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  • 特許-家畜受精卵回収装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】家畜受精卵回収装置
(51)【国際特許分類】
   A61D 19/02 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
A61D19/02 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018104313
(22)【出願日】2018-05-31
(65)【公開番号】P2019208563
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2021-05-07
(73)【特許権者】
【識別番号】518192002
【氏名又は名称】グー・エンブリオ・テクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】青柳 敬人
(72)【発明者】
【氏名】竹内 素
【審査官】山口 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125410(JP,A)
【文献】特開平11-019102(JP,A)
【文献】実開平01-080116(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2017/0360478(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61D 19/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
灌流液供給部から灌流液を吸引し、子宮内に灌流液を注入するための第1シリンジと、
第1シリンジに接続する、二又に分枝した第1送液ラインであって、灌流液供給部に接続するための第1-1の送液ライン部と、バルーンカテーテルに接続するための第1-2の送液ライン部とを具備する、第1送液ラインと、
子宮内に注入した灌流液を回収し、受精卵回収部に灌流液を排出するための第2シリンジと、
第2シリンジに接続する、二又に分枝した第2送液ラインであって、バルーンカテーテルに接続するための第2-1の送液ライン部と、受精卵回収部に接続するための第2-2の送液ライン部とを具備する、第2送液ラインと、
送液ライン内の灌流液の送液方向を制御する、送液方向制御部と、
第1シリンジ及び第2シリンジのポンプ動作を制御するシリンジポンプ制御部と、
ユーザーが指示を入力するための入力部と
を具備し、
第1-2の送液ライン部と第2-1の送液ライン部が合流して、その先端にバルーンカテーテル連結部を備える、受精卵回収装置。
【請求項2】
シリンジポンプ制御部は、第1シリンジが灌流液供給部より灌流液を吸引する動作と、第2シリンジが子宮内より灌流液を回収する動作とを並行して実施するとともに、第1シリンジが灌流液を子宮内に注入する動作と、第2シリンジが回収した灌流液を受精卵回収部に排出する動作とを並行して実施する、請求項1記載の装置。
【請求項3】
送液方向制御部が、第1-1の送液ライン部、第1-2の送液ライン部、第2-1の送液ライン部、及び第2-2の送液ライン部のそれぞれに設けられた閉止弁と、該閉止弁の開閉を制御する弁制御部とを含む、請求項1又は2記載の装置。
【請求項4】
送液方向制御部が、第1送液ラインの分枝部、及び第2送液ラインの分枝部にそれぞれ設けられた第1の三方活栓及び第2の三方活栓と、該三方活栓の方向を制御する三方活栓制御部とを含む、請求項1又は2記載の装置。
【請求項5】
送液方向制御部が、第1-1の送液ライン部、第1-2の送液ライン部、第2-1の送液ライン部、及び第2-2の送液ライン部のそれぞれに設けられた逆止弁を含む、請求項1又は2記載の装置。
【請求項6】
請求項記載の受精卵回収装置の制御方法であって、
第1-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第1-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第1-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、第1-2の送液ライン部の閉止弁を閉止し、第2-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、第1-2の送液ライン部の閉止弁を開放し、第2-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD;
ステップC及びステップDを再度実行するステップEであって、1回又は2回以上実行される、ステップE;
第2-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF; 並びに
第2-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG
を含む、前記方法。
【請求項7】
請求項記載の受精卵回収装置の制御方法であって、
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を遮断した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を遮断し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を開放し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD';
ステップC'及びステップD'を再度実行するステップE'であって、1回又は2回以上実行される、ステップE';
第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF'; 並びに
第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG'
を含む、前記方法。
【請求項8】
請求項記載の受精卵回収装置の制御方法であって、
第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA'';
第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB'';
第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC'';
第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD'';
ステップC''及びステップD''を再度実行するステップE''であって、1回又は2回以上実行される、ステップE'';
第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF''; 並びに
第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG''
を含む、前記方法。
【請求項9】
ステップE、E'、又はE''が2回以上実行される、請求項のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
ユーザーの指示に応じて、シリンジの吸引・吐出液量が下記の設定1~設定4のいずれかから選択され、各ステップが実行される、請求項記載の方法。
<設定1>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが25ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが25ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが30ml±5ml吸引し、第2シリンジが25ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが30ml±5ml吐出し、第2シリンジが25ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが35ml±5ml吸引し、第2シリンジが30ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが35ml±5ml吐出し、第2シリンジが30ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが40ml±5ml吸引し、第2シリンジが35ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが40ml±5ml吐出し、第2シリンジが35ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが42.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが40ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが42.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが40ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが45ml±5ml吸引し、第2シリンジが42.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが45ml±5ml吐出し、第2シリンジが42.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが47.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが47.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが47.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが47.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが50ml±5ml吐出
<設定2>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが35ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが35ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが40ml±5ml吸引し、第2シリンジが35ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが40ml±5ml吐出し、第2シリンジが35ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが45ml±5ml吸引し、第2シリンジが40ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが45ml±5ml吐出し、第2シリンジが40ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが52.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが52.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが50ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが55ml±5ml吸引し、第2シリンジが52.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが55ml±5ml吐出し、第2シリンジが52.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが57.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが57.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが57.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが57.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが60ml±5ml吐出
<設定3>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが45ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが45ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが55ml±5ml吸引し、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが55ml±5ml吐出し、第2シリンジが50ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが62.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが62.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが60ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが65ml±5ml吸引し、第2シリンジが62.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが65ml±5ml吐出し、第2シリンジが62.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが67.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが65ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが67.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが65ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが70ml±5ml吸引し、第2シリンジが67.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが70ml±5ml吐出し、第2シリンジが67.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが70ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが70ml±5ml吐出
<設定4>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが55ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが55ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが65ml±5ml吸引し、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが65ml±5ml吐出し、第2シリンジが60ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが70ml±5ml吸引し、第2シリンジが65ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが70ml±5ml吐出し、第2シリンジが65ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが72.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが70ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが72.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが70ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが75ml±5ml吸引し、第2シリンジが72.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが75ml±5ml吐出し、第2シリンジが72.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが77.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが75ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが77.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが75ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが80ml±5ml吸引し、第2シリンジが77.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが80ml±5ml吐出し、第2シリンジが77.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが80ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが80ml±5ml吐出
【請求項11】
請求項10のいずれか1項に記載の受精卵回収装置の制御方法の各ステップを該装置のコンピュータに実行させるプログラム。
【請求項12】
請求項1~のいずれか1項に記載の装置を、子宮内に挿入されたバルーンカテーテルがバルーンカテーテル連結部に連結し、第1-1の送液ライン部先端が灌流液供給部に接続し、第2-2の送液ライン部先端が受精卵回収部に接続した状態にする工程1;
子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、灌流液供給部から第1シリンジ内に灌流液を吸引する工程2;
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから子宮内に灌流液を注入する工程3;
子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第1シリンジ内に灌流液を吸引するのと並行して、受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で子宮内の灌流液を回収する工程4;
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから子宮内に灌流液を注入するのと並行して、第2シリンジから子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程5;
工程4及び工程5を少なくとも1回さらに実行する工程6;
受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で子宮内の灌流液を回収する工程7; 及び
第2シリンジから子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程8
を含む、子宮内の受精卵を回収する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家畜受精卵回収装置、該装置の制御方法、該制御方法を実行するためのプログラム、及び家畜子宮内の受精卵を回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
国内の畜産・酪農の生産基盤の縮小とは裏腹に、生産者の所得向上の面からも乳牛を借り腹とした黒毛和種受精卵の移植例数は近年拡大している。
【0003】
一方、わが国の家畜改良増殖法や獣医師法により、牛生体の子宮からの受精卵の採取を実施できるのは国家試験に合格した獣医師に限られている。また産業動物に係わる獣医師そのものが少ない中、牛受精卵の採卵技術者も不足しているのが現状である。さらには牛生体子宮からの非外科的な採卵に関する技術は一定の経験と熟練を要するため、かなり難易度の高い技術ともなっている。そのような背景から生産数量が伸びず、体内受精卵の生産が需要に追い付かない最大の要因となっている。
【0004】
牛の生体子宮内から受精卵を回収する方法として一般的に行われているのは、子宮内循環灌流法(非特許文献1)と呼ばれる方法であり、バルーンカテーテルを子宮角内に挿入、固定し、子宮角内に灌流液を注入し、受精卵と共に回収する。そして、子宮内循環灌流法により牛子宮内の受精卵を回収する省力的で簡易な装置として、灌流液の注入に電池式エアポンプを利用する装置が報告されている(非特許文献2、3)。これらの装置によれば、大気圧を利用した自然流下式と比べて灌流液の注入速度を高めることができ、回収作業時間を短縮できるとされている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】金川弘司編著、「牛の受精卵移植」、近代出版、1984年3月10日発行、第38頁~第52頁
【文献】小松洋太郎ら、「どこでもかん流装置」による採卵方法の検討(長野県ウェブサイトのホーム>伊那家畜保健衛生所>調査・研究>調査、2002年、全文原稿 https://www.pref.nagano.lg.jp/inakachiku/chosa/documents/2002komatsu-paper.pdf)
【文献】福見善之, 立川進、受精卵移植簡易化技術の確立(簡易採卵技術の開発)、徳島県立農林水産総合技術センター畜産研究所研究報告、(3) 2003.12 p.27~30
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、家畜、特に牛の生体子宮からの受精卵の回収を、熟練技術者と変わらない精度で簡易かつ短時間で実施することを可能にする手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、以下の発明を完成した。
(1) 灌流液供給部から灌流液を吸引し、子宮内に灌流液を注入するための第1シリンジと、
第1シリンジに接続する、二又に分枝した第1送液ラインであって、灌流液供給部に接続するための第1-1の送液ライン部と、バルーンカテーテルに接続するための第1-2の送液ライン部とを具備する、第1送液ラインと、
子宮内に注入した灌流液を回収し、受精卵回収部に灌流液を排出するための第2シリンジと、
第2シリンジに接続する、二又に分枝した第2送液ラインであって、バルーンカテーテルに接続するための第2-1の送液ライン部と、受精卵回収部に接続するための第2-2の送液ライン部とを具備する、第2送液ラインと、
送液ライン内の灌流液の送液方向を制御する、送液方向制御部と、
第1シリンジ及び第2シリンジのポンプ動作を制御するシリンジポンプ制御部と、
ユーザーが指示を入力するための入力部と
を具備し、
第1-2の送液ライン部と第2-1の送液ライン部が合流して、その先端にバルーンカテーテル連結部を備える、受精卵回収装置。
(2) シリンジポンプ制御部は、第1シリンジが灌流液供給部より灌流液を吸引する動作と、第2シリンジが子宮内より灌流液を回収する動作とを並行して実施するとともに、第1シリンジが灌流液を子宮内に注入する動作と、第2シリンジが回収した灌流液を受精卵回収部に排出する動作とを並行して実施する、(1)記載の装置。
() 送液方向制御部が、第1-1の送液ライン部、第1-2の送液ライン部、第2-1の送液ライン部、及び第2-2の送液ライン部のそれぞれに設けられた閉止弁と、該閉止弁の開閉を制御する弁制御部とを含む、(1)又は(2)記載の装置。
() 送液方向制御部が、第1送液ラインの分枝部、及び第2送液ラインの分枝部にそれぞれ設けられた第1の三方活栓及び第2の三方活栓と、該三方活栓の方向を制御する三方活栓制御部とを含む、(1)又は(2)記載の装置。
() 送液方向制御部が、第1-1の送液ライン部、第1-2の送液ライン部、第2-1の送液ライン部、及び第2-2の送液ライン部のそれぞれに設けられた逆止弁を含む、(1)又は(2)記載の装置。
() ()記載の牛受精卵回収装置の制御方法であって、
第1-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第1-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第1-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、第1-2の送液ライン部の閉止弁を閉止し、第2-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC;
第1-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、第1-2の送液ライン部の閉止弁を開放し、第2-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD;
ステップC及びステップDを再度実行するステップEであって、1回又は2回以上実行される、ステップE;
第2-1の送液ライン部の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF; 並びに
第2-1の送液ライン部の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG
を含む、前記方法。
() ()記載の受精卵回収装置の制御方法であって、
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を遮断した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を遮断し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC';
第1の三方活栓により、第1シリンジと第1-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第1シリンジと第1-2の送液ライン部の間の送液を開放し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD';
ステップC'及びステップD'を再度実行するステップE'であって、1回又は2回以上実行される、ステップE';
第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を開放し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF'; 並びに
第2の三方活栓により、第2シリンジと第2-1の送液ライン部との間の送液を遮断し、第2シリンジと第2-2の送液ライン部との間の送液を開放した状態で、第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG'
を含む、前記方法。
() ()記載の受精卵回収装置の制御方法であって、
第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吸引動作を実行するステップA'';
第2シリンジを動作させずに第1シリンジの吐出動作を実行するステップB'';
第1シリンジの吸引動作及び第2シリンジの吸引動作を並行して実行するステップC'';
第1シリンジの吐出動作及び第2シリンジの吐出動作を並行して実行するステップD'';
ステップC''及びステップD''を再度実行するステップE''であって、1回又は2回以上実行される、ステップE'';
第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吸引動作を実行するステップF''; 並びに
第1シリンジを動作させずに第2シリンジの吐出動作を実行するステップG''
を含む、前記方法。
() ステップE、E'、又はE''が2回以上実行される、()~()のいずれか1項に記載の方法。
(10) ユーザーの指示に応じて、シリンジの吸引・吐出液量が下記の設定1~設定4のいずれかから選択され、各ステップが実行される、()記載の方法。
<設定1>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが25ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが25ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが30ml±5ml吸引し、第2シリンジが25ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが30ml±5ml吐出し、第2シリンジが25ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが35ml±5ml吸引し、第2シリンジが30ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが35ml±5ml吐出し、第2シリンジが30ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが40ml±5ml吸引し、第2シリンジが35ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが40ml±5ml吐出し、第2シリンジが35ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが42.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが40ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが42.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが40ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが45ml±5ml吸引し、第2シリンジが42.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが45ml±5ml吐出し、第2シリンジが42.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが47.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが47.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが47.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが47.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが50ml±5ml吐出
<設定2>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが35ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが35ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが40ml±5ml吸引し、第2シリンジが35ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが40ml±5ml吐出し、第2シリンジが35ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが45ml±5ml吸引し、第2シリンジが40ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが45ml±5ml吐出し、第2シリンジが40ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが52.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが52.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが50ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが55ml±5ml吸引し、第2シリンジが52.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが55ml±5ml吐出し、第2シリンジが52.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが57.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが57.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが57.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが57.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが60ml±5ml吐出
<設定3>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが45ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが45ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが50ml±5ml吸引し、第2シリンジが45ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが50ml±5ml吐出し、第2シリンジが45ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが55ml±5ml吸引し、第2シリンジが50ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが55ml±5ml吐出し、第2シリンジが50ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが62.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが62.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが60ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが65ml±5ml吸引し、第2シリンジが62.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが65ml±5ml吐出し、第2シリンジが62.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが67.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが65ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが67.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが65ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが70ml±5ml吸引し、第2シリンジが67.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが70ml±5ml吐出し、第2シリンジが67.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが70ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが70ml±5ml吐出
<設定4>
(1) ステップA, A', A''において、第1シリンジが55ml±5ml吸引
(2) ステップB, B', B''において、第1シリンジが55ml±5ml吐出
(3) ステップC, C', C''において、第1シリンジが60ml±5ml吸引し、第2シリンジが55ml±5ml吸引
(4) ステップD, D', D''において、第1シリンジが60ml±5ml吐出し、第2シリンジが55ml±5ml吐出
(5) ステップE, E', E''において、
(5-1) 第1シリンジが65ml±5ml吸引し、第2シリンジが60ml±5ml吸引
(5-2) 第1シリンジが65ml±5ml吐出し、第2シリンジが60ml±5ml吐出
(5-3) 第1シリンジが70ml±5ml吸引し、第2シリンジが65ml±5ml吸引
(5-4) 第1シリンジが70ml±5ml吐出し、第2シリンジが65ml±5ml吐出
(5-5) 第1シリンジが72.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが70ml±5ml吸引
(5-6) 第1シリンジが72.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが70ml±5ml吐出
(5-7) 第1シリンジが75ml±5ml吸引し、第2シリンジが72.5ml±5ml吸引
(5-8) 第1シリンジが75ml±5ml吐出し、第2シリンジが72.5ml±5ml吐出
(5-9) 第1シリンジが77.5ml±5ml吸引し、第2シリンジが75ml±5ml吸引
(5-10) 第1シリンジが77.5ml±5ml吐出し、第2シリンジが75ml±5ml吐出
(5-11) 第1シリンジが80ml±5ml吸引し、第2シリンジが77.5ml±5ml吸引
(5-12) 第1シリンジが80ml±5ml吐出し、第2シリンジが77.5ml±5ml吐出
(6) ステップF, F', F''において、第2シリンジが80ml±5ml吸引
(7) ステップG, G', G''において、第2シリンジが80ml±5ml吐出
(11) ()~(10)のいずれか1項に記載の受精卵回収装置の制御方法の各ステップを該装置のコンピュータに実行させるプログラム。
(12) (1)~()のいずれか1項に記載の装置を、子宮内に挿入されたバルーンカテーテルがバルーンカテーテル連結部に連結し、第1-1の送液ライン部先端が灌流液供給部に接続し、第2-2の送液ライン部先端が受精卵回収部に接続した状態にする工程1;
子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、灌流液供給部から第1シリンジ内に灌流液を吸引する工程2;
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから子宮内に灌流液を注入する工程3;
子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第1シリンジ内に灌流液を吸引するのと並行して、受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で子宮内の灌流液を回収する工程4;
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから子宮内に灌流液を注入するのと並行して、第2シリンジから子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程5;
工程4及び工程5を少なくとも1回さらに実行する工程6;
受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で子宮内の灌流液を回収する工程7; 及び
第2シリンジから子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程8
を含む、子宮内の受精卵を回収する方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の装置によれば、第1シリンジが灌流液供給部より灌流液を吸引する動作と、第2シリンジが家畜子宮内より灌流液を回収する動作が並行して実施されるともに、第1シリンジが灌流液を家畜子宮内に注入する動作と、第2シリンジが回収した灌流液を受精卵回収部に排出する動作とが並行して実施される。これにより、灌流液の出し入れを高速に実施可能となり、家畜生体子宮からの受精卵回収作業時間が大幅に短縮される。ユーザーはバルーンカテーテルを子宮角に挿入、固定する技術があればよく、家畜子宮サイズに適したシリンジ吸引・吐出液量を選択するのみで、熟練技術者と変わらない精度で簡易迅速に生体子宮内の受精卵を回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】送液方向制御部として閉止弁を採用した、第1態様に係る本発明の受精卵回収装置の構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明が対象とする家畜は、一般に大型哺乳動物であり、典型的には牛であるが、豚等の他の家畜にも適用可能である。以下、本明細書において、牛子宮内からの受精卵の回収を中心に本発明を説明するが、牛以外の家畜への適用を排除するものではない。
【0011】
本発明の装置の構成を図面に基づいて説明する。後述する通り、本発明の装置には、送液方向制御部の違いにより3つの態様があるが、図1に示した例はそのうちの1態様である。
【0012】
本発明の装置10は、2つのシリンジを含む。第1シリンジ20は、灌流液供給部から灌流液を吸引し、家畜子宮内に灌流液を注入するためのシリンジである。第2シリンジ30は、家畜子宮内に注入した灌流液を回収し、受精卵回収部に灌流液を排出するためのシリンジである。シリンジの容量は、受精卵を回収する家畜の子宮サイズに応じて選択できるが、通常は100mlの容量があれば十分である。
【0013】
灌流液を送液する送液ラインは、第1シリンジ20に接続する第1送液ライン210と、第2シリンジ30に接続する第2送液ライン310を含む。第1送液ライン210は二又に分かれ、第1-1の送液ライン部211と第1-2の送液ライン部212を構成する。第2送液ライン310も二又に分かれ、第2-1の送液ライン部311と第2-2の送液ライン部312を構成する。第1-1の送液ライン部211は、灌流液供給部に接続するためのラインである。第1-2の送液ライン部212と第2-1の送液ライン部311は合流し、その先端にバルーンカテーテル連結部60が設けられる。第2-2の送液ライン部312は、受精卵回収部に接続するためのラインである。送液ラインに添え書きされた黒い矢印は、灌流液の送液方向を示している。
【0014】
送液ラインは、シリコーン樹脂や塩化ビニル樹脂等の可撓性樹脂からなるチューブを三又の連結部材(Y字コネクタ)によって連結して構成することができる。装置上に送液ラインを着脱可能に保持するライン保持部が設けられ、送液ラインの洗浄再利用や使い捨てを可能とすることが好ましい。
【0015】
灌流液供給部は、装置の使用時に第1-1の送液ライン部211の先端に接続される。灌流液供給部は、灌流液が封入されたビニルバッグやボトル等の容器を含む。灌流液は、従来より子宮内灌流法による牛受精卵の回収方法に用いられている灌流液と同じものを用いてよい。具体例として、生理食塩水、リンゲル液、一般的に使用されている点滴用哺液製剤、イーグルMEMおよびダルベッコPBS等に非働化血清や牛血清アルブミン製剤等を適量加えた溶液を挙げることができる。
【0016】
バルーンカテーテル連結部60には、装置の使用時に、バルーンカテーテルの主管が連結される。着脱可能に液密に連結できれば連結部の構造は限定されないが、通常、バルーンカテーテルの主管側の連結部が雌側構造になっているので、この雌側構造に差し込む雄側構造の連結部材をバルーンカテーテル連結部として、合流した送液ラインの先端に配置すればよい。
【0017】
本発明の装置に接続して用いるバルーンカテーテルは特に限定されず、従来より家畜の受精卵回収に用いられているバルーンカテーテルを用いることができる。牛の子宮から受精卵を回収する場合には、牛用のバルーンカテーテルを用いればよく、豚の子宮から受精卵を回収する場合には、豚用のバルーンカテーテルを用いればよい。
【0018】
受精卵回収部は、装置の使用時に第2-2の送液ライン部312の先端に接続される。受精卵回収部は、家畜子宮内から回収された灌流液中の受精卵を分離回収するためのフィルターを含み、さらに、所望により灌流液排液を受ける容器を含んでいてもよい。フィルターは、従来の子宮内循環灌流法に用いられているものを用いることができる。
【0019】
送液方向制御部50は、送液ライン内の灌流液の送液方法を制御する。送液方向制御部50によって、第1-1の送液ライン部211では、第1シリンジ20から灌流液供給部に向かう灌流液の流れが防止され、第1-2の送液ライン部212では、家畜子宮内から第1シリンジ20に向かう灌流液の流れが防止され、第2-1の送液ライン部311では、第2シリンジ30から家畜子宮内に向かう灌流液の流れが防止され、第2-2の送液ライン部312は、受精卵回収部から第2シリンジ30に向かう灌流液の流れが防止される。送液方向制御部50の態様には、以下の3つの態様が包含される。
【0020】
第1態様において、送液方向制御部50は、第1-1の送液ライン部211、第1-2の送液ライン部212、第2-1の送液ライン部311、及び第2-2の送液ライン部312のそれぞれに設けられた閉止弁と、該閉止弁の開閉を制御する弁制御部とを含む。図1に例示した本発明の装置10は、この第1の態様の例である。閉止弁の具体例として、ピンチ弁、二方活栓等を挙げることができる。ピンチ弁の場合、弁制御部は、ピンチ弁が送液ラインを挟んで閉止する動作と、ピンチ弁を開放する動作を制御する。二方活栓の場合、栓のレバーを閉止位置と開放位置に切り替える動作を制御する。
【0021】
第2態様において、送液方向制御部50は、第1送液ライン210の分枝部、及び第2送液ライン310の分枝部にそれぞれ設けられた第1の三方活栓及び第2の三方活栓と、該三方活栓の方向を制御する三方活栓制御部とを含む。三方活栓制御部は、栓のレバーの位置を切り替える動作を制御する。第1の三方活栓の制御においては、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を開放し、かつ、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212の間の送液を遮断した状態と、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を遮断し、かつ、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212との間の送液を開放した状態を切り替える動作を制御する。第2の三方活栓の制御においては、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を開放し、かつ、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を遮断した状態と、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を遮断し、かつ、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を開放した状態とを切り替える動作を制御する。
【0022】
第3態様において、送液方向制御部50は、第1-1の送液ライン部211、第1-2の送液ライン部212、第2-1の送液ライン部311、及び第2-2の送液ライン部312のそれぞれに設けられた逆止弁を含む。灌流液供給部→第1シリンジ→バルーンカテーテル(家畜子宮内)→第2シリンジ→受精卵回収部の方向に灌流液が流れるように逆止弁の向きが設定されていればよい。
【0023】
シリンジポンプ制御部40、40’は、第1シリンジ20及び第2シリンジ30のポンプ動作を制御する。例えば、シリンジポンプ制御部40、40’は、直線上を往復する動作が可能なシリンジ内筒保持部を含む。2つのシリンジの外筒が、装置上に動かないように保持固定され、それぞれの内筒が内筒保持部によって保持される。内筒保持部の往復動作はシリンジ外筒の向きと平行であり、内筒保持部の動作によって内筒が吸引方向と吐出方向に動作する。2つのシリンジは装置上に着脱可能に固定ないし保持され、洗浄再利用や使い捨てを可能とすることが好ましい。
【0024】
灌流液の送液速度は、シリンジポンプ制御部40、40’によるシリンジ内筒の移動速度によって定まる。送液速度は500~1500 ml/分程度であればよく、700~1000 ml/分程度が好ましい。
【0025】
シリンジポンプ制御部40、40’は、第1シリンジ20内及び第2シリンジ30内への灌流液の吸引動作を並行して行なうとともに、第1シリンジ20及び第2シリンジ30からの灌流液の吐出動作を並行して(同時に)行なう。第1シリンジ20内への灌流液の吸引動作とは、灌流液供給部からの灌流液の吸引動作である。第1シリンジ20からの灌流液の吐出動作とは、家畜子宮内に灌流液を注入する動作である。第2シリンジ30内への灌流液の吸引動作とは、家畜子宮内より灌流液を回収する動作である。第2シリンジ30からの灌流液の吐出動作とは、家畜子宮内より回収した灌流液を受精卵回収部に排出する動作である。すなわち、シリンジポンプ制御部40、40’は、第1シリンジ20が灌流液供給部より灌流液を吸引する動作と、第2シリンジ30が家畜子宮内より灌流液を回収する動作とを並行して実施するとともに、第1シリンジ20が灌流液を家畜子宮内に注入する動作と、第2シリンジ30が回収した灌流液を受精卵回収部に排出する動作とを並行して実施する。第1シリンジ20の動作開始と第2シリンジ30の動作開始との間には若干の(1~3秒程度以内の)タイムラグがあって差し支えない。
【0026】
シリンジポンプ制御部40、40’による吸引・排出動作(ポンプ動作)の制御と、送液方向制御部50による送液方向の制御が連動して行われることで、第1シリンジ20による灌流液供給部からの灌流液の吸引と第2シリンジ30による家畜子宮内からの灌流液の回収、並びに第1シリンジ20による家畜子宮内への灌流液の注入と第2シリンジ30による受精卵回収部への灌流液の排出を、それぞれ並行して実施することが可能となる。なお、上記した第3の態様の場合、逆止弁によって送液方向は一定の方向に定められるので、シリンジポンプ制御部40、40’と送液方向制御部50が連動して動作することなく、シリンジポンプ制御部40、40’によるポンプ動作の制御のみで2つのシリンジによる吸引動作と2つのシリンジによる吐出動作をそれぞれ並行して実施できる。
【0027】
入力部70、70’、70''は、ユーザーが指示を入力するための構成であり、タッチパネル、ボタン、スイッチ等を含み得る。図1の例では、入力部として、シートスイッチ(70、70’)とボタン(70'')が設けられている。入力部70は、第1シリンジ20のポンプ動作に関連する情報・指令を入力するためのシートスイッチであり、入力部70’は、第2シリンジ30のポンプ動作に関連する情報・指令を入力するためのシートスイッチである。
【0028】
本発明の装置は、シリンジに吸引する最初の液量(初回液量)、灌流回数、1回の灌流操作ごとに液量をどの程度増やすか、等をユーザーが入力部から入力ないし選択できる構成としてもよい。例えば、初回液量として20ml、液量増分を+3ml、灌流回数を5回として入力した場合に、第1シリンジと第2シリンジの1回目の吸引・吐出液量が20mlであり、毎回3mlずつ吸引・吐出液量を増やしながら灌流回数5回(第1シリンジが任意の量の灌流液を吸引、子宮内に吐出し、第2シリンジが当該灌流液を子宮内から回収・吐出する動作を1回の灌流とする)で動作を終了するように、装置を構成してよい。あるいはまた、家畜の子宮サイズに応じた何通りかの吸引・吐出液量のパターンが予め装置に設定されており、ユーザーがそれらのパターンの中から適切なものを選択できる構成としてもよい。図1の装置例は、4通りのパターンが装置に設定されており、4つのボタン70''によっていずれかのパターンをユーザーが選択する構成の例である。牛の場合の子宮サイズに応じた吸引・吐出液量のパターン設定の好ましい例は後述する。
【0029】
本発明の装置は、第1シリンジ20と第2シリンジ30の動作状態(吸引中か吐出中か、シリンジ内の液量が何mlか、等)を表示する液晶パネル等の表示部80、80’を備えていてもよい。入力部がタッチパネルである場合、タッチパネルが表示部を兼ねることができる。図1の例では、表示部80に第1シリンジ20の動作状態が、表示部80’に第2シリンジ30の動作状態が、それぞれ表示される。
【0030】
本発明の家畜受精卵回収装置の制御方法の各ステップを、上記した3つの態様ごとに説明する。
【0031】
第1態様の装置は、送液方向制御部として閉止弁を採用した態様であり、以下のステップA~Gをこの順番で含む。
【0032】
(ステップA)第1-1の送液ライン部211の閉止弁を開放し、かつ、第1-2の送液ライン部212の閉止弁を閉止した状態で、第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吸引動作を実行する。
【0033】
(ステップB)第1-1の送液ライン部211の閉止弁を閉止し、かつ、第1-2の送液ライン部212の閉止弁を開放した状態で、第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吐出動作を実行する。
【0034】
(ステップC)第1-1の送液ライン部211の閉止弁を開放し、第1-2の送液ライン部212の閉止弁を閉止し、第2-1の送液ライン部311の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部312の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジ20の吸引動作及び第2シリンジ30の吸引動作を並行して実行する。
【0035】
(ステップD)第1-1の送液ライン部211の閉止弁を閉止し、第1-2の送液ライン部212の閉止弁を開放し、第2-1の送液ライン部311の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部312の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジ20の吐出動作及び第2シリンジ30の吐出動作を並行して実行する。
【0036】
(ステップE)ステップC及びステップDを再度実行する。ステップEは、1回又は2回以上実行される。
【0037】
(ステップF)第2-1の送液ライン部311の閉止弁を開放し、かつ、第2-2の送液ライン部312の閉止弁を閉止した状態で、第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吸引動作を実行する。
【0038】
(ステップG)第2-1の送液ライン部311の閉止弁を閉止し、かつ、第2-2の送液ライン部312の閉止弁を開放した状態で、第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吐出動作を実行する。
【0039】
ステップA及びBでは、第2シリンジ30が動作しないため、第2-1の送液ライン部311及び第2-2の送液ライン部312の閉止弁は閉止状態でも開放状態でもよい。ステップF及びGでは、第1シリンジ20が動作しないため、第1-1の送液ライン部211及び第1-2の送液ライン部212の閉止弁は閉止状態でも開放状態でもよい。
【0040】
第2態様の装置は、送液方向制御部として三方活栓を採用した態様であり、以下のステップA'~G'をこの順番で含む。ステップA'~G'は、第1態様の制御方法におけるステップA~Gにそれぞれ対応する。
【0041】
(ステップA')第1の三方活栓により、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を開放し、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212の間の送液を遮断した状態で、第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吸引動作を実行する。
【0042】
(ステップB')第1の三方活栓により、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を遮断し、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212との間の送液を開放した状態で、第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吐出動作を実行する。
【0043】
(ステップC')第1の三方活栓により、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を開放し、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212の間の送液を遮断し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を開放し、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジ20の吸引動作及び第2シリンジ30の吸引動作を並行して実行する。
【0044】
(ステップD')第1の三方活栓により、第1シリンジ20と第1-1の送液ライン部211との間の送液を遮断し、第1シリンジ20と第1-2の送液ライン部212の間の送液を開放し、かつ、第2の三方活栓により、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を遮断し、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を開放した状態で、第1シリンジ20の吐出動作及び第2シリンジ30の吐出動作を並行して実行する。
【0045】
(ステップE')ステップC'及びステップD'を再度実行する。ステップE'は、1回又は2回以上実行される。
【0046】
(ステップF')第2の三方活栓により、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を開放し、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を遮断した状態で、第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吸引動作を実行する。
【0047】
(ステップG')第2の三方活栓により、第2シリンジ30と第2-1の送液ライン部311との間の送液を遮断し、第2シリンジ30と第2-2の送液ライン部312との間の送液を開放した状態で、第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吐出動作を実行する。
【0048】
ステップA'及びB'では、第2シリンジ30が動作しないため、第2の三方活栓の向きはどのような状態でもよく、第2シリンジ-第2-1の送液ライン部間が開放され他方が遮断された状態であってもよいし、第2シリンジ-第2-2の送液ライン部が開放され他方が遮断された状態であってもよい。同様に、ステップF'及びG'では、第1シリンジ20が動作しないため、第1の三方活栓の向きはどのような状態でもよく、第1シリンジ-第1-1の送液ライン部間が開放され他方が遮断された状態であってもよいし、第1シリンジ-第1-2の送液ライン部間が開放され他方が遮断された状態であってもよい。
【0049】
第3態様の装置は、送液方向制御部として逆止弁を採用した態様であり、以下のステップA''~G''をこの順番で含む。ステップA''~G''は、第1態様の制御方法におけるステップA~G、第2態様の制御方法におけるステップA'~G'にそれぞれ対応する。この態様では、送液方向制御部に開閉等の動作が無いため、送液方向制御部と連動することなくシリンジポンプ制御部が動作する。
【0050】
(ステップA'')第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吸引動作を実行する。
【0051】
(ステップB'')第2シリンジ30を動作させずに第1シリンジ20の吐出動作を実行する。
【0052】
(ステップC'')第1シリンジ20の吸引動作及び第2シリンジ30の吸引動作を並行して実行する。
【0053】
(ステップD'')第1シリンジ20の吐出動作及び第2シリンジ30の吐出動作を並行して実行する。
【0054】
(ステップE'')ステップC''及びステップD''を再度実行する。ステップE''は、1回又は2回以上実行される。
【0055】
(ステップF'')第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吸引動作を実行する。
【0056】
(ステップG')第1シリンジ20を動作させずに第2シリンジ30の吐出動作を実行する。
【0057】
第1シリンジによる灌流液の吸引・注入及び第2シリンジによる当該灌流液の回収・排出を1回の灌流操作とすると、本発明では、灌流操作を4回以上行なうことが好ましく、例えば4~10回、4~8回、又は6~8回程度行なってよい。ステップE、E'、E''(ステップC+D、ステップC'+D'、ステップC''+D'')を2回実施した場合、灌流操作の回数が4回となる。従って、本発明の装置の制御方法においては、ステップE、E'、E''を2回以上、例えば2~8回、2~6回、又は4~6回程度行なうことが好ましい。
【0058】
家畜が牛の場合、子宮サイズを以下のように小~特大に分類することができる。
【0059】
【表1】
【0060】
従って、本発明の装置を用いた牛の受精卵回収において、シリンジの吸引・吐出液量のパターンの好ましい具体例として、上記の4分類に応じた以下の4通りのパターンが挙げられる。表に示した液量は最も好ましい一例であり、±5mlの範囲で変更して差し支えない。例えば、表に示した液量+2mlのパターンで設定してもよい。
【0061】
【表2】
【0062】
【表3】
【0063】
【表4】
【0064】
【表5】
【0065】
本発明の装置は、上記のように予め設定されたパターンに変更を加えて灌流操作を実施できる構成であってもよい。例えば、設定4を選択し、灌流回数5回に変更して入力した場合に、ステップE, E', E''(3回目)の72.5mlの吸引・吐出で第1シリンジの動作が終了し、第2シリンジによる72.5ml吸引がステップF, F', F''、第2シリンジによる72.5ml吐出がステップG, G', G''となり、第2シリンジの動作が終了して灌流操作が終了するように、装置が構成されていてよい。また、例えば、設定4を選択し、液量を-5mlに変更して入力し、表5の液量を全て-5mlで実行することが可能な構成であってもよい。
【0066】
本発明の装置には、上記した制御方法の各ステップ(ステップA, A', A''~ステップG, G', G'')を該装置のコンピュータに実行させるプログラムが搭載されている。このプログラムにより、装置のシリンジポンプ制御部及び送液方向制御部(第1態様及び第2態様の場合)が連動して動作し、上記した制御方法の各ステップが実行される。表2~5に例示したような吸引・吐出液量のパターンもプログラムとして装置に搭載されていてよい。
【0067】
本発明の装置を用いて家畜子宮内の受精卵を回収する方法では、まず、家畜子宮内に挿入されたバルーンカテーテルがバルーンカテーテル連結部に連結し、第1-1の送液ライン部先端が灌流液供給部に接続し、第2-2の送液ライン部が受精卵回収部に接続した状態にする(工程1)。バルーンカテーテルを子宮内に挿入し、バルーンに空気を送り込んでバルーンを膨らませて左右どちらかの子宮角に固定後、装置のバルーンカテーテル連結部と接続すればよい。
【0068】
次いで、以下の工程2~8が実施される。
【0069】
家畜子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、灌流液供給部から第1シリンジ内に灌流液を吸引する工程2(上記のステップA, A', A''に相当)。
【0070】
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから家畜子宮内に灌流液を注入する工程3(ステップB, B', B''に相当)。
【0071】
家畜子宮内から第1シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第1シリンジ内に灌流液を吸引するのと並行して、受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で家畜子宮内の灌流液を回収する工程4(ステップC, C', C''に相当)。
【0072】
第1シリンジから灌流液供給部に向かう灌流液の流れを防止した状態で、バルーンカテーテル経由で第1シリンジから家畜子宮内に灌流液を注入するのと並行して、第2シリンジから家畜子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程5(ステップD, D', D''に相当)。
【0073】
工程4及び工程5を少なくとも1回さらに実行する工程6(ステップE, E', E''に相当)。
【0074】
受精卵回収部から第2シリンジに向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジによってバルーンカテーテル経由で家畜子宮内の灌流液を回収する工程7(ステップF, F', F''に相当)。
【0075】
第2シリンジから家畜子宮内に向かう灌流液の流れを防止した状態で、第2シリンジ内に回収した灌流液を受精卵回収部に排出する工程8(ステップG, G', G''に相当)。
【0076】
ステップE, E', E''に相当する工程6(工程4+工程5)は、上述したように、2回以上、例えば2~8回、2~6回、又は4~6回程度行なうことが好ましい。
【実施例
【0077】
送液方向制御部としてピンチ弁を採用した、図1に示す構成の家畜受精卵回収装置を作製した。該装置に牛用のバルーンカテーテルを接続し、牛生体子宮内からの受精卵回収を実施し、従来法の子宮内循環灌流法による受精卵回収法(灌流液を自然落下式で子宮内に注入、非特許文献1)との間で作業時間及び回収精度を比較した。採卵経験20年以上のベテラン獣医師が、従来法と、本発明の装置を用いた回収方法を実施した。本発明の装置による回収方法は、牛の子宮サイズに応じて上記表2~表5に示した設定を選択して実施した。
【0078】
(作業時間)
従来法では、バルーンカテーテルの子宮内の設置から左右の子宮角の灌流終了までの、1頭あたりにかかる所要時間は18分から42分(実施頭数35頭)であった。それに対し、本発明の装置を活用すると、1頭あたりにかかる所要時間は8分から14分未満(実施頭数35頭)と大幅に短縮できた。
【0079】
本発明の装置を用いれば、少人数で大量の採卵実務が可能になる。本試験では、習熟度が非常に高いベテランの採卵技術者が回収作業を実施したため、上記した従来法の所要時間は短いといえる。一般的な技術レベルの獣医師が従来法で採卵を行えばもっと長時間を要する。一方、本発明の装置によれば、バルーンカテーテルの挿入・固定をした後は2つのシリンジポンプが連動して同時に吸引、同時に吐出を行ない、自動で受精卵が回収されるので、採卵技術の習熟度に大きく影響されることなく、超時短で受精卵を回収することができる。
【0080】
(回収精度)
本発明の装置により受精卵を回収した後、ベテラン術者による従来法の回収方法を行なって確認したところ、受精卵は1個も回収されなかった。この結果は、本発明の装置による回収方法は、熟練技術者と変わらない精度で、かつ超時短で受精卵を回収できていることを示唆している。
【符号の説明】
【0081】
10 家畜受精卵回収装置
20 第1シリンジ
30 第2シリンジ
210 第1送液ライン
211 第1-1の送液ライン部
212 第1-2の送液ライン部
310 第2送液ライン
311 第2-1の送液ライン部
312 第2-2の送液ライン部
40、40’ シリンジポンプ制御部
50 送液方向制御部
60 バルーンカテーテル連結部
70、70’、70'' 入力部
80、80’ 表示部
図1