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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】半導体レーザー装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/022 20210101AFI20221216BHJP
   H01S 5/40 20060101ALI20221216BHJP
   H01S 5/06 20060101ALI20221216BHJP
   G02F 1/025 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01S5/022
H01S5/40
H01S5/06
G02F1/025
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019000450
(22)【出願日】2019-01-07
(65)【公開番号】P2020109800
(43)【公開日】2020-07-16
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002941
【氏名又は名称】弁理士法人ぱるも特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100073759
【弁理士】
【氏名又は名称】大岩 増雄
(74)【代理人】
【識別番号】100088199
【弁理士】
【氏名又は名称】竹中 岑生
(74)【代理人】
【識別番号】100094916
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 啓吾
(74)【代理人】
【識別番号】100127672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 憲治
(72)【発明者】
【氏名】内山 麻美
(72)【発明者】
【氏名】柴田 公隆
(72)【発明者】
【氏名】八田 竜夫
(72)【発明者】
【氏名】森田 佳道
【審査官】吉岡 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-018947(JP,A)
【文献】特開2011-192918(JP,A)
【文献】特開2015-041681(JP,A)
【文献】特開2001-085781(JP,A)
【文献】特開2001-154162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発振波長が異なる複数のDFBレーザーと、
前記複数のDFBレーザーの出力を結合する合波器と、
前記合波器から出力された光を変調するEAMと、
温度を測定する温度検出器と、
前記温度検出器により検出された温度に基づいて、前記複数のDFBレーザーのうち動作させるDFBレーザーを選択して切替えるレーザー選択制御器と
前記温度検出器により検出された温度に基づいて、前記EAMのバイアス電圧を制御するEAMバイアス制御器と
離散的な温度と、各温度に対して選択するDFBレーザーおよび選択されるDFBレーザーの動作電流値および前記EAMのバイアス電圧とを対応付けて記憶するルックアップテーブルとを備え
前記ルックアップテーブルに記憶された情報により、前記レーザー選択制御器は前記選択するDFBレーザーを選択し、前記EAMバイアス制御器は前記EAMのバイアス電圧を設定する
ことを特徴とする半導体レーザー装置。
【請求項2】
前記温度検出器の検出温度の精度が、前記ルックアップテーブルに記憶されている離散的な温度の間隔の値以上の精度であることを特徴とする請求項に記載の半導体レーザー装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、半導体レーザー装置に関する。
【背景技術】
【0002】
中継局とユーザ間の光通信システムであるアクセス系では、高速変調に適した電界吸収型変調器(EAM:Electro-absorption Modulator)と分布帰還型半導体レーザー(DFB-LD:Distributed Feedback Laser Diode、DFBレーザーとも称する)などの単一波長の光を出力する半導体レーザーを集積した半導体光集積素子であるEML(Electro-absorption Modulator integrated Laser)が適している。
【0003】
EMLにおいては、半導体レーザーの波長に対して、適切な光吸収特性を有するEAMを用いる必要がある。一方、EAMの光吸収の波長特性、および半導体レーザーの発振波長は、いずれも温度依存性がある。EAMの波長特性の温度依存性と、半導体レーザーの発振波長の温度依存性が異なるため、EMLの温度が変化すると、光の波長のみならず、EAMの変調特性である消光比が変化し、適切な変調が行えなくなる。このため、一般的には、ペルチェ素子などを用いてEMLを冷却して温度を制御する構成がとられる。
【0004】
冷却して温度を制御するために必要な電力は、半導体レーザー装置全体の電力に対して大きな割合を占める場合があり、低消費電力の観点から、冷却せずに動作可能な、いわゆるアンクールドEMLの実現が望まれている。例えば、特許文献1では、レーザーの発振波長λLDとEAMの吸収ピーク波長λEAの差、Δλ=λLD-λEAの最適化と、温度毎のEAMのバイアス電圧調整により、アンクールド動作させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-279406号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載されている技術では、消光比の変動を抑制するため、温度に対応させてEAMバイアス電圧の調整が必要であり、調整手順が複雑であった。また、アンクールド動作が実現できる温度範囲も限られていた。
【0007】
本願は、上記の問題点を解決するための技術を開示するものであり、調整が簡単で、アンクールド動作を実現できる温度範囲がより広い半導体レーザー装置を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願に開示される半導体レーザー装置は、発振波長が異なる複数のDFBレーザーと、複数のDFBレーザーの出力を結合する合波器と、合波器から出力された光を変調するEAMと、温度を測定する温度検出器と、温度検出器により検出された温度に基づいて、複数のDFBレーザーのうち動作させるDFBレーザーを選択して切替えるレーザー選択制御器と、温度検出器により検出された温度に基づいて、EAMのバイアス電圧を制御するEAMバイアス制御器と離散的な温度と、各温度に対して選択するDFBレーザーおよび選択されるDFBレーザーの動作電流値およびEAMのバイアス電圧とを対応付けて記憶するルックアップテーブルとを備え、ルックアップテーブルに記憶された情報により、レーザー選択制御器は選択するDFBレーザーを選択し、EAMバイアス制御器はEAMのバイアス電圧を設定するものである。
【発明の効果】
【0012】
本願に開示される半導体レーザー装置によれば、調整が簡単で、アンクールド動作を実現できる温度範囲がより広い半導体レーザー装置を得ることができる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1による半導体レーザー装置の概略構成を示すブロック図である。
図2】実施の形態1による半導体レーザー装置の動作を説明するための線図である。
図3】実施の形態1による半導体レーザー装置の動作のアルゴリズムを説明するためのフロー図である。
図4】実施の形態1による半導体レーザー装置の効果を説明するための線図である。
図5】実施の形態2による半導体レーザー装置の概略構成を示すブロック図である。
図6】実施の形態2による半導体レーザー装置の動作を説明するための線図である。
図7】実施の形態2による半導体レーザー装置の動作のアルゴリズムを説明するためのフロー図である。
図8】実施の形態3による半導体レーザー装置の概略構成を示すブロック図である。
図9】実施の形態3による半導体レーザー装置のルックアップテーブルの一例を示す図である。
図10】実施の形態3による半導体レーザー装置のアルゴリズムを説明するためのフロー図である。
図11】実施の形態3による半導体レーザー装置の動作を説明するための線図である。
図12】実施の形態4による半導体レーザー装置の概略構成を示すブロック図である。
図13】実施の形態4による半導体レーザー装置の動作を説明するための線図である。
図14】実施の形態4による半導体レーザー装置の動作のアルゴリズムを説明するためのフロー図である。
図15】実施の形態4による半導体レーザー装置の別の概略構成を示すブロック図である。
図16】実施の形態4による半導体レーザー装置のさらに別の概略構成を示すブロック図である。
図17】実施の形態4による半導体レーザー装置のルックアップテーブルの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1による半導体レーザー装置の構成を示す模式的なブロック図である。半導体レーザー装置100は、発振波長の異なる3つの半導体レーザーLD1、LD2、LD3とそれらの出力を合波する合波器104、および1つのEAM(電界吸収型変調器)105が搭載された半導体光集積素子10が備えられている。ここでは、半導体レーザーはDFBレーザー(分布帰還型半導体レーザー)である。さらに半導体光集積素子10の温度を検出するための温度検出器107、および温度検出器107の検出温度Tcによって3つの半導体レーザーのうち一つの半導体レーザーを選択して動作させるレーザー選択制御器106を備えている。図1では3波長のDFBレーザーLD1、LD2、LD3と、合波器104と1つのEAM105が半導体光集積素子10としてモノリシックに集積されている。合波器104としては例えばMMI(Multi-Mode Interference)による合波器を使用することができる。合波器104としては、その他、空間光学系を使って合波し、合波した光がEAMに入射するような構成をとることもできる。
【0015】
この半導体レーザー装置100は、例えば、温度検出器107における検出温度Tc=30~60℃が使用温度範囲である。温度検出器107は、DFBレーザーとEAMが搭載されている半導体光集積素子10の温度を測定するように構成されていればよい。半導体光集積素子10はmmオーダーの非常に小さい素子であり、素子にはほとんど温度分布は生じない。また、半導体光集積素子10を内蔵するパッケージ内の温度もほぼ半導体光集積素子10の温度と等しくなるため、パッケージ内の温度分布もほぼない。したがって、パッケージ内であれば温度測定箇所はどこでもよい。ここで、温度検出器107は、精度が5℃、すなわち30℃、35℃、40℃、…、というように、温度検出器107の出力温度値Tcは、5℃きざみの等間隔の離散的な温度であり、その間の値が出力されることはない。レーザー選択制御器106の動作により、30℃≦Tc≦35℃で半導体レーザーLD1が選択される。半導体レーザーLD1は、35℃での発振波長λLD1が1305nmである。40℃≦Tc≦45℃で半導体レーザーLD2が選択され、45℃での発振波長λLD2が1310nmである。50℃≦Tc≦60℃で半導体レーザーLD3が選択され、55℃での発振波長λLD3は1315nmである。
【0016】
DFBレーザーの発振波長の温度依存性dλLD/dTは0.1nm/℃である。ここで、例えば温度35℃における各DFBレーザーの発振波長を比較すると、LD1は1305nm、LD2は1309nm、LD3は1313nmである。このように、同一温度における発振波長が異なる3個のDFBレーザーLD1、LD2、LD3を搭載しておき、温度範囲によってDFBレーザーを切替えて動作させる。
【0017】
前述のように、DFBレーザーの発振波長の温度依存性dλLD/dTは0.1nm/℃である。一方、EAMの光の吸収がピークとなる吸収ピーク波長λEAの温度依存性dλEA/dTは0.5nm/℃であり、35℃においてλEA=1240nm、45℃においてλEA=1245nm、55℃においてλEA=1250nm、となるような吸収層を持つ。このときの、レーザーの発振波長λLDとEAMの吸収ピーク波長λEAの差、Δλ=λLD-λEAを図2に示す。例えばTc=40℃のとき、半導体レーザーLD2が選択される。温度検出器は5℃きざみで検出温度Tcを出力するため、Tc=40℃のとき、実際の温度Tは必ずしも40℃ではないが、仮に実際の温度Tが40℃であるとすると、λLD2(T=40℃)=1309.5nmとなる。一方、λEA(T=40℃)=1242.5nmであり、Δλ=67nmとなる。図2より、検出温度Tcに基づいて半導体レーザーLD1、LD2、LD3を選択することにより、30~60℃の範囲で、Δλは63~67nmの範囲で変動し、十分小さい変動量に抑制することができる。
【0018】
図3にレーザーを選択して動作させるアルゴリズムを示す。ここでは、前述のように温度検出器107が検出温度Tcを5℃の精度、すなわち5℃きざみでTcを出力する例で説明する。レーザー選択制御器106は、図3に示すような、離散的な温度である5℃毎の温度に対して選択するレーザーと選択するレーザーに流す電流値とを対応づけたルックアップテーブルを記憶している。温度検出器107からレーザー選択制御器106に検出温度Tcが伝えられる(ステップST1)と、記憶されたルックアップテーブルからTcに対応したレーザーとその電流値を読み込み(ステップST2)、読み込んだ情報に従って半導体レーザーを選択し、選択された半導体レーザーに読み込んだ電流値を流すように指令する(ステップST3)。
【0019】
温度検出器107からレーザー選択制御器106に検出温度Tcを伝えるタイミングは、一定の周期毎でも良いが、検出温度Tcが変化したタイミングでも良い。例えば、温度検出器107により検出された検出温度Tcが35℃から40℃に変化したとき、レーザー選択制御器にTcが伝えられる。レーザー選択制御器106により、40℃に対応したDFBレーザーLD2が選択され、DFBレーザーLD2に60mAの電流を流すよう指令する。検出温度Tcが40℃から45℃に変化したとき、DFBレーザーLD2に流れる電流値を60mAから65mAに変化させるよう指令する。検出温度Tcが45℃から上昇して50℃に変化したときは、DFBレーザーLD3が選択され、DFBレーザーLD3に70mAの電流を流すよう指令する。検出温度Tcが45℃から下降して40℃に変化したときは、DFBレーザーLD2に流れる電流値を65mAから60mAに変化させるよう指令する。
【0020】
前述のように、EAMの吸収ピーク波長の温度変化率は0.5nm/℃、DFBレーザーの発振波長の温度変化率は0.1nm/℃である。DFBレーザーの発振波長は回折格子の屈折率の温度依存性に従い変化するが、EAMの吸収ピーク波長は半導体バンドギャップの温度依存性に従い変化するため、このような差が発生する。このため、仮に半導体レーザー装置が図2の点線で示す特性のDFBレーザーLD2のみしか持たず、EAMのバイアス電圧を調整しない場合、30~60℃の温度範囲でΔλは59~71nmの範囲で変動し、大きな変動量になる。温度変化によりΔλの値が変化し、30℃と60℃ではΔλが12nm変化する。実線で示す実施の形態1の場合、3つの温度範囲でDFBレーザーを切り替えることで、Δλの最大値と最小値の差は4nmとなる。EAMの性能はこのΔλに依存する。図4に、EAMで変調したときの消光比のΔλ依存性を示す。Δλが59nmから71nmまで12nm変化したときの消光比変化は約7dBであるが、63nmから67nmまで4nm変化したときの消光比変化は約2dBである。実施の形態1により、半導体光集積素子をペルチェ素子などによる温度制御なしで、かつEAMを温度に対応してバイアス電圧を調整することなく、消光比の変動を抑制することができる。
【0021】
図3の例では、温度を5℃の精度で読み取り、選択するレーザーと電流値を指定しているが、例えば離散的な温度1℃毎でルックアップテーブルを指定する、あるいは電流値を温度の関数で定義することも可能である。検出温度の精度を上げると、選択するレーザーあるいは電流値が変更される閾値温度付近での動作が不安定となることが考えられる。この場合、温度上昇時と下降時でレーザーの切り替え温度に差を持たせる、いわゆるヒステリシス動作とすることで安定動作が確保できる。例えば、1℃の精度でルックアップテーブルを指定している場合に、LD1からLD2への切り替えは、温度が上昇して41℃を検出したときに行い、LD2からLD1への切り替えは、温度が下降して39℃を検出したときに行う、という方法である。
【0022】
ルックアップテーブルが離散的な温度毎で指定されており、温度検出器107の精度がこの離散的な温度間隔と同じ場合、すなわち、ルックアップテーブルが5℃毎に指定されている場合に温度検出器107の精度を5℃とする場合、あるいはルックアップテーブルが1℃毎に指定されている場合に温度検出器107の精度を1℃とする場合は、動作が自動的にヒステリシス動作となる。例えばルックアップテーブルが1℃毎に指定されている場合、温度上昇時は検出温度Tcが39℃から40℃に変化したときに40℃に対応したDFBレーザーの選択と電流値の設定値が行われ、温度下降時はTcが40℃から39℃に変化したときに39℃に対応したDFBレーザーの選択と電流値の設定値が行われる。この動作は、ヒステリシス動作となっている。さらに、例えば温度上昇時に検出温度が40℃に変化したとき、図3のルックアップテーブルに示すように、DFB電流値を増加させるため、半導体光集積素子の温度はより上昇する方向に変化する。一方、温度下降時に35℃に変化したときは、DFB電流値を減少させるため、半導体光集積素子の温度はより下降する方向に変化する。この特性によってもヒステリシス動作が強調され、安定な動作が実現される。
【0023】
温度検出器107が出力する検出温度Tcの精度は、上記のようにルックアップテーブルに記憶されている離散的な温度の間隔の値と同じではなく、この間隔の値以上の精度であってもよい。すなわち、温度検出器107が出力する検出温度Tcの値の間隔が、ルックアップテーブルに記憶されている離散的な温度の間隔の値以下の間隔であってもよい。例えば温度検出器107の精度が0.1℃、すなわち温度検出器107の検出温度Tcが0.1℃間隔で出力され、ルックアップテーブルは図3で示すのと同様、5℃毎の設定が記憶されている構成でもよい。この場合、例えば、30.0℃≦Tc≦34.9℃では、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD1を選択し、DFBレーザーLD1に電流値50mAを流すよう指令する。Tcが34.9℃から35.0℃に変化したとき、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD1の電流値を55mAに変更するよう指令する。35.0℃≦Tc≦39.9℃では、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD1を選択し、DFBレーザーLD1に電流値55mAを流すよう指令する。Tcが39.9℃から40.0℃に変化したとき、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD2を選択し、DFBレーザーLD2に電流値60mAを流すよう指令する。40.0℃≦Tc≦44.9℃では、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD2を選択し、DFBレーザーLD2に電流値60mAを流すよう指令する。温度が下降して、Tcが40.0℃から39.9℃に変化したとき、DFBレーザーLD1を選択し、レーザー選択制御器106は、DFBレーザーLD1に電流値55mAを流すよう指令する。以上のように、温度検出器107の検出温度の精度が高い場合、前述のヒステリシス動作が特に有効となる。例えば温度上昇時は、Tcが39.9℃から40.0℃になった場合にDFBレーザーの選択をLD1からLD2に切替え、一方、温度下降時は39.1℃から39.0℃となった場合にLD2からLD1に切替える、といったヒステリシス動作を行わせると良い。
【0024】
以上では、異なる3波長のDFBレーザーを選択する例で説明したが、DFBレーザーの個数を4以上、すなわち4波長以上の異なるDFBレーザーを搭載すれば、Δλの温度による変動をより小さくする、あるいは動作可能温度の範囲を広げる、ことができる。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態1による半導体レーザー装置によれば、温度調節機能を備えなくても、広い温度範囲で動作が可能となるため、消費電力を低減でき、しかも温度毎のEAMバイアスの調整が不要になる。さらに、波長の異なる半導体レーザーを選択するだけなので、レーザー選択制御器106の構成も単純な構成となる。図2に示すように、例えば、DFBレーザーLD2とEAMしか持たない場合、温度が30~60℃の間で変化した場合、Δλは59nm~71nmと、広い範囲にわたり変動することになる。EAMのバイアス電圧を固定して使う場合、半導体レーザーの選択機能を持たなければ30~60℃での消光比変動量は7dBであるが、実施の形態1の半導体レーザー装置100を用いる場合、消光比変動量を2dBまで抑制できる。
【0026】
実施の形態2.
図5は実施の形態2による半導体レーザー装置の構成を示す模式的なブロック図である。半導体レーザー装置100は、発振波長の異なる3つの半導体レーザー(ここではDFBレーザーである)LD1、LD2、LD3とそれを合波する合波器104、および1つのEAM105が搭載された半導体光集積素子10が備えられている。さらに半導体光集積素子10の温度を検出するためのサーミスタなどの温度検出器107、温度検出器107の検出温度Tcによって3つの半導体レーザーのうち一つの半導体レーザーを選択して動作させるレーザー選択制御器106、および温度検出器107の検出温度TcによってEAMのバイアス電圧を調整するEAMバイアス制御器108を備えている。
【0027】
以降、実施の形態1で説明したのと同様、温度検出器107の検出温度Tcの精度が5℃で、ルックアップテーブルが離散的な温度5℃毎に指定されている場合で説明する。この半導体レーザー装置100は、Tc=-40~90℃が使用温度範囲である。レーザー選択制御器106の動作により、-40℃≦Tc≦0℃で半導体レーザーLD1が選択される。温度-20℃での半導体レーザーLD1の発振波長λLD1は1287.5nmである。5℃≦Tc≦45℃で半導体レーザーLD2が選択される。温度25℃での半導体レーザーLD2の発振波長λLD2は1310nmである。50℃≦Tc≦90℃で半導体レーザーLD3が選択される。温度70℃での半導体レーザーLD3の発振波長λLD3は1323nmである。DFBレーザーの発振波長λLDの温度依存性dλLD/dTは0.1nm/℃であり、EAMの吸収ピーク波長λEAの温度依存性dλEA/dTは0.5nm/℃、バイアス電圧Vcの依存性は20nm/Vである。図6に、5つのVcの値に対するλEAの温度依存性を示す。図6に示すVcの中央値、Vc=-1.2VでのλEAが、λEA(T=-20℃)=1222.5nm、λEA(T=25℃)=1245nm、λEA(T=70℃)=1267.5nm、となるような吸収層を持つ。図7に示すルックアップテーブルにしたがって、例えばTc=25℃のとき、半導体レーザーLD2が選択され、λLD2(T=25℃)=1310nmとなり、EAMのバイアス電圧Vcは-1.2Vが選択される。λEA(T=25℃、Vc=-1.2V)=1245nmとなり、Δλ=65nmとなる。検出温度Tcに基づいて、図7のルックアップテーブルに示すようにレーザーを選択し、Vcを設定することで、Tc=-40~90℃の範囲で、Δλは63~65nmの範囲で変動し、実効的なΔλの温度による変動を狭い範囲に抑制することができる。
【0028】
図7にはレーザーを選択する際の動作のアルゴリズムも示している。温度検出器107から検出温度Tcがレーザー選択制御器106およびEAMバイアス制御器108に伝えられる(ステップST21)。レーザー選択制御器106は、図7のように、予め、離散的な温度毎に選択するDFBレーザーおよび設定する電流値が記憶されているルックアップテーブルから、検出温度Tcに対応して選択するDFBレーザーおよびDFBレーザーに設定する電流値を読み込み(ステップST22)、選択されたDFBレーザーに指定の電流値を流すよう指令する(ステップST23)。また、EAMバイアス制御器108もルックアップテーブルから検出温度Tcに対応したバイアス電圧Vcを読み込み(ステップST24)、EAMに所定のバイアス電圧Vcを印加するよう指令する(ステップST25)。このような制御方法により、Δλの変動量を十分小さい範囲に抑制することが可能となる。
【0029】
以上のように、本実施の形態2では、半導体レーザーを選択して切替えるだけではなく、検出温度毎にEAMバイアス電圧Vcも設定値を変えることで、検出温度により半導体レーザーを選択するのみの構成である実施の形態1よりも、Δλの温度による変動量が抑制され、さらに広い温度範囲での動作を可能とすることができる。
【0030】
実施の形態3.
図8は、実施の形態3による半導体レーザー装置100の構成を示す模式的なブロック図である。半導体レーザー装置100は、発振波長の異なる3つの半導体レーザー(ここではDFBレーザーである)LD1、LD2、LD3とそれを合波する合波器104、および1つのEAM105が搭載された半導体光集積素子10が備えられている。さらにEAM105が光を吸収した時に流れるフォトカレントを検出するためのフォトカレント検出器109、およびフォトカレント検出器109が検出したフォトカレントによって3つの半導体レーザーのうち一つの半導体レーザーを選択して動作させるレーザー選択制御器106を備えている。
【0031】
あらかじめ、温度と各レーザーを動作させた場合のEAMのフォトカレントの値を測定しておく。ここで、フォトカレントの検出回路の応答速度は信号の変調速度よりも十分に遅いため、フォトカレント検出器109が出力するフォトカレント値はEAMの変調率の影響は受けない。適切に動作する温度範囲におけるフォトカレント値の範囲、すなわち上限閾値と下限閾値を決定し、フォトカレント値が上限閾値と下限閾値の間の値となるよう、選択するレーザーとその電流値を決定し、図9に示すようなテーブルを求めておく。図9では、フォトカレントの値は絶対値で示している。また、図9のテーブルのうち、温度範囲は、参考であり、ルックアップテーブルには必ずしも必要はない。
【0032】
図10に、動作のフローを示す。まず、フォトカレント値を読み込み(ステップST31)、フォトカレント値(絶対値)が上限閾値を超えた場合(ステップST32 YES)は、それまでに動作させていたDFBレーザーよりも高温側のDFBレーザーに切替えて動作させ(ステップST33)、フォトカレント値が下限閾値を超えた場合(ステップST32 YES)は、低温側のDFBレーザーへ切替えて動作させる(ステップST35)。いずれでもない場合は、選択するDFBレーザーはそのままで設定変更しない(ステップST36)。以上のルーチンを、例えば一定の周期毎に行う。例えば、レーザー初期状態として、半導体レーザーLD2に60mAの電流が流れているとする。フォトカレント検出器109がフォトカレントの値をレーザー選択制御器106に送り、レーザー選択制御器106が読み込む。その値が5.4mAを超えた場合、レーザー選択制御器106は、フォトカレントの上限閾値を超えたと判断し、高温側レーザーへの切り替えが実施され、半導体レーザーLD3に70mAを流して動作させる。
【0033】
あるいは、フォトカレントの検出値がルックアップテーブルに記憶されている上限閾値または下限閾値を超えた場合に、フォトカレント検出器109がレーザー選択制御器106に上限閾値、あるいは下限閾値を超えた情報を伝えて、レーザー選択制御器106が動作させるDFBレーザーを切替えるようにしても良い。
【0034】
本実施の形態3では、温度を検出する変わりに、EAMのフォトカレントの温度依存性を利用して、レーザーを切り替える。図11に半導体レーザーLD1、LD2、LD3のフォトカレントの温度依存性の一例を示す。温度が上昇すると、実効的なΔλが減少して吸収される光が増え、フォトカレント値(絶対値)が増加する。この値が、ルックアップテーブルの閾値に到達した場合に、隣接した半導体レーザーに切り替える。
【0035】
なお、ここでは、半導体レーザーを選択するだけの構成を説明したが、実施の形態2で説明したのと同様、フォトカレントの検出値に基づいてEAMのバイアス電圧を変化させる構成を追加することもできる。
【0036】
本実施の形態3によれば、実施の形態1に比較して、温度検出器などの付属部品が必要無いため、半導体レーザー装置をさらに小型化できる。
【0037】
実施の形態4.
図12は、実施の形態4による半導体レーザー装置200の構成を示す模式的なブロック図である。ここでは、半導体レーザー120としてDBR(Distributed Bragg Reflector:分布反射型)レーザーを用いる。半導体光集積素子20に、DBRレーザー120とEAM105が搭載されている。DBRレーザー120は、構成として、分布反射領域121と利得領域122を備えている。分布反射領域121の注入電流を変化させるとDBRレーザー120の発振波長が変化する。よって、DBR制御器123が温度検出器107の検出温度Tcによって、分布反射領域121の注入電流を変化させてDBRレーザー120の発振波長を変化させることにより、DBRレーザー120の発振波長λDBRとEAM105の吸収ピーク波長λEAの差、Δλ=λDBR-λEAの変動を抑制することができる。
【0038】
以降、実施の形態1で説明したのと同様、温度検出器107の検出温度Tcの精度が5℃の場合で説明する。この半導体レーザー装置200は、例えば、Tc=30~60℃が使用温度範囲である。DBR制御器123の動作により、30℃≦Tc≦35℃では分布反射領域121の電流は20mAが選択される。温度35℃でのDBRレーザー120の発振波長λDBRは1305nmである。40℃≦Tc≦45℃では分布反射領域121の電流は5mAが選択される。温度45℃での発振波長λDBRは1310nmである。50℃≦Tc≦60℃では分布反射領域121の電流は0mAが選択される。温度55℃での発振波長λDBRは1315nmである。EAM105の吸収ピーク波長λEAの温度依存性dλEA/dTは0.5nmであり、λEA(T=35℃)=1240nm、λEA(T=45℃)=1245nm、λEA(T=55℃)=1250nm、となるような吸収層を持つ。このときのΔλを図13に示す。例えばTc=40℃のとき、分布反射領域121の電流は5mAが選択される。λDBR(T=40℃)=1309.5nmとなる。一方、λEA(T=40℃)=1242.5nmとなり、Δλ=67nmとなる。図13より、30~60℃の範囲で、Δλは63~67nmの範囲で変動し、十分小さい変動範囲に抑制することができることがわかる。
【0039】
図14に動作のアルゴリズムとルックアップテーブルの例を示す。温度検出器107の検出温度TcがDBR制御器123に伝えられる(ステップST41)。DBR制御器123は予め設定してあるルックアップテーブルから、温度に対応した分布反射領域電流値を読み込み(ステップST42)、分布反射領域121の電流値を設定する(ステップST43)。例えば検出温度Tcが35℃であれば、分布反射領域121の電流値は20mAに設定する。Tcが40℃になると、分布反射領域121の電流値を5mAに設定する。このような制御方法により、検出温度Tcに対応させて、DBFレーザーの波長を変化させることにより、温度が変化しても、Δλの変動量を十分小さい範囲に抑制することが可能となる。
【0040】
さらに、実施の形態2で説明したのと同様、図15に示すように、検出温度に対応してEAMのバイアス電圧を変化させるEAMバイアス制御器108を備えてもよい。これにより、動作可能温度範囲をさらに広げることができる。
【0041】
また、実施の形態3で説明したのと同様、図16に示すように、温度を検出する代わりに、フォトカレント検出器109により検出されるフォトカレントの値によって、DBR制御器123により分布反射領域の電流値を切替える構成とすることもできる。例えば、図17のようなルックアップテーブルを記憶しておき、フォトカレントの値が下限閾値を超えたとき、分布反射領域電流値を低温側の値に変化させ、フォトカレントの値が上限閾値を超えたとき分布反射領域電流値を高温側の値に変化させるように、DBR制御器123が制御するようにすればよい。
【0042】
以上のように、DBRレーザーとEAMで構成される半導体光集積素子20を備えた半導体レーザー装置において、温度あるいはフォトカレントの値に基づいてDBRレーザーの分布反射領域の電流値を調整することにより、広い温度範囲でのアンクールド動作が可能な半導体レーザー装置とすることができる。
【0043】
本願には、様々な例示的な実施の形態及び実施例が記載されているが、1つ、または複数の実施の形態に記載された様々な特徴、態様、及び機能は特定の実施の形態の適用に限られるのではなく、単独で、または様々な組み合わせで実施の形態に適用可能である。従って、例示されていない無数の変形例が、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。例えば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態の構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【符号の説明】
【0044】
10、20 半導体光集積素子、100、200 半導体レーザー装置、104 合波器、105 EAM、106 レーザー選択制御器、107 温度検出器、108 EAMバイアス制御器、109 フォトカレント検出器、120 半導体レーザー(DBRレーザー)、121 分布反射領域、122 利得領域、123 DBR制御器、LD1、LD2、LD3 半導体レーザー(DFBレーザー)
図1
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