(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】パルプ混合不織布ワイプ及びパルプ混合不織布ワイプの製造方法
(51)【国際特許分類】
A47L 13/16 20060101AFI20221216BHJP
D04H 1/425 20120101ALI20221216BHJP
D04H 1/492 20120101ALI20221216BHJP
【FI】
A47L13/16 C
A47L13/16 A
D04H1/425
D04H1/492
(21)【出願番号】P 2017187491
(22)【出願日】2017-09-28
【審査請求日】2020-08-11
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2017108741
(32)【優先日】2017-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390029148
【氏名又は名称】大王製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002321
【氏名又は名称】弁理士法人永井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 力
【合議体】
【審判長】佐々木 芳枝
【審判官】長馬 望
【審判官】冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-85870(JP,A)
【文献】特開平5-179545(JP,A)
【文献】特開平8-260327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47L 13/16
D04H 1/425
D04H 1/492
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプと化学繊維とが絡合されたパルプ混合不織布であり、
坪量が45~80g/m
2であり、
化学繊維がポリエチレン繊維であり、
化学繊維の目付量が10~17g/m
2であり、
パルプの配合割合が75質量%以上あり、
乾燥引張強度が縦方向2,000~3,400cN/25mm、横方向700~1,600cN/25mmであり、乾燥引張強度の縦横比が3.0以下であり、
バインダー成分を含まず、
JIS L 1096 E法に規定されるマーチンデール法
において、摩擦を加える素材を標準摩擦布からニトリルゴム素材に変更して測定した測定値の表裏差が21以下であり、
表裏の表面粗さ(SMD)の差が0.7以下である、
ことを特徴とするパルプ混合不織布ワイプ。
【請求項2】
パルプはNBKPを95質量%以上含み、化学繊維の太さは18~22μmである請求項1記載のパルプ混合不織布ワイプ。
【請求項3】
化学繊維がポリエチレン繊維である目付量10~17g/m
2の化繊不織布シート上に、
水にパルプ繊維を分散懸濁させたパルプ溶解液を搬送平面上に吐出し、85~115℃の温度で加熱ドラムで圧縮乾燥させてシート状にした抄紙された紙ではない乾燥パルプシートを積層する工程と、
ノズル径0.5~1.5mmφのノズルから乾燥パルプシート面に100~110barで水流を噴射する水流絡合工程と、
を有し、
坪量が45~80g/m
2、パルプの配合割合が75質量%以上であり、バインダー成分を含まず、乾燥引張強度が縦方向2,000~3,400cN/25mm、横方向700~1,600cN/25mmであり、
JIS L 1096 E法に規定されるマーチンデール法において、摩擦を加える素材を標準摩擦布からニトリルゴム素材に変更して測定した測定値の表裏差が21以下であり、
表裏の表面粗さ(SMD)の差が0.7以下である、
ものとする、ことを特徴とするパルプ混合不織布ワイプの製造方法。
【請求項4】
パルプシートはNBKPを95質量%以上含み、化繊不織布シートを構成する化学繊維の太さが18~22μmである請求項3記載のパルプ混合不織布ワイプの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルプ混合不織布ワイプ及びパルプ混合不織布ワイプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パルプと化学繊維とを水流絡合したパルプ混合不織布は、様々な用途に用いられているが、水や油等の吸液性に優れることから不織布ワイプとしても使用されている。
このパルプ混合不織布ワイプは、種々の拭き取りに使用されることから吸液性に加え耐磨耗性も重要となる。
【0003】
そして、この種のパルプ混合不織布ワイプにおける吸液性、特に吸水性は、主に配合されるパルプ繊維が影響する。しかし、吸水性を高めるためにパルプ繊維の配合割合を単に増加させるとパルプ繊維が表面から離脱しやすくなり、特に強く擦りつけるような拭き取り操作を行った際に、パルプが剥がれ脱落するおそれが高まる。
【0004】
このパルプの表面からの離脱を防止するために、表面にバインダーを塗布したり、バインダー繊維を配合する技術が知られているが、このようなバインダーの塗布等は吸液性が低下しまたコスト高となる欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明の主たる課題は、吸液性と耐摩耗性に優れる、パルプと化学繊維とを水流絡合したパルプ混合不織布ワイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の課題を解決するための手段は次のとおりである。
すなわち、その第一の手段は、
パルプと化学繊維とが絡合されたパルプ混合不織布であり、
坪量が45~80g/m2であり、
化学繊維がポリエチレン繊維であり、
化学繊維の目付量が10~17g/m2であり、
パルプの配合割合が75質量%以上あり、
乾燥引張強度が縦方向2,000~3,400cN/25mm、横方向700~1,600cN/25mmであり、乾燥引張強度の縦横比が3.0以下であり、
バインダー成分を含まず、
JIS L 1096 E法に規定されるマーチンデール法において、摩擦を加える素材を標準摩擦布からニトリルゴム素材に変更して測定した測定値の表裏差が21以下であり、
表裏の表面粗さ(SMD)の差が0.7以下である、
ことを特徴とするパルプ混合不織布ワイプである。
【0008】
第二の手段は、パルプがNBKPを95質量%以上含み、化学繊維の太さが18~22μmである上記第一の手段に係るパルプ混合不織布ワイプである。
【0009】
そして、第三の手段は、
化学繊維がポリエチレン繊維である目付量10~17g/m2の化繊不織布シート上に、
水にパルプ繊維を分散懸濁させたパルプ溶解液を搬送平面上に吐出し、85~115℃の温度で加熱ドラムで圧縮乾燥させてシート状にした抄紙された紙ではない乾燥パルプシートを積層する工程と、
ノズル径0.5~1.5mmφのノズルから乾燥パルプシート面に100~110barで水流を噴射する水流絡合工程と、
を有し、
坪量が45~80g/m2、パルプの配合割合が75質量%以上であり、バインダー成分を含まず、乾燥引張強度が縦方向2,000~3,400cN/25mm、横方向700~1,600cN/25mmであり、
JIS L 1096 E法に規定されるマーチンデール法において、摩擦を加える素材を標準摩擦布からニトリルゴム素材に変更して測定した測定値の表裏差が21以下であり、
表裏の表面粗さ(SMD)の差が0.7以下である、
ものとする、ことを特徴とするパルプ混合不織布ワイプの製造方法。
【0010】
第四の手段は、パルプシートがNBKPを95質量%以上含み、化繊不織布シートを構成する化学繊維の太さが18~22μmである上記第三の手段に係るパルプ混合不織布ワイプの製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、吸液性と耐摩耗性に優れる、パルプと化学繊維とを水流絡合したパルプ混合不織布ワイプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のパルプ混合不織布ワイプ及びその製造方法を説明する。
【0014】
本実施形態のパルプ混合不織布ワイプは、パルプと化学繊維とが絡合されたパルプ混合不織布である。
本実施形態のパルプ混合不織布ワイプは、パルプと化学繊維との絡合が水などの液体による液流絡合のパルプ混合不織布であり、スパンレース不織布、スパンレース式不織布などとも称される。
【0015】
パルプは、広葉樹由来のパルプ、針葉樹由来のパルプ、古紙由来のパルプから選択することができる。その平均繊維長(以下、繊維の長さともいう)は、3.0~5.0mmであるのが望ましい。後述の化学繊維と絡合されやすい。パルプの中でも特に好ましくは、針葉樹由来のパルプである。針葉樹由来のパルプは、平均繊維長が3.5~4.0mmであり、化学繊維と効果的に絡合され、繊維落ちが少なく紙粉が発生し難い。具体的には、針葉樹晒しクラフトパルプ(NBKP)、針葉樹未晒しパルプ(NUKP)である。パルプは、このNBKPを95質量%以上含むのが望ましい。
【0016】
化学繊維は、水流絡合不織布に用いられるものを使用できる。例えば、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維等が挙げられる。複数の樹脂からなる繊維、例えば、芯鞘構造を有する化学繊維であってもよい。好ましくは、安価で軽量かつ十分な強度を発現でき、水流によって絡合しやすいポリエチレン繊維である。
【0017】
本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプの坪量は、45~80g/m2である。より好ましくは、50~60g/m2である。拭き取りに必要な強度及び十分な吸液性となる。
【0018】
他方、化学繊維の目付量は10~17g/m2であり、好ましくは12~14g/m2である。また、パルプの配合割合は、75質量%以上、好ましくは、80質量%以上である。このパルプ配合割合は、非常に高い数値であり、吸液性の点で優れる。すなわち、上記化学繊維の目付量の範囲で、パルプの配合割合が不織布全体の75質量%以上あると、十分な強度でありながら柔らかく、特に吸液性に優れるようになる。
【0019】
化学繊維の太さは、18~22μmであるのが望ましい。パルプ繊維、特に針葉樹由来のパルプとの絡合が強固でパルプ繊維が脱落し難いものとなる。
【0020】
他方で、本実施形態のパルプ混合不織布ワイプは、乾燥引張強度の縦横比が3.0以下、好ましくは2.5以下である。縦方向及び横方向の具体的な乾燥引張強度は、必ずしも限定されないが、縦方向で2,000~3,400cN/25mm、横方向で700~1,600cN/25mmであるのが望ましい。この範囲であれば拭き取りに十分な強度である。なお、乾燥引張強度の測定方法は、JIS P8113(1998)に準ずる方法で実施する。測定装置としては、ミネベア株式会社製「万能引張圧縮試験機 TG-200N」が挙げられる。
【0021】
ここで、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプにおける縦横比の小さいのは特徴的である。すなわち、液流絡合のパルプ混合不織布ワイプは、通常、化学繊維の不織布シート(以下、化繊不織布シートともいう)にクレープ紙等の抄紙した紙を積層した後、紙積層面から液体を噴射することで、紙を構成するパルプ繊維と不織布シートの化学繊維を交絡させる。そして、化学繊維の不織布シートは、縦方向、横方向における乾燥引張強度の差はさほどない。したがって、パルプ混合不織布ワイプにおける縦横比は、抄紙という製造方法に由来する紙の縦横比の影響が少なからずある。すなわち、本実施形態のパルプ混合不織布ワイプは、このような紙由来の縦横比の影響等がない特徴的なものである。なお、係るパルプ混合不織布ワイプの製造方法例は、後述する。
【0022】
他方で、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、JIS L 1096 E法(2010)に規定されるマーチンデール法における測定値の表裏差が100以下である。さらに、表裏の測定値が、ともに20以上であるのが望ましい。マーチンデール法は、耐摩耗性を図る試験であり、試験片の裏面にポリウレタンフォーム(見掛密度0.03g/cm、厚さ約3mm)を摩耗試験機の試料ホルダに取り付け、あらかじめ織フェルト(材質:毛、単位質量:750g/m2、厚さ:3mm)の上に標準摩擦布(材質:縦/毛、横/毛、繊度:縦/R63 tex/2、横/R74 tex/2、質量:215g/m2)を重ねて取り付けた摩擦台の上に載せて多方向に、パルプ面は10~40回、不織布面は80~120回摩擦し、エンドポイントまでの回数を測り、毛羽立ちが目視で確認された回数を測定する。その4回の平均を算出し、これを測定値とする。なお、本実施形態における測定値は1回単位で示す。摩耗試験機の具体例としては、グロッツ・ベッケルト製のマーチンデール摩耗試験機が挙げられる。なお、測定は、摩擦を加える素材は標準摩擦布、荷重は9Kpa、WET条件、動きはリサージュとして行う。WET条件は、試料面を霧吹きで吹くことによる。
【0023】
ここで、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプにおけるマーチンデール法における測定値の表裏差が100以下というのは特徴的である。上記のとおり、液流絡合のパルプ混合不織布ワイプは、化学繊維の不織布シートにクレープ紙等の抄紙した紙を積層した後、紙積層面から液体を噴射するため、紙面側と不織布シート側とにおける測定値に差が生じやすい。特に、紙面における耐摩耗性が顕著に弱く測定値が低くなりやすい。本実施形態のパルプ混合不織布ワイプの表裏差が小さいということは、液流交絡によって化学繊維面側にまでパルプ繊維が十分に位置するまで絡合しており、繊維同士の絡みが良好となっており、パルプ繊維の脱落がし難いものとなっている。なお、係るパルプ混合不織布ワイプの製造方法例は、後述する。
【0024】
他方、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、表裏のMMD(摩擦係数の変動)がともに0.200以下であり、表裏差が0.020以下であるのが望ましい。MMDは滑らかさの指標の一つである。MMDが上記範囲であると滑らかさにおいて優れるとともに、官能評価による皮膚表面の感じ方の表裏差も少ないものとなる。なお、MMDは、カトーテック株式会社製の摩擦感テスター KES-SE、KES-SESRU及びこれらの相当機を用いて測定される値である。MMDは、MIU(平均摩擦係数)からどれだけ変動があるかという変動の度合いであり、数値が小さいほど滑らかとされる。本発明に係る測定条件は、摩擦子の接触面を所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させる。測定は、10回測定し、その平均値をMMDとする。なお、摩擦子は、標準付属のピアノワイヤーセンサーを用いる。このピアノワイヤーセンサーは、直径0.5mmのピアノ線を20本隣接させてなり、長さ及び幅がともに10mmとなるように形成された接触面を有するものである。接触面には、先端が20本のピアノ線(曲率半径0.25mm)で形成された単位膨出部が形成されている。
【0025】
他方、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、表裏のSMD(表面粗さ)の差が0.7以下であるのが望ましい。SMDは、表面の粗さであり、SMDの表裏差が上記範囲であれば、繊維の絡みが良好となっている一つの指標となる。なお、SMDも、カトーテック株式会社製の摩擦感テスター KES-FB-4-AUTO、KES-KES-SE、KES-SESRU及びこれらの相当機を用いて測定される値である。
【0026】
以上のとおり、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、パルプ繊維の配合率が高く吸液性に優れ、さらに表裏におけるパルプ繊維の離脱差が少なく化学繊維とパルプ繊維との絡合が良好なものとなっている。なお、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプにおいては、吸液性を低下させやすいバインダー成分は塗布しないのが望ましい。
【0027】
次いで、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプの製造方法について説明する。本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、目付量10~17g/m2の化繊不織布シート上に、溶解パルプをシート状にして乾燥させた乾燥パルプシートを積層する工程を有する。化繊不織布シートは、スパンボンド法、メルトブロー法によって形成されたものであるのが望ましい。化繊不織布シートを構成する化学繊維及び溶解パルプを構成するパルプ繊維における繊維種、繊維長、繊維の太さは上記の本実施形態のパルプ混合不織布ワイプにおいて説明したとおりである。
【0028】
溶解パルプをシート状にした乾燥パルプシートは、水にパルプ繊維を分散懸濁させたパルプ溶解液を搬送平面上に吐出し、加熱ドラムで圧縮乾燥させてシート状にしたものを用いるのが望ましい。乾燥温度は、85~115℃、好ましくは90~110℃である。なお、パルプ溶解液中には本発明の効果を妨げない範囲で適宜の助剤を加えることができる。この乾燥パルプシートは、繊維配向性が小さく乾燥引張強度の縦横比差が非常に小さい。また、乾燥パルプシートの目付量(坪量)は、水流交絡時の歩留まり等を考慮して、パルプ混合不織布ワイプ時にパルプの繊維配合割合が75質量%以上、好ましくは80質量%以上となるように適宜に調整する。
【0029】
次いで、ウォータージェット技術、ウォーターニードル技術等とも称されるスパンレース技術に準じて、化繊不織布シートと乾燥パルプシートとが積層された積層シートの乾燥パルプシート面に水を噴射して打ち付け、乾燥パルプシートにおけるパルプの結合を破壊するとともに化繊不織布シートの化学繊維と乾燥パルプシートのパルプ繊維とを水流絡合させる工程を行う。ここで、本実施形態のパルプ混合不織布ワイプの製造方法では、特に水流を噴射するノズルのノズル径0.5~1.5mmφのノズルとする。より好ましくは、0.75~1.25mmφである。水圧については必ずしも限定されないが、100~110bar程度が望ましい。これは一般的な圧(80~90bar)より高い値である。なお、適宜の調整は化学繊維の種類等によって行う。このノズル径は、従来パルプ混合不織布ワイプの製造方法よりも小さい。本実施形態では、目付量10~17g/m2の化繊不織布シート上に積層した繊維配向性の少ない乾燥パルプシートに対して小径のノズルから水流を噴射して打ち付けることで、化学繊維とパルプ繊維との絡合が良好となり、とりわけ化繊不織布シート面側へのパルプ繊維の入り込みが良好となって表裏においてパルプ繊維が離脱し難いものとなる。特に、好ましい化学繊維の構成及びパルプ繊維の構成をとる場合に、水流による繊維の動きが良好で、効果的に本実施形態に係るワイプが製造できる。すなわち、乾燥パルプシートがNBKPを95質量%以上含み、化繊不織布シートを構成する化学繊維の太さが18~22μmであるのが望ましい。
【0030】
かくして水流交絡された積層シートは、適宜に乾燥工程を経てパルプ混合不織布シートとされた後、裁断等されパルプ混合不織布ワイプとされる。これらの乾燥工程及び裁断工程は公知の技術により行うことができる。
【実施例】
【0031】
次いで、本実施形態に係る製造方法によって製造されたパルプ混合不織布ワイプ(実施例1及び2)と、従来のパルプ混合不織布ワイプ(比較例1~3)とについて試験を行った。
【0032】
試験の結果は、実施例及び比較例に係る物性値及び測定値とともに下記表1に示す。なお、行った試験は次のとおりである。繊維長は、カヤニ/ファイバーラボにて測定し、繊維太さは、電子顕微鏡にて観察し測定した。また、
図1に、実施例1及び比較例1及び比較例2の断面写真を示す。
【0033】
(乾燥引張強度)
JIS P 8113(1998)の引張試験に従って測定した。試験片は縦・横方向ともに巾25mm(±0.5mm)×長さ150mm程度に裁断したものを用いた。試験機は、ミネベア株式会社製ロードセル引張り試験機TG-200Nを用いた。つかみ間隔が100mmに設定した。測定は、試験片の両端を試験機のつかみに締め付け、紙片を上下方向に引張り荷重をかけ、紙が破断する時の指示値(デジタル値)を読み取る手順で行った。引張速度は100mm/minとした。縦方向、横方向ともに各々5組の試料を用意して各5回ずつ測定し、その測定値の平均を各方向の乾燥引張強度とした。(試料の調整は、JIS P 8111(1998))なお、縦横比は、測定値から算出する。
【0034】
(耐摩耗試験1)
JIS L 1096 E法(2010)に規定されるマーチンデール法により測定した。摩耗試験機は、グロッツ・ベッケルト製マーチンデール試験機を用いた。摩擦を加える素材は標準摩擦布、荷重は9Kpa、WET条件、動きはリサージュとして行った。WET条件は、試料面を霧吹きで吹くことによる。
【0035】
(耐摩耗試験2)
上記耐摩擦試験1と同様の手順で、摩擦を加える素材を標準摩擦布から、ニトリルゴム素材に変更して測定した、ニトリルゴム素材は、ニトリル手袋(エステー株式会社製 ニトリルモデル モデルグローブNo.600)の手のひらの部分を測定器附属の打ち抜き冶具によって38mφに打ち抜いたものとした。なお、ニトリル手袋の選択は、パルプ混合不織布ワイプが、当該手袋使用者の手拭きに使用されることがある実態による。
【0036】
〔吸水量〕
吸水量の測定は下記(1)~(5)のとおりに行った。
(1)試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃の水を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目15mm)の上に拡げて載せ、前記水を入れたトレイ内におろして、水面に接触するように試験片を浸水させる。
(4)試験片の表面にまで十分に水が浸みこんだら、平網を水面より真上に上げ、ピンセットにより試験片の角を摘み、そのまま30秒静止する。
(5)30秒後に吸水した試験片の質量を電子天秤により測定し、下記式により1m2当たりの吸水量を算出する。
吸水量(g/m2)=((上記(4)で測定した吸水した試験片の質量)-(上記(1)で測定した試験片の質量))×100(注:m2に換算するため、100倍する)
【0037】
〔吸油量〕
吸油量の測定は下記(1)~(5)のとおりとした。
(1)試験片の質量を電子天秤(A&D HR300等)により測定する。
(2)試験片よりも大きいトレイ(例えば、内寸:215mm×160mm)に、20mm程度の深さとなるように、25℃のサラダ油(日清サラダ油:日清オイリオグループ株式会社製)を入れる。
(3)試験片を、試験片以上の大きさの剛性のある平網(例えば、120mm×120mm、網目30mm)の上に拡げて載せ、前記サラダ油を入れたトレイ内におろして、油面に接触するように試験片を浸油させる。
(4)試験片の表面にまで十分にサラダ油が浸みこんだら、平網を油面より真上に上げ、そのまま30秒静止した後、ピンセットにより試験片の角を摘み、予め秤量された測定容器に試験片を移す。このとき、平網を油面より上げて静止を開始してから測定容器に移すまで30秒を超えないようにする。
(5)試験片が入った測定容器の質量を電子天秤により測定し、その測定値より測定容器の質量を差し引いて、吸油後の試験片の質量を算出する。そして、下記式により1m2当たりの吸油量を算出する。
吸油量(g/m2)=((上記(4)で測定した吸油した試験片の質量)-(上記(1)で測定した試験片の質量))×100(注:m2に換算するため、100倍する)
【0038】
〔吸水速度〕
吸水速度の測定は下記(1)~(4)のとおりとした。
(1)100mm×100mmの試験片を準備する。
(2)試験片を中心部に直径40mm以上の穴を有する台(例えば、アルコールランプ用三脚)の上に、その試験片の中央部が前記穴の上に位置するようにして載置する。
(3)試験片の中心付近の任意の箇所に、試験片面より10mmの高さから、25℃の水300μlをマイクロピペットにより滴下する。この滴下は、例えば、アズワン ピペットガイPG-1000を用い目盛り300として行うことができる。
(4)マイクロピペットからの水が試験片に接触した瞬間から、試験片の水が浸透しきるまでの時間をストップウォッチにより測定し、その時間を吸水速度(sec)とする。なお、浸透終了は、試験片表面から水の光沢反射が消えることを目視にて確認することによる。
【0039】
(ソフトネス)
JIS L 1096 E法に準じたハンドルオメータ法に従って測定した。但し、試験片は100mm×100mmの大きさとし、クリアランスは5mmとして実施した。1プライで縦方向、横方向の各々5回ずつ測定し、縦方向、横方向それぞれ5回の平均値を、cN/100mmを単位として表した。ソフトネスは、柔らかさの指標の一つである。
【0040】
(表面粗さSMD)
カトーテック株式会社製の自動化表面試験機KES-FB-4-AUTOを用いて測定した。摩擦子の接触面を、所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させて行った。摩擦子は、標準付属の10mm角のピアノワイヤセンサー(1本)とした。摩擦子の初期荷重は、0.49Nで実施。SMDの測定は、各面について5回測定し、その平均値とする。
【0041】
(MMD)(摩擦抵抗MIU)
カトーテック株式会社製のカトーテック株式会社製の自動化表面試験機KES-FB-4-AUTOを用いて測定した。摩擦子の接触面を、所定方向に20g/cmの張力が付与された測定試料の表面に対して25gの接触圧で接触させながら、張力が付与された方向と略同じ方向に速度0.1cm/sで2cm移動させて行った。摩擦子は、標準付属の10mm角のピアノワイヤセンサー(20本)とした。MMDとMIUの測定は、各面について5回測定し、その平均値とする。
【0042】
【0043】
各試験の結果を見てみると、まず(耐摩耗性試験1)及び(耐摩耗性試験2)の結果からして本発明の実施例は、耐摩耗性に優れるといえる。さらに、表裏差も非常に小さく耐摩耗性が表裏について達成されえいる。これは、水流交絡時にパルプ繊維が化繊不織布シートにおけるパルプシート接触面と反対面に至るまで十分に移動して、繊維同士の交絡が進みしっかりと絡合しているからである。これは、
図1に示す断面写真にも現れている。
図1の(A)で示す実施例1では、パルプ繊維が厚み方向に均一に存在しているのに対して、
図1の(B)で示す比較例1や
図1の(C)で示す比較例2では、パルプ繊維が偏在している。
【0044】
また、吸水量についても実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例2よりは良好である。比較例3よりは良好であるがその差は少ない。但し、比較例3は、耐摩耗性の表裏差が非常に大きい。すなわち、パルプ繊維が一方面に多く偏在していると考えられる。ゆえに、パルプ繊維偏在部分における水分保持性が高くなり吸水量が高い結果となったと考えられる。
【0045】
さらに、吸水速度についてみてみると実施例1及び実施例2は、比較例1~比較例3と比べて有意に早い。また、表裏の差も小さい。これは、縦横比が小さいため縦方向横方向における水分の分散性に差がないうえ、さらに、パルプ繊維が厚み方向に分散して化学繊維との絡合がしっかりとした状態になっているからと考えらえる。
【0046】
次に、吸油量を見てみると実施例1及び実施例2は、比較例1~3と比べて優位に多い。これは、化学繊維の網目中にパルプ繊維が分散して存在していることにより油の保持性が高まったものである。
【0047】
他方、表1中の摩擦係数(MIU)、MMDを見てみると実施例及び比較例ともに良好で表裏差も大きくない。これはMIUやMMDが人の感じ方の指標であり、その視点からは大きな差異がない。しかし、実際の表面粗さ(SMD)を見てみると実施例1及び実施例2は、比較例1及び比較例3より非常に差がなく、比較例2よりも優れる。つまり、本実施例は、人の感じ方においては滑らかで表裏差がなく、しかも実際の表面性においても差がない。つまり、パルプ繊維の厚み方向への移動分散性に良好となっており化学繊維との絡合しっかりと進んでいる。
【0048】
以上のとおり、本実施形態に係るパルプ混合不織布ワイプは、パルプ繊維と化学繊維との絡合がしっかりとしており、耐摩耗性に優れ、さらに吸液性にも優れ、それらの表裏の差も小さいものといえる。
【符号の説明】
【0049】
1,101…パルプ混合不織布シート、2,102…化学繊維、3,103…パルプ繊維。