあれば、太陽光に豊富に含まれる可視光による励起が可能になる。なお、上記短軸長さは、例えば、本発明の触媒を電子顕微鏡で観察し、0.1~100μm×0.1~100μmの視野内で、半導体粒子に担持されている貴金属粒子の最短径を算出することで分布図として求めることができる。
【0022】
貴金属粒子の吸収極大波長は、上記の通り粒子の大きさにも依存し、粒子径が大きくなるほど吸収極大波長は長波長側にシフトする傾向がある。例えばあるデータによれば、20nmの金ナノ粒子の吸収極大波長は520nm、100nmの金ナノ粒子の吸収極大波長は570nmであり、100nm以上の金ナノ粒子は600nm以上に及ぶ広い波長範囲の光を吸収することができる。また、10nmの銀ナノ粒子の吸収極大波長は約400nm、100nmの銀ナノ粒子の吸収極大波長は500nmを超え、80nm以上の銀ナノ粒子にはメインの吸収極大波長ピークよりも短波長側に二次ピークが見られるようになる。これら波長の光は太陽光に豊富に含まれるため、本発明に係る触媒は、太陽光など可視光が豊富に含まれる光を有効に利用することができる。
【0023】
貴金属粒子を担持する半導体粒子触媒は、常法により製造することができる。例えば、先ず、原料半導体粒子を熱処理する。原料半導体粒子の大きさは、目的とする触媒の所望の大きさに応じて適宜調整すればよい。また、原料半導体粒子の熱処理温度も、適宜調整する。例えば、当該熱処理の温度が高い程、結晶子が成長して活性が高くなるといえる。しかし当該温度が過剰に高いと、比表面積が小さくなり、活性が低下し得る。例えば、酸化ニッケル粒子の場合には、600℃以上、700℃以下で、1時間以上、10時間以下熱処理することが好ましい。当該温度としては、620℃以上、680℃以下が好ましく、当該時間としては、2時間以上、5時間以下が好ましい。
【0024】
次に、貴金属酸の塩の水溶液など、貴金属元素を含む溶液に熱処理した原料半導体粒子を添加して含浸担持すればよい。貴金属酸の塩としては、塩化金酸などの塩化物を挙げることができる。その際、尿素が存在すると、70℃付近から沈殿剤としてNH4OHが系内で生成し、貴金属粒子の析出が促進される。貴金属粒子が半導体粒子表面に十分に担持された後、遠心分離や濾過などにより触媒粒子を反応液から分離し、更に水などで十分に洗浄した後に乾燥すればよい。
【0025】
本発明に係る水素および/または酸素を製造するための方法では、水中、貴金属粒子および半導体粒子を含む触媒に、可視光を含む光を照射する。
【0026】
触媒の使用量は特に制限されず適宜調整すればよいが、例えば、水1mLあたり0.1mg以上、30mg以下程度とすることができる。使用する水は、酸素などの影響を排除するために、十分に脱気しておくことが好ましい。
【0027】
照射すべき可視光は、貴金属粒子の吸収極大波長に応じて適宜選択すればよい。例えば、金ナノ粒子には赤色光を含む光を照射し、銀ナノ粒子には緑色光を含む光を照射することが好ましい。可視光は、定義にもよるが、例えば380nm以上、810nm以下の波長の光をいう。可視光の内、紫色光は380nm以上、450nm以下、青色光は450nm以上、495nm以下、緑色光は495nm以上、570nm以下、黄色光は570nm以上、590nm以下、橙色光は590nm以上、620nm以下、赤色光は、通常、595nm以上、800nm以下程度、特に610nm以上、750nm以下程度の波長の光をいう。可視光は太陽光にも豊富に含まれており、また、エネルギーが比較的低く安全である。勿論、水と触媒の混合液に照射する光には、可視光以外の光が含まれていてもよい。光の照度も適宜調整すればよいが、例えば、0.5mW/cm2以上、100mW/cm2以下とすることができる。
【0028】
触媒に光を照射する際の温度は、常温、特に5℃以上、40℃以下でよい。光の照射時間は特に制限されず、光の照射時間が長い程より多くの水素と酸素を製造することができる。反応の進行に伴って水が消費された場合には、水を断続的または連続的に添加してもよい。
【0029】
本発明方法により、半導体粒子表面からは正孔に由来する酸化力により水から酸素が発生し、貴金属粒子表面からは電子に由来する還元力により水から水素が発生する。なお、生じた水素と酸素は、分離膜モジュールを用いて分離することが可能である。水素と酸素と分離するための分離膜としては、ポリイミド中空糸膜、ポリイミド中空糸の炭素膜、リグノクレゾールを多孔質α-アルミナチューブにコートした複合膜の炭素膜、シリカ膜などが開発されている。
【実施例
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0031】
実施例1: 触媒の調製
(1)触媒の調製
粒径50nm未満の酸化ニッケル粒子(Sigma-Aldrich社製)を、450℃、550℃、650℃、750℃、850℃、または1000℃で4時間熱処理した。別途、2.43mMの塩化金酸水溶液10mLに、塩化金酸の100倍質量の尿素を加え、更に酸化ニッケル粒子500mgを加えた後、80℃で24時間攪拌した。次いで、遠心分離により上澄液を除去した後、粒子を水で10回、アセトンで1回洗浄し、真空乾燥した。乾燥した粉末をるつぼに移し、400℃で1時間焼成した。
【0032】
(2)TEM観察
得られた触媒を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。650℃で熱処理した酸化ニッケル粒子から得られた触媒のTEM像を図1に示す。
図1の通り、酸化ニッケル粒子上には、10~20nm程度の金粒子が高分散に担持されていることが確認された。
【0033】
(3)紫外可視分光測定
650℃で熱処理した酸化ニッケル粒子から得られた触媒を、紫外可視分光法で分析した。また、対照試料として、650℃で熱処理した原料酸化ニッケル粒子も同様に分析した。紫外可視吸収スペクトル(UV-Visスペクトル)を図2に示す。図2中、NiO粒子のUV-VisスペクトルとAu/NiO粒子のUV-Visスペクトルとの差を点線で示す。
図2に示される結果の通り、Au/NiO粒子には600nm付近にNiO粒子のみには認められない大きな吸収ピークが認められる。このピークは、金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴による吸収に由来するものであると考えられる。
【0034】
試験例1: 水分解試験
純水10mLに各Au/NiO粒子(10mg)を加え、アルゴンガスを吹き込んで十分に脱気した。その後、赤色LED(λ=640±40nm,I=3.3mW/cm2)を使って光照射した。所定時間ごとに気相成分を採取し、ガスクロマトグラフにより、生成した水素および酸素の定量を行った。650℃で熱処理した酸化ニッケル粒子から得られた触媒による結果を図3に示し、原料酸化ニッケル粒子の熱処理温度と水素生成速度との関係を図4に示す。
図3に示される結果の通り、暗所や、金粒子を担持していないNiO粒子に赤色光を照射した場合には、水素は全く発生しないか或いは極僅かしか生成していない。それに対してAu/NiO粒子に赤色光を照射した場合には、水素と酸素が経時的に増加している。水素と酸素の増加量のモル比は2:1であることから、水の分解反応が進行していることは明らかである。
また、図4に示される結果の通り、650℃で熱処理した酸化ニッケル粒子から得られた触媒が最も高い活性を有することが分かった。
更に、熱処理した原料酸化ニッケル粒子をX線回折法で分析し、シェラーの式から結晶子サイズを求めた。結果を図5と表1に示す。
【0035】
【表1】
【0036】
図5と表1に示される結果の通り、熱処理温度の上昇と共に結晶子サイズが大きくなり、結晶性が向上していることが分かった。また、酸化ニッケルにおいては、熱処理温度とキャリアであるホールの密度には相関関係があることが報告されている。よって、650℃で熱処理した酸化ニッケル粒子から得られた触媒が最も高い活性を示す理由としては、結晶性とホール密度が共に高いことが考えられる。
【0037】
試験例2: 水分解試験
上記試験例1において、照射光の波長を365nm、460nm、530nm、640nm、または850nmに限定した以外の条件は同様にして、生成する水素の量を測定した。照射光の波長と水素生成速度およびKubelka-Munkとの関係を図6と表2に、照射光の波長と外部量子収率およびKubelka-Munkとの関係を図7と表2に示す。なお、Kubelka-Munkは、粉末の吸収スペクトルの指標であり、図6,7に示すKubelka-Munkは、図2のDifferenceと同様に、NiO粒子のUV-VisスペクトルとAu/NiO粒子のUV-Visスペクトルとの差を示している。
【0038】
【表2】
【0039】
図6,7と表2に示される結果の通り、波長640nmの赤色光を照射した場合に水素の生成速度が高くなったことから、水の分解反応は金ナノ粒子の局在表面プラズモン共鳴による光吸収により進行していることは明らかである。
また、図6,7と表2に示される結果の通り、640nmの赤色光を照射した場合における外部量子収率は約0.4%であった。この値は、水の分解におけるこの波長域で、従来に無い最高の値であるといえる。
【0040】
実施例2: 触媒の調製
(1)Ag/NiO粒子
粒径50nm未満の酸化ニッケル粒子(Sigma-Aldrich社製)を650℃で4時間熱処理した。19mMの硝酸銀水溶液10mLに、焼成した酸化ニッケル粒子1gを加えた後、50℃で蒸発乾固した。粒子を乾燥した粉末をるつぼに移し、600℃で1時間焼成した。
【0041】
(2)TEM観察
得られた触媒を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。得られた触媒のTEM像を図8に示す。
図8の通り、酸化ニッケル粒子上には、10~20nm程度の銀粒子が高分散に担持されていることが確認された。
【0042】
試験例3: 水分解試験
使用直前に、実施例2で得たAg/NiO粒子を、アルゴン気流下、500℃で30分間アニーリングした。当該Ag/NiO粒子(10mg)を純水10mLに加え、アルゴンガスを吹き込んで十分に脱気した。その後、緑色LED(λex=530±40nm)を使って光照射した。所定時間ごとに気相成分を採取し、ガスクロマトグラフにより、生成した水素を定量した。結果を図9に示す。
図9に示される結果の通り、Ag/NiO粒子に緑色光を照射した場合には、水から水素を経時的に効率良く製造できることが示された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9