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特許7195052容器用樹脂被覆金属板、その樹脂被覆金属板からなる容器、及びその樹脂被覆金属板の製造方法
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  • 特許-容器用樹脂被覆金属板、その樹脂被覆金属板からなる容器、及びその樹脂被覆金属板の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】容器用樹脂被覆金属板、その樹脂被覆金属板からなる容器、及びその樹脂被覆金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20221216BHJP
   B65D 8/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B32B15/09 A
B65D8/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018036380
(22)【出願日】2018-03-01
(65)【公開番号】P2019150985
(43)【公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】390003193
【氏名又は名称】東洋鋼鈑株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康介
(72)【発明者】
【氏名】末永 昌巳
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/152168(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/159260(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/012222(WO,A1)
【文献】特開2004-017438(JP,A)
【文献】特開2001-001447(JP,A)
【文献】特開2002-212315(JP,A)
【文献】特開2014-166856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
B29C 48/15,63/00
B65D 8/00,
25/14,25/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板と、
前記金属板の少なくとも片面に被覆された樹脂層Aと、を含み、
前記樹脂層Aはポリエステル樹脂を主成分とし、
前記ポリエステル樹脂が、イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を30~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~70wt%とをブレンドしてなるものであり、
前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする、容器用樹脂被覆金属板。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
【請求項2】
金属板と、
前記金属板の少なくとも片面に被覆された樹脂層Bと、を含み、
前記樹脂層Bは2層以上であって樹脂層Aを最表層に有し、
前記樹脂層Bは前記樹脂層Aと前記金属板との間に少なくとも主層を含み、
前記樹脂層Aは、イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を30~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~70wt%とをブレンドしてなるものであり、
前記主層は、イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を20~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~80wt%とをブレンドしてなるものであり、
前記樹脂層BのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする、容器用樹脂被覆金属板。
1.74 ≦ (I100)II/(I100)I ≦ 2.78・・・(1)
0.86 ≦ (I100)II/(I011)II ≦ 1.33・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
【請求項3】
前記樹脂層Aの厚みが3~25μmの範囲内にあることを特徴とする、請求項1に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【請求項4】
前記樹脂層Bの厚みが3~25μmの範囲内にあることを特徴とする、請求項2に記載の容器用樹脂被覆金属板。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の容器用樹脂被覆金属板からなる容器。
【請求項6】
イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を30~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~70wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂を、押出機のダイヘッドより溶融状態で200~280℃に加熱した金属板上に直接押出す第1ステップと、
前記金属板上に直接押し出された前記ポリエステル樹脂を100℃以下の温度を有するラミネートロールにより圧着して樹脂層Aを形成する第2ステップと、を有し、
前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
【請求項7】
イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を30~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~70wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂と、主層用ポリエステル樹脂とを、複層となるようにそれぞれ押出機のダイヘッドより溶融状態で200~280℃に加熱した金属板上に同時に直接押出す第1ステップと、
前記金属板上に直接押し出された前記ポリエステル樹脂を100℃以下の温度を有するラミネートロールにより圧着して2層以上の樹脂層Bを形成する第2ステップと、を有し、
前記主層用ポリエステル樹脂が、イソフタル酸2~15mol%共重合、融点が210~256℃のポリエチレンテレフタレート樹脂を20~50wt%と、融点が215~225℃のポリブチレンテレフタレート樹脂を50~80wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂であり、
前記樹脂層BのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする、容器用樹脂被覆金属板の製造方法。
1.74 ≦ (I100)II/(I100)I ≦ 2.78 ・・・(1)
0.86 ≦ (I100)II/(I011)II ≦ 1.33・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリブチレンテレフタレート樹脂におけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器用樹脂被覆金属板、その樹脂被覆金属板からなる容器、及びその樹脂被覆金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、飲料や食品用の金属缶等の容器の材料として、熱可塑性樹脂フィルムを金属板表面に積層した樹脂被覆金属板が知られている。前記熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエステルフィルム等が使用されている。
【0003】
上記のような飲料や食品用の金属缶等の容器は、内容物を充填した後に行われるレトルト殺菌処理に耐えられる必要がある。レトルト殺菌処理は、バッチ式や連続式等の複数の方式が存在するが、例えばバッチ式レトルト処理は、高温のスチーム中に金属缶等の容器を数分~数十分間曝露する工程を含む。また、連続式レトルト処理は、エンドレスチェーンコンベアにより殺菌室に搬送された金属缶等の容器を、高温スチーム中に数分~数十分間曝露する工程を含む。
【0004】
いずれの処理も、金属板やその表面に積層された熱可塑性樹脂フィルムにとっては過酷な環境である。これらの過酷な環境を経ても、金属板からのフィルムのデラミネーション等が起こらないような金属板積層用の熱可塑性樹脂フィルムが求められている。
【0005】
また、上記のようなレトルト殺菌処理時に、金属缶等の容器の外面側において、3ピース缶の天地蓋又は2ピース缶の缶底に発生し得るレトルトブラッシング(白斑)の問題が、従来検討されてきた。レトルトブラッシング(白斑)とは、樹脂層が部分的に白くなり、外観を損ねる現象である。
【0006】
このようなレトルトブラッシング(白斑)の発生の原因は未だ完全には解明されていない。
一つの原因としては、レトルト殺菌時において、缶蓋又は缶底に水滴が付着し、積層時に溶融して非晶状態となったフィルムが該水滴付着部分で結晶化するためと推定されている。
【0007】
あるいは、缶蓋又は缶底に付着した水滴が熱可塑性樹脂フィルムを透過し、金属板と樹脂フィルムとの間で気泡となるためとも推定されている。
【0008】
このようなレトルトブラッシング(白斑)の問題を改善するために、熱可塑性樹脂フィルムとして、ポリエチレンテレフタレート(PET)にポリブチレンテレフタレート(PBT)をブレンドした樹脂を使用する方法が提案されている。ポリブチレンテレフタレートは結晶化速度が速いため、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制することが可能である。
【0009】
例えば、特許文献1には、耐レトルトブラッシング性及び製缶性を有する飲料及び食品用の有機樹脂被覆金属板として、金属板の少なくとも片面に未延伸フィルムを積層した有機樹脂被覆金属板が開示されている。前記未延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂を主体とする共重合ポリエステル(I)に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を主体とする結晶性ポリエステル(II)を配合量20~45wt%でブレンドしたポリエステル系樹脂組成物からなることを特徴としている。またその製造方法は、前記未延伸フィルムを金属板に積層した後からレトルト殺菌処理を行う前のいずれかの工程で、所定条件の熱処理を行うことを特徴としている。
【0010】
特許文献2には、レトルト殺菌処理後の白化を抑制するための容器用ラミネート金属板が開示される。フィルムはポリエステルを主成分とする少なくとも2層構成であり、金属板と接する下層のポリエステル樹脂層は、PET成分が30~50モル%、PBT成分が50~70モル%である。一方で上層のポリエステル樹脂層は、PBT成分が90モル%以上であるポリエステルから構成される。
【0011】
特許文献3には、容器外面側となるフィルムとして、PET及びPBTのブレンドフィルムを開示している。特に実施例においては、下層がPBT5~80mol%であり、表層がPET80mol%以上である2層構造のフィルムが開示されている。このようにして、缶詰の内容物充填後のレトルト処理時に、ポリエステルフィルムの局部的な結晶化や、まだら状の不透明部の発生を改善することを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】WO2015/012222号国際公開公報
【文献】特許第6011753号公報
【文献】特許第3924239号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
レトルトブラッシング(白斑)の発生原因は、樹脂層の結晶状態に大きく関係する。そして、樹脂層の結晶状態は、金属缶等の容器の製造工程において樹脂層が受ける熱により変化する。従って、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制するためには、容器の製造工程において樹脂層が熱を受ける回数や量を鑑みて、容器の製造前の樹脂被覆金属板の状態における樹脂層の結晶状態を制御する必要がある。
【0014】
例えば絞り缶やDI缶等の金属缶としては、外面に印刷を有する缶と、印刷を有しない缶とが存在する。印刷を有しない缶は、缶の製造後、外面側に印刷用紙を巻いて出荷される。
このような外面印刷を有しない缶の場合には、缶の製造工程において印刷工程及び印刷後の焼き付け工程を有しない。そのため樹脂層が受ける熱履歴としては、外面印刷を有する缶と比較して、その分だけ熱履歴が少ないと言える。
【0015】
一般的に樹脂層が融点以下の熱を受けた場合には、樹脂の結晶化が進む。そのため、外面印刷を有しない缶の場合には、その分だけ樹脂層の結晶化が少ないと言える。これらの現象を鑑みて、本実施形態においては、外面印刷を有しない金属缶であっても、樹脂被覆金属板の状態における樹脂層の結晶状態を制御することにより、製缶加工及びレトルト殺菌処理後の金属缶に、最終的にレトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制することを課題とする。
【0016】
上記課題の解決として、PET及びPBTのブレンド樹脂においてPBTの含有量を多くした場合、結晶化速度が高くなるためレトルトブラッシング(白斑)の抑制に効果があることは、上述のように既に知られている。
ここで例えば、上記特許文献1に記載の樹脂におけるPBTの含有量では、製缶時に印刷工程が含まれない(当該文献に記載された所定条件の熱処理を経ない)場合にまでレトルトブラッシング(白斑)の発生を完全に抑制することが困難である。そのため、特許文献1に記載の技術よりもさらにPBTの含有量を多く添加することにより、製缶時に印刷工程が含まれない場合においてもレトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制できると考えられる。
【0017】
一方で、PBTの含有量を多くするとその分樹脂の融点が低下するため、ラミネート時に溶融した樹脂がロールへ付着すること等により、ラミネート性が悪くなるという問題が新たに発生する。例えば特許文献2に開示の技術はPBT含有量を多くすることにより白化現象(レトルト白化)の発生を抑えることを目的としている。しかしながら特許文献2に開示の技術の場合、樹脂フィルムの金属板へのラミネート時に、樹脂の融点の低下やフィルムの温度ムラ等が原因となり、ロールに溶融樹脂が付着してラミネート性が悪くなるという問題がある。
【0018】
特許文献3の技術は、樹脂層を2層構成として、ラミネート時にロールに当接する表層にはPET成分を多く含有させ、金属板に近い下層にはPBT成分を多く含有させることにより、上記ラミネート性の悪化の問題を解決しようとしている。しかしながら、特許文献3の技術では、レトルトブラッシング(白斑)の発生を充分に抑制できない。その理由としては、PET成分の多い表層の存在により下層の樹脂の均一な結晶化が妨げられる、あるいは樹脂層への水分の透過を完全に抑制できないことによるものと推察される。
【0019】
上記のような種々の問題に鑑みて本発明者らは、製缶時に印刷工程を含まない場合においても、上記したようなレトルトブラッシング(白斑)の問題を解決する方法を検討した。
さらには、上記したようなレトルトブラッシング(白斑)の問題を解決すると同時に、フィルムと金属板との密着性、製缶時の絞り加工やしごき加工等の厳しい加工に耐えられる加工性、等に優れた樹脂被覆金属板の製造について模索した。
その結果、PET及びPBTのブレンド樹脂において、特定の構成により上記課題を克服し得ることを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0020】
すなわち本発明は、以下の特徴を有する。
(1)本発明の容器用樹脂被覆金属板は、金属板と、前記金属板の少なくとも片面に被覆された樹脂層Aと、を含み、前記樹脂層Aはポリエステル樹脂を主成分とし、前記ポリエステル樹脂が、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしてなるものであり、前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエステルIにおけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
(2)また、本発明の容器用樹脂被覆金属板は、金属板と、前記金属板の少なくとも片面に被覆された樹脂層Bを含み、前記樹脂層Bは2層以上であって樹脂層Aを最表層に有し、前記樹脂層Bは前記樹脂層Aと前記金属板との間に少なくとも主層を含み、前記樹脂層Aは、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしてなるものであり、前記主層は、融点が210~256℃のポリエステルIを20~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~80wt%とをブレンドしてなるものであり、前記樹脂層BのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエステルIにおけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
(3)本発明の容器用樹脂被覆金属板は、上記(1)において、前記樹脂層Aの厚みが3~25μmの範囲内にあることが好ましい。
(4)本発明の容器用樹脂被覆金属板は、上記(2)において、前記樹脂層Bの厚みが3~25μmの範囲内にあることが好ましい。
(5)本発明の容器は、上記(1)~(4)のいずれかに記載の容器用樹脂被覆金属板からなることを特徴とする。
(6)本発明の容器用樹脂被覆金属板の製造方法は、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂を、押出機のダイヘッドより溶融状態で金属板上に直接押出す第1ステップと、前記金属板上に直接押し出された前記ポリエステル樹脂をラミネートロールにより圧着して樹脂層Aを形成する第2ステップと、を有し、前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエステルIにおけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
(7)また、本発明の容器用樹脂被覆金属板の製造方法は、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂と、主層用ポリエステル樹脂とを、複層となるようにそれぞれ押出機のダイヘッドより溶融状態で金属板上に同時に直接押出す第1ステップと、前記金属板上に直接押し出された前記ポリエステル樹脂をラミネートロールにより圧着して2層以上の樹脂層Bを形成する第2ステップと、を有し、前記主層用ポリエステル樹脂が、融点が210~256℃のポリエステルIを20~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~80wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂であり、前記樹脂層BのX線回折におけるピーク強度比が以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
ただし、
前記(I100)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I100)Iは、前記ポリエステルIにおけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度であり、
前記(I011)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の容器用樹脂被覆金属板によれば、レトルト殺菌処理時におけるレトルトブラッシング(白斑)の問題を解決すると同時に、フィルムと金属板との密着性、製缶時の絞り加工やしごき加工等の厳しい加工に耐えられる加工性、等に優れた樹脂被覆金属板を提供することができる。
また本発明によれば、上記樹脂被覆金属板からなる缶、及び、上記樹脂被覆金属板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明の樹脂被覆金属板の一例を示す概念図である。
図2】本発明の樹脂被覆金属板の他の一例を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を以下の実施形態により詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0024】
[容器用樹脂被覆金属板]
図1に示すように、本実施形態における容器用樹脂被覆金属板は、金属板1と、前記金属板の少なくとも片面に設けられた樹脂層Aとを含む。
なお、前記樹脂層Aは、前記金属板が容器に成形された場合に、容器外面となる側に設けられることが好ましい。
【0025】
<金属板>
前記金属板1としては、通常の金属缶等の容器に使用される公知の金属板を使用することが可能であり、特に制限されるものではない。例えば好ましく使用される金属板として、表面処理鋼板や、アルミニウム板及びアルミニウム合金板等の軽金属板を使用することができる。
【0026】
表面処理鋼板としては、アルミキルド鋼や低炭素鋼等が使用できる。例えば、冷延鋼板を焼鈍した後に二次冷間圧延し、錫めっき、ニッケルめっき、亜鉛めっき、電解クロム酸処理、クロム酸処理、アルミやジルコニウムを用いたノンクロム処理などの、一種または二種以上を行ったものを用いることができる。
【0027】
軽金属板としては、アルミニウム板およびアルミニウム合金板が使用される。アルミニウム合金板としては、金属缶体用としては、例えば、A3000系(Al-Mn系)を使用することができる。また、缶蓋用としては、例えば、A5000系(Al-Mg系)を使用することができる。
なお、金属板の厚み等は、使用目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
<樹脂層>
本実施形態において、上記金属板1の少なくとも片面には樹脂層Aが設けられている。この樹脂層Aは、ポリエステル樹脂を主成分とし、前記ポリエステル樹脂が、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンド(以下「配合」とも称する。)してなるものであることを特徴とする。
【0029】
本実施形態において上記ポリエステルIは、ポリエチレンテレフタレート系樹脂である。ここで「ポリエチレンテレフタレート系樹脂」とは、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂単独及びポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を含むものとする。
また、上記ポリエステルIIはポリブチレンテレフタレート系樹脂である。ここで「ポリブチレンテレフタレート系樹脂」とは、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂単独及びポリブチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を含むものとする。
【0030】
本実施形態において、樹脂層AにおけるポリエステルIの量が30~50wt%であり、ポリエステルIIの量が50~70wt%である理由は以下の通りである。
【0031】
すなわち、一般的にポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂は、剛性が高く、結晶化速度が速い樹脂として知られている。
本実施形態において、樹脂層AにおけるポリエステルII(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)の量が50~70wt%である場合、樹脂層A全体の結晶化速度が好ましく、樹脂層A中での結晶の大きさが小さくなり、結果的にレトルトブラッシング(白斑)が発生する可能性が低くなるため好適である。
【0032】
一方で樹脂層AにおけるポリエステルII(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)の量が70wt%を超える場合、樹脂層A全体の融点が低下しすぎる。そうすると、金属板1に樹脂層を形成する際に、樹脂がラミネートロールに付着したりしてラミネート性の低下を引き起こす可能性が高くなるため好ましくない。
【0033】
一方で、樹脂層AにおけるポリエステルII(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)の量が50wt%未満の場合、樹脂層A全体の結晶化速度も遅くなる。その結果、樹脂層A中での結晶の大きさが成長しすぎて、樹脂層Aが白濁したり、レトルトブラッシング(白斑)が発生したりする可能性が高くなるため好ましくない。
【0034】
本実施形態においては、製缶時に印刷工程を含まない場合においても、樹脂層Aの形成時におけるラミネート性を担保しつつ、レトルトブラッシング(白斑)の問題を解決することを課題とする。この課題を解決するため、上記したようなPBT樹脂の特性に鑑みて、樹脂層Aを構成するポリエステル樹脂として、ポリエステルIを30~50wt%と、ポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしたものとした。
【0035】
なお、前記ポリエステルIの融点は210~256℃であり、前記ポリエステルIIの融点は215~225℃であることが好ましい。これらの融点は、例えば示差走査熱量計(DSC)を用いて測定することが可能である。またその他にも、一般的な樹脂の融点を測定する方法を用いて測定が可能である。
【0036】
すなわち本実施形態においては、ポリエステルIはポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂であることが好ましい。そしてポリエステルIの融点は、共重合成分の選択によって適宜調整が可能である。
【0037】
例えば、ポリエステルIとしてポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を使用する場合、含まれるジカルボン酸としては、主にテレフタル酸成分が含まれる。その他に共重合成分として、イソフタル酸(IA)、オルソフタル酸、P-β-オキシエトキシ安息香酸、ナフタレン2,6-ジカルボン酸、ジフェノキシエタン-4,4′-ジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、トリメリット酸及びピロメリット酸から成る群より選ばれた少なくとも一種が含まれることが好ましい。
このうち特に、金属缶等の容器への加工性等の観点から、共重合成分としてはイソフタル酸が含まれることが好ましい。
【0038】
なお、本実施形態において、ポリエステルIとしてポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を使用する場合、該共重合樹脂に含まれるイソフタル酸含有量は2~15モル%であることが好ましい。その理由は以下のとおりである。すなわち、ポリエステルI中のイソフタル酸含有量が2モル%未満の場合、樹脂層の金属板への密着性が低下するため好ましくない。
【0039】
また、ポリエステルI中のイソフタル酸含有量が15モル%を超えた場合、樹脂層の結晶化速度が遅くなり、レトルトブラッシング(白斑)の原因となり得るため好ましくない。
【0040】
なお、ポリエステルIとしてポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を使用する場合、該共重合樹脂に含まれるイソフタル酸含有量は2~9モル%であることがさらに好ましい。
【0041】
一方で、ポリエステルIとしてポリエチレンテレフタレートを主体とした共重合樹脂を使用する場合、含まれるグリコール成分としては、エチレングリコールのみであることが好適である。しかしながら、本発明の本質を損なわない範囲で、その他のグリコール成分、例えば、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ジエチレングリコール、1,6-ヘキシレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物等の一種又は二種以上を含んでいてもよい。
【0042】
次にポリエステルIIの融点と、その融点の範囲の理由について説明する。
本実施形態においては、ポリエステルIIの融点は215~225℃であることが好ましい。すなわち本実施形態においては、ポリエステルIIはポリブチレンテレフタレート樹脂単独(ホモポリマー)であることが、レトルトブラッシング(白斑)の発生抑制の観点からは好ましい。
【0043】
しかしながら、本発明の目的を損ねない範囲内において、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(II)が共重合樹脂であってもよい。その場合には、テレフタル酸以外の公知のジカルボン酸成分及び/又は1,4-ブタンジオール以外の公知のグリコール成分が共重合成分として含まれていてもよい。
【0044】
すなわち、ポリブチレンテレフタレート樹脂単独(ホモポリマー)の融点は225℃である。しかしながら本実施形態においては、上記したような共重合、または樹脂層の製造時におけるポリエチレンテレフタレートとのエステル交換反応によって、多少の融点降下は許容される。
その場合でも、融点が215℃を下回るとレトルトブラッシング(白斑)の発生抑制効果が不十分となるため好ましくない。
【0045】
<X線回折ピーク強度比>
次に、本実施形態の容器用樹脂被覆金属板においては、前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比が、以下の(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
(I100)II/(I100)I ≧ 1.5 ・・・(1)
(I100)II/(I011)II < 1.5 ・・・(2)
【0046】
ここで、前記(I100)IIは前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂のX線回折において、2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られるピークは、PBTの(100)面由来の回折ピークである。
【0047】
同様に、前記(I100)Iは、前記ポリエステルIにおけるX線回折における2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。なお、なお、ポリエチレンテレフタレート樹脂のX線回折において、2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られるピークは、PETの(100)面由来の回折ピークである。
【0048】
前記(I011)IIは、前記ポリエステルIIにおけるX線回折における2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度である。なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂のX線回折において、2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られるピークは、PBTの(011)面由来の回折ピークである。
【0049】
従って、上記式(1)及び(2)は、以下の指標を表すものであると言える。
すなわち、上記式(1)における「(I100)II/(I100)I」は、樹脂層A中において、PET樹脂と比較したPBT樹脂の結晶化の程度を、各々の結晶の(100)面に注目して指標化したものである。式(1)のように、「(I100)II/(I100)I ≧ 1.5」を満たすことにより、樹脂層Aにおいて本願の課題を達成できる程度に充分にPBTが結晶化していることを確認できる。
【0050】
一方で、上記式(2)における「(I100)II/(I011)II」は、樹脂層AにおけるPBT樹脂のみに注目し、(100)面と(011)面における結晶化の程度を指標化したものである。ここで本実施形態においては、上記式(2)のように、「(I100)II/(I011)II < 1.5」を満たすことを特徴とする。この式(2)を満たすことにより、樹脂層Aが延伸していない(無延伸・無配向である)ことを確認することができる。
【0051】
要すれば、樹脂層Aは、PBT樹脂による結晶を含むが、延伸配向を含まないものであることが好ましい。この理由は以下のとおりである。
すなわち、本実施形態の樹脂被覆金属板を使用して、絞り加工やしごき加工等の製缶加工を経て金属缶等の容器が製造される。仮に樹脂層が延伸配向を有していた場合、これらの製缶加工に追従できるだけの加工性を有していないので、絞り加工やしごき加工等の製缶加工により樹脂層が剥離したり、破断したりする可能性があり好ましくない。
従って本実施形態においては、樹脂層Aは延伸フィルムではなく、無延伸・無配向の状態であることが、絞り加工やしごき加工等の製缶加工を担保するためには好ましい。
【0052】
なお本実施形態において、樹脂層AのX線回折におけるピーク強度の測定は、一般的な樹脂のX線回折測定方法により行うことができる。
例えば、樹脂層を形成した金属板の樹脂被覆面を、X線回折装置を用い測定する。測定条件の例として、X線管球(ターゲット)としてCu(波長λ=0.1542nm)を使用して、管電圧40kV、管電流20mA程度で、回折ピークが分離できるように受光スリットを選択する。
【0053】
回折角2θに対しX線の入射角と反射角がそれぞれθであり、かつ、入射X線と回折X線がフィルム面法線に対して対称となるように試料を取り付け、入射角θと反射角θが常に等しくなるように保ちながら、回折角2θを例えば10~30°の間で走査し、X線回折スペクトルを測定する。
2θ=10°の強度と2θ=30°の強度のところを直線で結びバックグラウンドとする。そして、現れるピークの高さをバックグラウンドより測定する。
【0054】
<樹脂層B>
次に本実施形態において、金属板上に形成される樹脂層が複層である場合の説明をする。
【0055】
前記樹脂層が複層である場合、上述した樹脂層Aが最表層(金属板1から最も遠く、ラミネートロールと接触する層)となるように樹脂層が形成されることが好ましい。
【0056】
すなわち本実施形態の容器用樹脂被覆金属板においては、図2に示すように、金属板の少なくとも片面に2層以上の樹脂層Bを形成してなるものである。その場合、樹脂層Bはその最表層に上述した樹脂層Aを有することが好ましい。
【0057】
なお図2に示されるように、本実施形態の樹脂被覆金属板は、前記樹脂層Aと前記金属板との間に、少なくとも以下のような主層Cを含むことが好ましい。
すなわち前記主層Cは、ポリエステル樹脂を主成分とし、融点が210~256℃のポリエステルIを20~50wt%と、融点が215~225℃のポリエステルIIを50~80wt%とをブレンドしてなるものであることが好ましい。
ここで、ポリエステルIとポリエステルIIは、各々、上記樹脂層Aと同じものを適用可能であるため、その説明は省略する。
【0058】
前記主層Cについて、ポリエステルIを20~50wt%、ポリエステルIIを50~80wt%、としてブレンドする理由としては、以下のとおりである。すなわち、主層Cはラミネートロールと直接接触しないため、ポリエステルIIの量が70wt%を超えても、金属板1に樹脂層を形成する際に、樹脂がラミネートロールに付着するなどのラミネート性の低下を引き起こす可能性が低い。そのため、主層Cは樹脂層Aの場合よりポリエステルIIの量を増やすことができる。ただし、主層CのポリエステルIIの量が80wt%を超えると、樹脂層B全体の融点が低下しすぎる。それにより、金属板1に樹脂層を形成する際に、樹脂がラミネートロールに付着する、あるいは、フィルムしわが発生するなどのラミネート性の低下を引き起こす可能性が高くなるため好ましくない。
なお、主層CにおいてポリエステルIIの量が50wt%未満の場合については、上述した樹脂層Aの場合と同様である。
【0059】
なお、主層CのPBT含有量は、樹脂層Aと同じPBT含有量であってもよいし、異なるPBT含有量としてもよい。
しかしながら、樹脂層Aと主層CのPBT含有量が異なる場合には、溶融樹脂の粘度差や熱特性の違いが生じるため、樹脂フィルム製造時に形状不良が発生する可能性がある。従って、このような問題を低減する観点からは、樹脂層Aと主層CのPBT含有量を同じにすることが好ましい。
【0060】
なお、図2では樹脂層が2層構成である場合を例として説明した。しかしながら本実施形態は、樹脂層が単層と2層の場合に限られるものではなく、3層以上の構成であってもよい。その場合、2層構成の場合と同様に、樹脂層Aが最表層となるようにすることが、レトルトブラッシング(白斑)発生の抑制の観点からは好ましい。
【0061】
樹脂層を3層以上の構成とする場合には、金属板と主層Cとの間であって金属板と接する面に以下のような接着層Dを設けることができる。前記接着層Dは、ポリエステル樹脂を主成分とし、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~223℃のポリエステルIIを50~70wt%とをブレンドしてなるものであることが好ましい。その理由は以下のとおりである。
【0062】
すなわち、図2に示した構成においては、前記主層Cはラミネートロールと直接接触しないため、ポリエステルIIの上限は80wt%であった。一方で3層以上の構成において、前記接着層Dはラミネートロールと直接接触しないものの、ポリエステルIIの量が70wt%を超える範囲においては、金属板1との密着性が低下する可能性がある。そのため、接着層Dを設ける場合には、接着層D中におけるポリエステルIIの量が70wt%とすることが好ましい。一方で、ポリエステルIIの量の下限を50wt%とする理由については、上述した樹脂層Aの場合と同様である。
【0063】
また、樹脂層が複層の場合において、各層を合わせた樹脂層(図2の場合は樹脂層B)の全体の組成としては、樹脂層Aと同様に、ポリエステル樹脂を主成分とし、融点が210~256℃のポリエステルIを30~50wt%と、融点が215~223℃のポリエステルIIを50~70wt%とからなるものであることが好ましい。
【0064】
そして、樹脂層が複層の場合において、各層を合わせた樹脂層(図2の場合は樹脂層B)全体のX線回折におけるピーク強度比は、上記の(1)式及び(2)式を満たすものである。
【0065】
本実施形態において、樹脂層が複層である場合のメリットとしては、以下のような例が挙げられる。
例えば、フィルムの滑り性が低いと、フィルム巻き取り時、あるいはフィルム繰り出し時に、フィルムしわなどの形状不良が発生したり、あるいはフィルムが破断したりする等の問題を生じる。そのため、樹脂中に滑剤が添加されることが一般的である。樹脂層を複層とした場合には、滑剤をいずれかの層に添加すれば足りるため、滑剤の添加量を減らすことができ、コストメリットがある。
【0066】
なお、一般的には滑剤は、最表層である樹脂層Aと、金属板に接する側の層(図2に示す2層の場合は主層C、3層以上の場合は接着層D)の両方、あるいはいずれかに添加される。上記の滑剤の添加量を減らすことによるコストメリットの観点からは、樹脂層A、もしくは接着層Dのいずれかに添加することが好ましい。
【0067】
あるいは、樹脂に顔料を添加する場合でも、樹脂層が複層である場合には、いずれかの層に顔料を添加することができ、顔料の添加量を減らすことができるのでコストメリットがある。なお、一般的には顔料は、主層Cに添加される。
【0068】
<樹脂層の厚み及び厚み比>
次に、金属板上に形成される樹脂層の厚み及び厚み比について説明する。
金属板上に形成される樹脂層の合計の厚みは、3~25μmであることが、容器製造時における樹脂フィルムと金属板の密着性等の観点から好ましい。すなわち、本実施形態において図1に示されるように樹脂層が単層の場合には、樹脂層Aの厚みが3~25μmであることが好ましい。
【0069】
一方で、図2に示されるように樹脂層Bが複層の場合には、樹脂層Bの合計の厚み(図2では樹脂層Aと主層Cの厚みの合計)が3μm~25μm、特に8μm~15μmであることが好ましい。
【0070】
樹脂層の合計の厚みが3μm未満である場合、製造装置が大がかりとなり最終的なコストアップの可能性が高くなるため、好ましくない。一方で、樹脂層の合計の厚みが25μmを超える場合は、樹脂層中に含まれるPBTの量が多くなりすぎて結晶化が進みすぎ、作業性が悪くなるため好ましくない。
【0071】
また、図2に示すように樹脂層Bが複層の場合の各層の厚み比には、特に制限はない。しかしながら、上述したように、最表層となる樹脂層Aあるいは接着層Dに滑剤を添加する場合には、滑剤を添加する層は作業性を阻害しない範囲で薄くすることが好ましい。厚み比としては例えば、滑剤を添加する層は主層Cに対して、1/5~2/3とすることが好ましい。
【0072】
[樹脂被覆金属板の製造方法]
次に、本実施形態における樹脂被覆金属板の製造方法について説明するが、本発明は以下の記載に制限されるものではない。
本実施形態の樹脂被覆金属板は、金属板1の少なくとも片面に樹脂層Aを形成することにより製造される。
【0073】
本実施形態において、金属板1に樹脂層Aを形成する方法としては公知の方法を用いることができる。例えば、押出機のTダイから樹脂をフィルム状にして金属板1上に直接押出す方法(押出コート法)でもよいし、製造した樹脂フィルムを金属板1に接着剤を介して又は介さずに積層する方法でもよい。
【0074】
上記押出コート法により金属板1上に樹脂層Aを形成する際の、金属板1とラミネートロールの温度は以下のとおりである。すなわち本実施形態においては、金属板供給手段から連続的に送り出された金属板1を、加熱手段を用いて樹脂フィルムが金属板1に接着できる温度に加熱し、その少なくとも片面に、押出機のTダイからフィルム状に押出した樹脂をプレロールを介して接触させ、1対のラミネートロールの間で重ね合わせ、挟みつけて圧着して積層して樹脂層Aを形成した後、直ちに急冷する。
この場合の金属板1の温度は、200~280℃であることが好ましい。また、上記ラミネートロールの温度としては、100℃以下が好ましく、70℃以下がさらに好ましい。
【0075】
一方で、金属板1に樹脂フィルムを積層することにより樹脂層Aを形成する場合は、例えば、まず、フィルム供給手段から送り出された樹脂フィルムを加熱した金属板1に接触させる。次いで接触した樹脂フィルムと金属板1を1対のラミネートロールの間で重ね合わせ、挟みつけて圧着して積層して樹脂層Aを形成した後、直ちに急冷する。この場合の金属板1の温度及びラミネートロールの温度は、上記押出コート法の場合と同様である。
ただし樹脂フィルムを金属板に積層する場合、加熱される過程で一旦結晶化が進行するため、樹脂組成や成形条件によっては積層後の結晶状態にも影響が及び、所望の結晶状態に制御するのが難しい。また、一回フィルムを成形して巻き取るため、フィルムしわが発生しやすい、樹脂層と金属板の間に気泡が入り、密着力を阻害する、など生産面での課題が多く、コスト高につながる。
【0076】
なお、接着剤を介して樹脂フィルムを積層する場合に使用される接着剤としては、一般的な接着剤を使用することができる。例えば、ポリエステル系エマルジョン型接着剤、ポリエステルウレタン樹脂系エマルジョン型接着剤、エポキシ-フェノール樹脂系熱硬化型接着剤、などを挙げることができる。
【0077】
本実施形態において押出コート法により金属板1に樹脂層Aを形成する場合には、以下のステップを有することを特徴とする。
まず、上述したポリエステルIを30~50wt%、及び、上述したポリエステルIIを50~70wt%、をブレンドして、押出機のダイヘッドより溶融状態で金属板上に直接押出す(第1ステップ)。
なお、ポリエステルI及びポリエステルIIの融点等は上述したとおりであるため、ここでは説明を省略する。
【0078】
ここで、ポリエステルIとポリエステルIIとをブレンドする方法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポリエステルIとポリエステルIIの樹脂チップを混合した後に押出機に投入して溶融しブレンドしてもよい。
また、ポリエステルIとポリエステルIIの樹脂チップをそれぞれ別の押出機に投入して溶融し、ダイから押出す前にブレンドする方法でもよい。
【0079】
押出機内での樹脂の混練温度や混練時間は適宜選択可能であるが、混練温度が高すぎると、ポリエステルIとポリエステルIIとの間でエステル交換反応が進んだり、樹脂の熱分解が起こったりするため好ましくない。
本実施形態においては、ポリエステルIとポリエステルIIのブレンド樹脂は、255℃~295℃において5~30分間混練されることが好ましい。
【0080】
そして、前記金属板1上に直接押し出されたブレンドポリエステル樹脂を、ラミネートロールにより圧着して、金属板1に樹脂層Aを形成する(第2ステップ)。
【0081】
なお、本実施形態においては、金属板1に形成された前記樹脂層AのX線回折におけるピーク強度比は、樹脂被覆金属板の説明の欄で上述した(1)式及び(2)式を満たすことを特徴とする。
【0082】
なお、図2に示すように、金属板1に複層の樹脂層B(図2では樹脂層Aと主層Cとの複層)を形成する場合には、以下のように製造することが可能である。
すなわち、上記した第1ステップにおいて、前記樹脂層Aを構成する樹脂と、主層Cを構成する樹脂とを、複層となるようにそれぞれ押出機のダイヘッドより溶融状態で金属板上に同時に直接押出すことができる。この場合、公知のマルチマニフォルドダイ等を用いることが可能である。
【0083】
あるいは、上記した第1ステップにおいて、金属板1にまず主層Cを直接押出した後に、樹脂層Aを直接押出してもよい。
【0084】
そしてその後に、上述した第2ステップにおいて、前記金属板1上に直接押し出された前記樹脂層Aと前記主層Cとを、ラミネートロールにより圧着して、樹脂層Aと主層Cを含む複層の樹脂層Bを形成することが可能である。
【0085】
なおここで、主層Cを構成する樹脂としては、ポリエステルIを20~50wt%と、ポリエステルIIを50~80wt%とをブレンドしたポリエステル樹脂であることを特徴とする。
【0086】
さらには、上記樹脂層BのX線回折におけるピーク強度比は、上述した(1)式及び(2)式を満たすことが好ましい。
【0087】
[容器]
次に、本実施形態における金属缶等の容器について説明する。
本実施形態における容器としては、飲料缶や食品缶等の金属缶、角形缶、一斗缶、ドラム缶、金属ケース、等を例示することができるが、これらに限られるものではない。
【0088】
本実施形態において、金属缶は、缶体(3ピース缶の缶胴を含む)、缶蓋から構成される。いずれの部材にも、上記した本実施形態における樹脂被覆金属板を使用することができる。
【0089】
本実施形態において、缶体は上記樹脂被覆金属板を用いて公知の製缶方法により製缶される。公知の製缶方法としては、例えば、絞り加工、絞りしごき加工、ストレッチドロー成形、ストレッチアイアニング成形、等が挙げられる。
缶蓋としては、いわゆるステイ・オン・タブタイプのイージーオープン缶蓋やフルオープンタイプのイージーオープン缶蓋が挙げられる。または、3ピース缶の天地蓋を挙げることもできる。これらの缶蓋も、公知の方法により製造することができる。
【0090】
本実施形態においては、金属缶の外面に上記した樹脂層A又は樹脂層Bが形成されていることが、レトルトブラッシング(白斑)の発生を抑制する観点からは好ましい。なお、金属缶の内面には別途樹脂フィルムが積層されていてもよいし、塗膜が形成されていてもよい。また、金属缶の内面の樹脂フィルムは、缶外面の樹脂フィルムと同じであってもよい。
また、本実施形態の金属缶においては、樹脂層A又は樹脂層Bの外側に、さらに保護層等の他の層が形成されていてもよい。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0092】
[樹脂被覆金属板の作製]
金属板としては、板厚0.16mmのティンフリースチール(TFS)板を使用した。
【0093】
(実施例1)
ポリエステルIとして、イソフタル酸9モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を準備した。まず、表1に示す種類及び割合でポリエステルI及びポリエステルIIのチップを混合し、この混合チップを押出機に投入して溶融し混練した。混練条件は、混練温度255℃、吐出量Q(Kg/h)と押出機スクリュー回転数N(rpm)の比はQ/N=1.0、押出機内での滞留時間は20分とした。
【0094】
上記のようにして樹脂層Aとなる樹脂を作製した。この樹脂層Aとなる樹脂を、溶融状態で250℃に加熱した金属板にプレロールを介して押し出し、1対のラミネートロールの間で挟みつけて積層し、樹脂被覆金属板を作製した。ここでラミネートロールの温度は70℃とした。また、樹脂層Aの厚さは10μmとした。
【0095】
なお、金属板の他方の面には、共重合成分としてイソフタル酸15モル%を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂と、共重合成分としてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート系樹脂と、からなる2層樹脂を被覆した。
【0096】
得られた樹脂被覆金属板の樹脂層Aの厚さは電磁膜厚計で測定した。また、得られた樹脂被覆金属板の樹脂層AのX線回折ピーク強度比を算出した。X線回折ピークの測定条件は下記のとおりとした。
【0097】
(X線回折による配向結晶化ピーク強度比の算出)
得られた樹脂被覆金属板に対するX線回折ピーク強度を以下の条件で測定した。
X線回折装置:株式会社リガク製、RINT2000
X線 :CuKαX線(1.542オングストローム)
管電圧 :40kV
管電流 :20mA
X線ビーム径:100μmφ
検出器 :湾曲形位置敏感検出器(PSPC)
発散スリット:1°
発散縦制限スリット:10mm
散乱スリット:1.26mm
受光スリット:0.30mm
モノクロ受光スリット:0.6mm
加重平均法でスムージングを実施。
バックグラウンドは2θ=10°と2θ=30°を結んだ曲線とした。
得られたチャートより、2θ=22.5~24.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度を(I100)II、2θ=25.4~26.7°の範囲内に見られる最大ピーク強度を(I100)I、2θ=16.0~18.0°の範囲内に見られる最大ピーク強度を(I011)II、とし、(I100)II/(I100)I及び、(I100)II/(I011)IIの値をそれぞれ得た。
【0098】
(成膜性評価)
得られた樹脂被覆金属板を目視観察し、以下のように成膜性評価した。
○:目視したときに、フィルム表面にしわや収縮がなかった。
△:目視したときに、フィルム表面にしわや収縮がややあった。
×:目視したときに、フィルム表面にしわや収縮があった。
【0099】
(ラミネート性評価)
得られた樹脂被覆金属板に対するラミネート性を以下のように評価した。すなわち、樹脂層を金属板に連続的に積層する際において、金属板に10000m連続的に積層した際のフィルム切れの発生状況により、以下の基準でラミネート性を評価した。
○:フィルムしわや溶着が発生しなかった。
△:フィルムしわや溶着が数回~10回発生した。
×:フィルムしわや溶着が11回以上発生した。
【0100】
(金属缶の作製)
上記のようにして得られた樹脂被覆金属板に、ワックス系潤滑剤を塗布し、直径119.5mmの円盤(ブランク)を打ち抜き、樹脂層Aが缶外面となるように製缶した。打ち抜いた円盤(ブランク)にポンチとダイスとで絞り加工を行って有底筒状体を形成した。次いで、該有底筒状体に常法に従って缶胴及び底の成形を行った。開口端部は、トリミングした後に、ネック加工し、フランジ加工を行った。開口端部に、内側面がポリエチレンテレフタレートフィルムでラミネートされた缶蓋を二重巻き締めにより取り付け、絞り缶を完成させた。
【0101】
(レトルトブラッシング評価)
得られた絞り缶に水を充填し、通常の缶蓋を巻き締め充填缶とした。次に、充填缶をレトルト釜の中に配置しスチームにより125℃で30分間の加圧加熱殺菌処理を施した。上記加圧加熱殺菌処理後にレトルト釜の中の充填缶を取り出し、水中に浸漬して室温まで冷却した後に、缶胴底部分でレトルトブラッシングの発生有無を目視評価した。
○印:レトルトブラッシング(白斑)の発生が無く、実用可能。
△印:レトルトブラッシング(白斑)が若干部分的に発生したが、実用可能。
×印:レトルトブラッシング(白斑)が発生し、実用不可。
××印:樹脂層全面が白濁し、実用不可。
以上で得られた結果を、表1に示す。
【0102】
(実施例2~3、比較例1~4)
樹脂層AのポリエステルI及びポリエステルIIのブレンド量を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0103】
(実施例4)
主層Cとして、樹脂層Aとなる樹脂と同じ樹脂に顔料としてPigment Yellow110を1wt%添加し、主層Cとなる樹脂を作成した。樹脂層Aとなる樹脂と、主層Cとなる樹脂は、各々溶融状態でマルチマニフォルドダイにより、主層Cが金属板に接するようにプレロールを介して押出し、ラミネートロールでニップし、樹脂被覆金属板を作製した。樹脂層Aの厚さは2μm、主層Cの厚さは6μm、樹脂層合計厚さは8μmとした。それ以外は、実施例1と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0104】
(実施例5~7)
樹脂層の合計膜厚を表1のとおりとした以外は、実施例4と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0105】
(実施例8)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIとして、イソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を使用し、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)と表1に示す割合でブレンドした。主層Cとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を39.5wt%、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を60wt%、ブレンドし、さらに主層Cに対して滑剤を0.5wt%をブレンドした。
次いで、樹脂層Aと主層Cとを有する2層樹脂フィルムを以下のように作成した。すなわち、樹脂層Aとなる樹脂と、主層Cとなる樹脂は、各々溶融状態でマルチマニフォルドダイの下方で積層された後に吐出口から冷却ロール上に吐出され、冷却固化して2層樹脂フィルムとなり、連続的にコイラーに巻き取られた。樹脂層Aの厚さは2μm、主層Cの厚さは10μm、2層樹脂フィルムの合計の膜厚は12μmとした。
次に、250℃に加熱した金属板の片面に、上記巻き取った2層樹脂フィルムを巻き戻しながら接触させ、1対のラミネートロールの間で重ね合わせ、挟みつけて圧着して積層した。ラミネートロールの温度は70℃とした。それ以外は、実施例4と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0106】
(比較例5~8)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を100wt%使用した。主層Cとなる樹脂は、ポリエステルIとしては樹脂層Aと同じ樹脂を使用し、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を表1に示す割合でブレンドした。
次いで、樹脂層Aと主層Cとを有する、樹脂層Aの厚さは2μm、主層Cの厚さは8μm、合計厚さが10μmの2層樹脂フィルムを作製した後に、金属板上に積層した。その他は、実施例8と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0107】
(比較例9)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を使用し、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を使用した。樹脂層Aからなる厚さ10μmの単層樹脂フィルムを作成した後に、加熱した金属板上に積層し、樹脂被覆金属板を作製した。それ以外は、実施例8と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0108】
(比較例10)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を100wt%使用した。樹脂層Aからなる単層樹脂フィルムを作成した後に、加熱した金属板上に積層し、樹脂被覆金属板を作製した。樹脂層の厚さは15μmとした。それ以外は、実施例9と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0109】
(比較例11)
樹脂層Aとなる樹脂は、表1に示す割合でブレンドした。主層Cとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を20wt%と、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を80wt%をブレンドした。接着層Dとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂を39.5wt%と、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を60wt%をブレンドした。さらに、接着層Dに対して滑剤を0.5wt%添加した。
次いで、樹脂層A、主層C、接着層D、をこの順で有する3層樹脂フィルムを以下のように作成した。すなわち、樹脂は各々溶融状態でマルチマニフォルドダイの下方で積層された後に吐出口から冷却ロール上に吐出され、冷却固化して3層樹脂フィルムとなり、連続的にコイラーに巻き取られた。樹脂層Aの厚さは2μm、主層Cの厚さは6μm、接着層Dの厚さは4μm、3層樹脂フィルムの合計の膜厚は12μmとした。
次に、250℃に加熱した金属板の片面に、上記巻き取った3層樹脂フィルムを巻き戻しながら接触させ、1対のラミネートロールの間で重ね合わせ、挟みつけて圧着して積層した。ラミネートロールの温度は70℃とした。それ以外は、実施例8と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0110】
(比較例12)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸10モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を使用し、表1に示す割合でブレンドした。樹脂層Aからなる単層樹脂フィルムを作成した後に、加熱した金属板上に積層し、樹脂被覆金属板を作製した。樹脂層の厚さは15μmとした。それ以外は、比較例9と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0111】
(比較例13)
樹脂層Aとなる樹脂は、ポリエステルIとしてイソフタル酸2モル%を含有するポリエチレンテレフタレート共重合樹脂、ポリエステルIIとしてポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)を使用し、表1に示す割合でブレンドした。樹脂層Aからなる単層樹脂フィルムを作成した後に、加熱した金属板上に積層し、樹脂被覆金属板を作製した。樹脂層の厚さは15μmとした。それ以外は、比較例9と同様とした。得られた結果を表1に示す。
【0112】
【表1】
【0113】
表1に示されるように、本実施形態による樹脂被覆金属板は、成膜性、ラミネート性、レトルトブラッシング性すべてに優れた結果となった。一方で、比較例にかかる樹脂被覆金属板は、成膜性、ラミネート性、レトルトブラッシング性のいずれか又は複数の項目で好ましくない結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明によれば、飲料缶や食品缶等の容器において、レトルトブラッシング(白斑)やフィルムのデラミネーションの発生を抑制できる。また、金属板と樹脂層との密着性や製缶時の加工性に優れ、産業上の利用可能性が極めて高い。
図1
図2