(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】黄銅鉱からの銅の回収方法及びその回収方法に用いる溶媒系
(51)【国際特許分類】
C22B 15/00 20060101AFI20221216BHJP
C22B 3/16 20060101ALI20221216BHJP
C25C 1/12 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C22B15/00 105
C22B3/16
C25C1/12
(21)【出願番号】P 2018176820
(22)【出願日】2018-09-21
【審査請求日】2021-07-30
(73)【特許権者】
【識別番号】304021831
【氏名又は名称】国立大学法人千葉大学
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】松野 泰也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 秀和
【審査官】瀧澤 佳世
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/156300(WO,A1)
【文献】特開昭47-042225(JP,A)
【文献】特開昭52-052118(JP,A)
【文献】特開昭53-092326(JP,A)
【文献】特開2008-266766(JP,A)
【文献】特開昭52-113321(JP,A)
【文献】特開平04-021726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 15/00
C22B 3/16
C25C 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン化銅及び非プロトン性の極性有機溶媒を含む溶媒系に黄銅鉱を溶解させる工程(A)、及び、前記黄銅鉱を溶解させた溶媒系から電解採取により、銅を析出させる工程(B)を含むことを特徴とする、黄銅鉱からの銅の回収方法。
【請求項2】
前記ハロゲン化銅が、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)又は塩化銅(II)から選択される、請求項1に記載の黄銅鉱からの銅の回収方法。
【請求項3】
前記非プロトン性の極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン又はそれらの混合物から選択される、請求項1又は2に記載の黄銅鉱からの銅の回収方法。
【請求項4】
前記溶媒系が、ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムをさらに含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の黄銅鉱からの銅の回収方法。
【請求項5】
黄銅鉱を溶解させ
た溶媒系から電解採取により銅を回収するために用いられる、ハロゲン化銅及び非プロトン性の極性有機溶媒を含む溶媒系。
【請求項6】
前記ハロゲン化銅が、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)又は塩化銅(II)から選択される、請求項5に記載の溶媒系。
【請求項7】
前記非プロトン性の極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン又はそれらの混合物から選択される、請求項5又は6に記載の溶媒系。
【請求項8】
ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムをさらに含む、請求項5~7のいずれか1項に記載の溶媒系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉱石からの金属の回収方法、特に黄銅鉱からの銅の回収方法及びその回収方法に用いる溶媒系に関するものである。
【背景技術】
【0002】
銅は、世界で3番目に生産量の大きな金属素材である。銅の鉱石は、一次硫化鉱(黄銅鉱(CuFeS2)など)、二次硫化鉱(輝銅鉱(Cu2S)など)、酸化鉱(赤銅鉱(Cu2O)など)の3種類に分けられる。その中でも、世界で産出している銅の大部分は、黄銅鉱(CuFeS2)から得られている。
【0003】
鉱石からの銅の生産方法としては、一般に乾式製錬法と湿式精錬法とに分けられる。乾式製錬法は、熱処理による化学反応により、鉄や硫黄などの不純物を取り除いたのち、電解精製工程を経て電気銅を生産する方法である。乾式製錬法は、一次硫化鉱である黄銅鉱(CuFeS2)などの硫化銅鉱に対して有効な方法であるが、粗鉱品位の高い鉱石を使用しないと経済的に成り立たない。
【0004】
一方、湿式精錬法は、酸化鉱(Cu2Oなど)から硫酸酸性溶液で銅を浸出させ、二層分離により銅イオンのみを抽出し、最終的に電解採取工程により電気銅を生成させる方法で、Solvent Extraction-Electro-Winning(SX-EW法)として確立されている。
【0005】
銅の鉱石は、非再生可能資源であり、近年、その粗鉱品位の低下が顕著となっている。したがって、低品位鉱石からの銅の生産方法として、乾式製錬法は経済的に成り立たなくなってきた。一方、銅の鉱石の大部分を占める黄銅鉱(CuFeS2)に対しては、上記のSX-EW法は適用することができず、低品位の黄銅鉱(CuFeS2)を湿式処理するプロセスは、いまだに商業化されていないのが現状である。SX-EW法に用いられている硫酸酸性溶液では、黄銅鉱表面が不働態化するため黄銅鉱(CuFeS2)からの銅の浸出速度が非常に遅く、10~20年経っても10~40%程度しか浸出しない等の欠点がある故である。
【0006】
また近年では、細菌を用いた黄銅鉱のバイオリーチング技術が研究されているが、一般にバイオリーチングは、金属の浸出速度が遅い欠点を有している。
【0007】
また、出願人自らが出願した特許文献1に、臭化銅含有ジメチルスルホキシド溶媒で、金、パラジウム、銀、白金を溶解できることが示されているが、黄銅鉱の溶解に関しては何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のような背景のもとに、本発明は、黄銅鉱から銅を回収するための簡便かつ経済的な回収方法およびその回収方法に用いる溶媒系を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、ハロゲン化銅を含有する有機溶媒系を用いることで、目的とする銅を比較的短時間で溶解及び析出させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の一つの観点によれば、上記課題を解決するために、ハロゲン化銅及び非プロトン性の極性有機溶媒を含む溶媒系に黄銅鉱を溶解させる工程(A)、及び、前記黄銅鉱を溶解させた溶媒系から電解採取により、銅を析出させる工程(B)を含むものである。
【0012】
さらに、ハロゲン化銅が、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)又は塩化銅(II)から選択されると望ましい。
【0013】
さらに、非プロトン性の極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン又はそれらの混合物から選択されると望ましい。
【0014】
さらに、溶媒系が、ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムをさらに含むと望ましい。
【0015】
また、本発明の他の観点によれば、黄銅鉱を溶解させて銅を回収するために用いられる、ハロゲン化銅及び非プロトン性の極性有機溶媒を含む溶媒系に関するものである。
【0016】
さらに、ハロゲン化銅が、臭化銅(I)、臭化銅(II)、塩化銅(I)又は塩化銅(II)から選択されると望ましい。
【0017】
さらに、非プロトン性の極性有機溶媒が、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、炭酸プロピレン又はそれらの混合物から選択されると望ましい。
【0018】
さらに、ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムをさらに含むと望ましい。
【発明の効果】
【0019】
現在に至るまで、銅の鉱石の中で最も消費されている黄銅鉱(CuFeS2)に対して、商業的に適用できる湿式精錬法はなかったが、今後、銅の鉱石の粗鉱品位が低下していく中で、本発明によれば、黄銅鉱(CuFeS2)から簡便な手順によって、短時間でかつ非常に高い効率によって銅を浸出し精錬することを可能にするものであり、世界の銅の持続的な生産に大きな貢献をするものである。
【0020】
さらに、一般に水溶液中では、銅イオンは2価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは2モル必要である。しかしながら、非プロトン性の極性有機溶媒中では、銅イオンは1価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは1モルでよく半分となる。したがって、本発明によれば、電解採取に際しての電力量を半減できるため、省エネ効果が格段に大きいという利点もある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の範囲はこれらの説明に拘束されることはなく、以下の例示以外についても、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0023】
本発明における黄銅鉱からの銅の回収方法は、A)ハロゲン化銅及び非プロトン性の極性有機溶媒等の有機溶媒を含む溶媒系に目的とする黄銅鉱を溶解させる工程、及び、B)前記黄銅鉱を溶解させた溶媒系から電解採取により、銅を析出させる工程を含む。
【0024】
上記工程A)において用いられる溶媒系は、黄銅鉱を溶解させるためのものであり、代表的には、ハロゲン化銅を含有する有機溶媒である。以下当該溶媒系の構成について説明する。
【0025】
当該有機溶媒としては、ハロゲン化銅との酸化還元反応により生じる銅イオンが溶解し得るものであれば特に限定されないが、極性を有する非プロトン性の有機溶媒であることが好ましい。そのような非プロトン性の極性有機溶媒の例としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ジメチルアセトアミド、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、炭酸プロピレンなどが挙げられる。これらの2種類以上を含む混合溶媒とすることもできる。これらのなかでも、DMSOなど、スルホキシド基を有する構成が特に好ましい。
【0026】
本発明において用いられるハロゲン化銅は、フッ化銅、塩化銅、臭化銅、又はヨウ化銅であり、それぞれ1価又は2価の塩であることができる。好ましくは、臭化銅(I)(CuBr)、臭化銅(II)(CuBr2)、塩化銅(I)(CuCl)又は塩化銅(II)(CuCl2)である。
【0027】
当該ハロゲン化銅の溶媒系における含有量は、多いほど銅の溶解量が増大すると考えられるが、典型的には、100mmol/L以上、好ましくは、200mmol/L以上、より好ましくは400mmol/L以上である。
【0028】
本発明において用いられる溶媒系は、さらに銅の溶解速度及び溶解量を増大させる目的で、アルカリ金属のハロゲン化物を補助的な成分として含むことができる。好ましくは、ハロゲン化ナトリウム又はハロゲン化カリウムである。ハロゲンの種類としては、溶媒中で解離して上記ハロゲン化銅と同じハロゲンアニオンを生じさせるもの(すなわち、臭化銅の場合は、臭化ナトリウム又は臭化カリウム)であることが望ましい。
【0029】
また、これら更なる成分の溶媒系における含有量は、特に限定されるものではないが、上記臭化銅の溶液中の濃度の0.5~10倍、好ましくは1~2倍の範囲で用いることができる。
【0030】
本発明の回収方法における上記工程B)における電解採取は、工程A)において溶液中に溶解した銅イオンをカソード電極(マイナス極)にて析出させて回収する構成のものである。
【0031】
一般に、水溶液中では、銅イオンは2価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは2モル必要である。しかしながら、非プロトン性の極性有機溶媒中では、銅イオンは1価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは1モルでよく半分となる。したがって、本発明によれば、上記工程B)の電解採取に際しての電力量を半減できるため、省エネ効果が格段に大きい。
【実施例】
【0032】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0033】
例えば、臭化銅含有ジメチルスルホキシド溶媒では、銅イオンが強力な酸化剤として作用し、貴金属を溶解することが知られているが、黄銅鉱に対して検討された報告はない。
【0034】
そこで、この溶媒(臭化銅含有ジメチルスルホキシド溶媒)を用いて黄銅鉱を溶解させた。温度条件等をパラメータとして、黄銅鉱の溶解実験を実施したところ、100℃の状態で約4時間経過すると、黄銅鉱に含有される銅Cuおよび硫黄Sが完全に溶解されることを確認した。また、鉄Feは残渣として残り分離されることが分かった。下記の表1に浸出実験を行った黄銅鉱の銅Cu、硫黄Sおよび鉄Feの組成を示す。さらに下記の表2に浸出実験に用いた試料の質量と、残渣の質量と、残渣内の残存Cuの割合を示す。残渣内の残存Cuは、0%であることから、黄銅鉱に含有される銅Cuが完全に溶解したことは明らかである。なお、表2において、残渣の質量比率が大きいが、銅Cu、硫黄Sおよび鉄Fe以外の成分も含まれるために、残渣の質量比率が大きくなったと考えられる。
【表1】
【表2】
【0035】
さらに、銅および硫黄が完全に溶解された溶媒を冷却することによって、硫黄が単体の結晶として析出することを発見した。析出された硫黄の結晶の状態を
図1に示す。これにより、硫黄を分離することも可能となった。そして、硫黄を分離した後の溶媒中に溶解している銅イオンは、電解採取によりカソード電極(マイナス極)にて析出させ、銅を製造(回収)することが可能である。
【0036】
以上のような構成により、黄銅鉱(CuFeS2)から簡便な手順によって、短時間でかつ非常に高い効率によって、鉄、硫黄、銅を完全に分離できることを確認した。
【0037】
なお、アルカリ金属のハロゲン化物を補助的な成分として溶媒に含ませることで、銅の溶解速度及び溶解量を増大させることができるので、黄銅鉱からの銅の回収プロセスのさらなる高効率運用が可能となる。
【0038】
本実施例の効果は、次のとおりである。
(1)黄銅鉱(CuFeS2)に対して、商業的に適用できる湿式精錬法はなかったが、今後、銅の鉱石の品位が低下していく中で、本実施例を利用することで、黄銅鉱(CuFeS2)から簡便な手順によって、短時間でかつ非常に高い効率によって銅を浸出し精錬することを可能にする利点がある。
(2)一般に水溶液中では、銅イオンは2価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは2モル必要である。しかしながら、非プロトン性の極性有機溶媒中では、銅イオンは1価として安定して存在するので、1モルの銅を生産するのに電子eは1モルでよく半分となる。したがって、本実施例によれば、電解採取に際しての電力量を半減できるため、省エネ効果が格段に大きいという利点もある。
【0039】
なお、本発明の実施形態および実施例においては、黄銅鉱からの銅の回収方法について説明した。しかしながら、本回収方法は、閃亜鉛鉱(ZnS)から亜鉛(Zn)を回収する方法として、又、硫鉄ニッケル鉱((Fe, Ni)9S8)や含ニッケル磁硫鉄鉱((Fe, Ni)1-xS)からニッケル(Ni)を回収する方法としても適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、鉱石からの金属の回収方法、特に簡便かつ経済的な黄銅鉱からの銅の回収方法およびその回収方法に用いる溶媒系として産業上利用可能である。