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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】ヒドロキシチロソールの製造
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/21 20060101AFI20221216BHJP
   C12P 7/22 20060101ALI20221216BHJP
   C12N 15/60 20060101ALN20221216BHJP
   C12N 15/52 20060101ALN20221216BHJP
   C12R 1/185 20060101ALN20221216BHJP
【FI】
C12N1/21 ZNA
C12P7/22
C12N15/60
C12N15/52
C12R1:185
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021029116
(22)【出願日】2021-02-25
(65)【公開番号】P2022130128
(43)【公開日】2022-09-06
【審査請求日】2022-08-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520449563
【氏名又は名称】マイクロバイオファクトリー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517132810
【氏名又は名称】地方独立行政法人大阪産業技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】駒 大輔
(72)【発明者】
【氏名】大本 貴士
(72)【発明者】
【氏名】森芳 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】山中 勇人
(72)【発明者】
【氏名】大橋 博之
(72)【発明者】
【氏名】清水 雅士
【審査官】北村 悠美子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2021/027175(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0068775(US,A1)
【文献】Applied and Environmental Microbiology,2012年,Vol.78, No.17, pp.6203-6216
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-1/38
C12P 1/00-41/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入され、
内因性pheA遺伝子が破壊され、
内因性tyrB遺伝子が破壊され、且つ、
ヒドロキシチロソールの生産能を有する、エシェリキア属の形質転換体であって、
さらに、下記(1)~(5)の5つの遺伝子が発現可能に導入されている、形質転換体。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroG fbr 又はaroF fbr
(5)tyrA fbr
【請求項2】
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素が、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomayces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、請求項1記載の形質転換体。
【請求項3】
さらに、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1又は2記載の形質転換体。
【請求項4】
さらに、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1から3のいずれかに記載の形質転換体。
【請求項5】
さらに、下記(6)及び(7)の遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1からのいずれかに記載の形質転換体。
(6)ppsA
(7)tktA
【請求項6】
さらに、下記(8)~(10)の少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入されている、請求項1からのいずれかに記載の形質転換体。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK
【請求項7】
糖質原料と、請求項1からのいずれかに記載の形質転換体とを反応させる工程を含む、ヒドロキシチロソールの製造方法。
【請求項8】
前記反応が、糖質原料の流加培養により行われる、請求項記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ヒドロキシチロソール製造のための微生物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシチロソール(以下、「HTY」と略されることがある。)はオリーブなどの天然物から得られるが、精製が非常に困難であり、低純度品にも関わらず非常に高価(100万円/kg)である。化学合成法で高純度品を製造することも可能であるが、価格は依然として高い(20万円/kg)。そこでバイオ技術を用いたヒドロキシチロソールの新たな合成方法が検討されている。
バイオ技術を用いた合成方法には、バイオコンバージョンと発酵法の2つがある。バイオコンバージョンでは比較的高い収量でヒドロキシチロソールを得ることが可能である(~6g/L、非特許文献1、非特許文献2)。しかし、バイオコンバージョンでの基質となるチロシン、チロソール、DOPAは非常に高価であり(数千円~数万円/kg)、それがヒドロキシチロソールの製造価格が高騰する原因となっている。またチロソールは化石資源由来であり、それらの使用は近年の持続可能な開発目標(SDGs)を推進する枠組みから逸脱するため、社会的にも好ましくない。
一方、発酵法での原料となる糖質は安価だが(数百円/kg)、発酵法によるヒドロキシチロソールの生産量が低いために(~0.65g/L、非特許文献3)、ヒドロキシチロソールを安価に製造することが不可能であった。
【0003】
一方、シキミ酸経路を強化した組み換え大腸菌を利用して、グルコース等の糖から、チロシン、フェニルアラニン、2-フェニルエタノール(フェネチルアルコール、2PE)等の芳香族化合物を効率よく生産する方法が報告された(特許文献1)。
また、シキミ酸経路を拡張した組み換え大腸菌を利用して、グルコース等の糖から、チロソール(4-ヒドロキシフェニルエタノール、4HPE)や2PE等の芳香族化合物を効率よく生産する方法が報告された(非特許文献4)。
この非特許文献4には、pheA遺伝子を欠失させたフェニルアラニン要求性の組み換え大腸菌(ΔpheA)は、副産物が抑制され、チロソール(4HPE)の収率が倍増することが開示されている(同文献のTABLE 5、及び6211頁右欄第一パラグラフ等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2019/030808
【非特許文献】
【0005】
【文献】Z. Bouallagui and S. Sayadi, Bioconversion of p-Tyrosol into Hydroxytyrosol under Bench-Scale Fermentation, BioMed Research InternationalVolume 2018, Article ID 7390751
【文献】Chaozhi Li et al., Efficient Synthesis of Hydroxytyrosol from l-3,4-Dihydroxyphenylalanine Using Engineered Escherichia coli Whole Cells、J. Agric. Food Chem., 2019, 67, 24, 6867-6873
【文献】Xianglai Li et al., Establishing an Artificial Pathway for Efficient Biosynthesis of Hydroxytyrosol, ACS Synth Biol. 2018, 16;7(2):647-654
【文献】Koma et al., Production of Aromatic Compounds by Metabolically Engineered Escherichia coli with an Expanded Shikimate Pathway, Appl. Environ. Microbiol. 78:6203-6216, 2012
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路を利用した、グルコースからチロソール(4HPE)、2-フェニルエタノール(2PE)、及びヒドロキシチロソール(HTY)への合成ルートの概略を図1に示す。図1は、非特許文献4のFIG.1を参照したものである。
大腸菌で糖質原料からヒドロキシチロソール(HTY)、チロソール(4HPE)、2-フェニルエタノール(2PE)等を合成するためには、少なくとも、菌体内で生成する4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4HPP)又はフェニルピルビン酸(PP)を、それぞれ、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)又はフェニルアセトアルデヒド(PAAL)に変換する経路が必要である。その経路のために、外来生物種から得られるフェニルピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(pdc遺伝子)が導入される(拡張シキミ酸経路)。
また、ヒドロキシチロソール(HTY)の上流の化合物であるチロソール(4HPE)の収率を向上させるには、菌株のフェニルアラニン合成経路を欠失させることが好ましい(ΔpheA)(非特許文献4のTABLE 5、及び6211頁右欄第一パラグラフ等)。
【0007】
本発明者らは、非特許文献4及び特許文献1に記載された教示に従って、シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路に関連する遺伝子の発現を強化し、かつ、pheA遺伝子を欠失させることにより、ヒドロキシチロソール産生組み換え大腸菌株を作製した(図2参照)。図2において、太線の矢印は、過剰発現が誘導可能であることを示す。
図2のような、pdc遺伝子が導入され、かつ、フェニルアラニン要求性(ΔpheA)であるヒドロキシチロソール産生組み換え大腸菌株は、試験管等による小スケールではフェニルアラニンを加えた培地で概ね問題なく生育し、ヒドロキシチロソールを産生できた。しかしながら、本発明者らは、同株が、ジャーファーメンターにおける大スケール培養では、フェニルアラニンを加えても菌そのものの生育が悪くヒドロキシチロソールの工業的な生産には利用できない、という新たな課題を見出した。
【0008】
本開示は、ヒドロキシチロソールの生産性が向上可能な組み換え株、及び前記株を用いたヒドロキシチロソールの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入され、内因性pheA遺伝子が破壊され、内因性tyrB遺伝子が破壊され、且つ、ヒドロキシチロソールの生産能を有する、エシェリキア属の形質転換体に関する。
【0010】
本開示は、糖質原料と本開示に係る形質転換体とを反応させる工程を含む、ヒドロキシチロソールの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、ヒドロキシチロソールの生産性が向上可能なエシェリキア属の形質転換体、及び前記形質転換体を用いたヒドロキシチロソールの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、グルコースからフェニルアラニン、2-フェニルエタノール(2PE)、チロシン、チロソール(4HPE)、及びヒドロキシチロソール(HTY)等の芳香族化合物への合成ルートの概略を示す。シキミ酸経路と、拡張されたシキミ酸経路(導入された外因性pdc遺伝子等)が利用される。
図2図2は、従来技術(非特許文献4)に基づいてHTYの生産性向上を試みた株(実施例F株)におけるHTY合成ルートの概略を示す。F株では、シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路の遺伝子発現が強化されている(発現誘導、太線及び太字部分)。また、F株は、pheA遺伝子を欠失していることにより、フェニルアラニン要求性(ΔpheA)である。
図3】シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路の遺伝子発現が強化され、かつ、ΔpheAである株は、ラージスケールの培養で増殖能が悪化する。図3は、その増殖能悪化の原因となるエールリッヒ経路(点線矢印)の概略を示す。エールリッヒ経路が働くことで、前記株では、フェニルアラニンを添加してもすぐにフェニルアラニンが枯渇して増殖性が悪くなり、培養液中に2PEが蓄積する。
図4図4は、本開示に係る形質転換株における糖質原料からHTYへの合成ルートの概略を示す。本開示に係る形質転換株では、tyrB遺伝子が破壊されているため、エールリッヒ経路が機能せず、フェニルアラニンが消費されず、株の増殖性が向上する。一方で、tyrB遺伝子が破壊された場合でも、IlvE、AlaC、AspC等の他のアミノ酸アミノトランスフェラーゼにより補完される場合には、チロシン要求性とはならない。
図5図5は、実施例のF株の増殖と、グルコース流加培養(発酵)によるヒドロキシチロソールの生産を観察したグラフである。●が菌数(OD660)を示す。△、■、◇、及び〇が、それぞれ、反応液(又は培地)中のヒドロキシチロソール濃度(g/L)、チロソール濃度(g/L)、2-フェニルエタノール濃度(g/L)、及びフェニルアラニン濃度(g/L)を示す。
図6図6は、実施例のG株の増殖と、グルコース流加培養(発酵)によるヒドロキシチロソールの生産を観察したグラフである。●が菌数(OD660)を示す。△、■、◇、及び〇が、それぞれ、反応液(又は培地)中のヒドロキシチロソール濃度(g/L)、チロソール濃度(g/L)、2-フェニルエタノール濃度(g/L)、及びフェニルアラニン濃度(g/L)を示す。
図7図7は、実施例のG株の増殖と、グルコース流加培養(発酵)によるヒドロキシチロソールの生産を観察したグラフである。●が菌数(OD660)を示す。△、■、及び〇が、それぞれ、反応液(又は培地)中のヒドロキシチロソール濃度(g/L)、チロソール濃度(g/L)、及びフェニルアラニン濃度(g/L)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、グルコースからヒドロキシチロソールを製造する効率を向上させるために、シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路の遺伝子発現を強化し、かつ、フェニルアラニン要求性に改変した株を作製した。しかし、この株は、試験管レベルの容量の培養では増殖性に問題がないように見えるが、ジャーファーメンター(バイオリアクター)等における大量培養時に増殖性が顕著に低下するという新たな課題が見出された。
本開示は、この新たな課題が、tyrB遺伝子を破壊する改変を加えた株により解決される、という知見に基づく。
この株を用いれば、糖質原料からのヒドロキシチロソール製造における効率の向上が、ジャーファーメンター等の大量培養システムで可能になる、という格別顕著な効果を奏し得る。
【0014】
本開示における上記効果のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推定される。シキミ酸経路及び拡張シキミ酸経路の強化とフェニルアラニン要求性(ΔpheA)の改変を有する株の増殖性の低下は、エールリッヒ経路が原因であると推定される(図3)。すなわち、添加されたフェニルアラニンが、タンパク質合成(菌体の増殖)ではなく、2-フェニルエタノール等の合成に消費されて枯渇してしまう。そして、本開示に係る形質転換体は、tyrB遺伝子が破壊されることでエールリッヒ経路が機能しなくなり、フェニルアラニンの消費が抑制され、菌体の増殖性が回復し、HTYの生産性が向上する(図4)。
ただし、本開示は、このメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
[形質転換体]
本開示に係る形質転換体は、エシェリキア属の菌の形質転換体である。
エシェリキア属の菌としては、一又は複数の実施形態において、エシェリキア コリ(大腸菌)が挙げられる。
大腸菌としては、大腸菌K12株及びB株、これらに由来する株が挙げられる。大腸菌K12株由来の株としては、MG1655、W3110、W1330、JM109、HST02、HB101、DH5α、及びこれらの染色体にラムダDE3遺伝子が組み込まれたDE3株が挙げられる。B株由来の株としては、BL21、BL21(DE3)等が挙げられる。
大腸菌としては、これら菌株から派生した自然変異株でも人為的な遺伝子改変株であってもよい。
【0016】
本開示において、遺伝子名は、特に言及がない場合、大腸菌の遺伝子名を意味する。本開示において、遺伝子は、大腸菌の当該遺伝子のオーソログ(他生物種由来のホモログ)を含みうる。本開示において、遺伝子の配列は、特に言及がない場合、野生型(例えば、大腸菌であれば、K-12株)のもの、あるいは、データベース(NCBI GENBANKなど)に本願出願時において登録されているものを指すが、野生型と同等の機能を果たす範囲、又は、野生型と同等の蛋白質をコードする範囲で配列が異なっていてもよく、オーソログの配列であってもよい。また、遺伝子は、宿主での発現のため、コドンが最適化されてもよい。
本開示において「オーソログ」とは、異なる生物に存在する相同な機能を有する類縁遺伝子を意味する。
本開示において「由来する酵素」とは、一又は複数の実施形態において、元の酵素のアミノ酸配列に対して同一性が70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上のアミノ酸配列である酵素をいう。
【0017】
[pdc遺伝子]
本開示の形質転換体は、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入されている。
本開示において、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性とは、4-ヒドロキシフェニルピルビン酸(4HPP)から4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)への反応を触媒できる酵素活性をいう。このような酵素活性を有する酵素をコードする遺伝子を、本開示において、pdc遺伝子という。
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素は、一又は複数の実施形態において、HTYの生産性向上の観点から、宿主であるエシェリキア属の菌が有さない酵素、すなわち、外因性の酵素であることが好ましい。
4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素としては、一又は複数の実施形態において、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomyces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ、及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼとしては、アゾスピリルム・ブラシレンセ(Azospirillum brasilense、NBRC102289)のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ(GenBank ALJ36000.1)及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
サッカロミケス属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼとしては、S.セレビシエ(S.cerevisiae)のARO10(GenBank DAA12223.1)及びこれらに由来する酵素が挙げられる。
本開示に係る形質転換体に導入されるpdc遺伝子は、一又は複数の実施形態において、上記の酵素をコードする外因性遺伝子又はこれらのオーソログである。
外因性pdc遺伝子が導入されることで、シキミ酸経路が拡張され、シキミ酸経路由来のPP及び4HPPがそれぞれPAAL及び4HPAALへ変換され、さまざまな芳香族化合物の生産が可能になる(拡張されたシキミ酸経路、図1)。
【0018】
本開示において、遺伝子を「発現可能に導入する」方法は、特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、遺伝子の発現亢進を誘導可能なプロモーター等の発現調節配列とともに導入する方法が挙げられる。
本開示において、発現誘導可能なプロモーターとともに導入される遺伝子は、単独の遺伝子であってもよく、複数遺伝子が発現可能なオペロンであってもよい。
遺伝子の発現亢進が誘導可能なプロモーターとしては、一又は複数の実施形態において、T7プロモーターが挙げられる。発現誘導にT7プロモーターを用いる場合、宿主微生物は、T7RNAポリメラーゼ遺伝子を有する株であることが好ましい。宿主微生物としては、一又は複数の実施形態において、λDE3ファージを溶原化したDE3株が挙げられる。
遺伝子の発現亢進が誘導可能なプロモーターとしては、その他の一又は複数の実施形態において、λファージのPLプロモーター(熱で発現誘導されるプロモーター)、アラビノースオペロンのアラビノースプロモーター(アラビノースで発現誘導されるプロモーター)、tetプロモーター(テトラサイクリンで発現誘導されるプロモーター)、tyrRなどの構成タンパク質のプロモーター、及び、構成性の人工プロモーターなどが挙げられる。
宿主への遺伝子の導入方法は、特に制限されないが、一又は複数の実施形態において、プラスミドで導入する方法、及び、宿主染色体に組み込む方法が挙げられる。
本開示において、遺伝子を発現誘導可能なプロモーターとともに染色体に導入する方法は、特に限定されないが、一又は複数の実施形態において、実施例に記載の方法(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829に記載の方法)が挙げられる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
導入される遺伝子が、染色体上に組み込まれる場合、その座位は、宿主ゲノムが本来備えている当該遺伝子の座位でもよく、当該遺伝子とは別の宿主染色体の座位に導入さてもよい。
【0019】
[フェニルアラニン要求性]
本開示に係る形質転換体は、宿主ゲノムのpheA遺伝子、すなわち、内因性pheA遺伝子が破壊されている。
本開示において、「pheA」遺伝子は、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドラターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947081である。
本開示において、pheA遺伝子が破壊されているとは、一又は複数の実施形態において、pheA遺伝子又はその発現調節配列の変異(塩基配列の付加、置換、及び/又は欠失など)により、pheA遺伝子の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、野生型pheA遺伝子の遺伝子産物の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、形質転換体がフェニルアラニン要求性(ΔpheA)となっていることをいう。
【0020】
シキミ酸経路、及び、拡張されたシキミ酸経路を有する株において、フェニルアラニン要求性(ΔpheA)となる変異が導入されると、4HPEの生産性が向上することが知られている(非特許文献4の表5、及び6211頁右欄第一パラグラフ等)。したがって、HTY生産株をΔpheAとすることで、合成経路上で4HPEの下流に位置するHTYの生産性も向上することが想定された(図2)。
そこで、HTY生産株をΔpheAとした株を作製したところ、この株は、試験管レベルでの培養であれば増殖性に問題は認められなかった。しかしながら、この株をジャーファーメンターのようなラージスケールで培養すると増殖性が著しく低下する、すなわち、菌数(菌密度)の上昇が通常の菌に比べて著しく低い段階で止まってしまうという問題点が、本発明者らにより見出された(実施例F株、図5)。
ラージスケールの培養では、エールリッヒ経路の影響が大きくなり、フェニルアラニンが枯渇し、増殖性に悪影響を及ぼしていると考えられる(図3)。
【0021】
[内因性tyrB遺伝子の破壊]
本開示に係る形質転換体は、宿主ゲノムのtyrB遺伝子、すなわち、内因性tyrB遺伝子が破壊されている。
本開示において、「tyrB」遺伝子は、チロシンアミノトランスフェラーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:945031である。
本開示において、tyrB遺伝子が破壊されているとは、一又は複数の実施形態において、tyrB遺伝子又はその発現調節配列の変異(塩基配列の付加、置換、及び/又は欠失など)により、tyrB遺伝子の機能が抑制又は消失していることをいい、あるいは、野生型tyrB遺伝子の遺伝子産物の機能が抑制又は消失していることをいう。
【0022】
シキミ酸経路、及び、拡張されたシキミ酸経路を有し、かつ、フェニルアラニン要求性(ΔpheA)である株は、培地に添加したフェニルアラニンがエールリッヒ経路により消費されるため(図3)、ラージスケール培養で増殖阻害が発生するが、内因性tyrB遺伝子を破壊することで、エールリッヒ経路の問題を解消することができる(図4)。
tyrB遺伝子が破壊されるとチロシン要求性になると考えられたが、チロシン要求性にならない場合がある。例えば、IlvE、AlaC、AspC等の他のアミノ酸アミノトランスフェラーゼが存在すると、tyrB遺伝子産物の機能が補完され、チロシン要求性とならない。本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、チロシン要求性ではない。
なお、IlvE、AlaC、AspC等のアミノ酸アミノトランスフェラーゼが存在しても増殖阻害は発生しない。これは、これらの酵素のPhe→PPの活性が高くなく、エールリッヒ経路が働きにくいからと考えられる。
【0023】
本開示において、宿主ゲノム遺伝子(内因性遺伝子)の破壊方法は、特に制限されず、一又は複数の実施形態において、部位特異的な組み換えで行われる。部位特異的な組み換えは、一又は複数の実施形態において、CRIMプラスミドを利用する方法、Cre/LoxPシステムを利用する方法、出芽酵母の組み換え酵素FLPとFRT配列を利用する方法、CRISPR/Cas9システムを利用する方法、P1トランスダクションを利用する方法などが挙げられる。
【0024】
[ヒドロキシチロソールの生産能]
本開示に係る形質転換体は、ヒドロキシチロソール(HTY)を生産する能力を有する。本開示に係る形質転換体は、一又は複数の実施形態において、糖質原料からHTYを生産する能力を有する。
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に生産する観点から、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましい。
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に生産する観点から、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましい。
【0025】
[4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素]
本開示における4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、チロソール(4HPE)がヒドロキシチロソール(HTY)となる化学反応を触媒できるものである(図1)。
4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素としては、一又は複数の実施形態において、4-ヒドロキシフェニルアセテート-3-ヒドロキシラーゼ(4-ヒドロキシフェニルアセテート-3-モノオキシゲナーゼ)が使用できる。
本開示における4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、上記触媒機能があるものであれば制限されないが、HTYを効率的に産生する観点から、一又は複数の実施形態において、二成分酵素のものが好ましく、補酵素として還元型のフラビンアデニンヌクレオチド(FAD)、すなわち、FADH2を使用する、二成分型FAD依存モノオキシゲナーゼがより好ましい。
【0026】
本開示における4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素は、HTYを効率的に産生する観点から、大腸菌のhpaBC遺伝子の遺伝子産物(hpaB:GenBank ACT46003.1、hpaC:GenBank ACT46002.1)、及びこれらに由来する酵素又はこれらのオーソログの遺伝子産物が好ましい。
同酵素としては、その他の一又は複数の実施形態において、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)のhpaAC遺伝子の遺伝子産物(hpaA:GenBank AAG07478.1、hpaC:GenBank AAG07479.1)、若しくは、Parageobacillus thermoglucosidansのフェノールー2-ヒドロキシラーゼ(component A:GenBank AAF66546.1、component B: GenBank AAF66547.1)、及びこれらに由来する酵素又はこれらのオーソログの遺伝子産物が挙げられる。
【0027】
[4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素]
本開示における4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素は、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒド(4HPAAL)がチロソール(4HPE)となる化学反応を触媒できるものである(図1)。
4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素は、上記触媒機能があるものであれば制限されないが、一又は複数の実施形態において、大腸菌yahK遺伝子の遺伝子産物(GenBank AAC73428.1)、大腸菌yjgB遺伝子の遺伝子産物(GenBank AAC77226.2)、大腸菌yqhD(GenBank AAC76047.1)及びこれらに由来する酵素、又はこれらのオーソログの遺伝子産物が挙げられる。
これらの中でも、HTYを効率的に産生する観点から、yahK及びyjgBがより好ましく、yahKが更に好ましい。
【0028】
[シキミ酸経路の強化]
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に産生する観点から、一又は複数の実施形態において、シキミ酸経路に関する遺伝子(群)の発現が強化されていることが好ましく、該遺伝子(群)が発現可能に導入されていることが好ましく、宿主染色体上に発現可能に導入されていることがより好ましい。
【0029】
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に産生する観点から、下記(1)~(5)の5つの遺伝子の全てが発現可能に導入されていることが好ましく、宿主染色体上に発現可能に導入されていることがより好ましい。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroGfbr又はaroFfbr
(5)tyrAfbr
上記(4)及び(5)に加え、上記(1)~(3)のすべてを発現可能に導入することで、上記(4)及び(5)の発現亢進による代謝負荷を低減しうる。
【0030】
本開示において、「aroA」遺伝子は、5-エノールピルビルシキミ酸-3-リン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:945528である。
本開示において、「aroB」遺伝子は、3-デヒドロキナ酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947927である。
本開示において、「aroC」遺伝子は、コリスミ酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946814である。
本開示において、「aroG」遺伝子は、3-デオキシ-D-アラビノ-7-ホスホヘプツロン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:645605である。
本開示において、「aroGfbr」遺伝子は、aroGのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。aroGfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-236947に開示のものを使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
本開示において、「aroF」遺伝子は、3-デオキシ-D-アラビノ-7-ホスホヘプツロン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947084である。
本開示において、「aroFfbr」遺伝子は、aroFのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。aroFfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-236947に開示のものを使用できる。
本開示において、「tyrA」遺伝子は、コリスミ酸ムターゼ及びプレフェン酸デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947115である。
本開示において、「tyrAfbr」遺伝子は、tyrAのフィードバック阻害の脱感作変異型を意味する。tyrAfbrは、一又は複数の実施形態において、特開平05-076352に開示のものを使用できる。当該文献の内容は本開示の一部を構成するものとして援用される。
【0031】
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に産生する観点から、上記(1)~(5)の5つの遺伝子に加え、下記(6)及び(7)の2つの遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましく、宿主染色体上に発現可能に導入されていることがより好ましい。
(6)ppsA
(7)tktA
ここで、発現誘導可能なプロモーターとしてT7プロモーターを使用する場合、目的の芳香族化合物の生産性向上の点から、上記(7)tktAのプロモーターは発現誘導能が低減した変異型T7プロモーターであることが好ましい。
【0032】
本開示において、「ppsA」遺伝子は、ホスホエノールピルビン酸シンターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946209である。
本開示において、「tktA」遺伝子は、トランスケトラーゼ1をコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947420である。
【0033】
本開示に係る形質転換体は、HTYを効率的に産生する観点から、上記(1)~(7)の7つの遺伝子に加え、下記(8)から(10)の少なくとも1つ、より好ましくは2つ、更に好ましくは3つの遺伝子が発現可能に導入されていることが好ましく、宿主染色体上に発現可能に導入されていることがより好ましい。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK
上記(9)のaroE又はydiBは相互に代替可能であるが、HTYを効率的に産生する観点から、上記(9)の遺伝子としては、aroEが好ましい。
上記(10)のaroL又はaroKは相互に代替可能であるが、HTYを効率的に産生する観点から、上記(10)の遺伝子としては、aroLが好ましい。
【0034】
本開示において、「aroD」遺伝子は、3-デヒドロキナ酸デヒドラターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946210である。
本開示において、「aroE」遺伝子は、デヒドロシキミ酸レダクターゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:947776である。
本開示において、「ydiB」遺伝子は、キナ酸/シキミ酸5-デヒドロゲナーゼをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:946200である。
本開示において、「aroL」遺伝子は、シキミ酸キナーゼIIをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:945031である。
本開示において、「aroK」遺伝子は、シキミ酸キナーゼIをコードする遺伝子であって、一又は複数の実施形態において、GENBANKのGeneID:2847759である。
【0035】
[ヒドロキシチロソールの製造方法]
本開示に係るヒドロキシチロソールの製造方法は、糖質原料と、本開示に係る形質転換体とを反応させる工程を含む製造方法に関する。
本開示におけるこの「反応」は、「培養」や「発酵」ということもできる。
本開示に係る形質転換体と反応させる糖質原料としては、糖や糖アルコールが挙げられる。糖としては、グルコース、キシロース、アラビノース、廃糖蜜等が挙げられる。糖アルコールとしては、グリセリン等が挙げられる。
糖質原料と本開示に係る形質転換体との反応は、一又は複数の実施形態において、所定量まで液体培地で培養した本開示に係る形質転換体に対して導入した発現誘導を行い、その後、培養中の培地に糖質原料を添加することで行うことができる。
本開示に係る形質転換体の培養は、フェニルアラニン要求性であること以外は、通常の培養方法の条件で行うことができ、反応工程も、従来の発酵又は反応の条件で行うことができる。
培養の培地は、フェニルアラニンに加え、炭素源、窒素源、リン源、硫黄源、ミネラル、ビタミンなどのその他の成分を含むもので、本開示の微生物が生育できるものなら特に限定されない。培地におけるフェニルアラニンの含有量(初期濃度)としては、一又は複数の実施形態において、0.2~10mM、又は、1~8mMが挙げられる。
本開示に係る形質転換体の培養は、ヒドロキシチロソールの生産量を向上する点から、ジャーファンメンターやバイオリアクター等の大量培養可能な装置で行うことが好ましい。
本開示に係る形質転換体の培養は、ヒドロキシチロソールの生産量を向上する点から、糖質原料を培養中に添加する流加培養が好ましい。
【0036】
糖質原料の流加培養によるヒドロキシチロソールの製造方法は、例えば、実施例の方法を参照できる。簡単には、前培養を行い、1~10%の濃度で最小培地に植菌して培養し、OD660が0.5~20に達したら発現誘導(T7プロモーターであれば、例えば1mMイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を添加)して2~5時間培養した後、原料である糖質溶液を所定の供給スピードで流加して20~35時間反応し、培養液及び/又は菌内にヒドロキシチロソールを得る。
【0037】
[培養温度]
微生物が生育できる温度が挙げられる。生育速度の観点から、その生物の至適な培養温度が好ましい。大腸菌であれば、一又は複数の実施形態において、25℃~40℃、又は、30℃~37℃が挙げられる。
[培地]
微生物が生育できる培地であれば制限されない。培地は、一又は複数の実施形態において、液体培地である。LB培地などの天然培地にフェニルアラニンを加えたもの、M9や実施例のHCF培地などの合成培地にフェニルアラニンを加えたものが挙げられる。化合物の精製を考えた場合には合成培地の方が好ましい。
[培養pH]
培養pHは、一又は複数の実施形態において、6.0~7.5の範囲が挙げられ、その他の態様において、7.0付近、又は、6.2~7.2が挙げられる。
[培地への糖質原料の添加量(流加速度)]
糖質溶液の添加量は、菌の種類、菌体量、培養条件に依存して調節する。一又は複数の実施形態において、添加した糖質原料の多くがなるべくHTYに変換されるように糖質原料を流加することが好ましい。一又は複数の実施形態において、酢酸などの副産物量を抑制できる範囲で添加することが好ましい。
一又は複数の実施形態において、糖質原料を、培地中の濃度が0~2g/L、好ましくは0.1~1g/Lの範囲に収まるように添加する。
添加される糖質原料の総量は、菌の種類や培養条件によって異なるが、添加した糖質原料のほぼすべてが菌体によって消費される量が好ましい。大腸菌の場合には、一又は複数の実施形態において、100~300g/L程度が挙げられる
[培養時間]
培養時間は、一又は複数の実施形態において、流加した糖質原料がなくなるまで培養することが好ましい。
但し、培養条件はこれらに限定されない。
【0038】
本開示は、一又は複数の実施形態において、以下に関しうる;
<1> 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素をコードする外因性遺伝子が発現可能に導入され、
内因性pheA遺伝子が破壊され、
内因性tyrB遺伝子が破壊され、且つ、
ヒドロキシチロソールの生産能を有する、エシェリキア属の形質転換体。
<2> 4-ヒドロキシフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼ活性を有する酵素が、アゾスピリルム(Azospirillum)属細菌、又は、サッカロミケス(Saccharomayces)属酵母のフェニルピルビン酸デカルボキシラーゼである、<1>記載の形質転換体。
<3> さらに、4-ヒドロキシフェニルエタノール-3-ヒドロキシラーゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、<1>又は<2>記載の形質転換体。
<4> さらに、4-ヒドロキシフェニルアセトアルデヒドレダクターゼ活性を有する酵素をコードする遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<3>のいずれかに記載の形質転換体。
<5> さらに、下記(1)~(5)の5つの遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<4>のいずれかに記載の形質転換体。
(1)aroA
(2)aroB
(3)aroC
(4)aroGfbr又はaroFfbr
(5)tyrAfbr
<6> さらに、下記(6)及び(7)の遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<5>のいずれかに記載の形質転換体。
(6)ppsA
(7)tktA
<7> さらに、下記(8)~(10)の少なくとも1つの遺伝子が発現可能に導入されている、<1>から<6>のいずれかに記載の形質転換体。
(8)aroD
(9)aroE又はydiB
(10)aroL又はaroK
<8> 糖質原料と、<1>から<7>のいずれかに記載の形質転換体とを反応させる工程を含む、ヒドロキシチロソールの製造方法。
<9> 前記反応が、糖質原料の流加培養より行われる、<8>記載の製造方法。
【実施例
【0039】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本開示はこれら実施例に制限されるものではない。
【0040】
実施例で使用した株を表1に示す。
本開示において「T7p」は、T7lacプロモーター(lacリプレッサーが付加されたT7プロモーター)を意味する。本開示において「T7p(-8TC)」とは、発現誘導能が低減した変異型T7pを意味する。本開示において、「T7t」は、T7ターミネーターを意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
1.A株(tyrA挿入株)の作製
(1)プラスミドpET21a-FRT-tyrAfbrの作製
大腸菌MG1655のゲノムDNAを鋳型として、EcTyrA-F(CCAACCATATGGTTGCTGAATTGACCGC,配列番号1)とEcTyrA-RM1(CGCGAGGCCAAGATAGATGCCTCGCGC,配列番号2)プライマーペア、EcTyrA-FM1(GCGCGAGGCATCTATCTTGGCCTCGCG,配列番号3)とEcTyrA-RM2(CTCTGAAAACGCTGTACGTAATCGCCGAAC,配列番号4)プライマーペア、及びEcTyrA-FM2(GTTCGGCGATTACGTACAGCGTTTTCAGAG,配列番号5)とEcTyrA-R(CACTCGAGTTACTGGCGATTGTCATTCGCC,配列番号6)プライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼにより3つのDNA断片を増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。つぎに、3つの増幅断片を鋳型としてEcTyrA-FとEcTyrA-Rのプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりオーバーラップエクステンションPCRを行い、53番目のメチオニンがイソロイシンに置換され、かつ354番目のアラニンがバリンに置換されたTyrAをコードするDNA(tyrAfbr)を得た。
増幅されたDNAとpET21a-FRTベクター(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)をそれぞれNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、反応液を大腸菌DH5αコンピテントセル(GMbiolab社製)と混ぜて氷上で40分間静置した後、42℃で45秒間ヒートショックを行い、再び氷上で2分間静置した後にLB液体培地を900μL加えて37℃で30分間恒温した。適量の菌液を20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマー(TAATACGACTCACTATAGGG,配列番号7)とT7ターミネータープライマー(ATGCTAGTTATTGCTCAGCGG,配列番号8)を用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。コロニーダイレクトPCRにはOneTaq(New England BioLabs社製)を用いた。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
LB寒天培地の組成(本実施例において以下同じ):10g/L ハイポリペプトン、5g/L粉末酵母エキスD3-H、10g/L塩化ナトリウム、20g/L寒天、pH7.0
LB液体培地の組成(本実施例において以下同じ):10g/L ハイポリペプトン、5g/L粉末酵母エキスD3-H、10g/L塩化ナトリウム、pH7.0
【0043】
(2)A株の作製
tyrAfbr遺伝子の大腸菌染色体への導入は既報(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)により行った。はじめに染色体へ導入するためのDNA断片を含む溶液の調製を行った。上記で作製したプラスミドpET21a-FRT-tyrAfbrを鋳型DNAとして、delta-ldhA-feaB-F(AAATATCTGTTTTAACTAATTGGCGTTGCAGTACATGCAACGCCAATTAGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号9)とdelta-feaB-FRT-R(TGCCGTTTTTTACTTATGAGCGAACCAGATTAATACCGTACACACACCGAATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号10)のプライマーセットを用いて、2つのフリパーゼ認識配列(FRT)とカナマイシン耐性遺伝子配列(Km)を含むtyrAfbr遺伝子(FRT-Km-FRT-T7p-tyrAfbr-T7t)をPCRで増幅した。PCR酵素にはPrimeStar GXL(タカラバイオ社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素DpnIで一晩消化し、再度、QIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)で精製したものを染色体導入用のDNA溶液とした。
つぎに、大腸菌のエレクトロポレーションセルの調製を行った。大腸菌MG1655(DE3)/pKD46株を10mMのL-アラビノースと100μg/mLのカルベニシリンを含むLB液体培地にて、OD660が0.5程度に達するまで30℃で培養した。次に、2mLの菌液を5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水1mLに懸濁し、5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。再度、菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水1mLに懸濁し、5,000rpm、4℃で5分間遠心分離して上清を捨て、菌体を回収した。菌体を氷冷しておいた滅菌蒸留水50μLに懸濁してエレクトロポレーションセルとした。
つぎに、エレクトロポレーションセルにDNA断片を100~200ng(1μL程度)添加し、溶液をエレクトロポレーションキュベットに移し、MicroPulserエレクトロポレーター(Bio-Rad社製)を用いてエレクトロポレーションを行った。エレクトロポレーションキュベットに1mLのLB液体培地を加えた後、菌懸濁液を1.5mLチューブに移し、37℃で2時間程度振とうした。50μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に菌液を塗布し、37℃で一晩培養した。出現したコロニーから、ldhA-feaB座位にtyrAfbr遺伝子を持つ大腸菌をコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にK2(CGGTGCCCTGAATGAACTGC,配列番号11)とDown-feaB(CTGTTGAGTAACCCGAACAAAG,配列番号12)のプライマーセットを添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、ldhA-feaB座位にtyrAfbr遺伝子が挿入された菌株(A株)を確認した。
【0044】
2.B株(pdc挿入株)の作製
(1)プラスミドpET21a-FRT-pdcの作製
人工合成したpdc遺伝子(配列番号13、合成時に末端にNdeIとXhoIのサイトを付加してある)とpET21a-FRTをNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
【0045】
配列番号13:ATGAAACTGGCTGAAGCTCTGCTGCGTGCCCTGAAAGACCGTGGTGCTCAAGCGATGTTTGGTATTCCGGGTGATTTTGCTCTGCCGTTTTTCAAAGTGGCGGAAGAAACCCAGATTCTGCCGCTGCATACGCTGAGCCACGAACCGGCCGTTGGTTTTGCGGCCGATGCAGCTGCGCGTTATAGCTCTACCCTGGGTGTGGCAGCAGTTACGTACGGCGCTGGTGCGTTCAACATGGTCAATGCCGTGGCAGGTGCTTATGCGGAAAAATCACCGGTGGTTGTCATCTCGGGTGCACCGGGCACCACGGAGGGTAACGCTGGTCTGCTGCTGCATCACCAGGGTCGTACCCTGGATACGCAGTTTCAAGTCTTCAAAGAAATTACCGTGGCACAAGCACGTCTGGATGACCCGGCTAAAGCACCGGCAGAAATCGCACGTGTGCTGGGTGCTGCGCGTGCGCAGTCTCGTCCGGTTTACCTGGAAATTCCGCGTAACATGGTCAATGCGGAAGTTGAACCGGTCGGTGATGACCCGGCATGGCCGGTTGATCGTGACGCTCTGGCCGCATGCGCGGATGAAGTGCTGGCTGCGATGCGTAGTGCGACCTCCCCGGTTCTGATGGTTTGTGTCGAAGTGCGTCGCTATGGTCTGGAAGCGAAAGTGGCAGAACTGGCACAGCGTCTGGGTGTTCCGGTGGTTACCACGTTTATGGGCCGTGGTCTGCTGGCAGATGCTCCGACCCCGCCGCTGGGCACGTACATTGGTGTTGCTGGCGACGCGGAAATCACCCGTCTGGTCGAAGAATCAGATGGTCTGTTTCTGCTGGGCGCCATTCTGAGCGACACCAACTTCGCAGTGTCTCAGCGCAAAATTGACCTGCGTAAAACGATCCATGCCTTTGATCGCGCAGTCACCCTGGGTTATCACACGTACGCCGATATCCCGCTGGCAGGCCTGGTTGACGCTCTGCTGGAACGTCTGCCGCCGTCGGATCGTACCACGCGTGGCAAAGAACCGCATGCATATCCGACCGGTCTGCAGGCAGACGGTGAACCGATTGCACCGATGGATATCGCGCGTGCGGTGAATGACCGTGTTCGCGCGGGTCAAGAACCGCTGCTGATTGCCGCAGATATGGGCGACTGCCTGTTTACCGCGATGGATATGATCGACGCTGGTCTGATGGCGCCGGGCTATTACGCCGGTATGGGTTTCGGTGTCCCGGCAGGTATTGGTGCACAGTGCGTGTCAGGCGGTAAACGTATCCTGACCGTCGTGGGTGATGGCGCGTTTCAAATGACGGGTTGGGAACTGGGCAACTGTCGTCGCCTGGGTATTGATCCGATTGTGATCCTGTTCAACAATGCCAGTTGGGAAATGCTGCGCACCTTTCAGCCGGAATCCGCATTCAATGATCTGGATGACTGGCGTTTTGCGGACATGGCTGCGGGTATGGGTGGTGATGGTGTTCGTGTCCGTACCCGTGCGGAACTGAAAGCCGCACTGGATAAAGCATTTGCTACGCGCGGTCGTTTCCAACTGATTGAAGCCATGATCCCGCGTGGCGTGCTGTCGGATACCCTGGCTCGCTTCGTCCAAGGTCAAAAACGTCTGCATGCTGCCCCGCGTGAATAA
【0046】
(2)B株の作製
染色体DNAのmtlA座位にpdc遺伝子が挿入された菌株(B株)の作製は、A株の作製と同様に行った。
pdc遺伝子を染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-pdc、プライマーにdelta-mtlA-F(TCGGGCTTCCAGCCTGCGCGACAGCAAACATAAGAAGGGGTGTTTTTATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号14)とdelta-mtlA-FRT-R(CTTCTCCATGTGGAGAGGGTGGGATTGGATTACTTACGACCTGCCAGCAGATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号15)のプライマーセットを用いた。また、mtlA座位へのpdc遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-mtlA(GATCAACGACATCATCACCAATGC,配列番号16)のプライマーセットを用いた。
【0047】
3.C株(yahK挿入株)の作製
(1)プラスミドpET21a-FRT-yahKの作製
大腸菌MG1655のゲノムDNAを鋳型として、yahK-Nde(CCAACCATATGAAGATCAAAGCTGTTGGTG,配列番号17)とyahK-Xho(CACTCGAGTCAGTCTGTTAGTGTGCG,配列番号18)のプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりyahK遺伝子を含むDNAを増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。増幅されたDNAとpET21a-FRTベクターをそれぞれNdeIとXhoIで消化し、1%アガロースゲル電気泳動でDNAを分離した後、QIAquick Gel Extraction kitを用いて該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりLigationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。T7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、目的のプラスミドを持つ菌株を選別した。最終的に目的プラスミドを有する菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いて目的のプラスミドを抽出し精製した。
【0048】
(2)C株の作製
染色体DNAのpykA座位にyahK遺伝子が挿入された菌株(C株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-yahK、プライマーにdelta-pykA-F(TTTCATGTTCAAGCAACACCTGGTTGTTTCAGTCAACGGAGTATTACATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号19)とdelta-pykA-FRT-R(TGGCGTTTTCGCCGCATCCGGCAACGTACTTACTCTACCGTTAAAATACGATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号20)のプライマーセットを用いた。また、pykA座位へのyahK遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-pykA(GTACTGGGGATATTATTTACCCG,配列番号21)のプライマーセットを用いた。
【0049】
4.D株(hpaBC挿入株)の作製
(1)プラスミドpET21a-FRT-hpaBCの作製
大腸菌BL21の染色体DNAを鋳型として、hpaBC-F(GTTTAACTTTAAGAAGGAGATATACATATGAAACCAGAAGATTTCCGC,配列番号22)とhpaBC-R(GTGGTGGTGGTGCTCGAGTTAAATCGCAGCTTCCATTTC,配列番号23)のプライマーセットを用いて、hpaBCオペロンをPCRで増幅した。PCR酵素にはPhusion Hot Start II DNA Polymerase(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素NdeIとXhoIで消化したpET21a-FRTベクターとGibson Assembly Master Mix(New England Biolabs社製)を用いて反応させた。反応液を用いて大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。
培養後のコロニーから目的とするプラスミドを有するものをコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にT7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを規定量添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、hpaBCのインサートが確認されたものを候補菌株とした。
候補菌株を50μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPure(マッハライ・ナーゲル社製)を用いてプラスミド抽出を行い、pET21a-FRT-hpaBCを得た。
【0050】
(2)D株の作製
染色体DNAのpheA座位にhpaBC遺伝子が挿入された菌株(D株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにpET21a-FRT-hpaBC、プライマーにdelta-pheA-F(CTCCCAAATCGGGGGGCCTTTTTTATTGATAACAAAAAGGCAACACTATGATTCCGGGGATCCGTCGACC,配列番号24)とdelta-pheA-FRT-R(GATGATTCACATCATCCGGCACCTTTTCATCAGGTTGGATCAACAGGCACATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号25)のプライマーセットを用いた。また、pheA座位へのhpaBC遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-pheA(CATACCAATGGTTTCTGGAGCAAAT,配列番号26)のプライマーセットを用いた。
【0051】
5.E株(lacIQ1及びhpaBC挿入株)の作製
(1)プラスミドpET21a-FRT-lacIQ1-hpaBCの作製
pET21a-FRTを鋳型として、pET21a-FRT-lacIQ1-F(CAACACCATGGAGCGGCATGCATTTACGTTGACACCACCTTTCGCGGTATGGCATGATAG,配列番号27)とpET21a-FRT-lacIQ-R(CAACACCATGGCGGGATCTCGACGCTCTCC,配列番号28)のプライマーペアを用いて、Phusion Hot Start II DNAポリメラーゼによりDNAを増幅した。なお、PCR反応の条件は、説明書に記載の基本的な条件に基づいて行った。増幅されたDNAはQIAquick Gel Extraction kitを用いて精製した。精製したDNAをそれぞれNcoIとDpnIで消化し、該当のDNAをゲルから抽出・精製した。精製されたDNAを常法によりSelf-ligationし、大腸菌DH5αを形質転換し、20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地を用いて37℃で一晩培養した。菌株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPureを用いてプラスミドpET21a-FRT-lacIQ1を抽出し精製した。
つぎにpET21a-FRT-hpaBCを鋳型として、hpaBC-FとhpaBC-Rのプライマーセットを用いて、hpaBCオペロンのDNAをPCRで増幅した。PCR酵素にはPhusion Hot Start 2 DNA Polymerase(Thermo Fisher Scientific社製)を用い、添付の説明書に従って反応を行った。PCRでの増幅産物をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製した後、制限酵素NdeIとXhoIで消化したpET21a-FRT-lacIQ1ベクターとGibson Assembly Master Mix(New England Biolabs社製)を用いて反応させた。反応液を大腸菌DH5αコンピテントセル(GMbiolab社製)と混ぜて氷上で40分間静置した後、42℃で45秒間ヒートショックを行い、再び氷上で2分間静置した後にLB液体培地を900μL加えて37℃で30分間恒温した。適量の菌液を50μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に塗布し、37℃で一晩培養した。
培養後のコロニーから目的とするプラスミドを有するものをコロニーダイレクトPCRで選別した。EmeraldAmp PCR Master Mix(タカラバイオ社製)に添付の説明書に従って、反応液にT7プロモータープライマーとT7ターミネータープライマーを規定量添加し、コロニーを鋳型DNAとして加えてPCRを行った。反応後に1%のアガロースゲルを用いて電気泳動を行い、hpaBCのインサートが確認されたものを候補菌株とした。
候補菌株を50μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地を用いて37℃で一晩培養し、NucleoSpin Plasmid QuickPure(マッハライ・ナーゲル社製)を用いてプラスミド抽出を行い、pET21a-FRT-lacIQ1-hpaBCを得た。
【0052】
(2)E株の作製
染色体DNAのtyrB座位にlacIQ1とhpaBC遺伝子が挿入された菌株(E株)の作製は、A株の作製と同様に行った。染色体に挿入するための遺伝子カセットをPCRで増幅するために、鋳型DNAにプラスミドpET21a-FRT-lacIQ1-hpaBC、プライマーにDelta-tyrB-Q-F(GTTTATTGTGTTTTAACCACCTGCCCGTAAACCTGGAGAACCATCGCGTGGTGCGGCGACGATAGTCATG,配列番号29)とdelta-tyrB-FRT-R(GCTGGGTAGCTCCAGCCTGCTTTCCTGCATTACATCACCGCAGCAAACGCATTCGCCAATCCGGATATAG,配列番号30)のプライマーセットを用いた。また、tyrB座位へのlacIQ1とhpaBC遺伝子の挿入を確認するために、K2とDown-tyrB(CGCTTTGCTGTTTTGCCGAG,配列番号31)のプライマーセットを用いた。
【0053】
6.P1ファージライセートの調製
A株、B株、C株、D株、又はE株を20μg/mLのカナマイシンを含む5mLのLB液体培地に植菌し、37℃でOD660が0.1程度になるまで培養した。1M塩化カルシウムを50μL添加し、さらに100μLのP1ファージ溶液(>108pfu/mL)を添加して37℃で3~4時間程度培養した。10,000rpmで5分間遠心分離し、上澄みを0.2μmのポアサイズの滅菌フィルターでろ過することで、P1ファージライセートを得た。
【0054】
7.ヒドロキシチロソール生産菌F株の作製
フェニルアラニン生産菌P株を5mLのLB液体培地を用いて37℃で一晩培養した。50μLの1M塩化カルシウムを加えて良く撹拌した後、200μlを1.5mLチューブに移した。そこにA株のP1ファージライセートを20μL加えて混合し、37℃で20分間恒温した。1Mのクエン酸3ナトリウム溶液を100μLとLB液体培地を700μL加えて混合した後に、37℃でさらに40分間恒温した。20μg/mLのカナマイシンを含むLB寒天培地に菌液を塗布し、37℃で一晩培養した。K2とDown-feaBのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のfeaB-ldhA座位にFRT-Km-FRT-T7p-tyrAfbrが挿入されていることを確認した。
なお、P株は、特許文献1のPhe13株に該当し、同文献を参照して作製できる。また、Koma et al. (2020) Appl. Environ. Microbiol. 86:e00525-20にも記載されている。これらの文献は参照により援用される。
つぎにこの株を20μg/mLのカナマイシンを含むLB液体培地で培養し、OD660の値が0.5程度になるまで培養した。培養液を氷冷した後、1mLの培養液を10,000rpm、4℃で3分間遠心分離し、上清を捨てた。菌体を100μLのTSS溶液(10%ポリエチレングリコール3350、5%ジメチルスルホキシド、70mM塩化マグネシウム、0.1M塩化カリウム、30mM塩化カルシウム)に懸濁し、50ng/μLのpCP20プラスミド溶液を1μL添加し、氷中で30分間静置した。42℃で90秒間ヒートショックした後に氷中で2分間静置し、900μLのLB培地を加え、100μLを50μg/mLのアンピシリンを含むLB寒天培地に塗布した。30℃で一晩培養し、出現したコロニーをLB寒天培地にストリークして、42℃で一晩培養した。つぎに、出現したコロニーを新たなLB寒天培地にストリークして、37℃で一晩培養した。Down-ldhA2(GTCTGTTTTGCGGTCGC,配列番号32)とDown-feaBのプライマーペアを用いて、feaB-ldhA座位に挿入されたFRT-Km-FRT-tyrAfbrからカナマイシン耐性遺伝子が除去されたことを確認した。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、C株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-pykAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のpykA座位にFRT-Km-FRT-T7p-yahKが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、pykA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-yahKからカナマイシン耐性遺伝子を除去した。除去の確認は、UP-pykA(ACGCATGAGTTGTATGAATTGTAG,配列番号33)とDown-pykAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、B株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-mtlAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のmtlA座位にFRT-Km-FRT-T7p-pdcが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、mtlA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-pdcからカナマイシン耐性遺伝子を除去した。除去の確認は、UP-mtlA(GCCAGAAGGGAGTCAGGCTG,配列番号34)とDown-mtlAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
つぎに、得られた株を先と同様の方法に従って、D株のP1ファージライセートと反応させた。K2とDown-pheAのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のpheA座位にFRT-Km-FRT-T7p-hpaBCが挿入されていることを確認した。つぎに先と同様の方法に従って、pCP20を用いて、pheA座位に挿入したFRT-Km-FRT-T7p-hpaBCからカナマイシン耐性遺伝子を除去し、ヒドロキシチロソール生産菌のF株を得た。除去の確認は、UP-pheA(CTGATTAATCCACATATCATTCTGTC,配列番号35)とDown-pheAのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
【0055】
8.ヒドロキシチロソール生産菌G株の作製
ヒドロキシチロソール生産菌F株の作製と同様の方法により、F株をE株のP1ライセートと反応させた。K2とDown-tyrBのプライマーペアを用いたコロニーダイレクトPCRを行い、得られた株のtyrB座位にFRT-Km-FRT-lacIQ1-T7p-hpaBCが挿入されていることを確認した。つぎにpCP20を用いて、tyrB座位に挿入したFRT-Km-FRT-lacIQ1-T7p-hpaBCからカナマイシン耐性遺伝子を除去し、ヒドロキシチロソール生産菌のG株を得た。除去の確認は、UP-tyrB(CAGTGCTGGTGAACGGTCG,配列番号36)とDown-tyrBのプライマーセットを用いたコロニーダイレクトPCRで行った。
【0056】
9.グルコース流加培養1
LB寒天培地に生育したF株、又はG株をLB液体培地に植菌し、33℃で8時間振とう培養した。15mLの培養液を1.5LのHCF(+Phe)培地を含む3L容のジャーファーメンターに植菌して培養を開始した。
ジャーファーメンターには、丸菱バイオエンジニアリング社製のBioneerシリーズMDL-8Cを用いた。
HCF(+Phe)培地の組成は、1168mLの蒸留水に、150mLの10×リン酸/クエン酸緩衝液、3.6mLの500g/L硫酸マグネシウム7水和物水溶液、15mLの100×微量金属溶液、63.4mLの700g/Lグルコース溶液、340μLの20g/Lチアミン塩酸塩溶液、100mLの1.24g/100mLフェニルアラニン溶液を加えたものである(培地中のフェニルアラニン濃度は5mM)。
蒸留水と10×リン酸/クエン酸緩衝液をジャーファーメンターのベッセルに入れてオートクレーブ滅菌しておき、滅菌後の溶液が室温に戻った後に、別でオートクレーブ滅菌しておいた硫酸マグネシウム溶液とグルコース溶液、そしてろ過除菌しておいたチアミン塩酸塩溶液、微量金属溶液、およびフェニルアラニン溶液を加えた。
10×リン酸/クエン酸緩衝液の組成は、133g/Lリン酸2水素カリウム、40g/Lリン酸水素2アンモニウム、17g/Lクエン酸であり、5MのNaOHを用いてpHを6.3に調整した。100×微量金属溶液の組成は、10g/Lクエン酸鉄(III)、0.25g/L塩化コバルト6水和物、1.5g/L塩化マンガン4水和物、0.15g/L塩化銅2水和物、0.3g/Lホウ酸、0.25g/Lモリブデン酸ナトリウム2水和物、1.3g/L酢酸亜鉛2水和物、0.84g/Lエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩二水和物である。
【0057】
培養は33℃で行い、通気量は3L/分とし、溶存酸素量の値が30%となるように回転数を自動調整した。pHは6.8で制御し、pHの制御には28%のアンモニア水を用いた。培養開始後、菌株のOD660の値が17~29に達した時にイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(IPTG)を1mMとなるように添加し、培養温度を30℃、pHを6.5に変更した。F株の培養の際には、菌数を増加させるために、必要に応じて1.24g/100mLのフェニルアラニン溶液を3度添加した。
途中グルコースが枯渇した場合、又は枯渇しそうな場合には、グルコース濃度が10g/L程度になるようにフィード溶液(+Phe)を適時添加した。フィード溶液(+Phe)は、136mLの蒸留水に280gのグルコースを加えてオートクレーブ滅菌し、溶液が50℃程度に冷えた後に別滅菌しておいた500g/L硫酸マグネシウム7水和物水溶液を16mL、ろ過除菌しておいた100×微量金属溶液を4mL、ろ過除菌しておいた20g/Lチアミン塩酸塩溶液を900μL、ろ過除菌しておいた0.66g/50mLのフェニルアラニン溶液を50mL加えることで調製した。
【0058】
培養液は適時サンプリングし、分光光度計によるOD660の値の測定、HPLCによるチロソール、ヒドロキシチロソール、フェニルアラニン及び2-フェニルエタノールの定量を行った。
HPLCによる定量は既報(Koma et al. 2012. Appl. Microbiol. Biotechnol. 93:815-829)にある芳香族化合物の定量方法を用い、検量線の作製にはヒドロキシチロソール、チロソール、フェニルアラニン及び2-フェニルエタノールの標品(東京化成工業株式会社製)を用いた。
【0059】
10.グルコース流加培養2
LB寒天培地に生育したG株をLB液体培地に植菌し、33℃で8時間振とう培養した。15mLの培養液を1.5LのHCF(+Phe)培地を含む3L容のジャーファーメンターに植菌して培養を開始した。培養条件やジャーファーメンターの設定等は、グルコース流加培養1と同様にした。ただし、IPTGの添加は培地のグルコースが枯渇した時に行った(OD660が29.0であった)。また、IPTGを添加した直後、オートクレーブ滅菌した150g/L粉末酵母エキスD3-H溶液を50mL加えて、100分間はグルコースが枯渇した状態で培養し、その後にグルコースの流加培養を開始した。グルコースのフィードに関しては、グルコース流加培養1に準じた。なお、IPTGを添加した際、pHは6.5に変更したが、培養温度は33℃のままとした。
培養液は適時サンプリングし、分光光度計によるOD660の値の測定、HPLCによるチロソール、ヒドロキシチロソール及びフェニルアラニンの定量を行った。
【0060】
11.結果
(1)グルコース流加培養1のF株
F株のグルコース流加培養1の結果を図5に示す。
・HCF(+Phe)培地で、16時間後にOD660の値が9.2で停止していた。16.5時間後にフェニルアラニン(Phe)を添加したところOD660の値が向上し始めた。19時間後にもOD660の値が停止したため、フェニルアラニンを添加した。20時間後にIPTGを添加した際に、フェニルアラニンが枯渇した状態ではヒドロキシチロソール(HTY)を合成するためのタンパク質が作れなくなるため、フェニルアラニンを添加した。
・2g/L以上の2-フェニルエタノール(2PE)が培地に蓄積した。
・チロソールの生産量は5.7g/Lであった。
・ヒドロキシチロソールの生産量は2.6g/Lであった。
・OD660は21.6までしか向上しなかった。フェニルアラニンを添加すればもう少し向上すると思われるが、同時に副産物である2-フェニルエタノールの蓄積量も増加すると考えられる。
・F株のOD660の値の低さと2PEの蓄積は、試験管培養では予想できない結果であった。
・フェニルアラニン要求性(Δphe)であるF株が、増殖能が悪く、2PEが蓄積するのは、添加したフェニルアラニンがエールリッヒ経路(図3の点線矢印の経路)により消費され、2-フェニルエタノールに変換されるためであると考えられる。
・なお、F株の試験管培養を行うと、HCF培地+5mM Phe培地を用いた48時間培養後に、OD660が2.6でヒドロキシチロソール濃度が1.3g/Lとなった。試験管培養としては良好な結果であり、やや増殖は悪いものの高いHTY濃度が認められ、ジャーファーメンターの培養におけるF株の図5の結果は予想できなかった。
【0061】
(2)グルコース流加培養1のG株
G株のグルコース流加培養1の結果を図6に示す。
・OD660は35を超えた。培地に添加するフェニルアラニン(Phe)は初期の分とフィード溶液に加えた分のみであったが、菌株の増殖能はF株よりも大幅に向上した。
・2-フェニルエタノール(2PE)の蓄積量は0.35g/Lであった。
・チロソールは1.5g/L、ヒドロキシチロソール(HTY)は6.3g/Lの生産量であった。
・G株では、F株のエールリッヒ経路が破壊された(tyrB遺伝子が破壊された)ことにより(図4)、フェニルアラニンの消費が抑制され、G株の増殖能がF株と比べて大幅に向上し、2PEの蓄積量がF株と比べて大幅に減少し、HTYの生産性が向上した。
・なお、G株は、tyrB遺伝子が破壊されているが、チロシンを別途添加しなくても上記のような増殖能を示した。但し、G株は、F株同様、フェニルアラニン要求性(Δphe)である。
【0062】
(3)グルコース流加培養2のG株
G株のグルコース流加培養2の結果を図7に示す。
・OD660は35を超えた。
・IPTG添加後に粉末酵母エキスD3-Hを添加してHpaBCタンパク質の合成を促すことで、チロソールのヒドロキシチロソールへの変換能を向上させることを試みた。結果、チロソールは1.0g/L、ヒドロキシチロソール(HTY)は8.7g/Lの生産量であり、HTYの生産性がさらに向上した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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