(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】回転電機の固定子の製造方法及び回転電機の製造方法
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20221216BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H02K15/04 E
H02K3/04 Z
(21)【出願番号】P 2018115323
(22)【出願日】2018-06-18
【審査請求日】2021-03-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100147566
【氏名又は名称】上田 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100161171
【氏名又は名称】吉田 潤一郎
(72)【発明者】
【氏名】本石 直弘
(72)【発明者】
【氏名】川村 浩司
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】安田 浩之
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-021806(JP,A)
【文献】特許第4654068(JP,B2)
【文献】特開2012-143068(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 15/04
H02K 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれ、導体部および上記導体部に被覆された絶縁被膜を有し、固定子鉄心の各スロットに挿入されている複数の単位コイルを備え、
上記複数の単位コイルのそれぞれは、上記スロットからの突出端部に、上記導体部のみからなる断面矩形の被膜剥離部を有しており、
上記複数の単位コイルの中の接続対象の単位コイル同士が、上記被膜剥離部同士を溶接されて接合されている回転電機の固定子の製造方法において、
上記導体部および上記導体部に被覆された上記絶縁被膜を有し、上記複数の単位コイルを形成する断面矩形の導体線の一部に、対向する一対の側面の少なくとも上記絶縁被膜を切除して、一対の切除面を形成する第1切除工程と、
上記第1切除工程で形成された上記一対の切除面の一方の切除面を加圧して上記導体部を塑性変形させて、上記一対の切除面の他方の切除面を上記絶縁被膜の表面と連続する平坦面として、上記被膜剥離部の対向する一対の面を形成するオフセット工程と、
上記オフセット工程の後、上記導体線の一部に、対向する他の一対の側面を切除して、上記被膜剥離部の対向する他の一対の面を形成する第2切除工程と、
を備え、
上記オフセット工程では、上記一方の切除面への加圧方向及び上記導体線の長さ方向の双方と直交する方向に上記導体線が広がるように、上記導体部を塑性変形させ
、
上記第2切除工程では、上記オフセット工程において上記導体線が広がった部分を切除する回転電機の固定子の製造方法。
【請求項2】
それぞれ、導体部および上記導体部に被覆された絶縁被膜を有し、固定子鉄心の各スロットに挿入されている複数の単位コイルを備え、
上記複数の単位コイルのそれぞれは、上記スロットからの突出端部に、上記導体部のみからなる断面矩形の被膜剥離部を有しており、
上記複数の単位コイルの中の接続対象の単位コイル同士が、上記被膜剥離部同士を溶接されて接合されている回転電機の固定子の製造方法において、
上記導体部および上記導体部に被覆された上記絶縁被膜を有し、上記複数の単位コイルを形成する断面矩形の導体線の一部に、対向する一対の側面の少なくとも上記絶縁被膜を切除して、一対の切除面を形成する第1切除工程と、
上記第1切除工程で形成された上記一対の切除面の一方の切除面を加圧して上記導体部を塑性変形させて、上記一対の切除面の他方の切除面を上記絶縁被膜の表面と連続する平坦面として、上記被膜剥離部の対向する一対の面を形成するオフセット工程と、
上記オフセット工程の後、上記導体線の一部に、対向する他の一対の側面を切除して、上記被膜剥離部の対向する他の一対の面を形成する第2切除工程と、
を備え、
上記第1切除工程の後、上記オフセット工程に先だって、上記導体線の一部に、上記他の一対の側面の上記絶縁被膜と上記導体部とを切除して、他の一対の切除面を形成する第3切除工程をさらに備える回転電機の固定子の製造方法。
【請求項3】
上記導体線の一部は、上記導体線の長さ方向の中間部の一部であり、
上記第2切除工程の後に、上記導体線の一部の長さ方向中央位置を切断して、上記単位コイルを作製する切断工程をさらに備える請求項1
又は請求項2に記載の回転電機の固定子の製造方法。
【請求項4】
上記オフセット工程において、上記一方の切除面が、上記一対の切除面間の長さ方向両端部を肉厚部とし、中央部を肉薄部とする段付き面形状に形成される請求項
3記載の回転電機の固定子の製造方法。
【請求項5】
上記導体線は、上記単位コイルの長さを有し、
上記導体線の一部は、上記導体線の端部であり、
上記第2切除工程において、上記導体線の一部の先端部を切除して、上記被膜剥離部の先端面を同時に形成して、上記単位コイルを作製する請求項1
又は請求項2に記載の回転電機の固定子の製造方法。
【請求項6】
上記オフセット工程において、上記一方の切除面が、上記一対の切除面間の根元側を肉厚部とし、先端側を肉薄部とする段付き面形状に形成される請求項
5記載の回転電機の固定子の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項
6のいずれか一項に記載の回転電機の固定子の製造方法を用いて製造された回転電機の固定子を備えた回転電機を製造する回転電機の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、回転電機の固定子の製造方法及び回転電機の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の電動機、発電機などの回転電機のコイルの製造方法は、絶縁被覆された導線の一部に、切除刃によって絶縁被膜を切除して、角型断面の対向する一対の切除面を形成する絶縁被膜切除工程と、その後、切除刃によって絶縁被膜を切除し、角型断面の他の対向する一対の切除面を形成し、さらに絶縁被膜切除工程で形成された対向する一対の切除面の一方の面を加圧して、絶縁被膜切除工程で切除した厚みと同程度分だけ、導線の中心からオフセットさせる切除加圧成形工程と、切除加圧成形工程の後に、導線の一部の角型断面に形成された部分を途中で切断する切断工程と、切断工程の後、切断された導体を曲げ加工する加工工程と、加工工程の後、一方の面とは反対側の、絶縁被膜切除工程で形成された切除面同士を溶接接合する接合工程と、を備えていた(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
これにより、絶縁被膜が除去された導線の角型断面に形成された部分同士を隙間の無い状態で対面させ、角型断面に形成された部分同士を溶接してコイルを作製できる。そこで、溶接時に大きな力で角型断面に形成された部分同士を押し付けておく必要がない。また、接合後にスプリングバックを起こして、角型断面に形成された部分同士の溶接部が剥離するおそれもない。その結果、接合作業の合理化が図られるとともに、溶接部の信頼性が向上される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、絶縁被膜切除工程において、絶縁被覆された導線の一部に、可動刃を幅方向に移動して絶縁被膜とともに導体部分を切除し、角型断面の対向する一対の切除面を形成していた。可動刃による切除時に、剪断力により、切除された導線の一部に、可動刃の移動方向への曲がりが生じる。これにより、角型断面の他の対向する一対の切除面を形成する面に窪みが生じる。そこで、切除加圧成形工程において、可動刃を用いて角型断面の他の対向する一対の切除面を形成したときに、窪み部分の絶縁被膜が切除されず被膜残りが発生する。このため、接合工程において、被膜残りに起因する溶接不良が発生するという課題があった。また、被膜残りにより、角型断面を有する部分の導体量が設計値より少なくなり、電気抵抗の増加をもたらすという課題もあった。
【0006】
この発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、単位コイルの被膜剥離部での被膜残りの発生を抑制し、溶接不良の発生および電気抵抗の増加を抑制できる回転電機の固定子の製造方法及び回転電機の製造方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明による回転電機の固定子の製造方法及び回転電機の製造方法は、それぞれ、導体部および上記導体部に被覆された絶縁被膜を有し、固定子鉄心の各スロットに挿入されている複数の単位コイルを備え、上記複数の単位コイルのそれぞれは、上記スロットからの突出端部に、上記導体部のみからなる断面矩形の被膜剥離部を有しており、上記複数の単位コイルの中の接続対象の単位コイル同士が、上記被膜剥離部同士を溶接されて接合されている回転電機の製造方法において、上記導体部および上記導体部に被覆された上記絶縁被膜を有し、上記複数の単位コイルを形成する断面矩形の導体線の一部に、対向する一対の側面の少なくとも上記絶縁被膜を切除して、一対の切除面を形成する第1切除工程と、上記第1切除工程で形成された上記一対の切除面の一方の切除面を加圧して上記導体部を塑性変形させて、上記一対の切除面の他方の切除面を上記絶縁被膜の表面と連続する平坦面として、上記被膜剥離部の対向する一対の面を形成するオフセット工程と、上記オフセット工程の後、上記導体線の一部に、対向する他の一対の側面を切除して、上記被膜剥離部の対向する他の一対の面を形成する第2切除工程と、を備え、上記オフセット工程では、上記一方の切除面への加圧方向及び上記導体線の長さ方向の双方と直交する方向に上記導体線が広がるように、上記導体部を塑性変形させる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、上述の構成となっているので、単位コイルの被膜剥離部での被膜残りの発生を抑制し、溶接不良の発生および電気抵抗の増加を抑制できる回転電機の固定子の製造方法及び回転電機の製造方法を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る回転電機を示す縦断面図である。
【
図2】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を示す横断面図である。
【
図3】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を示す縦断面図である。
【
図4】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を径方向外側から見た側面図である。
【
図5】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における単位コイルの端部同士の接続状態を示す斜視図である。
【
図6】単位コイルの材料である導体線を示す断面図である。
【
図9】比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図10】比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図11】比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図12】比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図13】比較例の単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図14】比較例の単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図15】比較例の単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図である。
【
図16】比較例の単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図である。
【
図19】比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程の問題点を説明する平面図である。
【
図20】比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程の問題点を説明する平面図である。
【
図21】比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程の問題点を説明する平面図である。
【
図22】比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程の問題点を説明する平面図である。
【
図23】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図24】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図25】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図26】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図27】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図28】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図29】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図である。
【
図30】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図である。
【
図31】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイル装着工程を説明する要部側面図である。
【
図32】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの第1曲げ工程を説明する要部側面図である。
【
図33】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの第2曲げ工程を説明する要部側面図である。
【
図34】この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの溶接工程を説明する要部側面図である。
【
図35】この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法における第3切除工程を説明する平面図である。
【
図36】この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法における第3切除工程を説明する平面図である。
【
図37】この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図38】この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図39】この発明の実施の形態3に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図40】この発明の実施の形態3に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図である。
【
図41】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図42】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。
【
図43】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図44】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図である。
【
図45】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程後の単位コイルの被膜剥離部周りを示す平面図である。
【
図46】この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程後の単位コイルの被膜剥離部周りを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1に係る制御装置一体型回転電機を示す縦断面図である。なお、縦断面図とは、回転軸の軸心を含む断面を示す断面図である。また、本明細書においては、便宜上、回転軸の軸心と平行な方向を軸方向、回転軸の軸心を中心として、回転軸の軸心と直交する方向を径方向、回転軸を中心として回転する方向を周方向とする。また、各図において、径方向を矢印Xで示し、周方向を矢印Yで示している。
【0011】
図1において、制御装置一体型回転電機100は、回転電機本体101と、回転電機本体101のリア側に一体に取り付けられる制御装置102と、を有する。
【0012】
回転電機本体101は、フロントブラケット1とリアブラケット2とからなるハウジング3と、ハウジング3に支持された軸受4,5に回転可能に支持される回転軸6と、回転軸6に同軸に固定されてハウジング3内に回転可能に設置された回転子7と、回転子7の外周側を覆うようにハウジング3に固定された固定子10と、を備える。
【0013】
回転子7は、軸心位置を貫通する回転軸6に固着された回転子鉄心8と、回転子鉄心8に装着された界磁コイル9と、を備える。
固定子10は、円環状の固定子鉄心11と、固定子鉄心11に装着された固定子巻線12と、を備える。固定子10は、回転子鉄心8と同軸に、かつ回転子鉄心8を囲むように配置された固定子鉄心11を、軸方向両側からフロントブラケット1とリアブラケット2とにより加圧状態に挟み込むことで、ハウジング3に保持される。
【0014】
回転子7のフロントブラケット1からの突出端には、プーリ13が装着されている。回転軸6のリアブラケット2からの突出端には、一対のスリップリング14が装着されている。一対のブラシ15は、ブラシホルダ16に収納されて、一対のスリップリング14に接するように配置されている。回転子7の磁極位置を検出するレゾルバ17は、リアブラケット2の軸方向外側のセンサ固定部18に配置されている。
【0015】
制御装置102は、固定子10に供給する電流をON/OFFするスイッチング素子を有するパワー回路モジュール20、回転子7に供給する電流をON/OFFするスイッチング素子を有する界磁回路モジュール21、パワー回路モジュール20および界磁回路モジュール21のスイッチング素子の制御信号を出力する制御回路部(図示せず)を有する制御基板22などを備える。パワー回路モジュール20、界磁回路モジュール21、制御基板22は、リアブラケット2の軸方向外側に配置されている。リアカバー23が、ブラシホルダ16、パワー回路モジュール20、界磁回路モジュール21、制御基板22などを覆うように、リアブラケット2に装着されている。
【0016】
つぎに、固定子10の構成について説明する。
図2は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を示す横断面図、
図3は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を示す縦断面図、
図4は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の要部を径方向外側から見た側面図である。なお、横断面図とは、回転軸の軸心と直交する断面を示す断面図である。
【0017】
ここで、説明の便宜上、毎極毎相当たりのスロット数を2、固定子巻線を三相巻線とする。また、単位コイルのスロット内の収納位置を内径側から第1層、第2層、第3層、第4層とする。また、
図4中上側を固定子鉄心11の軸方向一端側とし、
図4中下側を固定子鉄心11の軸方向他端側とする。
【0018】
固定子10は、
図2から
図4に示されるように、円環状の固定子鉄心11と、固定子鉄心11に装着された固定子巻線12と、を備える。固定子鉄心11は、電磁鋼板などの磁性薄板を積層一体化して作製され、円環状のコアバック31と、それぞれ、コアバック31の内周壁面から径方向内方に突出して、周方向に等角ピッチで配列された複数のティース32と、を備える。周方向に隣り合うティース32間に形成されるスペースがスロット33となる。なお、スロット33内には、固定子鉄心11と固定子巻線12との電気絶縁性を確保するためのインシュレータ34が装着されている。インシュレータ34は、紙、樹脂、それらの複合材料により作製されるが、ここでは、ポリイミドフィルムをメタ系アラミド繊維で挟み込んでシート状に作製されている。
【0019】
固定子巻線12は、スロット33に挿入された複数の単位コイル35を結線して構成される。単位コイル35は、エナメル樹脂などの絶縁被膜が被覆された銅、アルミなどの断面矩形の導体により直線状に構成されている。各スロット33には、4本の単位コイル35が径方向に1列に配列されて収納されている。
【0020】
固定子鉄心11の軸方向一端側においては、スロット33内の第1層および第3層に収納されている単位コイル35のスロット33からの突出部分は、
図4中、左方向に傾斜するように曲げられている。スロット33内の第2層および第4層に収納されている単位コイル35のスロット33からの突出部分は、
図4中、右方向に傾斜するように曲げられている。
【0021】
ここで、一のスロット33の第1層に収納されている単位コイル35の一端部と、一のスロット33から
図4中左方向に6スロット離れたスロット33の第2層に収納されている単位コイル35の一端部と、が、径方向に重なっている。一のスロット33の第3層に収納されている単位コイル35の一端部と、一のスロット33から
図4中左方向に6スロット離れたスロット33の第4層に収納されている単位コイル35の一端部とが、径方向に重なっている。
【0022】
6スロット離れたスロット33の対の第1層と第2層とに収納されている単位コイル35の一端部同士が溶接されて接続されている。6スロット離れたスロット33の対の第3層と第4層とに収納されている単位コイル35の一端部同士が溶接されて接続されている。なお、6スロット離れたスロット33の対とは、周方向に連続する6つのティース32の両側に位置するスロット33の対である。また、接合部36は、単位コイル35の先端部同士の溶接による接合部である。
【0023】
固定子鉄心11の軸方向他端側においては、スロット33内の第1層および第3層に収納されている単位コイル35のスロット33からの突出部分は、
図4中、右方向に傾斜するように曲げられている。スロット33内の第2層および第4層に収納されている単位コイル35のスロット33からの突出部分は、
図4中、左方向に傾斜するように曲げられている。
【0024】
ここで、一のスロット33の第1層に収納されている単位コイル35の他端部と、一のスロット33から
図4中右方向に6スロット離れたスロット33の第2層に収納されている単位コイル35の他端部とが、径方向に重なっている。一のスロット33の第3層に収納されている単位コイル35の他端部と、一のスロット33から
図4中右方向に6スロット離れたスロット33の第4層に収納されている単位コイル35の他端部とが、径方向に重なっている。
【0025】
6スロット離れたスロット33の対の第1層と第2層とに収納されている単位コイル35の他端部同士が溶接されて接続されている。6スロット離れたスロット33の対の第3層と第4層とに収納されている単位コイル35の他端部同士が溶接されて接続されている。
【0026】
これにより、それぞれ、6スロット間隔で配列されているスロット33の群の第1層と第2層とに収納されている単位コイル35を直列に接続した2本の1ターンのコイルが構成されている。さらに、それぞれ、6スロット間隔で配列されているスロット33の群の第3層と第4層とに収納されている単位コイル35を直列に接続した2本の1ターンのコイルが構成されている。なお、6スロット間隔とは、周方向に連続する6つのティース32の両側に位置するスロット33間の間隔である。
【0027】
ここで、単位コイル35の接続構造を
図5を参照しつつ説明する。
図5は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子における単位コイルの端部同士の接続状態を示す斜視図である。
【0028】
単位コイル35は、矩形断面の導体部351と、導体部351に被覆された絶縁被膜352と、を備える。単位コイル35の両先端部の絶縁被膜352が切除されている。絶縁被膜が切除されている領域を被膜剥離部353とする。絶縁被膜352が被覆されている領域を被膜部354とする。被膜剥離部353は、径方向厚さが厚い根元側の肉厚部353aと、径方向厚さが薄い先端側の肉薄部353bと、肉厚部353aと肉薄部353bとを連結する、径方向厚さが肉厚部353aから肉薄部353bに向かって漸次薄くなる傾斜部353cと、を備える。肉厚部353aと肉薄部353bとの径方向における段差はtである。被膜剥離部353の周方向幅は一定である。
【0029】
接続される一方の単位コイル35の被膜剥離部353の径方向一側に位置する面は、被膜部354とおおむね段差のない平坦面358となっている。接続される他方の単位コイル35の被膜剥離部353の径方向他側に位置する面は、被膜部354とおおむね段差のない平坦面358となっている。これにより、単位コイル35の先端部同士は、隙間なく対面して径方向に重なった状態となる。ここで、被膜剥離部353の径方向の両側に位置する面が対向する一対の面であり、周方向の両側に位置する面が対向する他の一対の面である。
【0030】
これにより、単位コイル35の先端部同士を隙間なく対面した状態で溶接できる。そこで、溶接時に大きな力で先端部同士を押し付けておく必要がない。また、溶接後にスプリングバックを起こして、接合部36が剥離するおそれもない。その結果、接合作業の合理化が図られると共に、接合部36の信頼性が向上される。さらに、単位コイル35の溶接される部位は、径方向厚みが薄い肉薄部353bに形成されて、断面積が小さくなっている。その結果、溶接時の入熱量を少なくでき、より効果的な加熱が可能となる。
【0031】
つぎに、比較例の単位コイルの製造方法を説明する。
図6は、単位コイルの材料である導体線を示す断面図、
図7は、導体線をY方向から見た平面図、
図8は、導体線をX方向から見た平面図、
図9および
図10は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図、
図11および
図12は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図、
図13および
図14は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図、
図15および
図16は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図、
図17は、パンチを示す斜視図、
図18は、パンチを示す正面図である。なお、
図9、
図11、
図13および
図15は、それぞれ、導体線の加工部周りをY方向から見た平面図である。
図10、
図12、
図14および
図16は、それぞれ、導体線の加工部周りをX方向から見た平面図である。
【0032】
導体線350は、
図6に示されるように、絶縁被膜352が銅、アルミなどの導体部351に被覆された連続導体線である。導体線350は、
図7および
図8に示されるように、4面を平坦面とする矩形断面の連続導体線である。導体線350の径方向の両側に位置する側面Aが対向する一対の側面であり、周方向の両側に位置する側面Bが対向する他の一対の側面である。比較例の単位コイルの製造方法では、図示されていないが、第1切除部、第2切除部、オフセット部および切断部が、単位コイル35の長さの間隔で、1列に並んで設置されている。
【0033】
まず、導体線350が第1切除部に搬送される。第1切除部では、
図9および
図10に示されるように、刃部を有する一対のパンチP1が導体線350のX方向の両側を矢印C1の方向に移動される(第1切除工程)。これにより、導体線350のX方向の両側の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP1の刃部により切除される。そこで、導体線350のX方向の両側の切除面は、パンチP1の刃部形状に適合する面形状に形成される。これにより、導体線350のX方向の両側の切除面は、一対の第1平坦面355aと、一対の第1平坦面355a間に位置する第2平坦面355bと、一対の第1平坦面355aと第2平坦面355bとを連結する一対の傾斜面355cと、を有する段付き面形状に形成される。
【0034】
ついで、導体線350が第2切除部に搬送される。第2切除部では、
図11および
図12に示されるように、刃部を有する一対のパンチP2が導体線350のY方向の両側を矢印C2の方向に移動される(第2切除工程)。これにより、導体線350のY方向の両側の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP2の刃部により切除される。そこで、導体線350のY方向の両側の切除面は、パンチP2の刃部形状に適合する面形状に形成される。導体線350のY方向の両側の切除面は、第3平坦面355dとなる。
【0035】
ついで、導体線350がオフセット部に搬送される。オフセット部では、
図13および
図14に示されるように、パンチP3が導体線350のX方向の一側の切除面にあてがわれ、矢印C2の方向に移動される(オフセット工程)。ここで、パンチP3は、
図17および
図18に示されるように、一対の第1平坦加圧面P3aと、一対の第1平坦加圧面P3a間に位置する第2平坦加圧面P3bと、一対の第1平坦加圧面P3aと第2平坦加圧面P3bとを連結する一対の傾斜加圧面P3cと、からなる凸状の加圧面S1を有する。第1平坦加圧面P3aと第2平坦加圧面P3bとの間の段差d1は、肉厚部353aと肉薄部353bとの径方向における段差tと等しい。パンチP3の幅U1は、第2切除工程で切除された導体線350の切除部のY方向の幅より十分に大きい。パンチP3の幅U2は、第2切除工程で切除された導体線350の切除部の長さ方向の幅より大きい。これにより、パンチP3の加圧面の両側で導体線350の切除部の長さ方向の両側が加圧され、切除時における、導体線350の浮き、長手方向へのずれの発生が抑制される。
【0036】
オフセット工程では、導体線350の導体部351が塑性変形され、導体線350のX方向の他側の切除面が絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358となる。すなわち、X方向の他側の切除面が絶縁被膜352の表面と実質的に連続する平坦面358となる。パンチP3の加圧面S1の面形状が、導体線350のX方向の一側の切除面に転写される。これにより、導体線350のX方向の一方の側面は、一対の第1平坦面355aと、一対の第1平坦面355a間に位置する第2平坦面355bと、第1平坦面355aと第2平坦面355bとを連結する一対の傾斜面355cと、からなる段付き面形状に形成される。
【0037】
ついで、導体線350が切断部に搬送される。切断部では、導体線350の切除部が導体線350の長さ方向の中央部で切断される。導体線350がその長さ方向に単位コイル35の長さを搬送ピッチとして搬送され、第1切除工程、第2切除工程、オフセット工程および切断工程が実施される。これにより、
図15および
図16に示されるように、肉厚部353a、傾斜部353cおよび肉薄部353bからなる被膜剥離部353が両端部に形成された単位コイル35が製造される。被膜剥離部353の周方向の一対の側面は、第3平坦面355dとなっている。被膜剥離部353の径方向の他方の側面は、絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358となっている。
【0038】
つぎに、比較例の単位コイルの製造方法の問題点について説明する。
図19および
図20は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法における第1切除工程の問題点を説明する平面図、
図21および
図22は、それぞれ、比較例の単位コイルの製造方法における第2切除工程の問題点を説明する平面図である。なお、
図19および
図21は、それぞれ、導体線の加工部周りをY方向から見た平面図である。
図20および
図22は、それぞれ、導体線の加工部周りをX方向から見た平面図である。
【0039】
第1切除工程では、
図19および
図20に示されるように、刃部を有する一対のパンチP1が導体線350のX方向の両側を矢印C1の方向に移動される。このとき、X方向の両側の第2平坦面355b間の幅が、X方向の両側の第1平坦面355a間の幅より狭くなっている。そこで、第2平坦面355b間の領域の強度は、第1平坦面355a間の領域の強度より小さくなる。一方、第2平坦面355bを形成するための切除量は、第1平坦面355aを形成するための切除量より多くなる。そのため、パンチP1の刃部による切除時の剪断力により、導体線350の切除部の矢印C1の方向の一対の側面のうち、矢印C1の方向の後方の側面が、
図20に示されるように、凹状に変形し、窪みFが形成される。
【0040】
ついで、第2切除工程では、
図21および
図22に示されるように、刃部を有する一対のパンチP2が導体線350のY方向の両側を矢印C2の方向に移動される。このとき、導体線350の切除部の矢印C1の方向の一対の側面のうち、矢印C1の方向の後方(
図22中上側)の側面に窪みFが形成されているので、パンチP2により切除できない部分ができる。これにより、
図21および
図22に示されるように、導体線350の切除部のY方向の一対の側面のうち、窪みFが形成されていた側面(
図22中上側の側面)の領域Dには、絶縁被膜332が残ってしまう。さらに、第2平坦面355bが形成されている領域のY方向の両側の第3平坦面355d間の幅が、設計値より狭くなっている。この被膜残りおよび第2平坦面355bが形成されている領域のY方向の両側の第3平坦面355d間の幅は、オフセット工程および切断工程では変化しない。
【0041】
そのため、溶接工程において、被膜残りによる溶接不良が発生する。また、一対の第2平坦面355b間の幅が設計値から狭くなるので、被膜剥離部353の断面積が設計値から減少し、コイル抵抗が増大する。
【0042】
つぎに、実施の形態1による固定子の製造方法における単位コイルの製造方法を説明する。
図23および
図24は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図、
図25および
図26は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図、
図27および
図28は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図、
図29および
図30は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における切断工程を説明する平面図である。なお、
図23、
図25、
図27および
図29は、それぞれ、導体線の加工部周りをY方向から見た平面図である。
図24、
図26、
図28および
図30は、それぞれ、導体線の加工部周りをX方向から見た平面図である。
【0043】
実施の形態1においても、導体線350を用いて単位コイル35を製造する。実施の形態1による単位コイルの製造方法では、図示されていないが、第1切除部、オフセット部、第2切除部および切断部が、単位コイル35の長さの間隔で、1列に並んで設置されている。
【0044】
まず、導体線350が第1切除部に搬送される。第1切除部では、
図23および
図24に示されるように、刃部を有する一対のパンチP4が導体線350のX方向の両側を矢印C1の方向に移動される(第1切除工程)。これにより、導体線350のX方向の両側、すなわち対向する一対の側面の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP4の刃部により切除される。そこで、導体線350の対向する一対の側面に、パンチP4の刃部形状に適合する面形状の一対の切除面が形成される。導体線350の対向する一対の切除面は、第1平坦面355aとなる。
【0045】
ついで、導体線350がオフセット部に搬送される。オフセット部では、
図25および
図26に示されるように、パンチP3が導体線350の一対の切除面の一方の切除面にあてがわれ、矢印C2の方向に移動される(オフセット工程)。これにより、導体線350の導体部351が塑性変形され、導体線350の一対の切除面の他方の切除面が絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358となる。パンチP3の加圧面S1の面形状が、導体線350の一対の切除面の一方の切除面に転写される。そこで、導体線350の一方の切除面は、一対の第1平坦面355aと、一対の第1平坦面355a間に位置する第2平坦面355bと、一対の第1平坦面355aと第2平坦面355bとを連結する一対の傾斜面355cと、を有する段付き面形状に形成される。
【0046】
このとき、導体線350の一方の切除面がパンチP3の加圧面S1により加圧される。これにより、導体線350の切除部の領域Eが、
図25及び
図26に示されるように、X方向に薄くなりつつ、Y方向に広がるように塑性変形する。
【0047】
ついで、導体線350が第2切除部に搬送される。第2切除部では、
図27および
図28に示されるように、刃部を有する一対のパンチP2が導体線350のY方向の両側を矢印C2の方向に移動される(第2切除工程)。これにより、導体線350のY方向の両側、すなわち対向する他の一対の側面の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP2の刃部により切除される。導体線350の対向する他の一対の側面に、パンチP2の刃部形状に適合する面形状の切除面が形成される。導体線350の対向する他の一対の側面に形成された切除面は、第3平坦面355dとなる。ここで、パンチP2のY方向の間隔は、単位コイル35の被膜剥離部353のY方向の幅に等しい。
【0048】
ついで、導体線350が切断部に搬送される。切断部では、
図29および
図30に示されるように、導体線350の切除部が導体線350の長さ方向の中央部で切断される(切断工程)。導体線350がその長さ方向に単位コイル35の長さを搬送ピッチとして搬送され、第1切除工程、第2切除工程、オフセット工程および切断工程が実施される。これにより、被膜剥離部353が両端部に形成された単位コイル35が製造される。ここで、パンチP3の加圧面S1の面形状が転写された導体線350の一方の切除面と被膜部352とおおむね段差のない平坦面358に形成された他方の切除面とが被膜剥離部353の対向する一対の面となる。導体線350の対向する他の一対の側面に形成された切除面が被膜剥離部353の対向する他の一対の面となる。
【0049】
実施の形態1では、導体線350の切除部のX方向の両側面に第1平坦面355aを形成する第1切除工程に引き続いて、オフセット工程を実施している。オフセット工程では、導体線350の切除部のX方向の他側の側面を絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358に形成するとともに、導体線350の切除部のX方向の一側の側面を、一対の第1平坦面355aと、一対の第1平坦面355a間に位置する第2平坦面355bと、一対の第1平坦面355aと第2平坦面355bとを連結する一対の傾斜面355cと、を有する段付き面形状に形成している。そして、オフセット工程に引き続いて、導体線350の切除部のY方向の両側面に第3平坦面355dを形成する第2切除工程を実施している。これにより、オフセット工程において発生する、導体線350の切除部のY方向の広がり部が、第2切除工程でパンチP2により切除される。
【0050】
その結果、導体線350の切除部の各面の絶縁被膜352が確実に除去される。さらに、第2平坦面355bが形成されている領域のY方向の両側の第3平坦面355d間の幅が設計値となる。そのため、溶接工程において、被膜残りに起因する溶接不良の発生が抑制される。また、Y方向の両側の第3平坦面355d間の幅が設計値となるので、被膜剥離部353の断面積が設計値となり、コイル抵抗が設計値となる。
【0051】
つぎに、実施の形態1による固定子の製造方法について説明する。
図31は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイル装着工程を説明する要部側面図、
図32は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの第1曲げ工程を説明する要部側面図、
図33は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの第2曲げ工程を説明する要部側面図、
図34は、この発明の実施の形態1に係る回転電機の固定子の製造方法における単位コイルの溶接工程を説明する要部側面図である。なお、
図31から
図34の側面図は、固定子を径方向外方から見た側面図である。
【0052】
まず、インシュレータ34が、固定子鉄心11の各スロット33に装着される。ついで、
図31に示されるように、このように製造された単位コイル35が、軸方向一端側から、各スロット33に4本ずつ装着される(単位コイル装着工程)。このとき、各単位コイル35の両端は、スロット33から突出している。また、スロット33の第1層と第3層とに装着される単位コイル35は、被膜剥離部353の絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358が径方向外方に向いている。スロット33の第2層と第4層とに装着される単位コイル35は、被膜剥離部353の絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358が径方向内方に向いている。
【0053】
ついで、
図32に示されるように、各スロット33から軸方向一端側に突出する単位コイル35の部分を周方向に曲げる(第1曲げ工程)。このとき、スロット33の第1層と第3層とから軸方向一端側に突出する単位コイル35の突出部分は、
図32中左方向に曲げられる。また、スロット33の第2層と第4層とから軸方向一端側に突出する単位コイル35の突出部分は、
図32中右方向に曲げられる。さらに、各単位コイル35の軸方向一端側の被膜剥離部353を含む領域が軸方向外方の延びるように曲げられる。
【0054】
これにより、一のスロット33の第1層に収納されている単位コイル35の軸方向一端側の被膜剥離部353を含む領域と、一のスロット33から
図32中左方向に6スロット離れたスロット33の第2層に収納されている単位コイル35の軸方向一端側の被膜剥離部353を含む領域と、が、径方向に重なっている。また、一のスロット33の第3層に収納されている単位コイル35の軸方向一端側の被膜剥離部353を含む領域と、一のスロット33から
図32中左方向に6スロット離れたスロット33の第4層に収納されている単位コイル35の軸方向一端側の被膜剥離部353を含む領域と、が、径方向に重なっている。
【0055】
ついで、
図33に示されるように、各スロット33から軸方向他端側に突出する単位コイル35の部分を周方向に曲げる(第2曲げ工程)。このとき、スロット33の第1層と第3層とから軸方向他端側に突出する単位コイル35の突出部分は、
図32中右方向に曲げられる。また、スロット33の第2層と第4層とから軸方向他端側に突出する単位コイル35の突出部分は、
図32中左方向に曲げられる。さらに、各単位コイル35の軸方向他端側の被膜剥離部353を含む領域が軸方向外方の延びるように曲げられる。
【0056】
これにより、一のスロット33の第1層に収納されている単位コイル35の軸方向他端側の被膜剥離部353を含む領域と、一のスロット33から
図33中右方向に6スロット離れたスロット33の第2層に収納されている単位コイル35の軸方向他端側の被膜剥離部353を含む領域と、が、径方向に重なっている。また、一のスロット33の第3層に収納されている単位コイル35の軸方向他端側の被膜剥離部353を含む領域と、一のスロット33から
図33中左方向に6スロット離れたスロット33の第4層に収納されている単位コイル35の軸方向他端側の被膜剥離部353を含む領域と、が、径方向に重なっている。
【0057】
ついで、
図34に示されるように、固定子鉄心11の軸方向両端側で、径方向に重なっている被膜剥離部353の肉薄部353b同士が溶接される(溶接工程)。これにより、接続対象の単位コイル35同士が接合部36により接続され、固定子10が製造される。このとき、溶接される被膜剥離部353の相対する面が絶縁被膜とおおむね段差のない平坦面358となっているので、被膜剥離部353同士は、隙間なく対面して径方向に重なった状態で溶接される。
【0058】
実施の形態1による固定子の製造方法では、接続対象の単位コイル35の被膜剥離部353同士が隙間なく対面して径方向に重なった状態で溶接される。そこで、溶接時に大きな力で被膜剥離部353同士を押し付けておく必要がない。また、接合後にスプリングバックを起こして、接合部36が剥離するおそれもない。その結果、接合作業の合理化が図られると共に、接合部36の信頼性が向上される。さらに、被膜剥離部353が段付き形状であり、被膜剥離部353の先端部分を肉薄部353bとして断面積を縮小している。これにより、溶接時の入熱量を少なくでき、より効果的な加熱が可能となる。
【0059】
インシュレータ34がスロット33内に装着された後、単位コイル35をスロット33に挿入しているので、単位コイル35をスロット33に挿入する際の絶縁被膜352の損傷発生が抑制される。これにより、固定子巻線12の絶縁性能が向上される。
【0060】
なお、上記実施の形態1では、単位コイルを1本ずつ固定子鉄心のスロットに装着しているが、径方向に1列に4本配列された単位コイルの群を周方向に1スロットピッチでスロットと同数配列して円環状の単位コイル組立体を組み立て、その単位コイル組立体を固定子鉄心のスロットに装着してもよい。
【0061】
実施の形態2.
図35および
図36は、それぞれ、この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法における第3切除工程を説明する平面図、
図37および
図38は、それぞれ、この発明の実施の形態2に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図である。なお、
図35および
図37は、それぞれ、導体線の加工部周りをY方向から見た平面図である。
図36および
図38は、それぞれ、導体線の加工部周りをX方向から見た平面図である。
【0062】
実施の形態2では、単位コイルの製造方法において、第1切除工程の後に、オフセット工程に先立って第3切除工程を実施している点を除いて、上記実施の形態1と同様に構成されている。
【0063】
実施の形態2では、第1切除工程に引き続いて、
図35および
図36に示されるように、刃部を有する一対のパンチP5が導体線350のY方向の両側を矢印C2の方向に移動される(第3切除工程)。これにより、導体線350のY方向の両側、すなわち対向する他の一対の側面の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP5の刃部により切除される。そこで、導体線350の対向する他の一対の側面に、パンチP5の刃部形状に適合する面形状の他の一対の切除面が形成切除される。つまり、導体線350の他の一対の切除面は、第4平坦面355eとなる。ついで、導体線350の他の一対の切除面が第4平坦面355eに形成された導体線350がオフセット部に搬送される。
【0064】
オフセット部では、
図37および
図38に示されるように、パンチP3が導体線350の一対の切除面の一方の切除面にあてがわれ、矢印C2の方向に移動される(オフセット工程)。これにより、導体線350の導体部351が塑性変形され、導体線350の一対の切除面の他方の切除面が絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358となる。パンチP3の加圧面S1の面形状が、導体線350の一対の切除面の一方の切除面に転写される。そこで、導体線350の一方の切除面は、一対の第1平坦面355aと、一対の第1平坦面355a間に位置する第2平坦面355bと、一対の第1平坦面355aと第2平坦面355bとを連結する一対の傾斜面355cと、を有する段付き面形状に形成される。
【0065】
このとき、導体線350の一対の切除面の一方の切除面がパンチP3の加圧面S1により加圧される。これにより、導体線350の切除部の領域Eが、
図37および
図38に示されるように、X方向に薄くなりつつ、Y方向に広がるように塑性変形する。
【0066】
ついで、導体線350が第2切除部に搬送される。第2切除部では、図示していないが、導体線350のY方向の両側、すなわち対向する他の一対の側面の導体部351が、パンチP2の刃部により切除される。導体線350の対向する他の一対の側面に、パンチP2の刃部形状に適合する面形状の切除面が形成される。導体線350の対向する他の一対の側面に形成された切除面は、第3平坦面355dとなる。
【0067】
この実施の形態2においても、オフセット工程で広げられた導体線350の切除部のY方向縁部が第2切除工程で切除されるので、上記実施の形態1と同様の効果が得られる。
この実施の形態2によれば、オフセット工程に先立って第3切除工程を実行し、導体線350の切除部のY方向縁部の絶縁被膜352を切除している。そこで、オフセット工程後の第2切除工程において、被膜残りの発生が確実に防止される。また、絶縁被膜352が切除されている分、導体線350の切除部のY方向幅が狭くなっているので、オフセット工程において、導体線350の切除部が塑性変形しやすくなり、被膜剥離部353の変形の発生が抑制される。
【0068】
ここで、パンチP5のY方向の間隔は、導体線350のY方向の両側の絶縁被膜352を切除できる間隔以下であればよい。また、パンチP2のY方向の間隔は、単位コイル35の被膜剥離部353のY方向の幅に等しい。
【0069】
実施の形態3.
図39および
図40は、それぞれ、この発明の実施の形態3に係る単位コイルの製造方法における第1切除工程を説明する平面図、
図41および
図42は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法におけるオフセット工程を説明する平面図、
図43および
図44は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程を説明する平面図、
図45および
図46は、それぞれ、この発明の実施の形態1に係る単位コイルの製造方法における第2切除工程後の単位コイルの被膜剥離部周りを示す平面図、
図47は、パンチP7を示す斜視図、
図48は、パンチP8を示す正面図である。なお、
図39、
図41、
図43および
図45は、それぞれ、導体線の加工部周りをY方向から見た平面図である。
図40、
図42、
図44および
図46は、それぞれ、導体線の加工部周りをX方向から見た平面図である。
【0070】
実施の形態3では、導体線350を切断して単位コイル35と同じ長さの導体線356を作製する。ついで、
図39および
図40に示されるように、刃部を有する一対のパンチP6が導体線356の切除部のX方向の両側を矢印C1の方向に移動される(第1切除工程)。これにより、導体線356の切除部のX方向の両側、すなわち対向する一対の側面の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP6の刃部により切除される。そこで、導体線356の対向する一対の側面に、パンチP6の刃部形状に適合する面形状の一対の切除面が形成される。導体線356の対向する一対の切除面は、第1平坦面357aとなる。
【0071】
ついで、導体線356がオフセット部に搬送される。オフセット部では、
図41および
図42に示されるように、パンチP7が導体線356の一対の切除面の一方の切除面にあてがわれ、矢印C2の方向に移動される(オフセット工程)。ここで、パンチP7は、
図47および
図48に示されるように、第1平坦加圧面P7aと、第2平坦加圧面P7bと、第1平坦加圧面P7aと第2平坦加圧面P7bとを連結する傾斜加圧面P7cと、からなる凸状の加圧面S2を有する。第1平坦加圧面P7aと第2平坦加圧面P7bとの間の段差d2は、肉厚部353aと肉薄部353bとの径方向における段差tと等しい。パンチP7の幅U3は、第1切除工程で切除された導体線356の切除部のY方向の幅より十分に大きい。パンチP7の幅U4は、第1切除工程で切除された導体線356の切除部の長さ方向の幅より大きい。これにより、パンチP7の加圧面S2の第1平坦加圧面P7aの傾斜加圧面P7cと反対側で導体線356の切除部の根元側が加圧され、切除時における導体線356の浮き、長手方向へのずれの発生が抑制される。
【0072】
これにより、導体線356の導体部351が塑性変形され、導体線356の一対の切除面の他方の切除面が絶縁被膜352とおおむね段差のない平坦面358となる。パンチP7の加圧面S2の面形状が、導体線356の一対の切除面の一方の切除面に転写される。そこで、導体線356の一方の切除面は、第1平坦面357aと、第1平坦面357aの先端側に位置する第2平坦面357bと、第1平坦面357aと第2平坦面357bとを連結する傾斜面357cと、を有する段付き面形状に形成される。
【0073】
このとき、導体線356の一方の切除面がパンチP7の加圧面S2により加圧される。これにより、導体線356の切除部の領域Gが、
図41及び
図42に示されるように、X方向に薄くなりつつ、Y方向および長さ方向に広がるように塑性変形する。
【0074】
ついで、導体線356が第2切除部に搬送される。第2切除部では、
図43および
図44に示されるように、刃部を有するパンチP8が導体線356の切除部のY方向の両側および先端縁部を矢印C2の方向に移動される(第2切除工程)。これにより、導体線356のY方向の両側、すなわち対向する他の一対の側面および先端縁部の導体部351および絶縁被膜352が、パンチP8の刃部により切除される。導体線356の対向する他の一対の側面に、パンチP8の刃部形状に適合する面形状の切除面が形成される。導体線356の対向する他の一対の側面に形成された切除面は、第3平坦面357dとなる。パンチP8の刃部のY方向の間隔は、単位コイル35の被膜剥離部353のY方向の幅に等しい。これにより、
図45および
図46に示されるように、被膜剥離部353が形成された単位コイル35が製造される。
【0075】
実施の形態3においても、オフセット工程で広げられた導体線356の切除部のY方向両縁部および長さ方向の先端縁部が第2切除工程で切除されるので、上記実施の形態1と同様の効果が得られる。
【0076】
ここで、実施の形態3においても、上記実施の形態2と同様に、オフセット工程に先立って、導体線356の切除部のX方向両側部の導体部351および絶縁被膜352を切除する第3切除工程を実行してもよい。
【0077】
なお、上記各実施の形態では、単位コイルがスロット内に1列に4本ずつ配列されているが、スロット内に1列に配列される単位コイルの本数は、4本に限定されず、偶数本であればよい。
また、上記各実施の形態では、直線状の単位コイルを用いているが、単位コイルは直線状の単位コイルに限定されず、例えば、U字状の単位コイル、螺旋状に巻かれた単位コイルを用いることができる。
また、上記各実施の形態では、単位コイル同士の先端部同士を溶接により接合しているが、接合手段は、ガス溶接、レーザ溶接などの融接、拡散接合などの圧接、ロウ付けなどのろう接を用いることができる。
【0078】
また、上記各実施の形態では、スロット数が毎極毎相当たり2の割合で形成されているが、毎極毎相当たりのスロット数は2に限定されず、例えば1でもよい。スロット数が毎極毎相当たり1の場合、3スロット離れた単位コイル同士が接続される。
また、上記各実施の形態1では、固定子巻線が3相巻線に構成されているが、固定子巻線の相数は3相に限定されず、5相、7相でもよい。
【符号の説明】
【0079】
11 固定子鉄心、33 スロット、35 単位コイル、350,356 導体線、351 導体部、352 絶縁被膜、353 被膜剥離部、353a 肉厚部、353b 肉薄部、358 平坦面。