(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】超純水中の有機物評価方法、および超純水製造システムにおける有機物特定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20221216BHJP
G01N 1/10 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01N1/10 W
G01N1/10 B
G01N1/10 C
(21)【出願番号】P 2019031452
(22)【出願日】2019-02-25
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】津田 晃彦
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開昭63-032342(JP,A)
【文献】特開2009-156657(JP,A)
【文献】特開2017-227577(JP,A)
【文献】特開2016-107235(JP,A)
【文献】特開2012-192315(JP,A)
【文献】特開2001-153854(JP,A)
【文献】特開2003-275760(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0001094(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62 - G01N 21/74
G01N 1/00 - G01N 1/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超純水製造システムの超純水をサンプリングする第1工程と、
該サンプリングされた超純水を多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる第2工程と、
前記多孔質体に付着した有機物を溶出させて溶出液を得る第3工程と、
該溶出液を蛍光光度法により測定する第4工程と、
前記第4工程における測定に基づき前記超純水中の有機物を評価する第5工程と
を有
し、
前記第1工程は超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜前の超純水をサンプリングするものであり、
前記多孔質体は、前記ろ過膜と同等以下の分画分子量を有するろ過膜及びモノリス樹脂から選択される1種であることを特徴とする超純水中の有機物評価方法。
【請求項2】
前記第3工程で有機物を溶出させる溶媒が、アルコール類、酸水溶液、アルカリ水溶液から選択される1種であることを特徴とする請求項
1に記載の超純水中の有機物評価方法。
【請求項3】
前記有機物が、励起波長200nm~340nm、蛍光波長280nm~380nmの蛍光強度を有するものである請求項1
又は2に記載の超純水中の有機物評価方法。
【請求項4】
超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜の前段にある複数の装置のそれぞれの出口の超純水をサンプリングする第1工程と、
該サンプリングされた超純水をそれぞれ多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる第2工程と、
それぞれの多孔質体に付着した有機物を溶出させて溶出液を得る第3工程と、
前記ろ過膜に付着した有機物を溶出させて対照溶出液を得る第4工程と、
前記第3工程で得た各溶出液と、前記第4工程で得た対照溶出液を蛍光光度法により測定する第5工程と、
前記第5工程の測定結果より得られる、前記対照溶出液に現れる蛍光ピークとそれぞれの前記溶出液に現れる蛍光ピークとを比較して、前記対照溶出液に現れる蛍光ピークで同定される有機物を含む前記超純水を特定する第6工程と、を有することを特徴とする超純水製造システムにおける有機物特定方法。
【請求項5】
前記多孔質体は、前記ろ過膜と同等以下の分画分子量を有するろ過膜、モノリス樹脂、合成吸着剤から選択される1種である、請求項
4に記載の超純水製造システムにおける有機物特定方法。
【請求項6】
前記第3工程及び第4工程で有機物を溶出させる溶媒が、アルコール類、酸水溶液、アルカリ水溶液から選択される1種であることを特徴とする請求項
4又は
5に記載の有超純水製造システムにおける有機物特定方法。
【請求項7】
前記有機物が、励起波長200nm~340nm、蛍光波長280nm~380nmの蛍光強度を有するものである請求項
4乃至
6のいずれか1項に記載の超純水製造システムにおける有機物特定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は超純水製造システムの超純水に含まれる有機物を評価する超純水中の有機物評価方法に関する。又、本発明は超純水製造システムにおける有機物特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶・半導体・電子部品製造の洗浄工程など高品質の超純水が要求されている。超純水製造システムとしては、この要望に応えるため、前処理、一次純水製造システム、二次超純水製造システムなどがユニット化されたものが知られている。
【0003】
超純水製造システムの出口には、限外ろ過膜(UF膜)が配置されていることが多いが、ほとんど不純物を含まない超純水中にも極微量の有機物が残存し、この極微量の有機物が出口のUF膜の閉塞、いわゆる膜ファウリングをもたらすことがある。この膜ファウリングが発生した段階では、極微量の有機物は、使用しているイオン交換樹脂や膜材など、機能材及び構成部材からの溶出や、系内に存在する生物起源の有機物によるものと予測できる。
【0004】
膜ファウリング物質同定のための分析手法としては、実際に閉塞した膜から薬品により閉塞成分を抽出する方法や、膜表面堆積物を直接測定する方法が知られている。
【0005】
例えば、特許文献1では、ろ過対象水のろ過に用いた分離膜の汚染状態を分析する方法であって、ろ過後の分離膜に対して蛍光分光法及び近赤外分光法のいずれか一方又は双方を用いて測定する方法を提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1では、薬品による閉塞膜からの閉塞物成分の抽出は手間と時間を要するため膜面を直接評価する手法を採用している。有機物濃度がppmオーダーで高濃度の場合は、直接膜面を観察する手法や試料水中の分析を行うことで簡便に測定することが可能である。
しかしながら、超純水製造システムでは、膜ファウリングが発生する前では、超純水中の有機物濃度が極低濃度(0.Xppb~数ppb)程度であることから、装置ろ過膜の汚染状況について把握することができず、その原因を特定することも困難である。
【0008】
また、このような極低濃度の超純水中の有機物は、超純水を直接分析しても有機物の評価を行うことは非常に難しい。したがって、超純水のように極微量の有機物しか含まれない試料中の有機物を評価する場合には、濃縮による操作が不可欠である。
【0009】
ところが、濃縮すると言っても、加熱濃縮では生物起源の有機物などの場合に、当該有機物が変性してしまうため、正確な原因を究明することが困難となる。また、加熱濃縮では濃縮すべき超純水量が多量であるために、多大なコストが掛かる。
【0010】
そこで、本発明では超純水中の有機物を変性させることなく、安価に濃縮して有機物を評価する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、超純水製造システムのどこで膜ファウリングの原因物質が発生しているかを特定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、超純水中の有機物を多孔質体上で濃縮し、これを溶出した溶出液の状態で蛍光光度法により分析することで、有機物を変性させずに安価に特定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、超純水製造システムの超純水をサンプリングする第1工程と、該サンプリングされた超純水を多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる第2工程と、該有機物を付着した多孔質体から該有機物を溶出させて溶出液を得る第3工程と、該溶出液を蛍光光度法により測定する第4工程と、前記第4工程における測定に基づき前記超純水中の有機物を評価する第5工程とを有し、前記第1工程は超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜前の超純水をサンプリングするものであり、前記多孔質体は、前記ろ過膜と同等以下の分画分子量を有するろ過膜及びモノリス樹脂から選択される1種であることを特徴する評価方法、に関する。
【0013】
又、本発明は、超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜の前段にある複数の装置のそれぞれの出口の超純水をサンプリングする第1工程と、
該サンプリングされた超純水をそれぞれ多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる第2工程と、
それぞれの多孔質体に付着した有機物を溶出させて溶出液を得る第3工程と、
前記ろ過膜に付着した有機物を溶出させて対照溶出液を得る第4工程と、
前記第3工程で得た各溶出液と、前記第4工程で得た対照溶出液を蛍光光度法により測定する第5工程と、
前記第5工程の測定結果より得られる、前記対照溶出液に現れる蛍光ピークとそれぞれの前記溶出液に現れる蛍光ピークとを比較して、前記対照溶出液に現れる蛍光ピークで同定される有機物を含む前記超純水を特定する第6工程と、
を有することを特徴とする超純水製造システムにおける有機物特定方法、に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、超純水中の有機物を変性させることなく、安価に濃縮して有機物を評価する方法を提供できる。また、本発明により、超純水製造システムのどこで膜ファウリングの原因物質が発生しているかを特定する方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の有機物評価方法の工程を説明するフロー図である。
【
図2】超純水製造システムの構成とサンプリングか所を説明する概略図である。
【
図3】本発明の膜ファウリングの発生か所を特定する方法の工程を説明するフロー図である。
【
図4】閉塞UF膜(A)と新品UF膜(B)からIPAにより溶出した溶出液の蛍光3次元スペクトルを示す。
【
図5】
図4(A)から
図4(B)を差し引いた差スペクトルを示す。
【
図6】純水タンクから採取した超純水の蛍光3次元スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る方法は、
図1のフロー図に示すように、超純水製造システムの超純水をサンプリングするサンプリング工程Aと、該サンプリングされた超純水を多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる付着工程Bと、該有機物を付着した多孔質体から該有機物を溶出して溶出液を得る溶出工程Cと、該溶出液を蛍光光度法により測定する測定工程Dと、測定工程Dにおける測定に基づき超純水中の有機物を評価する評価工程Eを有する。
尚、本発明では、不純物を高度に除去した水であり、比抵抗10MΩ・cm以上の水を超純水と定義する。
【0017】
まず、超純水をサンプリングするサンプリング工程Aを実施する。なお、後述するように、膜ファウリングの原因物質を特定する場合、膜ファウリングが発生しているろ過膜の前段にある超純水製造システムの各装置の出口水をそれぞれサンプリングすることとなる。
【0018】
次に、該サンプリングされた超純水を多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる付着工程Bを実施する。
【0019】
一般に、超純水製造システムの出口のろ過膜には、限外ろ過膜(UF膜)が使用されている。該UF膜は分画分子量が数千の多孔質膜であることから、これに捉えられる有機物の分子量は数千以上となる。つまり、膜ファウリングの原因物質となる有機物の分子量は1000以上といえる。そこで、超純水中の極微量の有機物の濃縮に、同様の分画分子量を有する多孔質体あるいは吸着性能を有する多孔質体を使用して、該多孔質体上に有機物を付着させて濃縮する。
【0020】
ここで、付着工程Bは、分析装置で分析可能な濃度、すなわち、ppbオーダーの超純水中の有機物がppmオーダーまで濃縮されるまで実施する。
【0021】
使用する多孔質体としては、ろ過膜として使用されている限外ろ過膜(UF膜)、モノリス樹脂、若しくは合成吸着剤を用いることができる。
【0022】
付着工程Bでは、多孔質体を所定の口径の管状部材に配置した形態の濃縮キットを使用することが好ましい。
例えば、UF膜を使用する場合、UF膜を内包する、市販のペンシル型モジュールを濃縮キットとして使用することができる。モノリス樹脂や合成吸着剤は、超純水製造システムの接続配管にチューブを接続し、モノリス樹脂や合成吸着剤を充填したカラムにチューブとの接続具を取り付けて濃縮キットを構成し、流量及び時間を調整して付着工程Bを実施することができる。
【0023】
濃縮キット用のUF膜は超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜に使用されるものと同等かそれよりやや低い分画分子量を有するものを使用することができる。濃縮を速めるために、ろ過面積と通水量を最適化し、出口のろ過膜での有機物捕捉よりも速く濃縮することが好ましい。
【0024】
モノリス樹脂とはモノリス状有機多孔質体の骨格中にイオン交換基を導入したもので、モノリスアニオン交換体は、モノリス状有機多孔質体の骨格中にアニオン交換基が均一に分布するように導入されている多孔質体、モノリスカチオン交換体は、モノリス状有機多孔質体の骨格中にカチオン交換基が均一に分布するように導入されている多孔質体である。なお、モノリス状有機多孔質体は、骨格が有機ポリマーにより形成されており、骨格間に反応液の流路となる連通孔を多数有する多孔質体である。
【0025】
モノリスアニオン交換体の構造は、連続骨格相と連続空孔相からなる有機多孔質体であって、連続骨格の厚みは1~100μm、連続空孔の平均直径は1~1000μm、全細孔容積は0.5~50mL/gである。
【0026】
モノリスアニオン交換体の乾燥状態での連続骨格の厚みは1~100μmである。モノリスアニオン交換体の連続骨格の厚みが、1μm未満であると、体積当りのアニオン交換容量が低下するといった欠点のほか、機械的強度が低下して、特に高流速で通液した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形してしまうため好ましくない。更に、反応液とモノリスアニオン交換体との接触効率が低下し、触媒活性が低下するため好ましくない。一方、モノリスアニオン交換体の連続骨格の厚みが、100μmを越えると、骨格が太くなり過ぎ、基質の拡散に時間を要するようになって触媒活性が低下するため好ましくない。なお、連続骨格の厚みは、SEM観察により決定される。
【0027】
モノリスアニオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、1~1000μmである。モノリスアニオン交換体の連続空孔の平均直径が、1μm未満であると、通水時の圧力損失が高くなるため好ましくない。一方、モノリスアニオン交換体の連続空孔の平均直径が、1000μmを超えると、被処理液とモノリスアニオン交換体との接触が不十分となり、除去性能が低下するため好ましくない。なお、モノリスアニオン交換体の乾燥状態での連続空孔の平均直径は、水銀圧入法により測定され、水銀圧入法により得られた細孔分布曲線の極大値を指す。
【0028】
モノリスアニオン交換体の乾燥状態での全細孔容積は0.5~50mL/gである。モノリスアニオン交換体の全細孔容積が、0.5mL/g未満であると、被処理液の接触効率が低くなるため好ましくなく、更に、単位断面積当りの透過液量が小さくなり、処理量が低下してしまうため好ましくない。一方、モノリスアニオン交換体の全細孔容積が、50mL/gを超えると、体積当りのアニオン交換容量が低下し、除去性能が低下するため好ましくない。また、機械的強度が低下して、特に高速で通液した際にモノリスアニオン交換体が大きく変形し、通液時の圧力損失が急上昇してしまうため好ましくない。なお、全細孔容積は、水銀圧入法で測定される。
【0029】
このようなモノリスアニオン交換体の構造例としては、特開2002-306976号公報や特開2009-62512号公報に開示されている連続気泡構造や、特開2009-67982号公報に開示されている共連続構造や、特開2009-7550号公報に開示されている粒子凝集型構造や、特開2009-108294号公報に開示されている粒子複合型構造等が挙げられる。
【0030】
合成吸着剤としては、多孔質の巨大網目構造(Macro Reticular structure:MR構造)を有する球状の架橋高分子であり、主に、スチレン系、アクリル系又はフェノール系の架橋共重合体粒子である。本発明に使用する合成吸着剤としては。比表面積が150~1000m2/g、細孔容積が0.3~2.0cm2/gのものが好ましい。このような合成吸着剤は、本出願人が販売する合成吸着剤、例えば、アンバーライト(登録商標)XAD2000、XAD4、FPX66、XAD1180N、XAD7HP、XAD-2、XAD761(いずれも商品名であり、アンバーライト(登録商標)XAD(登録商標)シリーズである)などが使用できる。
【0031】
次に多孔質体に付着した有機物を溶出させて溶出液を得る溶出工程Cを実施する。多孔質体から有機物を溶出するために、適当な溶媒を用いる。使用できる溶媒としては、水と相溶性があり、有機物及び多孔質体への影響が少ないものが選択される。具体的には、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類、希硝酸などの酸水溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)等から適宜選択される。特に各種有機物の溶出性に優れるIPAが好ましく使用できる。尚、多孔質体を構成する有機物の一部が溶出されることがあるが、目的とする付着させた有機物(以下、対象有機物とも言う)とは蛍光波長が異なることで、区別できる。
【0032】
溶媒の使用量は、得られる溶出液中の有機物がppmオーダーとなる量、例えば、超純水を約5000L通水した場合、IPA100mlで溶出を実施することができる。また、溶出液は対象有機物に影響しない範囲でさらに公知の濃縮を行ってもよい。
【0033】
続いて、得られた溶出液を蛍光光度法により測定する工程Dを実施する。蛍光光度法は、セルに対象液をいれ、3次元蛍光スペクトルを取得することにより有機物の同定を行う手法である。有機物の同定方法として公知のLC-OCD(溶存有機体炭素分離測定装置)は、有機溶剤を導入すると有機溶剤の影響で対象有機物の測定ができない。またFT-IRでは、感度が低く、さらに濃縮率を高める必要があり、実用的ではない。一方、蛍光光度法では、ppmオーダーで、溶媒の影響を排除して対象有機物の同定が可能である。特に、蛍光光度法では蛍光ピークの位置により有機物の特定が可能である(参考文献:Environ.sci.Technol.2003,37,5701-5710 Chenら)。例えば、微生物による副産物は励起波長250nm~340nm、蛍光波長300nm~380nm、芳香族タンパク質は励起波長200nm~250nm、蛍光波長280nm~380nmに蛍光が強く検出されると言われている。蛍光光度法は、二重結合やベンゼン環などπ結合を有する有機物は蛍光を発するが、無機化合物や、IPAのようなπ結合を有さない有機物では蛍光が発生しない。したがって、溶媒の影響を受けずに、対象有機物の同定が可能となる。最後に、上記のような工程Dの測定結果に基づき超純水中の有機物を評価する評価工程Eを実施する。以上、超純水を加熱せず濃縮するため、有機物を変性させることなく、安価に有機物を評価できる。
【0034】
次に、超純水製造システムの出口に設けられたろ過膜の膜ファウリング等の汚染の原因を特定するための方法について説明する。
図2は、本発明が適用される超純水製造システムの配置例を示すものであり、主に二次超純水製造システムを示している。一次純水製造システムで得られた純水が貯留された純水タンク11から超純水製造システムの出口のUF膜15の間に、必要な装置が配置される。この例では、ポンプ12、UV装置13、樹脂塔14が配置される例を示しているが、これに限定されるものではない。又、
図3は本実施形態の特定方法を説明するフロー図を示す。以下、
図2及び
図3を参照して、本実施形態の方法について説明する。
【0035】
UF膜15での閉塞の原因物質の発生源を特定するため、UF膜15の前段であって、各装置の後段に超純水中の有機物を多孔質体上に付着させるために濃縮キット21A~21Dを設置する。濃縮キット21A~21Dにより、ろ過膜の前段にある複数の装置のそれぞれの出口の超純水をサンプリングするサンプリング工程A’と、該サンプリングされた超純水をそれぞれ多孔質体に通過させて、該超純水中の有機物を該多孔質体上に付着させる付着工程B’とが実施される。各濃縮キットから付着させた有機物を溶出して溶出液A~Dを得る溶出工程C’を実施する。また、UF膜15にも膜ファウリングの原因となる有機物が吸着しているため、UF膜15からも溶出を行い、溶出液E(対照溶出液)を得る溶出工程C’’を実施する。溶出液Eと溶出液A~Dをそれぞれ蛍光光度法により測定する測定工程D’を実施する。測定工程D’での溶出液Eに現れる蛍光ピークと、溶出液A~Dに現れる蛍光ピークとを比較して、溶出液Eに現れる蛍光ピークで同定される有機物を含む装置の出口の超純水を特定する比較・特定工程E’を実施する。すなわち、比較・特定工程E’は、蛍光ピークの比較により、溶出液Eに現れる蛍光ピークにて同定される有機物が、どの装置が原因で発生しているかを特定する。以上により、膜ファウリングの原因(原因物質とその発生箇所)の特定が可能となる。
【0036】
なお、サンプリング工程A’および付着工程B’は各濃縮キットにて現場にて実施され、溶出工程C’およびC’’、並びに測定工程D’は、濃縮キットを水処理システムから取り外した後、濃縮キットの逆洗や、現場あるいは実験室等で多孔質体を回収して溶媒中に浸漬して溶出液を得て、その溶出液を実験室等に設置された蛍光光度計にて分析すればよい。
【0037】
また、膜ファウリングが発生している場合、UF膜の設置タンクの底部にファウリング物質が堆積していることがある。したがって、タンク底部の水を採取して、濃縮せずにそのまま蛍光光度法による分析に供してもよい。
【0038】
このように、膜ファウリングの原因物質の同定とともに発生か所を突き止めることで、その装置の構成部品を膜ファウリングが発生しにくい材料に変更する、あるいは、別途洗浄や殺菌により、原因物質の除去や微生物等の除去を行うことができる。結果として、膜ファウリングの発生を抑制することができる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
図4は、閉塞UF膜(A)と新品UF膜(B)からIPAにより溶出した溶出液の蛍光3次元スペクトルを示す。
閉塞UF膜としては、新品UF膜に対し4m
3/hrで約120日通水したものを用いた。閉塞UF膜に付着した有機物をIPA約10Lで溶出させて溶出液を得て、さらに溶出液をIPAで5倍に希釈して蛍光光度法にて測定した。新品UF膜についても同様の操作により溶出液を得た。
図5は、
図4(A)から
図4(B)を差し引いた差スペクトルを示す。つまり、この
図5に示すスペクトルに膜ファウリングの原因物質が示されていることになる。
図5によると励起波長250nm~340nm、蛍光波長300nm~380nmに溶解性微生物副産物、励起波長200nm~250nm,蛍光波長280nm~380nmに芳香族タンパク質の強い蛍光ピークが検出されている。
【0040】
図6に純水タンクの出口水(ここでは、純水タンクの底部の水を採取)の蛍光3次元スペクトルを示す。
図6において励起波長250nm~340nm、蛍光波長300nm~380nmに溶解性微生物副産物、励起波長200nm~250nm,蛍光波長280nm~380nmに芳香族タンパク質の強い蛍光ピークが検出されている。
【0041】
図5によりUF膜の閉塞の原因となっている有機物は、溶解性微生物副産物や芳香族タンパク質であり、
図6により純水タンクで発生していることが解析できる。また超純水中の極微量の有機物として、溶解性微生物副産物や芳香族有機物が同定できることが確認された。
【符号の説明】
【0042】
11 純水タンク
12 ポンプ
13 UV装置
14 樹脂塔
15 出口ろ過膜(UF膜)
21A~21D 濃縮キット