(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】レーザ加工機のレーザ制御方法及びレーザ切断加工方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/062 20140101AFI20221216BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20221216BHJP
B23K 26/38 20140101ALI20221216BHJP
【FI】
B23K26/062
B23K26/00 N
B23K26/38 A
(21)【出願番号】P 2019044415
(22)【出願日】2019-03-12
【審査請求日】2021-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】京藤 友博
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-218565(JP,A)
【文献】特開2018-176242(JP,A)
【文献】特開平05-309484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/062
B23K 26/00
B23K 26/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を出力するレーザ発振器部と、該レーザ発振器部を駆動する駆動電源部と、内部に前記駆動電源部を制御する駆動電源制御部を備えたレーザ装置制御部と、前記レーザ光のビームモードのモード次数を切替えるビームモード切替部と、該ビームモード切替部を制御するビームモード切替制御部と、前記レーザ光を被加工対象物に照射する加工ヘッド部と、前記被加工対象物を載置する加工テーブル駆動部と、前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部と前記加工テーブル駆動部とを制御するレーザ加工機制御部と、を備えたレーザ加工機のレーザ制御方法であって、
前記レーザ加工機制御部の指示に基づき、前記レーザ光を出力中に前記レーザ光のレーザ出力を
、第1の値から第2の値まで減少させて、前記第2の値から前記第1の値まで上昇させる出力制御を周期的に繰り返すと共に、前記レーザ出力
を、前記第1の値から前記第2の値まで減少させている期間に前記モード次数を第1モード次数から前記第1モード次数より次数が低い第2モード次数まで変化させ、前記レーザ出力を、前記第1の値から前記第2の値まで上昇させている期間に前記モード次数を前記第2モード次数から前記第1モード次数まで変化させることを特徴とするレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項2】
レーザ光を出力するレーザ発振器部と、該レーザ発振器部を駆動する駆動電源部と、内部に前記駆動電源部を制御する駆動電源制御部を備えたレーザ装置制御部と、前記レーザ光のビームモードのモード次数を切替えるビームモード切替部と、該ビームモード切替部を制御するビームモード切替制御部と、前記レーザ光を被加工対象物に照射する加工ヘッド部と、前記被加工対象物を載置する加工テーブル駆動部と、
前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部とを制御する制御手順が示された登録内容を記憶するレーザ加工機記憶部を有し、前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部と前記加工テーブル駆動部とを制御するレーザ加工機制御部と、を備えたレーザ加工機のレーザ制御方法であって、
前記レーザ加工機制御部の指示に基づき、前記レーザ光を出力中に前記レーザ光のレーザ出力を変化させると共に、前記レーザ出力の変化に同期して前記モード次数を変化さ
せ、
前記レーザ加工機制御部はレーザ加工の実施指示を受付けると、前記登録内容に従って前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部とを制御することを特徴とするレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項3】
前記レーザ加工機記憶部には複数の前記登録内容が記憶されており、前記レーザ加工機制御部は実施するレーザ加工に合致した登録内容を前記レーザ加工機記憶部から呼び出し、呼び出された登録内容に従って前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部とを制御することを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項4】
前記レーザ装置制御部は前記登録内容を記憶するレーザ装置記憶部を有し、前記ビームモード切替制御部は前記登録内容を記憶するビームモード切替記憶部を有し、前記レーザ加工機制御部の前記登録内容呼び出し指示に基づき、前記レーザ装置制御部は前記レーザ装置記憶部から前記登録内容を呼び出し、呼び出した前記登録内容に従って前記駆動電源制御部を制御すると共に、前記ビームモード切替制御部は前記ビームモード切替記憶部から前記登録内容を呼び出し、呼び出した前記登録内容に従って前記ビームモード切替部を制御することを特徴とする請求項2に記載のレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項5】
前記ビームモード切替部は前記レーザ発振器部の内部に設けられ、前記ビームモード切替制御部は前記レーザ装置制御部の内部に設けられ、前記レーザ加工機制御部の前記登録内容呼び出し指示に基づき、前記レーザ装置制御部は前記レーザ装置記憶部から前記登録内容を呼び出し、呼び出した前記登録内容に従って前記駆動電源制御部と前記ビームモード切替制御部とを制御することを特徴とする請求項4に記載のレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項6】
レーザ光を出力するレーザ発振器部と、該レーザ発振器部を駆動する駆動電源部と、内部に前記駆動電源部を制御する駆動電源制御部を備えたレーザ装置制御部と、前記レーザ光のビームモードのモード次数を切替えるビームモード切替部と、該ビームモード切替部を制御するビームモード切替制御部と、前記レーザ光を被加工対象物に照射する加工ヘッド部と、前記被加工対象物を載置する加工テーブル駆動部と、前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部と前記加工テーブル駆動部とを制御するレーザ加工機制御部と、を備えたレーザ加工機のレーザ制御方法であって、
前記駆動電源部をパルス駆動することで前記レーザ発振器部から出力する前記レーザ光はパルス発振しており、
前記レーザ加工機制御部の指示に基づき、前記レーザ光を出力中に、一つのパルスが持続する時間内に前記
レーザ光のレーザ出力を変化させると共に、前記レーザ出力の変化に同期して前記モード次数を変化させることを特徴とす
るレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項7】
レーザ光を出力するレーザ発振器部と、該レーザ発振器部を駆動する駆動電源部と、内部に前記駆動電源部を制御する駆動電源制御部を備えたレーザ装置制御部と、前記レーザ光のビームモードのモード次数を切替えるビームモード切替部と、該ビームモード切替部を制御するビームモード切替制御部と、前記レーザ光を被加工対象物に照射する加工ヘッド部と、前記被加工対象物を載置する加工テーブル駆動部と、前記レーザ装置制御部と前記ビームモード切替制御部と前記加工テーブル駆動部とを制御するレーザ加工機制御部と、を備えたレーザ加工機のレーザ制御方法であって、
前記レーザ加工機制御部の指示に基づき、前記レーザ光を出力中に前記レーザ光のレーザ出力を変化させると共に、前記レーザ出力の変化に同期して前記モード次数を変化させ、
前記駆動電源部をパルス駆動することで前記レーザ発振器部から出力する前記レーザ光はパルス発振しており、第1のパルスの持続する時間内における前記レーザ出力と前記モード次数は、第2のパルスの持続する時間内における前記レーザ出力と前記モード次数と各々異なることを特徴とす
るレーザ加工機のレーザ制御方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか
一つに記載のレーザ加工機のレーザ制御方法を一つのレーザ切断加工の工程中に実施することで、前記被加工対象物をレーザ切断すること特徴とするレーザ切断加工方法。
【請求項9】
前記被加工対象物に生じる蓄熱による温度状態変化に合わせて、前記レーザ光のレーザ出力を変化させると共に、前記レーザ出力の変化に同期して前記モード次数を変化させることを特徴とする請求項8に記載のレーザ切断加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、レーザ加工機のレーザ制御方法及びレーザ切断加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
板金加工の分野では、レーザ光を被加工対象物に照射して切断を行うレーザ切断加工は広く普及している。レーザ切断加工では、集光レンズで集光したレーザ光を酸素や窒素等のアシストガスと共に被加工対象物に照射して行うが、そのレーザ切断加工の際、レーザ光のパワーを表すレーザ出力やレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数は変化しないように一定に維持する。レーザ切断加工を実施中、常に被加工対象物にレーザ光を照射し続けるので、被加工対象物はレーザ切断加工の間、レーザ光を吸収し続けることになる。その結果、被加工対象物はレーザ光の吸収に伴い蓄熱し、レーザ切断加工の開始時と加工の途中では、被加工対象物の温度状態が異なり、場合によってはレーザ切断加工の開始時には品質の良い加工が実現できていたが、加工の途中から蓄熱の影響により品質の悪い加工に変化したり、あるいは加工自体が不可になったりする場合がある。
【0003】
レーザ切断やレーザ溶接等のレーザ加工中に発生する被加工対象物の温度状態の変化に対応し、レーザ加工の開始時と加工の終了時までの一つのレーザ加工中の間、常に品質の良い加工を維持する方法として、レーザ光の状態をレーザ加工中に制御する方法が提案されている。その制御方法の一つとして、被加工対象物をレーザ加工する際に、レーザ加工中に被加工対象物に照射するレーザ光の強度分布を制御する方法があり、例えば、レーザ光をパルス発振させて、一つのパルス発振期間を複数に分割し、分割された各々のパルス発振期間に応じてレーザ光の強度分布を変化させるというレーザ加工方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-176242号公報(第5頁、第3図)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のレーザ加工方法では、被加工対象物に照射するレーザ光の出力は一定に保った状態でレーザ光をパルス発振させ、一つのパルス発振期間を複数に分割し、分割された各々のパルス発振期間に応じてレーザ光の強度分布を変化させている。このレーザ加工方法を、被加工対象物をレーザ溶接する場合に適用すると、溶接部中央近傍に深い溶込みと溶接部中央近傍から少し離れた周辺には浅い溶込みが同時に得られる品質の良い溶接が実現できる。しかし、このレーザ加工方法を、被加工対象物をレーザ切断する場合に適用すると、レーザ出力を一定に保った状態でレーザ光の強度分布を変化させるため、被加工対象物に照射されるレーザ光の集光強度、すなわちレーザ出力をレーザ光の強度分布の外径で除算した値が、一つのパルス発振期間を複数に分割した各々のパルス発振期間で異なるという状況が発生してしまう。
【0006】
一般にレーザ切断加工では、被加工対象物に照射されるレーザ光の集光強度が異なると、被加工対象物の切断面に集光強度の違いが顕著に現れる。レーザ光を用いて被加工対象物を切断する場合、切断面が滑らかな品質の良い切断面が得られる適切な集光強度の範囲が存在し、適切な集光強度の範囲をはずれて集光強度が高い、あるいは低い場合は、切断面にレーザ光の進行方向に沿った線条痕が現れ、この線条痕が切断面に凹凸形状を発生させ、品質の悪い切断面になってしまう。その結果、特許文献1に記載のレーザ加工方法をレーザ切断に適用した場合、分割された各々のパルス発振期間で集光強度が異なってしまうため、集光強度が適切な範囲からはずれると、分割された各々のパルス発振期間に応じて品質の悪い切断面が周期的に発生したり、全体として品質の悪い切断面になってしまう場合があるという問題があった。
【0007】
この発明は、上述のような問題を解決するためになされたもので、被加工対象物に生じる蓄熱による温度状態変化に合わせて、一つのレーザ切断加工の工程中に被加工対象物に照射するレーザ光の強度分布を決定するビームモードのモード次数とレーザ出力とを同期して制御することで、適切な集光強度の範囲を維持し、品質の良い切断面が得られるレーザ加工機のレーザ制御方法と、このレーザ制御方法を適用したレーザ切断加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明に係るレーザ加工機のレーザ制御方法においては、レーザ光を出力するレーザ発振器部と、レーザ発振器部を駆動する駆動電源部と、内部に駆動電源部を制御する駆動電源制御部を備えたレーザ装置制御部と、レーザ光のビームモードのモード次数を切替えるビームモード切替部と、ビームモード切替部を制御するビームモード切替制御部と、レーザ光を被加工対象物に照射する加工ヘッド部と、被加工対象物を載置する加工テーブル駆動部と、レーザ装置制御部とビームモード切替制御部と加工テーブル駆動部とを制御するレーザ加工機制御部と、を備えたレーザ加工機であって、レーザ加工機制御部の指示に基づき、レーザ光を出力中にレーザ光のレーザ出力を、第1の値から第2の値まで減少させて、第2の値から第1の値まで上昇させる出力制御を周期的に繰り返すと共に、レーザ出力を、第1の値から第2の値まで減少させている期間にモード次数を第1モード次数から第1モード次数より次数が低い第2モード次数まで変化させ、レーザ出力を、第1の値から第2の値まで上昇させている期間にモード次数を第2モード次数から第1モード次数まで変化させる。
【発明の効果】
【0009】
この発明は、レーザ加工機制御部の指示に基づき、レーザ加工中にレーザ光のレーザ出力を変化させると共に、レーザ出力の変化に同期してモード次数を変化させるレーザ制御方法を提供する。その結果、このレーザ制御方法をレーザ切断加工に適用することで、品質の良い切断面が得られるレーザ加工機が実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】この発明の実施の形態1を示すレーザ加工機の構成図である。
【
図2】この発明の実施の形態1を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
【
図3】この発明の実施の形態1を示すビームモードの強度分布を表す関係図である。
【
図4】この発明の実施の形態2を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
【
図5】この発明の実施の形態3を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
【
図6】この発明の実施の形態4を示すレーザ加工機の構成図である。
【
図7】この発明の実施の形態5を示すレーザ加工機の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施の形態1.
図1は、この発明の実施の形態1を示すレーザ加工機の構成図である。レーザ光12を出力するレーザ装置20は、レーザ発振器部1と、レーザ発振器部1を駆動する駆動電源部2と、レーザ発振器部1と駆動電源部2を制御するレーザ装置制御部3と、で構成される。レーザ装置制御部3は、駆動電源部2を制御する駆動電源制御部4を内部に有する。駆動電源制御部4の制御信号に対するレーザ光の出力の切替え応答性は速いものが望ましく、数10μ秒以内が望ましい。
【0012】
レーザ加工機100は、レーザ装置20と、レーザ装置20から出力されたレーザ光12を集光する加工ヘッド部9と、集光されたレーザ光12によって加工される被加工物11を載置する加工テーブル駆動部10と、レーザ発振器部1から加工ヘッド部9へ至る光路の途中に設けられ、レーザ発振器部1から出力されたレーザ光12のビームモードを切替えるビームモード切替部7と、ビームモード切替部7を制御するビームモード切替制御部8と、レーザ装置制御部3と加工テーブル駆動部10とビームモード切替制御部8を制御するレーザ加工機制御部5と、で構成される。レーザ加工機制御部5は、レーザ加工機記憶部6を内部に有する。ビームモード切替制御部8の制御信号に対するビームモードの切替え応答性は速いものが望ましく、数10μ秒以内が望ましい。レーザ加工機制御部5はレーザ加工機100の全体を制御するため、レーザ加工機制御部5はレーザ装置制御部3と、ビームモード切替制御部8と、加工テーブル駆動部10と、に各々接続されている。
【0013】
次に動作について説明する。駆動電源部2によって駆動されたレーザ発振器部1はレーザ光12を出力し、レーザ光12は光路途中に設けられたビームモード切替部7でビームモードが切替えられた後、加工ヘッド部9に入射する。加工ヘッド部9には図示しない集光レンズが設けられており、集光レンズによって集光されたレーザ光12は、加工テーブル駆動部10上に載置された被加工対象物11に照射される。被加工対象物11は、レーザ加工機制御部5によって制御された加工テーブル駆動部10を駆動することによって様々な形状にレーザ加工される。なお、レーザ出力とはレーザ光12が行う仕事率、すなわちパワーを表しており、単位はワットである。また、レーザ光12のビームモードのモード次数とはレーザ光12を集光した際、集光径の度合いを数値化した指標であり、単位は無く、集光径が小さければ指標は小さくなる。
【0014】
次にこの発明の実施の形態1を示すレーザ制御方法ついて説明する。
図2は、この発明の実施の形態1を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
図2において、
図2(a)はレーザ発振器部1から出力されるレーザ光12のレーザ出力の時間変化を表し、レーザ出力の時間変化は駆動電源制御部4によって制御された駆動電源部2によって行われる。レーザ出力の値であるLP1はLP2よりも出力が高く、LP2はLP3よりも出力が高い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、駆動電源部2は、時間t1でレーザ出力をLP1で立上げると同時に、時間t1から時間t3の期間にわたりレーザ出力をLP1からLP3まで減少させる制御を行う。次に、駆動電源部2は、時間t3から時間t5の期間にわたりレーザ出力をLP3からLP1まで増加させ、その後は時間t5から時間t7の期間にわたりレーザ出力をLP1からLP3まで減少させ、この一連のレーザ出力変化を、レーザ加工をする間繰り返す。駆動電源部2によるレーザ出力の変化は、例えば、駆動電源部2からレーザ発振器部1に通電する電流を変化させて行う。
【0015】
一方、
図2(b)はレーザ光12のビームモードのモード次数の時間変化を表し、モード次数の時間変化はビームモード切替制御部8によって制御されたビームモード切替部7によって行われる。モード次数であるM1はM2よりも次数が低く、M2はM3よりも次数が低い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、ビームモード切替部7は、時間t1でビームモードのモード次数をM3で立上げると同時に、時間t1から時間t3の期間にわたりモード次数をM3からM1まで低下させる制御を行う。次に、ビームモード切替部7は、時間t3から時間t5の期間にわたりモード次数をM1からM3まで高める制御を行い、その後は時間t5から時間t7の期間にわたりモード次数をM3からM1まで低下させる制御を行い、この一連のモード次数変化を、レーザ加工をする間、
図2(a)に示すレーザ出力変化と同期させながら繰り返す。ビームモード切替部7によるモード次数の変化は、例えば、ビームモード切替部7の内部に透過型の位相制御板を備えておき、位相制御板の位相量を制御することで行う。
【0016】
図3は、この発明の実施の形態1を示すビームモードの強度分布を表す関係図である。
図3において、
図3(a)は、時間t3とt7の時に発振するビームモードの強度分布であり、軸上の強度が一番高いガウス分布形状を示す。
図3(b)は、時間t2とt4とt6の時に発振するビームモードの強度分布であり、軸上の強度が
図3(a)に示すガウス分布形状よりも少し窪んだ分布形状を示す。
図3(c)は、時間t1とt5の時に発振するビームモードの強度分布であり、軸上の強度が
図3(b)に示す形状よりもさらに低いリング状の分布形状を示す。
図3(d)は、
図3(a)から
図3(c)に示す強度分布を同一の軸上に重ねたときの比較を示しており、
図3(a)の強度分布から
図3(b)の強度分布を経て
図3(c)の強度分布に変化するのに従い、ビーム径が順次拡大する。
【0017】
レーザ出力とモード次数の同期は、駆動電源制御部4を制御するレーザ装置制御部3と、ビームモード切替部7を制御するビームモード切替制御部8が各々接続されているレーザ加工機制御部5によって行われる。具体的には、レーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8を、時間t1からt5の期間を1周期として
図2を表すレーザ出力とモード次数が得られるように制御する制御手順を、レーザ加工機制御部5の内部にあるレーザ加工機記憶部6に予め登録しておく。例えば、以下に示す制御手順(S1)から(S9)を予めレーザ加工機記憶部6に登録内容として、事前にレーザ加工実施者が図示しない入力部を用いて登録しておく。
【0018】
時間t1においてレーザ出力LP1、モード次数M3に設定する。 (S1)
時間t2においてレーザ出力LP2、モード次数M2に設定する。 (S2)
時間t3においてレーザ出力LP3、モード次数M1に設定する。 (S3)
時間t4においてレーザ出力LP2、モード次数M2に設定する。 (S4)
時間t5においてレーザ出力LP1、モード次数M3に設定する。 (S5)
時間t1から時間t2の期間はレーザ出力LP1からLP2に、
モード次数M3からM2に、各々直線的に変化させる。 (S6)
時間t2から時間t3の期間はレーザ出力LP2からLP3に、
モード次数M2からM1に、各々直線的に変化させる。 (S7)
時間t3から時間t4の期間はレーザ出力LP3からLP2に、
モード次数M1からM2に、各々直線的に変化させる。 (S8)
時間t4から時間t5の期間はレーザ出力LP2からLP1に、
モード次数M2からM3に、各々直線的に変化させる。 (S9)
【0019】
制御手順(S1)から(S9)に示す登録内容では、時間t1から時間t5の期間において、レーザ光12を出力中にレーザ出力は直線的にLP1からLP3に、その後、再びLP3からLP1に戻るように、レーザ加工機制御部5はレーザ装置制御部3へ指示し、レーザ加工機制御部5の指示に基づき、レーザ装置制御部3は駆動電源制御部4に制御信号にて指示する。駆動電源制御部4は、例えば、駆動電源部2からレーザ発振器部1に通電する電流を変化させ、レーザ出力を変化させる。一方、時間t1から時間t5の期間において、レーザ光12を出力中にビームモードのモード次数は直線的にM3からM1に、その後、再びM1からM3に戻るように、レーザ加工機制御部5はビームモード切替制御部8に制御信号にて指示する。ビームモード切替制御部8は、例えば、ビームモード切替部7の内部に設けられた透過型の位相制御板の位相量を制御し、モード次数を変化させる。レーザ加工機制御部5から指示されたレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8は、それぞれ駆動電源制御部4とビームモード切替部7をレーザ加工機制御部5からの指示に基づいて制御し、所望のレーザ出力が出力されると共にビームモードが切替えられる。そして、制御手順(S1)から(S9)を1周期として、この1周期を予め設定した周波数にて繰り返す。
【0020】
この発明の実施の形態1では、時間t1からt5の期間の1周期でのレーザ出力とビームモードのモード次数を直線的な増減を行う三角波形状で変化させているが、三角波形状で変化させることに限定するものではない。また、この発明の実施の形態1では、時間t1においてレーザ出力は高出力から、ビームモードのモード次数は高次モードから開始しているが、レーザ出力とビームモードのモード次数の切替えはこれに限定されるものではない。すなわち、レーザ加工機記憶部6に登録する登録内容は複数であっても良く、例えば、各登録内容は登録内容番号として識別された状態でレーザ加工機記憶部6に予め登録され、レーザ加工機制御部5は実施するレーザ加工に合致した登録内容に応じて適切な登録内容番号をレーザ加工機記憶部6から呼び出す。
【0021】
レーザ加工機制御部5は、レーザ加工の実施指示を受付けると、実施するレーザ加工に合致した登録内容をレーザ加工機記憶部6から呼び出し、加工テーブル駆動部10と同期しながら、レーザ出力とビームモードのモード次数を登録内容の通りにレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8に指示し、制御する。例えば、レーザ加工機制御部5は、一つの被加工対象物11に対して、加工開始時に貫通穴を開けるピアス加工や、直線の切断加工や、曲線の切断加工等、設定された複数の加工条件にて選択された登録内容をレーザ加工機記憶部6から呼び出し、加工が行われる。
【0022】
また、レーザ加工中に加工条件の変更があり、登録内容の変更指示を受付けると、レーザ加工機制御部5は、変更すべき登録内容をレーザ加工機記憶部6から呼び出し、呼び出した登録内容に従ってレーザ出力とビームモードのモード次数をレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8に指示し、制御する。さらに、各時間でのレーザ出力とビームモードのモード次数において、レーザ出力とビームモードのモード次数を示す検出信号を、レーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8から取得し、この検出信号をレーザ加工機制御部5にフィードバックして、指示した値に近づける、いわゆるフィードバック制御を行っても良い。
【0023】
この発明の実施の形態1に示すレーザ制御方法をレーザ切断加工に適用したレーザ切断加工方法について説明する。レーザ切断では、集光強度は最も重要な因子である。集光強度の単位は単位面積当たりのレーザ出力で表されるため、集光強度はレーザ出力の増大、すなわち
図2(a)において、LP3からLP1に変化するのに伴い高くなる。一方、集光強度はビームモードのモード次数が高くなる、すなわち、
図2(b)と
図3において、M1からM3に変化するのに伴い、ビーム径が増大するため低くなる。従って、被加工対象物に生じる蓄熱による温度状態変化に合わせて、一つのレーザ切断加工の工程中に被加工対象物に照射するレーザ光の強度分布を決定するビームモードのモード次数とレーザ出力とを同期して制御する方法として、この発明の実施の形態1では、
図2の時間t1から時間t3の期間はレーザ出力がLP1からLP3に低下するが、逆にモード次数はM3からM1に変化するのに伴い、ビーム径は小さくなるため、結果として集光強度はレーザ切断が可能な適切な範囲で維持できると共に制御することが可能になる。
【0024】
以上のように、この発明の実施の形態1に示すレーザ制御方法では、被加工対象物に発生するレーザ光の吸収に伴う蓄熱状態に対応して、従来のレーザ切断加工方法では実現できなかった、レーザ出力とレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数を同期して適切に維持し、かつ制御することができる。例えば、レーザ切断加工開始時は、従来通り、レーザ光のパワーを表すレーザ出力やレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数は変化しないように一定に維持しておき、被加工対象物がレーザ光の吸収に伴い蓄熱し、レーザ切断加工の途中から被加工対象物の温度状態が異なり始めると同時に、
図2に示すように、レーザ出力とモード次数を同期して変化させる。その結果、切断面が滑らかな品質の良い切断面が得られるレーザ光の適切な集光強度の範囲を、切断加工開始時から加工終了時までの一つのレーザ切断加工の工程中に維持することが可能になる。さらには、この発明の実施の形態1に示すレーザ制御方法であるレーザ出力とビームモードのモード次数を時間に対して直線的に任意に切替える制御を行うことで、被加工対象物のレーザ光吸収性、そしてレーザ光吸収性に伴い発生する蓄熱の熱伝導性、あるいは蓄熱に関係するレーザ光の照射時間を決定する切断形状等に合わせ、より適切なレーザ制御方法を提供することができる。
【0025】
その結果、切断加工品質の改善、切断加工品質の安定化、レーザ切断によって生産された製品の生産性向上、レーザ切断によって生産された製品の加工コストの削減を得ることができる。特に、駆動電源制御部4とビームモード切替制御部8の制御信号に対する応答性が数10μ秒以内の場合、
図2に示す時間t1からt5の期間を1周期とした繰り返し周波数が5kHzという高速動作が可能となり、レーザ切断加工にとってより最切なレーザ制御方法を提供することが可能となる。
【0026】
実施の形態2.
この発明の実施の形態1では、レーザ発振器部1から出力されるレーザ出力を直線的な増減を行う三角波形状で変化させる場合について説明したが、この発明の実施の形態2ではレーザ発振器部1がパルス発振している場合のレーザ制御方法について説明する。
図4は、この発明の実施の形態2を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
図4において、
図4(a)はレーザ発振器部1からパルスにて出力されるレーザ光12のレーザ出力の時間変化を表し、レーザ出力の時間変化は駆動電源制御部4によってパルス駆動された駆動電源部2によって行われる。
【0027】
レーザ出力の値であるLP1はLP2よりも出力が高く、LP2はLP3よりも出力が高い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、駆動電源部2は、時間t1でレーザ出力をLP1で立上げると同時に、一つのパルスが持続する時間内である時間t1から時間t3の期間にわたりレーザ出力をLP1からLP3まで減少させる制御を行う。次に、駆動電源部2は、時間t3から時間t5の期間にわたりレーザ出力をゼロで制御し、その後は時間t5で再びレーザ出力をLP1で立上げると同時に、一つのパルスが持続する時間内である時間t5から時間t7の期間にわたりレーザ出力をLP1からLP3まで減少させ、この一連のレーザ出力変化を、レーザ加工をする間繰り返す。
【0028】
一方、
図4(b)はレーザ光12のビームモードのモード次数の時間変化を表し、モード次数の時間変化はビームモード切替制御部8によって制御されたビームモード切替部7によって行われる。モード次数であるM1はM2よりも次数が低く、M2はM3よりも次数が低い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、ビームモード切替部7は、時間t1でビームモードのモード次数をM3で立上げると同時に、一つのパルスが持続する時間内である時間t1から時間t3の期間にわたりモード次数をM3からM1まで低下させる制御を行う。次に、時間t3から時間t5の期間のレーザ出力がゼロの状態から再び時間t5でビームモードのモード次数をM3で立上げると同時に、一つのパルスが持続する時間内である時間t5から時間t7の期間にわたりモード次数をM3からM1まで下させる制御を行い、この一連のモード次数変化を、レーザ加工をする間、
図4(a)に示すレーザ出力変化と同期させながら繰り返す。
【0029】
レーザ出力とモード次数の同期は、駆動電源制御部4を制御するレーザ装置制御部3と、ビームモード切替部7を制御するビームモード切替制御部8が各々接続されているレーザ加工機制御部5によって行われる。具体的には、レーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8を、時間t1からt5の期間を1周期として、
図4を表すレーザ出力とモード次数が得られるように制御する制御手順を、レーザ加工機制御部5の内部にあるレーザ加工機記憶部6に予め登録しておく。例えば、以下に示す制御手順(S10)から(S16)を予めレーザ加工機記憶部6に登録内容として、事前にレーザ加工実施者が図示しない入力部を用いて登録しておく。
【0030】
時間t1においてレーザ出力LP1、モード次数M3に設定する。 (S10)
時間t2においてレーザ出力LP2、モード次数M2に設定する。 (S11)
時間t3においてレーザ出力LP3、モード次数M1に設定する。 (S12)
時間t5においてレーザ出力LP1、モード次数M3に設定する。 (S13)
時間t1から時間t2の期間はレーザ出力LP1からLP2に、
モード次数M3からM2に、各々直線的に変化させる。 (S14)
時間t2から時間t3の期間はレーザ出力LP2からLP3に、
モード次数M2からM1に、各々直線的に変化させる。 (S15)
時間t3から時間t5の期間はレーザ発振を停止する。 (S16)
【0031】
制御手順(S10)から(S16)に示す登録内容では、レーザ光12を出力中の一つのパルスが持続する時間内である時間t1から時間t3の期間において、レーザ出力は直線的にLP1からLP3に、その後、時間t3から時間t5の期間のレーザ出力がゼロのレーザ発振停止を経て、再び時間t5でレーザ出力がLP1で立上るように、レーザ加工機制御部5はレーザ装置制御部3へ指示し、レーザ加工機制御部5の指示に基づき、レーザ装置制御部3は駆動電源制御部4に制御信号にて指示する。駆動電源制御部4は、例えば、駆動電源部2からレーザ発振器部1に通電する電流を変化させ、レーザ出力を変化させる。一方、レーザ光12を出力中の一つのパルスが持続する時間内である時間t1から時間t3の期間において、ビームモードのモード次数は直線的にM3からM1に、その後、時間t3から時間t5の期間のレーザ発振停止を経て、再び時間t5ではM3で立上るように、レーザ加工機制御部5はビームモード切替制御部8に制御信号にて指示する。ビームモード切替制御部8は、例えば、ビームモード切替部7の内部に設けられた透過型の位相制御板の位相量を制御し、モード次数を変化させる。レーザ加工機制御部5から指示されたレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8は、それぞれ駆動電源制御部4とビームモード切替部7を指示に基づいて制御し、所望のレーザ出力が出力されると共にビームモードが切替えられる。そして、制御手順(S10)から(S16)を1周期として、この1周期を予め設定した周波数にて繰り返す。
【0032】
この発明の実施の形態2では、一つのパルスが持続する時間内である時間t1からt3の期間でのレーザ出力とビームモードのモード次数をパルス発振期間中、直線的に変化させているが、直線的に変化させることに限定するものではない。また、この発明の実施の形態2では、時間t1においてレーザ出力は高出力から、ビームモードのモード次数は高次モードから開始しているが、レーザ出力とビームモードのモード次数の切替えはこれに限定されるものではない。すなわち、レーザ加工機記憶部6に登録する登録内容は複数であっても良く、各登録内容は登録内容番号として識別された状態でレーザ加工機記憶部6に予め登録され、レーザ加工機制御部5はレーザ加工の実施指示を受付けると、実施するレーザ加工に合致した登録内容に応じて適切な登録内容番号をレーザ加工機記憶部6から呼び出す。
【0033】
この発明の実施の形態2に示すレーザ制御方法をレーザ切断加工に適用したレーザ切断加工方法について説明する。集光強度の単位は単位面積当たりのレーザ出力で表されるため、
図4(a)において、集光強度はLP1からLP3に変化するのに伴い低下する。一方、
図4(b)と
図3において、集光強度はM3からM1に変化するのに伴い、ビーム径が小さくなるため高くなる。従って、被加工対象物に生じる蓄熱による温度状態変化に合わせて、一つのレーザ切断加工の工程中に被加工対象物に照射するレーザ光の強度分布を決定するビームモードのモード次数とレーザ出力とを同期して制御する方法として、この発明の実施の形態2では、
図4の時間t1から時間t3の期間はレーザ出力がLP1からLP3に低下するが、逆にモード次数はM3からM1に変化するのに伴い、ビーム径は小さくなるため、結果として集光強度はレーザ切断が可能な範囲で適切に維持できると共に制御することが可能になる。
【0034】
また、時間t3から時間t5の期間はレーザ発振停止するため、被加工対象物11にはレーザ光12が照射せず、被加工対象物11にとっては時間t3から時間t5の期間は冷却期間になる。その結果、被加工対象物11の状態の熱的変化を抑制することができると共に、被加工対象物11に発生するレーザ光12の吸収に伴う蓄熱状態に対応して、従来のレーザ切断加工方法では実現できなかった、レーザ出力とレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数を同期して適切に維持し、かつ制御することができる。例えば、レーザ切断加工開始時は、従来通り、レーザ光のパワーを表すレーザ出力やレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数は変化しないように一定に維持しておき、被加工対象物がレーザ光の吸収に伴い蓄熱し、レーザ切断加工の途中から被加工対象物の温度状態が異なり始めると同時に、
図4に示すように、レーザ出力とモード次数を同期して変化させる。その結果、切断面が滑らかな品質の良い切断面が得られるレーザ光の適切な集光強度の範囲を、切断加工開始時から加工終了時までの一つのレーザ切断加工の工程中に維持することが可能になる。
【0035】
さらに、この発明の実施の形態2に示すレーザ制御方法であるレーザ出力とビームモードのモード次数を時間に対して直線的に任意に切替える制御を行うことで、被加工対象物のレーザ光吸収性、そしてレーザ光吸収性に伴い発生する蓄熱の熱伝導性、あるいは蓄熱に関係するレーザ光の照射時間を決定する切断形状、等に合わせ、より適切なレーザ制御方法を提供することができる。その結果、切断加工品質の改善、切断加工品質の安定化、レーザ切断によって生産された製品の生産性向上、レーザ切断によって生産された製品の加工コストの削減を得ることができる。
【0036】
実施の形態3.
この発明の実施の形態2では、レーザ発振器部1から出力されるレーザ出力がパルス発振している場合について説明したが、この発明の実施の形態3ではパルス発振しているレーザ出力が1パルス毎に互いに増減を繰り返す場合のレーザ制御方法について説明する。
図5は、この発明の実施の形態3を示すレーザ出力とビームモードのモード次数の時間依存性を表す関係図である。
図5において、
図5(a)はレーザ発振器部1からパルスにて出力され、レーザ出力が1パルス毎に互いに増減を繰り返すレーザ光12のレーザ出力の時間変化を表し、レーザ出力の時間変化は駆動電源制御部4によってパルス駆動された駆動電源部2によって行われる。レーザ出力であるLP1はLP3よりも出力が高い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、駆動電源部2は時間t1でレーザ出力をLP1で立上げると同時に、第1のパルスの持続する時間内である時間t1から時間t2の期間にわたりレーザ出力をLP1の状態で制御を行う。
【0037】
次に、駆動電源部2は、時間t2から時間t3の期間にわたりレーザ出力をゼロで制御し、その後は時間t3でレーザ出力をLP3で立上げると同時に、第2のパルスの持続する時間内である時間t3から時間t4の期間にわたりレーザ出力をLP3の状態で制御を行う。次に、駆動電源部2は、時間t4から時間t5の期間にわたりレーザ出力をゼロで制御し、その後は再び時間t5でレーザ出力をLP1で立上げると同時に、第1のパルスの持続する時間内である時間t5から時間t6の期間にわたりレーザ出力をLP1の状態で制御を行い、この一連のレーザ出力変化を、レーザ加工をする間繰り返す。
【0038】
一方、
図5(b)はレーザ光12のビームモードのモード次数の時間変化を表し、モード次数の時間変化はビームモード切替制御部8によって制御されたビームモード切替部7で行われる。モード次数であるM1はM3よりも次数が低く、M3はM4よりも次数が低い。レーザ加工中にレーザ加工機制御部5からの集光強度の制御指示を受付けると、ビームモード切替部7は時間t1でビームモードのモード次数をM4で立上げると同時に、第1のパルスの持続する時間内である時間t1から時間t2の期間にわたりモード次数をM4の状態で制御を行う。次に、時間t2から時間t3の期間のレーザ出力がゼロの状態から再び時間t3でビームモードのモード次数をM3で立上げると同時に、第2のパルスの持続する時間内である時間t3から時間t4の期間にわたりモード次数をM3からM1まで低下させる制御を行う。次に、駆動電源部2は、時間t4から時間t5の期間にわたりレーザ出力をゼロで制御し、その後は再び時間t5でモード次数をM4で立上げると同時に、第1のパルスの持続する時間内である時間t5から時間t6の期間にわたりモード次数をM4の状態で制御を行い、この一連のモード次数変化を、レーザ加工をする間、
図5(a)に示すレーザ出力変化と同期させながら繰り返す。
【0039】
レーザ出力とモード次数の同期は、駆動電源制御部4を制御するレーザ装置制御部3と、ビームモード切替部7を制御するビームモード切替制御部8が各々接続されているレーザ加工機制御部5によって行われる。具体的には、レーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8を、時間t1からt5の期間を1周期として、
図5を表すレーザ出力とモード次数が得られるように制御する制御手順を、レーザ加工機制御部5の内部にあるレーザ加工機記憶部6に予め登録しておく。例えば、以下に示す制御手順(S17)から(S24)を予めレーザ加工機記憶部6に登録内容として、事前にレーザ加工実施者が図示しない入力部を用いて登録しておく。
【0040】
時間t1においてレーザ出力LP1、モード次数M4に設定する。 (S17)
時間t2においてレーザ出力LP1、モード次数M4に設定する。 (S18)
時間t3においてレーザ出力LP3、モード次数M3に設定する。 (S19)
時間t4においてレーザ出力LP3、モード次数M1に設定する。 (S20)
時間t1から時間t2の期間はレーザ出力LP1、
モード次数M4でレーザ発振させる。 (S21)
時間t2から時間t3の期間はレーザ発振を停止する。 (S22)
時間t3から時間t4の期間はレーザ出力LP3、
モード次数M3からM1に直線的に変化させる。 (S23)
時間t4から時間t5の期間はレーザ発振を停止する。 (S24)
【0041】
制御手順(S17)から(S24)に示す登録内容では、レーザ光12を出力中の第1のパルスの持続する時間内である時間t1から時間t2の期間において、レーザ出力はLP1でパルス発振させ、その後、時間t2から時間t3の期間のレーザ発振停止を経て、時間t3でレーザ出力がLP3で立上げ、レーザ光12を出力中の第2のパルスの持続する時間内である時間t3から時間t4の期間において、レーザ出力をLP3でパルス発振させる。その後、時間t4から時間t5の期間のレーザ発振停止を経て、再び時間t5でレーザ出力がLP1で立上がるように、レーザ加工機制御部5はレーザ装置制御部3へ指示し、レーザ加工機制御部5の指示に基づき、レーザ装置制御部3は駆動電源制御部4に制御信号にて指示する。駆動電源制御部4は、例えば、駆動電源部2からレーザ発振器部1に通電する電流を変化させ、レーザ出力を変化させる。
【0042】
一方、レーザ光12を出力中の第1のパルスの持続する時間内である時間t1から時間t2の期間において、ビームモードのモード次数はM4の状態でパルス発振させ、その後、時間t2から時間t3の期間のレーザ発振停止を経て、時間t3においてモード次数M3で立上げ、レーザ光12を出力中の第2のパルスの持続する時間内である時間t3から時間t4の期間において、モード次数をM3からM1に直線的に変化させる。その後、時間t4から時間t5の期間のレーザ発振停止を経て、再び時間t5においてモード次数をM4で立上げ、レーザ光12を出力中の第1のパルスの持続する時間内である時間t5から時間t6の期間において、ビームモードのモード次数はM4の状態でパルス発振させるように、レーザ加工機制御部5はビームモード切替制御部8に制御信号にて指示する。ビームモード切替制御部8は、例えば、ビームモード切替部7の内部に設けられた透過型の位相制御板の位相量を制御し、モード次数を変化させる。レーザ加工機制御部5から指示されたレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8は、それぞれ駆動電源制御部4とビームモード切替部7を指示に基づいて制御し、所望のレーザ出力が出力されると共にビームモードが切替えられる。そして、制御手順(S17)から(S24)を1周期として、レーザ出力とモード次数が各々異なる第1のパルスと第2のパルスを含む1周期を予め設定した周波数にて繰り返す。
【0043】
この発明の実施の形態3では、第2のパルスが持続する時間内である時間t3からt4の期間でのビームモードのモード次数をパルス発振期間中、直線的に変化させているが、直線的に変化させることに限定するものではない。また、この発明の実施の形態3では、第1のパルスは、時間t1においてレーザ出力は高出力から、ビームモードのモード次数は高次モードで発振しているが、レーザ出力とビームモードのモード次数の切替えはこれに限定されるものではない。すなわち、レーザ加工機記憶部6に登録する登録内容は複数であっても良く、各登録内容は登録内容番号として識別された状態でレーザ加工機記憶部6に予め登録され、レーザ加工機制御部5はレーザ加工の実施指示を受付けると、実施するレーザ加工に合致した登録内容に応じて適切な登録内容番号をレーザ加工機記憶部6から呼び出す。
【0044】
この発明の実施の形態3に示すレーザ制御方法をレーザ切断加工に適用したレーザ切断加工方法について説明する。集光強度の単位は単位面積当たりのレーザ出力で表されるため、
図5(a)において、集光強度はパルス毎にLP1からLP3に変化するのに伴い低下する。一方、
図5(b)と
図3において、レーザ出力がLP1の時はモード次数がM4で維持されている。集光強度はレーザ出力がLP3の時はモード次数がM3からM1に変化するのに伴い、ビーム径が小さくなるため、適切な範囲で維持される。従って、被加工対象物に生じる蓄熱による温度状態変化に合わせて、一つのレーザ切断加工の工程中に被加工対象物に照射するレーザ光の強度分布を決定するビームモードのモード次数とレーザ出力とを同期して制御する具体的方法として、この発明の実施の形態3では、
図5の時間t1から時間t3かけてはレーザ出力がLP1からLP3に低下するが、逆にモード次数はレーザ出力がLP1の時はM4、レーザ出力がLP3の時はM3からM1に変化するのに伴い、ビーム径は小さくなるため、結果として集光強度はレーザ切断が可能な範囲で適切に維持できると共に制御することが可能になる。
【0045】
さらに、時間t2から時間t3の期間と時間t4から時間t5の期間はレーザ発振停止するため、被加工対象物11にはレーザ光12が照射しなくなり、被加工対象物11にとっては、時間t2から時間t3の期間と時間t4から時間t5の期間は冷却期間になる。その結果、被加工対象物の状態の熱的変化を抑制することができると共に、被加工対象物に発生するレーザ光の吸収に伴う蓄熱状態に対応して、従来のレーザ加工方法では実現できなかった、レーザ出力とレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数を同期して適切に維持し、かつ制御することができる。例えば、レーザ切断加工開始時は、従来通り、レーザ光のパワーを表すレーザ出力やレーザ光の強度分布を表すビームモードのモード次数は変化しないように一定に維持しておき、被加工対象物がレーザ光の吸収に伴い蓄熱し、レーザ切断加工の途中から被加工対象物の温度状態が異なり始めると同時に、
図5に示すように、レーザ出力とモード次数を同期して変化させる。その結果、切断面が滑らかな品質の良い切断面が得られるレーザ光の適切な集光強度の範囲を、切断加工開始時から加工終了時までの一つのレーザ切断加工の工程中に維持することが可能になる。
【0046】
実施の形態4.
図6は、この発明の実施の形態4を示すレーザ加工機の構成図である。この発明の実施の形態4では、レーザ加工機200を構成するビームモード切替制御部8がビームモード切替記憶部51を内部に有し、さらに、レーザ装置制御部3がレーザ装置記憶部52を内部に有する。
【0047】
レーザ加工機制御部5は、レーザ加工の実施指示を受付けると、実施するレーザ加工に合致した登録内容が示された登録内容をレーザ加工機記憶部6から呼び出すと共に、ビームモード切替制御部8の内部にあるビームモード切替記憶部51と、レーザ装置制御部3の内部にあるレーザ装置記憶部52からも同じ登録内容の登録内容を呼び出すように指示し、制御する。また、レーザ加工機制御部5は、加工テーブル駆動部10と同期を取りながら、レーザ出力とビームモードのモード次数を呼び出した登録内容の通りにレーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8に指示し、制御する。そして、レーザ加工機制御部5の指示に基づき、レーザ装置制御部3はレーザ装置記憶部52から登録内容を呼び出し、呼び出した登録内容に従って駆動電源制御部4を制御すると共に、ビームモード切替制御部8はビームモード切替記憶部51から登録内容を呼び出し、呼び出した登録内容に従ってビームモード切替部7を制御する。
【0048】
この発明の実施の形態4では、登録内容をレーザ加工機記憶部6とビームモード切替記憶部51とレーザ装置記憶部52の3か所に分散して登録させておくことで、レーザ装置制御部3はレーザ装置記憶部52に登録された登録内容で駆動電源制御部4を制御し、ビームモード切替制御部8はビームモード切替記憶部51に登録された登録内容でビームモード切替部7を制御する。その結果、レーザ加工機制御部5が実行する負荷を軽減させることが可能となる。さらに、レーザ加工機制御部5の性能上の制約に起因した制御周期で、レーザ装置制御部3とビームモード切替制御部8と加工テーブル駆動部10への応答速度が律則されることがなくなり、一つの登録内容の高速の応答が可能となる。
【0049】
実施の形態5.
図7は、この発明の実施の形態5を示すレーザ加工機の構成図である。この発明の実施の形態5では、レーザ加工機300を構成するレーザ発振器部1がビームモード切替部71を内部に有し、さらに、レーザ装置制御部3がビームモード切替制御部81とレーザ装置記憶部52を内部に有する。ビームモード切替部71がレーザ発振器部1の内部にあることで、レーザ発振器部1からレーザ光12が出力された時点でビームモードのモード次数は制御されている。
【0050】
レーザ加工機制御部5は、レーザ加工の実施指示を受付けると、実施するレーザ加工に合致した登録内容が示された登録内容をレーザ加工機記憶部6から呼び出すと共に、レーザ装置制御部3の内部にあるレーザ装置記憶部52からも同じ登録内容を呼び出すようにレーザ装置制御部3に指示し、制御する。また、レーザ加工機制御部5は、加工テーブル駆動部10と同期を取りながら、レーザ出力とビームモードのモード次数を登録内容の通りにレーザ装置制御部3に指示し、制御する。そして、レーザ加工機制御部5の指示に基づき、レーザ装置制御部3はレーザ装置記憶部52から登録内容を呼び出し、呼び出した登録内容に従って駆動電源制御部4とビームモード切替制御部81とを制御する。ビームモード切替制御部81は登録内容に従ってレーザ発振器部1の内部にあるビームモード切替部71を制御する。
【0051】
この発明の実施の形態5では、登録内容をレーザ加工機制御部5とレーザ装置記憶部52の2か所に分散して登録させておくことで、レーザ装置制御部3はレーザ装置記憶部52に登録された登録内容で駆動電源制御部4とビームモード切替制御部81を制御する。その結果、レーザ加工機制御部5が実行する負荷を軽減させることが可能となる。また、レーザ装置制御部3が駆動電源制御部4とビームモード切替制御部81を一括して制御するため、駆動電源制御部4とビームモード切替制御部81の間の同期ずれが小さくなり、より高速の応答が可能となる。さらに、レーザ加工機制御部5の性能上の制約に起因した制御周期で、レーザ装置制御部3と加工テーブル駆動部10への応答速度が律則されることがなくなり、一つの登録内容の高速の応答が可能となる。
【符号の説明】
【0052】
1 レーザ発振器部、2 駆動電源部、3 レーザ装置制御部、4 駆動電源制御部、5 レーザ加工機制御部、6 レーザ加工機記憶部、7,71 ビームモード切替部、8,81 ビームモード切替制御部、9 加工ヘッド部、10 加工テーブル駆動部、11 被加工対象物、12 レーザ光、20 レーザ装置、51 ビームモード切替記憶部、52 レーザ装置記憶部、100,200,300 レーザ加工機。