(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】セルロース微細繊維脱水物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
D21H 11/20 20060101AFI20221216BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20221216BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20221216BHJP
C08B 9/00 20060101ALI20221216BHJP
C08B 16/00 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
D21H11/20
B82Y30/00
B82Y40/00
C08B9/00
C08B16/00
(21)【出願番号】P 2018228632
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2021-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000115980
【氏名又は名称】レンゴー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【氏名又は名称】北川 政徳
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100161746
【氏名又は名称】地代 信幸
(74)【代理人】
【識別番号】100166796
【氏名又は名称】岡本 雅至
(72)【発明者】
【氏名】久保 純一
(72)【発明者】
【氏名】中坪 朋文
(72)【発明者】
【氏名】辻村 美歩
【審査官】藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047768(WO,A1)
【文献】特開2018-048218(JP,A)
【文献】国際公開第2017/111103(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21H 11/00 - 27/42
B82Y 5/00 - 99/00
C08B 1/00 - 37/18
D01F 1/00 - 6/96
D01F 9/00 - 9/04
D21B 1/00 - 1/38
D21C 1/00 - 11/14
D21D 1/00 - 99/00
D21F 1/00 - 13/12
D21G 1/00 - 9/00
D21J 1/00 - 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生されたセルロース微細繊維の固形分濃度が2質量%以上15質量%以下であるセルロース微細繊維脱水物。
【請求項2】
ザンテート化したセルロース材料を解繊した後に、再生処理を行ってセルロースに戻したセルロース微細繊維に対して、
分散処理を行った後に脱水濃縮処理を行って請求項1に記載のセルロース微細繊維脱水物を得る、セルロース微細繊維脱水物の製造方法。
【請求項3】
前記再生処理の後、上記分散処理の前に過酸化水素水処理を行う、請求項2に記載のセルロース微細繊維脱水物の製造方法。
【請求項4】
上記分散処理において、メジアン径を1/4以下に減少させる請求項2又は3に記載のセルロース微細繊維脱水物の製造方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかに記載の製造方法によって製造したセルロース微細繊維脱水物を、水系溶媒に希釈してセルロース微細繊維再希釈体を得る、セルロース微細繊維再希釈体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、セルロース材料から製造する微細繊維の脱水物に関する。
【背景技術】
【0002】
植物由来のセルロース材料を構成する繊維を繊維径1μm未満程度にまで細分化させたナノセルロースと呼ばれる新たな材料が注目されている。このうち主として繊維径3~100nm程度の材料は、比表面積が大きく、補強用繊維として優れた性質を持つため、製造、研究が進められている。この材料には様々な名称が提案されているが、本出願ではこの材料をセルロースナノファイバーと呼ぶ。また、セルロースナノファイバーに類似するサイズ及びアスペクト比を有するものを、セルロースナノファイバーと併せてセルロース微細繊維と呼ぶ。このセルロース微細繊維を製造するには、パルプなどのセルロース材料を細かく解繊する必要があり、セルロース材料自体をそのまま解繊しようとしても強固な材料であるため、多量なエネルギーを必要とする。このため、セルロース材料を化学変性させて解繊させやすくすることで、セルロース微細繊維を得やすくする技術が提案されている。
【0003】
このような化学変性によって得られるセルロース微細繊維としては、例えば次のものが挙げられる。2,2,6,6-テトラメチル-1-ピペリジン-N-オキシラジカル(以下、「TEMPO」とする)を触媒として用いることでカルボキシル基をセルロースに導入して解繊したTEMPO酸化セルロースナノファイバーや、アルカリ処理したセルロースに二硫化炭素を加えてザンテート基(-OCSS-M+)を導入したザンテート化セルロース微細繊維、リン酸基を導入したリン酸エステル化セルロースナノファイバーなどが挙げられる。
【0004】
これらTEMPO酸化セルロースナノファイバーやザンテート化セルロース微細繊維のような、セルロース材料を化学変性することにより得られる、ミクロフィブリル1本単位まで解繊されたセルロース微細繊維の分散体は、分散性を維持するためセルロース微細繊維に対して数倍~数百倍の重量の水が必要であった。そのような低濃度のままでは、保管スペースの確保や輸送コストの増大等、種々の問題点があった。そこで、できるだけセルロース微細繊維を濃縮して輸送、保管することが重要である。
【0005】
だが、単純にセルロース微細繊維の分散体をろ過等で濃縮しようとすると、濃縮が困難であると共に、解繊によって分散していたセルロース微細繊維同士が凝集を起こし、納入先で再度分散させようとした場合に凝集した状態のままとなり、好適な分散体に戻らなくなるという問題があった。
【0006】
特許文献1には、アニオン変性セルロースナノファイバーに無機系凝集剤を添加してセルロースナノファイバーを凝集させることによる濃縮物の製造方法、及び再分散も可能であることが記載されている。
【0007】
また、特許文献2にはセルロースナノファイバー水性分散体に非イオン界面活性剤を添加することにより曇点又は熱ゲル化点を持たせ、曇点又は熱ゲル化点以上の温度に昇温してセルロースナノファイバーを含む凝集体とし、昇温した状態のままろ過することにより得られる濃縮物の製造方法、及び再分散も可能であることが記載されている。
【0008】
ただし、特許文献1に記載の製造方法では、濃縮するために助剤(無機系凝集剤)が必要であり、濃縮後や再分散後に助剤の除去が困難であるという問題があった。また、再分散時の分散媒のpHをアルカリ性に調整する必要があるという制限もあった。
【0009】
また、特許文献2に記載の製造方法においても、濃縮助剤を用いることが必須であり、濃縮時に使用する器具等を65~80℃に保温する必要があるため、操作が煩雑になるという問題があった。
【0010】
ところで、特許文献3には、セルロース繊維をリン酸エステル化して解繊させやすくした(工程(a))スラリーをホモジナイザーなどで解繊してリン酸エステル化セルロース微細繊維を得た(工程(b))後、リン酸基を脱離させて(工程(c))セルロース微細繊維を得る手法が開示されている。その上で、リン酸基を脱離させて得られたセルロース微細繊維スラリーを凝集させ、洗浄した後に、ホモディスパーにて再分散処理を行ってスラリーを得ることが開示されている(特許文献3[0058])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2016-186018号公報
【文献】特開2018-48218号公報
【文献】特許第5783253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、リン酸エステル化セルロース微細繊維から、リン酸基を十分に脱離させるためには、長時間に亘る加熱環境での加水分解処理が必要であり、短時間の脱離処理では置換基の脱離が不十分となることがわかっている。特許文献3でも、実施例1,2では置換基の残存量が多く、十分に置換基量が減少されるには実施例3の条件が必要となっており、それでも置換基が一部残存していた。
【0013】
一方、ザンテート化セルロース微細繊維はザンテート基によって水との親和性が非常に高いため、単純なろ過などでは十分に濃縮脱水することができない状態である。このザンテート化セルロース微細繊維のザンテート基を脱離させ、水酸基に戻す再生処理をしてセルロース微細繊維とした場合は、ある程度ろ過等による濃縮脱水ができるようになるが、ザンテート基が脱離したことにより凝集を起こし、脱水物を再希釈すると、凝集物が十分に分散されないセルロース微細繊維スラリーとなった。
【0014】
そこでこの発明は、セルロース微細繊維を取り扱うにあたり、置換基を十分に脱離させた高品質のセルロース微細繊維を、濃縮助剤を用いることなく容易に濃縮できるようにし、なおかつ、一旦濃縮した後に容易に希釈できるようにして、保管や輸送を容易にして、セルロース微細繊維の実用性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この発明は、ザンテート化セルロースを解繊した後にザンテート基を脱離させる再生処理により得られたセルロース微細繊維に対して、分散処理を行った後に、脱水濃縮を行うことで得られる、固形分濃度2質量%以上15質量%以下のセルロース微細繊維脱水物とすることにより上記の課題を解決したのである。
【0016】
ザンテート化セルロース微細繊維は、酸処理又は加熱処理によって速やかにザンテート基を脱離させることができ、高品質のセルロース微細繊維を得ることができる。また、ザンテート化セルロース微細繊維由来のセルロース微細繊維は、解繊後に化学変性した官能基を水酸基に戻す再生処理をした後、さらに分散処理を行うことで、セルロース微細繊維が凝集しにくくなるとともに、濃縮が可能となり、濃縮脱水物の再希釈を行った際に分散体を得ることも容易にできる。
【0017】
再生したセルロース微細繊維の製造時における濃度は概ね0.1質量%以上1.5質量%以下程度であるが、それよりも濃縮された高い固形分濃度であるセルロース微細繊維脱水物を実現できる。また、このセルロース微細繊維は解繊のために介在させた置換基がほぼ残存しておらず、高品質なものである。
【0018】
その分散処理をしたセルロース微細繊維の脱水物は、分散処理をせずに濃縮したものよりも粒度分布におけるメジアン径が小さくなる傾向にある。具体的には、粒度分布におけるメジアン径が前記分散処理の前後で1/4以下になっているとよい。
【0019】
この発明にかかる一旦濃縮された脱水物をその後希釈して再希釈体とすると高い分散性を発揮する。これにより、保管や輸送の際には水分を減らしてスペースと重量を省くことができるとともに、販売納入先で利用する際に再度の解繊処理などを行う手間を省くことができ、製品として利用しやすい形態で提供可能となる。しかもザンテート化セルロース微細繊維由来である再希釈体は、リン酸エステル化セルロース微細繊維由来のセルロース微細繊維を同様に扱う場合よりも高い分散性を発揮する。これにより、一旦濃縮して保存及び輸送した後で利用する際の品質及び利便性が大きく向上するものとなった。
【0020】
また、再生後に過酸化水素水処理を行い、分散処理を行った上で脱水濃縮、再希釈体としてもよい。
【発明の効果】
【0021】
この発明により、置換基の残存量が少なく高品質なセルロース微細繊維について、水分量を減らして保管及び輸送の際の占有スペースや重量を削減したセルロース微細繊維脱水物を、その後に希釈するだけで、元の脱水前に近い状態にまで十分に分散したセルロース微細繊維再希釈体として利用できるようになる。これにより、セルロース微細繊維の製造を利用現場から時間的空間的に離れた場所で行ってもよく、セルロース微細繊維の利便性を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例1の製造過程で生じるザンテート化セルロース微細繊維スラリーのTEM画像
【
図2】実施例1の製造過程で生じる再生セルロース微細繊維再分散体スラリーのTEM画像
【
図3】実施例1及び比較例1,2のろ過時間と最終ろ液量を比較したグラフ
【
図4】実施例1における再分散処理によって変化する粒度分布を示すグラフ
【
図5】参考例1における再分散の有無によるスラリーの違いを示す写真
【
図7】比較例5,6、実施例8a,8b、比較例7,8、実施例9a,9bそれぞれの乳化処理後の状況を示す写真
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明について詳細に説明する。この発明は、ザンテート化セルロース微細繊維を経由して製造したセルロース微細繊維を用いて、再希釈が容易となるように濃縮した脱水物の製造方法、並びにそれを利用したセルロース微細繊維の再希釈体の製造方法である。
【0024】
この発明において用いるセルロース微細繊維とは、セルロース材料を化学変性させ、セルロースI型の構造を維持したまま解繊して得られる微細な繊維と、その微細な繊維を再度化学変性させたものを指す。後者の中には、再度の化学変性によって最初の化学変性で導入した官能基を水酸基に戻し、セルロースに戻したものを含む。セルロースに戻したものを特に再生セルロース微細繊維と呼ぶ。この発明にかかる方法が適用可能な範囲が厳密に限定されるわけではないが、繊維径が1μm未満のナノファイバーと言われる状態の繊維が固形分中の80質量%以上を占めていると好ましく、固形分中の90質量%以上を占めているとより好ましい。
【0025】
上記のセルロース材料とは、結晶状態であるセルロースI型のα-セルロースを含む材料をいう。α-セルロースであっても結晶状態を失って完全にセルロースII型になった材料は好適には使用できない。具体的な材料としては、例えば、木材を加工したクラフトパルプやサルファイトパルプ、木粉、稲わらなどのバイオマス由来の材料、古紙、ろ紙、紙粉などの紙由来の材料、粉末セルロースや、マイクロメートルサイズの微結晶セルロースなどの結晶性を保持したセルロース加工物などが挙げられる。ただし、これらの例に限定されるものではない。また、これらのセルロース材料は、純粋なα-セルロースである必要はなく、β-セルロースやヘミセルロース、リグニンなどのその他の有機物や無機物などを、除去可能な範囲で含んでいても良い。なお、以下の説明において単に「セルロース」と呼ぶ場合には「α-セルロース」を指す。これらのセルロース材料の中でも、元のセルロース繊維の長さが維持されやすいため木材パルプを用いるのが好ましい。
【0026】
上記のセルロース材料は、そのままでは解繊させることは困難である。機械解繊で単純に繊維を細かくしようとするとかかる手間と時間が大きく効率が悪い。高温高圧環境下で解繊させることはできるが、セルロース微細繊維の繊維長が短くなる等の損傷を受ける可能性がある。そこで化学変性させてセルロースの分子に官能基を導入し、この官能基による静電反発を利用することで、比較的穏和な条件で解繊を行うことができるようになる。これにより、セルロースI型の構造を維持したまま解繊した微細な繊維が得られる。
【0027】
上記セルロース材料を化学変性させた後に、解繊して得られる微細な繊維としては、アルカリ処理したセルロースに二硫化炭素を加えてザンテート基(-OCSS-M+)を導入したザンテート化セルロース微細繊維が用いられる。同種の用途に用いられる化学変性したセルロース微細繊維としては、この他に、TEMPOを触媒として用いることでカルボキシル基をセルロースに導入して解繊したTEMPO酸化セルロースナノファイバーや、セルロースをリン酸エステル化したリン酸エステル化セルロースナノファイバーが挙げられる。しかし、TEMPO酸化セルロースナノファイバーはカルボキシル基を水酸基に戻すことが容易ではない。リン酸エステル化セルロースナノファイバーは置換基の脱離は可能であるものの反応に時間がかかり、かつ置換基の脱離が不十分で残りやすく、純粋なセルロース微細繊維が得られにくい。さらに、残存する置換基が、得られる脱水物、及び再希釈体に影響を及ぼす可能性がある。これらに対して、ザンテート化セルロース微細繊維は再度の化学変性によって容易にセルロースに戻すことができる。具体的には、ザンテート化セルロース微細繊維は酸処理又は加熱処理によりザンテート基を水酸基に戻す再生処理ができ、再生セルロース微細繊維を得ることができる。この処理は速やかに進行させることができ、純粋な再生セルロース微細繊維が容易に得られる。
【0028】
ここで、再生されたセルロース微細繊維は、化学変性で導入されたザンテート基の全てが水酸基に戻されたものであると望ましいが、一部のザンテート基が残存していても十分に利用可能である。具体的には、導入されたザンテート基のうち、残存しているザンテート基が1%以下であると好ましく、0.2%以下であるとより好ましい。基本的には残存率が低いほど好ましい。リン酸エステル化セルロースナノファイバーであると置換基をここまで脱離させるために長時間に亘る処理が必要になってしまう。
【0029】
上記の再生されたセルロース微細繊維は、ほとんどの場合水系溶媒中に分散した状態である。なお、水系溶媒とは、水を含む極性溶媒をいい、水だけでもよいし、水と有機溶媒との混合体でもよい。有機溶媒としてはエタノールや、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。ただし、酸処理により水酸基に戻す場合には、有機溶媒を含まない水のみが溶媒であると、副反応の恐れが少なくなるため好ましい。
【0030】
再生されたセルロース微細繊維の、再生した後の固形分濃度は、0.1質量%以上1.5質量%以下程度である。再生した後のセルロース微細繊維はろ過等により濃縮脱水は可能であるが、再生前のザンテート化セルロース微細繊維と比べるとザンテート基が脱離しているため、セルロース微細繊維同士の水素結合やからまりにより一部が凝集した状態である。なお、固形分のうち、セルロース微細繊維が95%以上を占めていることが望ましい。解繊や再生の際に用いるその他の添加物が含まれている場合は、蒸留水等で洗浄して除去しておくことが望ましい。
【0031】
この発明では、再生した後のセルロース微細繊維のスラリーに対して、分散処理を行う。以下、再生した後に行うこの分散処理を「再分散処理」という。再分散処理を行う場合には、回転式ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、超音波分散機などの、分散処理に用いる一般的な装置及び手法が採用できる。
【0032】
上記再分散処理は、再生した後のセルロース微細繊維が上記水系溶媒中で形成している凝集状態をほどき、再凝集しにくくなるように分散させる処理である。具体的には、再分散処理の後の再生セルロース微細繊維の凝集物のメジアン径が、再分散処理の前の再生セルロース微細繊維の凝集物のメジアン径に対して、1/4以下にまで低下する程度に分散を進めていることが望ましく、1/8以下にまで低下しているとより望ましく、1/10以下であるとさらに望ましい。再分散処理によって凝集物のメジアン径がこの程度まで減少する再分散処理を行わなければ、凝集状態が十分に解除されず、濃縮脱水して脱水物とした後に再希釈して再希釈体とした場合に分散状態を維持できないと考えられる。
【0033】
上記再分散処理は、処理後のスラリーが沈降せず分散状態を維持しており、処理後のスラリーの透過率が45%以上であると好ましく、55%以上であるとより好ましい。
【0034】
上記再分散処理は一回の処理である必要はなく、適当な条件の処理を複数回繰り返すことで達成してもよい。
【0035】
この発明で用いる、再生セルロース微細繊維を再分散処理したものを再生セルロース微細繊維再分散体と呼ぶ。この再生セルロース微細繊維再分散体の大きさは、分散媒中に分散している大きさであり、平均繊維径は概ね3nm以上300nm以下のものが得られやすく、利用しやすい。
【0036】
上記再分散処理を行った再生セルロース微細繊維再分散体のスラリーは、再分散処理前の再生セルロース微細繊維と同様に、ろ過やその他の処理による脱水濃縮が容易に可能となっている。上記再分散処理により分散状態となっているが、再生処理前のザンテート化セルロース微細繊維と比べるとザンテート基が脱離しているため、親水性は低くなっている。そのため、繊維同士の間に水を抱え込む力が弱くなっていると推測される。
【0037】
上記再分散処理を行った後の再生セルロース微細繊維再分散体をろ過や遠心脱水機などによって脱水濃縮処理して得られる再生セルロース微細繊維脱水物は、固形分濃度を2質量%以上にすることが容易にでき、5質量%以上にすることも可能となる。2質量%未満では水の量が多すぎ、脱水物としては保管及び輸送の効率上不十分であり、本発明の効果を十分に発揮しきれない。2質量%以上になると、元のスラリーに比べて重量の減少幅が大きく、保管及び輸送の点でのメリットが大きくなる。5質量%以上になると、スラリーのような液体ではなくペースト状の塊として扱うことが可能になる。5質量%程度の脱水物は塊を強く押すことで多少の自由水が抜け出る程度の状態である。この状態からさらに水を絞って濃度を上昇させることもできる。5質量%以上だと塊として保存、及び輸送することが容易にできるようになるので、取り扱い上好ましい。
【0038】
一方、上記再生セルロース微細繊維脱水物は、固形分濃度が15質量%以下であることが必要である。固形分濃度が15質量%を超えるほど脱水すること自体は可能であるものの、脱水物として固くなりすぎてしまい、その後に再希釈させることが困難になってしまう。運用上は12質量%以下が好ましく、10質量%以下であると後述の再希釈がさせやすい。なお、遠心脱水機のみで脱水しようとすると、10質量%がほぼ上限となる。固形分濃度が10質量%程度の再生セルロース微細繊維脱水物は板状で塊を押しても自由水が抜け出ることがほぼ無いという程度の状態である。
【0039】
上記再生セルロース微細繊維脱水物は、保管後、あるいは輸送後に、水系溶媒を添加して希釈し、撹拌することで、再生セルロース微細繊維再希釈体を容易に得ることが出来る。この再生セルロース微細繊維再希釈体は、再生処理の後に再分散処理を行った上記再生セルロース微細繊維再分散体と同程度に凝集しにくく、保管や輸送の後でも、脱水する前の再分散直後に近い状態の再生セルロース微細繊維再希釈体のスラリーを容易に得ることができる。このスラリーである再生セルロース微細繊維再希釈体の固形分濃度は、上記再生セルロース微細繊維脱水物の固形分濃度より低い範囲で、利用する現場に応じて好適な値に調整できる。具体的には、上記再生セルロース微細繊維再希釈体の固形分濃度は0.1質量%以上1.5質量%以下程度で実用することができる。
【0040】
前記再生セルロース微細繊維を、再分散処理前に過酸化水素水で処理し、再分散処理を行うことでその後に脱水濃縮し、再希釈してもよい。
【0041】
上記の過酸化水素水による処理にあたっては、添加した過酸化水素による反応性を上げるために50℃以上に加温することが望ましく、60℃以上であるとより望ましい。一方、温度が高すぎると再生セルロース微細繊維を構成する繊維の切断等の恐れがあるため、90℃以下であると望ましく、80℃以下であるとより望ましい。
【0042】
上記過酸化水素の添加量は、処理を行う再生セルロース微細繊維のスラリー全体で過酸化水素の濃度が0.05質量%以上であると好ましく、0.1質量%以上であるとより好ましい。一方、濃度が高すぎると再生セルロース微細繊維の分散性を上げるだけでなく、繊維長を短くしすぎてしまう恐れがあるため、2質量%以下であると好ましく、1質量%以下であるとより好ましい。
【0043】
この発明にかかる再生セルロース微細繊維は、乳化剤として利用することもできる。ザンテート化セルロース微細繊維を経由した不純物の少ない再生セルロース微細繊維が、再生後の再分散処理によって高い分散性を発揮する。すなわち、製造後に一旦脱水濃縮して保存しておいた再分散処理済みの前記再生セルロース微細繊維脱水物は、乳化剤として使用する際には容易に希釈されて高い分散性を発揮して、再生セルロース微細繊維同士が弱いネットワーク構造を形成し、疎水性物質をネットワーク構造中に取り込み、高い乳化性能を発揮できる。
【実施例】
【0044】
以下、この発明を具体的に実施した実施例を示す。まず、セルロース材料として以下のものを用いた。
・クラフトパルプ(日本製紙(株)製:NBKP、α-セルロース含有率:90質量%、α-セルロースの平均重合度1000)以下、「NBKP」と表記する。
【0045】
(実施例1)
まず、化学変性させたセルロースを解繊させたザンテート化セルロース微細繊維の製造手順について説明する。
<アルカリ処理>
NBKPをパルプ固形分(α-セルロースに加えて不純物であるリグニンなどを含む固形分、及びそれらの変性物を指す。以下同じ。)100gとなるように秤量した。これを3Lのビーカーに導入し、8.5質量%水酸化ナトリウム水溶液 2500gを入れ、室温にて3時間撹拌してアルカリ処理を行った。このアルカリ処理後のパルプを遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)により固液分離してアルカリセルロースの脱水物を得た。このアルカリセルロースの脱水物における水酸化ナトリウム含有率は約7.5質量%、パルプ固形分は27.4質量%であった。
【0046】
<ザンテート化処理>
上記で作製したアルカリセルロースの脱水物をパルプ固形分100gとなるように秤量し、ナス型フラスコに導入した。このナス型フラスコ内へ二硫化炭素を35g(対パルプ固形分35質量%分)導入し、室温で約4.5時間硫化反応を進行させてザンテート化処理を行い、ザンテート化セルロースを得た。
【0047】
<ザンテート置換度測定>
また、ザンテート化セルロースについて、平均ザンテート置換度はBredee法により測定したところ、0.312であった。なお、このザンテート置換度はセルロースのグルコース単位当たりにザンテート基が導入されている度合に対する値である。Bredee法の手順は次のように行った。100mLビーカーにザンテート化セルロースを約1.5g精秤し、飽和塩化アンモニウム溶液(5℃)を40mL添加した。ガラス棒でサンプルを潰しながらよく混合し、約15分間放置後、GFPろ紙(ADVANTEC社製GS-25)でろ過して、飽和塩化アンモニウム溶液で十分に洗浄した。サンプルをGFPろ紙ごと500mLのトールビーカーに入れ、0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌した。15分間放置後、1.5M酢酸で中和した。(フェノールフタレイン指示薬)中和後蒸留水を250mL添加してよく撹拌し、1.5M酢酸 10mL、0.05mol/Lヨウ素溶液10mLをホールピペットによって添加した。この溶液を0.05mol/Lチオ硫酸ナトリウム溶液で滴定した。(1%澱粉溶液指示薬)チオ硫酸ナトリウムの滴定量、サンプルのセルロース含有量より次式(1)からザンテート置換度を算出した。
【0048】
ザンテート置換度=(0.05×10×2-0.05×チオ硫酸ナトリウム滴定量(mL))÷1000÷(サンプル中セルロース量(g)/162.1)……(1)
【0049】
<ザンテート化セルロースの結晶性保持の確認>
上記のザンテート化セルロース中のセルロース含有量測定時に得られたセルロースについてIR測定を行った結果、セルロースI型に対応するピーク形状が観測された。
【0050】
<解繊処理>
上記のザンテート化処理で作製したザンテート化セルロースを5L手付きビーカーにパルプ固形分100gとなるように秤量し、スラリー濃度約5%となる様に蒸留水を添加して分散させた。遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄して、不純物、アルカリ、二硫化炭素等を除去した。洗浄後のザンテート化セルロースをすべて回収し、蒸留水を添加してセルロース固形分0.5質量%のスラリー20kgとした。このスラリーを、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株) H20型)を用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計5回パスさせて解繊処理して、ザンテート化セルロース微細繊維を得た。
【0051】
<微細繊維の解繊の度合い>
上記で解繊処理を行ったザンテート化セルロース微細繊維のスラリー(セルロース固形分0.5質量%)に蒸留水を添加してスラリー濃度を0.1質量%に調整した。このスラリーを遠心分離(12000G、10分間)して未解繊物を沈降させた。上清はナノファイバースラリーとして分離して三角フラスコに移し、沈降した未解繊物に蒸留水を添加して再度遠心分離を行い、未解繊物を洗浄した。未解繊物をるつぼに移して絶乾し、未解繊物の質量を測定した。未解繊物の質量と解繊処理したザンテート化セルロース中のセルロース含有量より次式(2)から生成したザンテート化セルロースナノファイバーの生成率を求めた。以下、上記遠心分離操作にて沈降しなかったザンテート化セルロース微細繊維をザンテート化セルロースナノファイバーと定義する。上記解繊処理によって得られたザンテート化セルロース微細繊維のナノファイバー生成率は99.0%であった。
【0052】
ザンテート化セルロースナノファイバーの生成率(質量%)=(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量-未解繊物の質量)÷(ザンテート化セルロース中のセルロース含有量)×100……(2)
【0053】
上記で三角フラスコに移したザンテート化セルロース微細繊維の上清を一部サンプリングして500mLのトールビーカーに入れた。そこに0.5M水酸化ナトリウム溶液(5℃)を50mL添加して撹拌し、Bredee法により平均ザンテート置換度を測定したところ、0.263であった。
【0054】
水で約0.1質量%に希釈したザンテート化セルロース微細繊維のスラリーを、遠沈管に入れ、12000Gにて10分間かけて遠心分離を行い、遠心上清を回収した。この遠心上清に濃度調整後染色を施し、支持膜上で乾燥し乾燥検体とした。透過型電子顕微鏡(TEM 日本電子(株)製、JEM-1400)を使用し、加速電圧120kVで観察を行った。その写真を
図1に示す。観察を行った50,000倍の画像よりナノファイバー50本を選択し、繊維径を測定して平均値を求めたところ、ザンテート化セルロースナノファイバーの繊維径は3.0nmから7.4nmであり、数平均繊維径は6.1nmとなった。
【0055】
<再生処理及び再分散処理>
以上の手順で得られたザンテート化セルロース微細繊維のスラリー16.4kg(セルロース固形分0.5質量%)に、1M硫酸を360ml(硫酸量4.4mmol/g-セルロース固形分量)添加し、アジテーターで約1時間撹拌して再生処理を行った。処理終了後、1M水酸化ナトリウム溶液にてpH7まで中和して、再生セルロース微細繊維スラリーを得た。平均ザンテート置換度を測定したところ、測定下限である0.001未満であったので、酸処理によりザンテート基がほぼ完全に脱離して水酸基に戻っていることが確認された。
【0056】
上記で得られた再生セルロース微細繊維スラリーを、遠心脱水機((株)コクサン社製H-130C、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。洗浄後の再生セルロース微細繊維をすべて回収し、蒸留水を添加してセルロース固形分0.5質量%のスラリー10kgとした。このスラリーを、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株) H20型)を用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで計3回パスさせて再分散処理した。各パス終了時点において粒度分布と透過率を測定した。粒度分布の変遷を
図4に、粒度分布のメジアン径を表1に、透過率を表2に示す。再分散処理前の再生セルロース微細繊維と比較すると、再分散処理した再生セルロース微細繊維再分散体は、粒度分布のメジアン径が小さくなっていることが確認でき、パス回数を増やすにつれて透過率は高くなっていった。これらのことから、再生セルロース微細繊維スラリーを再分散処理することにより、さらにナノ分散が進んでいることが分かった。さらに、上記再生セルロース微細繊維再分散体スラリーをザンテート化セルロース微細繊維スラリーと同様に平均繊維径を算出したところ、再生セルロース微細繊維再分散体の繊維径は3.0nmから7.4nm、数平均繊維径は6.0nmであった。再生セルロース微細繊維再分散体のTEM写真を
図2に示すように、再生処理前と同等の繊維径を保っていることが確認された。なお、上記再生セルロース微細繊維再分散体のスラリーの濃度は0.5質量%であり、再生処理前のザンテート化セルロース微細繊維スラリーの濃度0.5質量%と同じとなった。
【0057】
【0058】
【0059】
なお、表1に示す粒度分布の測定にあたっては、レーザー回折式粒度分布測定装置(マイクロトラックベル(株)社製:MT3300EXII)を用いた。測定方法はフローセル、粒子屈折率1.53、溶媒屈折率1.333、測定範囲は0.02~2000μm、測定サンプルの濃度は0.5質量%とした。メジアン径は粒子径の細かいものから積算し全体の50%に達した時の粒子径である。
【0060】
また、透過率の測定にあたっては、再生セルロース微細繊維再分散体を0.1質量%に希釈した。その後5分間静置して、沈降がみられなかったサンプルについて行った。紫外可視分光光度計((株)島津製作所社製:UV-2450)を用い、石英セルに希釈したスラリーを入れ、光路長10mm、波長660nmの透過率を測定した。
【0061】
(参考例1)
再分散処理時の再生セルロース微細繊維の濃度を0.5質量%から1.0質量%に変更した以外は、同様の条件で再分散を行った。再分散前のスラリー(写真左)と再分散後のスラリー(写真右)の静置した写真を
図5に示す。再分散前のスラリー(写真左)は、凝集を起こして粒子が大きくなっているため、底部付近に固形分の沈殿が生じている。一方、再分散後のスラリー(写真右)では凝集がほぼ解消されて個々の粒子が小さいために沈殿が生じることなく、スラリー全体に分散される状態になっている。
【0062】
<脱水濃縮処理>
さらに、上記再生セルロース微細繊維再分散体スラリー30gを加圧ろ過器(アドバンテック社製 KST-47)にてろ過(孔径1.0μmの5Cろ紙、圧力3kgf/cm2)し、ろ液量が2分間変化しなくなった時点でのろ過時間を計測したところ、26分であった。また、最終ろ液の量(28.4mL)からろ過後のスラリーの固形分濃度を算出したところ、9.6質量%であり、固形分濃度の高い再生セルロース微細繊維脱水物が容易に得られた。
【0063】
(比較例1)
上記の実施例1において、再分散処理をしない以外は同様の手順により再生セルロース微細繊維スラリーを得た。この再生セルロース微細繊維スラリー(固形分濃度0.5質量%)を同様に脱水濃縮処理したところ、ろ過時間は20分、最終ろ液量は26.8mL、再生セルロース微細繊維脱水物の固形分濃度は4.7質量%となった。実施例1と比べると、ろ過時間は速いが、固形分濃度は低い結果となった。これは、再生セルロース微細繊維が凝集物となっているため、ろ過の際に凝集物間の空隙にある水が除去しにくいことによると考えられる。
【0064】
(比較例2)
機械解繊により得られたセルロースナノファイバー((株)スギノマシン製BiNFi-s)を水中に分散させて固形分濃度0.5質量%のスラリーとした。このスラリーを実施例1と同様に脱水濃縮処理したところ、ろ過時間は33分、最終ろ液量は28.8mLとなり、実施例1と比べると、固形分濃度は同等であったが、時間がかかる結果となった。
【0065】
実施例1,比較例1,2のろ過時間と最終ろ液量を比較したグラフを
図3に示す。再生後に再分散させた実施例1は、全体的に比較例2の約半分の時間で同程度のろ過量を示しており、濃縮にかかる時間が機械解繊したセルロースナノファイバーと比べても大幅に短縮できることが示された。また、比較例1に比べると、ろ過時間は若干遅くなるが、ろ液量が多くなっており、濃縮後の再生セルロース微細繊維脱水物の固形分濃度を高くできることが示された。
【0066】
<再希釈体の検証>
(実施例2~5)
実施例1と同様の手順で再生セルロース微細繊維スラリーを得た。この再生セルロース微細繊維スラリーに対して、実施例1と同様に再分散処理を行った。再分散処理した再生セルロース微細繊維再分散体スラリーを、2L手付きビーカーに2.0kg秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、ろ布中に残った再生セルロース微細繊維脱水物をすべて回収した。回収した再生セルロース微細繊維脱水物は333gであり、脱水物のセルロース固形分は3.0質量%であった(実施例2)。
【0067】
また、遠心脱水の条件を変更した同様の操作にて、固形分の濃度が約5質量%、約10質量%、約15質量%となることを目標に遠心脱水処理の時間を調整して、それぞれ脱水物を得た。具体的には、目標固形分濃度約5質量%の場合は、脱水物量222g、セルロース固形分4.5質量%となった(実施例3)。目標固形分濃度約10質量%の場合は、脱水物量102g、セルロース固形分9.8質量%となった(実施例4)。目標固形分濃度約15質量%の場合は、脱水物量68g、セルロース固形分14.6質量%となった(実施例5)。
【0068】
これらの脱水物の写真を
図6(a)~(c)に示す。実施例2(固形分3.0質量%、
図6(a))では含水率の高いペースト状であり,実施例3(固形分4.5質量%、
図6(b))ではほぼ水の抜けたペースト状の形態となる。実施例4(固形分9.8質量%、
図6(c))では板状の塊となった。なお、実施例5は実施例4とほぼ同様の板状の塊となった。
【0069】
(実施例2a、実施例2b)
実施例2として上記で得られた再生セルロース微細繊維脱水物167g(セルロース固形物5g含有)を2Lビーカーに秤量し、水167gを添加してガラス棒にて脱水物を十分に混練した。その後、更に水を添加して0.5質量%スラリー1000gとした。このスラリーについて撹拌機(新東科学(株)社製 HEIDON スリーワンモーター1200G)を使用して1000rpmにて5分間(実施例2a)又は10分間(実施例2b)撹拌し、再希釈処理を行った。再希釈後の再生セルロース微細繊維再希釈体におけるメジアン径及び透過率を表3に示す。脱水処理前の再生セルロース微細繊維再分散体スラリー(実施例1)と比較すると、脱水物を再希釈処理した再生セルロース微細繊維再希釈体スラリーは、メジアン径、透過率ともに同程度となった。このことから再分散処理を行った後に脱水した脱水物は、再希釈処理により脱水前の再分散体とほぼ同様の状態に分散可能であることが分かった。
【0070】
【0071】
また、再希釈処理にかける時間を倍にする(実施例2a→実施例2b)と、わずかにメジアン径が低下し、透過率が上昇して脱水前のメジアン径及び透過率に近づいた。このことから、脱水濃縮によってわずかながら凝集が進むが、再希釈を進めることで脱水濃縮前の状況に容易に近づけることが確認できた。
【0072】
(実施例3)
実施例3として上記で得られたセルロース固形分4.5質量%の再生セルロース微細繊維脱水物についても再希釈処理を行った。再希釈の水の添加方法は固形分濃度が2質量%以下となるまでは段階的に希釈、混練を行った。すなわち、セルロース固形分4.5質量%の脱水物(111g)に同質量の水を添加してガラス棒で十分に混練し、一旦2.25質量%に希釈し、さらに1.13質量%に希釈して同様に混練し、最終的に0.5質量%に希釈して再生セルロース微細繊維スラリーとした。それ以外は実施例2bと同様に再希釈を行った。その結果を表3に示す。
【0073】
(実施例4a)
実施例4として上記で得られた再生セルロース微細繊維脱水物51g(9.8質量%、セルロース固形物5g含有)を、実施例3と同様に、濃度が半分となるように水を添加して混練する作業を繰り返して(9.8質量%→4.9質量%→2.45質量%→1.23質量%)、最後に水を添加して0.5質量%の再生セルロース微細繊維スラリーを得た。この再生セルロース微細繊維スラリーを、実施例2b及び実施例3と同様の手順で再希釈した。この再希釈体を1時間静置したところ、固形分が沈降した。再希釈後の再生セルロース微細繊維再希釈体におけるメジアン径、透過率を表3に示す。実施例3に比べて脱水による凝集が進んでおり、再希釈に必要なエネルギーが増大していることがわかった。
【0074】
(実施例4b)
実施例4として上記で得られた再生セルロース微細繊維脱水物51g(9.8質量%、セルロース固形物5g含有)を2Lビーカーに秤量し、水51gを添加してガラス棒にて脱水物を十分に混練した。以下同様に、濃度が半分となるように水を添加して混練する作業を繰り返していき(9.8質量%→4.9質量%→2.45質量%→1.23質量%)、1.23質量%の混練物とした。最後に水を添加して0.5質量%のスラリー1000gとした。このスラリーについて回転式ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM-7)を用いて10000rpmにて5分間かけて再希釈処理を行ったところ、分散可能であった。再希釈後の再生セルロース微細繊維再希釈体におけるメジアン径、透過率を表3に示す。脱水処理前の再生セルロース微細繊維再分散体(実施例1)と比較すると、この再生セルロース微細繊維脱水物を再希釈処理した再生セルロース微細繊維再希釈体は、メジアン径、透過率が同程度となっていることから、この再生セルロース微細繊維脱水物も再希釈処理によって十分に分散可能であることが分かった。
【0075】
(実施例5)
実施例5として上記で得られた再生セルロース微細繊維脱水物(14.6質量%、34g)を2Lビーカーに秤量し、水34gを添加してガラス棒にて脱水物を十分に混練した。以下実施例4bと同様に、濃度が半分となるように水を添加して混練する作業を繰り返していき(14.6質量%→7.3質量%→3.65質量%→1.83質量%)、1.83質量%の混練物とした。最後に水を添加して0.5質量%のスラリー1000gとした。次に、実施例4bと同様の手順により再希釈処理を行った。ただし、希釈時間は5分間から10分間に延長した。再希釈後の再生セルロース微細繊維再希釈体におけるメジアン径、透過率を表3に示す。脱水処理前の再生セルロース微細繊維再分散体(実施例1)と比較すると、この再生セルロース微細繊維脱水物を再希釈処理した再生セルロース微細繊維再希釈体は、メジアン径、透過率が同程度となっていることから、この再生セルロース微細繊維脱水物も再希釈処理によって分散可能であることが分かった。
【0076】
<再分散処理をしない場合の再希釈の困難性>
(比較例3)
比較例1と同様の手順で、再分散処理をしない再生セルロース微細繊維スラリーを得た。この再生セルロース微細繊維スラリーを、2L手付きビーカーに2.0kg秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。ろ布中に残った再生セルロース微細繊維洗浄脱水物をすべて回収した。回収した再生セルロース微細繊維洗浄脱水物は333gであり、脱水物のセルロース固形分は3.0質量%であった。この再生セルロース微細繊維洗浄脱水物167g(3.0質量%、セルロース固形物5g含有)を、実施例2と同様に、濃度が半分となるように水を添加して混練する作業を繰り返して最終的に0.5質量%の再生セルロース微細繊維スラリーとした。次に、実施例2b及び実施例3と同様の手順で再希釈したところ、分散せずに沈降した。この再希釈体のメジアン径を表3に示す。再生処理後に再分散処理を行っていないため、再希釈処理によってもメジアン径が小さくならず、再希釈体中の再生セルロース微細繊維は凝集していることがわかった。
【0077】
<再希釈処理の違い>
(比較例4)
比較例1と同様の手順で、再分散処理をしない再生セルロース微細繊維スラリーを得た。この再生セルロース微細繊維スラリーを、2L手付きビーカーに2.0kg秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。ろ布中に残った洗浄後の再生セルロース微細繊維洗浄脱水物をすべて回収した。回収した再生セルロース微細繊維洗浄脱水物は333gであり、脱水物のセルロース固形分は3.0質量%であった。この再生セルロース微細繊維洗浄脱水物50g(3.0質量%、セルロース固形物1.5g含有)に蒸留水を添加してセルロース固形分0.5質量%のスラリー300gとした。このスラリーについて回転式ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM-7)を用いて15000rpmにて5分間かけて再希釈処理を行った。この再希釈処理した再生セルロース微細繊維再希釈体のメジアン径、透過率を表3に示す。この再生セルロース微細繊維再希釈体のスラリーを1時間静置したところ、固形分が沈降し、凝集物が十分に分散されない再希釈体となった。このことから、再希釈の処理を変えても、脱水濃縮前に再分散処理をしていない限りは、再希釈が困難であることが確認できた。
【0078】
<再生セルロース微細繊維の過酸化水素水処理>
(実施例6)
実施例1の手順のうち、再生処理及び中和までを行って再生セルロース微細繊維のスラリー(A)を得た。この再生セルロース微細繊維のスラリー(A)を、容量20Lのバケツに10kg秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-130C、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。ろ布中に残った洗浄後の再生セルロース微細繊維洗浄脱水物(B)をすべて回収し、蒸留水を添加してセルロース固形分0.5質量%の再生セルロース微細繊維の濃度調整スラリー10kgとした。この再生セルロース微細繊維濃度調整スラリー(C)に10M水酸化ナトリウム溶液を34mL添加して、70℃の湯浴中で撹拌した。スラリー温度が60℃以上となった後で、過酸化水素水(三徳化学工業(株)製、過酸化水素濃度31質量%)をスラリー全体の過酸化水素濃度が0.7%となるように225.8g添加して、1時間撹拌した。冷却後、1M硫酸により中和して過酸化水素水処理した再生セルロース微細繊維(D)を得た。この過酸化水素水処理した再生セルロース微細繊維(D)を、遠心脱水機((株)コクサン社製H-130C、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水して再生セルロース微細繊維再洗浄脱水物(E)を得た。この再生セルロース微細繊維再洗浄脱水物(E)に、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。洗浄後の再生セルロース微細繊維再洗浄脱水物(E)をすべて回収し、蒸留水を添加してセルロース固形分0.5質量%のスラリー10kgとした。このスラリーを、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株) H20型)を用いて、流速2.5L/分、圧力40MPaで1回パスさせて再分散処理した。この再生セルロース微細繊維再分散体(F)のメジアン径は13.98μm、透過率は96.1%となった。
【0079】
なお、実施例6~9、比較例5~8の説明において、それぞれの再生セルロース微細繊維のスラリーや脱水物等を次のような記号表記にて示す。
・再生処理後に中和した再生セルロース微細繊維スラリー……(A)
・(A)を遠心脱水した再生セルロース微細繊維洗浄脱水物……(B)
・(B)に蒸留水を添加して濃度調整した再生セルロース微細繊維濃度調整スラリー……(C)
・(C)を加温後に過酸化水素水を添加して撹拌&酸中和した(過酸化水素水処理した)再生セルロース微細繊維スラリー……(D)
<(D)以降は全て過酸化水素水処理済みである>
・(D)を遠心脱水した再生セルロース微細繊維再洗浄脱水物……(E)
・(E)に蒸留水を添加してホモジナイザーで再分散したスラリーである再生セルロース微細繊維再分散体……(F)
・(F)を遠心脱水して濃縮した再生セルロース微細繊維脱水物……(G)
・(G)を再希釈した再生セルロース微細繊維再希釈体……(H)
【0080】
この過酸化水素水処理した再生セルロース微細繊維再分散体(F)(0.5質量%)を、2L手付きビーカーに2.0kg秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、ろ布中に残った再生セルロース微細繊維脱水物(G)をすべて回収した。回収した再生セルロース微細繊維脱水物(G)は250gであり、脱水物中のセルロース固形分は4.0質量%であった。
【0081】
この再生セルロース微細繊維脱水物(G)(4.0質量%)について再希釈処理を行った。再希釈の水の添加方法は固形分濃度が2質量%以下となるまでは段階的に希釈、混練を行った。すなわち、セルロース固形分4.0質量%の再生セルロース微細繊維脱水物(G)(250g)に同質量の水を添加してガラス棒で十分に混練し、一旦2.0質量%に希釈し、1.0質量%に希釈して同様に混練し、最終的に0.5質量%に希釈して再生セルロース微細繊維再希釈体(H)とした。それ以外の条件、すなわち用いる脱水物と開始濃度が異なること以外は実施例4bと同様に行った。この再生セルロース微細繊維再希釈体(H)のメジアン径は15.38μm、透過率は94.6%であり、過酸化水素水処理を行った再生セルロース微細繊維脱水物(G)も再希釈処理によって十分に分散可能であることが分かった。
【0082】
<再生セルロース微細繊維再希釈体の乳化効果確認>
(実施例7)
過酸化水素水処理時の過酸化水素の濃度を0.7%から0.1%に変更した以外は、実施例6と同様の条件で再分散、脱水濃縮、再希釈処理を行った。再生セルロース微細繊維再分散体(F)のメジアン径は16.63μm、透過率は91.7%であった。再生セルロース微細繊維脱水物(G)のセルロース固形分は5.7質量%であった。再生セルロース微細繊維再希釈体(H)のメジアン径は18.29μm、透過率は90.3%となった。
【0083】
(実施例8a:オリーブ油乳化:再生セルロース微細繊維再分散体(F))
実施例7において、脱水濃縮及び再希釈を行う前の、再生セルロース微細繊維再分散体(F)14.4gを採取し、蒸留水9.6gを添加して0.3質量%の再生セルロース微細繊維のスラリーとした。このスラリーにオリーブ油(ナカライテスク(株)製:オリブ油)6gを添加して、ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM-7)を用いて8000rpmにて5分間かけて乳化処理した。得られた乳化物を15gサンプル瓶に採取し、静置した。7日間静置したところ、乳化状態は保持されていた。
【0084】
(実施例8b:オリーブ油乳化:再生セルロース微細繊維再希釈体(H))
また、実施例8aにおいて、乳化処理に用いる再生セルロース微細繊維のスラリーを過酸化水素水処理した再生セルロース微細繊維の再分散体(F)から実施例7の過酸化水素水処理した再生セルロース微細繊維再希釈体(H)に変更した以外は同様の操作にて乳化処理を行った。得られた乳化物を15gサンプル瓶に採取し、静置した。7日間静置したところ、乳化状態は保持されていた。
【0085】
(比較例5,6:オリーブ油乳化)
上記の実施例8a,8bの対比として、再生セルロース微細繊維のスラリーを使用せず、水とオリーブ油のみにて乳化処理を行った(比較例5)。また、実施例8bにおいて再生セルロース微細繊維再希釈体(H)の代わりに、ザンテート化などの化学変性を経由せずに機械的に解繊されたセルロースナノファイバー((株)スギノマシン製BiNFi-s)を使用して乳化処理を行った(比較例6)。
【0086】
(実施例9a:スクアラン乳化:再生セルロース微細繊維再分散体(F))
実施例8aにおいて、オリーブ油をスクアラン(ナカライテスク(株)製:スクアラン)に変更した以外は同様の操作を行った。すなわち、実施例7の脱水濃縮及び再希釈を行う前の再生セルロース微細繊維再分散体(F)を介在させた乳化を行った。同様に、7日間静置したところ、乳化状態は保持されていた。
【0087】
(実施例9b:スクアラン乳化:再生セルロース微細繊維再希釈体(H))
また、実施例9aにおいて、乳化処理に用いる再生セルロース微細繊維のスラリーを再生セルロース微細繊維再分散体(F)から、実施例7の再生セルロース微細繊維再希釈体(H)に変更した以外は同様の操作にて、乳化処理を行った。
【0088】
(比較例7,8:スクアラン乳化)
上記の実施例9a,9bの対比として、再生セルロース微細繊維のスラリーを使用せず、水とスクアランのみにて乳化処理を行った(比較例7)。また、実施例9bにおいて、再生セルロース微細繊維再希釈体(H)の代わりに、ザンテート化などの化学変性を経由せずに機械的に解繊されたセルロースナノファイバー((株)スギノマシン製BiNFi-s)を使用して乳化処理を行った(比較例8)。
【0089】
上記のそれぞれの乳化物を7日間静置した写真を
図7に示す。写真左側がオリーブ油の例群、右側がスクアランの例群である。サンプル瓶は左から、水とオリーブ油のみ(比較例5)、オリーブ油とBiNFi-sによる乳化(比較例6)、オリーブ油と再生セルロース微細繊維再分散体(F)による乳化(実施例8a)、オリーブ油と再生セルロース微細繊維再希釈体(H)による乳化(実施例8b)、水とスクアランのみ(比較例7)、スクアランとBiNFi-sによる乳化(比較例8)、スクアランと再生セルロース微細繊維再分散体(F)による乳化(実施例9a)、スクアランと再生セルロース微細繊維再希釈体(H)による乳化(実施例9b)の順である。セルロース微細繊維を添加しない場合(比較例5、比較例7)は、静置約1時間後に分層が確認された。またBiNFi-sを添加した場合(比較例6、比較例8)は静置1日後に乳化部分はみられるものの、分層した部分が確認された。再生セルロース微細繊維再分散体(F)を添加した場合(実施例8a、実施例9a)や、再生セルロース微細繊維再希釈体(H)を添加した場合(実施例8b、実施例9b)は分層部分が確認されなかった。このことから、再生セルロース微細繊維再分散体は乳化状態を保持できることが分かり、また、再分散処理を行った上で脱水濃縮したものを再希釈した再生セルロース微細繊維再希釈体も同様に乳化状態を保持できることがわかった。さらに、機械的に解繊されたセルロースナノファイバーに比べて、この発明にかかる再生セルロース微細繊維は高い乳化性能を発揮することがわかった。
【0090】
<リン酸エステル化により解繊したセルロース微細繊維との対比>
(比較例9)
セルロース繊維の一部をリン酸エステル化することで解繊させやすくした上で解繊を行い、リン酸エステル化セルロース微細繊維を得た。次いでその置換基を脱離させた後、再分散処理を行った上で、イオン交換樹脂を用いて置換基脱離処理時の残存物質を除去した。得られたセルロース微細繊維を脱水濃縮した後、再希釈したものを、本発明との対比に用いた。具体的な詳しい手順は次の通りである。
【0091】
・繊維原料への置換基導入
リン酸二水素ナトリウム二水和物66.43g、リン酸水素二ナトリウム十二水和物124.81gを蒸留水60.22gに溶解させ、リン酸化試薬を得た。クラフトパルプ(日本製紙(株)製:NBKP)を絶乾重量で20g分を1Lビーカーに採取し、リン酸化試薬42gと蒸留水40gの混合液をスプレーにて均一に含浸させた。105℃の送風乾燥機((株)いすず製作所製:VTR-115)に入れ、15分に一度混練し、質量が恒量となるまで乾燥させた。次いで150℃の送風乾燥機で1時間加熱処理して、リン酸基導入セルロース繊維を得た。
【0092】
次いで、このリン酸基導入セルロース繊維すべてを2Lの蒸留水に添加して撹拌分散させ、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、蒸留水を添加しながら十分に洗浄した。ろ布中に残った洗浄後のリン酸基導入セルロース繊維をすべて回収し、蒸留水2kgを添加して固形分1質量%のスラリーとした。このスラリーに1M水酸化ナトリウム溶液を62.6mL添加して、pHが12.1のセルロース繊維含有スラリーを得た。その後、このスラリーを脱水し、2kgの蒸留水を添加して再度脱水洗浄を行った。この脱水洗浄を更に1回繰り返した。
【0093】
・繊維原料の微細化
上記の脱水洗浄後に得られたセルロース繊維を2L手付きビーカーに秤量し、蒸留水を添加して固形分0.5質量%のスラリー1kgとした。このスラリーを、高圧ホモジナイザー(三和エンジニアリング(株) L-01型)を用いて、流速160mL/分、圧力60MPaで計7回パスさせて解繊処理した後、蒸留水を添加してスラリー固形分0.2質量%に調製し、遠心分離(12000G、10分間)し、得られた上澄み液を回収し、微細セルロース繊維含有スラリーを得た。得られた微細セルロース繊維含有スラリーについて、下記「イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの脱塩処理」にて脱塩処理を行い、「セルロース表面の置換基量測定」の方法にて置換基量を測定した結果、0.512mmol/gであった。
【0094】
・微細繊維原料からの置換基の脱離
得られた微細セルロース繊維含有スラリーを耐圧ガラス容器に500g分取し、オートクレーブで120℃、10時間加熱加水分解処理を行った。冷却後、凝集物をろ過により回収し、蒸留水で十分に洗浄を行った。ろ紙上の凝集物をすべて回収し、蒸留水を添加して0.5質量%のスラリー200gを作製し、ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM-7)を用いて8000rpmにて3分間かけて再分散処理し、置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを得た。得られた置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーについて、下記「イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの脱塩処理」にて脱塩処理を行い、「セルロース表面の置換基量測定」の方法にて置換基量を測定した結果、0.01mmol/gであった。また、置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーは分散状態を保持しており、メジアン径、透過率を測定した結果を表4に示す。
【0095】
・イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの脱塩処理
イオン交換樹脂を用いた微細セルロース繊維含有スラリーの処理においては、微細セルロース繊維含有スラリーに体積で1/10のイオン交換樹脂を加え、1時間振とう処理を行った後、目開き90μmの篩上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離する処理を計3回行った。1回目はコンディショニング済みの強酸性イオン交換樹脂(例えば、三菱ケミカル(株)社製:ダイヤイオンSK110)を用いて行った。2回目はコンディショニング済みの強塩基性イオン交換樹脂(例えば、三菱ケミカル(株)社製:ダイヤイオンSA12A)を用いて行った。3回目は1回目と同様に処理を行った。
【0096】
・セルロース表面の置換基量測定
上記処理で得られた微細セルロース繊維を絶乾質量で0.04g含む微細セルロース繊維含有スラリーを分取し、イオン交換水を用いて50g程度に希釈した。この溶液を撹拌しながら、0.01M水酸化ナトリウム水溶液を添加していったときの電気伝導度の値の変化を測定し、その値が極小となる時の0.01M水酸化ナトリウム水溶液の滴下量を滴定終点における滴下量とした。この時、セルロース表面の置換基量は次式によって表される。
【0097】
セルロース表面の置換基量(mmol/g)=0.01(mol/L×0.01M水酸化ナトリウム滴下量(mL)÷微細セルロース繊維含有スラリー固形分量(g)
【0098】
・置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーの脱水工程
置換基脱離微細セルロース繊維含有スラリーを、1L手付きビーカーに500g秤量し、遠心脱水機((株)コクサン社製H-110A、ろ布400メッシュ)を使用して遠心脱水し、ろ布中に残った置換基脱離微細セルロース繊維脱水物をすべて回収した。回収した置換基脱離微細セルロース繊維脱水物は67.6gであり、脱水物の固形分は5.2質量%であった。
【0099】
・脱水物の再希釈処理
置換基脱離微細セルロース繊維脱水物67.6g(固形物2.5g含有)を1Lビーカーに秤量し、水67.6gを添加してガラス棒にて脱水物を十分に混練した。その後、更に水を添加して0.5質量%スラリー500gとした。このスラリーについて回転式ホモジナイザー((株)日本精機製作所製:AM-7)を用いて10000rpmにて5分間かけて再希釈処理を行った。再希釈後の置換基脱離微細セルロース繊維再希釈体におけるメジアン径、透過率を表4に示す。脱水処理前の置換基脱離微細セルロース繊維と比較すると、この置換基脱離微細セルロース繊維脱水物を再希釈処理した置換基脱離微細セルロース繊維再希釈体は、メジアン径は小さくなり、透過率が同程度となっている。しかしながら、ザンテート化セルロース微細繊維から作製した再生セルロース微細繊維脱水物を再希釈処理した再希釈体と比較するとメジアン径が大きいことから、ザンテート化セルロース微細繊維から作製した再生セルロース微細繊維はより分散していることが分かった。
【0100】