(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】モータ駆動システムおよびモータ駆動方法
(51)【国際特許分類】
H02P 27/06 20060101AFI20221216BHJP
B60L 7/14 20060101ALI20221216BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20221216BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20221216BHJP
【FI】
H02P27/06
B60L7/14
B60L9/18 A
H02M7/48 K
(21)【出願番号】P 2019007192
(22)【出願日】2019-01-18
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】隅田 悟士
(72)【発明者】
【氏名】坂井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】石川 勝美
【審査官】島倉 理
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2012/144000(JP,A1)
【文献】特開2011-010506(JP,A)
【文献】特開2005-348528(JP,A)
【文献】特開2004-088974(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 27/06
B60L 7/14
B60L 9/18
H02M 7/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電力を交流電力に変換してモータに供給するインバータと、
前記インバータによる電力変換を制御するインバータ制御手段と、を有し、
前記インバータ制御手段は、
前記インバータの受電電圧を比例制御する比例制御手段と、
前記
インバータに接続されるフィルタコンデンサを含んだ電気回路のインダクタンス成分を前記
電気回路の抵抗成分で除算した商を時定数とする第1のローパスフィルタと、
前記第1のローパスフィルタの後段に設けられた、前記インバータの軽負荷回生制御の応答角周波数を前記抵抗成分で除算した商を積分ゲインとして前記インバータの受電電圧を積分制御する積分制御手段と、を含み、
前記比例制御手段の出力と前記積分制御手段の出力とに基づいて前記
インバータへの入力電流を制御する
ことを特徴とする
モータ駆動システム。
【請求項2】
前記比例制御手段の比例ゲインは、前記応答角周波数と前記
電気回路のコンデンサ成分との積である
ことを特徴とする請求項
1に記載のモータ駆動システム。
【請求項3】
前記比例制御手段の比例ゲインは、前記インバータの軽負荷回生制御の応答角周波数と前記
電気回路のコンデンサ成分との積から、前記インバータのダンピング制御のゲインを減算した差分である
ことを特徴とする請求項
1に記載のモータ駆動システム。
【請求項4】
前記インバータ制御手段は、
前記比例制御手段と並列に設けられた、前記インバータ制御手段のダンピング制御のカットオフ周波数の逆数を時定数とする第2のローパスフィルタをさらに含み、
前記比例制御手段の出力と、前記積分制御手段の出力と、前記第2のローパスフィルタの出力と、に基づいて前記入力電流を制御する
ことを特徴とする請求項
2に記載のモータ駆動システム。
【請求項5】
前記インバータ制御手段は、
前記インバータ制御手段のダンピング制御のカットオフ周波数の逆数を時定数とする第3のローパスフィルタをさらに含み、
前記比例制御手段の出力と、前記積分制御手段の出力と、前記インバータの受電電圧から該受電電圧の指令値および前記第3のローパスフィルタを通過した該受電電圧のローパスフィルタ値のうちの値が小さい方を減算した差分と、に基づいて前記入力電流を制御する
ことを特徴とする請求項
3に記載のモータ駆動システム。
【請求項6】
前記入力電流の理想値を前記モータのトルク指令値に換算するためのインバータ電流/トルク換算手段をさらに有し、
前記インバータ/トルク換算手段は、前記インバータの受電電圧、前記モータの極対数、および前記インバータの出力周波数に基づく換算ゲインを算出する
ことを特徴とする請求項1~
5の何れか1項に記載のモータ駆動システム。
【請求項7】
前記トルク指令値の位相を進ませる位相進み補償手段をさらに有する
ことを特徴とする請求項
6に記載のモータ駆動システム。
【請求項8】
前記トルク指令値、または前記トルク指令値の位相進み補償値を、d軸電流指令およびq軸電流指令に換算するトルク/d軸・q軸電流換算手段と、
前記d軸電流指令およびq軸電流指令をd軸電圧指令およびq軸電圧指令に換算する電流制御手段と、
前記d軸電圧指令およびq軸電圧指令を三相交流電圧に換算する二相・三相変換手段と、
三相交流電圧指令を前記インバータ制御手段のゲート信号に換算するためのPWM制御手段と
をさらに有することを特徴とする請求項
7に記載のモータ駆動システム。
【請求項9】
前記モータは、前記インバータを搭載する車両の駆動源である
ことを特徴とする請求項1~
8の何れか1項に記載のモータ駆動システム。
【請求項10】
直流電力を交流電力に変換して
モータに供給するインバータと、
前記インバータによる電力変換を制御するインバータ制御手段と、を有するモータ駆動システムにおけるモータ駆動方法であって、
前記インバータ制御手段が、
前記インバータの受電電圧を比例制御し、
前記インバータに接続される
フィルタコンデンサを含んだ電気回路のインダクタンス成分
を前記電気回路の抵抗成分で除算した商を時定数とする第1のローパスフィルタ処理を行い、
前記第1のローパスフィルタ処理の後段で、前記インバータの軽負荷回生制御の応答角周波数を前記抵抗成分で除算した商を積分ゲインとして前記インバータの受電電圧を積分制御し、
前記インバータ
の受電電圧を比例制御した出力と該受電電圧を積分制御した出力とに基づいて、前記インバータへの入力電流を制御する
ことを特徴とするモータ駆動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ駆動システムおよびモータ駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モータを駆動源とする車両システムでは、モータを回生運転させることで運動エネルギを電気エネルギに変換することができる。代表例は回生ブレーキであり、機械ブレーキに比べて、システム効率を上げることができる。一方、回生エネルギによってフィルタコンデンサ電圧が増加し、これを放置するとフィルタコンデンサが過電圧で破壊されるため、これを防止するための制御技術が必要となる。
【0003】
例えば特許文献1では、フィルタコンデンサ電圧とその目標値との偏差を入力とする比例制御手段を用いて、トルク指令を調整する。これによって、フィルタコンデンサ電圧がその目標値を超えると、トルク指令は減少し、回生電力およびフィルタコンデンサ電圧も減少する。また、フィルタリアクトル電流、架線電圧、モータ回転速度に基づいて、トルク指令を制御することで、フィルタコンデンサ電圧がその最終値に収束するまでの時間を短縮している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の特許文献1に開示の技術では、フィルタリアクトルあるいはフィルタコンデンサなどの電気的特性が制御に反映されておらず、フィルタコンデンサ電圧が脈動するという問題がある。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、モータの回生運転中におけるフィルタコンデンサ電圧の脈動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、例えば、モータ駆動システムは、モータと、直流電力を交流電力に変換して前記モータに供給するインバータと、前記インバータによる電力変換を制御するインバータ制御手段と、を有する。前記インバータ制御手段は、前記インバータに接続される電気回路のコンデンサ成分、インダクタンス成分、および抵抗成分に基づいて、前記インバータへの入力電流を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、モータの回生運転中におけるフィルタコンデンサ電圧の脈動を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1におけるモータ駆動システムの構成図。
【
図5】ダンピング制御を併用する場合の基本構成でのシミュレーション結果を示す図。
【
図6】ダンピング制御を併用しない場合の基本構成でのシミュレーション結果を示す図。
【
図7】フィルタコンデンサ電圧に関するブロック図。
【
図8】実施例1においてダンピング制御を併用する場合の新規構成でのシミュレーション結果を示す図。
【
図9】実施例1においてダンピング制御を併用しない場合の新規構成でのシミュレーション結果を示す図。
【
図12】実施例2におけるモータ駆動システムの構成図。
【
図13】実施例2におけるシミュレーション結果を示す図。
【
図14】実施例2の基本構成におけるシミュレーション結果を示す図。
【
図15】実施例3におけるモータ駆動システムの構成図。
【
図16】軽負荷回生制御・ダンピング制御の切り替えスイッチを備えた変形例のモータ駆動システムの構成図。
【
図17】実施例4におけるモータ駆動システムの構成図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面に基づき、本発明の実施例を詳述する。以下の各図面において、同一参照番号で同一あるいは類似の機能を備えた構成または処理を示し、後出の説明を省略する。また、以下に示す各実施例および各変形例は、本発明の技術思想の範囲内かつ整合する範囲内でその一部または全部を組合せることができる。
【実施例1】
【0011】
<実施例1のモータ駆動システムの構成>
図1は、実施例1におけるモータ駆動システムの構成図である。実施例1のモータ駆動システム6は、例えば電気車に搭載される駆動システムである。
図1において、直流電圧源1aは、電圧E
s0を出力し、ダイオード1bを経由して、抵抗成分R
Lの負荷抵抗2と、インダクタンス成分L
sの架線3とへ電流を流す。ここで、ダイオード1bと架線3の接点の電圧すなわち架線電圧をE
sで表す。
【0012】
架線3の先には、インダクタンス成分Lf、抵抗成分Rfのフィルタリアクトル4と、容量Cfのフィルタコンデンサ5とが接続されている。ここで、フィルタコンデンサ5への印加電圧(以下、フィルタコンデンサ電圧)をEcfで表す。Ecfは、後述のインバータ6aの受電電圧でもある。
【0013】
フィルタコンデンサ電圧E
cfは、モータ駆動システム6への印加電圧となり、モータ駆動システム6にインバータ電流I
invを流す。ここで、
図1に示すインバータ電流I
invの方向を力行方向、逆向きを回生方向と定義する。また、力行方向を正とし、回生方向を負とする。このため、以下の説明では、I
invの数値としての増減と絶対値としての増減とは必ずしも一致しない。例えば、I
invが-10Aから-1Aに変化する場合を9Aの増加として扱う。
【0014】
モータ駆動システム6は、インバータ6aと、インバータ制御手段6bと、モータ6cとを備える。インバータ制御手段6bは、ゲート信号G1~G6を出力することでインバータ6aのスイッチング素子を制御し、モータ6cに三相交流電流iu,iv,iwを流す。
【0015】
ここで、モータ6cの回生時における課題について説明する。回生時では、インバータ電流I
invが
図1とは逆向きに流れ、フィルタコンデンサ5を充電し、フィルタコンデンサ電圧E
cfが増加する。さらに、インバータ電流I
invが(-k/R
L)以下となる場合には架線電圧E
sも増加し、「Es>E
s0」となる。これが継続すると、フィルタコンデンサ5および架線3が破壊されるため、インバータ電流I
invを増加させるための軽負荷回生制御を行う必要がある。
【0016】
図2は、モータ駆動システムの模式図である。モータ駆動システム6は、軽負荷回生制御電流I
inv-Rを出力する軽負荷回生制御の模式電流源6dと、ダンピング制御電流I
inv-Dを出力するダンピング制御の模式電流源6eとで表される。軽負荷回生制御電流I
inv-Rとダンピング制御電流I
inv-Dの和は、インバータ電流I
invと等しい。
【0017】
ここで、ダンピング制御とは、フィルタコンデンサ電圧Ecfの脈動を抑制するための制御技術であり、フィルタコンデンサ電圧Ecfの上昇を防止する軽負荷回生制御とは独立であるから、本発明の必須要件ではない。ただし、ダンピング制御の有無によって軽負荷回生制御の構成を変えることが望ましく、先ずはダンピング制御について説明する。
【0018】
図3は、ダンピング制御のブロック図である。
図3に示すように、ダンピング制御の模式電流源6eは、ハイパスフィルタ6e1で構成される。
図3において、“Kdmp”はダンピング制御ゲイン、“ω
d”はダンピング制御の応答角周波数、“s”はラプラス演算子を表す。脈動するフィルタコンデンサ電圧E
cfをハイパスフィルタで抽出し、ダンピング制御電流I
inv-Dとして出力する。この結果、
図2のダンピング制御電流I
inv-Dおよびインバータ電流I
invが脈動し、フィルタコンデンサ電圧E
cfの脈動を打ち消す。これがダンピング制御の効果である。
【0019】
図4は、軽負荷回生制御のブロック図である。本実施例の軽負荷回生制御では、フィルタコンデンサ電圧E
cfを、軽負荷回生制御のフィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*以下に抑制することを目的とする。
図4に示すように、軽負荷回生制御の模式電流源6dは、最大値選択関数6d1と、比例ゲイン“ω
cC
f”の比例制御手段6d2と、積分ゲイン“ω
c/R
fL”の積分制御手段6d3と、スイッチ6d4と、ローパスフィルタ6d5と、ローパスフィルタ6d6とで構成される。
図4において、“ω
c”は軽負荷回生制御の応答角周波数、“L
fs”はフィルタリアクトル4のインダクタンス成分L
fと架線3のインダクタンス成分L
sとの和、“R
fL”はフィルタリアクトル4の抵抗成分R
fと負荷抵抗2の抵抗成分R
Lとの和を表す。
【0020】
図4のブロック図の構成要素は、軽負荷回生制御のON/OFF切替構成(最大値選択関数6d1およびスイッチ6d4)と、軽負荷回生制御の基本構成(比例制御手段6d2および積分制御手段6d3)と、本実施例による新規構成(時定数“L
fs/R
fL”のローパスフィルタ6d5および時定数“1/ω
d”のローパスフィルタ6d6)とに分類できる。
【0021】
以下では、ローパスフィルタ6d5を“1”、ローパスフィルタ6d6を“0”に置き換え、軽負荷回生制御の基本構成における動作原理について説明する。
【0022】
フィルタコンデンサ電圧E
cfがフィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*を超えると、最大値選択関数6d1の出力はゼロから(E
cf-E
cf
*)となる。これが比例制御手段6d2を経由して、軽負荷回生制御電流I
inv-Rを増加させる。この結果、
図2のインバータ電流I
invが増加し、フィルタコンデンサ5が放電されるため、フィルタコンデンサ電圧E
cfの増加が抑制される。
【0023】
また、積分制御手段6d3には初期値ゼロが設定され、スイッチ6d4との組み合わせによって以下のように動作する。
【0024】
(1)積分制御手段6d3の出力がゼロ以下の場合
・最大値選択関数6d1の出力が積分制御手段6d3に入力される。このため、「Ecf>Ecf
*」が成り立つまではゼロが積分制御手段6d3に入力され、積分制御手段6d3も出力ゼロを保持する。
・「Ecf>Ecf
*」が成り立つと、(Ecf-Ecf
*)が積分制御手段6d3に入力され、積分制御手段6d3の出力は増加する。この結果、スイッチ6d4が切り替わり、下記(2)に移行する。
【0025】
(2)積分制御手段6d3の出力がゼロより大きい場合
・(Ecf-Ecf
*)が積分制御手段6d3に入力され、「Ecf>Ecf
*」である限り、積分制御手段6d3の出力は増加し、比例制御手段6d2との組み合わせ効果によって、フィルタコンデンサ電圧Ecfを定常偏差なくフィルタコンデンサ電圧指令値Ecf
*に収束させる。
・負荷抵抗2の抵抗成分RLが低下するなどの外的要因によってフィルタコンデンサ電圧Ecfが低下し、「Ecf<Ecf
*」となった場合には、積分制御手段6d3の出力も減少する。この状態が続く場合、やがて積分制御手段6d3の出力はゼロになり、上記(1)に戻る。
【0026】
以上が軽負荷回生制御の基本構成における動作原理であり、
図2においてダンピング制御を併用する場合のシミュレーション結果を
図5に示す。また、ダンピング制御を併用しない場合のシミュレーション結果を
図6に示す。
図5は、ダンピング制御を併用する場合の基本構成でのシミュレーション結果を示す図である。
図6は、ダンピング制御を併用しない場合の基本構成でのシミュレーション結果を示す図である。
【0027】
図5に示す期間Aでは、「E
cf
*>E
cf」であるため、軽負荷回生制御は動作しない。
図5に示すタイミングBにおいて、フィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*はステップ変化し、「E
cf
*<E
cf」となるため、軽負荷回生制御が動作し、インバータ電流I
invは増加する。その結果、フィルタコンデンサ電圧E
cfは減少し、フィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*に収束する様子が分かる。
図6はダンピング制御がない場合のシミュレーション結果であり、ダンピング制御なしで安定動作させるために、架線3のインダクタンス成分L
sの設定値を変更しているが、
図5と同様にフィルタコンデンサ電圧E
cfはフィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*に収束している。
【0028】
軽負荷回生制御の基本構成における課題は、
図5および
図6に示される通り、フィルタコンデンサ電圧E
cfが脈動し、フィルタコンデンサ電圧指令値E
cf
*をオーバーシュートする点である。この原因について
図7に示すフィルタコンデンサ電圧E
cfに関するブロック図を用いて説明する。
図7は、フィルタコンデンサ電圧に関するブロック図である。
【0029】
図7(1)のブロック図に示す理想特性モデル7aの“ω
c/s”は、フィルタコンデンサ電圧E
cfの理想的な周波数応答を表す。
図7(1)のブロック図が実現されれば、フィルタコンデンサ電圧E
cfのオーバーシュートは発生しない。
【0030】
図7(2)~(4)のブロック図は、
図7(1)のブロック図を等価変換したものである。
図7(2)~(4)において、プラントモデル7bの特性はP(s)、プラント逆モデル7cの特性はP
-1(s)、コントローラモデル7dの特性はC(s)で表している。
図7(1)~(4)のブロック図は等価であるから、フィルタコンデンサ電圧E
cfのオーバーシュートを防止するには、下記式(1)の成立が必要と言える。
【0031】
【0032】
一方、軽負荷回生制御の基本構成において、C(s)は比例制御手段6d2および積分制御手段6d3の和、すなわちPI制御手段であり、後述するように上記式(1)を満たさない。ゆえに、フィルタコンデンサ電圧Ecfのオーバーシュートが発生する。
【0033】
本実施例では、上述の軽負荷回生制御の基本構成に対してローパスフィルタ6d5およびローパスフィルタ6d6を追加することで、上記式(1)を満たしフィルタコンデンサ電圧E
cfのオーバーシュートを防止する。
図5および
図6のそれぞれと同じ条件におけるシミュレーション結果を
図8および
図9に示す。
図8は、実施例1においてダンピング制御を併用する場合の新規構成でのシミュレーション結果を示す図である。
図9は、実施例1においてダンピング制御を併用しない場合の新規構成でのシミュレーション結果を示す図である。どちらの条件においても、フィルタコンデンサ電圧E
cfのオーバーシュートを防止できていることが分かる。
【0034】
本実施では、上記式(1)が満たされことを説明する。本実施例において、P(s)は
図1においてフィルタコンデンサ電圧E
cfからインバータ電流I
invまでの伝達関数であり、P(s)の等価変換図を
図10に示す。
図10は、プラントモデルの等価変換図である。
【0035】
図10(1)は、
図1を直接モデル化したプラントモデルを示す。また、
図10(2)は、
図10(1)を等価変換したプラントモデルを示す。また、
図10(3)は、
図10(2)を逆モデルに変換したプラントモデルを示す。ここで、
図10(2)から
図10(3)のプラントモデルの変換においては、
図11(1)に示すフィードバックモデルから
図10(2)に示すフィードバック逆モデルへの等価変換図を参考にしている。
【0036】
図10(3)に示すP
-1(s)を用いて上記式(1)のC(s)を計算すると、C(s)と、
図4の比例制御手段6d2、積分制御手段6d3、ローパスフィルタ6d5、ローパスフィルタ6d6で表される制御構成とが一致することが分かる。上記式(1)のC(s)と
図4の制御構成とでは、最大値選択関数6d1およびスイッチ6d4の有無が異なるが、これらは軽負荷回生制御のON/OFFを管理するものであり、制御特性の点ではC(s)と
図4の制御構成とは一致している。このため、フィルタコンデンサ電圧E
cfのオーバーシュートを防止できる。以上が本発明の動作根拠原理である。
【0037】
なお、オーバーシュートを許容する代わりに応答性の向上を求める場合には、上記式(1)の理想特性“ω
c/s”を所望の伝達関数に置き換えればよい。その場合でも、P
-1(s)は
図10(3)と同じであるため、C(s)はフィルタコンデンサ5の容量C
f、抵抗成分R
fL、インダクタンス成分L
fsに依存し、インバータ電流I
invが容量C
f、抵抗成分R
fL、およびインダクタンス成分L
fsに基づいて制御される点は同じである。
【0038】
本実施例によれば、フィルタコンデンサ5の過電圧を防止できるため、その寿命を延ばすことができる。
【実施例2】
【0039】
<実施例2のモータ駆動システムの構成>
図12は、実施例2におけるモータ駆動システムの構成図である。ただし、実施例1と同じ構成については図示を省略している。実施例1では、
図2に示す通り、軽負荷回生制御電流I
inv-Rおよびダンピング制御電流I
inv-Dを直接制御できるとして説明したが、実用上、直接制御できるのは
図1に示すゲート信号G
1~G
6である。そこで、実施例2では、軽負荷回生制御電流I
inv-Rおよびダンピング制御電流I
inv-Dからゲート信号G
1~G
6への換算方法を説明する。
【0040】
図12の構成要素について説明する。インバータ電流/トルク換算手段8は、スイッチ8aおよび可変ゲイン8bを備え、軽負荷回生制御電流I
inv-Rおよびダンピング制御電流I
inv-Dの和である電流I
inv2を第一トルク操作量Δτ
p1に変換する。スイッチ8aは、架線電圧E
sおよび直流電圧源1aの電圧E
s0について「E
s>E
s0」である場合には出力を“2”に切り替え、それ以外の場合には“1”に切り替える。可変ゲイン8bは、フィルタコンデンサ電圧E
cf、モータ6cの極対数P
m、インバータ6aのインバータ出力周波数ω
1に基づく換算ゲインである。
【0041】
以下、インバータ電流/トルク換算手段8による、軽負荷回生制御電流Iinv-Rおよびダンピング制御電流Iinv-Dからゲート信号G1~G6への換算について説明する。
【0042】
図12に示す電流I
inv2から、第一トルク操作量Δτ
p1の換算について、電力と動力のつり合いから下記式(2)が成り立つ。
【0043】
【数2】
ただし、τ
avr:モータトルク平均値 [Nm]
ΔE
cf:E
cfの微小変動量 [V]
ΔI
inv2:I
inv2の微小変動量 [A]
【0044】
回生電力が大きく、架線電圧Esおよび直流電圧源1aの電圧Es0について「Es>Es0」が成り立つとき、ダイオード1bはオフになる。このとき、「ΔEcf=RL・ΔIinv2」の関係が成り立つから、これを上記式(2)の右辺に代入すると、下記式(3)が成り立つ。
【0045】
【0046】
上記式(3)に「RL・Iinv2=Ecf」、「ΔIinv2
2=0」を代入すると、下記(4)式が成り立つ。
【0047】
【0048】
上記式(2)および式(4)より下記式(5)が成り立つ。
【0049】
【0050】
上記式(5)の変動量だけを抜き出すと、下記(6)式が成り立つ。
【0051】
【0052】
一方、回生電力が小さく、「Es≦Es0」であるとき、ダイオード1bはオンになる。このとき、「ΔEcf=0」であるから、これを上記式(2)の右辺に代入し、同様に計算すると、下記式(7)が成り立つ。
【0053】
【0054】
上記式(5)および式(7)は、スイッチ8aで選択された係数および可変ゲイン8bの乗算結果と一致するため、電流Iinv2とΔτp1との間での換算が可能となる。
【0055】
なお、架線電圧Esおよび直流電圧源1aの電圧Es0は直接検出できるとは限らないため、スイッチ8aはどちらかに固定してもよいが、固定すると軽負荷回生制御電流Iinv-Rおよびダンピング制御電流Iinv-Dの誤差が発生する。そこで、以下の手段を用いてもよい。
【0056】
・インバータ電流/トルク換算手段8をその第一代替箇所9aおよび第二代替箇所9bに配置する。
・第一代替箇所9aは軽負荷回生制御電流Iinv-Rの換算箇所であり、軽負荷回生制御はフィルタコンデンサ電圧Ecfの上昇時、すなわち架線電圧Esの上昇時に動作することから、第一代替箇所9aではスイッチ8aを「出力:2」に固定する。
・第二代替箇所9bはダンピング制御電流Iinv-Dの換算箇所であり、上記と逆の理由によって第二代替箇所9bでのスイッチ8aは「出力:1」に固定する。
【0057】
位相進み補償手段10は、第一トルク操作量Δτp1の位相を進ませ、第二トルク操作量Δτp2を出力する。位相進み補償手段10は、後述する電流制御手段12の制御時定数をTacr、調整パラメータをnとするとき、下記式(8)で表される。
【0058】
【0059】
位相進み補償手段10を用いることで、後述する電流制御手段12の制御応答遅延を予め補償することができる。
【0060】
トルク/d軸・q軸電流換算手段11は、第二トルク操作量Δτp2と第一トルク指令τp1との和である第二トルク指令τp2をd軸電流指令idpおよびq軸電流指令iqpに換算する。ここで、第一トルク指令τp1は軽負荷回生制御およびダンピング制御以外の制御手法に基づくトルク指令であり、例えば、速度制御に基づくトルク指令がある。
【0061】
電流制御手段12は、モータモデルを用いてd軸電流指令idpおよびq軸電流指令iqpをd軸電圧指令vdpおよびq軸電圧指令vqpに換算する。また、二相・三相変換手段13は、d軸電圧指令vdpおよびq軸電圧指令vqpを三相交流電圧指令vup,vvp,vwpに換算する。PWM制御手段14は、三相交流電圧指令vup,vvp,vwpをゲート信号G1~G6に換算する。
【0062】
このゲート信号G
1~G
6を
図1のインバータ6aへ入力することで、モータ駆動システム6の外部から観測すると、
図2に示すように軽負荷回生制御電流I
inv-Rおよびダンピング制御電流I
inv-Dが流れるように見える。
【0063】
図13は、実施例2におけるシミュレーション結果を示す図である。“R
L
*”は負荷抵抗2の抵抗成分R
Lの標準設定値、“τ
m”はモータ6cのトルク、“f
r”はモータ6cの回転速度を表す。
図13に示す期間Aでは、トルクτ
mが減少し(回生方向に増加)、フィルタコンデンサ電圧E
cfが増加している。タイミングBでは、負荷抵抗2の抵抗成分R
Lがステップ的に増加したことで、フィルタコンデンサ電圧E
cfが急激に増加するが、軽負荷回生制御によってインバータ電流I
invが増加し、フィルタコンデンサ電圧E
cfの増加が抑制されている。
【0064】
軽負荷回生制御は、期間Cの間、継続的に動作する。タイミングDで負荷抵抗2の抵抗成分RLが期間Aと同様の元の値に戻ると、フィルタコンデンサ電圧Ecfが減少するために、軽負荷回生制御は停止し、インバータ電流Iinvも元の値に戻る。期間Eでは、トルクτmおよびインバータ電流Iinvがゼロに収束し、モータ6cの回生運転が終了する。
【0065】
このようにして、実施例2において、軽負荷回生制御が実現される。比較のため、ローパスフィルタ6d5およびローパスフィルタ6d6を用いずに実施例2を実施した場合のシミュレーション結果を
図14に示す。
図14は、実施例2の基本構成におけるシミュレーション結果を示す図である。
図14の破線丸囲みで示される“P”の付近を
図13と比べると、「E
cf>E
cf
*」となる期間が長いことが分かる。
【実施例3】
【0066】
<実施例3のモータ駆動システムの構成>
図15は、実施例3におけるモータ駆動システムの構成図である。ただし、実施例1と同じ構成については図示を省略している。実施例1では、
図4のローパスフィルタ6d6を備えることで、ダンピング制御がある場合にもフィルタコンデンサ電圧E
cfの理想特性“ω
c/s”を実現した。このため、ダンピング制御がない場合に比べると、ローパスフィルタ6d6に関する演算負荷が増加している。実施例3では、この問題を解決するための方法について提供する。
【0067】
図15に示す実施例3のモータ駆動システムの構成は、
図4に示す実施例1のモータ駆動システムに比べて2点で異なる。1点目は、比例ゲイン“ω
cC
f-K
dmp”の比例制御手段6d2aを備えることである。2点目は、下記式(9-1)および式(9-2)に示すように、ローパスフィルタ6e2、最小値選択関数6e3、およびダンピング制御ゲイン6e4を備えることである。
【0068】
【数9】
ただし、
E
cfLPF:ローパスフィルタ6e2の出力
T
d:ω
dの逆数
【0069】
以上の構成によって、実施例1と同等の制御特性を得られることを以下で説明する。
【0070】
軽負荷回生制御の必要条件「Ecf>Ecf
*」が継続すると、上記式(9-2)より「EcfLPF>Ecf
*」となり、上記式(9-1)より、下記式(10)が成り立つ。
【0071】
【0072】
このとき、ダンピング制御電流I
inv-Dと、比例制御手段6d2aの出力である電流I
inv-RP2の和を計算すると、下記式(11)に示すように、
図4の比例制御手段6d2の出力である電流I
inv-RP1と同じになることが分かる。
【0073】
【0074】
このため、実施例1と実施例3の軽負荷回生制御は、比例制御に関して同じ動作となる。
【0075】
また、実施例3では、上記式(11)から分かるように、ダンピング制御が軽負荷回生制御の比例項の一部として動作する。ゆえに、「Ecf>Ecf
*」ではダンピング制御は実質的に停止しており、その逆モデルすなわちローパスフィルタ6d6は不要となる。このため、「Ecf>Ecf
*」において、実施例1と実施例3は同じ制御特性となる。また、「Ecf≦Ecf
*」では、上記式(9-1)より、下記式(12)が成り立つ。
【0076】
【0077】
上記式(12)は、実施例1の
図3と同じダンピング制御を示し、結局、フィルタコンデンサ電圧E
cfによらず、実施例3は実施例1と同じ制御特性となる。
【0078】
なお、ローパスフィルタ6d6を省略する目的であれば、
図16に示すようにスイッチ15を追加する構成も考えられる。
図16は、軽負荷回生制御・ダンピング制御の切り替えスイッチを備えた変形例のモータ駆動システムの構成図である。
【0079】
変形例のモータ駆動システムは、軽負荷回生制御とダンピング制御の一方が動作するにようになっており、この形態であれば、ローパスフィルタ6d6は不要となる。しかし、スイッチ15の切り替えは電流I
inv2の不連続変化を引き起こす場合があるため、
図15の構成の方が好適である。
【0080】
以上、実施例3ではローパスフィルタ6d6を省略し、インバータ制御手段6bの演算負荷を低減するための方法について説明した。
【実施例4】
【0081】
図17は、実施例4におけるモータ駆動システムの構成図である。実施例4では車両16に本発明のモータ駆動システムを適用している。実施例4では、フィルタコンデンサ電圧E
cfの脈動を抑制できるため、モータ駆動システムとして、フィルタコンデンサ電圧E
cfの過電圧による機械ブレーキの緊急動作を回避して機械ブレーキの摩耗を抑制でき、フィルタコンデンサ5を小型化して車両16を軽量化することで省エネ化でき、モータ6cのトルク精度を高めて車両16の乗り心地を向上させるなどの利点がある。
【0082】
なお、
図17では、フィルタリアクトル4、フィルタコンデンサ5、インバータ制御手段6bは共用とし、インバータ6aおよびモータ6cを独立としているが、必ずしもこの構成に限定されない。例えば、インバータ6aは共用することも可能であり、一方、インバータ制御手段6bは独立に備えてもよい。
【0083】
上記の実施例1~3のモータ駆動システムを自動車や建機などの車両や、エレベータ装置に適用した場合にも、同様の効果を得ることができる。
【0084】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加、削除、置換、統合、分散をすることが可能である。また実施例で示した各処理は、処理効率または実装効率に基づいて適宜分散または統合してもよい。
【符号の説明】
【0085】
1a:直流電圧源、1b:ダイオード、2:負荷抵抗、3:架線、4:フィルタリアクトル、5:フィルタコンデンサ、6:モータ駆動システム、6a:インバータ、6b:インバータ制御手段、6c:モータ、6d:模式電流源、6d1:最大値選択関数、6d1:最大値選択関数、6d2:比例制御手段、6d2a:比例制御手段、6d3:積分制御手段、6d4:スイッチ、6d5:ローパスフィルタ、6d6:ローパスフィルタ、6e:模式電流源、6e1:ハイパスフィルタ、6e2:ローパスフィルタ、6e3:最小値選択関数、6e4:ダンピング制御ゲイン、7a:理想特性モデル、7b:プラントモデル、
7c:プラント逆モデル、7d:コントローラモデル、8:インバータ電流/トルク換算手段、8a:スイッチ、8b:可変ゲイン、9a:第一代替箇所、9b:第二代替箇所、10:位相進み補償手段、11:トルク/d軸・q軸電流換算手段、12:電流制御手段、13:二相・三相変換手段、14:PWM制御手段、15:スイッチ