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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】産業用ロボット
(51)【国際特許分類】
   B25J 17/00 20060101AFI20221216BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20221216BHJP
   F16H 19/02 20060101ALI20221216BHJP
   F16H 55/36 20060101ALI20221216BHJP
   F16C 35/077 20060101ALI20221216BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
B25J17/00 E
H01L21/68 A
F16H19/02 D
F16H55/36 A
F16C35/077
F16C19/06
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018205008
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069575
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125690
【弁理士】
【氏名又は名称】小平 晋
(74)【代理人】
【識別番号】100142619
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100153316
【弁理士】
【氏名又は名称】河口 伸子
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】藤原 真志
【審査官】杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-068200(JP,A)
【文献】特開2010-043733(JP,A)
【文献】実開平05-059036(JP,U)
【文献】特開2014-144527(JP,A)
【文献】特開2008-185131(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 ~ 21/02
H01L 21/68
F16H 19/02
F16H 55/36
F16C 35/077
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
関節部を備える産業用ロボットにおいて、
前記関節部に配置される減速機と、前記減速機の入力側に連結されるアルミニウム合金製のプーリと、鋼鉄製の外輪を有し前記プーリの内周側に配置される転がり軸受と、前記プーリに固定されるとともに前記プーリの径方向において前記転がり軸受の前記外輪と前記プーリとの間に配置される筒状のスリーブとを備え、
前記スリーブは、円筒状の円筒部と、前記円筒部の一端に繋がるとともに前記円筒部の内周側に繋がる円環状の円環部とを備えるとともに、アルミニウム合金よりも熱膨張係数が鋼鉄に近い材料または鋼鉄で形成され、
前記プーリは、前記減速機の入力軸に固定される被固定部を備え、前記入力軸に固定されるとともに、前記入力軸に接触し、
前記円筒部の内周面は、所定の接触圧で前記外輪の外周面に接触し
前記プーリおよび前記スリーブは、前記入力軸の軸方向において前記入力軸の一端面と前記円環部との間に前記被固定部が挟まれた状態で、前記円環部および前記被固定部に挿通されるネジによって前記入力軸に固定されていることを特徴とする産業用ロボット。
【請求項2】
前記スリーブは、鋼鉄で形成されていることを特徴とする請求項1記載の産業用ロボット。
【請求項3】
搬送対象物が搭載されるハンドと、前記ハンドが先端側に回動可能に連結されるアームと、前記アームの基端側が回動可能に連結される本体部とを備え、
前記アームは、基端側が前記本体部に回動可能に連結される第1アーム部と、前記第1アーム部の先端側に基端側が回動可能に連結されるとともに先端側に前記ハンドが回動可能に連結される第2アーム部とを備え、
前記第1アーム部と前記第2アーム部との連結部となる前記関節部に、前記減速機と前記プーリと前記転がり軸受と前記スリーブとが配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の産業用ロボット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、関節部を備える産業用ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、真空中でガラス基板を搬送する産業用ロボットが知られている(たとえば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の産業用ロボットは、ガラス基板が搭載されるハンドと、ハンドが先端側に回動可能に連結されるアームと、アームの基端側が回動可能に連結される本体部とを備えている。アームは、基端側が本体部に回動可能に連結される第1アーム部と、第1アーム部の先端側に基端側が回動可能に連結される第2アーム部とから構成されている。第2アーム部の先端側には、ハンドが回動可能に連結されている。
【0003】
特許文献1に記載の産業用ロボットでは、ハンドおよびアームは、真空中に配置されている。第1アーム部および第2アーム部は、中空状に形成されている。第1アーム部および第2アーム部の内部の圧力は大気圧になっている。第1アーム部の内部には、第1アーム部に対して第2アーム部を回動させるための第1モータと、第2アーム部に対してハンドを回動させるための第2モータとが配置されている。第1アーム部と第2アーム部との連結部となる関節部には、第1モータの回転を減速して第2アーム部に伝達する減速機が配置されている。減速機は、中空減速機であり、減速機の内周側には、中空回転軸が配置されている。
【0004】
また、特許文献1に記載の産業用ロボットでは、減速機の入力軸に、プーリが固定されている。プーリには、ベルトを介して第1モータの動力が伝達されている。プーリの内周側には、転がり軸受が配置されている。転がり軸受の内輪は、中空回転軸に固定されている。転がり軸受の外輪の外周面には、プーリの内周面が所定の接触圧で接触しており、転がり軸受の外輪の外周面とプーリの内周面との間の摩擦力によって、プーリと外輪とが一緒に回転する。なお、中空回転軸の下端部には、プーリが固定されており、このプーリには、ベルトを介して第2モータの動力が伝達されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-144527号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の産業用ロボットでは、関節部に配置される減速機で熱が発生する。減速機で発生する熱を効率的に放散するため、減速機の入力軸に固定されるプーリ(すなわち、減速機の入力軸に接触するプーリ)は、熱伝導率が高くて放熱性が高い材料で形成されていることが好ましい。また、特許文献1に記載の産業用ロボットでは、関節部における慣性モーメントを低減するため、プーリは、軽量であることが好ましい。そこで、本願発明者は、減速機の入力軸に固定されるプーリをアルミニウム合金で形成することを検討している。
【0007】
しかしながら、本願発明者の検討によると、特許文献1に記載の産業用ロボットにおいて、減速機の入力軸に固定されるプーリをアルミニウム合金で形成した場合、転がり軸受の外輪は一般に鋼鉄で形成されており、プーリの熱膨張係数が外輪の熱膨張係数よりも大幅に大きくなるため、減速機で発生する熱の影響でプーリおよび外輪が熱膨張すると、外輪の外周面とプーリの内周面との接触圧が低下して、外輪とプーリとの間で滑りが生じるおそれがあることが明らかになった。また、外輪とプーリとの間で滑りが生じると、減速機で発生する熱に加えて、外輪とプーリとの間で摩擦熱が発生するため、熱の影響で転がり軸受が破損するおそれがあることが本願発明者の検討によって明らかになった。
【0008】
そこで、本発明の課題は、関節部に配置される減速機の入力側に連結されるプーリと、プーリの内周側に配置される転がり軸受とを備える産業用ロボットにおいて、プーリがアルミニウム合金で形成されていても、減速機で生じる熱に起因する転がり軸受の損傷を抑制することが可能な産業用ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明の産業用ロボットは、関節部を備える産業用ロボットにおいて、関節部に配置される減速機と、減速機の入力側に連結されるアルミニウム合金製のプーリと、鋼鉄製の外輪を有しプーリの内周側に配置される転がり軸受と、プーリに固定されるとともにプーリの径方向において転がり軸受の外輪とプーリとの間に配置される筒状のスリーブとを備え、スリーブは、円筒状の円筒部と、円筒部の一端に繋がるとともに円筒部の内周側に繋がる円環状の円環部とを備えるとともに、アルミニウム合金よりも熱膨張係数が鋼鉄に近い材料または鋼鉄で形成され、プーリは、減速機の入力軸に固定される被固定部を備え、入力軸に固定されるとともに、入力軸に接触し、円筒部の内周面は、所定の接触圧で外輪の外周面に接触し、プーリおよびスリーブは、入力軸の軸方向において入力軸の一端面と円環部との間に被固定部が挟まれた状態で、円環部および被固定部に挿通されるネジによって入力軸に固定されていることを特徴とする。
【0010】
本発明の産業用ロボットでは、アルミニウム合金製のプーリに固定されるとともにプーリの径方向において転がり軸受の外輪とプーリとの間に配置されるスリーブの内周面は、所定の接触圧で転がり軸受の外輪の外周面に接触している。また、本発明では、スリーブは、アルミニウム合金よりも熱膨張係数が鋼鉄に近い材料または鋼鉄で形成されている。そのため、本発明では、プーリがアルミニウム合金で形成されていても、減速機で発生する熱の影響で転がり軸受の外輪およびスリーブが熱膨張したときの、外輪の外周面とスリーブの内周面との接触圧の低下を抑制することが可能になる。
【0011】
したがって、本発明では、プーリがアルミニウム合金で形成されていても、減速機で発生する熱の影響で転がり軸受の外輪およびスリーブが熱膨張したときの、外輪とスリーブとの間の滑りを抑制して、外輪とスリーブとの間の摩擦熱の発生を抑制することが可能になる。その結果、本発明では、プーリがアルミニウム合金で形成されていても、減速機で生じる熱に起因する転がり軸受の損傷を抑制することが可能になる。また、本発明では、プーリは、減速機の入力軸に固定され、減速機の入力軸に接触している。そのため、プーリの径方向において、転がり軸受の外輪とプーリとの間にスリーブが配置されていても、減速機の入力軸に接触するアルミニウム合金製のプーリを用いて、減速機で発生する熱を効率的に放散することが可能になる。さらに、本発明では、スリーブは、円筒状の円筒部と、円筒部の一端に繋がるとともに円筒部の内周側に繋がる円環状の円環部とを備え、プーリは、入力軸に固定される被固定部を備え、円筒部の内周面が所定の接触圧で外輪の外周面に接触し、プーリおよびスリーブは、入力軸の軸方向において入力軸の一端面と円環部との間に被固定部が挟まれた状態で、円環部および被固定部に挿通されるネジによって入力軸に固定されている。そのため、共通のネジを用いて、減速機の入力軸にプーリを固定することが可能になるとともに、プーリにスリーブを固定することが可能になる。したがって、入力軸にプーリを固定するためのネジと、プーリにスリーブを固定するためのネジとが個別に設けられている場合と比較して、関節部の構成を簡素化することが可能になる。また、内周面が所定の接触圧で外輪の外周面に接触する円筒部の形状が単純な円筒状となっているため、円筒部の内周面の寸法公差を小さくしても、スリーブの製造を容易に行うことが可能になる。したがって、スリーブの製造コストを低減しつつ、円筒部の内周面を精度良く形成することが可能になり、その結果、円筒部の内周面と外輪の外周面との接触圧のばらつきを抑制することが可能になる。
【0012】
本発明において、スリーブは、鋼鉄で形成されていることが好ましい。このように構成すると、スリーブの硬度を転がり軸受の外輪の硬度と同じにするか、または、スリーブの硬度を転がり軸受の外輪の硬度に近づけることが可能になる。したがって、減速機で発生する熱の影響で転がり軸受の外輪およびスリーブが熱膨張したときに、仮に、外輪とスリーブとの間で滑りが発生したとしても、外輪およびスリーブの摩耗を抑制することが可能になる。
【0016】
本発明において、産業用ロボットは、たとえば、搬送対象物が搭載されるハンドと、ハンドが先端側に回動可能に連結されるアームと、アームの基端側が回動可能に連結される本体部とを備え、アームは、基端側が本体部に回動可能に連結される第1アーム部と、第1アーム部の先端側に基端側が回動可能に連結されるとともに先端側にハンドが回動可能に連結される第2アーム部とを備え、第1アーム部と第2アーム部との連結部となる関節部に、減速機とプーリと転がり軸受とスリーブとが配置されている。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明では、関節部に配置される減速機の入力側に連結されるプーリと、プーリの内周側に配置される転がり軸受とを備える産業用ロボットにおいて、プーリがアルミニウム合金で形成されていても、減速機で生じる熱に起因する転がり軸受の損傷を抑制することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施の形態にかかる産業用ロボットを示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。
図2図1に示す関節部の内部構造を側面から説明するための断面図である。
図3図2のE部の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。
【0020】
(産業用ロボットの全体構成)
図1は、本発明の実施の形態にかかる産業用ロボット1を示す図であり、(A)は平面図、(B)は側面図である。図2は、図1に示す関節部16の内部構造を側面から説明するための断面図である。
【0021】
本形態の産業用ロボット1(以下、「ロボット1」とする。)は、搬送対象物である有機EL(有機エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ用のガラス基板2(以下、「基板2」とする。)を搬送するための水平多関節型のロボットである。ロボット1は、有機ELディスプレイの製造システムに組み込まれて使用される。ロボット1は、基板2が搭載されるハンド3と、ハンド3が先端側に回動可能に連結されるアーム4と、アーム4の基端側が回動可能に連結される本体部5とを備えている。
【0022】
また、ロボット1は、本体部5が収容されるケース体7を備えている。ケース体7には、本体部5を昇降させる昇降機構(図示省略)が収容されている。ケース体7の上端には、円板状に形成されたフランジ8が固定されている。フランジ8には、本体部5の上端側部分が配置される貫通孔が形成されている。なお、図1(A)では、ケース体7およびフランジ8の図示を省略している。
【0023】
ハンド3およびアーム4は、本体部5よりも上側に配置されている。また、ハンド3およびアーム4は、フランジ8よりも上側に配置されている。ロボット1の、フランジ8の下端面よりも上側の部分は、有機ELディスプレイの製造システムを構成する真空チャンバーの内部に配置されている。すなわち、ロボット1の、フランジ8の下端面よりも上側の部分は、真空領域VRの中に配置されており、ハンド3およびアーム4は、真空中に配置されている。一方、ロボット1の、フランジ8の下端面よりも下側の部分は、大気領域ARの中(大気中)に配置されている。ロボット1は、真空中で基板2を搬送する。
【0024】
ハンド3は、アーム4に連結される基部10と、基板2が搭載される直線状の4本のフォーク部11とを備えている。アーム4は、第1アーム部13と第2アーム部14との2個のアーム部によって構成されている。第1アーム部13および第2アーム部14は、中空状に形成されている。第1アーム部13の基端側は、本体部5に回動可能に連結されている。第1アーム部13の先端側には、第2アーム部14の基端側が回動可能に連結されている。第2アーム部14の先端側には、ハンド3(具体的には、基部10)が回動可能に連結されている。第2アーム部14は、第1アーム部13よりも上側に配置されている。また、ハンド3は、第2アーム部14よりも上側に配置されている。
【0025】
アーム4と本体部5との連結部(すなわち、第1アーム部13と本体部5との連結部)は、関節部15となっている。第1アーム部13と第2アーム部14との連結部は、関節部16となっている。アーム4とハンド3との連結部(すなわち、第2アーム部14とハンド3との連結部)は、関節部17となっている。すなわち、ロボット1は、複数の関節部15~17を備えている。具体的には、ロボット1は、3個の関節部15~17を備えている。
【0026】
ケース体7には、本体部5に対して第1アーム部13を回動させる回動機構(図示省略)が収容されている。この回動機構は、モータ、および、このモータの回転を減速して第1アーム部13に伝達する減速機等を備えている。関節部15には、真空領域VRへの空気の流入を防ぐ磁性流体シール(図示省略)が配置されている。また、関節部15には、真空領域VRへの空気の流入を防ぐためのベローズ(図示省略)が配置されている。ベローズは、磁性流体シールの外周側に配置されており、本体部5が昇降すると伸縮する。
【0027】
上述のように、第1アーム部13および第2アーム部14は、中空状に形成されている。中空状に形成される第1アーム部13および第2アーム部14の内部の圧力は大気圧となっている。第1アーム部13の内部には、第1アーム部13に対して第2アーム部14を回動させるための第1モータ21と、第2アーム部14に対してハンド3を回動させるための第2モータ(図示省略)とが配置されている。関節部16には、第1モータ21の回転を減速して第2アーム部14に伝達する減速機22が配置されている。
【0028】
減速機22は、減速機22の径方向の中心に貫通孔が形成された中空減速機である。具体的には、減速機22は、中空波動歯車装置である。減速機22は、中空状に形成される入力軸23および出力軸24を備えている。入力軸23は、入力軸23の軸方向と上下方向とが一致するように配置されている。すなわち、上下方向は、入力軸23の軸方向である。また、出力軸24は、出力軸24の軸方向と上下方向とが一致するように配置されている。出力軸24は、入力軸23の上側に配置されている。
【0029】
また、減速機22は、出力軸24を回動可能に支持する軸受25と、出力軸24の外周側に配置される磁性流体シール26とを備えている。さらに、減速機22は、剛性内歯歯車28と、可撓性外歯歯車29と、入力軸23の外周側に取り付けられるウエーブベアリング30と、軸受25および磁性流体シール26を保持するケース体31とを備えている。
【0030】
ケース体31の上端部は、第1アーム部13の先端部の上面側に固定されている。軸受25は、クロスローラベアリングである。軸受25の外輪は、ケース体31の上端部に固定されている。軸受25の内輪は、出力軸24に固定されている。出力軸24の上端面は、第2アーム部14の基端部の下面に固定されている。磁性流体シール26は、軸受25の上側に配置されており、真空領域VRへの空気の流入を防ぐ機能を果たしている。磁性流体シール26の磁石およびポールピースは、ケース体31の上端部の内周面に固定されている。ポールピースの内周面と出力軸24の外周面との間では、磁性流体が保持されている。
【0031】
入力軸23は、軸受を介してケース体31の下端部に回転可能に支持されている。入力軸23には、上下方向から見たときの外周面の形状が楕円形状となる楕円部が形成されている。剛性内歯歯車28は、ケース体31の下端部に固定されている。剛性内歯歯車28の内周面には、内歯が形成されている。可撓性外歯歯車29の上端部は、出力軸24の下端に固定されている。可撓性外歯歯車29の下端部の外周面には、剛性内歯歯車28の内歯と噛み合う外歯が形成されている。可撓性外歯歯車29は、入力軸23に対して相対回転可能となっている。
【0032】
ウエーブベアリング30は、可撓性の内輪および外輪を備えたボールベアリングである。このウエーブベアリング30は、入力軸23の楕円部の外周面に沿って配置されており、楕円状に撓んでいる。可撓性外歯歯車29の、外歯が形成される下端部は、ウエーブベアリング30を囲むようにウエーブベアリング30の外周側に配置されており、この部分は、楕円状に撓んでいる。可撓性外歯歯車29の外歯は、楕円状に撓む可撓性外歯歯車29の下端側部分の長軸方向の2か所で、剛性内歯歯車28の内歯と噛み合っている。なお、第1モータ21の動力が減速機22に伝達されると、減速機22では、主として、剛性内歯歯車28と可撓性外歯歯車29との噛み合い部分で熱が発生する。
【0033】
減速機22の入力側には、プーリ32が連結されている。具体的には、減速機22の入力軸23にプーリ32が固定されている。プーリ32は、入力軸23の下端に固定されている。プーリ32は、軸受を介してケース体31の下端部に回転可能に支持されており、入力軸23と一緒にケース体31に対して回転可能となっている。プーリ32の中心には、上下方向に貫通する貫通穴が形成されている。プーリ32には、ベルト33を介して第1モータ21の動力が伝達されている。ベルト33は、歯付きベルトである。
【0034】
減速機22の内周側には、中空回転軸34が配置されている。具体的には、入力軸23、出力軸24およびプーリ32の内周側に中空回転軸34が配置されている。中空回転軸34は、上下方向に細長い円柱状に形成されている。中空回転軸34の外周面と出力軸24の内周面との間には、軸受35が配置されている。また、中空回転軸34の外周面とプーリ32の内周面との間には、軸受36が配置されている。
【0035】
中空回転軸34の下端部には、プーリ37が固定されている。プーリ37の中心には、上下方向に貫通する貫通穴が形成されている。プーリ37は、プーリ32の下側に配置されている。プーリ37には、ベルト38を介して第2モータの動力が伝達されている。ベルト38は、歯付きベルトである。中空回転軸34の上端部には、プーリ39が固定されている。プーリ39の中心には、上下方向に貫通する貫通穴が形成されている。プーリ39は、第2アーム部14の基端側の内部に配置されている。
【0036】
関節部17には、第2モータの回転を減速してハンド3に伝達する減速機(図示省略)が配置されている。この減速機は、減速機22と同様に、中空波動歯車装置である。この減速機の入力軸には、プーリ(図示省略)が固定されており、このプーリとプーリ39とにはベルト40が架け渡されている。ベルト40は、歯付きベルトである。また、この減速機の出力軸は、ハンド3に固定され、ケース体は、第2アーム部14の先端部に固定されている。
【0037】
(関節部の構成)
図3は、図2のE部の拡大図である。
【0038】
上述のように、関節部16には、減速機22が配置されている。また、関節部16には、プーリ32および軸受36が配置されている。軸受36は、上述のように、中空回転軸34の外周面とプーリ32の内周面との間に配置されている。すなわち、軸受36は、プーリ32の内周側に配置されている。さらに、関節部16には、プーリ32の径方向において軸受36とプーリ32との間に配置される筒状のスリーブ45が配置されている。
【0039】
軸受36は、転がり軸受である。具体的には、軸受36は、球軸受(ボールベアリング)であり、鋼鉄製の内輪36aと、鋼鉄製の外輪36bと、内輪36aと外輪36bとの間に配置される鋼鉄製の複数のボール36cとを備えている。内輪36aは、中空回転軸34に固定されている。本形態では、内輪36aは、上下方向において、中空回転軸34とプーリ37との間に挟まれた状態で、プーリ37に挿通されるネジ46によって中空回転軸34に固定されている。
【0040】
具体的には、中空回転軸34の下端部に、内輪36aの上端面が当接する当接面が形成されており、この当接面は、上下方向に直交する円環状の平面となっている。また、プーリ37には、ネジ46が挿通される貫通穴が上下方向でプーリ37を貫通するように形成され、中空回転軸34の下端面には、ネジ46の上端部がねじ込まれるネジ穴が形成されている。内輪36aは、中空回転軸34の当接面とプーリ37の上面との間に挟まれた状態で、プーリ37の貫通穴に挿通されて中空回転軸34のネジ穴にねじ込まれるネジ46によって中空回転軸34に固定されている。また、プーリ37は、ネジ46によって、中空回転軸34に固定されている。
【0041】
プーリ32は、アルミニウム合金で形成されている。上述のように、プーリ32の中心には、上下方向に貫通する貫通穴が形成されている。プーリ32は、ベルト33が係合する円環状のベルト係合部32aと、入力軸23に固定される円環状の被固定部32bとを備えている。本形態のプーリ32は、ベルト係合部32aと被固定部32bとから構成されている。ベルト係合部32aは、プーリ32の下側部分を構成し、被固定部32bは、プーリ32の上側部分を構成している。
【0042】
ベルト係合部32aの外径は、被固定部32bの外径よりも大きくなっている。ベルト係合部32aの内径は、被固定部32bの内径よりも大きくなっている。ベルト係合部32aの内周面と被固定部32bの内周面との境界には、段差面32cが形成されている。段差面32cは、上下方向に直交する平面である。また、段差面32cは、プーリ32の軸心を中心とする円環状の平面である。ベルト係合部32aの外周面には、複数の歯が形成されている。プーリ32の径方向における被固定部32bの内側部分には、プーリ32を入力軸23に固定するためのネジ47が挿通される貫通穴が形成されている。この貫通穴は、上下方向で被固定部32bを貫通している。
【0043】
スリーブ45は、鋼鉄で形成されている。スリーブ45は、円筒状の円筒部45aと、円筒部45aの一端に繋がる円環状の円環部45bとを備えている。本形態のスリーブ45は、円筒部45aと円環部45bとから構成されている。円筒部45aは、円筒部45aの軸方向と上下方向とが一致するように配置されている。円環部45bは、円筒部45aの上端に繋がっている。また、円環部45bは、円筒部45aの内周側に繋がっている。円筒部45aと円環部45bとは、同軸上に配置されている。
【0044】
円筒部45aの外径は、ベルト係合部32aの内径と略等しくなっている。円環部45bの内径は、被固定部32bの内径と略等しくなっている。円筒部45aの外周面は、ベルト係合部32aの内周面に接触している。円環部45bの上面は、段差面32cに接触している。円環部45bは、ネジ47が挿通される貫通穴が形成されている。この貫通穴は、上下方向で円環部45bを貫通している。
【0045】
スリーブ45は、プーリ32に固定されるとともに入力軸23に固定されている。また、上述のように、プーリ32は、入力軸23の下端に固定されている。具体的には、プーリ32およびスリーブ45は、上下方向において、入力軸23の下端面と円環部45bとの間に被固定部32bが挟まれた状態で、円環部45bの貫通穴および被固定部32bの貫通穴に挿通されるネジ47によって入力軸23に固定されている。入力軸23の下端面には、ネジ47の上端部がねじ込まれるネジ穴が形成されている。
【0046】
被固定部32bの上端面は、入力軸23の下端面に接触している。すなわち、プーリ32は、入力軸23に接触している。スリーブ45は、プーリ32の径方向において軸受36の外輪36bとプーリ32との間に配置されている。スリーブ45の内周面は、軸受36の外輪36bの外周面に所定の接触圧で接触している。具体的には、スリーブ45の円筒部45aが、プーリ32の径方向において軸受36の外輪36bとプーリ32のベルト係合部32aとの間に配置されており、円筒部45aの内周面が外輪36bの外周面に所定の接触圧で接触している。本形態では、外輪36bは、スリーブ45に中間嵌めによって嵌め込まれている。
【0047】
(本形態の主な効果)
以上説明したように、本形態では、鋼鉄製の軸受36の外輪36bの外周面に内周面が所定の接触圧で接触するスリーブ45は、鋼鉄で形成されている。そのため、本形態では、プーリ32がアルミニウム合金で形成されていても、減速機22で発生する熱の影響で外輪36bおよびスリーブ45が熱膨張したときの、外輪36bの外周面とスリーブ45の内周面との接触圧の低下を抑制することが可能になる。
【0048】
したがって、本形態では、プーリ32がアルミニウム合金で形成されていても、減速機22で発生する熱の影響で外輪36bおよびスリーブ45が熱膨張したときの、外輪36bとスリーブ45との間の滑りを抑制して、外輪36bとスリーブ45との間の摩擦熱の発生を抑制することが可能になる。その結果、本形態では、プーリ32がアルミニウム合金で形成されていても、減速機22で生じる熱に起因する軸受36の損傷を抑制することが可能になる。
【0049】
また、本形態では、スリーブ45が鋼鉄で形成されているため、スリーブ45の硬度を外輪36bの硬度と同じにするか、または、スリーブ45の硬度を外輪36bの硬度に近づけることが可能になる。したがって、本形態では、減速機22で発生する熱の影響で外輪36bおよびスリーブ45が熱膨張したときに、仮に、外輪36bとスリーブ45との間で滑りが発生したとしても、外輪36bおよびスリーブ45の摩耗を抑制することが可能になる。
【0050】
本形態では、内周面が所定の接触圧で外輪36bの外周面に接触する円筒部45aの形状は、単純な円筒状となっている。そのため、本形態では、円筒部45aの内周面の寸法公差を小さくしても、スリーブ45の製造を容易に行うことが可能になる。したがって、本形態では、スリーブ45の製造コストを低減しつつ、円筒部45aの内周面を精度良く形成することが可能になり、その結果、円筒部45aの内周面と外輪36bの外周面との接触圧のばらつきを抑制することが可能になる。
【0051】
本形態では、プーリ32は、減速機22の入力軸23に接触している。そのため、本形態では、プーリ32の径方向において、外輪36bとプーリ32との間にスリーブ45が配置されていても、入力軸23に接触するアルミニウム合金製のプーリ32を用いて、減速機22で発生する熱を効率的に放散することが可能になる。
【0052】
本形態では、プーリ32およびスリーブ45は、上下方向において、入力軸23の下端面と円環部45bとの間に被固定部32bが挟まれた状態で、円環部45bの貫通穴および被固定部32bの貫通穴に挿通されるネジ47によって入力軸23に固定されている。すなわち、本形態では、共通のネジ47によって、入力軸23にプーリ32が固定されるとともに、プーリ32にスリーブ45が固定されている。そのため、本形態では、入力軸23にプーリ32を固定するためのネジと、プーリ32にスリーブ45を固定するためのネジとが個別に設けられている場合と比較して、関節部16の構成を簡素化することが可能になる。
【0053】
(他の実施の形態)
上述した形態は、本発明の好適な形態の一例ではあるが、これに限定されるものではなく本発明の要旨を変更しない範囲において種々変形実施が可能である。
【0054】
上述した形態において、スリーブ45は、鋼鉄以外の材料で形成されていても良い。具体的には、スリーブ45は、アルミニウム合金よりも熱膨張係数が鋼鉄に近い材料で形成されていても良い。たとえば、スリーブ45は、黄銅(真鍮)等の銅合金で形成されていても良い。この場合であっても、減速機22で発生する熱の影響で外輪36bおよびスリーブ45が熱膨張したときの、外輪36bの外周面とスリーブ45の内周面との接触圧の低下を抑制することが可能になるため、プーリ32がアルミニウム合金で形成されていても、減速機22で生じる熱に起因する軸受36の損傷を抑制することが可能になる。なお、この場合であっても、スリーブ45は、アルミニウム合金よりも硬度が鋼鉄に近い材料で形成されていることが好ましい。
【0055】
上述した形態において、入力軸23にプーリ32を固定するためのネジと、プーリ32にスリーブ45を固定するためのネジとが個別に設けられていても良い。また、上述した形態において、減速機22の入力軸23にプーリ32が接触していなくても良い。この場合には、スリーブ45が入力軸23に接触している。さらに、上述した形態において、軸受36は、コロ軸受でもあっても良い。
【0056】
上述した形態において、内輪36aは、締り嵌めによって、中空回転軸34の下端部に嵌め込まれて固定されていても良いし、その他の固定手段によって中空回転軸34の下端部に固定されていても良い。また、上述した形態において、関節部16と同様に、関節部17に配置される減速機の入力軸にアルミニウム合金製のプーリが固定され、このプーリの内周側に軸受36が配置されるとともに、このプーリの径方向において軸受36とプーリとの間にスリーブ45が配置されていても良い。
【0057】
上述した形態において、ハンド3およびアーム4は、大気中に配置されていても良い。すなわち、ロボット1は、大気中で基板2を搬送しても良い。また、上述した形態において、第1アーム部13および第2アーム部14の内部が真空となっていても良い。また、上述した形態において、1台のモータによって、第1アーム部13に対して第2アーム部14が回動し、かつ、第2アーム部14に対してハンド3が回動するように、モータからアーム4への動力の伝達機構が構成されていても良い。
【0058】
上述した形態において、アーム4は、3個以上のアーム部によって構成されても良い。また、上述した形態において、アーム4は、1個の第1アーム部13と、この1個の第1アーム部13に回動可能に連結される2個の第2アーム部14とによって構成されても良い。さらに、上述した形態において、ロボット1は、本体部5に基端側が回動可能に連結される2本のアーム4と、2本のアーム4のそれぞれの先端側に回動可能に連結される2個のハンド3とを備えていても良い。すなわち、ロボット1は、4個以上の関節部を備えていても良い。また、ロボット1が備える関節部の数は、1個であっても良い。
【0059】
上述した形態では、ロボット1によって搬送される搬送対象物は有機ELディスプレイ用の基板2であるが、ロボット1によって搬送される搬送対象物は、液晶ディスプレイ用のガラス基板であっても良いし、半導体ウエハ等であっても良い。また、上述した形態では、ロボット1は、搬送対象物を搬送するための水平多関節型のロボットであるが、ロボット1は、溶接ロボット等の他の用途で使用される垂直多関節型のロボットであっても良い。
【0060】
なお、上述した形態において、プーリ32を、アルミニウム合金以外の材料で形成することも可能である。この場合には、たとえば、プーリ32は、黄銅等の熱膨張係数が鋼鉄よりも比較的高い金属や樹脂で形成されている。
【符号の説明】
【0061】
1 ロボット(産業用ロボット)
2 基板(ガラス基板、搬送対象物)
3 ハンド
4 アーム
5 本体部
13 第1アーム部
14 第2アーム部
16 関節部
22 減速機
23 入力軸
32 プーリ
32b 被固定部
36 軸受(転がり軸受)
36b 外輪
45 スリーブ
45a 円筒部
45b 円環部
47 ネジ
図1
図2
図3