(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】アンカーボルト用固定部材及びこれを用いたアンカーボルトセット並びにアンカーボルト用固定部材取付具
(51)【国際特許分類】
E02D 27/00 20060101AFI20221216BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
E02D27/00 A
E04B1/41 503A
(21)【出願番号】P 2018212231
(22)【出願日】2018-11-12
【審査請求日】2021-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2017219301
(32)【優先日】2017-11-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593089046
【氏名又は名称】青木あすなろ建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517068704
【氏名又は名称】遠州スプリング有限会社
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】牛島 栄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊男
(72)【発明者】
【氏名】波田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】木村 浩之
(72)【発明者】
【氏名】山崎 彬
(72)【発明者】
【氏名】信岡 靖久
(72)【発明者】
【氏名】栗屋 紘介
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-166687(JP,A)
【文献】特開平10-252399(JP,A)
【文献】特開2016-205609(JP,A)
【文献】特開昭56-139399(JP,A)
【文献】実開平01-136600(JP,U)
【文献】特開平06-117427(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 27/00
E04B 1/41
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材に形成した穿孔に、外面にねじ山を有するアンカーボルトを固定するためのアンカーボルト用固定部材であって、
該アンカーボルト用固定部材は、前記アンカーボルトのねじ山に螺合させるコイルばね部と、
該コイルばね部の両端に設けられ、コイルばね部に対して一方向に角度を持たせて屈曲させた一対の返し部を備え
、
前記コイルばね部の一端部の内径が他端部の内径よりも小さく、かつ、前記他端部の内径と前記アンカーボルトの外径とが同じ寸法であり、前記一端部の内径が前記アンカーボルトの外径より小さく、
前記一対の返し部が、前記アンカーボルトに螺合させた状態で各々が対向する位置となるように設けられ、
前記コイルばね部を構成する線材の線径が、前記コイルばね部を前記アンカーボルトのねじ山に螺合させた状態において、前記線材の少なくとも一部が隣り合うねじ山各々のフランクに接するように設定されていることを特徴とするアンカーボルト用固定部材。
【請求項2】
アンカーボルトに前記請求項1に記載のアンカーボルト用固定部材が取り付けられており、前記アンカーボルト用固定部材は、前記穿孔に前記アンカーボルトを挿入した際に、前記一対の返し部が前記穿孔の挿入口方向に向くように取付けられていることを特徴とするアンカーボルトセット。
【請求項3】
前記アンカーボルトの中心軸が中空のパイプ状であることを特徴とする請求項2に記載のアンカーボルトセット。
【請求項4】
前記アンカーボルトには、前記アンカーボルト用固定部材が複数個取り付けられていることを特徴とする請求項2又は3に記載のアンカーボルトセット。
【請求項5】
前記返し部の突出幅が、前記アンカーボルトの外径と前記穿孔孔の直径の差の1/2よりも大きく設定されていることを特徴とする請求項2から4の何れか一項に記載のアンカーボルトセット。
【請求項6】
前記請求項1に記載のアンカーボルト用固定部材に対してアンカーボルトを螺合させるためのアンカーボルト用固定部材取付具であって、
基部と、前記基部を貫通するコイルばね部が挿入可能な挿入孔と、前記挿入孔の内壁部に設けられた一対の返し部が嵌合可能な返し部固定溝を有する挿入部材を備え、
前記挿入孔に前記コイルばね部を挿入し、前記返し部固定溝に前記一対の返し部を嵌合させて前記アンカーボルト用固定部材を固定した状態で、前記アンカーボルト用固定部材に対して前記アンカーボルトを螺合可能とすることを特徴とするアンカーボルト用固定部材取付具。
【請求項7】
前記基部が筒状体であり、一端には前記挿入孔及び内壁部に前記返し部固定溝と、他端部には回転装置に接続可能な接続部を有する挿入部材を備え、
前記挿入孔に前記コイルばね部を挿入するとともに、前記返し部固定溝に前記一対の返し部を嵌合させて前記アンカーボルト用固定部材を固定し、前記接続部を回転装置に接続し、前記アンカーボルトの端部に当接させて前記基部を回転させることにより、前記アンカーボルトに対して前記アンカーボルト用固定部材を螺合可能とすることを特徴とする請求項6に記載のアンカーボルト用固定部材取付具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンカーボルト用固定部材及びこれを用いたアンカーボルトセット並びにアンカーボルト用固定部材取付具に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート製の橋梁、高架橋、トンネル、ダム等の土木インフラ構造物、また、ビル、ホール、工場等の建築構造物等の施工において、基礎と構造物を繋ぐために、また、構造物の壁や柱、天井、土間等に、配管、標識、架線、検査路、機械等の付属物を固定するためにアンカーボルトが用いられる。アンカーボルトは、通常、コンクリートに埋め込まれて施工され、そのアンカーボルトに上記構造物や付属物が固定される。
【0003】
このアンカーボルトの施工方法には、大別して先付アンカーボルト施工法と、あと施工アンカーボルト施工法がある。
【0004】
先付アンカーボルト施工法は、コンクリートを打設する前にアンカーボルトを設置し、そこにコンクリートを打設して埋め込む施工法であり、あと施工アンカーボルト施工法は、打設したコンクリートが硬化した後に、ドリル等でコンクリートに穿孔し、そこにアンカーボルトを固定する施工法である。
【0005】
また、あと施工アンカーボルト施工法では、アンカーボルトの固定のために、予めコンクリートに穿孔し、そこにエポキシ系、アクリル系、ポリエステル系等の有機系、又はセメント系の無機系接着剤を充填した後、アンカーボルトを挿入して固定する接着方法や、アンカーボルトの底部が穿孔底部に接するとアンカーボルトの先端部が拡張して穿孔コンクリート面に食い込ませて機械的に固定させる金属拡張アンカー工法、また、穿孔の底部を特殊なドリルで拡張して、アンカー自体も底部を拡張させる拡底アンカーボルト工法、いわゆる金属拡底アンカー工法がある。
【0006】
更に、あと施工アンカーボルト接着施工法においては、二液硬化型接着剤をガラス、あるいは樹脂カプセルに封入し、そのカプセルを穿孔内に挿入した後、アンカーボルトを回転させながら打ち込み、接着剤封入カプセルを破壊して封入二液樹脂を撹拌、反応させ、アンカーボルトを固定する接着型のアンカーボルトの固定方法もある。
【0007】
このように、アンカーボルトの施工方法には種々の方法があるが、補修、補強工事ではコンクリートの経年劣化により十分な強度が期待できない場合が多々あり、上記機械的に固定させる方法では十分な固定力は保証できない場合がある。そのため、コンクリートを所定深さに穿孔した後、接着剤を充填し、アンカーボルトを挿入して固定する接着型のあと施工アンカーボルト施工法が多く行われている。このようなあと施工アンカーボルトの埋込み深さは一般的にアンカーボルトの直径の8~15倍程度であり、この所定の接着面積によってアンカーボルトの固定力が確保できるとしている。
【0008】
こうしたあと施工アンカーボルト施工法では、穿孔の直径は、接着剤の充填厚分だけアンカーボルトの直径よりも大きくクリアランスをとって設定する。しかしながら、特に下向きあるいは横向きに施工する場合、
図14(A)に示すように、アンカーボルト2が穿孔51の中心に固定されず穿孔51内で傾いて、接着剤により強固に孔壁に接着できなかったり、接着剤の硬化前にアンカーボルト2が自重によって下方にずれて壁面に接してしまい、アンカーボルト2全周に接着剤が廻らないなどという問題があった。
【0009】
そして、このような状態で設置されたアンカーボルトが、長期にわたって荷重を継続して負担する場合や、振動等によって繰返し荷重負担が発生する場合には、接着剤の疲労によってアンカーボルトの抜けにつながる可能性が指摘されている。また、アンカーボルトに構造物や付属物を固定する施工において、アンカーボルトが傾いた状態で固定されると、ナット、ワッシャーの締め付けも傾いて、構造物や付属物の固定が困難になるといった問題があった。
【0010】
更に、トンネル等において天井面等に対して上向きにアンカーボルトを施工する場合、接着剤が十分に硬化しないと、
図15(A)に示すように、アンカーボルト2が自重で下方に移動し、十分な接着強度が期待できなくなる場合がある。そのため、
図15(B)に示すように、接着剤が十分に硬化するまでアンカーボルト2を仮保持する必要があり施工効率が著しく低下していた。
【0011】
こうした不都合を解決する方法として、これまでに、あと施工アンカーボルト施工法用の部材が提案されている(例えば、特許文献1、2を参照)。特許文献1の提案では、アンカーボルトの先端部が穿孔底部に接した個所が拡張して孔壁面に食込んで自重を負担するとともに、接着剤を充填する注入孔を有するあと施工アンカーボルト具を用いることにより、振動下あるいは接着剤の硬化が遅れる寒冷時にあってもアンカーボルトが自重によって抜け落ちたり、アンカー固着剤が十分に硬化する前に、アンカーボルトの固定が不十分になる危険性を回避するとともに、アンカーボルトの引き抜き抵抗を補強することができるとしている。
【0012】
また、特許文献2の提案では、アンカーボルトに装着された状態において、軸部の周方向に沿って半周以上且つ全周未満の範囲に亘って軸部を囲む弧状の基部と、基部に連なる一対の脚部とを備えるアンカーボルト用補助具を用いることにより、アンカーボルト用補助具をアンカーボルトに容易に装着でき、更に、アンカーボルト用補助具の装着位置を容易に調整できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】特開2011-247049号公報
【文献】特開2016-211180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、特許文献1の提案では、穿孔内でのアンカーボルトが傾くという問題は解決されない。また、先端拡張部が孔壁面と接するコンクリートの強度が弱い場合には固定力が低下したり、孔径が所定の径より大きく誤施工された場合には、アンカーが拡張してもくさび効果は十分に発揮されない。また、穿孔の深さが所定の設定よりも深く誤施工された場合には、コーンが十分挿入されずアンカーボルトの先端部の拡張が不十分になり、アンカーの耐力が期待できないという問題があった。更に、アンカーボルトに繰り返し荷重がかかる場合には、孔壁とアンカーボルト間のクリアランスを接着剤等で充填しないとアンカーボルトがぐらつき、ひいては抜け落ちに至るという問題もあった。
【0015】
また、特許文献2の提案では、アンカーボルト用補助具のアンカーボルトへの装着部分が、軸部の周方向に添って半周以上且つ全周未満の範囲に亘って軸部を囲む弧状であり、装着部分が少ないため、装着力が小さく不安定であり、アンカーボルト用補助具がアンカーボルトから抜けやすいという問題点があった。
【0016】
本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、アンカーボルトを穿孔の中心に簡便且つ確実に設置でき、アンカーボルトの自重による抜け落ちを防止し、更に、アンカーボルトの接着剤が接着力を失った場合でも、引抜耐力が保持できるアンカーボルト用固定部材及びこれを用いたアンカーボルトセット並びにアンカーボルト用固定部材取付具を提供すること、また、アンカーボルト用固定部材を容易にアンカーボルトに取り付けてアンカーボルトセットを製造することが可能なアンカーボルト用固定部材取付具を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のアンカーボルト用固定部材及びこれを用いたアンカーボルトセット並びにアンカーボルト用固定部材取付具は、上記の技術的課題を解決するためになされたものであって、以下のことを特徴としている。
【0018】
第1に、本発明のアンカーボルト用固定部材は、コンクリート部材に形成した穿孔に、外面にねじ山を有するアンカーボルトを固定するためのアンカーボルト用固定部材であって、該アンカーボルト用固定部材は、前記アンカーボルトのねじ山に螺合させるコイルばね部と、該コイルばね部の両端に設けられ、コイルばね部に対して一方向に角度を持たせて屈曲させた一対の返し部を備え、前記コイルばね部の内径の少なくとも一部が、前記アンカーボルトの外径以下であり、前記コイルばね部を構成する線材の線径が、前記コイルばね部を前記アンカーボルトのねじ山に螺合させた状態において、前記線材の少なくとも一部が隣り合うねじ山各々のフランクに接するように設定されていることを特徴としている。
【0019】
第2に、上記第1の発明のアンカーボルト用固定部材において、前記一対の返し部が、前記アンカーボルトに螺合させた状態で各々が対向する位置となるように設けられていることが好ましい。
【0020】
第3に、上記第1又は第2の発明のアンカーボルト用固定部材において、前記コイルばね部の一端部の内径が他端部の内径よりも小さく、かつ、前記他端部の内径が前記アンカーボルトの外径以上であり、前記一端部の内径が前記アンカーボルトの外径より小さいことが好ましい。
【0021】
第4に、本発明のアンカーボルトセットは、前記アンカーボルトに前記アンカーボルト用固定部材が取り付けられており、前記アンカーボルト用固定部材は、前記穿孔に前記アンカーボルトを挿入した際に、前記一対の返し部が前記穿孔の挿入口方向に向くように取付けられていることを特徴としている。
【0022】
第5に、上記第4の発明のアンカーボルトセットにおいて、前記アンカーボルトの中心軸が中空のパイプ状であることが好ましい。
【0023】
第6に、上記第4又は第5の発明のアンカーボルトセットにおいて、前記アンカーボルトには、前記アンカーボルト用固定部材が複数個取り付けられていることが好ましい。
【0024】
第7に、上記第4から第6のいずれか一項に記載の発明のアンカーボルトセットにおいて、前記返し部の突出幅が、前記アンカーボルトの外径と前記穿孔孔の直径の差の1/2よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0025】
第8に、本発明のアンカーボルト用固定部材取付具は、基部と、前記基部を貫通する前記コイルばね部が挿入可能な挿入孔と、前記挿入孔の内壁部に設けられた前記一対の返し部が嵌合可能な返し部固定溝を有する挿入部材を備え、前記挿入孔に前記コイルばね部を挿入し、前記返し部固定溝に前記一対の返し部を嵌合させて前記アンカーボルト用固定部材を固定した状態で、前記アンカーボルト用固定部材に対して前記アンカーボルトを容易に螺合可能とすることを特徴としている。
【0026】
第9に、上記第8の発明のアンカーボルト用固定部材取付具において、前記基部が筒状体であり、一端には前記挿入孔及び内壁部に前記返し部固定溝と、他端部には回転装置に接続可能な接続部を有する挿入部材を備え、前記挿入孔に前記コイルばね部を挿入するとともに、前記返し部固定溝に前記一対の返し部を嵌合させて前記アンカーボルト用固定部材を固定し、前記接続部を回転装置に接続し、前記アンカーボルトの端部に当接させて前記基部を回転させることにより、前記アンカーボルトに対して前記アンカーボルト用固定部材を螺合可能とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、アンカーボルトを穿孔の中心に簡便且つ確実に設置でき、アンカーボルトの自重による抜け落ちを防止し、更に、アンカーボルトの接着剤が接着力を失った場合でも、引抜耐力が保持できるアンカーボルト用固定部材及びこれを用いたアンカーボルトセット並びにアンカーボルト用固定部材取付具を提供することができる。
【0028】
また、アンカーボルト用固定部材を容易にアンカーボルトに取り付けてアンカーボルトセットを製造することが可能なアンカーボルト用固定部材取付具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】(A)は、本発明のアンカーボルト用固定部材の一実施形態を示す斜視図であり、(B)はその上面図である。
【
図2】(A)は、本発明のアンカーボルト用固定部材をアンカーボルトのねじ山に螺合させた状態を示す部分平面図であり、(B)はその上面図である。
【
図3】アンカーボルトのねじ山とコイルばね部の線材との接触状態を示す断面図である。
【
図4】双曲面を有する朝顔状の形状を有するアンカーボルト用固定部材の実施形態を示す写真である。
【
図5】返し部の先端を斜めに切断した実施形態を示す部分平面図である。
【
図6】本発明のアンカーボルトセットの一実施形態を示す平面写真である。
【
図7】(A)は、中心軸が中空パイプ状のアンカーボルトの一実施形態を示す平面写真であり、(B)は、先端部に切込みを設けた実施形態を示す平面写真である。
【
図8】(A)は、2個のアンカーボルト用固定部材を上下に接触させてアンカーボルトに取り付けた状態を示す平面図であり、(B)は、アンカーボルト用固定部材の下にばねを接触させてアンカーボルトに取り付けた状態を示す平面図である。
【
図9】(A)は、本発明の挿入部材の一実施形態を示す斜視図であり、(B)は、挿入部材によるアンカーボルト用固定部材取付具の使用状態を説明する斜視図である。
【
図10】同時に3本、3個のアンカーボルト用固定部材を取り付け可能なアンカーボルト用固定部材取付具の一実施形態を示す斜視図である。
【
図11】本発明の挿入部材の他の一実施形態を示す斜視図である。
【
図12】
図11の挿入部材を備えたアンカーボルト用固定部材取付具の正面断面図である。
【
図13】本発明のアンカーボルトセットの施工手順の一実施形態を示す概略説明図である。
【
図14】(A)、(B)は基礎等から下向きにアンカーボルトを施工する従来の状態を示す概略断面図である。
【
図15】(A)、(B)は天井面等から上向きにアンカーボルトを施工する従来の状態を示す概略断面図である。
【
図16】実施例で用いたコンクリート部材の全体写真である。
【
図17】実施例の穿孔位置を示す概略平面図である。
【
図18】実施例の測定装置の設置状態を示す概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明のアンカーボルト用固定部材について図面に基づいて以下に詳述する。
図1は本発明のアンカーボルト用固定部材の一実施形態を示しており、
図2は本発明のアンカーボルト用固定部材をアンカーボルトのねじ山に螺合させた状態を示している。
【0031】
本発明のアンカーボルト用固定部材1は、コンクリート部材5に形成した穿孔51に、外面にねじ山20を有するアンカーボルト2を固定するためのアンカーボルト用固定部材1であって、アンカーボルト2のねじ山20に螺合させるコイルばね部10と、コイルばね部10の両端に設けられ、コイルばね部10に対して一方向に角度を持たせて屈曲させた一対の返し部12を備えている。
【0032】
アンカーボルト用固定部材1のコイルばね部10は、アンカーボルト用固定部材1をアンカーボルト2に強固に固定するための引きバネであり、密着巻であることが好ましい。また、コイルばね部10の内径は、少なくとも一部がアンカーボルト2の外径以下に設定されている。具体的には、例えば、アンカーボルト2の外径以下のコイルばね部10の内径をアンカーボルト2の外径の5~20%小さい寸法に設定することが考慮される。これにより、アンカーボルト用固定部材1をアンカーボルト2に取り付けた際に、コイルばね部10がアンカーボルト2を外周から一様の力で中心方向に押さえ付けることができ、アンカーボルト用固定部材1のアンカーボルト2からの脱落やずれを防止することが可能となる。
【0033】
また、コイルばね部10を構成する線材11の線径は、コイルばね部10をアンカーボルト2のねじ山20に螺合させた状態において、
図3に示すように、線材11の少なくとも一部が、上下に隣り合うねじ山20各々のフランク21に接するように設定されている。線材11の線径は、螺合するアンカーボルト2の外周に形成された雄ネジねじ山20の高さ及びピッチに応じて適宜決定されるものであり、特に限定されるものではないが、アンカーボルト2の規格でM8~M24の場合、線材11の線径は表1に示すように1.2~3.5mm以下とすることが考慮される。また、アンカーボルト2のねじ山20のピッチと線材11の線径を同一に設置するのが特に望ましい。この条件とすることにより、ねじ山20のピッチとコイルばね部10のピッチが一致するため、アンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1の螺合をスムーズに行うことができるとともに、取り付け後の外れや弛みを確実に防止することができる。
【0034】
また、本実施形態のアンカーボルト用固定部材1においては、コイルばね部10の一端部の内径が他端部の内径よりも小さく、かつ、他端部の内径がアンカーボルト2の外径以上(広)であり、一端部の内径がアンカーボルト2の外径より小さい(狭)ことが好ましい。具体的なコイルばね部10の形状としては、例えば、
図4に示すような双曲面を有する朝顔状の形状を例示することができる。この実施形態の具体的な径の寸法は、表1に示す、アンカーボルト2の規格M8、M10、M20に対する寸法に設定することができる。
【0035】
【0036】
このように、コイルばね部10の一端部の内径をアンカーボルト2の外径以上に広く設定することにより、広いコイルばね部10の一端部からアンカーボルト2を挿入させやすくでき、螺合させやすくできる。なお、一端部の内径よりも大きい他端部の内径は、通常、アンカーボルト2の外径と同程度の寸法に設定されるが、アンカーボルト2への螺合を更に容易にするために、一端部の内径よりも5~10%大きくすることもできる。
【0037】
更に、アンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1のより強固な固定を実現するために、コイルばね部10の初張力を規定することもできる。コイルばね部10の初張力が大きいほど、アンカーボルト2の雄ネジねじ山20のフランク21を両側から押さえる力が強くなり、強固な固定が可能となる。具体的には、例えばM8、線径1.2mmのコイルばね部10の一端を固定した状態で、他端に荷重測定器を接続して引っ張った場合の変位(mm)に対する荷重(kgf)の測定において、変位1~5mmのバネ定数の平均が1.0~1.5kgf/mm、好ましくは1.2kgf/mm程度であることが好ましい。
【0038】
本発明のアンカーボルト用固定部材1では、コイルばね部10の両端に、コイルばね部10に対して一方向に角度を持たせて屈曲させた一対の返し部12が設けられている。屈曲させた返し部12の角度は特に限定されるものではないが、例えば、
図2(A)、
図6に示すように、アンカーボルト2に取り付けた際に、アンカーボルト2の長手直角方向に対して10°~45°の範囲とするのが好ましい。
【0039】
また、
図5に示すように、返し部12の先端を斜めに切断しておくことが好ましい。先端の切断角度θは特に限定されないが、返し部12の先端部の切断角度θを鋭くしすぎると、引抜き外力によって穿孔の内壁面に食込んだ際に、先端が曲がって耐力が小さくなる可能性があるため、切断角度θは通常30~90°の範囲が好ましい。これにより、返し部12の先端が穿孔51のコンクリート内壁面に確実に食い込み、アンカーボルト2の抜けをより確実に防止することができる。
【0040】
また、一対の返し部12は、アンカーボルト2に螺合させた状態で、
図2(B)に示すように、各々が対向する180°の位置となるように設けられていることが好ましい。このような位置となるような構成にするために、コイルばね部10の巻き数は概ね2.5巻や3.5巻等のように0.5巻ずらして設定する。螺合のし易さや螺合したときの強度等を考慮した場合、2.5巻~5.5巻程度が好ましく、3.5巻程度がより好ましい。
【0041】
このように、アンカーボルト2に螺合させた状態で、一対の返し部12を各々対向する180°の位置となるように設けることにより、地面に対して上下各方向に垂直に設けられた穿孔51のほか、地面に対して水平や斜めに設けられた穿孔51に対して挿入した場合でもアンカーボルト2を常に穿孔51の中心に配設することが可能となる。
【0042】
本実施形態のアンカーボルト用固定部材1は、
図6に示すように、アンカーボルト2に螺合させて取り付けた状態のアンカーボルトセット3として用いられる。
【0043】
なお、アンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1の取り付けは、施工時において、コンクリートの穿孔51にアンカーボルト2を挿入した際に一対の返し部12が穿孔51の挿入口方向に向くように取付けられる。
【0044】
また、本実施形態のアンカーボルトセット3においては、返し部12の突出幅は、返し部12の先端が穿孔51の内壁に接する幅であれば、穿孔51の径とアンカーボルト2の径の関係等によって適宜決定することができるが、確実に返し部12の先端が穿孔51の内壁に接触する必要がある。そのため、返し部12の突出幅は、アンカーボルト2の外径と穿孔51の直径の差の1/2よりも大きく設定されていることが好ましい。これにより、返し部12の先端が確実に穿孔51の内壁に接触して食い込み、抜けを防止することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態のアンカーボルトセット3において、
図7(A)に示すように、アンカーボルト2の中心軸を中空のパイプ状にすることもできる。通常、あと施工アンカーボルト施工法では、アンカーボルト2の固定のために、コンクリートへの穿孔後、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系等の有機系、又はセメント系の無機系接着剤を充填した後、アンカーボルト2を挿入して接着固定するが、特に上向き施工の場合、穿孔51の天井部にエアが噛んで充填不足になったり、接着剤が硬化する前にその自重によって下方に垂れて、穿孔51内に空洞部ができてしまい、挿入されたアンカーボルト2の全表面に接着剤が行き渡らないという現象が起きることがある。また、水中施工等におけるアンカーボルト2設置の場合、削孔自体が水中で行われ、削孔後に接着剤を注入(充填)しようとしても水と置換することは難しい。この際、中心軸が中空のパイプ状のアンカーボルト2を先に穿孔51に挿入し、その後、孔の底部に接したアンカーボルト2先端部から注入材を排出して、水と置換しながら徐々に注入することにより問題を解決することができる。
【0046】
また、本実施形態のアンカーボルトセット3においては、アンカーボルト2にアンカーボルト用固定部材1を複数取り付けることができる。なお、この場合、上下のアンカーボルト用固定部材1の一対の返し部12が各々90°ずれるように取付けるのがより好ましい。これにより、穿孔51の内壁に90°毎に返し部12の先端が当接するため、より安定してアンカーボルト2を穿孔51の中心に配設させることができる。
【0047】
更に、アンカーボルト用固定部材1は、
図8(A)に示すように、上下で接触するように取り付けて一組とし、これを複数組設置するのが好ましい。これにより、アンカーボルト2を引き抜く外力がかかった場合に、上側のアンカーボルト用固定部材1における下側の返し部12が下側のアンカーボルト用固定部材1のコイルばね部10の上端部で押さえられ、下方にずれるのを防止して、より引き抜き耐力を大きくすることができる。
【0048】
また、更に下方にずれるのを防止するために、
図8(B)に示すように、アンカーボルト用固定部材1の下に、ばね13を接触させてアンカーボルト2に取り付けることもできる。
【0049】
本実施形態のアンカーボルトセット3の製造では、アンカーボルト2に対してアンカーボルト用固定部材1を螺合させるが、アンカーボルト用固定部材1の抜けやずれ等を防止するためには、上記の通りアンカーボルト用固定部材1のコイルばね部10の内径をアンカーボルト2の径よりも小さくすることが望ましい。しかしながら、このような条件では、アンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1の螺合が非常にきつくなり、アンカーボルトセット3の製造が煩雑になる場合がある。本発明では、このような場合を考慮して、アンカーボルトセット3の製造にアンカーボルト用固定部材取付具40を用いることができる。
【0050】
本実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具40は、
図9(A)に示すように、基部42と、基部42を貫通するコイルばね部10が挿入可能な挿入孔43と、挿入孔43の内壁部に設けられた一対の返し部12が嵌合可能な返し部固定溝44を有する挿入部材41を備えている。
【0051】
本実施形態の挿入部材41を備えたアンカーボルト用固定部材取付具40を用いたアンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1の取り付けでは、
図9(B)に示すように、まず、挿入部材41の挿入孔43にコイルばね部10を挿入し、返し部固定溝44に一対の返し部12を嵌合させてアンカーボルト用固定部材1を固定する。そして、その状態で、アンカーボルト用固定部材1の上端部にアンカーボルト2の下端部を当接させた状態でアンカーボルト2を回動する。これにより、容易にアンカーボルト2にアンカーボルト用固定部材1を螺合させることができ、簡単にアンカーボルトセット3を製造することができる。
【0052】
また、アンカーボルト2を軸方向に回動させやすくするために、アンカーボルト2の端部に、
図7(B)に示すような切り込み23を設けることもできる。アンカーボルトセット3の製造の際に、アンカーボルト2端部に設けた切り込み23にマイナスドライバー等を嵌合させて回動することにより、より容易に螺合させることができる。
【0053】
また、アンカーボルト2に1工程で複数のアンカーボルト用固定部材1を螺合させるために、
図10に示す実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具401を用いることができる。
【0054】
この実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具401は、基本的に
図9(A)に示すアンカーボルト用固定部材取付具40をスペーサー44を介して3段接続した構成となっており、基部42には、外縁の一辺と挿入孔43とを繋ぐようにアンカーボルト2の径と同等のスリット46が設けられている。また、基部42の上下の間隔、即ちスペーサー45の長さは、螺合させるアンカーボルト用固定部材1の間隔に設定されている。
【0055】
この実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具401によれば、各段の挿入孔43及び返し部固定溝44にアンカーボルト用固定部材1を挿入した状態で、最上段のアンカーボルト用固定部材1から最下段のアンカーボルト用固定部材1まで順にアンカーボルト2を螺合させることにより、1工程で3個のアンカーボルト用固定部材1を所定の間隔で配設させたアンカーボルトセット3を製造することができる。また、本実施形態の段数を増やすことにより、より多くのアンカーボルト用固定部材1を所定の間隔で配設させることが可能となる。
【0056】
なお、アンカーボルト用固定部材取付具401からの螺合完了後のアンカーボルトセット3の取り外しは、アンカーボルトセット3を上方に引き上げて、挿入孔43及び返し部固定溝44からアンカーボルト用固定部材1を外した状態で、アンカーボルト2の部分をスリット46から移動させることにより取り外すことができる。
【0057】
また、更に容易にアンカーボルト2にアンカーボルト用固定部材1を螺合させるために、挿入部材41を備えたアンカーボルト用固定部材取付具60を用いることができる。本実施形態の挿入部材41は、
図11に示すように、基部42が筒状体であり、一端に挿入孔43及び内壁面に返し部固定溝44を備えるとともに、他端に回転装置64に接続可能な接続部47を備えている。
【0058】
基部42の挿入孔43は、少なくともアンカーボルト用固定部材1が挿入可能な径に形成されており、その内壁部に返し部固定溝44が形成されている。即ち、基部42の挿入孔43にアンカーボルト用固定部材1をセットした状態においては、返し部固定溝44に返し部12が嵌合して挿入孔43内でアンカーボルト用固定部材1ががたつきなく共回りしない状態となる。
【0059】
挿入孔43の深さ、即ち、筒状体の基部42の長手方向の長さは、少なくともアンカーボルト端部からアンカーボルト用固定部材1を螺合させる位置までの長さ以上とする必要がある。
【0060】
また、基部42の挿入孔43が設けられた端部とは反対側の他端部には、回転装置64に接続可能な接続部47が設けられている。ここで、回転装置64としては、ドリルドライバー、インパクトレンチ、インパクトドライバー等の電動回転工具を例示することができる。また、上記回転装置64は、回転数を自在にコントロールできるものが好ましい。
【0061】
接続部47の形状は、上記各種回転装置64のチャックに接続可能な形状であれば特に限定されるものではなく、例えば、通常の切削工具等の接続部と同様の形状や、六角レンチの形状とすることができる。
【0062】
図12に、上記の挿入部材41を備えたアンカーボルト用固定部材取付具60の実施形態を示す。
【0063】
本実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具60は、基盤61の上に間隔をおいて立設された2本のガイドシャフト62と、2本のガイドシャフト62を繋ぐ形の挿入部材ホルダー63を備えている。挿入部材ホルダー63は、ガイドシャフト62に沿って上下動するように設けられており、挿入部材ホルダー63の中央部には、挿入部材41を回転自在に接続固定可能とする固定部631が設けられている。固定部631にはベアリングが設けられており、挿入部材41を回転自在に保持している。また、挿入部材ホルダー63にはストッパー632が設けられており、一時的にガイドシャフト62に保持できるようになっている。
【0064】
なお、上記挿入部材ホルダー63に代えて、回転装置64を接続固定するための回転装置ホルダーとすることもできる。この場合には、回転装置ホルダーに回転装置64を接続固定した状態で回転装置64に挿入部材41を接続する。
【0065】
また、基盤61には、アンカーボルト2を垂直に固定するためのアンカーボルト固定部611が設けられている。アンカーボルト固定部611は、アンカーボルト2が共回りしないように強固に固定できればその構成は特に限定されるものではなく、例えば、基盤61にアンカーボルト2の雄ねじが螺合可能な雌ねじを形成し、アンカーボルト2を螺合立設させた後、予めアンカーボルト2に螺合させておいたナットを基盤61に締付けることにより固定することができる。
【0066】
更に、ガイドシャフト62には、アンカーボルト2に対するアンカーボルト用固定部材1の螺合位置を決定、確認するための設置位置指示部材65が設けられている。設置位置指示部材65はガイドシャフト62の任意の高さで固定可能となっている。また、設置位置指示部材65を設けるガイドシャフト62には、位置決めを正確にするために目盛りを設けるのが好ましい。
【0067】
以下に、上記実施形態のアンカーボルト用固定部材取付具60の使用手順を詳述する。まず、
図12に示すアンカーボルト用固定部材取付具60の基盤61のアンカーボルト固定部に、アンカーボルト2を共回りしないように立設させる。この際、ガイドシャフト62に設けた設置位置指示部材65をアンカーボルト用固定部材1の固定位置に合わせて固定しておく。
【0068】
次に、挿入部材ホルダー63に回転自在に固定された挿入部材41の挿入孔43に、
図11に示すようにアンカーボルト用固定部材1を挿入するとともに、返し部固定溝44に返し部12を嵌合させて挿入孔43内でアンカーボルト用固定部材1にがたつきなく共回りしない状態にセットする。
【0069】
次に、挿入部材41の接続部47に回転装置64に接続し、基部42に挿入したアンカーボルト用固定部材1のコイルばね部10の端部をアンカーボルトの先端部に当接させた状態で、回転装置64の回転数を徐々に上げながらアンカーボルト用固定部材1をアンカーボルト2に螺合させる。この際、挿入部材ホルダー63は、アンカーボルト用固定部材1の螺合に伴なって下降する。そして、予め設定しておいた設置位置指示部材65の位置を目安に螺合を停止する。これにより、所望のアンカーボルトセット3を得ることができる。
【0070】
なお、アンカーボルト2に対して、例えば、2個のアンカーボルト用固定部材1を螺合させる場合には、まず、上記方法により、下になるアンカーボルト用固定部材1を螺合させた後、挿入部材41を引き上げて、新たに上になるアンカーボルト用固定部材1をセットして同様の操作を行う。また、3個以上のアンカーボルト用固定部材1を螺合させる場合には、この作業を繰り返す。これにより所望の個数のアンカーボルト用固定部材1を取り付けたアンカーボルトセット3を得ることができる。
【0071】
本実施形態のアンカーボルトセット3を用いた、あと施工アンカーボルト施工法について図を用いて詳述する。まず、
図13(A)に示すように、コンクリート部材5の基体に所定の径及び深さの穿孔51を形成する。穿孔51の径及び深さは、挿入するアンカーボルト2の規格に応じて適宜決定することができるが、通常、直径8mmのアンカーボルト2を用いる場合には、穿孔51の口径は10~12mm程度、深さ64~120mm程度が考慮される。
【0072】
次に、穿孔51内に接着剤を注入する。注入する接着剤は特に限定されるものではないが、通常、エポキシ系、アクリル系、ポリエステル系等の有機系、又はセメント系の無機系接着剤等が用いられる。注入量は、穿孔51と挿入したアンカーボルト2との間の空間を埋める注入量が考慮される。
【0073】
次に、従来のアンカーボルト2の設置状況と本発明を用いた場合の設置状況を説明する。
図14(A)、(B)は、従来のアンカーボルト2を下向きに施工する場合の例で、従来は
図14(A)のように、アンカーボルト2が傾いたままか、
図14(B)のように、傾かないように位置決め治具52等を使用して固定していたため施工に手間がかかった。これに対し、本実施形態のアンカーボルトセット3によれば、
図13(B)に示すように、アンカーボルト2を穿孔51の中心に簡便且つ確実に設置することができる。
【0074】
図15(A)、(B)は、従来のアンカーボルト2を上向きに施工する場合の例で、従来は、
図15(A)のように、アンカーボルト2が自重で下方に移動したままか、
図15(B)のように、ずれ防止のため結束線等を用いて固定していたため施工手間がかった。これに対して、本発明によるアンカーボルトセット3を穿孔51に挿入することにより、アンカーボルト2が自重で下方に移動しないように設置することができる。
【0075】
次に、
図13(B)に示すように、注入した接着剤が硬化する前に穿孔51内に本実施形態のアンカーボルトセット3を挿入する。挿入に際しては、アンカーボルト用固定部材1が穿孔51内に位置するように、且つ、返し部12の先端が穿孔51の開口部の方向に向くように、更に、一対の返し部12の各々が穿孔51内壁面に接するように挿入する。これにより、穿孔51の中心軸にアンカーボルト2を配設することができ、接着剤が硬化するまでの間補助具等を用いることなくアンカーボルト2を穿孔51内で保持させることが可能となる。
【実施例】
【0076】
以下、本発明のアンカーボルト用固定部材及びアンカーボルトセット3について、実施例により具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0077】
アンカーボルト2(規格:M8(外径8mm)、長さ:120mm、ねじピッチ:1.25mm)を10本準備して、これらに表1に示す構成及び条件のアンカーボルト用固定部を螺合して取り付け、実施例1~10のアンカーボルトセット3を作製した。
【0078】
【0079】
次に、
図16に示すRC基礎部分としてのコンクリート部材5の側面に、
図17に示すように各々の間隔200mm、口径10.5mm、深さ70mmの穿孔51を10個形成した。なお、各々の間隔は、試験時のコーン破壊有効面積54(φ160mm)を考慮した間隔であり、各々が干渉しない間隔として200mmとした。また、各々の穿孔51内を清掃した。
【0080】
そして、実施例4~10のアンカーボルトセット3を挿入する穿孔51内に、接着剤としての変性ビニルエステル樹脂を1か所に付き約4cm3注入し、接着剤が硬化するまでに実施例4~10のアンカーボルトセット3を穿孔51内に挿入して硬化養生した。また、実施例1~3のアンカーボルトセット3を接着剤を充填していない穿孔51内に挿入した。
【0081】
次に、この状態で、
図18に示すように治具を介してコンクリート部材5の壁面とアンカーボルトセット3にアンカー引張試験機6(サンコーテクノ社製:テクノテスター)をリフター61及び治具62により所定の位置に固定して、初期剛性、最大耐力を測定し、最大耐力後の破壊性状を観察した。
その結果を表3に示す。
【0082】
【0083】
これらの結果から、あと施工アンカーボルト施工法において、本発明のアンカーボルトセット3を用いることにより、アンカーボルト2が穿孔51の中心に配置されるとともに、アンカーボルト2に引抜き外力が作用しても、十分に耐力が得られることが確認された。
【符号の説明】
【0084】
1 アンカーボルト用固定部材
10 コイルばね部
11 線材
12 返し部
2 アンカーボルト
20 ねじ山
21 フランク
3 アンカーボルトセット
40アンカーボルト用固定部材取付具
41 挿入部材
42 基部
43 挿入孔
44 返し部固定溝
45 スペーサー
46 スリット
47 接続部
5 コンクリート部材
51 穿孔
60 アンカーボルト用固定部材取付具
61 基盤
611 アンカーボルト固定部
62 ガイドシャフト
63 挿入部材ホルダー
631 固定部
632 ストッパー
64 回転装置
65 設置位置指示部材