(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】共重合体、水性溶液、架橋体、光硬化性組成物、塗膜、医療用具用材料及び医療用具
(51)【国際特許分類】
C08F 220/28 20060101AFI20221216BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20221216BHJP
C08L 33/14 20060101ALI20221216BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20221216BHJP
C08L 61/28 20060101ALI20221216BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20221216BHJP
C09D 133/04 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08F220/28
A61L27/34
C08L33/14
C08L39/04
C08L61/28
C08L63/00 Z
C09D133/04
(21)【出願番号】P 2020567386
(86)(22)【出願日】2019-11-22
(86)【国際出願番号】 JP2019045860
(87)【国際公開番号】W WO2020152969
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2019011378
(32)【優先日】2019-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構委託研究、産学共創プラットフォーム共同研究推進プログラム(OPERA)「有機材料の極限機能創出と社会システム化をする基盤技術の構築及びソフトマターロボティクスへの展開」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【氏名又は名称】和田 雄二
(72)【発明者】
【氏名】中田 善知
(72)【発明者】
【氏名】田中 賢
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-539263(JP,A)
【文献】特開平04-370106(JP,A)
【文献】特開2007-206654(JP,A)
【文献】特許第3947754(JP,B1)
【文献】特開2018-178072(JP,A)
【文献】特開2018-153441(JP,A)
【文献】特開2017-101162(JP,A)
【文献】特開2018-149070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 220/28
A61L 27/34
C08L 33/14
C08L 39/04
C08L 61/28
C08L 63/00
C09D 133/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
80質量%~99質量%の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位、及び、1質量%以上のカルボキシ基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位を含む共重合体、並びに、オキサゾリン基、エポキシ基及びカルボジイミド基より選ばれるいずれかの官能基を有する架橋剤又はメラミン樹脂系架橋剤を含有する組成物を架橋してなる架橋体であって、
前記2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体が下記式(IA)で表される(メタ)アクリル酸エステルである架橋体。
【化1】
(式(IA)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
4は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
【請求項2】
2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位は、グリセロール(メタ)アクリレート由来の構造単位を含む、請求項1に記載の架橋体。
【請求項3】
請求項1
又は2に記載の架橋体を含む塗膜であって、
当該塗膜の表面の赤外吸収強度をATR法で測定したとき、波長1720cm
-1における吸光度に対する波長3350cm
-1における吸光度の比が、0.2以上1.0未満である塗膜。
【請求項4】
請求項
1若しくは
2に記載の架橋体又は請求項
3に記載の塗膜を含む医療用具用材料。
【請求項5】
請求項
4に記載の医療用具用材料により表面をコーティングされた医療用具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合体、水性溶液、架橋体、光硬化性組成物、塗膜並びに当該架橋体又は塗膜を用いた医療用具用材料及び医療用具に関する。
【背景技術】
【0002】
医療用具は、血液等の生体成分や生体組織と接触する環境下で使用され、医療用具表面と生体成分や生体組織との親和性が低い場合、生体防御機構が活性化され、血液が凝固して血栓が形成される等の不具合が生じる。このため、医療用具は少なくとも生体成分や生体組織と接触する表面が生体適合性の高い材料で形成されていることが必要となる。
【0003】
このような医療用具に用いられる材料として、種々の高分子材料が検討されている。例えば、特許文献1では、グリセロール基含有単量体由来の構造単位と、エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する不飽和単量体由来の構造単位とを有し、且つ所定のガラス転移温度を有する重合体を医療用具用材料として用いることが提案されている。特許文献1の重合体によれば、抗血栓性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、医療用具に用いられる高分子材料は、取り扱い性等の観点から、タックが小さく、且つ耐久性、特に耐水性に優れることが望ましい。
【0006】
そこで本発明は、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい医療用具用材料、当該医療用具用材料の製造に用いられる共重合体、水性溶液、架橋体、光硬化性組成物、塗膜、並びに上記医療用具用材料を備える医療用具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記事情に鑑み、本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、以下の[1]~[10]に示す発明を完成させた。
[1] 70質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位、及び、1質量%以上のカルボキシ基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位を含む共重合体。
[2] 2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位は、グリセロール(メタ)アクリレート由来の構造単位を含む、[1]に記載の共重合体。
[3] [1]又は[2]に記載の共重合体、並びに、オキサゾリン基、エポキシ基及びカルボジイミド基より選ばれるいずれかの官能基を有する架橋剤又はメラミン樹脂系架橋剤を含有する水性溶液。
[4] [1]又は[2]に記載の共重合体、並びに、オキサゾリン基、エポキシ基及びカルボジイミド基より選ばれるいずれかの官能基を有する架橋剤又はメラミン樹脂系架橋剤を含有する組成物を架橋してなる架橋体。
[5] 60質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位を含む重合体を、エネルギー線照射により架橋してなる架橋体。
[6] 60質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体、2以上の(メタ)アクリロイル基を有する架橋剤、及び光ラジカル発生剤を含有する光硬化性組成物。
[7] [6]に記載の光硬化性組成物を、紫外線照射により重合及び架橋してなる架橋体。
[8] [4]、[5]又は[7]に記載の架橋体を含む塗膜であって、当該塗膜の表面の赤外吸収強度をATR法で測定したとき、波長1720cm-1における吸光度に対する波長3350cm-1における吸光度の比が、0.2以上1.0未満である塗膜。
[9] [4]、[5]若しくは[7]に記載の架橋体又は[8]に記載の塗膜を含む医療用具用材料。
[10] [9]に記載の医療用具用材料により表面をコーティングされた医療用具。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい医療用具用材料、当該医療用具用材料の製造に用いられる共重合体、水性溶液、架橋体、光硬化性組成物、塗膜、並びに上記医療用具用材料を備える医療用具を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸」なる用語は、アクリル酸又はメタクリル酸を意味する。「(メタ)アクリレート」のような類似の表現についても同様である。
【0010】
<第1の実施形態の架橋体>
第1の実施形態の架橋体は、70質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体(以下、「単量体(A)」ともいう。)由来の構造単位、及び、カルボキシ基を有する重合性二重結合含有単量体(以下、「単量体(B)」ともいう。)由来の構造単位を含む共重合体、並びに後述する所定の架橋剤(A)を含有する組成物を架橋してなる架橋体である。
【0011】
かかる架橋体は、親水性、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい。本実施形態の架橋体によりこのような効果を奏する理由は必ずしも明らかでないが、本発明者等は以下のように考えている。
すなわち、本実施形態の架橋体は、2以上の水酸基を有する単量体(A)由来の構造単位を70質量%以上含むため、親水性及び抗血栓性に優れたものとなる。さらに、本実施形態の架橋体は、共重合体における単量体(B)由来のカルボキシル基が架橋剤(A)により架橋されているため、耐水性に優れ、且つタックが小さいものとなる。
【0012】
以下、本実施形態の架橋体について詳述する。
【0013】
(共重合体)
単量体(A)としては、重合性二重結合及び2以上の水酸基を有するものであれば、特に限定されないが、例えば、下記式(I)で表される化合物であると好ましい。単量体(A)は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0014】
【化1】
(式(I)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
2は、2以上の水酸基を有する有機基を示す。)
【0015】
式(I)において、R2は、2以上の水酸基を有する有機基である。それらの中で、親水性を向上させる観点から、-COOR3基、-OCOR3基、-OR3基、-CONHR3基、-CH2OR3基、-CH2OCOR3基、-CONHR3基、-CON(R3)2基または-NHCOR3基(R3は、2以上の水酸基を有する有機基を示す)であることが好ましい。
【0016】
R3は、2以上の水酸基を有する有機基であり、親水性を向上させる観点から、好ましくは2以上の水酸基を有する炭素数1~30の有機基であり、より好ましくは2以上の水酸基を有する炭素数1~20の有機基である。この有機基としては、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、炭素数4~20のポリオキシアルキレン基、炭素数7~20のアラルキル基が挙げられる。なお、1分子中にR3が2以上含まれる場合には、各R3はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。また、R3には、例えば、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子、窒素原子、水酸基以外の官能基などが含まれていてもよい。
【0017】
単量体(A)としては、例えば、3以上の水酸基を有する多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル、糖類と(メタ)アクリル酸とのエステル、アミノ基を有する糖類と(メタ)アクリル酸とのエステルが挙げられる。これらのエステルは、エステル化反応のみならず、エステル交換反応や(メタ)アクリル酸グリシジルエステルの開環反応によって調製されたものであってもよい。
【0018】
3以上の水酸基を有する多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、ペンタエリスリトール、1,2,6-ヘキサントリオール、2-ヒドロキシメチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオールが挙げられる。糖類としては、例えば、グルコース、マンノース、ガラクトース、グロース、フルクトース、D-リボースなどの単糖類、当該単糖類から誘導されるグルコシド、ガラクトシド、フルクトシドなどをはじめ、これらの二量体、三量体が挙げられる。アミノ基を有する糖類としては、例えば、D-グルコサミンが挙げられる。
【0019】
単量体(A)は、親水性を向上させる観点から、下記式(IA)で表される(メタ)アクリル酸エステルであるとより好ましい。
【0020】
【化2】
(式(IA)中、R
1は、水素原子またはメチル基、R
4は、炭素数1~4のアルキレン基を示す。)
【0021】
単量体(A)は、親水性を向上させる観点から、グリセロールモノアクリレート(式(IA)中、R1=水素原子、R4=メチレン基)又はグリセロールモノメタクリレート(式(IA)中、R1=メチル基、R4=メチレン基)であると更に好ましい。
【0022】
単量体(A)の分子量は、親水性を向上させる観点から、500以下であると好ましい。
【0023】
単量体(A)に由来する構造単位の含有量は、共重合体の総量に対して、70質量%以上である。親水性及び抗血栓性をより向上させる観点から、単量体(A)に由来する構造単位の含有量は、共重合体の総量に対して、80質量%~99質量%であると好ましく、90質量%~97質量%であるとより好ましい。
【0024】
なお、単量体(A)に由来する構成単位は、共重合体中で2以上の水酸基を有する構成単位であればよい。すなわち、単量体(A)を用いて重合した構成単位であってもよく、2以上の水酸基が保護基により保護された単量体を重合した後に、保護基を脱保護する等ポリマーを変性することで水酸基を2以上有する構造を導入してもよい。
【0025】
単量体(B)としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸などのカルボキシ基含有脂肪族系単量体が挙げられる。これらの中で、アクリル酸、メタクリル酸又はイタコン酸が好ましく、アクリル酸又はメタクリル酸がより好ましい。単量体(B)は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0026】
単量体(B)に由来する構造単位の含有量は、共重合体の総量に対して、1質量%以上である。耐水性をより向上させる観点から、単量体(B)に由来する構造単位の含有量は、共重合体の総量に対して、2質量%~25質量%であると好ましく、3質量%~20質量%であるとより好ましい。
【0027】
なお、単量体(B)に由来する構成単位は、共重合体中でカルボキシ基を有する構成単位であればよい。すなわち、単量体(B)を用いて重合した構成単位であってもよく、エステル基等の他の置換基を有する単量体を重合した後に、エステル基等を加水分解等によりカルボキシ基に変換した構成単位であってもよい。
【0028】
本実施形態の共重合体は、上記単量体(A)及び(B)のいずれでもない単量体(C)由来の構造単位を含んでいてもよい。単量体(C)としては、例えば、エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体が挙げられる。そのような単量体としては、式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。
【0029】
【化3】
(式(II)中、R
5は、水素原子又はメチル基を表す。R
6は、炭素が連続して4個以上結合した炭素鎖を有する有機基を表す。)
【0030】
式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステルとしては、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸s-ブチル、(メタ)アクリル酸t-ブチル、(メタ)アクリル酸n-アミル、(メタ)アクリル酸s-アミル、(メタ)アクリル酸t-アミル、(メタ)アクリル酸n-ヘキシル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸トリシクロデカニル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2-エトキシエチル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸β-メチルグリシジル、(メタ)アクリル酸β-エチルグリシジル、(メタ)アクリル酸(3,4-エポキシシクロヘキシル)メチル、(メタ)アクリル酸N,N-ジメチルアミノエチルが挙げられる。
【0031】
上記エチレン性不飽和基に炭素数4以上の有機基が結合した構造を有する単量体のうち、式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステル以外のものとしては、ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル、ジエチレングリコールビニルエーテル、トリエチレングリコールビニルエーテル等のビニルエーテル類、N-ビニルモルホリン、N-ビニルカルバゾール等のN-ビニル類(ラクタム環を有するものを除く)、N-フェニルマレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-ブチルマレイミド、N-イソプロプルマレイミド、N-エチルマレイミド等のN置換マレイミド類が挙げられる。
【0032】
また、単量体(C)としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-プロピル、及び(メタ)アクリル酸イソプロピルのいずれかの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等;エチレン、プロピレン、ブテン、イソプレン等のオレフィン類;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニル化合物;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、プロピルビニルエーテル等のビニルエーテル類;メチルマレイミド等を使用することもできる。
【0033】
単量体(C)に由来する構造単位の含有量は、共重合体の総量に対して、25質量%以下であると好ましく、20質量%以下であるとより好ましく、10質量%以下であると更に好ましい。
【0034】
上記共重合体は、上述の単量体を適宜選択して重合反応を行うことにより製造することができる。重合反応の際の単量体の好ましい使用量は、上記共重合体おけるこれらの単量体由来の構造単位の好ましい含有量と同様である。
【0035】
上記重合反応は、重合開始剤の存在下で重合反応を行うことが好ましい。重合開始剤としては、例えば、過酸化水素;過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)等のアゾ系化合物;過酸化ベンゾイル、過酢酸、ジ-t-ブチルパーオキサイド等の有機過酸化物等が好適である。これらの重合開始剤は、単独で使用されてもよく、2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
重合開始剤の使用量としては、重合反応に使用される単量体の使用量1モルに対して、0.01g以上10g以下であると好ましく、0.1g以上5g以下であるとより好ましい。
【0036】
上記重合反応は、溶媒を使用せずに行ってもよいが、溶媒を使用することが好ましい。溶媒としては、水、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコールなどが挙げられ、環境汚染防止の観点等から、水であると好ましい。これらの溶媒は、単独で使用されてもあるいは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。溶媒の使用量としては、重合反応に使用される単量体100質量部に対して40~250質量部が好ましい。
【0037】
上記重合反応は、通常、0℃以上で行われることが好ましく、また、150℃以下で行われることが好ましい。より好ましくは、40℃以上であり、更に好ましくは、60℃以上であり、特に好ましくは、80℃以上である。また、より好ましくは、120℃以下であり、更に好ましくは、110℃以下である。上記重合温度は、重合反応において、常にほぼ一定に保持する必要はなく、一度または二度以上変動(加温または冷却)してもよい。重合反応は、常圧、加圧、減圧のいずれの条件下で行ってもよい。
【0038】
上記重合反応において、単量体や重合開始剤等は、それぞれ反応器に一括で添加してもよく、逐次的又は連続的に添加してもよい。
【0039】
共重合体の製造方法は、上記重合反応工程以外の他の工程を含んでいてもよい。その他の工程としては、例えば、熟成工程、中和工程、重合開始剤や連鎖移動剤の失活工程、希釈工程、乾燥工程、濃縮工程、精製工程が挙げられる。
【0040】
(架橋剤(A))
本実施形態の架橋剤(A)は、オキサゾリン基、エポキシ基及びカルボジイミド基より選ばれるいずれかの官能基を有する架橋剤又はメラミン樹脂系架橋剤である。これらの架橋剤は、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0041】
オキサゾリン基を有する架橋剤は、オキサゾリン基を2以上有するオキサゾリン基含有化合物である。
【0042】
オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、2,2’-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-メチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-トリメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-テトラメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-ヘキサメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-オクタメチレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-エチレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、2,2’-p-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(2-オキサゾリン)、2,2’-m-フェニレン-ビス(4,4’-ジメチル-2-オキサゾリン)、ビス(2-オキサゾリニルシクロヘキサン)スルフィド、ビス(2-オキサゾリニルノルボルナン)スルフィド、オキサゾリン環含有重合体が挙げられる。これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、反応性を向上させる観点から、オキサゾリン環含有重合体が好ましく、水溶性を有するオキサゾリン環含有重合体がより好ましい。
【0043】
オキサゾリン環含有重合体は、例えば、株式会社日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700、エポクロスK-2010、エポクロスK-2020、エポクロスK-2030等として商業的に容易に入手することができる。これらのなかでは、反応性を向上させる観点から、株式会社日本触媒製、商品名:エポクロスWS-500、エポクロスWS-700等の水溶性を有するオキサゾリン環含有重合体が好ましい。
【0044】
エポキシ基を有する架橋剤は、エポキシ基を2以上有するエポキシ基含有化合物である。
【0045】
エポキシ基含有化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA型ジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル等のエポキシ基を2つ有する化合物;3官能以上のポリエチレングリコールのグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ソルビタンポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル等のエポキシ基を3つ以上有する化合物が挙げられる。
【0046】
カルボジイミド基を有する架橋剤は、カルボジイミド基を2以上有するカルボジイミド基含有化合物である。その具体例としては、カルボジライトSV-02、カルボジライトE-01(商品名;日清紡ケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0047】
メラミン樹脂系架橋剤としては、例えば、メラミンにホルマリンを作用させた化合物又はそのアルキル変性物が挙げられる。その具体例としては、サイテック・インダストリーズ社製の「サイメル」(登録商標)300、301、303、350、736、738、370、771、325、327、703、701、266、267、285、232、235、238、1141、272、254、202、1156、1158、三和ケミカル社の「ニカラック」(登録商標)E-2151、MW-100LM、MX-750LM、が挙げられる。
【0048】
上記架橋体において、架橋剤(A)の使用量は、共重合体100質量部に対して、0.5~30質量部であると好ましく、1~25質量部であるとより好ましく、3~20質量部であるとより好ましい。
【0049】
架橋前の共重合体及び架橋剤(A)は、取り扱い性等の観点から、共重合体及び架橋剤(A)を含有する水性溶液とすることが好ましい。水性液体は、基材上に容易に塗布することが可能であり、得られる塗膜を架橋させることにより、基材上に架橋体を形成することができる。
【0050】
水性溶液とは、水又は含水率が50質量%以上である水と親水性有機溶媒との混合溶媒の溶液を意味する。親水性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n-プロピルアルコール、アリルアルコールなどの1価アルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、ジプロピレングリコールなどの多価アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトンなどのケトン、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、アセト酢酸メチルなどの脂肪族有機酸アルキルエステル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルなどの多価アルコールのアルキルエーテルが挙げられる。これらの親水性有機溶媒は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。水性媒体としては、水が好ましい。
【0051】
水性溶液における共重合体及び架橋剤(A)の濃度は特に限定されないが、例えば、0.5~20質量%とすることができる。
【0052】
また、共重合体及び架橋剤(A)は、それぞれ別々に溶解させた水性溶液を調製した上で、基材上に架橋剤(A)の溶液、共重合体の溶液の順で塗布した後に架橋させてもよい。
【0053】
上述の共重合体及び架橋剤(A)を架橋させる際の条件は、用いる架橋剤(A)の種類に合わせて調整することができるが、例えば、50~150℃で5~120分熱処理する条件で架橋させることができる。
【0054】
本実施形態の架橋体は、親水性や抗血栓性に優れるので、船底塗料、防汚塗料等の塗料、また、金属、繊維、布帛、ガラス、樹脂、中空糸、セラミックス、多孔質、膜など種々の基材の防汚処理、防曇処理、帯電防止、親水化処理、汚染防止処理、アンチファウリング処理等の表面処理に適しており、特に医療用具、医療用機器の表面処理に好適である。
【0055】
<第2の実施形態の架橋体>
第2の実施形態の架橋体は、60質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体由来の構造単位を含む重合体を、エネルギー線照射により架橋してなる架橋体である。
【0056】
かかる架橋体は、親水性、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい。本実施形態の架橋体によりこのような効果を奏する理由は必ずしも明らかでないが、本発明者等は以下のように考えている。
すなわち、本実施形態の架橋体は、2以上の水酸基を有する単量体由来の構造単位を60質量%以上含むため、親水性及び抗血栓性に優れたものとなる。さらに、本実施形態の架橋体は、重合体がエネルギー線照射により架橋されているため、耐水性に優れ、且つタックが小さいものとなる。
【0057】
以下、本実施形態の架橋体について詳述する。
【0058】
2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体としては、上述の第1の実施形態における単量体(A)と同様のものを用いることができる。単量体(A)に由来する構造単位の含有量は、重合体の総量に対して、60質量%以上であり、75質量%以上であると好ましく、90質量%以上であるとより好ましく、100質量%であると更に好ましい。
【0059】
本実施形態の重合体は、単量体(A)以外の単量体、例えば上述の第1の実施形態における単量体(B)及び/又は単量体(C)を含んでいてもよい。本実施形態の重合体が、単量体(A)以外の単量体を含む場合のその含有量は、40質量%以下であると好ましく、25質量%以下であるとより好ましく、10質量%以下であると更に好ましい。
【0060】
本実施形態の重合体は、例えば、上述の第1の実施形態における共重合体と同様の重合反応の条件で製造することができる。
【0061】
架橋の際に適用されるエネルギー線としては、電子線、γ線、放射線、紫外線等を用いることができ、好ましくは波長150~450nmの紫外線である。このような波長を発する光源としては、例えば、太陽光線、低圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、メタルハライド灯、ガリウム灯、キセノン灯、フラッシュ型キセノン灯、カーボンアーク灯、LED型UV光源が挙げられる。紫外線照射の際の照度は、好ましくは0.1~100mW/cm2、より好ましくは1~75mW/cm2、更に好ましくは5~50mW/cm2であり、照射時間は、好ましくは15~180分間、より好ましくは30~120分間、更に好ましくは45~90分間である。このような条件で紫外線照射を行うと、光ラジカル発生剤なしでも上記重合体を架橋させることができる。
【0062】
本実施形態の架橋体は、親水性や抗血栓性に優れるので、船底塗料、防汚塗料等の塗料、また、金属、繊維、布帛、ガラス、樹脂、中空糸、セラミックス、多孔質、膜など種々の基材の防汚処理、防曇処理、帯電防止、親水化処理、汚染防止処理、アンチファウリング処理等の表面処理に適しており、特に医療用具、医療用機器の表面処理に好適である。
【0063】
<第3の実施形態の架橋体>
第3の実施形態の架橋体は、60質量%以上の2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体、2以上の(メタ)アクリロイル基を有する架橋剤(以下、「架橋剤(B)」ともいう。)、及び光ラジカル発生剤を含有する光硬化性組成物を、紫外線照射により重合及び架橋してなる架橋体である。
【0064】
かかる架橋体は、親水性、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい。本実施形態の架橋体によりこのような効果を奏する理由は必ずしも明らかでないが、本発明者等は以下のように考えている。
すなわち、本実施形態の架橋体は、2以上の水酸基を有する単量体由来の構造単位を60質量%以上含むため、親水性及び抗血栓性に優れたものとなる。さらに、本実施形態の架橋体は、単量体が架橋剤(B)により架橋されているため、耐水性に優れ、且つタックが小さいものとなる。
【0065】
以下、本実施形態の架橋体について詳述する。
【0066】
(光硬化性樹脂組成物)
2以上の水酸基を有する重合性二重結合含有単量体としては、上述の第1の実施形態における単量体(A)と同様のものを用いることができる。光硬化性樹脂組成物における単量体(A)の含有量は、60質量%以上であり、65質量%以上であると好ましく、70質量%以上であるとより好ましい。
【0067】
架橋剤(B)としては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート等のアルカンジオールジ(メタ)アクリレート;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等のポリオキシアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート;エトキシ化ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化エトキシ化ビスフェノールAジアクリレート等のビスフェノール変性ジ(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、イソシアヌル酸トリス[エチルオキシ(メタ)アクリレート]、グリセリントリ(メタ)アクリレート等の3官能以上の(メタ)アクリル酸エステル又はその部分エステルが挙げられる。
【0068】
光硬化性樹脂組成物における架橋剤(B)の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1~10質量%であると好ましく、0.5~8質量%であるとより好ましく、1~5質量%であると更に好ましい。
【0069】
光ラジカル発生剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル等のベンゾインおよびそのアルキルエーテル類;アセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、1,1-ジクロロアセトフェノン等のアセトフェノン類;2-メチルアントラキノン、2-アミルアントラキノン、2-t-ブチルアントラキノン、1-クロロアントラキノン等のアントラキノン類;2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジイソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン等のチオキサントン類;アセトフェノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタール等のケタール類;ベンゾフェノン等のベンゾフェノン類;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(イルガキュア184)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-プロパン-1-オンや2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン-1;アシルホスフィンオキサイド類およびキサントン類が挙げられる。
【0070】
光硬化性樹脂組成物における光ラジカル発生剤の含有量は、特に限定されないが、例えば0.1~10質量%であると好ましく、0.5~8質量%であるとより好ましく、1~5質量%であると更に好ましい。
【0071】
本実施形態の光硬化性樹脂組成物は、上述の成分以外の成分を含んでいてもよい。その具体例としては、上述の第1の実施形態における単量体(B)又は(C)等が挙げられ、式(II)で表される(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
【0072】
本実施形態の光硬化性樹脂組成物が、上述の成分以外の成分を含む場合のその含有量は、35質量%以下であると好ましく、30質量%以下であるとより好ましく、25質量%以下であると更に好ましい。
【0073】
紫外線としては、波長150~450nmの紫外線を適用することができる。紫外線照射の条件は特に限定されないが、例えば、紫外線照射の照度0.1~100mW/cm2、照射時間1~15分の条件とすることができる。
【0074】
本実施形態の架橋体は、親水性や抗血栓性に優れるので、船底塗料、防汚塗料等の塗料、また、金属、繊維、布帛、ガラス、樹脂、中空糸、セラミックス、多孔質、膜など種々の基材の防汚処理、防曇処理、帯電防止、親水化処理、汚染防止処理、アンチファウリング処理等の表面処理に適しており、特に医療用具、医療用機器の表面処理に好適である。
【0075】
<塗膜>
本実施形態の塗膜は、上述の第1、第2又は第3の実施形態の架橋体を含む。かかる塗膜は、例えば、上述の架橋体又はその前駆体の溶液を、医療用具又は適切な基材上に塗布し、適切な条件で乾燥後、必要に応じて架橋条件に付すことにより得られる。
【0076】
乾燥状態での塗膜の表面の赤外吸収強度をATR法で測定したとき、波長1720cm-1における吸光度に対する波長3350cm-1における吸光度の比(波長3350cm-1における吸光度/波長1720cm-1における吸光度)は、0.2以上1.0未満であると好ましく、0.25以上0.8以下であるとより好ましく、0.3以上0.6以下であると更に好ましい。なお、波長3350cm-1又は波長1720cm-1は、それぞれ架橋体中の水酸基又はカルボキシ基に対応する波長であり、上記吸光度の比は架橋体中の水酸基の量に対するカルボキシ基の量の比に相当する。
【0077】
塗膜の厚さは、用途に合わせて適宜調整することができるが、例えば、0.01~5μmとすることができる。
【0078】
<医療用具用材料及び医療用具>
本実施形態の医療用具用材料は、上述の架橋体又は塗膜を含む。かかる医療用具用材料は、上述の架橋体又は塗膜を含むため、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい。本実施形態の医療用具用材料は、このような性質を有することから、血液と接触しても血栓を生じにくい抗血栓性材料、医療用具において生体成分又は生体組織と接触する部分を構成する材料、細胞培養基材等として好適に適用することができる。
【0079】
本実施形態の医療用具は、上述の医療用具用材料により表面をコーティングされたものである。かかる医療用具は、上述の架橋体又は塗膜を含むため、抗血栓性及び耐水性に優れ、且つタックが小さい。
【0080】
本実施形態の医療用具は、生体成分又は生体組織と接触する部分の少なくとも一部が上記医療用具用材料を用いて構成されていればよいが、生体成分又は生体組織と接触する部分の面積の50%以上が上記医療用具用材料で覆われていることが好ましく、80%以上覆われていることがより好ましく、生体成分又は生体組織と接触する部分の全てが上記医療用具用材料で覆われていることが更に好ましい。
本実施形態の医療用具は、いずれの生体成分や生体組織と接触する用途にも用いることができるが、血液と接触する用途に用いられることは、好適な実施形態の1つである。
【0081】
各種医療用具の生体成分又は生体組織と接触する部分に上記医療用具用材料を保持させる方法としては、医療用具又はその部品の表面を医療用具用材料でコーティングする方法、放射線、電子線、紫外線等の活性エネルギー線によるグラフト重合を利用して医療用具の表面と医療用具用材料とを結合させる方法、医療用具の表面の官能基と医療用具用材料とを反応させて結合させる方法等、種々の方法を用いることができる。コーティング法を用いる場合、医療用具又はその部品の表面を医療用具用材料でコーティングする方法として、塗布法、スプレー法、ディップ法等のいずれの方法を用いてもよい。
【0082】
上記医療用具用材料を保持させる医療用具の材質は特に制限されず、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、アクリル樹脂、スチロール樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコン樹脂、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、セルロース、セルロースアセテート等のいずれの材質のものであってもよい。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基体より基材が構成されていてもよい。金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、チタン等の卑金属、及びこれらの金属の合金並びにこれらの表面が金めっきされたものが例示できるがこれらに限定されるものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで、主成分とは、上記基体を形成する材料のうち50重量%以上を占める成分をいう。基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0083】
本実施形態の医療用具用材料を細胞培養基材として使用する場合、医療用具用材料をそのまま用いてもよく、所定の基材上にコーティングして用いてもよい。
基材の材質は特に制限されず、木綿、麻等の天然高分子、ポリエステル、ナイロン、オレフィン、ポリアミド、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ハロゲン化ポリオレフィン、ポリカーボネート、スチロール樹脂、シリコン樹脂等の合成高分子等を用いることができる。また、金属、セラミックス及びこれらの複合材料等も例示でき、複数の基体より基材が構成されていてもよい。金属としては、金、銀等の貴金属、銅、アルミニウム、タングステン、ニッケル、クロム、チタン等の卑金属、及びこれらの金属の合金並びにこれらの表面が金めっきされたものが例示できるがこれらに限定されるものではない。金属は単体で用いてもよく、機能性を付与するために他の金属との合金又は金属の酸化物として用いてもよい。価格や入手の容易さの観点から、ニッケル、銅及びこれらを主成分とする金属を用いることが好ましい。ここで、主成分とは、上記基体を形成する材料のうち50重量%以上を占める成分をいう。
基材の形態も特に制限されず、成形体、繊維、不織布、多孔質体、粒子、フィルム、シート、チューブ、中空糸や粉末等のいずれの形態でもよい。
【0084】
本実施形態の医療用具用材料は、人工血管や人工臓器等の人工生体組織用や、血液フィルター、各種カテーテル、若しくは各種ステント等;生体組織と接触する用具用の部材として、また、細胞培養基材、血液透析装置用の部材、血液若しくは組織検査用器具の部材等;生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具用の部材として適用することができる。すなわち、本実施形態における医療用具には、生体組織と接触する用具、生体由来成分(細胞や血液等)と接触する用具等が含まれる。
【実施例】
【0085】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0086】
<合成例>
[GLMA(グリセロールモノアクリレート)]
撹拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管、及び、留出液受器に繋げたトの字管を付し、アクリル酸メチル230g、2,2-ジメチル-1,3-ジオキソラン-4-メタノール(DOM)70gを仕込み、ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、オイルバス(バス温110℃)で加熱を開始した。留出液に水が出てこなくなってから、チタンテトライソプロポキシド4.5gを反応容器に添加し、エステル交換反応を開始させた。生成してくるメタノールをアクリル酸メチルで共沸留去しながら、ガスクロマトグラフィ(GC)分析によりiPGLMA(イソプロピリデングリセリルアクリレート)/DOMの面積比を追跡した。反応開始から7時間後のGC分析で、iPGLMA/DOMの面積比が9/1を超えたのを確認し、反応を終了し、室温まで冷却した。反応液に精製水150gと抽出溶媒として酢酸エチル300gを加え10分撹拌した。チタンテトライソプロポキシドの加水分解により生じた酸化チタンの沈殿を、吸引濾過で除いた濾液を分液漏斗に移し、有機層と水層を分離した。有機層を精製水で2回洗浄したのち、ロータリーエバポレーターに移し、残存アクリル酸メチル及び軽沸成分を留去し、iPGLMA96gを得た。
撹拌子を入れたナスフラスコにガス導入管を設け、精製水160mlとiPGLMA80gを加えて溶解させた後に、予め水に浸漬後に風乾した固体酸触媒アンバーリスト15Jwet(オルガノ社製)を35g加えた。ガス導入管を通して酸素/窒素混合ガス(酸素濃度7vol%)を吹き込みながら反応溶液を攪拌し、室温下で脱保護反応を開始させた。GC分析によりGLMA/iPGLMAの面積比を追跡し、面積比が99/1を超えたのを確認し、4時間で反応を終了した。固体酸触媒を濾別して得られた濾液をn-ヘキサンで洗浄し、未反応iPGLMAを除いた。水層を減圧濃縮し、目的とするGLMA53gを得た。
【0087】
[共重合体1]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA13.3g、アクリル酸(AA)0.7g、溶媒としてイオン交換水125.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.007g(和光純薬株式会社製、商品名:VA086)をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を99℃以上に保ちながら、反応を7時間継続し、その間、反応開始から1時間後、3時間後、5時間後にそれぞれ、0.0035gのVA086をイオン交換水0.5gに溶解した溶液を投入した。
得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、369,000であった。また、E型粘度計により測定した反応液の溶液粘度は25℃において19.1mPa・sであった。
【0088】
[共重合体2]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA40.0g、アクリル酸(AA)5.0g、ブチルアクリレート(BA)45.0g、溶媒としてイオン交換水25.0gとエタノール75.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら88℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.01g(和光純薬株式会社製、商品名:V-601)をイオン交換水0.25g、エタノール0.75gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を89℃以上に保ちながら、反応を7時間継続し、その間、反応開始から1時間後、3時間後、5時間後にそれぞれ、0.01gのV-601をイオン交換水0.25g、エタノール0.75gに溶解した溶液を投入した。
得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、378,000であった。また、E型粘度計により測定した反応液の溶液粘度は25℃において7010mPa・sであった。
【0089】
[共重合体3]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA24.0g、ブチルアクリレート(BA)6.0g、溶媒としてエタノール20.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら88℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.015g(和光純薬株式会社製、商品名:V-601)をエタノール0.5gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を89℃以上に保ちながら、反応を5時間継続し、その間、反応開始から2時間後、3時間後にそれぞれ、0.015gのV-601を、エタノール0.5gに溶解した溶液を投入した。
得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、36,000であった。また、E型粘度計により測定した反応液の溶液粘度は25℃において2410mPa・sであった。
【0090】
[GLMAホモポリマー]
攪拌子を入れた反応容器にガス導入管、温度計、冷却管を付し、単量体としてGLMA14.0g、溶媒としてイオン交換水125.0gを仕込み、窒素ガスを流しながら98℃まで昇温した。アゾ系ラジカル重合開始剤0.007g(和光純薬株式会社製、商品名:VA086)をイオン交換水1.0gに溶解した溶液を投入し、重合反応を開始した。温度を99℃以上に保ちながら、反応を7時間継続し、その間、反応開始から1時間後、3時間後、5時間後にそれぞれ、0.0035gのVA086をイオン交換水0.5gに溶解した溶液を投入した。
得られた重合体は、GPCにより測定した重量平均分子量(標準ポリスチレン換算)が、292,000であった。また、E型粘度計により測定した反応液の溶液粘度は25℃において19.1mPa・sであった。
【0091】
<評価方法>
後述する実施例1~8及び比較例1~5で得られた試料フィルムを、以下の方法で評価した。その結果を表1~3に示す。
【0092】
[接触角]
試料フィルム裏面に両面テープを張り付け、試料台に固定し、接触角計を用いて、水中で1.5μlの空気泡をフィルム表面に接触させ、接触角を測定した。
【0093】
[防曇性]
<呼気テスト>
試料フィルムの塗布面に口を大きく開けた状態で呼気を吹きかけ、表面の曇り状態を目視で判定した。
【0094】
[水浸漬試験]
試料フィルムを水道水に室温で24時間浸漬し、浸漬前後の塗布面の状態を目視で比較した。
【0095】
[流水試験]
試料フィルムの塗布面を水道水2.5L/minの流水に3分間晒し、前後の状態を目視で比較した。
【0096】
[塗膜厚み]
マイクロメーターにより測定した。
【0097】
[表面状態]
<タック(指触法)>
ポリエチレン製の保護手袋(株式会社精宏社製、サクラメン手袋、スタンダードタイプ)を着用し、指で試料フィルムの表面を5回、押す離すを繰り返した際にベタツキを感じるかどうかで表面のタックの有無を判定した。
【0098】
[吸光度比]
サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製Nicolet NEXUS 670 FT-IRを用いて、1回反射ダイヤモンド水平ATR法により、積算回数32回で吸光度を測定した。波数1720cm-1における吸光度に対する波数3350cm-1における吸光度の比を計算し、吸光度比とした。吸光度比を測定する前に、120℃*30分間、乾燥機により試料フィルムを充分乾燥し、デシケータ―中で放冷し、測定直前にデシケータ―から取り出して測定した。
【0099】
<実施例1>
共重合体としての上記共重合体1を固形分換算で100重量部、及び架橋剤としてのエポクロスWS-700(オキサゾリン系架橋剤;株式会社日本触媒製)を固形分換算で10重量部配合し、エタノール/イオン交換水=75/25(wt/wt)の混合溶媒で希釈して濃度10%に調整した。得られた溶液を、基材としてのペットフィルム(東レ ルミラー)上に、バーコーターを用いて塗布し、室温で乾燥後、熱風乾燥機により120℃で30分間、熱処理し試料フィルムとした。
【0100】
<実施例2~5、比較例1、2>
共重合体及び架橋剤の種類及び配合比、並びに基材を表1に示すとおりに変更した他は、実施例1と同様にして、試料フィルムを得た。表1中の商品名又は略語の詳細を以下に示す。
(架橋剤)
WS700:エポクロスWS-700(オキサゾリン基含有架橋剤;株式会社日本触媒製)
DEGDGE:ジエチレングリコールジグリシジルエーテル(エポキシ基含有架橋剤;和光純薬株式会社製)
MX035:ニカラックMX035(メラミン樹脂架橋剤;日本カーバイド工業株式会社製)
V-02 :カルボジライト V-02(カルボジイミド基含有架橋剤;日清紡ケミカル株式会社製)
(基材)
PET :ポリエチレンテレフタラート
OPP :2軸延伸ポリプロピレン
【0101】
<実施例6>
上記共重合体1と、エポクロスWS-700(オキサゾリン系架橋剤;株式会社日本触媒製)を、それぞれエタノール/イオン交換水=75/25(wt/wt)の混合溶媒で希釈して濃度10%の溶液を調製した。まず、エポクロスWS-700の溶液をペットフィルム(東レ ルミラー)上にバーコーターを用いて塗布し、室温で乾燥後、その上から、共重合体1の溶液をバーコーター用いて塗布した。室温で乾燥した後、熱風乾燥機により、120℃で30分間、熱処理し、試料フィルムとした。
【0102】
【0103】
<実施例7>
上記GLMAホモポリマーの反応溶液をエタノールで10倍に希釈した溶液を、バーコーターを用いてポリプロピレン標準板(日本テストパネル社)上に塗布し、室温で乾燥した後、卓上型UV硬化装置HCT400B-28HB(セン特殊光源社製)を用いて365nmでの照度20mW/cm2で1時間、UV照射し、試料フィルムとした。
【0104】
<比較例3>
UV照射しなかったこと以外は実施例3と同様にして、試料フィルムを作製した。
【0105】
【0106】
<実施例8、比較例4、5>
表3に記載の配合で単量体、架橋剤及び光ラジカル発生剤を混合し、ペットフィルム(東レ ルミラー)上に、バーコーターを用いて塗布し、卓上型UV硬化装置HCT400B-28HB(セン特殊光源社製)を用いて365nmでの照度20mW/cm2で3分間、UV照射し、試料フィルムとした。表3中の商品名又は略語の詳細を以下に示す。
(単量体)
GLMA :上記グリセロールモノアクリレート
BA :ブチルアクリレート
(架橋剤)
NPGDA :ネオペンチルグリコールジアクリレート
(光ラジカル発生剤)
IQ-184:イルガキュア184
【0107】
【0108】
後述する実施例9~16及び比較例6~8の試料フィルムを作製し、以下の方法で血小板粘着試験を行った。なお、比較例9は、コントロール評価として、ペットフィルムについて血小板粘着試験を行った。血小板粘着試験の結果、及び試料フィルムの塗膜厚みの測定結果を表4に示す。
【0109】
<血小板粘着試験>
試料上にクエン酸ナトリウムで抗凝固したヒト新鮮多血小板血漿0.2mLをピペットで滴下し、37℃で60分間静置した。続いてリン酸緩衝溶液でリンスし、試料フィルム表面に粘着した血小板をグルタルアルデヒドで固定した後、室温で十分に乾燥し、走査型電子顕微鏡で観察し、評価した。
【0110】
<実施例9~13、比較例6>
実施例1~5及び比較例1で用いた溶液をエタノールで希釈して濃度1%に調整した。得られた希釈溶液を、スピンコーターにより、ペットフィルム(東レ ルミラー)上に塗布し、室温で乾燥後、熱風乾燥機により120℃で30分間、熱処理し、試料フィルムとした。
【0111】
<実施例14>
実施例6で用いたエポクロスWS-700の溶液及び共重合体1の溶液を、それぞれエタノールで希釈して濃度1%に調整した。まず、エポクロスWS-700の希釈溶液をペットフィルム(東レ ルミラー)上にスピンコーターにより塗布し、室温で乾燥後、その上から、共重合体1の溶液をスピンコーターにより塗布した。室温で乾燥した後、熱風乾燥機により、120℃で30分間、熱処理し、試料フィルムとした。
【0112】
<実施例15>
実施例7で用いた溶液をエタノールで希釈して濃度1%に調整した。得られた希釈溶液を、スピンコーターにより、ペットフィルム(東レ ルミラー)上に塗布し、室温で乾燥後、卓上型UV硬化装置HCT400B-28HB(セン特殊光源社製)を用いて365nmでの照度20mW/cm2で1時間、UV照射し、試料フィルムとした。
【0113】
<実施例16、比較例7、8>
実施例8及び比較例4及び5で用いた溶液をエタノールで希釈して濃度1%に調整した。得られた希釈溶液を、スピンコーターにより、ペットフィルム(東レ ルミラー)上に塗布し、室温で乾燥後、卓上型UV硬化装置HCT400B-28HB(セン特殊光源社製)を用いて365nmでの照度20mW/cm2で3分間、UV照射し、試料フィルムとした。
【0114】