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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】環境試験室、及び、空気調和システム
(51)【国際特許分類】
   G01N 17/00 20060101AFI20221216BHJP
   F24F 13/02 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G01N17/00
F24F13/02 D
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018198731
(22)【出願日】2018-10-22
(65)【公開番号】P2020067306
(43)【公開日】2020-04-30
【審査請求日】2021-06-22
(73)【特許権者】
【識別番号】595145050
【氏名又は名称】株式会社日立プラントサービス
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 真
(72)【発明者】
【氏名】杉谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】山田 剛史
【審査官】原 泰造
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-075542(JP,A)
【文献】特開昭61-089428(JP,A)
【文献】特開2006-294664(JP,A)
【文献】特開2007-003107(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
F24F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定風速で所定温度の空調空気が供給される供給口と、
前記供給口に対向配置され、前記空調空気が排出される排出口と、
前記供給口と前記排出口との間に配置され、前記空調空気が通る流路部と、
前記流路部の中央付近に配置され、光学測定の測定対象物が設置される設置部と、
前記流路部の側壁面と前記設置部との間に配置され、前記空調空気の気流を整流する整流部材と、を備え、
前記流路部の側壁面と前記整流部材は、前記供給口から前記排出口に向かって流れる前記空調空気の気流方向と平行になるように配置され、
前記整流部材は、展開及び収納が可能なカーテンで構成され、
前記流路部の天井面には、前記カーテンを吊るす吊下げ部材をはめ込んで滑らせるカーテンレールが設けられ、
前記流路部の床面には、前記カーテンを固定するフック部が設けられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項2】
所定風速で所定温度の空調空気が供給される供給口と、
前記供給口に対向配置され、前記空調空気が排出される排出口と、
前記供給口と前記排出口との間に配置され、前記空調空気が通る流路部と、
前記流路部の中央付近に配置され、光学測定の測定対象物が設置される設置部と、
前記流路部の側壁面と前記設置部との間に配置され、前記空調空気の気流を整流する整流部材と、を備え、
前記流路部の側壁面と前記整流部材は、前記供給口から前記排出口に向かって流れる前記空調空気の気流方向と平行になるように配置され、
前記流路部の天井面と前記設置部との間に配置された別の整流部材を備え、
前記別の整流部材は、前記空調空気の気流方向と平行になるように配置されており、
前記別の整流部材の素材として、輻射断熱材が用いられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項3】
請求項に記載の環境試験室において、
前記別の整流部材は、板状の物で構成されており、スペーサを介して前記流路部の天井面に取り付けられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項4】
請求項に記載の環境試験室において、
前記別の整流部材は、布状の物で構成されており、吊下げ固定部材によって前記流路部の天井面に取り付けられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項5】
所定風速で所定温度の空調空気が供給される供給口と、
前記供給口に対向配置され、前記空調空気が排出される排出口と、
前記供給口と前記排出口との間に配置され、前記空調空気が通る流路部と、
前記流路部の中央付近に配置され、光学測定の測定対象物が設置される設置部と、
前記流路部の側壁面と前記設置部との間に配置され、前記空調空気の気流を整流する整流部材と、を備え、
前記流路部の側壁面と前記整流部材は、前記供給口から前記排出口に向かって流れる前記空調空気の気流方向と平行になるように配置され、
前記整流部材は、前記設置部の両側壁面と天井面とを囲むように、正面視で逆U時状に配置されている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の環境試験室において、
前記整流部材の上端部と前記流路部の天井面との間、及び、前記整流部材の下端部と前記流路部の床面との間に、隙間が設けられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項7】
請求項2乃至請求項5のいずれか一項に記載の環境試験室において、
前記整流部材は、展開及び収納が可能なカーテンで構成されている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項8】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の環境試験室において、
前記整流部材の素材として、輻射断熱材が用いられている
ことを特徴とする環境試験室。
【請求項9】
請求項1乃至請求項のいずれか一項に記載の環境試験室と、
前記環境試験室の排出口から排出された空調空気を前記環境試験室の供給口に戻す循環流路と、
前記循環流路に設けられ、前記空調空気を送風する送風機と、
前記循環流路に設けられ、前記空調空気を加熱するヒータと、
前記環境試験室の供給口付近に設けられ、前記空調空気を予め設定された設定空気温度まで加熱する蓄熱体と、を備える
ことを特徴とする空気調和システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境試験室、及び、空気調和システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、天文観測のための光学機器は、レンズの表面形状や構造体寸法についてナノメートル(nm)オーダーの高精度な測定が必要である。その測定方法として、レーザー干渉計等の光学測定機器による光学測定が一般に用いられる。
【0003】
しかしながら、大気圧環境下でレーザー干渉計を使用する場合に、大気の温度や湿度、圧力等のゆらぎによるばらつきが測定に影響を与えることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。そのため、高精度な光学測定を行う際は、光路空間を真空にして、大気の温度や湿度、圧力等のゆらぎの影響を無くした状態で測定することが一般的である(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
また、大気圧環境下で高精度な測定を行うために、空調制御によって測定環境を安定化させることが提案されている(例えば、特許文献1参照)。光学機器の測定では、例えば特許文献1に記載された局所空間を環境試験室とし、測定対象物(試験対象)や光学測定機器を環境試験室に設置して光学測定を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-003107号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】赤津利雄著「精密位置決め用変位センサーの現状と問題点」、掲載誌「光学」、第22巻第6号、掲載ページ329~334、1993年6月
【文献】寺田聡一著「長さ標準:レーザー測長における真空および大気の影響」、掲載誌「Journal of the Vacuum Society of Japan」、第52巻第6号、掲載ページ347~350、2009年7月15日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
大気(空気)の温度や湿度、圧力等にゆらぎがあると、空気の屈折率が変動して、光学測定のばらつきが発生する可能性がある。従来の環境試験室は、高精度な光学測定を行うために、大気の温度や湿度、圧力等のゆらぎを抑制すること(つまり、大気を安定化させること)を考慮するものであった。しかしながら、本発明の発明者は、大気の温度や湿度、圧力等でなく、環境試験室内に設置される測定対象物(試験対象)や光学測定機器に温度のゆらぎがあると、これらの表面形状や構造体寸法が変動して、光学測定のばらつきが発生する可能性があることを解明した。そして、従来の環境試験室は、測定対象物や光学測定機器の温度のゆらぎを抑制することを考慮していないものであった。このような従来の環境試験室は、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことが困難であった。なお、測定対象物や光学測定機器の温度のゆらぎは、例えば、環境試験室の内部の熱対流からの熱伝達や、壁や床からの放射熱によって発生する。
【0008】
例えば、環境試験室の周囲の温度が空調空気の設定温度より低い場合に、環境試験室の壁面の温度は空調空気の温度より低くなる。また、例えば、環境試験室の周囲の温度が空調空気の設定温度より高い場合に、環境試験室の壁面の温度は空調空気の温度より高くなる。これらの温度差によって、環境試験室の内部で熱対流が発生する可能性がある。従来の環境試験室は、その熱対流を考慮した構成になっていなかった。その熱対流温度は、空調空気の温度と違っている。そのため、従来の環境試験室は、熱対流が測定対象物(試験対象)や光学測定機器を設置している空間に侵入することで、測定対象物や光学測定機器の温度が変化するため、光学測定のばらつきが発生する可能性があった。また、測定対象物や光学測定機器は、空調空気の設定温度と同じ温度になることが期待されるが、前記の状況では測定対象物や光学測定機器と環境試験室の壁面の間には温度差が生じ、測定対象物や光学測定機器と環境試験室の壁面の間で放射熱による熱の授受が発生する。その結果、環境試験室周囲の温度変化によって測定対象物や光学測定機器の温度が変化するため、光学測定のばらつきが増大する可能性があった。従来の環境試験室は、測定対象物や光学測定機器の表面形状や構造体寸法が変動しないように、測定対象物や光学測定機器の温度を安定化させることについては考慮されていない。そのため、このような従来の環境試験室は、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことが困難であった。
【0009】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、大気圧環境下で高精度な光学測定を可能にすることを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明は、環境試験室であって、所定風速で所定温度の空調空気が供給される供給口と、前記供給口に対向配置され、前記空調空気が排出される排出口と、前記供給口と前記排出口との間に配置され、前記空調空気が通る流路部と、前記流路部の中央付近に配置され、光学測定の測定対象物が設置される設置部と、前記流路部の側壁面と前記設置部との間に配置され、前記空調空気の気流を整流する整流部材と、を備え、前記流路部の側壁面と前記整流部材は、前記供給口から前記排出口に向かって流れる前記空調空気の気流方向と平行になるように配置され、前記整流部材は、展開及び収納が可能なカーテンで構成され、前記流路部の天井面には、前記カーテンを吊るす吊下げ部材をはめ込んで滑らせるカーテンレールが設けられ、前記流路部の床面には、前記カーテンを固定するフック部が設けられている構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態1に係る環境試験室を含む空気調和システム全体の構成図である。
図2】実施形態1に係る環境試験室の構成図である。
図3】実施形態1に係る環境試験室の内部で発生する熱対流の説明図である。
図4】比較例の環境試験室の構成図である。
図5】比較例の環境試験室の内部で発生する熱対流の説明図である。
図6】環境試験室内における測定対象物の配置例を示す説明図である。
図7】光学測定のばらつきの要因を示す説明図である。
図8】実施形態2に係る環境試験室の構成図(1)である。
図9】実施形態2に係る環境試験室の構成図(2)である。
図10A】カーテンを吊るす吊下げ部材とカーテンレールの構成図である。
図10B】吊下げ部材の構成図である。
図10C】吊下げ部材の変形例の構成図である。
図10D】吊下げ部材の別の変形例の構成図である。
図11A】カーテンを固定するフック部とゴムバンドの構成図である。
図11B】フック部の構成図である。
図11C】ゴムバンドの構成図である。
図12A】第1変形例の環境試験室の構成図(1)である。
図12B】第1変形例の環境試験室の構成図(2)である。
図13】第2変形例の環境試験室の構成図である。
図14】第3変形例の環境試験室の構成図である。
図15】第4変形例の環境試験室の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示してあるに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0014】
[実施形態1]
<環境試験室を含む空気調和システム全体の構成>
以下、図1を参照して、本実施形態1に係る環境試験室を含む空気調和システム全体の構成について説明する。図1は、本実施形態1に係る環境試験室を含む空気調和システム全体の構成図である。
【0015】
図1に示すように、空気調和システム1は、除湿部3、乾燥空気調温部4、乾燥空気加熱部5、循環流路6、送風機41、ヒータ51,54、蓄熱体55等を備えている。空気調和システム1は、循環流路6を介して環境試験室2の排出口2outから排出される空気を空気調和して環境試験室2の供給口2inに戻し、システム内で空調空気を循環させる。
【0016】
除湿部3は、デシカント空調機30等の除湿機を備え、環境試験室2から排出される空気に外気を混合した空気を除湿して得られる乾燥空気を乾燥空気調温部4へ送気する。乾燥空気調温部4は、除湿部3から送気される乾燥空気を環境試験室2の内部の設定空気温度よりもやや低い温度に調温し、乾燥空気加熱部5へ送気する。乾燥空気加熱部5は、環境試験室2の内部の設定空気温度まで加熱して環境試験室2内に送気する。
【0017】
ここで、環境試験室2内は、断熱パネル等からなる外壁によって外気から遮断されている。環境試験室2には、空気調和システム1で空気調和された空気のみが供給される。そして、環境試験室2内の中央付近には、光学測定の測定対象物やレーザー干渉計等の光学測定機器を設置する設置部102が設けられている。設置部102には、防振架台21等が設置されており、その防振架台21上には、測定対象物や光学測定機器が載置される。環境試験室2の詳細については、「環境試験室の構成」の章で説明する。
【0018】
空気調和システム1の乾燥空気加熱部5は、通常、環境試験室2の特定の側面全体に分布して設置され、乾燥空気加熱部5から送気された空気は、環境試験室2の中を、乾燥空気加熱部5を設置した側面からそれに対向する側面に向かって流れ、その大半が除湿部3側へ排出され、空気調和システム1内を還流するとともに、一部が外気へ排出される。なお、外気への排気ダクトには、その排出量を調節するバルブ23が設けられている。
【0019】
除湿部3は、デシカント空調機30を主な構成要素として備え、環境試験室2から排出された空気及び外気がそれぞれクーラ31,34で除湿に適した温度に冷却された上で混合されて、デシカント空調機30に供給される。クーラ31,34の出口には、それぞれ温度センサ32,35が設けられており、制御装置(図中ではPIDと記載)33,36は、温度センサ32,35により得られる温度が所定の除湿に適した温度となるようにクーラ31,34をそれぞれ制御する。
【0020】
デシカント空調機30に供給される空気すなわち除湿対象の空気をクーラ31,34により冷却することは、除湿対象の空気を除湿に適した温度にするというだけでなく、プレ除湿をするという意味を有している。とくに、外気は湿度が高いので、クーラ34でプレ除湿をしておくことにより、デシカント空調機30での除湿の負担を軽減することができる。
【0021】
なお、図1では、環境試験室2から排出された空気及び外気は、それぞれクーラ31,34で冷却された後に混合されているが、環境試験室2から排出された空気及び外気を先に混合して、1つのクーラで冷却するようにしてもよい。
【0022】
デシカント空調機30に供給された空気(除湿対象の空気)は、送風機302により送気され、水分吸着物質が保持されたデシカントロータ301の中を通過、除湿される。ここで、デシカントロータ301の中に保持される水分吸着物質としては、高分子吸着剤、シリカゲル、ゼオライト等、低温時に水分を吸着し、高温時に水分を放出する高温再生型の水分吸着物質が用いられる。
【0023】
デシカントロータ301は、円筒形状をしており、円筒の軸を中心にして、例えば図1に示す矢印の方向に回転する。ここで、除湿対象の空気の大半は、回転するデシカントロータ301の領域Aの部分を通過、除湿され、乾燥空気となって乾燥空気調温部4側へ送気される。また、除湿対象の空気の一部は、デシカントロータ301の領域Cの部分を通過し、ヒータ304により加熱された後、再びデシカントロータ301に戻り領域Bの部分を通過する。このとき、デシカントロータ301の領域Bの部分に保持されている水分吸着物質は、加熱された空気に曝されることとなるので、水分吸着能力を回復する。一方で、領域Bの部分を通過した空気は、水分を多く含むこととなるので、送風機303を介して、除湿部3(空気調和システム1)の外に排気される。
【0024】
デシカントロータ301は、領域A→領域B→領域C→領域A→…の方向に回転する。ここで、領域Aの部分は、クーラ31,34により冷却された除湿対象の空気が通過し、領域Bの部分は、ヒータ304により加熱された空気が通過する。そのため、デシカントロータ301の回転とともに、その中に保持されている水分吸着物質は、領域Aの部分で水分を吸着するが、領域Bの部分で吸着していた水分を放出し、水分吸着能力を回復する。
【0025】
また、冷却された除湿対象の空気の一部は、領域Cの部分を通過する。このとき、領域Bの部分で加熱された水分吸着物質は、冷却されるとともに、領域Cの部分を通過した空気は加熱される。したがって、ヒータ304における加熱に必要なエネルギーを節減することができる。
【0026】
デシカントロータ301の領域Aの部分を通過した空気は、温度が上昇する。そこで、領域Aの部分を通過した空気は、クーラ37により環境試験室2から排出された空気とほぼ同程度の温度まで冷却される。このとき、クーラ37の出口には温度センサ38が設けられており、クーラ37を通過した空気は、制御装置39により一定温度を保つように制御される。
【0027】
ところで、本実施形態では、環境試験室2から排出される空気のすべてが除湿部3へ供
給されるのではなく、その一部は、バイパスダクト15を通過、すなわち、除湿部3をバイパスして乾燥空気調温部4へ流れるようにされている。こうすることにより、環境試験室2から排出される空気のうち、環境試験室2で発生した湿度上昇分を除去するのに必要な空気量のみを除湿部3へ流すことが可能になる。少なくとも空気調和システム1の作動が開始され一定の時間が経過した後は、環境試験室2で発生する湿度の上昇はわずかとなる。したがって、環境試験室2から排出される空気のうち一部をバイパスダクト15側へ流すことにより、デシカントロータ301の除湿負担を低減することができ、さらには、デシカントロータ301の小型化にもつながる。
【0028】
なお、除湿部3へ供給される空気量及び除湿部3をバイパスさせる空気量は、それぞれバルブ11,13の開度制御によって調整することができる。また、当然ながら、バイパスダクト15を設けないで、環境試験室2から排出される空気をすべて除湿部3へ供給するものとしてもよい。
【0029】
なお、デシカント空調機30から排出される空気の湿度は、デシカントロータ301の領域Bの部分の温度、つまり、ヒータ304の加熱強度、デシカントロータ301の回転速度、送風機302の風量等の調整により適宜設定することができる。
【0030】
また、本実施形態では、除湿部3は、デシカント空調機30により除湿をするものとしたが、除湿手段は、デシカント空調機30に限定されず、冷却と過熱を繰り返す方法等で除湿するものであってもよい。
【0031】
次に、乾燥空気調温部4は、冷水を冷媒とするクーラ42、チラー43、冷却された冷水を加熱するヒータ48等を含んで構成される。除湿部3から送気されてくる乾燥空気は、クーラ42によって環境試験室2の内部の設定空気温度よりも低い温度に調温された上、乾燥空気加熱部5へ送気される。
【0032】
ここで、クーラ42は、冷却ダクト40内に設けられ、冷媒である冷水(以下、冷媒水という)が通流するコイル状の配管により構成される。このとき、冷水コイルを通流する冷媒水は、ヒータ48で加熱されることにより、所定の冷媒水の目標温度に調温される。そして、送風機41を介して除湿部3から送気されてくる乾燥空気は、この冷水コイルに接触することによって冷却され、所定の乾燥空気の目標温度(環境試験室2の内部の設定空気温度よりもやや低い温度)に調温される。
【0033】
ここで、冷媒水を通流させる配管の途中には、ヒータ48の他にタンク47が設けられている。タンク47は、冷媒水を一時貯留することにより、この冷媒水の温度の安定させる役割を果たす。
【0034】
したがって、ヒータ48には、温度変動の小さい冷媒水が供給される。そして、その温度変動の小さい冷媒水は、制御装置61,62で制御されたヒータ48によって加熱され、クーラ42に送水される。このとき、制御装置61は、冷却ダクト40の出口に設けられた温度センサ63から得られる空気温度を、予め設定された目標空気温度と比較し、その差分量に基づいてヒータ48の出口における冷媒水の目標温度を演算する。さらに、制御装置62は、ヒータ48の出口に設けられた温度センサ49から得られる冷媒水の温度
を、制御装置61で演算された冷媒水の目標温度と比較し、その差分量に基づいてヒータ48の発熱強度を制御する。
【0035】
乾燥空気加熱部5は、ヒータ51,54、蓄熱体55、温度センサ52,56、制御装置53,57等を備えて構成される。乾燥空気調温部4から供給される乾燥空気は、ヒータ51を通過することで所定の温度に加熱され、さらに、環境試験室2の側面に設けられたヒータ54及び蓄熱体55を通過することで、予め設定された環境試験室2内の設定空気温度まで加熱される。
【0036】
ここで、ヒータ51の加熱強度は、その出口に設けられた温度センサ52により得られる温度が一定となるように制御装置53によって制御される。同様に、ヒータ54の加熱強度は、蓄熱体55からの出口である環境試験室2の天井部に設けられた温度センサ52により得られる温度が環境試験室2内の設定空気温度と同じになるように制御装置57によって制御される。
【0037】
環境試験室2の供給口2inには、ヒータ54及び蓄熱体55が複数セット設けられている。したがって、環境試験室2内へは、一定の温度に保たれた乾燥空気がほぼ均一に供給されるので、環境試験室2内の空気温度も均一化される。
【0038】
ヒータ54の下流側に設けられる蓄熱体55は、空気の通路となる多数の孔部を備えた多孔通路部材によって構成される。蓄熱体55は、孔部を通過する空気の温度が自身の温度よりも高ければ、熱を吸収し、低ければ、熱を放出する。そのため、蓄熱体55は、温度が変動しにくいものが好ましく、通常は、熱容量が大きい材料、また熱伝導率がよい材料(例えば、銅やアルミニウム等の金属)を用いて構成される。したがって、蓄熱体55の孔部を通過して環境試験室2内に送気される乾燥空気の温度変動を効果的に抑制することができる。
【0039】
<環境試験室の構成>
以下、まず、図2及び図3を参照して、本実施形態に係る環境試験室2の構成について説明し、次に、図4及び図5を参照して、比較例の環境試験室2Zの構成について説明する。
【0040】
図2は、本実施形態1に係る環境試験室2の構成図であり、斜め上方向から見た環境試験室2の構成を示している。図3は、本実施形態1に係る環境試験室2の内部で発生する熱対流の説明図であり、背面方向から見た環境試験室2の内部の状況を示している。一方、図4は、比較例の環境試験室2Zの構成図であり、斜め上方向から見た環境試験室2Zの構成を示している。図5は、比較例の環境試験室2Zの内部で発生する熱対流の説明図であり、背面方向から見た環境試験室2Zの内部の状況を示している。
【0041】
本実施形態に係る環境試験室2(図2及び図3参照)は、後記する整流部材103(図2及び図3参照)を備えた試験室である。これに対して、比較例の環境試験室2Z(図4及び図5)は、後記する整流部材103(図2及び図3)を備えていない試験室である。
【0042】
図2に示すように、本実施形態に係る環境試験室2は、6面体状の形状を呈しており、供給口2inと、排出口2outと、流路部101と、設置部102と、整流部材103と、を備えている。
【0043】
供給口2inは、空調空気が供給される開口部である。供給口2inは、6面体状の形状を呈する環境試験室2における任意の面の全面に設けられている。供給口2inには、ほぼ均一な所定風速でかつほぼ均一な所定温度の空調空気が供給される。排出口2outは、空調空気が排出される開口部である。排出口2outは、環境試験室2における供給口2inに対向する面の全面に配置されている。流路部101は、環境試験室2の内部の空調空気が通る部位である。流路部101は、供給口2inと排出口2outとの間に配置されている。設置部102は、光学測定の測定対象物TG(試験対象)やレーザー干渉計等の光学測定機器が設置される場所である。設置部102は、流路部101の中央付近に配置されている。
【0044】
整流部材103は、設置部102が設けられている空間(以下、「測定対象空間」と称する)とその外側の空間との間を仕切るとともに、流路部101内を流れる空調空気の気流を整流する部材である。ここでは、整流部材103が板状の物で構成されているものとして説明する。整流部材103は、設置部102の両横に1つずつ、合計2つ配置されている。整流部材103は、奥行き方向に延在するように、横方向において流路部101の側壁面101sと設置部102との間に配置されている。整流部材103は、紐等の図示せぬ部材で流路部101の天井面101t(図3参照)や床面101b(図3参照)に固定されている。
【0045】
流路部101の側壁面101sと整流部材103は、供給口2inから排出口2outに向かって流れる空調空気の気流方向と平行になるように配置されている。このような本実施形態に係る環境試験室2は、任意の壁の全面を均一に空調空気を吹き出す供給口2inとし、流路部101の側壁面101sと整流部材103とで空調空気を整流する。これにより、供給口2inから環境試験室2内に供給された空調空気は、整流部材103で整流されて排出口2outに向かってほぼ真っ直ぐに進行し、排出口2outから循環流路6(図1参照)に排出される(矢印Aair参照)。このような本実施形態に係る環境試験室2は、測定対象物TGや光学測定機器への意図せぬ熱の伝達が発生して、測定対象物TGや光学測定機器の温度が変動しないように、空調空気の気流をコントロールすることができる。
【0046】
ところで、例えば、図3に示すように、環境試験室2の周囲の温度が空調空気の設定温度より低い場合に、環境試験室2の壁面の温度は空調空気の温度より低くなる。その温度差によって、環境試験室2の内部で熱対流が発生する可能性がある。その熱対流は、環境試験室2の下側から回り込んで設置部102に進入しようとする。そして、その熱対流の温度は、空調空気の温度と違っている。そのため、熱対流が設置部102に進入してしまうと、熱対流から測定対象物TGや光学測定機器に熱が伝達して、測定対象物TGや光学測定機器の温度が変動する可能性がある。
【0047】
なお、例えば、図3に示す例とは逆に、環境試験室2の周囲の温度が空調空気の設定温度より高い場合に、環境試験室2の壁面の温度は空調空気の温度より高くなる。その温度差によっても、環境試験室2の内部で熱対流が発生する可能性がある。その熱対流は、図3に示す例とは逆向きに、環境試験室2の上側から回り込んで設置部102に進入しようとする。この場合も、熱対流の温度は、空調空気の温度と違っている。そのため、熱対流が設置部102に進入してしまうと、熱対流から測定対象物TGや光学測定機器に熱が伝達して、測定対象物TGや光学測定機器の温度が変動する可能性がある。
【0048】
そこで、本実施形態に係る環境試験室2は、内部に、その設置部102への熱対流の侵入を抑制するための部材として、整流部材103を備えている。このような本実施形態に係る環境試験室2は、整流部材103で熱対流が設置部102に進入することを抑制することができる(矢印A11参照)。したがって、本実施形態に係る環境試験室2は、設置部102に熱対流が到達しないため、設置部102に設置された測定対象物TGや光学測定機器の温度を一定に保つことができる。その結果、本実施形態に係る環境試験室2は、大気圧環境下で高精度な光学測定を可能にすることができる。
【0049】
これに対して、図4及び図5に示すように、比較例の環境試験室2Zは、整流部材103(図2及び図3)を備えていない。そのため、図5に示すように、比較例の環境試験室2Zでは、熱対流が回り込んで設置部102に進入しようとする(矢印A21参照)。その熱対流の温度は、空調空気の温度と違っている。そのため、熱対流が設置部102に進入してしまうと、熱対流から測定対象物TGや光学測定機器に熱が伝達して、測定対象物TGや光学測定機器の温度が変動する可能性がある。したがって、比較例の環境試験室2Zは、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことが困難である。よって、本実施形態に係る環境試験室2は、比較例の環境試験室2Zよりも気圧環境下で高精度な光学測定に適した構成になっている。
【0050】
<環境試験室内における測定対象物の配置例>
以下、図6を参照して、本実施形態に係る環境試験室2内における測定対象物TGの配置例について説明する。図6は、環境試験室2内における測定対象物TGの配置例を示す説明図である。ただし、図6に示す例は、一例に過ぎず、使用する光学測定機器の種類や配置位置等を運用に応じて適宜変更することができる。
【0051】
図6に示すように、環境試験室2内の設置部102には、防振架台21が設置されており、その防振架台21上には、測定対象物TGや、位相シフト干渉計401、マイケルソン干渉計402が載置されている。
【0052】
図6に示す例では、位相シフト干渉計401は、例えば、架台22aに載置され、測定対象物TGの上方に配置されている。測定対象物TGは、架台22bに載置され、位相シフト干渉計401の下方に配置されている。架台22aにはリフレクタ403が取り付けられ、架台22bにはセンサヘッド404が取り付けられている。センサヘッド404はマイケルソン干渉計402に接続されている。位相シフト干渉計401は、測定対象物TGに向けて光405aを照射して測定対象物TGの表面形状を測定する。また、マイケルソン干渉計402は、センサヘッド404からリフレクタ403に向けて照射され反射された光405bでセンサヘッド404とリフレクタ403との間の距離の変位量を測定する。
【0053】
<光学測定のばらつきに影響を及ぼす要因>
本実施形態に係る環境試験室2は、光学測定のばらつきを抑制するためのものである。その光学測定のばらつきに影響を及ぼす要因としては、例えば、図7に示す要因が存在する。以下、図7を参照して、光学測定のばらつきに影響を及ぼす要因について説明する。図7は、光学測定のばらつきに影響を及ぼす要因を示す説明図である。
【0054】
図7に示すように、光学測定のばらつき(RS1)に影響を及ぼす要因としては、建屋(SYS1)と、空調設備(SYS2)と、測定対象物/光学測定機器(SYS4)等がある。また、空調設備(SYS2)の中には、光路空間(空気)(SYS3)がある。これらの要因の具体的な内訳は以下の通りである。
【0055】
建屋(SYS1)の要因としては、設置環境温度(Fa11)と、壁/床温度(壁/床の断熱性能)(Fa12)と、設置環境振動(Fa13)と、床振動(Fa14)等がある。
空調設備(SYS2)の要因としては、設備振動(Fa21)と、空調騒音(Fa22)と、供給空気温度(Fa23)と、室内気流(Fa24)と、室内圧力(大気圧)(Fa25)と、供給空気湿度(Fa26)と、室内湿分負荷(Fa27)等がある。
光路空間(空気)(SYS3)の要因としては、気流による温度拡散(Fa31)と、温度変化(Fa32)と、圧力変化(Fa33)と、湿度変化(Fa34)と、光路空間の屈折率変化(Fa35)等がある。
測定対象物/光学測定機器(SYS4)の要因としては、装置の発熱(Fa41)と、熱伝導(Fa42)と、放射熱(Fa43)と、熱伝達(Fa44)と、外力(Fa45)と、温度変化(Fa46)と、形状寸法変動(Fa47)と、水分吸着(Fa48)等がある。
【0056】
これらの要因は、例えば図7に示す矢印の関係で影響を及ぼし合う。なお、前記した「熱伝導(Fa42)」は固体物質を介して伝わる熱の移動を意味している。また、「放射熱(Fa43)」は固体物質の表面から放射される熱の移動を意味している。また、「熱伝達(Fa44)」は空気を介して伝わる熱の移動を意味している。
【0057】
本実施形態に係る環境試験室2は、整流部材103によって「気流による温度拡散(Fa31)」の要因を抑制(低減)する。これにより、本実施形態に係る環境試験室2は、以下の(a)ルートと(b)ルートによる「光学測定のばらつき(RS1)」に対する影響を低減することができる。
(a)壁/床温度(Fa12)→気流による温度拡散(Fa31)→温度変化(Fa32)→光路空間の屈折率変化(Fa35)。
(b)壁/床温度(Fa12)→気流による温度拡散(Fa31)→熱伝達(Fa44)→温度変化(Fa46)→形状寸法変動(Fa47)。
【0058】
また、本実施形態に係る環境試験室2は、整流部材103によって「放射熱(Fa43)」の要因による測定対象物/光学測定機器(SYS4)の「温度変化(Fa46)」の要因への影響を抑制(低減)する。これにより、本実施形態に係る環境試験室2は、以下の(c)ルートによる「光学測定のばらつき(RS1)」に対する影響を低減することができる。
(c)壁/床温度(Fa12)→放射熱(Fa43)→温度変化(Fa46)→形状寸法変動(Fa47)。
【0059】
このような本実施形態に係る環境試験室2は、相対的に、以下の(d)ルートによる「光学測定のばらつき(RS1)」に対する影響を強化(向上)させることができる。その結果、測定対象物/光学測定機器(SYS4)の温度の安定化を図ることができる。
(d)供給空気温度(Fa23)→熱伝達(Fa44)→温度変化(Fa46)→形状寸法変動(Fa47)。
【0060】
<本実施形態に係る環境試験室についての補足>
本実施形態に係る環境試験室2は、以下の点が考慮されている。
本実施形態に係る環境試験室2は、設置部102の空間全体の熱分布が±0.5℃以内に収まることが好ましい。そこで、本実施形態に係る環境試験室2は、好ましくは、熱容量が少ない素材を整流部材103に用いるとよい。例えば、整流部材103の熱容量は、2000(J/m・K)以下であるとよい。これにより、本実施形態に係る環境試験室2は、周囲の温度に整流部材103を早く馴染ませることができるため、測定対象空間(設置部102が設けられている空間)内の熱分布を低い値に収束させ易くすることができる。その結果、本実施形態に係る環境試験室2は、設置部102の空間全体の熱分布を±0.5℃以内に収め易くすることができる。なお、設置部102の空間全体の熱分布が±0.5℃以内に収まると、最終的には、設置部102に設置された測定対象物TGや光学測定機器の熱分布も±0.5℃以内に収まる。
【0061】
なお、整流部材103の熱容量を2000(J/m・K)以下とする根拠は以下の通りである。すなわち、整流部材103の熱伝達率が例えば標準的な5(W/m・K)と想定すると、整流部材103の熱容量が2000(J/m・K)以下であれば、整流部材103の時定数は400(s)以下となる。これは、測定対象物TGが天文観測に用いる光学機器である場合において、測定対象物TGやその測定に用いる光学測定機器に要求される時定数よりも十分に(例えば、1桁程度)小さい。そのため、整流部材103の熱容量が2000(J/m・K)以下であれば、整流部材103は、測定対象物TGや光学測定機器よりも早く空調空気の温度に近づき、測定の妨げにならない。そのため、整流部材103の熱容量は2000(J/m・K)以下であることが好ましい。
【0062】
また、図3に示すように、整流部材103は、好ましくは、素材として、鏡面反射面F11と拡散反射面F12とを有する輻射断熱材が用いられているとよい。そして、整流部材103は、流路部101(環境試験室2)の側壁面101sとの対向面が鏡面反射面F11となり、非対向面が拡散反射面F12となるように、設置されるとよい。これにより、本実施形態に係る環境試験室2は、側壁面101sから設置部102に置かれた測定対象物TGへの放射熱による熱伝達を抑制することができる。このような本実施形態に係る環境試験室2は、整流部材103よりも内側の温度をほぼ同じにすることができる。そのため、本実施形態に係る環境試験室2は、測定対象空間内の熱分布を小さい値に収束させ易くすることができる。その結果、本実施形態に係る環境試験室2は、さらに、設置部102の空間全体の熱分布を±0.5℃以内に収め易くすることができる。
【0063】
なお、本実施形態に係る環境試験室2は、任意に設けられた支持箇所でのみ整流部材103が流路部101の天井面101tと下端部103bとに支持され、支持箇所以外の箇所では支持されない構造になっている。つまり、図3に示すように、本実施形態に係る環境試験室2は、支持箇所以外の箇所では、整流部材103の上端部103tと流路部101の天井面101tとの間に、若干の隙間109tが設けられた構造になっている。また、本実施形態に係る環境試験室2は、支持箇所以外の箇所では、整流部材103の下端部103bと流路部101の床面101bとの間に、若干の隙間109bが設けられた構造になっている。これは、流路部101(環境試験室2)の天井面101tと床面101bに対する整流部材103の接触面積を小さくして、流路部101(環境試験室2)から整流部材103に伝わる熱伝導量をできるだけ低減するとともに、整流部材103の温度の変動を抑制するためである。
【0064】
隙間109tと隙間109bのサイズは、好ましくは、それぞれ、環境試験室2の内部空間の高さに対して1%程度であるとよい。したがって、環境試験室2は、環境試験室2の内部空間の高さに対して98%程度の高さの整流部材103がその上下に隙間109tと隙間109bを開けて設けられた構造になっているとよい。なお、環境試験室2の内部空間の横幅と高さと奥行きは、それぞれ、例えば、数メートル(m)から十数メートル(m)程度である。
【0065】
一般に、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うためには、設置部102を通過する空調空気の温度や湿度を安定させて、空調空気の屈折率を安定させることや、測定対象物TGの温度を安定させて、測定対象物TGの熱膨張による変形を抑制することが重要である。これらについて、環境試験室2の外部から供給される空調空気の温度及び湿度は、ヒータ51,54、蓄熱体55等(図1参照)によって安定させることができる。しかしながら、設置部102を通過する空調空気の温度や湿度は、周囲の側壁面101sや床面からの温度拡散や、測定対象物TGと空調空気との間に温度差がある場合に測定対象物TGからの温度拡散の影響を受けて変動する。そのため、設置部102の温度を安定化させるためには、環境試験室2は、単に空調空気の速度を制御するだけでなく、側壁面101sや床面等の周囲環境からの温度拡散を防止することや、測定対象物TGと空調空気との間の温度差を抑制することが好ましい。
【0066】
測定対象物TGの温度を安定させる方法として、ヒータや冷却ジャケット等による加熱/冷却制御が考えられるが、本実施形態では一定温度に制御した空調空気との熱伝達により測定対象物TGの温度を平準化する(ならす)方法を採用するものとする。この方法は、測定対象物TGからの発熱量がない場合、もしくはごく小さい場合に有効である。また、この方法は、利点として、時間経過とともに確実に温度が安定することや、局所的な加熱/冷却と異なり、測定対象物TG内の温度分布を小さくすることができること、測定対象物TGと空調空気との間の温度差を小さくすることができ、設置部102を通過する空調空気の温度を安定化させることができること等がある。
【0067】
本実施形態1に係る環境試験室2は、側壁面101sや床面からの温度の対流拡散を小さくするために、側壁面101sや床面に対して垂直方向の速度成分が小さくなるように、流路部101内の気流の速度が設定される。環境試験室2は、任意の面の全面に供給口2inが設けられ、供給口2inの対向面の全面に排出口2outが設けられている。供給口2inには、ほぼ均一な所定風速でかつほぼ均一な所定温度の空調空気が供給される。その空調空気の気流は、環境試験室2の内部に形成された流路部101の側壁面101sや床面に対して平行に進行する。そのため、流路部101内では概略一方向の気流が形成される。この気流は、供給口2in及び排出口2outが設けられていない側壁面や床面に対して垂直方向の速度成分が小さいため、側壁面や床面からの温度の対流拡散が小さい。また、この気流は、測定対象物に対して均一に当たり、かつ測定対象物TGの周囲であまり滞留しない。この気流は、測定対象物TGの全体に均一に熱伝達を行うため、測定対象物TGの全体に温度を平準化する点で有効である。
【0068】
また、本実施形態1に係る環境試験室2は、側壁面101sと環境試験室2の中央付近に設けられた設置部102との間に、気流方向に平行な整流部材103を備えている。側壁面101sと空調空気の間に温度差があると、熱対流が生じるが、本実施形態1に係る環境試験室2は、整流部材103により設置部102内への熱対流の侵入を防止することができる。また、本実施形態1に係る環境試験室2は、整流部材103で、測定対象物TGの周囲の気流が測定対象物TGから離れて拡散することを防止し、測定対象物TGと空調空気との熱伝達を促進する機能を得ることができる。
【0069】
なお、整流部材103は、空調空気の温度に近い温度となることが望ましい。そのため、壁や床から整流部材103への熱伝導が少なく、かつ整流部材103の熱容量が小さい方がよい。
【0070】
また、測定対象物TGの温度は、環境試験室2の壁面や床面からの輻射熱の影響も受ける。そこで整流部材103は、環境試験室2の壁面側を鏡面反射面F11とした輻射断熱素材で構成することが望ましい。整流部材103を輻射断熱素材で構成することで、環境試験室2の壁面からの輻射熱の影響を低減でき、測定対象物TGと空調空気との温度差を小さくすることができる。その結果、環境試験室2の壁面の温度変動に伴う測定対象物TGの温度変動を抑制することができる。
【0071】
このような整流部材103の温度は、空調空気の温度に近い方が望ましいので、環境試験室2の壁面との対向面を鏡面反射面F11にすることが好ましい。なお、環境試験室2内でレーザー干渉計等の光学測定機器を使用する場合に、レーザー光の乱反射が発生する可能性がある。そのため、整流部材103の測定対象物TG側の面は、拡散反射面F12にすることが好ましい。
【0072】
本実施形態1に係る環境試験室2は、測定空間の空気屈折率、測定対象物の温度を安定させることができ、大気圧環境下で、高精度な光学測定が可能な測定対象物の設置環境を提供できる。
【0073】
以上の通り、本実施形態1に係る環境試験室2によれば、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことができる。
【0074】
[実施形態2]
実施形態1に係る環境試験室2(図2参照)の整流部材103は、板状の物で構成されている。これに対し、本実施形態2では、整流部材が布状のカーテン103Aで構成された環境試験室2Aを提供する。
【0075】
以下、図8及び図9を参照して、本実施形態2に係る環境試験室2Aの構成について説明する。図8及び図9は、それぞれ、本実施形態2に係る環境試験室2Aの構成図である。
【0076】
図8に示すように、本実施形態2に係る環境試験室2Aは、実施形態1に係る環境試験室2(図2参照)と比較すると、整流部材103の代わりに、整流部材として布状のカーテン103Aを有する点で相違する。
【0077】
カーテン103Aは、矢印A103Aの方向に展開及び収納が可能な構成になっている。そのため、本実施形態2に係る環境試験室2Aは、実施形態1に係る環境試験室2(図2参照)よりも、設置部102への測定対象物TGや光学測定機器の設置作業を容易に行うことができる。
【0078】
図9に示すように、本実施形態2に係る環境試験室2Aでは、実施形態1に係る環境試験室2と同様に、整流部材であるカーテン103Aの上端部103tと流路部101の天井面101tとの間に、若干の隙間109tが設けられている。また、整流部材であるカーテン103Aの下端部103bと流路部101の床面101bとの間に、若干の隙間109bが設けられている。これは、実施形態1に係る環境試験室2と同様に、流路部101(環境試験室2)の天井面101tと床面101bに対するカーテン103Aの接触面積を小さくして、流路部101(環境試験室2)からカーテン103Aに伝わる熱伝導量をできるだけ低減するとともに、整流部材103の温度の変動を抑制するためである。なお、カーテン103Aは、矢印A103A(図8参照)の方向に展開及び収納ができるように、緩く固定されていればよい。
【0079】
図10A乃至図10Dに示すように、このようなカーテン103Aは、上側が吊下げ部材151で吊下げられた構成になっているとよい。また、図11A乃至図11Cに示すように、カーテン103Aは、下側がフック部161等で固定された構成になっているとよい。
【0080】
図10Aは、カーテン103Aを吊るす吊下げ部材151とカーテンレール152の構成図である。図10Bは、吊下げ部材151の構成図である。図10Cは、吊下げ部材151の変形例の構成図である。図10Dは、吊下げ部材151の別の変形例の構成図である。図11Aは、カーテン103Aを固定するフック部161とゴムバンド162の構成図である。図11Bは、フック部161の構成図である。図11Cは、ゴムバンド162の構成図である。
【0081】
図10Aに示すように、流路部101(環境試験室2A)の天井面101tには、カーテン103Aを吊るす吊下げ部材151をはめ込んで滑らせるカーテンレール152が設けられている。流路部101(環境試験室2A)の天井パネル101topには、支持鋼材153が取り付けられている。その支持鋼材153には、ボルト(又はビス)155によってブラケット154が取り付けられている。カーテンレール152は、そのブラケット154によって固定支持されている。
【0082】
カーテンレール152は、吊下げ部材151を走行自在に支持している。図10A及び図10Bに示す例では、吊下げ部材151は、カーテン103Aの上端部付近に設けられた孔に係合するリング状の支持部151aと、カーテンレール152を走行するランナー151bと、を有している。図10Aに示すように、吊下げ部材151によって吊下げられたカーテン103Aの上端部は、流路部101(環境試験室2A)の天井面101tから隙間109tだけ離れた位置に配置されている。
【0083】
カーテンレール152は、例えば、アルミニウム合金等で構成されているとよい。支持鋼材153やブラケット154、ボルト(又はビス)155等は、例えば、ステンレス材等で構成されているとよい。
【0084】
なお、吊下げ部材151の支持部151aは、例えば、図10Cに示す支持部151aaや図10Dに示す支持部151abのように変形してもよい。図10Cに示す支持部151aaは、バネによって一部が開閉可能な構造になっている。図10Dに示す支持部151abは、取り外し可能なネジとシャフトによって一部が開閉可能な構造になっている。
【0085】
図11Aに示すように、流路部101(環境試験室2A)の床面101bには、カーテン103Aを固定するフック部161が設けられている。カーテン103Aの下端部とフック部161には、孔部が設けられている。双方の孔部にゴムバンド162が通されることで、カーテン103Aの下端部がフック部161に固定される。図11Bに示すように、フック部161は、矢印方向に移動可能な埋め込み型の構造になっているとよい。これにより、フック部161は、カーテン103Aを固定する場合にだけ床面101bから引き出して使用し、それ以外の場合に床面101bに収納することができる。図11Cは、未使用時のゴムバンド162の構成を示している。図11Aに示すように、ゴムバンド162でフック部161に固定されたカーテン103Aの下端部は、流路部101(環境試験室2A)の床面101bから隙間109bだけ離れた位置に配置されている。カーテン103Aは、カーテン103A自体の重量や、カーテン103Aに取り付けられる図示せぬ金具の重量、ゴムバンド162の収縮力等で上下方向に展開する。そのカーテン103Aの上下方向の展開量に応じて、隙間109bの間隔が変化する。そのため、環境試験室2Aは、隙間109bをカーテン103Aで塞ぐようにすることもできる。
【0086】
図9に示すように、カーテン103Aは、実施形態1の整流部材103と同様に、素材として、鏡面反射面F11と拡散反射面F12とを有する輻射断熱材が用いられているとよい。そして、カーテン103Aは、流路部101(環境試験室2A)の側壁面101sとの対向面が鏡面反射面F11となり、非対向面が拡散反射面F12となるように、設置されるとよい。これにより、本実施形態に係る環境試験室2Aは、カーテン103Aよりも外側の空間の温度がその内側の空間(測定対象空間)に伝達されることを抑制することができる。
【0087】
本実施形態2では、環境試験室2Aの整流部材がカーテン103Aで構成されている。このような環境試験室2Aは、中央付近に設けられた設置部102に測定対象物TGを搬入する際に、カーテン103Aを展開(移動)したり収納したりすることができる。そのため、設置部102への測定対象物TGや光学測定機器の搬入を容易化することができる。
【0088】
以上の通り、本実施形態2に係る環境試験室2Aによれば、実施形態1に係る環境試験室2と同様に、大気圧環境下で高精度な光学測定を行うことができる。
しかも、本実施形態2に係る環境試験室2Aによれば、実施形態1に係る環境試験室2に比べて、設置部102への測定対象物TGや光学測定機器の搬入を容易化することができる。
【0089】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0090】
[変形例]
例えば、前記した実施形態1に係る環境試験室2は、以下の第1乃至第4の変形例のように変形することができる。なお、ここでは説明しないが、実施形態2に係る環境試験室2Aも、実施形態1に係る環境試験室2と同様に、以下の第1乃至第4の変形例のように変形することができる。
【0091】
(第1の変形例)
図12A及び図12Bは、第1変形例の環境試験室2Bの構成図である。図12Aは、第1変形例の環境試験室2B全体の構成を示しており、図12Bは、図12Aの領域R11の構成を拡大して示している。
【0092】
図12Aに示すように、第1変形例の環境試験室2Bは、実施形態1に係る環境試験室2(図3参照)と比較すると、流路部101の天井面101tと設置部102との間に、板材201を備えている点で相違する。板材201は、板状の物で構成された、整流部材103とは別の整流部材である。図12Bに示すように、板材201は、スペーサ202を介して流路部101の天井面101tに取り付けられている。板材201は、その横幅が2つの整流部材103の間隔よりも長くなっており、2つの整流部材103の上に配置されている。
【0093】
板材201は、空調空気の気流方向と平行になるように配置されており、その素材として、輻射断熱材が用いられている。このような第1変形例の環境試験室2Bは、天井面101tからの輻射熱も断熱して、熱が設置部102に伝達されないようにすることができる。
【0094】
(第2の変形例)
図13は、第2変形例の環境試験室2Cの構成図である。図13に示すように、第2変形例の環境試験室2Cは、第1変形例の環境試験室2B(図12A参照)と比較すると、板材201の代わりに、板材201aを備えている点で相違する。板材201aは、板材201(図12A参照)と同様の機能を有する部材である。板材201aは、その横幅が2つの整流部材103の間隔よりも短くなっており、2つの整流部材103の間に配置されている。
【0095】
板材201aは、第1変形例の板材201(図12A参照)と同様に、空調空気の気流方向と平行になるように配置されており、その素材として、輻射断熱材が用いられている。このような第2変形例の環境試験室2Cは、第1変形例の環境試験室2B(図12A参照)と同様に、天井面101tからの輻射熱も断熱して、熱が設置部102に伝達されないようにすることができる。
【0096】
(第3の変形例)
図14は、第3変形例の環境試験室2Dの構成図である。図14に示すように、第3変形例の環境試験室2Dは、実施形態1に係る環境試験室2(図3参照)と比較すると、整流部材103の代わりに、布材201bを備えている点で相違する。布材201bは、整流部材103と同様の機能を有する別の整流部材である。布材201bは、吊下げ固定部材203によって流路部101の天井面101tに取り付けられており、設置部102の両側壁面と天井面とを囲むように配置されている。布材201bは、空調空気の気流方向と略平行になるように配置されており、その素材として、輻射断熱材が用いられている。このような第3変形例の環境試験室2Dは、側壁面101sからの輻射熱と天井面101tからの輻射熱とを断熱して、熱が設置部102に伝達されないようにすることができる。
【0097】
(第4の変形例)
図15は、第4変形例の環境試験室2Eの構成図である。図15に示すように、第4変形例の環境試験室2Eは、実施形態1に係る環境試験室2(図3参照)と比較すると、整流部材103の形状が変更されている点で相違する。すなわち、第4変形例の環境試験室2Eでは、整流部材103は、設置部102の両側壁面と天井面とを囲むように、正面視で逆U時状に配置されている。整流部材103は、空調空気の気流方向と略平行になるように配置されており、その素材として、輻射断熱材が用いられている。このような第4変形例の環境試験室2Eは、側壁面101sからの輻射熱と天井面101tからの輻射熱とを断熱して、熱が設置部102に伝達されないようにすることができる。
【符号の説明】
【0098】
1 空気調和システム
2,2A,2B,2C,2D,2E 環境試験室
2in 供給口
2out 排出口
3 除湿部(除湿手段)
4 乾燥空気調温部(乾燥空気調温手段)
5 乾燥空気加熱部(乾燥空気加熱手段)
6 循環流路
11~14 バルブ
15 バイパスダクト
21 防振架台
22a,22b 架台
23 バルブ
30 デシカント空調機
31,34,37 クーラ
32,35,38 温度センサ
33,36,39 制御装置
301 デシカントロータ
302,303 送風機
304 ヒータ
40 冷却ダクト
41 送風機
42 クーラ(乾燥空気冷却手段)
43 チラー(冷媒冷却手段)
47 タンク
48 ヒータ(冷媒加熱手段)
49,63 温度センサ
61,62 制御装置
51,54 ヒータ
52,56 温度センサ
53,57 制御装置
55 蓄熱体
101 流路部
101b 床面
101t 天井面
101top 天井パネル
101s 側壁面
102 設置部
103 整流部材
103A カーテン(整流部材)
103b 下端部
103t 上端部
109b,109t 隙間
151 吊下げ部材
151a,151aa,151ab 支持部
151b ランナー
152 カーテンレール
153 支持鋼材
154 ブラケット
155 ボルト(又はビス)
161 フック部
162 ゴムバンド
201,201a 板材(別の整流部材)
201b 布材(別の整流部材)
202 スペーサ
203 吊下げ固定部材
401 位相シフト干渉計(レーザー干渉計)
402 マイケルソン干渉計
403 リフレクタ
404 センサヘッド
405a,405b 光
F11 鏡面反射面
F12 拡散反射面
TG 測定対象物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12A
図12B
図13
図14
図15