(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】流体殺菌装置
(51)【国際特許分類】
A61L 2/10 20060101AFI20221216BHJP
C02F 1/32 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
A61L2/10
C02F1/32
(21)【出願番号】P 2018237826
(22)【出願日】2018-12-20
【審査請求日】2021-11-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和田 竜太郎
【審査官】上坊寺 宏枝
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-60668(JP,A)
【文献】特開2006-59625(JP,A)
【文献】特開2008-177399(JP,A)
【文献】特表2016-531746(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0155215(US,A1)
【文献】特開2004-236968(JP,A)
【文献】特開2017-113669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 2/10
C02F 1/32
H01L 33/00、33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸方向の一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内面側に画成されているチャンバと、
紫外光を前記チャンバの外側から内側に透過するように、前記チャンバに設けられた透過部と、
背面において前記チャンバの外面に面接触する基板と、
前記基板の表面に取り付けられて、前記紫外光を前記チャンバから離間する方向に出射する光源と、
前記基板の前記表面に対向して設けられ、前記光源から出射された前記紫外光を前記透過部に向けて反射するリフレクタと、
を備えることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項2】
請求項1に記載の流体殺菌装置において、
前記チャンバは、前記流体空間の前記他端側において径方向内側に張出す張出し部を有する筒状チャンバと、前記透過部が内周側に装着され、前記筒状チャンバの前記張出し部に前記他端側から面接触している環状ブラケットと、を有し、
前記基板は、前記環状ブラケットに前記他端側から面接触していることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項3】
請求項2に記載の流体殺菌装置において、
前記環状ブラケットは、前記筒状チャンバより熱伝導率の大きな材料から成ることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項4】
請求項3に記載の流体殺菌装置において、
前記筒状チャンバの前記張出し部は、前記筒状チャンバの内側に向けて突出した複数のフィンを有していることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項5】
請求項4に記載の流体殺菌装置において、
前記基板は、環状板であり、
前記光源は、前記環状板の表面に周方向に等角度間隔で設けられた複数の発光素子を有することを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項6】
請求項1に記載の流体殺菌装置において、
前記チャンバは、周壁部に開口を有する筒状チャンバと、前記透過部及び前記光源が装着され、前記周壁部において前記開口の口縁部に前記筒状チャンバの径方向の外側から面接触しているブラケットと、有し、
前記基板は、前記ブラケットに前記筒状チャンバの径方向の外側から面接触していることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項7】
請求項6に記載の流体殺菌装置において、
前記光源は、前記筒状チャンバの周方向に設けられた複数の発光素子を有し、
前記リフレクタは、各発光素子から前記筒状チャンバの前記径方向の外側に出射された前記紫外光を、前記筒状チャンバの前記径方向の内側に向けて照射するように、反射することを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項8】
請求項6に記載の流体殺菌装置において、
前記開口は、前記筒状チャンバの軸方向に延在しているスリット形状を有し、
前記光源は、前記スリット形状の開口に沿って設けられた複数の発光素子を有し、
前記リフレクタは、各発光素子から前記筒状チャンバの前記径方向の外側に出射された前記紫外光を、前記筒状チャンバの前記径方向の内側に向けて照射するように、反射することを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項9】
請求項6~8のいずれか1に記載の流体殺菌装置において、
前記ブラケットは、前記筒状チャンバより熱伝導率の大きな材料から成ることを特徴とする流体殺菌装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の流体殺菌装置において、
前記リフレクタの出射側の焦点は、前記透過部に位置していることを特徴とする流体殺菌装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外光によって流体を殺菌する流体殺菌装置に関する。
【背景技術】
【0002】
水等の流体に混入している菌の殺菌を行うために、流体を筒状チャンバ内で軸方向に流しつつ、流れる流体に対し紫外光を照射する流体殺菌装置が知られている。
【0003】
紫外光を出射する光源は、LED等の半導体発光素子が用いられているが、半導体発光素子は、点灯中、多量の熱を発生する。半導体発光素子は、高温になると、放射輝度が低下してしまうので、光源の冷却が必要になる。
【0004】
特許文献1の流体殺菌装置では、基板は、紫外光を出射する半導体発光素子を表面側に取り付けられて、表面側を筒状チャンバの流体空間に向けて筒状チャンバに取り付けられている。そして、ヒートシンクが、基板の背面に面接触して取り付けられて、基板からの伝導熱を大気に放出している。
【0005】
特許文献1の流体殺菌装置では、さらに、基板は、表面の周縁部において、流体空間を画成している筒状チャンバに面接合されている光源搭載部材の外面に面接触している。したがって、半導体発光素子の発熱の一部は、基板の表面から光源搭載部材及び筒状チャンバを経て筒状チャンバ内の流体に放出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紫外光は、十分な強度と所望の配光角で流体空間に照射されることが望まれる。特許文献1の流体殺菌装置では、基板が、筒状チャンバに面接合される光源搭載部材に表面側で面接触しているものの、半導体発光素子から出射される紫外光の配光角を規定する反射面(リフレクタ)が光源搭載部材内に形成されなければならない。リフレクタを基板に対して流体空間側に形成することは、基板から流体空間までの距離を増大させ、発光素子を流体空間の流体で冷却させるときの冷却効率の低下につながる。
【0008】
本発明の目的は、流体空間の流体による光源の冷却効果を高めることができる流体殺菌装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の流体殺菌装置は、
軸方向の一端側から他端側に流体が流れる流体空間が内面側に画成されているチャンバと、
紫外光を前記チャンバの外側から内側に透過するように、前記チャンバに設けられた透過部と、
背面において前記チャンバの外面に面接触する基板と、
前記基板の表面に取り付けられて、前記紫外光を前記チャンバから離間する方向に出射する光源と、
前記基板の前記表面に対向して設けられ、前記光源から出射された前記紫外光を前記透過部に向けて反射するリフレクタと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、基板は、背面においてチャンバに面接触するとともに、光源は、基板の表面に取り付けられて、紫外光をチャンバから離間する方向に出射する。そして、リフレクタが、基板の表面に対向して設けられていて、光源からの紫外光を透過部に向けて反射する。これにより、基板と流体空間との間にリフレクタを配置する必要がなくなるので、基板から流体空間までの距離を大幅に減少することができる。この結果、流体空間の流体による光源の冷却効果を高めることができる。
【0011】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記チャンバは、前記流体空間の前記他端側において径方向内側に張出す張出し部を有する筒状チャンバと、前記透過部が内周側に装着され、前記筒状チャンバの前記張出し部に前記他端側から面接触している環状ブラケットと、を有し、
前記基板は、前記環状ブラケットに前記他端側から面接触している。
【0012】
この構成によれば、チャンバは、他端側に張出し部を有する筒状チャンバと、該筒状チャンバの張出し部に他端側から面接触する環状ブラケットとを有する。そして、基板は、環状ブラケットに他端側から面接触する。これにより、流体空間の流体に紫外光を軸方向から照射する流体殺菌装置において、チャンバへの基板の取付を容易化しつつ、流体空間の流体による光源の冷却効果を高めることができる。
【0013】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記環状ブラケットは、前記筒状チャンバより熱伝導率の大きな材料から成る。
【0014】
この構成によれば、基板の表面に取り付けられた光源が発する熱が、基板から環状ブラケットを介して筒状チャンバへ伝導し、放熱され易くなる。
【0015】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記筒状チャンバの前記張出し部は、前記筒状チャンバの内側に向けて突出した複数のフィンを有している。
【0016】
この構成によれば、フィンにより流体への放熱面積を増大させて、流体空間の流体による光源の冷却効果を高めることができる。
【0017】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記基板は、環状板であり、
前記光源は、前記環状板の表面に周方向に等角度間隔で設けられた複数の発光素子を有する。
【0018】
この構成によれば、光源が周方向に等角度間隔で配置されることにより、軸対称な配光パターンで紫外光を照射することで、放射照度分布のむらを抑制し、殺菌性能を向上することができる。
【0019】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記チャンバは、周壁部に開口を有する筒状チャンバと、前記透過部及び前記光源が装着され、前記周壁部において前記開口の口縁部に前記筒状チャンバの径方向の外側から面接触しているブラケットと、有し、
前記基板は、前記ブラケットに前記筒状チャンバの径方向の外側から面接触している。
【0020】
この構成によれば、チャンバは、筒状チャンバと、径方向の外側から筒状チャンバに面接触するブラケットとを有する。そして、基板は、ブラケットに径方向外側から面接触する。これにより、紫外光をチャンバの軸方向の他端側から流体空間に照射する流体殺菌装置において、チャンバへの基板の取付を容易化しつつ、流体空間の流体による光源の冷却効果を高めることができる。
【0021】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記光源は、前記筒状チャンバの周方向に設けられた複数の発光素子を有し、
前記リフレクタは、各発光素子から前記筒状チャンバの前記径方向の外側に出射された前記紫外光を、前記筒状チャンバの前記径方向の内側に向けて照射するように、反射する。
【0022】
この構成によれば、流体空間の流体に対し筒状チャンバの周壁部の複数の周方向位置から径方向の内側に紫外光が照射されるので、放射照度分布のむらを抑制し、殺菌性能を向上させることができる。
【0023】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、
前記開口は、前記筒状チャンバの軸方向に延在しているスリット形状を有し、
前記光源は、前記スリット形状の開口に沿って設けられた複数の発光素子を有し、
前記リフレクタは、各発光素子から前記筒状チャンバの前記径方向の外側に出射された前記紫外光を、前記筒状チャンバの前記径方向の内側に向けて照射するように、反射する。
【0024】
この構成によれば、流体空間の流体に対し筒状チャンバの軸方向の複数の位置から径方向の内側に紫外光が照射されるので、流体空間における軸方向位置の相違による紫外光の照射むらを抑制することができる。
【0025】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記ブラケットは、前記筒状チャンバより熱伝導率の大きな材料から成る。
【0026】
この構成によれば、基板の表面に取り付けられた光源が発する熱が、基板からブラケットを介して筒状チャンバへ伝導し、放熱されやすくなる。
【0027】
好ましくは、本発明の流体殺菌装置において、前記リフレクタの出射側の焦点は、前記透過部に位置している。
【0028】
この構成によれば、リフレクタで反射した紫外光を透過部において絞ることができるので、透過部を小型にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図6】流体殺菌装置の温度試験で解析した温度分布図。
【
図7】放熱部にフィンを付加した筒状チャンバの構造図。
【
図9A】第3実施形態の流体殺菌装置の筒状チャンバにおける横断面図。
【
図9B】第3実施形態の流体殺菌装置の筒状チャンバの主要部の構成を筒状チャンバの軸方向の所定範囲において示した斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0030】
[第1実施形態:構成]
図1及び
図2は、それぞれ第1実施形態の流体殺菌装置1の外観斜視図及び分解斜視図である。
図2において、流体殺菌装置1は、軸方向に一端側から他端側に順番に筒状チャンバ2、石英板3、環状ブラケット4、基板5、LED(light emitting diode)6及びリフレクタ7を備えている。
【0031】
筒状チャンバ2と環状ブラケット4とは、軸方向に相互に面接合されて、チャンバ8を構成する。複数のLED6は、光源9を構成する。
図5で後述するように、光源9は、少なくとも1つのLED6を有すればよい。
【0032】
筒状チャンバ2は、軸方向に一端側から他端側に順番に流入管11、テーパ部12、円筒部13、流出管14及び張出し部15を有している。1つの流入管11は、円筒部13の中心線Cl(
図4)に沿ってテーパ部12から一端側に突出している。2つの流出管14は、円筒部13の他端側の外周部から直径方向の相互に反対方向に突出している。
【0033】
図3は、光源装置20の正面図である。光源装置20は、基板5と、基板5の表面に取り付けられた光源9とを有する。光源9は、流体殺菌装置1の周方向に等角度間隔で配置された複数のLED6から構成されている。ここでは、光源装置20の正面とは、基板5の表面が見える側をいうものとする。リフレクタ7は、光源装置20の正面に対向している。
【0034】
図4は、流体殺菌装置1の縦断面図である。Clは、流体空間25の横断面の中心を貫く中心線であり、流体殺菌装置1の軸方向に平行となる。
図4の縦断面は、中心線Clと共に2つの流出管14の中心線を含む平面上に存在する。“IN”及び“OUT”は、流体殺菌装置1により殺菌処理される菌入り流体(例:水)が、筒状チャンバ2に流入及び流出する位置及び向きを示している。
【0035】
図4には、紫外光の光線を重ねて示している。図示を簡明にするために、光線図は、1つのLED6から出射される紫外光の光線のみを示している。他のLED6からの光線図も、
図4の光線図と同様になる。なお、
図4における紫外光の光線の密度は、紫外光の強度とは無関係である。
図4の光線図は、各位置の紫外光の光線の進路を示しているのみである。
【0036】
テーパ部12及び円筒部13は、内周側に流体空間25を画成する。流入口26は、流入管11が流体空間25に開口する箇所に位置する。流出口27は、流出管14が流体空間25に開口する箇所に位置する。菌が混入している流体(例:水)は、流入管11に流入し(
図4の“IN”)、流体空間25内を一端側の光源装置20から他端側の石英板3の方へ軸方向に流れる。そして、2つの流出口27から流出管14に流出し、さらに、流出管14から流体殺菌装置1の外に流出する(
図4の“OUT”)。
【0037】
以下、流体殺菌装置1及び後述の流体殺菌装置41(
図8),流体殺菌装置81(
図9A)の各部品の厚み方向の両面において「内面」及び「外面」というときは、厚み方向の両面のうち流体空間25に近い側の面を「内面」とし、遠い側の面を「外面」とする。
【0038】
[紫外光出射部]
図5は、
図4の紫外光出射部30の拡大図である。紫外光出射部30は、リフレクタ7及び光源装置20を含む。張出し部15は、円筒部13の他端側の端縁を形成し、円筒部13の他端から径方向内側及び径方向外側の両方に張出している。張出し部15の外方張出し部は、フランジを形成する。
【0039】
筒状チャンバ2と環状ブラケット4とは、チャンバ8を構成する。複数のLED6は、光源9を構成する。本発明の光源9は、少なくとも1つのLED6を有すればよい。LED6の個数は、LED6の紫外光の発光強度、LED6の取付位置、筒状チャンバ2の寸法(例:径又は長さ)や流体空間25内を流れる流体の流量等の流体殺菌装置1の使用環境によって1以上の最適な個数に決められる。
【0040】
環状ブラケット4は、内面を張出し部15の外面に面接触させて、張出し部15に接合されている。円形の石英板3は、環状ブラケット4の内周面に嵌合しつつ、軸方向の一端側の内面及び他端側の外面の周縁部をそれぞれ張出し部15及び環状ブラケット4の内方張出し部に当てている。石英板3は、紫外光の通過用に形成された張出し部15の内周側の円形孔を封鎖している。
【0041】
基板5は、同心の内周円と外周円との輪郭から成る環状板で形成されている。基板5は、内面側を背面とし、該背面を環状ブラケット4の外面に面接触している。基板5は、表面を外面側とし、外面側においてリフレクタ7の内面側の反射面29と軸方向に対向している。複数のLED6は、周方向に等角度間隔の配置で基板5の表面に取り付けられ、流体空間25から離間する方向としてのリフレクタ7に向かって紫外光を出射する。
【0042】
リフレクタ7の内面は、反射面29を形成し、基板5の表面及びLED6に対向している。基板5の表面のLED6は、流体空間25から離間する方向に紫外光を出射する。該紫外光は、リフレクタ7により軸方向に向きを反転して反射され、石英板3に向かう。そして、石英板3を透過して、流体空間25内に照射される。
【0043】
反射面29の縦断面は、中心線Clで二分されている。二分された反射面29の各半部からの紫外光の反射光は、石英板3において交差して、各半部が中心線Clに対して位置する側とは反対側に進む。LED6は、基板5の表面に周方向に等角度間隔で、すなわち回転対称で取り付けられており、反射面29も回転対称の形状である。したがって、紫外光出射部30からの照射光は、流体空間25の横断面の全領域に照射される。
【0044】
反射面29の具体的な形状は、中心線Clで二分される反射面29の各半部が、中心線Clに対して対称で、かつ楕円の輪郭の一部を形成する形状になっている。反射面29の各半部の輪郭上の楕円の2つの焦点は、光学上の2つの焦点に一致する。各半部の楕円輪郭の一方の焦点は、LED6に位置する。他方の焦点は、石英板3の内部、典型的には石英板3の中心(中心線Cl上でかつ石英板3の厚みの中点)に設定される。
【0045】
リフレクタ7の反射面29の出射側の焦点が石英板3の中心に位置することにより、リフレクタ7の反射面29からの紫外光の反射光は、軸方向に石英板3の位置で径方向に絞られる。この結果、石英板3を小型化することができる。
【0046】
[第1実施形態:作用]
LED6は、点灯中、多量の熱を発生する。LED6は、高温になると、紫外光の強度が低下するので、流体に対する基準の殺菌効果を満たすためには、LED6を冷却する必要がある。従来の典型的な流体殺菌装置では、基板5は、表面側(LED6の取付側)を流体空間25側に向けているので、ヒートシンクが、基板5の背面に面接触して、基板5からの熱を大気に放出していた。
【0047】
そして、LED6の熱を、流体空間25に流れる流体(典型的には液体)により冷却(典型的には水冷)できれば、ヒートシンクによる空冷よりもはるかに冷却効率が高まる。しかしながら、従来の典型的な流体殺菌装置では、リフレクタを光源(例:LED)と透過部(例:石英板)との間に配設する必要があるので、基板と流体空間との間の熱伝導路の長さが長大化してしまう。
【0048】
これに対し、流体殺菌装置1では、基板5に対してリフレクタ7が流体空間25とは逆側に配置されるので、基板5と流体空間25との間にリフレクタを配設する必要がなくなり、軸方向の基板5-流体空間25間の熱伝導路の長さが大幅に短縮される。すなわち、LED6の発熱は、環状ブラケット4と基板5の背面との面接触を介して環状ブラケット4に伝導した後、環状ブラケット4と張出し部15との面接触部を介して流体空間25の流体に伝導する。こうして、熱伝導路の長さの短縮により流体空間25の流体による基板5の冷却効果を高めることができる。
【0049】
なお、環状ブラケット4から筒状チャンバ2への高い熱伝導性を確保するために、環状ブラケット4は、筒状チャンバ2の熱伝導率よりも大きな熱伝導率の材料とされる。一例としては、環状ブラケット4はアルミ合金であり、筒状チャンバ2はステンレスである。
【0050】
[放熱試験]
図6は、流体殺菌装置1の温度試験で解析した温度分布図である。異なる3つの状況で温度試験した温度分布図が対比されている。温度分布図で、白っぽい領域ほど、高温になっている。逆にいえば、黒っぽい領域ほど、低温になっている。この温度試験では、基板5の表面に周方向に等角度間隔で取り付けられるLED6の個数は12個としている。
【0051】
3つのうちの左から1番目の温度分布図は、流体殺菌装置1から紫外光出射部30を分離して、紫外光出射部30単独のときの温度分布図である。左から2番目と3番目の温度分布図は、流体殺菌装置1の全体の温度分布図となっている。ただし、左から2番目の温度分布図は、流体空間25に流体を流していないときのものであるのに対し、左から3番目の温度分布図は、流体空間25に流体を流しているときのものである。
【0052】
図6の各構造ごとの基板5の温度の解析結果は、左から右への構造の順に述べると、54℃、47℃及び37℃であった。この結果から、流体空間25の流体によりLED6を効率良く冷却できることが分かった。
【0053】
[冷却フィン]
図7は、放熱部にフィン35を付加した筒状チャンバ2の構造図である。筒状チャンバ2の内面側の構造を分かり易くするために、筒状チャンバ2は、
図4の縦断面を含む平面で両断して、後ろ側の半部のみを示している。
【0054】
複数のフィン35は、張出し部15の流体空間25側の面としての内面に等角度間隔に一体的に設けられている。フィン35は、矩形板状に形成され、中心線Cl(
図5)から放射方向に沿って延在し、かつ軸方向に突出している。軸方向へのフィン35の寸法(突出量)は、軸方向に流出口27の中心を越えない量、好ましくは流出口27において張出し部15に最も接近している箇所を一端側(流入口26側)の方に越えない寸法とされる。フィン35により張出し部15からの放熱面積が増大するので、流体空間25の流体によるLED6の冷却効果が一層向上する。
【0055】
[第2実施形態:構成]
図8は、第2実施形態の流体殺菌装置41の縦断面図である。流体殺菌装置41において、流体殺菌装置1の部分と同一の部分は、流体殺菌装置1の該部分と同一の符号を付けている。
【0056】
流体殺菌装置41は、流体空間25の流体に対して殺菌用の紫外光を径方向の内側に照射する。流体殺菌装置41は、内面側に流体空間25を画成する筒状チャンバ42と、筒状チャンバ42の外周を包囲するように取り付けられて流体空間25に向けて紫外光を出射する紫外光出射部43とを備えている。
【0057】
筒状チャンバ42は、中心線Clに沿って一端側から他端側に流入管47、テーパ部48、円筒部49、テーパ部50及び流出管51を備えている。Crは、流体殺菌装置41の軸方向の中点を通り、かつ中心線Clに直交する中心線である。
【0058】
円周開口61は、円筒部49の軸方向には中心線Crの位置において、筒状チャンバ42の周壁部としての円筒部49に周方向に延在している。1対の環状ブラケット64a,64bは、円筒部49において円周開口61の口縁部に相当する部分に径方向の外側から面接触して接合されている。環状石英板63は、円筒部49の軸方向に両側から1対の環状ブラケット64a,64bに挟まれて、円筒部49の外面に装着されて、円周開口61を封鎖している。なお、円周開口61の代わりに、円筒部49の周壁に沿って等角度間隔で複数の円形の開口を穿設してもよい。それら円形の複数の開口に対しては、開口と同一形状の石英板が外周側から封鎖するように、円筒部49の外周に装着される。
【0059】
紫外光出射部43は、環状石英板63の外周を包囲するように、円筒部49の外周面に取り付けられる。紫外光出射部43は、中心線Clに対して回転対称の構造になっている。円筒部49の断面構造は、構造的には、
図5の紫外光出射部30の中心線Clを中心線Crの向きに変更した断面構造にほぼ同一になっている。
【0060】
紫外光出射部43は、1対の光源装置60a,60bと、環状リフレクタ67とを備える。光源装置60a,60bは、それぞれ環状ブラケット64a,64b、環状基板65a,65b及びLED66a,66bを備えている。1対の光源装置60a,60b及び環状リフレクタ67の機能は、紫外光出射部30(
図5)における光源装置20及びリフレクタ7にそれぞれ対応する。
【0061】
円筒部49、1対の環状ブラケット64a,64b及び1対の環状基板65a,65bにおいて、内周面及び外周面がそれぞれ内面(流体空間25に向いている側の面)及び外面(流体空間25とは反対側に向いている面)に対応する。
【0062】
1対の環状基板65a,65bにおいて、外面が表面に対応し、内面が裏面に対応する。環状基板65a,65bの表面には、複数のLED66a,66bが周方向に等角度間隔でそれぞれ取り付けられている。
【0063】
環状リフレクタ67の内面は、紫外光を環状石英板63に向けて反射する反射面69を形成する。反射面69は、径方向に流体空間25から離間する方向としての環状リフレクタ67の方にLED66a,66bから出射された紫外光を、径方向の向きを反転させる。反射面69により径方向の向きを反転された紫外光は、反射後、環状石英板63に入射する。
【0064】
反射面69の具体的な形状は、中心線Crで二分される反射面69の各半部が、中心線Crに対して対称で、かつ楕円の輪郭の一部を形成する形状になっている。反射面69の各半部の輪郭上の楕円焦点は、光学上の2焦点に一致する。各半部の楕円輪郭の一方の焦点は、反射面69の入射側の焦点としてLED66に位置する。他方の焦点は、反射面69の出射側の焦点として環状石英板63の内部、典型的には環状石英板63の中心(中心線Cr上でかつ環状石英板63の厚みの中点)に位置する。
【0065】
環状石英板63の反射面の出射側の焦点が環状石英板63の中心に位置することにより、環状リフレクタ67の反射面69からの紫外光の反射光を環状石英板63の位置で軸方向に絞ることができる。この結果、環状石英板63の幅を小さくすることができる。
【0066】
以下、環状ブラケット64a,64bを区別しないときは、「環状ブラケット64」と総称する。環状基板65a,65b及びLED66a,66bについても同様に、両者を区別しないときは、それぞれ「環状基板65」及び「LED66」と総称する。チャンバ68は、筒状チャンバ42と環状ブラケット64とを含む。複数の発光素子としての複数のLED66は、光源59を構成する。
【0067】
[第2実施形態:作用]
【0068】
流体殺菌装置41では、LED66を、流体空間25を流れる流体により冷却する。すなわち、環状基板65は、LED66が取り付けられている表面側を流体殺菌装置41の径方向外側に向けているので、背面において環状ブラケット64の外面に面接触することが可能になる。環状基板65の背面と環状ブラケット64の外面との面接触は、環状基板65から環状ブラケット64への熱伝導性を高める。
【0069】
さらに、流体殺菌装置41では、LED66からの紫外光の配光角を調整する環状リフレクタ67が、環状基板65と流体空間25との間に配置されない。これにより、環状基板65-流体空間25間の距離は、大幅に短縮する。距離の短縮は、LED66から流体空間25の流体への熱伝導量を増大させる。こうして、LED66の冷却効果を大幅に向上することができる。
【0070】
なお、環状ブラケット64から筒状チャンバ42への高い熱伝導性を確保するために、環状ブラケット64の熱伝導率が筒状チャンバ42の伝導率よりも高くなるように、環状ブラケット64及び筒状チャンバ42の材料が選択されている。一例としては、環状ブラケット64はアルミ合金であり、筒状チャンバ42はステンレスである。
【0071】
[第3実施形態:構成]
図9Aは、第3実施形態の流体殺菌装置81の筒状チャンバ42における横断面図である。
図9Bは、流体殺菌装置81の筒状チャンバ42の主要部の構成を筒状チャンバ42の軸方向の所定範囲において示した斜視図である。なお、
図9Bでは、内部の構造を分かり易くするために、筒状チャンバ42を所定の横断面で切断している。流体殺菌装置81において、流体殺菌装置41の部分と同一の部分は、流体殺菌装置41の部分に付けた符号と同一の符号を付けている。
【0072】
流体殺菌装置81は、流体殺菌装置41(
図8)と同じく、流体空間25の流体に対して紫外光を流体空間25の径方向に照射する。ただし、流体殺菌装置81では、紫外光出射部82は、円筒部49の周方向ではなく、円筒部49の軸方向に延在して、円筒部49の外周面に取り付けられている。
【0073】
円筒部49には、円筒部49の周方向の1箇所において軸方向に所定の長さにわたり延在するスリット形状の開口としてのスリット90が形成されている。中心線Csは、
図8の流体殺菌装置81の横断面においてスリット90の幅の中点を通る直径に重ねて設定されている。
【0074】
1対の帯状ブラケット84a,84bは、スリット90を間に挟みつつ、スリットに沿って延在している。1対の帯状ブラケット84a,84bは、スリット90の口縁部の外面に面接触で固定されている。帯状石英板83は、幅方向の両側から1対の帯状ブラケット84a,84bに固定されて、スリット90を封鎖している。筒状チャンバ42と1対の帯状ブラケット84a,84bとは、チャンバ78を構成する。
【0075】
紫外光出射部82は、帯状リフレクタ87と、1対の光源装置91a,91bとを備える。光源装置91a,91bは、それぞれ1対の帯状基板85a,帯状基板85bと、複数のLED86a,86bとを備える。複数のLED86a,86bは、紫外光出射部82の光源79を構成する。紫外光出射部82の横断面構造は、中心線Csを含む縦断面に対して対称となる。
【0076】
帯状石英板83、1対の帯状ブラケット84a,84b、1対の帯状基板85a,帯状基板85b、及び帯状リフレクタ87の各々において、径方向に流体空間25側の面が内面に相当し、流体空間25とは反対側の面が外面に相当する。1対の帯状ブラケット84a,84b、1対の帯状基板85a,帯状基板85b及び1対のLED86a,86bは、間に中心線Csを挟んで、中心線Csの両側に設けられている。
【0077】
帯状基板85a,帯状基板85bは、裏面を帯状ブラケット84a,84bの外面に面接触させている。帯状基板85a,帯状基板85bの表面には、複数のLED86a,86bがスリット90の延在方向に等間隔で取り付けられている。帯状リフレクタ87の内面は、紫外光を反射する反射面89を形成する。反射面89は、径方向に流体空間25から離間する方向としての帯状リフレクタ87の方にLED86a,86bから出射された紫外光を、径方向の向きを反転させて、帯状石英板83に入射するように、反射する形状に設定されている。
【0078】
反射面89の具体的な形状は、中心線Csで二分される反射面89の各半部が、中心線Csに対して対称で、かつ楕円の輪郭の一部を形成する形状になっている。反射面89の各半部の輪郭上の楕円焦点は、光学上の2焦点に一致する。各半部の楕円輪郭の一方の焦点は、反射面69の入射側の光学焦点としてLED66に位置する。他方の焦点は、反射面89の出射側の光学焦点として帯状石英板83の内部、典型的には帯状石英板83の中心(中心線Cs上でかつ帯状石英板83の厚みの中点)に設定される。
【0079】
帯状石英板83の反射面の出射側の焦点が帯状石英板83の中心に位置することにより、帯状リフレクタ87の反射面89からの紫外光の反射光を帯状石英板83の位置で周方向に絞ることができる。この結果、帯状石英板83の周方向幅を小さくすることができる。
【0080】
以下、帯状ブラケット84a,84bを区別しないときは、「帯状ブラケット84」と総称する。帯状基板85a,帯状基板85b及びLED86a,86bについても同様に、両者を区別しないときは、それぞれ「帯状基板85」及び「LED86」と総称する。
【0081】
[第3実施形態:作用]
流体殺菌装置81では、LED86を、流体空間25を流れる流体により冷却する。すなわち、帯状基板85は、LED86が取り付けられている表面側を流体殺菌装置81の径方向外側に向けているので、背面において帯状ブラケット84の外面に面接触することが可能になる。帯状基板85の背面と帯状ブラケット84の外面との面接触は、帯状基板85から帯状ブラケット84への熱伝導性を高める。
【0082】
さらに、流体殺菌装置81では、LED86からの紫外光の配光角を調整する帯状リフレクタ87が、帯状基板85と流体空間25との間に配置されない。これにより、帯状基板85-流体空間25間の距離は、大幅に短縮する。距離の短縮は、LED86から流体空間25の流体への熱伝導量を増大させる。こうして、流体によるLED86の冷却効果を大幅に向上することができる。
【0083】
なお、帯状ブラケット84から筒状チャンバ42への高い熱伝導性を確保するために、帯状ブラケット84は、筒状チャンバ42の伝導率よりも大きな熱伝導率の材料にされる。一例としては、帯状ブラケット84はアルミ合金であり、筒状チャンバ42はステンレスである。
【0084】
[変形例]
実施形態では、光源9,59,79として半導体発光素子としてのLED(例:LED6,66,86)等が用いられている。本発明では、LED以外の半導体発光素子を光源として用いることができる。
【0085】
実施形態では、チャンバ8,68,78は、相互に面接触して接合している2つの接合部品(例:筒状チャンバ2と環状ブラケット4、筒状チャンバ42と環状ブラケット64、又は筒状チャンバ42と帯状ブラケット84)から構成されている。本発明では、環状ブラケット4,64及び帯状ブラケット84を筒状チャンバ2,42に一体化して、チャンバ8,68,78を単品にすることもできる。その場合には、基板の背面は、筒状チャンバ2,42に直付けされるので、流体による冷却効果を一層高めることができる。
【0086】
実施形態では、透過部として石英板3が使用されている。本発明では、紫外光を透過し、かつ所定の強度を有する材料であれば、透過部として石英以外の材料を選択することができる。
【0087】
流体が流体空間25において軸方向に一端側(流入口26側)から他端側(流出口27側)に流れるときの流れを改善するためには、流体空間25内に整流部を配置することができる。整流部は、例えば、多数の小径の通孔(例:円形孔)を等密度で有する整流板を備える。該整流板は、典型的には、円筒部13のテーパ部12側の端に配設される。整流板は、軸方向に間隔を開けて、複数設けることができる。
【符号の説明】
【0088】
1,41,81・・・流体殺菌装置、2,42・・・筒状チャンバ、3・・・石英板(透過部)、4,64・・・環状ブラケット、5・・・基板、6,66,86・・・LED、7・・・リフレクタ、8,68,78・・・チャンバ、9,59,79・・・光源、15・・・張出し部、25・・・流体空間、26・・・流入口、27・・・流出口、29,69,89・・・反射面、30,43,82・・・紫外光出射部、35・・・フィン、63・・・環状石英板(透過部)、65・・・環状基板、67・・・環状リフレクタ、69・・・反射面、83・・・帯状石英板(透過部)、84・・・帯状ブラケット、85・・・帯状基板、87・・・帯状リフレクタ、90・・・スリット(開口)。