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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】光学素子
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/155 20060101AFI20221216BHJP
【FI】
G02F1/155
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019055271
(22)【出願日】2019-03-22
(65)【公開番号】P2020154249
(43)【公開日】2020-09-24
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(72)【発明者】
【氏名】平野 智也
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0201545(US,A1)
【文献】特表2013-519925(JP,A)
【文献】特開2019-066619(JP,A)
【文献】特開2019-158940(JP,A)
【文献】特開平01-142620(JP,A)
【文献】特開昭61-249026(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0004386(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107991824(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/15-1/19
G02F 1/1343-1/1345
G02F 1/135
G09F 9/00
Japio-GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向配置される下側基板および上側基板と、
前記下側基板の前記上側基板と対向する面に、敷き詰められるように設けられる複数の下側電極であって、該下側基板面内の第1の方向に並んで隣接する第1および第2の下側電極部を少なくとも含む下側電極と、
前記上側基板の前記下側基板と対向する面に、敷き詰められるように設けられる複数の上側電極であって、前記第1の下側電極部と向い合う第1の上側電極部と、前記第1の下側電極部の一部および前記第2の下側電極部と向い合う第2の上側電極部と、を少なくとも含む上側電極と、
前記第1の下側電極部と前記第2の上側電極部とに挟持され、該第1の下側電極部と該第2の上側電極部とを電気的に接続する導通部材であって、前記下側基板または前記上側基板に平行な仮想平面上に投影したときに、前記1の下側電極部と前記第2の上側電極部とが重なる重畳領域に断続的・間欠的に配置される導通部材と、
前記下側基板と前記上側基板との間に充填される電解質層と、
を有する光学素子。
【請求項2】
前記第1の下側電極部と前記導通部材との間、および、前記第2の上側電極部と前記導通部材との間、に配置され、該第1の下側電極および該第2の上側電極よりも低い抵抗率を有する低抵抗部材と、をさらに有する請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記低抵抗部材は、前記1の下側電極部と前記第2の上側電極部とが重なる重畳領域内において前記第1の方向と交差する第2の方向に伸長して設けられており、前記導通部材が形成されている位置よりも、該導通部材が形成されていない位置のほうが細く形成されている、請求項2に記載の光学素子
【請求項4】
前記下側電極の表面に形成され、酸化状態であるかまたは還元状態であるかに応じて光学状態が変化する第1の電気化学層と、をさらに有する請求項1~3いずれか1項に記載の光学素子。
【請求項5】
前記上側電極の表面に形成され、酸化状態であるかまたは還元状態であるかに応じて光学状態が変化する第2の電気化学層と、をさらに有する請求項4に記載の光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2種の光学状態を切り替えることができる光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光学状態を切り替えることができる光学素子が提案されている。
【0003】
特許文献1には、いわゆるエレクトロデポジション素子が開示されている。エレクトロデポジション素子は、主に、対向配置される一対の透明電極と、その一対の透明電極に挟持され、銀を含むエレクトロデポジション材料を含有する電解質層と、を有する。
【0004】
電解質層はほぼ透明であり、定常時(電圧無印加時)、エレクトロデポジション素子は透明状態となる。一対の透明電極間に電圧を印加すると、電気化学反応(酸化・還元反応)により、電解質層のエレクトロデポジション材料(銀)が、電極上に析出・堆積する。平坦な電極の表面に析出・堆積するエレクトロデポジション材料は鏡面を構成し、エレクトロデポジション素子は鏡面(光反射)状態となる。
【0005】
特許文献2には、いわゆるエレクトロケミカルルミネッセンス素子が開示されている。一対の基板及び透明電極に挟持されたエレクトロケミカルルミネッセンス材料を含む層を有している。電圧の印加によるカチオンラジカルとアニオンラジカルの励起と失活により発光を生じさせる。
【0006】
特許文献3,4には、いわゆるエレクトロクロミック素子が開示されている。一対の基板及び透明電極に挟持されたエレクトロクロミック材料を含む層を有している。電圧の印加によりエレクトロクロミック材料が電気化学反応により分子構造を変化させ、変色を生じさせる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-181389号公報
【文献】特開2007-134143号公報
【文献】特開2004-170613号公報
【文献】特表2005-521103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
電気化学反応を利用した光学素子では、素子サイズが大きくなると、一般に、その光学特性が位置によってバラつく。
【0009】
本発明の主な目的は、素子面内において一様な光学特性を有する光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の主な観点によると、対向配置される下側基板および上側基板と、前記下側基板の前記上側基板と対向する面に、敷き詰められるように設けられる複数の下側電極であって、該下側基板面内の第1の方向に並んで隣接する第1および第2の下側電極部を少なくとも含む下側電極と、前記上側基板の前記下側基板と対向する面に、敷き詰められるように設けられる複数の上側電極であって、前記第1の下側電極部と向い合う第1の上側電極部と、前記第1の下側電極部の一部および前記第2の下側電極部と向い合う第2の上側電極部と、を少なくとも含む上側電極と、前記第1の下側電極部と前記第2の上側電極部とに挟持され、該第1の下側電極部と該第2の上側電極部とを電気的に接続する導通部材であって、前記下側基板または前記上側基板に平行な仮想平面上に投影したときに、前記1の下側電極部と前記第2の上側電極部とが重なる重畳領域に選択的に配置される導通部材と、前記下側基板と前記上側基板との間に充填される電解質層と、を有する光学素子、が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、素子面内において一様な光学特性を有する光学素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1-1】、および
図1-2】図1A図1Cは、参考例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
図2-1】、および
図2-2】図2A図2Cは、第1の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
図3-1】、および
図3-2】図3A図3Cは、第2の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
図4-1】、および
図4-2】図4A図4Dは、第2の実施例によるエレクトロデポジション素子の変形例を示す平面図および断面図である。
図5図5Aおよび図5Bは、第3の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す平面図および断面図である。
図6図6Aは、第4の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す断面図であり、図6Bは、第5の実施例によるエレクトロデポジション素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
最初に、参考例によるエレクトロデポジション素子(ED素子)を参照して、ED素子の基本的な構造および機能について説明する。
【0014】
図1A図1Cは、参考例によるED素子110を示す平面図および断面図である。図1Aに示す平面図のなかのIBC-IBC断面が、図1Bおよび図1Cに示す断面図に対応する。なお、図中に示す各構成部材の相対的なサイズや位置関係は、実際とは異なっている。
【0015】
図1Aに示すように、ED素子110は、主に、対向配置される下側および上側基板10,20と、下側および上側基板10,20の間に挟まれる電解質層(電解液)51およびシール枠部材70と、を備える。図中では、下側基板10の、上側基板20に隠れる部分、および、シール枠部材70の輪郭を、破線で示す。
【0016】
なお、下側および上側基板10,20各々の対向面には、外部電源に接続される電源接続電極12p,22pが設けられている。図中において、上側基板20に設けられる電源接続電極22pの輪郭も破線で示す。電源接続電極12p,22pは、横方向(幅方向,X方向,第1の方向)において、シール枠部材70の外側であって電解質層51の両側に、向かい合うように配置されている。また、電源接続電極12p,22p各々は、縦方向(長さ方向,Y方向,第2の方向)に伸長する、たとえば矩形形状である。
【0017】
下側および上側基板10,20が相互に重なる領域において、その周縁にシール枠部材70が設けられている。下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材70によって画定される空間内に、電解液51が充填される。シール枠部材70に囲われ、電解液51が充填する領域は、光学状態を切り替えることができるスイッチング領域Asであり、そのサイズは、たとえば縦(長さ)250mm×横(幅)64mmである。
【0018】
図1Bに示すように、下側基板10は、透明基板11の表面(対向面)に、透明電極12が積層する構造を有する。また、上側基板20は、透明基板21の表面(対向面)に、透明電極22が積層する構造を有する。透明電極12,22が、互いに向かい合うように配置されている。
【0019】
透明基板11,21には、ガラス基板など、透光性を有する基板が用いられる。透明電極12,22には、たとえばインジウム錫酸化物(ITO)やインジウム亜鉛酸化物(IZO)など、透光性および導電性を有する部材が用いられる。
【0020】
下側電極12の表面であって、シール枠部材70の外側には、外部電源(たとえばその正極端子ないしコモン端子)に接続される電極12pが設けられる。また、上側電極22の表面であって、シール枠部材70の外側にも、外部電源(たとえばその負極端子)に接続される電極22pが設けられる。電源接続電極12p,22pには、ITOなどの透明電極よりも電気抵抗率が低い(電気伝導度が高い)、たとえば銀などの金属部材ないし導電テープが用いられる。
【0021】
シール枠部材70は、樹脂部材などで構成され、下側ないし上側基板10,20面内において、下側および上側基板10,20の周縁に沿って閉じた形状で設けられる(図1A参照)。下側および上側基板10,20の間隔(セルギャップ)は、シール枠部材70および図示しないギャップコントロール剤により規定される。下側および上側基板10,20の間隔は、たとえば100μm程度である。
【0022】
電解質層(電解液)51は、溶媒中にエレクトロデポジション(ED)材料(たとえば銀)が溶解しているものであり、下側および上側基板10,20、ならびに、シール枠部材70により画定される空間内に充填されている。電解質層51は、概ね透明であり、定常時(電圧無印加時)、ED素子110(スイッチング領域As)は、全体として光透過状態を実現する。
【0023】
ED素子110は、たとえば以下のように作製することができる。
【0024】
上下基板10,20として、5Ω/□ITO付ソーダ石灰ガラス基板を用意する。電極12,22となるITO膜は、スパッタ、CVD(化学気相成長)法、蒸着等により成膜することができる。またフォトリソグラフィにより、ITO膜を所望の平面形状にパターニングすることも可能である。
【0025】
上下基板10,20の一方、たとえば下側基板10上に、ギャップコントロール剤を散布する。ギャップコントロール剤の径を選択することで、電解質層(電解液)51の厚さ(セルギャップ)を、たとえば1μm~500μmの範囲に調整することが可能である。
【0026】
上下基板10,20の一方、たとえば下側基板10上に、シール材を用いてメインシールパターン(一部が欠けた矩形のシールパターン)を形成する。たとえば紫外線硬化タイプのシール材、具体的には、株式会社スリーボンドホールディングス製のシール材(アクリル系樹脂材料)TB3035B(粘度51Pa・s)を用いて形成することができる。
【0027】
上下基板10,20を重ねあわせて、空セルを作製する。空セル内に、たとえば真空注入法を用い、ED材料を含む電解液51を注入した後、注入口を封止し、紫外線をシール材に照射して、シール材を硬化させる。これにより、シール枠部材70とその内側に封入される電解質層(電解液)51を形成する。
【0028】
ED材料を含む電解液51は、ED材料(AgBr等)、メディエータ(CuCl等)、支持電解質(LiBr等)、溶媒(γ-ブチロラクトン等)などにより構成される。たとえば、溶媒であるγ-ブチロラクトン中に、ED材料としてAgBrを200mM、支持電解質としてLiBrを800mM、メディエータとしてCuClを30mM添加して構成する。
【0029】
ED材料には、たとえば銀を含むAgBr、AgNO、AgClO等を使用することができる。メディエータは、CuClの他、Taを含むTaCl、TaBr、TaI、Geを含むGeCl、GeBr、GeI、Cuを含むCuSO、CuBrなどを用いることができる。
【0030】
支持電解質は、エレクトロデポジション材料の酸化還元反応等を促進するものであれば限定されず、たとえばリチウム塩(LiCl、LiBr、LiI、LiBF、LiClO等)、カリウム塩(KCl、KBr、KI等)、ナトリウム塩(NaCl、NaBr、NaI等)を好適に用いることができる。支持電解質の濃度は、たとえば10mM以上1M以下であることが好ましいが、特に限定されるものではない。
【0031】
溶媒は、エレクトロデポジション材料等を安定的に保持することができるものであれば限定されない。水や炭酸プロピレン等の極性溶媒、極性のない有機溶媒、更にはイオン性液体、イオン導電性高分子、高分子電解質等を使用することが可能である。具体的には、γ-ブチロラクトンの他、DMSO(dimethyl sulfoxide)、炭酸プロピレン、N,N-ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ポリビニル硫酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアクリル酸等を好適に用いることができる。
【0032】
このようにして、ED素子110を作製することができる。
【0033】
図1Cの上段に示すように、下側の電源接続電極12p(下側電極12)の電位を基準とし、上側の電源接続電極22p(上側電極22)に負の電位(たとえば-2.5V)を印加すると、電極12,22表面における酸化還元反応により(電解質層51中を厚み方向に電流が流れることにより)、上側電極22表面に、電解質層51中のED材料(銀)が析出・堆積して、光反射膜(銀薄膜)51dが形成される。このとき、ED素子110(特にスイッチング領域As)は、光反射状態を実現する。
【0034】
なお、電圧の印加を停止すると、電極表面に析出・堆積したED材料(光反射膜51d)は、再度、電解質層(電解液)51中に溶解して、電極表面から消失する。つまり、ED素子110は、光透過状態に戻る。
【0035】
このように、電解質層51は、透明状態とED材料析出状態とに切り換えることができる。これに伴って、ED素子110(特にスイッチング領域As)は、光透過状態(電圧無印加時)と光反射状態(電圧印加時)とに切り換えることができる。
【0036】
参考例において、上側電極22表面に堆積する光反射膜51dの膜厚は不均一になりうる。具体的には、電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの幅方向両端で、光反射膜51dの膜厚は相対的に厚くなり、スイッチング領域Asの幅方向中央で、光反射膜51dの膜厚は相対的に薄くなりうる(または形成されない)。このため、光反射状態において、電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端では、相対的に光反射率が高くなり、スイッチング領域Asの中央では、相対的に光反射率が低くなりうる。
【0037】
図1Cの下段に示すように、この膜厚(光反射率)の不均一性は、上下電極12,22の間(電解質層51の厚み方向)に流れる電流の、幅方向Xにおける電流密度Idの分布(バラつき)に起因する。この電流密度Idの分布(バラつき)は、電極12,22が、ITOなど、電気抵抗率が高い(電気伝導度が低い)部材から構成され、かつ、スイッチング領域As(ないし電解質層51)の幅が広い(たとえば64mm以上)ときに、より顕著となる。
【0038】
電極12,22の電気抵抗率が高く(電気伝導度が低く)、スイッチング領域Asの幅が広い場合、電極12,22の間(電解質層51の厚み方向)に流れる電流の電流密度Idは、電流供給源に近い領域で相対的に高くなり、電流供給源から離れた領域で相対的に低くなる。ED材料の析出量(堆積膜の膜厚)は、電解質層の厚み方向に流れる電流の電流密度と、正の相関関係を有するため、電流供給源、つまり電源接続電極12p,22pに近いスイッチング領域Asの両端で光反射膜51dの膜厚は厚くなり、スイッチング領域Asの中央で光反射膜51dの膜厚は薄くなる。
【0039】
光反射膜51dの膜厚が位置により変化すると、素子面内における光学特性(光反射率)も位置により変化する。一般に、光学素子の光学特性は、素子面内において一様であることが好ましい。
【0040】
図2A図2Cは、第1の実施例によるED素子101を示す平面図および断面図である。図2Aに示す平面図のなかのIIB-IIB断面およびIIC-IIC断面が、それぞれ図2Bおよび図2Cに示す断面図に対応する。
【0041】
図2Aに示すように、第1の実施例によるED素子101は、参考例によるED素子110と同様に、対向配置される下側および上側基板10,20と、下側および上側基板10,20が相互に重なる領域において、その周縁に設けられるシール枠部材70と、それらによって画定される空間内に充填される電解液(電解質層)51と、を備える。また、下側および上側基板10,20各々には、電源接続電極12p,22pが設けられている。
【0042】
第1の実施例によるED素子101は、参考例によるED素子110と、主に、導通部材72の有無および上下電極12,22の形状の点において異なっている。
【0043】
第1の実施例によるED素子101は、電解液51を縦断する導通部材72を有している。導通部材72により、電解液51は、左側電解液(第1電解液)51Lおよび右側電解液(第2電解液)51Rに分断されている。
【0044】
また、上下基板10,20を構成する電極12,22も、左右2列に分割されている(図2C参照)。左側に配置される電解液51Lおよび上下電極12L,22Lがスイッチング領域AsLを構成し、右側に配置される電解液51Rおよび上下電極12R,22Rがスイッチング領域AsRを構成する。
【0045】
図2Bに示すように、導通部材72は、シール枠部材70の一端側から他端側まで連続的に(隔壁状に)設けられている。電解液51は、導通部材72によって、第1および第2の電解液51L,51Rに分断されている(図2A参照)。
【0046】
図2Cに示すように、下側基板10に設けられる下側電極12は、左下側電極(第1下側電極)12Lおよび右下側電極(第2下側電極)12Rに分割されている。同様に、上側基板20に設けられる上側電極22は、左上側電極(第1上側電極)22Lおよび右上側電極(第2上側電極)22Rに分割されている。左下側電極12Lと右下側電極12Rとの間隔、および、左上側電極22Lと右上側電極22Rとの間隔、は、たとえば500μmである。
【0047】
より具体的には、左下側電極12Lと左上側電極22Lとが対向し、右下側電極12Rと右上側電極22Rとが対向するように配置される。左下側電極12Lと左上側電極22Lとが左側電解液51Lを挟んで対向する領域が左側スイッチング領域AsLを構成し、右下側電極12Rと右上側電極22Rとが右側電解液51Rを挟んで対向する領域が右側スイッチング領域AsRを構成する。スイッチング領域AsL,AsR(電解液51L,51R)の幅は、たとえば63mm以下である。
【0048】
なお、左下側電極12Lと右上側電極22Rとは、互いに一部対向する領域を有している。左下側電極12Lと右上側電極22Rとが対向する領域を、重畳領域Aoと呼ぶこととする。重畳領域Aoの幅は、たとえば1000μmである。
【0049】
導通部材72は、平面視において、重畳領域Ao内に、または、重畳領域Aoと重なって形成される(図2A参照)。導通部材72は、左下側電極12Lと右上側電極22Rとを電気的に接続する。
【0050】
導通部材72は、たとえば導電性粒子が混合された樹脂部材により形成される。導電性粒子は、たとえばAg薄膜に被覆された、直径70μm程度のガラスビーズにより形成される。導通部材72は、たとえば株式会社スリーボンドホールディングス製のシール材TB3035Bに、ユニチカ株式会社製のAg膜被覆ガラスビーズ(粉体電気抵抗0.004Ω・cm)を10wt%混合して形成することができる。
【0051】
下側基板10の電源接続電極12pの電位を基準とし、上側基板20の電源接続電極22pに負の電位を印加する。このとき、電流は、右下側電極12Rから右側電解液51Rを介して右上側電極22Rに流れ、さらに導通部材72を通って、左下側電極12Lから左側電解液51Lを介して左上側電極22Lに流れる。電極表面で生じる酸化還元反応により、上側電極22L,22R各々の表面に、光反射膜51dが形成される。
【0052】
なお、第1の実施例によるED素子101は、左下側電極12L、左上側電極22Lおよび左側電解液51Lからなる左側ED素子と、右下側電極12R、右上側電極22Rおよび右側電解液51Rからなる右側ED素子と、が、導通部材72により電気的に直列に接続された素子と、等価である。
【0053】
第1の実施例において、スイッチング領域AsL,AsR(電解液51L,51R)各々の幅は狭い(たとえば63mm以下)。このため、電解液51L,51R各々を流れる電流の、幅方向における電流密度分布(バラつき)は小さく、上側電極22L,22R各々の表面に形成される光反射膜51dの膜厚も比較的均一に形成される。したがって、ED素子101全体をみたときに(スイッチング領域AsL,AsRを一体としてみたときに)、光学特性(光反射率)の位置による変化は抑制される(素子面内において光反射率が一様となる)。
【0054】
なお、スイッチング領域AsL,AsRの間隙(つまり左下側電極12Lおよび右下側電極12Rの間隙、左上側電極22Lおよび右上側電極22Rの間隙、ならびに、導通部材72が配置される領域つまり重畳領域Ao)は、光学状態を切り替えることができない非制御領域となる。ED素子101全体で光学特性を一様にするためには、この非制御領域の幅をできるだけ狭くすることが望ましい。一方で、左下側電極12Lおよび右下側電極12Rの間、ならびに、左上側電極22Lおよび右上側電極22Rの間に直接電流が流れないように、それらの間隔は、下側電極12および上側電極22の間隔(電解質層51の厚み)よりもたとえば5倍以上離れていることが好ましい。
【0055】
導通部材72は、シール枠部材70の一端側から他端側まで連続的に形成されていなくてもよい。導通部材72を選択的に設けることにより、非制御領域を小さくすることができる。
【0056】
図3A図3Cは、第2の実施例によるED素子102を示す平面図および断面図である。図3Aに示す平面図のなかのIIIB-IIIB断面およびIIIC-IIIC断面が、それぞれ図3Bおよび図3Cに示す断面図に対応する。
【0057】
図3Aに示すように、ED素子102では、導通部材72aが、重畳領域Ao内において断続的に(破線状に)形成されている。このため、電解液51は、導通部材72aが設けられていない領域において連続している。スイッチング領域は、導通部材72aにより、左側スイッチング領域AsLおよび右側スイッチング領域AsRに区分されている。第2の実施例によるED素子102の他の構成は、第1の実施例によるED素子101の構成と同じである。
【0058】
図3Bに示すように、導通部材72aは、シール枠部材70の一端側から他端側まで断続的・間欠的に設けられている。電解液51は、導通部材72aによって分断されておらず、導通部材72aが設けられていない領域において連続している(図3A参照)。
【0059】
図3Cに示すように、左下側電極12Lと右上側電極22Rとが対向する重畳領域Aoには、導通部材72aが設けられていない領域が存在する。なお、ED素子102の幅方向において、導通部材72aが設けられている領域は、図2Cに示す断面と同様の断面構造となる。
【0060】
このように、左下側電極12Lと右上側電極22Rとを電気的に接続する導通部材72aを重畳領域Ao内において選択的(断続的)に設けることにより、スイッチング領域AsL,AsRと光学状態が異なりうる非制御領域を小さくする(目立たなくして視認しづらくする)ことができる。これにより、ED素子の外観品質がより改善される。
【0061】
なお、導通部材72aは、重畳領域Aoの外側にはみ出して形成されていてもよい。
【0062】
また、重畳領域Aoは非制御領域であるため、導通部材72aが配置されている領域以外の領域は、できるだけ小さい、または、存在しないことが望ましい。つまり、導通部材72aが配置されている領域以外の領域では、左下側電極12Lおよび左上側電極22Lが配置されている(平面視において重畳している)か、または、右下側電極12Rと右上側電極22Rが配置されている(平面視において重畳している)ことが望ましい。たとえば、平面視において、分割された上下電極の境界が、導通部材が配置されている領域に対応して、凸凹状になっていることが望ましい。
【0063】
なお、導通部材の配置間隔が広くなりすぎる(導通部材が疎に配置される)と、電流密度の偏りが顕著になり、縦方向(長さ方向)に光学特性(光反射率)のムラが生じる可能性がある。この場合には、たとえば上下電極よりも抵抗率の低い補助電極を、導通部材と上下電極との間にそれぞれ設けることが好ましい。
【0064】
図4A図4Dは、第2の実施例によるED素子の変形例102aを示す平面図および断面図である。図4Aに示す平面図のなかのIVB-IVB断面,IVC-IVC断面,IVD-IVD断面が、それぞれ図4B図4C図4Dに示す断面図に対応する。
【0065】
図4Aに示すように、ED素子102aでは、重畳領域Ao内に、縦方向(長さ方向)に伸長する低抵抗部材74が設けられている。また、導通部材72bが、低抵抗部材74と重なってまばらに(疎に)形成されている。ED素子102aの非制御領域は小さいほうが好ましいため、低抵抗部材74の幅はできるだけ細いほうが好ましい。
【0066】
図4Bおよび図4Cに示すように、導通部材72bは、低抵抗部材74を介して、左下側電極12Lおよび右上側電極22Rに接続されている。低抵抗部材74は、たとえば白金により形成され、たとえばマスクスパッタ法により形成・パターニングすることができる。
【0067】
図4Dに示すように、低抵抗部材74は、導通部材72bが形成されていない領域で、相対的に細く形成されている。導通部材72bがまばらに形成される場合であっても、低抵抗部材74を設けることにより、縦方向(長さ方向)において電流密度が均一化され、ED素子の光学特性のムラが改善されうる。
【0068】
図5A図5Bは、第3の実施例によるED素子103を示す平面図および断面図である。図5Aに示す平面図のなかのVB-VB断面が、図5Bに示す断面図に対応する。
【0069】
図5Aに示すように、ED素子105では、導通部材72cが、重畳領域Ao内の一部の領域において連続的に形成されている。このため、電解液51は、導通部材72cが設けられていない領域において連続している。なお、第3の実施例によるED素子103の他の構成は、第1の実施例によるED素子101の構成と同じである。
【0070】
図5Bに示すように、導通部材72cは、重畳領域Ao内の中央領域において連続的に形成されている。電解液51は、導通部材72cによって分断されておらず、導通部材72cが設けられていない領域において連続している(図5A参照)。
【0071】
なお、ED素子103の幅方向において、導通部材72cが設けられている領域は、図2Cに示す断面と同様の断面構造となる。また、導通部材72cが設けられていない領域は、図3Cに示す断面と同様の断面構造となる。
【0072】
このように、左下側電極12Lと右上側電極22Rとを電気的に接続する導通部材72cを、重畳領域Ao内において選択的(一部の領域において連続的)に設けることにより、スイッチング領域AsL,AsRと光学状態が異なりうる非制御領域を小さくすることができる。これにより、ED素子の外観品質がより改善される。
【0073】
図6Aは、第4の実施例によるED素子104を示す断面図である。第4の実施例によるED素子104では、下側電極12L,12Rの表面に、それぞれ電気化学反応層14L,14Rが設けられている。なお、左下側電極12Lの表面では、導通部材72aが設けられた領域を避けるように、電気化学反応層14Lが形成されている。
【0074】
下側電極12に電気化学反応層14L,14Rを設ける場合、電解液にメディエータは含まれていなくともよい、第4の実施例では、電解液52に、溶媒であるγ-ブチロラクトン中に、ED材料としてAgBrを200mM、支持電解質としてLiBrを800mM添加したものを用いる。
【0075】
第4の実施例によるED素子104の他の構成は、第3の実施例によるED素子103の構成と同じである。なお、第4の実施例によるED素子104の他の構成、特に導通部材の平面形状は、第1または第2の実施例によるED素子の構成と同じであってもよい(図2A図3Aおよび図5A参照)。
【0076】
電気化学反応層14L,14Rには、たとえば通称プルシアンブルー(ヘキサシアニド鉄(II)酸鉄(III),Fe[Fe(CN))や酸化ニッケルを用いることができる。プルシアンブルーは、還元状態において無色透明であり、酸化状態において青色となる。また、酸化ニッケルは、還元状態において無色透明であり、酸化状態において褐色(茶色)となる。
【0077】
プルシアンブルーは、たとえば、分散液を、マスクを用いたスピンコート法により電極表面に塗布し、その後焼成することにより作製することができる。また、酸化ニッケルは、たとえば、マスクを用いたスパッタ法により、電極上に作製することができる。
【0078】
電気化学反応層14L,14Rにプルシアンブルーを用いた場合、順方向に電圧を印加する(下側の電源接続電極12pの電位を基準とし、上側の電源接続電極22pに負の電位を印加する)と、上側電極22L,22Rの表面に光反射膜51dが形成され、電気化学反応層14L,14Rが青色に変色する。また、電気化学反応層14L,14Rに酸化ニッケルを用いた場合、順方向に電圧を印加すると、上側電極22L,22Rの表面に光反射膜51dが形成され、電気化学反応層14L,14Rが褐色に変色する。
【0079】
このとき、ED素子104を上側基板20側からみると、一般的な鏡として認識される。また、下側基板10側からみると、色付き(青色ないし褐色)の鏡として認識される。
【0080】
電気化学反応層14L,14Rを設けた場合、順方向に電圧を印加した後に、電圧の印加を停止しても、長時間(たとえば1時間以上)、光反射膜51dが上側電極22L,22R上に残存する(電気化学反応層14L,14Rも青色ないし褐色を保持する)。なお、逆方向に電圧を印加する(下側の電源接続電極12pの電位を基準とし、上側の電源接続電極22pに正の電位を印加する)と、上側電極22L,22Rの表面の光反射膜51dは瞬時に消失し、電気化学反応層14L,14Rも透明に戻る。
【0081】
図6Bは、第5の実施例による光学素子105を示す断面図である。第5の実施例による光学素子105では、下側電極12L,12Rの表面および上側電極22L,22Rの表面に、それぞれ電気化学反応層14L,14R,24L,24Rが設けられている。下側の電気化学反応層14L,14Rにはたとえばプルシアンブルーを用い、上側の電気化学反応層24L,24Rにはたとえば酸化ニッケルを用いる。
【0082】
上下電極12,22に電気化学反応層14,24を設ける場合、電解液にED材料およびメディエータは含まれていなくてよい。第5の実施例では、電解液53に、溶媒であるγ-ブチロラクトン中に、支持電解質としてLiClを800mM添加したものを用いる。
【0083】
第5の実施例による光学素子105の他の構成は、第3の実施例によるED素子103の構成と同じである。なお、第5の実施例による光学素子105の他の構成、特に導通部材の形状は、第1または第2の実施例によるED素子の構成と同じでもよい(図2A図3Aおよび図5A参照)。
【0084】
上下電極12,22に電気化学反応層14,24を設けた場合、順方向に電圧を印加する(下側の電源接続電極12pの電位を基準とし、上側の電源接続電極22pに負の電位を印加する)と、下側の電気化学反応層14L,14R(プルシアンブルー)が青色に変色する。また、逆方向に電圧を印加する(下側の電源接続電極12pの電位を基準とし、上側の電源接続電極22pに正の電位を印加する)と、上側の電気化学反応層24L,24R(酸化ニッケル)が褐色に変色する。
【0085】
第5の実施例による光学素子は、たとえば色制御可能なカラーフィルターなどに応用することができるであろう。
【0086】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0087】
たとえば、下側電極および上側電極は、3列以上に分割されていてもよい。つまり、相互に離間する3列以上の分割電極が敷き詰められるように配置される構成であってもよい。
【0088】
分割される下側電極および上側電極の幅は、上下電極の間隔(電解質層の厚み)や電解質層を構成する材料の種類・濃度に応じて、光学特性にムラが生じないよう、調整されることが好ましい。また、各スイッチング領域の電気的または光学的な特性がバラつかないように、下側電極および上側電極は、それぞれ同じ幅で分割されることが好ましいであろう。
【0089】
下側電極および上側電極がn列に分割される場合、n-1個の導通部材が設けられる。個々の導通部材は、隣接する上側の分割電極と下側の分割電極とを電気的に接続するように配置される。
【0090】
その他、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者には自明であろう。
【符号の説明】
【0091】
10 下側基板、
11 支持基板、
12 下側電極、
12p 電源接続電極
12L 左下側電極(第1下側電極)、
12R 右下側電極(第2下側電極)、
14,14L,14R 電気化学反応層、
20 上側基板、
21 支持基板、
22 上側電極、
22p 電源接続電極、
22L 左上側電極(第1上側電極)、
22R 右上側電極(第2上側電極)、
24,24L,24R 電気化学反応層、
51 電解質層(電解液,エレクトロデポジション材料を含む)、
51d 光反射膜、
51L 左側電解質層(第1電解質層)、
51R 右側電解質層(第2電解質層)、
51 電解質層(エレクトロデポジション材料およびメディエータを含む)、
52 電解質層(エレクトロデポジション材料を含み、メディエータを含まない)、
53 電解質層(エレクトロデポジション材料およびメディエータを含まない)、
70 シール枠部材、
72,72a~72c 導通部材、
74 低抵抗部材(補助電極)、
110 エレクトロデポジション素子(参考例)、
101 エレクトロデポジション素子(第1実施例)、
102 エレクトロデポジション素子(第2実施例)、
102a エレクトロデポジション素子(第2実施例の変形例)、
103 エレクトロデポジション素子(第3実施例)、
104 エレクトロデポジション素子(第4実施例)、
105 エレクトロデポジション素子(第5実施例)、
As スイッチング領域、
AsL 左側スイッチング領域、
AsR 右側スイッチング領域、
Ao 重畳領域。
図1-1】
図1-2】
図2-1】
図2-2】
図3-1】
図3-2】
図4-1】
図4-2】
図5
図6