(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】真空リフト装置
(51)【国際特許分類】
B66C 1/02 20060101AFI20221216BHJP
B25J 15/06 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B66C1/02 C
B25J15/06 A
(21)【出願番号】P 2018125249
(22)【出願日】2018-06-29
【審査請求日】2021-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】511062276
【氏名又は名称】東洋工機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000222587
【氏名又は名称】東洋機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】弁理士法人武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菅 敬彦
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特公昭48-009533(JP,B1)
【文献】特開2003-184744(JP,A)
【文献】実開昭53-148335(JP,U)
【文献】米国特許第04557659(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/02
B25J 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送物の表面に密着する吸着パッドと、
密着した前記吸着パッド及び搬送物の間の気密空間を真空にする真空源と、
前記気密空間が真空になったことを報知する報知装置とを備える真空リフト装置において、
前記報知装置は、
前記吸着パッドから前記真空源に至る空気流路に接続された第1孔、及び大気に解放された第2孔が形成されたシリンダと、
前記シリンダの内部を、前記第1孔と接続し且つ前記第2孔から遮断された第1室、及び前記第1孔から遮断され且つ前記第2孔と接続した第2室に区画するピストンと、
前記第1室が真空にされたことに応じて前記シリンダ内を移動する前記ピストンに連動して、前記真空リフト装置の周囲にいる作業者が知覚不能な第1位置から知覚可能な第2位置に移動する報知器と、
前記第1室が大気圧にされたことに応じて、前記報知器を前記第2位置から前記第1位置に復帰させる復帰手段と
、
前記報知装置を収容する筐体とを備え、
前記報知器は、
前記第1位置において、前記筐体の内部に埋没し、
前記第2位置において、前記筐体の表面から突出することを特徴とする真空リフト装置。
【請求項2】
前記報知器は、前記第2位置において、前記筐体の上面から上方に突出することを特徴とする請求項
1に記載の真空リフト装置。
【請求項3】
前記復帰手段は、前記第1室から前記第2室に向かう向きに、前記ピストンを付勢する弾性部材であることを特徴とする請求項
1または
2に記載の真空リフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空リフト装置に関し、特に、真空源以外に動力源を持たない真空リフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、真空を利用して吸着パッドに搬送物を吸着し、吸着パッドに吸着された搬送物をクレーン等の搬送機器を用いて吊り上げて、所定の搬送位置まで搬送する真空リフト装置が開示されている。
【0003】
上記構成の真空リフト装置には、吸着パッド内の気圧を表示する真空ゲージが筐体の側面に設けられているのが一般的である。そして、真空リフト装置の作業者は、吸着パッド内が真空になったことを真空ゲージで確認してから、真空リフト装置をクレーンで吊り上げる作業に移行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、真空ゲージは真空リフト装置の側面に設けられているので、クレーンを操作する作業者から真空ゲージが見えない場合もある。このような場合において、真空ゲージが見える位置に移動することによる作業効率の低下を嫌って、過去の経験による見込みで真空リフトを吊り上げる作業者もいる。このとき、吸着パッド内が十分に減圧されていないと、搬送物が落下する。
【0006】
そこで、真空リフト装置に警告灯などを取り付けて、真空リフト装置が吊り上げ可能か否かを報知する方法が考えられる。しかしながら、外部動力を全く使用せずに動作する無動力方式の真空ポンプ装置、或いは吸着パッド内から空気を吸引するポンプにのみ動力を用いる真空ポンプ装置に、警告灯を点灯させる機構を追加するのは、大きな設計変更を伴うという課題がある。
【0007】
本発明は、このような従来技術の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、真空源以外に動力源を有しない真空ポンプ装置において、吸着パッド内が真空になったことを認識させることが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記課題を解決するため、搬送物の表面に密着する吸着パッドと、密着した前記吸着パッド及び搬送物の間の気密空間を真空にする真空源と、前記気密空間が真空になったことを報知する報知装置とを備える真空リフト装置において、前記報知装置は、前記吸着パッドから前記真空源に至る空気流路に接続された第1孔、及び大気に解放された第2孔が形成されたシリンダと、前記シリンダの内部を、前記第1孔に接続され且つ前記第2孔から遮断された第1室、及び前記第1孔から遮断され且つ前記第2孔に接続された第2室に区画するピストンと、前記第1室が真空にされたことに応じて前記シリンダ内を移動する前記ピストンに連動して、前記真空リフト装置の周囲にいる作業者が知覚不能な第1位置から知覚可能な第2位置に移動する報知器と、前記第1室が大気圧にされたことに応じて、前記報知器を前記第2位置から前記第1位置に復帰させる復帰手段と、前記報知装置を収容する筐体とを備え、前記報知器は、前記第1位置において、前記筐体の内部に埋没し、前記第2位置において、前記筐体の表面から突出することを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、第1室及び第2室の気圧差を利用して、作業者が知覚不能な第1位置から知覚可能な第2位置に、報知器を移動させることができる。すなわち、報知装置を動作させるための動力源を追加することなく、真空リフト装置が吊り上げ可能になったことを作業者に認識させることができる。
【0011】
上記構成によれば、真空リフト装置が吊り上げ可能か否かが一目瞭然となる。すなわち、真空ゲージの目盛りを確認するなどの方法と比較して、真空リフト装置の状態を簡単且つ確実に作業者に認識させることができる。
【0012】
また、前記報知器は、前記第2位置において、前記筐体の上面から上方に突出することを特徴としてもよい。
【0013】
上記構成によれば、真空リフト装置の正面にいる作業者のみならず、真空リフト装置の周囲のどこからでも第2位置の報知器を視認することができる。すなわち、クレーンを操作する作業者が真空リフト装置の正面に移動して真空ゲージを確認する必要がなくなるので、作業の安全性を確保しつつ作業効率を向上させることができる。
【0014】
また、前記復帰手段は、前記第1室から前記第2室に向かう向きに、前記ピストンを付勢する弾性部材であることを特徴としてもよい。
【0015】
上記構成によれば、動力を用いずに、報知器を第2位置に復帰させることができる。その結果、新たな動力源を追加することなく、真空リフト装置の状態を適切に報知することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、作業者が知覚不能な第1位置から知覚可能な第2位置に、第1室の気圧の変化を利用して報知器が移動するので、報知装置を動作させるための動力源を追加することなく、真空リフト装置が吊り上げ可能になったことを作業者に認識させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態に係る真空リフト装置1の正面図である。
【
図2】
図1に示す真空リフト装置1の側面図である。
【
図3】
図1に示す真空リフト装置1の平面図である。
【
図4】
図1に示す真空リフト装置1のエア系統図である。
【
図5】インジケータ85が第2位置に移動した真空リフト装置1を示す図であって、(A)は正面図を、(B)は側面図を示す。
【
図6】変形例に係るインジケータ100を示す図であって、(A)は第1位置を、(B)は第2位置を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、実施形態に係る真空リフト装置1を図面に基づいて説明する。なお、以下に記載する本発明の実施形態は、本発明を具体化する際の一例を示すものであって、本発明の範囲を実施形態の記載の範囲に限定するものではない。従って、本発明は、実施形態に種々の変更を加えて実施することができる。
【0019】
図1は真空リフト装置1の正面図であり、
図2は真空リフト装置1の側面図であり、
図3は真空リフト装置1の平面図であり、
図4は真空リフト装置1のエア系統図である。真空リフト装置1は、筐体2と、吸着パッド3a、3b、3cと、真空発生装置4(真空源)と、バルブ5と、切替スイッチ6と、真空ゲージ7と、報知装置8と、配管9(空気流路)と、係止部10とを主に備える。
【0020】
筐体2は、バルブ5、真空ゲージ7、及び報知装置8を収容する。より詳細には、筐体2は、バルブ5、真空ゲージ7、及び報知装置8の上方において、前後方向及び左右方向に広がる上壁21と、バルブ5、真空ゲージ7、及び報知装置8の前方において、上下方向及び左右方向に広がる前壁22とで構成される。筐体2は、上壁21の前端と前壁22の上端とが接続されて、概ねL字型の外形を呈する。
【0021】
上壁21には、厚み方向(すなわち、上下方向)に貫通する貫通孔23が形成されている。貫通孔23は、後述するインジケータ85が通過可能な大きさである。また、貫通孔23は、上壁21より上方に位置する係止部10からずれた位置に設けられるのが望ましい。本実施形態に係る貫通孔23は、真空リフト装置1の前後方向及び左右方向から見て、係止部10と重ならない位置に設けられている。
【0022】
前壁22には、厚み方向(すなわち、前後方向)に貫通する貫通孔24、25が形成されている。貫通孔24は、真空ゲージ7の表示面を露出させる大きさである。すなわち、真空リフト装置1の前面側で作業する作業者は、貫通孔24を通じて真空ゲージ7の表示面を視認することができる。貫通孔25は、筐体2の内部に収容されたバルブ5と、前壁22より前方に位置する切替スイッチ6とを接続するために設けられている。
【0023】
このように、筐体2は、真空リフト装置1の全ての構成要素を収容している必要はなく、少なくとも報知装置8を収容していればよい。また、筐体2は、バルブ5、真空ゲージ7、及び報知装置8を全方位から覆っていなくてもよい。筐体2の具体的な構成は、
図1~
図3の例に限定されない。
【0024】
吸着パッド3a~3cは、真空リフト装置1の左右方向に並んで配置されている。より詳細には、真空リフト装置1は、左右方向の延びるビーム31と、所定の間隔を隔ててビーム31に支持され、各々が上下方向に延びるアーム32a、32b、32cと、上端がアーム32a、32b、32cに接続され、下端が吸着パッド3a~3cに接続されたチェーン33a、33b、33cとによって、吸着パッド3a~3cを支持している。
【0025】
吸着パッド3aは、複数の内部空間を備えるスポンジ状(多孔質)の部材である。吸着パッド3aの内部空間は、吸着パッド3aの下面に露出されていると共に、バルブ34a及びフィルタ35aを介してホース36aに接続されている。すなわち、吸着パッド3aの下面を搬送物の表面に密着させると、吸着パッド3aと搬送物との間に気密空間が形成される。そして、ホース36aを通じて気密空間から空気が吸引されると、吸着パッド3aが搬送物に吸着する。なお、吸着パッド3b、3cの構成は、吸着パッド3aと同様なので、説明は省略する。
【0026】
バルブ34aは、吸着パッド3aとホース36aとを連通させる連通状態と、吸着パッド3aとホース36aとの間を遮断する遮断状態とに切り替え可能に構成されている。バルブ34aの状態は、手動で切り替えられる。フィルタ35aは、吸着パッド3aからホース36aに向かって空気が流れるときのゴミ等を吸収する。ホース36aは、一端がバルブ34a及びフィルタ35aを介して吸着パッド3aに接続され、他端が配管9を介してバルブ5及び真空発生装置4に接続されている。
【0027】
一例として、3つの吸着パッド3a~3cの総面積に匹敵する大きな搬送物を吸着搬送する場合、バルブ34a~34c全てを連通状態にすればよい。一方、吸着パッド3bの面積に満たない小さな搬送物を吸着搬送する場合、バルブ34bを連通状態にし、バルブ34a、34cを遮断状態にすればよい。このように、バルブ34a~34cの状態を切り替えることによって、多様な大きさの搬送物に対応することができる。
【0028】
なお、吸着パッド3a~3cが吸着する搬送物は、耐火レンガなどの石材を想定している。しかしながら、吸着パッド3a~3cの構造及び搬送物の種類はこれに限定されない。吸着パッド3a~3cの構造の他の例として、底面が開口した円筒形状或いは円錐台形状であってもよい。また、搬送物の他の例として、ガラス、ブラスチック、段ボール、鉄板などが挙げられる。また、吸着パッド3a~3cの個数は3個に限定されず、1個でもよいし、複数でもよい。
【0029】
真空発生装置4は、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間を真空にする装置である。真空発生装置4は、接続口41を通じてコンプレッサ42から圧縮空気が供給される供給管43と、空気を排出する排気管44と、供給管43及び排気管44の間に位置するディフューザ(図示省略)とを主に備える。そして、配管9は、ディフューザより上流側において、供給管43に接続されている。また、接続口41とディフューザとの間には、圧縮空気の通過及び遮断を切り替え可能な手動のバルブ45が設けられている。さらに、排気管44には、騒音を吸収するサイレンサ(図示省略)を取り付けてもよい。
【0030】
コンプレッサ42から供給された圧縮空気がディフューザを通過する際に、ディフューザの上流部分(すなわち、配管9の接続部分)に負圧が生じる。これにより、配管9を通じて気密空間から空気が吸引されて、圧縮空気と共に排気管44から排出される。すなわち、真空発生装置4は、コンプレッサ42を駆動するために、動力を必要とする真空源の例である。上記構成の真空発生装置4は、所謂「エジェクタ」などと呼ばれる装置である。ただし、真空源の具体的な構成は真空発生装置4に限定されず、一般的な真空ポンプを採用してもよい。
【0031】
バルブ5は、配管9の途中に配置されている。換言すれば、バルブ5は、配管9を通じて接続された吸着パッド3a~3cと真空発生装置4との間に配置されている。また、真空発生装置4とバルブ5との間には、逆止弁51が設けられている。逆止弁51は、バルブ5から真空発生装置4に向かって流れる空気を通過させ、真空発生装置4からバルブ5に向かって流れる空気を遮断する。
【0032】
バルブ5は、切替スイッチ6を手動で操作することによって、吸着状態と脱離状態とに切り替え可能である。吸着状態は、吸着パッド3a~3cと真空発生装置4とを、配管9を通じて連通させる状態である。一方、脱離状態は、吸着パッド3a~3cと真空発生装置4とを遮断し、吸着パッド3a~3cの内部空間を大気に連通させる状態である。
【0033】
すなわち、吸着パッド3a~3cの下面を搬送物の表面に密着させ、バルブ5を吸着状態にして真空発生装置4を駆動すると、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が真空になって、吸着パッド3a~3cに搬送物が吸着する。この状態で係止部10にフック(図示省略)を係止して真空リフト装置1を吊り上げれば、吸着パッド3a~3cに吸着した搬送物を所望の位置に移動させることができる。また、搬送物を所望の位置に載置してバルブ5を脱離状態に切り替えると、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が大気圧になって、吸着パッド3a~3cが搬送物から脱離する。
【0034】
なお、本明細書中の「真空」とは、真空リフト装置1を吊り上げた際に、吸着パッド3a~3cから搬送物が脱落しない程度の真空率であればよい。すなわち、必ずしも高真空や超高真空である必要はなく、低真空でもよい。具体的な真空率は搬送物の重量によって異なるが、例えば、耐火レンガの場合にはゲージ圧で-0.06~-0.09MPa程度であればよい。
【0035】
なお、本実施形態に必須の構成ではないが、真空リフト装置1は、真空タンク90をさらに備えてもよい。真空タンク90は、真空発生装置4及びバルブ5の間において、逆止弁91を介して配管9に接続される。また、真空タンク90は、吸着パッド3a~3c及びバルブ5の間において、逆止弁92を介して配管9に接続される。真空タンク90は、真空発生装置4が気密空間から空気を吸い出す際に、その一部を吸い込んで貯留する。これにより、迅速且つ確実に気密空間を真空にすることができる。さらに、真空リフト装置1は、真空タンク90内の圧力を表示する真空ゲージ93を備えてもよい。
【0036】
真空ゲージ7は、吸着パッド3a~3cとバルブ5との間において、配管9に接続されている。すなわち、真空ゲージ7は、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間の圧力を検知し、検知した圧力を表示する。すなわち、真空リフト装置1の正面側で作業する作業者は、貫通孔24を通じて真空ゲージ7が示す圧力を視認し、吸着パッド3a~3cが搬送物を吊り上げられる程度に吸着したか否かを確認する。しかしながら、真空リフト装置1の背面側、右面側、左面側で作業する作業者は、真空ゲージ7が示す圧力を視認することができない。
【0037】
報知装置8は、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が真空になったことを、真空リフト装置1の周囲で作業をする作業者に報知する装置である。報知装置8は、上壁21の下方で且つ前壁22の後方に配置されている。また、報知装置8は、上壁21に形成された貫通孔23の真下に配置されている。報知装置8は、シリンダ81と、ピストン82と、ロッド83と、コイルバネ84(弾性部材)と、インジケータ85(報知器)とを主に備える。
【0038】
シリンダ81は、長手方向を鉛直方向に沿わせて配置される。シリンダ81には、配管9に接続された第1孔81aと、大気に連通された第2孔81bとが形成されている。第1孔81aは、シリンダ81の上端付近に形成されている。また、第1孔81aは、吸着パッド3a~3cとバルブ5との間において、配管9に接続されている。第2孔81bは、第1孔81aより下方で、シリンダ81の下端付近に形成されている。さらに、シリンダ81の上端面には、ロッド83が挿通される貫通孔81cが形成されている。
【0039】
ピストン82は、シリンダ81の内部に配置されて、上下方向に移動可能である。シリンダ81の内部は、ピストン82より上方の第1室86と、ピストン82より下方の第2室87とに区画される。ピストン82の外径はシリンダ81の内径と略一致する。そのため、ピストン82は、シリンダ81との間で気密状態を維持したまま、上下方向に移動する。換言すれば、第1室86と第2室87との間における空気の移動は、ピストン82によって遮断されている。
【0040】
第1室86は、第1孔81aに接続され且つ第2孔81bから遮断されている。すなわち、第1室86は、第1孔81aを通じて配管9に接続されている。また、第1孔81aは、シリンダ81内におけるピストン82の移動範囲の上端より上方に配置されている。第2室87は、第1孔81aから遮断され且つ第2孔81bに接続されている。すなわち、第2室87は、第2孔81bを通じて大気に連通されている。また、第2孔81bは、シリンダ81内におけるピストン82の移動範囲の下端より下方に配置されている。すなわち、第1室86内及び配管9内の気圧が一致し、第2室87内は大気圧に維持される。
【0041】
ロッド83は、ピストン82の上端に接続されて上方に延び、貫通孔81cを通じてシリンダ81の外部にまで延設されている。また、ロッド83と貫通孔81cとの間は、パッキン(図示省略)などで気密状態とされている。コイルバネ84は、シリンダ81の内部に配置されて、ピストン82を下方に付勢する。より詳細には、コイルバネ84は、シリンダ81の内部において、シリンダ81の上端面とピストン82の上面との間に配置されている。
【0042】
インジケータ85は、貫通孔81cを通じてシリンダ81の上端面から突出したロッド83の上端に取り付けられている。すなわち、インジケータ85は、シリンダ81内をピストン82が上下動するのに連動して、ロッド83と共に上下動する。また、インジケータ85は、筐体2と表面色が異なる。色の組み合わせは特に限定されないが、例えば、筐体2が黄色で、インジケータ85が緑色でもよい。
【0043】
図1、
図2、及び
図5を参照して、インジケータ85の動作を説明する。
図5(A)はインジケータ85が第2位置のときの真空リフト装置1の正面図であり、
図5(B)はインジケータ85が第2位置のときの真空リフト装置1の側面図である。
【0044】
バルブ5が脱離状態のとき、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間、配管9、及び第1室86は、大気圧となる。このとき、ピストン82は、コイルバネ84の付勢力によって、シリンダ81内を下方に位置している。そして、
図1及び
図2に示すように、シリンダ81からのロッド83の突出量は最小になり、インジケータ85の上端は上壁21より下方に位置(第1位置)する。すなわち、第1位置のインジケータ85は、筐体2に埋没して、真空リフト装置1の周囲で作業する作業者から見えない(知覚不能)。
【0045】
次に、吸着パッド3a~3cの下面を搬送物の表面に密着させ、切替スイッチ6でバルブ5を吸着状態にし、真空発生装置4を駆動すると、密着した吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間、配管9、及び第1室86内が真空になる。一方、第2室87内の気圧は、大気圧のままである。
【0046】
そのため、ピストン82は、第1室86及び第2室87の気圧差によって、コイルバネ84の付勢力に抗して上方に移動する。このとき、
図5(A)及び
図5(B)に示すように、シリンダ81からのロッド83の突出量が増加し、インジケータ85が貫通孔23を通じて上壁21より上方に突出する(第2位置)。すなわち、第2位置のインジケータ85は、筐体2の表面から突出して、真空リフト装置1の周囲で作業する作業者から見ることができる(知覚可能)。
【0047】
さらに、切替スイッチ6でバルブ5を脱離状態に切り替えると、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間、配管9、及び第1室86内に空気が流入して、大気圧に戻る。そのため、ピストン82は、コイルバネ84の付勢力によって下方に移動する。その結果、インジケータ85は、貫通孔23を通じて再び筐体2に埋没(第1位置に復帰)する。すなわち、真空リフト装置1の周囲で作業する作業者から再びインジケータ85が見えなくなる。
【0048】
本実施形態によれば、例えば、以下のような作用効果を奏する。
【0049】
上記の実施形態によれば、第1室86及び第2室87の気圧差を利用して、インジケータ85が第1位置から第2位置に移動する。すなわち、報知装置8を動作させるための動力源を追加することなく、真空リフト装置1が吊り上げ可能になったことを作業者に認識させることができる。
【0050】
また、第1室86及び第2室87が同圧(大気圧)になると、コイルバネ84によってインジケータ85が自動的に第1位置に復帰する。すなわち、新たな動力源を追加することなく、真空リフト装置1の状態を適切に報知することができる。ただし、インジケータ85を第1位置に復帰させる復帰手段の具体例は、コイルバネ84に限定されない。他の例として、インジケータ85は、第1室86及び第2室87が同圧(大気圧)になったときに、自重で第1位置に移動してもよい。すなわち、第1位置に復帰可能な程度の重さを有するインジケータ85自体を、復帰手段としてもよい。
【0051】
また、上記の実施形態のように、報知の方法をインジケータ85の出没とすることによって、真空リフト装置1が吊り上げ可能か否かが一目瞭然となる。すなわち、真空ゲージ7の目盛りを確認するなどの方法と比較して、真空リフト装置1の状態を簡単且つ確実に作業者に認識させることができる。
【0052】
また、上記の実施形態のように、インジケータ85を上壁21から上方に突出させることにより、真空リフト装置1の正面にいる作業者のみならず、真空リフト装置1の周囲のどこからでも第2位置のインジケータ85を視認することができる。特に、前後方向及び左右方向において、係止部10からずれた位置において、インジケータ85を突出させることにより、真空リフト装置1の全方位からの視認性がさらに高まる。これにより、クレーンを操作する作業者が真空リフト装置1の正面に移動して真空ゲージ7を確認する必要がなくなるので、作業の安全性を確保しつつ作業効率を向上させることができる。
【0053】
ただし、インジケータ85の出没方向は上下方向(鉛直方向)に限定されない。他の例として、インジケータ85は、真空リフト装置1の側面から水平方向に出没してもよい。この場合において、インジケータ85が出没する面は、真空ゲージ7の表示面と異なる面であるのが望ましい。また、報知装置8は、複数のインジケータ85を備えてもよい。そして、各インジケータ85は、互いに向きの異なる面から突出してもよい。
【0054】
また、インジケータ85による報知の方法は、筐体2からの出没に限定されない。
図6を参照して、変形例に係るインジケータ100を説明する。
図6(A)は第1位置のインジケータ100を示し、
図6(B)は第2位置のインジケータ100を示す。なお、上記の実施形態との共通点の詳しい説明は省略し、相違点を中心に説明するものとする。
【0055】
まず、前壁22には、厚み方向(すなわち、前後方向)に貫通する貫通孔26が形成されている。また、変形例に係るインジケータ100は、インジケータ100の移動方向(すなわち、上下方向)に隣接する第1部分101及び第2部分102を含む。その他の構成は上記の実施形態と共通するので、再度の説明は省略する。
【0056】
第1部分101及び第2部分102それぞれの形状及び面積は、貫通孔26の形状及び開口面積と概ね一致する。また、第1部分101及び第2部分102は、表面色が異なる。色の組み合わせは特に限定されないが、例えば、第1部分101が赤色で、第2部分102が緑色でもよい。
【0057】
吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が大気圧のとき、
図6(A)に示すように、第1部分101が貫通孔26に対面する位置(第1位置)にインジケータ100が位置する。一方、このとき第2部分102は前壁22に隠れて、作業者から見えない。すなわち、作業者は、貫通孔26を通して赤色の第1部分101を視認したことに応じて、吸着パッド3a~3cに搬送物が吸着されていないことを認識する。
【0058】
一方、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が真空になると、インジケータ100が上方に移動する。そして、
図6(B)に示すように、第2部分102が貫通孔26に対面する位置(第2位置)にインジケータ100が移動する。一方、このとき第1部分101は前壁22に隠れて、作業者から見えない。すなわち、作業者は、貫通孔26を通して緑色の第2部分102を視認したことに応じて、吸着パッド3a~3cに搬送物が吸着されたことを認識する。
【0059】
また、上記の実施形態及び変形例では、第2位置のインジケータ85、100を視覚を通じて作業者に知覚させる例を説明したが、知覚の方法はこれに限定されず、例えば、聴覚を通じて知覚させてもよい。より詳細には、報知装置は、ベル、太鼓、弦などに代表される発音体をさらに備えてもよい。そして、発音体は、第1位置の報知器から離間し、第2位置の報知器に接する位置に配置される。
【0060】
すなわち、本発明に係る報知装置は、第1位置から第2位置に移動した報知器が発音体を振動させて、吸着パッド3a~3cと搬送物との間の気密空間が真空になったことを報知する音を発生させてもよい。これにより、作業者の位置に関係なく、吸着パッド3a~3cに搬送物が吸着したことを認識させることができる。
【0061】
さらに、上記の実施形態及び変形例では、コンプレッサ42を駆動する動力源を必要とする真空リフト装置1の例を説明した。すなわち、真空リフト装置1は、コンプレッサ42を駆動する動力源の他に、動力源を有しない。ただし、真空源の具体的な構成は真空発生装置4に限定されない。真空源の他の例として、配管9に接続されたシリンダ内のピストンをクレーンで移動させることによって、気密空間から空気を吸引するものでもよい。すなわち、本発明は、動力源を全く有していない真空リフト装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0062】
1…真空リフト装置、2…筐体、3a,3b,3c…吸着パッド、4…真空発生装置(真空源)、5…バルブ、6…切替スイッチ、7…真空ゲージ、8…報知装置、9…配管、10…係止部、21…上壁、22…前壁、42…コンプレッサ、81…シリンダ、81a…第1孔、81b…第2孔、82…ピストン、83…ロッド、84…コイルバネ(弾性部材)、85,100…インジケータ(報知器)、86…第1室、87…第2室、101…第1部分、102…第2部分