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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】グラフ生成装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 1/02 20200101AFI20221216BHJP
   G01C 21/20 20060101ALI20221216BHJP
   G09B 29/00 20060101ALN20221216BHJP
【FI】
G05D1/02 H
G01C21/20
G09B29/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018130522
(22)【出願日】2018-07-10
(65)【公開番号】P2020009225
(43)【公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000166247
【氏名又は名称】古野電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【弁理士】
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】小川 健太
【審査官】吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-318938(JP,A)
【文献】特開2014-26516(JP,A)
【文献】特開2016-218880(JP,A)
【文献】特開2016-212627(JP,A)
【文献】SHAHED SHOJAEIPOURL 他,Motion Planning for Mobile Robot Navigation using Combine Quad-Tree Decomposition and Voronoi Diagrams,2010 The 2nd International Conference on Computer and Automation Engineering (ICCAE),米国,IEEE,2010年02月28日,90-93,https://ieeexplore.ieee.org/document/5451994
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 21/00-25/00
G05D 1/02
G09B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
障害物の情報を含む障害物データを取得する障害物データ取得部と、
前記障害物を含む領域を四分木分割法によりセルに再帰的に分割し、前記障害物を含まない前記セルである非包含セルに第1頂点を設定し、互いに隣接する前記非包含セルの前記第1頂点同士を第1辺で接続することで第1グラフを生成する第1グラフ生成部と、
ボロノイ分割法又はポテンシャル法により複数の障害物の間の領域を分割する境界の頂点として第2頂点を設定し、前記第2頂点を第2辺で接続することで第2グラフを生成する第2グラフ生成部と、
前記第1グラフ及び前記第2グラフを合成して合成グラフを生成するグラフ合成部と、
前記第2グラフ生成部が生成する第2グラフを、前記グラフ合成部で前記第1グラフと合成される前に調整する第2グラフ調整部と、
を備え、
前記グラフ合成部は、
前記第2グラフにおいて前記第2辺が繋ぐ2つの前記第2頂点のうち一方である注目第2頂点が、前記障害物を一部だけに含む前記セルである一部包含セルに位置し、かつ、当該第2辺が前記一部包含セルだけでなく前記非包含セルも通る場合に、
当該第2辺を変更して、前記注目第2頂点と、当該注目第2頂点を起点としたときに前記第2辺が最初に通る前記非包含セルの前記第1頂点と、を接続させることを特徴とするグラフ生成装置。
【請求項2】
請求項1に記載のグラフ生成装置であって、
前記第1グラフ生成部は、所定の上限回数まで分割を反復した場合に、分割を打ち切ることを特徴とするグラフ生成装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のグラフ生成装置であって、
前記第2グラフ生成部は、ボロノイ分割法により、前記領域のうち前記障害物に含まれない任意の点が、前記障害物を囲む領域である囲み領域の何れに属するかを求め、得られた前記囲み領域の境界に沿って複数の第2頂点を設定し、当該境界で繋がれる前記第2頂点同士を第2辺で接続することで第2グラフを生成することを特徴とするグラフ生成装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のグラフ生成装置であって、
前記第2グラフ調整部は、前記第2辺が1つ又は複数の前記非包含セルだけを通る場合に当該第2辺を削除することを特徴とするグラフ生成装置。
【請求項5】
請求項1から4までの何れか一項に記載のグラフ生成装置であって、
前記第2グラフ調整部は、前記障害物を一部だけに含む前記セルを一部包含セルと呼ぶときに、前記第2辺が1つ又は複数の前記一部包含セルだけを通る場合に、当該第2辺については削除しないことを特徴とするグラフ生成装置。
【請求項6】
障害物の情報を含む障害物データを取得し、
前記障害物を含む領域を四分木分割法によりセルに再帰的に分割し、前記障害物を含まない前記セルである非包含セルに第1頂点を設定し、互いに隣接する前記非包含セルの前記第1頂点同士を第1辺で接続することで第1グラフを生成し、
ボロノイ分割法又はポテンシャル法により複数の障害物の間の領域を分割する境界の頂点として第2頂点を設定し、前記第2頂点を第2辺で接続することで第2グラフを生成し、
前記第1グラフ及び前記第2グラフを合成して合成グラフを生成し、
生成された第2グラフを、前記第1グラフと合成される前に調整し、
前記合成グラフを生成するときに、
前記第2グラフにおいて前記第2辺が繋ぐ2つの前記第2頂点のうち一方である注目第2頂点が、前記障害物を一部だけに含む前記セルである一部包含セルに位置し、かつ、当該第2辺が前記一部包含セルだけでなく前記非包含セルも通る場合に、
当該第2辺を変更して、前記注目第2頂点と、当該注目第2頂点を起点としたときに前記第2辺が最初に通る前記非包含セルの前記第1頂点と、を接続させることを特徴とするグラフ生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グラフ生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、地図データ等を利用して、経路を探索する方法が知られている。特許文献1は、この種の経路探索方法を開示する。
【0003】
特許文献1は、環境を長方形領域に4分割し、分割した長方形領域内に障害物が存在する領域に対しては更にその長方形領域を4分割する処理を再帰的に行い、環境を4分木構造で表現することによって走行可能な経路を探索する方法を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平7-129238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1の構成は、長方形領域を4分割する処理が少ない場合、障害物間等の狭い空間の経路を求めることができない。そして、当該空間の経路を求めるために、長方形領域を4分割する処理回数を増加させた場合、4分木構造のデータ量が爆発的に増加するので、計算負担が増大する。従って、上記特許文献1の構成は、軽い計算負担で適切な経路を求めることができない場合があるという点で改善の余地があった。
【0006】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、経路探索のためのグラフを適切に生成することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のグラフ生成装置が提供される。即ち、このグラフ生成装置は、障害物データ取得部と、第1グラフ生成部と、第2グラフ生成部と、グラフ合成部と、第2グラフ調整部と、を備える。前記障害物データ取得部は、障害物の情報を含む障害物データを取得する。前記第1グラフ生成部は、前記障害物を含む領域を四分木分割法によりセルに再帰的に分割し、前記障害物を含まない前記セルである非包含セルに第1頂点を設定し、互いに隣接する前記非包含セルの前記第1頂点同士を第1辺で接続することで第1グラフを生成する。前記第2グラフ生成部は、ボロノイ分割法又はポテンシャル法により複数の障害物の間の領域を分割する境界の頂点として第2頂点を設定し、前記第2頂点を第2辺で接続することで第2グラフを生成する。前記グラフ合成部は、前記第1グラフ及び前記第2グラフを合成して合成グラフを生成する。前記第2グラフ調整部は、前記第2グラフ生成部が生成する第2グラフを、前記グラフ合成部で前記第1グラフと合成される前に調整する。前記グラフ合成部は、前記第2グラフにおいて前記第2辺が繋ぐ2つの前記第2頂点のうち一方である注目第2頂点が、前記障害物を一部だけに含む前記セルである一部包含セルに位置し、かつ、当該第2辺が前記一部包含セルだけでなく前記非包含セルも通る場合に、当該第2辺を変更して、前記注目第2頂点と、当該注目第2頂点を起点としたときに前記第2辺が最初に通る前記非包含セルの前記第1頂点と、を接続させる。
【0009】
これにより、四分木分割法の利点と、他の方法の利点と、の両方を活かして、経路探索のためのグラフを生成することができる。2つのグラフが違和感なく自然に連続している合成グラフを生成することができる。第2グラフと第1グラフとを自然に繋いで合成することができる。
【0010】
前記のグラフ生成装置においては、前記第1グラフ生成部は、所定の上限回数まで分割を反復した場合に、分割を打ち切ることが好ましい。
【0011】
これにより、四分木分割法による空間の分割回数を所定回数以内に抑えることができるので、経路計算時における計算負担の軽減を実現できる。
【0012】
前記のグラフ生成装置においては、前記第2グラフ生成部は、ボロノイ分割法により、前記領域のうち前記障害物に含まれない任意の点が、前記障害物を囲む領域である囲み領域の何れに属するかを求め、得られた前記囲み領域の境界に沿って複数の第2頂点を設定し、当該境界で繋がれる前記第2頂点同士を第2辺で接続することで第2グラフを生成することが好ましい。
【0013】
これにより、遠回りになるグラフが生成されにくい四分木分割法の利点と、障害物同士の間隔が狭い箇所でも負担の少ない処理でグラフを生成できるボロノイ分割法の利点と、の両方を活かして、グラフを生成することができる。
【0016】
前記のグラフ生成装置においては、前記第2グラフ調整部は、前記第2辺が1つ又は複数の前記非包含セルだけを通る場合に当該第2辺を削除することが好ましい。
【0017】
これにより、第1グラフと第2グラフが実質的に重複している部分について、四分木分割法で生成した第1グラフを優先する形で2つのグラフを合成することができる。
【0018】
前記のグラフ生成装置においては、前記第2グラフ調整部は、前記障害物を一部だけに含む前記セルを一部包含セルと呼ぶときに、前記第2辺が1つ又は複数の前記一部包含セルだけを通る場合に、当該第2辺については削除しないことが好ましい。
【0019】
これにより、第1グラフにおいて第1辺を配置できなかった一部包含セルを通る第2辺を活かして、合成グラフを生成することができる。
【0022】
本発明の第2の観点によれば、以下のグラフ生成方法が提供される。即ち、障害物の情報を含む障害物データを取得する。前記障害物を含む領域を四分木分割法によりセルに再帰的に分割し、前記障害物を含まない前記セルである非包含セルに第1頂点を設定し、互いに隣接する前記非包含セルの前記第1頂点同士を第1辺で接続することで第1グラフを生成する。ボロノイ分割法又はポテンシャル法により複数の障害物の間の領域を分割する境界の頂点として第2頂点を設定し、前記第2頂点を第2辺で接続することで第2グラフを生成する。前記第1グラフ及び前記第2グラフを合成して合成グラフを生成する。生成された第2グラフを、前記第1グラフと合成される前に調整する。前記合成グラフを生成するときに、前記第2グラフにおいて前記第2辺が繋ぐ2つの前記第2頂点のうち一方である注目第2頂点が、前記障害物を一部だけに含む前記セルである一部包含セルに位置し、かつ、当該第2辺が前記一部包含セルだけでなく前記非包含セルも通る場合に、当該第2辺を変更して、前記注目第2頂点と、当該注目第2頂点を起点としたときに前記第2辺が最初に通る前記非包含セルの前記第1頂点と、を接続させる。
【0023】
これにより、四分木分割法の利点と、他の方法の利点と、の両方を活かして、経路グラフを生成することができる。2つのグラフが違和感なく自然に連続している合成グラフを生成することができる。第2グラフと第1グラフとを自然に繋いで合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の一実施形態に係るグラフ生成装置の電気的構成を示すブロック図。
図2】グラフを生成する領域に存在する障害物を示す図。
図3】四分木グラフが生成された様子を示す図。
図4】ボロノイグラフが生成された様子を示す図。
図5】ボロノイグラフの調整処理を説明する図。
図6】四分木グラフとボロノイグラフの合成処理を説明する図。
図7】四分木グラフとボロノイグラフの合成処理の結果として生成されたグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るグラフ生成装置1の電気的構成を示すブロック図である。
【0026】
図1に示すグラフ生成装置1は、障害物を避ける1つ又は複数通りの経路を表現するグラフを生成することができる。本明細書でいうグラフとは、頂点の集合と、2つの頂点を接続する辺の集合と、の組み合わせを意味する。
【0027】
グラフ生成装置1は、地図データ取得部(障害物データ取得部)11と、四分木グラフ生成部(第1グラフ生成部)21と、ボロノイグラフ生成部(第2グラフ生成部)31と、ボロノイグラフ調整部(第2グラフ調整部)41と、グラフ合成部51と、経路探索部61と、を備える。
【0028】
具体的には、グラフ生成装置1は公知のコンピュータとして構成されており、CPU、ROM、RAM、HDD等を備える。HDDには、本発明のグラフ生成方法を実現するためのプログラムが記憶されている。上記のハードウェアとソフトウェアの協働により、グラフ生成装置1を、地図データ取得部11、四分木グラフ生成部21、ボロノイグラフ生成部31、ボロノイグラフ調整部41、グラフ合成部51、及び経路探索部61として動作させることができる。
【0029】
地図データ取得部11は、グラフの生成に利用する地図データ(障害物データ)を取得する。地図データ取得部11は、地図データを、例えば、外部の記憶装置(例えば、地図データベースサーバ)から通信により取得することができる。
【0030】
地図データは、障害物の位置及び形状に関する情報を含んでいる。この地図データは、図2に示すように移動体が通行不能な障害物101,102が領域100内にある場合に、例えば、障害物101,102の輪郭を表現した折れ線の各頂点の位置を記述したベクトルデータとすることができる。図1の地図データ取得部11は、取得した地図データを、四分木グラフ生成部21及びボロノイグラフ生成部31に出力する。
【0031】
四分木グラフ生成部21は、公知の四分木分割法(階層的近似セル分割法)を利用して、グラフを地図データに基づいて生成する。
【0032】
詳細に説明すると、四分木グラフ生成部21は、地図データにおいて経路を生成したい領域100を縦横に分割することによって、それぞれのサイズが均等である4つのセルを生成する。生成したセル内の一部にのみ障害物101,102が含まれる場合、四分木グラフ生成部21は、当該セルの領域を再度縦横に分割して、それぞれのサイズが均等である4つのセルを再度生成する。四分木グラフ生成部21は、上記の分割処理を、所定の分割回数(分割深さ)に到達するまで再帰的に繰り返す。この結果、図3に示すように領域100が鎖線で示すように縦横に分割され、複数の矩形のセルが生成される。セルには、障害物101,102が全部含まれる場合と、一部にのみ含まれる場合と、全く含まれない場合と、がある。以下の説明では、障害物101,102が一部にのみ含まれるセルを「一部包含セル」と呼び、障害物101,102が全く含まれないセルを「非包含セル」と呼ぶことがある。
【0033】
セルの分割が完了すると、四分木グラフ生成部21は、非包含セルの中心に頂点(第1頂点)を設定して、互いに隣接する非包含セルの頂点同士を直線状の辺(第1辺)で結ぶ処理を行う。このようにして、四分木グラフ生成部21は、経路計算に用いることができるグラフを生成する。以下、四分木分割法によるグラフを単に「四分木グラフ」と呼ぶことがある。四分木グラフは、第1グラフに相当する。四分木グラフの例が図3に示されている。このグラフは、第1頂点及び第1辺を含んで構成される。図3において、第1頂点は太線の丸印で示され、第1辺は太線で示されている。
【0034】
四分木グラフ生成部21が行う分割回数(分割の深さ)には、上限が設定されている。従って、障害物101と障害物102との間が狭い場合、その間の部分においては、十分に細かく分割されて非包含セルが生成される前に分割が打ち切られ、結果として第1辺が生成されない場合がある。
【0035】
図3には、分割の上限回数が3である場合が示されている。図3では、障害物101と障害物102との間に非包含セルがないため、図3の上下のグラフを繋ぐ第1辺が図3の中央に存在せず、グラフが上下に分離した状態となっている。
【0036】
分割は図3の状態で打ち切られるが、仮に図3の状態からセルをもう1回分割すれば、上側と下側とを繋ぐように非包含セルが並んで生成され、障害物101と障害物102との間の狭いスペースに第1辺を生成することができる。ただし、この場合、グラフの頂点の数は大幅に増大する。
【0037】
図1の四分木グラフ生成部21は、生成したグラフをボロノイグラフ調整部41及びグラフ合成部51に出力する。
【0038】
ボロノイグラフ生成部31は、公知のボロノイ分割法を利用して、グラフを地図データに基づいて生成する。
【0039】
詳細に説明すると、一般的なボロノイ分割法は、ある領域内において複数の点(母点)が与えられ、その領域内の任意の点が最も近い母点に属するとしたときに、どの母点に属するかが分かれる境界を求めて平面を分割するものである。本実施形態では、障害物101,102は点でなく広がりを持った領域である。従って、ボロノイグラフ生成部31は、障害物101,102の輪郭を例えば多角形として表し、領域100内で障害物101,102に含まれない任意の点が、障害物101,102をそれぞれ囲む領域(囲み領域)の何れに属するかを求めて、得られた囲み領域の境界を求める。
【0040】
この境界は、例えば、一方の障害物101の折れ線と、他方の障害物102において対応する折れ線と、に挟まれた領域を2等分する直線を求めることで、図4のように折れ線の形で取得することができる。
【0041】
ボロノイグラフ生成部31は、境界の折れ線の頂点と同じ位置に第2頂点を配置し、折れ線(境界)で繋がれる関係にある第2頂点同士を、第2辺によって接続する。このようにして、ボロノイグラフ生成部31は、経路計算に用いることができるグラフ(第2グラフ)を生成する。以下、ボロノイ分割法によるグラフを単に「ボロノイグラフ」と呼ぶことがある。ボロノイグラフは、第2グラフに相当する。ボロノイグラフの例が図4に示されている。このグラフは、第2頂点及び第2辺を含んで構成される。図4において、第2頂点は二重丸印で示され、第2辺は二重線で示されている。
【0042】
ボロノイグラフ生成部31は、ボロノイ分割法を利用するので、スペースが狭い場所のグラフを容易に生成することができる。図4のボロノイグラフの例では、障害物101,102の間が狭く、図3の四分木グラフでは分割の打切りによりグラフが途切れている部分においても、障害物101,102の間を通るグラフを生成できていることがわかる。
【0043】
ただし、ボロノイ分割法では、第2頂点及び第2辺は、障害物の間が広く離れているときも当該障害物の間を等しく分割するように配置される。従って、例えば図4の破線で囲った部分で示すように、第2頂点及び第2辺と障害物101,102との距離が必要以上に大きくなり、経路が遠回りとなってしまう場合がある。
【0044】
図1のボロノイグラフ生成部31は、生成したグラフをボロノイグラフ調整部41に出力する。
【0045】
ボロノイグラフ調整部41は、四分木グラフ生成部21が生成したグラフを利用して、ボロノイグラフ生成部31が生成したボロノイグラフを調整する処理を行う。
【0046】
ボロノイグラフ調整部41が行う処理には、ボロノイグラフの第2辺の削除処理が含まれる。この辺削除処理は、複数の第2辺のうち1つに着目したときに、当該第2辺が1つ又は複数の非包含セルだけを通る場合に、当該第2辺を削除する処理を行うものである。なお、非包含セルは、障害物101,102が全く含まれないセルであり、図5では非包含セルに太線丸印(四分木グラフの第1頂点)が配置されている。この処理は、ボロノイグラフを構成する第2辺のそれぞれについて行われる。
【0047】
例えば、図5において符号S2Aで示す第2辺は2つのセルを通るが、当該2つのセルは何れも非包含セルであるので、この第2辺S2Aは削除の対象となる。この処理で削除される第2辺には、図5においてバツ印が付けられている。ボロノイグラフ調整部41は、第2辺が削除されることにより他の何れの第2頂点とも繋がらなくなった第2頂点も削除する。図5においては、削除される第2頂点についてもバツ印が付けられている。
【0048】
この結果、四分木グラフとボロノイグラフとが実質的に重複している部分について、後述の合成グラフにおいては、四分木グラフが現れることになる。このように四分木グラフを優先させることで、経路が遠回りになる傾向があるボロノイグラフの不利な点を回避することができる。
【0049】
例えば図5の符号S2Bで示すように、第2辺が1つ又は複数の一部包含セルだけを通る場合がある。この第2辺S2Bは、上述の条件を満たさないので、ボロノイグラフ調整部41によって削除されない。ボロノイグラフ調整部41が出力するグラフには、第2辺S2Bがそのまま残される。これにより、障害物101,102の間の狭いスペースでもグラフを生成できるボロノイ分割法の利点を良好に活かすことができる。
【0050】
これにより、図1のボロノイグラフ調整部41は、四分木グラフ生成部21が生成した四分木グラフと実質的に重複しないように第2辺及び第2頂点を削除したボロノイグラフを生成することができる。ボロノイグラフ調整部41は、調整後のボロノイグラフをグラフ合成部51に出力する。
【0051】
グラフ合成部51は、四分木グラフ生成部21が出力した四分木グラフと、ボロノイグラフ調整部41が出力したボロノイグラフと、を組み合わせて、1つの合成グラフを生成する処理を行う。
【0052】
具体的には、グラフ合成部51は、ボロノイグラフの第2辺の繋ぎ替え処理を行う。この繋ぎ替え処理は、ある第2辺が互いに接続する2つの第2頂点のうち1つに注目したときに、その注目した頂点(注目第2頂点)が一部包含セルに位置し、かつ、当該第2辺が当該一部包含セルだけでなく非包含セルも通る場合に、当該第2辺を、着目第2頂点と、非包含セルの第1頂点と、を接続するように変更するものである。この処理は、図6に示される全ての第2辺について行われる。
【0053】
例えば、図6において符号S2Cで示す第2辺を考える。第2辺S2Cが互いに接続する2つの第2頂点のうち、上側の第2頂点を注目第2頂点とすると、この注目第2頂点は一部包含セルに位置している。また、この第2辺S2Cは、一部包含セルだけでなく、その下側にある非包含セルも通っている。従って、グラフ合成部51は、第2辺S2Cを、上側の注目第2頂点と、非包含セル(厳密に言えば、注目第2頂点を起点として、第2辺S2Cが最初に通る非包含セル)の第1頂点と、を接続するように繋ぎ替える。図5において、第2辺の接続の変更が、黒塗りの矢印で示されている。グラフ合成部51は、この繋ぎ替えにより他の何れの頂点とも繋がらなくなった第2頂点を削除する。図6においては、削除される第2頂点についてバツ印が付けられている。
【0054】
ボロノイグラフ生成部31が生成したボロノイグラフは、図5で説明したとおり、ボロノイグラフ調整部41によって予め調整されている。この事前調整処理と、図6で説明した繋ぎ替え処理とにより、グラフ合成部51は、図7に示すように、四分木グラフとボロノイグラフとを違和感なく自然に接続したグラフを生成することができる。
【0055】
四分木グラフを構成するそれぞれの第1辺、及び、ボロノイグラフを構成するそれぞれの第2辺には、重みに関する情報を含めることができる(重み付きグラフ)。重みの例としては、頂点と頂点の間の移動距離、所要時間等を挙げることができるが、これらに限定されない。この場合、グラフ合成部51により四分木グラフとボロノイグラフを繋ぎ合わせたグラフも重み付きグラフとなる。グラフ合成部51は、生成したグラフを経路探索部61に出力する。
【0056】
経路探索部61は、公知のグラフ探索アルゴリズムに基づいて、グラフ合成部51が生成したグラフから経路を探索する。経路探索部61は、例えば、得られたグラフに対して出発地と目的地を与えることにより、重み付きグラフにおける最短経路問題アルゴリズムを利用して、出発地から目的地までの最短経路を得ることができる。得られた経路は、例えば、グラフ生成装置1が備える表示装置、又は、グラフ生成装置1に電気的に接続される外部の表示装置に表示することができる。
【0057】
以上に説明したように、本実施形態のグラフ生成装置1は、地図データ取得部11と、四分木グラフ生成部21と、ボロノイグラフ生成部31と、グラフ合成部51と、を備える。地図データ取得部11は、障害物101,102の情報を含む障害物データを取得する。四分木グラフ生成部21は、障害物101,102を含む領域100を四分木分割法によりセルに再帰的に分割し、障害物101,102を含まないセルである非包含セルに第1頂点を設定し、互いに隣接する非包含セルの前記第1頂点同士を第1辺で接続することで四分木グラフを生成する。ボロノイグラフ生成部31は、四分木分割法とは異なる方法(ボロノイ分割法)により第2頂点を設定し、前記第2頂点同士を第2辺で接続することでボロノイグラフを生成する。グラフ合成部51は、四分木グラフ及びボロノイグラフを合成して合成グラフを生成する。
【0058】
これにより、四分木分割法の利点と、他の方法の利点と、の両方を活かして、経路グラフを生成することができる。
【0059】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0060】
グラフ生成装置1は、ボロノイグラフ生成部31に代えて、公知のポテンシャル法の考え方を利用してグラフを生成するポテンシャルグラフ生成部を備えてもよい。ポテンシャルグラフ生成部(第2グラフ生成部)は、例えば、障害物101,102に近い程ポテンシャルが高くなるようなポテンシャル場を生成し、ポテンシャルが極小値となる点を第2頂点として設定し、第2頂点同士を第2辺で適宜に繋いでグラフとすることが考えられる。
【0061】
四分木分割法における分割回数の上限は、例えば地図データにおける障害物101,102の配置、移動体の物理的な大きさ等を考慮して、適宜に設定することができる。
【0062】
ボロノイ分割法は、障害物101,102の間を等しく分割する境界でなく、例えば1:2というように偏りを有する境界で分割するように変更することもできる。このような境界は、公知の重み付け処理を伴う計算により得ることができる。
【0063】
ボロノイ分割法により取得される境界は、折れ線に限定されず、例えば滑らかな曲線であっても良い。この場合、ボロノイグラフ生成部31は、曲線に沿って第2頂点を複数設定し、当該曲線で繋がれる関係の第2頂点同士を第2辺で接続することで、ボロノイグラフを生成することができる。
【0064】
経路探索部61は、グラフ生成装置1とは異なるコンピュータ(経路探索コンピュータ)に備えられても良い。この場合、グラフ生成装置1は、グラフ合成部51で生成したグラフを、適宜の記憶装置(例えば、データベースサーバ又はリムーバブル型メモリ)に保存する。経路探索コンピュータは、当該記憶装置からグラフを取得し、経路探索を行う。
【0065】
グラフ生成装置1は、例えば、船舶等の移動体の通行経路を求めるためのグラフを生成するために用いることができる。
【符号の説明】
【0066】
1 グラフ生成装置
11 地図データ取得部(障害物データ取得部)
21 四分木グラフ生成部(第1グラフ生成部)
31 ボロノイグラフ生成部(第2グラフ生成部)
41 ボロノイグラフ調整部(第2グラフ調整部)
51 グラフ合成部
100 領域
101 障害物
102 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7