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  • 特許-混合絶縁材料及び成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】混合絶縁材料及び成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/00 20060101AFI20221216BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20221216BHJP
   H01B 3/42 20060101ALI20221216BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20221216BHJP
   H01B 7/04 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08L67/00
C08L83/04
H01B3/42 E
H01B3/30 N
H01B3/30 P
H01B7/04
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018221883
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020084068
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-11-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226932
【氏名又は名称】日星電気株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大澤 昌英
【審査官】牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-204171(JP,A)
【文献】特開2002-358837(JP,A)
【文献】特開2013-155272(JP,A)
【文献】特開2001-256836(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L67/
H01B3/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルエラストマーからなる主材料及びシリコーンゴムからなる緩衝体から構成される混合絶縁材料であって、
前記緩衝体は、全混合絶縁材料のうち3wt%より多く10.0wt%より少ない含有量であって、
前記主材料は、曲げ弾性率がそれぞれ異なる、少なくとも2種類以上のポリエステルエラストマーから構成され、
前記曲げ弾性率が最大の主材料、及び、最小の主材料の差が、300~500MPaからなり、
前記曲げ弾性率が500~1000MPaであることを特徴とする混合絶縁材料。
【請求項2】
前記ポリエステルエラストマーからなる主材料を構成する各種主材料は、いずれも同重量ずつ含有されることを特徴とする、
請求項に記載の混合絶縁材料。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の混合絶縁材料を、導体上に絶縁体として被覆された電線、及び/または、前記電線を複数本撚り合わされた多芯ケーブル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の混合絶縁材料及びその成形品に関し、特に耐ストレスクラック性及び屈曲性に優れることから、主に産業用ロボット・半導体製造装置等のFA機器に使用される電線・ケーブル用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、FA機器に使用される電線・ケーブルとして、屈曲に対する耐久性に優れる電線・ケーブルが知られている。
【0003】
例えば特許文献1は、多心ケーブルを構成する電線の絶縁材料として、ポリエステルエラストマーに対して有機系高分子量シリコーンポリマーを0.5~3.0wt%含有する材料である。このように有機系高分子量シリコーンポリマーを含有した絶縁体材料で被覆した絶縁心線を複数本撚り合わせ、シースを施した多心ケーブルでは、シリコーンが他物質との親和力が小さく、表面同士が接着するのを防ぎ、離型性を付与するため、絶縁心線同士の表面滑り性が良好になり、ケーブルに屈曲、捩れ等のストレスを受けた場合には、撚り合わせられる絶縁心線相互がスムーズに動きやすくなり、延いては屈曲・捩れ等の向上に寄与するとの記載がある。
【0004】
しかし、特許文献1の多心ケーブルは、絶縁心線同士のストレスを緩和することは可能である一方、絶縁心線そのものの耐久性については改善が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5307981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、耐ストレスクラック性及び屈曲性に優れることから、特にU字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性に優れる混合絶縁材料及びその成形品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) ポリエステルエラストマーからなる主材料及びシリコーンゴムからなる緩衝体から構成される混合絶縁材料であって、緩衝体は、全混合絶縁材料のうち3wt%より多く10.0wt%より少ない含有量であって、主材料は、曲げ弾性率がそれぞれ異なる、少なくとも2種類以上のポリエステルエラストマーから構成され、曲げ弾性率が最大の主材料、及び、最小の主材料の差が、300~500MPaからなり、曲げ弾性率が500~1000MPaであることを特徴とする。
(2) ポリエステルエラストマーからなる主材料を構成する各種主材料は、いずれも同重量ずつ含有されることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、以下の顕著な効果が奏される。
(1) 本発明の混合絶縁材料は、ポリエステルエラストマーからなる主材料に、シリコーンゴムからなる緩衝体を含有することにより、分子間に隙間が生じ、その隙間により分子間のストレス(歪み)が緩和されることで、耐ストレスクラック性が向上する(すなわち、一定の応力がかかる状態で長時間放置してもクラック等が発生しない)。
(2) 元より剛性に優れるポリエステルエラストマーからなる主材料に、緩衝体を含有することによって柔軟性が付与されるため、絶縁材料として導体上に被覆する場合、電線の屈曲性が改善される。
(3) 緩衝体は全混合絶縁材料のうち3wt%より多く10.0wt%より少ない含有することで、成形性等を犠牲とすることなく、耐ストレスクラック性及び屈曲性が改善され、特にU字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性が向上する。
(4) ポリエステルエラストマーからなる主材料が、少なくとも2種類以上の主材料からなる場合、また、少なくとも2種類の主材料はそれぞれ曲げ弾性率が異なること場合、剛性と柔軟性の両特性を有する分子が混在するとともに、緩衝体により分子間のストレスが緩和されるため、屈曲に対する耐久性を向上させる。
(5) ポリエステルエラストマーからなる主材料が、少なくとも2種類以上の主材料からなり、各種主材料の曲げ弾性率の最大値及び最小値の差が300~500MPaの場合、さらに耐ストレスクラック性及び屈曲性の向上が顕著となる。
(6) 主材料を構成する各種主材料の含有量がいずれも同重量ずつ含有される場合、分散性に優れ、その結果耐ストレスクラック性及び屈曲性の向上に寄与する。
(7) 曲げ弾性率が500~1000MPaである場合、さらに耐ストレスクラック性及び屈曲性の向上が顕著となり、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性が向上する。
(8) 緩衝体が、シリコーンゴムからなる場合、ポリエステルエラストマーあるいはとの分散性に優れため、滑らかな表面性の成形品が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明における混合絶縁材料の混合状態を示す走査型電子顕微鏡(SEM)による画像(a)及び緩衝体の元素マッピング画像(b)である。(実施例2)
図2】U字屈曲試験の概略図を示す。
図3】左右90°屈曲試験の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の混合絶縁材料及び成形品を得る主たる態様としては、以下のようなものがある。
【0011】
本発明の混合絶縁材料は、ポリエステルエラストマーからなる主材料、及び、シリコーンゴムからなる緩衝体から構成される混合絶縁材料であって、緩衝体は、全混合絶縁材料のうち3.0wt%より多く、かつ、10.0wt%より少ない含有量であることを特徴とする。緩衝体が3.0wt%より多い場合、主材料であるポリエステルエラストマーの分子間に隙間が生じて耐ストレスクラック性が向上するとともに、柔軟性が発現するため屈曲性についても向上する。ここで、ストレスクラックとは、長時間一定の応力がかかる状態で放置した場合に、クラックや破壊が生じる現象を言う。耐ストレスクラック性が向上するということは、一定の応力がかかる状態で放置した場合に、クラック等が発生しにくくなる、あるいは、強い応力にも耐え得ることを示す。10.0wt%より少ない場合、主材料による剛性を維持しつつ、緩衝体による柔軟性も得られるため、屈曲性が向上する上、成形品の生産性においても優れる。U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性に優れる点において、より好ましくは3.5wt%~7.0wt%、最も好ましくは4.0wt%~6.0wt%である。
【0012】
一般的に、ポリエステルエラストマーは、剛性等の機械的強度に優れ、特に曲げ弾性率が450MPa以上の高弾性のものは、柔軟性に乏しく、繰り返し曲げに対する耐久性は劣る傾向がある。本発明は、特に、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性を向上する目的で、所定量の緩衝体を含有する。緩衝体を、ポリエステルエラストマーからなる主材料中に均一に分散させることで、分子間の隙間が生じ、その結果、分子間のストレス(歪み)が緩和され、耐ストレスクラック性が向上する。またこれにより、ポリエステルエラストマーが本来有する機械的強度に加え、柔軟性が得られることで、屈曲性が格段に向上する。特に、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性の改善が期待される。
【0013】
また、ポリエステルエラストマーからなる主材料は、少なくとも2種類以上の主材料からなることを特徴とする
【0014】
2種類の主材料の曲げ弾性率について、第一の主材料は500~600MPaからなり、第二の主材料は900~1000MPaからなることが好ましい。
【0015】
ここで曲げ弾性率とは、どれくらいの曲げ応力に耐えられるかを示す指標であり、曲げ荷重の変化量と、たわみの変化量より算出される値である。(ASTM D790)
【0016】
さらに、曲げ弾性率が最大の主材料、及び、最小の主材料の差が、300~500MPaからなることを特徴とする
【0017】
本発明の混合絶縁材料の曲げ弾性率は特に限定されないが、500~1000MPaが好ましく、さらに好ましくは600~800MPaである。特に、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性を向上する目的で、最も好ましくは650~750MPaである。
【0018】
主材料を構成する各主材料の含有量は特に限定されないが、いずれも同重量[wt%]であることが好ましい。
【0019】
本発明の混合絶縁材料における、その他の機械的特性については特に限定されず、以下参考までに示す。
【0020】
硬度は、ショアD65~D80であり、好ましくはショアD70~D75である。(JIS Z 2246)
【0021】
引張特性について、抗張力は30MPa~60MPaであり、好ましくは35MPa~55MPaである。伸び率は、300~600%であり、好ましくは400~500%である。(JIS K 7161)
【0022】
緩衝体の材料は特に限定されないが、例えば、熱硬化性エラストマーのうち、シリコーンゴム、ふっ素ゴム、ウレタンゴム等が挙げられ、好ましくはシリコーンゴムである。
【0023】
緩衝体は、主材料であるポリエステルエラストマーに均一に分散される。均一に分散されることで、緩衝体による分子間のストレス緩和の効果が顕著となり、屈曲性が改善される。また、混合材料の状態あるいは押出成形過程おいて、緩衝体を均一に分散させることで、押出成形性を維持しつつ緩衝体の含有量を高めることが可能となる。
【0024】
本願発明の混合絶縁材料は、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性に優れる。試験方法は、以下の通りである。
【0025】
試験サンプルは、本願発明の混合絶縁材料を絶縁体として使用する電線である。電線の長さ300mmのサンプルを複数本並列に並べ、両面を粘着剤付きPETテープにて固定する。並列に並べられたフラットケーブル状の電線を、曲げR5mmにて繰り返しU字屈曲を行い、絶縁材料に割れが生じる回数を測定する。(図2)U字屈曲特性について、特に限定されないが2万回以上が好ましい。
【0026】
(左右90°屈曲試験方法)
サンプルは、本願発明の混合絶縁材料を使用する電線である。電線の長さは500mmである。曲げR5mm、荷重500gにて、左右90度にて繰り返し屈曲を行い、電線が完全断線に至る回数を測定する(図3)。左右90°屈曲特性について、特に限定されないが7000回以上が好ましい。
【0027】
本願発明の混合絶縁材料を用いた成形品としては、特に限定されないが、絶縁体として導電材料の上に被覆された電線、及び、電線を複数本撚り合わされたケーブルが好適である。電線、ケーブルで使用される場合、導電材料の上に被覆される絶縁体用に限らず、保護材として施されてもよい。絶縁電線、電線の保護材の他、チューブ、パッキン等の成形品が挙げられる。
【実施例
【0028】
以下、本発明の混合絶縁材料について、実施例を挙げ、さらに具体的に説明するが、本発明の範囲について、これらに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1~実施例4)
実施例1は、主材料として、ポリエステルエラストマーA(曲げ弾性率555MPa)とポリエステルエラストマーB(曲げ弾性率930MPa)を同重量ずつ含有し、さらに緩衝体としてシリコーンゴムを全混合絶縁材料のうち3.5wt%含有する混合絶縁材料である。この混合絶縁材料を、導体(錫メッキ軟銅線60本/0.08mm)の上に被覆し、外径1.1mm(肉厚約0.2mm)の電線を成形する。
【0030】
実施例2は、実施例1のうち、緩衝体としてシリコーンゴムを全混合絶縁材料のうち5.0wt%含有する混合絶縁材料である。
【0031】
実施例3は、実施例1のうち、緩衝体としてシリコーンゴムを全混合絶縁材料のうち7.0wt%含有する混合絶縁材料である。
【0032】
実施例4は、実施例1のうち、緩衝体としてシリコーンゴムを全混合絶縁材料のうち10.0wt%含有する混合絶縁材料である。
【0033】
(比較例1~6)
比較例1は、実施例1のうち、緩衝体としてシリコーンゴムを全混合絶縁材料のうち1.0wt%含有する混合絶縁材料である。
【0034】
比較例2は、ポリエステルエラストマーA(曲げ弾性率555MPa)のみからな絶縁材料である。電線の構成は実施例1と同じである。
【0035】
比較例3は、比較例2のうち、ポリエステルエラストマーA(曲げ弾性率555MPa)とポリエステルエラストマーB(曲げ弾性率930MPa)が60:40にて構成させる混合絶縁材料である。
【0036】
比較例4は、比較例2のうち、ポリエステルエラストマーA(曲げ弾性率555MPa)とポリエステルエラストマーB(曲げ弾性率930MPa)が同重量にて構成させる混合絶縁材料である。
【0037】
比較例5は、比較例2のうち、ポリエステルエラストマーA(曲げ弾性率555MPa)とポリエステルエラストマーB(曲げ弾性率930MPa)が40:60にて構成させる混合絶縁材料である。
【0038】
比較例6は、比較例2のうち、ポリエステルエラストマーB(曲げ弾性率930MPa)のみからなる絶縁材料である。
【0039】
各実施例、比較例について、引張特性(抗張力・伸び率)、曲げ弾性率、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性を評価し、結果を表1に示す。
【0040】
(引張特性の測定方法)
測定サンプルとして、電線から導体を除去したチューブ状態の混合絶縁材料(150mm)を用いる。一般の引張試験機を用いて、引張速度50[mm/min]にて、抗張力[MPa]と伸び率[%]を測定する。
【0041】
【表1】
【0042】
実施例1~4は、U字及び左右90°の繰り返し曲げに対する耐久性について、いずれも優れている。特に、実施例2の緩衝体を5.0wt%含有する混合絶縁材料は、両試験において優れている。
【0043】
U字屈曲試験は、電線全体に負荷がかかる試験であり、特に耐ストレスクラック性の向上が寄与している。
一方、左右90°屈曲試験は、局所的に負荷がかかる試験であり、剛性及び柔軟性が得られることによる屈曲性の向上が寄与している。
【0044】
比較例1との比較より、緩衝体の含有量が多くなると、曲げ弾性率が小さくなり、その結果、左右90°屈曲試験、すなわち屈曲性が悪化する傾向が見られる。
一方、U字屈曲試験については、緩衝体の含有量が多くなると、耐ストレスクラック性の改善により、良くなる傾向が見られる。
【0045】
比較例2~6との比較より、緩衝体を含有することで特にU字屈曲の改善が見られ、耐ストレスクラック性の向上が確認できる。
【0046】
以上より、実施例1~4については、耐ストレスクラック性及び屈曲性の両特性に優れ、特に実施例2については、両特性の相乗効果により最もよい結果が得られたと言える。
【0047】
図1は、本発明の混合絶縁材料を使用する電線(実施例2)の外表面を示す、走査型電子顕微鏡による画像である。
【0048】
図1(a)(b)より、主材料である2種類のポリエステルエラストマー中に、緩衝体であるシリコーンゴムが均一に分散されていることが分かる。
図1(b)の元素マッピング図では、緩衝体が白い部分で表示されている。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、特に、産業用ロボット・半導体製造装置等のFA機器に使用される、各種絶縁電線、ケーブルの被覆材の他、チューブ、パッキン等の成形品等、繰り返し曲げに対する耐久性が要求される分野において、幅広く使用可能である。
図1
図2
図3