(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20221216BHJP
C09D 11/18 20060101ALI20221216BHJP
B43K 7/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C09D11/16
C09D11/18
B43K7/00
(21)【出願番号】P 2018131340
(22)【出願日】2018-07-11
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】303022891
【氏名又は名称】株式会社パイロットコーポレーション
(72)【発明者】
【氏名】工藤 秀憲
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-196735(JP,A)
【文献】特開2017-218503(JP,A)
【文献】特開2015-212020(JP,A)
【文献】特開2009-173750(JP,A)
【文献】特表2009-543891(JP,A)
【文献】特開平05-331403(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/16
C09D 11/18
B43K 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色剤、有機溶剤、アルケニルコハク酸エステルを含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
【請求項2】
前記アルケニルコハク酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5質量%を含んでなることを特徴とする請求項
1に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項3】
前記筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸を含んでなることを特徴とする請求項1または
2に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項4】
20℃、剪断速度5sec
-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする請求項1ないし
3のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
【請求項6】
インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に請求項1ないし
4のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
筆記具は筆記時に筆記先端部と被筆記面との間(ボールペンの場合は、ボールとチップ本体との間も含む)で筆記抵抗によって、ボールペンやマーキングペン等の書き味に影響を及ぼしやすく、特に、ボールペンは他の種類の筆記具と異なり、先端にステンレス鋼などからなる金属チップと、該金属チップのボール受け座に抱持される超鋼などの金属からなる転写ボールと、からなるボールペンチップをインキ収容筒に装着した構成を有するが、筆記時にボールの回転によって、ボール座に摩耗が発生し、筆跡に線飛び、カスレなどの発生や、書き味が劣るという欠点があった。さらに、チップ先端部を大気中に放置すると、インキ中の溶媒などが蒸発して、着色剤や樹脂などが乾燥固化したときに、書き出し時において筆跡カスレが発生してしまう欠点があった。
【0003】
こうした問題を解決するため、筆記時に筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗を抑制するために、潤滑性向上を目的として、様々な潤滑剤を用いた筆記具用油性インキ組成物が多数提案されている。
【0004】
このような添加剤を用いた油性ボールペン用インキ組成物として、アルキルβ-D-グルコシドを用いたものとしては、特開平5-331403号公報「油性ボールペンインキ」、平均分子量が200~4000000であるポリエチレングリコールを用いたものとしては、特開平7-196971号公報「油性ボールペン用インキ組成物」、N-アシルアミノ酸、N-アシルメチルタウリン酸、N-アシルメチルアラニンを用いたものとしては、特開2007-176995号公報「油性ボールペン用インキ」、デカマカデミアナッツ油脂肪酸デカグリセリルと、アルキル基の炭素数が16以上であり常温で固体のポリオキシエチレンアルキルエーテルとを少なくとも含有するものとしては、特開2008-88264号公報「ボールペン用油性インキ組成物」等に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】「特開平5-331403号公報」
【文献】「特開平7-196971号公報」
【文献】「特開2007-176995号公報」
【文献】「特開2008-88264号公報」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1~4のような各種添加剤を用いた場合、筆記先端部と被筆記面との間で筆記抵抗をある程度低減することはできるが、満足できるものではなく、改良の余地があった。
特に、ノック式ボールペンや回転繰り出し式ボールペン等の出没式ボールペンを用いた場合では、書き出し性能に影響が出やすいので重要となる。
そのため、潤滑性と書き出し性能の両性能を満足することが必要とされている。
【0007】
本発明の目的は、ボール座の摩耗抑制と、書き味を向上し、書き出し性能が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために
「1.着色剤、有機溶剤、コハク酸エステルを含んでなることを特徴とする筆記具用油性インキ組成物。
2.前記コハク酸エステルが、アルケニルコハク酸エステルであることを特徴とする第1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
3.前記コハク酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5質量%を含んでなることを特徴とする第1項または第2項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
4.前記筆記具用油性インキ組成物に、脂肪酸を含んでなることを特徴とする第1項ないし第3項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
5.20℃、剪断速度5sec-1におけるインキ粘度が、50000mPa・s以下であることを特徴とする第1項ないし第4項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物。
6.第1項~第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする筆記具。
7.インキ収容筒の先端部に、ボールを回転自在に抱持したボールペンチップを有し、前記インキ収容筒内に第1項ないし第5項のいずれか1項に記載の筆記具用油性インキ組成物を収容してなることを特徴とする油性ボールペン。」とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、潤滑性を向上することで、筆記先端部と被筆記面との間の潤滑性(ボールペンの場合は、ボールとチップ本体との間の潤滑性も含む)を保ち、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、ボール座の摩耗抑制と、書き味を向上し、筆跡に線とびがなく(筆記性)、さらに書き出し性能が良好である筆記具用油性インキ組成物およびそれを用いた筆記具を得ることができた。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。なお、本明細書において、配合を示す「部」、「%」、「比」などは特に断らない限り質量基準であり、含有量とは、インキ組成物の質量を基準としたときの構成成分の質量%である。
【0011】
本発明の特徴は、コハク酸エステルを含んでなる筆記具用油性インキ組成物とすることである。これは、コハク酸エステルを含んでなることで、形成される潤滑層によって、潤滑性を向上することで、筆記先端部と被筆記面との間の潤滑性(ボールペンの場合は、ボールとチップ本体との間の潤滑性も含む)を保ち、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上し、さらに筆記先端部の滑り性(ボールペンの場合は、ボールの回転性を含む)を向上させることで、筆跡に線とびなく(筆記性)、チップ先端部を大気中に放置した場合でも、書き出し性能を向上することが可能である。そのため、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆記性、書き出し性能を全て向上することが可能である。
【0012】
(コハク酸エステル)
本発明で用いるコハク酸エステルは、構造内に(ジ)エステル(-COOX、X:官能基)を少なくとも有しており、(ジ)エステルのカルボニル基が金属類であるボールとチップ本体に吸着することで、潤滑層を形成し、ボールとチップ本体との間の潤滑性を保ち、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上することが可能である。さらに筆記先端部の滑り性(ボールペンの場合は、ボールの回転性)を向上させることで、筆記性を向上し、チップ先端部を大気中に放置した場合(短時間)において、チップ先端部にて形成された乾燥被膜を破壊することで、書き出し性能(短時間書き出し性能)を向上することが可能である。
【0013】
コハク酸エステルは、アルケニル基またはアルキル基などを有するものが好ましい。これは、アルケニル基、アルキル基は、ボールとチップ本体との間でクッション作用することで、金属接触を緩和し、本発明の効果が得られやすいためである。特に、アルケニル基を有するアルケニルコハク酸エステルを用いることが好ましいが、これは、アルケニル基は二重結合を有するため、アルキル基よりもボールによる強い剪断力によっても、構造が安定しているため、本発明の効果が得られやすいためである。また、前記アルケニル基またはアルキル基については、直鎖構造のもの、分岐鎖を有する構造のものや、前記アルケニル基またはアルキル基の炭素数は、30以下のものが挙げられる。
【0014】
コハク酸エステルの具体例としては、(化1)のような構造が挙げられるが、ボール座の摩耗の抑制と、書き味、筆記性、書き出し性能がバランス良く向上することが可能となるため、(化1)のようなコハク酸エステルが好ましい。
【化1】
【0015】
また、前記コハク酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、潤滑効果や書き出し効果が得られないおそれがあり、5質量%を越えると、インキ経時安定性に影響するおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1~5質量%が好ましく、よりボール座の摩耗、書き出し性能を考慮すれば、0.5~2.5質量%が好ましく、さらに、インキ経時安定性などを考慮すれば、0.2~1.5質量%が最も好ましい。
【0016】
本発明のようにコハク酸エステルを用いる場合は、鉱油を併用して用いることが好ましい。これは、理由は定かではないが、鉱油が存在することで、コハク酸エステルが安定した状態を保ちやすくし、上記のようなコハク酸エステルの潤滑効果などの効果を継続しやすくなり、より潤滑効果が得られやすいためである。また、鉱油については、予めコハク酸エステルと混合させた混合物で用いても良く、各々別々に添加しても良い。
【0017】
また、前記鉱油の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.01~5質量%が好ましく、0.1~2質量%が好ましく、0.1~1質量%が最も好ましい。これは、上記範囲であると、潤滑効果などの効果を継続しやすくなり、より潤滑効果が得られやすいためである。
【0018】
(脂肪酸)
脂肪酸は、該脂肪酸が有するカルボキシル基が、筆記先端部が金属類であるボールとチップ本体に吸着することで、吸着層を形成して、筆記先端部と被筆記面との間(ボールペンの場合は、ボールとチップ本体との間の潤滑性も含む)の潤滑性を保ち、筆記先端部の筆記抵抗を抑制して、ボール座の摩耗を抑制し、書き味を向上することを可能とする。特に、コハク酸エステルによって形成される潤滑層と、脂肪酸によって形成される吸着層による相互作用によって、より滑らかな潤滑効果が得られ、ボール座の摩耗を抑制し、書き味、筆記性を一層向上することが可能となり、好ましい。さらに、脂肪酸は、短時間書き出し性能を向上しつつ、長時間チップ先端部を大気中に放置した場合でも、ボールペンチップ先端で形成されるインキ被膜を柔らかくする効果があり、書き出し性能(長時間書き出し性能)を向上することができる。そのため、コハク酸エステルと、脂肪酸を併用することで、チップ先端部を大気中に、短時間または長時間放置した場合でも、短時間書き出し性能と、長時間書き出し性能との両方を向上しやすくなり、放置時間に関わらず、書き出し性能を向上することが可能となり、好ましい。
【0019】
前記脂肪酸の炭素数は10~30であることが好ましく、炭素数が14~22であることが好ましく、炭素数が16~20であることが好ましい。これは、上記数値範囲内であれば、油性インキ中で溶解安定させることができ、金属類であるボールとチップ本体に吸着しやすい吸着層を形成しやすく、ボールの潤滑性を保ちやすいためである。アルキル基の炭素数が、過度に多すぎると、分子同士が立体的に反発するおそれがあり、金属表面への吸着を阻害し、潤滑性を損ないやすいためである。
【0020】
前記脂肪酸は、アルキル基が直鎖構造のもの、分岐鎖を有する構造のものがあるが、アルキル基が分岐鎖を有する脂肪酸であることが好ましい。これは、ボールペンチップのボールやチップ本体の金属表面に吸着した前記分岐鎖を有するアルキル鎖が嵩高い構造を有することで、該金属表面を覆う面積が多くなることで、金属接触を緩和し、潤滑性を向上しやすくし、ボール座の摩耗の抑制と、書き味を向上しやすくなるためである。特に、より潤滑性を考慮すれば、イソパルミチン酸(炭素数16)、イソステアリン酸(炭素数18)、イソアラキン酸(炭素数20)の中から1種以上選択することが好ましいが、特に、潤滑性を向上しやすいバランスのとれた嵩高い構造を有することで、潤滑性が向上しやすいため、イソステアリン酸(炭素数18)、イソアラキン酸(炭素数20)が好ましく、より考慮すれば、イソステアリン酸(炭素数18)が最も好ましい。
【0021】
前記脂肪酸の中でも、長時間書き出し性能を向上するものとしては、分岐鎖を有する脂肪酸が好ましく、特にイソパルミチン酸(炭素数16)、イソステアリン酸(炭素数18)、イソアラキン酸(炭素数20)が好ましい。これは、イソパルミチル基、イソステアリル基、イソアラキジル基を有すると、筆記先端部(ボールペンチップ先端)で形成されるインキ被膜を柔らかくする効果があり、長時間書き出し性能を向上することができる。その中でも、よりインキ被膜を柔らかくして、長時間書き出し性能を考慮すれば、イソステアリン酸(炭素数18)、イソアラキン酸(炭素数20)が好ましい。特に、ノック式筆記具や回転繰り出し式筆記具等の出没式筆記具においては、キャップ式筆記具とは異なり、常時筆記先端部(ボールペンチップ先端)に露出した状態であるため、書き出し性能に影響しやすいため、効果的であり、好ましい。
【0022】
前記脂肪酸については、具体的には、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、イソアラキン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸、イソミリスチン酸などが挙げられる。
【0023】
また、前記脂肪酸の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1質量%より少ないと、潤滑効果やドライアップ時の書き出し効果が得られないおそれがあり、10質量%を越えると、インキ経時安定性に影響するおそれがあるため、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%が好ましく、より潤滑性を考慮すれば、0.5~7質量%が好ましく、さらに、インキ経時安定性などを考慮すれば、1~5質量%が最も好ましい。
【0024】
本発明では、脂肪酸に対する、コハク酸エステルの配合比(コハク酸エステル/脂肪酸)が、質量基準で0.01~0.80倍とすることが好ましく、0.05~0.50倍とすることがより好ましく、0.10~0.30倍とすることが最も好ましい。これは、上記範囲だと、ボール座の摩耗抑制と、書き味、書き出し性能、筆記性をバランス良く向上することが可能である。
【0025】
(有機溶剤)
本発明に用いる有機溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、3-メトキシブタノール、3-メトキシ-3-メチルブタノール等のグリコールエーテル溶剤、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ブチレングリコール、エチレングリコール等のグリコール溶剤、ベンジルアルコール、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、イソプロパノール、イソブタノール、t-ブタノール、プロパギルアルコール、アリルアルコール、3-メチル-1-ブチン-3-オール、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタートやその他の高級アルコール等のアルコール溶剤など、筆記具用インキとして一般的に用いられる有機溶剤が例示できる。
【0026】
これらの有機溶剤の中でも、コハク酸エステルと、脂肪酸との溶解性を考慮すれば、非水溶性有機溶剤を用いて、筆記具用油性インキ組成物を、溶解安定させることで、本発明の効果が得られやすいため、好ましい。
その中でも、グリコールエーテル溶剤を用いると、吸湿しやすいため、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、書き出し性能を向上しやすいため、本発明のようにコハク酸エステルを用いる場合は、より効果的であり、インキ中での安定性を考慮すれば、芳香族グリコールエーテル溶剤を用いることが好ましい。さらに、グリコールエーテル溶剤以外の有機溶剤については、アルコール溶剤を用いることが好ましいが、これは、アルコ-ル溶剤は揮発して、チップ先端での乾燥をしやすく、筆記先端部内(チップ先端部内)をより早く増粘させることで、筆記先端部の間隙からインキ漏れを抑制するため、好ましい。さらに、ベンジルアルコールなどの芳香族アルコ-ルは、潤滑性を向上する効果もあるため、少なくとも用いる方が好ましい。そのため、グリコールエーテル溶剤とアルコ-ル溶剤を併用することが好ましい。
【0027】
また、有機溶剤の含有量は、溶解性、筆跡乾燥性、にじみ等を向上することを考慮すると、インキ組成物全量に対し、10~90質量%が好ましく、チップ先端での乾燥性を考慮すれば、20~90質量%が好ましく、より好ましくは40~70質量%である。
【0028】
(着色剤)
本発明に用いる着色剤は、染料、顔料等、特に限定されるものではなく、適宜選択して使用することができ、染料、顔料は併用して用いても良い。染料としては、油溶性染料、酸性染料、塩基性染料、含金染料などや、それらの各種造塩タイプの染料等として、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料などの種類が挙げられる。これらの染料は、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。染料について、具体的には、バリファーストブラック1802、バリファーストブラック1805、バリファーストブラック1807、バリファーストバイオレット1701、バリファーストバイオレット1704、バリファーストバイオレット1705、バリファーストブルー1601、バリファーストブルー1605、バリファーストブルー1613、バリファーストブルー1621、バリファーストブルー1631、バリファーストレッド1320、バリファーストレッド1355、バリファーストレッド1360、バリファーストイエロー1101、バリファーストイエロー1151、ニグロシンベースEXBP、ニグロシンベースEX、BASE OF BASIC DYES ROB-B、BASE OF BASIC DYES RO6G-B、BASE OF BASIC DYES VPB-B、BASE OF BASIC DYES VB-B、BASE OF BASIC DYES MVB-3(以上、オリエント化学工業(株)製)、アイゼンスピロンブラック GMH-スペシャル、アイゼンスピロンバイオレット C-RH、アイゼンスピロンブルー GNH、アイゼンスピロンブルー 2BNH、アイゼンスピロンブルー C-RH、アイゼンスピロンレッド C-GH、アイゼンスピロンレッド C-BH、アイゼンスピロンイエロー C-GNH、アイゼンスピロンイエロー C-2GH、S.P.T.ブルー111、S.P.T.ブルーGLSH-スペシャル、S.P.T.レッド533、S.P.T.オレンジ6、S.B.N.バイオレット510、S.B.N.イエロー530、S.R.C-BH(以上、保土谷化学工業(株)製)等が挙げられる。
【0029】
また、着色剤としては、コハク酸エステル、脂肪酸との相性による経時安定性を考慮して、少なくとも造塩染料を用いることが好ましく、さらに造塩結合が安定していることで経時安定性を保てることを考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料、酸性染料と塩基性染料との造塩染料、酸性染料と有機アミンとの造塩染料の中から用いることが好ましい。よりインキ中の成分との安定性を考慮すれば、塩基性染料と有機酸との造塩染料が好ましい。
さらに、造塩染料を構成する有機酸については、フェニルスルホン基を有する有機酸であれば、金属に吸着し易い潤滑膜を形成しやすく、潤滑性を向上し、書き味やボール座の摩耗抑制を良好とするため好ましく、具体的には、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸が挙げられる。また、インキ中で長期安定することを考慮すれば、有機酸として、アルキルベンゼンスルホン酸を用いることが好ましい。
【0030】
また、顔料については、無機、有機、加工顔料などが挙げられるが、具体的にはカーボンブラック、アニリンブラック、群青、黄鉛、酸化チタン、酸化鉄、フタロシアニン系、アゾ系、キナクリドン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、スレン系、トリフェニルメタン系、ペリノン系、ペリレン系、ジオキサジン系、メタリック顔料、パール顔料、蛍光顔料、蓄光顔料等が挙げられる。
【0031】
また、着色剤としては、潤滑性を考慮すれば、顔料を用いることが好ましい、これは、ボールとチップ本体の隙間に顔料粒子が入り込むことで、ベアリングのような作用が働きやすく、金属接触を抑制することで、潤滑性を向上し、書き味を向上し、ボール座の摩耗を抑制する効果が得られやすいため、顔料を用いることが好ましい。さらに、顔料は、耐水性、耐光性に優れ、良好な発色を得られるため、好ましい。
【0032】
着色剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、5.0~30.0質量%が好ましい。これは5.0質量%未満だと、濃い筆跡が得られにくい傾向があり、30.0質量%を越えると、インキ中での溶解性に影響しやすい傾向があるためで、よりその傾向を考慮すれば、7.0~25.0質量%が好ましく、さらに考慮すれば、10.0~20.0質量%がより好ましい。
【0033】
(樹脂)
また、インキ漏れ抑制をより向上するためには、樹脂をインキ粘度調整剤として、用いることが好ましい、樹脂としては、ポリビニルブチラール樹脂、ケトン樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、セルロース樹脂、テルペン樹脂、アルキッド樹脂、フェノキシ樹脂、ポリ酢酸ビニル樹脂などが挙げられるが、その中でも、ポリビニルブチラール樹脂またはケトン樹脂を含んでなることが好ましい。
【0034】
ポリビニルブチラール樹脂についても、より高い潤滑効果が得られる潤滑層を形成しやすい。これは、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすく、コハク酸エステルや、脂肪酸と併用することで形成される潤滑層とによる相乗効果によって、より高い潤滑効果が得られやすい。さらに、前記ポリビニルブチラール樹脂を用いると、形成する被膜によって、インキ漏れをより向上しやすくなるため、好ましく、また、着色剤として顔料を用いる場合は、顔料分散効果も得られるため、ポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましい。
ここで、ポリビニルブチラール樹脂は、ポリビニルアルコール(PVA)をブチルアルデヒド(BA)と反応させたものであり、ブチラール基、アセチル基、水酸基を有した構造である。
【0035】
また、ポリビニルブチラール樹脂は、水酸基量25mol%以上とすることが好ましい。これは、水酸基量25mol%未満のポリビニルブチラール樹脂では、有機溶剤への溶解性が十分でなく、十分な潤滑効果や、インキ漏れ抑制の効果が得られにくく、さらに、吸湿性による書き出し性能を考慮すると、水酸基量25mol%以上のポリビニルブチラール樹脂を用いることが好ましいためである。また、前記水酸基量30mol%以上のポリビニルブチラール樹脂は、書き味が向上しやすくなるため、好ましい。これは、筆記時において、ボールの回転により摩擦熱が発生することで、チップ先端部のインキが温められて、該インキの温度が高くなるが、前記ポリビニルブチラール樹脂は他の樹脂とは違い、インキ温度が高くなっても、インキ粘度を下がりづらくする性質があり、ボールとボール座との間に常に弾力性があるインキ層を形成して、直接接触しづらくするため、書き味を向上しやすい傾向がある。特に、ボールペンでは、高筆圧で筆記することも多いため、筆記具では効果的である。また、前記水酸基量40mol%を越えるポリビニルブチラール樹脂を用いると、吸湿量が多くなりやすく、インキ成分との経時安定性に影響が出やすいため、水酸基量40mol%以下のポリビニルブチラール樹脂が好ましい。そのため、水酸基量30~40mol%のポリビニルブチラール樹脂が好ましく、さらに好ましくは、水酸基量30~36mol%が好ましい。
なお、前記ポリビニルブチラール樹脂の水酸基量(mol%)とは、ブチラール基(mol%)、アセチル基(mol%)、水酸基(mol%)の 全mol量に対して、水酸基(mol%)の含有率を示すものである。
【0036】
また、ポリビニルブチラール樹脂の平均重合度については、前記平均重合度は200以上であると、インキ漏れ抑制性能が向上しやすく、また、前記平均重合度は2500を超えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、前記平均重合度は、200~2500が好ましい。さらに、より考慮すれば、前記平均重合度は1500以下が好ましく、コハク酸エステルと、脂肪酸との潤滑性を考慮すれば、前記平均重合度は、200~1000が好ましい。ここで、平均重合度とは、ポリビニルブチラール樹脂の1分子を構成している基本単位の数をいい、JISK6728(2001年度版)に規定された方法に基づいて測定された値を採用可能である。
【0037】
ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、筆記具用油性組成物中の全樹脂の含有量に対して70%以上とし、主たる樹脂として用いることが好ましい。これは、ポリビニルブチラール樹脂の含有量が全樹脂の含有量の70%未満となると、その他の樹脂によって、弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまいやすく、書き味向上の効果が得られづらくなり、さらに、チップ先端の樹脂被膜の形成を阻害しやすく、インキ垂れ下がりを抑制できず、さらに弾力性があるインキ層を形成するのを阻害してしまい、書き味向上の効果が得られづらくなるためである。より書き味やインキ垂れ下がり性能を向上する傾向を考慮すれば、ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、全樹脂の含有量に対して90%以上が好ましい。
【0038】
前記ポリビニルブチラール樹脂の含有量は、インキ組成物全量に対し、1質量%より少ないと、所望の潤滑性やインキ漏れ抑制性能が劣りやすく、40質量%を越えると、インキ中で溶解性が劣りやすいため、インキ組成物全量に対し、1~40質量%が好ましい。さらに、考慮すれば5質量%以上が好ましく、30質量%を越えると、インキ粘度が高くなりすぎて書き味に影響する傾向があるため、5~30質量%が好ましく、より考慮すれば、10~25質量%が好ましい。
【0039】
(脂肪酸エステル)
本発明においては、上記潤滑性と、書き出し性能を向上することを考慮すれば、脂肪酸エステルを用いることが好ましい。脂肪酸エステルについては、脂肪酸と、1価アルコールや多価アルコールなどのアルコールとをエステル化反応させたものであるが、前記脂肪酸エステルの中でも、より書き出し性能を向上することを考慮すれば、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルを用いることが好ましい。これは、分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸エステルは、直鎖構造よりも、嵩高い構造をしているため、分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、金属類のボールやチップ本体のボール座に吸着しやすく、さらに厚い潤滑層を形成して、より潤滑性が向上しやすいためで、同時に分岐鎖アルキル基の嵩高さによって、チップ先端部のインキ乾燥時に形成される被膜強度が軟化し、書き出し性能を向上するためである。
【0040】
さらに、前記脂肪酸エステルについては、酸価を0.01~5(mgKOH/g)とすることが好ましい。これは、油性インキ中のコハク酸エステル、脂肪酸との他成分との親和性が良好であり、長時間インキ中で安定しているため、長時間書き出し性能を向上し、長時間潤滑性を向上し、書き味を向上しやすくすることが可能となるためである。より考慮すれば、酸価については、0.01~2.5(mgKOH/g)であることが好ましく、より好ましくは、0.05~1.0(mgKOH/g)である。
なお、酸価については、試料1g中に含まれる酸性成分(遊離脂肪酸)を中和するのに要する水酸化カリウムのmg数で表すものとする。
【0041】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールは、多価アルコールが好ましい。これは、理由は定かではないが、前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの水酸基が多い方が、保湿作用が働きやすく、チップ先端部が乾燥したときに形成する被膜の強度を軟化させ、筆記先端部(ボールの回転)をスムーズにする効果が得られるので、筆跡カスレが発生せずに、書き出し性能が向上するものと推測される。より書き出し性能を向上することを考慮すれば、水酸基が4価以上の多価アルコールであることが好ましく、より好ましくは水酸基が5価以上であることが好ましい。また、水酸基が多すぎると、油性インキ中での安定性に影響が出やすいため、水酸基が8価以下であることが好ましい。
【0042】
前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられるアルコールの具体例としては、1価アルコールとしては、ペンタノール、シクロヘキサノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、ノナノール、イソノナノール、デカノール、ラウリルアルコール、ミスチリルアルコール、ステアリルアルコール、ドコサノールなどが挙げられる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリアルキレングリコール、1,3-プロパンジオール、ジエチレングリコール、グリセリン、2-メチルプロパントリオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールエタン、トリエチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどが挙げられる。これらの中でも、より書き出し性能を向上し、インキ経時安定性を考慮すれば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトールなどのペンタエリスリトール類によってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましく、より考慮すれば、ジペンタエリスリトールによってエステル化した脂肪酸エステルを含むことが好ましい。
【0043】
また、前記脂肪酸エステルのエステル化反応に用いられる脂肪酸の具体例としては、モノカルボン酸としては、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、2-エチルブタン酸、ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、3-メチルヘキサン酸、2-エチルペンタン酸、3-エチルペンタン酸、イソヘプタン酸、カプリル酸、2-エチルヘキサン酸、ノナン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ネオノナン酸、カプリン酸、ネオデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキン酸などが挙げられる。多価カルボン酸としては、具体的には、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、セバシン酸、ウフタル酸、イソフタル酸、フマル酸、マレイン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
【0044】
また、前記脂肪酸エステルの含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~10.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の書き出し性能や潤滑性が得られにくい傾向があり、10.0質量%を越えると、インキ経時が不安定になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、0.1~5.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.1~3.0質量%が好ましく、0.3~2.0質量%が最も好ましい。
【0045】
本発明においては、上記潤滑性と、チップ先端部を大気中に放置した状態で、該チップ先端部が乾燥したときの書き出し性能を向上することを考慮すれば、界面活性剤を用いることが好ましい。これは、界面活性剤を用いると、形成される被膜を柔らかくする傾向があり、書き出し性能を改良でき、さらに潤滑性も向上することができる。界面活性剤としては、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤などが挙げられる。その中でも、上記効果を考慮すれば、シリコーン系界面活性剤、リン酸エステル系界面活性剤の中から1種以上を用いることが好ましい。
【0046】
界面活性剤の含有量は、インキ組成物全量に対し、0.1~5.0質量%がより好ましい。これは、0.1質量%より少ないと、所望の潤滑性が得られにくい傾向があり、5.0質量%を越えると、インキ経時が不安定性になりやすい傾向があるためであり、その傾向を考慮すれば、インキ組成物全量に対し、0.3~3.0質量%が好ましく、より考慮すれば、0.5~3.0質量%が、最も好ましい。
【0047】
本発明では、インキ中でのインキ成分の安定性を考慮すれば、有機アミンを用いることが好ましい。オキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミン等のエチレンオキシドを有するアミンや、ラウリルアミン、ステアリルアミン等のアルキルアミンや、ジステアリルアミン、ジメチルラウリルアミン、ジメチルステアリルアミン、ジメチルオクチルアミン等のジメチルアルキルアミン等の脂肪族アミンが挙げられ、その中でも、インキ中での安定性を考慮すれば、エチレンオキシドを有するアミン、ジメチルアルキルアミンが好ましく、さらに考慮すれば、ジメチルアルキルアミンが好ましい。
【0048】
また、前記有機アミンとインキ中の他成分との反応性については、1級アミンが最も強く、次いで2級アミン、3級アミンと反応性が小さくなるので、インキ経時安定性を考慮して、2級アミンまたは3級アミンを用いることが好ましい。これらは、単独又は2種以上混合して使用してもよい。
【0049】
また、その他として、粘度調整剤として、脂肪酸アマイド、水添ヒマシ油などの擬塑性付与剤を、また、着色剤安定剤、可塑剤、キレート剤、水などを適宜用いても良い。これらは、単独又は2種以上組み合わせて使用してもかまわない。
【0050】
本発明の筆記具用油性インキ組成物のインキ粘度は、特に限定されるものではないが、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度が50000mPa・sを越えると、書き出し性能や書き味が劣りやすいため、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度は、50000mPa・s以下であることが好ましい。また、20℃、剪断速度5sec-1(静止時)におけるインキ粘度が2000mPa・s未満だと、インキ漏れを抑制しにくいため、2000mPa・s以上とすることが好ましい。インキ漏れ抑制、書き味、インキ追従性能、書き出し性能をより向上することを考慮すれば、前記インキ粘度は2000~35000mPa・sがより好ましく、さらに、書き味、書き出し性能より考慮すれば、3000~20000mPa・sが好ましい。
【0051】
(筆記具)
本発明による筆記具用油性インキ組成物は、各種の筆記具に適用することができるが、ボールペン、特にノック式や回転繰り出し式などの出没式ボールペンに用いることが好ましい。このようなボールペンは、本発明による油性インキ組成物を収容した収容筒と、その収容筒の先端に配置された、ボール抱持室にボールを回転自在に抱持したボールペンチップとを具備したものである。そして、そのボールペンチップを軸筒の先端開口部から出没可能とされており、一般的に出没式ボールペンと呼ばれる構造を有する。一般にインキ組成物をペン先が密閉されない出没式ボールペンに用いた場合は、チップ先端部が定常的に大気中に放置されるため、チップ先端部が乾燥して、書き出し時にカスレなどが生じやすいが、本発明による組成物を用いると、そのような問題が改善されるため好ましい。
【0052】
(ボールペンチップ)
また、本発明で用いるボールペンチップのボール表面の算術平均粗さ(Ra)については、0.1~12nmとすることが好ましい。これは、算術平均粗さ(Ra)が0.1nm未満だと、ボール表面に十分にインキが載りづらく、筆記時に濃い筆跡が得られづらく、筆跡に線とび、カスレが発生しやすく、算術平均粗さ(Ra)が12nmを越えると、ボール表面が粗すぎて、ボールとボール座の回転抵抗が大きいため、書き味が劣りやすく、さらに、筆跡にカスレ、線とび、線ムラなどの筆記性能に影響が出やすくなるためである。また、前記算術平均粗さ(Ra)が0.1~10nmであると、本発明のようなインキ組成物を用いた場合、ボール表面にインキが載りやすいためより好ましく、より書き味を考慮すれば、2~8nmが好ましい。なお、表面粗さの測定は(セイコーエプソン社製の機種名SPI3800N)で求めることができる。
【0053】
また、ボールに用いる材料は、特に限定されるものではないが、タングステンカーバイドを主成分とする超硬合金ボール、ステンレス鋼などの金属ボール、炭化珪素、窒化珪素、アルミナ、シリカ、ジルコニアなどのセラミックスボール、ルビーボールなどが挙げられる。
【0054】
また、ボ-ルペンチップの材料は、ステンレス鋼、洋白、ブラス(黄銅)、アルミニウム青銅、アルミニウムなどの金属材、ポリカーボネート、ポリアセタール、ABSなどの樹脂材が挙げられるが、ボール座の摩耗、経時安定性を考慮するとステンレス製のチップ本体とすることが好ましい。
【0055】
(実施例)
次に実施例を示して本発明を説明する。
実施例1の筆記具用油性インキ組成物は、予め有機溶剤、顔料、顔料分散剤を添加し、3本ロール分散機で分散させて、顔料分散体を作製した。その後、顔料分散体、染料、有機溶剤、コハク酸エステル(コハク酸エステルと鉱油の混合物)、脂肪酸、ポリビニルピロリドン、ポリビニルブチラール樹脂を採用し、これを所定量秤量して、60℃に加温した後、ディスパー攪拌機を用いて完全溶解させて筆記具用油性インキ組成物を得た。具体的な配合量は下記の通りである。
尚、ブルックフィールド株式会社製粘度計 ビスコメーターRVDVII+Pro CP-52スピンドルを使用して20℃の環境下で剪断速度5sec-1(回転数2.5rpm)にて実施例1のインキ粘度を測定したところ、インキ粘度3000mPa・sであった。
【0056】
実施例1
着色剤(塩基性染料とアルキルベンゼンスルホン酸との造塩染料) 12.0質量%
着色剤(アミンと酸性染料との造塩染料) 2.0質量%
顔料分散体(顔料分20%) 20.0質量%
アルコール溶剤(ベンジルアルコール) 28.1質量%
グリコールエーテル溶剤(エチレングリコールモノフェニルエーテル)27.1質量%
コハク酸エステル(アルケニルコハク酸エステル:(化1)、コハク酸エステルと鉱油の混合物) 1.0質量%
分岐鎖アルキル基を有する脂肪酸(イソステアリン酸) 3.0質量%
ポリビニルピロリドン 0.8質量%
ポリビニルブチラール樹脂 6.0質量%
【0057】
実施例2~14
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様な手順でインキ配合し、実施例2~14の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に評価結果を示す。
【0058】
比較例1~3
表に示すように、各成分を変更した以外は、実施例1と同様の手順で、比較例1~3の筆記具用油性インキ組成物を得た。表に評価結果を示す。
【表1】
【表2】
【0059】
試験および評価
実施例1~14および比較例1~3で作製した筆記具用油性インキ組成物を、インキ収容筒(ポリプロピレン製)の先端に、ボール(φ1.0mm、ボール表面の算術平均粗さ(Ra):7nm))を回転自在に抱時したボールペンチップを装着するとともに、インキ収容筒内に、実施例1の油性ボールペン用インキ(0.2g)を直に収容してボールペンレフィルを(株)パイロットコーポレーション製の油性ボールペン(商品名:スーパーグリップ(登録商標))に配設して、油性ボールペンを作製し筆記試験用紙として筆記用紙JIS P3201を用いて以下の試験および評価を行った。
【0060】
耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験):荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて筆記試験後のボール座の摩耗を測定した。
ボール座の摩耗が5μm未満のもの ・・・◎
ボール座の摩耗が5μm以上、10μm未満であるもの ・・・○
ボール座の摩耗が10μm以上、20μm未満であるが、筆記可能であるもの ・・・△
ボール座の摩耗がひどく、筆記不良になってしまうのもの ・・・×
【0061】
書き味:手書きによる官能試験を行い評価した。
非常に滑らかなもの ・・・◎
滑らかであるもの ・・・○
実用上問題ないレベルの滑らかさであるもの ・・・△
重いもの ・・・×
【0062】
短時間書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に30分放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重70gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、15mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、15mm以上、30mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、30mm以上、50mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、50mm以上であるもの ・・・×
【0063】
長時間書き出し性能試験:手書き筆記した後、チップ先端部を出したまま20℃、65%RHの環境下に24時間放置し、その後、走行試験で下記筆記条件にて筆記し、書き出しにおける筆跡カスレの長さを測定した。
<筆記条件>筆記荷重200gf、筆記角度70°、筆記速度4m/minの条件で、走行試験機にて直線書きを行い評価した。
筆跡カスレの長さが、10mm未満であるもの ・・・◎
筆跡カスレの長さが、10mm以上、15mm未満であるもの ・・・○
筆跡カスレの長さが、15mm以上、25mm未満であるもの ・・・△
筆跡カスレの長さが、25mm以上であるもの ・・・×
【0064】
筆記性試験:荷重200gf、筆記角度70°、4m/minの走行試験機にて、100m筆記試験後の筆跡を観察した。
筆跡に線とびがなく、良好なもの ・・・◎
筆跡に線とびが若干あるが、良好なもの ・・・○
筆跡に線とびが多く、実用上に影響があるもの ・・・×
【0065】
実施例1~14では、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)、書き味、短時間・長時間書き出し性能試験、筆記性試験ともに良好な性能が得られた。
また、実施例1~8は、アルケニルコハク酸エステル(化1)を用いたものであったが、ボール座の摩耗抑制と、書き味、書き出し性能、筆記性をバランス良く向上することが可能であったのは、脂肪酸に対する、コハク酸エステルの配合比(コハク酸エステル/脂肪酸)が、質量基準で0.10~0.50倍の範囲が好ましい結果となった。
【0066】
また、比較例1~3では、コハク酸エステルを用いなかったため、耐摩耗試験(ボール座の摩耗試験)、書き味、短時間・長時間書き出し性能試験、筆記性試験いずれも劣っていた。
【0067】
また、ノック式油性ボールペンや回転繰り出し式油性ボールペン等の出没式油性ボールペンを用いた場合では、書き出し性能が重要な性能の1つであるため、本発明のようなインキ組成物を用いると効果的である。
【0068】
また、本実施例では、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したボールペンレフィルを軸筒内に配設した油性ボールペンを例示したが、本発明の油性ボールペンは、軸筒自体をインキ収容筒とし、軸筒内に、筆記具用油性インキ組成物を直に収容した直詰め式のボールペン、マーキングペン、サインペンとした筆記具であっても良く、インキ収容筒内に筆記具用油性インキ組成物を収容したもの(ボールペンレフィル)をそのままボールペンとして使用した構造であっても良い。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は筆記具用油性インキ組成物として利用でき、さらに詳細としては、該筆記具用油性インキ組成物を充填した、キャップ式、ノック式等の筆記具として広く利用することができる。