(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】けらば通気部材
(51)【国際特許分類】
E04B 1/70 20060101AFI20221216BHJP
E04D 13/158 20060101ALI20221216BHJP
E04D 13/16 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
E04B1/70 D
E04D13/158 501P
E04D13/16 A
(21)【出願番号】P 2018161303
(22)【出願日】2018-08-30
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】595133736
【氏名又は名称】株式会社トーコー
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100087745
【氏名又は名称】清水 善廣
(74)【代理人】
【識別番号】100106611
【氏名又は名称】辻田 幸史
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】森村 匡弘
【審査官】伊藤 昭治
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-091002(JP,A)
【文献】特開2018-131893(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/62 - 1/99
E04D 13/00 - 13/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
けらばの出が無いか又は小さく、野地板と、外壁通気材と、前記野地板よりも下方へ突出する垂下部を有したけらば部材とを備えた建築物のけらばに取り付けられ、前記外壁通気材により形成された壁内空間の空気を、空気流入口から流入させ、空気流出口から流出させるけらば通気部材であって、
本体を備え、
前記本体は、
底板と、
前記底板の一端に立設した前板と、
前記底板の他端に立設した後板と、
前記前板の上端に前端が接続され、前記底板に対向した上板と、
前記上板の後端から垂下し、下端が前記底板から離れた邪魔板とを有し、
前記垂下部よりも内側
で、かつ前記底板が前記垂下部の下端よりも上方となる位置において、前記上板が前記野地板に接し、かつ前記後板が前記外壁通気材に接して前記建築物に取り付けられ、
前記空気流入口は、前記後板と前記上板との間に設けられ、
前記空気流出口は、前記本体を前記建築物に取り付けた状態で水平方向を向くように前記前板に設けられ、
前記邪魔板は、前記空気流入口と前記空気流出口との間に位置し
、前記下端が前記空気流出口よりも下方に位置することを特徴とするけらば通気部材。
【請求項2】
前記空気流出口は、円形の複数の小孔からなることを特徴とする請求項1に記載のけらば通気部材。
【請求項3】
前記空気流出口は、前記前板のうち前記底板よりも前記上板に近い位置に設けられ
ていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のけらば通気部材。
【請求項4】
前記本体は、一枚の鋼板で構成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のけらば通気部材。
【請求項5】
前記上板の上面には、止水パッキンが配置されていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のけらば通気部材。
【請求項6】
前記本体の側面を被覆する側部閉止体を備え、
前記側部閉止体には、
前記空気流出口から前記本体に浸入した雨水を排水するための排水口と、
前記本体に対する前記排水口の位置を所定の範囲に制限する排水口位置制限部が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のけらば通気部材。
【請求項7】
前記側部閉止体には、
前記本体に浸入した雨水を前記建築物の外へ誘導する誘導部が前記排水口とは別に設けられていることを特徴とする請求項6に記載のけらば通気部材。
【請求項8】
前記本体を前記建築物への取り付け角度を違えて連結して用いる場合に一方の前記本体と他方の前記本体との連結部分において生じる隙間を被覆する上部閉止体を備えることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のけらば通気部材。
【請求項9】
前記上部閉止体には、折り曲げのためのスリットが長手方向中間位置に設けられていることを特徴とする請求項8に記載のけらば通気部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築物のけらばに設置されるけらば通気部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、垂木の上面と屋根下地材の下面との間に設置されるケラバ通気部材が開示されている。
また、特許文献2には、壁体の両側に内外通気層を設け、内外通気層の上端部における外部開口部にL型通気部材を設ける換気構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5933803号公報
【文献】特開2012-7433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
切妻屋根や片流れ屋根など、傾斜を有する屋根を備えた建築物において、けらばの出が無いか又は小さい場合は、壁内空間を換気するための部材をけらばに設けようとすると、防水性が課題となる。
特許文献1は、胴縁間に入った外気をケラバ通気部材を通して小屋裏へと通気するものであるが、小屋裏の空気量が増加するため小屋裏換気の観点から好ましくない。また、外気は湿気を多く含んでいる場合があり、小屋裏の劣化を促進する木材腐朽菌やカビが発生するおそれがある。また、空気が小屋裏に入ることになるため、耐防火性能を考慮する必要がある。
また、特許文献2は、L型通気部材の開口が鉛直下方に向けられているため、風によって吹き上げられた雨水が内部に入り込みやすい。
【0005】
そこで本発明は、妻側の壁内空間の空気を小屋裏に入れることなく建築物の外へ排気することができ、かつ防水性が高いけらば通気部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明のけらば通気部材は、けらばの出が無いか又は小さく、野地板2と、外壁通気材5と、前記野地板2よりも下方へ突出する垂下部11aを有したけらば部材11とを備えた建築物1に取り付けられ、前記外壁通気材5により形成された壁内空間の空気を、空気流入口37から流入させ、空気流出口36から流出させるけらば通気部材であって、本体30を備え、前記本体30は、底板31と、前記底板31の一端に立設した前板32と、前記底板31の他端に立設した後板33と、前記前板32の上端に前端が接続され、前記底板31に対向した上板34と、前記上板34の後端から垂下し、下端が前記底板31から離れた邪魔板35とを有し、前記垂下部11aよりも内側で、かつ前記底板31が前記垂下部11aの下端よりも上方となる位置において、前記上板34が前記野地板2に接し、かつ前記後板33が前記外壁通気材5に接して前記建築物1に取り付けられ、前記空気流入口37は、前記後板33と前記上板34との間に設けられ、前記空気流出口36は、前記本体30を前記建築物1に取り付けた状態で水平方向を向くように前記前板32に設けられ、前記邪魔板35は、前記空気流入口37と前記空気流出口36との間に位置し、前記下端が前記空気流出口36よりも下方に位置することを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載のけらば通気部材において、前記空気流出口36は、円形の複数の小孔36aからなることを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の本発明は、請求項1又は請求項2に記載のけらば通気部材において、前記空気流出口36は、前記前板32のうち前記底板31よりも前記上板34に近い位置に設けられていることを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の本発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のけらば通気部材において、前記本体30は、一枚の鋼板で構成されていることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のけらば通気部材において、前記上板34の上面には、止水パッキン70が配置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載のけらば通気部材において、前記本体30の側面を被覆する側部閉止体40を備え、前記側部閉止体40には、前記空気流出口36から前記本体30に浸入した雨水を排水するための排水口47と、前記本体30に対する前記排水口47の位置を所定の範囲に制限する排水口位置制限部48が設けられていることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載のけらば通気部材において、前記側部閉止体40には、前記本体30に浸入した雨水を前記建築物1の外へ誘導する誘導部が前記排水口47とは別に設けられていることを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のけらば通気部材において、前記本体30を前記建築物1への取り付け角度を違えて連結して用いる場合に一方の前記本体30aと他方の前記本体30bとの連結部分において生じる隙間を被覆する上部閉止体50を備えることを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の本発明は、請求項8に記載のけらば通気部材において、前記上部閉止体50には、折り曲げのためのスリット54が長手方向中間位置に設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、妻側の壁内空間の空気を小屋裏に入れることなく建築物の外へ排気することができ、かつ防水性が高いけらば通気部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施例によるけらば通気部材が設置された建築物の断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の第1の実施の形態によるけらば通気部材は、けらばの出が無いか又は小さく、野地板と、外壁通気材と、野地板よりも下方へ突出する垂下部を有したけらば部材とを備えた建築物に取り付けられ、外壁通気材により形成された壁内空間の空気を、空気流入口から流入させ、空気流出口から流出させるけらば通気部材であって、本体を備え、本体は、底板と、底板の一端に立設した前板と、底板の他端に立設した後板と、前板の上端に前端が接続され、底板に対向した上板と、上板の後端から垂下し、下端が底板から離れた邪魔板とを有し、垂下部よりも内側で、かつ底板が垂下部の下端よりも上方となる位置において、上板が野地板に接し、かつ後板が外壁通気材に接して建築物に取り付けられ、空気流入口は、後板と上板との間に設けられ、空気流出口は、本体を建築物に取り付けた状態で水平方向を向くように前板に設けられ、邪魔板は、空気流入口と空気流出口との間に位置し、下端が空気流出口よりも下方に位置するものである。
本実施の形態によれば、妻側の壁内空間の空気を小屋裏に入れることなく建築物の外へ排気することができ、かつ防水性が高いけらば通気部材を提供することができる。
【0018】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態によるけらば通気部材において、空気流出口は、円形の複数の小孔からなるものである。
本実施の形態によれば、空気流出口に付着した雨水を速やかに下方へ落とすことができるため、雨水が本体内に入り込みにくくなる。
【0019】
本発明の第3の実施の形態は、第1又は第2の実施の形態によるけらば通気部材において、空気流出口は、前板のうち底板よりも上板に近い位置に設けられているものである。
本実施の形態によれば、空気流出口の位置が高くなってけらば部材の垂下部に隠れやすくなるため、空気流出口からの雨水の吹き込みをさらに防止できる。また、邪魔板の下端が前板の空気流出口よりも下方にあることで、空気流出口から吹き込んだ雨水をより確実に邪魔板に衝突させて底板側へ落とすことができる。
【0020】
本発明の第4の実施の形態は、第1から第3のいずれか一つの実施の形態によるけらば通気部材において、本体は、一枚の鋼板で構成されているものである。
本実施の形態によれば、複数枚の板材で形成する場合よりも本体を製造する手間を低減することができる。また、使用材料が少なくなるため、製品重量を抑えることができる。また、鋼板を用いることで、樹脂を用いる場合よりも本体の耐久性や防火性能を増すことができる。
【0021】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4のいずれか一つの実施の形態によるけらば通気部材において、上板の上面には、止水パッキンが配置されているものである。
本実施の形態によれば、野地板と上板との間に隙間が生じたとしても、その隙間は止水パッキンにより埋められるため、本体内や壁内空間への雨水の浸入をより確実に防止することができる。
【0022】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれか一つの実施の形態によるけらば通気部材において、本体の側面を被覆する側部閉止体を備え、側部閉止体には、空気流出口から本体に浸入した雨水を排水するための排水口と、本体に対する排水口の位置を所定の範囲に制限する排水口位置制限部が設けられているものである。
本実施の形態によれば、排水口が設けられていることにより、本体内へ浸入した雨水は排水口から建築物の外へ排水されるため、壁内空間への浸入を防ぐことができる。また、排水口位置制限部が設けられていることにより、排水口が本体の前板と重なって塞がれてしまうことを防止できる。
【0023】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態によるけらば通気部材において、側部閉止体には、本体に浸入した雨水を建築物の外へ誘導する誘導部が排水口とは別に設けられているものである。
本実施の形態によれば、本体内へ浸入した雨水を建築物の外へ誘導し、壁内空間への浸入を効果的に防ぐことができる。
【0024】
本発明の第8の実施の形態は、第1から第7のいずれか一つの実施の形態によるけらば通気部材において、本体を建築物への取り付け角度を違えて連結して用いる場合に一方の本体と他方の本体との連結部分において生じる隙間を被覆する上部閉止体を備えるものである。
本実施の形態によれば、連結部分に生じた隙間からの雨水の浸入を防ぐことができる。
【0025】
本発明の第9の実施の形態は、第8の実施の形態によるけらば通気部材において、上部閉止体には、折り曲げのためのスリットが長手方向中間位置に設けられているものである。
本実施の形態によれば、上部閉止体を屋根勾配に合わせて任意の角度に折り曲げやすくなる。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の一実施例によるけらば通気部材について説明する。
図1は本実施例によるけらば通気部材が設置された建築物の断面図であり、
図1(a)は化粧スレート・けらば板金納めで化粧破風無しの建築物、
図1(b)は化粧スレート・けらば板金納めで化粧破風有りの建築物、
図1(c)は金属屋根・けらば唐草納めの建築物である。また、
図2は建築物の屋根の形状例を示す図であり、
図2(a)は左右対称の切妻屋根、
図2(b)は左右非対称の切妻屋根、
図2(c)は片流れ屋根、
図2(d)は傾斜を有する陸屋根である。
図2に示すように、建築物1の屋根は、棟1Aと平行な面(平側)の端部が軒1B、棟1Aに直角な面(妻側)の端部がけらば1Cであり、建築物1は、けらば1Cの出が無いか又は小さい、いわゆる軒ゼロの建築物である。けらば通気部材20は、建築物1の妻側の端部であるけらば1Cに設置される。
図1に示すように、建築物1は、野地板2と、野地板2の上側に配置される屋根材3と、壁下地材(合板)4と、壁下地材4の外側に配置される外壁通気材5と、外壁通気材5の外側に配置されるサイディング6と、サイディング6の上側に配置されるバックアップ材や片ハットジョイナー等の繋ぎ部材7を備える。
また、
図1(b)に示すように、サイディング6の外側に化粧破風8を備えることもできる。また、
図1(a)及び
図1(b)に示すように、野地板2の軒先側上部にのぼり木(桟木)9を備えることもできる。のぼり木9は、のぼり木9と野地板2を貫通するのぼり木固定釘10によって留め付けられる。
野地板2は、サイディング6又は化粧破風8よりも外側へ所定距離A突出している。
また、建築物1のけらば1Cには、けらば1Cを保護するけらば部材11が設置されている。けらば部材11は、一方に野地板2よりも下方へ突出する垂下部11aを有し、他方に野地板2と屋根材3との間に差し込まれる差込部11bを有する。垂下部11aの下端は内側へ湾曲的に折り返されている。
【0027】
けらば通気部材20は、垂下部11aよりも内側で、かつ下面(
図3の底板31)が垂下部11aの下端よりも上方となる位置に取り付けられる。この位置に取り付けることでけらば通気部材20がけらば部材11に隠れて殆ど露出しなくなるため、空気流出口36から雨水が吹き込みにくくなると共に、美観の向上に寄与する。
けらば通気部材20は、上面(
図3の上板34)を野地板2に下側から当接させ、後面(
図3の後板33)を外壁通気材5に外側から当接させた後、後面と外壁通気材5とを固定具60を用いて固定する。固定具60は、釘又はビス等である。このようにけらば通気部材20を2方向から建築物1に当接させることにより取り付けの位置決めが容易かつ正確となり、けらば通気部材20をしっかりと建築物1に固定することができ防水性が向上する。なお、繋ぎ部材7は、けらば通気部材20の下面とサイディング6の上面との間に配置される。
図1の点線矢印Bは、外壁通気材5によって壁下地材4とサイディング6との間に形成された妻側の壁内空間を通る空気の流れを示している。なお、外壁通気材5は、壁内空間を形成するための木製の通気胴縁や、金属製の部材等である。けらば通気部材20には、後面と上面との間に空気流入口37が設けられ、前面(
図3の前板32)に空気流出口36が設けられており、壁内空間の空気は、空気流入口37からけらば通気部材20へ流入し、空気流出口36から流出する。このように、けらば通気部材20を介して壁内空間の空気を小屋裏に入れずに建築物1の外へ排気することができるため、小屋裏の空気量が増大したり、小屋裏に木材腐朽菌やカビ等が発生したりすることを防止できる。また、けらば通気部材20は、小屋裏と連通していないため防耐火仕様にする必要がない。
【0028】
図3は本体を示す図であり、
図3(a)は左側面図、
図3(b)は正面図である。なお、見やすくするため、
図3(a)の縮尺は
図3(b)よりも大きくしている。
けらば通気部材20は、本体30を備える。本体30は、底板31と、前板32と、後板33と、上板34と、邪魔板35を有する。本体30の両側面は開放されている。
底板31、前板32、後板33、上板34及び邪魔板35はそれぞれ矩形であり、長辺の長さは等しい。
【0029】
前板32は、下端(一方の長辺)が底板31の前端(一方の長辺)に連接し、底板31に対して垂直に立設している。
前板32には空気流出口36が設けられている。空気流出口36は前板32を貫通しており、本体30を建築物1に設置した状態において空気流出口36は水平方向を向くこととなる。雨水は風によって下方から吹き上げられる場合があるが、空気流出口36が水平を向いていることで、空気流出口36が下方を向いている場合よりも雨水が空気流出口36から本体30内に入りにくくなる。
空気流出口36は、円形の複数の小孔36aからなることが好ましい。小孔36aは、前板32の長手方向に所定間隔で一列に配列されている。空気流出口36を小孔とすることで雨水が本体30内に入り込みにくくなる。また、仮に空気流出口36を矩形とした場合は、上方から流れ落ちてくる雨水が表面張力によって空気流出口36の上部に留まりやすいため、上部に溜まった雨水が風に押されること等により本体30内に入り込んでしまうことがある。これに対して本実施例のように空気流出口36が円形の場合は、上方から流れ落ちてくる雨水は空気流出口36の上部に留まることなく、空気流出口36の輪郭を伝わって下方へと流れ落ちていくため、雨水が本体30内に入り込みにくい。なお、円形とは、真円であることが好ましいが、例えば
図3(b)に示すように八角形などの略円形であってもよい。
また、空気流出口36は、前板32のうち底板31よりも上板34に近い位置に設けられていることが好ましい。これにより、建築物1に設置されたけらば部材11の垂下部11aの下端の位置よりも空気流出口36の位置がより高くなるため、空気流出口36からの雨水の吹き込みをさらに防止できる。
【0030】
後板33は、底板31の後端(他方の長辺)に連接し、底板31に対して垂直に立設している。
後板33は、前板32に対向した第一後板33aと、第一後板33aよりも前板32から離れて位置した第二後板33bとを有する。第一後板33aは、空気流出口36から吹き込み底板31に溜まった雨水が壁内空間に浸入することを防止する。また、第二後板33bは、本体30を外壁通気材5に固定する際の接続部分となる。
第一後板33aの上端(一方の長辺)と第二後板33bの上端(一方の長辺)は、湾曲的に接続されている。第一後板33aの上端と第二後板33bの上端は同じ高さにあり、前板32の上端(他方の長辺)の高さよりも低い。
第一後板33aと第二後板33bとは上端を除いて離れており、両者間には隙間Cが形成されている。
第一後板33aの下端(他方の長辺)は底板31の後端に連接し、第二後板33bの下端(他方の長辺)は底板31よりも下方に突出している。第二後板33bのうち底板31よりも下方に位置する部分には、外壁通気材5と第二後板33bとを結合する固定具60が打ち込まれる。第二後板33bのうち底板31よりも下方に位置する部分に固定具60を打ち込むことで、外壁通気材5への固定が容易となる。また、第一後板33aには固定具60の打ち込みによる孔が形成されないため、孔を伝って雨水が壁内空間に浸入するおそれがない。
【0031】
上板34は、前端(一方の長辺)が前板32の上端(他方の長辺)に連接し、底板31に対向して設けられている。
上板34は、雨水の浸入を防ぐため野地板2の下面に密接して配置される。上板34には、その上面全体を覆うように止水パッキン70を設けることが好ましい。止水パッキン70が上板34の上面に設けられている場合には、施工精度のばらつきや、野地板2の裏面の凹凸等によって野地板2と上板34との間に隙間が生じたとしても、その隙間は止水パッキン70により埋められるため、本体30内や壁内空間への雨水の浸入をより確実に防止することができる。また、けらば通気部材20を設ける妻側は浸入リスクが高い箇所であり、急勾配での施工時にはコーキング等の止水処理が必要となるが、止水パッキン70を設けた場合には、止水パッキン70によって止水されるため、止水処理が不要となる。
上板34の側端(短辺)の長さDは、底板31の側端(短辺)の長さEよりも短く、後板33と上板34との間には空気流入口37となる空間が形成される。外壁通気材5により形成された壁内空間を上ってくる空気は、この空間(空気流入口37)から本体30へ流入し、空気流出口36から流出する。
【0032】
邪魔板35は、前板32と後板33との間の位置にて垂下している。空気流出口36から吹き込む雨水は、邪魔板35に衝突して底板31側へ落とされる。このように、邪魔板35は、空気流出口36から吹き込む雨水が空気流入口37を通って外壁通気材5側へ浸入することを防止する。
邪魔板35は、上端(一方の長辺)が上板34の後端(他方の長辺)に連接し、下端(他方の長辺)は底板31から離れている。すなわち、邪魔板35の側端(短辺)の長さFは、前板32の側端(短辺)の長さGよりも短い。
邪魔板35の下端は、前板32の空気流出口36よりも下方にあることが好ましい。これにより、空気流出口36から本体30に吹き込む雨水をより確実に邪魔板35に衝突させて底板31側へ落とすことができる。
【0033】
なお、本体30は、底板31、前板32、後板33、上板34及び邪魔板35が一枚の鋼板で形成されていることが好ましい。一枚の板材で形成することで、複数枚の板材で形成する場合よりも本体30を製造する手間を低減することができる。また、使用材料が少なくなるため、製品重量を抑えることができる。また、鋼板を用いることで、樹脂を用いる場合よりも本体30の耐久性や防火性能を増すことができる。
【0034】
図4は側部閉止体を示す図であり、
図4(a)は前方斜視図、
図4(b)は正面図である。
本体30の側面は、側部閉止体40によって被覆される。上述のように本体30の両側面は開放されているが、側部閉止体40で被覆することにより、側面からの雨水の浸入を防止することができる。
側部閉止体40は、本体30の一方の側面と他方の側面に取り付けられる。本体30の一方の側面に取り付けられる側部閉止体40と、本体30の他方の側面に取り付けられる側部閉止体40とは、左右対称に形成される。
側部閉止体40は、側部閉止体底板41と、側部閉止体前板42と、側部閉止体後板43と、側部閉止体上板44と、側部閉止体側板45と、差込板46を有する。側部閉止体40の一方の側面は開放されており、他方の側面は側部閉止体側板45によって塞がれている。
側部閉止体底板41、側部閉止体前板42、側部閉止体後板43、側部閉止体上板44及び差込板46はそれぞれ矩形である。側部閉止体底板41、側部閉止体前板42及び側部閉止体上板44の長辺の長さは等しい。
【0035】
側部閉止体前板42は、下端(一方の長辺)が側部閉止体底板41の前端(一方の長辺)に連接し、側部閉止体底板41に対して垂直に立設している。
側部閉止体前板42のうち側部閉止体側板45側の下部には、矩形の排水口47が設けられている。排水口47は側部閉止体前板42を貫通している。排水口47が設けられていることにより、本体30内へ浸入した雨水は排水口47から建築物1の外へ排水されるため、壁内空間への浸入を防ぐことができる。
【0036】
側部閉止体底板41の後端(他方の長辺)には、側部閉止体側板45側に差込板46が連接し、その反対側に側部閉止体後板43が連接している。差込板46は側部閉止体底板41に対して垂直に立設し、側部閉止体後板43は側部閉止体底板41に対して垂直に垂下している。
差込板46には、本体30に対する排水口47の位置を所定の範囲に制限する排水口位置制限部48が設けられている。本実施形態における排水口位置制限部48は、差込板46のうち側部閉止体側板45側の上端に設けられた突片である。突片(排水口位置制限部)48の幅寸法Hは、排水口47の幅寸法Iと同一である。
【0037】
側部閉止体上板44は、前端(一方の長辺)が側部閉止体前板42の上端(他方の長辺)に連接し、側部閉止体底板41に対向して設けられている。側部閉止体上板44の側端(短辺)は、側部閉止体底板41の側端(短辺)よりも短い。
【0038】
側部閉止体側板45は、底板31の側端(短辺)から立ち下げた第一側部閉止体側板45aと、第一側部閉止体側板45aの下端から湾曲的に折り曲げて立ち上げた第二側部閉止体側板45bとを有する。第二側部閉止体側板45bの上端は、側部閉止体上板44とほぼ同じ高さにある。
側部閉止体側板45には、本体30内へ浸入した雨水を建築物1の外側へ誘導する誘導部が設けられている。誘導部は、側部閉止体側板45の下端を側部閉止体底板41の後端側から前端側にかけて下方へ傾斜させ、第一側部閉止体側板45aと第二側部閉止体側板45bとの間を側部閉止体底板41の後端側は密接させ、側部閉止体底板41の前端側は隙間を設けることで形成している。これにより、本体30内へ浸入した雨水を建築物1の外へ誘導し、壁内空間への浸入を効果的に防ぐことができる。
また、側部閉止体底板41に対する側部閉止体側板45の角度は、屋根勾配に合わせて施工現場で加工が可能である、このため、軒側隣接部材との当て留めが可能であり、防水性、美観、及び施工性が向上する。
【0039】
なお、側部閉止体40は、側部閉止体底板41、側部閉止体前板42、側部閉止体後板43、側部閉止体上板44、側部閉止体側板45及び差込板46が一枚の鋼板で形成されていることが好ましい。一枚の板材で形成することで、複数枚の板材で形成する場合よりも側部閉止体40を製造する手間を低減することができる。また、使用材料が少なくなるため、製品重量を抑えることができる。また、鋼板を用いることで、樹脂を用いる場合よりも側部閉止体40の耐久性や防火性能を増すことができる。
【0040】
図5は本体に側部閉止体を取り付けた状態示す図であり、
図5(a)は前方斜視図、
図5(b)は後方斜視図である。なお、
図5においては、
図4で示した側部閉止体と左右対称に形成された側部閉止体を示している。
本体30への側部閉止体40の取り付けは、差込板46を本体30の第一後板33aと第二後板33bとの隙間Cに差し込んで一方向へスライドさせることにより行う。このスライドの際、側部閉止体底板41は底板31の下面を摺動し、側部閉止体前板42は前板32の前面を摺動し、側部閉止体上板44は上板34(止水パッキン70)の上面を摺動し、側部閉止体後板43は、第二後板33bの前面を摺動する。
取り付けが完了すると、本体30は、側部閉止体底板41と側部閉止体上板44とで上下から挟持され、側部閉止体前板42と側部閉止体後板43と差込板46とで前後から挟持される。このように側部閉止体40が本体30にしっかりと固定されることで、けらば通気部材20全体として耐久性や防水性が向上する。
また、差込板46を本体30の第一後板33aと第二後板33bとの隙間Cに差し込んでのスライドは、突片(排水口位置制限部)48が本体30の後板33と干渉する位置で制限される。排水口47の位置及び大きさと突片(排水口位置制限部)48の位置及び大きさは対応関係にあるため、これにより、排水口47が本体30の前板32と重なって塞がれてしまうことが防止される。
【0041】
図6は上部閉止体を示す図であり、
図6(a)は左側面図、
図6(b)は正面図である。
上部閉止体50は、上部閉止体前板51と、上部閉止体後板52と、上部閉止体上板53を有する。長手方向中間位置において、上部閉止体前板51と上部閉止体後板52にはスリット54が設けられている。スリット54が設けられていることにより、上部閉止体50は屋根勾配に合わせて任意の角度に折り曲げることができる。
上部閉止体前板51、上部閉止体後板52及び上部閉止体上板53はそれぞれ矩形であり、長辺の長さは等しい。上部閉止体50の両側面は開放されている。
【0042】
上部閉止体上板53の前端(一方の長辺)には上部閉止体前板51の上端(一方の長辺)が連接し、後端(他方の長辺)には上部閉止体後板52の上端(一方の長辺)が連接している。上部閉止体前板51及び上部閉止体後板52は、上部閉止体上板53から垂直に垂下している。
上部閉止体前板51の側端(短辺)は、上部閉止体後板52の側端(短辺)よりも短い。
【0043】
なお、上部閉止体50は、上部閉止体前板51、上部閉止体後板52及び上部閉止体上板53が一枚の鋼板で形成されていることが好ましい。一枚の板材で形成することで、複数枚の板材で形成する場合よりも上部閉止体50を製造する手間を低減することができる。また、使用材料が少なくなるため、製品重量を抑えることができる。また、鋼板を用いることで、樹脂を用いる場合よりも上部閉止体50の耐久性や防火性能を増すことができる。
【0044】
図7は本体に上部閉止体を取り付けた状態示す図である。
本体30を複数連結して用いる場合、屋根勾配が変わる部分においては、一方の本体30aと他方の本体30bの取り付け角度が異なるため連結部分に隙間が生じる。そこで、屋根勾配に合わせて折り曲げた上部閉止体50により当該隙間を被覆することで、隙間からの雨水の浸入を防ぐことができる。
また、本体30を取り付ける前に上部閉止体50を先に野地板2に当て止めすることにより、施工時の負担を減らすことができると共に、より確実な止水が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、けらばの出が無いか又は小さい、いわゆる軒ゼロ住宅等の建築物において、妻側の壁内空間の効率的な換気を高い水密性を保ちつつ実現する。
【符号の説明】
【0046】
1 建築物
1C けらば
2 野地板
5 外壁通気材
11 けらば部材
11a 垂下部
30 本体
30a 一方の本体
30b 他方の本体
31 底板
32 前板
33 後板
34 上板
35 邪魔板
36 空気流出口
36a 小孔
37 空気流入口
40 側部閉止体
47 排水口
48 排水口位置制限部
50 上部閉止体
54 スリット
60 固定具
70 止水パッキン