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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】巻線装置及び巻線方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 41/088 20160101AFI20221216BHJP
   H01F 41/084 20160101ALI20221216BHJP
   H01F 41/094 20160101ALI20221216BHJP
【FI】
H01F41/088
H01F41/084
H01F41/094
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2018135687
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020013919
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-05-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000227537
【氏名又は名称】NITTOKU株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121234
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 利明
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝幸
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-118735(JP,A)
【文献】特開昭62-269308(JP,A)
【文献】特開2013-197563(JP,A)
【文献】特開平11-297559(JP,A)
【文献】特開2016-178149(JP,A)
【文献】特開平7-245229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/06-41/098
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻芯(71)に対して接離可能に移動するチャック装置(92)を備えフライヤ(62)の先端から繰り出された線材(6)を把持した前記チャック装置(92)を前記フライヤ(62)から離間させることにより前記フライヤ(62)の先端から繰り出された線材(6)を引き込んで蓄線としておく蓄線手段(90)と、前記蓄線手段(90)から供給される前記線材(6)を前記巻芯(71)の回りに巻き付ける巻線手段(100)とを備えた巻線装置において、
軸芯方向に沿って分割可能に構成され合体状態で前記チャック装置(92)が前記フライヤ(62)から離間することにより引き込まれた前記線材(6)の前記フライヤ(62)側の端部を保持可能なノズル(47)と、
前記ノズル(47)における分割片(47b,47c)を分割し又は合体させる分割片移動機構(48)とを備え
前記蓄線手段(90)は、前記フライヤ(62)の回転軸方向に延びて設けられたレール(91)と、前記レール(91)の両端に枢支された一対のプーリ(93a,93b)と、一方のプーリ(93a)を回転させるモータ(94)と、前記一対のプーリ(93a,93b)に掛け回されたベルト(95)を更に備え、前記チャック装置(92)は前記レール(91)に移動可能に設けられて前記ベルト(95)が取付けられ、
この蓄線手段(90)による前記線材(6)の前記巻芯(71)への供給時に前記モータ(94)は前記チャック装置(92)の前記ノズル(47)への接近を制御して、前記ノズル(47)を通過して前記巻芯(71)に巻回される前記線材(6)に適当なテンションを付与するように構成された
ことを特徴とする巻線装置。
【請求項2】
蓄線手段(90)を三軸方向に移動可能に構成された三軸移動装置(96)を備える請求項1記載の巻線装置。
【請求項3】
ノズル(47)を分割片移動機構(48)とともに移動させるノズル移動機構(100)を更に備える請求項1又は2記載の巻線装置。
【請求項4】
ノズル移動機構(100)が合体状態のノズル(47)を巻芯(71)の回りで周回可能に構成されて前記巻芯(71)に蓄線手段(90)から供給される線材(6)を巻き付ける巻線手段を構成する請求項3記載の巻線装置。
【請求項5】
フライヤ(62)先端から繰り出される線材(6)の蓄線手段(90)よりも手前の部分を巻芯(71)の回りに巻き付ける別の巻線手段(66)を備える請求項1ないし4いずれか1項に記載の巻線装置。
【請求項6】
フライヤ(62)先端から繰り出された線材(6)を引き込んで蓄線としておく蓄線工程と、前記蓄線工程の後に行われ引き出された前記線材(6)をノズル(47)により保持する線材保持工程と、この線材保持工程の後に行われ蓄線された前記線材(6)を巻芯(71)の回りに巻き付ける巻線工程とを有する巻線方法において、
前記蓄線工程は、フライヤ(62)の先端から繰り出された線材(6)を把持したチャック装置(92)を前記フライヤ(62)から遠ざけて前記チャック装置(92)に把持された前記線材(6)を引き込むことにより行われ、
線材保持工程は、軸芯方向に沿って分割可能に構成されたノズル(47)を用い、分割状態の前記ノズル(47)を、引き込まれた前記線材(6)のフライヤ側端部において合体させることにより行われ、
前記巻線工程において前記チャック装置(92)の前記ノズル(47)への接近を制御して、前記ノズル(47)を通過して前記巻芯(71)に巻回される前記線材(6)に適当なテンションを付与する
ことを特徴とする巻線方法。
【請求項7】
巻線工程は、ノズル(47)を巻芯(71)の回りで周回させて蓄線された線材(6)を前記巻芯(71)に巻き付けることにより行われる請求項6記載の巻線方法。
【請求項8】
蓄線工程と巻線工程の間に、フライヤ(62)先端から繰り出される線材(6)の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯(71)の回りに巻き付ける別の巻線工程が行われる請求項6又は7記載の巻線方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、線材を一度蓄線した後に巻線を行う巻線装置及び巻線方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、モータの小型化に対応したコイルとして、線材が緊密に巻回されて巻層の間に無用の間隙を形成されないようにするとともに、線材の巻回始端と巻回終端とが同一の巻層に配線されるようにしたいわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるものが多用されるようになってきている。
【0003】
このアルファ巻のコイルとして、線材を渦巻き状に巻回した第一、第二コイルと、この第一、第二コイルの内周端部どうしを結ぶ内側渡り線とを有する二列渦巻きコイルが知られている。そして、このような二列渦巻きコイルの巻線装置として、線材を直線的に引き込んで蓄線しておく蓄線手段を備えたものが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
この巻線装置では、巻線の前段階として、フライヤ先端から繰り出された線材を直線的に引き込んで蓄線としておき、その後に、フライヤを巻芯の回りで公転させてフライヤ先端から繰り出される線材の蓄線手段よりも手前の部分を巻芯の回りに巻き付ける第一の巻線を行い、その更に後に、巻芯を軸回りで回転させて蓄線手段から供給される線材を巻芯の回りに巻き付ける第二の巻線を行うとしている。
【0005】
このように、この巻線装置では、各巻線部の外周から線材を導出することにより、線材の巻回始端と巻回終端とが最外周の同一の巻層から引出された二列渦巻きコイルを比較的容易に製造することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-297559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1における巻線装置では、フライヤ先端から繰り出された線材を直線的に引き込んで蓄線とするので、巻線において巻芯に巻回される側の線材の位置は規制されない。このように巻芯側の位置が規制されない状態で線材を巻芯に巻回させると、線材の巻乱れを生じさせる不具合があった。
【0008】
このような巻芯側の位置の制限が困難な状態における巻乱れを防止するためには、蓄線における線材の長さを短くすることが考えられるけれども、蓄線における線材の長さを短くすると、得られるコイルは小型のものとなり、比較的大型のコイルの製造が困難となるという不具合を生じさせる。
【0009】
このため、上記特許文献1における巻線装置において製造し得るコイルは、比較的小型のものに限定されるという未だ解決すべき課題が残存していた。
【0010】
本発明の目的は、比較的多くの線材を巻回するコイルであっても、巻乱れを生じさせることなく線材を巻回し得る巻線装置及び巻線方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、巻芯に対して接離可能に移動するチャック装置を備えフライヤの先端から繰り出された線材を把持したチャック装置をフライヤから離間させることによりフライヤ先端から繰り出された線材を引き込んで蓄線としておく蓄線手段と、蓄線手段から供給される線材を巻芯の回りに巻き付ける巻線手段とを備えた巻線装置の改良である。
【0012】
その特徴ある構成は、軸芯方向に沿って分割可能に構成され合体状態でチャック装置がフライヤから離間することにより引き込まれた線材のフライヤ側の端部を保持可能なノズルと、ノズルにおける分割片を分割し又は合体させる分割片移動機構とを備えたところにある。
【0013】
この場合の蓄線手段は、フライヤの回転軸方向に延びて設けられたレールと、レールの両端に枢支された一対のプーリと、一方のプーリを回転させるモータと、一対のプーリに掛け回されたベルトを更に備え、チャック装置はレールに移動可能に設けられてベルトが取付けられ、この蓄線手段による線材の巻芯への供給時にモータはチャック装置のノズルへの接近を制御して、ノズルを通過して巻芯に巻回される線材に適当なテンションを付与するように構成される。
【0014】
また、ノズルを移動させるノズル移動機構を更に備え、ノズル移動機構が合体状態のノズルを巻芯の回りで周回可能に構成されて巻芯に蓄線手段から供給される線材を巻き付ける巻線手段を構成することもできる。そして、フライヤ先端から繰り出される線材の蓄線手段よりも手前の部分を巻芯の回りに巻き付ける別の巻線手段を備えることが好ましい。
【0015】
一方、別の本発明は、フライヤ先端から繰り出された線材を引き込んで蓄線としておく蓄線工程と、蓄線工程の後に行われ引き出された線材をノズルにより保持する線材保持工程と、この線材保持工程の後に行われ蓄線された線材を巻芯の回りに巻き付ける巻線工程とを有する巻線方法の改良である。
【0016】
その特徴ある点は、蓄線工程は、フライヤ先端から繰り出された線材を把持したチャック装置をフライヤから遠ざけてチャック装置に把持された線材を引き込むことにより行われ、線材保持工程は、軸芯方向に沿って分割可能に構成されたノズルを用い、分割状態のノズルを、引き込まれた線材のフライヤ側端部において合体させることにより行われ、巻線工程においてチャック装置のノズルへの接近を制御して、ノズルを通過して巻芯に巻回される線材に適当なテンションを付与するところにある。
【0018】
また、巻線工程は、ノズルを巻芯の回りで周回させて蓄線された線材を巻芯に巻き付けることにより行うことが好ましく、蓄線工程と巻線工程の間に、フライヤ先端から繰り出される線材の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯の回りに巻き付ける別の巻線工程を行うことが更に好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の巻線装置及び巻線方法では、分割可能に構成され合体状態で引き出された線材の端部を保持可能なノズルと、ノズルにおける分割片を分割し又は合体させる分割片移動機構とを備えたので、蓄線の後に引き出された線材の巻芯側における端部をノズルにより保持することにより、蓄線された線材の巻芯に巻回される側の位置をノズルにより規制することができる。すると、巻芯側における線材の位置が規制されないことに起因する線材の巻乱れを防止することができる。
【0020】
そして、線材を把持したチャック装置をフライヤから遠ざけて蓄線する様にすれば、その蓄線を比較的容易に行うことが可能となり、ノズル移動機構によりノズルを移動させるようにすれば、巻芯側の線材の位置を制御することが可能となり、渦巻き状コイルのみならず、螺旋状コイルの作成も可能となり、巻線の多様性を図ることができる。そして、ノズルを巻芯の回りで周回させるようにすれば、蓄線された線材を巻芯に巻き付けることも可能となり、線材の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯の回りに巻き付けようにすれば、いわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるコイルも容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明実施形態の巻線装置を示す正面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3】その蓄線された線材が巻芯に巻回される状態を示す図2に対応する断面図である。
図4】その蓄線された線材の手前の線材が巻芯に巻回される状態を示す正面図である。
図5】その蓄線された線材が巻芯に巻回される状態を示す図4に対応する正面図である。
図6】本発明の別の実施形態の巻線装置を示す上面図である。
図7】その別の巻線装置の一部断面を示す正面図である。
図8】その蓄線手段を示す図7のB-B線断面図である。
図9】その別の巻線装置の巻芯周囲の構造を示す分解構成図である。
図10】その別の巻線装置において蓄線された線材の手前の線材が巻芯に巻回される状態を示す上面図である。
図11】その別の巻線装置において蓄線された線材が巻芯に巻回される状態を示す図10に対応する上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。
【0023】
図1示すように、巻線装置9は、基台1上に、一対のスピンドル支持台2、3を備える。一方のスピンドル支持台2は、基台1に固定の固定台2aと、移動台2bとから構成される。移動台2bは、移動台駆動モータ4およびボールネジ5により、固定台2a上をスピンドル支持台3側に対して前後(図1の左右に)に移動自在となっている。
【0024】
移動台2bには、中空のスピンドル10が、軸受けを介して軸回りで回転自在に支持される。このスピンドル10の中空部10aの基端側には、スリーブ11が固定される。このスリーブ11には、巻治具12の基端側が、軸方向に摺動自在に収容される。
【0025】
この巻治具12のほぼ円形断面の先端部12aは、スピンドル支持台3側を向くスピンドル10の先端側から突出する。この先端部12aが巻芯の一部を構成する。また、この巻治具先端部12aの先端面12bには、嵌合凹部12cが形成される。この嵌合凹部12cは、後述するフライヤスピンドル20側の巻治具23に固定された嵌合凸部材24と一体に回転するように嵌合する(異径嵌合する)。これにより、巻治具12と巻治具23は一体に回転するようになっている。
【0026】
また、巻治具12の外周の一部にはフランジ部12eが形成され、このフランジ部12eとスリーブ11先端との間には、スプリング13が介装される。このスプリング13により、巻治具12は、フランジ部12eがスピンドル10の中空部10a内周に形成された段部10bに当接するところまで、スピンドル10先端方向に付勢されるようになっている。
【0027】
スリーブ11は、スピンドル10の基端から突出しており、この突出部には、ギヤ14が固定される。一方、スピンドル駆動モータ15の駆動軸15aにはギヤ16が固定される。これらのギヤ14、16にベルト17が掛け回されることにより、スピンドル10が巻治具12と共にスピンドル駆動モータ15により回転駆動されるようになっている。
【0028】
他方のスピンドル支持台3には、筒状のフライヤスピンドル20が、軸受けを介して回動自在に支持される。このフライヤスピンドル20にL字型のフライヤ30が固設される。また、このフライヤスピンドル20の内周には、同軸的に、回転軸21外周のスプライン部21aがスプライン結合する。この回転軸21の先端には、巻治具支持部材22が、軸受けを介して回転自在に、かつ同軸的に支持される。この巻治具支持部材22の先端に、巻芯の一部を構成する巻治具23が同軸的に固定される。
【0029】
この巻治具23は、前述の巻治具12の先端部12aと略同径の略円形断面のもので、その先端面から突出して嵌合凸部材24が固定される。この場合、巻治具23(したがって、フライヤスピンドル20、回転軸21、巻治具支持部材22は、前述したスピンドル10と同軸上に配置されるようにし、巻治具23は、前述した巻治具12と先端面を正面から対向させている。
【0030】
これにより、移動台2bがスピンドル支持台3側に移動して来ると、巻治具23と巻治具12の先端面が接触し、このとき嵌合凸部材24と嵌合凹部12cが一体に回転するように嵌合する。また、このとき、巻治具12は、スプリング13により巻治具23に押し付けられる。これにより、巻治具23と巻治具12は一体に連結されるように構成される。
【0031】
なお、フライヤスピンドル20の内周に、同軸的に、スプライン結合する回転軸21は、スピンドル支持台3に対して、スリーブ駆動モータ25およびボールネジ26を介して、軸方向に移動可能に構成される。
【0032】
回転軸21のスプライン部21aの基端側は、スピンドル支持台3の後側(図1の右側)に突出し、この突出部分にギヤ31がスプライン結合する。また、フライヤスピンドル駆動モータ32の駆動軸32aには、ギヤ33が固定される。これらのギヤ31、33にベルト34が掛け回されることにより、回転軸21およびフライヤスピンドル20が、フライヤスピンドル駆動モータ32で回転駆動され、フライヤ30先端部は、巻治具23の回りを回転するようになっている。
【0033】
スピンドル支持台3の後方には、線材源35が配置される。この線材源35から繰り出された線材6は、テンション装置36により所定のテンションが与えられた後、回転軸21の中空部21bに基端側から導かれ、中空部21b内に設けられたプーリ37に掛け回されて案内される。その後、線材6は、回転軸21の外周面に形成された穴を通って回転軸21の外側に抜け出し、ギヤ31を貫通して、フライヤスピンドル20を軸方向に貫通する貫通孔20aに至る。この貫通孔20aから抜け出た線材6は、フライヤ6先端のプーリ38に導かれる。
【0034】
なお、フライヤ30の側方には下側チャック装置39が備えられる。この下側チャック装置39は流体圧により開閉する一対の挟持片39aが本体部39bから上方に突出するように設けられ、線材6の先端を一対の挟持片39aに挟持させることにより、この下側チャック装置39は線材6を把持するように構成される。
【0035】
スピンドル支持台3の上部には、蓄線手段40が備えられる。この蓄線手段40は、シリンダ支持台41と、線材引き出しシリンダ42と、上側チャック装置44と、前後駆動シリンダ45とから構成される。
【0036】
具体的に、シリンダ支持台41は、スピンドル支持台3に対して前後方向(図1の左右方向)に移動自在に設けられる。このシリンダ支持台41には前後シリンダ45のロッド45aが取り付けられ、シリンダ支持台41の移動は、前後駆動シリンダ45により駆動される。
【0037】
また、シリンダ支持台41には、エアシリンダである線材引き出しシリンダ42が取り付けられる。この線材引き出しシリンダ42から下方に延び出すロッド42aの先端に、上側チャック装置44が固定される。この上側チャック装置44は流体圧により開閉する一対の挟持片44aが本体部44bから下方に突出するように設けられ、線材6を一対の挟持片44aに挟持させることにより、この上側チャック装置44は線材6を把持するように構成される。従って、上側チャック装置44に線材6を把持させ、その上側チャック装置44を、線材引き出しシリンダ42の収縮により図の上方に引き上げることにより、線材6を上方に引き出して蓄線するように構成される。
【0038】
また、本発明の巻線装置9は、軸芯方向に沿って分割可能に構成され合体状態で引き出された線材6の端部を保持可能なノズル47と、そのノズル47の左右における分割片47b,47c(図2及び図3)を分割して離間させ又は合体させる分割片移動機構48とを備える。この実施の形態におけるノズル47は、分割片移動機構48を介してシリンダ支持台41に取付けられる。
【0039】
図3に示すように、ノズル47は、六面体から成る基台部47dとその基台部47dから突出する円筒部47eとを有し、その円筒部47eに中心軸方向に伸びる貫通孔47aが円筒部47eと基台部47dを貫通して形成される。図2に示すように、このノズル47はその貫通孔47aの軸芯方向に沿ってその円筒部47eと基台部47dが分割され、このノズル47は、その左右における分割片47b,47cを分割し又は合体させる分割片移動機構48を介してシリンダ支持台41に取付けられる。
【0040】
この実施の形態における分割片移動機構は、流体圧により移動する一対の可動片48b,48cを有する流体圧シリンダ48であって、一対の可動片48b,48cが巻治具23の上方であって、図3に示す様に、その巻治具23を通過する鉛直方向に延びる線材6を両側から挟むように、その本体部48aがシリンダ支持台41に取付けられる。そして、ノズル47における左右の分割片47b,47cは、この流体圧シリンダ48の流体圧により移動して離接する一対の可動片48b,48cに取付けられる。
【0041】
よって、左右の分割片47b,47cは、一対の可動片48b,48cにより独立して左右に移動可能に取付けられ、図2に示すように、左右の分割片47b,47cが離間した状態でその間に線材6及びその線材6を把持する上側チャック装置44が挿通可能に構成される。そして、その間に線材6が挿通されている状態で、左右の分割片47b,47cの対向面を互いに接触させることにより、図3に示す様に、その対向面に形成された貫通孔47aにその線材6が収容され、これにより、このノズル47はその線材6を長手方向に移動可能に保持するように構成される。
【0042】
よって、上側チャック装置44に把持された線材6が、線材引き出しシリンダ42の収縮とともに引き出された場合に、このノズル47は、その引き出されて鉛直方向に延びる線材6を保持可能に構成される。
【0043】
次に、上記巻線装置を用いた本発明の巻線方法を説明する。
【0044】
上記巻線装置9は、線材6を引き込んで蓄線としておく蓄線手段40を備えるので、この巻線装置9を用いた巻線方法は、フライヤ30先端から繰り出された線材6を引き込んで蓄線としておく蓄線工程と、蓄線された線材6を巻芯(先端部12a)の回りに巻き付ける巻線工程とを有する巻線方法となる。そして、上記巻線装置9は、引き出された線材6の端部を保持可能なノズル47を備えるので、蓄線工程の後に引き出された線材6の端部をノズル47により保持する線材保持工程が行われることになる。
【0045】
また、得ようとするコイルが、内周端が連結されて線材6の巻回始端と巻回終端とが最外層になるようにしたいわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるコイルを得る場合には、蓄線工程と巻線工程の間に、フライヤ30先端から繰り出される線材6の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯(巻治具23)の回りに巻き付ける別の巻線工程を行うことになる。
【0046】
これらの工程を以下に詳説する。
【0047】
<蓄線工程>
先ず、線材6の巻線装置9への配索が必要になるけれども、この線材6の配索にあっては、図1に示す様に、線材源35から繰り出された線材6を、テンション装置36、プーリ37、貫通孔20aを経て、フライヤ30先端のプーリ38に導く。さらに、この線材6の先端部を、このプーリ38の先で、下側チャック装置39により把持させておく。
【0048】
つぎに、蓄線手段40の線材引き出しシリンダ42を作動させ、ロッド42a先端の上側チャック装置44を、下側チャック装置39の近傍まで下降させる。なお、この場合、巻治具23は、上側チャック装置44の下降の邪魔にならないように、スリーブ駆動モータ25により巻治具21と共に後退させておく。
【0049】
また、図2に示すように、分割片移動機構である流体圧シリンダ48は、一対の可動片48b,48cを離間させて、それらに取付けられているノズル47における左右の分割片47b,47cを離間させ、その間において上側チャック装置44の下降及び上昇を可能にさせておく。
【0050】
上側チャック装置44を、下側チャック装置39の近傍まで下降させた後には、その下側チャック装置39が把持している線材6の端部を一対の挟持片44aで挟持することにより上側チャック装置44による把持させる。その後、下側チャック装置39における線材6の把持を解消させ、続いて、線材引き出しシリンダ42のロッド42aを収縮させて、線材6の端部を把持した上側チャック装置44を図2の実線矢印で示す様に上昇させる。これにより、フライヤ30の先端から線材6を上方に引き出して、比較的容易に蓄線として蓄える。
【0051】
<線材保持工程>
この工程では、蓄線工程において引き出された線材6の端部をノズル47により保持する。蓄線工程においてノズル47は図2に示す様に分割された状態であり、このノズル47は、線材6の端部を把持した上側チャック装置44を上昇させることにより引き込まれた線材6の、フライヤ30近傍の端部を保持可能な位置に設けられているので、分割片移動機構である流体圧シリンダ48は、一対の可動片48b,48cを互いに接近させ、図3に示す様に、それらに取付けられている左右の分割片47b,47cを合体させる。これにより、その間に存在する線材6を合体したノズル47により、長手方向に移動可能に保持させることになる。
【0052】
<別の巻線工程>
この工程では、フライヤ30先端から繰り出される線材6の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯(巻治具23)の回りに巻き付ける。
【0053】
具体的には、図1における、移動台駆動モータ4による移動台2bの移動およびスリーブ駆動モータ25による回転軸21の移動により、巻治具12、23を互いに近づく方向に移動させる。このとき、蓄線手段40からの線材6も、前後駆動シリンダ45による蓄線手段40の前進により、巻治具23の移動分だけ前進させる。
【0054】
図4に示すように、これにより、巻治具12、23の先端面が互いに当接し、さらに、巻治具23に押された巻治具12の先端部12aが、スプリング13に抗してスピンドル10内に完全に収容される位置まで後退する。これにより、スピンドル10と巻治具支持部材22の間に巻芯として露出するのを巻治具23だけとする。
【0055】
続いて、駆動モータ32(図1)の駆動により、図3及び図4の実線矢印で示す様に、フライヤ30先端を巻治具23の回りで公転させ、そのフライヤ30の先端から新たに繰り出される線材6、即ち、線材6の蓄線された部分よりも手前の線材を巻治具23の外周に所定のターン数に達するまで巻き付けて行く。
【0056】
この点において、駆動モータ32(図1)は、フライヤ30先端から繰り出される線材6の蓄線手段40よりも手前の部分を巻芯である巻治具32の回りに巻き付ける別の巻線手段を構成するものとなり、これにより、この別の巻線工程における第一段階の巻線が巻治具23になされる。
【0057】
ここで、図4の符号10cは、スピンドル10の先端面に形成された逃げ溝10cであって、蓄線された線材6をこの逃げ溝10cに収容することにより、線材6の蓄線された部分よりも手前の線材を巻治具23の外周に巻回する際の障害となることを防止するものである。そして、蓄線された線材6は、上方で上側チャック装置44に把持されているので、フライヤ30が公転したとき蓄線された線材6が引き出されることはなく、正しく巻線がなされる。
【0058】
<巻線工程>
この工程では、図5に示す様に、蓄線された線材6を巻芯(先端部12a)の回りに巻き付ける。上述した別の巻線工程を行った後にあっては、その別の巻線工程における第一段階の巻線の後、図1に示す移動台駆動モータ4による移動台2bの移動とともに、スピンドル10を、巻治具23側から後退させる。このとき、巻治具12はスプリング13により付勢されているので、巻治具12、23の先端面の当接が保たれる。これにより、図5に示すように、スピンドル10の後退分だけ、巻治具12の先端部12aが、スピンドル10の先端側から突出する。この先端部12aの突出部分が、この巻線工程における第二段階の巻線のための巻芯となる。
【0059】
この第二段階の巻線は、図5に破線矢印で示すように、スピンドル駆動モータ15(図1)の駆動によりスピンドル10を回転させることにより、蓄線手段40側に蓄えられていた線材6を、巻治具先端部12a外周に所定のターン数に達するまで巻き付けることでなされる。この点において、このスピンドル駆動モータ15は、蓄線手段40側に蓄えられていた線材6を巻芯である巻治具先端部12aに巻き付ける巻線手段を構成するものとなる。
【0060】
なお、この場合、実線矢印で示す様に、フライヤ30もスピンドル10と同期回転させ、フライヤ30と巻治具12、23との位置関係を一定としておく。
【0061】
そして、この第二段階の巻線では、蓄線手段40の線材引き出しシリンダ42(図1)は、空圧回路の切り換えによりフリーの状態にされ、ロッド42aの下端に設けられた上側チャック装置44は一点鎖線矢印で示すように下降自由としておく。これにより、第一段階の巻線時に蓄線として蓄えられていた線材6が、上側チャック装置44の下降とともに巻線用に供給される。そして、ロッド42aの伸長に伴い線材引き出しシリンダ42のシリンダ部から空気が排出されるときの抵抗が、線材6に適度なテンションを与えることになる。
【0062】
このような巻線により、線材6は巻治具先端部12aに巻き付けられて行くが、その巻治具先端部12aの近傍において、線材6はノズル47により保持されているので、線材6の巻芯である巻治具先端部12aの軸方向における位置は規制されることになり、線材6が規制されずに、その軸方向に移動することにより生じる線材6の巻乱れが生じるようなことはない。
【0063】
このようにして、巻治具23および巻治具先端部12aに、第一段階および第二段階の巻線がなされたならば、上側チャック装置44による線材6端部の把持が解除され、図示されないカッター装置によりフライヤ30側で線材6がカットされる。さらに、移動台駆動モータ4による移動台2bの移動により巻治具12を後退させ、巻治具23との連結を解除することにより、完成したいわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるコイルの排出がなされて、一連の巻線作業を終了させる。
【0064】
図6及び図7に、本発明を実施するための別の実施の形態を示す。
【0065】
図6及び図7における巻線装置50にあっても、線材6を先端から繰り出すフライヤ62を備える。図では、そのフライヤ62をその回転軸方向に移動させるトラバース機構51を備えるものを例示する。ここで、この別の実施の形態にあっては、互いに直交するX、Y、Zの3軸を設定し、X軸が略水平横方向、Y軸が略水平前後方向、Z軸が略垂直方向に延びるものとし、この巻線装置50の構成を説明する。
【0066】
図7に詳しく示す様に、トラバース機構51は、基台50aに設けられたトラバースモータ52と、トラバースモータ52の出力軸に連結されフライヤ62の回転軸方向に延在するボールねじ53と、ボールねじ53が螺合する移動体54aと、基台50a上にボールねじ53と平行に配置され移動体54aを案内するガイドレール55と、そのガイドレール55に案内される移動体54bと、移動体54a,54bが取付けられた移動台56とを備える。そして、トラバースモータ52が駆動すると、移動体54a,54bはガイドレール55に案内され、移動台56はX軸方向に移動するように構成される。
【0067】
基台50a上にX軸方向に移動可能に設けられた移動台56には、第一ヘッド57が立設される。第一ヘッド57は、軸受58を介して回転自在である円筒形状の第一スピンドル軸59の基端側を支持すると共に、第一スピンドル軸59の内周に軸受60を介して回転不能の第一中心体61が支持される。第一スピンドル軸59の先端には環状のフランジ部59aが一体に設けられ、このフランジ部59aにフライヤ62が取付けられる。
【0068】
フライヤ62は、第一スピンドル軸59の回転軸から偏心した位置に取付けられ、このフライヤ62には、線材6の案内用のローラ62aが設けられ、その先端には線材6を繰り出す管体62bが設けられる。
【0069】
また、移動台56にはフライヤ回転モータ66が設けられ、フライヤ回転モータ66の出力軸にはプーリ67が取付けられる。第一スピンドル軸59の先端近傍には、プーリ65が取付けられ、プーリ65とプーリ67とはベルト68を介して連結される。これにより、フライヤ回転モータ66が駆動すると、第一スピンドル軸59が回転し、フライヤ62が第一スピンドル軸59の回転軸を中心に回動するように構成される。なお、フライヤ62が取付けられた第一スピンドル軸59には、そのフライヤ62の近傍であって回転軸に平行に線材6が挿通する貫通孔59bが形成される。
【0070】
第一中心体61には第一スピンドル軸59の回転軸と同軸上に貫通孔61aが形成される。その貫通孔61aには第一ロッド69が挿通される。第一ロッド69は貫通孔61aにスプライン係合してフライヤ62の回転軸方向に移動可能であるけれども回転不能に構成される。これにより第一ロッド69は、第一中心体61に対して相対移動可能に構成され、この第一ロッド69の先端には、巻芯71が取付けられる。
【0071】
図9及び図10に示す様に、この別の実施の形態における巻芯71は、筒状の巻胴部71aの周囲に、3枚の円板状のフランジ71b,71c,71dが所定の隙間を空けて形成されたボビンであって、中間のフランジ71cには線材6が連通する切欠き71eが形成されるものとする。従って、この第一ロッド69の先端には、巻芯であるボビン71が取付けられるロック機構72が設けられる。
【0072】
図に示すロック機構72は、押さえ具73により巻芯であるボビン71を第一ロッド69の先端に挟持するものであって、この押さえ具73は、ロック機構72に先端が係止されるカップリング軸73aとカップリング軸73aの基端に取付けられ、第一ロッド69の先端に装着された状態で巻芯71の一方のフランジ71bを外側から押さえる押さえ板73bとを備える。
【0073】
カップリング軸73aは巻芯71の筒状を成す巻胴部71aの内径よりも僅かに小さな外径を有する円柱状に形成され、その長さは巻胴部71aの全長よりも長く形成される。そして、カップリング軸73aの先端周囲には環状溝73cが形成される。また、押さえ板73bは巻芯71の一方のフランジ71bの外径と同様の外径に形成される。
【0074】
第一ロッド69の先端に設けられたロック機構72は、その第一ロッド69の先端に軸心に沿って穿孔され、押さえ具73におけるカップリング軸73aが挿入可能なカップリング孔72aと、そのカップリング孔72aに交差するように第一ロッド69の先端に形成された横孔72bと、横孔72bに挿入されカップリング軸73aに形成され環状溝73cに係合する球体72cと、第一ロッド69に嵌入され軸方向に移動して球体72cを環状溝73cに挿入し又は離脱させる操作部材72dと、球体72cを環状溝73cに挿入する方向に操作部材72dを付勢するスプリング72e等を備える。
【0075】
ボビン71における巻胴部71aには、その端部から軸方向に伸びるスリット71fが形成され、そのスリット71fに進入可能な突部69aが第一ロッド69に形成される。このため、巻芯71の巻胴部71aに挿通されたカップリング軸73aの先端がこのカップリング孔72aに差し込まれて押え具73が第一ロッド69に取付けられると、スリット71fに突部69aが進入し、第一ロッド69に対する巻芯71の回転は禁止されるように構成される。
【0076】
図6に示す様に、巻線装置50は、巻芯71をトラバース機構51と別に移動させる移動機構75が設けられる。図7に示す様に、この移動機構75は、巻芯71が先端に設けられた第一ロッド69を軸方向に移動させるものであって、移動台56とともに移動する第一ヘッド57の後方に設けられたフレーム76に支持される。
【0077】
具体的に、図7に示す様に、フレーム76には、フライヤ62の回転軸と平行なガイド軸77が上方にその中心軸を中心に回転可能に架設される。第一ヘッド57に支持された第一スピンドル軸59の第一ヘッド57より後方に存在する後端にはプーリ78aが取付けられ、ガイド軸77には別のプーリ78bがガイド軸77に対して回転不能に取付けられる。そして、プーリ78aとプーリ78bとはベルト78cを介して連結され、第一スピンドル軸78が回転すると、ガイド軸77も回転するように構成される。
【0078】
移動機構75は第一ヘッド57と略平行な第二ヘッド79を有し、ガイド軸77はその第二ヘッド79に挿通される。第二ヘッド79はガイド軸77に支持されると共に、そのガイド軸77に沿って移動可能に構成される。第二ヘッド79は、軸受80を介して回転自在である円筒形状の第二スピンドル軸81を支持すると共に、第二スピンドル軸81の内周に軸受82を介して回転不能である第二中心体83を支持している。
【0079】
第二スピンドル軸81の後端には、プーリ84が取付けられる。また、第二ヘッド79のガイド軸77が挿通された部分には、その第二ヘッド79に対して回転可能であってかつ軸方向に移動不能にプーリ85が取付けられる。このプーリ85はガイド軸77に対しては回転不能であってかつ軸方向に移動可能に構成される。そして、プーリ84とプーリ85とはベルト86を介して連結される。これにより、ガイド軸77が回転すると、第二スピンドル軸81も回転するように構成される。
【0080】
第二スピンドル軸81は、回転軸が第一スピンドル軸78の回転軸と偏心して設けられる。そして、第一スピンドル軸78が回転すると、ガイド軸77も回転するので、このガイド軸77の回転により第一スピンドル軸78の回転に同期して第二スピンドル軸81も回転するように構成される。なお、第二スピンドル軸81には、線材6が挿通する貫通孔81aが形成される。また、第二中心体83には、第一中心体61の貫通孔61aと同軸上に貫通孔83aが形成され、貫通孔83aには第一ロッド69の後端が軸方向に移動不能に固定される。
【0081】
このように、第一中心体61の中心軸と、第二中心体83の中心軸とは偏心して連結されるため、それぞれの中心体61,83の回転は拘束され、それらの中心体61,83が回転するようなことを防止可能に構成される。
【0082】
フレーム76に覆われる移動台56には巻芯移動モータ87が固定され、巻芯移動モータ87の出力軸にはガイド軸77に平行なボールねじ88が連結される。そして、このボールねじ88は、第二ヘッド79の下部に螺合している。これにより、巻芯移動モータ87が駆動すると、第二ヘッド79はガイド軸77に沿って移動し、第二中心体83に固定された第一ロッド69を軸方向に移動させるように構成される。このように、巻芯移動モータ87を駆動することによって、第一ロッド69先端に設けられた巻芯71を前進又は後退させるように構成される。ここで、図7における89は、移動台56に設けられ、ボールねじ88の後端部を枢支する枢支部材89を示す。
【0083】
図6図8に示す様に、この巻線装置50においても、フライヤ62先端から繰り出された線材6を引き込んで蓄線としておく蓄線手段90が設けられる。この別の実施の形態における蓄線手段90は、フライヤ62の回転軸方向に延びて設けられたレール91と、そのレール91に移動可能に取付けられたチャック装置92と、そのレール91の両端に台板93cを介して枢支された一対のプーリ93a,93bと、一方のプーリ93aを回転させるモータ94と、一対のプーリ93a,93bに掛け回されてチャック装置92が取付けられたベルト95とを備える。
【0084】
レール91には、そのレール91に沿って移動する移動体91aが設けられ、この移動体91aにチャック装置92が設けられる。このチャック装置92は流体圧により開閉する一対の挟持片92aが本体部92bから下方に突出するように設けられる。そして、移動体91aは一対のプーリ93a,93b間において延びる一方のベルト95に取付けられる。
【0085】
従って、この蓄線手段90では、チャック装置92に線材6の端部を把持させ、この状態でモータ94を駆動させてベルト95を循環させ、そのベルト95に取付けられたチャック装置92を図7の実線矢印で示す様に、レール91に沿ってフライヤ62や巻芯71から遠ざけることにより、そのチャック装置92に把持された線材6を、フライヤ62の先端から引きこんで蓄線するように構成される。
【0086】
蓄線手段90は、この蓄線手段90を三軸方向に移動可能に構成された三軸移動装置96を介して基台50aに取付けられる。図における三軸移動装置96は、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ97~99の組合わせにより構成され、モータ97aにより回転するボールネジ97bにより従動子97cが移動するX軸方向伸縮アクチュエータ97の比較的長いハウジング97dがX軸方向に長い取付台96aを介して基台50aに取付けられる。
【0087】
X軸方向伸縮アクチュエータ97における従動子97cは所定の間隔を開けて一対設けられ、これらの従動子97cにY軸方向伸縮アクチュエータ98の従動子98cがそれぞれ取付けられ、そのY軸方向伸縮アクチュエータ98のハウジング98dにはZ軸方向伸縮アクチュエータ99のハウジング99dが取付けられる。このようにして、一対のZ軸方向伸縮アクチュエータ99がX軸方向に所定の間隔を開けて設けられ、この一対のZ軸方向伸縮アクチュエータ99のモータ99aにより回転するボールネジ99bにより移動する従動子99cに、蓄線手段90におけるレール91がX軸方向に延びて架設される。それらの各伸縮アクチュエータ97~99における各サーボモータ98a~99aは、これらを制御する図示しないコントローラの制御出力に接続される。
【0088】
また、本発明の巻線装置50は、軸芯方向に沿って分割可能に構成され合体状態で引き出された線材6の端部を保持可能なノズル47と、そのノズル47の左右における分割片47b,47cを分割して離間させ又は合体させる分割片移動機構48とを備える。このノズル47及び分割片移動機構48は上述した実施の形態におけるものと同一であるので、繰り返しての説明を省略する。そして、この別の実施の形態におけるノズル47及び分割片移動機構48はノズル移動機構100を介して基台50aに取付けられる。
【0089】
このノズル移動機構100にあっても、X軸、Y軸、及びZ軸方向伸縮アクチュエータ101~103の組合わせにより構成され、ノズル47が設けられた分割片移動機構48は、ノズル47が上方にあってそれらの分割片47b,47cがY軸方向に離間しかつ合体した状態でその貫通孔47aがX軸を向くようにして、X軸方向に長い延長板104の一端部に取付けられる。その延長板104の他端部はX軸方向伸縮アクチュエータ101のX軸方向に移動可能な従動子101cに取付けられる。
【0090】
X軸方向伸縮アクチュエータ101のハウジング101dは、そのX軸方向伸縮アクチュエータ101とともにその延長板104をZ軸方向に移動可能に、Z軸方向伸縮アクチュエータ103の従動子103cに取付けられる。
【0091】
また、そのZ軸及びX軸方向伸縮アクチュエータ101,103とともにその延長板104をY軸方向に移動可能に、そのZ軸方向伸縮アクチュエータ103のハウジング103dがY軸方向伸縮アクチュエータ102の従動子102cに取付けられる。そして、Y軸方向伸縮アクチュエータ102のハウジング102dがY軸方向に伸びて基台50aに固定される。
【0092】
よって、チャック装置92を巻芯71から遠ざけることにより線材6がフライヤ62の先端から引き出された場合に、このノズル47の分割片47b,47cを離間させた状態で、引き出されてX軸方向に延びる線材6を挟む位置までノズル移動機構100によりノズル47を移動させ、その後分割片47b,47cを合体させることにより、ノズル47は、その引き出されてX軸方向に延びる線材6を保持可能に構成される。
【0093】
次に、上記巻線装置を用いた本発明の巻線方法を説明する。
【0094】
上記巻線装置50にあっても、線材6を引き込んで蓄線としておく蓄線手段90と、引き出された線材6の端部を保持可能なノズル47を備えるので、この巻線装置50を用いた巻線方法は、フライヤ62先端から繰り出された線材6を引き込んで蓄線としておく蓄線工程と、蓄線工程の後に引き出された線材6の端部をノズル47により保持する線材保持工程と、蓄線された線材6を巻芯71の回りに巻き付ける巻線工程とを有するものとなる。
【0095】
そして、蓄線工程と巻線工程の間に、フライヤ62先端から繰り出される線材6の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯71の回りに巻き付ける別の巻線工程を行うことにより、内周端が連結されて線材の巻回始端と巻回終端とが最外層になるようにした、いわゆるアルファ巻(又は、「外外巻」ともいう。)からなるコイルを得ること可能となり、各工程を以下に詳説する。
【0096】
<蓄線工程>
先ず、線材6の巻線装置50への配索が必要になるけれども、この線材6の配索にあっては、図7に示す様に、線材源(図示せず)から供給される線材6を、テンション装置(図示せず)を経てフレーム76の後部から、第二スピンドル軸81の貫通孔81a、第一スピンドル軸59の貫通孔59bに順番に通す。そして、フライヤ62に設けられた複数のローラ62aを介してフライヤ先端の管体62bに導く。そして、管体62bから繰り出した線材6を、蓄線手段90におけるチャック装置92に把持させる。
【0097】
チャック装置92はフライヤ62に接近させた状態で線材6を把持し、その後、蓄線手段90のモータ94を駆動させてベルト95を循環させ、そのベルト95に取付けられたチャック装置92をレール91に沿って、図7の実線矢印で示す様に、フライヤ62から遠ざけることにより、そのチャック装置92に把持された線材6を、フライヤ62の先端から引きこんで蓄線する。
【0098】
なお、この蓄線工程において、ノズル移動機構100によりノズル47をチャック装置92の移動軌跡から離脱する待機位置まで移動させておく。
【0099】
<線材保持工程>
この工程では、蓄線工程において引き出された線材6の端部をノズル47により保持する。具体的に、図10に示す様に、分割片移動機構である流体圧シリンダ48により、ノズル47の分割片47b,47cを一点鎖線で示す様に離間させた状態で、X軸方向に延びる線材6を、それらの分割片47b,47cがフライヤ62の近傍において挟む位置まで、ノズル移動機構100によりノズル47を移動させる。
【0100】
そして、分割片移動機構である流体圧シリンダ48により、破線矢印で示す様に、ノズル47における分割片47b,47cを互いに接近させて合体させる。これにより、その引き出されてX軸方向に延びる線材6を合体したノズル47の貫通孔47aに貫通させて、長手方向に移動可能に保持させる。
【0101】
<別の巻線工程>
この工程では、フライヤ62先端から繰り出される線材6の蓄線された部分よりも手前の部分を巻芯71の回りに巻き付ける。具体的には、図7におけるフライヤ回転モータ66を駆動させて、図10に示す第一スピンドル軸59を実線矢印で示すように回転させ、その第一スピンドル軸59に設けられたフライヤ62を巻芯71の周囲に公転させる。これにより、そのフライヤ62の先端から新たに繰り出される線材6、即ち、線材6の蓄線された部分よりも手前の線材6を巻芯71に所定のターン数に達するまで巻き付けて行く。
【0102】
この点において、フライヤ回転モータ66は、フライヤ62先端から繰り出される線材6の蓄線手段90よりも手前の部分を巻芯71の回りに巻き付ける別の巻線手段を構成するものとなる。
【0103】
この別の実施の形態では、巻芯71が、巻胴部71aの周囲に3枚のフランジ71b,71c,71dが形成されたボビンであるので、この別の巻線工程における第一段階の巻線では、第一スピンドル軸59側における一対のフランジ71c,71dの間の巻胴部71aに線材6を巻回するものとし、巻芯71の軸方向の移動は移動機構75(図7)により行われることになる。
【0104】
<巻線工程>
この工程では、蓄線された線材6を巻芯71の回りに巻き付ける。この巻線工程における第二段階の巻線では、蓄線手段90側における一対のフランジ71b,71cの間の巻胴部71aに線材6を巻回するものとし、この実施の形態では、図11に示す様に、合体させることにより線材6を移動可能に保持させたノズル47を、ノズル移動機構100により、その巻芯であるボビン71の回りで周回させることにより、蓄線された線材6を巻芯71に巻き付けるものとする。
【0105】
このように、ノズル移動機構100は、ノズル47を巻芯であるボビン71の回りで周回させることにより、蓄線手段90側に蓄えられていた線材6をそのボビン71に巻き付ける点で、巻線手段を構成するものとなる。
【0106】
この巻線工程にあっては、移動機構75(図7)により巻芯71を第一スピンドル軸59より突出させて、第一スピンドル軸59に設けられたフライヤ62が、ボビン71の回りで周回するノズル47と干渉することを防止する。
【0107】
このように回転しないで固定されたボビン71の回りでノズル47を図11の実線矢印で示す様に周回させると、蓄線手段90(図7)において、線材6の端部を把持したチャック装置92は破線矢印で示す様にノズル47に接近して、そのノズル47を通過した線材6が順次巻芯であるボビン71に巻回されることになる。
【0108】
そして、この蓄線の繰り出しに際して、図7に示す蓄線手段90のモータ94を制御する図示しないモータ制御手段は、チャック装置92のノズル47への接近に起因して逆方向に回転するモータ94の回転を制御することで、ノズル47を通過してボビン71に巻回される線材6に適当なテンションを付与することになる。
【0109】
このような巻線により、線材6は巻芯であるボビン71に巻き付けられて行くが、そのボビン71の周囲において、線材6はノズル47により保持されているので、線材6の巻芯であるボビン71の軸方向における位置は規制されることになり、線材6が規制されずに、その軸方向に移動することにより生じる線材6の巻乱れが生じるようなことはない。
【0110】
また、線材6を把持したチャック装置92をフライヤ62から遠ざけて蓄線するので、その蓄線を比較的容易に行うことが可能となり、ノズル移動機構100によりノズル47を移動させているので、巻芯であるボビン71の軸方向における線材6の位置も規制することが可能となり、巻線の多様性を図ることができる。
【0111】
そして、巻芯であるボビン71に、第一段階および第二段階の巻線がなされたならば、チャック装置92による線材6端部の把持が解除され、図示されないカッター装置によりフライヤ62側で線材6がカットされる。その後、ロック機構72を解除し、線材6が巻回された巻芯であるボビン71を第一ロッド69の先端から離脱させて排出させることにより、一連の巻線作業を終了させることになる。
【符号の説明】
【0112】
6 線材
9,50 巻線装置
12a 先端部(巻芯)
15 スピンドル駆動モータ(巻線手段)
23 巻治具(巻芯)
30,62 フライヤ
32 フライヤスピンドル駆動モータ(別の巻線手段)
40,90 蓄線手段
44,92 チャック装置
47 ノズル
47b,47c 分割片
48 流体圧シリンダ(割片移動機構)
66 フライヤ回転モータ(別の巻線手段)
71 ボビン(巻芯)
100 ノズル移動機構(巻線手段)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11