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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   B60H 1/32 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
B60H1/32 624A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019024617
(22)【出願日】2019-02-14
(65)【公開番号】P2020131803
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2022-01-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000152826
【氏名又は名称】株式会社日本クライメイトシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 双岐
(72)【発明者】
【氏名】西田 孝則
(72)【発明者】
【氏名】松浦 孝爾
(72)【発明者】
【氏名】伯方 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】鳥越 博
【審査官】安島 智也
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-111517(JP,A)
【文献】特開平01-262212(JP,A)
【文献】特開平03-005233(JP,A)
【文献】特開平03-025022(JP,A)
【文献】特開2001-153425(JP,A)
【文献】特開2003-322420(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60H 1/00 - 3/06
F25B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可変容量圧縮機と、
前記可変容量圧縮機から吐出された冷媒を蒸発させる蒸発器と、
前記可変容量圧縮機を制御する制御装置とを備えた冷凍サイクル装置において、
前記蒸発器に送風される送風量を推定する送風量推定手段と、
前記蒸発器に流入する空気の温度である蒸発器入口温度を検出する蒸発器入口温度検出手段と、
前記蒸発器から流出する空気の温度である蒸発器出口温度を検出する蒸発器出口温度検出手段と、
前記可変容量圧縮機を停止状態から作動状態に切り替える直前の目標蒸発器出口温度を演算する目標蒸発器出口温度演算手段と、
前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度検出手段で検出された前記蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて前記可変容量圧縮機の制御初期値を決定する制御初期値決定手段と、
前記制御初期値決定手段で決定された前記制御初期値を保持する保持時間を決定する保持時間決定手段とを備え、
前記制御装置は、前記制御初期値決定手段で決定された前記制御初期値を、前記保持時間決定手段で決定された所定の保持時間連続して前記可変容量圧縮機に出力する初期値保持制御を行い、前記保持時間の経過後、前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度との温度偏差に応じた通常制御を行うように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
請求項1に記載の冷凍サイクル装置において、
前記保持時間決定手段は、前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度検出手段で検出された蒸発器出口温度の温度偏差との少なくとも1つに基づいて前記保持時間を決定するように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の冷凍サイクル装置において、
前記冷凍サイクル装置は、車両に搭載される車両用空調装置の一部として使用され、
前記可変容量圧縮機は前記車両のエンジンによって駆動され、
前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段を備え、
前記保持時間決定手段は、前記エンジン回転数検出手段で検出されたエンジンの回転数に基づいて前記保持時間を決定するように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記通常制御時における前記可変容量圧縮機の制御ゲインを前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度に応じて変化させるように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項5】
請求項4に記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記制御ゲインを段階的に変化させる分段制御を行うように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項6】
請求項5に記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記制御ゲインを、前記蒸発器出口温度検出手段で検出された前記蒸発器出口温度によって変化させるように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項7】
請求項6に記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記制御ゲインを変化させる前記蒸発器出口温度を、前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度とによって変更するように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項8】
請求項5から7のいずれか1つに記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、蒸発器温度変化量とに基づいて前記制御ゲインを演算するように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項9】
請求項8に記載の冷凍サイクル装置において、
前記制御装置は、前記可変容量圧縮機の作動時間が所定時間以上になると、前記分段制御を終了し、前記制御ゲインを所定のゲインに固定するように構成されていることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変容量圧縮機を備えた冷凍サイクル装置に関し、特に、可変容量圧縮機の制御の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来より、可変容量圧縮機を備えた冷凍サイクル装置が車両用空調装置に使用される場合がある。可変容量圧縮機の制御は、一般にPI制御やPID制御などのフィードバック制御により行われる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
特許文献1では、蒸発器を通過して車室内へ送風される空気を冷却する冷凍サイクル装置と、圧縮機の駆動出力を決める制御値を演算して圧縮機の運転を制御する制御手段とを備えており、制御手段は、圧縮機を起動させるときに、冷凍サイクル装置内の冷媒の圧力に基づいて決定する制御値によって圧縮機を駆動するようにしている。この制御値は、圧縮機の最大能力に対する駆動出力の比率となっており、例えば、制御手段が圧縮機に対して入力する駆動信号としてのデューティ比である。圧縮機を起動するときに、冷凍サイクル内の圧力に基づいて圧縮機の制御値を決定してその駆動出力を制御することで、起動時の蒸発器に及ぼされる熱的負荷に対して過剰な制御値で運転することを抑止して蒸発器の過冷却による蒸発器下流の空気温度のオーバーシュートを低減するようにしている。
【0004】
特許文献2では、圧縮機の制御における制御初期値を演算し、制御初期値により圧縮機を制御した後に、蒸発器が所定の温度状態になったと判定されるまでは制御初期値で圧縮機を制御し、蒸発器が所定の温度状態になったと判定された後は、目標蒸発器温度と、実蒸発器温度との温度偏差から演算した能力制御値で圧縮機を制御するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-13165号公報
【文献】特開2014-172478号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、PI制御やPID制御では、蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが小さくなるように、圧縮機に制御信号を出力した後、すぐに蒸発器温度が応答すると想定して、制御初期値と制御ゲインを調整するようにしている。
【0007】
ところが、例えば、過渡期では、蒸発器温度に過度なオーバーシュートやアンダーシュートが発生することがあり、蒸発器温度が目標蒸発器温度となって安定するまでの時間が長時間化するという問題があった。
【0008】
すなわち、冷凍サイクル装置の運転前の状況によっては、圧縮機をONにし、制御信号を出力しても、蒸発器温度が低下するのに時間がかかり、蒸発器温度の応答が遅れる場合がある。そして、この遅れ時間は一定ではなく、様々である。従来のフィードバック制御では、蒸発器温度の応答が遅れる間、蒸発器温度が早く目標蒸発器温度となるように、過大な制御信号を出力してしまうので、蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが大きくなってしまい、その結果、ハンチングが発生することがあった。
【0009】
蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが大きくなってしまうのを防止するために、PIDゲインを小さくし、制御信号を制限することが考えられるが、このようにすると、蒸発器温度が目標蒸発器温度となって安定するまでの時間が長時間化してしまう。
【0010】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、蒸発器温度の安定性及び即応性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、第1の発明は、可変容量圧縮機と、前記可変容量圧縮機から吐出された冷媒を蒸発させる蒸発器と、前記可変容量圧縮機を制御する制御装置とを備えた冷凍サイクル装置において、前記蒸発器に送風される送風量を推定する送風量推定手段と、前記蒸発器に流入する空気の温度である蒸発器入口温度を検出する蒸発器入口温度検出手段と、前記蒸発器から流出する空気の温度である蒸発器出口温度を検出する蒸発器出口温度検出手段と、前記可変容量圧縮機を停止状態から作動状態に切り替える直前の目標蒸発器出口温度を演算する目標蒸発器出口温度演算手段と、前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度検出手段で検出された前記蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて前記可変容量圧縮機の制御初期値を決定する制御初期値決定手段と、前記制御初期値決定手段で決定された前記制御初期値を保持する保持時間を決定する保持時間決定手段とを備え、前記制御装置は、前記制御初期値決定手段で決定された前記制御初期値を、前記保持時間決定手段で決定された所定の保持時間連続して前記可変容量圧縮機に出力する初期値保持制御を行い、前記保持時間の経過後、前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度との温度偏差に応じた通常制御を行うように構成されていることを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、蒸発器に送風される送風量と、蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて可変容量圧縮機の制御初期値が決定される。この制御初期値が可変容量圧縮機に出力されると、可変容量圧縮機が停止状態から作動状態に切り替えられる。制御初期値は、蒸発器に送風される送風量や、蒸発器入口温度、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度の温度偏差に基づいて設定されているので、冷凍サイクル装置の運転前の状況が反映された値であり、その状況に適した制御初期値となっている。そして、この制御初期値が所定の保持時間連続して可変容量圧縮機に出力されるので、蒸発器温度の応答が遅れたとしても、蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが発生することなく、蒸発器温度が早く目標蒸発器温度となって安定する。
【0013】
第2の発明は、前記保持時間決定手段は、前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度及び前記蒸発器出口温度検出手段で検出された蒸発器出口温度の温度偏差との少なくとも1つに基づいて前記保持時間を決定するように構成されていることを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、制御初期値を保持する保持時間が、冷凍サイクル装置の運転前の状況に適した時間になる。
【0015】
第3の発明は、前記冷凍サイクル装置は、車両に搭載される車両用空調装置の一部として使用され、前記可変容量圧縮機は前記車両のエンジンによって駆動され、前記エンジンの回転数を検出するエンジン回転数検出手段を備え、前記保持時間決定手段は、前記エンジン回転数検出手段で検出されたエンジンの回転数に基づいて前記保持時間を決定するように構成されていることを特徴とする。
【0016】
すなわち、可変容量圧縮機を車両のエンジンで駆動する場合には、エンジンの回転数によって可変容量圧縮機への入力量が大きく異なることになる。このエンジンの回転数に基づいて保持時間を決定することで、保持時間がエンジンの回転数に応じた適切な時間になる。
【0017】
第4の発明は、前記制御装置は、前記通常制御時における前記可変容量圧縮機の制御ゲインを前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度に応じて変化させるように構成されていることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、蒸発器入口温度に応じた制御ゲインを適用することが可能になる。
【0019】
第5の発明は、前記制御装置は、前記制御ゲインを段階的に変化させる分段制御を行うように構成されていることを特徴とする。
【0020】
第6の発明は、前記制御装置は、前記制御ゲインを、前記蒸発器出口温度検出手段で検出された前記蒸発器出口温度によって変化させるように構成されていることを特徴とする。
【0021】
この構成によれば、蒸発器出口温度によって制御ゲインを段階的に変化させることが可能になるので、蒸発器における冷媒の蒸発度合いが反映された制御になる。
【0022】
第7の発明は、前記制御装置は、前記制御ゲインを変化させる前記蒸発器出口温度を、前記送風量推定手段で推定された前記送風量と、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、前記目標蒸発器出口温度演算手段で演算された前記目標蒸発器出口温度とによって変更するように構成されていることを特徴とする。
【0023】
この構成によれば、制御ゲインを変化させる際、送風量、蒸発器入口温度、目標蒸発器出口温度によって変更される蒸発器出口温度を使用することで、制御ゲインが冷凍サイクル装置の運転状況に応じて変化するようになる。
【0024】
第8の発明は、前記制御装置は、前記蒸発器入口温度検出手段で検出された前記蒸発器入口温度と、蒸発器温度変化量とに基づいて前記制御ゲインを演算するように構成されていることを特徴とする。
【0025】
この構成によれば、蒸発器入口温度と蒸発器温度変化量とに基づくことで、制御ゲインが適切に設定される。
【0026】
第9の発明は、前記制御装置は、前記可変容量圧縮機の作動時間が所定時間以上になると、前記分段制御を終了し、前記制御ゲインを所定のゲインに固定するように構成されていることを特徴とする。
【0027】
この構成によれば、可変容量圧縮機が作動を開始して所定時間以上経過すると、過渡期が終了して安定期に入っていると推定され、この場合に制御ゲインを固定することで制御が簡単になる。
【発明の効果】
【0028】
第1の発明によれば、蒸発器に送風される送風量と、蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて可変容量圧縮機の制御初期値を決定し、この制御初期値を所定の保持時間連続して可変容量圧縮機に出力することができるので、蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが発生することなく、蒸発器温度の安定性及び即応性を向上させることができる。
【0029】
第2の発明によれば、制御初期値を保持する保持時間が、冷凍サイクル装置の運転前の状況に適した時間になるので、蒸発器温度の安定性及び即応性をより一層向上させることができる。
【0030】
第3の発明によれば、可変容量圧縮機を車両のエンジンによって駆動する場合に、制御初期値を車両のエンジンに応じた適切な時間にすることができる。
【0031】
第4、5の発明によれば、通常制御時の制御ゲインを蒸発器入口温度に応じた制御ゲインにすることができる。
【0032】
第6の発明によれば、通常制御時の制御ゲインを蒸発器出口温度によって変化させることができるので、蒸発器における冷媒の蒸発度合いが反映された制御を行うことができる。
【0033】
第7の発明によれば、送風量、蒸発器入口温度、目標蒸発器出口温度によって変更される蒸発器出口温度を使用して制御ゲインを変化させることができるので、冷凍サイクル装置の運転状況に応じた制御ゲインとすることができる。
【0034】
第8の発明によれば、蒸発器入口温度と蒸発器温度変化量とに基づいて制御ゲインを適切に設定することができる。
【0035】
第9の発明によれば、過渡期から安定期に入った場合に制御を簡単にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施形態に係る冷凍サイクル装置を備えた車両用空調装置の概略構成図である。
図2】車両用空調装置のブロック図である。
図3】圧縮機制御の手順を示すフローチャートである。
図4】制御ゲインの決定手順を示すフローチャートである。
図5】判定要領を示すグラフである。
図6】各部の温度変化と制御値の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0038】
図1は、本発明の実施形態に係る車両用空調装置1の概略構成図である。この車両用空調装置1は、例えば自動車等の車両に搭載されるものであり、車室内の空気(内気)と車室外の空気(外気)との一方または両方を導入して温度調節した後、車室の各部に供給するように構成されている。車両の車室内には、図示しないが、運転席及び助手席からなる前席と、前席の後方に配設される後席とが設けられている。
【0039】
図1図5に示すように、車両用空調装置1は、空調ケーシング30と制御装置50と冷凍サイクル装置60とを備えている。空調ケーシング30は、例えば車室の前端部に配設されたインストルメントパネル(図示せず)の内部に収容されている。空調ケーシング30は、空気流れ方向上流側から下流側に向かって順に、送風ケーシング20と、温度調節部31と、吹出方向切替部40とを備えている。送風ケーシング20には、外気導入口2aと内気導入口2bとが形成されている。外気導入口2aは、例えば図示しないインテークダクトを介して車室外と連通しており、車室外の空気(外気)を導入するようになっている。内気導入口2bは、インストルメントパネルの内部で開口しており、車室内の空気(内気)を導入して車室内に循環させるようになっている。外気導入口2aから導入する外気の量が外気導入量となる。内気導入口2bから導入する内気の量が内気循環量となる。
【0040】
送風ケーシング20の内部には、外気導入口2a及び内気導入口2bを開閉する内外気切替ダンパ6、7が配設されている。内外気切替ダンパ6、7は、内外気切替アクチュエータ9によって任意の回動角度となるように駆動される。これによりインテークモードが切り替えられる。内外気切替アクチュエータ9は、制御装置50によって後述するように制御されるものであり、従来から周知のトルク可変型の電動アクチュエータで構成されている。
【0041】
図1に示すように、送風ケーシング20には、空調用機器としての送風機5が設けられている。送風機5が作動することによって送風ケーシング20の内部に空気が流通し、送風ケーシング20の下流側に設けられている温度調節部31に空調用空気が送風される。
【0042】
温度調節部31は、内部に空気が流通するようになっており、送風ケーシング20から導入された空調用空気の温度調節を行うための部分である。温度調節部31の内部には、冷却用熱交換器32と加熱用熱交換器33とエアミックスダンパ34とが設けられている。冷却用熱交換器32と加熱用熱交換器33は、空調用機器である。
【0043】
すなわち、温度調節部31の内部には、空気流れ方向上流側に冷風通路R1が形成され、この冷風通路R1に冷却用熱交換器32が収容されている。また、冷風通路R1の下流側は温風通路R2とバイパス通路R3とに分岐しており、温風通路R2に加熱用熱交換器33が収容されている。
【0044】
冷却用熱交換器32は、冷凍サイクル装置60の冷媒蒸発器(エバポレータ)等で構成されている。この実施形態の説明では、冷却用熱交換器32を冷媒蒸発器(蒸発器)やエバポレータと言うこともある。また、加熱用熱交換器33は、例えば車両のエンジンルームに搭載されているエンジン(図示せず)の冷却水が供給されるヒータコア等で構成することができるが、これに限られるものではなく、例えば電気式ヒータ等、空気を加熱することができるものではあればよい。また、電気式ヒータを補助熱源として付加することもできる。
【0045】
エアミックスダンパ34は、冷却用熱交換器32と加熱用熱交換器33の間に配設されており、温風通路R2の上流端とバイパス通路R3の上流端とを開閉するものである。エアミックスダンパ34は、例えば板状の部材で構成することができ、温度調節部31の側壁に対して回動可能に支持される回動軸(図示せず)を有している。エアミックスダンパ34は、エアミックスアクチュエータ35によって任意の回動角度となるように駆動される。エアミックスアクチュエータ35は、制御装置50によって制御されるものであり、トルク可変型の電動アクチュエータで構成されている。エアミックスダンパ34の回動軸と、エアミックスアクチュエータ35との間には、エアミックスアクチュエータ35から出力される力をエアミックスダンパ34の回動軸に伝達するリンク部材(図示せず)が配設されている。
【0046】
エアミックスダンパ34が温風通路R2の上流端を全開にし、かつ、バイパス通路R3の上流端を全閉にすると、冷風通路R1で生成された冷風の全量が温風通路R2に流入して加熱されるので、吹出方向切替部40には温風が流入する。一方、エアミックスダンパ34が温風通路R2の上流端を全閉にし、かつ、バイパス通路R3の上流端を全開にすると、冷風通路R1で生成された冷風の全量がバイパス通路R3に流入するので、吹出方向切替部40には冷風が流入する。エアミックスダンパ34が温風通路R2の上流端及びバイパス通路R3の上流端を開く回動位置にあるときには、冷風及び温風が混合した状態で吹出方向切替部40に流入することになる。エアミックスダンパ34の回動位置によって吹出方向切替部40に流入する冷風量と温風量とが変更されて所望温度の調和空気が生成される。尚、エアミックスダンパ34は、上記した板状のダンパに限られるものではなく、冷風量と温風量とを変更することができる構成であればその構成はどのような構成であってもよい。例えばロータリダンパやフィルムダンパ、ルーバーダンパ等であってもよい。また、温度調節の構成は上記した構成でなくてもよく、冷風量と温風量とを変更することができる構成であればよい。
【0047】
吹出方向切替部40は、温度調節部31で温度調節された調和空気が流通するとともに、温度調節された調和空気を車室の各部に供給するための部分である。吹出方向切替部40には、デフロスタ吹出口42と、ベント吹出口43と、ヒート吹出口45とが形成されている。デフロスタ吹出口42は、インストルメントパネルに形成されたデフロスタノズル41に接続されている。このデフロスタ吹出口42は、フロントウインドガラス(窓ガラス)Gの車室内面に調和空気を供給するためのものである。デフロスタ吹出口42の内部には、デフロスタ吹出口42を開閉するためのデフロスタダンパ42aが設けられている。
【0048】
ベント吹出口43は、インストルメントパネルに形成されたベントノズル44に接続されている。ベントノズル44は、前席の乗員の上半身に調和空気を供給するためのものであり、インストルメントパネルの車幅方向中央部と、左右両側にそれぞれ設けられている。ベント吹出口43の内部には、ベント吹出口43を開閉するためのベントダンパ43aが設けられている。
【0049】
ヒート吹出口45は、乗員の足元近傍まで延びるヒートダクト46に接続されている。ヒートダクト46は、乗員の足元に調和空気を供給するためのものである。ヒート吹出口45の内部には、ヒート吹出口45を開閉するためのヒートダンパ45aが設けられている。
【0050】
デフロスタダンパ42a、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aは、吹出方向切替部40の側壁に対して回動可能に支持される回動軸(図示せず)を有している。デフロスタダンパ42a、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aは吹出方向切替アクチュエータ47によって駆動されて開閉動作する。吹出方向切替アクチュエータ47は、トルク可変型の電動アクチュエータで構成されている。デフロスタダンパ42a、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aの回動軸と、吹出方向切替アクチュエータ47との間には、吹出方向切替アクチュエータ47から出力される力をデフロスタダンパ42a、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aの回動軸に伝達するリンク部材(図示せず)が配設されている。
【0051】
吹出方向切替アクチュエータ47は、制御装置50によって制御される。デフロスタダンパ42a、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aは、図示しないがリンクを介して連動するようになっており、例えば、デフロスタダンパ42aが開状態で、ベントダンパ43a及びヒートダンパ45aが閉状態となるデフロスタモード、デフロスタダンパ42a及びヒートダンパ45aが閉状態で、ベントダンパ43aが開状態となるベントモード、デフロスタダンパ42a及びベントダンパ43aが閉状態で、ヒートダンパ45aが開状態となるヒートモード、デフロスタダンパ42a及びベントダンパ43aが開状態で、ヒートダンパ45aが閉状態となるデフベントモード、デフロスタダンパ42a及びヒートダンパ45aが開状態で、ベントダンパ43aが閉状態となるバイレベルモード等の複数の吹出モードの内、任意の吹出モードに切り替えられる。
【0052】
(送風ユニットの構成)
この実施形態では、送風ユニットが、第1、第2内外気切替ダンパ6、7によって内気導入口2bのみを開く内気循環モード、外気導入口2aのみを開く外気導入モード、内気導入口2b及び外気導入口2aを開く内外気2層流モードの切替が可能になっているが、本発明は、内外気2層流モードを有さずに、内気循環モードと外気導入モードとに切り替えられる送風ユニットに適用することもできる。
【0053】
第1内外気切替ダンパ6及び第2内外気切替ダンパ7は、図1に示す内外気切替アクチュエータ9によって駆動される。この実施形態では、第1内外気切替ダンパ6及び第2内外気切替ダンパ7を次のように駆動する。すなわち、外気導入モードでは、第1内外気切替ダンパ6及び第2内外気切替ダンパ7により送風ケーシング20に外気のみが導入され、また、内気循環モードでは、第1内外気切替ダンパ6及び第2内外気切替ダンパ7により送風ケーシング20に内気のみが導入される。内外気2層流モードでは、第1内外気切替ダンパ6及び第2内外気切替ダンパ7により送風ケーシング20に外気及び内気が導入される。内外気2層流モードは、暖房時に使用されるモードである。
【0054】
内気循環モード、外気導入モード及び内外気2層流モードの切替は、従来から周知のオートエアコン制御によって行われる。内外気2層流モードにすることで、冬季には比較的乾燥した外気をデフロスト吹出口に供給してフロントウインドガラスの曇りを良好に晴らしながら、比較的暖かい内気をヒート吹出口に供給して暖房効率を向上させることができる。
【0055】
また、送風ケーシング20の下側には、ファン5aと、ファン5aを回転駆動するブロアモータ5bが設けられている。ブロアモータ5bに電圧が印加されると、ブロアモータ5bの回転力がファン5aに伝達されて該ファン5aが回転する。ブロアモータ5bには、制御装置50が接続されており、ブロアモータ5bは制御装置50によって所望の回転数となるように電圧が印加される。
【0056】
(冷凍サイクル装置60の構成)
図1に示すように、冷凍サイクル装置60は、可変容量圧縮機61と、可変容量圧縮機61から吐出された冷媒を蒸発させる上記冷却用熱交換器32と、可変容量圧縮機61及び冷却用熱交換器32の間に配設される膨脹弁62と、車室外に配設される凝縮器63とを備えている。可変容量圧縮機61、冷却用熱交換器32、膨脹弁62及び凝縮器63は、冷媒配管64によって接続されており、冷凍サイクル装置60の内部を冷媒が循環するようになっている。また、上記制御装置50は、冷凍サイクル装置60を構成する部材とすることができる。この実施形態では、冷凍サイクル装置60が、車両に搭載される車両用空調装置1の一部として使用される場合について説明するが、冷凍サイクル装置60は他の用途で使用されるものであってもよい。
【0057】
可変容量圧縮機61は、単位時間当たりの冷媒吐出量を変化させることができるように構成された容量可変機構を備えており、制御装置50から出力された制御信号によって容量を変化可能になっている。この容量可変機構は従来から周知の機構である。容量可変機構が例えば電磁弁等を含む機構によって構成される場合には、制御装置50から出力された制御信号によって可変容量圧縮機61から吐出される単位時間当たりの冷媒吐出量を変化させることができる。単位時間当たりの冷媒吐出量は、容量可変機構へ出力される制御信号によって任意の量に変化させることができ、例えば、ほぼ0%から100%の範囲でほぼ無段階に変化させることができるように構成されている。また、可変容量圧縮機61の制御値は、可変容量圧縮機61の最大能力に対する出力の比率とすることができ、例えば、デューティ比である。
【0058】
冷凍サイクル装置60の内部を循環する冷媒は、可変容量圧縮機61によって圧縮された後、膨脹弁62に流入して気液二相状態に減圧される。膨脹弁62によって減圧された冷媒は冷却用熱交換器32に流入して外部を通過する空調用空気と熱交換することで蒸発した後、凝縮器63に流入する。凝縮器63を通過して外気と熱交換した冷媒は可変容量圧縮機61に流入して圧縮される。
【0059】
また、可変容量圧縮機61は車両のエンジンEによって駆動される。すなわち、エンジンEの出力軸にはプーリE1が設けられており、このプーリE1と、可変容量圧縮機61の入力軸に設けられたプーリ61aとには、伝導ベルトE2が巻き掛けられている。エンジンEが運転状態になると、プーリE1、伝導ベルトE2及びプーリ61aを経て可変容量圧縮機61の入力軸に回転力が入力される。
【0060】
可変容量圧縮機61の圧縮機構とプーリ61aとの間には電磁クラッチ61b(図2に示す)等からなる断続機構を設けることができる。電磁クラッチ61bは、制御装置50によって制御され、可変容量圧縮機61を作動させる必要がある場合にのみ接続状態となり、それ以外の場合には断状態となる。この電磁クラッチ61bは省略してもよい。
【0061】
(各種センサ類)
図2に示すように、車両用空調装置1は、例えば、外気温度センサ(外気温度検出手段)51、内気温度センサ(内気温度検出手段)52、日射量センサ(日射量検出手段)53、エバ後温度センサ54、空調操作スイッチ55、蒸発器入口温度検出センサ56、エンジン回転数センサ57等を備えている。外気温度センサ51、内気温度センサ52、日射量センサ53、エバ後温度センサ54、蒸発器入口温度検出センサ56及びエンジン回転数センサ57は、制御装置50に接続され、制御装置50へ信号を出力している。また、空調操作スイッチ55は制御装置50に接続されており、乗員による操作状態を制御装置50が検出できるようになっている。
【0062】
外気温度センサ51は、例えば車室外において車両前部や側部等に配設されており、車両の周囲の空気温度(外気温度)を検出するものである。内気温度センサ52は、例えば車室内においてインストルメントパネルの近傍等に配設されており、車室内の空気温度(内気温度)を検出するものである。日射量センサ53は、例えば車室内においてインストルメントパネルの近傍等に配設されており、車室に照射される日射量を検出するものである。
【0063】
内気温度センサ52、外気温度センサ51及び日射量センサ53は、乗員が感じる冷熱に関連する情報を検出することができるものである。すなわち、内気温度センサ52から出力される内気温度は、乗員の雰囲気温度と略等しい温度であり、内気温度が高いということは乗員が暖かいと感じ、内気温度が低いということは乗員が寒いと感じる。また、外気温度センサ51から出力される外気温度が高いと乗員が暖かいと感じ、外気温度が低いと乗員が寒いと感じる。さらに、日射量センサ53から出力される日射量が多いと乗員が暖かいと感じ、日射量が少ないと乗員が寒いと感じる。
【0064】
エバ後温度センサ54は、冷却用熱交換器32の空気流れ方向下流側に配設されており、冷却用熱交換器32の表面温度を検出するものである。エバ後温度センサ54は、冷却用熱交換器32から流出する空気の温度である蒸発器出口温度を検出する蒸発器出口温度検出手段としても機能する。エバ後温度センサ54と冷却用熱交換器32の空気流れ方向下流側の面とは接触または接近しているので、エバ後温度センサ54によって冷却用熱交換器32の空気流れ方向下流側の面の温度、即ち、冷却用熱交換器32から流出する空気の温度を検出することが可能になる。
【0065】
空調操作スイッチ55は、例えばインストルメントパネル等に配設されており、例えば、空調装置1のON/OFFの切替スイッチ、送風量を増減させる風量切替スイッチ、車室の温度を設定する温度設定スイッチ、内気循環、外気導入及び内外気混入モードを切り替える内外気切替スイッチ、オートエアコン制御とするか否かを選択するオートスイッチ、吹出方向を切り替える吹出モード切替スイッチ、デフロスタスイッチ等で構成されている。
【0066】
蒸発器入口温度検出センサ56は、冷却用熱交換器32に流入する空気の温度である蒸発器入口温度を検出する蒸発器入口温度検出手段である。蒸発器入口温度検出センサ56は、冷却用熱交換器32の空気流れ方向上流側に配設することができ、例えば、空調ケーシング30の内部や送風ケーシング20の内部に配設することができる。蒸発器入口温度検出センサ56を設けることなく、外気温度センサ51の検出値等に基づいて、冷却用熱交換器32に流入する空気の温度を推定することもできる。推定手法は従来から周知の方法を用いることができる。例えば、外気温度センサ51と、内気温度センサ52を利用し、さらに車室内における内気循環率を取得する方法がある。内気循環率は、内外気切替ダンパ6、7によって調整される外気導入量と内気循環量とに基づいて求めることができ、外気導入量が0のときに内気循環率を100%とし、内気循環量が0のときに内気循環率を0%とすることができる。そして、以下の式により蒸発器入口温度を推定することが可能になる。
【0067】
蒸発器入口温度(推定値)=内気温度センサ検出温度(℃)×内気循環率(%)+外気温度センサ検出温度(℃)×(100%-内気循環率)
【0068】
エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)57は、エンジンEのクランク軸の回転数(rpm)を検出するためのセンサであり、従来から周知のセンサである。
【0069】
(制御装置50の構成)
制御装置50は、上記センサ51~54、56、57やその他のセンサから出力される信号(出力値)と、空調操作スイッチ55の操作状態とに基づいて、内外気切替アクチュエータ9、エアミックスアクチュエータ35、吹出方向切替アクチュエータ47、ブロアモータ5b及び冷凍サイクル装置60を制御する。
【0070】
すなわち、空調操作スイッチ55のオートスイッチによってオートエアコン制御が選択された場合には、車室外の温度、車室内の温度、日射量、エンジン冷却水温度、冷却用熱交換器32の表面温度、設定温度等に基づいて、車室内に供給する調和空気の目標吹出温度を決定するとともに、この目標吹出温度となるようにエアミックスダンパ34の開度を演算し、エアミックスダンパ34がこの開度となるようにエアミックスアクチュエータ35を制御してエアミックスダンパ34を回動させる。これにより、調和空気の温度が目標吹出温度となる。
【0071】
また、制御装置50は、冷房時には吹出モードが主にベントモードとなるように吹出方向切替アクチュエータ47を制御し、暖房時には吹出モードが主にヒートモードとなるように吹出方向切替アクチュエータ47を制御する。また、冷房時や暖房時であっても弱めの場合には、バイレベルモードやデフベントモードとなるように吹出方向切替アクチュエータ47を制御する。さらに、空調操作スイッチ55が有するデフロスタスイッチがONにされると、吹出モードがデフロスタモードとなるように吹出方向切替アクチュエータ47を制御する。
【0072】
例えば冬季に長時間放置された車両で暖房を行う場合や、夏季で長時間放置された車両で冷房を行う場合には、目標吹出温度と内気温度との差が大きくなる。このような場合には、制御装置50は、風量が多くなるようにブロアモータ5bを制御するが、乗員が風量切替スイッチを操作して好みの風量にすることもできるようになっている。また、オートエアコン制御では、目標吹出温度と内気温度との差が小さくなるにつれて風量が少なくなるようにブロアモータ5bを制御する。ブロアモータ5bの制御は印加電圧の変更によって行われるが、これに限られるものではなく、ブロアモータ5bの回転数を変更できればよい。
【0073】
また、制御装置50は、送風量推定手段50aを備えている。送風量推定手段50aは、冷却用熱交換器32に送風される送風量を推定するための部分であり、具体的には、ブロアモータ5bに印加される電圧を検出し、この電圧に基づいて冷却用熱交換器32に送風される送風量を推定する。ブロアモータ5bに印加される電圧が高ければ高いほど冷却用熱交換器32に送風される送風量が多いと推定し、ブロアモータ5bに印加される電圧が低ければ低いほど冷却用熱交換器32に送風される送風量が少ないと推定する。また、送風量推定手段50aは、ブロアモータ5bの回転数を検出することによって冷却用熱交換器32に送風される送風量を推定するように構成してもよい。
【0074】
また、制御装置50は、目標蒸発器出口温度演算手段50bを備えている。目標蒸発器出口温度演算手段50bは、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替える直前の目標蒸発器出口温度を演算するための部分である。目標蒸発器出口温度は、例えば外気温度や内気温度、乗員による設定温度等に基づいて演算することができ、外気温度や内気温度が高くかつ乗員による設定温度が低い場合のように強い冷房が必要な場合には、目標蒸発器出口温度が高く演算され、反対に弱い冷房でよい場合には、目標蒸発器出口温度が低く演算される。
【0075】
また、制御装置50は、制御初期値決定手段50cを備えている。制御初期値決定手段50cは、送風量推定手段50aで推定された送風量と、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて可変容量圧縮機61の制御初期値を決定するように構成されている。制御初期値は、送風量推定手段50aで推定された送風量が多ければ多いほど可変容量圧縮機61の吐出容量を増やす方向に変更され、送風量推定手段50aで推定された送風量が少なければ少ないほど可変容量圧縮機61の吐出容量を減らす方向に変更される。また、制御初期値は、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度が高ければ高いほど可変容量圧縮機61の吐出容量を増やす方向に変更され、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度が低ければ低いほど可変容量圧縮機61の吐出容量を減らす方向に変更される。
【0076】
また、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差が大きければ大きいほど、可変容量圧縮機61の吐出容量を増やす方向に制御初期値が変更される。また、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差が小さければ小さいほど、可変容量圧縮機61の吐出容量を減らす方向に制御初期値が変更される。
【0077】
また、制御装置50は、保持時間決定手段50dを備えている。保持時間決定手段50dは、制御初期値決定手段50cで決定された制御初期値を保持する保持時間を決定する部分であり、送風量推定手段50aで推定された送風量と、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差との少なくとも1つに基づいて保持時間を決定する。
【0078】
保持時間は、送風量推定手段50aで推定された送風量が多ければ多いほど長くなるように決定され、送風量推定手段50aで推定された送風量が少なければ少ないほど短くなるように変更される。また、保持時間は、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度が高ければ高いほど長くなるように決定され、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度が低ければ低いほど短くなるように決定される。
【0079】
また、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差が大きければ大きいほど、長くなるように保持時間が決定される。また、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度及びエバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度の温度偏差が小さければ小さいほど短くなるように保持時間が決定される。
【0080】
また、保持時間決定手段50dは、エンジン回転数センサ57で検出されたエンジンの回転数に基づいて保持時間を決定するように構成されていてもよい。エンジン回転数センサ57で検出されたエンジンの回転数が高ければ高いほど短くなるように保持時間が決定され、エンジン回転数センサ57で検出されたエンジンの回転数が低ければ低いほど長くなるように保持時間が決定される。
【0081】
制御装置50は、制御初期値決定手段50cで決定された制御初期値を、保持時間決定手段50dで決定された所定の保持時間連続して可変容量圧縮機61に出力する初期値保持制御を行い、保持時間決定手段50dで決定された所定の保持時間の経過後、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度との温度偏差に応じた通常制御を行うように構成されている(図6参照)。初期値保持制御は、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替えた直後から行われ、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替える制御信号を電磁クラッチ61b及び可変容量圧縮機61に出力すると同時に、制御初期値を可変容量圧縮機61に出力する。保持時間の計測は、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替えた直後から開始される。
【0082】
図6に示すように、制御装置50は、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替える際に制御初期値を出力する。すると、可変容量圧縮機61が制御初期値に応じた容量で作動を開始し、その後、応答遅延を伴い、蒸発器出口温度が低下していく。応答遅延は、状況に応じて異なっており、例えば周囲の温度が高ければ、遅延時間が長くなる傾向にある。また、例えば、エンジンEの回転数が低ければ、遅延時間が長くなる傾向にある。
【0083】
制御装置50は、蒸発器出口温度の低下を検出するが、初期値保持制御を保持時間継続するので、蒸発器出口温度が低下しても、制御初期値に応じた容量で可変容量圧縮機61が作動を継続する。制御装置50は、保持時間が経過すると通常制御を行う。通常制御では、目標蒸発器出口温度を演算し、蒸発器出口温度が目標蒸発器出口温度となるように、可変容量圧縮機61への制御信号を出力し、可変容量圧縮機61の容量を増減させる。
【0084】
制御装置50は、通常制御時における可変容量圧縮機61の制御ゲインを蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度に応じて変化させるように構成されておより、制御ゲインを段階的に変化させる分段制御を行う。制御装置50は、制御ゲインを、エバ後温度センサ54で検出された蒸発器出口温度によって変化させるように構成されていてもよい。
【0085】
制御装置50は、制御ゲインを変化させる蒸発器出口温度を、送風量推定手段50aで推定された送風量と、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度演算手段50bで演算された目標蒸発器出口温度とによって変更するように構成することができる。さらに、制御装置50は、蒸発器出口温度と、蒸発器温度変化量とに基づいて制御ゲインを演算するように構成することができる。また、制御装置50は、可変容量圧縮機16の作動時間が所定時間以上になると、分段制御を終了し、制御ゲインを所定のゲインに固定するように構成することができる。この所定時間とは、車室の室温が過渡期を過ぎて安定期に入るまでの時間とすることができ、車室内温度の変化度合いが大きい場合には所定時間未満であるとし、車室内温度の変化度合いが小さい場合や殆ど変化がない場合には所定時間以上であるとする。また、設定温度と車室内温度との差が大きい場合には所定時間未満であるとし、設定温度と車室内温度との差が小さい場合や殆ど変化がない場合には所定時間以上であるとする。
【0086】
以下、制御装置50による具体的な制御内容について図3から図5に基づいて説明する。図3は、空調温度制御が開始されてから行われる制御である。空調温度制御は、乗員による空調のON操作等によって開始される。ステップSA1では、空調温度制御信号が入力される。ステップSA2では、目標エバポレータ後温度、即ち、冷却用熱交換器32から流出する空気の温度である蒸発器出口温度を取得する。ステップSA3では、制御初期値決定手段50cにより、制御開始時の制御入力信号を演算する。ステップSA4では、蒸発器入口温度検出センサ56で検出された温度に基づいて蒸発器入口温度を予測する。ステップSA5では、可変容量圧縮機61の初期制御信号StartDuty(制御初期値)を制御初期値決定手段50cが決定する。また、保持時間決定手段50dが保持時間を演算する。
【0087】
その後、ステップSA6では、制御装置50が初期制御信号StartDutyを制御値として出力する。ステップSA7では、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替えた直後から経過した時間(圧縮機作動時間)が保持時間(初期値MIN保持時間)以下であるか否かを判定する。ステップSA7でYESと判定された場合には、圧縮機作動時間が初期値MIN保持時間を経過していないということであり、ステップSA7に戻る。ステップSA7でNOと判定された場合には、圧縮機作動時間が初期値MIN保持時間を経過したということであり、図4に示すフローチャートのステップSB1に進む。ステップSB1では、エバポレータ後温度Tevap、即ち、冷却用熱交換器32から流出する空気の温度である蒸発器出口温度を読み取る。
【0088】
その後、ステップSB2に進み、可変容量圧縮機61を停止状態から作動状態に切り替えた直後から経過した時間(圧縮機作動時間)が所定時間以下であるか否かを判定する。ステップSB2でYESと判定された場合には、圧縮機作動時間が所定時間を経過していないということであり、図3に示すフローチャートのステップSA7に戻る。ステップSB2でNOと判定された場合には、圧縮機作動時間が所定時間を経過したということであり、ステップSB3に進む。
【0089】
ステップSB3では、エバポレータ後温度変化率(蒸発器温度変化量)を判定する。エバポレータ後温度変化率は、ΔTevapであり、Tevap(n)-Tevap(n-1)で算出される。このエバポレータ後温度変化率の判定は、図5に示すグラフに基づいて行われる。縦軸は「有効」と「無効」の2種類の判定を示している。横軸は、エバポレータ後温度Tevap(n)からエバポレータ後温度Tevap(n-1)を差し引いた値(℃)である。この値が-0.1℃と0.1℃を境にして、0.1℃よりも低い側から0.1℃に達すると、有効から無効になり、-0.1℃よりも高い側から-0.1℃に達すると、無効から有効になる。この判定基準及び判定手法は一例であり、これに限られるものではない。
【0090】
ステップSB4では、エバポレータ後温度Tevap≧エバポレータ後温度Tevap1を判定する。時系列では、エバポレータ後温度Tevap1、エバポレータ後温度Tevapの順になる。ステップSB4でYESと判定されれば、図3に示すフローチャートのステップSA7に進み、ステップSB4でNOと判定されれば、ステップSB5に進む。ステップSB5では、エバポレータ後温度Tevap1≧エバポレータ後温度Tevap>エバポレータ後温度Tevap2、かつ、上記判定が「有効」であるか否かを判定する。時系列では、エバポレータ後温度Tevap1、エバポレータ後温度Tevap2、エバポレータ後温度Tevapの順になる。
【0091】
ステップSB5でYESと判定されれば、ステップSB6に進み、通常制御時の制御ゲインとして制御ゲイン1(第1制御ゲイン)を決定する。ステップSB7では、ステップSB6で決定された制御ゲイン1に基づいて演算された制御値が可変容量圧縮機61に出力される。
【0092】
ステップSB5でNOと判定された場合には、ステップSB8に進む。ステップSB8では、エバポレータ後温度Tevap2≧エバポレータ後温度Tevap>エバポレータ後温度Tevap3、かつ、上記判定が「有効」であるか否かを判定する。時系列では、エバポレータ後温度Tevap2、エバポレータ後温度Tevap3、エバポレータ後温度Tevapの順になる。ステップSB8でYESと判定されれば、ステップSB9に進み、通常制御時の制御ゲインとして制御ゲイン2(第2制御ゲイン)を決定する。ステップSB7では、ステップSB9で決定された制御ゲイン2に基づいて演算された制御値が可変容量圧縮機61に出力される。
【0093】
ステップSB8でNOと判定された場合には、ステップSB10に進む。ステップSB10では、エバポレータ後温度Tevap≦エバポレータ後温度Tevap3であるか否かを判定する。時系列では、エバポレータ後温度Tevap、エバポレータ後温度Tevap3の順になる。ステップSB10でNOと判定されれば、ステップSB11に進み、通常制御時の制御ゲインとして制御ゲイン3(第3制御ゲイン)を決定する。ステップSB7では、ステップSB11で決定された制御ゲイン3に基づいて演算された制御値が可変容量圧縮機61に出力される。
【0094】
ステップSB10でNOと判定された場合には、ステップSB12に進み、通常制御時の制御ゲインとして制御ゲイン3(第3制御ゲイン)を決定する。ステップSB13では、ステップSB12で決定された制御ゲイン3に基づいて演算された制御値が可変容量圧縮機61に出力される。そして、ステップSB14に進み、エバポレータ後温度を読み取る。ステップSB14でエバポレータ後温度を読み取った後、ステップSB12に進む。したがって、ステップSB10で一旦NOと判定されたら、制御ゲイン3として、次の制御周期からステップSB4、SB5及びSB8には進まず、圧縮器61がOFFとなるまで、制御ゲイン3を維持する。
【0095】
したがって、図6に示すように、制御ゲイン1は、制御ゲイン2、3よりも早いタイミングで適用される制御ゲインであり、また、制御ゲイン2は、制御ゲイン3よりも早いタイミングで適用される制御ゲインである。制御ゲイン1は制御ゲイン2、3よりも高い値であり、また、制御ゲイン2は、制御ゲイン3よりも高い値となっている。
【0096】
(実施形態の作用効果)
以上説明したように、この実施形態によれば、冷却用熱交換器32に送風される送風量と、蒸発器入口温度と、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度の温度偏差とに基づいて可変容量圧縮機61の制御初期値を決定することができる。この制御初期値が可変容量圧縮機61に出力されると、可変容量圧縮機61が停止状態から作動状態に切り替えられる。制御初期値は、冷却用熱交換器32に送風される送風量や、蒸発器入口温度、目標蒸発器出口温度及び蒸発器出口温度の温度偏差に基づいて設定されているので、冷凍サイクル装置60の運転前の状況が反映された値であり、その状況に適した制御初期値となっている。そして、この制御初期値が所定の保持時間連続して可変容量圧縮機61に出力されるので、蒸発器温度の応答が遅れたとしても、蒸発器温度のオーバーシュートやアンダーシュートが発生することなく、冷却用熱交換器32が早く目標蒸発器温度となって安定する。したがって、冷却用熱交換器32の温度の安定性及び即応性を向上させることができる。
【0097】
また、可変容量圧縮機61を車両のエンジンEで駆動する場合には、エンジンEの回転数によって可変容量圧縮機61への入力量が大きく異なることになる。このエンジンEの回転数に基づいて保持時間を決定することで、保持時間がエンジンEの回転数に応じた適切な時間になる。
【0098】
また、制御ゲインを変化させる際、送風量、蒸発器入口温度、目標蒸発器出口温度によって変更される蒸発器出口温度を使用することで、制御ゲインが冷凍サイクル装置60の運転状況に応じて変化するようになる。
【0099】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0100】
以上説明したように、本発明に係る冷凍サイクル装置は、例えば、車両用空調装置の一部として使用することができる。
【符号の説明】
【0101】
1 車両用空調装置
32 冷却用熱交換器(蒸発器)
50 制御装置
50a 送風量推定手段
50b 目標蒸発器出口温度演算手段
50c 制御初期値決定手段
50d 保持時間決定手段
54 エバ後温度センサ(蒸発器出口温度検出手段)
56 蒸発器入口温度検出センサ(蒸発器入口温度検出手段)
57 エンジン回転数センサ(エンジン回転数検出手段)
60 冷凍サイクル装置
E エンジン
図1
図2
図3
図4
図5
図6