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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】光学素子の作製方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 27/10 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
C03C27/10 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018506374
(86)(22)【出願日】2016-08-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2018-09-13
(86)【国際出願番号】 US2016045996
(87)【国際公開番号】W WO2017027455
(87)【国際公開日】2017-02-16
【審査請求日】2019-08-01
【審判番号】
【審判請求日】2021-06-21
(31)【優先権主張番号】62/203,158
(32)【優先日】2015-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】397068274
【氏名又は名称】コーニング インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(72)【発明者】
【氏名】ワン,ジュエ
【合議体】
【審判長】井上 猛
【審判官】佐藤 陽一
【審判官】宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0294050(US,A1)
【文献】特開2012-76298(JP,A)
【文献】特開2013-173654(JP,A)
【文献】特開平7-181303(JP,A)
【文献】特開2007-94376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 27/00-29/00
G02B 5/00- 5/136
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子の作製方法において、
(a)第1の表面を有する第1の光学基体、および、第2の表面を有する第2の光学基体を取得する工程と、
(b)前記第1の光学基体の前記第1の表面に、または、前記第2の光学基体の前記第2の表面に、または、該第1の光学基体の該第1の表面および該第2の光学基体の該第2の表面の両方に、水を塗布する工程と、
(c)前記第1の光学基体の前記第1の表面および前記第2の光学基体の前記第2の表面の間に水の層が均等に分散するように、該第1の光学基体を該第2の光学基体に固定する工程と、
(d)深紫外光を、前記第1の光学基体および前記第2の光学基体に照射し、前記水の層内の水を解離して水酸基を生成して接合を形成する工程と、
を有する方法。
【請求項2】
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体が、SiOを含むものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体が、CaFを含むものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の光学基体は、SiOを含み、前記第2の光学基体は、CaFを含むものである、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体の各々が、三角形のプリズムであり、前記第1の表面と前記第2の表面が、該第1の光学基体および該第2の光学基体の斜辺面である、
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記光学素子が、キューブビームスプリッタである、
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記光学素子が、フィルム型偏光ビームスプリッタ、無偏光ビームスプリッタ、長短波長カットオフフィルタ、または、バンドパスフィルタである、
請求項1から4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記深紫外光は、400kJ/モルから800kJ/モルである、
請求項1から7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程(d)後に、前記光学素子の少なくとも1つの露出面を、Al、SiO、または、F-SiOで気密封止する、
請求項1から8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記水酸基が前記第1の光学基体の前記第1の表面および前記第2の光学基体の前記第2の表面と反応し、前記第1の光学基体の前記第1の表面および前記第2の光学基体の前記第2の表面の間に共有結合を生成する、請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、米国特許法第119条の下、2015年8月10日出願の米国仮特許出願第62/203,158号の優先権の利益を主張し、その内容は依拠され、全体として参照により本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、光学素子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
レーザラインおよび広帯域ビームスプリッタが、光学システムで広く使用されており、キューブビームスプリッタが、より一般的である。キューブビームスプリッタは、概して、対になった三角形ガラスプリズムを互いに接合して作製される。接合は、光学接着接合、光学直接接合、および、拡散接合などの多数の異なる方法を用いて行われてもよい。
【0004】
光学接着接合では、接着剤の厚さを調節して、立方体の1つの面に入射した所定の波長の光の半分を反射し、残りを透過しうるが、この技術に、欠点がないわけではない。光学接着接合は、例えば、ポリエステル、エポキシ、または、ウレタン系接着剤などの光学接着剤を用いて、2つの研磨した鏡面を接着する。光学接着接合は、簡易であり、異なる材料同士を接合するのに使用できるが、接着剤の存在は、表面の傷または変色につながりうる。更に、接着剤の屈折率を、光学要素の屈折率に合わせるのが難しい。接着接合した素子からの光は、フレネル反射により光束を失ったものとなる。最後に、レーザシステムで用いた場合に、接着剤は、変形、軟化または劣化しうる。
【0005】
光学直接接合は、2つの超平滑面を、接着剤を使わずに密着保持する場合に起きる。十分に密着した平滑面は、電磁的に互いに引き付け合うと考えられる。正しい条件下では、このタイプの接合は、光学接着接合より強力でありうる。しかしながら、光学素子が、(例えば、レーザ露光などで)加熱された場合に、熱膨張率の違いにより、2つのプリズムの膨張が一致しないので、光学直接接合は、概して、同じ材料のプリズム間の接合だけに適している。膨張が一致しないと、構成要素同士が分離されうるものであり、それは、特に、高出力レーザシステムで、起きることが多い。
【0006】
一方、高温拡散接合は、1つの界面から他方の界面への原子拡散が起きうるように、接触に続けて高温熱処理を行う以外は、光学直接接合と同様である。それでもなお、光学直接接合と同様に、高温拡散接合は、同じタイプの結晶材料の接合に最も適している。
【0007】
現在市販されているキューブビームスプリッタは、約250nmまで短波長の光を分割できる。より短波長の領域における課題は、吸収のない接着剤がないこと、および、特に、193nmのArFレーザビーム光線について、現在使用されているフッ化物の薄膜が多孔性であることを含む。接着剤として、または、接合処理中に使用される化学物質が、多孔層に吸収されて、短波長での高い吸収につながりうる。これらの課題により、HPFS(登録商標)(コーニング社)などの溶融シリカおよびCaFで構成されたハイブリッド光学素子は、今のところ、利用できない。しかしながら、そのような光学素子は、ArFレーザキューブビームスプリッタとして、および、他の利用例において有用となるであろう。
【0008】
したがって、吸収が起こりうるので、短波長領域において、エポキシ接合、フリット接合、拡散接合、および、光学接触などの標準的な光学接合処理を、使用することができない。最新接合技術の1つである、化学活性化直接接合(CADB)は、エポキシフリー溶液支援光学接触処理を提供する。しかしながら、この処理は、化学浸漬および熱アニーリングを必要とするので、CaFなどの熱敏感結晶材料についての利用をできない。
【0009】
典型的には、短波長のエキシマレーザは、その最高出力より低い出力レベルで動作しなくてはならないか、そうでない場合には、このレーザのユーザは、ビームスプリッタの劣化により、より低い出力レベルで動作させつつ、より短い素子寿命を受け入れなければならなかった。被膜されていないCaF表面は、例えば、193nmのエキシマ照射を用いて40mJ/cmを超えたパルスエネルギーに曝された場合に、わずか数百万パルス後には、劣化してしまう。ArFエキシマレーザは、典型的には、より低いパルスエネルギーで動作するが、ビーム内における局所的非均一性により、平均値より高いエネルギーとなり、破損閾値を超えうる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ビームスプリッタなどの光学素子を構成するために、吸収のない接合方法が必要とされている。理想的には、この方法を用いて、光学接着接合で見られることが多い散乱損失も吸収損失も示さない光学素子を構成でき、この方法を、熱に敏感な材料および多孔性薄膜と共に使用しうるだろう。更に、この方法によって構成された素子は、現在利用できる技術より耐久性が高いものとなるだろう。本発明は、これらの要求に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
化学接着剤を必要としない光学素子の構成方法を記載する。方法は、以下の工程を含む:第1の表面を有する第1の光学基体、および、第2の表面を有する第2の光学基体を取得する工程と、第1の光学基体の第1の表面に、または、第2の光学基体の第2の表面に、または、両方に、水を塗布する工程と、第1の光学基体の第1の表面を、第2の光学基体の第2の表面に隣接させて、第1の光学基体を第2の光学基体に固定する工程と、深紫外光を、第1の光学基体および第2の光学基体に照射して、接着剤を使用せずに接合を形成する工程。更に、本明細書に記載の方法によって構成した光学素子も、提供する。
【0012】
更なる特徴および利点を、以下の詳細な記載で示し、部分的には、その記載から、当業者には容易に明らかであるか、以下の詳細な記載、請求項、および、添付の図面を含む本明細書に記載の実施形態を実施することで、分かるだろう。
【0013】
上記概略的記載および以下の詳細な記載の両方が、例示的にすぎず、請求項の性質および特徴を理解するための概観または枠組みを提供することを意図していると、理解すべきである。添付の図面は、更なる理解を提供するために含められたものであり、本明細書に組み込まれ、その一部を構成する。図面は、1つ以上の実施形態を示し、記載と共に、様々な実施形態の原理および動作を説明する役割を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本明細書に記載の処理を示す概略図である。
図2】SiO-SiO界面での化学結合を示す概略図である。
図3】CaF-CaF界面での化学結合を示す概略図である。
図4】SiO-CaF界面での化学結合を示す概略図である。
図5】CaF表面上の、F-SiOで封止された薄膜積層部(GdF/AlF)の断面の走査電子顕微鏡画像(SEM)を示す。
図6】本明細書に記載の処理を用いた2つのSiO基体の化学接合を示す写真を示す。
図7】本明細書に記載の処理を用いた2つのCaF基体の化学接合を示す写真を示す。
図8】厚さが、各々、3.3mm、3.1mm、および、3.3mmの、市販の溶融シリカHPFS(登録商標)8655、8650、および、7980(コーニング社)のVUVおよびDUVスペクトル透過率を示す。
図9A】193nmにおける、CaF系50%:50%無偏光キューブビームスプリッタの透過および反射スペクトルを示す。
図9B】193nmにおける、SiO系50%:50%無偏光キューブビームスプリッタの透過および反射スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の方法および素子を開示および記載する前に、以下に記載の態様は、特定の素子にも方法にも限定されず、したがって、当然、様々に使用されると、理解されるべきである。更に、本明細書で使用する用語は、特定の態様を記載することを目的としたものであり、限定することを意図していないと理解されるべきである。
【0016】
本明細書および添付の請求項で使用するように、英語で単数を表す不定冠詞および定冠詞は、文脈から、そうでないことが明らかでない限りは、複数のものへの言及も含むことに留意しなければならない。したがって、例えば、英語の単数を表す不定冠詞を付けて、薄膜に言及する際は、2つ以上のそのような薄膜などを含む。
【0017】
「任意の」、または、「任意で」は、次に記載の事象または状況が起きても、起こらなくてもよく、その記載が、事象または状況が起きる場合、および、起きない場合を含むことを、意味する。例えば、「任意で、反射防止膜を含む」という表現は、反射防止膜を含んでも、含まなくてもよいことを意味する。
【0018】
本明細書において、「約」という用語は、所定の値は、望ましい結果に影響を与えることなく数値範囲の端点より「少し大きくても」、または、「少し小さくても」よいと規定することで、数値範囲の端点を弾力的にするものである。本明細書において、範囲は、「約」1つ特定の値から、および/または、「約」他の特定の値までと表しうる。そのような範囲を表す場合、他の態様は、その1つの特定の値から、および/または、その他の特定の値までの範囲を含む。同様に、「約」を前につけて、値を概数で表す場合、その特定の値は、他の態様を形成すると理解されるだろう。更に、各範囲の端点は、他の端点との関係で、および、他の端点とは独立に、の両方で重要であると理解されるだろう。
【0019】
開示した構成および方法に使用しうる、または、それらと共に使用しうる、または、それらを用意するのに使用しうる、または、それらの生成物である、材料および構成要素を開示する。本明細書において、これらの材料および他の材料を開示しており、更に、これらの材料の組合せ、部分集合、相互作用、群などを開示した場合には、これらの化合物の様々な個別および集合的、組合せ、および、順列を、明示的に開示していなくても、各々を具体的に意図し、本明細書に開示していると理解されるものとする。例えば、光学素子を作製するための材料を開示および記載し、更に、多数の異なる適合する薄膜を記載する場合には、そうでないと具体的に示さない限りは、光学素子および薄膜を作製するための材料の各全ての可能な組合せおよび順列を、具体的に意図している。例えば、分子A、BおよびC類、並びに、分子D、EおよびF類を開示し、更に、分子A-Dの組合せの例を開示した場合には、各組合せを個々に記載しなくても、各組合せを、個別および集合的に意図している。したがって、この例において、具体的に、A-E、A-F、B-D、B-E、B-F、C-D、C-E、および、C-Fの組合せを意図しており、A、BおよびC、並びに、D、EおよびF、並びに、A-Dの組合せの例の開示から、開示したものと考えるべきである。同様に、これらの任意の部分集合および組合せも、具体的に意図され開示している。したがって、例えば、A-E、B-F、および、C-Eの部分群を具体的に意図しており、それらは、A、BおよびC、並びに、D、EおよびF、並びに、A-Dの組合せの例の開示から、開示されていると考えるべきである。この概念は、開示した構成要素を作製および使用する方法における工程を含むが、限定するものではなく、本開示の全ての態様に適用される。したがって、様々な追加の工程を行いうる場合には、これらの追加の各工程を、開示した方法の任意の実施形態、または、実施形態の組合せと共に行いうるものであり、そのような各組合せを、具体的に意図し、開示していると考えるべきであると、理解されるものである。
【0020】
本明細書において、第1の表面を有する第1の光学基体と、第2の表面を有する第2の光学基体を互いに接合することによって、化学接着剤を用いずに光学素子を作製する方法を記載する。1つの態様において、第1の光学基体と第2の光学基体の両方が、同じ材料で作られている。他の態様において、第1の光学基体と第2の光学基体は、異なる材料から作られている。1つ態様において、第1および/または第2の光学基体は、光学的リソグラフィに適した材料で作られている。例えば、光学的リソグラフィに適した材料は、HPFS(登録商標)(コーニング社)などの溶融シリカ、または、金属フッ化物である。更なる態様において、第1および/または第2の光学基体は、アルカリ土類金属フッ化物、または、アルカリ土類金属フッ化物の混合物で構成されてもよい。1つの態様において、アルカリ土類金属フッ化物、または、アルカリ土類金属フッ化物の混合物は、MgF、CaF、BaF、SrF、CaSrF、または、それらの任意の組合せでありうる。
【0021】
1つの態様において、第1の光学基体と第2の光学基体の両方が、SiOで構成される。他の態様において、第1の光学基体と第2の光学基体の両方が、CaFを含む。更に他の態様において、第1の光学基体は、SiOを含み、第2の光学基体は、CaFを含む。
【0022】
他の態様において、第1の光学基体および第2の光学基体の各々が、キューブビームスプリッタを作製するのに使用される三角形のプリズムである。更に、この態様において、第1の表面と第2の表面は、各々、第1の光学基体と第2の光学基体の斜辺面である。
【0023】
第1および第2の光学基体を選択した後に、水を、第1または第2の光学基体の少なくとも1つの表面に塗布する。1つの態様において、水を、第1の光学基体の第1の表面に塗布する。他の態様において、水を、第1の光学基体の第1の表面と第2の光学基体の第2の表面の両方に、塗布する。1つの態様において、水は、脱イオン水である。
【0024】
第1および/または第2の光学基体の表面に塗布する水の量は、基体表面の寸法、および、2つの基体間の水の層の望ましい厚さに応じて、変えうる。1つの態様において、1滴以上の脱イオン水を、第1の表面または第2の表面に塗布する。第1と第2の光学基体が互いに接触すると、薄い水の層を形成する。
【0025】
1つの態様において、第1および/または第2の光学基体の表面への水の塗布に続けて、水の層が第1と第2の光学基体の間に均一に分散するように、第1の光学基体を第2の光学基体に固定する。図1は、本実施形態の1つの態様を示している。図1を参照すると、水の層100が、第1の光学基体110と第2の光学基体120の間に配置され、水の層は、第1の光学基体110の第1の表面115、および、第2の光学基体120の第2の表面125と接触する。固定装置130、140が、第1および第2の光学基体110、120を適切な位置に保持する。固定装置の数、および、装置によって加えられる圧力量は、変えうる。1つの態様において、固定装置は、調節可能なクランプであってもよい。他の態様において、固定装置は、マグネットバーでもよい。固定装置は、結果的に得られる光学素子に傷をつけたり、破損したりしないように選択されるべきである。
【0026】
第1およびの第2の光学基体110、120の第1および/第2の表面115、125を、約5秒から約10分間、20℃から30度の温度で、水と接触させうる。1つの態様において、第1および/第2の表面を、約5秒間、約10秒間、約30秒間、約1分間、約2分間、約3分間、約4分間、約5分間、約6分間、約7分間、約8分間、約9分間、または、約10分間、水と接触させうる。他の態様において、第1および/第2の表面を、約20℃、約21℃、約22℃、約23℃、約24℃、約25℃、約26℃、約27℃、約28℃、約29℃、または、約30°Cで、水と接触させうる。更に他の態様において、第1および/第2の表面を、熱源(例えば、炉)から外部の熱を加えることなく、室温で水と接触させうる。
【0027】
第1の光学基体110と第2の光学基体120の間に水の層100を形成して、前段階光学素子150(図1)を作製した後に、前段階光学素子を、図1に160で示したような深紫外(DUV)線に露光する。1つの態様において、DUV線は、約400kJ/モルから約800kJ/モルのエネルギーを有する。ある態様において、DUV線は、約400、約450、約475、約500、約550、約600、約650、約700、約750、または、約800kJ/モルのエネルギーを有しうるものであり、任意の値が、エネルギー範囲の下限または上限の端点を形成しうる。他の態様において、エネルギーは、647kJ/モル、または、472kJ/モルでありうる。
【0028】
更なる態様において、DUV線源は、低圧水銀蒸気ランプである。この態様において、ランプは、例えば184nmおよび253nmで、2つの主スペクトル線を有するDUV線を出射してもよい。代わりの態様において、ランプを、184nmのみ、または、253nmのみで、DUV線を出射するように構成しうる。他の態様において、DUV線源は、低圧水銀蒸気ランプではなく、光学基体が透過する波長の光を出射し、水分子を接触界面において解離するのに十分高い光子エネルギーを有する、任意の他の光源であってもよい。
【0029】
DUV線を、前段階光学素子150に、約1分から約30分間、照射する。更に、この態様において、DUV線を、第1および第2の光学基体に、約1分、約2分、約5分、約10分、約15分、約20分、約25分、または、約30分間、照射して、任意の値が、時間範囲の下限または上限の端点を形成しうる。他の態様において、DUV線の露光時間は、基体に加えるエネルギーの量に依存する。1つの態様において、より高いエネルギー照射は、より短いDUV露光時間を要し、より低いエネルギー照射は、より長いDUV露光時間を要する。
【0030】
理論に固執するのを望まないが、DUV線は、水の層100に存在する水を解離して、水酸基を生成しうるものであり、次に、水酸基は、第1および第2の光学表面115、125と反応して、第1および第2の光学基体の第1と第2の表面の間に新たな共有結合を生成しうると考えられる。更に、水酸基は、DUV線によって更に解離して、第1と第2の光学基体の界面において、酸素架橋を形成しうると考えられる。1つの態様において、水銀蒸気ランプのエネルギー出力は、一般の光学基体および薄膜などに見られる接合を分離できる。表1は、SiO、CaF、および、HOに関する結合の結合エネルギーを示している。
【0031】
【表1】
【0032】
図2~4は、SiO-SiO光学基体(図2)、CaF-CaF光学基体(図3)、および、SiO-CaF光学基体(図4)の共有結合を示している。図2を参照すると、SiO-SiO光学基体210、220は、-Si-O-Si-結合を介して互いに共有結合している。図3のCaF-CaF光学基体310、320の場合には、光学基体は、-Ca-O-Ca-結合を介して互いに共有結合している。最後に、SiO-CaF光学基体410、420は、-Si-O-Ca-結合を介して互いに共有結合している。(図4)。
【0033】
更に他の態様において、任意の上記方法で構成された光学素子は、DUV線の照射の次に、アニーリングも加熱もされない。したがって、本明細書に記載の方法は、異なる材料で構成された光学基体(例えば、第1の基体がSiOで、第2の基体がCaF)を接着するのに有用である。1つの態様において、第1の基体は、HPFS(登録商標)(コーニング社)などの被膜されていない溶融シリカであり、第2の基体は、CaFである。更に、本明細書に記載の方法は、上記のような様々な不都合な点を有する化学接着剤を必要としない。
【0034】
更なる態様において、本明細書に記載の方法によって作製した光学素子の1つ以上の表面を、従来から知られた1つ以上の薄膜で被膜しうる。1つの態様において、薄膜は、ビームスプリッタ膜、反射防止膜、ミラー膜、部分ミラー膜、偏光制御膜、または、それらの組合せでありうる。1つの態様において、薄膜は、金属フッ化物材料である。更なる態様において、金属フッ化物材料は、AlF、NaF、MgF、LaF、GdF、NdF、または、それらの組合せでありうる。更に他の態様において、多数の金属フッ化物膜が、互いに積層される。この態様において、2層、3層、4層、5層、6層、7層、8層、9層、または、10層の金属フッ化物膜を、素子に被膜する。他の態様において、層は、異なる金属フッ化物、同じ金属フッ化物、または、交互の金属フッ化物から作られてもよい。1つの態様において、交互のGdFおよびAlFフィルムで構成された7層の金属フッ化物膜がある。図5は、ここで作製したCaFで構成された光学素子の表面が、交互のAlFおよびGdFの層を有する、この例を示している。
【0035】
更に他の態様において、DUV線を照射後に、光学素子の少なくとも1つの露出面を、気密封止しうる。本発明において、米国特許第7,242,843号、および、米国特許第8,399,110号に開示された方法を用いて、本発明で作製した光学素子を気密封止しうる。いくつかの態様において、光学素子の気密封止は、液浸リソグラフ利用時の脱イオン水による光学素子の劣化を防ぐ。気密封止は、下の表面に、物理的、または、化学的に(つまり、共有結合で)接合してもよい。1つの態様において、気密封止材料は、酸化物またはフッ化酸化物フィルムから選択される。例えば、素子を、Al、F:Al、SiO、SiON、HfO、Si、ZrO、TiO、SiO/ZrO、F:SiO/ZrO、F:SiO、または、それらの任意の組合せで、気密封止しうる。
【0036】
1つの態様において、気密封止層を、光学素子上の薄膜層の最上部および周囲に配置する。例えば、光学素子の表面を、反射防止膜で被膜して、次に、反射防止膜を気密封止しうる。1つの態様において、1つ以上の薄膜層を、光学素子上に気密封止しうる。図5は、金属フッ化物で構成された複数の薄膜が、F:SiOによって気密封止された、この例を示している。
【0037】
他の態様において、光学素子の表面を薄膜で被膜しない場合には、素子、または、素子の表面を、直接に気密封止しうる。
【0038】
1つの態様において、本明細書に記載の方法は、ビームスプリッタを作製するのに有用である。「ビームスプリッタ」は、光束を2つに分割する光学素子である。1つの態様において、キューブおよびレーザラインビームスプリッタを、本発明で作製しうる。他の態様において、ビームスプリッタは、フィルム型偏光ビームスプリッタ、無偏光ビームスプリッタ、長短波長カットオフフィルタ、または、バンドパスフィルタでありうる。
【0039】
1つの態様において、本明細書に記載の光学素子は、現在の光学素子と比べて、多数の利点を有する。例えば、本発明で作製した光学素子は、光学的リソグラフィ、医療、または、産業利用のために、248nm、193nm、または、157nmの波長で動作するエキシマレーザで使用される。他の態様において、光学素子は、接着剤を必要とせず、代わりに、少量の脱イオン水を必要とするので、構成するのに、より少ない材料を必要とする。他の態様において、光学素子は、既存の被膜および清浄器具を用いて構成できると共に、接合処理のために、高温でのアニーリングおよび熱硬化を必要としないので、より低い生産コストを伴う。更なる態様において、本明細書に記載の光学素子は、耐久性が高く、更に、吸収がないので、光活性化接合、および、水を開始剤とした化学接合について、劣化しないだろうと考えられる。
【実施例
【0040】
以下の実施例は、本明細書に記載および請求した化合物、組成物、および、方法を、いかに生成および評価したかを、当業者に完全に開示および記載するように示すものであり、単に例示することを意図し、本発明者が自身の発明とみなす発明の範囲を限定することを意図しない。数値(例えば、量、温度など)について、確実に正確にするように努力したが、いくらかの誤差、および、ずれは、許容されるべきである。そうでないと示さない限り、部分は、重量部で表し、温度は、℃で表すか、環境温度であり、圧力は、大気圧または大気圧近傍である。望ましい処理から取得される生成物の純度および歩留まりを最適にするのに用いうる反応条件、例えば、成分濃度、望ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、並びに、他の反応範囲および条件には、多数の変形例および組合せがある。そのような処理条件の最適化には、妥当な所定手順の実験工程だけを必要とするだろう。
【0041】
光学素子の構成手順
2つの光学表面を清浄し、互いの界面で、脱イオン水の薄い層と光学的に接触させた。光学表面の平面度は、635nmにおいて、0.2フリンジより低く、表面粗さは、被膜されていない基体について、0.2nmより低かった。低圧水銀蒸気ランプからのDUV光を用いて、2つの面の間の水をイオン化し蒸発させて、表面の化学接合を活性化した。実験のために、2つの表面が照射される間、一対のマグネットバーを用いて、2つの表面を、10分間、室温で互いに合わせて保持した。しかしながら、機械的ホルダーも使用しうる。これらの実験で使用した水銀蒸気ランプは、647kJ/モルおよび472kJ/モルに各々対応する、184nmおよび253nmの2つの主スペクトル線を出射するものだった。この手順は、真空でも行いうる。
【0042】
光学素子を構成する工程に続き、多孔フッ化物薄膜を気密封止して、F:SiO層と、被膜または非被膜のCaFまたはSiO表面との間で直接化学接合を可能にするために、改良されたプラズマイオンアシスト蒸着処理を用いて、多孔フッ化物薄膜を、高密度で平滑なF:SiOキャッピング層によって、封止し平滑化した。(1)2つのSiO基体(図6)、(2)2つのCaF基体(図7)、および、(3)CaF基体に接合した1つのSiO基体から構成された、例示的な素子を構成した。
【0043】
仕上げたCaF素子を、交互のGdF(4層)およびAlF(3層)で被膜して、F:SiOで、気密封止した。図5は、この光学素子のSEM断面画像を示している。
【0044】
光学素子の性能
図8は、厚さが、各々、3.3mm、3.1mmおよび3.3mmのHPFS(登録商標)(コーニング社)8655、8650、および、7980ガラスのVUVおよびDUVスペクトル透過率を示している。検査したHPFSの全サンプルは、水銀蒸気ランプから出射された光を透過した。これは、介在する水の層で互いに接触した2つのHPFS表面が、184nmおよび253nmのDUV照射を用いて、化学接合できたことを示している。
【0045】
図9Aおよび9Bは、193nmにおける、各々、CaF系およびSiO系の無偏光キューブビームスプリッタの透過および反射スペクトルを示している。
【0046】
本明細書を通して、様々な公知文献を参照している。本明細書に記載の方法および物品をより完全に記載するために、これらの公知文献の開示を、全体として本明細書に組み込む。
【0047】
本明細書に記載の材料、方法、および、物品に、様々な変更および変形が可能である。本明細書に記載の材料、方法、および、物品の他の態様は、本明細書に開示した材料、方法、および、物品の仕様および実施形態を考慮すれば明らかであろう。明細書および実施例は、例示的であることを意図している。
【0048】
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
【0049】
実施形態1
光学素子の作製方法において、
(a)第1の表面を有する第1の光学基体、および、第2の表面を有する第2の光学基体を取得する工程と、
(b)前記第1の光学基体の前記第1の表面に、または、前記第2の光学基体の前記第2の表面に、または、該第1の光学基体の該第1の表面および該第2の光学基体の該第2の表面の両方に、水を塗布する工程と、
(c)前記第1の光学基体の前記第1の表面を、前記第2の光学基体の前記第2の表面に隣接させて、該第1の光学基体を該第2の光学基体に固定する工程と、
(d)深紫外光を、前記第1の光学基体および前記第2の光学基体に照射する工程と、
を有する方法。
【0050】
実施形態2
前記第1の光学基体と前記第2の光学基体が、同じ材料で作られたものである、
実施形態1に記載の方法。
【0051】
実施形態3
前記第1の光学基体と前記第2の光学基体が、異なる材料で作られたものである、
実施形態1に記載の方法。
【0052】
実施形態4
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体が、SiOを含むものである、
実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0053】
実施形態5
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体が、CaFを含むものである、
実施形態1から3のいずれか1つに記載の方法。
【0054】
実施形態6
前記第1の光学基体は、SiOを含み、前記第2の光学基体は、CaFを含むものである、
実施形態1に記載の方法。
【0055】
実施形態7
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体の各々が、三角形のプリズムであり、前記第1の表面と前記第2の表面が、該第1の光学基体および該第2の光学基体の斜辺面である、
実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0056】
実施形態8
前記光学素子が、キューブビームスプリッタである、
実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0057】
実施形態9
前記光学素子が、フィルム型偏光ビームスプリッタ、無偏光ビームスプリッタ、長短波長カットオフフィルタ、または、バンドパスフィルタである、
実施形態1から6のいずれか1つに記載の方法。
【0058】
実施形態10
前記水は、脱イオン化されたものである、
実施形態1から9のいずれか1つに記載の方法。
【0059】
実施形態11
前記第1の光学基体および前記第2の光学基体を、5秒から10分間、20℃から30度の温度で、水と接触させる、
実施形態1から10のいずれか1つに記載の方法。
【0060】
実施形態12
前記深紫外光は、400kJ/モルから800kJ/モルである、
実施形態1から11のいずれか1つに記載の方法。
【0061】
実施形態13
前記深紫外光を、1分から30分間、前記第1の光学基体および前記第2の光学基体に照射する、
実施形態1から12のいずれか1つに記載の方法。
【0062】
実施形態14
前記工程(d)後に、前記光学素子は、実質的にアニーリングも加熱もされない、
実施形態1から13のいずれか1つに記載の方法。
【0063】
実施形態15
前記工程(d)後に、前記光学素子の少なくとも1つの露出面を、気密封止する、
実施形態1から14のいずれか1つに記載の方法。
【0064】
実施形態16
前記工程(d)後に、前記光学素子を、Al、SiO、または、F-SiOで気密封止する、
実施形態15に記載の方法。
【0065】
実施形態17
前記工程(d)後に、前記光学素子の少なくとも1つの露出面を、反射防止膜、反射または部分反射ミラー膜、偏光膜、若しくは、ビームスプリッタ膜である、1つ以上の薄膜で被膜する、
実施形態1から14のいずれか1つに記載の方法。
【0066】
実施形態18
前記光学素子の前記少なくとも1つの露出面に、前記1つ以上の薄膜を被膜した後に、該1つ以上の薄膜を気密封止する、
実施形態17に記載の方法。
【0067】
実施形態19
実施形態1から18のいずれか1つに記載の方法によって作製された光学素子。
【0068】
実施形態20
光学素子において、第1の表面を有する第1の光学基体、および、第2の表面を有する第2の光学基体を含み、前記第1の光学基体と前記第2の光学基体が、直接、互いに共有結合し、前記光学素子は1つ以上の露出面を有する、光学素子。
【0069】
実施形態21
前記光学素子の前記1つ以上の露出面は、反射防止膜、反射または部分反射ミラー膜、偏光膜、若しくは、ビームスプリッタ膜を含む薄膜を有し、前記薄膜は、気密封止されたものである、
実施形態20に記載の光学素子。
【符号の説明】
【0070】
100 水の層
110 第1の光学基体
115 第1の表面
120 第2の光学基体
125 第2の表面
130、140 固定装置
150 前段階光学素子
210、220、310、320、410、420 光学基体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B