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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】摺動部材
(51)【国際特許分類】
   C25D 7/10 20060101AFI20221216BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20221216BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20221216BHJP
   C25D 5/30 20060101ALI20221216BHJP
   F16C 33/12 20060101ALI20221216BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20221216BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20221216BHJP
【FI】
C25D7/10
C22C12/00
C22C21/00 B
C25D5/30
F16C33/12 A
C22C38/00 301Z
C22C38/04
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019025556
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020132924
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000207791
【氏名又は名称】大豊工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000660
【氏名又は名称】Knowledge Partners弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100167254
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 貴亨
(72)【発明者】
【氏名】須賀 茂幸
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057769(JP,A)
【文献】特開2010-249216(JP,A)
【文献】特開2010-222647(JP,A)
【文献】国際公開第2019/017182(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 7/10
C22C 12/00
C22C 21/00
C25D 5/30
F16C 33/12
C22C 38/00
C22C 38/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BiとSbの合金めっき被膜によって形成されたオーバーレイを備えた摺動部材であって、
Al合金で形成されたライニングと、
Cuを主成分とし、ライニング上に積層された第1中間層と、
Agを主成分とし、前記第1中間層と前記オーバーレイとを接合する第2中間層と、
を備え
前記第2中間層は、厚みが2μm以上、5μm未満であることを特徴とする摺動部材。
【請求項2】
前記第2中間層は、純AgまたはAg-Snによって形成されている、
請求項1に記載の摺動部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、BiとSbの合金めっき被膜のオーバーレイを備えた摺動部材に関する。
【背景技術】
【0002】
Biの被覆層とAgの中間層とからなるオーバーレイを備えた摺動部材が知られている(特許文献1、参照。)。特許文献1においては、中間層におけるAgの結晶粒のサイズを調整することにより、オーバーレイの層間の密着性を向上させている。さらに、被覆層におけるBiの結晶粒のサイズを調整することにより、オーバーレイの層間の密着性と耐疲労性とを向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3693256号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1において、軸受合金層をAl合金で形成した場合、Al合金の軸受合金層とAgの中間層の間の剥離が生じるという問題があった。Al合金とAgのめっき皮膜との間の密着性が悪いからである。
さらに、特許文献1のように、オーバーレイ層にCuとSbとが併存する構成を採用すると、オーバーレイ層にCu-Sb化合物が形成され、当該Cu-Sb化合物が耐疲労性を悪化させるという問題があった。
本発明は、前記課題にかんがみてなされたもので、オーバーレイにおけるCu-Sb化合物の生成と層間の剥離とが生じる可能性を低減できる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、本発明の摺動部材は、BiとSbの合金めっき被膜によって形成されたオーバーレイを備えた摺動部材であって、Al合金で形成されたライニングと、Cuを主成分とし、ライニング上に積層された第1中間層と、Agを主成分とし、第1中間層と前記オーバーレイとを接合する第2中間層と、を備える。
【0006】
前記の構成において、オーバーレイに軟質のBiだけでなく硬質のSbが含まれるため、硬質のSbによって耐疲労性や耐摩耗性を向上させることができる。ここで、CuはBiよりもSbに拡散しやすいという性質がある。オーバーレイにおけるSbの平均濃度を高くするほど(例えば3質量%以上)にすると、第1中間層からオーバーレイに拡散したCuが耐疲労性を低下させる可能性が生じることとなる。
【0007】
これに対して、Cuの拡散障壁となるAgを主成分とする第2中間層を、第1中間層とオーバーレイとの間に介在させることにより、Cuを主成分とする第1中間層からオーバーレイに拡散するCuの量を低減でき、耐疲労性が低下する可能性を低減できる。また、Agを主成分とする第2中間層とAl合金で形成されたライニングとの間に、Cuを主成分とする第1中間層を介在させることにより、第2中間層とライニングとの間の層間の剥離が発生する可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態にかかる摺動部材の斜視図である。
図2】摺動部材の断面模式図である。
図3】疲労試験の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)第1実施形態:
(1-1)摺動部材の構成:
(1-2)摺動部材の製造方法:
(2)実験結果:
(3)他の実施形態:
【0010】
(1)第1実施形態:
(1-1)摺動部材の構成:
図1は、本発明の一実施形態にかかる摺動部材1の斜視図である。摺動部材1は、裏金10とライニング11と中間層12とオーバーレイ13とを含む。摺動部材1は、中空状の円筒を直径方向に2等分した半割形状の金属部材であり、断面が半円弧状となっている。2個の摺動部材1を円筒状になるように組み合わせることにより、すべり軸受Aが形成される。すべり軸受Aは内部に形成される中空部分にて円柱状の相手軸2(エンジンのクランクシャフト)を軸受けする。相手軸2の外径はすべり軸受Aの内径よりもわずかに小さく形成されている。相手軸2の外周面と、すべり軸受Aの内周面との間に形成される隙間に潤滑油(エンジンオイル)が供給される。その際に、すべり軸受Aの内周面上を相手軸2の外周面が摺動する。
【0011】
図2は、摺動部材1の断面模式図である。摺動部材1は、曲率中心から遠い順に、裏金10とライニング11と中間層12とオーバーレイ13とが順に積層された構造を有する。従って、裏金10が摺動部材1の最外層を構成し、オーバーレイ13が摺動部材1の最内層を構成する。裏金10とライニング11と中間層12とオーバーレイ13とは、それぞれ円周方向において約一定の厚みを有している。裏金10の厚みは1.8mmであり、ライニング11の厚みは0.2mmであり、中間層12の厚みは6.0μmであり、オーバーレイ13の厚みは15μmである。オーバーレイ13の曲率中心側の表面の半径の2倍(摺動部材1の内径)は40mmである。すべり軸受Aの幅は20mmである。以下、内側とは摺動部材1の曲率中心側を意味し、外側とは摺動部材1の曲率中心と反対側を意味することとする。オーバーレイ13の内側の表面は、相手軸2の摺動面を構成する。
【0012】
裏金10は、Cを0.15質量%含有し、Mnを0.06質量%含有し、残部がFeからなる低炭素鋼で形成されている。なお、裏金10は、ライニング11とオーバーレイ13とを介して相手軸2からの荷重を支持できる材料で形成されればよく、必ずしも低炭素鋼で形成されなくてもよい。
【0013】
ライニング11は、裏金10の内側に積層された層である。ライニング11は、Al合金で形成され、Snを7質量%含有し、Siを3質量%含有し、残部がAlと不可避不純物とからなる。ライニング11の不可避不純物はMg,Ti,B,Pb,Cr等であり、精錬もしくはスクラップにおいて混入する不純物である。ライニング11における不可避不純物の含有量は、全体で0.5質量%以下である。ライニング11は、Alを主成分とするAl合金で形成されればよく、Al合金の組成は特に限定されない。
【0014】
中間層12は、第1中間層12Aと第2中間層12Bとからなる。第1中間層12Aは、Cuを主成分とし、ライニング11上に積層されている。第2中間層12Bは、Agを主成分とし、第1中間層12Aとオーバーレイ13とを接合する。本実施形態において、第1中間層12Aは純Agで形成され、第2中間層12Bは純Cuで形成されている。中間層12における不可避不純物の含有量は、全体で0.5質量%以下である。第1中間層12Aの厚みは1μmであり、第2中間層12Bの厚みは5μmである。
【0015】
オーバーレイ13は、中間層12の内側の表面上に積層された層である。オーバーレイ13は、BiとSbの合金めっき被膜である。また、オーバーレイ13は、BiとSbと不可避不純物とからなる。オーバーレイ13におけるSbの含有量は5.5質量%であり、残部がBiと不可避不純物とからなる。オーバーレイ13におけるSbの濃度は、電子線マイクロアナライザ(日本電子製 JMS-6610A)を用いて、エネルギー分散型X線分光法により計測した。オーバーレイ13おける不可避不純物の含有量は、全体で0.5質量%以下である。
【0016】
以上説明した摺動部材1と同様に形成した疲労試験片(コンロッドR)を作成し、疲労試験後の疲労面積率を計測したところ、疲労面積率は4%と良好であった。コンロッドRの内径を40mmとし、幅を20mmとした。
【0017】
疲労面積率は、以下の手順で計測した。図3は、摺動試験機の説明図である。まず、図3に示すように、長さ方向の両端に円柱状の貫通穴が形成されたコンロッドRを用意し、一端の貫通穴にて試験軸H(ハッチング)を軸受けさせた。
【0018】
なお、コンロッドRの貫通穴において摺動部材1(黒色)を装着して試験軸Hを軸受けした。試験軸Hの軸方向におけるコンロッドRの両外側において試験軸Hを軸受けし、摺動速度が7m/秒となるように試験軸Hを回転させた。摺動速度とは、オーバーレイ13の表面と試験軸Hとの間の相対速度である。試験軸Hとは反対側のコンロッドRの端部を、コンロッドRの長さ方向に往復移動する移動体Fに連結し、当該移動体Fの往復荷重を90MPaとした。また、コンロッドRに装着された摺動部材1と試験軸Hとの間には、約140℃のエンジンオイルを給油した。
【0019】
以上の状態を50時間にわたって継続することにより、オーバーレイ13の疲労試験を行った。そして、疲労試験後において、オーバーレイ13の内側の表面(摺動面)を、当該表面に直交する直線上の位置から当該直線を主光軸とするように撮影し、当該撮影された画像である評価画像を得た。そして、評価画像に映し出されたオーバーレイ13の表面のうち損傷した部分をビノキュラー(拡大鏡)で観察して特定し、当該損傷した部分の面積である損傷部面積を、評価画像に映し出されたオーバーレイ13の表面全体の面積で除算した値の百分率を疲労面積率として計測した。
【0020】
また、本実施形態の摺動部材1と同様に形成した摩耗試験片(コンロッドR)を作成し、摩耗試験後の摩耗量を計測したところ、摩耗量は0.7mm3と良好であった。摩耗試験も図3の摺動試験機によって行った。摩耗試験においては、10秒間だけ摺動速度が3m/秒となる状態と、10秒間だけ摺動速度が0m/秒となる状態とを交互に繰り返すことを10時間(1800サイクル)だけ継続した。移動体Fの往復荷重を3kPaとした。また、コンロッドRに装着された摺動部材1と試験軸Hとの間には、約100℃のエンジンオイルを給油した。コンロッドRの内径を50mmとし、幅を20mmとした。
【0021】
以上説明した疲労試験後と摩耗試験後の試験片を観察したところ、ライニング11と第1中間層12Aと第2中間層12Bとオーバーレイ13との間のめっき密着性は良好であった。めっき密着性が良好であるとは、第1中間層12Aと第2中間層12Bとオーバーレイ13のいずれもが剥離していないことである。
【0022】
以上説明した本実施形態において、オーバーレイ13に軟質のBiだけでなく硬質のSbが含まれるため、硬質のSbによって耐疲労性や耐摩耗性を向上させることができる。ここで、CuはBiよりもSbに拡散しやすいという性質がある。オーバーレイ13におけるSbの平均濃度を高くするほど(例えば3質量%以上)にすると、第1中間層12Aからオーバーレイ13に拡散したCuが耐疲労性を低下させる可能性が生じることとなる。
【0023】
これに対して、Cuの拡散障壁となるAgを主成分とする第2中間層12Bを、第1中間層12Aとオーバーレイ13との間に介在させることにより、Cuを主成分とする第1中間層12Aからオーバーレイ13に拡散するCuの量を低減でき、耐疲労性が低下する可能性を低減できる。また、Agを主成分とする第2中間層12BとAl合金で形成されたライニング11との間に、Cuを主成分とする第1中間層12Aを介在させることにより、第2中間層12Bとライニング11との間の層間の剥離が発生する可能性を低減できる。
【0024】
(1-2)摺動部材の製造方法:
まず、ライニング11の溶融材料を鋳型に注入し、当該鋳型の開口からライニング11の溶融材料を鋳造方向に引き抜くことにより、ライニング11の連続鋳造板を形成した。次に、ライニング11の連続鋳造板を、ライニング11の厚さとなるまで冷間圧延する。さらに、裏金10の低炭素鋼板(市販品)も合わせて冷間圧延することにより、中間層12のAl合金板側に裏金10の低炭素鋼板を圧着した。以上により、ライニング11の連続鋳造板と裏金10の低炭素鋼板とが圧着された摺動部材1の圧延板を形成した。
【0025】
次に、摺動部材1の圧延板を所定の大きさごとに切断する。所定の大きさとは、後述する機械加工を行うことにより、摺動部材1が形成できる大きさであり、摺動部材1が取り付けられるコンロッドRの形状によって定まる大きさである。さらに、切断後の摺動部材1の圧延板に対してプレス加工を行うことにより、半割形状とした。
【0026】
次に、ライニング11の表面上にCuを電気めっきによって1μmの厚みだけ積層することにより、第1中間層12Aを形成した。次に、第1中間層12Aの表面上にAgを電気めっきによって5μmの厚みだけ積層することにより、第2中間層12Bを形成した。
【0027】
次に、第2中間層12Bの表面上にBi-Sbを電気めっきによって15μmの厚みだけ積層することにより、オーバーレイ13を形成した。電気めっきの手順は以下のとおりとした。まず、第2中間層12Bの表面を水洗した。さらに、第2中間層12Bの表面を酸洗することにより、第2中間層12Bの表面から不要な酸化物を除去した。その後、第2中間層12Bの表面を、再度、水洗した。
【0028】
以上の前処理が完了すると、めっき浴に浸漬させたライニング11に電流を供給することにより電気めっきを行った。メタンスルホン酸:150g/LとBiイオン:30g/LとSbイオン:1g/Lと有機系界面活性剤:25g/Lとを含むめっき浴の浴組成とした。めっき浴の浴温度を、30℃とした。さらに、ライニング11に供給する電流を直流電流とし、その電流密度を3A/dm2とした。
【0029】
以上のようにして、電気めっきを行った後に、水洗と乾燥を行った。これにより、摺動部材1を完成させた。さらに、2個の摺動部材1を円筒状に組み合わせることにより、すべり軸受Aを形成し、エンジンに取り付けた。
【0030】
(2)実験結果:
【表1】
表1は、本発明の実施例1~6と比較例7~14の構成を比較した表である。実施例1~6と比較例7~14の試験片は、オーバーレイ13におけるSbの含有量と第1中間層12Aと第2中間層12Bの厚みを変化させた摺動部材1である。
【0031】
実施例1~6と比較例7~14について、上述した手法によって摩耗量と疲労面積率とを計測した。第1実施形態は実施例2に該当する。実施例1~6においては、耐摩耗性と耐疲労性とめっき密着性がいずれも良好であった。比較例1~6においては、耐摩耗性と耐疲労性とめっき密着性のいずれかが良好ではなかった。なお、耐摩耗性が良好であることは摩耗量が1.0mm3以下であることであり、耐疲労性が良好であることは疲労面積率が10%以下であることとする。
【0032】
表1に示すように、比較例13,14においては、めっき密着性が良好とならなかった。比較例13,14においては、第1中間層12Aの厚みが0μm,0.1μmであり、第1中間層12Aの厚みが不十分であったためである。一方、第1中間層12Aの厚みが0.3μmである実施例6においては、めっき密着性が良好となった。第1中間層12Aの厚みを0.3μm以上とすることにより、めっき密着性が良好となることを確認できた。
【0033】
比較例9,12においては、耐疲労性が良好とならなかった。比較例9,12においては、第2中間層12Bの厚みが0μm,1μmであり、第2中間層12Bの厚みが不十分であったためである。一方、第2中間層12Bの厚みが3μmである実施例5においては、耐疲労性が良好となった。
【0034】
【表2】
表2は、オーバーレイ13におけるCuの拡散濃度を熱処理の前後において計測した結果を示す表である。実施例Aは厚みが2μmの純Agの第2中間層12BをCuの下地上に積層したものである。実施例Bは厚みが2μmのAg-Snの第2中間層12BをCuの下地上に積層したものである。比較例Cは、第2中間層12Bを省略し、Cuの下地上にオーバーレイ13を直接積層したものである。実施例A,Bと比較例Cにおいて、オーバーレイ13におけるSnの含有量を5質量%とした。また、熱処理は、150℃の大気中で50時間保持することによって行った。
【0035】
表2に示すように、Cuの下地上にオーバーレイ13を直接積層した比較例Cにおいては、オーバーレイ13の下界面からの距離が短い測定箇所であるほど熱処理後のCuの濃度が大きくなっている。熱処理において下地からオーバーレイ13へとCuが拡散したためである。一方、実施例A,Bのように、純AgまたはAg-Snで形成した第2中間層12Bの厚みを2μm以上とすることにより、第2中間層12Bによるオーバーレイ13に対するCuの拡散防止効果を十分に発揮できることが確認できた。
【0036】
また、表1の比較例7,8においては耐摩耗性と耐疲労性がいずれも良好とならなかった。比較例7,8においては、オーバーレイ13におけるSbの含有量が0質量%,2.1質量%であり、硬質のSbの含有量が不十分であったためである。一方、オーバーレイ13におけるSbの含有量が3質量%である実施例1においては、耐摩耗性と耐疲労性がいずれも良好となった。オーバーレイ13におけるSbの含有量を3質量%以上とすることにより、オーバーレイ13を強化することができ、耐摩耗性と耐疲労性が良好となることを確認できた。
【0037】
さらに、比較例10,11においては耐疲労性が良好とならなかった。オーバーレイ13におけるSbの含有量が11.5質量%,13.7質量%であり、過剰なSbによってオーバーレイ13のめっき皮膜の品質が低下したためである。一方、オーバーレイ13におけるSbの含有量が10質量%である実施例4においては、耐摩耗性と耐疲労性がいずれも良好となった。オーバーレイ13におけるSbの含有量を10質量%以下とすることにより、オーバーレイ13のめっき皮膜の品質を維持することができ、耐摩耗性と耐疲労性が良好となることを確認できた。
【0038】
(3)他の実施形態:
前記実施形態においては、エンジンのクランクシャフトを軸受けするすべり軸受Aを構成する摺動部材1を例示したが、本発明の摺動部材1によって他の用途のすべり軸受Aを形成してもよい。例えば、本発明の摺動部材1によってトランスミッション用のギヤブシュやピストンピンブシュ・ボスブシュ等のラジアル軸受を形成してもよい。さらに、本発明の摺動部材は、スラスト軸受であってもよく、各種ワッシャであってもよいし、カーエアコンコンプレッサ用の斜板であってもよい。また、ライニング11のマトリクスはCu合金に限られず、相手軸2の硬さに応じてマトリクスの材料が選択されればよい。また、裏金10は、必須ではなく省略されてもよい。
【符号の説明】
【0039】
1…摺動部材、2…相手軸、10…裏金、11…ライニング、12…中間層、12A…第1中間層、12B…第2中間層、13…オーバーレイ、A…すべり軸受、F…移動体、H…試験軸、R…コンロッド
図1
図2
図3