(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】ポリアミドイミドフィルムおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20221216BHJP
C08G 73/14 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/14
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019014667
(22)【出願日】2019-01-30
【審査請求日】2019-01-30
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-04
(31)【優先権主張番号】10-2018-0011753
(32)【優先日】2018-01-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】508148079
【氏名又は名称】エスケイシー・カンパニー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SKC CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132263
【氏名又は名称】江間 晴彦
(72)【発明者】
【氏名】チョン・ダウ
(72)【発明者】
【氏名】キム・スンファン
(72)【発明者】
【氏名】オ・テソン
(72)【発明者】
【氏名】イ・ジヌ
(72)【発明者】
【氏名】イム・ドンジン
【合議体】
【審判長】大島 祥吾
【審判官】▲吉▼澤 英一
【審判官】三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/179877(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-1729731(KR,B1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0130004(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
C08J5/12-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジアミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、およびジカルボン酸ジハロゲン化物を重合することにより形成されるポリアミドイミドポリマーを含んで成るポリアミドイミドであって、
万能材料試験機(UTM)を使用して測定されるポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線の0.2%オフセット法により得られる降伏点までの面積値は、80~150J/m
2であり、
前記ジアミン化合物は、下記式1により表され、
前記テトラカルボン酸二無水物は、下記式2で表され、
前記ジカルボン酸ジハロゲン化物は、下記式3で表され、
[式1]
[式2]
[式3]
上記式1~3中、
EおよびJは、各々独立に、置換または非置換の二価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択され、
eおよびjは、各々独立に、1~5の整数から選択され、
eが2以上である場合、2以上のEは互いに同一または異なり、
jが2以上である場合、2以上のJは互いに同一または異なり、
Gは、置換または非置換の四価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の四価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の四価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の四価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基(但し、前記脂肪族環基、前記ヘテロ脂肪族環基、前記芳香族環基、または前記ヘテロ芳香族環基は、単独で存在してもよくまたは互いに結合して縮合環を形成してもよい。)、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択される結合基により結合され、
Xは、ハロゲン原子であり、
前記テトラカルボン酸二無水物は、フッ素含有置換基を有する化合物から構成され、
前記ジカルボン酸ジハロゲン化物は、少なくとも2種の互いに異なるジカルボン酸ジハロゲン化物を含んで成り、
前記ジアミン化合物は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物は、2,2’-ビス-(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6-FDA)を含み、
前記ジカルボン酸ジハロゲン化物は、テレフタロイルクロリド(TPC)および1,1’-ビフェニル-4,4’-ジカルボニルジクロリド(BPDC)を含み、
前記ポリアミドイミドポリマーは、イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位を含んで成り、前記イミド繰り返し単位とアミド繰り返し単位とのモル比は、20:80~
25:75であり、
前記ポリアミドイミドフィルムは、折り曲げ復元力評価時において60°以上の復元角を有し、
前記折り曲げ復元力評価時における前記復元角は、85℃および85%RHの条件下で、24時間後に5mm間隔で治具の間に折れ曲げて挿入したフィルムが復元する角度を指す、ポリアミドイミドフィルム。
【請求項2】
前記面積値は、100~140J/m
2である、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項3】
50μmの膜厚に基づいて5.0GPa以上のモジュラスを有する、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項4】
HB以上の高い表面硬度を有する、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項5】
50μmの厚みに基づいて5以下のイエロー・インデックス(YI)を有する、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項6】
50μmの厚みに基づいて2%以下のヘーズを有する、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項7】
50μmの厚みに基づいて85%以上の550nmにおける光透過率を有する、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム。
【請求項8】
前記ポリアミドイミドポリマーは、下記式Aにより表される繰り返し単位と、下記式Bにより表される繰り返し単位とを含んで成る、請求項1に記載のポリアミドイミドフィルム:
[式A]
[式B]
上記式AおよびB中、
EおよびJは、各々独立に、置換または非置換の二価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択され、
eおよびjは、各々独立に、1~5の整数から選択され、
eが2以上である場合、2以上のEは互いに同一または異なり、
jが2以上である場合、2以上のJは互いに同一または異なり、
Gは、置換または非置換の四価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の四価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の四価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の四価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基(但し、前記脂肪族環基、前記ヘテロ脂肪族環基、前記芳香族環基、または前記ヘテロ芳香族環基は単独であってもよくまたは互いに結合して縮合環を形成してもよい。)、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択された結合基により結合される。
【請求項9】
有機溶媒中で、ジアミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、およびジカルボン酸ジハロゲン化物を重合装置内で同時にまたは逐次的に混合し反応させ、ポリマー溶液を調製すること、
前記ポリマー溶液をタンクに移すこと、
前記タンク内の前記ポリマー溶液をキャストし、その後それを乾燥させてゲルシートを製造すること、
前記ゲルシートをベルト上で移動しながら、前記ゲルシートを熱処理して、硬化フィルムを製造すること、および
巻き取り機を使用して、前記硬化フィルムを巻き取ること、
を含んで成り、
前記ジアミン化合物は、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)を含み、
前記テトラカルボン酸二無水物は、2,2’-ビス-(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6-FDA)を含み、
前記ジカルボン酸ジハロゲン化物は、テレフタロイルクロリド(TPC)および1,1’-ビフェニルー4,4’-ジカルボニルジクロリド(BPDC)を含み、
前記ポリアミドイミドポリマーは、イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位を含んで成り、前記イミド繰り返し単位とアミド繰り返し単位とのモル比は、20:80~25:75であり、
巻き取り時の前記硬化フィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上の前記ゲルシートの移動速度の比は、1:0.95~1:1.40であり、
万能材料試験機(UTM)を使用して測定されるポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線の0.2%オフセット法により得る降伏点までの面積値は、80~150J/m
2であり、
前記ポリアミドイミドフィルムは、折り曲げ復元力評価時に60°以上の復元角を有し、
前記折り曲げ復元力評価時の前記復元角は、85℃および85%RHの条件下で24時間後に5mm間隔の治具の間に折れ曲げて挿入したフィルムが復元する角度を指す、ポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項10】
前記ポリマー溶液を調製する前記工程は、
(a)有機溶媒中で、ジアミン化合物、テトラカルボン酸二無水物、およびジカルボン酸ジハロゲン化物を重合装置内で同時にまたは逐次的に混合し反応させ、第1ポリマー溶液を調製すること、
(b)前記第1ポリマー溶液の粘度を測定し、目標粘度に達しているかを評価すること、および
(c)前記第1ポリマー溶液の前記粘度が前記目標粘度に達していなければ、前記ジカルボン酸ジハロゲン化物をさらに添加して、前記目標粘度を有する第2ポリマー溶液を調製すること
を含んで成ることができる、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項11】
前記目標粘度は、室温で100,000cps~300,000cpsである、請求項
10に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項12】
一旦前記ポリマー溶液を調製すると、前記ポリマー溶液を前記タンクに移す前記工程を、追加の工程なしに実施する、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項13】
前記タンク内の温度は、-20℃~0℃である、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ポリマー溶液を前記タンクに移した後に、
真空脱気すること、および
不活性ガスを使用して前記タンクをパージすること
をさらに含んで成る、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項15】
前記ポリマー溶液を前記タンクに移した後、前記タンク内に12時間~60時間前記ポリマー溶液を貯蔵することをさらに含んで成る、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項16】
前記ポリマー溶液をキャストし、その後60℃~150℃の温度で5分~60分乾燥させて、ゲルシートを製造する、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項17】
前記熱処理は、80℃~500℃の温度範囲で2℃/分~80℃/分の昇温速度で5~40分間実施する、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項18】
前記硬化フィルムを熱処理により製造した後に、前記硬化フィルムをベルト上で移動しながら、前記硬化フィルムを冷却することをさらに含んで成る、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項19】
巻き取り時の前記硬化フィルムの移動速度に対する熱処理時の前記ベルト上の前記ゲルシートの移動速度の比は、1:0.99~1:1.10である、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【請求項20】
前記ポリアミドイミドフィルムは、50μmの厚みに基づいて、5.0GPa以上のモジュラスを有する、請求項
9に記載のポリアミドイミドフィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
記載の実施形態は、機械的特性および光学特性に優れ、特に、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するポリアミドイミドフィルム、ならびにその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドイミド(PAI)は、摩擦、熱、および化学薬品(chemicals)への耐性に優れるため、一次電気絶縁、コーティング、接着剤、押出用樹脂、耐熱塗装、耐熱板、耐熱接着剤、耐熱繊維および耐熱フィルムなどの用途に使用される。
【0003】
ポリアミドイミドは、様々な分野で使用されている。例えば、ポリアミドイミドは、粉末の形態で作製され、金属または磁気ワイヤ用のコーティングとして使用される。ポリアミドイミドは、それらの用途に応じて他の添加剤と混合される。加えて、ポリアミドイミドは、装飾および腐食防止のためのペインターとしてフッ素ポリマーとともに使用されている。ポリアミドイミドはまた、フッ素ポリマーを金属基材に結合させる役割も果たしている。加えて、ポリアミドイミドは、台所用品をコーティングするために使用され、その耐熱性および耐薬品性(chemical resistance)のためにガス分離用の膜として使用され、二酸化炭素、硫化水素、および不純物などの汚染物質のろ過のために天然ガス井で使用されている。
【0004】
近年、ポリアミドイミドは、より安価で、優れた光学的、機械的、および熱的特性を有するフィルムの形態で開発されてきた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一実施形態は、機械的特性および光学特性に優れ、特に、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するポリアミドイミドフィルムを提供することを目的とする。
【0006】
加えて、別の実施形態は、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するポリアミドイミドフィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を重合することにより形成されるポリアミドイミドポリマーを含んで成り、万能材料試験機(UTM)を使用して測定されたポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線上の0.2%オフセット法により得られる降伏点までの面積値は80~150J/m2である。
【0008】
別の実施形態に係るポリアミドイミドフィルムの製造方法は、重合装置内でジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を有機溶媒中に同時にまたは逐次的に混合し反応させてポリマー溶液を調製すること、タンクにポリマー溶液を移すこと、タンク内のポリマー溶液をキャスティングし、その後に乾燥させ、ゲルシートを製造すること、ベルト上で移動させながらゲルシートを熱処理し、硬化フィルムを製造すること、および巻き取り機を使用して硬化フィルムを巻き取ることを含んで成り、巻き取り時での硬化フィルムの移動速度に対する熱処理時でのベルト上のゲルシートの移動速度の比は、1:0.95~1:1.40である。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、機械的特性および光学特性に優れ、特に、優れた引張靱性および弾性復元力を確保することが可能である。
【0010】
本実施形態に係るポリアミドイミドフィルムを製造する方法は、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するポリアミドイミドフィルムを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図2】
図2は、実施例2に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図3】
図3は、実施例3に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図4】
図4は、比較例1に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図5】
図5は、比較例2に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図6】
図6は、比較例3に係るポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線を示す。
【
図7】
図7は、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムを製造するためのプロセス設備を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を参照して本発明を詳細に説明する。実施形態は、以下に開示されるものに限定されない。むしろ、本発明の要旨を変更しない限りにおいて、それらは様々な形態に変形することができる。
【0013】
図中の様々な層および領域を明確に示すために、いくつかの領域またはいくつかの厚さは拡大されている。図において、説明の便宜上、いくつかの層および領域の厚さは、誇張されている。明細書全体を通じて、同じ参照番号は同じ要素を示す。
【0014】
本明細書において、ある部分がある要素を「含んで成る」と言及されている場合、その部分は、特に断らない限り、同様に他の要素を含んでもよいことが理解されるべきである。
【0015】
加えて、本明細書で使用される成分の量、および反応条件等に関連する全ての数および表現は、特に断らない限り、用語「約」により修飾されると理解されるべきである。
【0016】
第1及び第2などの用語は、様々な要素を説明するために本明細書において使用されており、要素はこれらの用語により限定されるべきではない。この用語は、ある要素を他の要素と区別する目的にのみ使用されている。
【0017】
加えて、本明細書において、用語「置換(substituted)」は、重水素、-F、-Cl、-Br、-I、ヒドロキシル基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、アミジノ(amidino)基、ヒドラジン基、ヒドラゾン基、エステル基、ケトン基、カルボキシル基、置換または非置換のアルキル基、置換または非置換のアルケニル基、置換または非置換のアルキニル基、置換または非置換のアルコキシ基、置換または非置換の脂環式有機基、置換または非置換のヘテロ環基、置換または非置換のアリール基、および置換または非置換のヘテロアリール基から成る群から選択される少なくとも1種の置換基で置換されることを意味する。上で列挙された置換基は互いに結合して環を形成してもよい。
【0018】
<ポリアミドイミドフィルム>
一実施形態は、機械的特性および光学特性に優れ、特に、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するポリアミドイミドフィルムを提供する。
【0019】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムは、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を重合することにより形成されるポリアミドイミドポリマーを含んで成る。
【0020】
ポリアミドイミドポリマーは、ジアミン化合物および二無水物化合物の重合に由来するイミド繰り返し単位、ならびにジアミン化合物およびジカルボニル化合物の重合に由来するアミド繰り返し単位を含んで成る。
【0021】
ジアミン化合物は、二無水物化合物とイミド結合を形成し、ジカルボニル化合物とアミド結合を形成し、それにより共重合体を形成する化合物である。
【0022】
ジアミン化合物は特に限定されないが、例えば、芳香族構造を含む芳香族ジアミン化合物であってもよい。例えば、ジアミン化合物は、下記式1で表される化合物であってもよい。
[式1]
上記式1中、
Eは、置換または非置換の二価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択することができる。
eは、1~5の整数から選択される。eが2以上である場合、Eは互いに同一であっても異なってもよい。
【0023】
上記式1における(E)eは、下記式1-1a~1-14aにより表される基から選択することができる。
【0024】
具体的には、上記式1における(E)eは、下記式1-1b~1-13bによって表される基から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0025】
より具体的には、上記式1における(E)eは、上記式1-6bにより表される基であってもよい。
【0026】
一実施形態では、二無水物化合物はフッ素含有置換基を有する化合物を含んで成ることができる。あるいは、二無水物化合物は、フッ素含有置換基を有する化合物から構成することができる。この場合、フッ素含有置換基は、フッ素化炭化水素基であってもよく、具体的には、トリフルオロメチル基であってもよい。ただし、これらに限定されない。
【0027】
別の実施形態では、1種のジアミン化合物を、ジアミン化合物として使用してもよい。つまり、ジアミン化合物は、単一の成分から構成されてもよい。
【0028】
例えば、ジアミン化合物は、下記式で表される2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)を含んでもよいが、これに限定されない。
【0029】
二無水物化合物は、低い複屈折値を有する化合物であり、ポリアミドイミドフィルムの透過率などの光学特性の向上に寄与し得る。
【0030】
二無水物化合物は、特に限定されないが、例えば、芳香族構造を含む芳香族二無水物化合物であってもよい。例えば、芳香族二無水物化合物は、下記式2により表される化合物であってもよい。
[式2]
【0031】
上記式2中、
Gは、置換または非置換の四価のC6-C30脂肪族環基、置換または非置換の四価のC4-C30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の四価のC6-C30芳香族環基、置換または非置換の四価のC4-C30ヘテロ芳香族環基(但し、前記脂肪族環基、前記ヘテロ脂肪族環基、前記芳香族環基、または前記ヘテロ芳香族環基は、単独で存在してよく、または互いに結合して縮合環を形成してもよい。)、置換または非置換のC1-C30アルキレン基、置換または非置換のC2-C30アルケニレン基、置換または非置換のC2-C30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)2-、-Si(CH3)2-、-C(CH3)2-、および-C(CF3)2-から選択される結合基により結合されている。
【0032】
上記式2中、Gは、下記式2-1a~2-9aにより表される基から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0033】
例えば、上記式2中、Gは、上記式2-8aにより表される基であってもよい。
【0034】
一実施形態では、二無水物化合物は、フッ素含有置換基を有する化合物を含んで成ってもよい。あるいは、二無水物化合物は、フッ素含有置換基を有する化合物から構成されてもよい。この場合、フッ素含有置換基は、フッ素化炭化水素基であってもよく、具体的には、トリフルオロメチル基であってもよい。ただし、フッ素含有置換基は、これに限定されない。
【0035】
別の実施形態では、二無水物化合物は、単一成分または二成分の混合物から構成されてもよい。
【0036】
例えば、二無水物化合物は、下記式で表される2,2’-ビス-(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6-FDA)を含んで成ってもよいが、これに限定されない。
【0037】
ジアミン化合物および二無水物化合物は、重合されポリアミック酸を形成することができる。
【0038】
続いて、ポリアミック酸は、脱水反応を介してポリイミドに変換することができ、ポリイミドはイミド繰り返し単位を含んで成る。
【0039】
ポリイミドは、下記式Aにより表される繰り返し単位を形成することができる。
[式A]
【0040】
上記式A中、E、G、およびeは、上述の通りである。
【0041】
例えば、ポリイミドは、下記式A-1により表される繰り返し単位を含んで成ってもよいが、これに限定されない。
[式A-1]
上記式A-1中、nは、1~400の整数である。
【0042】
ジカルボニル化合物は、特に限定されないが、例えば、下記式3により表される化合物であり得る。
[式3]
上記式3中、
Jは、置換または非置換の二価のC
6-C
30脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ脂肪族環基、置換または非置換の二価のC
6-C
30芳香族環基、置換または非置換の二価のC
4-C
30ヘテロ芳香族環基、置換または非置換のC
1-C
30アルキレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルケニレン基、置換または非置換のC
2-C
30アルキニレン基、-O-、-S-、-C(=O)-、-CH(OH)-、-S(=O)
2-、-Si(CH
3)
2-、-C(CH
3)
2-、および-C(CF
3)
2-から選択することができる。
【0043】
jは1~5の整数から選択される。jが2以上である場合、Jは、互いに同一であっても、異なってもよい。
【0044】
Xは、ハロゲン原子である。具体的には、Xは、F、Cl、Br、またはI等で有り得る。より具体的には、Xは、Clであってもよいが、これに限定されない。
【0045】
上記式3中、(J)jは、下記式3-1a~3-14aにより表される基から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0046】
具体的には、上記式3中、(J)jは、下記式3-1b~3-8bにより表される基から選択されてもよいが、これらに限定されない。
【0047】
より具体的には、上記式3中、(J)jは、上記式3-2b~3-3bにより表される基であってもよい。
【0048】
一実施形態では、互いに異なるジカルボニル化合物の少なくとも2種の混合物を、ジカルボニル化合物として使用することができる。2以上のジカルボニル化合物を使用する場合、上記式3中の(J)jが上記式3-1b~3-8bにより表される基から選択される少なくとも2種のジカルボニル化合物を、ジカルボニル化合物として使用してもよい。
【0049】
別の実施形態では、ジカルボニル化合物は、芳香族構造を含む芳香族ジカルボニル化合物であってもよい。
【0050】
例えば、ジカルボニル化合物は、第1ジカルボニル化合物および/または第2ジカルボニル化合物を含んで成ってもよい。
【0051】
第1ジカルボニル化合物および第2ジカルボニル化合物は、それぞれ芳香族ジカルボニル化合物であってもよい。
【0052】
第1ジカルボニル化合物および第2ジカルボニル化合物は、互いに異なる化合物であってもよい。
【0053】
例えば、第1ジカルボニル化合物および第2ジカルボニル化合物は、互いに異なる芳香族ジカルボニル化合物であってもよいが、これに限定されない。
【0054】
第1ジカルボニル化合物および第2ジカルボニル化合物が、それぞれ芳香族ジカルボニル化合物である場合、それらはベンゼン環を含んで成る。よって、第1ジカルボニル化合物および第2ジカルボニル化合物は、製造したポリアミドイミドフィルムの表面硬度および引張強度などの機械的特性の向上に寄与することができる。
【0055】
ジカルボニル化合物は、下記式に表されるようなテレフタロイルクロリド(TPC)、1,1’-ビフェニル-4,4’-ジカルボニルジクロリド(BPDC)、またはそれらの組み合わせを含んで成ってもよい。ただし、これらに限定されない。
【0056】
例えば、第1ジカルボニル化合物はBPDCを含んで成ってもよく、第2ジカルボニル化合物はTPCを含んで成ってもよいが、これらに限定されない。
【0057】
具体的には、BPDCを第1ジカルボニル化合物として使用し、TPCを第2ジカルボニル化合物として使用する場合、製造されたポリアミドイミドフィルムは高い酸化耐性を有し得る。
【0058】
ジアミン化合物およびジカルボニル化合物を重合でき、下記式Bにより表される繰り返し単位を形成する。
[式B]
【0059】
上記式B中、E、J、e、およびjは、上述の通りである。
【0060】
例えば、ジアミン化合物およびジカルボニル化合物を、重合でき、下記式B-1およびB-2により表されるアミド繰り返し単位を形成する。
[式B-1]
上記式B-1中、xは、1~400の整数である。
[式B-2]
上記式B-2中、yは、1~400の整数である。
【0061】
別の実施形態では、ポリアミドイミドポリマーは、下記式Aで表される繰り返し単位および下記式Bで表される繰り返し単位を含んで成ってもよい。
[式A]
[式B]
上記式AおよびB中、E、G、J、e、およびjは、上述の通りである。
【0062】
ポリアミドイミドポリマーは、イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位を含んで成る。イミド繰り返し単位とアミド繰り返し単位とのモル比は、20:80~80:20、例えば、20:80~50:50であってもよい。この場合、イミド繰り返し単位は、上記式Aにより表された繰り返し単位であってもよく、アミド繰り返し単位は、上記式Bにより表された繰り返し単位であってもよい。
【0063】
モル比がこれらの範囲を満たすと、ポリマー溶液を製造するために上述のモノマーを使用することによって、ポリマー溶液の粘度を制御することが容易である。結果として、ゲルシートおよび硬化フィルムから表面に欠陥のない均一なフィルムを製造することが容易である。加えて、優れた引張靱性および弾性復元力を確保するフィルムを製造することが可能である。
【0064】
一実施形態では、万能材料試験機(UTM)を使用して測定されるポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線上の0.2%オフセット法により得られる降伏点までの面積値は、80~150J/m2である。
【0065】
具体的には、万能材料試験機(UTM)を使用して測定されたポリアミドイミドフィルムの応力-ひずみ曲線上の0.2%オフセット法により得られた降伏点までの面積値は、100~140J/m2、110~130J/m2、または120~130J/m2であってもよいが、これらに限定されない。
【0066】
降伏点までの面積(または領域;area)は、弾性領域の面積を指し、これは、材料が可塑化前にどの程度十分にエネルギーを蓄えることができるかの尺度を示す。可塑化領域の面積値が大きいほど、可塑化および衝撃破損に対する耐性がより大きく、これは変形時に材料が十分に復元することを示す。
【0067】
一実施形態では、室温で測定した場合、ポリアミドイミドフィルムは5.0GPa以上のモジュラス(または弾性率;modulus)を有する。具体的には、モジュラスは、5GPa~10GPa、6GPa~10GPa、または7~10GPaであってもよい。
【0068】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは、HBの以上高い表面硬度を有する。具体的には、表面硬度は、H以上、または、2H以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0069】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは、5以下のイエロー・インデックス(または黄色度)を有する。具体的には、イエロー・インデックスは、4.5以下であってもよい。より具体的には、イエロー・インデックスは4以下であってもよいが、これに限定されない。
【0070】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは2%以下のヘーズを有する。具体的には、ヘーズは1.8%以下または1.5%以下であってもよい。より具体的には、ヘーズは1.0%以下または0.9%以下であってもよいが、これらに限定されない。
【0071】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは85%以上の550nmで測定される光透過率を有する。具体的には、550nmで測定される光透過率は、86%以上、87%以上、または88%以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0072】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは、折り曲げ復元力評価時に(または折り返し復元力;folding restoring force)60°以上の復元角(または復元角度;restoration angle)を有することができる。具体的には、復元角は、60°~180°、60°~150°、60°~120°、60°~90°、60°~80°、または60°~70°であってもよいが、これらに限定されない。
【0073】
折り曲げ復元力評価時の復元角とは、85℃および85%RHの条件下で24時間後に5mm間隔の治具(zigs)の間に折れ曲げて挿入したフィルムが復元する角度をいう。
【0074】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは、15kgf/mm2以上の引張強度を有する。具体的には、引張強度は、18kgf/mm2以上、20kgf/mm2以上、21kgf/mm2以上、または22kgf/mm2以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0075】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムは15%以上の伸び(elongation)を有する。具体的には、伸びは、16%以上、17%以上、または17.5%以上であってもよいが、これらに限定されない。
【0076】
上述したポリアミドイミドフィルムの物理特性は、40μm~60μmの厚みに基づく。例えば、ポリアミドイミドフィルムの物理特性は、50μmの厚みに基づいてもよい。
【0077】
上述したポリアミドイミドフィルムの様々な特性は、組み合わされ得る。
【0078】
ポリアミドイミドフィルムは、光学および機械的特性に優れるように、以下に説明する製造方法により製造される。ポリアミドイミドフィルムは、可撓性および透明性を要求する様々な用途に適用可能であり得る。例えば、ポリアミドイミドフィルムは、太陽電池、ディスプレイ、半導体デバイス、およびセンサー等に適用され得る。
<ポリアミドイミドフィルムの製造方法>
【0079】
一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムの製造方法は、重合装置において、有機溶媒中で、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を同時にまたは逐次的に混合し反応させて、ポリマー溶液を調製すること、タンクにポリマー溶液を移すこと、タンク内のポリマー溶液をキャスティングし、その後、それを乾燥させてゲルシートを製造すること、ベルト上でゲルシートを移動させながらゲルシートを熱処理して硬化フィルムを製造すること、ならびに巻き取り機を使用して硬化フィルムを巻き取ることを含んで成る。
【0080】
ポリアミドイミドフィルムは、主成分としてポリアミドイミド樹脂を含んで成るフィルムである。ポリアミドイミド樹脂は、構造単位として所定のモル比でのアミド繰り返し単位およびイミド繰り返し単位を含んで成る樹脂である。
【0081】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法では、ポリアミドイミド樹脂を製造するためのポリマー溶液を、重合装置において有機溶媒中で、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を同時にまたは逐次的に混合し反応させることにより調製する。
【0082】
一実施形態では、ポリマー溶液を、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を有機溶媒中で同時に混合し反応させることにより調製してもよい。
【0083】
別の実施形態では、ポリマー溶液を調製する工程は、ジアミン化合物および二無水物化合物を混合(第1混合)し反応させてポリアミック酸(PAA)溶液を製造すること、ならびにポリアミック酸(PAA)溶液およびジカルボニル化合物を混合(第2混合)し反応させてアミド結合およびイミド結合を同時に形成することを含んで成ってもよい。ポリアミック酸溶液は、ポリアミック酸を含んで成る溶液である。
【0084】
さらに別の実施形態では、ポリマー溶液を調製する工程は、ジアミン化合物および二無水物化合物を混合(第1混合)し反応させてポリアミック酸溶液を製造すること、ポリアミック酸溶液を脱水してポリイミド(PI)溶液を製造すること、ならびにポリイミド(PI)溶液およびジカルボニル化合物を混合(第2混合)し反応させてアミド結合をさらに形成することを含んで成ってもよい。ポリイミド溶液は、イミド繰り返し単位を有するポリマーを含んで成る溶液である。
【0085】
さらに別の実施形態では、ポリマー溶液を調製する工程は、ジアミン化合物およびジカルボニル化合物を混合(第1混合)し反応させてポリアミド(PA)溶液を製造すること、ポリアミド(PA)溶液および二無水物化合物を混合(第2混合)し反応させてイミド結合をさらに形成することを含んで成ってもよい。ポリアミド溶液は、アミド繰り返し単位を有するポリマーを含んで成る溶液である。
【0086】
よって、調製したポリマー溶液は、ポリアミック酸(PAA)繰り返し単位、ポリアミド(PA)繰り返し単位、およびポリイミド(PI)繰り返し単位から成る群から選択される少なくとも1種を含むポリマーを含んで成る溶液であり得る。
【0087】
あるいは、ポリマー溶液に含まれて成るポリマーは、ジアミン化合物および二無水物化合物の重合に由来するイミド繰り返し単位、ならびにジアミン化合物およびジカルボニル化合物の重合に由来するアミド繰り返し単位を含んで成ることができる。
【0088】
一実施形態では、ポリマー溶液を調製する工程は、触媒を導入することをさらに含んで成ることができる。
【0089】
触媒は、例えば、ベータ・ピコリンまたは無水酢酸を含んでもよいが、これらに限定されない。触媒のさらなる添加は、反応速度を高め、繰り返し単位間または繰り返し単位内の化学結合力を高め得る。
【0090】
一実施形態では、ポリマー溶液を調製するための工程は、ポリマー溶液の粘度を調整することをさらに含んで成ってもよい。
【0091】
具体的には、ポリマー溶液を調整する工程は、(a)ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を有機溶媒中で同時にまたは逐次的に混合し反応させて第1ポリマー溶液を調製すること、(b)第1ポリマー溶液の粘度を測定し、目標粘度は達成したかを評価すること、ならびに(c)第1ポリマー溶液の粘度が目標粘度に達していなければ、ジカルボニル化合物をさらに添加して目標粘度を有する第2ポリマー溶液を調製することを含んで成ってもよい。
【0092】
目標粘度は、室温で約100,000cps~約500,000cpsであり得る。具体的には、目標粘度は、約100,000cps~約400,000cps、約100,000cps~約350,000cps、または約100,000cps~約300,000cpsであってもよいが、これらに限定されない。
【0093】
別の実施形態では、ポリマー溶液に含まれる固体物質(solids)の含有量は、10重量%~20重量%であり得る。具体的には、第2ポリマー溶液に含まれる固形物質の含有量は、12重量%~18重量%であってもよいが、これに限定されない。
【0094】
ポリマー溶液に含まれる固形物質の含有量がこれらの範囲内であると、ポリアミドイミドフィルムは、押出およびキャスティング工程において効率的に製造され得る。加えて、製造されたポリアミドイミドフィルムは、改良されたモジュラスなどに関する機械的特性、および低いイエロー・インデックスなどに関する光学特性を有し得る。
【0095】
一実施形態では、ポリマー溶液を調製する工程は、ポリマー溶液のpHを調整することをさらに含んで成ることができる。この工程において、ポリマー溶液のpHは、約4~約7、例えば、約4.5~約7に調整されてもよい。
【0096】
ポリマー溶液のpHは、pH調整剤を添加することにより調整され得る。pH調整剤は、特に限定されず、例えば、アルコキシアミン、アルキルアミン、およびアルカノールアミンなどのアミン化合物を含まれ得る。
【0097】
ポリマー溶液のpHが上記範囲に調整されると、次のプロセスにおける装置への損傷を防止し、ポリマー溶液から製造されたフィルムに欠陥が発生することを防止し、イエロー・インデックスおよびモジュラスに関する所望の光学特性および機械的特性を達成することが可能である。
【0098】
pH調整剤は、ポリマー溶液におけるモノマーの総モル数に基づき、約0.1モル%~10モル%の量で使用してもよい。
【0099】
ポリマー溶液を調製する工程は、不活性ガスを用いてポリマー溶液をパージすることをさらに含んで成ることができる。不活性ガスを用いてポリマー溶液をパージする工程は、湿気を取り除き、不純物を低減し、反応収率を増加させ得る。
【0100】
この場合、不活性ガスは、窒素、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)、およびラドン(Rn)から成る群から選択される少なくとも1種であり得るが、これらに限定されない。具体的には、不活性ガスは窒素であってもよい。
【0101】
ポリマー溶液を調製するために使用されたジカルボニル化合物に対する二無水物化合物のモル比は、20:80~80:20、例えば、20:80~50:50であってもよい。二無水物化合物およびジカルボニル化合物が上記モル比で使用される場合、ポリマー溶液から調製されたポリアミドイミドフィルムの所望の機械的および光学特性を達成するため有利である。
【0102】
ポリマー溶液は、ポリアミドイミドポリマーを含んで成る溶液である。
【0103】
ジアミン化合物、二無水物化合物、ジカルボニル化合物、およびポリアミドイミドポリマーは、上述の通りである。
【0104】
別の実施形態によれば、ポリマー溶液は、ジアミン化合物、二無水物化合物、およびジカルボニル化合物を重合することにより形成されるポリアミドイミドポリマーを含んで成ってもよく、この場合、ジアミン化合物は1種のジアミン化合物を含んで成ってもよく、二無水物化合物は1種の二無水物化合物を含んで成ってもよく、ジカルボニル化合物は2種のジカルボニル化合物を含んで成ってもよい。
【0105】
あるいは、ジアミン化合物はジアミン化合物の1種から構成されてもよく、二無水物化合物は二無水物化合物の1種から構成されてもよく、ジカルボニル化合物は2種のジカルボニル化合物から構成されてもよい。
【0106】
上述したように、ポリアミドイミドフィルムの主成分であるポリアミドイミド樹脂は、構造単位としてアミド繰り返し単位およびイミド繰り返し単位を所定のモル比で含んで成る樹脂である。
【0107】
イミド繰り返し単位の含有量およびアミド繰り返し単位の含有量を適切に制御することにより、複雑なプロセスを経ることなく、光学特性、機械的特性、および可撓性がバランスよく改良されたポリアミドイミドフィルムを製造することが可能である。加えて、従来技術で採用されているような沈殿、ろ過、乾燥、および再溶解のような工程なしで、光学特性、機械的特性、および可撓性がバランスよく改良されたポリアミドイミドフィルムを製造することが可能である。イミド繰り返し単位の含有量およびアミド繰り返し単位の含有量は、それぞれ二無水物およびジカルボニル化合物の量により制御されて得る。
【0108】
イミド繰り返し単位およびアミド繰り返し単位は、上述の通りである。
【0109】
有機溶媒は、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、m-クレゾール、テトラヒドロフラン(THF)、およびクロロホルムから成る群から選択される少なくとも1種であり得る。具体的には、一実施形態では、重合溶液内で使用される有機溶媒は、ジメチルアセトアミド(DMAc)であってもよいが、これに限定されない。
【0110】
次に、ポリマー溶液を調製する工程の後に、ポリマー溶液はタンクに移される。
【0111】
図7は、一実施形態に係るポリアミドイミドフィルムを製造するためのプロセス設備を概略的に示す図である。
図7を参照すると、上述のポリマー溶液は、重合装置(10)内で製造され、そのように製造したポリマー溶液はタンク(20)に移して貯蔵する。
【0112】
ここで、一旦ポリマー溶液が調製されると、ポリマー溶液をタンクに移す工程は、追加の工程なしで実施される。具体的には、重合装置内で製造されたポリマー溶液は、不純物を取り除くための別個の沈殿工程および再溶解工程なしでタンクに移され、タンク内に貯蔵される。従来のプロセスでは、ポリマー溶液の調製中に発生した塩酸(HCl)などの不純物を取り除くために、調製したポリマー溶液は、別個の工程で不純物を取り除いて精製され、精製したポリマー溶液は溶媒中で再溶解される。しかしながら、この場合、不純物を取り除く工程において有効成分の損失が増大し、結果として収率が低下するという問題があった。
【0113】
したがって、一実施形態に係る製造方法は、最終的なフィルムの物理特性を劣化させないように、ある程度の量の不純物が存在しても、最終的にポリマー溶液を調製する工程で発生する不純物の量を最小限にするか、または後続の工程で不純物を適切に制御する。この方法は、フィルムが別の沈殿または再溶解の工程なしで製造されるという利点を有する。
【0114】
タンク(20)はポリマー溶液をフィルムに形成する前にポリマー溶液を貯蔵するための場所であり、その内部温度は約-20℃~約0℃であってもよい。タンク(20)の温度が上記範囲に制御されていると、ポリマー溶液が貯蔵中に劣化するのを防止することが可能であり、そして含水量を低下させ、それによりポリマー溶液から製造されるフィルムの欠陥を防止することが可能である。
【0115】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、タンク(20)へ移されたポリマー溶液の真空脱気を実施することをさらに含んで成ってもよい。
【0116】
真空脱気は、タンクの内圧を0.2~0.4バールに減圧した後、1時間~2時間で実施することができる。これらの条件下での真空脱気は、ポリマー溶液における気泡を低減し得る。結果として、ポリマー溶液から製造されたフィルムの表面欠陥を防止することを可能とし、ヘーズなどの優れた光学特性を達することが可能である。
【0117】
加えて、ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、タンク(20)に移したポリマー溶液を不活性ガスでパージすることをさらに含んで成ってもよい。
【0118】
具体的には、パージすることは、1atm~2atmの内圧で不活性ガスでタンクをパージすることにより実施する。これらの条件下で窒素パージすることは、ポリマー溶液における気泡を低減し得る。結果として、ポリマー溶液から製造されたフィルムの表面欠陥を防止することが可能となり、ヘーズのような優れた光学特性に達することが可能となる。
【0119】
真空脱気の工程および窒素ガスでタンクをパージする工程はそれぞれ別のプロセスで行われる。
【0120】
例えば、真空脱気の工程は、窒素ガスでタンクをパージすることの工程の前に実施してもよいが、これに限定されない。
【0121】
真空脱気の工程および/または窒素でタンクをパージする工程は、このようにして製造されたポリアミドイミドフィルムの表面の物理特性を改良し得る。
【0122】
その後、本方法は、ポリマー溶液をタンク(20)に12時間~60時間貯蔵することをさらに含んで成ることができる。ここで、タンク内の温度は、-20℃~約0℃に保たれてもよい。
【0123】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、タンク内のポリマー溶液をキャストして、その後ポリマー溶液を乾燥してゲルシートを製造することをさらに含んで成ってもよい。
【0124】
ポリマー溶液は、キャスティング・ロールまたはキャスティング・ベルトのようなキャスティング・ボディ上にキャストできる。
【0125】
図7を参照すると、一実施形態では、ポリマー溶液は、キャスティング・ボディとしてのキャスティング・ベルト(30)上に塗布され、ポリマー溶液を移動しながら乾燥し、ゲル形態のシートに作製する。
【0126】
ポリマー溶液をベルト(30)に注入する場合、注入量は300g/分~700g/分であってもよい。ポリマー溶液の注入量がこの範囲を満たすと、ゲルシートは適切な厚みに均一に形成され得る。
【0127】
加えて、ポリマー溶液のキャスティング厚みは、約200μm~約700μmであってもよい。ポリマー溶液がこの範囲内の厚みにキャストされると、乾燥および熱処理の後に製造される最終的なフィルムは、適切かつ均一な厚みを有し得る。
【0128】
ポリマー溶液はキャストされ、その後、60℃~150℃の温度で5分間~60分間乾燥され、ゲルシートを製造する。ポリマー溶液の溶媒は、乾燥中に部分的にまたは全体的に揮発してゲルシートを製造する。
【0129】
上述したように、ポリマー溶液の粘度は、室温で100,000cps~500,000cps、100,000cps~400,000cps、100,000cps~350,000cps、または150,000cps~350,000cpsであってもよい。粘度がこれらの範囲を満たすと、ポリマー溶液は欠陥なしに均一な厚みで、ベルト上にキャストされ得る。
【0130】
一実施形態では、ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、ゲルシートをベルト上で移動しながらゲルシートを熱処理し、硬化フィルムを製造することを含んで成る。
【0131】
図7を参照すると、ゲルシートの熱処理はゲルシートを熱硬化装置(40)に通すことによって、実施してもよい。
【0132】
ゲルシートの熱処理は、約80℃~約500℃の温度範囲において約2℃/分~約80℃/分の昇温速度で5分間~約40分間実施することができる。具体的には、ゲルシートの熱処理は、約80℃~約470℃の温度範囲において約10℃/分~約80℃/分の昇温速度で約5分間~30分間実施してもよい。
【0133】
この場合、ゲルシートの熱処理の初期温度は約80℃以上であってもよく、熱処理における最高温度は約300℃~約500℃であってもよい。例えば、熱処理における最高温度は、350℃~500℃、380℃~500℃、400℃~500℃、410℃~480℃、410℃~470℃、または410℃~450℃であってもよい。
【0134】
つまり、
図7を参照すると、熱硬化装置(40)の入口温度は、熱処理の初期温度であってもよく、熱硬化装置(40)内の特定領域のその温度は熱処理における最高温度であってもよい。
【0135】
これらの条件下での熱処理は、ゲルシートを硬化させて適切な表面硬度およびモジュラスを有し得、同時に硬化フィルムの高い光透過率および低いヘーズを確保し得る。
【0136】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、熱処理によって硬化フィルムを製造した後に、硬化フィルムをベルト上で移動しながら硬化フィルムを冷却することをさらに含んで成ってもよい。
【0137】
図7を参照すると、硬化フィルムを冷却することは、熱硬化装置(40)を通った後に実行される。冷却することは、別個の冷却チャンバー(図示せず)を使用することによって、または別個の冷却チャンバーなしで適切な温度雰囲気(temperature atmosphere)を形成することによって実施され得る。
【0138】
硬化フィルムを冷却する工程は、硬化フィルムをベルト上で移動しながら、100℃/分~1,000℃/分の速度で温度を低下させる第1温度低下工程、および40℃/分~400℃/分の速度で温度を低下させる第2温度低下工程を含んで成ってもよい。
【0139】
この場合、具体的には、第2温度低下工程は、第1温度低下工程の後に行われる。第1温度低下工程の降温速度は、第2温度低下工程の降温速度に比べ、速くてもよい。
【0140】
例えば、第1温度低下工程の最大速度は、第2温度低下工程の最大速度に比べ、速い。または、第1温度低下工程の最小速度は、第2温度低下工程の最小温度に比べ、速い。
【0141】
このように多段階で硬化フィルムを冷却する工程を実施すると、硬化フィルムの物理特性をさらに安定化させることが可能となり、硬化工程の間に達せられる硬化フィルムの光学特性および物理特性を長期間より安定に維持することが可能となる。
【0142】
ゲルシートを移動させるためのベルトの移動速度は、硬化フィルムを移動させるためのベルトの移動速度と同じである。
【0143】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法は、巻き取り機を使用して冷却された硬化フィルムを巻き取ることを含んで成る。
【0144】
図7を参照して、冷却された硬化フィルムは、ロール形状の巻き取り機(50)を使用することにより、巻き取ることができる。
【0145】
この場合、巻き取り時の硬化フィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度の比は、1:0.95~1:1.40である。具体的には、移動速度の比は、1:0.99~1:1.20、1:0.99~1:1.10、または1:1.10~1:1.05であってもよいが、それらに限定されない。
【0146】
移動速度の比がこれらの範囲外であると、硬化フィルムの機械的特性は損なわれることがあり、可撓性および弾性が低下し得る。
【0147】
具体的には、ゲルシートおよび硬化フィルムを移動させるためのベルト(30)は、同じラインにある連続ベルトである。ベルト(30)の移動速度は、約0.1m/分~約15m/分であり得、例えば、約0.5m/分~約10m/分であってもよい。
【0148】
ポリアミドイミドフィルムの製造方法では、下記式1による厚みのばらつき(%)は、3%~30%であり得、例えば、5%~20%であってもよい。
[式1]
厚みのばらつき(%)=(M1-M2)/M2×100
上記式1中、M1はゲルシートの厚み(μm)であり、M2は巻き取り時の冷却された硬化フィルムの厚み(μm)である。
【0149】
上記製造方法により製造されたポリアミドイミドフィルムは、機械的特性および光学特性に優れる。モジュラス、伸び、引張特性、および弾性復元力に関する可撓性を必要とする基材に長期安定した機械的性質を付与することが可能である。
【0150】
加えて、従来のポリアミドイミドフィルムの製造方法では、塩酸(HCl)などの副生成物が、重合反応の際に発生する。このような副生成物を取り除くための別個の沈殿、ろ過、および乾燥の工程後に、結果として生じたものは、溶媒中に再度溶解してフィルム形成用組成物を調製する。しかしながら、このような沈殿、ろ過、乾燥、再溶解の工程を別個に行うと、収率が著しく低下するという問題がある。対照的に、一実施形態による製造方法は、ポリマー溶液は、別個の沈殿、ろ過、乾燥および再溶解の工程に付す必要はない。重合工程で製造するポリマー溶液を直接的にキャスティング工程に供することができるため、収率は著しく高められ得る。
【0151】
加えて、従来のポリアミドイミドフィルムの製造方法では、フィルムの透明性を確保しその黄変を防止するために、フィルム形成のための熱処理において窒素ガスでパージする工程が採用されている。対照的に、一実施形態に係る製造方法では、窒素パージをすることがフィルム形成および熱処理の工程において実行されなくても、優れた光学特性に達することが可能である。よって、製造プロセスで不純物が混ざっている可能性や、光学特性以外の他の物理特性が損なわれる可能性を排除することが可能となる。
【0152】
別の実施形態によれば、ポリアミドイミドフィルムの製造方法により製造されるポリアミドイミドフィルムが提供される。このポリアミドイミドフィルムについては、上記<ポリアミドイミドフィルム>で説明した通りである。
【0153】
上記ポリアミドイミドフィルムの特性は、上記ポリアミドイミドフィルムの製造方法の各工程における条件と共に、ポリアミドイミドフィルムを構成する成分の化学的および物理的特性の組み合わせによって実現される結果である。
【0154】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲が以下の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0155】
実施例1~3および比較例1~3について以下の表1に示す組成にしたがって各原料成分を調製した。
【0156】
[実施例1~3]
温度制御可能な二重ジャケットを備える1Lガラス製反応器に有機溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)403.2gを窒素雰囲気下、20℃で投入した。その後、芳香族ジアミンとして、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)をゆっくり添加して溶解した。
【0157】
続いて、芳香族二無水物として2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6-FDA)をゆっくり添加しながら、混合物を1時間攪拌した。
【0158】
第1ジカルボニル化合物として1,1’-ビフェニル-4,4’-ジカルボニルジクロリド(BPDC)を添加し、その後、混合物を1時間攪拌した。第2ジカルボニル化合物としてテレフタロイルクロリド(TPC)を添加し、混合物を1時間攪拌し、それにより第1ポリマー溶液を調製した。
【0159】
このようにして、調製した第1ポリマー溶液の粘度を、測定した。測定された粘度が目標粘度に達しない場合、DMAc有機溶媒中の濃度が10重量%のTPC溶液を調製し、このTPC溶液1mlを第1ポリマー溶液に添加し、その後、30分間の混合物を攪拌した。この手順は、粘度が約230,000cpsになるまで繰り返され、それにより第2ポリマー溶液を調製した。
【0160】
第2ポリマー溶液を、タンクに移し、-10℃で貯蔵した。タンク内の圧力が約0.3barとなるように、タンクを1.5時間脱気した。その後、窒素ガスを用いて内圧1.5atmでタンクをパージした。パージの際に、第2ポリマー溶液をタンク内に48時間貯蔵した。
【0161】
続いて、第2ポリマー溶液がキャストされ、その後、80℃の熱風で30分間乾燥させ、それによりゲルシートを製造した。その後、ゲルシートをベルト上で移動させながら、昇温速度2℃/分~80℃/分で80℃~500℃の温度範囲で30分間熱処理した。その後、約800℃/分の速度で温度を低下させることにより第1温度低下工程を実施し、続いて、約100℃/分の速度で温度を低下させることにより第2温度低下工程を実施し、それによってポリアミドイミドフィルムを得た。巻き取り機を使用して、フィルムを巻き取った。この場合、熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度は1m/sであった。巻き取り時のフィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度の比を、以下の表1に示すように調節した。
【0162】
[比較例1]
温度制御可能な二重ジャケットを備えた1Lガラス反応器に、有機溶媒としてジメチルアセトアミド(DMAc)518.5gを窒素雰囲気下、20℃で投入した。その後、芳香族ジアミンとして2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノビフェニル(TFDB)をそこにゆっくり添加し、溶解した。
【0163】
続いて、芳香族二無水物として2,2’-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン二無水物(6-FDA)をゆっくり添加し、混合物を1時間攪拌した。
【0164】
その後、ジカルボニル化合物としてテレフタロイルクロリド(TPC)を添加し、第1のジカルボニル化合物を添加し、混合物を1時間攪拌し、それにより第1ポリマー溶液を調製した。このようにして第1ポリマー溶液の粘度を、調節し測定した。測定された粘度が目標粘度に達しない場合、DMAc有機溶媒中の濃度が10重量%のTPC溶液を調製し、TPC溶液1mLを第1ポリマー溶液に添加し、混合物を30分間攪拌した。この手順は、粘度が100,000cps~300,000cpsとなるまで、繰り返され、それにより第2ポリマー溶液を調製した。
【0165】
第2ポリマー溶液を、実施例1に記載された方法によって処理して、ポリアミドイミドフィルムを製造した。巻き取り時のフィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度の比を、以下の表1に示すように調節した。
【0166】
[比較例2]
実施例1~3と同じ組成、処理方法でポリアミドイミドフィルムを製造した。巻き取り時のフィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度の比を、下記の表1に示すように調節した。
【0167】
[比較例3]
SKC製の商品名(brand name)SH86のPETフィルムを使用した。
【0168】
[評価例]
実施例1~3および比較例1~3のフィルムをそれぞれ測定し、以下の特性について評価した。
【0169】
[評価例1:フィルム厚みの測定]
厚みは、ミツトヨ製デジタルマイクロメータ547-401を使用して幅方向の5点にて測定した。それらの平均値を厚みとして採用した。
【0170】
[評価例2:速度比の測定]
速度比とは、巻き取り時の硬化フィルムの移動速度に対する熱処理時のベルト上のゲルシートの移動速度の比をいう。ゲルシートの移動速度および硬化フィルムの移動速度を、Optechの接触式タコメータMS6208Aを使用して測定した。
【0171】
[評価例3:モジュラスの測定]
フィルムの主収縮方向に垂直な方向に少なくとも5cm、主収縮方向に10cmのサンプルを切り出した。インストロンの万能材料試験機UTM5566Aに5cmの間隔で配置されたクリップでサンプルを固定した。サンプルが室温で5mm/分の速度で延伸しながら破断するまで応力-ひずみ曲線を得た。応力-ひずみ曲線上の初期ひずみに対する荷重の傾きをモジュラス(GPa)とした。
【0172】
[評価例4:弾性領域の0.2%オフセットおよび面積値の測定]
UTM 5566A万能材料試験機で得られた応力-ひずみ曲線上に、ひずみを0.2%移動させた場合の初期ひずみに対する荷重の勾配であるモジュラス(GPa)に対して平行な線を引いた。その線と応力-ひずみ曲線とが交わる点のひずみ値を、0.2%オフセット法で測定した降伏点とする。
弾性領域の面積値は、初期ひずみから降伏点までの応力-ひずみ曲線の積分値として測定した。
【0173】
[評価例5:表面硬度の測定]
表面硬度は、鉛筆硬度測定装置(CT-PC1,CORE TECH,韓国)を用いて、45°の角度、および300mm/分の鉛筆速度で一定荷重(750g)を加えながら、測定した。使用した鉛筆は、H~9H、F、HB、およびB~6B等の強度を有する三菱鉛筆であった。
【0174】
[評価例6:イエロー・インデックス(YI)の測定]
イエロー・インデックス(YI)を、CIE表色系を使用して分光光度計(UltraScan PRO, Hunter Associates Laboratory)により測定した。
【0175】
[評価例7:光透過率およびヘーズ(HZ)の測定]
550nmでの光透過率およびヘーズを、日本電色工業製のヘーズメータNDH-5000Wを使用して測定した。
【0176】
[評価例8:復元力の測定]
フィルムを、5mm間隔の治具間に曲げて挿入し、85℃および85%RHの条件下で24時間後にフィルムが回復する時の角度を測定した。
【0177】
【0178】
上記表1から分かるように、実施例1~3は、比較例1~3と比較した場合、機械的特性および光学特性が優れているだけではなく、優れた弾性面積値および復元力評価時の優れた復元角を確保することができた。よって、可撓性および透明性を必要とする様々な用途に適用可能である。
【符号の説明】
【0179】
10: 重合装置
20: タンク
30: ベルト
40: 熱硬化装置
50: 巻き取り機