(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】浸透乾燥型オフセット印刷インキ、印刷物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/105 20140101AFI20221216BHJP
C09D 11/037 20140101ALI20221216BHJP
【FI】
C09D11/105
C09D11/037
(21)【出願番号】P 2018186620
(22)【出願日】2018-10-01
【審査請求日】2021-08-19
(73)【特許権者】
【識別番号】310000244
【氏名又は名称】DICグラフィックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【氏名又は名称】小川 眞治
(72)【発明者】
【氏名】田島 哲士
(72)【発明者】
【氏名】田中 龍太
(72)【発明者】
【氏名】立川 正明
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-057461(JP,A)
【文献】特開2004-026983(JP,A)
【文献】特開2015-199796(JP,A)
【文献】特開2015-083637(JP,A)
【文献】特開2015-120869(JP,A)
【文献】特開2017-110141(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00
B41M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着色顔料と、
固形分酸価が1mgKOH/g以上5mgKOH/g以下であるか、固形分水酸基価が5mgKOH/g以上15mgKOH/g以下であり、油長が50%以上90%以下であるアルキッド樹脂と、
25℃における粘度が50dPa・s以上150dPa・s以下である重合アマニ油と、を含み、
前記アルキッド樹脂の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、前記重合アマニ油の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、前記アルキッド樹脂の含有量と前記アマニ油の含有量の合計が2質量%以上10質量%以下である浸透乾燥型オフセット印刷インキ。
【請求項2】
前記重合アマニ油の25℃における粘度が50dPa・s以上
100dPa・s以下である請求項1に記載の浸透乾燥型オフセット印刷インキ。
【請求項3】
前記着色顔料が、ジブチルフタレート吸油量が50cm
3/100g以上70cm
3/g以下のカーボンブラックを含むことを特徴とする請求項1または2のいずれか一項に記載の浸透乾燥型オフセット印刷インキ。
【請求項4】
前記着色顔料に占める前記ジブチルフタレート吸油量が50cm
3/100g以上70cm
3/g以下のカーボンブラックの割合が10量%以上であることを特徴とする請求項3に記載の浸透乾燥型オフセット印刷インキ。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の浸透乾燥型オフセット印刷インキにより印刷されたことを特徴とする印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浸透乾燥型オフセット印刷インキおよび当該浸透乾燥型オフセット印刷インキ組成物を用いて印刷された印刷物に関する。
【背景技術】
【0002】
主に新聞印刷に用いられる浸透乾燥型のオフセット印刷インキは、紙に印刷されたインキ塗膜のうち石油系溶剤や植物油等の溶剤成分が毛細管現象で紙の内部に浸透し、紙の表面に残った顔料や樹脂等の固形分が固形被膜を形成するという乾燥方式をとっている。浸透乾燥型オフセット印刷機におけるインキの供給方式は、印刷機の高速化や紙面品質の向上に伴い、壷方式、レール方式が主流となっている。
【0003】
浸透乾燥型オフセット印刷インキでは、インキ塗膜からの溶剤成分の離脱が早すぎる(セット時間が短い)とガイドロール残りや後胴残りといった不具合を引き起こしやすくなること、インキに使用される炭酸カルシウムやカオリン、有機ベントナイトといった体質顔料の含有量の増加に伴ってインキのセット性が早くなること、体質顔料の含有量が減少するとインキのセット性は遅くなるが流動性が高くなることが知られている。また、アルキッド樹脂には印刷インキのセット性を遅くする効果がある一方、インキの流動性を高くする効果があることが知られている。インキの流動性が高くなると壺ダレやミスチング等の不具合が生じやすくなり、流動性が低いと壺上がりやインキの転移不良といった不具合が生じる(特許文献1、2)。
【0004】
さらに近年、印刷用紙の減斤化が進んでいる。減斤紙は、紙表面の強度不足を補うために表面紙力剤等の塗工量を増やす傾向にあるが、一般的に塗工量の増加に伴いセット性が早くなる。また減斤紙は印刷インキの裏抜けを起こしやすく、これを抑制するため薄膜印刷を行うことがある。薄膜印刷は、紙等の基材に印刷されるインキの膜厚を通常よりも薄くして印刷することをいい、この際印刷濃度が低下しないよう顔料濃度を従来よりも高めた印刷インキを用いることが多い。インキの膜厚が薄い分、インキ塗膜から離脱する溶剤量も少なく、当然セット時間は早くなる傾向にある。さらに高濃度墨インキの場合は顔料濃度も高いため、この傾向に拍車がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-213112号公報
【文献】特開2017-110141号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように、近年浸透乾燥型オフセット印刷インキを用いた印刷をとりまく環境にはセット時間が早くなる要因が増えている。しかしながら既知の手法でインキのセット性を調整しようとすると、上述したようにセット性が遅くなるにつれて流動性が高くなるため、流動性を好適な範囲に収めようとするとセット性を十分に遅くできない。即ち浸透乾燥型オフセット印刷インキにおいてセット性と流動性の双方を浸透乾燥型のオフセット印刷に好適な範囲に収め、ガイドロール残りや後胴残りといったセット性に起因する不具合と、壺ダレやミスチングといった流動性に起因する不具合の双方を高度に抑制することは困難であった。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みなされたものであって、セット性と流動性に優れた浸透乾燥型オフセット印刷インキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、着色顔料と、アルキッド樹脂と、重合アマニ油と、を含み、アルキッド樹脂の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、重合アマニ油の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、アルキッド樹脂の含有量とアマニ油の含有量の合計が2質量%以上10質量%以下である浸透乾燥型オフセット印刷インキに関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の浸透乾燥型オフセット印刷インキによれば、セット性と流動性の双方を浸透乾燥型のオフセット印刷に好適な範囲に収めることができ、ガイドロール残りや後胴残りといったセット性に起因する不具合と、壺ダレやミスチングといった流動性に起因する不具合の双方を高度に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<浸透乾燥型オフセット印刷インキ>
本発明の浸透乾燥型オフセット印刷インキは、着色顔料と、アルキッド樹脂と、重合アマニ油と、を含み、アルキッド樹脂の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、重合アマニ油の含有量が1質量%以上7質量%以下であり、アルキッド樹脂の含有量とアマニ油の含有量の合計が2質量%以上10質量%以下である。以下、本発明の浸透乾燥型オフセット印刷インキについて詳述する。また、以下では浸透乾燥型オフセット印刷インキを単に印刷インキともいう。
【0011】
本発明の印刷インキに用いる着色顔料としては特に限定されず、種々の有機顔料、無機顔料を用いることができる。例えば、イエロー顔料としては、ジスアゾイエロー(ピグメントイエロー12、ピグメントイエロー13、ピグメントイエロー17、ピグメントイエロー1)、ハンザイエロー等が挙げられ、マゼンタ顔料としては、ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド等が挙げられる。シアン顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー等が挙げられ、ブラック顔料としてはファーネスカーボンブラック、チャンネルブラックなどのカーボンブラック、アニリンブラック等が挙げられる。
【0012】
着色顔料がイエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料等のカラー顔料である場合には、着色顔料の含有量は印刷インキ全量に対し7質量%以上21質量%の範囲で調整される。通常は印刷インキ全量の7質量以上17質量%以下の範囲で調整されるが、薄膜印刷に用いるような場合には11質量%以上21質量%以下とすることが好ましい。
着色顔料がカーボンブラックのような黒色顔料である場合には、着色顔料の含有量は印刷インキ全量に対し15質量%以上38質量%以下の範囲で調整される。通常は15質量%以上21質量%以下の範囲で調整されるが、薄膜印刷に用いるような場合には25質量%以上38質量%以下とすることが好ましい。
【0013】
本発明は通常の印刷に用いられる程度の顔料濃度の印刷インキでも十分に効果を発揮するが、薄膜印刷に用いられるような高濃度で着色顔料を含む印刷インキ、特に高濃度で黒色顔料を含む高濃度墨インキに好適である。薄膜印刷ではインキの膜厚が薄いためにセット時間は早く、特に上述したように顔料の含有量が25質量%以上である高濃度墨インキにこの傾向が顕著であるが、本発明によれば高濃度墨インキであってもセット性と流動性を好適な範囲とすることができる。
【0014】
着色顔料がカーボンブラックである場合、DBP(ジブチルフタレート)吸油量が50cm3/100g以上70cm3/100g以下のカーボンブラックを用いることが好ましい。高濃度墨インキでは顔料濃度の高さに起因してセット性が早くなる傾向があるが、本発明の印刷インキにおいては、このようなカーボンブラックを用いることで流動性の上昇を抑制しつつセット性を遅くすることができる。
【0015】
カーボンブラック全量に占めるDBP吸油量が50cm3/100g以上70cm3/100g以下のカーボンブラックの割合は、セット時間との兼ね合いで適宜調整すればよい。一例として10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、20質量%以上であることがさらに好ましい。カーボンブラックの全量が、DBP吸油量が50cm3/100g以上70cm3/100g以下のカーボンブラックであってもよい。
【0016】
本発明の印刷インキは、体質顔料を含んでいてもよい。体質顔料としては特に限定されず、ろう石クレー等のクレー、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム、炭酸バリウム、シリカ、有機ベントナイト、酸化チタン等、公知のものを1種類または2種類以上用いることができる。これらの体質顔料は、ロジン酸などにより表面処理されていてもよいし、未処理であってもよい。
【0017】
本発明の印刷インキは、ワニスを含む。ワニスの樹脂成分としては、フェノール樹脂、石油樹脂、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂変性フェノール樹脂、ロジンエステル、アルキッド樹脂、変性アルキッド樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ギルソナイト樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられ、特に制限はない。これらの樹脂の中でも、ロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂及びギルソナイト樹脂が好ましく用いられ、いずれの樹脂を用いるかについては着色顔料との組み合わせにより適宜選択される。
【0018】
イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料等のカラー顔料を用いた印刷インキにはロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂を用いることが好ましい。カーボンブラック顔料を用いた印刷インキにはロジン変性フェノール樹脂、石油樹脂、ギルソナイト樹脂を用いることが好ましい。
【0019】
ロジン変性フェノール樹脂は、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン、天然ロジン等のロジン類と、アルキルフェノールと、ホルムアルデヒドと、グリセリン、ペンタエリスリトールなどのポリオールとを反応させて得る。重量平均分子量は10,000~300,000のものが好ましい。
【0020】
石油系樹脂は、石油化学の製造工程から得られる不飽和炭化水素を原料とし、これらを精製、重合して得られる芳香族及び脂肪族の炭化水素樹脂である。JX日鉱日石エネルギー株式会社製の「ネオポリマー120」、「ネオポリマー140」、「ネオポリマー170S」、東ソー株式会社製の「ペトコール120」、「ペトコール140」などが挙げられる。
【0021】
ギルソナイト樹脂は、天然鉱脈より採掘された天然アスファルタイトから抽出された軟化点110~180℃の脂肪族炭化水素系樹脂である。主成分としてはアスファルテン、樹脂、油分からなり、アメリカンギルソナイト社製のもの等が挙げられる。
【0022】
ワニスは、上述した樹脂と植物油や石油系溶剤等の溶剤に、必要に応じてキレート化剤、その他助剤を添加し、加熱撹拌して得られる。
【0023】
植物油としては、ヒマシ油、落花生油、オリーブオイルなどの不乾性油、大豆油、綿実油、菜種油、ゴマ油、コーン油などの半乾性油、アマニ油、エノ油、桐油などの乾性油、再生植物油、植物エステル等の植物由来成分などを用いることができる。
【0024】
植物油類として、再生植物油を使用することもできる。再生植物油とは、調理等に使用された油を回収し、再生処理された植物油のことである。再生植物油としては、含水率を0.3質量%以下、ヨウ素価を90以上、酸価を3以下として再生処理した油が好ましく、より好ましくはヨウ素価100以上である。含水率を0.3質量%以下にすることにより水分に含まれる塩分等のインキの乳化挙動に影響を与える不純物を除去することが可能となり、ヨウ素価を90以上として再生することにより、乾燥性、すなわち酸化重合性の良いものとすることが可能となり、さらに酸価が3以下の植物油を選別して再生することにより、インキの過乳化を抑制することが可能となる。回収植物油の再生処理方法としては、濾過、静置による沈殿物の除去、および活性白土等による脱色といった方法が例示される。
【0025】
脂肪酸エステル類としては、例えば、大豆油脂肪酸メチルエステル、大豆油脂肪酸ブチルエステル、大豆油脂肪酸イソブチルエステル、大豆油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、亜麻仁油脂肪酸ブチルエステル、アマニ油脂肪酸イソブチルエステル、トール油脂肪酸ブチルエステル、トール油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、トール油脂オクチルエステル、トール油脂肪酸ペンタエリスリトールエステル、パーム油脂肪酸メチルエステル、パーム油脂肪酸ブチルエステル、パーム油脂肪酸イソブチルエステル、パーム油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、ヒマシ油脂肪酸ブチルエステル、ヒマシ油脂肪酸イソブチルエステル、ヒマシ油脂肪酸2-エチルヘキシルエステル等が挙げられる。
【0026】
石油系溶剤としては、炭素数6~20の炭化水素が好ましく用いられる。具体的には、n-ペンタン、イソペンタン、n-ヘキサン、2-メチルペンタン、n-ヘプタン、n-オクタン、トリメチルペンタンなどのパラフィン系溶剤、シクロヘキサン、シクロヘキシルメタン、オクタデシルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサンなどのナフテン系溶剤、JX日鉱日石エネルギー株式会社製の「AFソルベント4号」、「AFソルベント5号」、「AFソルベント6号」、「AFソルベント7号」等が挙げられる。
【0027】
キレート化剤としては、例えば、アルミニウムn-ブトキシド、アルミニウム-iso-ブトキシド、アルミニウム-sec-ブトキシドの誘導体で、n-ブトキシ基、iso-ブトキシ基、sec-ブトキシ基の各々の基の一つが、エチルアセテート、又は、メチルアセトアセテートで置換された化合物等を使用することができる。
【0028】
本発明の印刷インキは、アルキッド樹脂と、重合アマニ油とを含む。本発明者らが鋭意検討したところによれば、アルキッド樹脂は印刷インキのセット性を遅くし、同時に印刷インキの流動性を向上させる効果がある。しかしながらその程度は、同じくセット性、流動性に影響を与える要因として知られているインキ中の着色顔料や体質顔料の含有量の増減に伴う変動量とは当然ながら相違がある。例えば高濃度インキのように着色顔料の含有量を増加させるとセット性が早く、流動性が低くなるが、このような印刷インキのセット性をアルキッド樹脂の添加により所望の範囲まで遅くしようとすると流動性が高くなりすぎる。そこでアルキッド樹脂と重合アマニ油を併用したところ、流動性の向上を抑制しつつセット性の遅延が可能となることを見出した。
【0029】
本発明で用いられるアルキッド樹脂(アルキド樹脂ともいう)は、多塩基酸とポリオールとのポリエステルを基体として油、脂肪酸で変性した樹脂である。本発明の印刷インキにおけるアルキッド樹脂の含有量は1質量%以上7質量%以下である。印刷インキにおけるアルキッド樹脂の含有量が少なすぎると印刷インキのセット性を遅くする効果が薄く、多すぎると相対的に印刷インキの他の成分の含有量が少なくなり、印刷インキの物性に影響を与える恐れがある。
【0030】
アルキッド樹脂の調整に用いられる多塩基酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、無水ハイミック酸(日立化成工業(株)製品。登録商標)、トリメリット酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸またはピロメリット酸、不飽和脂肪酸から誘導されたダイマー酸類、あるいはこれらの無水物などが挙げられ、単独または2種以上を混合して用いられる。インキの乳化適性を考慮すれば、芳香族カルボン酸が好ましい。
【0031】
アルキッド樹脂の調整に用いられるポリオールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)、2,2-ジアルキル-1,3-プロパンジオール、2,4,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール、ブチレングリコール、水添ビスフェノールAなどの脂環構造を有するジオール類、ビスフェノールAのエチレンオキサイドの付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイドの付加物などの二価アルコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパンまたはペンタエリスリトール等が挙げられ、単独または2種以上を混合して用いられる。
【0032】
また上述した多塩基酸とポリオールに加えて、カルボキシル基を含むポリオールを用いてもよい。カルボキシル基を含むポリオールとしては、ジメチロールプロピオン酸、ジメチロールブタン酸、ジフェノール酸等が挙げられ、単独または2種以上を混合して用いられる。
【0033】
変性に用いる油、脂肪酸としては、アマニ油、大豆油、コーン油、ヒマワリ油、オリーブ油、ゴマ油、サフラワー油、支那桐油、麻実油、エノ油、トール油、米糠油、ヒマシ油、脱水ヒマシ油、菜種油、綿実油、やし油、魚油、いか肝油などの動植物油ならびにそれらの脂肪酸、ハイ・ジエン脂肪酸などヨウ素価(単位は100gの試料に結合したヨウ素の質量(g))が100以上の不飽和脂肪酸等が挙げられ、単独または2種以上を混合して用いられる。
【0034】
本発明で用いられるアルキッド樹脂は、特に制限はないが、固形分酸価が1mgKOH/g以上5mgKOH/g以下であるか、固形分水酸基価が5mgKOH/g以上15mgKOH/g以下の範囲にあるものが好ましい。アルキッド樹脂の固形分酸価は1.5mgKOH/g以上5mgKOH/g以下のアルキッド樹脂であることがより好ましい。また、固形分酸価が1mgKOH/g以上5mgKOH/g以下であり、かつ固形分水酸基価が5mgKOH/g以上15mgKOH/g以下であるアルキッド樹脂を用いることがさらに好ましい。このようなアルキッド樹脂を含むことにより、光沢に優れた印刷物を得ることができ、一般的なアルキッド樹脂をワニス成分として含む場合に起こりうる印刷インキの過乳化も抑制することができる。
【0035】
また、着色顔料を高濃度化する際に、アルキッド樹脂の油長は着色顔料の分散性や練肉性、印刷インキの流動性等に影響を及ぼす。一般に油長が低過ぎると顔料分散性や流動性の向上させる効果が薄く、高過ぎると印刷時に汚れが発生しやすくなる。本発明に用いるアルキッド樹脂の油長は50%以上90%以下であることが好ましい。
【0036】
本発明で用いられる重合アマニ油は、アマニ油を加熱、撹拌して得られる。重合反応は熱重合であってもよいし、酸化重合であってもよい。本発明の印刷インキにおける重合アマニ油の含有量は1質量%以上7質量%以下である。印刷インキにおける重合アマニ油の含有量が少なすぎるとセット性、流動性の調整効果が十分に得られないおそれがあり、多すぎると相対的に印刷インキの他の成分の含有量が少なくなり、印刷インキの物性に影響を与える恐れがある。
【0037】
本発明で用いられる重合アマニ油は、25℃における粘度が50dPa・s以上であるものが好ましく、70dPa・s以上であるものがより好ましく、80dPa・s以上であるものがより好ましい。25℃における粘度が50dPa・s未満であると、アルキッド樹脂の含有量次第では流動性の向上を十分抑制できないおそれがある。重合アマニ油の粘度の上限は特に制限はないが、粘度が大きすぎると生産性に影響を与える可能性がある。この観点から重合アマニ油のE型粘度系で測定した25℃にける粘度は150dPa・s以下であることが好ましく、120dPa・s以下であることがより好ましく、100dPa・s以下であることがより好ましい。重合アマニ油の粘度はE型粘度計を用い、コーン・ロータ:3°×R24、回転数:100rmpで測定する。
【0038】
本発明で用いられる重合アマニ油は、重合後のヨウ素価が110以下であるものが好ましく、105以下であるものがより好ましい。これにより、経時安定性に優れた印刷インキとすることができる。
【0039】
本発明の印刷インキに含まれるアルキッド樹脂と重合アマニ油の含有量の合計は、印刷インキの2質量%以上10質量%以下である。アルキッド樹脂と重合アマニ油の含有量の合計が2質量%未満であると、セット性、流動性の調整効果が十分に得られないおそれがある。10質量%を超えると徐々に効果が頭打ちとなり、またアルキッド樹脂の酸価、水酸基価次第では印刷時にインキが過乳化したり、印刷機のローラー間でインキの転移不良が生じたりするおそれがある。アルキッド樹脂と重合アマニ油の含有量の合計は、印刷インキの4質量%以上であることがより好ましい。アルキッド樹脂と重合アマニ油の含有量の合計は、印刷インキの8質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
本発明の印刷インキは、必要に応じて皮張り防止剤、粘度調整剤、ポリエチレン系やフッ素系の皮膜強化剤、分散剤、汚れ防止剤、乳化調整剤、酸化防止剤等の助剤を含んでいてもよい。これらの助剤としては、従来公知のものを好適に用いることができる。
【0041】
<製造方法>
本発明の印刷インキは、上記の原料を用い、従来公知の方法で製造することができる。一例として、樹脂、植物油、石油系溶剤等を用いて調整したワニスに、着色顔料、必要に応じて体質顔料、溶剤および他の添加剤を添加し、攪拌機で充分にプレミキシングを行なった後、ショットミル、ロールミル等で練肉を行う。練肉後、さらにワニス、石油系溶剤、植物油、その他ワックス、酸化防止剤、乳化調整剤等の助剤を添加し、充分に攪拌混合する。アルキッド樹脂および重合アマニ油は、プレミキシングの際に添加してもよいし、練肉後に添加してもよい。アルキッド樹脂と重合アマニ油を同時に添加してもよいし、例えはアルキッド樹脂をプレミキシングの際に添加し、重合アマニ油を練肉後に添加するなど異なる段階で添加してもよい。
【0042】
これらの原料は印刷インキに必要とされる粘度や流動性に合わせて使用量を調整する。また、これらの原料の添加時期は固定されたものではなく、混合状態に基づいて適切に調整される。
【実施例】
【0043】
以下、実施例と比較例により本発明を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。配合組成その他の数値は特記しない限り質量基準である。
【0044】
1.材料の調整
1.1 ロジン変性フェノール樹脂ワニスの調整
コンデンサー、温度計、攪拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(重量平均分子量100,000、軟化点161℃、酸価18.0mgKOH/g):45部、大豆油(日清オイリオ株式会社製):25部、AFソルベント6号:14.5部を仕込み、180℃で1時間加熱攪拌した。その後AFソルベント6号:15部、アルミニウムエチルアセトアセテート・ジイソプロピレート(ALCH-50F 川研ファインケミカル株式会社製):0.5部を加え、ロジン変性フェノール樹脂ワニスを得た。このロジン変性フェノール樹脂ワニスを実施例及び比較例で使用した。
【0045】
1.2 アルキッド樹脂の調整
攪拌機、精留塔および温度計つきの反応釜に、大豆油:700部、グリセリン:48.5部、ペンタエリスリトール:53.8部を入れ、250℃で1時間保持してアルコール交換反応を行った。150℃に冷却し、イソフタル酸:250.8部、環流用のキシレンを加えて250℃まで徐々に加熱した後8時間保持して脱水しながらエステル化反応を行った。250℃を保持しながら2時間減圧反応を行ってキシレンを除き、固形分酸価3.5mgKOH/g、固形分水酸基価11.0mgKOH/g、油長70のアルキッド樹脂を得た。
【0046】
1.3 ギルソナイト樹脂ワニスの調整
コンデンサー、温度計、攪拌機を装着した四つ口フラスコに、ギルソナイト樹脂(アメリカンギルソナイト社製 ギルソナイトセレクト347):25部、大豆油:75部を仕込み、150℃で1時間加熱攪拌してギルソナイト樹脂ワニスを得た。
【0047】
2.印刷インキの調整
カーボンブラック、ロジン変性フェノール樹脂ワニス、アルキッド樹脂、重合アマニ油、ギルソナイト樹脂ワニスを、表2、3に示す配合に従い3本ロールミルにて印刷インキ中の粗大粒子の粒径が5μm以下になるよう練肉分散し、大豆油、石油系溶剤(AFソルベント6号)、乾燥防止剤を混合して実施例、比較例、参考例の印刷インキを得た。なお表中における乾燥防止剤は、2,6-ジ-ターシャリーブチル-4-クレゾール(H-BHT、本州化学工業株式会社製)を、2,6-ジターシャリーブチル-4-クレゾールの濃度が15質量%となるように石油系溶剤に溶解させたものを用いた。
【0048】
なお、実施例、比較例で使用したカーボンブラックは以下のようなものである。
【0049】
【0050】
重合アマニ油は、E型粘度計を用い、コーン・ロータ:3°×R24、回転数:100rmpでで測定した25℃における粘度が90.0dPa・sのものを用いた。
【0051】
3.評価
3.1流動性
「新聞オフセット輪転インキの試験方法 団体規格:2000(新聞インキ協会発行)」の4.1.4(ガラス板流度系による流動性の試験方法)に従い、流動性を評価した。この試験方法は、表面が平滑なガラス板を垂直に立て、一定量のインキ試料が自重によって一定時間内にガラス板上を流れた長さを測定することにより流動性を評価する。
印刷インキの流動性は、印刷時の様々なトラブルと関係がある。流動性が高過ぎる場合は壺ダレ、ミスチング等の懸念があり、流動性が低過ぎる場合には壺上がりや転移不良が生じやすい。以下の4段階で評価した。
〇 :30mm以上60mm以下
△ :60mmを超え100mm以下
×1:100mmを超えた
×2:30mm未満
【0052】
3.2セット性
RIテスターを用いて展色試料を作成した。展色試料の展色面に白紙を重ね、これをインキセット時間測定機にはさんで一定時間ごとに位置をずらしながら加圧し、インキが白紙に移らなくなるまでの時間を測定した。以下の3段階で評価した。
〇:40分以上
△:30分以上40分未満
×:30分未満
【0053】
【0054】
【0055】
実施例、比較例から明らかなように、本発明の印刷インキは、流動性、セット性が良好であった。
一方、アルキッド樹脂と重合アマニ油を併用しなかった比較例の印刷インキは、流動性とセット性の双方を良好な範囲に収めることはできなかった。