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特許7195121インバータ装置及び非接触給電システムの送電装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】インバータ装置及び非接触給電システムの送電装置
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/48 20070101AFI20221216BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20221216BHJP
【FI】
H02M7/48 E
H02J50/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018222304
(22)【出願日】2018-11-28
(65)【公開番号】P2020089126
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100108213
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 豊隆
(72)【発明者】
【氏名】水島 光
【審査官】佐藤 匡
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-280120(JP,A)
【文献】特開2006-311668(JP,A)
【文献】特開2018-050429(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/48
H02J 50/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイオードが逆並列接続された2つの半導体スイッチング素子を直列接続した2つのアーム回路が並列に接続されたインバータ回路と、
前記半導体スイッチング素子の駆動信号の位相を調整して前記インバータ回路の出力を制御する制御回路と、
前記インバータ回路と並列に接続された補助コンデンサと、
直流電力を出力する直流電源回路と前記補助コンデンサ及び前記インバータ回路との間の接続をオンオフする補助スイッチング素子と、を備え、
前記制御回路は、何れかの前記半導体スイッチング素子をオンにしてから所定の遅れ時間が経過した時に、前記補助スイッチング素子をオンにする、
インバータ装置。
【請求項2】
2つのアーム回路は、先行アーム回路及び追従アーム回路であり、
前記制御回路は、前記追従アーム回路にある何れかの前記半導体スイッチング素子をオンにしてから、前記遅れ時間が経過した時に、前記補助スイッチング素子をオンにする、
請求項1記載のインバータ装置。
【請求項3】
前記制御回路は、電流信号の位相が電圧信号の位相よりも遅れる遅れ位相の状態である場合に、前記補助スイッチング素子をオンのまま保持させる、
請求項1又は2記載のインバータ装置。
【請求項4】
前記補助コンデンサのキャパシタンスは、オンにした前記半導体スイッチング素子を含むインバータ回路に対し、少なくとも前記遅れ時間が経過するまでは電力を供給できる容量とする、
請求項1から3のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項5】
前記補助コンデンサのキャパシタンスは、当該キャパシタンスをCとし、前記直流電源回路からの入力電力をVinとし、前記半導体スイッチング素子に流れる電流をidとし、前記遅れ時間をdtとした場合に、下記式
【数1】
により算出することができる、
請求項1から4のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項6】
前記遅れ時間は、前記ダイオードの逆回復時間を2倍乃至5倍した時間である、
請求項1から5のいずれか一項に記載のインバータ装置。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のインバータ装置を備える非接触給電システムの送電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ装置及び非接触給電システムの送電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フルブリッジ型のインバータ回路を制御する方式の一つに、インバータ回路を構成する各スイッチング素子に入力する駆動信号の位相を調整して制御する位相シフト制御がある。位相シフト制御では、電流の位相が電圧の位相よりも進む進み位相(容量性負荷)になると、スイッチング素子を切り替える際にエネルギー損失が発生するハードスイッチングとなり、スイッチング損失が増大する。下記特許文献1には、電流信号の位相が電圧信号の位相よりも遅れる遅れ位相(誘導性負荷)の状態を維持するように制御するフルブリッジ型のインバータ回路が開示されている。このインバータ回路は、フルブリッジを構成する先行アームと追従アームのうち、追従アームにおける電圧と電流との位相差が所定の位相差よりも小さくならないように、駆動信号の位相を制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-158332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の位相シフト制御は、スイッチング周波数がコイルの共振周波数よりも高いことが前提となっている。したがって、例えばコイルの共振状態が変動した場合に、スイッチング周波数がコイルの共振周波数よりも低くなり、進み位相になることも起こり得る。進み位相になるとハードスイッチングとなり、スイッチング損失が発生してしまう。
【0005】
そこで、本発明は、進み位相になった場合でもスイッチング損失の発生を抑えることができるインバータ装置及び非接触給電システムの送電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるインバータ装置は、ダイオードが逆並列接続された2つの半導体スイッチング素子を直列接続した2つのアーム回路が並列に接続されたインバータ回路と、半導体スイッチング素子の駆動信号の位相を調整してインバータ回路の出力を制御する制御回路と、インバータ回路と並列に接続された補助コンデンサと、直流電力を出力する直流電源回路と補助コンデンサ及びインバータ回路との間の接続をオンオフする補助スイッチング素子と、を備え、制御回路は、何れかの半導体スイッチング素子をオンにしてから所定の遅れ時間が経過した時に、補助スイッチング素子をオンにする。
【0007】
この態様によれば、何れかの半導体スイッチング素子をオンにしてから所定の遅れ時間が経過するまでは、補助スイッチング素子をオフのまま維持することができるため、インバータ回路への電力供給元を、直流電源回路ではなく、補助コンデンサにすることができる。したがって、アーム回路にある2つの半導体スイッチング素子のうち何れか一方がオフからオンに切り替わるときに、他方のダイオードに流れている電流が転流しても、補助コンデンサが電力供給元であるため、アーム回路に流れる電流が過電流にならないように抑制することができる。それゆえ、進み位相になった場合でもスイッチング損失の発生を抑えることが可能となる。
【0008】
上記態様において、2つのアーム回路は、先行アーム回路及び追従アーム回路であり、制御回路は、追従アーム回路にある何れかの半導体スイッチング素子をオンにしてから、遅れ時間が経過した時に、補助スイッチング素子をオンにすることとしてもよい。
【0009】
この態様によれば、進み位相になり易い追従アーム回路にある2つの半導体スイッチング素子の何れか一方がオフからオンに切り替わるときに、補助コンデンサを電力供給元にすることができるため、追従アーム回路が進み位相になったとしても、追従アーム回路に流れる電流が過電流にならないように抑制することが可能となる。
【0010】
上記態様において、制御回路は、電流信号の位相が電圧信号の位相よりも遅れる遅れ位相の状態である場合に、補助スイッチング素子をオンのまま保持させることとしてもよい。
【0011】
この態様によれば、遅れ位相の状態である場合には、アーム回路にある2つの半導体スイッチング素子の何れか一方がオフからオンに切り替わるときに、直流電源回路を電力供給元にすることができるため、補助コンデンサを電力供給元にする場合に比べ、安定かつ十分な電力をインバータ回路に供給することが可能となる。
【0012】
上記態様において、補助コンデンサのキャパシタンスは、オンにした半導体スイッチング素子を含むインバータ回路に対し、少なくとも遅れ時間が経過するまでは電力を供給できる容量とすることとしてもよい。
【0013】
この態様によれば、遅れ時間が経過するまでの間に、インバータ回路への供給に必要となる電力を補助コンデンサに蓄えることが可能となる。
【0014】
上記態様において、補助コンデンサのキャパシタンスは、当該キャパシタンスをCとし、直流電源回路からの入力電力をVinとし、半導体スイッチング素子に流れる電流をidとし、遅れ時間をdtとした場合に、下記式
【数1】
により算出することとしてもよい。
【0015】
この態様によれば、式(1)を用いることで、遅れ時間の間に流れる電流に基づいてキャパシタンスを算出し、そのキャパシタンスに対応する電力を補助コンデンサに蓄えることが可能となる。
【0016】
上記態様において、遅れ時間は、ダイオードの逆回復時間を2倍乃至5倍した時間であることとしてもよい。
【0017】
この態様によれば、電流や電圧の変動に応じて生ずる逆回復時間の変動分を含めた遅れ時間を設定することができる。
【0018】
本発明の他の態様による非接触給電システムの送電装置は、上記インバータ装置を備える。
【0019】
この態様によれば、非接触給電システムの送電装置が、上記インバータ装置の作用効果を奏することができる。例えば磁界共鳴方式の非接触給電システムでは、送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離を短くしていくと、進み位相となり、効率が低下することとなるが、上記インバータ装置を備えることで、進み位相でもスイッチング損失の発生を抑えることが可能となる。したがって、非接触給電システムの送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離をさらに縮めることが可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、進み位相になった場合でもスイッチング損失の発生を抑えることができるインバータ装置及び非接触給電システムの送電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施形態における非接触給電システムの送電装置の回路構成を例示する図である。
図2図1に示す制御回路が各スイッチング素子に対して出力する駆動信号のタイミングを例示するチャートである。
図3図1に示す送電装置における電子回路のシミュレーション結果を例示するグラフである。
図4図3に示す波線で囲まれた部分IVの波形を拡大表示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について説明する。実施形態におけるインバータ装置を含む非接触給電システムは、磁界共鳴方式により、送電装置から受電装置に数kHz~数百kHzの高周波電力を非接触で伝送するシステムである。
【0023】
図1は、実施形態における非接触給電システムの送電装置の回路構成を例示する図である。同図に示すように、送電装置1は、例えば、直流電源回路2と、インバータ回路3と、補助コンデンサC2と、補助スイッチング素子TR5、TR6と、制御回路4と、送電コイル部5とを含む。これらの構成要素のうち、インバータ回路3、補助コンデンサC2、補助スイッチング素子TR5、TR6、及び制御回路4が、インバータ装置を構成する。
【0024】
直流電源回路2は、直流電力を出力する回路であり、例えば、商用電源から供給される三相の交流電力を整流する整流回路DR及び出力を滑らかにする平滑コンデンサC1を備える。なお、直流電源回路2は、交流電力を直流電力に変換して出力するものに限られず、例えば、燃料電池、蓄電池、太陽電池などの直流電力を出力するものであってもよい。
【0025】
インバータ回路3は、フルブリッジ型のインバータ回路であり、4つのスイッチング素子TR1~TR4を備える。本実施形態では、スイッチング素子TR1~TR4として、例えば、SiC-MOSFETやSi-MOSFETなどのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を用いて説明するが、スイッチング素子はこれに限定されない。例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)等、他の半導体スイッチング素子を用いることとしてもよい。
【0026】
各スイッチング素子TR1~TR4には、それぞれ還流ダイオードD1~D4が、スイッチング素子とは逆向きに並列接続(逆並列接続)されている。還流ダイオードD1~D4は、各スイッチング素子TR1~TR4に逆方向の電流が流れ込まないように、迂回させるために設けられる。還流ダイオードD1~D4に電流が流れることで、スイッチング素子TR1~TR4は短絡状態となる。
【0027】
スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR2とは、スイッチング素子TR1のソース端子とスイッチング素子TR2のドレイン端子とが接続され、直列接続される。スイッチング素子TR1のドレイン端子は直流電源回路2の正極側に接続され、スイッチング素子TR2のソース端子は直流電源回路2の負極側に接続され、ブリッジ構造を形成する。
【0028】
同様に、スイッチング素子TR3とスイッチング素子TR4とが直列接続され、ブリッジ構造を形成する。以下において、スイッチング素子TR1とスイッチング素子TR2とで形成されるブリッジ構造を先行アーム(先行アーム回路)と称し、スイッチング素子TR3とスイッチング素子TR4とで形成されるブリッジ構造を追従アーム(追従アーム回路)と称する。
【0029】
先行アームにあるスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR2との接続点aと、追従アームにあるスイッチング素子TR3とスイッチング素子TR4との接続点bとの間に、出力ラインが接続され、その出力ラインに送電コイル部5が接続される。各スイッチング素子TR1~TR4のゲート端子には、制御回路4から出力される駆動信号(ゲート信号)が入力される。
【0030】
補助コンデンサC2は、直流電源回路2に対し、インバータ回路3と並列に接続される。補助コンデンサC2のキャパシタンス(静電容量)は、直流電源回路2からインバータ回路3に電力が供給されないときに、少なくとも後述する所定の遅れ時間の間、インバータ回路3に電力を供給できる容量にすることが好ましい。また、補助コンデンサC2から放電される電力が、短絡状態のスイッチング素子TR1~TR4を含むインバータ回路3に供給された場合であっても、スイッチング素子TR1~TR4に過電流が流れることがない範囲で、キャパシタンスを設定することが好ましい。補助コンデンサC2のキャパシタンスの具体例については、後述する。
【0031】
2つの補助スイッチング素子TR5、TR6は、並列回路を構成し、直流電源回路2と補助コンデンサC2及びインバータ回路3との間に接続される。補助スイッチング素子TR5、TR6は、直流電源回路2と補助コンデンサC2及びインバータ回路3との間の接続をオンオフする。補助スイッチング素子TR5、TR6のオンオフにより、直流電源回路2からの電力供給は、以下のように制御される。
【0032】
補助スイッチング素子TR5、TR6の双方がオフのとき、直流電源回路2からの電力は、補助コンデンサC2及びインバータ回路3に供給されない。このとき、補助コンデンサC2から放電される電力がインバータ回路3に供給される。
【0033】
他方、補助スイッチング素子TR5、TR6の少なくともいずれか一方がオンのとき、直流電源回路2からの電力は、補助コンデンサC2及びインバータ回路3に供給される。
【0034】
制御回路4は、例えば、ROM、RAM、CPUなどを備えるマイクロコンピュータやFPGA(field-programmable gate array)などで構成される。制御回路4は、位相シフト制御によりインバータ回路3を制御する。具体的に、制御回路4は、各スイッチング素子TR1~TR4のオンオフを制御するための駆動信号の位相を調整することで、インバータ回路3から出力される高周波電力を制御する。
【0035】
制御回路4は、追従アームにあるスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の何れかをオンにしてから経過した時間を計測し、その計測した時間が所定の遅れ時間に達したときに、補助スイッチング素子TR5及び補助スイッチング素子TR6の何れかをオンにする。遅れ時間は、スイッチング周波数が高くなるほど、及び/又は補助コンデンサC2のキャパシタンスが小さくなるほど、短い時間となるように設定することが好ましい。遅れ時間の詳細については、後述する。
【0036】
送電コイル部5は、インバータ回路3から出力される高周波電力を、非接触給電システムの受電装置に非接触で伝送する。送電コイル部5は、例えば、複数ターンのソレノイドコイルからなる送電コイルL1と、その送電コイルL1に直列に接続された共振コンデンサC3との直列共振回路により構成される。
【0037】
送電コイル部5における直列共振回路の共振周波数は、インバータ回路3のスイッチング周波数以下となるように設定する。その共振周波数fは、送電コイルL1の自己インダクタンスLと、共振コンデンサC3のキャパシタンスCとを用いて以下の式(2)により算出することができる。
f=1/{2π・√(L・C)} … (2)
【0038】
次に、図2を参照し、前述した遅れ時間について説明する。図2は、制御回路4が、各スイッチング素子TR1~TR6に出力する駆動信号のタイミングを例示するチャートである。図2(A)は、スイッチング素子TR1への駆動信号であり、図2(B)は、スイッチング素子TR2への駆動信号であり、図2(C)は、スイッチング素子TR3への駆動信号であり、図2(D)は、スイッチング素子TR4への駆動信号である。図2(E)は、スイッチング素子TR5への駆動信号であり、図2(F)は、スイッチング素子TR6への駆動信号である。タイミングチャートの横軸は、時間tである。
【0039】
先行アームを形成するスイッチング素子TR1とスイッチング素子TR2とが交互にオン状態となり、追従アームを形成するスイッチング素子TR3とスイッチング素子TR4とが交互にオン状態となる。制御回路4は、先行アーム側の駆動信号の位相と追従アーム側の駆動信号の位相とを調整しながら、インバータ回路3から出力される高周波電力を制御する。
【0040】
時刻t1において、スイッチング素子TR4の駆動信号がオフ状態からオン状態に切り替わる(図2(D))。このとき、スイッチング素子TR3の還流ダイオードD3に電流が流れていると、追従アームが短絡状態となり、還流ダイオードD3に流れている電流がスイッチング素子TR4に転流し、追従アームに過電流が流れるおそれがある。追従アームに過電流が流れると、スイッチング損失が増大してしまう。
【0041】
本実施形態における送電装置1では、時刻t1において、補助スイッチング素子TR5、TR6の双方をオフにしている(図2(E)、(F))。したがって、インバータ回路3には、直流電源回路2からの電力は供給されず、補助コンデンサC2からの電力が供給されることになる。前述したように、補助コンデンサC2のキャパシタンスは、補助コンデンサC2から放電される電力によって、スイッチング素子TR1~TR4に過電流が流れることがない範囲で設定されている。それゆえ、追従アームに過電流が流れることを回避することができ、スイッチング損失の発生を抑えることが可能となる。
【0042】
時刻t2において、補助スイッチング素子TR5の駆動信号がオフ状態からオン状態に切り替わる(図2(E))。これにより、直流電源回路2からの電力がインバータ回路3に供給されるようになる。
【0043】
時刻t1から時刻t2までの時間が、前述した遅れ時間Tdとなる。遅れ時間Tdは、例えば、スイッチング素子TR4をオンにしてから、還流ダイオードD3に電流が流れている時間(逆回復時間)よりも長くなるように設定し、かつ、スイッチング素子TR4をオンにしてから、補助コンデンサC2の電力が不足状態になるまでの時間よりも短くなるように設定することが好ましい。遅れ時間Td及び補助コンデンサC2のキャパシタンスの具体例について、以下に説明する。
【0044】
遅れ時間Tdは、例えば、還流ダイオードの逆回復時間を用いて算定することができる。逆回復時間は、還流ダイオードの規格として予め定められており、例えばスイッチング素子のデータシートに記載されている。還流ダイオードの逆回復時間は、回路の電流や電圧に応じて変動する。したがって、このような変動により生ずるマージン分を考慮して、逆回復時間の2倍~5倍程度の時間を遅れ時間Tdとして設定することが好ましい。
【0045】
遅れ時間Tdを算定する際に、遅れ時間Tdとスイッチング素子のデッドタイムとを加算した時間が、スイッチング周波数の周期の1/2の10%~15%の範囲に収まるように、遅れ時間Tdを算定することが好ましい。デッドタイムは、同じアームにある2つのスイッチング素子を両方ともオフにする期間であり、ターンオフ遅れ時間とターンオフ後の下降時間とを加算することで算出することができる。ターンオフ遅れ時間及びターンオフ後の下降時間は、スイッチング素子の規格として予め定められており、例えばスイッチング素子のデータシートに記載されている。
【0046】
また、補助コンデンサC2のキャパシタンスCは、上記遅れ時間Tdを用いて以下の式(3)により算出することができる。式(3)のVinは直流電源回路2からの入力電圧であり、idはスイッチング素子(還流ダイオードを含む)に流れる電流であり、dtは上記遅れ時間Tdである。
【数2】
【0047】
例示的に、入力電圧Vinが282[V]であり、電流idが50[A]であり、遅れ時間dtが(45[ns]×5)である場合における補助コンデンサC2のキャパシタンスCを、式(3)を用いて算出すると、以下のように、約40[nF]となる。
C={50×(45×10-9×5}}/282=39.9×10-9≒40[nF]
【0048】
ここで、遅れ時間dtに設定した(45[ns]×5)は、還流ダイオードの逆回復時間が45[ns]であり、その逆回復時間を5倍にしたことを表しており、遅れ時間dtに逆回復時間の変動マージン分を含ませた場合の一例となる。
【0049】
この例示では、スイッチング素子のデッドタイムを0.5[μs]とし、スイッチング周波数を85[kHz]としている。この場合、遅れ時間Tdとスイッチング素子のデッドタイムとを加算した時間は、(0.045[μs]×5)+0.5[μs]=0.725[μs]となる。また、スイッチング周波数の周期の1/2は、11.76[μs]/2=5.88[μs]となる。
【0050】
したがって、遅れ時間Tdとスイッチング素子のデッドタイムとを加算した時間が、スイッチング周波数の周期の1/2に対して占める割合は、0.725[μs]/5.88[μs]×100=12.3%となる。換言すると、遅れ時間Tdとスイッチング素子のデッドタイムとを加算した時間は、スイッチング周波数の周期の1/2の12.3%となる。
【0051】
この場合、遅れ時間Tdとスイッチング素子のデッドタイムとを加算した時間は、スイッチング周波数の周期の1/2の10%~15%の範囲に収まることになる。したがって、この例示において遅れ時間dtを(45[ns]×5)に設定したことは、許容条件の範囲内にあると判定することできる。
【0052】
図2の説明に戻る。前述した時刻t1から時刻t2までと同様に、時刻t3から時刻t4までの時間も、前述した遅れ時間Tdとなる。時刻t3から時刻t4までの動作を以下に説明する。
【0053】
時刻t3において、スイッチング素子TR3の駆動信号がオフ状態からオン状態に切り替わる(図2(C))。このとき、スイッチング素子TR4の還流ダイオードD4に電流が流れていると、追従アームが短絡状態となり、還流ダイオードD4に流れている電流がスイッチング素子TR3に転流し、追従アームに過電流が流れるおそれがある。追従アームに過電流が流れると、スイッチング損失が増大してしまう。
【0054】
本実施形態における送電装置1では、時刻t3おいて、補助スイッチング素子TR5、TR6の双方をオフにしている(図2(E)、(F))。したがって、インバータ回路3には、直流電源回路2からの電力は供給されず、補助コンデンサC2からの電力が供給されることになる。それゆえ、追従アームに過電流が流れることを回避することができ、スイッチング損失の発生を抑えることが可能となる。
【0055】
時刻t4において、補助スイッチング素子TR6の駆動信号がオフ状態からオン状態に切り替わる(図2(F))。これにより、直流電源回路2からの電力がインバータ回路3に供給されるようになる。
【0056】
図3及び図4を参照し、本実施形態における送電装置1において進み位相になった場合でもスイッチング損失の発生を抑止できることについて説明する。
【0057】
図3は、図1に示す送電装置1における電子回路のシミュレーション結果を例示するグラフであり、図4は、図3に示す波線で囲まれた部分IVの波形を拡大表示したグラフである。
【0058】
図3(A)及び図4(A)は、スイッチング素子TR1、TR2への駆動信号であり、図3(B)及び図4(B)は、スイッチング素子TR3、TR4への駆動信号である。図3(C)及び図4(C)は、スイッチング素子TR5、TR6への駆動信号(一つの駆動信号としてまとめて表示している)である。図3(D)及び図4(D)は、スイッチング素子TR1における電圧信号VTR1及び電流信号ITR1であり、図3(E)及び図4(E)は、スイッチング素子TR2における電圧信号VTR2及び電流信号ITR2である。図3(F)及び図4(F)は、スイッチング素子TR3における電圧信号VTR3及び電流信号ITR3であり、図3(G)及び図4(G)は、スイッチング素子TR4における電圧信号VTR4及び電流信号ITR4である。
【0059】
図3(H)及び図4(H)は、送電コイル部5における電圧信号Vout及び電流信号Ioutであり、図3(I)及び図4(I)は、補助スイッチング素子TR5、TR6における電圧信号VTR5及び電流信号ITR5(一つの電圧信号及び電流信号としてまとめて表示している)である。図3(J)及び図4(J)は、インバータ回路3に入力される電流信号IDR、及び補助コンデンサC2に流れる電流信号IC2である。
【0060】
グラフの横軸は時間であり、縦軸は電圧値又は電流値である。縦軸の電圧値は1/10の値で表している。また、直流電源回路2の電圧を240[V]に設定し、補助コンデンサC2のキャパシタンスを30[nF]に設定してシミュレーションを行っている。さらに、進み位相を再現しやすくするために、送電コイル部5における直列共振回路の共振周波数とインバータ回路3のスイッチング周波数とを同値に設定している。
【0061】
図3に示すように、先行アームを形成するスイッチング素子TR1及びスイッチング素子TR2では、電流信号の位相が電圧信号の位相よりも遅れる遅れ位相になっている(図3(A)、(D)、(E))。他方、追従アームを形成するスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4では、電流信号の位相が電圧信号の位相よりも進む進み位相になっている(図3(B)、(F)、(G))。
【0062】
進み位相の場合、補助コンデンサC2及び補助スイッチング素子TR5、TR6を備えていないと、スイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の何れか一方がオフからオンに切り替わるときに、他方の還流ダイオードに流れている電流が転流し、追従アームに過電流が流れ、スイッチング損失が発生することになる。
【0063】
本実施形態における送電装置1では、補助コンデンサC2及び補助スイッチング素子TR5、TR6を備えることで、追従アームに過電流が流れることを回避している。図4を参照して、具体的に説明する。
【0064】
時刻t1において、スイッチング素子TR4がオフからオンに切り替わる(図4(B))と、スイッチング素子TR3の還流ダイオードD3に流れている電流(図4(F))がスイッチング素子TR4に転流し(図4(G))、スイッチング素子TR3の電圧が上昇する(図4(F))。このとき、補助スイッチング素子TR5、TR6がオフになっている(図4(C))ため、直流電源回路2からの電力は供給されず、補助コンデンサC2から電力が供給されることになる。スイッチング素子TR3の還流ダイオードD3は、逆電圧が印加されることでオフになる(図4(F))。
【0065】
その後、補助コンデンサC2の放電に伴ない(図4(J))、スイッチング素子TR3の電圧は徐々に低下する(図4(F))。そして、時刻t1から遅れ時間Tdが経過した時刻t2に、補助スイッチング素子TR5をオフからオンに切り替える(図4(C))。
【0066】
図4(F)、(G)に示されるように、時刻t1以降に、スイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の電流は突出しておらず、スイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4に過電流が流れていないことを確認できる。
【0067】
このように、実施形態における非接触給電システムの送電装置1によれば、追従アームにあるスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の何れかをオンにしてから遅れ時間Tdが経過するまでは、補助スイッチング素子TR5、TR6の双方をオフのまま維持することができる。したがって、インバータ回路3への電力供給元を、直流電源回路2ではなく、補助コンデンサC2にすることができる。
【0068】
これにより、追従アームにあるスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4のうち何れか一方がオフからオンに切り替わるときに、他方のダイオードに流れている電流が転流しても、補助コンデンサC2が電力供給元であるため、追従アームに流れる電流が過電流にならないように抑制することができる。
【0069】
それゆえ、実施形態における非接触給電システムの送電装置1によれば、進み位相になった場合でもスイッチング損失の発生を抑えることができる。
【0070】
ここで、磁界共鳴方式の非接触給電システムでは、送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離を短くしていくと、インバータ回路の出力が絞られることとなり、その結果、進み位相となり、効率が低下するという問題がある。しかし、実施形態における非接触給電システムの送電装置1によれば、進み位相でもスイッチング損失の発生を抑えることができるため、非接触給電システムの送電装置の送電コイルと受電装置の受電コイルとの間の距離をさらに縮めることが可能となる。
【0071】
[変形例]
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【0072】
前述した実施形態では、制御回路4が、追従アームにあるスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の何れかをオンにしてから遅れ時間が経過するまで、補助スイッチング素子TR5及び補助スイッチング素子TR6の双方をオフのまま維持させているが、補助スイッチング素子TR5及び補助スイッチング素子TR6のオンオフ制御は、これに限定されない。例えば、遅れ位相である場合に、制御回路4は、補助スイッチング素子TR5及び補助スイッチング素子TR6のうち少なくとも何れか一方をオンのまま保持させることとしてもよい。
【0073】
この場合、制御回路4は、遅れ位相であることを検知している間は、補助スイッチング素子TR5及び補助スイッチング素子TR6をオフにせずに、オンのまま保持させることとすればよい。遅れ位相である場合には、スイッチング損失への影響が少ないことから、直流電源回路2を電力供給元として動作させた方が、安定かつ十分な電力をインバータ回路に供給することが可能となる。
【0074】
また、前述した実施形態では、二つの補助スイッチング素子TR5、TR6を備える場合について説明しているが、補助スイッチング素子は二つであることに限定されず、一つであってもよいし、三つ以上であってもよい。複数の補助スイッチング素子を並列に接続することで、補助スイッチング素子のスイッチング回数を減らすことができるため、補助スイッチング素子の寿命を延ばすことが可能となる。
【0075】
また、前述した実施形態では、追従アームにあるスイッチング素子TR3及びスイッチング素子TR4の何れかがオンになった場合に、遅れ時間待機させてから、補助スイッチング素子TR5又は補助スイッチング素子TR6の何れかをオンにしているが、遅れ時間を設けるタイミングはこれに限定されない。実施形態では、追従アームが進み位相になり易いことを勘案し、追従アームにあるスイッチング素子がオンになった場合に、遅れ時間待機させてから、補助スイッチング素子をオンにする態様について説明している。しかしながら、先行アームが進み位相になることも想定され得る。したがって、先行アームが進み位相になる場合には、先行アームにあるスイッチング素子がオンになった場合に、遅れ時間待機させ、その後補助スイッチング素子をオンにすることとしてもよい。
【0076】
さらに、前述した実施形態では、インバータ装置を、非接触給電システムの送電装置1に適用した場合について説明しているが、インバータ装置を適用するシステムはこれに限定されず、インバータ回路を有するあらゆるシステムに対して適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…送電装置、2…直流電源回路、3…インバータ回路、4…制御回路、C2…補助コンデンサ、D1、D2、D3、D4…還流ダイオード、TR1、TR2、TR3、TR4…スイッチング素子、TR5、TR6…補助スイッチング素子
図1
図2
図3
図4