(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-12-15
(45)【発行日】2022-12-23
(54)【発明の名称】軸受スリーブ、動圧軸受装置、及びモータ
(51)【国際特許分類】
F16C 17/02 20060101AFI20221216BHJP
H02K 7/08 20060101ALI20221216BHJP
【FI】
F16C17/02 A
F16C17/02 Z
H02K7/08 A
(21)【出願番号】P 2019059063
(22)【出願日】2019-03-26
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【氏名又は名称】熊野 剛
(72)【発明者】
【氏名】山郷 正志
(72)【発明者】
【氏名】原田 和慶
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 冬木
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-124057(JP,A)
【文献】特開2002-181033(JP,A)
【文献】特開平10-068418(JP,A)
【文献】特開2000-320539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 17/00-17/26
F16C 33/00-33/28
H02K 7/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動圧溝を有しない真円軸受面と、動圧溝を有する動圧軸受面とが形成された内周面を備え、前記真円軸受面と動圧軸受面と
が同径でかつ軸方向長さを同一として軸方向に沿って連続して一つの部品にて形成され
、前記真円軸受面とこれに対向する軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の隙間寸法をΔとし、前記動圧軸受とこれに対向する軸部材の外周面との間に形成されるラジアル軸受隙間の隙間寸法をδとしたときに、Δ=δとしたことを特徴とする軸受スリーブ。
【請求項2】
動圧溝を有しない真円軸受面と、動圧溝を有する動圧軸受面とが形成された内周面を備え、前記真円軸受面と前記動圧軸受面との軸方向長さを同一とするとともに、前記真円軸受面と前記動圧軸受面との間に、これらの軸受面の内径寸法よりも大の内径寸法である中逃げ面を設け、動圧軸受部のラジアル溝深さと動圧軸受部のラジアル軸受隙間との隙間の比を1:1に設定したことを特徴とす
る軸受スリーブ。
【請求項3】
前記請求項1に記載の軸受スリーブと、前記軸受スリーブの内周に挿入される軸部材とを備え、前記軸部材の回転に伴って、前記軸受スリーブの内周面とこの内周面に対向する前記軸部材の外周面との間に、ラジアル軸受隙間を有する真円軸受部とラジアル軸受隙間を有する動圧軸受部とが形成されることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項4】
前記請求項2に記載の軸受スリーブと、前記軸受スリーブの内周に挿入される軸部材とを備え、前記軸部材の回転に伴って、前記軸受スリーブの内周面とこの内周面に対向する前記軸部材の外周面との間に、ラジアル軸受隙間を有する真円軸受部とラジアル軸受隙間を有する動圧軸受部とが形成されることを特徴とする動圧軸受装置。
【請求項5】
動圧軸受部のラジアル軸受隙間よりも、真円軸受部のラジアル軸受隙間が大きいことを特徴とする請求項4に記載の動圧軸受装置。
【請求項7】
前記
請求項3~請求項6のいずれかの動圧軸受装置と、ロータマグネットと、
ステータコイルとを有することを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸受スリーブ、動圧軸受装置、及びモータに関する。
【背景技術】
【0002】
動圧軸受装置は、軸部材の外周面と軸受部材の内周面との間のラジアル軸受隙間の流体膜(例えば油膜)に生じる圧力により、軸部材を相対回転自在に非接触支持するものである(特許文献1)。動圧軸受装置は、その高回転精度および静粛性から、情報機器(例えば、HDD等の磁気ディスク駆動装置、CD-ROM、CD-R/RW、DVD-ROM/RAM、ブルーレイディスク等の光ディスク駆動装置、MD、MO等の光磁気ディスク駆動装置)のスピンドルモータ、レーザビームプリンタ(LBP)のポリゴンスキャナモータ、プロジェクタのカラーホイール、あるいは電気機器の冷却ファン等に使用されるファンモータなどの小型モータ用として好適に使用される。
【0003】
例えばノートパソコンやタブレット型端末等の携帯情報機器(いわゆるモバイル機器)は薄型化が進んでいるため、これらに組み込まれるファンモータにも薄型化(軸方向寸法の縮小)が要求されている。その一方で、ファンモータの冷却特性を維持することが求められるため、回転軸に取り付けられるインペラは大きくなる傾向にある。このため、ファンモータの回転軸を支持する動圧軸受装置に加わる負荷が大きくなる。
【0004】
動圧軸受装置は、軸受部材の内周面又は軸部材の外周面に、ラジアル軸受隙間の流体膜に積極的に動圧を発生させるラジアル動圧発生部を設けるタイプ(いわゆる動圧軸受)と、軸受部材の内周面及び軸部材の外周面を何れも円筒面とし、軸部材の振れ回りにより動圧を発生させるタイプ(いわゆる真円軸受)とに大別される。特許文献1に記載の動圧軸受装置は、動圧溝の周方向幅や角度を規定することで、シャフトの偏心時に真円軸受よりも高い負荷容量を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
動圧軸受ユニットを考えた場合、一般的にインペラやポリゴンミラーが取り付けられる軸受ユニットの開口側にかかる負荷が高くなる。前記特許文献1に記載された動圧軸受装置により、負荷容量の向上は期待できるが、更にモータが薄型化された場合、軸受の支持面積(軸受の軸方向幅寸法)が減るため、特に開口側の軸受面がシャフトと接触する可能性がある。軸受面とシャフトとの接触は、非定常状態(スイング状態)や起動時などの回転速度が低い場合に生じやすい。潤滑油の粘度を上げることで負荷容量を上げることは出来るが、回転トルクが増加してしまう。
【0007】
また、一般的に動圧軸受は、真円軸受や転がり軸受に比べて、回転精度が高く、静音性に優れるが、負荷容量は劣る。一方で、真円軸受や転がり軸受を使用しているパソコンに搭載される以外のファンでも静音性の要求が高まっているが、負荷容量が不足しているため、動圧軸受の適用は難しい。
【0008】
そこで、本発明は斯かる実情に鑑み、動圧軸受の回転精度や静音性を維持しながら、ラジアル方向の負荷容量を高めることができ、低速回転領域でも使用可能な軸受スリーブ、動圧軸受装置、及びモータを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の軸受スリーブは、動圧溝を有しない真円軸受面と、動圧溝を有する動圧軸受面とが形成された内周面を備え、前記真円軸受面と動圧軸受面とが軸方向に沿って一つの部品にて形成されているものである。
【0010】
内周面に真円軸受面と動圧軸受面が設けられることによって、軸方向に沿って真円軸受部と動圧軸受部とを構成でき、真円軸受部による高い負荷容量と動圧軸受部による高い回転精度を兼ね備えた軸受スリーブを構成することができる。
【0011】
このため、定常姿勢での使用時には、ラジアル軸受面に係る荷重は低いため、動圧軸受部によって発生する圧力により、シャフト(軸部材)を支持し、高い回転精度で回転する。水平姿勢や非定常姿勢(スイング状態)での使用時には真円軸受部で荷重を受け、動圧軸受部でシャフト(軸部材)を支持するため、回転精度を維持したまま、大きな荷重を受けることができる。さらに、動圧が発生しにくい低速回転領域でも真円軸受部で荷重を受けるため、動圧軸受部に比べて、シャフト(軸部材)と軸受面の接触が抑えられる。
【0012】
前記真円軸受面と前記動圧軸受面とが軸方向に沿って連続的に形成されているのであっても、前記真円軸受面と前記動圧軸受面との間に、これらの軸受面の内径寸法よりも大の内径寸法である中逃げ面を設けたものであってもよい。このような中逃げ面を設けることによって、トルク低減を達成できる。
【0013】
本発明の動圧軸受装置は、前記軸受スリーブと、前記軸受スリーブの内周に挿入される軸部材とを備え、前記軸部材の回転に伴って、前記軸受スリーブの内周面とこの内周面に対向する前記軸部材の外周面との間に、ラジアル軸受隙間を有する真円軸受部とラジアル軸受隙間を有する動圧軸受部とが形成されるものである。
【0014】
本発明の動圧軸受装置によれば、真円軸受部と動圧軸受部を備えた動圧軸受装置となる。このため、真円軸受部による高い負荷容量と動圧軸受部による高い回転精度を兼ね備えたものとなる。また、動圧が発生しにくい低速回転領域でも真円軸受部で荷重を受けるため、動圧軸受部に比べて、シャフトと軸受面の接触が抑えられる。
【0015】
動圧軸受部のラジアル軸受隙間よりも、真円軸受部のラジアル軸受隙間を大きくするのが好ましい。このように構成することによって、トルクを低減させることができる。
【0016】
荷重が高くなる側に真円軸受部を配置し、荷重が低くなる側に動圧軸受部を配置するのが好ましい。荷重の高い側(例えばモータの重心位置に近い側)に真円軸受部が配置されるように軸受を組み込むことで、大きな荷重を受けることができる。荷重の低い側に動圧軸受面を配置することで、シャフトの振れ回りが抑制でき回転精度を維持することができる。
【0017】
本発明のモータは、前記動圧軸受装置と、ロータマグネットと、ステータコイルとを有するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る軸受スリーブを用いれば、真円軸受部と動圧軸受部を備えた動圧軸受装置となる。このため、この動圧軸受装置では、水平姿勢、低速回転、及び/又は非定常状態における軸部材(シャフト)と軸受スリーブとの接触を有効に防止でき、静音性の向上を図ることができる。また、軸受スリーブの軸方向長さの短縮化を図ることができ、モータの薄型化を達成できる。さらには、動圧軸受部のラジアル軸受隙間よりも、真円軸受部のラジアル軸受隙間を大きくすることが可能で、このようにすることによって、トルク低減が可能となって、モータの消費電力を抑えることができて経済的である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る軸受スリーブを示し、(a)は断面図であり、(b)は内径面の模式図である。
【
図2】本発明に係る軸受スリーブを用いた動圧軸受装置の断面図である。
【
図3】
図3に示す動圧軸受装置を備えたモータの断面図である。
【
図4】本発明に係る他の軸受スリーブを示し、(a)は断面図であり、(b)は内径面の模式図である。
【
図5】本発明に係る別の軸受スリーブを示し、(a)は断面図であり、(b)は内径面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態を
図1~
図5に基づいて説明する。
図1は、本実施形態に係る軸受スリーブを示し、
図2は本発明に係る軸受スリーブを用いた動圧軸受装置を示し、
図3はこの動圧軸受装置を用いた冷却用のファンモータを示す。このファンモータは、例えば、情報機器、特に携帯電話やタブレット型端末等のモバイル機器に組み込まれる。
【0021】
このファンモータは、本発明の一実施形態に係る動圧軸受装置1と、動圧軸受装置1の軸部材2に装着されたロータ3と、ロータ3の外径端に取付けられた羽根4と、半径方向のギャップを介して対向させたステータコイル6aおよびロータマグネット6bと、これらを収容するケーシング5とを備える。ステータコイル6aは、動圧軸受装置1の外周に取付けられ、ロータマグネット6bはロータ3の内周に取付けられる。ステータコイル6aに通電することにより、ロータ3、羽根4、及び軸部材2が一体に回転し、これにより軸方向あるいは外径方向の気流が発生する。
【0022】
動圧軸受装置1は、
図2に示すように、軸部材2と、ハウジング7と、軸受部材としての軸受スリーブ8と、シール部材9と、スラスト受け10とを備える。尚、以下では、軸方向(
図2の上下方向)で、ハウジング7の開口側を上側、ハウジング7の底部7b側を下側と言う。
【0023】
軸部材2は、ステンレス鋼等の金属材料で円柱状に形成される。軸部材2は、円筒面状の外周面2aと、下端に設けられた球面状の凸部2bとを有する。
【0024】
ハウジング7は、略円筒状の側部7aと、側部7aの下方の開口部を閉塞する底部7bとを有する。図示例では、側部7aと底部7bとが樹脂で一体に射出成形される。側部7aの外周面7a2には、ケーシング5及びステータコイル6aが固定される。側部7aの内周面7a1には、軸受スリーブ8が固定される。底部7bの上側端面7b1の外径端には、内径部よりも上方に位置する肩面7b2が設けられ、この肩面7b2に軸受スリーブ8の下側端面8cが当接する。肩面7b2には、半径方向溝7b3が形成される。底部7bの上側端面7b1の中央部には、樹脂製のスラスト受け10が配される。尚、ハウジング7の肩面7b2に半径方向溝7b3を設ける代わりに(あるいはこれに加えて)、軸受スリーブ8の下側端面8cに半径方向溝を形成してもよい。
【0025】
軸受スリーブ8は、円筒状を成し、ハウジング7の側部7aの内周面7a1に、隙間接着、圧入、圧入接着(接着剤介在下での圧入)等の適宜の手段で固定される。本実施形態では、軸受スリーブ8は、プレスで加工した焼結金属、切削で加工した黄銅やステンレス等の溶製材、さらには射出成形で加工した樹脂等で構成できる。
【0026】
軸受スリーブ8の内周面8aには、
図1に示すように動圧溝を有しない真円軸受面31と、動圧溝32aを有する動圧軸受面32とが形成される。この真円軸受面31は円筒面で構成され、真円軸受面31が軸受スリーブ8の内周面8aの上半分部位に設けられ、動圧軸受面32が軸受スリーブ8の内周面8aの下半分部位に設けられ、真円軸受面31と動圧軸受面32とが軸方向に連続して形成されている。この実施形態では、動圧溝32aとしてはヘリングボーン型を用いているが、スパイラル型等の動圧溝の使用可能である。
【0027】
すなわち、動圧溝32aを有する動圧軸受面32は、具体的には、周方向に延びる環状丘部G1と、環状丘部G1から軸方向両側に延びる複数の傾斜丘部G2と、複数の傾斜丘部G2の周方向間に設けられた複数の傾斜溝部G3とを形成することで構成できる。なお、
図1では、環状丘部G1及び傾斜丘部G2にクロスハッチングを付して示している。
【0028】
この動圧軸受面32より上部には、環状丘部G1及び傾斜丘部G2と同径でこれと連続した円筒面が設けられる。この円筒面が真円軸受面31を構成する。すなわち、
図1のクロスハッチング部は、
図2に示すように、この軸受スリーブ8に軸部材2が嵌入された状態で、軸部材2の外径面(外周面)との隙間寸法が同一となる面を示している。
【0029】
この場合、真円軸受面31の内径寸法をD1とし、動圧軸受面32(丘部G1,G2)の内径寸法をD2とし、この場合、D1=D2とし、例えば、D1(D2)を1.5mm程度としている。軸受スリーブ8の軸方向長さをLとし、真円軸受面31の軸方向長さをL1とし、動圧軸受面の長さをL2とした場合、例えば、Lを3mm程度とし、L1を1.4mm程度とした場合に、L2を1.4mm程度とすることができる。
【0030】
軸受スリーブ8の外周面には、軸方向溝8d1が形成される。軸方向溝8d1の数は任意であり、例えば円周方向等間隔の3箇所に形成される。
【0031】
シール部材9は、樹脂あるいは金属で環状に形成され、ハウジング7の側部7aの内周面7a1の上端部に固定される。シール部材9は、軸受スリーブ8の上側端面8bと当接している。シール部材9の内周面9aは、軸部材2の外周面2aと半径方向で対向し、これらの間にシール空間Sが形成される。軸部材2の回転時には、シール空間Sにより、軸受内部の潤滑油の外部への漏れ出しが防止される。シール部材9の下側端面9bには、半径方向溝9b1が形成される。尚、シール部材9の下側端面9bに半径方向溝9b1を形成する代わりに(あるいはこれに加えて)、軸受スリーブ8の上側端面8bに半径方向溝を形成してもよい。
【0032】
上記の動圧軸受装置1は、以下のような手順で組み立てられる。まず、ハウジング7の底部7bの上側端面7b1にスラスト受け10を固定する。そして、ハウジング7の側部7aの内周に、予め内部気孔に潤滑油を含浸させた軸受スリーブ8を挿入し、軸受スリーブ8の下側端面8cを底部7bの肩面7b2に当接させた状態で、軸受スリーブ8の外周面8dを側部7aの内周面7a1に固定する。その後、シール部材9をハウジング7の側部7aの内周面7a1の上端に固定する。このとき、シール部材9をハウジング7の側部7aに圧入し、シール部材9とハウジング7の底部7bの肩面7b2とで軸受スリーブ8を軸方向両側から挟持することで、軸受スリーブ8を軸方向で拘束することができる。その後、軸受スリーブ8の内周に潤滑油を点滴し、軸部材2を挿入することで、動圧軸受装置1の組立が完了する。このとき、シール部材9で密封されたハウジング7の内部空間(軸受スリーブ8の内部空孔を含む)に潤滑油を充満し、油面はシール空間Sの範囲内に維持される。
【0033】
上記構成の動圧軸受装置1において、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aの真円軸受面31と軸部材2の外周面2aとの間に形成されるラジアル軸受隙間m1(
図1(b)参照)に潤滑油膜が形成され、この潤滑油膜によって、軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、真円軸受部R1(
図2参照)が構成される。
【0034】
また、軸部材2が回転すると、軸受スリーブ8の内周面8aの動圧軸受面32と軸部材2の外周面2aとはラジアル軸受隙間m2(
図1(b)参照)を介して対向し、この軸部材2の回転に伴い、このラジアル軸受隙間m2に満たされた潤滑油が動圧作用を発生し、その圧力によって軸部材2がラジアル方向に回転自在に非接触支持される。これにより、動圧軸受部R2(
図2参照)が構成される。
【0035】
また、
図1に示すように、真円軸受部R1のラジアル軸受隙間m1の隙間寸法をΔとし
、動圧軸受部R2のラジアル軸受隙間m2の隙間寸法をδとしたときに、Δ=δとし、Δ
(δ)を3μm程度としている。
【0036】
内周面8aに真円軸受面31と動圧軸受面32が設けられることによって、軸方向に沿って真円軸受部R1と動圧軸受部R2とを構成でき、真円軸受部R1による高い負荷容量と動圧軸受部R2による高い回転精度を兼ね備えた軸受スリーブを構成することができる。
【0037】
ところで、
図2に示す動圧軸受装置には、開口側にインペラ(ロータ3及び羽根等で構成される)などが取り付けられるため、開口部側の軸受面に係る荷重が大きくなる。そのため、本実施形態のように、開口部側(荷重の高い側であって、モータの重心位置Gに近い側)に負荷容量が高い真円軸受部R1を配置するとともに、非開口部側(反開口部側)に動圧軸受部を配置するのが好ましい。また、定常姿勢での使用時には、ラジアル軸受面に係る荷重は低いため、動圧軸受部R2によって発生する圧力により、シャフト(軸部材2)を支持し、高い回転精度で回転する。水平姿勢や非定常姿勢(スイング状態)での使用時には真円軸受部R1で荷重を受け、動圧軸受部R2でシャフト(軸部材2)を支持するため、回転精度を維持したまま、大きな荷重を受けることができる。さらに、動圧が発生しにくい低速回転領域でも真円軸受部R1で荷重を受けるため、動圧軸受部R2に比べて、シャフト2と軸受面31の接触が抑えられる。
【0038】
従って、この動圧軸受装置では、水平姿勢、低速回転、及び/又は非定常状態における軸部材(シャフト)2と軸受スリーブ8との接触を有効に防止でき、静音性の向上を図ることができる。また、軸受スリーブ8の軸方向長さの短縮化を図ることができ、モータの薄型化を達成できる。
【0039】
図4に示す軸受スリーブ8は、真円軸受面31と動圧軸受面32との間に内径寸法が大きい中逃げ面33を設けている。この中逃げ面33を設けることによって、トルク低減を達成できる。この場合、中逃げ面33と軸受面31,32との差をCとしたとき、Cを(D3-D1)/2で表すことができる。ここで、真円軸受面31及び動圧軸受面32(この場合、丘部G1,G2)の内径寸法をD1、D2とし、中逃げ面33の内径寸法をD3とする。この場合、例えば、D1(D2)を4.00mm程度とし、D3を4.05mm程度とした場合に、Cを0.025mm程度とすることができる。また、中逃げ面33と軸部材2の外周面2aとの間の隙間寸法をC3としたときに、C3を28μm程度としている。
【0040】
また、軸受スリーブ8の軸方向長さをLとし、真円軸受面31の軸方向長さをL1とし、動圧軸受面32の長さをL2とした場合、例えば、Lを6mm程度とし、L1を1.5mm程度とした場合に、L2を1.5mm程度とすることができる。真円軸受部R1のラジアル軸受隙間m1の隙間寸法をΔとし、動圧軸受部R2のラジアル軸受隙間m2の隙間寸法をδとしたときに、Δ=δとし、Δ(δ)を3μm程度としている。
【0041】
次に、
図5に示す軸受スリーブ8は、
図4に示す軸受スリーブ8と同様、真円軸受面31と動圧軸受面32との間に中逃げ面33を設けている。この場合、真円軸受部R1のラジアル軸受隙間m1の隙間寸法をΔとし、動圧軸受部R2のラジアル軸受隙間m2の隙間寸法をδとしたときに、Δ>δとしている。例えば、Δを8μm程度とし、δを3μm程度とし、この差(Δ-δ)を例えば、5μm程度とすることができる。なお、真円軸受面31と中逃げ面33との段差をC1とした場合に、C1を20μm程度とし、動圧軸受面32と中逃げ面33との段差をC2とした場合に、C2を25μm程度としている。また、中逃げ面33と軸部材2の外周面2aとの間の隙間寸法をC3としたときに、C3を28μm程度としている。
【0042】
ところで、動圧軸受部32のラジアル軸受隙間m2に効率良く動圧を発生させるためには、動圧軸受部32のラジアル溝深さxと動圧軸受部32のラジアル軸受隙間m2との隙間の比を1:1に設定するのが好ましい。すなわち、x=δとするのが好ましい。例えば、xを3μmとし、δを3μmとする。
【0043】
しかしながら、真円軸受部R1はシャフト2が偏心することで、油膜圧力が発生するため、
図5に示す軸受スリーブ8のように、Δ>δとすることによって、真円軸受部R1の
隙間m1が大きくなった分、トルクを低減でき、モータの消費電力を抑えることができる。
【0044】
以上、本発明の実施形態につき説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく種々の変形が可能であって、例えば、非開口部側に係る荷重が高い場合、
図1に示す軸受スリーブ8と逆に、非開口部側に真円軸受面31を形成し、開口部側に動圧軸受面32を形成するようにしてもよい。また、開口部側に真円軸受面31が設けられるものであっても、逆に非開口部側に真円軸受面31が設けられるものであっても、真円軸受面31と動圧軸受面32の軸方向長さを相違させてもよい。この場合、真円軸受面31が動圧軸受面32よりも長くても、動圧軸受面32が真円軸受面31よりも長くてもよい。
【0045】
また、スラスト軸受部Tが軸部材2を接触支持するものであるが、これに限らず、スラスト軸受部を、上記実施形態の動圧軸受部R2と同様に、油膜の圧力で軸部材を非接触支持するものとしてもよい。具体的には、例えば、軸部材の下端にフランジ部を設け、このフランジ部の上側端面と軸受スリーブの下側端面との間、及び、フランジ部の下側端面とハウジングの端面との間に、それぞれスラスト軸受隙間を設けることができる。この場合、スラスト軸受隙間を介して対向する面の一方に、スラスト動圧発生部を設けてもよい。
【0046】
また、上記の実施形態では、軸受部材を固定し軸部材を回転させる、いわゆる軸回転タイプの動圧軸受装置を示したが、これに限らず、軸部材を固定し軸受部材を回転させる、いわゆる軸固定タイプの動圧軸受装置に本発明を適用してもよい。
【0047】
また、本発明の動圧軸受装置は、ファンモータに限らず、情報機器(例えば、HDD)のスピンドルモータや、レーザビームプリンタのポリゴンスキャナモータ、あるいは
プロジェクタのカラーホイールに用いることができる。
【符号の説明】
【0048】
2 軸部材
2a 外周面
2b 凸部
6a ステータコイル
6b ロータマグネット
8 軸受スリーブ
8a 内周面
31 真円軸受面
32 動圧軸受面
32a 動圧溝
33 中逃げ面
m1 ラジアル軸受隙間
m2 ラジアル軸受隙間
R1 真円軸受部
R2 動圧軸受部