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  • 特許-廃リチウムイオン電池の焙焼装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】廃リチウムイオン電池の焙焼装置
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/54 20060101AFI20221216BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20221216BHJP
   C22B 7/00 20060101ALI20221216BHJP
   F27B 7/06 20060101ALI20221216BHJP
   F27B 7/08 20060101ALI20221216BHJP
   F27B 7/34 20060101ALI20221216BHJP
   F27B 7/42 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
H01M10/54
C22B1/02
C22B7/00 C
F27B7/06
F27B7/08
F27B7/34
F27B7/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019038150
(22)【出願日】2019-03-04
(65)【公開番号】P2020144976
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2022-01-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安藤 文典
(72)【発明者】
【氏名】大澤 弘明
(72)【発明者】
【氏名】山下 真理子
【審査官】早川 卓哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-037807(JP,A)
【文献】特開2000-292068(JP,A)
【文献】特開2017-037818(JP,A)
【文献】特開2018-159477(JP,A)
【文献】特開2018-026279(JP,A)
【文献】国際公開第2012/132072(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M10/52-10/667
C22B1/00-61/00
F27B5/00-7/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端を受入口とし、他端を排出口とし、内部が還元雰囲気または低酸素雰囲気とされる筒体を有し、前記受入口から受け入れた廃リチウムイオン電池を前記排出口へ向けて前記筒体内を搬送し前記排出口から排出する搬送機構と、
前記筒体の内部温度を上昇させるために前記筒体の外壁を加熱し、前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる位置の前記外壁の加熱温度を個別に制御可能に構成された加熱機構と、
前記筒体内を搬送される前記廃リチウムイオン電池の昇温速度が所定の昇温速度となるように、前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送速度に応じて前記加熱機構による前記外壁の加熱温度を制御する制御器と、
前記廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる複数の検出位置での前記円筒体内の温度を検出する温度検出装置と、
を備え
前記搬送機構は、
前記筒体がその中心軸を中心に回転可能に支持された円筒体であり、前記円筒体を回転させることにより、回転速度に応じた搬送速度で前記廃リチウムイオン電池を前記受入口から前記排出口へ向けて搬送するよう構成されており、
前記加熱機構は、
前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送方向に並んで設けられ、前記円筒体の外壁を加熱する複数の加熱部を有し、各々の前記加熱部による加熱温度を個別に制御可能に構成され、
前記制御器は、
各検出位置における前記円筒体の前記受入口からの距離および前記所定の昇温速度に比例し、前記円筒体の回転速度に反比例する値に基づいて、前記廃リチウムイオン電池の昇温速度を前記所定の昇温速度とするための各検出位置での目標温度を算出し、前記温度検出装置によって検出される前記各検出位置での温度が、前記各検出位置での目標温度となるよう前記加熱部による加熱温度を調整するよう構成された、
廃リチウムイオン電池の焙焼装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃リチウムイオン電池の焙焼装置に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池(LIB)は、電気自動車、携帯電話、ノートパソコン等に多用されている。リチウムイオン電池は、正極材、負極材、電解液、セパレータなどから構成されている。正極材は、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウムなどの正極活物質がフッ素系バインダによってアルミニウム箔に固着されて形成されている。負極材は、黒鉛などの負極活物質がフッ素系バインダによって銅箔に固着されて形成されている。
【0003】
使用済みリチウムイオン電池等の廃棄するリチウムイオン電池(廃リチウムイオン電池)から、コバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有用金属を回収するために、電解液の無害化、およびセパレータやバインダ等の可燃物の減容化を目的とした、加熱処理(焙焼処理)が行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、1か所に炉体扉が設けられた円形の熱処理炉を備え、複数個のリチウムイオン電池からなる電池パック又は電池モジュールが格納された耐熱容器を、順次、炉体扉を開閉して一定温度に設定された熱処理炉へ投入して加熱処理し、順次、炉体扉を開閉して熱処理炉から耐熱容器を排出させるようにした構成が記載されている。
【0005】
また、非特許文献1には、廃リチウムイオン電池からコバルトを回収する際に、加熱処理における昇温速度が30K/minと2K/minとで比較した場合、2K/minの昇温速度の方が、コバルト成分のグレインサイズが大きくなること、及び、後工程の磁選等の物理選別等によって回収されるコバルトの回収率の向上に繋がることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-22395号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】堀内健吾,松岡光昭,所千晴,大和田秀二および薄井正治郎著、“磁選による使用済みリチウムイオン電池からのコバルト回収に適した加熱条件の検討”化学工学論文集,2017,第43巻,第4号,pp.213-218、公益社団法人化学工学会発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の構成では、一つの炉体扉を介して耐熱容器を熱処理炉へ投入及び排出させる構成であるので、加熱処理の効率化を図る上で改善の余地がある。また、非特許文献1には、加熱処理を行うための具体的な構成は開示されていない。
【0009】
本発明は上記のような課題を解決するためになされたもので、加熱処理の効率化が図れるとともに、有用金属の回収率の向上が可能になる廃リチウムイオン電池の焙焼装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明のある態様に係る廃リチウムイオン電池の焙焼装置は、一端を受入口とし、他端を排出口とし、内部が還元雰囲気または低酸素雰囲気とされる筒体を有し、前記受入口から受け入れた廃リチウムイオン電池を前記排出口へ向けて前記筒体内を搬送し前記排出口から排出する搬送機構と、前記筒体の内部温度を上昇させるために前記筒体の外壁を加熱し、前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる位置の前記外壁の加熱温度を個別に制御可能に構成された加熱機構と、前記筒体内を搬送される前記廃リチウムイオン電池の昇温速度が所定の昇温速度となるように、前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送速度に応じて前記加熱機構による前記外壁の加熱温度を制御する制御器と、を備えている。
【0011】
この構成によれば、搬送機構によって廃リチウムイオン電池の受入排出処理を連続的に行うことができるため、加熱処理の効率化を図ることができる。また、所定の昇温速度をコバルト等の有用金属成分のグレインサイズを大きくするために適した昇温速度に定めておくことで、後工程の磁選等の物理選別等によって回収される有用金属の回収率の向上が可能になる。
【0012】
上記焙焼装置において、前記搬送機構は、前記筒体がその中心軸を中心に回転可能に支持された円筒体であり、前記円筒体を回転させることにより、回転速度に応じた搬送速度で前記廃リチウムイオン電池を前記受入口から前記排出口へ向けて搬送するよう構成されており、前記加熱機構は、前記搬送機構による前記廃リチウムイオン電池の搬送方向に並んで設けられ、前記円筒体の外壁を加熱する複数の加熱部を有し、各々の前記加熱部による加熱温度を個別に制御可能に構成されていてもよい。
【0013】
また、前記廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる複数の検出位置での前記円筒体内の温度を検出する温度検出装置をさらに備え、前記制御器は、前記所定の昇温速度と前記円筒体の回転速度とに基づいて、前記廃リチウムイオン電池の昇温速度を前記所定の昇温速度とするための前記複数の各検出位置での目標温度を算出し、前記温度検出装置によって検出される前記各検出位置での温度が、前記各検出位置での目標温度となるよう前記加熱部による加熱温度を調整するよう構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、以上に説明した構成を有し、加熱処理の効率化が図れるとともに、有用金属の回収率の向上が可能になる廃リチウムイオン電池の焙焼装置を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、本実施形態の一例の廃リチウムイオン電池の焙焼装置を有する処理システムの概略を示す模式図である。
図2図2(A)、(B)は、それぞれ焙焼装置への1日当たりの被処理物の投入量が異なる場合の複数の加熱部による加熱温度、及び、焙焼装置の筒体の受入口から排出口までの目標とする内部温度のグラフの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0017】
(実施形態)
図1は、本実施形態の一例の廃リチウムイオン電池の焙焼装置を有する処理システムの概略を示す模式図である。
【0018】
図1に示す廃リチウムイオン電池の処理システムは、廃リチウムイオン電池の焙焼装置A及び排ガス処理設備B等を有している。
【0019】
廃リチウムイオン電池の焙焼装置Aは、廃リチウムイオン電池(廃LIB)のセル及びモジュールを焙焼処理することができる。モジュールは、セル(電池セル)が複数個組み合わされたものである。
【0020】
この焙焼装置Aは、廃リチウムイオン電池の供給装置1、供給口2、プッシャ3、搬送機構4、加熱機構5、焙焼産物取出口6、複数の温度センサStを有する温度検出装置15、制御器21及び操作器22を備えている。なお、本例では、制御器21及び操作器22は、図1に示す処理システム全体の制御器及び操作器として用いられている。
【0021】
供給装置1は、例えばロータリフィーダ等で構成され、外部から供給される廃リチウムイオン電池のセル及びモジュールを受け止めて順次供給口2へ供給するよう構成されている。プッシャ3は、供給口2に順次供給される廃リチウムイオン電池のセル及びモジュールを搬送機構4へ押し出して供給するよう構成されている。
【0022】
搬送機構4は、一端を受入口41a、他端を排出口41bとする筒体41を有する。筒体41は、円筒体であり、受入口41aから排出口41bに向けて下り傾斜となるように所定角度の傾斜をもってその中心軸を中心に回転可能に支持されている。この筒体41は駆動装置42によって回転させられる。駆動装置42は、筒体41の外周に固定された駆動ギア43を回転させるためのモータを含む装置で構成され、後述の外熱式ロータリーキルンに備えられる公知の装置である。
【0023】
筒体41の内部は還元雰囲気または低酸素雰囲気(酸素濃度10%以下)とされている。プッシャ3によって筒体41の受入口41aから内部に供給される廃リチウムイオン電池(セル及び/又はモジュール)は、筒体41が回転することにより排出口41bへ向けて移送(搬送)され、排出口41bから焙焼産物取出口6を介して排出される。
【0024】
加熱機構5は、筒体41の外壁を加熱するための複数の加熱部51,52,53を有している。これらの加熱部51,52,53は、上記廃リチウムイオン電池の搬送方向(筒体41の中心軸方向)に並んで配置され、各々筒体41の外周を包囲するように設けられている。
【0025】
各加熱部51,52,53には、二次燃焼室13からの高温ガス(例えば800℃)が電動バルブ61及び各電動バルブ55,56,57を介して内部に送りこまれるとともに、常温ガス(空気)が各電動バルブ58,59,60を介して内部に送りこまれる。一方、各加熱部51,52,53内のガスはファン54によって電動バルブ62を介して二次燃焼室13へ送り込まれる。
【0026】
例えば、電動バルブ55,56,57及び電動バルブ58,59,60の開度が制御器21によって制御されることにより、各加熱部51,52,53内のガス温度を個別に制御することができる。各加熱部51,52,53内のガス温度、すなわち加熱部51,52,53による筒体41の外壁の加熱温度(=ガス温度)が制御されることにより、筒体41の内部温度が制御される。
【0027】
これら搬送機構4及び加熱機構5は、周知の外熱式ロータリーキルンにおいて、筒体41(内筒)を加熱するための加熱ジャケット(外筒)を複数に分割してなる加熱部51,52,53を設け、かつ、各加熱部51,52,53による加熱温度を個別に制御可能とした構成である。
【0028】
また、筒体41の内部には、例えば熱電対等からなる複数の温度センサStが廃リチウムイオン電池の搬送方向(筒体41の中心軸方向)に、例えば等間隔に並んで所定位置に設けられている。各温度センサStによる検出温度は制御器21へ出力される。よって、複数の温度センサStからなる温度検出装置15によって、廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる複数の位置の筒体41の内部温度が検出され、制御器21へ出力される。このように、筒体41の内部温度は、常時、複数の温度センサStによって検出され、制御器21へ入力される。これにより、制御器21では、複数の温度センサStの各々の検出温度と検出位置(温度検出位置)とを把握できるようになっている。なお、制御器21には、複数の各温度センサStの位置(温度検出位置)が予め記憶されている。
【0029】
筒体41内で発生した排ガスは排ガス処理設備Bのサイクロン11へ送られ、サイクロン11で排ガス中の金属等の固体微粒子が取り出され、例えばロータリフィーダ12を介して回収される。一方、固体微粒子が取り除かれた排ガスはサイクロン11から二次燃焼室13へ送られる。
【0030】
二次燃焼室13では、サイクロン11から送られてきた排ガス及び加熱部51,52,53から送られてきたガスがバーナによって高温(例えば800℃)に加熱される。そして、一部の高温ガスが電動バルブ61を介して焙焼装置Aへ送られ、それ以外の高温ガスは、図示しないが、バグフィルタ等を介して煙突から排出される。また、残渣が二次燃焼室13からロータリフィーダ14を介して回収される。排ガス処理設備Bは、サイクロン11、ロータリフィーダ12、二次燃焼室13、ロータリフィーダ14、図示しないバグフィルタ及び煙突等によって構成される。
【0031】
また、焙焼産物取出口6では、焙焼されたセルとモジュールとが大きさによって選別され、モジュールは排出口6aから破砕機7へ供給され、セルは別の排出口6bから破砕機8へ供給される。モジュールは、破砕機7でセルと同程度の大きさに破砕された後、破砕機8へ供給され、破砕機8によってセルとともにより小さく破砕される。
【0032】
破砕機8で破砕されたセル及びモジュールの破砕物は、ダブルフラップダンパ(二段ダンパ)9を介して、選別機10へ供給される。選別機10では、例えば、破砕物を、振動篩等の篩によって、銅、アルミニウム等を含む塊状物と、コバルト等の有用金属を含む粉粒体とに選別する。選別機10で選別された粉粒体は、有用金属抽出設備へ送られてコバルト、ニッケル、マンガン、リチウム等の有用金属が抽出される。
【0033】
制御器21は、CPU等の演算部と、ROM及びRAMなどの記憶部等を有するコンピュータであり、CPUが記憶部に予め記憶されている所定のプログラムを実行することにより、図1に示す処理システム全体の動作を制御する。なお、制御器21は、集中制御する単独の制御器によって構成されていてもよいし、互いに協働して分散制御する複数の制御器によって構成されていてもよい。
【0034】
操作器22は、操作者によって操作され、図1に示す処理システムの各部の運転の開始や停止等の操作入力を受け付ける手段であり、操作者の操作による操作入力情報を制御器21へ出力する。また、操作器22は、制御器21から出力される上記処理システムの各部の運転状態等の情報を入力し、その情報を表示するディスプレイを備えている。
【0035】
次に、図1に示す処理システムのうち、特に廃リチウムイオン電池の焙焼装置Aの動作の一例について説明する。
【0036】
一般的に、ロータリーキルンでは、被処理物の筒体内保有率が一定となるように回転数(回転速度)が設定される。本実施形態においても、筒体41内の被処理物(廃リチウムイオン電池)の保有率が一定となるように筒体41の回転数が設定される。この回転数は、例えば、操作者による操作器22の操作によって設定することができる。そして、制御器21が駆動装置42を制御して、設定された回転数で筒体41が回転される。
【0037】
例えば、筒体41内の被処理物の保有率X(%)は、次の(1)式で算出することができる。
【0038】
X=H×T/Vi×100 ・・・(1)
ここで、Hは被処理物の1分間当たりの投入量(m3/min)、Tは被処理物の筒体41内での滞留時間(min)、Viは筒体41の内部体積(m3)である。
【0039】
なお、滞留時間T(min)は、被処理物が筒体41の受入口41aから排出口41bまでの移動に要する時間であり、筒体41の回転数(N)に反比例する。
【0040】
よって、保有率Xは、被処理物の1分間当たりの投入量Hに比例するとともに、筒体41の回転数Nに反比例する(X∝H/N)。例えば焙焼装置Aへの1日当たりの被処理物の投入量(処理量)が変更されることにより、被処理物の1分間当たりの投入量Hが変更される場合には、被処理物の保有率Xを一定とするためには、筒体41の回転数Nを変更する必要がある。筒体41の回転数Nは、筒体41内を受入口41aから排出口41bへ向かって搬送される被処理物の搬送速度に比例する。よって、筒体41の回転数Nを変更することは、被処理物の搬送速度を変更することに相当する。
【0041】
本実施形態では、制御器21は、被処理物の昇温速度が所定の昇温速度(Tv)となるように、加熱部51~53による加熱温度(ガス温度)を制御するようにしている。具体的には、制御器21は、電動バルブ55~60の開度を制御(調整)することにより、加熱部51~53による加熱温度を制御する。所定の昇温速度Tvは、操作者による操作器22の操作によって予め制御器21に設定(記憶)されている。なお、操作器22を操作して昇温速度Tvの設定値を変更することも可能である。
【0042】
また、制御器21は、筒体41の回転数Nに変更があった場合には、被処理物の昇温速度を所定の昇温速度(Tv)にするために、加熱部51~53による加熱温度を変更する。これについて、図2(A)、(B)を参照して説明する。
【0043】
図2(A)、(B)は、それぞれ焙焼装置Aへの1日当たりの被処理物の投入量が異なる場合の複数の加熱部51~53による加熱温度、及び、筒体41の受入口41aから排出口41bまでの目標とする内部温度のグラフの一例を示す図である。
【0044】
図2(A)、(B)のいずれの場合も保有率Xは6.7(%)としている。また、本例では、筒体41の軸方向の長さは18(m)、筒体41の内径は1.5(m)、筒体41の内部体積Viは32(m3)としている。
【0045】
そして、図2(A)の場合は、1日当たりの被処理物の投入量(トン/日)を30(t/d)とした場合であり、別途計算により、保有率Xを6.7(%)とするための筒体41の回転数Nは0.53(min-1)と算出され、滞留時間Tが207(min)と算出されている。
【0046】
図2(A)のグラフは、所定の昇温速度Tvを、例えば2.5(K/min)とする場合の、筒体41の受入口41aからの距離(搬送方向における位置)に対する筒体41の内部温度の関係の一例を示すグラフである。また、この関係を実現するために設定される加熱部51,52,53による加熱温度の一例として、それぞれ250℃,450℃,650℃が示されている。
【0047】
この図2(A)のグラフで示す関係が実現される場合には、筒体41の回転数Nが0.53(min-1)となるように制御されており、受入口41aに受け入れられた被処理物は、その昇温速度が所定の昇温速度Tv(2.5(K/min))となるように加熱されながら搬送され、受入口41aからの距離が17.4mの位置になったときに500℃に達し、その後は、その温度が維持されて排出口41bまで搬送されることになる。
【0048】
また、図2(B)の場合は、1日当たりの被処理物の投入量を17(t/d)とした場合であり、別途計算により、保有率Xを6.7(%)とするための筒体41の回転数Nは0.3(min-1)と算出され、滞留時間Tが366(min)と算出されている。
【0049】
図2(B)のグラフは、所定の昇温速度Tvを、図2(A)の場合と同じ2.5(K/min)とする場合の、筒体41の受入口41aからの距離(搬送方向における位置)に対する筒体41の内部温度の関係の一例を示すグラフである。また、この関係を実現するために設定される各加熱部51,52,53による加熱温度の一例として、それぞれ350℃,650℃,650℃が示されている。
【0050】
この図2(B)のグラフで示す関係が実現される場合には、筒体41の回転数Nが0.3(min-1)となるように制御されており、受入口41aに受け入れられた被処理物は、その昇温速度が所定の昇温速度Tv(2.5(K/min))となるように加熱されながら搬送され、受入口41aからの距離が9.8mの位置になったときに500℃に達し、その後は、その温度が維持されて排出口41bまで搬送されることになる。
【0051】
上記の図2(A)、(B)からわかるように、被処理物の昇温速度が所定の昇温速度Tvとなるようにするためには、筒体41の回転数Nの変更に応じて、筒体41内に設置された各温度センサStの検出温度が各々について算出された所定の温度(目標温度)となるよう加熱部51,52,53による加熱温度の少なくとも1つを変更しなければならない。
【0052】
そこで、制御器21では、筒体41の回転数Nと所定の昇温速度Tvとに基づいて、被処理物の昇温速度を所定の昇温速度Tvとするための各温度検出位置(各温度センサStの位置)における目標温度を算出し、各温度センサStの検出温度が各目標温度となるよう加熱部51,52,53による加熱温度を調整する。
【0053】
なお、図2(A)、(B)のグラフでは、所定の昇温速度Tvで昇温させる温度範囲として、0℃~500℃の範囲が例示されているが、これに限らない。例えば、20℃~520℃の範囲でもよい。
【0054】
リチウムイオン電池は150~200℃で加熱することで電解液を分解除去することができる。また、コバルト等の有用金属を回収しやすくするためには、セパレータ及びバインダ等の有機物を分解できる温度(例えば400℃以上)にすることが必要である。一方、正極材に使用されているアルミニウムが溶けない温度すなわちアルミニウムの融点(660℃)より低い温度にすることが必要である。よって、排出口41bの温度(筒体41の内部の最高温度)は、400℃以上で、かつ、アルミニウムの融点(660℃)よりも低い温度とすればよい。
【0055】
この焙焼装置Aを運転する場合、例えば、操作者は、運転開始前に、廃リチウムイオン電池の1日の予定処理量(投入量)から筒体41の回転数Nを決める。そして、操作者による操作器22の操作によって、筒体41の回転数Nが設定されるとともに所定の昇温速度Tvが設定され、焙焼装置Aの運転(動作)が開始される。この運転開始時には、制御器21は、設定された回転数Nで回転させるように筒体41の駆動装置42を制御するとともに、回転数Nと昇温速度Tvとに基づいて、筒体41に設置された各温度センサStの温度検出位置における目標温度を算出し、各検出温度がこの目標温度となるよう加熱部51,52,53による加熱温度を調整するために電動バルブ55~60の開度を制御する。なお、回転数Nおよび昇温速度Tvに応じて運転初期における各電動バルブ55~60の開度が予め決められていてもよい。
【0056】
上記の筒体41内を搬送中の廃リチウムイオン電池の昇温速度を所定の昇温速度Tvにするための各温度検出位置における目標温度Taの算出方法の一例について説明する。
【0057】
各温度検出位置(各温度センサStの位置)は、筒体41の受入口41aから各温度センサStの設置位置までの距離として、制御器21に記憶されている。筒体41の受入口41aから投入された被処理物のある温度センサStの温度検出位置までの滞留時間(搬送時間)Ti(min)は、制御器21に記憶された上記ある温度センサStの温度検出位置(上記距離)をxiとすると、
Ti=k×xi/N
として求められる。ここで、kは、被処理物(廃リチウムイオン電池)の種類や搬送機構4を構成するキルンの種類によって定められる係数である。
【0058】
例えば、所定の昇温速度Tv(℃/min)における、ある温度検出位置(xi)での目標温度Ta(℃)は、受入口41aにおける温度をt(℃)とすると、
Ta=Tv×Ti+t=Tv×k×xi/N+t
として求められる。なお、受入口41aにおける温度tは、運転開始前に、操作者による操作器22の操作によって、筒体41の回転数N及び昇温速度Tvとともに設定されるようにしてもよい。また、例えば受入口41aの温度を検出する温度センサが設けられていれば、制御器21が目標温度Taを算出する際に上記温度センサの検出温度(tx)に基づいて、受入口41aにおける温度tを、例えば、t=tx、あるいは、t=tx+α(αは所定値)などとして算出するようにしてもよい。
【0059】
上記のようにして、制御器21は、所定の昇温速度Tvを実現するための複数の各温度検出位置での目標温度を算出することができる。但し、目標温度の上限値を所定温度(例えば図2(A)、(B)の場合の500℃)に定めている。
【0060】
また、運転中に、操作者による操作器22の操作によって、回転数Nの設定値が変更されてもよい。この場合、制御器21は、変更後の回転数N(変更後の回転数Nの設定値)で回転させるように筒体41の駆動装置42を制御するとともに、前述の各温度検出位置における目標温度を算出し、各検出温度が各目標温度となるよう加熱部51,52,53による加熱温度を調整するために電動バルブ55~60の開度を制御する。
【0061】
また、上記では、操作器22を操作することによって筒体41の回転数Nを設定ないし変更するようにしたが、例えば、筒体41へ供給される廃リチウムイオン電池の単位時間当たりの重量を検出する計量器を設け、制御器21が計量器の計量値に基づいて、回転数Nを設定ないし変更するように構成してもよい。
【0062】
本実施形態の焙焼装置Aでは、例えば、個別に温度制御可能な複数の加熱部51~53を設けた外熱式ロータリーキルンを用いて、廃リチウムイオン電池の受入排出処理を連続的に行うことができるため、加熱処理の効率化を図ることができる。また、所定の昇温速度Tvをコバルト等の有用金属成分のグレインサイズを大きくするために適した昇温速度(例えばコバルト成分の場合は2K/min等)に定めておくことで、後工程の磁選等の物理選別等によって回収されるコバルト等の有用金属の回収率の向上が可能になる。このようにコバルト等の有用金属の回収率の向上を図る上で、各々の有用金属成分のグレインサイズを大きくするために適した昇温速度(Tv)あるいはその好ましい設定範囲を、実験等によって予め定めておけばよい。
【0063】
なお、本実施形態の焙焼装置Aは、上記の外熱式ロータリーキルンを用いた構成に限らず、一端を受入口とし、他端を排出口とし、内部が還元雰囲気または低酸素雰囲気とされる筒体を有し、受入口から受け入れた廃リチウムイオン電池を排出口へ向けて筒体内を搬送し排出口から排出する搬送機構(4)と、筒体の内部温度を上昇させるために筒体の外壁を加熱し、搬送機構による廃リチウムイオン電池の搬送方向において異なる位置の外壁の加熱温度を個別に制御可能に構成された加熱機構(5)と、筒体内を搬送される廃リチウムイオン電池の昇温速度が所定の昇温速度となるように、搬送機構による廃リチウムイオン電池の搬送速度に応じて加熱機構による外壁の加熱温度を制御する制御器(21)と、を備えた構成であればよい。よって、制御器は、搬送機構による廃リチウムイオン電池の搬送速度が変更されたときには、変更後の搬送速度に応じて、廃リチウムイオン電池の昇温速度が所定の昇温速度となるように加熱機構による外壁の加熱温度を調整するよう構成されている。
【0064】
なお、本実施形態では、温度検出装置15を、熱電対等からなる複数の温度センサStを用いて構成したが、例えば1m間隔で温度を検出できる光ファイバ温度センサを用いて構成してもよい。
【0065】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する最良の態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の精神を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、加熱処理の効率化が図れるとともに、有用金属の回収率の向上が可能になる廃リチウムイオン電池の焙焼装置等として有用である。
【符号の説明】
【0067】
A 焙焼装置
4 搬送機構
5 加熱機構
15 温度検出装置
21 制御器
41 筒体
41a 受入口
41b 排出口
51~53 加熱部
55~60 電動バルブ
図1
図2