(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および光学部品
(51)【国際特許分類】
C08L 45/00 20060101AFI20221216BHJP
C08L 23/02 20060101ALI20221216BHJP
C08L 65/00 20060101ALI20221216BHJP
C08K 5/103 20060101ALI20221216BHJP
C08F 210/00 20060101ALI20221216BHJP
C08F 232/00 20060101ALI20221216BHJP
G02B 1/04 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08L45/00
C08L23/02
C08L65/00
C08K5/103
C08F210/00
C08F232/00
G02B1/04
(21)【出願番号】P 2018061546
(22)【出願日】2018-03-28
【審査請求日】2021-02-08
(31)【優先権主張番号】P 2017072551
(32)【優先日】2017-03-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】添田 泰之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 久博
(72)【発明者】
【氏名】井場 洋貴
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 啓輔
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/033968(WO,A1)
【文献】特開2015-199939(JP,A)
【文献】特開2010-111780(JP,A)
【文献】特開2013-185141(JP,A)
【文献】特開平10-067889(JP,A)
【文献】特開2015-110731(JP,A)
【文献】特開2012-190533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08F 6/00-246/00
G02B 9/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン系重合体(A)と、トリグリセリン脂肪酸エステルと、を含み、
前記トリグリセリン脂肪酸エステルは
、トリグリセリン脂肪酸モノエステル、トリグリセリン脂肪酸ジエステルおよびトリグリセリン脂肪酸トリエステルの混合物(y)、であ
り、
前記トリグリセリン脂肪酸エステル中のトリグリセリン脂肪酸トリエステルの含量は5質量%以上30質量%以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項3】
請求項2に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系重合体(A)が前記共重合体(A1)を含み、
前記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を有する環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(I)において、R
300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R
61~R
78ならびにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R
81~R
99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R
89およびR
90が結合している炭素原子と、R
93が結合している炭素原子またはR
91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R
95とR
92またはR
95とR
99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)において、R
100、R
101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
【請求項4】
請求項3に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記共重合体(A1)中の前記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項5】
請求項3または4に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記共重合体(A1)中の前記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる前記環状オレフィン系重合体(A)を100質量部としたとき、前記トリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05質量部以上1.5質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記トリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンと炭素数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が130℃以上160℃以下の範囲にある環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
前記トリグリセリン脂肪酸エステル中のトリグリセリン脂肪酸ジエステルの含量は、30質量%以上70質量%以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1乃至
9のいずれか一項に記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む成形体。
【請求項11】
請求項
10に記載の成形体を含む光学部品。
【請求項12】
請求項
11に記載の光学部品において、
fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である光学部品。
【請求項13】
請求項
11または
12に記載の光学部品において、
前記光学部品の最大厚みをT
maxとし、前記光学部品の最小厚みをT
minとしたとき、
T
max/T
minで示される偏肉比が2.0以上である光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状オレフィン系樹脂組成物、成形体および光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
環状オレフィン系樹脂組成物は光学性能に優れるため、例えば、光学レンズ等の光学部品として用いられている。
光学部品に用いられる環状オレフィン系樹脂組成物に関する技術としては、例えば、特許文献1(特開2015-199939号公報)に記載のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には、環状オレフィン系重合体およびジグリセリン脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物が開示されている。特許文献1には、このような環状オレフィン系樹脂組成物を用いると、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制される成形体が得られると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らの検討によれば、特許文献1の実施例に記載されているような、環状オレフィン系重合体およびジグリセリン脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物を用いると、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化が抑制された光学部品を実現できるものの、作製する光学部品の形状によっては、ウェルドライン(樹脂成形において、金型内で溶融樹脂の流れが合流して融着した部分に発生する細い線)に改善の余地があると考えられた。
具体的には、最大厚みと最小厚みの比(以下、偏肉比とも呼ぶ。)が大きい光学部品を作製する際に発生するウェルドラインをより小さくすることを目指した。ウェルドラインが発生し光学欠陥が生じると、フレア現象やゴースト現象といった画質低下を引き起こす可能性があるため、ウェルドラインは小さいほうが好ましい。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化およびウェルドラインの発生が抑制された光学部品を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、環状オレフィン系重合体に対してトリグリセリン脂肪酸エステルを配合した樹脂組成物を用いることにより、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化およびウェルドラインの発生が抑制された光学部品を実現できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は以下に示すとおりである。
【0009】
[1]
環状オレフィン系重合体(A)と、トリグリセリン脂肪酸エステルと、を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[2]
上記[1]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系重合体(A)がエチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[3]
上記[2]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系重合体(A)が上記共重合体(A1)を含み、
上記共重合体(A1)が、
下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、
下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、
を含有する環状オレフィン共重合体を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
【化1】
(上記一般式(I)において、R
300は水素原子又は炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。)
【化2】
(上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数であり、wは0または1であり、R
61~R
78ならびにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。)
【化3】
(上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数であり、yおよびzは0、1または2であり、R
81~R
99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R
89およびR
90が結合している炭素原子と、R
93が結合している炭素原子またはR
91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R
95とR
92またはR
95とR
99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。)
【化4】
(上記一般式(IV)において、R
100、R
101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。)
[4]
上記[3]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記共重合体(A1)中の上記環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)が、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンおよびテトラシクロ[4.4.0.1
2,5.1
7,10]-3-ドデセンから選ばれる少なくとも一種の化合物に由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[5]
上記[3]または[4]に記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記共重合体(A1)中の上記オレフィン由来の繰り返し単位(a)が、エチレンに由来する繰り返し単位を含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[6]
上記[1]乃至[5]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる上記環状オレフィン系重合体(A)を100質量部としたとき、上記トリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が0.05質量部以上1.5質量部以下である環状オレフィン系樹脂組成物。
[7]
上記[1]乃至[6]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記トリグリセリン脂肪酸エステルが、トリグリセリンと炭素数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物。
[8]
上記[1]乃至[7]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物において、
上記環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度が130℃以上160℃以下の範囲にある環状オレフィン系樹脂組成物。
[9]
上記[1]乃至[8]のいずれか一つに記載の環状オレフィン系樹脂組成物を含む成形体。
[10]
上記[9]に記載の成形体を含む光学部品。
[11]
上記[10]に記載の光学部品において、
fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板である光学部品。
[12]
上記[10]または[11]に記載の光学部品において、
上記光学部品の最大厚みをT
maxとし、上記光学部品の最小厚みをT
minとしたとき、
T
max/T
minで示される偏肉比が2.0以上である光学部品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化およびウェルドラインの発生が抑制された光学部品を実現できる環状オレフィン系樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に係る実施形態の光学部品の構造の一例を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には共通の符号を付し、適宜説明を省略する。また、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。また、数値範囲を示す「A~B」は特に断りがなければ、A以上B以下を表す。
【0013】
[環状オレフィン系樹脂組成物]
まず、本発明に係る実施形態の環状オレフィン系樹脂組成物について説明する。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)と、トリグリセリン脂肪酸エステルと、を含む。
【0014】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物によれば、光学性能に優れ、さらに高温高湿条件下における光学性能の劣化およびウェルドラインの発生が抑制された光学部品を実現できる。
この理由は明らかではないが、トリグリセリン脂肪酸エステルは親水基の量が適度であるとともに脂肪酸由来の疎水基を含むため、環状オレフィン系重合体(A)との相溶性に優れ、光学性能に優れた光学部品を得ることができる。さらに、トリグリセリン脂肪酸エステルは、水酸基、エーテル基、カルボニル基のような親水性の官能基を有する。そのため、高温高湿条件下で成形した場合であっても、樹脂組成物内に吸収された水が分散され、光学性能の劣化を引き起こす水の凝集が抑制されると推察される。さらにトリグリセリン脂肪酸エステルはジグリセリン脂肪酸エステルやモノグリセリン脂肪酸エステル等に比べて分子量が大きいため、光学部品を成形する際のガス化を抑制でき、その結果、光学部品にウェルドラインが発生することを抑制できる。
さらには、本発明者らの検討によれば、特許文献1の実施例に記載されているような、環状オレフィン系重合体およびジグリセリン脂肪酸エステルを含む環状オレフィン系樹脂組成物を用いて成形体を連続成形する際、金型に汚れが付着してしまう場合があり、従来の樹脂組成物には連続成形時の金型汚れの付着を低減する観点においても改善の余地があることが明らかになった。本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討した。その結果、環状オレフィン系重合体に対してトリグリセリン脂肪酸エステルを配合した樹脂組成物を用いることにより、連続成形時の金型汚れの付着を低減できることを見出した。すなわち、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物によれば、連続成形時の金型汚れの付着を低減することができる。
【0015】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の下限は、環状オレフィン系樹脂組成物の全体を100質量%としたとき、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上である。本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルの含有量が上記下限値以上であることにより、光学性能をより一層良好にすることができる。
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物中の環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の上限は特に限定されないが、例えば、100質量%以下である。
【0016】
以下、各成分について具体的に説明する。
【0017】
(環状オレフィン系重合体(A))
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体(A)は、環状オレフィンに由来する繰り返し単位を必須構成単位とする重合体である。
環状オレフィン系重合体(A)としては、例えば、エチレンまたはα-オレフィンと環状オレフィンとの共重合体(A1)および環状オレフィンの開環重合体(A2)から選択される少なくとも一種が挙げられる。
【0018】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する環状オレフィン化合物は特に限定はされないが、例えば、国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の環状オレフィンモノマー等を挙げることができる。
【0019】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、得られる成形体の透明性および屈折率の性能バランスを良好に保ちつつ耐熱性をさらに向上できたり、成形性を向上できたりする観点から、下記一般式(I)で表される少なくとも1種のオレフィン由来の繰り返し単位(a)と、下記一般式(II)で表される繰り返し単位、下記一般式(III)で表される繰り返し単位および下記一般式(IV)で表される繰り返し単位からなる群から選ばれる少なくとも1種の環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)と、を有することが好ましい。
【0020】
【化5】
上記一般式(I)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。
【0021】
【化6】
上記一般式(II)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R
61~R
78ならびにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0022】
【化7】
上記一般式(III)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R
81~R
99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R
89およびR
90が結合している炭素原子と、R
93が結合している炭素原子またはR
91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R
95とR
92またはR
95とR
99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0023】
【化8】
上記一般式(IV)において、R
100、R
101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0024】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つであるオレフィンモノマーは付加共重合して上記一般式(I)で表される構成単位を形成するものである。具体的には上記一般式(I)に対応する下記一般式(Ia)で表されたオレフィンモノマーが用いられる。
【0025】
【化9】
上記一般式(Ia)において、R
300は水素原子または炭素原子数1~29の直鎖状または分岐状の炭化水素基を示す。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、1-テトラデセン、1-ヘキサデセン、1-オクタデセン、1-エイコセン等が挙げられる。より優れた耐熱性、機械的特性および光学特性を有する成形体を得る観点から、これらのなかでも、エチレンとプロピレンが好ましく、エチレンが特に好ましい。上記一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマーは2種類以上を用いてもよい。
本実施形態に係る環状オレフィン共重合体を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは20モル%以上90モル%以下、さらに好ましくは40モル%以上85モル%以下、特に好ましくは50モル%以上80モル%以下である。
なお、オレフィン由来の繰り返し単位(a)の割合は、
13C-NMRによって測定することができる。
【0026】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合原料の一つである環状オレフィンモノマー(b)は付加共重合して上記一般式(II)、上記一般式(III)または上記一般式(IV)で表される環状オレフィン由来の繰り返し単位(b)を形成するものである。具体的には、上記一般式(II)、上記一般式(III)、および上記一般式(IV)にそれぞれ対応する一般式(IIa)、(IIIa)、および(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)が用いられる。
【0027】
【化10】
上記一般式(IIa)において、uは0または1であり、vは0または正の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、wは0または1であり、R
61~R
78ならびにR
a1およびR
b1は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数1~20のハロゲン化アルキル基、炭素原子数3~15のシクロアルキル基、または炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基であり、R
75~R
78は、互いに結合して単環または多環を形成していてもよい。
【0028】
【化11】
上記一般式(IIIa)において、xおよびdは0または1以上の整数、好ましくは0以上2以下の整数、より好ましくは0または1であり、yおよびzは0、1または2であり、R
81~R
99は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~20のアルキル基若しくは炭素原子数3~15のシクロアルキル基である脂肪族炭化水素基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基またはアルコキシ基であり、R
89およびR
90が結合している炭素原子と、R
93が結合している炭素原子またはR
91が結合している炭素原子とは、直接あるいは炭素原子数1~3のアルキレン基を介して結合していてもよく、またy=z=0のとき、R
95とR
92またはR
95とR
99とは互いに結合して単環または多環の芳香族環を形成していてもよい。
【0029】
【化12】
上記一般式(IVa)において、R
100、R
101は、互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子または炭素原子数1~5の炭化水素基を示し、fは1≦f≦18である。
【0030】
共重合成分として、上述した一般式(Ia)で表されるオレフィンモノマー、一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)を用いることにより、環状オレフィン系重合体(A)の溶媒への溶解性がより向上するため成形性が良好となり、製品の歩留まりが向上する。
【0031】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の具体例については国際公開第2006/118261号の段落0037~0063に記載の化合物を用いることができる。
【0032】
具体的には、ビシクロ-2-ヘプテン誘導体(ビシクロヘプト-2-エン誘導体)、トリシクロ-3-デセン誘導体、トリシクロ-3-ウンデセン誘導体、テトラシクロ-3-ドデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロペンタデカジエン誘導体、ペンタシクロ-3-ペンタデセン誘導体、ペンタシクロ-4-ヘキサデセン誘導体、ペンタシクロ-3-ヘキサデセン誘導体、ヘキサシクロ-4-ヘプタデセン誘導体、ヘプタシクロ-5-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-4-エイコセン誘導体、ヘプタシクロ-5-ヘンエイコセン誘導体、オクタシクロ-5-ドコセン誘導体、ノナシクロ-5-ペンタコセン誘導体、ノナシクロ-6-ヘキサコセン誘導体、シクロペンタジエン-アセナフチレン付加物、1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレン誘導体、1,4-メタノ-1,4,4a,5,10,10a-ヘキサヒドロアントラセン誘導体、炭素数3~20のシクロアルキレン誘導体等が挙げられる。
【0033】
一般式(IIa)、(IIIa)または(IVa)で表される環状オレフィンモノマー(b)の中でも、一般式(IIa)で表される環状オレフィンが好ましい。
【0034】
上記一般式(IIa)で表される環状オレフィンモノマー(b)として、ビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテン(ノルボルネンとも呼ぶ。)、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(テトラシクロドデセンとも呼ぶ。)を用いることが好ましく、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンを用いることがより好ましい。これらの環状オレフィンは剛直な環構造を有するため共重合体および成形体の弾性率が保持され易くなる利点がある。
【0035】
本実施形態に係る共重合体(A1)を構成する構成単位の全体を100モル%としたとき、環状オレフィンモノマー(b)由来の繰り返し単位(b)の割合が、好ましくは5モル%以上95モル%以下、より好ましくは10モル%以上80モル%以下、さらに好ましくは15モル%以上60モル%以下、特に好ましくは20モル%以上50モル%以下である。
【0036】
本実施形態に係る共重合体(A1)の共重合タイプは特に限定されないが、例えば、ランダム共重合体、ブロック共重合体等を挙げることができる。本実施形態においては、透明性、屈折率および複屈折率等の光学物性に優れ、高精度の光学部品を得ることができる観点から、本実施形態に係る共重合体(A1)としてはランダム共重合体を用いることが好ましい。
【0037】
本実施形態に係る共重合体(A1)としては、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体およびエチレンとビシクロ[2.2.1]-2-ヘプテンとのランダム共重合体であることが好ましく、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体がより好ましい。
【0038】
また、環状オレフィン系重合体(A)としては、環状オレフィンの開環重合体(A2)を用いることができる。
環状オレフィンの開環重合体(A2)としては、例えば、ノルボルネン系単量体の開環重合体およびノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体、ならびにこれらの水素化物等が挙げられる。
【0039】
ノルボルネン系単量体としては、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプト-2-エン(慣用名:ノルボルネン)およびその誘導体(環に置換基を有するもの)、トリシクロ[4.3.01,6.12,5]デカ-3,7-ジエン(慣用名ジシクロペンタジエン)およびその誘導体、7,8-ベンゾトリシクロ[4.3.0.12,5]デカ-3-エン(慣用名メタノテトラヒドロフルオレン:1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロフルオレンともいう)およびその誘導体、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセン(慣用名:テトラシクロドデセン)およびその誘導体、等が挙げられる。
これらの誘導体の環に置換される置換基としては、アルキル基、アルキレン基、ビニル基、アルコキシカルボニル基、アルキリデン基等が挙げられる。なお、置換基は、1個または2個以上を有することができる。このような環に置換基を有する誘導体としては、例えば、8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-メチル-8-メトキシカルボニル-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン、8-エチリデン-テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ-3-エン等が挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独であるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0040】
ノルボルネン系単量体の開環重合体、またはノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体は、単量体成分を、公知の開環重合触媒の存在下で重合して得ることができる。
開環重合触媒としては、例えば、ルテニウム、オスミウム等の金属のハロゲン化物と、硝酸塩またはアセチルアセトン化合物と、還元剤とからなる触媒;チタン、ジルコニウム、タングステン、モリブデン等の金属のハロゲン化物またはアセチルアセトン化合物と、有機アルミニウム化合物とからなる触媒;等を用いることができる。
ノルボルネン系単量体と開環共重合可能なその他の単量体としては、例えば、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等の単環の環状オレフィン系単量体等を挙げることができる。
【0041】
ノルボルネン系単量体の開環重合体の水素化物や、ノルボルネン系単量体とこれと開環共重合可能なその他の単量体との開環重合体の水素化物は、通常、上記開環重合体の重合溶液に、ニッケル、パラジウム等の遷移金属を含む公知の水素化触媒を添加し、炭素-炭素不飽和結合を水素化することにより得ることができる。
【0042】
本実施形態において環状オレフィン系重合体(A)は1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本実施形態に係る共重合体(A1)は、例えば、特開昭60-168708号公報、特開昭61-120816号公報、特開昭61-115912号公報、特開昭61-115916号公報、特開昭61-271308号公報、特開昭61-272216号公報、特開昭62-252406号公報、特開昭62-252407号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
本実施形態に係る環状オレフィンの開環重合体(A2)は、例えば、特開昭60-26024号公報、特開平9-268250号公報、特開昭63-145324号公報、特開2001-72839号公報等の方法に従い適宜条件を選択することにより製造することができる。
【0044】
本実施形態に係る環状オレフィン系重合体(A)の分子量は特に限定されないが、分子量の代替指標として極限粘度[η]を用いた場合、135℃のデカリン中で測定される極限粘度[η]が、好ましくは0.03dl/g~10dl/g、より好ましくは0.05dl/g~5dl/g、さらに好ましくは0.10dl/g~2dl/gを示す分子量である。
分子量が上記下限値以上であると、成形体の機械的強度を向上させることができる。また、分子量が上記上限値以下であると、成形性を向上させることができる。
【0045】
ASTM D1238に準拠し、260℃、荷重2.16kgで測定される環状オレフィン系重合体(A)のメルトフローレート(MFR)の下限値は、環状オレフィン系重合体(A)の加工性や製造の容易さ等の観点から、好ましくは5g/10分以上であり、より好ましくは8g/10分以上であり、さらに好ましくは10g/10分以上である。
また、環状オレフィン系重合体(A)のMFRの上限値は、ウェルドラインの発生をより一層抑制する観点から、好ましくは60g/10分以下であり、より好ましくは50g/10分以下であり、さらに好ましくは40g/10分以下であり、さらにより好ましくは35g/10分以下であり、特に好ましくは30g/10分以下である。
環状オレフィン系重合体(A)のMFRは、後述する重合反応の際のエチレンフィード量に対する水素フィード量の比等を調整することにより、調整することができる。
【0046】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は130℃以上160℃以下の範囲にあることが好ましい。環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)が上記範囲であると、成形体を車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品として使用する際に、十分な耐熱性を得ることができるとともに、良好な成形性を得ることができる。
【0047】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物のガラス転移温度(Tg)は、例えば、SIIナノテクノロジー社製RDC220を用いて窒素雰囲気下で常温から10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温した後に5分間保持し、次いで10℃/分の降温速度で30℃まで降温した後に5分保持し、次いで10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する際にガラス転移温度を測定することができる。
【0048】
(トリグリセリン脂肪酸エステル)
トリグリセリン脂肪酸エステルは、脂肪酸と、トリグリセリンとのエステルである。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンに含まれる5つのヒドロキシ基の少なくとも1つが脂肪酸とエステル化したものである。
【0049】
脂肪酸としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等の飽和脂肪酸;クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、サピエン酸、オレイン酸、エライジン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸等のモノ不飽和脂肪酸;リノール酸、エイコサジエン酸、ドコサジエン酸等のジ不飽和脂肪酸;リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、エイコサトリエン酸等のトリ不飽和脂肪酸;ステアリドン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸等のテトラ不飽和脂肪酸;等を挙げることができる。
【0050】
トリグリセリン脂肪酸エステルとしては、トリグリセリンモノカプリレート、トリグリセリンジカプリレート、トリグリセリントリカプリレート、トリグリセリンモノカプレート、トリグリセリンジカプレート、トリグリセリントリカプレート、トリグリセリンモノラウレート、トリグリセリンジラウレート、トリグリセリントリラウレート、トリグリセリンモノミリステート、トリグリセリンジミリステート、トリグリセリントリミリステート、トリグリセリンモノパルミテート、トリグリセリンジパルミテート、トリグリセリントリパルミレート、トリグリセリンモノステアレート、トリグリセリンジステアレート、トリグリセリントリステアレート、トリグリセリンモノベヘネート、トリグリセリンジベヘネート、トリグリセリントリベヘネート等のトリグリセリン飽和脂肪酸エステル;トリグリセリンモノオレート、トリグリセリンジオレート、トリグリセリントリオレート等のトリグリセリン不飽和脂肪酸エステル;等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルは、トリグリセリンと炭素数8以上24以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含むことが好ましく、トリグリセリンと炭素数12以上18以下の飽和または不飽和脂肪酸とのエステルを含むことがより好ましい。
【0051】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物において、環状オレフィン系樹脂組成物に含まれる環状オレフィン系重合体(A)を100質量部としたとき、トリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の下限は、高温高湿条件下における光学性能の劣化をより一層抑制する観点から、0.05質量部以上であることが好ましく、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.2質量部以上であることがさらに好ましく、0.3質量部以上であることが特に好ましい。
また、トリグリセリン脂肪酸エステルの含有量の上限は、成形時のトリグリセリン脂肪酸エステルのガス化量を抑制し、ウェルドラインの発生をより一層抑制する観点から、1.5質量部以下であることが好ましく、1.2質量部以下であることがより好ましく、1.0質量部以下であることがさらに好ましく、0.8質量部以下であることがさらにより好ましく、0.7質量部以下であることが特に好ましい。
トリグリセリン脂肪酸エステルはジグリセリン脂肪酸エステルやモノグリセリン脂肪酸エステル等に比べて親水基の量が多いため、より少ない添加量で高温高湿条件下における光学性能の劣化を抑制できると考えられる。また、添加量をより少なくできるため、成形時のトリグリセリン脂肪酸エステルのガス化量をより一層抑制でき、ウェルドラインの発生をより一層抑制することができる。
【0052】
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルとしては、モノエステル単独、モノエステルとジエステルとの混合物またはモノエステルとジエステルとトリエステルとの混合物等を挙げることができる。
このようなトリグリセリン脂肪酸エステルとしては、例えば、特開2006-232714号公報、特開2002-275308号公報、特開平10-165152号公報等に記載の化合物を用いることができる。
モノエステルはジエステルやトリエステルに比べて分子量が低いため、モノエステル含量が高いと同等の耐湿熱性を付与するために必要な添加量(重量)が少なくて済む。添加量が少ないと発生ガスが少なくなるのでウェルドラインの発生を抑制する効果がより効果的に得られると考えられる。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステル中のモノエステルとジエステルの合計の含量は、30質量%以上100質量%以下が好ましく、40質量%以上100質量%以下がより好ましく、60質量%以上100質量%以下がさらに好ましく、70質量%以上100質量%以下が特に好ましい。ゆえにトリエステルの含量は0質量%以上70質量%以下が好ましく、0質量%以上60質量%以下がより好ましく、0質量%以上40質量%以下がさらに好ましく、0質量%以上30質量%以下が特に好ましい。
また、ジエステルはモノエステルに比べて分子量が高いため、耐湿熱性を付与するための必要な添加量(重量)は増えるが、発生ガスが少なくなるので金型汚れを抑制する効果が高くなると考えられる。そのため、トリグリセリン脂肪酸エステル中のジエステルの含量は、30質量%以上70質量%以下が好ましく、40質量%以上60質量%以下がより好ましい。
同様に、金型汚れ抑制の観点から、本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステル中のトリエステルの含量は1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上30質量%以下がより好ましい。
本実施形態に係るトリグリセリン脂肪酸エステルの、加熱により10%重量減少する温度(Td-10%)は、260℃以上、より好ましくは270℃以上、さらに好ましくは280℃以上である。上限はとくにないが、通常320℃以下である。ここで、初期重量は、トリグリセリン脂肪酸エステル等の30℃における重量を示す。詳細な加熱温度等の測定条件は実施例に記載の通りである。重量減少温度が高いことにより、発生ガスが抑制され、金型汚れを抑制する効果が得られると考えられる。
【0053】
(その他の成分)
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物には、環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステル以外に、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物の良好な物性を損なわない範囲内で任意成分として公知の添加剤を含有させることができる。
添加剤としては、例えば、酸化防止剤、二次抗酸化剤、滑剤、離型剤、防曇剤、耐候安定剤、耐光安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、金属不活性化剤等が挙げられる。
【0054】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルを、押出機およびバンバリーミキサー等の公知の混練装置を用いて溶融混練する方法;環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルを共通の溶媒に溶解した後、溶媒を蒸発させる方法;貧溶媒中に環状オレフィン系重合体(A)およびトリグリセリン脂肪酸エステルの溶液を加えて析出させる方法;等の方法により得ることができる。
【0055】
[成形体および光学部品]
次に、本発明に係る実施形態の成形体について説明する。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を含んでいる。
本実施形態に係る成形体は本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を含むため、光学性能に優れている。そのため像を高精度に識別する必要がある光学系において、光学部品として好適に用いることができる。光学部品とは光学系機器等に使用される部品であり、具体的には、センサーレンズ、ピックアップレンズ、プロジェクタレンズ、プリズム、fθレンズ、撮像レンズ、導光板等が挙げられ、本実施形態に係る効果の観点から、fθレンズ、撮像レンズ、センサーレンズ、プリズムまたは導光板に好適に用いることができる。
特に、ガラス転移温度が130℃以上160℃以下の範囲にある本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体は、高い耐熱性を有しながらも耐湿熱性を満足し、さらにウェルドラインの発生が抑制されているという驚くべき効果を有する。
そのため本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物から得られる成形体は車載カメラレンズや携帯機器(携帯電話、スマートフォン、タブレット等)用のカメラレンズ等の耐熱性が求められる光学部品にとりわけ好適に用いることができる。車載カメラレンズや携帯機器用カメラレンズとしては、例えば、ビューカメラレンズ、センシングカメラレンズ、ヘッドアップディスプレイの光収束用レンズ、ヘッドアップディスプレイの光拡散用レンズ等が挙げられる。
【0056】
ここで、近年、電子電気機器の軽量化、小型化、薄型化が進んでいる。そのためカメラに用いられる光学レンズ(カメラレンズとも呼ぶ。)には、形状が薄型・小径化されると共に、画質の面でもF値特性(絞り値;F-number)及びMTF(Modulation Transfer Function)特性(コントラスト再現比)が良いことが求められている。したがって、カメラレンズには薄肉化が求められるばかりでなく、その形状も複雑化している。このため、カメラレンズは、均等な厚みではなく、薄肉部と厚肉部とが併存する偏肉化が進んでいる。
ここで、本発明者らの検討によれば、最大厚みと最小厚みの比(偏肉比とも呼ぶ。)が大きい光学部品は、発生するウェルドラインが大きくなってしまう傾向にあることが明らかになった。より具体的には、光学部品の最大厚みをT
maxとし、光学部品の最小厚みをT
minとしたとき、T
max/T
minで示される偏肉比が2.0以上である光学部品は、発生するウェルドラインが大きくなってしまう傾向にあることが明らかになった。
そのため、本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物は、T
max/T
minで示される偏肉比が2.5以上の光学部品を成形するために好適に用いることができる。これにより、T
max/T
minで示される偏肉比が2.0以上の光学部品であっても、ウェルドラインの発生を効果的に抑制することができる。
ここで、偏肉比が上記下限値以上である複雑な形状を有する光学部品としては特に限定されないが、例えば、
図1の(a)~(d)の形状のものが挙げられる。また、光学部品の対向面を結ぶ距離をとり、一番距離が長い部分をT
max、一番距離が短い部分をT
minとそれぞれ定義する。
なお、レンズには凹レンズや凸レンズだけでなく、非球面レンズや片面が凹で片面が凸等の種々の形状が存在する。
【0057】
本実施形態に係る環状オレフィン系樹脂組成物を成型して成形体を得る方法としては特に限定されるものではなく、公知の方法を用いることができる。その用途および形状にもよるが、例えば、押出成形、射出成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等が適用可能である。これらの中でも、成形性、生産性の観点から射出成形法が好ましい。また、成形条件は使用目的、または成形方法により適宜選択されるが、例えば射出成形における樹脂温度は、通常150℃~400℃、好ましくは200℃~350℃、より好ましくは230℃~330℃の範囲で適宜選択される。
【0058】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
また、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより何等制限されるものではない。
【0060】
[実施例1]
<樹脂Aの合成>
(触媒の調製)
VO(OC2H5)Cl2をシクロヘキサンで希釈し、バナジウム濃度が6.7ミリモル/L-シクロヘキサンであるバナジウム触媒を調製した。エチルアルミニウムセスキクロリド(Al(C2H5)1.5Cl1.5)をシクロヘキサンで希釈し、アルミニウム濃度が107ミリモル/L-ヘキサンである有機アルミニウム化合物触媒を調製した。
【0061】
(重合)
攪拌式重合器(内径500mm、反応容積100L)を用いて、連続的にエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合反応を行った。ここで、エチレンは水素ガスとともに重合器内に供給した。
この共重合反応を行う際には、上記方法によって調製されたバナジウム触媒を、重合溶媒として用いられた重合器内のシクロヘキサンに対するバナジウム触媒濃度が0.6ミリモル/Lになるような量で重合器内に供給した。
また、有機アルミニウム化合物であるエチルアルミニウムセスキクロリドを、Al/V=18.0になるような量で重合器内に供給した。重合温度を8℃とし、重合圧力を1.8kg/cm2Gとして連続的に共重合反応を行った。
【0062】
(脱灰)
重合器より抜出したエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体溶液に対して、水およびpH調節剤として濃度が25質量%のNaOH溶液を添加し重合反応を停止させた。また、共重合体中に存在する触媒残渣をこの共重合体溶液中から除去(脱灰)した(ポリマー溶液A)。
上記脱灰処理を行った、エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの共重合体のシクロヘキサン溶液(ポリマー溶液A、ポリマー濃度7.7質量%)に安定剤としてペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を共重合体に対する添加量が共重合体100質量部に対して0.4質量部となるように添加した。次いで、フラッシュ乾燥工程に入る前に一旦、有効容積1.0m3の攪拌槽を用いて1時間混合した。
【0063】
(脱溶媒)
熱源として20kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式加熱器(外管径2B、内管径3/4B、長さ21m)に、シクロヘキサン溶液中の共重合体の濃度を5質量%とした上記共重合体のシクロヘキサン溶液を150kg/hの量で供給して、180℃に加熱した。
熱源として25kg/cm2Gの水蒸気を用いた二重管式フラッシュ乾燥器(外管径2B、内管径3/4B、長さ27m)とフラッシュホッパー(容積200L)とを用いて、上記加熱工程を経た上記共重合体のシクロヘキサン溶液から重合溶媒であるシクロヘキサンとともに大半の未反応モノマーを除去することでフラッシュ乾燥された溶融状態のエチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとのランダム共重合体(樹脂A)を得た。
【0064】
(押出)
ベント付二軸混練押出機を用い、上記の溶融状態の樹脂Aを押出機の樹脂装入部より装入した。次いで、ベント部分より揮発物を除去する目的で、トラップを介し真空ポンプで吸引しつつ、押出機ダイバーター部樹脂温度の最大値と最小値の差が3℃以内になるように押出機条件を調整した。次いで、押出機出口に取り付けられたアンダーウォーターペレタイザーによりペレット化し、得られたペレットを温度100℃の熱風にて4時間乾燥した。さらに、鉄原子(Fe)の混入を抑えるため、ポリマー製造設備をステンレス製の配管や重合装置を用い、さらに重合器内の平均滞留時間から計算される樹脂量の3~5倍程度の樹脂を洗浄(パージ)のために流し、その後サンプルを採取する操作を行うことによって、ペレット形状の樹脂Aを得た。樹脂Aのガラス転移温度(Tg)は140℃、MFRは29g/10分(260℃、2.16kg荷重)であった。
【0065】
<樹脂組成物の作製>
トリグリセリン脂肪酸エステルとして、トリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレートの蒸留品(エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を100℃で4時間加熱した溶融状態で、樹脂A100質量部に対して0.3質量部の量で直接押出機に装入し、樹脂Aとトリグリセリンとオレイン酸とのエステルの蒸留品を含んでなる樹脂組成物Aを得た。
具体的には、同方向回転、スクリュー径44mmφ、樹脂装入部からL/D=24の位置にベント孔があるL/D=30の二軸押出機を用い、樹脂Aを樹脂装入部より装入し、次いで、80~120℃で加温溶融させた上記トリグリセリン脂肪酸エステルをベント孔から装入し、スクリュー回転数150rpm、モータ動力30kWの条件で溶融混練し、樹脂組成物を得た。
【0066】
[実施例2]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルとして、トリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレート(モノエステルとジエステルとトリエステルとの混合物、エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を樹脂A100質量部に対し0.5質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0067】
[実施例3]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルとして、トリグリセリンとステアリン酸とのエステルであるトリグリセリンステアレート(モノエステルとジエステルとトリエステルの混合物、エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を樹脂A100質量部に対し0.6質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0068】
[実施例4]
表1に記載のように、樹脂Aの代わりに以下の樹脂Bを用い、トリグリセリンエステルとしてトリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレートの蒸留品(エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を0.4質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして、樹脂組成物を調製した。
【0069】
[実施例5]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルとして、トリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレート(モノエステルとジエステルとトリエステルとの混合物、エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を樹脂A100質量部に対し1.0質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0070】
[実施例6]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルとして、トリグリセリンとオレイン酸とのエステルであるトリグリセリンオレート(モノエステルとジエステルとトリエステルとの混合物、エステル比は表1に記載、ガスクロマトグラムのピーク面積比である)を樹脂A100質量部に対し1.4質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0071】
<樹脂Bの合成>
エチレンとテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]-3-ドデセンとの割合やエチレンフィード量に対する水素フィード量の比を調整することにより、ガラス転移温度(Tg)が151℃、MFRが20g/10分(260℃、2.16kg荷重)になるように調整した以外は、樹脂Aと同様に環状オレフィンランダム共重合体(樹脂B)を得た。
【0072】
[比較例1]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルを用いない以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0073】
[比較例2]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルの代わりに、ジグリセリンとオレイン酸とのエステル(ジグリセリン脂肪酸エステル)の蒸留品(リケマールDO-100:理研ビタミン社製)を樹脂A100質量部に対し0.6質量部の量で用いた以外は実施例1と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0074】
[比較例3]
表1に記載のように、トリグリセリン脂肪酸エステルの代わりに、ジグリセリンとオレイン酸とのエステル(ジグリセリン脂肪酸エステル)の蒸留品(リケマールDO-100:理研ビタミン社製)を樹脂B100質量部に対し0.8質量部の量で用いた以外は実施例4と同様にして樹脂組成物を調製した。
【0075】
実施例1~6および比較例1~3の樹脂組成物から得られた成形体について、以下の評価方法により評価した。評価結果を表1に示す。
ここで、実施例5、6の光学部品は、実施例1~4と同様にトリグリセリン脂肪酸エステルを含むため、後述するウェルドラインの評価は良好である。
【0076】
(成形体の評価方法)
(1)ヘイズ
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃で実施例および比較例で得られた樹脂組成物を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。金型温度は樹脂Aを使用する場合120℃、樹脂Bを使用する場合130℃にそれぞれ設定した。成形体の内部ヘイズはベンジルアルコールを使用し、JIS K-7105に基づいて測定した。
【0077】
(2)環境試験
上記で得られた35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースを温度80℃、相対湿度90%の雰囲気下に48時間放置した。その後、取り出し3時間後にヘイズを測定した。
【0078】
(3)ウェルドラインの評価試験
外径が6.2mm、レンズ部分の直径5.0mm、中心厚(最小厚み)が0.35mm、最大厚みが0.944mm、最大厚みTmaxと最小厚みをTminの比(Tmax/Tmin、偏肉比)が2.7のレンズを形成する金型と射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)とを用いて、保圧100MPa、射出速度50mm/sの条件で実施例および比較例で得られた樹脂組成物を射出成形し、成形体を10個それぞれ作製した。樹脂Aを使用する場合、シリンダー温度275℃および金型温度を135℃に設定し、樹脂Bを使用する場合シリンダー温度285℃および金型温度を145℃にそれぞれ設定した。
得られた成形体をレーザーマイクロスコープ(キーエンス社製 VK-X100)により観察し、反ゲート側に生じたウェルドライン長さを測定し、以下の基準で評価した。ウェルドラインの長さが1200μm以上であるとレンズとして使用する部分(光学有効面)に入ってしまうため光学性能に影響を与えてしまう。
A:ウェルドラインの長さが1200μm未満
B:ウェルドラインの長さが1200μm以上
【0079】
(4)屈折率
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃で実施例および比較例で得られた樹脂組成物を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。金型温度は樹脂Aを使用する場合120℃、樹脂Bを使用する場合130℃にそれぞれ設定した。
成形体の屈折率は、屈折率計(島津サイエンス社製 KPR200)を用いて、ASTM D542に準じて、25℃、波長589nmにおける屈折率(nd)を測定した。
【0080】
(5)複屈折
射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度275℃、金型温度は樹脂Aを使用する場合は120℃、樹脂Bを使用する場合は130℃の条件で実施例および比較例で得られた樹脂組成物を射出成形し、35mm×65mm×厚み3mmtの光学面を持つテストピースをそれぞれ作製した。位相差の測定は、王子計測機器製KOBRA CCDで測定波長650nmで、試験片中央部(ゲート方向をゲートから30~45mmの部位)の位相差の平均値を求めた。
次いで、以下の基準で複屈折をそれぞれ評価した。
A:位相差の平均値が30nm未満
B:位相差の平均値が30nm以上40nm未満
C:位相差の平均値が40nm以上
【0081】
(6)金型汚れ
外径が6.0mm、レンズ部分の直径4.1mm、レンズ部分の厚みが0.5mmのメニスカスレンズを形成する金型と射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i-30α)を用いて、シリンダー温度285℃、金型温度は樹脂Aを使用する場合は120℃、樹脂Bを使用する場合は130℃の条件で実施例および比較例で得られた樹脂組成物を射出成形し、連続的に6000ショット成形した。次いで、6000ショット成形後、金型のレンズ外径の外周に付着した金型ベントの汚れを実体顕微鏡SZX16(オリンパス社製)で3.5倍に拡大して観察した。
汚れが少ないものから多いものまで評点をつけた。最も汚れが少ないものを1点、最も汚れが多いものを4点とし、4段階で評価した。
【0082】
(7)トリグリセリン脂肪酸エステルまたはジグリセリン脂肪酸エステルの中のモノエステル、ジエステルおよびトリエステルの分析方法
実施例および比較例で用いた、トリグリセリン脂肪酸エステルまたはジグリセリン脂肪酸エステルの分析方法を以下に示す。
トリグリセリン脂肪酸エステルまたはジグリセリン脂肪酸エステル中のモノエステル、ジエステルおよびトリエステルの含量の定量は以下の方法で行った。
(定量方法)
・測定方法
測定機器:GCMS-QP2010Plus(島津製作所社製)
カラム:DB-1HT、0.32mmφ×15m
温度:
カラム:120℃→9℃/minで昇温→390℃で10min保持
注入口温度:350℃
検出器温度:400℃
キャリヤーガス:He
スプリット比:10:1
注入量:1μm
検出器:FID
・測定用サンプルの調製
[1]50mLメスフラスコ内に内部標準(フタル酸n-ブチル、東京化成株式会社製特級)0.0130gを秤量し、ピリジンでメスアップし、内部標準溶液とした。
[2]50mLメスフラスコ内に試料0.025gを精秤し、シクロヘキサン5mLを加
え、アセトンで25mLに定容した。
[3]工程(2)で調製した試料溶液500μLを採取し乾固後、内部標準液50μLとトリメチルシリル化剤(BSTFA、東京化成株式会社製)200μLを加え、90℃に加温したブロックヒーター上で1時間トリメチルシリル化反応を行った。
[4]工程(3)の後、室温まで空冷した後、上記条件にて測定し、チャートの面積比からモノエステル、ジエステルおよびトリエステルの含量をそれぞれ求めた。
【0083】
(8)加熱により10%重量減少する温度(Td-10%)の測定方法
トリグリセリン脂肪酸エステルまたはジグリセリン脂肪酸エステルの熱重量示差熱分析(TG-DTA)を行い、加熱により10%重量減少する温度(Td‐10%)を以下の方法で測定した。ここで、初期重量は、トリグリセリン脂肪酸エステル等の30℃における重量を示す。
・測定方法
測定機器:TG-DTA7300(SIIナノテクノロジー社製)
測定温度範囲:30℃→400℃
昇温速度:10℃/min
測定雰囲気:空気(200mL/min)
使用サンプルパン:アルミパン(φ5.2mm H5.0mm)
サンプル重量:10mg
【0084】