(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】横葺き屋根材およびその横葺き屋根材にて構築された屋根構造体における屋根材の部分交換方法
(51)【国際特許分類】
E04D 3/363 20060101AFI20221216BHJP
E04D 3/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
E04D3/363 B
E04D3/00 V
(21)【出願番号】P 2018166292
(22)【出願日】2018-09-05
【審査請求日】2021-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000200323
【氏名又は名称】JFE鋼板株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503367376
【氏名又は名称】ケイミュー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001542
【氏名又は名称】弁理士法人銀座マロニエ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】押田 博之
(72)【発明者】
【氏名】小田 純二
(72)【発明者】
【氏名】太田 克也
(72)【発明者】
【氏名】和泉 正章
【審査官】山口 敦司
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-140352(JP,A)
【文献】実開昭50-069422(JP,U)
【文献】特開2001-020470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04D 3/363
E04D 3/362
E04D 3/00
E04D 1/06
E04G 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
幅方向の端縁と長さ方向の端縁とによって区画された輪郭形状を有する板材本体を備え、該板材本体の幅方向の一方の端縁をその端縁に設けられた棟側ハゼ部を介して水上側に位置する吊子に嵌合させるとともに、該幅方向のもう一方の端縁をその端縁に設けられた軒側ハゼ部を介して水下側に位置する吊子に嵌合させることにより屋根構造体を構築する横葺き屋根材であって、
前記棟側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向の一方の端縁につながり水上側に位置する吊子の起立壁に沿って立ち上がる起立板と、該起立板の上端に一体連結し水上側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部につながり水上側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の上端に水平姿勢でつながり水上側に位置する吊子の天壁に沿い棟側に向けて伸延する天板と、該天板につながるとともに水上側に位置する吊子の天壁の端縁にて折り返されて該天壁に引っ掛かる係止片とを備え、該起立板、突出し部、側板、天板および係止片にてその内側に水上側に位置する吊子
に対して着脱自在に嵌合する嵌合空間を区画形成する屈曲片からなり、
前記軒側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向のもう一方の端縁につながり水下側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の下端につながり水下側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部の下端に垂下保持される舌片とを備え、該側板、該突出し部および該舌片にてその内側に水下側に位置する吊子
に対して着脱自在に嵌合する嵌合空間を区画形成する屈曲片からなることを特徴とする横葺き屋根材。
【請求項2】
幅方向の端縁と長さ方向の端縁とによって区画された輪郭形状を有する板材本体を備え、該板材本体の幅方向の一方の端縁をその端縁に設けられた棟側ハゼ部を介して水上側に位置する吊子に嵌合させるとともに、該幅方向のもう一方の端縁をその端縁に設けられた軒側ハゼ部を介して水下側に位置する吊子に嵌合させることにより屋根構造体を構築する横葺き屋根材であって、
前記棟側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向の一方の端縁につながり水上側に位置する吊子の起立壁に沿って立ち上がる起立板と、該起立板の上端に一体連結し水上側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部につながり水上側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の上端に水平姿勢でつながり水上側に位置する吊子の天壁に沿い棟側に向けて伸延する天板と、該天板につながるとともに水上側に位置する吊子の天壁の端縁にて折り返されて該天壁に引っ掛かる係止片とを備え、該起立板、突出し部、側板、天板および係止片にてその内側に水上側に位置する吊子の嵌合空間を区画形成する屈曲片からなり、
前記軒側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向のもう一方の端縁につながり水下側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の下端につながり水下側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部の下端に垂下保持される舌片とを備え、該側板、該突出し部および該舌片にてその内側に水下側に位置する吊子の嵌合空間を区画形成する屈曲片からなり、
前記起立板は、水上側において配置される他の横葺き屋根材との重ね合わせによりその相互間にエアーポケットを形成する凹部を有することを特徴とす
る横葺き屋根材。
【請求項3】
前記棟側ハゼ部、軒側ハゼ部は、それそのものの弾性変形によるスプリングバックを伴って水上側に位置する吊子、水下側に位置する吊子にそれぞれ着脱自在に嵌合するものである、ことを特徴とする請求項1または2に記載した横葺き屋根材。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載した横葺き屋根材用いて構築された屋根構造体につき、その屋根構造体の任意の位置の屋根材を部分交換するに当たり、
まず、交換すべき横葺き屋根材の板材本体の軒側ハゼ部の、水下側に位置する吊子との嵌合を解除したのち、該板材本体の棟側ハゼ部を支点に該軒側ハゼ部を該板材本体とともに引き起して該棟側ハゼ部と水上側に位置する吊子との嵌合を解除することにより該交換すべき横葺き屋根材を取り外し、次いで、その取り外した部位に新規な横葺き屋根材を配置してその棟側ハゼ部の係止片を水上側に位置する吊子の天壁に引っ掛けるとともに該棟側ハゼ部を水上側に位置する吊子に向けて押し込む一方、該軒側ハゼ部を水下側に位置する吊子に向けて押し込むことにより該棟側ハゼ部の嵌合空間に水上側に位置する吊子を嵌合させるとともに該軒側ハゼ部の嵌合空間に水下側に位置する吊子を嵌合させることを特徴とする横葺き屋根材にて構築された屋根構造体における屋根材の部分交換方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横葺き屋根材およびその横葺き屋根材にて構築された屋根構造体における屋根材の部分交換方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
横葺き屋根と呼ばれる屋根構造体は、長さ方向の寸法(桁行方向の寸法)が幅方向の寸法(梁間方向の寸法)よりも長い板状本体を備えた屋根板材を使用し、桁行方向において屋根板材同士を接続する作業を先行して行い、その接続作業が完了したならば梁間方向において屋根板材同士を接続する作業をそれぞれ棟に向けて交互に行うことによって構築されるものである。
【0003】
かかる屋根構造体に使用される屋根板材は、通常、水上側の端縁については該端縁につながる延長部を設け、この延長部にビス等の固定具を打ち付けることによって野地板などの下地材に固定するか(特許文献1)、あるいは、該延長部に鉤型形状をなすハゼ部を設け、該ハゼ部の上部から吊子を引っ掛けることによって下地材に固定するのが普通である。しなしながら、この種の屋根板材は、例えば、屋根構造体の構築が完了したのちにおいて、屋根板材の一部分に傷や凹みなどの外観不良が発見され、その屋根板材の部分交換が迫られた場合にあっては、水上側の端縁につながる延長部分での固定を解除するか吊子を一旦取り外す必要があることから外観不良が発見された屋根板材に至るまでに取り付けられた屋根板材を全て取り外したのちでなければ屋根板材の交換は困難であり、屋根板材の効率的な部分交換を実施することができない状況にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、屋根構造体の構築が完了したのちにおいて屋根板材の一部分に外観不良が発見された場合であっても、他の屋根板材を取り外すことなしに外観不良を起こした屋根板材のみを交換することが可能であり、しかも、屋根材同士の連結強度が高い横葺き屋根材およびその横葺き屋根材にて構築された屋根構造体における屋根材の部分交換方法を提案するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、幅方向の端縁と長さ方向の端縁とによって区画された輪郭形状を有する板材本体を備え、該板材本体の幅方向の一方の端縁をその端縁に設けられた棟側ハゼ部を介して水上側に位置する吊子に嵌合させるとともに、該幅方向のもう一方の端縁をその端縁に設けられた軒側ハゼ部を介して水下側に位置する吊子に嵌合させることにより屋根構造体を構築する横葺き屋根材であって、前記棟側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向の一方の端縁につながり水上側に位置する吊子の起立壁に沿って立ち上がる起立板と、該起立板の上端に一体連結し水上側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部につながり水上側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の上端に水平姿勢でつながり水上側に位置する吊子の天壁に沿い棟側に向けて伸延する天板と、該天板につながるとともに水上側に位置する吊子の天壁の端縁にて折り返されて該天壁に引っ掛かる係止片とを備え、該起立板、突出し部、側板、天板および係止片にてその内側に水上側に位置する吊子に対して着脱自在に嵌合する嵌合空間を区画形成する屈曲片からなり、前記軒側ハゼ部は、前記板材本体の幅方向のもう一方の端縁につながり水下側に位置する吊子の側壁に沿って伸延する側板と、該側板の下端につながり水下側に位置する吊子の顎部において連係可能な突出し部と、該突出し部の下端に垂下保持される舌片とを備え、該側板、該突出し部および該舌片にてその内側に水下側に位置する吊子に対して着脱自在に嵌合する嵌合空間を区画形成する屈曲片からなることを特徴とする横葺き屋根材である。
【0007】
また、本発明は、上記の構成からなる横葺き屋根材において、前記起立板に、水上側において配置される他の横葺き屋根材との重ね合わせによりその相互間にエアーポケットを形成する凹部を設ける。
【0008】
また、本発明の横葺き屋根材は、前記棟側ハゼ部、軒側ハゼ部が、それそのものの弾性変形によるスプリングバックを伴って水上側に位置する吊子、水下側に位置する吊子にそれぞれ着脱自在に嵌合するものであるのが望ましい。
【0009】
さらに、本発明は、上記の構成からなる横葺き屋根材にて構築された屋根構造体につき、その屋根構造体の任意の位置の屋根材を部分交換するに当たり、まず、交換すべき横葺き屋根材の板材本体の軒側ハゼ部の、水下側に位置する吊子との嵌合を解除したのち、該板材本体の棟側ハゼ部を支点に該軒側ハゼ部を該板材本体とともに引き起して該棟側ハゼ部と水上側に位置する吊子との嵌合を解除することにより該交換すべき横葺き屋根材を取り外し、次いで、その取り外した部位に新規な横葺き屋根材を配置してその棟側ハゼ部の係止片を水上側に位置する吊子の天壁に引っ掛けるとともに該棟側ハゼ部を水上側に位置する吊子に向けて押し込む一方、該軒側ハゼ部を水下側に位置する吊子に向けて押し込むことにより該棟側ハゼ部の嵌合空間に水上側に位置する吊子を嵌合させるとともに該軒側ハゼ部の嵌合空間に水下側に位置する吊子を嵌合させることを特徴とする横葺き屋根材にて構築された屋根構造体における屋根材の部分交換方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の横葺き屋根材は、板材本体の軒側ハゼ部、棟側ハゼ部が吊子の上から被さって嵌合する嵌合構造であり、軒側ハゼ部と吊子との嵌合を解除しておき、棟側ハゼ部を支点にして該軒側ハゼ部を板材本体とともに引き起こすことにより棟側ハゼ部と吊子との嵌合を解除することが可能であり、取り外したい横葺き屋根材のみの取り外しができる。
【0011】
また、取り外した部位に新規な横葺き屋根材を取り付けるには、水上側に位置する吊子の天壁に棟側ハゼ部の係止片を引っ掛けるとともに該棟側ハゼ部を水上側に位置する吊子に向けて押し込む一方、軒側ハゼ部を水下側に位置する吊子に向けて押し込むことにより棟側ハゼ部の嵌合空間に水上側に位置する吊子を嵌合さるとともに軒側ハゼ部の嵌合空間に水下側に位置する吊子を嵌合させることが可能であり、横葺き屋根材の取り付けを簡単に行い得る。
【0012】
とくに、屋根構造体を構築するに際して板材本体の棟側ハゼ部を吊子に嵌合させるに当たっては、軒先側、棟側のどちらからでも施工可能であり、また、横葺き屋根材を各吊子において同時に嵌合させることも可能であり、屋根構造体を構築する場合において施工時間の短縮を図ることができる。
【0013】
また、本発明の横葺き屋根材は、棟側ハゼ部、軒側ハゼ部のいずれもが吊子の上から被さって嵌合することになるが、その際、棟側ハゼ部の突出し部が水上側に位置する吊子の顎部に連係し該棟側ハゼ部の係止片が水上側に位置する吊子の天壁の端縁に引っ掛かっており、軒側ハゼ部の突出し部が水下側に位置する吊子の顎部に連係しているため、屋根材同士の連結強度が高く、横葺き屋根材の板材本体に負圧が作用しても屋根材同士の連結が簡単に解除されることはない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明にしたがう横葺き屋根材の実施の形態を模式的に示した外観斜視図である。
【
図2】本発明にしたがう横葺き屋根材を吊子に取り付けた状態を側面について示した図である。
【
図3】本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて屋根構造体を構築するのに用いて好適な吊子の外観斜視図である。
【
図4】(a)(b)は、本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて屋根構造体を構築する手順を示した図である。
【
図5】(a)(b)は、本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて屋根構造体を構築する手順を示した図である。
【
図6】本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて構築された屋根構造体の一部分を示した外観斜視図である。
【
図7】本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて構築された屋根構造体につき、横葺き屋根材の取り外し要領を示した図である。
【
図8】本発明にしたがう横葺き屋根材の他の実施の形態を示した外観斜視図である。
【
図9】横葺き屋根材の取り外し用治具の装着要領の説明図である。
【
図10】取り外し用治具の装着状態を示した外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明をより具体的に説明する。
図1は、本発明にしたがう横葺き屋根材の実施の形態を模式的に示した外観斜視図である。本発明にしたがう横葺き屋根材は、長さ方向の寸法は任意(フリー)で、幅方向の寸法が180~400mm程度、厚さ0.35~0.8mm程度の、例えば、溶融亜鉛めっき鋼板やカラー鋼板等の防錆処理鋼板、ステンレス鋼板、銅板、アルミニウム合金板、亜鉛板等からなるものが用いられ、ロール成形法やプレス成形法等を適用して所定の断面形状へと成形されるものである。
【0016】
図1における符号1は、横葺き屋根材の板材本体である。板材本体1は、長さ方向の端縁1a、1bと幅方向の端縁1c、1dとによって区画された輪郭形状を有するものからなっている。
【0017】
また、符号2は、板材本体1の幅方向の一方の端縁1cに設けられた棟側ハゼ部、3は、板材本体1の幅方向のもう一方の端縁1dに設けられた軒側ハゼ部である。
【0018】
図2は、本発明にしたがう上記の横葺き屋根材を、屋根の下地材の任意の位置に設けられた吊子4(水下側に位置する吊子)、吊子5(水上側に位置する吊子)に取り付けた状態をその側面について示したものである。本発明にしたがう横葺き屋根材は、板材本体1の幅方向の一方の端縁1cを棟側ハゼ部2を介して水上側に位置する吊子5に嵌合させるとともに、幅方向のもう一方の端縁1dを軒側ハゼ部3を介して水下側に位置する吊子4に嵌合させることによって取り付けられる。なお、ここでは、吊子4、5に横葺き屋根材を取り付けた場合を例として示しているが、屋根構造体を構築するに当たっては、軒から棟にかけて複数の吊子を設置してその全ての吊子において同様の要領で横葺き屋根材が取り付けられることになる。本発明にしたがう横葺き屋根材は、板材本体1の座屈を防止するとともに断熱性を高める観点から、板材本体1と下地材との間に断熱材dを配置することができる。断熱材dは、板材本体1の裏面に予め貼着しておいてもよいし、横葺き屋根材を取り付ける際に板材本体1と下地材との間に設置してもよい。
【0019】
吊子4、5としては、屋根の一方のけらば(螻羽)からもう一方のけらば(螻羽)に向けて連続的に伸延し横葺き屋根材の長さ方向の寸法と同じ寸法を有する
図3に示すような外観形状になる通し吊子を用いるのが好ましい。なお、形状が同一のものであれば所定の間隔をあけて設置される部分吊子を用いてもかまわない。吊子4、5において、符号4a、5aは、棟側において固定ビスを介して下地材に固定されるベース、4b、5bは、ベース4a、5aにつながる起立壁、4c、5cは、起立壁4b、5bにつながるくの字形状をなす顎部、4d、5dは、顎部4c、5cにつながり外側に向けて凸となるアールを有する側壁、4e、5eは、側壁4d、5dの上端につながる天壁である。天壁4e、5eの端縁には、図示はしないがその部位の剛性を高めるために折返し片を設けることができる。吊子4、5としては、顎部4c、5cが軒側に位置しており、天壁4e、5eの端縁が棟側に位置していれば図示以外の吊子を適用することも可能であり、図示のものに限定されることはない。
【0020】
板材本体1に設けられた棟側ハゼ部2は、具体的には、板材本体1の幅方向の一方の端縁1cにつながり水上側に位置する吊子5の起立壁5bに沿って立ち上がる起立板2aと、該起立板2aの上端に一体連結し水上側に位置する吊子5の顎部5cにおいて連係可能な突出し部2bと、該突出し部2bにつながり水上側に位置する吊子5の側壁5dに沿って伸延する側板2cと、該側板2cの上端に水平姿勢でつながり水上側に位置する吊子5の天壁5eに沿い棟側に向けて伸延する天板2dと、該天板2dにつながるとともに水上側に位置する吊子5の天壁5eの端縁にて折り返されて該天壁5eに引っ掛かる係止片2eとを備え、該起立板2a、突出し部2b、側板2c、天板2dおよび係止片2eにてその内側に水上側に位置する吊子5の嵌合空間を区画形成する屈曲片からなるものが適用される。棟側ハゼ部2の起立板2aには、吊子5のさらに水上側において配置される他の横葺き屋根との重ねあわせによりその相互間にエアーポケットを形成する凹部2a1が設けられていて、浸透圧現象による雨水の吸い込みを防止することができるようになっている。
【0021】
棟側ハゼ部2は、それそのものの弾性変形によるスプリングバックを伴って水上側に位置する吊子5に着脱自在に嵌合するものであり、棟側ハゼ部2の嵌合空間に吊子5が嵌合した状態では、突出し部2bが吊子5の顎部5cに連係しており、係止片2eが吊子5の天壁5eの端縁に引っ掛かっていることから、屋根材同士の連結強度が高く、横葺き屋根材の板材本体1に負圧が作用しても簡単に抜け出すことがない。
【0022】
また、軒側ハゼ部3としては、該板材本体1の幅方向のもう一方の端縁1dにつながり水下側に位置する吊子4の側壁4dに沿って伸延する側板3aと、該側板3aの下端につながり水下側に位置する吊子4の顎部4cにおいて連係可能な突出し部(顎部)3bと、該突出し部3bの下端に垂下保持される舌片3cとを備え、該側板3a、突出し部3bおよび舌片3cにてその内側に水下側に位置する吊子4の嵌合空間を区画形成する屈曲片からなるものが適用される。
【0023】
上記軒側ハゼ部3も、それそのものの弾性変形によるスプリングバックを伴って水上側に位置する吊子4に着脱自在に嵌合するものであり、その嵌合空間に吊子4が嵌合した状態では、突出し部3bが吊子4の顎部4cに連係しており、横葺き屋根材の板材本体1に負圧が作用してもその嵌合が簡単に解除されることがないようになっている。
【0024】
棟側ハゼ部2の側板2c、軒側ハゼ部3の側板3aは、吊子4、5の側壁4d、5dと同様に外側に向けて凸となるアールを付与しておくのが好ましく、これにより吊子4、5との嵌合性を改善することができる。
【0025】
本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて屋根構造体を構築するには、まず、
図4(a)に示すように、吊子を必要数だけ軒から棟にかけて所定間隔で下地材(野地板)に設置、固定する(ここでは、吊子4、5、6を用いる場合についてのみ表示しており、吊子5から吊子4を見た場合に、吊子4が水下側の吊子、吊子5が水上側の吊子となり、吊子6から吊子5を見た場合、吊子5が水下側の吊子、吊子6が水上側の吊子となる。)。
【0026】
次いで、
図4(b)に示すように、板材本体1の棟側ハゼ部2の係止片2eを水上側に位置する吊子5の天壁5eに引っ掛けるとともに、
図5(a)(b)に示すように、板材本体1を軒側ハゼ部3とともに下地材に向けて倒し込んでいき、棟側ハゼ部2を水上側に位置する吊子5に向けて押し込む(踏込等による)一方、軒側ハゼ部3を水下側に位置する吊子4に押し込めばよい。これにより棟側ハゼ部2の嵌合空間に水上側の吊子5が嵌合し、軒側ハゼ部3の嵌合空間に水下側に位置する吊子4が嵌合する。
【0027】
吊子5と吊子6との間に横葺き屋根材を取り付ける場合にも基本的には、吊子4、5との間に設置される横葺き屋根材と同様の手順にしたがって取り付けることになるが、この場合、吊子5と吊子6との間に取り付ける横葺き屋根材の板材本体1の軒側ハゼ部3は、その水下側に位置する横葺き屋根材、すなわち、吊子4、吊子5の間において取り付けられる横葺き屋根材の板材本体1の棟側ハゼ部2を介して吊子5に嵌合することになる。
【0028】
横葺き屋根材を用いて屋根構造体を構築するには、上記の取り付け作業を屋根の一方のけらばからもう一方のけらばに至るまで先行して行い、その作業を終えたならば、上段側、すなわち、水上側において同様の作業を棟に至るまで繰り返し行うことになる。
【0029】
図6に、本発明にしたがう横葺き屋根材を用いて構築された屋根構造体の一部分を外観斜視図で示す。なお、本発明にしたがう横葺き屋根材は、軒先側から、あるいは、棟側からのいずれからも横葺き屋根材の取り付け施工が可能であるが、軒先側、棟側から同時に取り付け施工を行うことも可能であり、この場合には、施工時間の短縮を図ることができる利点がある。
【0030】
また、本発明にしたがう横葺き屋根材は、板材本体1の棟側ハゼ部2に予め吊子を嵌合させておき、軒先側から順に板材本体1の軒側ハゼ部3を水下側に位置する吊子に嵌合させるとともに(軒先に配置される横葺き屋根材は、吊子と同様の形状を有するスターターを用いこのスターターに板材本体1の軒側ハゼ部3を嵌合させ、軒先以外の横葺き屋根材は、板材本体1の軒側ハゼ部3を、水下側に位置する横葺屋根材の棟側ハゼ部2を介して吊子に嵌合させる。)棟側ハゼ部2に予め嵌合させた吊子を屋根の下地材に設置、固定することにより屋根構造体を構築することも可能であり、このような施工によれば、横葺き屋根材の取り付けと同時に吊子の設置、固定が行え、吊子を単独で敷き並べる手間が省ける。
【0031】
本発明にしたがう横葺き屋根材にて構築された屋根構造体につき、横葺き屋根材の部分交換を行うべく、例えば、
図5(b)において吊子4、5の間に取り付けられた横葺き屋根材を取り外すには、まず、吊子5と吊子6との間に取り付けられた横葺き屋根の板材本体1の軒側ハゼ部3と吊子5との嵌合を
図7に示す如き鉤型形状をなす取り外し用治具gを用い梃子の原理を利用して解除する。そして、次に、吊子4と吊子5との間に位置する横葺き屋根材の板材本体1の軒側ハゼ部3と吊子4との嵌合を同様の治具を用いて解除したのち、板材本体1の棟側ハゼ部2を支点に該軒側ハゼ部3を板材本体1とともに引き起こせばよく、これにより該棟側ハゼ部2が回転して該棟側ハゼ部2と水上側に位置する吊子5との嵌合が解除されることになる。
【0032】
吊子5と吊子6との間に取り付けられた横葺き屋根の板材本体1の軒側ハゼ部3と吊子5との嵌合を解除するにあたっては、棟側ハゼ部2の起立板2aの凹部2a1にて形成されたスペースを利用してそのスペースに取り外し用治具gの本体g1に設けられた先端部g2を差し入れて横葺き屋根材の取り外しを行うのがよい。取り外し用治具gとしては、横葺き屋根材の表面傷の発生を回避する観点から本体g1の背面にゴムの如き弾性部材g3を備えたものを用いることが好ましい。
【0033】
取り外した部位に新規な横葺き屋根を取り付けるには、
図4(b)、
図5(a)(b)に示したところと同様の要領で横葺き屋根材を取り付ければよく、本発明の横葺き屋根材によれば、取り換えたい屋根材の部分交換が容易に行える。
【0034】
棟側ハゼ部2の突出し部2b、軒側ハゼ部3の突出し部3bについては、吊子4、5との強固な連結を実現するために、突き出し部3bの下側壁3b1と上側壁3b2とのなす角度θを90°以下とするのが好ましく、とくに、軒側ハゼ部3の突出し部3bについてはその下側壁3b1の長さLを5mm以上とするのが望ましい(
図7参照)。
【0035】
図8は、本発明にしたがう横葺き屋根材の他の実施の形態を示した外観斜視図である。本発明にしたがう横葺き屋根材としては、
図8に示すように、軒側ハゼ部3の舌片3cを板材本体1の長さ方向の両端縁において一部分を取り除いた切り欠き部3c′を設けておくことができる。切り欠き部3c′を設けておくことより、
図9に示すように、取り外し用治具gの本体g1を起立姿勢に保持したままで切り欠き部3c′を通してその先端部g2を差し入れることが可能となり、該先端部g2の差し入れ後に本体g1を先端部g2とともに軒側ハゼ部3の舌片3cの裏側面に位置までスライドさせることにより既に吊子(4、5、6)に嵌合している横葺き屋根材の板材本体1の棟側ハゼ部2の起立板2aとの相互間に取り外し治具gの先端部g2を位置させることができ、横葺き屋根材の取り外し作業が容易となる。切り欠き部3c′の長さについては、取り外し治具gの先端部g2の挿し込みが可能な長さとして、例えば、30mm程度に設定される。
【0036】
図10に、切り欠き部3c′を設けた本発明にしたがう横葺き屋根材の長さ方向の突き合せ連結部位に取り外し用治具gを装着し該横葺き屋根材を取り外し可能状態とした外観斜視図を示す。取り外し治具gの本体g1を倒し込むことに
より既に吊子に嵌合している横葺き屋根材の板材本体1の棟側ハゼ部2とその上に嵌合している横葺き屋根材の板材本体1の軒側ハゼ部3との嵌合が解除される。
【0037】
上述したように、本発明にしたがう横葺き屋根材は、屋根構造体が既に構築された状態にあっても、他の屋根材を取り外すことなしに取り換えた部分の屋根材のみの取り換えが可能であり、屋根材の部分交換を効率的に行い得る。しかも、棟側ハゼ部2、軒側ハゼ部3はいずれも突出し部2b、3bが吊子4、5の顎部4c、5cに連係し、棟側ハゼ部2の係止片2eが吊子5の天壁5eの端縁に引っ掛かった状態で吊子4、5に嵌合することになるため、屋根材同士の連結強度も極めて高い。
【0038】
本発明の横葺き屋根材は、基本的には屋根構造体を構築するのに用いられるが、建築構造物の外壁を構築する外装材として用いることができる。この場合、外装材としての横葺き屋根材を、板材本体1の棟側ハゼ部2が軒側を向くように、また、軒側ハゼ部3が基礎側に向くように配置して屋根構造体を構築するのと同様の手順で取り付ければよく、必要に応じて部分交換も行える。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、既に構築された屋根構造体であったとしても、一部分のみの屋根材の交換を可能とする屋根材同士の連結強度の高い横葺き屋根材およびその横葺き屋根材にて構築された屋根材の部分交換方法が提供できる。
【符号の説明】
【0040】
1 板材本体
1a、1b 長さ方向の端縁
1c、1d 幅手方向の端縁
2 棟側ハゼ部
2a 起立板
2b 突出し部
2c 側板
2d 天板
2e 係止片
3 軒側ハゼ部
3a 側板
3b 突出し部
3c 舌片
4 吊子
4a ベース
4b 起立壁
4c 顎部
4d 側壁
4e 天壁
5 吊子
5a ベース
5b 起立壁
5c 顎部
5d 側壁
5e 天壁
6 吊子
d 断熱材
g 治具